第 1 章 概要 目的 本研究では、既存の環境ゲームソフトを収集、分析することによって、環境問題解決支 援ツールとしての環境ゲームソフトの有効性と必要要素について考察する。さらに、その 分析結果をもとに、環境ゲームソフトに最も適した環境ゲームシステムの提案を行う。 問題の背景 現在環境ゲームとして市販されているコンピュータゲームの中で、特に有名なものとし て「バランス・オブ・ザ・プラネット」や「シムアース」がある。だが、環境問題をテー マとして扱っているゲームソフトの本数はその他のゲームソフトと比べて圧倒的に少ない。 これは、元々コンピュータゲームは娯楽を目的としたものであり、環境問題という堅苦し いテーマを扱ったものを面白いゲームとして商業的に成功させることが難しいからではな いだろうか。あるいは、環境問題をゲームとして扱うこと自体に対する抵抗感もあるのか もしれない。以上の問題点を克服し、環境ゲームソフトが真の意味で、環境問題を解決し ていくための支援ツールとなり得るためには、既存の環境ゲームソフトを収集、それらを 分析することによって、今までの環境ゲームソフトが目指していた方向を明らかにすると ともに、有効なゲームソフトとしての重要な要素を見けだすことが必要である。 調査・研究方法 本研究では以下のような調査・研究を行った。 (1)既存の環境ゲームソフトの収集:収集方法としては主に文献やインターネット上の ホームページをサーチエンジンを使って調べ、入手可能なものをできるだけ多数収 集するように努めた。結果、23 個の環境ゲームソフトを収集した。 (2)既存のゲームソフトの分類調査:既存のゲームソフト分類を「株式会社ソニー・コ ンピュータエンタテインメント」のプレイステーション公式ホームページを使用し て調査した。 (3)既存のゲームソフトの評価基準調査:また、既存ゲームソフトの評価基準(ソフト の優劣を評価するための基準)を調べるため、これもサーチエンジンを使用し、ゲ ームソフトに関する評価・レビューを行っているホームページを探しだして調査を 行った。最終的に調査したホームページ数は計 86 サイト。この結果、既存の評価 基準がいかにあいまいであるかが明らかとなった。 (4)ゲームソフトの新しい分類方法の提案:上記の結果を表にまとめ、既存分類におけ る評価基準項目についての分析を行い、この分析に基づき独自に新しいゲームソフ トの分類方法を提案した。 (5)環境ゲームソフトに適したゲームシステムの提案:最後に提案した新規分類方法を 既存のゲーム分類方法と照らし合わせて、新規分類の特徴を明らかにするとともに、 1 環境問題をゲームソフト化するのに適したゲームシステムの考察を行った。 既存のゲーム分類 まず、既存のゲーム分類はプレイステーション公式ホームページによると以下のように なった。 (1)ロールプレイング(2)アクション(3)アドベンチャー(4)シミュレーション (5)シューティング(6)スポーツ(7)パズル(8)ボード(9)レース(10)格 闘アクション(11)その他 次にそれぞれの分類ごとの評価基準項目を調査した。ところが、既存のゲーム分類では、 それぞれの分類毎の、評価基準にほとんど差がでなかった。これについては3つの原因が 考えられる。 1.既存のゲーム分類が、「ロールプレイング」ゲームや「アドベンチャー」ゲームとい った「ゲームシステム的」な分類と、「スポーツ」や「レース」といった「テーマ」 による分類という異なる二つの視点を混在させている。 2.既存のゲーム分類の言葉の定義があいまいなため、ゲームソフトによってはどの分類 に入るのか定かではないものがある。 3.現在のコンピュータゲームには、それぞれの分類にまたがったゲームシステム要素を 混在させているものがある。 以上の理由から、既存のゲーム分類では、環境ゲームソフトにふさわしいゲームシステ ムの提案を行うことができないことがわかった。そこで、ゲームシステム間の違いがつか みやすく、すべてのゲームソフトを厳密に分類できる新しい分類方法の構築を試みた。 新規ゲーム分類 新規ゲーム分類の構築では特に、 (1)視点の違う分類を同時に用いない。 (2)オーバラップする分類は避ける。 (3)あいまいな定義を避け、すべてのゲームが厳密に分類できるようにする。 以上、3点に気をつけた。新規ゲーム分類は二つの独立した基軸による2×2=4分 類である。 以下にそれぞれの分類について説明する。 (1) 「巧緻性・選択肢乗積関数」 :「巧緻性」ゲームとは、スピード、反射神経、正確な 操作等の「巧緻性」を必要とするコンピュータゲームのことである。選択肢乗積関 数ゲームとは、場面場面でのプレイヤーの選択肢は有限だが、個々の選択肢の「ア ウトプット」が乗積の形で指数的に増加する、よって結果が多様に変化するゲーム のことを指す。この分類にあたるゲームは、ゲームを進行させる上で「巧緻性」を 2 必要とし、なおかつプレイヤーが取るべき選択肢があらかじめ設計されていないゲ ームのことである。既存のゲーム分類でいう、 「アクション」ゲーム、「シューティ ング」 、 「レース」などがこの分類に入る。また、これらの既存の分類以外ゲームで も、上記の説明通りのゲームソフトはこの分類に入る。 (2) 「非巧緻性・選択肢乗積関数」:この分類のゲームは、 「巧緻性」を必要としない選 択肢乗積関数ゲームのことである。既存のゲーム分類でいう「シミュレーション」 がこの範疇に入る。だが、「シミュレーション」の中でもフライトシミュレーター やドライビングシミュレーターという「巧緻性」を要求されるものは含めない。 「バ ランス・オブ・ザ・プラネット」や「シムアース」のように「巧緻性」を要求しな い「シミュレーション」ゲームがこの範疇に入る。 (3) 「非巧緻性・選択肢逆関数」 :選択肢逆関数ゲームとは、あらかじめ選択肢はゲー ム製作者によって定められており、プレイヤーがその選択肢を探し出すことによっ てゲームが進行するもの。この分類では、既存のゲーム分類でいう「ロールプレイ ング」ゲームや「アドベンチャー」ゲームなど、ゲームを進行させる上で「巧緻性」 を必要とせず、プレイヤーの選択肢があらかじめ設計されているコンピュータゲー ムがこの分類に入る。 (4) 「巧緻性・選択肢逆関数」 :分類には、「巧緻性」を必要とする「テトリス」などの 「パズル」ゲームがこの範疇に入る。プレイヤーの取るべき選択肢は「パズル」と しての正解として限定されているが、その正解となる選択肢を選ぶために「巧緻性」 が必要となるコンピュータゲームのことである。 環境ゲームソフトに要求される要素 環境ゲームソフトに求められている要求をまとめると (1)プレイヤーが面白くプレイできる。 (2)環境問題の本質をプレイヤーが理解できる。 (3)現実との間で知識の共有がはかれる。 (4)ゲームプレイ後に新しい知識を得ることができる。 以下にそれぞれについて簡単に説明しておく。 (1)プレイヤーが面白くプレイできるゲームといっても環境ゲームソフトは娯楽ゲー ムソフトとは違い、ただ面白いだけのゲームであってはならない。娯楽ゲームは 何よりプレイヤーが楽しく、面白いゲームでなければならないが、環境ゲームソ フトの場合、環境問題の本質をプレイヤーに理解してもらうことが最大の目的で ある。かといって、難解なテーマである環境問題をゲームソフトにしても、難し いままであったら、一握りのプレイヤーにしかプレイしてもらえないであろう。 (2)ゲームで表現されている環境問題が、現実の環境問題と根本的に違った振る舞い 3 をしていると、プレイヤーの誤解を招く恐れがある。環境問題の本質をプレイヤ ーに伝えるためには、ゲーム内で表現された環境問題が現実の世界とその振る舞 いに大差があってはならない。環境問題は一つの要因が原因ではなく、複数の要 因が複雑に相互関連している。あちら立てれば、こちらが立たずというジレンマ が発生し、これが環境問題の最大の問題点となっている。これが環境問題の本質 であり、このことを環境ゲームソフトは表現することを要求される。 (3)ゲーム世界だけでしか通用しない知識を身につけても、環境問題の解決には結び つかない。また、現実世界の常識での知識がゲーム世界で通用することも環境ゲ ームには求められる。 (4)環境ゲームをプレイすることで、環境問題解決支援につながる知識をプレイヤー が身につけられることが必要である。 環境ゲームソフトに適したゲームシステム 以上の条件をクリアーできるゲームシステムは、新規ゲーム分類では「非巧緻性・選 択肢乗積関数」分類に入るゲームとなる。なぜなら、問題解決のためには環境問題の本 質を先ず知らなければならない。環境問題の本質とは相互関連性の中に巣くうジレンマ である。環境問題の相互関連性は、「非巧緻性・選択肢乗積関数」というシステムを持 つ環境ゲームによってはじめて表現することができるだろう。ちなみにこの「非巧緻性・ 選択肢乗積関数」のゲームソフトを、既存の分類で言えば、「シミュレーション」ゲー ムソフトの一部であり、その代表がまさに「バランス・オブ・ザ・プラネット」と「シ ムアース」ということになる。 4
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