UNIT 3 LESSON 2 LESSON 2 /エッセイ(パロディ) Life is full of little problems, which arise suddenly and find one wholly unprepared with a solution. For instance, you travel down to Wimbledon on the District Railway — first-class, let us suppose, A Problem in Ethics by A. A. Milne 出典解説 イギリスの小説家・劇作家・随筆家である A. A. Milne によるエッセイです。 A. A. Milne(1882-1956)はロンドンに生まれ、ウェストミンスター校からケンブリッジ 大学のトリニティカレッジに学びました。戯曲・小説・詩・短編小説・評伝・エッセイと 幅広い分野で多くの作品を書いたものの、子ども向けの作品が有名になりすぎたため、他 の作品はあまり知られていません。1906年から1914年まで 『パンチ』誌の副編集長を務め、 第一次大戦後は作家生活に邁進して活躍しました。自分の一人息子のために童謡や童話を 数多く書いており、中でもWinnie the Pooh『小熊のプーさん』 は日本でも広く親しまれてい ます。 Milne は鋭いユーモア感覚の持ち主であり、『倫理上の問題』と題されたこの一見ものも のしいエッセイでも持ち前の機知と風刺がきらめいています。 because it is your birthday. On your arrival you find that you have lost your ticket. Now, doubtless there is some sort of recognized 5 business to be gone through which relieves you of the necessity of paying again. You produce an affidavit of a terribly affirmative nature, together with your card and a testimonial from a beneficed member of the Church of England. Or you conduct a genial correspondence with the traffic manager which spreads itself over six months. To save yourself this bother you simply tell the collector 10 that you haven’t a ticket and have come from Charing Cross. Is it necessary to add ‘first-class’? Of course one has a strong feeling that one ought to, but I think a still stronger feeling that one isn’t defrauding the railway company 15 if one doesn’t. (I will try not to get so many ‘ones’ into my next sentence.) For you may argue fairly that you established your right to travel first-class when you stepped into the carriage with your ticket — and, it may be, had it examined therein by an inspector. All that you want to do now is to establish your right to leave the Wimbledon 20 platform for the purer air of the common. And you can do this perfectly easily with a third-class ticket. However, this is a problem which will only arise if you are careless with your property. But however careful you are, it may happen to you at any moment that you become suddenly the owner of a shilling with a hole in it. 25 I am such an owner. I entered into possession a week ago — Heaven knows who played the thing off on me. As soon as I made NOTES affidavit testimonial benefice the Church of England defraud common 28 (法律用語で)宣誓供述書 人の人格・品行・資格などの証明書、推薦状 聖職禄を与える 英国国教会 (人を) だまして(権利・金・所有物などを)取る、奪う、詐取する 公有地、広場、公園 29 エ ッ セ イ UNIT 3 LESSON 2 TRANSLATION1 解説 という地名について日本人読者の側に知識がないことを想定して、模範訳例では 「郊外電 車で」と補足しています(Unit 2 Lesson 8 参照)。 訳文の中で、気をつけなくてはならないところを細かく見ていきましょう。 また、 「ファーストクラス」 では飛行機のイメージになってしまいます。列車なら 「一等 車」 とするべきところです。 ■ Life is full of little problems, which arise suddenly and find one wholly unprepared with a solution. △訳例 人生には小さな問題があふれています。それは突然持ち上がり、人がまったく解 決の準備ができていないのを見いだすのです。 ○模範訳例 人生至る所に小さな問題が待ちかまえている。それは突然やってきて、こちらに はなんら解決策が用意されていないという羽目になる。 エ ッ セ イ ■ On your arrival you find that you have lost your ticket. △訳例 到着した時、あなたは切符をなくしてしまったことに気がつきます。 ○模範訳例 ところが、いざ到着してみると、切符がない。 When you arrive としてもいいところなのですが、On your arrival という堅い言い回し を使っています。これは、冒頭で説明したフォーマルな文体をそのまま引き継いでいる 代名詞として使われる one はフォーマルな言葉であり、それを受けて solution とい ためです。訳例は意味はよくつかめているのですが、 「∼した時」 という表現では状況の う、これもフォーマルな言葉が使われています。 説明に重点が置かれ、日本語の歯切れが悪くなりますので、ここでは避けたいところで find one ∼ の部分は、字義的には確かに「人が∼なのが分かる」ということですが、 す。模範訳例では「到着してみると」とすることで 「動き」を表現しています。 主語となるのは little problems という無生物ですから、訳例のようにするとあまりに も直訳調になってしまいます。無生物主語の構文は、目的語である人間の方の立場か ら状況をつかんで、日本語として自然な言い回しになるように工夫して訳しましょう。 ■ For instance, you travel down to Wimbledon on the District Railway– first-class, let us suppose, because it is your birthday. △訳例 例えば、あなたが地区の鉄道で旅行してウィンブルドンまで下って行くとしま す―ファーストクラスと仮定しましょう。あなたの誕生日だからです。 ○模範訳例 例えば、ロンドンの郊外電車でウィンブルドンまで行くとしよう。 誕生日だと いうので一等車をはりこんだとする。 36 ■ Now, doubtless there is some sort of recognized business to be gone through which relieves you of the necessity of paying again. △訳例 さて、疑いなく、もう一度支払う必要性を免れるために通り抜けなくてはならな いある種の認められた仕事があります。 ○模範訳例 そういう場合、もう一度料金を支払わずにすませるための所定の事務手続きと いったものが、あることはある。 これもwhich 以下が無生物主語の構文になっており、訳し方に工夫が必要です。 relieve + 人 + of ∼は「<人から>(負担・責任を)取り除く」という意ですが、立場を入 れ替えて考えれば、「<人が>∼しなくていい」ということになります。 District Railway はロンドン市内と郊外を連絡する鉄道です。 Now は話題の転換のために使われて「さて」という意味にもなりますが、この文の場 Wimbledon はロンドン郊外の都市。全英オープン・テニス選手権大会の開催地として 合は前の文との談話の連鎖を意識して、模範訳例のように「そういう場合」あるいは「そ 有名です。 うなると」とつなぐのがよいでしょう。 つまりこの文は、ロンドン市内から近郊のウィンブルドンに行くという仮定であり、 doubtless は文字どおりには「疑いもなく」なのですが、実際には It is true や Certainly travel を訳例のように 「旅行する」 と訳したのでは不適切です。日本語で 「旅行」 といえば、 等と同じように「確かに∼ではあるのだが」 「∼であるということに間違いはないのだが」 観光や保養などの目的で住む土地を離れてしばらくほかの土地に行くことですが、英語 といったニュアンス、つまり「譲歩」の意味合いで使われることも多いので注意してく の travel には単に「移動する」という意味もあります。ここでは「行く」と訳しておけばい ださい。 いでしょう。 recognized business は訳しにくい言葉ですが、「正当なものとして認められた務め」と down についても、必ずしも「下って行く」という意味だけではありません。「(地図上 いうことですから、切符を紛失した場合に駅で行われることをイメージして、模範訳 の)下の方へ」ということから「南へ」という意味もありますし、イギリス英語では「(首 例では「所定の事務手続き」としています。 都・大都会・特にロンドンから) 地方へ」 という意味でも使われます。この文の場合はそ また、go through には「通り抜ける」という意味だけでなく、「(手続きなどを)経る、 の両方が当てはまりますが、あえて訳出する必要はありません。ただ、ウィンブルドン 完了する」という意味もあります。 37
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