平成24年度 新産業創出研究会「研究成果報告書」 「植物乳酸菌醗酵によるノンアルコール赤ワインテイスト飲料の開発」 [広島大学 ・ 教授 ] [ 杉山 政則 ] 1.はじめに 近年, アルコール度 0%にもかかわらず, 風味が限りなく従来のビールに近い「ノンアルコール ビール」が開発され, 今や, 車を運転する人, 病気でアルコール摂取が禁じられている人, 妊婦, 女性, 健康意識の高い人等を対象として, 大幅にノンアルコールビールの需要が伸びている。実際, 2009 年に 460 万ケースであったノンアルコールビールの需要は, 2010 年には 970 万ケースに, 更 に 2012 年には 1,500 万ケースとなると推定されている。このように, ビールテイスト飲料の市場 が先行して拡大していったが, 最近では, カクテル, 梅酒, ワイン, 焼酎, 日本酒といった風味を 持つノンアルコール飲料が登場し,更なる市場拡大が期待されている。ちなみに, 酒税法に従うと, アルコール濃度が 1%未満であればノンアルコールと表示できる。メーカーにとっては, これらの 飲料には酒税がかからず, 比較的高い価格に設定して販売でき, 収益性も高いことから, ノンア ルコール飲料の商品開発に飲料企業の関心が集まっている。 ノンアルコール飲料の製法は, アルコールを取り除く方法(逆浸透法, 揮発物質除去法) と非醗 酵あるいは半醗酵法 (醗酵を途中で止める方法, アルコール生成量の少ない酵母を使う方法) に 大別できる。現在のノンアルコールワインテイスト飲料は, 人工甘味料や香料等を適宜ブレンド して造られたものである。このような非醗酵法では, 醗酵法で醸成される「芳醇な味わい」を得 ることはきわめて困難である。 本研究開発では, お酒を飲みたくても飲めない人だけでなく, 健康意識の高い消費者にも受け 入れられるよう, 機能性も考慮に入れて, 健康維持と未病改善効果が期待できる, ポリフェノー ル(アントシアニン)の豊富な「赤ワイン」に着目した。具体的には, 黒又は赤ブドウの果汁に含ま れるグルコースを乳酸菌で消費して有機酸(乳酸)に変える系を活用する。その結果, アルコール度 0%で, かつ, 残存糖分の低い「赤ワインテイスト飲料」の醸造が可能となる。ちなみに, 赤ワイ ンには, エタノール, 糖, アミノ酸, 核酸, タンニンのほか, 酸っぱさを演出する有機酸が含ま れ, 特に, 酒石酸, リンゴ酸, クエン酸, 乳酸, 酢酸がワインの風味に最も影響を及ぼしている。 既存のノンアルコール赤ワインは, 長野県の企業から発売されているが, 従来製法により造っ たワインを蒸留して, アルコール分を低減化(アルコール度:0.2%)させているために, 「風味と香 気が希薄」と評価され, シェアは拡大していない。最近, 非醗酵法により, 山梨県の企業がノンア ルコールワインテイスト飲料を発売した。女性に人気で, 月に 30,000 本も売れているというが, ブドウジュースに過ぎないとの評価もある。 本提案研究では, 植物乳酸菌醗酵による, 「芳醇なノンアルコール赤ワインテイスト飲料」の開 発に挑戦する。さらに本飲料の付加価値を高めるべく, 最終目標としては, 保健機能性分子を含有 するノンアルコール赤ワイン飲料を創出を考慮する。 2.概要 近年, 飲酒運転の取締が強化され, アルコールの消費が低迷するなかで, ドライバー, 病人, 健 康に気遣う人や女性の要望も手伝って, 我が国のノンアルコール飲料の需要は年々増加している。 これらの状況を踏まえ, 従来の非醗酵型ワイン風ブドウジュースとは風味が全く違う, 「醗酵法に よる芳醇なノンアルコール赤ワインテイスト飲料」を開発する。この製法は, 酵母による常法と は異なり, ポリフェノール耐性を有する「植物乳酸菌」を用いる。ワイン風味を与える菌株は, 研 究代表者(杉山)が保有する植物乳酸菌ライブラリから選抜したものを用い, 最終目標として, そ れら菌株がつくる機能性分子(多糖類, GABA 等)を含有する「赤ワインテイスト飲料」の開発によ り, 市場を拡大する。 3.研究成果および今後の課題 植物乳酸菌を用いた「醗酵法によるノンアルコール赤ワインテイスト飲料の開発」を目的とし て研究開発を行った。試作品をつくるにあたって, 植物乳酸菌として Lactobacillus plantarum SN35N を, ブドウ果汁として広島県の三次産のブドウ「メルロー」をそれぞれ選定した。既存の 赤ワインの色調は, 山葡萄の果皮を添加することにより十分に再現できることが判明した。 シニアワインアドバイザーによる「メルロー果汁に山葡萄の果皮を加えて試作した赤ワインテ イスト飲料」の試飲の結果, 試作の方向性は良いとの評価を受けた。ただし, 山葡萄の果汁は糖 度が高いことが判明したことから, 果肉をより除去して果皮のみを加えることで糖含量を低下さ せるとともに, メルローの果汁も Brix を元の 60-70%程度まで糖分を低下させる必要がある。 また, 乳酸菌の培養時間を長くして酸味を高め, 糖分を減少させる必要がある。この操作により, 酸味 と甘みのバランスを確定させたのち, 茶カテキンや柿渋エキスの添加により, 渋みと苦味を調整 させることとした。 4.おわりに 日本ソムリエ協会認定 シニアワインアドバイザーの評価とアドバイスにより, 今後の開発の方向性が見 えたことから, 更なる改良を加えて植物乳酸菌 Lactobacillus plantarum SN35N を用いた醗酵法によるノ ンアルコール赤ワインテイスト飲料を試験製造し, 3 年以内には市場への展開を図る。 5.本研究の今後の計画 植物乳酸菌 SN35N を用いたノンアルコール赤ワインテイスト飲料の創出には, 原材料として葡萄果汁 としてメルロー果汁を用い, かつ, 赤ワインの色調を出すため, 山葡萄の果皮を添加することに決定した。 醗酵果汁の製造は野村乳業(株)が担当し, それを(株)広島三次ワイナリーにてボトリングする。本製品 の販路戦略は, (株)ソアラサービスに負うところが多いと考えている。また, 植物乳酸菌の実施権と菅理 は(株)植物乳酸菌研究所が担当する。さらに, 機能性分子の機能性研究については, 広島大学 大学 院医歯薬保健学研究科 薬学分野 遺伝子制御科学研究室(杉山政則教授)が担当し, 保健機能性を 持ったノンアルコール赤ワインテイスト飲料を, 遅くとも3年以内には製品化したい。そのための開発費に ついては, 公的機関の支援を受けるべく, 申請していく。 6.その他 (1)出願特許(タイトル・出願番号・発明者・特許権者など) 開発したノンアルコール赤ワインテイスト飲料に製造技術に関しては特許でなく、ノウハウ技術とする。 (2)投稿論文(タイトル・学会名等) 特に無し (3)本研究会の参加企業・団体名 国立大学法人広島大学 株式会社植物乳酸菌研究所 野村乳業株式会社 株式会社広島三次ワイナリー 株式会社ソアラサービス
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