情報産業 1997 ◎解説の角度〔1997 年版 現代産業〕 ●日本産業は歴史的な転換期を迎えており,90 年代後半は次の発展に向けて条件整備に費やされることになろう。日本産業が直面する環境は,ボーダレス化, 情報ネットワーク化が進行し,変化が早く競争の激しい「メガ・コンペティションの時代」である。この新しい環境に適応するためにはこれまでの日本産業の 成長を支えてきた経済・産業システムの基本的な見直しが不可欠となっている。制度や行政機構の改革をすすめ自由で効率的な市場メカニズムが機能し,企業 家精神が発揮できるシステムへの転換が課題だが,昨年頃から日本産業が様変わりする兆候も一部にみられるようになった。 ●海外への本格的な生産移転(空洞化)や国際調達の拡大,情報ネットワーク化も産業のあり方に大きなインパクトを与えはじめている。特にインターネット や CALS に代表される情報ネットワーク化の動きは,中期的にみて産業構造や企業戦略に大きな影響を与えることが確実視され,企業の関心が高まってきた。 ●このように環境変化が加速化する中で,企業は組織を簡素化し意思決定のスピードを早め,グローバルな視野に立った企業活動の最適配分・立地を求められ ている。 ▲産業発展と産業構造〔1997 年版 現代産業〕 先進国水準へのキャッチアップを終えた日本の産業は、円高や貿易摩擦に直面する中でアジア地域をはじめ海外を巻き込んだグローバルなレベルでの産業構造 の変革を進めている。日本は、賃金・土地価格にはじまりエネルギー、輸送費その他産業の活動を支える投入要素の費用が世界の中で最も高い国になってしま った。従来と同じ製品を同じ方法で国内生産するのでは、コスト的に競争できないために海外へ生産移転が行われ、その海外工場からの製品輸入が増える。日 本は新製品の開発や、海外向け生産設備などに製造業の主力が移り、貿易の対象にならない第三次産業のウェイトが高まっている。 もう一つの変化は、情報ネットワーク関連の技術革新とコスト低下が、新たな産業連関の形成や新産業の成長を促していることで、例えばCALS、エレクト ロニック・コマース、あるいはインターネット関連ビジネス等の成長がその一例である。 ◆産業構造の高度化〔1997 年版 現代産業〕 高次の発展段階への移行をともなう産業構造の変化のこと。農林漁業(第一次産業)の支配的な産業構造が、鉱・工業(第二次産業)のウェイトの高い構造へ と移行する工業化、初期の工業化を主導した軽工業(消費財産業)から重化学工業(生産財・資本財産業)へと工業内部のウェイトが変化する重工業化、加工 度の低い素材産業から、加工産業や組立産業、とりわけ組立産業のウェイトが増大する高加工度化の傾向や、サービス産業(第三次産業)のウェイトが増大す るサービス化などの発展段階がある。産業構造の高加工度化、サービス化が進む一方、エレクトロニクス・情報分野の技術革新が進み、金融、流通、情報通信 等、ソフトウェアを中心に産業の情報化・知識集約化、さらに情報そのものをビジネスの対象とする情報の産業化が進展する。最近のコンピュータ関連機器の 値下がりと普及で高度情報社会に向かう産業構造の変化が加速する兆しをみせている。 ◆産業の空洞化〔1997 年版 現代産業〕 ディインダストリアリゼーション(deindustrialization)。主要産業の海外進出に伴い国内の産業活動、特に製造業が衰退に向かうこと。急激な円高傾向や貿易 摩擦の激化などによる輸出の停滞に伴い、自動車・エレクトロニクスなど、わが国の代表的なハイテク輸出産業の現地生産化に拍車がかかった一九八○年代後 半に空洞化が議論された。 ちなみに、九四(平成六)年度の海外直接投資額は四一一億ドルと対前年比一三・九%増となった。地域別に見ると、北米向けが減少から増加に転じたが、ア ジアではASEANと中国向けの増加が顕著であった。 このような産業の現地生産化はわが国の地域的産業・経済の発展を損ない、マクロ的な産業・経済活動にも支障をきたすと空洞化が危惧されたが、実態はむし ろ国際分業をすすめ、わが国産業の高度化を促しているといえよう。九五年に入り円高が進んだために、改めて空洞化(hollowing out)が問題化した。八○年 代に設立した海外の組立工場向けに日本から部品を輸出するという戦略が円高でコスト的に成立しなくなり、本格的な生産設備を現地へ移行せざるをえなくな ったためである。いま必要とされるのは、次の技術開発、とりわけ新製品開発のための本格的な取組みであり、これによってのみ空洞化は回避できる。 ◆フルセット型産業構造〔1997 年版 現代産業〕 日本は、欧米を含む先進工業国の中で全ての産業分野を一定レベルで国内に抱え込みながら工業化を進めてきた唯一の国である。例えば、鉄鋼、造船、化学、 自動車、エレクトロニクス、繊維等を一国内にすべて丸抱えしている国は工業化と並行して水平分業を進めそれぞれ得意産業を保有しながら、貿易を通じて相 互に依存しあう関係を形成した欧米諸国にはみられない。 ちなみにヨーロッパでは、鉄鋼はドイツ、造船はイギリス、化学はドイツ、精密機械はスイス、繊維はフランスとイタリアというように得意分野がはっきりし ていた。 日本が産業を一式丸抱えした理由は、明治以来の工業化の過程で周囲に水平分業を展開する工業国が存在しなかったためだが、最近では軍需との関係が強い航 空宇宙産業等の海外依存型産業も出ている。いずれにしても昨今の東アジア地域の急速な工業化が水平分業を促し、日本のフルセット型産業構造の転換を不可 避にしている。 ◆地域ベンチャー〔1997 年版 現代産業〕 「地方の時代」をむかえ健康・医療や環境をはじめ、地域密着・生活関連型の「地域ベンチャー」の成長に期待が集まり、全国各地域で地元企業による異業種 交流も活発になっている。一九八○年代に脚光を浴びたハイテク技術やソフトウェア開発など研究開発型ベンチャー・ビジネスや、大分県の一村一品運動から 全国的に広がった地域産業おこしが一段落するなど、地域産業の不振が続いていた。例えば、九○年代初めの新規開業率(全法人に占める新規設立法人の割合) はピーク時の半分近くまで低下している。 しかし平成不況からの回復過程で、普通の中小企業や大企業の下請けで技術を蓄積した企業が時代のニーズを巧みに捉えさまざまなビジネスに挑戦しはじめ、 内需型成長をめざす日本経済の構造変化が進む中で、地域が新しい消費市場として浮上しさまざまなビジネスが各地に育つ可能性が出てきた。一例を挙げると 生ゴミを肥料に変えるプラント、廃棄プラスチックの再処理技術、マイタケの人工栽培、学習塾などであり、産業の活性化、雇用の受け皿として地域ベンチャ ーへの期待は大きい。 ◆主導産業(リーディング・インダストリー)(leading industries)〔1997 年版 現代産業〕 経済発展の各段階で、成長を牽引し一国の経済や国民生活に多大な影響を及ぼす産業のこと。主導産業の基準には、産業の規模と成長性、他産業の発展を誘発 する波及効果の大きさ、輸出や雇用に対する寄与などがあげられよう。戦後の経済復興期から高度成長期における主導産業は、石炭・繊維・鉄鋼・造船、化学、 自動車・家電などのエネルギー多消費型の重化学工業や耐久消費財の製造業であった。一九八○年代に入り、技術革新の新しいうねりが生じ、マイクロエレク トロニクス革命・高度情報化の推進役であるエレクトロニクス産業や広義の情報産業が、リーディング・インダストリーとして登場した。半導体技術や液晶技 術、マルチメディア、バイオテクノロジーなどが革命的に進歩しつつあり、マルチメディアを軸にした人類未知の新しい時代が到来しようとしている。 ◆サポーティング・インダストリー(supporting industry)〔1997 年版 現代産業〕 鋳物、鍛造など素形材や金型、部品および工作機械など機械工業の生産活動を支える裾野、周辺産業のこと。アジア諸国の工業化は一九八○年代から輸出産業 に主導されて急速な勢いで進行しており、引き続き二一世紀に向けて成長が期待されている。 その中で、エネルギー、港湾・輸送・通信施設など社会資本の不足とともにアジア諸国のサポーティング・インダストリーの脆弱性が問題になっている。これ らの分野は中小企業で3K業種に属しているものが多く、わが国では人手を集めにくくなっている。一九九三(平成五)年一月宮沢首相がASEAN諸国を訪 問した際にその育成への協力が表明されており、今後わが国からサポーティング・インダストリーのアジア諸国への工場進出や技術移転が増大することになろ う。 ◆産業用財産業〔1997 年版 現代産業〕 産業用電子機器、半導体などの高度機能部品や金型など熟練を要する機械部品、あるいは工作機械、産業用ロボット、半導体製造装置などの技術集約的な資本 財を供給する産業の総称。世界的に競争が激しくなる中で、生産技術の高度化、効率化が進み、また品質要求が厳しくなってきたために、エレクトロニクス製 品、自動車など消費財の加工・組立てを行っている産業やその部品産業などを中心に内外の需要が増えている。わが国が、これまでに蓄積した高度な生産技術 を生かせる分野であり、独壇場といえるものも多い。海外に展開するわが国企業向けだけでなく、世界各地の企業向けに今後の需要拡大が期待される。 ◆文化産業〔1997 年版 現代産業〕 急速な工業化を軸とした経済の高度成長によって、わが国の国民所得が先進国間の比較でみてもトップグループ水準に上昇したことを背景に、余暇=消費生活 と就業=勤労生活の内容をもっと豊かでゆとりあるものにしようという主張が強くなり、最近では生活大国構想が提唱されている。豊かさとは選択の多様性で あるという主張もある。産業発展のうえでは、「脱工業化」「サービス経済化」「第三次産業化」の段階に達したというべきであり、文化教室、旅行、音楽、各 種イベント、ファッション、演劇、伝統工芸、そして多様な余暇商品・サービスの供給といった文化的、情緒的な満足を与える多様な文化産業が成長している。 また、文化や福祉事業を企業が支援するフィランソロピーも注目を浴びはじめた。欧米企業には、税引前利益の一%程度を社会に還元するのはあたりまえのこ ととする考え方がある。わが国でも利益の一%を社会への貢献に寄付しようという活動が出ている。 ◆プロセス・イノベーション(process innovation)〔1997 年版 現代産業〕 既存の製品の生産工程や生産技術を改良したり、新工程を創り出すことによって製品コストを削減する、あるいは品質・性能を改善する技術革新のこと。これ に対応するのがプロダクト・イノベーション(product innovation)で、従来存在しなかった画期的な新製品を開発する技術革新である。最近世界から注目さ れる日本の研究開発能力は、多くの分野でアメリカと対等ないし、それを上回る水準に到達しているが、内容をみると基礎研究よりも応用・開発研究にすぐれ、 それに裏打ちされたプロセス・イノベーション指向が特徴である。 VTR、テレビ、半導体、コンピュータ等は、いずれもアメリカで発明されたが、日本がこれに継続的な改良を加え、生産工程の技術革新によってコスト削減 を実現した。現在、世界市場での競争力は日本が強いが、アジア諸国を中心に発展途上国の追い上げも進展している。日本の今後の課題はプロダクト・イノベ ーションといえよう。 ▲産業政策と産業動向〔1997 年版 現代産業〕 鉄鋼、自動車など欧米諸国ですでに確立した産業を日本に輸入・育成する場合の産業政策と、欧米でも産業として創成期にあるマルチメディア、バイオテクノ ロジーなど新産業を育成するための産業政策は異なる。日本は、既存産業を欧米から導入する際に、官の主導の下に効率的に技術導入を行ったり、新設備の特 別償却を実施するなど産業の育成に成功した。しかし、製品コンセプトの創造や市場の開発を、それもリスク負担しながら進めなければならない新産業の場合、 政府の果たすべき役割も変わらなければならない。従来の規制や行政指導に代わり市場メカニズムを前提にした新しいルール作りや、ハイリスク・ハイリター ンのベンチャー企業を創りだす仕組みが課題となっている。 ◆日米包括経済協議〔1997 年版 現代産業〕 一九九三(平成五)年七月、日米包括経済協議がスタートした。八九(昭和六四)年の日米首脳会談で始まった日米構造問題協議の延長であり、さらに冷戦後 の新しい日米経済関係の構築を目指している。具体的には、両国間の対外不均衡問題等マクロ経済問題、日本市場開放のための分野別協議や規制緩和、政府調 達問題、さらに地球規模の協力問題の三つの課題について九三年九月から両国の協議が始まった。協議の中では、日本の経常収支黒字削減や政府調達の増加に ついて、数値目標を設定したり、合意事項の進捗度を測るための客観的基準を定めようとするアメリカと、それに反対する日本の主張が対立し協議が難航して いる。目標や基準を設定することは、管理貿易につながりかねないとする日本側の主張は、アメリカの学者等からも支持されており最近は、アメリカ側も軟化 する兆しを見せている。しかし、日本側についても問題解決に関する前向きの提案が出ていないという批判もある。 ◆産業構造審議会と二一世紀の産業構造〔1997 年版 現代産業〕 産業構造審議会総合部会基本問題小委員会は、一九九五(平成七)年一○月「二一世紀への日本経済再建のシナリオ」をまとめ、九四年六月にまとめた二一世 紀産業構造の展望を実現するためには、経済構造の改革に取り組む必要があることを強調した。 報告は、日本経済の課題を短期、中期、中長期に分けて分析しそれぞれに対応した三段構えの構造改革を提案していることが特徴で、赤字国債の発行を含む思 い切った経済対策、金融、通信など基幹サービスの効率化、企業関連諸制度の改革、科学技術創造立国、公共投資基本計画の前倒しなどを提言に盛り込んでい る。 高コスト構造を是正し競争的な市場を整備することで二○○○年には起業社会が実現し新規事業が広範な分野で展開される結果、一二の新規分野で約二一三兆 円、二五○万人の雇用増加を見込んでいる。 ◆エネルギー・環境の基盤技術開発〔1997 年版 現代産業〕 通産省は、一九九四(平成六)年度から一○年計画でエネルギー・環境関連の共通基盤技術の開発に取り組む。エネルギー変換、輸送、貯蔵、利用、排出の各 分野にまたがる革新技術で、(1)耐熱性材料などを研究する「革新的エネルギー効率発現材料」、(2)新たな触媒などを開発する「物質・エネルギー変換技 術」、 (3)生物機能をエネルギー変換などに応用する「バイオエネルギー技術」、および(4) 「新エネルギー構成・創生技術」の四分野から、三○テーマを取 り上げる予定である。実際の開発は、国立研究機関や民間企業の共同研究で実施することになっており初年度予算は約二○億円の予定。 ◆独占禁止法(独禁法)〔1997 年版 現代産業〕 財閥解体のあとを受け、経済民主化のために一九四七(昭和二二)年に制定された法律で、正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」と いう。 事業者の公正かつ自由な競争を確保し、国民経済の民主的で健全な発達を図ることを究極の目的として、(1)私的独占、(2)不当な取引制限、(3)不公正 な取引方法の禁止、を三本柱とする。 独禁法の運営には、学識経験者によって構成され、内閣から独立し、調査、勧告、審判などの権限をもつ公正取引委員会(公取委)があたる。七三∼七四年の 物価狂乱における企業行動への社会的批判のもとに、七七年に成立した改正独禁法は、(1)独占的状態が認められる場合に公取委は営業の一部譲渡などを命 ずることができる(企業分割規定)、 (2)違法カルテルに対する課徴金規定、 (3)価格の同調的引上げ理由の報告に対する規定、 (4)株式保有制限の強化規 定などである。経済大国になった日本は、例えば株式の持ち合いや系列、行政指導など海外から批判の高まる日本型経済システムを世界に通用するフェアーで 透明なシステムへと変えていかなければならないが、その過程で独禁法の果たす役割は大きい。また九五年末から、同法第九条の純粋持株会社を禁止した規定 の廃止が問題となっている。 ◆海外生産比率〔1997 年版 現代産業〕 製造企業の売上高に占める海外現地法人売上高の比率。円高、貿易摩擦等各種要因により生産拠点の海外シフトが進行している。わが国製造企業の海外生産比 率は、一九八五(昭和六○)年度の三%から九四年度には七・九%程度にまで高まっている。しかし、アメリカは九一年度ですでに二七%台に達していると推 定されており、今後円高等を背景にわが国企業の国際的な企業内分業が進み、さらにこの比率は高まる見通しである。この比率は、グローバルな視点からする 経営資源の最適配分を示しているが、この点でもわが国製造業の活動は一段と高度化することになろう。 ◆系列(KEIRETSU)〔1997 年版 現代産業〕 日本の企業間あるいは企業グループにみられる長期継続的取引関係で最近海外で注目され、かつ日本企業の競争力の強さの源泉であるとする見方もある。企業 間、グループ内取引だけではなく、役員の派遣など人的関係や、株式を保有する資本関係などが併存する場合が多く、それらも強弱さまざまな関係がある。 系列のタイプは大別すると旧財閥系企業グループで三井、三菱、住友など有力銀行をメインバンクとする異業種の企業集団と、独立型企業グループとして日立、 松下、トヨタなど有力大企業を核として形成される関連企業群の二つのタイプがある。系列は、グループ内での取引を優先している閉鎖集団であり、海外企業 による日本市場への参入を阻害しているという指摘もあるが、実態をみると必ずしもそうとはいえない部分が多い。また、環境に合わせて系列の内容が変化し ていることも見逃せない。 ◆事業革新法〔1997 年版 現代産業〕 正式名称は、 「特定事業者の事業革新の円滑化に関する臨時措置法」。急激な円高、アジア諸国の急速な成長、国内設備投資の低迷など環境変化に直面している 日本産業が、国際競争力を低下させ「空洞化」することへの対応策として、今年四月に施行された。法律の狙いは、対象企業の事業の効率性や新規性を追求す る仕組みを低利融資や設備投資減税、試験研究促進税制などで支援することにより、国内生産活動の活性化を図ることにある。過去にも石油危機やプラザ合意 後の急速な円高など環境変化に対応した企業の不況対策やリストラを支援する施策がとられたが、今回の企業革新法は、(1)既存の経営資源を活用した事業 革新、(2)対象業種は、一六五業種が指定され製造業に加えて関連卸、小売などに範囲が広げられた。また(3)企業間の経営資源の異動および(4)対象 企業の子会社などが行う事業革新のための取組みも支援対策になっている。 ◆インキュベータ(incubator)〔1997 年版 現代産業〕 生まれたばかりの乳児を育てる保育器の意。独自の創造性に富んだ技術、経営ノウハウ等を持つ研究開発型中小企業(ベンチャー・ビジネス)の旺盛な企業化 意欲に着目し、自治体などが中心となって研究施設・機器、資金などの援助を行い、新たな産業創出の場と機会を与える方法をいう。いわば雛を若鳥に育てる 機能のことで、研究開発を行う中小企業などを対象とし、自立化を支援するものである。貸与する施設・機器としては共同研究を行う部屋、事業所の用に供す る部屋、電子計算機、事務機器、視聴覚機器などが考えられる。アメリカが発祥の地であるが、日本においても熊本県のマイコン・テクノハウス、大分県の地 域技術振興財団などリサーチ・コアの中心施設の一つとしてインキュベータ的機能をもつ第三セクターが誕生した。また川崎市に本格的なインキュベータ施設 である「かながわサイエンスパーク」(KSP)が誕生し、大手企業以外にハイテク関連ベンチャー企業が入居している。 ▲産業立地・技術進歩〔1997 年版 現代産業〕 日本は長い間世界の生産基地としてモノ作りを担当してきたが、一九九○年代に入り東アジアがその役割を日本に代わって果たしはじめた。単純な労働力や機 械を使ったモノ作りの場としては、日本は競争力を失っており、海外からの輸入品で置き換わりつつある。日本が目指すべき方向は、世界各地域にモノを作る ための機械設備や高級部品、ソフトウェアを提供したり、新しい技術を開発する役割である。 ◆ゼロ・エミッション計画(Zero Emission Recycle Initiative)〔1997 年版 現代産業〕 産業廃棄物ゼロという新しい産業社会のあり方を探るめに国連大学が推進しているプロジェクト。ビールの醸造かすを再利用する等のテーマが取り上げられて いる。 一九九五(平成七)年四月には東京で国際会議も開催された。ゼロ・エミッション計画は、「自然界では無駄に失われるものは何もない。唯一廃棄物を出して いる生物種は人間だ」という認識に立っている。しかし人間が作り上げた産業社会でも、ある企業の廃棄物は別の企業にとって原料という関係が成り立ち、さ まざまな産業を組み合わせることで個々の企業活動に伴って発生する廃棄物を社会全体としてゼロにすることができる。これがゼロ・エミッション計画の狙い である。こうした考え方は決して新しいものではない。しかし、日常身の回りに廃棄物が溢れゴミの山ができている状況が出現すると、これまでは夢物語でし かなかった異端の発想が現実味を帯びる。現在の産業・技術を続ける限り、産業社会の今後の発展は維持できなくなるといえる。 ◆マイクロマシン〔1997 年版 現代産業〕 一立方センチ程度のスペースに収まる自律的な走行機械の総称で、現在、次のような三種類のマイクロマシンが考えられている。 ミリシステム(小型化機械) ミリオーダーの精密加工や組立技術を極限化したもの。 マイクロシステム(微小電気機器システム) ミクロンオーダーのチップ状の機械装置で、多くの機械システムを同時に組み立てた状態で作ることができる。 ナノシステム(分子機械) 分子・原子操作によって組み立てられるナノメーターオーダーの高分子機械のことであり、分子生物学の発達によって可能性が開 けてきた。 マイクロマシンは、機械の概念を根本的に変えると考えられており、その応用は、医療、バイオテクノロジーをはじめ微細加工、組立て、半導体製造装置など、 広い分野で期待される。通産省が、一九九一(平成三)年度から一○カ年計画で総額二五○億円を投じるなど、「マイクロマシン技術開発プロジェクト」が動 いている。マイクロマシンの市場は、二○一○年で情報通信や医療、環境、航空宇宙などで最大三兆二○○○億円と見積られており、九六年から試作品作りも 始まる。 ◆産業用ロボット(industrial robot)〔1997 年版 現代産業〕 人間の各種機能を代替する自動化機械のこと。人間が操作する簡単なマニピュレータから、あらかじめ設置された順序と条件および位置にしたがって各段階の 動作を逐次行うシーケンス・ロボット、人間が教示した作業を反復できるプレイバック・ロボット(以上第一世代のロボット)、順序・位置・その他の情報を、 さん孔紙テープやカードなどの数値により指令されたとおりに作業を行える数値制御ロボット(第二世代ロボット)、感覚機能および認識機能によって行動決 定のできる知能ロボット(第三世代ロボット)などが開発されている。 日本における産業用ロボットの普及は、世界各国の中で圧倒的に高く、自動車、電気機械、金属加工産業から食品・鉄鋼など全製造業に浸透している。現在は 第一世代ロボットから第二世代ロボットへの代替期にあるが、将来的にはセンサーの向上により、原子力、宇宙開発といった特殊な環境下で使用される極限ロ ボット、自身で学習・推論する知能ロボットが普及するものと期待される。 ◆アミューズメント・サイエンス〔1997 年版 現代産業〕 ソーラーカーレースやロボットコンテストなど、ゲーム感覚でハイテク技術を駆使したユニークな研究開発や技術の商品化を目指す新しい試み。研究開発が本 来持つ面白さや感動を呼び戻し、組織や発想が硬直化して行き詰まっているといわれる日本企業や大学の研究開発の現場に、柔軟な発想やダイナミックな組織 活力をもらたすきっかけとして注目されてきた。大企業の中には、意図的にアミューズメントサイエンスに取り組む企業が増えている。遊びごころが新規事業 につながるケースも少なくない。大手時計メーカーが売り出したマイクロロボットは、山登りコンテストに参加し人気を博した作品を商品化したものである。 センサーや超小型モーター、CPUなど時計の最先端技術を駆使した世界最小のロボットである。 ◆バーチャル・リアリティ(Virtual Reality)〔1997 年版 現代産業〕 バーチャル・リアリティ(仮想現実感)とは、コンピュータ技術を駆使して現実には存在しない空間を再現し、その中に置かれた人間に、あたかもその空間に いるかのような擬似体験をさせようとするものである。しかも再現性が高く、体験者の動きに対応して空間自体が自由に変化するところに特徴がある。宇宙体 験やレーシング体験などエンターテインメント、さらに医療分野への応用も期待されている。市場規模は今後二一世紀にかけて飛躍的に増大することが予想さ れている。 ◆ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)(Human Frontier Science Program)〔1997 年版 現代産業〕 科学技術の分野においてわが国が国際貢献を図ると共に、基礎研究の推進による国際公共財を創出する目的で、一九八七(昭和六二)年六月のベネチア・サミ ットでわが国が提唱した大型基礎研究プロジェクト。生体の持つ優れた機能の解明のための基礎研究を国際協力を通じて推進しようとするもので、わが国のイ ニシアチブが高く評価されている。八八年に正式に合意され、八九年には、フランスのストラスブールに実施主体として国際ヒューマン・フロンティア・サイ エンス・プログラム推進機構(HFSPO)が設立された。プログラムの事業内容は、国際共同研究チームへの研究費助成、研究者の海外研究費助成、国際研 究集会開催助成などとなっている。また助成対象分野は、脳機能の解明、生体機能の分子論的アプローチによる解明の二分野における基礎研究が合意されてい る。ちなみに九五年には、合計三六七名がこのプログラムの助成対象者となった。 ◆マクロ・エンジニアリング(ME)(macro-engineering)〔1997 年版 現代産業〕 古代のピラミッド、近代のスエズ運河、現代の宇宙開発のように、その時代の最高の技術と最大の組織、巨大な資金を投入して営まれる巨大プロジェクトの計 画・運営・管理のためのトータル・システムのこと。投資規模が大きく長期間にわたるので、経済分野や技術分野への波及効果が大きい点に特色がある。二一 世紀に向けて、世界経済の活性化をめざし技術革新により身近となってきたニューフロンティア(宇宙・海洋など)開発、パナマ第二運河開発などグローバル な再開発への関心が高まっている。 日本ではすでに日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)が活動。八八年には世界のマクロエンジニアリング学会が連合した組織(IAMES)も発足した。 ◆ISO9000〔1997 年版 現代産業〕 国際標準化機構(ISO)の品質保証規格である「ISO9000 シリーズ」とは、工場や事業所の品質管理システムそのものを第三者(審査登録機関)が検査 し、品質保証システムが適切に機能していることを制度的に保証することである。製品それ自体の形状や材質、信頼性を保証する日本工業規格のJISマーク 表示許可制度とは異なり、品質管理のシステムそのものを評価する。一九七○年代欧米諸国では、品質管理システムを向上することにより企業の競争力を強め、 同時に製品の信頼性・安全性の確立をめざした。その後国ごとにバラバラだった規格を共通化しようという動きが強まり、八七年に英米規格をベースに制定さ れたのが「ISO9000」である。EC域内での商取引にはこの規格の取得が必要条件とされている場合が多いため、わが国企業も一斉にその取得を始めている。 「ISO9000 シリーズ」の認証取得は、PL訴訟への対応やトラブル防止のうえでも強力な武器になるメリットが認識され、取得件数は製造業を中心に増加 している。 ◆CALS(生産・調達・運用支援統合情報システム)(Continous Acquisition and Life-cycle Support;Commerce at LightSpeed)〔1997 年版 現代産業〕 標準化と情報統合化技術を用いて、デジタル・データの生成・交換・管理・利用をよりいっそう効率的に行い、設計・開発・生産・調達・管理・保守といった ライフサイクル全般に関わる、経費の節減、リードタイムの短縮、品質の向上を目標とする。一九八五年、アメリカ国防省がコンピュータによる調達とロジス ティック(後方支援活動)を効率化するための構想として発表したもの。最近ではアメリカ商務省が製造業の競争力向上に役立つものとして注目し防衛産業か ら一般産業へと発展、内容も高度化している。 さらに今後は世界の企業をネットワークで接続し、あらゆる企業情報をデジタル化し自由に交換できるネットワークとデータベースを構築する壮大な構想に変 わろうとしており、現在の産業を根本的に変化させる可能性がでてきた。日本でも九五(平成七)年から通産省などが音頭を取り産業界と共同でCALSに関 する幾つかの技術開発プロジェクトをスタートさせている。 ◆BOT方式(Build Operation Transfer)〔1997 年版 現代産業〕 民間企業が、発展途上国政府との契約により、実施するインフラ事業で、施設の建設(Build)、運営(Operate)までを一貫して請け負い、一定の運営期間内 に投資を回収した後に施設を発展途上国に移転(Transfer)する方法。 発展途上国、特に急速な経済成長を遂げつつある東アジアでは、今後経済活動の拡大にともない道路・港湾、エネルギーをはじめ厖大な社会資本(インフラス トラクチャー)整備が必要となってくる。ちなみに世界銀行の報告によると一九九五年から一○年間に東アジアおよび太平洋地域の途上国全体で約一・三∼一・ 五兆ドルの新たな投資が必要と見込まれている。しかし現地国では、資本と技術の絶対量が不足しているために、規制緩和や金融・資本市場の整備など民間投 資を受け入れる投資環境の整備に取り組むとともに、外国の民間資本や技術を効率的に活用する民活インフラ整備を進めている。このためBOT方式はますま す増加していくとみられている。 ◆空間開発エンジニアリング〔1997 年版 現代産業〕 都市部の未利用空間を有効活用するための技術のことで、高層空間開発技術、地下空間開発技術などがある。いずれも多くの要素技術からなり、それらのシス テム化、エンジニアリング技術が必要になる。例えば、高層空間開発技術は、高層空間での防災・安全技術、耐震構造設計技術、材料技術、高層に物資や人を 輸送する搬送技術など各要素技術を組み合わせたものである。 これらの技術は開発途上にあるものが多いが、都市空間を地価あるいは高層に拡大させ空間を有効に利用することで、地価の高騰や交通渋滞など都市問題の緩 和につながる。また空間開発エンジニアリングが活用されるためには、都市環境に配慮することはもちろんだが、容積率の拡大など錯綜した規制の見直しが不 可欠である。 ◆フロン規制(Fluorine regulation)〔1997 年版 現代産業〕 ここでいうフロンとは塩素を含むフッ素化合物(フロン 113、フロン 134a など)であって、電子部品の洗浄用あるいは冷蔵庫・クーラーの冷媒用としてハイ テク産業に欠くことのできない物質となっている。このフロンは、大気中に放出されると成層圏に滞留してオゾン層を破壊、地球に降り注ぐ紫外線の増加によ って地球上の生物が多大な影響を受けるといわれている(地球規模の環境問題)。フロンによる環境破壊の危険性がカリフォルニア大学のローランド教授によ って指摘されたのが一九七四年のこと。その後、国連環境計画(UNEP)が中心となって対策を検討し、八七年にはフロン生産量の半減を盛り込んだ「モン トリオール議定書」が制定されている。日本もこの議定書にサインするとともに、八八(昭和六三)年には「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する 法律」を制定、積極的にフロン規制にのり出した。今後はオゾン層保護対策とともにフロン代替品の開発が急務となっている。 ◆BBレシオ〔1997 年版 現代産業〕 北米半導体市場の需給バランスを表す指数で、アメリカ半導体工業会が毎月上旬に作成している出荷(Book)額に対する受注(Bill)額の比率(レシオ)で、 BBはそれぞれの頭文字をとったもの。過去三カ月間にアメリカとヨーロッパの半導体メーカーがアメリカ市場で受注した金額の平均値を同じく出荷額の平均 値で割って算出する。仮に出荷額が一で、受注額が一・二だとBBレシオは一・二となる。BBレシオが一を上回れば市場の需給関係が逼迫し、逆に一を割る と需給がだぶつくことを意味している。半導体産業では「シリコンサイクル」といわれる、ほぼ四年間隔で好不況を繰り返す景気のサイクルが観察されている が、現実には、製品技術の世代交代や、需要市場の需給変動などが激しく変化が加速しているため市場動向の見極めが難しい。半導体関係者は、半導体市場の 需給動向を示すBBレシオを手掛かりに経営の舵取りを行ってきた。 ▲新産業・新製品〔1997 年版 現代産業〕 日本産業は、内需に依存する成長への切り替えを、それも早いテンポで転換することを迫られている。具体的には国内市場向けの新商品・技術開発による新市 場の開拓や新産業の創出である。マルチメディアを中心とする情報通信分野、環境、高齢化社会に向けた医療・福祉、住宅等の分野が市場として有望とされて いるが、これらの分野は政府の規制が相対的に厳しいという点で共通している。平岩委員会〔九四(平成六)年〕のレポートでも指摘されたことだが政府規制、 とりわけ新産業・新製品の妨げとなっている経済規制の原則撤廃が急がれる。 ◆先端的基盤科学技術〔1997 年版 現代産業〕 各分野の科学技術の発展に伴い科学技術が複雑化する中で、異なる分野の間で共通に利用できる基盤となり、またそれらの分野をいっそう発展させる鍵となる 技術。これらの技術は、異分野科学技術の相互乗り入れを促進し、新しい応用分野の開拓や従来の発想では困難であった課題に対してのブレークスルーを提供 することが期待される。具体的な技術の事例を挙げると、極微小な物質を高精度で計測・操作する技術、リアルタイム・多次元の観測・表示技術、あるいは微 小要素デバイス技術、微小制御技術、微小設計技術等を総合したマイクロエンジニアリング技術等がある。さらに、地球環境への影響を与えない永続的な生産 活動、高齢化に適応した機械システムの構築技術など自然環境との調和、人間・社会との調和など人類の活動を取り巻く複雑な問題を解決するための基盤技術 が重要になっている。 先端的基盤技術の研究開発を計画的に推進するために科学技術会議で四三課題・一七七テーマを決め今後一○年間で一兆二○○○億円の研究資金を想定した開 発基本計画が策定されている。 ◆電気自動車〔1997 年版 現代産業〕 悪化する大都市の大気汚染を緩和するための有望技術として脚光を浴びている。環境規制の厳しい米カリフォルニア州が一九九八年から、低公害車の最低販売 比率規制を実施し電気自動車の販売を促進する計画をスタートさせるため、世界の自動車メーカーが開発に力を入れている。電池をエネルギー源とし電動モー ターで自動車を走らせるという発想は古く、自動車が発明された直後にはガソリン車より普及した時期もあるが性能が劣り出番がなくなった。 これまで電気自動車に搭載されるのは鉛蓄電池が最も多かったが、エネルギー密度が小さいという問題点があった。しかし、新電池の技術開発が急速に進んで いる。例えば九六(平成八)年日本で発表されたニッケル水素電池を使った試作車は、実用的な車体と装備を持ち、一回の充電で走行できる距離が二一五キロ、 時速一二五キロを出せるところまできている。 ◆グリーン・テクノロジー(green technology)〔1997 年版 現代産業〕 地球環境を守り、再生させるグリーン・テクノロジーが注目されている。そのなかでも省エネルギー技術が期待され、効率向上のためのコージェネレーション、 ヒートポンプなどがクローズアップされている。また、CO2は日本でも年間一人当たり二・五トン排出され、その抑制は大きな課題となっている。これ以外 では、国際貢献としての砂漠化防止技術がある。砂漠化地帯で水分をいかに貯蔵するか、地下にダムを建設したり、吸水性素材の開発などの実験が行われてい る。 ◆航空・宇宙産業(aero craft, space industry)〔1997 年版 現代産業〕 航空機、ロケット、人工衛星、推進剤、通信機器、誘導・制御用のエレクトロニクス機器の製造など、高々度空間や宇宙空間利用に係るハードウェアの生産お よびソフトウェアの開発を行う産業のこと。ハイテクの粋を集めた産業であるだけに、技術波及効果は大きく、国の技術基盤強化に結びつく。また、冷戦崩壊 に伴う軍縮の進展のため、新しい環境に対応するための生き残り競争が展開されており、世界的な産業の再編成はさけられない。しかし、二一世紀に向けてH ‐2ロケット開発、有人型の宇宙実験である国際 宇宙ステーション計画(JEM)、新素材や新薬開発をめざした宇宙実験、スペースプレーン(宇宙往還機)、 超音速輸送機(SST/HST)、月面基地建設(一九八八年一一月、民間企業二○社により「月面基地と月資源開発研究会」が発足)など、大型プロジェク トが目白押しの状況である。宇宙開発委員会では、二○○○年の市場規模を一兆円と予測している。 ◆社会開発産業〔1997 年版 現代産業〕 社会開発という言葉は、昭和三○年代の後半から、しばしば使われるようになったが、「生活大国」という一九九○年代の日本の最大の課題がクローズアップ される中で、改めてその活性化が必要になってきた。一般的には社会開発を、「人間の諸活動の社会的環境・基盤を改善・整備すること」と規定することがで きよう。(1)住環境・医療・保健・教育・レジャーなどの生活環境基盤の整備、(2)地域・都市開発・交通・輸送通信、情報など国土の開発・整備、(3) 立地、廃棄物処理、流通など産業活動の環境整備などが含まれる。こうした開発には、社会的な共通部門、共同消費的なものが多いため、市場経済にゆだねる ことは不可能または不適当なものも多い。したがって、社会開発推進の主体は一般に公共部門ないし第三セクターや、それに準ずるものとなっている。他方、 社会開発には複雑で大規模なシステム技術を必要とするものが多いので、民間のディベロッパー、エンジニアリング産業の取組みが期待される。 ◆ヘルス・ケア産業〔1997 年版 現代産業〕 現在は物質的充足の時代といわれ、「物ばなれ」の傾向が著しい時代である。この波に乗っていくには物的製品の中に新しいニーズや変わりつつある価値を組 み込むことが重要になろう。「物ばなれの時代」において、人々が最も関心を抱いている生命・健康に関して新しい視点から将来の発展可能性を模索している 状態にある。栄養の過剰摂取、運動不足から文明病といわれる生命・健康への歪みが顕在化してきた。西暦二○○○年には六五歳以上の老人が二一三三・八万 人程度に達することからも、健康産業への支出は増大するものと考えられる。同産業の内容を概観するに、(1)生体開発分野として、レーザー診断・治療、 生体代替治療、新薬品、漢方薬、 (2)健康開発分野として電子血圧計、スポーツ飲料、乳酸菌食品、 (3)食料分野として、ニューフード・プロセス、植物工 場、 (4)アスレチッククラブやスポーツクラブがある。この分野を支える技術には、エレクトロニクス、ニュー・マテリアル、ライフサイエンスなどがある。 ◆環境産業〔1997 年版 現代産業〕 廃棄物のリサイクルや処理、省エネ、環境の修復など環境関連産業の育成や振興を促進する動きが強まっており、環境に関連した市場規模は現在の一五兆円か ら、二○一○年には三五兆円規模に成長すると推定されている。しかし技術が未開発であったり、あってもコストが高いなどの問題点が多く異業種間の情報交 換も難しいといわれる。また、産業廃棄物の処理や、リサイクル製品の市場とその拡大は、政府規制や制度・商慣行などが関係している場合がほとんどで個別 企業の対応力では限界がある。このため通産省では、工業製品の環境負荷を軽減するリサイクル生産システム「エコ・ファクトリー」プロジェクトを一九九三 (平成五)年度からスタートさせているが、さらに九六年初めに環境関連産業の振興を図るために「エコ・レギュレーション・フォーラム」を設立し、民間企 業や地方自治体の取り組み支援に乗り出している。 ◆光産業(opt electronics industry)〔1997 年版 現代産業〕 光産業とは、光技術を応用した製品を製造する産業の総称であり、発光・受光素子、光ファイバー、コネクターなどの光部品、光測定器、光ディスク装置、レ ーザー加工装置などの光機器・装置、さらに光通信システムなどの光応用システム分野から構成されている。光産業分野は半導体レーザー、光ディスク用の新 素材や液晶ディスプレイ(LCD)などの成長も期待が大きい。 壁掛けテレビ の実現という年来の夢の実現につながる液晶ディスプレイは、日本企業の独 占分野となっている。今後は半導体レーザーや追記型光ディスク装置の高い伸びが予測されており、九○年代のリーディング産業に発展しよう。 ◆情報サービス産業(infomation service industry)〔1997 年版 現代産業〕 情報サービス産業とは社会・経済・技術に関連する各種の情報やデータ類を、収集、分析、計算・加工するとか、それらをもとにコンピュータシステムを開発 するなどにより、顧客に情報サービスを提供する産業のこと。具体的には、調査・コンサルティング、受託計算、ソフトウェア開発、システム等管理運営受託、 データ通信事業等の業務がある。コンピュータやエレクトロニクス等の技術革新、産業・経済から家庭分野にまで及ぶソフト化、サービス化の傾向に伴い、情 報サービス産業も急速な発展を遂げており、売上高も一九七五(昭和五○)年の二七五○億円から九四(平成六)年の六兆一七七○億円へと伸長している。し かし、九一年後半から成長率に翳りが出て、九二年をピークに売上高規模は縮小している。業界が技術的・構造的に大きな変化の時期を迎えつつあることが明 らかになってきた。特に、パソコンの販売台数が急速に伸びており、九五年末日本市場で発売されたウインドウズ 95 やインターネットの活況は情報サービス 産業がネットワーク社会に向けて新たな成長段階に入ったことを示している。 ◆遺伝子情報産業〔1997 年版 現代産業〕 遺伝子の構造や多様な機能を解明する基礎研究が急速に進んでいるが、その成果を活用することで、医療、食料品をはじめ化学、環境、電子機械などさまざま な分野で新産業の可能性が指摘されている。例えば、人の思考メカニズムや神経の情報伝達メカニズムを応用したコンピュータの開発、遺伝子情報をパスワー ドの代わりに活用するセキュリティーシステム、寒さや乾燥に強い農産物の開発などはその一例にすぎない。通産省は一九九六(平成八)年初めに遺伝子情報 産業を二一世紀の基幹産業にするための処方箋を盛り込んだ報告書をまとめたが、その市場規模は二○一○年で一○兆円に成長すると試算している。なお、こ の分野の取り組みではアメリカが基礎研究と産業化を担うベンチャービジネスの両面で日本の一歩前を進んでいる。 ●最新キーワード〔1997 年版 現代産業〕 ●マルチメディア(multi media)〔1997 年版 現代産業〕 従来の通信、放送といった異なったサービス形態を融合して音声、データ、画像をデジタルで高速に送受信できる形態を指す。通信、AV(オーディオ・ビジ ュアル)、コンピュータ等総合的な技術力が不可欠になる。マルチメディアの市場は、郵政省では二○一○年に一二三兆円で、国内生産額の五・七%に相当す ると推定している。その内訳は、映像番組配信、テレビ・ショッピング、ソフト配信、ネットワーク端末等光ファイバー網整備により創出される新市場が五六 兆円、既存のマルチメディアが光ファイバー網で加速化する市場が六七兆円に拡大する。なお、新市場により二四○万人の新たな雇用が創出される。 ●製販一体化〔1997 年版 現代産業〕 これまで異なる会社が別々に分担してきた開発・生産部門と販売部門を合併・提携等で統合し一体的に運営すること。情報ネットワーク技術の急速な進歩の結 果、データベースを共有化したり情報交換を迅速に行えるようになり、スピーディーで効率的な商品開発や入り組んだ流通段階の合理化を図ることで顧客指向 を徹底すると共にコストの削減が可能になっている。作れば売れる時代が終わり新しい時代に入ったことを象徴する現象の一つといえる。 末端の消費者情報を迅速に取り入れる商品作りでヒット商品を生み出す、計画的な生産体制や在庫管理など種々のメリットが期待できる。円高が進む中でアジ アからの輸入品との競合が厳しくなり、また価格破壊が進行する家電製品や衣料分野さらには自動車などで国内市場における日本企業の生き残り戦略として登 場した。 ●科学技術基本法〔1997 年版 現代産業〕 今後のわが国科学技術政策の基本的な枠組みを定めたもので、二一世紀に向けて科学技術創造立国をめざす科学技術振興のバックボーンとなる法律で、一九九 五(平成七)年一一月に制定された。政府は、この基本法に基づき、研究開発の推進に関する総合的な方針、研究開発環境の整備に関し講ずべき施策等を内容 とする科学技術基本計画を策定することが義務づけられており、現在その作業が進行中であり、人材・資金の流動性を備えた競争的な研究環境、高い水準の研 究開発基盤、研究者の活発な創造的研究活動で経済社会の発展に寄与することなどが検討されている。 二一世紀初頭に対国内総生産(GDP)比率で政府の研究開発投資を、欧米主要先進国並みの一%に引き上げることを目指しており、立ち遅れていた基礎研究 の充実が期待される。またこれにより、新しい産業の創出や学術面での国際貢献も進むことになる。 ●デジタル化〔1997 年版 現代産業〕 今後の新しいメディア、情報ネットワーク、経済社会を動かす情報は、全て二進法の一か○かで表現されるビットというデジタルなかたちをとる。情報がデジ タル化され、デジタル・ネットワークを通じて伝達されるようになると、従来とは異なる全く新しい可能性が開けてくる。情報を圧縮したりさまざまなかたち の情報を組み合わせたり、膨大な量を光のスピードで伝達することができ、その質もアナログ情報に比べてはるかに勝っている。 この結果、情報は世界のどこからでも瞬時にアクセス、保存、検索でき、また時間を超えてコミュニケーションを行える範囲が拡大する。小型デジタル機器の 開発によってビジネスや個人生活も大きな影響を受けることになろう。 ●リバース・エンジニアリング(reverse engineer ing)〔1997 年版 現代産業〕 製品を分析・分解してその構造や性能、製法等を知ることを指す。製品の生産プロセスを逆方向に進む技術という意味でリバースと呼ばれ、新製品や競争相手 の製品の分析・評価をする目的で産業界で利用されている。混ぜて使うと危険な洗剤の使用説明書を作成する際には、他の洗剤の成分を知る必要がある。 しかし類似品が容易に作れる等悪用の問題が生じる可能性がある。特にコンピュータ・ソフトは、内容が解明できれば容易に類似品がつくれることもあって、 アメリカは最近、知的所有権保護のために制度として認めるべきでないと主張している。 ●環境JIS〔1997 年版 現代産業〕 原料の調達、生産、販売、リサイクルなど企業活動のあらゆる面で環境への影響を評価・点検し、改善を進めるための指針。一九九六(平成八)年発効する国 際標準化機構(ISO)が定める環境管理システムと環境監査に関する国際規格ISO1400 に準拠して、日本工業規格(JIS)として工業技術院が九六年 度までに作成することが決まっている。JISそのものに強制力はないが、業界標準として採用されたり政府調達の際の条件となる場合が多く、企業は事実上 取得を義務づけられている。また世界的に環境問題に対する関心が高まる中で、環境JISをめぐる関連ビジネスの動きも強まっている。 ●次世代メモリー〔1997 年版 現代産業〕 現在パソコンやオフコンなどに使われている四・一六メガビットDRAMといったIC(半導体集積回路)に対しより記憶量の大きい六四・二五六メガビット DRAM等を総称する用語。一九九七(平成九)年以降に本格的な普及期を迎える見通しで半導体メーカーの開発競争が激化している。さらに二○○○年頃に は一ギガ(一○億)ビットの時代が予想されている。ちなみに一ギガの半導体メモリーには、新聞紙面四○○○ページの情報量を蓄積することが可能である。 現行DRAMの場合、シリコンウェファーにICチップを焼き付ける時の線幅が○・五ミクロンの微細加工能力をもつ半導体製造装置で量産できる。しかし次 世代メモリーでは○・三五ミクロン以上の加工技術が必要であり、一工場当たりの投資額も現在の五○○億円が一○○○億円に倍増する。このため一社単独で 次世代メモリーの開発や量産工場を建設することが厳しく、半導体メーカーは提携の動きを強めている。 ▽執筆者〔1997 年版 交通運輸〕 高田邦道(たかだ・くにみち) 日本大学教授 1941 年大分県生まれ。日本大学理工学部卒。現在,日本大学理工学部教授。著書は『地区交通計画』『都市交通計画』など。 ◎解説の角度〔1997 年版 交通運輸〕 ●戦後の交通事故死者が,昨年の中葉に 50 万人を超えた。この数は 500 人乗りジャンボ機が 1000 機墜ちた計算。しかし,一機の墜落で 1 ケ月程度のニュー スを提供するマスコミも,道路上の事故となると,その反応は小さい。人はこの現象を「交通戦争」と呼ぶ。著者は,この対策には挙国一致的取りくみが必要 と考え,ある学会誌に「交通戦争に武器と徴兵を」という論説を書いた。ところが物騒な用語を使うなと非難を浴びた。戦争する位の構えと経費がなければ戦 争にも終戦はあり得ない。これは固く信ずるところである。世論の喚起を期待したい。 ●とはいっても全く手のこまねいているわけではない。第 6 次交通安全基本計画(1996 年∼2000 年度)では,高齢者向けの交通安全教育や住宅地区の安全対 策が盛り込まれている。ITSでは,自動衝突回避システムなど機械・電子工学的対応は進められている。 ●いずれにしても年間死者数 9000 人が努力目標では,なまぬるい。ガソリン代や車両購入費に事故対策税を乗せて財源とし,工学的対策を急ぐとともに学校 や職場に交通専門家を置いて安全教育を徹底することは如何。軍国主義の匂いがしますか。 ▲公共交通システム〔1997 年版 交通運輸〕 環境上からも節エネルギー上からも化石燃料の節約、効率的利用は求められる。交通運輸部門では、一人当たり輸送効率の悪い自家用自動車から公共交通シス テムへのモーダルシフトが求められている。しかし、公共交通システムは、初期投資が大きく、需要が集約できて初めて効率的である。それゆえ幹線交通が主 たる整備対象になる。この幹線部分の高速化、大量化はもちろん、自動車の戸口から戸口への機能に限りなく近づけるフィダー(feeder、端末部分の)サービ ス、あるいは自家用自動車との組み合せシステムの構築が期待でもあり課題でもある。 ◆LRT(Light Rail Transit)〔1997 年版 交通運輸〕 わが国では軽快電車、ライトレール、次世代路面電車とよばれている。欧州では Light Rapid Transit の略とする都市もある。LRTのコンセプトは、かつて の路面電車に比べて高速性に優れており、都心部では駅間の短い低速運行で、車や歩行者と共存し、郊外部では郊外電車並の 50∼70 キロ/時で走る。これに 加えて低騒音・低振動、輸送力(時間当たり一万五○○○人の旅客輸送が可能)に優れ、地下鉄とバスの中間に位置する交通システムとしてヨーロッパを中心 に人気がでている。建設コストも低廉で、環境時代の都市交通として、にわかに注目を集めはじめた。そのうえ、電車の床が停留所と同じ平面の超低床車で、 お年寄りや車いすも乗り降りが簡単の福祉型でもある。したがって、スーパー市電とも呼ばれる。LRTの車両は、LRV(light rail vehicle)と呼ばれ、こ の呼称が使われる場合もある。わが国では、路面電車が生き残っている広島、長崎などを中心に、その普及・再生が進められている。 ◆バス運行制御システム〔1997 年版 交通運輸〕 路線バスの運行にコンピュータを導入し、だんご運転の解消を図るシステム。ふだんの運行状況、直前の走行データなどから自動的にダイヤを編成、変化する 到着予定時刻をバス停でデジタル表示する。 ◆バス・ロケーション・システム(bus location system)〔1997 年版 交通運輸〕 車両の走行位置をリアルタイムで把握し、停留所および営業所においてバスの運行状況を表示し、利用者利便の向上、運行管理の効率化を図るシステム。一九 八○(昭和五五)年ごろから試験的に導入されてきたが、鉄道なみのサービスを目指してより多くの路線に、採用される。 ◆ゾーン運賃制〔1997 年版 交通運輸〕 上限・下限のゾーン(幅)を設定し、その範囲内で複数の許可運賃が併存するタクシー運賃制度。幅運賃制ともいう。タクシー運賃は、初乗り運賃といわれる 基本料金と、それに走行距離と走行時間によって追加される料金とで構成される。さらに深夜早朝には割増料金が追加される。そして、 「同一地域・同一運賃」 制が原則で、運輸省の許可を必要とした。この運賃体系が長い間続いてきたが、「タクシー運賃が必ず同じ基準で統一される必要がない」との大阪地裁の判断 などから一九九三(平成五)年五月の運輸政策審議会の答申で自由化への道が開かれ、同一地域での幾通りかの運賃を認める多重運賃制が導入された。そして、 九六年のタクシー運賃・料金の決定方式の自由化策の提案になった。ほかに、平均的な事業者の標準原価を基に上限運賃を設定し、それ以下なら自動的に許可 する上限価格運賃制(プライスキヤップ制ともいう)などが考えられている。 ◆NAGT(新全自動化軌道交通機関)(New Automated Guideway Transit)〔1997 年版 交通運輸〕 最新のコンピュータ制御技術を応用し、比較的狭い範囲内の多様な短距離トリップをカバーする完全自動運転の新しい都市交通システムの総称。例としては、 GRT(Group Rapid Transit、中量高速交通機関)、PRT (Personal Rapid Transit、個別高速交通機関)などがあげられる。GRTは、小型バス程度の 大きさの乗り合いの車両が、複数ルートをもつ路線を柔軟に自動運行するシステム。PRTは、乗り合いをせず、個別乗車の小型車両がネットワーク状につく られた軌道上をタクシーのように乗客の要望に従い自動的に運行するシステム。NAGTは、車の抑制に代わる手段とされながら、採算、景観、および防犯上 の理由から空港内施設の連絡線以外の実現は見送られている。 ◆常磐新線法案〔1997 年版 交通運輸〕 正式名称は「大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法案」。この法案が、常磐新線(第二常磐ともいう)を念頭においてで きているための通称名。大都市地域の鉄道建設は地価高騰で建設しにくい。そこで、土地所有者が土地を持ち寄って住宅団地などを開発する土地区画整理事業 を適用し、鉄道や駅舎用地を道路と同じように優先的に安い価格で提供してもらう。鉄道や駅ができれば土地の値段も上がり、土地所有者の利益にもなる。地 方自治体も固定資産税などが増加となるので、助成などを行っても見合うという図式。なお、現在の私鉄の新線建設に対する国の補助金はP線方式、この常磐 新線への補助は、スーパーP線方式とよばれている。なお、P線のPは private。常盤新線は、東京・秋葉原から茨城・つくば市までの五八・三キロ、一九駅。 総事業費八○○○億。二○○○年の開業を目指し、九四年一○月に起工式が行われた。 ◆リニア地下鉄(linear metro)〔1997 年版 交通運輸〕 リニアモーター電車を用いた地下鉄。正式にはリニアモーター駆動小型地下鉄。また、LIM地下鉄あるいはリニアメトロともよぶ。リニアモーターカーは高 速性だけでなく、建設費、車両、電気設備、保安費の安価性、省エネ性、低騒音性、急こう配走行などの優れた特性をもつ。この特性に着目し、モノレールに 代わる都市の新しい交通システムとして注目されている。大阪市の京橋∼花博会場間全長五・二キロを結ぶリニア地下鉄は世界で初めて。東京都の「地下の山 手線」と称される都営一二号線でも採用が決まり、一九九二(平成四)年三月から一部開業した。全面開業は九七年。 ◆パーク・アンド・バスライド・システム〔1997 年版 交通運輸〕 インターチェンジ周辺に駐車場を設け、そこから高速バスに乗換えて目的地へ向かう方式。アメリカではオイルショック以来、一人乗り乗用車の削減を目指し、 HOV(High Occupancy Vehicle 高密度乗車車両)対策を行っている。特に、郊外のショッピングセンターの駐車場やインターチェンジの未利用地を使って 乗用車による集散とバスの大量性を組み合わせている。鉄道輸送の少ないアメリカでは、これもパーク・アンド・ライドとよんでいるが、わが国では鉄道利用 のパーク・アンド・ライドと区別して用いている。運輸省が実現を目指して東関東自動車道を利用して四街道市をモデルに検討を進めている。混雑の著しい鉄 道を補完するシステムとして全員がすわっていける高速バス通勤の導入は注目されている。問題は、都心部近くの道路混雑への対応と帰宅時間が不規則なわが 国の通勤事情に適するかという点である。前者は都心周辺の最寄駅でバスから鉄道にさらに乗り継ぐトリプル・モード・システム、後者は帰りの鉄道利用割引 制度など弾力的な都市交通の運用が図れれば、実現可能であり、その整備が急がれる。 ▲エコ交通〔1997 年版 交通運輸〕 振動、騒音、排気ガスの移動発生源としての交通機関はそのモビリティの便利さを抑えても環境重視の考え方が総論では大勢を占めはじめている。その技術的、 行政的努力は各交通機関およびその建設の中で続けられている。しかし、コストを考えると、ハードな対応だけでは難しく、その利用システム、あるいは抑制 システムといったソフトな対応が必要となる。この項の中には、前項の公共交通システムも含まれるが、交通機関技術としてのエコ化と交通システムとしての エコ化、および「エコ」名を付けた用語を集めてみた。 ◆窒素酸化物自動車排出総量削減法〔1997 年版 交通運輸〕 ディーゼル車から排出される窒素酸化物(NOx)の総量削減を目指した特別措置法。これまで車種別排ガス濃度を規制(単体規制)していたのに対し、単に 総量規制、NOx規制ともいう。トラック、バスの使用者にNOx排出の少ない車種の使用を義務づけるための排出基準を作り、NOx汚染のひどい大都市を 対象とした特定地域で基準不適合車の使用を制限する。また特定地域の一般、運輸事業に対し、関係省庁が電気自動車など低公害車の導入や共同配送システム を取り入れるなどの対策を求める。 ◆低公害車〔1997 年版 交通運輸〕 現行のガソリン車やディーゼル車に比べて、大気汚染あるいは地球温暖化物質といわれているCO2、NO、NOxなどの排出量が少ないメタノール、天然ガ ス、水素、電気、ソーラーなどを動力源とする自動車をいう。クリーンカーともいう。数年来の研究成果によってガソリン車の性能に近づき、実用実験段階に 入ってきたが、まだコストが高いこともあって、一般的な普及には時間を要するとみられている。しかし、一部公用車や集配車には採用が始まっている。都心 部あるいはリゾート地において低公害車しか走れない地域をつくり、これを少しずつふやしていくのが最も実用的だといわれている。そのシステム化としてI CVSやTULIPが提案されている。 ◆電気自動車(electric vehicle)〔1997 年版 交通運輸〕 電池をエネルギー源として走る車。略してEVあるいはEV車ともいう。ガソリン車に比べて走行距離、充電、最高速度などにまだ課題が残されているが、配 送車や、低公害の要求が強い工場内、リゾート地、公園内など限定された利用には十分耐えうるまで技術は上がってきている。公共団体で試用されているほか 補助金つきの電気自動車試用制度などができ、約二三○○台が登録され、実用化への腕だめしが行われている。ただ技術が上がってきても普及に最もネックと なるのは充電。充電ステーションの建設は、EV車の普及にとって不可欠である。そこで、地方自治体、電力会社、ガス会社などの駐車場をEV専用のパーキ ングとして、共同利用できるEVコミュニティ構想、あるエリアまで従来の交通機関を利用し、エリア内はすべてEV車を移動システムとするEVシティ構想、 原子力発電所の周辺市町村などにEV車を購入し、電池をカセット式にし、電池交換型EV車の利用構想を基本にもつEVビレッジ構想などが提案され、その 実現に向けて研究中である。 ◆ハイブリッドバス〔1997 年版 交通運輸〕 減速時の制動エネルギーを用いて充電し、加速時にエンジンを補助する機能をもつディーゼル・電気の両用エネルギーによるバス。東京や大阪の大都市のほか、 奥日光地区の観光地で試験的に運行している。CO、HC、NOx、黒煙いずれも少ない。ハイブリッド(hybrid)とはあいのこ、混成物の意。 ◆天然ガス車〔1997 年版 交通運輸〕 天然ガスを燃料とする車。天然ガス貯蔵運搬方式の違いにより圧縮天然ガス(Compressed Natural Gas CNG車)自動車のほかに液化天然ガス(Liquefied Natural Gas)自動車および活性炭等による吸着貯蔵天然ガス(Absorbed Natural Gas)自動車に分類される。この中でCNG車が世界的にみて主流である。 CNG車はNOx(窒素酸化物)だけでなく、SOx(硫黄酸化物)、一酸化炭素もほとんど排出しない低公害車。開発に取り組んでいた通産省と日本ガス協 会は、地方自治体に貸し出し、公道上でのテストを始めた。欧米各国ではすでに一○○万台以上、日本では八○○台が走っており、大気汚染対策として早急に 実用化すべく取り組んでいる。 ◆近未来型地域交通システム〔1997 年版 交通運輸〕 騒音や排気ガスの少ない、気持ちよく暮らせる町づくりのために、超小型の電気自動車や二輪車などを限定された地域の住民が共同で利用する本田技研工業が 研究開発中のシステム。ICVS〔Intelligent Community Vehicle System〕とも呼ばれる。ICVSは、駅やスーパーなどの目的地で乗り捨てれば、駐車中 に自動的に充電ができ、使いたい時に誰にでも使える。静かでクリーン、小さいボディにより駐車スペースの節約や渋滞緩和の役割も持ち、町づくり、特に歴 史的都市などへの導入が期待されている。使用される車両は、モーター搭載の自転車、実用電気スクーター、生活エリア用電気自動車、通勤通学用一人乗り電 気自動車など。 ◆チューリップ作戦(TULIP)〔1997 年版 交通運輸〕 フランスのプジョー・シトロエンが開発した乗り捨てコミューターと呼ばれる新しい都市交通システム。TULIPとは Transport Urbain Libre Individuel Public の略で、公共的乗り物でありながら、個人が自由に乗り回せる都市型交通との意。都市内に何カ所かのステーションを作り、それぞれにチューリップモ ービルと呼ぶ小型の電気自動車を数台ずつ配備する。年会費を払ってリモコン装置を受け取った利用者は登録した暗証番号を使って、リモコンで予約、ドアの 開閉、ハンドルロックの解除を行う。リモコンは携帯電話の機能をもち、交通情報も得られる。どのステーションでも乗り捨て可能。二人乗りで最高時速七五 キロ。一回の充電で六○キロの走行可能。使用料金は、日本円で約六四○円/時。フランス西部ツールで九七年から試験が開始される。 ◆超小型車〔1997 年版 交通運輸〕 省エネルギー、省スペース、低公害、リサイクルをコンセプトに運輸省交通安全公害研究所が一九九六(平成八)年度から四年がかりで開発に乗り出した超小 型マイカー。大きさは、軽自動車より「二まわりほど小さい」全長二・五メートル前後の二人乗り。乗車効率、駐車効率ともに悪いマイカーの欠点を克服する ために欧州の自動車メーカーでも開発中。二○○五年に試作車発表。二○一○年量産体制が目標。小さい車の課題の安全については、外側を硬く、内側を軟ら かくした「ナッツ(木の実)形式」のボディーが採用される。 ◆エコステーション〔1997 年版 交通運輸〕 環境対策の一つの柱は電気や圧縮天然ガス、メタノールなどクリーンエネルギーを使う自動車の普及である。エコステーションはこれら石油代替エネルギーの 自動車への供給所である。クリーンエネルギーの自動車を普及させるには、エコステーションの全国ネットの整備が必要。エコは て economy(経済)ではなく ecology(生態学)の略称。 ◆モーダルシフト(modal shift)〔1997 年版 利用交通機関(modal 交通運輸〕 輸送形態)間の転移(Shift)をいう。排出ガスの抑制あるいは運転手不足のため、トラックから鉄道、あるいは船に輸送モードを変え ること。しかし、末端輸送はトラック輸送に依存せざるを得ないので、協同一貫輸送が必要となる。協同一貫輸送の典型的な例としては船とトラックのフェリ ー輸送や鉄道とトラックのピギーバック輸送(piggyback transportation)などの組み合わせ輸送。また、コンテナやパレットを使用したひとまとめ輸送があ る。わが国では、このような協同一貫輸送ができる環境がまだ構築されていない。 ◆ノーマイカーデー〔1997 年版 交通運輸〕 大気汚染や、違法駐車、道路渋滞、交通事故などいっこうに改善されない自動車公害問題の解決の糸口として日を決めて不要不急の自動車利用を自粛する呼び かけ。東京都や周辺の県市で節車デーとして毎週水曜日をこの日にあてている。したがって、水曜カー規制あるいは水曜カー抑制ともよばれる。東京都の経過 報告では、水曜前後の火曜と木曜に交通量が増加しているなど効果ははかばかしくなく、その見直しが迫られている。 ◆交通アセスメント〔1997 年版 交通運輸〕 大型店などを建てた場合に付近の交通に及ぼす影響を事前に予測し、駐車場の拡大や道路沿い部分に駐車待機用の車線を作るなどの対策を講ずるための制度。 ある程度の規模の店舗や娯楽施設、オフィスビルなどを建設する場合、計画段階で完成後にどの程度の車の出入量があるかを予測し、その数値に基づいて対策 を検討する。具体的な対策は、自治体や建設省と、建設者が協議して決める。アセスメント(assessment)は環境などを事前に評価すること。 ◆エコロード〔1997 年版 交通運輸〕 生態系に配慮し、環境に対する影響を極力減らすべく設計された道路。道路建設によって、いわゆる「けものみち」が遮断され、生息地帯が分断されたり、小 動物が側溝に落ちて死亡するなど自然環境への影響が指摘された。そのため、動物たちが通るために道路下にトンネルや切り土部分でオーバーブリッジを設け たりしてけものみちをつくり、道路建設と生態系との調和を図ることを目的としている。生態学(ecology)のエコと道路(road)のロードを組み合わせた造 語。 ◆エコポート〔1997 年版 交通運輸〕 生物、生態系に配慮し、自然環境と共生した、アメニティ豊かな、環境への負荷の少ない総合的かつ計画的取組みを施し、将来世代への豊かな港湾環境の継承 を目指す港湾。環境共生港湾ともいう。一九九二年に設置された「港湾・海洋環境有識者懇談会」の提言と九三年一一月に制定された環境基本法の理念を踏ま えて九四年三月に策定された新たな港湾環境政策。港湾局長がモデル港(地区)を指定し、モデル事業の認定を行った上で、港湾環境インフラの総合的な整備 を重点的、先行的に行う事業。 ▲物流〔1997 年版 交通運輸〕 環境上、交通上における物流の持つ影響力は大きい。にもかかわらず物流の研究は少なく、行政対応窓口もよく分からない。一般的認識において、物流は大事 で規制を厳しくすると物価や経済活動に影響する(?)として道路交通においては寛大な(?)処置がとられ続けてきた。一方、物を運ぶ会社経営への規制は 厳しい。規制緩和が少しずつ進行しているが、まだ国際システムや社会システムとして物流を考えるには課題が多い。物流はこのような状況下にあるが、交通 運輸問題を考える時に大きなカギを握ることは確かである。 ◆コンソリデーション・システム(consolidation system)〔1997 年版 交通運輸〕 都市内でランダムに発生している雑貨の小口・短距離の配送を一定のルールに基づいて「結束化」「統合化」し、混載化して都市交通の緩和に寄与しようとい う地域共同集配送システム。わが国では、通産省が一九七三(昭和四八)年度に研究発表したが、集配は営業を兼務、コンソリデーションのためのデポ(depot、 荷物集荷所)が必要などの理由で、実現へ向けての研究さえ行われなかった。しかし、昨今の交通事情、運転手不足などから再開発地域などへの導入に検討の 価値があるとして、にわかに浮上してきている。 ◆地下物流システム〔1997 年版 交通運輸〕 都市の地下空間を利用して都市内貨物輸送を行うシステム。都市内の小口貨物の輸送をトラックから代替することを目的としており、労働力、環境、道路混雑 等の面で、その効果が期待されている。建設省の構想では、地下専用レーンでは電気モーターで誘導、各端末からはトラック自体のエンジンで移動できる「デ ュアル・モード・トラック」方式による方法を検討している。しかし、都心部のターミナル建設には検討しなければならない課題も多い。 ◆トラックタイム・プラン〔1997 年版 交通運輸〕 これまで道路上に設置されたパーキング・メーターのスペースを集配時間帯は貨物車に利用させるシステムの実験計画。警視庁の指揮の下、東京日本橋繊維問 屋街で九四年六月から実験を開始。午前七時から一○時まで、午後四時三○分から七時までを貨物車による集配時間帯、午前一○時から午後四時三○分までを 乗用車専用の時間帯とし、道路空間を二次元利用(デュアル・ユース、dual use)させ、道路混雑の解消と駐車スペースの確保が狙い。乗用車専用時間帯は従 来どおり有料、貨物専用時間帯は集配貨物車ステッカー掲出制度を導入して無料。トラック業界は大歓迎だが、地元商店は、時間帯によっては自社あるいは顧 客の駐車がままならないための不服はあるが、地元の自主管理と物流業界の協力、行政の進行役が、うまくかみ合って成功するか注目されている。 ◆ポケット・ローディング・システム(pocket loading system)〔1997 年版 交通運輸〕 ポケット・ローディングとは、二∼三台程度の路外に設置された貨物の積みおろしスペースのこと。再開発事業等で狭小の余剰区画を利用してのミニ公園をポ ケット・パークとよんでいるが、ポケット・ローディングはこれの貨物の積みおろし版。ただし、ポケット・ローディングの対象スペースは、再開発などの余 剰区画だけでなく、公民館など公共施設あるいは民間施設の専用駐車場、および月極駐車場。これらの一部を利用して、おおむね一○○メートル以内の間隔で 設置し、地区あるいは都市の単位でネットワーク化して、利用状況の情報提供あるいは次の移動先への予約システムを付加したものをポケット・ローディング・ システムという。タイヤロック駐車装置(駐車区画内にストッパーをとりつけパーキングメーターと連動して、規定の駐車時間を超えると自動的にせり上がっ て、車が移動できる装置)を用いることで自動取締りが可能で、路外で貨物の積みおろしができる。一つ一つは小規模な施設だが都市単位でネットワーク化で きることから公共的施設として取り扱うことができる。特に路線型商業地あるいは五・五メートル以下の道路の多い地区で特に有効。また、住宅地など一般に 時間貸し駐車場のない場所では、パーキング用を付加あるいは時間帯による併用をすればなお有効に機能する。東京都の板橋区と練馬区で駐車施設整備基本計 画に折り込まれている。 ◆テクノスーパーライナー〔1997 年版 交通運輸〕 ガスタービン・エンジンを動力源とし、ジェット水流の力で時速九三キロ以上で航行する超高速貨物船。計画によると、航続距離は九三○キロ、貨物積載量は 約一○○○トン、普通のコンテナ船の二・五倍のスピードをもつため、中国、台湾、韓国とは一日輸送圏になる。そのため海のハイウェイあるいは海の新幹線 とよばれる。運輸省では造船各社と共同で開発を進めており、実験船での最終的な総合実験に入った。九四年七月から全国三三港に寄港し、荷物積み込みなど のデータを集めている。実験船「飛翔(ひしょう)」は全長七○メートル、全幅一八・六メートルで実船の二分の一の大きさ。速力は時速一○○キロで、空気 の圧力で船体を浮かし、水の抵抗を少なくする気圧式複合支持船。今後、航海実験を経て、一九九八年度末の実用化を目指すが、技術面ではメドがたったもの の高い船価・燃費と帰り荷の集約などの課題が残されている。ほかに、水中翼船タイプの実験船の「疾風(はやて)」もある。tecno(技術 tecnology の略)、super (超越)と liner(定期船)を組み合わせた造語。略してTSLともよぶ。 ◆オムニトラックス〔1997 年版 交通運輸〕 通信衛星による輸送情報サービスのシステム。走行中の車両と本部を衛星で結び、双方向の通信ができる。したがって、走行中のトラックにターミナルへの立 ち寄りなどの指示が自由にでき、積載率の向上のほか緊急出荷された荷物などこれまで臨時便で対応してきた分の節約が可能と期待されており、トラック輸送 の品質保証には欠かせないシステムとなりつつある。オムニ(omni)とは「全」とか「総」の意で、乗合バス(omnibus)のトラック版。 ▲ITS〔1997 年版 交通運輸〕 安全、渋滞、環境、エネルギー浪費のいずれをとっても現代の自動車交通は極めて原始的な野蛮な代物と称されている。ITSすなわち道路交通のインテリジ ェント化は、近代的な通信技術や情報処理技術を取り入れた車と道路のインテリジェント化とドライバー援助システムによる安全、円滑、快適な次世代知的道 路情報システムの構築で、道路交通革命ともいわれる技術的挑戦である。ITSはその総称として用いられる用語である。ITS略語一覧にその全貌をみるこ とができ、主たる用語に解説を加えた。 ◆高度道路交通システム〔1997 年版 交通運輸〕 最先端の情報通信技術により、道路交通情報の提供、自動運転、料金の自動収受などにより実現する道路交通システム。次世代道路交通システム、知的道路情 報システム、インテリジェント交通システムなどとも呼ばれる。アメリカでは、IVHS、欧州ではドライブ、プロメテウス、日本ではARTSなど類似のシ ステムの開発をしてきていたが、ITSの名称で国際会議が開催されるようになり、ITSが一般的、総称的名称になった。ITSの開発は、第二世代の道路 交通と呼ばれ、二一世紀初頭にかけて大部分が実現、実用化されていくことが予想されている。そのため、車載機器をはじめ、情報発進機器など五○兆円の新 しい産業や市場の創出が見込まれている。そのために国際標準づくりの主導権を握れるかがカギとなる。欧州ではECとして道路交通総合管理システムの開発 に着手、アメリカも一九九一年に成立したISTEAにハイウェーでの完全自動システムのプロトタイプ(量産のための試作品)を導入することを明記し、産 官学で組織する「ITS AMERICA」は九六年に基本システムを作り終え、それぞれ用いた基準を国際基準にしたい考えを示している。これに、カーナ ビゲーションの開発で欧米を一歩リードした日本が加わって主導権争いは一段と熾烈になってきている。 ◆プロメテウス(PROMETHEUS)計画〔1997 年版 交通運輸〕 一九八五年の欧州閣僚会議で合意された欧州先端技術共同研究計画「ユーレカ(EURECA)計画」の一環として、事故防止、燃費向上、輸送率向上、運転 者の負担軽減、環境汚染の軽減を目的とした自動車中心のインフラ開発計画。ベンツ、ボルボ、BMWなど自動車メーカー一四社を主体に、推進されている。 ◆ARTS/次世代道路交通システム〔1997 年版 交通運輸〕 アメリカのITS、ヨーロッパのプロメテウス、ドライブ計画と同様に、わが国における道路と車のリアルタイムの双方向通信等により、安全で輸送効率が高 く、快適な道路交通を道路と車が一体化して実現をはかることを目的として計画が提案されている。将来的には、自動運転システム、最適経路案内システム、 および高度運行システムをめざしている。このARTSを支える技術としてVICS、AHSS、ATESがある。 ◆AHSS/道路安全システム〔1997 年版 交通運輸〕 路外逸脱防止システム、衝突防止システム、路面状況警戒システム、道路構造警戒システム、事故通報システムなどの総称。システムの最終目標は、自動運転 システムであるが、例えば衝突回避機能は追突(車間距離)だけでなく、側面や出会い頭などの衝突まで含めると、まだその道は遠い。しかし、人系、車系、 道系の三者がよりよい関係になるためには車のインテリジェント化は必要である。そのため、機能のステップアップで対応していくことが重要で、現段階はワ ーニング(ブザーなどによる警告)、続いてワーニングと自動制御(ブレーキの場合)およびワーニングと自動操舵(ハンドルの場合)、そして最後は自動運転 になる。 ◆ATES/輸送効率化システム〔1997 年版 交通運輸〕 高度運行を目指したシステムで高密運行システム、トラック・バス運行管理システム、料金自動徴収システムの総称。車両間隔を小さくして、かつ安全な運行 を無人化によって実現を目指す高密度運行システム、車両ID技術などを用いて道路上を走る個別の車両を把握することによって最適経路で管理できるトラッ ク・バス運行管理システム、料金自動徴収システムなどの開発が進んでいる。 ◆路車間情報システム〔1997 年版 交通運輸〕 道路沿いに、一定間隔に設置された情報通信基地ビーコン(beacon)の電波を自動車のマイコンがキャッチ、車の現在位置や経路誘導(ナビゲーション navigation)を画面表示して、目的地までの最短経路情報を提供するなどのシステム。ほかに渋滞、工事、給油施設、サービスエリアの内容、駐車情報などを 知る交通情報およびデータサービス、基地との個別通信機能の設置などの機能拡大を目指している。これらの実用化実験を東京都心部で繰り返している。 ◆VICS/道路交通情報通信システム〔1997 年版 交通運輸〕 極超短波やマイクロ波などの電波を利用し、走行中の運転席わきの画面で前方の道路形態や混雑具合などが確認できる一般自動車用道路情報システムで、建設 省、警察庁、郵政省の三省庁が協力して進めている。車載ディスプレイ装置からリアルタイムに道路情報を提供するなど、道路交通状況、最適経路誘導、目的 地や駐車場などの道路案内、走行中の車両位置や路線名の確認といった情報を路上に設置したビーコン等から送信、道路交通の高速情報化を促進させる計画で ある。かつて、建設省がRACSを、警察庁がAMTICS(アムティックス)を独自に進めてきたが、これに郵政省を加えてVICSとして統合し、一九九 一(平成三)年一○月には、VICS推進協議会(民間の任意団体)も組織された。九六年四月から首都圏および東名・名神高速道路全線でスタートした。 ◆UTMS〔1997 年版 交通運輸〕 新交通管理システムと呼ぶ。光センサーの双方向通信機能により、交通情報をきめ細かく収集し、かつ提供することにより、交通流を総合的に管理し、 「安全、 快適にして環境に優しい車社会」を実現するためのシステム。特徴は、高度化された情報収集と提供の機能を生かして、車両との対話型双方向通信システムを 取り入れ、ITCS、AMIS、DRGS、PTPS、MOCS、およびEPMSの六つのサブシステムで構成されている。警察庁指導の下、UTMS推進協 議会が一九九三年から研究開発を始め、九四年七月に横浜でデモ実験を行った。今後はVICSに併せて実用化することが検討されている。 ◆SSVS〔1997 年版 交通運輸〕 スーパースマートビークルシステムと和製英語でカナガキを使っているが、長いので通常SSVSの略称が用いられる。電子技術情報処理技術、通信技術等を 駆使して、危険検知・回避技術、運転支援技術、交通輸送制御技術等を総合的に発展させ、実効道路容量の増大、高度な輸送サービスと安全要求への対応、高 齢化社会のイメージオペレーション化等を同時に目指すシステム。クルマ社会の健全化、高度化を目的に、具体的には、 (1)車間通信を利用して、情報交換、 意思疎通を図る協調走行システム、(2)超小型車システム、(3)緊急回避等積極的運転システム、(4)交差点の通信設備の充電とそれから情報を入手する 高知能交差点システム、(5)インテリジェント物流情報システム等の提案を行い、二○∼三○年後を目途にこれらのシステム開発を進めている。九○年から 通産省主導で、(財)自動車走行電子技術協会で検討している。 ◆アティス/ATIS(交通情報サービス)〔1997 年版 交通運輸〕 警視庁の交通情報をタクシーや運送会社に、リアルタイムで有料提供するシステム名。第三セクター方式で会社を設立、警視庁交通管制システムと連動して、 事故発生地点や通行規制区間などの交通情報をパソコン通信などで提供するシステムで、全国初の試み。この情報収集によって渋滞地域を避けた効率的な配車、 運行計画がつくられることが期待されている。将来的には一般家庭や自動車などへの提供の拡大が見込まれている。 ◆AVMシステム(車両位置等自動表示システム)〔1997 年版 交通運輸〕 車両の位置や空車の情報を、無線を使って自動的に把握し各地に散らばっているタクシーを効率的に配車するシステム。地域ごとに設置したサインポスト(分 散送信局)が位置情報を特定の周波数で常時送り出し、ポストの地域内に入ったタクシーは、位置情報をキャッチすると同時に、位置情報と車両番号、空車か どうかの情報を基地局に発信、基地局と公衆回線で結ばれた配車指令室のコンピュータが検索し、配車指定場所の近くにいる空車タクシーの車両番号を表示す る。したがって、利用者に車両番号がすぐに知らされ、待ち時間が少なくなるほかに、タクシーの運転手も配車呼び出しを待つ必要がなく、配車も公平にでき、 無線配車を待つ無駄な走りが必要なくなった。また、このような移動体と外部との情報交換が行えるトラック運送業におけるシステムをMCA(Multi Channel Access)という。 ◆VERTIS(Vehicle Road and Traffic Intelligence Society)〔1997 年版 交通運輸〕 道路・交通・車両インテリジェント化推進協議会の略称。道路・交通・車両のインテリジェント化に関連して、大学、研究機関、企業等、推進省庁の違いから 類似の課題を競争して、独自に研究しているきらいがあった。しかし、技術的にはある一定レベルまで達したので、これからは協力して行こうということで、 警察庁、通産省、運輸省、郵政省および建設省の五省庁が協力できる仕組みとして一九九四年に設けたものである。 ◆ASV/先進安全自動車(Advanced Safety Vehicle)〔1997 年版 交通運輸〕 エレクトロニクス技術の応用により自動車を知能化し、ドライバーが運転する車としての安全性を格段に高め、事故予防、被害軽減に役立たせる目的で開発さ れる自動車。ハイテク安全車ともいう。九一年から運輸省に設置されたASV推進検討会で研究開発が進められ、九六年参加九メーカーの試作車が披露された。 二一世紀初頭の実用化がねらい。ASVが目指す安全対策は、予防安全、事故回避対策、衝突時の被害軽減、衝突後の災害拡大防止である。 ◆ノンストップ料金自動徴収システム〔1997 年版 交通運輸〕 車を止めずに通行料金の支払いができるシステム。ロードカードシステムともいう。有料道路の料金所が渋滞のボトルネックになるケースが多く、この解消に 頭を悩ませている。建設省では第一一次道路整備五カ年計画を受けて道路技術五カ年計画をまとめたが、これが開発の目玉。このシテスムはあらかじめバック ミラーの裏などにICカードを挿入した発進装置を取り付けておく。自動車が有料道路に入る際、アンテナの横を通過するだけで瞬時に道路管理者側の電算機 と交信し、積載したICカードにどの入り口を使ったかを記録する。出口でも同様の交信を行い距離に応じた料金が確定する仕組みになっている。別名「ワイ ヤレスカード」ともよばれる。一九九四(平成六)年、論議を呼んだ首都高速の料金値上げもこのシステムの導入によって短区間の料金を安く設定できるなど 早い実現化へ期待が寄せられている。 ▲交通運用管理〔1997 年版 交通運輸〕 交通渋滞問題を抱える自治体は多い。特に、五○万人以下の中小都市は自動車に依存する率は高い。これらの都市は、新たに道路を整備することも軌道系の公 共交通機関を整備することもままならない。そこでは、既存の道路空間をいかに有効に使い、その空間を利用する交通の合理化策に知恵を絞るしかない。それ でも対応しきれない場合は、交通需要のコントロールまで踏み込まなければならない。 ◆ゾーンシステム〔1997 年版 交通運輸〕 正確にはトラフィック・ゾーン・システム。都心部を数個のゾーン(zone)に分け、互いのゾーンへの自動車交通の行き帰りを禁じた交通システム。歩行者や 市電・バスなどの公共交通を優遇し、自動車利用の抑制や歩行空間の確保による都心の交通秩序化を求めるとともに都心域の活性化を推進することを狙いとし ている。典型例は一九七○年に導入したスウェーデンのイエテボリ。欧州各都市で類似のシステムを採用している。 ◆ゾーン 30〔1997 年版 交通運輸〕 時速三○キロメートル以下の速度規制を実施している地区。幹線道路は多くの交通量を高速にさばくことを目的とする一方、非幹線道路では速度を抑え、歩行 者の安全を確保して歩行者と自動車の共存を目指している。自動車交通の自由性は人類が勝ち得た最大の機械文明であるが、交通事故や交通公害などのマイナ ス面も大きい。そこで車の機能を発揮できる区間と車のマイナス面を小さくする区間との使い分けをすることが車社会を維持できる最大のポイントと考えての 策である。ゾーン 30 では幹線道路から非幹線道路へはスピードを落して流入するよう非幹線道路からは飛び出さないよう出入口を絞るとか、地区内はハンプ (hump=路面の部分的な盛り上げ舗装)、シケイン(chicane=クランクやスラローム型による車道の蛇行)、ボラード(bollards=柱状の車止め)などの工夫 で車の速度を抑制してある。ドイツでは法制化され、わが国でも導入の検討が求められている。 ◆コミュニティ・ゾーン〔1997 年版 交通運輸〕 生活の場の安全確保の施策として、交通規制やハンプ等の物理的なデバイスとの適切な組み合わせによる安全で快適な道路環境づくり手法。第六次交通安全施 設等整備事業五カ年計画の事業計画の一つで、本格的な高齢社会に備えての新しい交通安全対策として、一九九六(平成八)年四月より発足した。過去に、ス クールゾーン規制、生活ゾーン交通規制など面的な交通対策が実施されてきたが、コミュニティ・ゾーンが本格的な面(地区)交通管理として定着するかどう か注目されている。 ◆リバーシブル・レーン(reversible lane)〔1997 年版 交通運輸〕 一日のうちの時間帯により、車両の通行方向を切り換えて使う車線。可逆車線ともいう。奇数車線がとれる幅員をもつ道路で、朝夕の需要に合せて上下線の通 行を逆転させる方式で、欧州では古くから採用されていた。警視庁交通部では一九九四年四月から渋滞の激しかった隅田川の永代橋で時間帯によって五車線の うち中央の一車線の通行を逆転させる方法をとった。中央車線の切り換え時の混乱を防ぐために、センターラインを光らせたり、車線ごとに○ 式の信号機を 設けたりする工夫をしている。 ◆バスレーン(bus lane)〔1997 年版 交通運輸〕 バスの定時運行を確保するために、区間や時間帯を限って、バス専用あるいはバス優先に指定された車線。客を乗せたタクシー、一定人数以上が乗っている乗 用車(HOV)のバスレーン走行を認める場合もある。バス専用レーン(exclusive bus lane)は、路線バス等が独占して使用し得る車線をいう。バス専用線、 バス専用通行帯ともいう。 バス優先レーン(bus priority lane)は、路線バス等が他車両に優先して使用し得る車線。バス優先車線、バス優先通行帯ともい う。また、広幅員道路での一方通行で逆方向へバスレーンだけ認める場合を、バス逆行レーン(リバーシブル・レーン)という。これらの策は道路幅員の狭い わが国でこれまであまり効果を上げていなかったが、交通渋滞、環境対策の一環として自家用車の削減が必要である。 ◆右折矢印信号〔1997 年版 交通運輸〕 右折専用レーンに溜った車を捌くために、赤信号の時でも右方向を指す補助の矢印信号(青矢ともいう)を点灯させる。この矢印の付いている信号機のこと。 これまで赤信号に矢印が点灯した後、すぐに赤に変わっていたが、まじめなドライバーは急ブレーキをかけるので追突の心配があり、赤でもつっ走るドライバ ーの場合、交差道路からフライングする車との錯綜の問題があった。そこで、青矢の後に再び黄を入れるパターンを使う場合が生まれた。これはカーブして交 差点に接近した場合、はじめの黄か後の黄かの区別が難しく、交差部への進入に逡巡があった。いずれにしても長短があって地元の警察に運用が任せられてい た。しかし、ばらつきがあるのも事故原因の一つだとして「青→黄→赤+矢印→黄→赤」に統一するよう警察庁は各県警察本部に指示を出した。 ◆ゴールド免許〔1997 年版 交通運輸〕 正確にはゴールドカード運転免許証。運転免許証の有効期間中に無事故、無違反であった優良運転者に、次の更新期間を五年に延長するメリット制度が導入さ れた運転免許証。ねらいは、ゴールド免許というアメを与えることで安全意識の向上を誘発することにある。同時に若者の事故に対しては教習課程の強化、高 齢者の事故に対しては運動機能検査や講習の義務化というムチが加えられた。また、最初の免許を取った人用は若葉免許(黄緑色)として区別した。これに現 行の有効期間三年の一般用免許は青色とした。この免許制度が三種の色分けになったことから、免許証色分け制ともよばれている。一九九四(平成六)年の五 月から実施された。 ◆レッドルート〔1997 年版 交通運輸〕 ロンドンやパリの市内幹線での駐停車禁止規制が実施されている路線。路側帯が赤でひかれている所からこうよばれている。一九九一年一月からロンドン北部 のルートA1の全長一二・五キロの区間で実験的に実施されている。その規制内容は、(1)終日駐停車禁止区間(赤色二本線と標識で表示)、(2)時間帯を 限定した駐停車禁止区間(赤色一本と標識で表示)。 (3)表示された時間帯の荷さばき駐車を除く時間帯限定駐停車禁止区間(赤色点線の駐車スペースと標識 で表示)、(4)短時間に限定した駐車可能区間(白線点線の駐車スペースと標識で表示)の四区間からなる。 パリでは、道路・広場下の駐車場整備が終了した区間から順次駐停車禁止規制をし、同じくレッドルートとよんでいる。この規制で最外側線の駐車車両を排除 できラッシュ時にバス専用車線を導入した。貨物の積みおろしのための駐車スペースはレッドルートに結合する街路の入口から一一メートル分が手当てされて いる。 ◆レッド・ゾーン〔1997 年版 交通運輸〕 交通流への影響の大きい交差点付近において駐停車禁止をドライバーに強く訴えるために交差点から約三○メートル区間の路側帯を赤色にぬると同時に立看 板をたて、ドライバーの自発的な違法駐車の抑止気運を促す交通管理の方法。警視庁が東京靖国通り・専大前交差点から須田町交差点までの六交差点で一九九 三年八月から実験中。レッド・ゾーンの導入で路上駐車が全くなくなったわけではないが、タクシー等の乗降など停車に分類できる短時間駐車に限られてきて おり、効果はでているとみられている。しかし、この方策を拡大しても罰則等がないため問題も多く、ローディングゾーンやタクシーの乗降区間の設置などと 合わせて実施することが求められている。 ◆交通需要マネジメント(transportation demand management)〔1997 年版 交通運輸〕 これまで道路交通円滑化の施策のために、交通容量の拡大を図ってきた。しかし、増加し続ける需要に対応できなくなってきたので、交通需要を抑制する施策 が必要となった。しかし、ただ単に抑制するだけでは国民生活に支障をきたすので、車の利用の仕方や生活の工夫によって自動車交通量を削減する方法で道路 交通を管理していくことを交通需要マネジメントという。具体的には相乗り制度や効率的な物流システムを構築することで交通量を削減したり、時差通勤によ って交通需要を平準化することをいう。アメリカではTDMの略称でよばれている。 ◆バンプール〔1997 年版 交通運輸〕 会社が購入したバンの運転者を社員から公募して同じ地域に住む通勤者を相乗りさせるシステム。運転者は副収入を得、同乗者は通勤費の節約ができ、会社は 自動車交通量を削減することで社会貢献ができる。アメリカの3Mではじめたのが最初。第二次オイルショック後、カーター政権時代の節エネの交通対策の一 つとしてとり上げられ、普及した。バン(van)の本来の意は有蓋貨物運搬車で、これを数人から二○人程度の旅客用に改造した。マイカーに相乗りするもの をカープールという。自治体等で義務化され、HOVレーンの運用やカープール車等の優先駐車場の設置など都市交通政策の後押しがあって、車社会の通勤交 通として定着してきた。 ◆HOVレーン〔1997 年版 交通運輸〕 多人数乗車車両レーン。複数、できるだけ多人数が乗り込んだ車をHOV(High Occupancy Vehicle)という。このHOVだけが走れるレーンのこと。通勤時 の自動車交通量を削減するために相乗り車を奨励し、その後押しとしての交通政策の一つ。車線数の多いアメリカの大都市での交通政策ならではの策ともいえ る。 ◆フレックス週休二日制〔1997 年版 交通運輸〕 週休二日のうち、一日を土曜日に特定せず他の曜日に会社内で振り分け、通勤交通需要を分散させようとするシステム。国際交通安全学会の提言によるもので、 平均的に休日分散ができれば、通勤交通需要は、一六・九%減少し、ゴルフなどの施設も安価に有効利用できるとしている。東京都心では、完全週休二日制(全 ての土日休み)が八九%まで進んでおり、土曜日のラッシュ交通需要は激減している。交通施設の有効利用の面からも有効なシステムである。官公庁および全 ての企業の足並みが揃えば実施可能性は高い。 ◆ロード・プライシング(road pricing)〔1997 年版 交通運輸〕 混雑する道路施設をさらに効率的に利用するという観点から混雑税(congestion tax)あるいは混雑料金(congestion charges)を課す道路料金制度。この考え 方を世に広めたのは一九六四年のスミード・レポート(イギリス)。最近では、混雑対策だけでなく、自動車公害の発生源対策のひとつとして自動車使用状況 に応じて発生する社会的限界費用に対応した料金を課し、自動車利用者の交通行動を社会的に望ましい方向に誘導することもできるとして再び注目されはじめ た。これまでは七五年にシンガポールで、朝のピーク時間帯に都心部へ流入する車に特別な乗り入れ許可証を購入させた地域ライセンス制(area licensing scheme)を実施している。現在はプリペイド式のERP(電子式道路料金制 Electronic Road Pricing)システム導入の検討をしている。また、オスロ(九○ 年導入)などノルウェーの三都市ではトールリング(Toll Ring)と呼ばれる自動車から都心流入料金を徴収し、交通施設整備の財源とするシステムを導入して いる。 ◆時差通勤通学推進計画〔1997 年版 交通運輸〕 時差出勤とは地域あるいは会社内で出勤時間を転移させて通勤ピークを崩そうとする方法。大都市圏での深刻な鉄道の通勤・通学混雑を緩和するために、総務 庁など一八省庁で構成する交通対策本部がまとめた推進計画。一九九六(平成八)年から五カ年間で一五∼二○%の混雑率の緩和を目標に置いてある。他に、 フレックス週休二日制や混雑していない時間帯の運賃を割安にする時差回数券の普及が盛り込まれている。 ▲空の安全〔1997 年版 交通運輸〕 スピード時代に航空交通の活躍はいうまでもない。しかし、航空交通の大衆化によって、需要が著しく伸び、広いと思っていた大空の空間も航空機の離発着す る地域ではそれほど広くないことがだんだん分かってきた。そこで、観測・情報技術を駆使して高密度な運用を強いられ、その安全の保障が重要な課題となっ てきた。本項では、このように空の安全のために開発されたシステム、装置、技術およびその関連用語をまとめてみた。 ◆FANS(Future Air Navigation Systems)〔1997 年版 交通運輸〕 将来の航空航法システムのこと。航空管制の及ばない洋上でも、人工衛星を使って飛行機の正確な位置を知ることができるシステム。空中衝突を避けるために は、同一高度なら前後一五分(約二五○キロ)の間隔が必要と国際基準で定められており、九州くらいの広さに一機しか運航できない。そこで、アメリカの周 回衛星GPSから飛行機が電波を受け、位置や高度を計算して、別の多目的衛星を介して、地上の管制施設に五分ごとの自動データを送信。誤差はほとんどな く、あたかもレーダーのように管制できる。これを使えば飛行間隔は五分まで短縮可能。日本では世界に先駆けて一九九六(平成八)年四月から試験運用に入 った。 ◆航空交通流管理センター(フロー・コントロール・センター)〔1997 年版 交通運輸〕 全国の航空交通流を一元的に制御するための管理センター。運輸省の計画では、一五分後や三○分後の空港や航空路の交通量を予測し、航空路の迂回や出発機 の地上待機などの指示である。 現在の空港の整備が一九九○年代の中葉にほぼ完了するが、この時の民間航空の定期便の大幅増加に対応するための計画である。 当初は航空交通システムセンターとして、コンピュータを利用した航空業務を進めるためのソフトウェアの開発などを行う「開発評価」と、地震などの大規模 災害や、テロ攻撃などで主要空港や管制施設が破壊された事態に対応する「危機管理」の機能も合わせたセンターにするべく準備が進められている。 ◆GPS(Global Positioning System)〔1997 年版 交通運輸〕 人工衛星の発信した電波を捉え、緯度や経度など位置を検出する全地球航空測位システム。GPSはアメリカが開発したシステムで、ほかにロシアのGLON ASS(グラナス)がある。双方とも地球周回軌道に打ち上げた衛星群のうち、三個の衛星から電波を同時に受信することで二次元の位置が瞬時にわかる。四 個の衛星を使えば、飛行高度を含む三次元の位置も正確に測定できる。目的地まで自動操縦ができる現行のINS(Inertial Navigation System 慣性航法装 置)に比べ、誤差は最大で一○○分の一から一○○○分の一の高精度。 ◆ASDE(アズデ/空港探知装置)(Airport Surface Detecting equipment)〔1997 年版 交通運輸〕 空港地表面の交通情報を監視するための高解像度のレーダー施設。空港面探知レーダー、あるいは地上監視レーダーとよんでいる。滑走路、誘導路、エプロン がレーダースコープに記入されており、この図上に航空機や車両の動きが映し出される。霧などで視界が悪くなると、空港管制官がASDEを活用して空港内 を移動する航空機や車両に適切な指示を与え、安全を守る。わが国では霧の発生の多い成田と羽田、大阪、名古屋の四空港に設置されている。 ◆MLS方式(Microwave Landing System)〔1997 年版 交通運輸〕 マイクロ波着陸装置のこと。進入経路を自由に設定できるマイクロ波を用いた、航空機の進入から着陸までを誘導する装置。これまでは、一本の直線ルートし か使えない計器着陸装置(ILS方式 Instrument Landing System)誘導方式を用いていた。これがMLS方式に変わると、誘導ルートは上下、左右方向に 帯のように広げた誘導電波帯の中から選べる。したがって、この方式を用いると、住宅密集地上空を避けた着陸による騒音の軽減、着陸の能率アップ、電波の 乱れの少ないルートへの誘導、積雪の影響の解消などの効果が期待できる。 ◆FMS‐ACARS〔1997 年版 交通運輸〕 第四世代機といわれているMD‐11 に搭載されている安全な航空交通を目指した空地データ通信のナビゲーションシステム。B767 はFMS、B747‐400 は ACRSが就航時にそれぞれ実用化されている。FMS(Flight Management System)は、空港・滑走路、ウェイポイント、エアポイントなどの情報を有し、 これらを基に離陸速度や最適巡航速度などの自動計算ができるというもので、離陸から着陸までの全飛行領域にわたる操縦・推力調整などの自動化システム。 一方、ACARS(Aircraft Communications & Addressing Reporting System エーカーズ)は空地データ通信の機上側の装置。ACARSはデジタルデ ータをVHF、あるいは衛星通信システムで送受信することができる。 この搭載で、気象データやノータムなど安全運航に必要な情報を送信することができ、機上からはパイロットによる送信のほかに、ACARSに接続された航 空機内の様々なセンサーからの情報によって、現在位置をはじめ刻々と変化する飛行中の航空機の状態を自動的に地上に知らせることができる。 ◆ACAS(航空機衝突防止装置)(Airborne Collision Avoidance System)〔1997 年版 交通運輸〕 航空機に搭載された装置の相互間で電波信号をやりとりすることにより、衝突の危険の生ずる可能性のある航空機の接近を検知し、その航空機の位置と安全な 回避方向をパイロットに知らせるシステム。 ◆ウインド・シアー(wind shear)〔1997 年版 交通運輸〕 短い距離で起こる風向、風速(いずれか一方あるいは両方)の突然の変化をいう。温暖な空気の流れが、冷たい凪(な)いだ空気の上を通過して行くときには、 二つの空気の境界に典型的なシアー・ゾーンが形成されるが、詳しいメカニズムはわかっていない。日本エアシステムが旅客機に検知システムを搭載して実測 した結果では、事故例の多いアメリカより国内の発生率が三○倍も高いことがわかった。ウインド・シアー警報システムは機体に取り付けた速度センサーで周 囲の風の強さを探知、急変動状態が二秒程度続くと、ウインド・シアーが発生したとしてパイロットに回避指示などを出す。一九九一年からアメリカ国籍の飛 行機は義務づけられている。日本ではその規定はないが、同システムの導入を航空各社が自主的に進めている。空港側の対策として、風に流される雨粒やほこ りに電波を照射、反射電波を受信して、風の状態を調べるドップラーレーダー(doppler rader)の利用が有望視されている。 ◆コンプレッサ・ストール(compressor stall)〔1997 年版 交通運輸〕 圧縮機失速という。飛行機の主翼の迎え角がある限度を越すと失速をおこし、揚力は激減して抗力が増大するようになるが、これと同様なことが主翼を小型化 したと考えられる圧縮機のごく限られたせまい範囲に発生する場合をいう。一九九四(平成六)年四月に名古屋空港で起きた中華航空機事故で、機首の急激な 上昇が起きたことから、エンジンに流入する空気が不足し、出力低下や異常燃焼などの原因となるコンプレッサ・ストールが発生したのではないかという仮説 の下に原因究明がなされている。 ◆ゴー・アラウンド(go around)〔1997 年版 交通運輸〕 着陸復行という。着陸進入の航空機が、管制塔からの指示、気象不良、進入高度不良等の理由から着陸を断念し、再上昇して着陸をやり直すこと。一九九四(平 成六)年四月の中華航空機事故では、着陸やり直しに使うゴーレバーが入ったためにコースから上方へそれ始め、その直後から、操縦室が自動制御機器の操作 をめぐって混乱、最終的には機体がバランスを失って墜落したといわれている。事故機のエアバスA300‐68Rはエンジン推力レバーの内側に二本のゴーレバ ーがあり、着陸態勢時にどちらかを押すと作動し、エンジン推力が自動的に上昇、操縦系統のコンピュータが「着陸やり直しモード」に切り替わる。自動操縦 スイッチがオンになっていると、完全自動で着陸やりなおしに入る。そのため、この事故では、機首を下げようとする副操縦士の操作に対し、コンピュータに 制御された水平尾翼は上昇を維持しようと機首を上げ方向で反発したため、パイロットコントロールができなかった。このようにコンピュータ制御が進んだハ イテク機と人間の操作の関係が、事故原因の解明の焦点となる一方、機体の設計思想に論議が及んでいる。 ▲車と道路〔1997 年版 交通運輸〕 圏央道初の区間開通、全容を見せた東京湾横断道路、東京湾口道路の経済効果調査。東京周辺のこの一年間の道路整備に関する報道。全国各ブロックでも同じ ように道路整備が進んでいる。車両は、車間距離警報装置システム、フードエアバッグ(ボンネットの上に出るエアバッグ)システム、居眠り運転等警報シス テムなど二一世紀の安全車目指して試作品が完成し商品化も間近になってきている。一方、シートベルトを着用しておれば生存率四割以上、あるいは携帯電話 使用中の事故など運転者のモラルと危険な車のマルチメディア化が問われている。人・車・道の各システムが一つのシステムになって快適・快速・安全なドラ イブの完成は誰もが望むことである。技術の進歩に合わせて二一世紀のドライバーのためには、家庭・学校における新たな教育システムの構築が必要である。 ◆希望番号制〔1997 年版 交通運輸〕 車の登録の際に、希望のナンバーを申請し、空きがあれば可能な範囲で好きなアルファベットや数字の組み合わせができる制度。希望ナンバー制、選択ナンバ ー制ともいう。増え続ける登録車への対応策として、車種を示す分類番号の二ケタから三ケタ化に対応できるシステムが完成し、車のナンバープレート(四ケ タ番号部分)を登録順から希望番号制に変更することが可能になった。陸運局は一九九八(平成一○)年春をめどに新規登録者に限り導入する準備を進めてい る。 ◆ユーザー車検〔1997 年版 交通運輸〕 いわゆる車検とは、道路運送車両法の「継続検査」のこと。安全な走行ができるためにブレーキランプ、サイドスリップ、排ガスなどの検査が義務づけられて いる。この検査の手段が複雑なことや車検のための点検整備事業をすることができるのは自動車整備士の資格を持つ技術者のいる認定工場に限られる。このよ うに車検代行に委託する車検に対し、ユーザー自ら車検場とよばれる運輸省の陸運支局や自動車検査登録事務所へ出向いて継続検査を受けることをユーザー車 検と呼称している。ちなみに、アメリカは州によって異なり車検のない州も八州ある。イギリスは初回は三年目で、その後は毎年、フランスは初回が四年、二 回目からは二年ごと。 ◆高速自動車国道(national expressway)〔1997 年版 交通運輸〕 自動車の高速交通の用に供する道路で、道路法による道路分類の一つ。日本道路公団が建設管理する有料道路。一九六五(昭和四○)年七月に開通した小牧∼ 西宮間の、名神高速道路が最初。国土開発幹線自動車道(national development arterial expressway)の建設法では、全国の都市、農村からおおむね二時間 以内で到達できることを目標に三二路線、約七六○○キロが定められている。九六年三月末現在までに五九三○キロを供用。高速道路ではないが、国の道路整 備計画に基づいて都市内にネットをもつ自動車専用道路に首都高速道路、阪神高速道路などがある。 ◆斜張橋(cable-stayed bridge)〔1997 年版 交通運輸〕 橋梁上の塔から、斜めに直線上に張られたケーブルによって、桁を支間の中間でつった橋梁形式。都市に建設される道路は、その機能だけでなく構造物自体の 美観も求められる。特に、市街地のみの道路を対象にしている首都高速道路では、この点に神経を使い、これからの建設予定地には斜張橋の優雅な姿をたっぷ り見せようとしている。 一九八七(昭和六二)年秋開通した葛飾江戸川線に架かるのはS字形曲線斜張橋で愛称を「かつしかハーブ橋」として地元になじんでもらえるようにした。ま た、九四年一二月に完成した高速湾岸線(四期)の横浜市大黒埠頭と扇島を結ぶ鶴見つばさ橋は橋長一○二○メートル、主径間長五一○メートルの世界最大の 斜張橋になった。 ◆立体道路制度〔1997 年版 交通運輸〕 道路建設予定地で再開発がなされる場合、新築のビルや低層部などに区分地上権などを取得、ここに道路を通すことができる制度。これまでの道路建設は用地 の所有権を取得することを原則に行われてきたが、道路とビルが一体的に建設できるこの制度は、地権者が細分化している地域、騒音問題などで沿道住民が反 対している地域で有効であるとみられている。ベルリンのシュランゲンバター通り沿いのアウトバーンを包み込んだ住宅が最初。わが国でも外環道和光ICと 大泉IC(練馬区)間の道路上に住都公団が住宅団地を建設した。また、首都高速道路一号上野線二期分の高架下に住宅を入れる計画が進んでいる。 ◆ポインタープロジェクト(POINTER)(Positioning and Orientating Information for Traffic en Route)〔1997 年版 交通運輸〕 一九八二(昭和五七)年四月に道路サービス高度化懇談会から提言された道路案内システム。路線番号、標識、キロポスト、地図の連動によるユーザーのため のわかりやすい道路案内システムを内容としている。このシステムを高速道路、国道、県道を対象に実施していく予定となっている。 ◆PI方式〔1997 年版 交通運輸〕 パブリック・インボルブメント【Public Involvement】方式のこと。住民参加手法の一つとして計画策定段階で幅広く意見を聞く機会を設けて、道路の新たな 長期計画に反映させる方式。現行の第一一次道路整備五カ年計画は一九九七(平成九)年度に終わるため九八年度から始まる新計画にこの方式をとり入れ、多 様化する国民ニーズを道路づくりに反映させるのが目的。例えば、「渋滞の解消」や「情報通信技術と交通」などのテーマを選定し、このテーマに関するデー タや図表、いろいろな立場の人の意見を紹介し、これらを参考に自由な提案を募集する。九一年に制定されたアメリカの総合陸上輸送効率化法の中に採用され た手法。 ◆第二東名/第二名神〔1997 年版 交通運輸〕 東京∼大阪間の高速道路の交通需要の増大への対応と、二一世紀の高速交通体系の基幹路線としての位置づけによって建設される第二東海自動車道(第二東名) と近畿自動車道(第二名神)の通称。横浜市∼愛知県東海市(二九○キロ)、愛知県飛鳥村∼神戸市(一六五キロ)の二路線に、すでに着工中の伊勢湾岸道路、 未定の東京∼横浜間で構成される。両路線とも全線六車線(片側三車線)、設計速度一四○キロ。その他主要な道路構造は、一車線三・七五メートル(現行は 三・五メートル)、道路幅三五∼三六メートル(現行は三○メートル)、勾配一○○○分の二(現行は一○○○分の四)に格上げされる。開通は二○○○年の見 込み。 ◆高規格道路〔1997 年版 交通運輸〕 高速で走れるような幾何線形、アクセスコントロール(access control 道路への出入をインターチェンジ、あるいは信号交差点に制限すること)、照明整備な どの基準をもった道路のこと。高速道路とよばれている国土開発幹線自動車道はもちろん高規格道路ではあるが、次のような定義をして高速道路と区別してい る。すなわち、一般道路よりは高い基準だが従来の高速道路と比べて車線数の減少や制限速度のダウンした自動車専用道のこと。高速道路網の計画は当初一万 四○○○キロであったが、採算の見込みがたたないなど大幅に計画が遅れている。そのため、四全総の全国一日行動圏構想をバックアップするためには国土開 発幹線自動車道を補完する新たな高速道路、ここでいう高規格道路が必要となり約二三○○キロメートルが計画されている。一九九六(平成八)年三月現在、 国土開発幹線自動車道を除く供用区間は本四架線(一○八キロ)を含めて六三五キロ。 ◆東京湾横断道〔1997 年版 交通運輸〕 東京湾をはさんで東京都に隣接する神奈川県川崎市と千葉県木更津市の間一五・一キロを結ぶ一般有料道路。川崎市川崎区浮島町から九・一キロは直径一三・ 九メートルの二本の海底トンネルを掘り、木更津中島から四・四キロは長大橋を架ける。このトンネルと橋を結ぶため六・五ヘクタールの人工島を、さらにト ンネル区間の中央部にも換気施設用の小さな人工島をつくる。当面は片側二車線、将来はさらに一本のトンネルを掘り、計六車線にする計画。設計速度は八○ キロ。したがってこの道路を利用すると、横浜∼木更津間が五○分(現在は陸路で三時間一七分)、東京∼木更津間が五三分(同二時間二五分)になる。通行 料は五○五○円程度になる見込み。一九八九(平成一)年五月に起工式が行われ、開通は九七年度内。総工費は約一兆四三八四億円。日本道路公団と県、民間 企業などが出資している第三セクターの「東京湾横断道路株式会社」が建設を担当。 ◆外環道〔1997 年版 交通運輸〕 東京外郭環状道路の略称。通称は外環。東京都大田区から市川市に至る八五キロの環状道路。併設の国道二九八号や植樹帯などを含めた幅員は六○メートル。 このルートは、一都三県の住宅密集地を通るので環境問題を理由に約二○年間住民の反対運動が続いている。しかし、東京にとっては都心を通過する車を減ら す重要な道路であり、外周県にとっては主要な高速道路へのアクセスルートである。したがって、一方ではその建設が急がれていた。外環の構造は標準区間が 六二メートルの幅員の四○メートル分を、植樹帯、地域生活道路、歩道にあてている。一九九二(平成四)年に和光市から三郷市までの二六・七キロメートル が開通。九四年三月には常磐自動車道と関越自動車道がつながった。難航している市川や練馬地区でも立体道路制度の導入が可能となり解決の方向がみえてき た。 ◆圏央道〔1997 年版 交通運輸〕 首都圏中央連絡自動車道の略称。都心から放射状に延びている東名、中央、関越、東北、常磐、東関東の各高速道路を四、五○キロで、また東京湾岸、東京湾 横断道と結ぶ環状高速道路。東京圏の多極分散型への改造と、交通混雑緩和のための国土庁提唱による基幹プロジェクト。路線は一都四県にまたがり、総延長 二七○キロ。一期工事分は、関越から中央までの埼玉県部分五○キロ。そのうち埼玉県入間市から鶴ケ島町の関越自動車道までの約一九・八キロは九六年開通。 全線にわたる供用開始は二○一○年から一五年の間、総事業費は三兆円と想定されている。 ◆明石大橋〔1997 年版 交通運輸〕 本州四国連絡道路神戸・鳴門ルートの北半分に当たる明石海峡を渡す長大橋。正式には明石海峡大橋。全長三九一○メートル、ケーブルが支える二本の主塔の 間隔が一九九○メートルで、完成すれば世界最長のつり橋となる。一九八七(昭和六二)年、建設が本格的にスタートした。完成予定は九八年で、二一世紀の 幕開けに間に合う。まさに二一世紀への夢のかけ橋である。 ◆本四架橋〔1997 年版 交通運輸〕 本州と四国を橋で結ぶ神戸∼鳴門、児島∼坂出、尾道∼今治の三ルートの総称。石油ショック後三ルートの同時着工を凍結していたが、一九七五(昭和五○) 年から再開。このうち大三島橋(三二八メートル)が七九年五月、因島大橋(一三三九メートル)が八三年一二月、大鳴門橋(一七二九メートル)が八五年六 月、伯方(はかた)∼大島大橋(伯方橋部分三三四メートル)が八八年一月に開通した。そして、八八年四月に瀬戸大橋が完成し、児島∼坂出間(道路部三七・ 三キロ、鉄道部三二・四キロ)が開通、本州と四国が陸続きとなった。さらに、明石海峡大橋と来島大橋(第一大橋九九メートル、第二大橋一四九○メートル、 第三大橋一六五○メートル)が着工の運びとなり、完成に一歩近づいた。 ◆道の駅〔1997 年版 交通運輸〕 パーキング・オアシス(parking oasis 造語)ともいう。一般道路に設けられた高速道路のパーキングエリアのような休憩施設。駐車場、休憩所、トイレを設 置するだけでなく、近所で採れた野菜やお惣菜、地域の特産品の販売所をつくり、さらに周辺の市町村情報や観光情報の提供を行う。交通の中心となった道路 に地域情報の基地を設けるとともに地域の人と運転者の交流なども図れれば、ムラおこしにつながるとして岐阜県の市町村で始まった。全国的に設置熱を帯び てきたこともあって建設省も本格的に取り組むことになった。 ◆エアバッグ(air bag)〔1997 年版 交通運輸〕 衝突時、前方からの強い衝撃をセンサー装置が感知してバッグ内に高圧ガスを自動的に注入、膨らんだバッグが人の顔面を自動的に受け止める装置のこと。交 通事故対策には決め手がなく、衝突事故からドライバーや同乗者を守るこの装置は、これまで上級車のオプションによる装備が中心であったが、最近は大衆車 にも標準装備される気運が生まれてきた。また、歩行者と衝突した場合、頭部をフロントフードに打ち付けるのを防ぐためのフードエアバッグシステムも開発 されている。なお、アメリカではエアバッグと自動シートベルトなど自動防御装置の装備が乗用車、軽トラック、ミニバンなどの九○年型車から義務づけられ ている。一方で、助手席の幼児の圧迫死が増加し、エアバッグの危険性も指摘され、正しい使用法の啓発運動が始まった。 ◆アンチロックブレーキシステム(ABS)(Anti-Lock Brake System)〔1997 年版 交通運輸〕 急制動時または滑りやすい路面における制動時に発生する車輪のロック現象(車輪の回転が止まり、自動車が路面を滑走する現象)を防止する装置。車輪の回 転を検出しながらコンピュータによってブレーキの効きを自動制御してロックを防止する結果、制動距離の短縮、姿勢安定性の確保および操縦性が向上する。 すでに一部に実現されているが、値段的にも性能的にも一般に普及するにはもう数年を必要としている。トヨタ、日産とも二○○○年を目標に標準装備化する 方針。 ◆交通整備公団〔1997 年版 交通運輸〕 船舶整備公団と鉄道整備基金の二法人統合構想の仮称。この二法人は、資金源や援助方法、対象業界が全く異なるため、統合効果が薄いとされている。そこで、 「陸海空でバランスのとれた交通体系整備を目指す」とする観点から運輸省は、さらに離島航路や地方バスへの援助金交付を新たに加えるよう検討中。実現す れば、地方の中小交通機関を総合的に整備できると期待されている。 ◆駐車施設整備基本計画〔1997 年版 交通運輸〕 各市町村が、駐車問題の現況およびそれを踏まえた市町村の駐車対策についての基本方針を定め、駐車施設の整備推進方策を明らかにする計画。バブル時代に 起きた駐車問題は、駐車場不足に原因ありとし、駐車場建設の補助、融資をはじめ国営駐車場が建設できるまでに駐車場整備のための制度は確立した。一方、 都市サイドにおいてはむやみに駐車場建設がなされても困ることから、各市町村の実態と上位計画の将来的推移を念頭に効果的かつ適切に駐車施設の整備を計 画している。今回の諸規則の改正に伴い駐車施設整備計画を定めたのは名古屋市が最初。東京では足立区が一九九二(平成四)年六月に定めたのが最初。 ◆車庫法〔1997 年版 交通運輸〕 一九六二(昭和三七)年に制定された自動車の保管場所の確保等に関する法律のこと。自動車の保有にあたって保管場所を確保すること(車庫の確保義務)を 義務づけ、同一場所に一二時間以上駐車することや夜間八時間以上駐車すること(青空駐車)を禁止した。車の保有にあたっては警察による車庫証明を必要と し、これを車庫証明制度という。この制度は、増加する車のねぐら確保の方法として諸外国から評価されているが、折からの駐車場不足と激増する車保有から 諸々の駐車問題を提起してきた。これに対応すべく、警察庁では九一(平成三)年七月から、 (1)車庫の所在地は二キロ以内、 (2)車庫証明を受けた車にス テッカー(保管場所標章)を貼る、(3)軽自動車にも車庫証明制度を導入等の改正車庫法を施行した。軽自動車の車庫確保義務づけは、九六年一月から人口 三○万人以上の市などにも拡大する。 ◆駐車場案内・誘導システム〔1997 年版 交通運輸〕 商業・業務地、あるいは観光地などに訪ねる客を、駐車場の場所まで標示板によって案内あるいは誘導するシステム。案内システムは対象地区あるいは対象駐 車場までの案内。一方、誘導システムは駐車場の「空き」情報によって掲示駐車場までの車の誘導。最近では、駐車場の入出庫状況を自動的に把握し、コンピ ュータで計算して、道路上の標示板に掲示できるようになった。したがって、利用者が便利になる一方、駐車場の有効利用が図られ、さらに交通管制システム とリンクさせれば地区の交通渋滞の解消にもなる。東京・新宿地区に一九九三年四月導入された。 ◆付置義務駐車場〔1997 年版 交通運輸〕 地方公共団体は、三○○○平方メートル以上の建築物を新築、もしくは増築しようとする者に対して駐車場を合わせて設置するよう義務づけることができる。 このような駐車場を付置義務駐車場という。都市部での駐車場不足を解消するため、建設省では「付置義務」を強化する方針を打ち出し、対象としていた付置 義務対象建築物を一○○○∼一五○○平方メートル程度に引き下げる一方、一台当たりの駐車所要面積を二・五メートル 六メートルから二・三メートル 五 メートルに縮小した。しかし、問題は付置義務の対象にならない中小雑居ビルと一世帯六○平方メートル程度の大規模住宅である。前者はいくつかのビルをま とめて共同の駐車場をつくり、所有者から負担金を徴収し、自治体も交えて整備する共同駐車場制度を、後者は世帯数に合わせた駐車台数を義務づけること等 を行政指導している。 ◆車輪止め〔1997 年版 交通運輸〕 違法駐車車両のタイヤを固定する装置。右前輪を二本の金属パイプで挟み、カギ付きの鎖でがっちり固定する仕組み。警察官が持っている合いカギがないとは ずせない構造になっているため、違反者は必ず出頭せねばならないので、とり逃すことがない。一九九四(平成六)年スタートした改正道路交通法の目玉。ロ ンドンで数年前からはじめており、この名称をとってクランプ(clamp ▲鉄軌道〔1997 年版 締め金の意)ともいう。 交通運輸〕 早いもので、国鉄からJRに変わって一○年が過ぎた。「お客第一」「地域密着」をスローガンにJR各社は取り組んできたが、その成果は如何。目立つのは、 スピード化と人員削減。リニアの研究を続ける一方で、在来線をリニアのスピードに近づける。鉄道のスピード化に夢を追う不思議な努力にしかみえない。J R創設当初は、客サービスへの努力は認められたが、今では元に戻ってしまった。道路交通渋滞解消のために地方都市の公共交通システムの根幹として機能で きないか。そのために、駐輪場や駐車場にスペースを提供できないか。等々の巷(ちまた)の声も受け入れた鉄軌道システムの構築が期待される。 ◆新幹線鉄道〔1997 年版 交通運輸〕 日本の主要都市を結ぶ、標準軌間(レールの内幅一四三五ミリメートル)のJR超高速鉄道。東海道新幹線は一九六四年一○月、東京オリンピックの開催に合 わせ、最高時速二○○キロを常時維持して、東京∼新大阪を約三時間で結ぶ世界最高速の鉄道として華々しく開業した。その後、山陽新幹線の建設に着手し(六 六年一一月)、七二年三月に新大阪∼岡山間を開業、七五年三月には博多まで全通。当初六時間四○分の東京∼博多間は、八六年秋のダイヤ改正では、時速二 二○キロ運転を実現して五時間五九分で、六時間を切った。八二年六月に東北新幹線、一一月に上越新幹線が大宮発で暫定開業し、八五年三月両新幹線が上野 に接続し、九一年六月には、東京∼上野間がつながった。また、九二(平成四)年三月からは、時速二七○キロで、低騒音の「のぞみ」が登場し、東京∼新大 阪間が二時間三○分、東京∼博多間が五時間四分となった。 ◆整備新幹線〔1997 年版 交通運輸〕 一九七三(昭和四八)年にできた全国新幹線鉄道整備法に基づいて建設される路線のうち次期建設候補をいう。国鉄の経営危機を理由に七七年から工事を凍結 していたが、八七年に凍結解除。この時、区間ごとに優先順位を決め、青森∼札幌、盛岡∼青森、高崎∼富山∼大阪、福岡∼長崎、福岡∼鹿児島が新幹線整備 五線と呼ばれる。並行在来線問題、財源の問題などで着工が遅れていたが、九一(平成三)年の予算で当面の合意がなされた。その内容は、高崎∼長野、石動 (富山)∼金沢、糸魚川∼魚津、盛岡∼青森、八代∼西鹿児島の三線五区間が九二年度から本格着工。残る未着工区間の着工順位や負担割合は未定で、既着工 区間の建設費膨張で財源問題まで生じてきた。着工区間の建設費の負担割合は、JR五○%、国三五%、地元一五%。 ◆ミニ新幹線〔1997 年版 交通運輸〕 既存の在来線を活用して新幹線を乗り入れようとするプロジェクトの愛称。正式には「新幹線直行特急」。軌道は新幹線と同じ標準軌道(一四三五ミリメート ル)を用い、車両高は在来線に合わせた三・五三五メートル。スピードは、新幹線区間が最高時速二四○キロ、新線区間が一三○キロ。なお、一九九一(平成 三)年の走行実験で時速三三六キロを記録した。建設費は線路などの改造と車両製作費で新幹線の一○分の一。福島∼山形間(山形ミニ新幹線)が九二年七月 開通。まだ、安全面に課題を残しているものの運輸省は採算面、お客の満足度などからこの山形新幹線方式が有効との評価を下している。 ◆300X〔1997 年版 交通運輸〕 300X新幹線、300X試験車両、あるいは次世代新幹線とも呼ばれる。JR東海が既存の新幹線方式で、最新最良の高速鉄道システムのあり方を追求するための 試験車両。この車両は試験のみを目的とした純粋な試験車で、一般の営業用車両とはかなり異なる仕様となっており、九四年二月から走行試験が開始した。九 五年九月には時速三五四・一キロを記録、四○○キロ台を目指している。公開試験運転でも時速三五一・四キロを記録した。台車車軸三・○メートル(現行二・ 五メートル)軽量車両、車体を支える空気ばねの高さ一・七メートル(一・○メートル)の主要性能規格を変えて、乗り心地改善、空気抵抗、集電、ブレーキ 性能などの高速車両として性能試験を行っていく。 ◆スーパーひかり〔1997 年版 交通運輸〕 新幹線と同じ軌道幅をもつフランス国鉄のTGVや、イギリス国鉄のAPT(Advanced Passenger Train ロンドン∼グラスゴー間、最高時速二五○キロ)計 画に刺激され、輸送能力(定員)よりスピードを前面に打ち出し、軽量・小型化を進めてスピードアップを図る次世代新幹線車両(三○○系)。一九九一(平 成三)年二月の実験では、時速三二五・七キロを達成、九二年三月から東京∼新大阪間が約二時間半で結ばれた。さらに、JR西日本ではWIN350 を開発中 で、八四年の実車実験で時速三○○キロを記録、九六年度中に時速三○○キロの営業運転を目指している。また、JR東日本ではSTAR21 を開発中で、目標 最高時速四三○キロ、営業時速三○○キロ。高速テストで四二五キロ、世界第二位を達成。 ちなみに一位はTGVの五一五キロ、三位はICEの四○六キロ。 ◆高速特急〔1997 年版 交通運輸〕 JR西日本で、大阪から北陸線を通り、上越新幹線の越後湯沢に至る新ルートで時速一六○キロ運行される新型高速特急。現在の在来線特急は、曲率(カーブ) 半径や踏切通過などの安全面から、最高速度が一三○キロに抑えられている。計画ルート上の湖西線と北陸北線はカーブの少ない高架線のため一六○キロ運転 が可能。将来は、整備新幹線ルート北陸本線も使用できるのでほぼ全線にわたり時速一六○キロ運転が可能となる。使用される車両は、軽量化の進んだ「ニュ ー雷鳥」が有力で、一九九七年から運行開始の見込み。 ◆ストアードフェアカードシステム〔1997 年版 交通運輸〕 磁気カードを直接自動改札機に挿入し、利用料金を差し引くシステム。運賃自動引き落としカードシステムともいう。JR共通のオレンジカードなどのプリペ イドカードは小銭のやりとりが不要という便利さはあるが、カードで直接に乗れず、他の民鉄、営団、市営などのカードは使えないという不便さがある。そこ で、第一ステップはJR東日本のイオカードのように直接自動改札を通ることができるものを各鉄道会社共通に使えるようにしようとするもの。第二ステップ は共通なストアードフェアカード。利用できる乗り物をバスやタクシー、さらに定期券や割引券、乗り物以外のサービスにまで広げるシステムへの拡張である。 横浜市では、一九九二(平成四)年三月より地下鉄とバスに共通で利用できるストアードフェアカードを発行。stored(貯える)、fare(運賃)、card(券)の 合成語。 ◆ミューカード(mu-card)〔1997 年版 交通運輸〕 無線を用いた非接触式のIC(集積回路)カード。(財)鉄道総合研究所が、定期入れに入れたまま自動改札機の案内板にかざすだけで通過できるIC利用の 無線式カード定期券と新型改札機の開発に成功。ストアードフェアカードの一種で、開発されたカードは四○○キロヘルツ前後の中波方式を取り入れ、改札機 入り口のカードの読み取りをする案内板に三○センチぐらいの距離でかざすと、○・二秒という瞬時に約一メートル離れた出口の標示板が「セーフ」なら緑色、 「アウト」なら赤色で示す。偽造防止のため、ICがカード内に組み込まれ、通過駅と通過時間を記憶するのでキセル防止にもなる。現在研究所の職員が、タ イムカードや図書館の閲覧カードに使って耐久性を実験中。正式名称が長いので、ギリシャ語のμの英語綴りで、マイクロエレクトロニクスのマイクロ、また 無線のムを掛けた愛称名で紹介されている。 ◆キセル乗車防止システム〔1997 年版 交通運輸〕 例えば、両端の一区間ずつ正規の切符を使用し、中間は切符を持たない不正乗車を、吸口とたばこの詰め口とを金具を使い、途中は竹筒を使ったキセルに模し てキセル乗車という。このキセル乗車を防止するシステム。一九六七年に阪急が初めて自動改札機を導入して以来、券売機の自動化など駅業務の自動化システ ムが開発されてきたが、キセル乗車防止システムは懸案であった。ところが九四年九月に一枚の定期券を複数のお客さんが連続使用することの防止システムと、 入場券で入場後、二時間経過後は出場不可となるシステムの開発に成功した。そして昨年秋には、定期券での降車時に、入場情報がない場合は出場不可となる システムが導入された。このシステムの愛称をフェアライドシステム(fair ride system ◆車間距離自動調整システム〔1997 年版 正しくご乗車いただくためのシステム)という。 交通運輸〕 各電車に搭載したコンピュータが、前の電車との距離を基に走行スピードを自動制御し、これまでの車間距離を短くする方式。従来の鉄道運行システムは、閉 そく区間(一定ゾーン)に一列車が原則で、一つの閉そく区間内に複数の電車を絶対に入れないATSやATCなどによる速度の集中制御であった。新システ ムでは、閉そく区間を撤廃し、沿線の地上局から、前の列車との距離を無線情報で受信し、それに基づいて走行速度や制動地点などを判断し、各列車が自動運 転を行う。このシステムだと理論上は前の列車とすれすれまで近づくことも可能。駅での停車もあり後続列車が数珠つなぎになることなどを考慮しても山手線 では一分半ほどの間隔で運転でき、通勤ラッシュ解消の切札と期待されている。ただ、実現までにはもう少し時間を要する。 ◆CTC(列車集中制御装置)(Centralized Train Control)〔1997 年版 交通運輸〕 各駅での列車の発着を指示する信号取扱装置、ポイントの切り替え装置、列車位置の表示装置などをキーステーションの指令室にまとめ、線区の列車の位置と 進路の状態を監視しながら列車の運行を一括管理制御する装置。CTCと組み合わせて列車の進路制御の自動化をより積極的に進めたものをPRC (Programmed Route Control)という。類似のシステムとして、都営地下鉄のITC(Integrated Traffic Control)、新幹線のCOMTRAC(コムトラック computer aided traffic control system)などがある。 ◆列車間隔制御〔1997 年版 交通運輸〕 列車運転を安全に保つために、列車間隔を自動的に制御すること。安全運転は、信号、軌道、車両の設備と、運転士の運転環境などが総合的にかかわってくる。 最終的には運転士の判断にゆだねられるが、列車の運転が高速度、高密度になってくると運転士の負担が増加してくる。そのために列車間隔を自動的に制御す る次の三つの装置がある。(1)自動列車停止装置(ATS Automatic Train Stop) 列車が停止信号機に接近したとき、地上からの制御信号により、運転 室内に警報で運転士に注意をうながし、自動的にブレーキが動作して列車を停止信号機の手前に停止させる装置、 (2)自動列車制御装置(ATC Train Control) Automatic 信号が示す制限速度を超えたら、自動的にブレーキを動作して列車速度を下げ、制限速度以下になったらブレーキを緩める装置、(3)自動 列車運転装置(ATO Automatic Train Operation)多段階の速度信号および速度条件に従って、列車を自動的に加減速制御する装置。 ◆ATS‐P〔1997 年版 交通運輸〕 従来のATSは、停止を指示している信号機に接近すると警報を発し、必要なブレーキ操作が行われないと非常ブレーキがかかる。しかし、運転士が信号を確 認してATSを解除した後は防護機能がなくなるという弱点を持ったシステム。そこで、運転士へのバックアップとしての機能のため運転士自身の判断が必要 となる。それをさらに抜本的に低減しようとしたシステム。すなわち、地上より受信した先行列車の速度と距離情報の出力や速度パターンに応じたブレーキ動 作を行うことができる。なお、Pは車上パターンの意。 ◆スラブ式路床〔1997 年版 交通運輸〕 slab)を敷きつめた路床。鉄道の路床はバラスト(砕石 ballast)を敷きつめていたが、高速化に伴い砂利をはね上げる事故が 平らなコンクリート板(スラブ 起きた。山陽、東北、上越の新幹線はすでにスラブ式を採用しているが、最も古い新幹線はバラスト式。スラブ式は、バラスト式の二∼三倍の建設費がかかる が、走行時の揺れは少なく、通常の保守管理作業が大幅に省力化される。ただ騒音は二∼三ホン上がるといわれている。保線要員の不足と事故防止のため、東 海道新幹線も一兆二○○○億円かかるスラブ式に全線敷き替える予定。 ◆リニアモーターカー(linear motor car)〔1997 年版 交通運輸〕 車輪を用いた鉄道では時速三○○キロが限度といわれ、より高速をねらって研究開発されている次世代の鉄道。リニアモーターとは、通常の回転モーターを線 状(linear)にしたもので、無限大の半径をもつ回転モーターと考えられ、回転部分がないために騒音、振動、故障等がほとんど生じない長所をもつ。これを 推進力としたものが、リニアモーターカーである。 車体の支持は、車輪のかわりにエアークッション、あるいは磁気を用いて浮上するのが一般的で、正式には磁気浮上式リニアモーターカー、あるいはリニアモ ーターカー・マグレブという。磁気浮上方式には磁石の吸引力を利用した吸引式(HSST、トランスピッド)と、反発力を利用した反発式(MLUに代表さ れるJR超伝導方式)がある。 ◆リニアモーターカー・マグレブ〔1997 年版 交通運輸〕 国鉄から(財)鉄道総合研究所が引き継いで開発中の超電導磁石を応用した磁気浮上式リニアモーターカー。JRリニア、単にマグレブともよばれている。目 標は時速五○○キロ。実験車ML500 は、一九七九(昭和五四)年一二月、時速五一七キロを記録(陸上交通の世界最高)。その後ガイドレールを逆T字型か らU字型に改造し、八○年末から乗客スペースのある新型の「MLU001」試験車で浮上実験走行を行い、八三年には時速二○三キロ、八七年には四○○・八 キロの有人浮上走行に成功した。八七年からは、実験用と営業用の中間に当たる四四人乗りの車両MLU002 による実験に移り、九五年一月には有人走行で四 一一キロの有人浮上式鉄道では最高速度を記録した。MLは Magnetic Levitation(磁気浮上)の略でUは軌道がU字型のためにつけられた。 ◆リニア中央新幹線(The linear Chuo Shinkansen Project)〔1997 年版 交通運輸〕 リニアエキスプレス、中央リニアエキスプレスともいう。リニア中央新幹線構想は、全国新幹線整備法に基づく基本計画路線である。中央新幹線を時速五○○ キロで走行する高速・安全かつ低公害の超電導磁気式リニアモーターカーにより実現し、東京‐名古屋‐大阪間を約一時間で結ぶものである。輸送力が限界に 近づき、老朽化が進む東海道新幹線のバイパスあるいは災害時の危険分散としての必要性とともに、中央線が整備新幹線構想から離れたこともあってJR東海、 地元の政財界では熱心に取り組んでいる。理想的には、東京‐名古屋‐大阪の三駅を高速で結ぶことであるが、リニア実験線の活用、採算性などを考慮して、 ルートについての地形、地質の調査を進めている。特に、大島地震や伊豆地震のぼっ発は、建設の促進剤となってきている。 ◆リニア新実験線〔1997 年版 交通運輸〕 リニアモーターカーの実用化のための実験線ルートに指定された山梨県秋山村∼境川村間四二・八キロ区間をいう。したがって、リニア山梨実験線ともいう。 これまで宮崎に実験線ルートがあったが、時速五五○キロ以上の高速走行実験を長区間で実験する必要性がでてきた。そのため高速トンネル突入実験、高速す れ違い試験あるいは耐久試験を行う計画のため、八、九割がトンネル部分となっている。将来中央リニア新幹線に転用される予定。九四年、先行工事区間(一 八・四キロ)の朝日トンネルが貫通、残りの九鬼、初狩など四本のトンネルも九五年に完成し、実験走行は九七年四月に予定されている。また、MLXO1形 と呼ばれるくちばし頭の「のぞみ」より一まわり小さい試験車も完成し、九九年度中には実用化できるかどうか判断する模様。 ◆トランスラッピッド(transrapid)〔1997 年版 交通運輸〕 ドイツで開発中のリニアモーターカー。トランスラッピッド社で研究開発しているところから一般にこの名でよばれる。時速四○○∼五○○キロの乗り物とし てドイツのエムスランドにある延長三二キロの両端がループ状のテストコースで走行実験を重ねている。 一九八五年の有人実験で時速三五五キロを出し、八八年一月には時速四一二キロを、九三年には四五二キロを記録。実用化段階に入り、時速四二○キロでベル リン・ハンブルク約二九○キロを結ぶことが決まった。実現の目標は二○○五年。 ◆HSST(High Speed Surface Transport)〔1997 年版 交通運輸〕 日本航空が開発中の超電導磁気吸引浮上式リニアモーターカー。英文を訳して高速地表輸送機関ともいう。都市内交通用HSST‐一○○(最高時速一三○キ ロ)、都市圏交通用HSST‐二○○(二三○キロ)、都市間交通用HSST‐三○○(三五○キロ)の三タイプで開発を進めている。低速領域では、一九八五 (昭和六○)年の「つくば科学博」、八六年の「バンクーバー交通博」、八八年の「埼玉博」、さらに八九年の「横浜博」でそれぞれ成功を収めた。そして、名 鉄の築港支線(大江∼東名古屋港)に分岐線(八○メートル)をもつ実験線(約一・五キロ)を建設し、実用化に向けての実験も最終段階を迎えている。また、 実用路線として、運行休止して四半世紀になるモノレール「ドリーム線(延長五・三キロ)」敷地を活用したJR大船駅と遊園地「横浜ドリームランド」間に 導入が決まった。総投資額は約三○○億円、九七年着工、九九年開業予定。 ◆アトラス計画(ATLAS)〔1997 年版 交通運輸〕 次世代高速新幹線の開発計画。鉄道総合技術研究所が最高時速四○○キロで営業ができる新幹線システムを、一九九二(平成四)年度から五年後をメドに開発 する。新型車両の開発のみならず騒音の発生を防止する軌道構造や架線など列車の運行システム全体を開発する予定。なお、このプロジェクトの名称アトラス は、Advanced Technology for Low-noise and Atractive Shinkansen の略。 ◆シルクロード鉄道〔1997 年版 交通運輸〕 中国から中央アジアを経て欧州と結ぶ、各国の鉄道を結びつけた通称。アジアと欧州を鉄道で結ぶ二大ルートの一つ。一つはシベリア鉄道。路線としては一応 つながっているものの施設の老朽化や保守管理の不備が深刻なため、この復興を運輸省とJICAで支援する検討が行われている。途上国援助の一環として、 日本の鉄道技術を生かすねらいもある。当面対象となる国は、トルクメニスタン、ウズベキスタン、ブルガリア、ポーランドである。 ◆英仏海峡トンネル〔1997 年版 交通運輸〕 イギリスとフランスを鉄道で結ぶ英仏海峡(ドーバー海峡)トンネル。ユーロトンネル(Euro-tunnel)ともいう。一九九四年五月に開業。着工から約六年半 で、一○○億ポンド(約一兆五八○○億円)をつぎこんで完成。調達の四分の一は邦銀。ナポレオン時代からの構想で欧州統合の基幹交通路と期待されている。 しかし、建設費の高騰と不人気で総額八五億ポンドの債務を持ち、毎年の利払いすら困難な状況。海峡トンネルのサービスは、乗用車、バス、貨物トラックを 運搬する「ル・シャトル」とロンドンとパリあるいはブリュッセルを結ぶ専用直通列車「ユーロスター」の二本建て。 ◆TGVアトランティック(Train # Grande Vitesse Atlantic)〔1997 年版 交通運輸〕 フランス国鉄の誇る超高速列車。TGV‐Aあるいは新世代TGVともよばれている。一九八一年に在来線を利用して最高時速二六○キロ(現在は二七○キロ) で営業して世界に注目された。二一世紀をにらんで改良、延伸計画を実施し、時速三○○キロで営業できるTGVアトランティックを生み出した。実験では九 ○年五月に時速五一○・八キロの世界最高を記録した。九三年一二月には時速三○○キロで脱線したが、ケガ人なしで、連接台車(車両間を貫くしん棒で強化 されている連続構造)の性能が論議された。 ▲船と港〔1997 年版 交通運輸〕 国内資源に乏しいわが国では、国民生活や産業活動に不可欠な物資の大部分を海外に依存している。この暮らしを支える外航海運が怪しくなってきた。国際物 流構造の変化、競争の激化、日本籍船・日本人船員の減少、大型コンテナ船に対応し得る港湾の未整備などの課題を抱え、阪神大震災でその姿が露呈された。 このような背景の中、第九次港湾整備五カ年計画(平成八年度∼一二年度)が、 (1)国際競争力を有する物流ネットワークの形成、 (2)信頼性の高い空間の 創造、(3)活力とやさしさに満ちた地域づくりの推進の重点施策の下、スタートする。 ◆国際船舶登録制度〔1997 年版 交通運輸〕 国際航海を主な目的として登録した日本籍船の保有コストを外国籍船並みにするための制度。外航船(貿易物資を運ぶ船)や日本人船員が減り続ける「外航海 運の空洞化」を改善するために、日本人船員の乗船を原則として義務づけている日本籍船への規制を緩和して、人件費の安い外国人船員の乗船を認めたり、船 にかかる固定資産税を軽減するなど税制上の優遇措置も設けてある。このように、海運会社が日本国籍船を保有しやすいようにする一方、日本人船員の所得税 を軽減するなどして、外国人船員が増えるなかでも一定数の日本人船員を確保できるようになっている。なお、イギリスやスウェーデンなどに同様な制度があ る。 ◆高速船〔1997 年版 交通運輸〕 時速七○キロ以上で走る船舶。これまで、高速船には、揺れの問題があって乗り心地に弱点があった。最近になって航空機の技術を応用し、揺れを防ぐ方法が 開発された。すなわち、水中翼のフラップをコンピュータでコントロールして船体の揺れを抑える仕組み。船底に翼がついている双胴船か、ホーバークラフト と双胴船の混血が新鋭高速船の特徴。西日本を中心に定期航路が開発されているが、主な新タイプの高速船の就航路線は次のとおり。広島∼松山および大阪・ 深日∼洲本のスーパージェット(時速七○キロ)、隠岐∼境港のスーパーシャトル(時速七四キロ)、八幡浜∼臼杵のジェットピアサー(時速六五キロ)、長崎 ∼串木野のにっしょう(時速一二○キロ)。 ◆インテリジェント船〔1997 年版 交通運輸〕 万一、東京に大災害が発生し、国家機能が崩壊した際に、洋上で救難活動、復旧活動を直接指揮するとともに外国や地方との折衝、連絡にあたるという危機管 理上の対応策としての船舶造船構想である。「超高速最新鋭インテリジェント災害救助船」の略称。伊豆大島噴火の教訓に端を発し、打ち出された大構想。最 新鋭の情報通信施設、会議・宿泊施設を完備、ホバークラフトやヘリコプターを搭載した二万トン級で、時速三○ノツト(約六○キロ)の高速船。システムと しては、ほかに医療救護船、電気・ガスなどの諸技術者のための宿泊施設と機材を備えた都市機能回復船、被災者収容船など四隻で船団を組む。 ◆省エネ船〔1997 年版 交通運輸〕 人件費の高騰、マイホーム主義の普及などで機関部員をはじめ船員の確保が困難な環境になり、運航や荷役の自動化を図ったり、一方、燃料の節約のため、自 然の風力エネルギーを用いた船舶の開発が進められており、これらを総称して省エネ船とよぶ。前者は、エンジン・ルームに人を配置しないのでMゼロ船とよ ばれ、RoRo 船(Roll on Roll off、車輪つきの車両をランプウェーを通して船に自走または牽引により積み下ろしできる船。カーフェリーは、大部分この形式)、 コンテナ船などに適応されている。後者は帆をエンジンの補助として使うことから帆装商船ともよばれている。在来船に比べて燃料費は五一・四%節約できた。 また、運賃全体の五○%近くも占めるバンカーオイル(船舶用重油)を節約するための工夫として大型船でゆっくり運んだほうが効果的として二一万トン級の 鉱石・石炭兼用船「新豊丸」「邦英丸」が誕生した。 ◆パイオニアシップ〔1997 年版 交通運輸〕 船舶の技術革新に対応した新しい船員制度づくりをめざす船員制度近代化委員会(官公労使の四者で構成)の「合理化」実験船のことを特に近代化船とよんで いる。この計画のことをパイオニアシップ計画という。この計画でつくられた船を近代化船あるいは超自動化船とよぶ。六○人近い乗組員がいた外航定期貨物 船に一四∼一八人乗務を実現させた。さらに、一一人という世界最小の定員で走るパイオニアシップが五年の実験航海を経て完成した。主たる省力化の内容は、 集中監視制御システムなどの技術革新にともない甲板部と機械部技士を総合して船舶技士、航海士は運航士とし、それぞれの専門はもっているものの職務の壁 を取りはらう教育訓練である。ちなみに、世界最初の自動化船は定員を四○人にした三井造船建造の貨物船〔一九六一(昭和三六)年〕金華丸、パイオニアシ ップの第一号は、コンテナ船「まんはったんぶりっじ」(四万二四一四総トン)で乗務員は一一名。 ◆超細長双胴型高速フェリー〔1997 年版 交通運輸〕 二、三年後の実用化を目指し開発中の新世代フェリー。従来のフェリーより速力が五∼一○ノツト(時速九・五∼一九キロ)以上速く、乗り心地がよいという のが売り物。速力向上の要因となる船体の形状に工夫をこらし、最大速力二八ノツト(時速五三・二キロ)、全長三○メートルの実験船ができている。完成す れば、関西新空港との連絡や大型離島などの船路など需要は多い。 ◆二重船側構造タンカー〔1997 年版 交通運輸〕 ミッドデッキタンカーともいう。衝突または座礁事故に遭遇した場合の大量の油流出を防止するために中間甲板付二重船殻(ミッドデッキ)構造にした石油タ ンカー。一九九二年一月英シェットランド諸島沿岸でリベリア船籍のタンカー「ブレイア」が座礁、大量の原油が流出する事故が起こった。この時、原油を被 った鳥がテレビのニュース画面に飛び込み、世界中の茶の間を震撼させた。これがタンカーの安全性の問題を浮き彫りにし、国連の専門機関である国際海事機 関(IMO)で、二重船殻(ダブルハル double hull)にするかが議論された。最終的には海洋汚染防止条約を改正し、ミッドデッキが承認された。 ◆ハイドロフォイル(hydrofoil)〔1997 年版 交通運輸〕 水中翼船のこと。新世代高速船ともよばれる。船底に水中翼を設け、航行時に翼に生じる揚力によって船体を浮上させ、没水体積を減少させて高速化を図った 船舶。水中翼が水面を貫通(半没水)する水面貫通型と水中翼が完全に没水している全没水型に分けられる。水面貫通型は一九六二(昭和三七)年から建造さ れている。全没水型としては、ジェットフォイル(エンジンで吸い込んだ海水を船尾から噴射させて走る)がある。近年、高速で走る(毎時八○キロ)ジェッ トフォイルが開発され、走行安定性も確認され、夜間の航行も可能になった。したがって、沖合に展開される空港のアクセス、都心部の交通混雑回避あるいは 離島とのアクセスのための交通手段として注目されてきた。また、九一(平成三)年三月から就航した博多∼釜山航路をはじめ韓国、中国、台湾との間に九つ の外航旅客定期航路の開設に至っている。 ◆メガフロート(mega-float)〔1997 年版 交通運輸〕 数キロメートルの規模、耐用年数一○○年の超大型浮体式構造物。海洋空間の有効利用のためにこれまで埋立て方式や桟橋方式で対応してきた。しかし、海流 変更や海水汚濁の問題など環境時代にふさわしくないことからこの方式が検討されている。実現が可能になれば海上空港、物流基地、エネルギー基地、レジャ ー施設などに利用される。関西国際空港の拡張工事には浮体式滑走路が構想として上がっており、試算では埋立て方式に比べて約二割安くなっている。なおメ ガフロートの研究開発は九五年度から始まり、九六年より三○○メートル 六○メートル浮体モデルが完成し、洋上接合実験が公開された。メガ(mega)と は「大」、フロート(float)とは「浮き袋」の意。 ◆コンテナバース〔1997 年版 交通運輸〕 港内において荷役などを行うため、船舶を停泊・けい留する所定の陸域場所の総称をバース(berth、船席)という。コンテナバースは、コンテナ専用のバー スのこと。コンテナ船が大型化してきている今日、バース長(船舶の長さに一五∼二五メートルの余裕長を加えた長さ)とバース水深(海底面と最低潮位時の 水準面との間の深さ)が問題となる。オーバーパナマックス型といわれる大型コンテナ船は船長三○○メートル余、水深一五メートルが必要。また、アジアで の拠点港になるためには、このクラスのバースが必要となる。この規格が適用できるバースは、現在香港に一、シンガポールに五あるのみ。二○○○年の供用 を目指し、東京港一、横浜港二、神戸港二が計画されているが、その時点で香港、シンガポールは各々一六のコンテナバースを保有する見込み。 ◆内貿ユニットロードターミナル〔1997 年版 交通運輸〕 海陸一貫輸送による物流の効率化を推進するために、貨物の積みおろしから保管まで連続的・一体的に行うことができるフェリー、内航コンテナ船など船舶の 基地。地球環境対策などでモーダルシフトが求められているが、トラックの持つ戸口までの輸送機能を欠くことができない。そこで、トラックとの良好な関係 が求められており、そのドッキング施設として期待される。また、このターミナルを生かすために市街地までのアクセスを確保する整備を行っている。昨年三 月まで一九港でターミナル整備を、一七港で幹線臨港道路の整備を行っている。 ◆ロランC(LORAN C)〔1997 年版 交通運輸〕 複数の発信局から送信される電波の到達時間の差を受信機で測定して位置を知る電波航法援助システム。電波の灯台ともよばれている。電波航法援助システム としては、ほかに日本沿岸用のデッカ(利用船舶数約三○○○隻)やロランA(同約一万六○○○隻)が運用されている。ロランCは、その有効海域が昼間で 約一三○○キロ、夜間で約二六○○キロに及び、位置測定の精度も高い。そのうえ、受信機が安く、使いやすく、ヨットを含めて三万隻が受信機を積み込んで いる。ところが、衛星測位システムを導入したアメリカがロランCの発信局を全廃したため、沖合・遠洋を漁場とするわが国は大・中型漁船などへの影響が大 きいとして独自のロランCチェーンの運用体制を一九九三(平成五)年からスタートさせた。海上保安庁が、十勝太(北海道)、慶佐次(沖縄)、硫黄島および 南鳥島の四局を引き継いだ。ロランとは、Long Range Navigation の略。 ◆チャレンジシップ計画〔1997 年版 交通運輸〕 運輸技術審議会が一九九三(平成五)年一二月に答申した「新時代を担う船舶技術開発のあり方ついて」の計画名。この計画は、先進安全船計画、トータルク リーンシップ計画、先端的技術の開発計画からなる。先進安全船計画は、ヒューマンエラー防止技術から衝突・座礁予防システム、新救命システムなど。トー タルクリーンシップ計画は、メタノール機関、NOx等排ガス対策、原子力船、水素利用システムなど、先端的技術の開発計画は、「超」超高速船、超電導推 進船、新形式輸送システムなど、それぞれの課題についてその推進方策が提言されている。 ◆GMDSS(Global Maritime Distress and Safety System)〔1997 年版 交通運輸〕 海上における遭難および安全通信の世界的制度。海上人命安全条約(SOLAS条約)の改正により一九九二(平成四)年二月より導入されることになった。 GMDSSは、衛星通信技術、デジタル通信技術等の最新の通信技術を採用しており、(1)どの海域で遭難しても衛星通信等を用い陸上局や他船と交信がで きる、 (2)沈没時、自動浮揚する発信機により自動的に遭難通報が行われる、 (3)テレックスや無線電信を主体とするためモールス信号の打電といった特殊 技術を必要としない、等の特徴を有している。 ▲航空機と空港〔1997 年版 交通運輸〕 第七次空港整備五カ年計画(九六‐二○○○年度)の基本方針は、航空ネットワークの拠点となる大都市圏の拠点空港整備が「最も緊急性が高い」としている。 その中で、最優先課題として、関西国際空港の二期工事、中部新国際空港、首都圏第三空港の整備を挙げ、三大プロジェクトと位置づけた。また、東アジアの 各地で大規模空港の建設が進んでいるため、国際ハブ空港を「社会資本の一部」と位置づけ、早急に整備することも強調している。しかし、成田や羽田の拡張 工事も加えると五大プロジェクトの同時進行で、勢力が分散され、国際ハブ空港の位置づけが絵空事にみえてくる。 ◆第四世代のジェット旅客機〔1997 年版 交通運輸〕 「空飛ぶコンピュータ」といわれるほどの最新のエレクトロニクス技術を駆使したほか炭素繊維などの新素材の採用などで抜群の信頼性、低騒音、低燃費、短 距離離着陸性能を誇るジェット機。B747‐400、A310、DC10(MD11)といった第三世代の応用機からはじまって、ハイテク機と呼ばれるB767、A320、 さらに最も新しいB777 までがこの世代機である。ちなみに第一世代(一九五○年代後半)はコメット、B707、DC8に代表されるプロペラ機からジェット 機に切り替わった最初の時期の機種。第二世代(一九六○年代)は、「より早く、より高く飛べるように」したB727、B737、DC9など。第三世代(一九七 ○年代前半)は、いわゆるワイドボディ(広胴)機。B747、L1011、DC10、A300 がこの世代機で大量需要を満たすエアバス群である。 ◆B767(Boeing 767)〔1997 年版 交通運輸〕 三菱重工業、川崎重工業、富士重工業の三社の共同出資会社民間航空機とアメリカのボーイング社が生産している二○○人乗り級の双発中距離旅客機。YX機 として開発され、一九八一(昭和五六)年九月初飛行。全日空では、ボーイング 767‐200(三二九席)が八三年六月から東京∼松山に就航した。この仕様は、 七列二三六席、巡航速度八八○キロ/時、航続距離三八○○キロ(中距離用は五一一○キロ)。さらに、B767‐200 の胴体を六・四メートル延長した長胴機B 767‐300(座席数二七九∼二九○)が全日空で採用された。 ◆B777〔1997 年版 交通運輸〕 アメリカのボーイング社と日本の航空機メーカーとで共同開発した最新ハイテク新型旅客機。通称「トリプル・セブン」。より安全で経済的が売り物。YXX 機として開発された三○○人乗り(三五○∼三七五席)の三発中・長距離旅客機。航続距離は一万二二三○キロメートル。主翼の先が自動的に上に折れ曲がる ウイングチップ(wing chip)の働きで省エネルギー性を高め、先進の炭素繊維強化プラスチックを大量に使用して、機体を軽量化しているのが特色。九五年 秋から日本の空に登場し、国内航空三社で六七機を投入している。なお、YXXとは、Yはローマ字で輸送機の頭文字をとったものでXは experiment(科学 上の実験)で次期開発を意味し、YXと呼ばれていたのに、さらに次次期開発としてXを重ねて、開発機の通称となっていた。 ◆MD11(McDonnell Douglass 11)〔1997 年版 交通運輸〕 アメリカのマクドネル・ダグラス社製作の次世代の中型旅客機。DC10 の発展型で、座席数は二四八∼三二二席程度まで設定できる。ボーイング社のB747(ジ ャンボ)よりひと回り小さいが、次世代の近・中距離の国際線の主力機といわれている。巡航速度は九四五キロ/時、最大航続距離一万二七四六キロ。二人乗 務や燃料コスト三%低減など経済性が売り物。すでに日本航空の国際線に投入されることが決定している。 ◆YS‐X〔1997 年版 交通運輸〕 戦後、日本で初めて国産開発した旅客機「YS11」 (六○人乗り、エンジンはイギリス製)の後継機種。次期小型ジェット機の生産計画をYS‐X計画という。 YS‐Xの開発構想は、低価格、低騒音、高速性能を目指し、巡航速度は時速八○○キロメートル、五○∼一○○人席の短距離小型ジェット旅客機。二○○○ 年をめどに量産する計画。YS11 の生産はストップし、就航中の寿命も短いため、一九八九(平成一)年度から日本航空機開発協会を中心に企業化調査を進め てきた。正式開発を目指し、アメリカや中国と共同開発の道を探ってきたが、円高で採算が取れない恐れもあって当面本格開発は先送りとなった。しかし、エ ンジン開発はカナダのボンバルディア社の旅客機に搭載が決まったこともあって、機体開発と分離して進めることになった。YSはYS11 を製造した日本航空 機製造の前身の輸送機設計研究協会の頭文字。Xは、次機開発を期待した試作機のことで、experiment(科学上の実験)からとっている。 ◆コミューター航空(commuter airlines)〔1997 年版 交通運輸〕 近距離区間の航空輸送のことで、比較的小型の航空機を使用して五○キロから二五○キロ以下の短い路線を定期的に運航する航空輸送事業。エアコミューター ともよぶ。コミューター(commuter)は定期乗車券使用者の意味。幹線航空輸送に対して地域航空輸送あるいは小型地域間航空とよばれる。第二次大戦後、 アメリカで四∼六人乗りの空のタクシーから発達。アメリカでは同一路線に毎週五往復以上運航する近距離航空企業をコミューター航空と指定している。日本 では、この事業を二地点間航空とよんでおり、座席数が一九以下しか許可されていなかったが、規制緩和策の一つとしてアメリカ並みの六○席まで拡大が可能 となった。わが国の第一号は、一九八三(昭和五八)年に奄美大島を中心に四路線の運航を開始した日本エアコミューター。 ◆スペースプレーン〔1997 年版 交通運輸〕 飛行機と同程度のシステムで地上と高度数百キロの地球周回軌道を往復する二一世紀の輸送システム。既存の滑走路から水平に離着陸、水素エンジン搭載、運 航スピードはマッハ三∼二五、飛行高度三○○∼一○○キロを基本コンセプトにアメリカで基礎研究が続けられている。日本でも航空宇宙研究所が八七年から 研究を開始。これまで新型ジェットエンジンで高速の八倍の燃焼実験に成功した。レーガン元大統領が、一般教書演説の中で構想を示した極超音速旅客機(H ST Hypersonic Transport)、ニュー・オリエント・エクスプレス(新オリエント特急 New Orient Express)とも呼ばれる。これが実現すると東京∼ワシ ントン間をわずか二時間で結び、海外日帰り一日経済圏が実現する。現在の航空技術ならばHSTの開発は十分可能とされているが、マッハ二・○五のSST (超音速旅客機/コンコルド ◆シャトル便〔1997 年版 Supersonic Transport)が大西洋線に就航し、採算がとれなかったことから、民間旅客機として定着するか懸念されている。 交通運輸〕 予約不要、八割搭乗で即フライトする国内航空便のこと。新幹線「のぞみ」の出現で需要が極端に減少した航空界の立て直しとして日航、全日空、日本エアシ ステム三社で運航しようと、航空同盟が示した構想。東京・大阪の新幹線との競争に勝つには、運賃競争のほかに運航頻度の増大、空港までのアクセス時間の 短縮、フライトまでの待ち時間の短縮が挙げられている。アメリカでは、予約不要で、バス利用と同様に時刻表に合せて空港に行き、利用するいわゆるエアバ スがすでに普及している。日航は歓迎の意を示しているが、他二社は消極的。シャトル(shuttle)とは、ミシンの縫い口の往復運動のことで、近距離往復の意 で用いられている。この構想は出発時刻にならなくても八割搭乗で出発する点と三社相乗り方式が特徴。 ◆チルト・ウイング・システム(tilt wing system)〔1997 年版 交通運輸〕 垂直離着陸機で、主翼全体がプロペラごと九○度上を向き垂直に飛び上がったり、空中で停止できる機種。滑走しないで、ほぼ垂直に離着陸できる航空機を垂 直離着陸機(VTOL/ブイトール Vertical Take-Off and Landing)という。ヘリコプターも広い意味ではVTOLの一種だが、一般にはこれを除外してあ る。交通整備の行きわたらない地域、都市が大きくて混雑している地域では小型航空機の開発が求められている。その一つが「TW68」(チルトウイング 68) で日米の合資で開発が進められている。双発ターボ・プロップエンジン、定員一六名、巡航速度四九五キロ/時、航続距離三○○○キロ。一九九三(平成五) 年初飛行。もう一つの日米共同開発に「バルカン・スターファイヤー」がある。巡航速度五六○キロ/時、航続距離一六○○キロ。九二年度初飛行。 ◆国際ハブ空港〔1997 年版 交通運輸〕 国際線から国際線あるいは国際線から国内線へと乗り継ぎをするための拠点空港。ハブ(hub)とは、自転車の車輪の中心部にあるこしきのこと。スポーク(spoke) からハブに、またハブからスポークへ力が伝導することからこのようなシステムをハブシステムあるいはハブ・アンド・スポーク・システムという。二一世紀 初頭の超音速旅客機の就航する空港は世界に六カ所必要とされ、これをスーパーハブあるいはグローバルハブという。このうちアジアに一カ所必要と考えられ ている。わが国の国際空港である成田空港が、国内線の羽田空港との乗り継ぎが極めて不便なため成田以外に日本を代表する国際ハブ空港の整備が急がれてい る。その理由は、一九九七年開港予定のソウル(新ソウル・メトロポリタン空港)や香港(チェク・ラップ・コック空港)で国際ハブ空港化構想が進んでいる ことによる。そこで、関西新空港や中部新空港が当てにできないため、新千歳空港がその候補に上がっている。 ◆成田空港アクセス〔1997 年版 交通運輸〕 東京から七○キロ離れた成田空港への高速鉄道によるアクセス手段。当初、新幹線、北総開発鉄道、県営鉄道の三本が予定されていたが諸般の事情でいずれも 計画が中断していた。そこで、運輸省では一九八一(昭和五六)年五月に委員会を設け、成田新高速鉄道の三ルートを技術、経営の両面から調査、検討した。 その結果は八二年五月に報告されたが、暫定案としてC案、長期的にはA、B案で、採算面でわずかにB案有利、と特定のルートを採用する裁定は避けたもの であった。八五年七月の運輸政策審議会答申では、二○○○年を目標に千葉ニュータウン中央∼印旛松虫∼成田空港間を新設することが盛り込まれたB案が支 持されている。ところが成田空港が二期工事に本格的に着手したことから暫定措置(C案)の実施が打ち出され、八九年三月建設に着手した「空港高速鉄道線」 が完成。成田空港ターミナルへのJR、京成の直接乗り入れが、九一(平成三)年三月から始まった。 特に、JRは成田エクスプレスと命名し、その車両のスマートさと横浜、新宿などからの乗り入れの便利さで人気を博している。しかしこれと並行して、千葉 県の北総地域の振興を図るうえで重要な鉄道であることから、B案に基づく実現のための調査が進められている。さらに、日米構造協議における公共投資比率 の加増で、A案も浮上してきた。いずれにしても、東京とのアクセスが整備されない限り、成田空港は世界の玄関口とはいえない。 ◆中部新国際空港〔1997 年版 交通運輸〕 東海地方で建設が進められている本格的な国際空港。構想は四○○○メートル滑走路二本を整備して、超音速旅客機(SST)が離着陸できる二四時間使用の 伊勢湾上の海上空港。空港建設の一般的難問の騒音、アクセス、伊勢湾の環境汚染があるが、第七次空港整備五カ年計画の中間報告(九五年八月)で着工空港 に位置づけられ、一歩前進した。中部新国際空港は、名古屋市の南約三○キロの常滑沖の海上を埋め立てて建設し、三五○○メートル滑走路一本で二○○五年 までに開港する構想。面積は約五○○ヘクタールで、総事業費は八○○○億円と試算されている。しかし、最大の課題はアクセス整備で、空港建設を上回る事 業費が必要。 ◆羽田空港沖合展開〔1997 年版 交通運輸〕 空港機能の増強と航空機騒音問題を解決するために東京・羽田空港の大きさを三倍にして沖合に移転拡張する事業。年間離着陸回数が約一五万七○○○回にの ぼり、容量限界に近い羽田空港を現在の三倍に近い面積(一一○○ヘクタール)に拡張する。計画は三本の滑走路を整備、年間の離着陸処理能力を一・五倍(約 二三万回)にする。工期は三期に分け、新A(三○○○メートル)、新B(二五○○メートル)、新C(三○○○メートル)の三本の滑走路を整備する。着工開 始は一九八四(昭和五九)年一月、八八年七月から新A滑走路が使用開始で第一期工事は完了。二期工事は九三年九月に完了、新旅客ターミナルが完成。この ターミナルはビッグバードの愛称でよばれる。三期工事は新C滑走路が九六年度末、新B滑走路が九九年度末に供用予定。 ◆首都圏第三空港〔1997 年版 交通運輸〕 若手経済学者などで組織する二一世紀経済基盤開発国民会議が提言している羽田、成田に次ぐ首都圏第三番目の国際空港の略称。首都第三空港とも、単に第三 空港ともよばれる。国際化の進展は国際空港の容量増と世界の各都市との全時間的対応が求められている。そのため、二四時間発着可能の国際空港が必要とさ れている。第六次空港整備五カ年計画(一九九一∼九五年)で調査費が盛り込まれ、国家プロジェクトとして動き出した。二四時間使用でき、国際・国内線併 用の大規模な海上空港建設をと東京商工会議所からの要望が出された。 ◆関西国際空港〔1997 年版 交通運輸〕 大阪湾南東部の泉州(せんしゅう)五キロの海上に建設された二四時間利用可能な国際空港。経営主体は国、地元自治体、財界の出費による特殊法人関西国際 空港株式会社。約二○○○ヘクタールの空港島を埋め立てて、四○○○メートルの主滑走路二本、三四○○メートルの補助滑走路一本を建設する計画。第一期 分は、約五○○ヘクタールの島に三五○○メートルの滑走路。この建設費は約一兆四○○○億円。出費比率は国、自治体、民間で四対一対一。二期工事(関空 二期)は第七次空港整備計画(一九九六∼二○○○年度)に盛り込まれ、二○○二年までに約五三○ヘクタールを埋め立て、四○○○メートルのB滑走路を備 える。建設着工は九八年の予定。事業方法は、浮体式で、空港建設を自治体が受け持ち、第三セクターが空港施設を建設する上下分離方式が有力。 ◆成田空港二期工事〔1997 年版 交通運輸〕 日本の空の表玄関、新東京国際空港(通称成田空港)の二期工事。一九七八(昭和五三)年五月に開港した成田空港は、A滑走路(四○○○メートル)だけで 運用してきたが、三四カ国四一社の乗り入れ航空会社をもち、年間九万五○○○回を上回る離着陸便数となってほぼ限界の状態。そこで八一年一一月より二期 工事(二五○○メートルのB滑走路と横風用三二○○メートルのC滑走路)にとりかかったが、本格工事に入ったのは八七年四月。反対運動との交渉が話し合 いに徹するため長引くことが予想されるが、滑走路の完成に先立ち、第二旅客ターミナルビルが開設した。完成規模は、総面積一○六五ヘクタール(羽田の約 二・六倍)。年間離着陸回数の限界は二六万回(羽田は一七万五○○○回)程度。なお、現在の旅客取扱数は年間一八○○万人で世界第六位、貨物取扱量は一 三○万トンで世界第一位。 ◆運輸多目的衛星システム〔1997 年版 交通運輸〕 静止気象衛星を利用した運輸に関する行政・民間分野の多様なニーズを満たす業務の高度化・情報化のためのシステム。例えば、現行の人工衛星を利用した捜 索救難通信システムは、極軌道周回衛星を利用しているため、衛星が上空にいないときに最大で一時間半程度の通信不可能な時間帯が生じる。静止衛星を利用 したシステムは、この欠点を補完し、遭難信号を常時リアルタイムで受信することが可能。運輸省では、静止気象衛星 573 を用いてこのシステムの実証実験を 行っている。 ▽執筆者〔1997 年版 エネルギー・石油〕 藤目和哉(ふじめ・かずや) 日本エネルギー経済研究所理事 1940 年京都市生まれ。東大教養学部卒。マサチューセッツ工科大学客員研究員を経て,現在,財団法人・日本エネルギー経済研究所常務理事。著書は『オ イルレポート』『新産業論』『21 世紀のエネルギー』など。 ◎解説の角度〔1997 年版 エネルギー・石油〕 ●地球環境保全,地球温暖化防止への国際的取組みとしての 1995 年 3 月・第 1 回気候変動枠組条約締約国会議(ベルリン)。その第 3 回会議(COP3)は, 後に 1996 年 12 月京都で開かれることになったが,そこで 2000 年以降のCO2等温室効果ガス排出規制(あるいは削減)を先進諸国について議定書(protocol) というより法的に制約のある形で方向を打ち出すことになった。 ●2005 年あるいは 2010 年に,1990 年のCO2排出量よりも削減することを目指しているEU(ヨーロッパ連合)とCO2に制限したり,具体的目標を嫌っ ているアメリカとの間に立って,COP3主催国たる日本としては,環境外交での点数を稼ぐという方針のもとでどう調整して行くかが大きな課題となってい る。 ●CO2排出量を 90 年水準より削減となれば,経済成長率 2∼3%を前提とする限り,大幅な省エネルギー,急速な原子力推進,天然ガス導入加速,太陽エネ ルギー利用の劇的促進など,わが国は国民の環境・エネルギー利用についての意識革命,根幹からの技術革新に向かって進んで行かねばならない。 ▲エネルギー政策〔1997 年版 エネルギー・石油〕 わが国のエネルギー政策は、第一次石油危機以来脱石油政策によるエネルギー安全保障確保が中心となってきた。一九九○年代に入ると、政策目標は、安定供 給に加え炭酸ガス排出量抑制という地球温暖化防止にも重点が置かれるようになった。さらに一九九五(平成七)年六月に総合エネルギー調査会国際エネルギ ー部会でアジアという国際的枠組みでの政策という考え方が打ち出された。 ◆総合エネルギー調査会(advisal council for energy)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 エネルギー問題についての調査、意見聴取を依頼するため通産大臣が設置した諮問機関である。一九六一(昭和三六)年、いわゆるエネルギー革命・流体革命 により、石炭の取り扱いが問題になったとき、エネルギー懇話会を通産省の非公式諮問機関として設置したのが始まりで、六二年、産業構造審議会に総合エネ ルギー部会が置かれた。総合エネルギー調査会は六五年、正式に通産大臣の諮問機関として設置された。現在、全体を総括する総合部会・需給部会と省エネル ギー、石油代替エネルギー、石炭、石油、原子力、都市熱エネルギー、低硫黄化対策の各部会がある。九四(平成六)年に入って一○回目の長期エネルギー需 給見通しの改訂と規制緩和のための検討が行われた。長期見通し改訂は需給部会、規制緩和は総合部会の基本政策小委員会を中心に検討が行われた。九五年に なって、国際エネルギー部会が創られ、アジア地域を中心に日本の果たすべき役割についての中間報告が出ている。 ◆長期エネルギー計画(long-term energy plan)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 一九九四(平成六)年六月、総合エネルギー調査会、電気事業審議会が、九○年六月に発表した 長期エネルギー需給見通し を四年ぶりに改訂した。その改 訂の直接的理由は、九二年六月の地球サミットを受けて、九四年三月に発効した気候変動枠組み条約事務局に、同年九月までに「二○○○年に一九九○年水準 に温室効果ガスの排出量を安定化する」ための各先進国の対応策を通報する義務があったからである。長期エネルギー需給見通しは、予測というより政策目標 を設定するためのエネルギー需給の枠組みづくりである。政策目標としては、二○○○年に一人当たりの炭酸ガスの排出量を一九九○年水準に安定化すること が最重要課題となった。今回の見通しでは政策上の努力が重要であることを強調するために、二つのケースを設定している。すなわち「現行施策織込ケース」 「新規施策追加ケース」の二ケースである。ここでは主として政策目標である後者を紹介する。一次エネルギー総供給は二○○○年度で石油換算五億八二○○ 万キロリットル、二○一○年度は同六億三五○○万キロリットルで、前回見通しより二・五%、四・七%の小幅下方修正である。実質経済成長率一九九二∼二 ○○○年度が三%、二○○○∼二○一○年度が二・五%、一次エネルギーの総供給伸び率がそれぞれ○・九%、○・九%で、弾性値は○・三○、○・三六で前 回の○・四五、○・三七に比べ二○○○年まで極めて小さくなっている。これは二○○○年の炭酸ガス排出量を抑えるために、極端な省エネルギーをしなけれ ばならないことを意味している。 エネルギー政策の中心は、省エネルギーに加えて、原子力推進、脱石油にある。原子力は、立地難等で発電能力(キロワット)は、二○○○年で約一○%、二 ○一○年で約四%下方修正されたが、約三%設備利用率を上げることによって発電量(キロワットヘルツ)では、前回見通しに比べ二○○○年度では約六%下 方修正、二○一○年度では約二%の上方修正としている。実際原子力発電設備を一九九二年度末の三三四○万キロワットを二○一○年度末に七○五○万キロワ ット、しかも設備利用率を七七・七%まであげることが可能であろうか。 脱石油については、石油依存度は二○○○年度五二・九%、二○一○年度四七・七%と前回見通しよりも一・三%、一・七%も引き上げているが、予測の発射 台が二億七六○○万キロリットル(一九八八年度)から三億一五○○万キロリットル(一九九二年度)へ一四%上がり、二○○○年度は発射台を下回る三億八 ○○万キロリットル、二○一○年度は三億三○○万キロリットルと一九九二∼二○一○年度まで年率○・二%減少することとなった。天然ガスは二○○○年度 五三○○万トンと前回比六○○万トン(一三%)上方修正、二○一○年度五八○○万トンと前回比一○○万トン(二%)の上方修正が行われた。石炭は二○○ ○年度一億三○○○万トンと一二○○万トン(八・五%)下方修正(原料炭中心)、二○一○年度は一億三四○○万トンと八○○万トン(六%)下方修正され た。新エネルギーについては、一次エネルギー総供給中二○○○年度については三%から二%、二○一○年度は五・三%から三%へ下方修正されたが、新しい 供給形態としてコ・ジェネレーションなどの二次エネルギーを加えると、二次エネルギー合計中二○○○年度に三・三%、二○一○年度に五・八%とやや次元 の異なる新しい目標が設定された。 九六年に入って総合エネルギー調査会基本政策小委員会で現見通しを検討した。二○一○∼二○三○年についてはシミュレーションを行ったが、二○一○年ま では現見通しのままである。 ◆エネルギー産業の規制緩和(deregulation of energy industry)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 エネルギー産業の規制緩和は、経済・産業の活性化、サービスコストの低下を目標として規制緩和の目玉商品として強力に行われた。特に電力産業の規制緩和 は、数年前には予想もできなかった強度で行われた。国際的な大きなトレンドとしての 市場経済化、自由化の波 という外圧もあったことは確かである。 一九九五(平成七)年四月に公布された新しい電気事業法は、卸発電市場の自由化や直接供給への参入を促進する大幅な変更点を含んでいる。これらは発電部 門への新規参入の拡大のために行われたものである。一般および大規模な卸電気事業者以外で、卸供給(一般電気事業者に対する)を事業とするものを卸供給 事業者といい、事業許可はいらないことになった。そして電気事業者は、卸供給事業者の能力を活用しなければならないことになった。 活発な競争の場とするために、入札による場合(別に認可制もあるが)、届出制となった。卸託送は、法律では「振替供給」となっているが、電気事業者の所 在地を供給区域としない一般電気事業者に対して卸供給ができるようになった。従来法にはなかった「特定電気事業」を特定の供給地点における需要に応じ電 気を供給する事業と規定し、許可事業となった。これによって既に一般電気事業者の供給地域に含まれる地点でも、使用者への直接的な電気の供給を事業とす ることができるようになった。特定電気事業者は、需要家に対しては当然義務を負うが、その供給条件は届出制になった。 石油産業の規制緩和はここ数年急速に進んできた。九五年四月、石油製品輸入に関する時限立法の特定石油製品輸入暫定措置法(特石法)の期限切れ廃止と石 油備蓄法、揮発油販売法の改正をまとめて取り扱った法案が可決された。九六年四月より、備蓄、品質管理義務を果たせば、誰でも輸入可能(ガソリンなど) となる。品質面から、輸入先としては、韓国、シンガポール等に限られ、備蓄コストを負担し、石油製品流通網を持っている商社、全農などに国内的には限定 されるといわれている。今後は、九七(平成九)年一○月をもって、揮販法の競争抑制的な側面が強い指定地区制度は廃止し、所要の法的措置を講ずることと なった。都市ガス事業については、電気事業の規制緩和の影響が大きく、産業用大口料金の自由化が行われることになった。 ◆国際エネルギー機関(IEA)(International Energy Agency)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 一九七四年九月に、ベルギーの首都ブリュッセルで開かれた石油消費国会議調整グループ(ECG Energy Control Group)は、国際的石油緊急融通システム で合意に達した。この緊急融通計画がIEPであり、この緊急融通計画を効果的に作動させるため、平時から準備を進めてゆくための超国家的な機関がIEA である。この国際的な協調制度は同年一一月に一一カ国が署名して発効したが、その後二一カ国に達している。ただ、フランスはEC条約に違反するとしてこ の協定に加わらず、OPEC(石油輸出国機構)も敵対的性格のものとして非難している。日本も、石油の大量消費、輸入国でありながら、この協定に加わる ことにより備蓄義務をはじめ、エネルギー節減という形で、自らエネルギー供給制約をうけるはめに陥ることも懸念された。しかし政府はIEAを国会審議の 対象とせずに行政協定として処理した。その後、わが国の脱石油政策はIEAによって支えられてきたといっても過言ではないだろう。特に石油火力の新設禁 止については、日本は律儀に守ってきたが、国際石油需給バランスが緩和したこともあって、老朽した石油火力のスクラップアンドビルドの方向も検討されて いる。その他、石油代替エネルギーの技術開発、石油市場分析、長期エネルギー政策の調整、緊急時の融通、消費規制など石油危機への集団的な対応力の強化 を目指している。九二年になってフランスがIEAに加盟した。また、EUが旧ソ連を含めた欧州地域のエネルギーの安定供給・活用のために検討を進めてい る「欧州エネルギー憲章」についての、アメリカ、日本など域外国の参加が、IEAの閣僚理事会共同声明の形で認められた。 ◆地球に優しいエネルギー(earth friendly energy)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 一九九二年六月、ブラジルのリオデジャネイロで国連環境開発会議(地球サミット)が開かれ、地球規模での環境問題解決のための対応策が、依然あいまいな 部分を残しながら条約化する方向で決まった。 エネルギーに関連しては、地球温暖化ガス(炭酸ガス等)を二○○○年までに一九九○年水準に排出量を戻すというものであった。 ただし、これは欧米、日本などの先進諸国に対して求められているもので、経済移行過程(旧ソ連、東欧)、発展途上国については条約を批准したとしても、 先進諸国からの資金、技術援助に対応して行えばよいとされている。 酸性雨の原因となる硫黄酸化物、窒素酸化物の元となる硫黄分や窒素分、地球温暖化の主原因とされる炭酸ガスの元となる炭素分を含有する化石燃料(石炭、 石油、天然ガス等)に代わりうるエネルギー、すなわち 地球に優しいエネルギー に対する期待が高まってきている。 原子力もそういった意味では、化石燃料に代わりうるエネルギーであるが、核による環境破壊の恐れもあるということで、地球に優しいエネルギーには入って いない。典型的なものが太陽エネルギーや風力エネルギーなどの自然エネルギーであるが、経済性の点から化石燃料に大量に代替しうるものではない。 エネルギー源ではないけれども、エネルギーの利用を節約したり、効率的に行うことによってエネルギーの消費そのものを減らす省エネルギーが最も地球に優 しいエネルギーとして位置付けられている。 化石燃料でも、天然ガスは相対的に(石炭や石油に比べて)クリーンであるということで天然ガスへのシフトも起きており、今後も一層の拍車がかかるだろう。 ◆アジア・太平洋エネルギー研究センター(Asian Pacific Energy Research Center)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 一九九六(平成八)年七月一日、九五年一一月のAPEC大阪首脳会議の方針決定を受けて、予算約六億円、所長、副所長等APEC加盟国からの専門家一七 人を含めて二五名体制で、APECのエネルギー需給予測、それに関する研究をすることになった。研究所は、(財)日本エネルギー経済研究所の中に置かれ た。 ◆APECのエネルギー政策〔1997 年版 エネルギー・石油〕 一九九五年一一月の首脳会議の決定に対応してAPEC諸国の備蓄政策など将来エネルギー需給ギャップによって起る石油等エネルギー価格の急騰を引き起 こさないための枠組づくりがスタートした。アジアAPEC一○カ国のエネルギー需要は九二年から二○一○年に年率五%で伸びるがエネルギー生産は同期間 年率三%しか増えない。九二年から二○一○年までの同諸国の電力需要は年率八%で伸び、電力供給設備と送配変電設備を加えて一兆六○○○億ドルの投資が 必要になる。九三年から二○一○年に実質GDPは年率七%で成長するが、それを支えるインフラ建設が重要である。特にエネルギー供給分野では、電力関連 だけでなく、石油精製設備や天然ガスの輸送設備(特にパイプライン)等の設備に莫大な資金が必要となる。その半分近くを外資導入によってカバーしなけれ ばならず、そのために規制緩和や法的設備、料金(価格)の是正による自己資本の強化が課題となっている。 ▲省資源・省エネルギー〔1997 年版 エネルギー・石油〕 従来は資源枯渇に対応することに重点が置かれていた省資源・省エネルギーも、エネルギー需給が緩和基調にあることもあって、むしろ地球環境保全の視点か ら強調されるようになった。しかし、原油価格が実質で第一次石油危機前の水準に戻っていて経済的インセンティブ、特に民生用、輸送用の省エネルギーはあ まり進んでいない。 しかし、政府は一九九三(平成五)年になって、さらなる省エネルギー推進のために省エネルギー二法(省エネルギー法改正と省エネ・再資源化事業促進法) を国会で成立させ、アメ(税額控除、利子補給)とムチ(罰金)の両面からの政策を展開している。 九四年六月に発表された政府の長期見通しでは、省エネルギー政策は最重要なものとして位置付けられている。 ◆省資源/省エネルギー(conservation of resources and energy)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 産業・生活・社会活動全般における資源・エネルギーの効率利用をはかることをいう。このような課題は、第一次石油危機以降わが国をはじめとする先進工業 諸国で、きわめて現実的な政策課題としてとりあげられるようになった。そして第二次石油危機でさらに政策は強化された。省資源・省エネルギー化を進める 方策としては、(1)各産業における資源・エネルギー消費原単位の低下(省資源・省エネルギー技術の開発)、(2)製品利用の面での省資源・省エネルギー (耐用年数の延長・節電型テレビの普及等)、(3)資源の再利用の促進、(4)エネルギー生産性の高い高付加価値産業の発展などが考えられる。 一九八○年代に入って、エネルギー・石油需給が緩和基調となり、特に八六年以降価格も大幅に下がったため省エネルギーは鈍化し、省エネルギーの重要さが 忘れられがちになってきたが、長期的にも緩和基調が予想され、経済的インセンティブは小さいが、地球規模の環境問題で、地球温暖化を防ぐための化石燃料 の使用を制限する動きがあり、環境負荷を小さくするためにも、省エネルギーが強調されるようになった。 一九九三(平成五)年には、資源エネルギー庁では、第二次石油危機後の七九(昭和五四)年に施行されたエネルギー使用合理化法(省エネ法)を改正し、オ フィス・ビルにも工場なみの省エネ対策の実施を義務づける方針を決めた。さらに省エネ徹底のため省エネ義務を怠った企業には罰金を科す。その省エネ法改 正の骨子は、 (1)一定量以上のエネルギーを消費する工場(指定工場)に、使用状況報告を義務づける、 (2)非協力的な企業に対しては勧告や改善命令を出 す。この命令に従わない企業には罰則適用を積極的に行っていく。さらに新しく省エネ・再資源化事業促進法が九三年春に成立した。 九四年一月、普及率が高く、省エネ効果が大きい蛍光灯、テレビ、複写機によって消費電力を最高それぞれ七%、二五%、三%(平均)二○○○年度までに達 成することが閣議で決まった。 最近、電力需要の省エネ促進(DSM=デマンド・サイド・マネジメント)のための工夫が、コストの高い電源開発のスローダウンに対応するものとして注目 されている。 輸送用エネルギー需要の省エネルギーについてはTDM(輸送需要管理)がアメリカを中心に提唱されている。 ◆複合発電(power generation by combined cycle)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 燃料を燃やして得た蒸気で発電するだけでなく、燃料を燃やした時に発生する高温ガスでタービンを回して発電し、その余熱で蒸気を発生させ再度発電に利用 するもの。これにより熱効率は従来、限界とされてきた四○%の壁を打ち破り、なかには五○%以上の高効率が実現し、出力も一系列で一四万キロワットから 一○○万キロワットまで自由に変換できるなどの利点がある。負荷追従制も優れており、急速に導入が行われている。 ◆揚水発電(power generation by pumped up water)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 夜間の電力が余ったときなどに、揚水発電所の発電機に電気を送って、水車をポンプとして使って、水を上流の貯水池に汲み上げておく。そして、電力の需要 がピークになったときに、この水で発電する方法。とくに原子力発電所は、出力をあまり変えないことが望ましいので、揚水発電所と組み合わせるとよいとい われている。今後は、原子力発電の比重が大きくなり、電力需要の負荷パターンの面(電力需要の変動幅が大きくなる)からも、揚水発電はますます重要にな ってくる。 世界最大級のものは二○○二年度に関西電力が二一六万キロワットのものを、二○○三年度に東京電力が二七○万キロワットのものを完成予定。 ◆マグマ発電(power generation by magma)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 地熱利用の一方法であるが、日本、アメリカ、ニュージーランドの三国で共同開発をすることが一九九三(平成五)年初めに決まった。日本は通産省、工業技 術院が担当する。地下のマグマだまりに熱交換器を入れ、発生する水蒸気を利用してタービンを回す方式で、二酸化炭素の発生は火力発電の一○○分の一であ り、国産エネルギーでもある。 地中のマグマの状態は全くの未知の世界で、高温下での掘削技術の開発や、まだ基礎段階にあるマグマの熱を水蒸気に変える「坑井同軸熱交換システム」の開 発に共同研究の力点が置かれる。 ▲新エネルギー〔1997 年版 エネルギー・石油〕 新エネルギーといわれているものは、大きく分けて、 (1)太陽熱・光(ソーラー)、 (2)風力・潮力などの自然エネルギー、 (3)オイルサンド、オイルシェ ール、石炭液化・ガス化などの合成燃料、の三つに分けられる。 一九九四(平成六)年六月発表の長期エネルギー需給の見通しでは新エネルギーを 新たな供給形態 として二次エネルギーのコ・ジェネレーションなどを含 めて次のように分類している。再生エネルギー(太陽光発電、風力発電、太陽熱、温度差エネルギー)、リサイクル型エネルギー(廃棄物発電、ゴミ処理廃熱 等、廃材等)、従来型エネルギーの新形態利用(コ・ジェネレーション、燃料電池、メタノール・石炭液化等、クリーンエネルギー自動車)。 ◆エコ・ステーション(eco-station)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 ガソリン、軽油の代わりに電気、天然ガス、メタノールを使う「環境対策自動車」の開発が本格化しているが、通産省は新しい自動車燃料の補給場所に、全国 五万九○○○カ所のガソリンスタンドを活用する方針を一九九二(平成四)年四月決めた。二○○○年までに約二○○○カ所に新燃料の供給施設を設置したい 考えだ。通産省によると、従来のガソリンスタンド(SS)を「エコ・ステーション」(ES)と改名する。九五年までに関東、関西地区にESを一○○カ所 前後設置する。その後は全国に広げ、各種の環境対策自動車が九五年に一○万台、二○○○年には約二○○万台普及すると想定している。日本では、最も普及 している電気自動車は自治体や電力会社などを中心に一一○○台、天然ガス自動車も全国に五○台前後、メタノール車も約二○○台ある。 ◆新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)(new energy and industrial technology development organization)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 第二次石油危機後の、脱石油戦略の一環として、通産省は「代替エネルギー公団」構想を打ち出したが、行政改革との関連から、石炭合理化事業団を吸収する 形で、一九八○(昭和五五)年一○月、「新エネルギー総合開発機構」の発足が決定した。同年五月成立した代替エネルギー法によって、石油に代わるエネル ギーのうち、原子力関係以外で技術的に実用化の見通しのあるものの研究開発に限定される。また、バイオマス(生物エネルギー)は、工業技術院が担当し、 地熱、石炭、太陽エネルギーが中心となり、石炭合理化事業は、石炭合理化事業本部が行う。八八年一○月一日から新名称になった。最近では省エネルギーを 含めて国際協力にも力を入れている。 ◆サンシャイン計画(sun shine project)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 エネルギー危機に対処するとともに、無公害社会の建設を目ざして通産省が打ち出した新エネルギー技術開発計画。アポロ計画のように計画達成の期日を決め、 国立研究機関、民間企業、大学などの力を結集して推進する大型プロジェクトである。計画は一九七四(昭和四九)年度からスタート、二○○○年までの長期 計画と数年程度のテーマ別中期計画をつくって進める。二○○○年には新技術によって、国内総エネルギーの二○%の充足を見込んでいた。九○(平成二)年 七月、産業技術審議会新エネルギー技術開発部会において「サンシャイン計画」のあり方について一六年ぶりの基本的見直しを行い、中間報告をとりまとめた。 その報告のポイントは、新たな視点として「地球環境問題への最大限の対応」を考慮したことだ。西暦二○○○年を超えた中長期の新エネルギー技術開発の策 定が必要な時期にあると考えられる。このような基本的認識のもと、(1)これまで取り組んできた技術の実用化を促進し、早期にエネルギー供給構造の一翼 を担わせるとの観点から、二○○○年頃を目標とする短期的課題、(2)将来のエネルギー選択の多様化に資するとの観点から、二○一○年ないし二○二○年 頃を目標とする中期的課題、(3)世界的な規模での供給の安定化を図るというグローバルな観点から、二○二○年以降を目標とする長期的課題の三つに分類 し、体系的計画の策定を行うことになった。そして、九三年一月一日付で、サンシャイン計画やムーンライト計画など工業技術院で進めていた研究開発国家プ ロジェクトの再編・統合を実施することになった。 集約された六分野の主要テーマは「エネルギー・環境企画及びシステム」が燃料電池、「再生可能エネルギー」が太陽光、地熱、風力、「エネルギー高度変換・ 利用」が、石炭の液化、ガス化とセラミックスガスタービン、 「エネルギー輸送・貯蔵」は超電導と分散型電池、 「環境基盤技術」は水素と基礎技術、そして「地 球環境技術」は二酸化炭素(CO2)固定化、安定化となっている。九六年通産省は、新技術実用化期間短縮を目指して同計画の見直しを行った。研究開発の 機動性を高めるため、大規模プラントによる実証試験は民間に移管するほか、各テーマの開発期間は五年に限定して、短期間に成果を出すようにすることにな った。 ◆再生可能エネルギー(renewable energy)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 石炭・石油など、いずれ枯渇する化石燃料に対して、太陽、風力、波力、水力、バイオマス(生物エネルギー)など、地球の自然環境そのものの中で、繰り返 し生起している現象の中から得られるエネルギーのこと。無限に近いエネルギーであるが、経済性のあるものは少ない。しかし、地球温暖化防止などからあら ためて注目されている。 ◆ソフトエネルギー(soft energy)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 アメリカのエモリー・ロビンスが一九七七年に出版した『ソフトエネルギーパス』からことばを借りたものであるが、基本的な考え方は変わっていない。ただ、 当時は反原発色などのイデオロギー的色彩が強かったのに対し、地球環境保全や分散化電源などへの期待が高まってきた結果、一般的にも受け入れられるよう になった。 (1)太陽、風力などの再生可能な自然エネルギー、 (2)発電施設の需要地のそばにおける送電ロスの小さい燃料電池、コ・ジェネレーションなど の分散エネルギー、(3)その他の自然や生物に害を及ぼさないクリーンエネルギーをソフトエネルギーという。さらにデマンドサイドマネジメントなどの省 エネルギーまで含めた広義もある。 ◆合成液体燃料(synthetic fuel)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 オイルサンド、オイルシェール、石炭液化から得られる石油類似の液体燃料油を総称してよぶ。オイルサンド、オイルシェールは、元来が重質炭化水素を地下 からとり出すもので、超重質のため、石油のように自噴することなく、鉱石のように、採掘するのが一仕事である。また、採掘跡の復元にも問題がある。石炭 液化は、第二次大戦中、日本、ドイツの「持たざる国」で実施済みで、技術的には問題なく、大量の水素を必要とするため経済性が伴うかどうかが課題。一九 九一年九月、南米ベネズエラのオリノコ川流域に埋蔵されている超重質油「オリノコタール」を使った発電が茨城県鹿島コンビナート内の発電所で始められた。 その後、関西電力や北海道電力も将来の利用のためにオリノコタールから作ったオリマルジョン(オリノコタールと水を七対三の割合で混ぜ、これに界面活性 剤を添加して混濁化した燃料、石炭並みの価格で石油とみなされない)を燃料とした火力を実証。現在、実際にオリマルジョンを火力に使っているのは鹿島北 共同火力(一二・五万キロワット)と三菱石油水島(七万キロワット)であり、両者で五年間にわたって年五五万トンを消費する契約をしている。 ◆燃料電池(fuel cel battery)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 天然ガスなどから抽出した水素を、空気中の酸素と電気化学的に反応させることによって電気をとりだすシステム。東京電力が五井火力発電所に四八○○キロ ワットの実証プラントを建設し一九八二(昭和五七)年三月から運転を開始している。通産省では、この発電方式が無公害なうえ、発電の際に出る一○○度の 癈熱が、給湯・暖房に利用できるため、大都市の病院、ホテルなどの自家発電用に普及させる考えでいる。現在、第一世代のリン酸水溶液型(発電効率四○%) が中心であるが、八四年には都市ガス大手三社(東京・大阪・東邦)と三菱電機が第二世代の一つである内部リフォーミング式溶融炭酸塩型(MCFC 発電 効率五○%)の共同開発を発表している。その後それを核にMCFC組合が作られ、電力中央研究所が参加し、九三年にはさらに電力九社と電源開発が加盟し た。MCFCは大容量化が可能なことから、第一世代であるリン酸型が小規模の自家発電用に適しているのに対し、火力発電所の代替など大規模電源として期 待されている。第三世代としては、固定電解質型になることが考えられている。 燃料電池を二○○○年度に約二○万キロワット、二○一○年度に約二二○万キロワットの導入が政策目標となっている。 ◆水素エネルギー(hydrogen energy)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 水素を燃焼させたりして得られるエネルギーで、人類究極のエネルギーともいわれている。水素は水を分解すればできるもので無尽蔵である。燃やしても空中 の酸素と化合して水となるだけなので公害の心配がない。しかも一グラム当たりガソリンの三倍もの熱をだす。液体水素としてサターン5型をはじめ大型ロケ ットの燃料として使われている。将来、自動車やジェット機の燃料に代わるものと期待され、石油の枯渇につれ石油文明が水素文明時代にかわるとの見方もあ る。 半導体に太陽光線を当てて作る方法や核分裂や核融合の高温度で水を直接分解する方法などが考えられ、また水素貯蔵合金の開発利用なども研究中で、通産省 のサンシャイン計画でも新エネルギー技術開発の重要課題の一つである。 ▲エネルギー一般〔1997 年版 エネルギー・石油〕 エネルギーは、エネルゲア(仕事をする能力)というギリシャ語に語源があるが、日本でも、燃料、動力などの言葉に代わって外来語として定着した。内容的 には、薪、木炭、石炭、石油、さらに天然ガス、原子力、太陽エネルギー等の新エネルギーと、時代とともに主役・内容が変わってきている。最近では、地球 環境問題との関わりから、クリーンな地球や人間に優しいエネルギーへという概念が強く打ち出されてきている。 ◆一次エネルギー/二次エネルギー(primary energy/secondery energy)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 エネルギーは、それを保有している石炭や石油をそのまま燃焼させて、熱エネルギーとして使用したり、あるいは、燃焼により水蒸気をつくり、その圧力で発 電機が回され、電気に変換されて使用されるなど、いろいろな形態をとっているが、最初にエネルギーの源となっている石炭や石油、天然ガス、また水力や原 子力エネルギーのことを一次エネルギーといい、次にこのエネルギーが、変形、変換、加工されてできる石油製品(直接輸入されたものを除く)、電気や都市 ガスさらに製鉄用のコークスなどのことを二次エネルギーという。一国のエネルギー統計を作成する際は、一次、二次のどの形態で、どの段階で、どの需要先 で使用量を測るのかをはっきりと区別しながら作業する(エネルギーバランス表を作る)ことが大切である。 ◆コ・ジェネレーション・システム(co-generation system)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 コ・ジェネレーションとは、電力と熱を併給することをいい、発電と同時にそれに使った排熱の利用をすることでもある。燃料を燃やして得られる熱を電力に 変えると同時に、蒸気、熱水を暖房・給湯などにも利用するシステムで、熱効率が極めて高い(七○%∼八○%)のが特徴である。熱需要と電気への需要のバ ランス次第では、コ・ジェネレーションの総合効率は五○%台に落ちる場合がある。今後実用化が期待されている燃料電池もコ・ジェネレーションタイプのも のが多い。民生用コ・ジェネレーションの発電機は、ディーゼル、ガスエンジン、ガスタービンの三種である。今後導入が見込まれる施設としては、常時熱を 必要とするホテル、病院、スポーツセンター、スーパーマーケット、山間・離島のリゾート施設などである。 九四(平成六)年六月に発表された長期エネルギー需給見通しでは、現状(一九九二年度)の二七七万キロワット(スチームタービンを除く)に対し、二○○ ○年度には四五五万∼五四二万キロワット、二○一○年度には八一三万∼一○○二万キロワット導入することを目標としている。 ◆トータル・エネルギー・システム(TES)(Total Energy System)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 CES(コミュニティ・エネルギー・システム)が都市ガスによって発電と排熱利用(給湯等)を組み合わせたエネルギー利用効率の高いコ・ジェネレーショ ン(熱併給発電)であるのに石油業界が対抗して考えているもの。灯油、A重油、LPGを燃料にしてディーゼルエンジン、ガスタービンで発電し、排熱を、 冷房(吸収式冷凍機)、給湯・暖房、蒸気の形で使う方式。買電、石油ボイラーによる給湯・暖房を行う方式では総合エネルギー利用効率は五○%程度にしか ならないが、TESでは、七○∼八○%になるという。石油業界としては、消費拡大の一環として開発、販売に積極的である。試算によると、燃料費節約によ り三、四年で建設コストを回収できるとしている。電気、都市ガスなどの公共料金の硬直性に対し、エネルギー多様化による選択の自由の確保を売りものにし て、市場拡張を図ろうとしている。実際例として有名なのは、石和温泉観光ホテル、ホリデイイン豊橋などである。 ◆未利用エネルギー(disutilized energy)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 省エネルギーの有効な方法の一つとして、未利用エネルギーの活用がエネルギー政策として強調されている。都市生活から出てくる排熱や、大気との温度差を 利用した河川水、下水処理などの熱といった、今まで利用されなかったエネルギーを有効に活用すること。社会システムの中に省エネルギーの観点を取り込ん だ「予防的な省エネ」で炭酸ガス、窒素酸化物などの削減もでき、環境保全の促進にも役立つ。資源エネルギー庁では「エネルギーインフラ整備室」を発足さ せ、未利用エネルギー活用システムの導入方策の検討を開始した。現在、大気中などへ放出している未利用熱エネルギーを再生、利用することで、既存の冷暖 房システムを使う場合に比べ窒素酸化物を六○∼八○%削減できるほか、二○一○年までの国内の炭酸ガス増加量を約一○%減少させることができ、地球環境 の保全を促進する効果がある。排熱活用システムの事業化に向けた二○一○年までのインフラ整備には総額二四兆円の多大な投資が必要になる。 ◆エネルギー弾性値/原単位(energy-GNP elasticity/energy intensity)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 エネルギー消費の伸び率と経済成長率の比。日本では一九七三年の石油危機以前は、エネルギー弾性値は一以上であったが、七三∼八六(昭和四八∼六一)年 度は○・三と、エネルギー多消費産業の停滞、省エネルギーの進行で小さかった。八七∼九一(昭和六二∼平成三)年度は○・九程度に戻っている。省エネル ギーの後退とエネルギー多消費産業の活況による。最近ではむしろGNP(またはGDP)一単位のエネルギー消費量の傾向値(原単位)でみたほうが適切で あると考えられている。エネルギー価格が上昇し、エネルギー利用の効率が進むにつれてエネルギー弾性値は○・六∼○・四と小さくなるということが省エネ ルギーの一つの指標ともなっている。八○年六月のベネチア・サミットでは、九○年までにエネルギー弾性値を○・六まで引き下げることが目標とされた。九 四(平成六)年六月発表の長期見通しでは一九九二∼二○一○年に○・三(エネルギーの伸び率○・九%をGNPの伸び率三%で割ったもの)となっている。 皮肉なことに、九一∼九五年度はGNPが年率一%以下だったにもかかわらず、一次エネルギー需要と、猛暑、物量景気、消エネ後退等で大幅に伸びた。 ◆電力不足(electric shortage)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 一九九○(平成二)年の夏は、記録的な猛暑と好景気が重なり、例年、七月、八月にみられる電力需要のピークが一挙に数年分増加した。特に東京電力の供給 地域である首都圏では、ピーク需要がこれまでの年平均約一五○万キロワットの増加であったのに対し、その四倍の約六○○万キロワットにも急増した。東京 電力は他の電力会社や一部自家発電から融通を受ける(自家電力融通)一方、割安な料金を条件に需給調整契約を結んでいる大口需要家(主として工場)への 電力供給を最大一○○万キロワット削減して(緊急カット契約)、電力不足を切り抜けた。これは家庭や事務所ビルなどのエアコンや、最近普及しはじめた工 場空調などの高稼働が、好景気で高水準で推移する産業用需要に加わったためであるが、都市がヒートアイランド化し、コンクリートやアスファルトの蓄熱効 果が大きくなり、熱を吸収すべき樹木が少なくなったことなどによって自然の暑さ以上に暑くなりピーク需要を押しあげたものと考えられる。一方、発電設備 の建設計画が予想を上回る電力需要の伸びに追いつけないことや、首都圏への一極集中の問題や、広域運営の必要性からの九電力体制見直し論まで出ている。 通産省では、導入ずみの時間帯別料金制度とは別に、家庭向け電気料金を夏の電力需要拡大期だけ割高にする季節別料金制度の導入を検討しているという。 九三(平成五)年は冷夏で表面化しなかったが、九四年は記録的な猛暑で不況下にもかかわらず電力不足が表面化した。九五年も八月は史上最高の暑さになり ピークを更新した。今後も景気や気温しだいではあるが、基本的には電力不足の可能性は解消されない。九五年の電気事業法改正で、規制緩和によるコストダ ウンを目標に電気事業者以外も卸発電事業が認められたが、背景には大都市での電力不足がある。 ◆東京大停電シミュレーション(simulation of blackout in greater Tokyo)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 東京圏(東京、神奈川、千葉、埼玉、人口三二○○万人、一一五○万世帯が住む)で八月下旬の月曜日午後一時から三日間停電した場合どのような社会的、経 済的影響が出るかをシミュレーションしたもの。停電の原因は、暑さに対するクーラー等の電力消費が急上昇し、供給が対応できないという設定。実際、一九 八七(昭和六二)年七月二三日に同様の理由で約二八○万戸が停電の経験をしている。被害額の推定は、日本エネルギー経済研究所のモデルを用いた推定だと、 その後の一年間の波及効果を含めて一兆八○○○億円にのぼるという。停電による一番深刻な影響は、断水である。東京圏に住む世帯の約三割の三五○万世帯 が三階以上の高層建物に住む。そこは汲み上げポンプ式で停電になると数時間で水道は止まる。次いで病院等の医療機関での停電である。大病院等は自家発電 設備が義務付けられているが、日頃の点検が十分でない場合や、燃料確保が不十分だと自家発電が停電後すぐに機能を発揮しない。その次は交通である。私鉄、 地下鉄は保安用にのみ自家発電があるが、運行や信号機用の電源はない。JRも自家発電があるが、運転や信号機の作動に大きな支障が出てくるためかなりの 部分がストップする。バスやタクシーに乗っても、交通信号がすべて消えてしまい大渋滞のため職場や移動先から当日中に帰宅できない人が多い。その他多く の問題が起こるが家庭生活での被害額はモデルシミュレーションによると世帯当たり二万一四○○円と推定された。これは生活水準が平均で普段に比べ半分に なることを意味している。しかし、断水でトイレに行けないとか、熱帯魚が死んでしまうとか定量化できない影響や、東京に情報ネットワークの中枢が一極集 中しているため、全国への波及や国際的な波紋を考慮すると被害額は一○倍以上(一八兆円以上)になることも考えられるという。このシミュレーションは、 「フォーラム・エネルギーを考える(元経済企画庁長官高原須美子代表)」が日本エネルギー経済研究所に調査を委託したもの。 ◆電源ベストミックス(best power sorce mix)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 電力需要に対応する電力供給において、いかなるエネルギー源をミックスさせるか経済性、安定性、負荷追従性、クリーン性など多様な観点から判断するもの。 全国ベースと各電力会社では、地域性、立地条件、需要構造などにより変わってくる。また発電能力設備での組合せと発電量ベースでの組合せがある。組合せ においては、経済性、安定性に優れている原子力をどこまで入れるかが鍵となる。発電設備で四割、電力量ベースで六割が最終目標とされている。火力(石炭、 天然ガス、石油)は化石燃料の価格、為替レートや発電所の建設費などの見通しによって、経済性が原子力との比較において異なってくるが、原子力がベース ロードを受け持ち、火力はミドルロード・ピークロードを操作性(負荷追従性)のよさもあって受け持つことになろう。 ◆発電原価(cost of power generation)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料が、低位安定し、技術進歩による複合ガス化発電の発電コストの相対的安さと、原子力発電の年々のコスト上昇が目立っ ている。 火力は地球温暖化問題があり、原子力発電の建設コスト削減の可能性があるなど原子力に有利な点もあり、電力会社も原子力優先の方針は変えていない。しか し、原子力は安いと単純にいえなくなったことは確かである。日本エネルギー経済研究所の試算によると、一九九四(平成六)年度運転開始分の発電コストは、 原子力発電が一キロワット/時当たり九・九円、石炭火力が一○・二円、LNG火力が一○・○円。ただし、二○○○年度運用開始分では、原子力発電が一○・ 一円、石炭火力一一・一円、LNG火力が一一・○円となっている。 ▲石油問題と石油政策〔1997 年版 エネルギー・石油〕 石油産業の規制緩和は、特石法が期限切れ(九六年三月)になり、備蓄義務と品質維持ができれば精製能力を持たなくても石油製品の輸入ができるようになっ た。具体的には、商社、農協、スーパーなどが、ガソリン市場に参入し、国産を含めて値引き競争が激しくなっている。 ◆OPEC(石油輸出国機構)(Organization of Petroleum Exporting Countries)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 一九六○年九月一四日、イラク政府の招請によって、イラン、クウェート、サウジアラビア、ベネズエラの代表が集まり、五カ国で結成した石油生産輸出国の 協議会。現在の加盟国は、前記創設国に加えカタール、インドネシア、リビア、アラブ首長国連邦、アルジェリア、ナイジェリアの一一カ国の国際組織となっ ている(ガボンが 96 年 6 月に脱退)。石油需要の増加が続いている時期には、石油価格引上げで足並みが揃っていたが、石油需給が緩和してくると、生産調整、 原油価格差設定をめぐって、内部対立が目立ってきた。最近では合計二五○○万バレル/日の生産枠が決まっているので、価格の高い軽質原油の増産圧力が強 く、重質原油との価格差が小さくなっている。また、二一世紀に入って、OPEC依存度はアジア、アメリカ等からの輸入増で、第一次石油危機のあった頃と 同じ五○%以上(現在四○%)になることが予想されている。 ◆スポット市場(spot oil market)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 原油と製品のスポットマーケット(現物市場)である。製品のスポットマーケットはオランダのロッテルダムをはじめ従来から一般的であった。スポット市場 で取引される原油の量は、世界の原油貿易量のうち三∼五%と比較的小さかったが一九八三年以降、ヨーロッパではイギリスが安値のスポット販売に対して有 利になるような税制を採用したため、産油国も大半をスポット販売するようになり、スポット比率は急増。OPEC原油販売の大半がスポットか、スポット価 格連動となっている。日本着原油輸入価格もドバイとオマーン原油のスポット価格に連動している物が大半といわれている。 ◆石油先物市場(future market for oil)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 石油取引を世界の有力商品取引所で取り扱い、通常の市場経済に組み込んでいこうという動き。メジャーズの勢力が強かった時期には、原油取引の九五%程度 がメジャーズの内部取引であったが、産油国の国有化方針が増え、それにつれてスポット取引も増えつつあるため、これを機に、ロンドン、ニューヨークなど で原油の先物取引を開始し、需給、価格の先行指標として、市場の安定化に役立てようというもの。現在ニューヨークとロンドン市場では原油と軽油、暖房油、 シンガポール市場では重油が対象として相場が立っている。先物市場としてはニューヨークのNYMEXが最大である。取引高は実際の原油取引高を大きく上 回ることがある。先物市場は価格高騰調整機能がある半面、投機的な動きを加速する恐れもある。 ◆メジャーズ(国際石油資本)(major oil companies)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 エクソン、モービル、テキサコ、シェブロン(スタンダード・オブ・カリフォルニア)、ガルフ(以上、アメリカ系)と、BP(ブリティッシュ・ペトロリア ム、イギリス)、ロイヤル・ダッチ・シェル(イギリス・オランダ)の七社(セブン・シスターズともいわれた)をいう。フランス石油を加えて八大メジャー ズということもあった。石油産業の採掘、輸送、精製、販売のうち、原油採掘もしくは精製業の一部門だけ扱う独立系(インデペンデント)に対し、全段階に わたる大企業という意味でメジャーズとよばれる。 長年、世界の石油の宝庫中東での石油生産の九九%以上を一手に掌握してきたが、一九五一年のイランの石油資源国有化を皮切りに、六○年、イラクの鉱区接 収、七二年、同じくイラクのイラク石油の国有化、七三年一月からのアラビア湾岸諸国の二五%資本参加、七三年五月、イランの石油資産全面国有化、さらに、 七九年以降の中東、南米、アフリカにわたる全面国有化の波により、メジャーズの資産・施設は大半の産油国で接収され原油の支配力もなくなった。 ガルフは、八四年三月シェブロンに吸収合併されて姿を消した。他のメジャーズも、かつての一貫操業体制に固執せず、採算のよい部門に特化するなど大きく 変わってきている。しかし、メジャーズの資金力、技術力は強力で、収益力は抜群である。最近は探鉱開発の技術革新による非OPEC地域(北海等)での収 益増のため、そこに投資を集中させている。 ◆中国の石油市場(oil market in China)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 石油生産で一九九六年現在世界第五位(三○○万バレル/日)の中国は一二億の国民の生活水準の向上、特に改革開放で沿岸地域の高度成長による石油需要増 で石油輸入が増え、一九九三年に輸出国から輸入国に転じてしまった。中国は、モータリゼーションの進行、電化製品の普及、非商品エネルギー(薪、わらな ど)から商品エネルギーへのシフトなどで、ガソリン、軽油などの石油製品、民生用の電力(その発電燃料である石炭)など消費が年二桁以上の率で伸びてい るが、国内供給(生産、輸送)に限度があり、二○一○年頃には石油で二五○万∼三○○万バレル/日、石炭で五○○○∼六○○○万トンの輸入が必要になり、 世界のエネルギー市場に大きな影響を与えることが予想されている。 ◆特石法(provisional law on importation of specific petroleum products)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 正確には、特定石油製品輸入暫定措置法といい、一九八六(昭和六一)年一月六日から九六(平成八)年三月末まで施行された。石油業法第一二条の石油輸入 業の届出の規定を補完する特別法で、それは行政指導で原則的に輸入が認められなかったガソリン、軽油、灯油の三製品について、(1)輸入中断時に石油製 品の代替的な生産・供給能力、 (2)製品の品質の検査と調合する能力、 (3)備蓄能力、のいずれをも有する者を輸入資格者として登録させることで、石油供 給の安定性を維持しようとしたものである。実際には精製元売二三社だけが資格者となった。その後、三製品の輸入は急速に拡大したが、九二年より原油処理 枠がなくなり、原油で輸入し精製したほうが有利になったため、製品輸入は縮小した。九五年四月、特石法の有効期限切れ(九六年三月末)と同時に廃止され ることが決まった。九六年四月からは、備蓄、品質管理義務が決まれば誰でもガソリン等を輸入することができるようになった。 ◆石油市場規制自由化のアクションプログラム(action program for deregulation of oil market)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 石油審議会は、一九八七(昭和六二)年六月、石油市場の規制緩和のプログラムを発表した。六二年に石油業法が制定されて以来わが国の石油産業は、輸入、 精製、販売まで過度の規制が行われてきた。全般的なディレギュレーション(規制撤廃)の動きの中で、内外の要請に応えて、民間の活力を生かすべく行政指 導の緩和が行われる「一九九○年代に向けての石油産業・石油政策のあり方について」の報告に基づくもので、八七∼九一年度に段階的に行っていく。骨子は 以下のとおり。 (1)精製設備新増設の認可の弾力化―八七年度中、(2)ガソリン生産割当(PQ)の廃止―八八年度中、(3)原油処理量の規制の廃止―九一年度末まで、 (4)給油所の建設指導、給油所転籍ルールの廃止―八九年度内、であったが、すべて実行された。 ◆石油備蓄法(low on petroleum storage)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 石油の供給中断にそなえて、一九七五(昭和五○)年一二月に公布され、翌年一○月から、備蓄量増強が実施された。七九年度末までに九○日分の石油をスト ックする体制をつくるための法律。スエズ紛争をはじめとして、中東戦争など中東の石油供給事情が不安定なために、OECD諸国の共通エネルギー政策の重 要な一項目となっている。たとえば緊急時の相互融通を受けるには、この備蓄業務を達成していることが要件となる。九○年八月のイラクのクウェート侵攻で 注目されたが、備蓄は九六年三月末現在一五○日(国家備蓄七六日分、民間備蓄七四日分)あるが、原油価格の安定に対して、取り崩しがどれだけ有効かが試 されている。国家備蓄は五○○○万キロリットル達成を目標としている。 他方、LPガス(プロパン‐ブタン)も輸入に頼っている以上、備蓄を強化すべきだという考えが強まり、八一年四月に法改正して、LPガスも備蓄の対象に 加えられた。通産省資源エネルギー庁は、九五年度から国家備蓄基地の建設に着手し、二○一○年度に年間輸入量の約四○日分に相当する約一五○万トンの備 蓄達成を目標とすることを九二年五月に発表している。民間備蓄の五○日分と合わせると、九○日の備蓄体制が整う。 ●最新キーワード〔1997 年版 エネルギー・石油〕 ●売電事業(Electric Power Wholesaler)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 規制緩和によるコストダウンの一環として電気事業法が大幅に改正され、一九九五(平成七)年一二月から施行された。発電分野に競争原理を導入し、安い電 気料金を実現するために、電力会社が行う募集入札で最も安い電気価格を提示すれば電気事業者以外でも参入できる。電力会社の説明会では、ベースロード(七 ○%稼動)でキロワット時当たり一○円前後が上限として提示された。 この売電事業に新規参入を目指しているのは、すでに自家発電で経験があり、敷地もすでに確保して、大気汚染に対する枠をもっているなどすでに優位に立っ ている、鉄鋼、石油精製、セメント製造、紙・パルプ産業などが参入に意欲的である。参入条件(売電価格)が厳しいといわれているが、特に素材系産業、石 油精製業にとっては安定した収入が得られるビジネスチャンスとして注目されている。電力六社の二六五万キロワットを大幅に上回る応募があるが、電力会社 にとっても、原子力をはじめとして立地難に直面しており、消費地に近い売電事業者から安い電気が供給されれば、そのメリットは大きい。 ●地球温暖化と長期エネルギー需給(groval warming and long-term energy supply and demand)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 地球温暖化問題は、一九九○年代に入って急速に国際的な取り組みが進行した。九二(平成四)年六月には地球サミットで地球温暖化ガスの排出抑制について 条約案がまとまった。それが気候変動枠組み条約で、九四年三月に発効した。同年九月に先進各国は事務局へ対応策を通報し、九五年三月第一回条約会議がベ ルリンで開かれた。 わが国は、このように国際的に対応して、九四年六月に通産大臣の諮問機関である総合エネルギー調査会が、二○○○年度、二○一○年度までの長期エネルギ ー需給見通しを発表した。主要な目標として化石燃料(石炭、石油、天然ガス等)の燃料による炭酸ガスの排出量を二○○○年に一人当たりで九○年水準に抑 え、その後安定化するとの目標を織り込んだ。しかし、一九九二∼二○○○年度の一次エネルギー需要を年率○・九%に省エネルギーで抑えることと同時に、 経済成長率を年率三%成長させることを同時に達成することは極めて難しい(いわゆる弾性値○・三)。原子力は二○一○年度には九二年度の二倍以上の七○ 五○万キロワットを稼働させる。太陽光発電は二○一○年度に現在の約一○○○倍の四六○万キロワットにするなど、実現が難しい目標が設定されている。 ●ゴミ発電システム(power generation system by refuse incinerator)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 ゴミ焼却排熱を利用した発電は、わが国では一九六五(昭和四○)年に完成した大阪市の西淀清掃工場(五四○○キロワット)が最初である。昭和五○年代初 めに電力会社の協力を得て東京都葛飾清掃工場において所内使用電力の約三倍(一万二○○○キロワット)の発電出力を持った、売電を目的としたゴミ発電所 が稼働した。発電を行っている清掃工場は、全国約二○○○カ所のうち九五年度末現在で一三○カ所(全体の六・八%)であるが、数、発電出力は年々増加傾 向にある。五三カ所の清掃工場で電力会社に売電されている。全国における発電設備の合計は約六四万キロワットである。九四年六月発表の電気事業審議会の 見通しでは二○○○年に二○○万キロワット、二○一○年に四○○万キロワットの完成を目指している。リサイクル型エネルギーと重要な位置付けをさせてい る。九三年、自治省は各市町村のゴミ焼却場から排出される蒸気熱を動力として活用する「スーパーゴミ発電」事業計画をまとめ九四年度から実施した。未利 用エネルギー有効利用の一環として、焼却場にガスタービンによる発電機を別途設置。ゴミ焼却場から排出される二五○度の蒸気に発電機から出る五○○度の 蒸気を付加し、三五○度まで上昇させ、発電効率を一○∼一五%から二○∼二五%に高めることが可能だとし、このパワーアップ作戦で日量約三○○万トンの 処理能力のゴミ焼却場で一万四○○○キロワット、約九万世帯が一年間に使用する量の発電が可能と試算している。 ●国土縦貫天然ガス・パイプライン(natural gas trunk pipeline across Japan)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 広域パイプライン研究会(三菱総研、東電、東京ガス、新日本製鉄など民間三二社で組織)は一九九二(平成四)年初め、今後の天然ガス需要を踏まえ国土縦 貫天然ガス・パイプラインの建設構想をまとめた。 同研究会では、二○一○年の天然ガス需要は現在の三五○○万トンから二倍の七○○○万トン程度に達すると予測。生産地で液化してLNGで運ぶ現在の方法 では限界があり、日本列島の隅々まで供給するためには従来型のパイプラインが必要と提言している。 具体的には稚内から鹿児島まで約三三○○キロのパイプラインで、東京、名古屋、大阪、福岡の既存LNG輸入基地や、臨海部の大都市をくし刺しにする。サ ハリンやシベリアのヤクーツクと直結させる。サハリン沖の開発などを見込んで、着工は二○○○年、五年後の完成を目指す。二○二○年には、日本海側ルー トを完成させ、将来的には中国、アメリカ・アラスカなどと結ぶアジア・太平洋圏のネットワークも検討している。敷設地は高速道や新幹線の高架下など公有 地の地下が主体で、建設費は約三兆円。 これとは別に東京―名古屋―大阪間を中心としたパイプライン構想が出ている。通産省はこれらの動きに対応して九三年夏、天然ガス供給基盤検討委員会をス タートさせた。 ●旧ソ連のエネルギー市場の縮小と世界のエネルギーバランス(shrinkage of energy market in Former Soviet Union and energy balances in the world)〔1997 年版 エネルギー・石油〕 一九九一(平成三)年のソ連の崩壊と経済体制移行による混乱に伴い、八五∼九○年まで年率二・五%で増加してきた世界一次エネルギー消費は、九○∼九五 年には年率○・七%増と急速に鈍化した。旧ソ連の一次エネルギー消費が九○年以前の五年間の年率一・六%増から、九○年以後の五年間には年率七・六%減 に転じたためである。旧ソ連の世界一次エネルギー消費に占める比率は、一九八五年の一八・六%から九五年には一一・六%と七ポイントも一○年間で縮小し た。 旧ソ連の原油生産は、ペレストロイカが叫ばれていた一九八八年には世界第一位は保ってはいたものの減少に転じた。八八年のピークから九五年には四七%減 少した。ロシア連邦の油田管理の不備、資材不足による減産は徐々に鈍化しているものの、九五年になっても続いた。二○○○年になる前に経済、その中枢で あるエネルギー生産が底を打って増勢に転じることが期待されている。 ▽執筆者〔1997 年版 知的所有権〕 小倉宏之(おぐら・ひろゆき) 日本国際工業所有権保護協会顧問 大楽光江(だいらく・みつえ) 日本国際工業所有権保護協会研究員・北陸大学助教授 ◎解説の角度〔1997 年版 知的所有権〕 ●引き続く不況の中で,住専処理の難航に見られるように不動産価格も下落が続いている。そんな状況の中で,目に見えるモノよりも,見えない知的財産の価 値が,ますます高まっている。何百万枚もの売上を誇るレコードの作曲者・作詞者も,爆発的に売れるファミコン・ソフトの創作者も,自分の著作物(曲,詞, コンピュータ・プログラム)の著作権によって巨額の富を手にする。また発明でも特許権を取得して富豪となる人もある。 ●もちろん,著作権も特許権も大儲けを保障してはくれない。それを具体化した商品が売れなければ利益はゼロだ。しかし機会は提供してくれる。著作物や発 明といった「知的創作物」および商標など「産業上の標識」を保護する知的所有権は,競争力の源泉となる。国家にとってもそうだ。企業も国家も,その戦略 的価値を無視できない。知的所有権は,取引上の貴重な戦略資源なのだ。企業には,自社の権利を確保し,侵害に機動的に対処し,最大限に利用するための国 際的総合戦略が不可欠である。知的所有権の貿易関連側面を規定したTRIPS協定も 96 年末に発効後,1 年を迎え,世界的に知的所有権保護強化が進みつ つある。 ▲知的所有権の基礎知識〔1997 年版 知的所有権〕 ◆知的所有権(intellectual property)〔1997 年版 知的所有権〕 知的財産権または無体財産権とも。発明・デザイン・小説など精神的創作努力の結果としての知的成果物を保護する権利の総称。物権(土地所有権など、物に 対する権利)、債権(貸金返還請求権など、他人にある行為を請求できる権利)とならぶ財産権で、知的成果という目に見えない財産(無体財産)に対する権 利。 産業の振興をめざす工業所有権(industrial property)〔特許権(patent)・実用新案権(utility model)・意匠権(registered design)・商標権(registered trademark)】、 文化の発展をめざす著作権(copyright)、およびその他の権利に大別できる。著作権と工業所有権の主な違いは、他人が独立に創作したもの を侵害として排除できるか(原則として、著作権では排除できず、工業所有権では先に権利が成立していれば排除できる)という点と、期間(工業所有権は著 作権より短期)の点である。現行法上保護される知的所有権の全体を大まかに示すと、下記のようになる。 ●特許権 〔根拠法〕‐‐特許法 〔保護対象〕‐‐発明(自然法則を利用した技術的思想のうち高度なもの) 〔保護期間〕‐‐出願日から二〇年 〔保護のための条件〕‐‐産業上利用可能性、新規性、進歩性 ●実用新案権 〔根拠法〕‐‐実用新案法 〔保護対象〕‐‐考案(自然法則を利用した技術的思想の創作であって、物品の形状、構造または組合せに係わるもの) 〔保護期間〕‐‐出願日から六年 〔保護のための条件〕‐‐産業上利用可能性、新規性、進歩性 ●意匠権 〔根拠法〕‐‐意匠法 〔保護対象〕‐‐意匠(物品の形状、模様もしくは色彩またはこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの) 〔保護期間〕‐‐設定登録から一五年 〔保護のための条件〕‐‐工業上利用可能性、新規性、創作性 ●商標権 〔根拠法〕‐‐商標法 〔保護対象〕‐‐商標またはサービスマーク(文字・図形・記号を単独か結合させて、またはそれらと色彩を結合させて、商品または役務の出所を示すために 使われるもの) 設定登録日から一〇年。更新可能。 〔保護のための条件〕‐‐自己の商品または役務を他人のものから識別させうること。 ●著作権 〔根拠法〕‐‐著作権法 〔保護対象〕‐‐著作物(思想または感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの。例:小説、講演、音楽、舞踊、絵画、 彫刻、建築、地図、図面、映画、写真、コンピュータ・プログラム) 〔保護のための条件〕‐‐オリジナリティ(他人の作品を模倣したものでないこと) ●著作者人格権(Moral Right) 〔根拠法〕‐‐著作権法 〔内容〕‐‐公表権、氏名表示権、および同一性保持権(著作物の内容を他人に勝手に変えられない権利)。著作者(個人・法人)のみに属する権利(一身専 属権)譲渡できない。著作者の死後も一定の保護。 ●著作財産権 〔根拠法〕‐‐著作権法 〔内容〕‐‐複製権、上演権、放送権、口述権、展示権、上映権、貸与権、翻訳権など。〔保護期間〕‐‐創作時から著作者死後五〇年, ただし, 法人著作物・ 映画・写真については公表後五〇年 ●その他 トレード・シークレット(不正競争防止法による) 半導体回路配置(半導体集積回路の回路配置に関する法律による) 植物新品種(種苗法) ◆知的所有権の成立〔1997 年版 知的所有権〕 所有権知的所有権がどのように成立するかは、著作権と工業所有権とで異なる。 (1)著作権は、日本が加入しているベルヌ条約との関係上、何の手続も要せず創作時に自動的に発生し(無方式主義)、著作者が最初の著作権者になる。著 作者から著作権の譲渡を受けた者が次の著作権者となる。しかし著作者人格権は著作者にとどまる。著作権は、複製権や貸与権など各種の権利を内容とするの で、その一部または全部を譲渡したり、ライセンス(権利の使用許諾)したりできる。ライセンスの対価がロイヤルティ(権利使用料)である。著作権の担当 官庁は文化庁。 (2)工業所有権については、特許・実用新案・意匠・商標の各々で手続は少々違うものの、特許庁での出願と審査を要する。ただし実用新案は、一九九三(平 成五)年四月二三日公布の改正法により、審査制度廃止。九四年一月一日からは実体審査なしの設定登録で権利発生。九○年一二月からは、世界初の電子出願 (コンピュータ・オンラインでの出願)が可能となっている。成立した各権利は譲渡もライセンスも可能。日本の特許出願手続の概要は以下の通り。 (1) 出願〔出願後七年以内に「審査請求」〕 ↓ (2) 方式審査〔書類が整っているか〕 ↓ (3) 出願公開〔出願後一八ヵ月以内に、自動的に内容を公開特許公報で公開。→重複研究・出願の廃止〕 ↓ (4) 実体審査〔出願内容が特許に適当かにつき審査→産業上利用可能性・新規性・進歩性について〕 ↓ (5) 特許査定〔拒絶査定の場合は、拒絶査定不服審判を受けられる〕 ↓ (6) 特許料納付 ↓ (7) 設定登録〔特許権発生、出願後二〇年継続〕 ↓ (8) 特許公報に掲載〔公報発行後六ヵ月内に、権利付与の判断に対して第三者が異議申立て〕 ↓ (9) 特許権存続あるいは特許取消し ◆先願主義/先発明主義〔1997 年版 知的所有権〕 同一内容の出願がなされた場合に誰を優先するか、についての考え方。先に出願した者を優先するのが、先願主義(first-to-file system)で日本をはじめとし てほとんどの国で採用されている。これに対し、特許について先に発明した者を優先するのが先発明主義(first-to-invent system)。アメリカは、先進国では 唯一、先発明主義を採用しているため問題とされている(アメリカでは、意匠も特許で保護される)。先発明主義では、誰が最初に発明したかを決定する必要 があるが、そのための手続が抵触審査(Interference)である。 ◆特許審査基準(patent examination standards)〔1997 年版 知的所有権〕 出願された発明が特許適格かどうかについての特許庁の判断基準。一九九三(平成五)年、技術革新への対応と国際調和を目的として大幅改定。(1)審査基 準の整理統合による明確化、 (2)特許請求範囲の拡大による発明者の権利強化、 (3)コンピュータ・プログラムと、バイオテクノロジーに関する特許取得条 件の明確化、など。 ◆工業所有権の権利内容〔1997 年版 (1)特許権 知的所有権〕 特許を付与された発明を、排他的(独占的)に、業として(反復継続的に)、実施(使用、および発明製品の生産・譲渡・貸渡し・輸入など) できる権利。保護される発明の範囲は、願書に添付される明細書の「特許請求の範囲」により特定。 (2)実用新案権 考案を業として実施できる排他的権利。 (3)意匠権 登録意匠を、業として、排他的に実施(その意匠を付した物品の製造・使用・譲渡・輸入など)する権利。 (4)商標権 指定商品に登録商標を排他的に使用する権利。 使用とは、商品やその包装に商標を付すこと、商標付商品の譲渡・引渡し・輸入など、広告での使用、などをいう。 ◆知的所有権の侵害〔1997 年版 知的所有権〕 知的所有権者に権利として認められる行為を他人が無断で行うと、正当事由がないかぎり権利侵害(infringement)となる。侵害に対する救済手段(remedies) として、差止請求・損害賠償請求・不当利得返還請求・信用回復措置請求などがある。また、懲役・罰金などの刑事制裁の定めもある。 ◆知的所有権担保融資〔1997 年版 知的所有権〕 不動産など物的担保のない場合の多いベンチャー企業でも融資を受けられるように、知的所有権を担保とする方法。しかし、権利成立の確度と権利の各評価基 準の設定という難問がある。特許権評価では、製品売上予想から製造原価などを引いて収益を予想する方法などがある。 ◆知的所有権訴訟費用保険〔1997 年版 知的所有権〕 国内国外での知的所有権侵害訴訟の費用をカバーする保険。損害賠償金・和解金などは除外。工業所有権を対象とし、著作権は含まない。一九九四(平成六) 年九月に損害保険各社が発売。侵害訴訟の多発と、特にアメリカでの高額な訴訟費用から、需要が見込まれる。 ◆著作隣接権(neighboring right)〔1997 年版 実演家(performers 知的所有権〕 俳優・演奏家・歌手・演出家など)、レコード製作者、 (有線)放送事業者を保護する権利。これらの者は、著作物の創作はしないが、著 作物伝達という重要な役割を果たしているので著作権と隣接する権利によって保護される。内容は、実演家の録音・録画権や放送権、レコード製作者の複製権・ 貸与権、放送事業者の複製権・再放送権など。カラオケボックスなどでのCD録音は、カラオケ用音楽の演奏家の著作隣接権との関係で問題がある。存続期間 は、実演・音の最初の固定・放送の翌年から起算して五○年。 ◆サービスマーク(service mark)〔1997 年版 知的所有権〕 運輸・金融・放送・保険・飲食業など自己の提供するサービス(役務)を他人のサービスから区別するためのマーク(標章)。これに対し商標(trade mark) は、スカーフの「エルメス」のように自己の「商」品を他人の商品から区別するための「標」識である。いずれも商標法の保護対象だがサービスマーク保護は 一九九二年四月から。登録第一号はオリックス。 ◆営業秘密(trade secret)〔1997 年版 知的所有権〕 企業が秘密として管理している、事業活動に有用な技術情報または営業情報で、公然と知られてはいないもの。代表例はコカコーラ原液の処方。他に研究デー タ・設計図・顧客名簿・販売マニュアルなどを含む。一九九一(平成三)年六月一五日施行の改正不正競争防止法で新たに保護された。 改正の背景は、情報化社会の進展で企業の秘密情報の重要性が増したことと、GATTウルグアイ・ラウンドのTRIP(知的所有権の貿易関連側面)交渉で その保護が問題となったこと。いわゆる「ノウハウ(企業経験から蓄積された秘訣一般)」では範囲が不明確とされた。特許はアイデアの公開を代償として保 護するが、営業秘密保護制度は、非公開での保護を目的として不正な取得・使用・開示に対する差止・損害賠償・信用回復措置の請求を認める。 ◆不正競争防止法(Unfair Competition Prevention Law)〔1997 年版 知的所有権〕 一九三四(昭和九)年制定。広く知られた他人の氏名・商号・標章などの商品表示また営業表示を使用して混同させるなどの不正競争行為に対して、差止、損 害賠償、信用回復措置を請求できるとする法律。一部の行為につき罰則もある。九一(平成三)年に営業秘密保護を加え、九三年五月全面改正された。改正内 容は、 (1)ひらがな表記化、 (2)目的・定義規定の新設、 (3)商品形態の模倣(デッドコピー) ・著名表示の無断使用(「ソニー」パチンコ店など) ・サービ スの不当表示(専門家と称して素人を派遣)などを規制対象に追加、 (4)罰金額引上げ(上限五○万円を三○○万円)、法人重課(最高一億円)の追加、など である。 ◆コンピュータ・プログラムの保護〔1997 年版 知的所有権〕 コンピュータに不可欠なプログラムの開発には巨額の資金を要するので、その財産的価値は大きい。しかしコピーは簡単なので、海賊版が出回ると開発した企 業の被害は大きい。主に著作権で保護するのが日米はじめ世界的傾向(アメリカは一九八○年、日本は八五年から)。ただしプログラム言語・規約(言語用法 の約束事項) ・解法(アルゴリズム、指令の組合せ方法)は保護されない。一方、コンピュータ・プログラムには、デバグ(間違いを除くこと)やバージョン・ アップなどの改変が必要なので、無断改変を禁止する同一性保持権を制限して、それらを認める特例がおかれている。しかし、著作権の保護は表現にしか及ば ないので、最近はプログラムの内容となっているアイデアを保護するため特許出願をする例も増えている。 ◆半導体回路配置の保護〔1997 年版 知的所有権〕 半導体チップの回路配置は、多額の投資によってデザインされるのにコピーは簡単なため、アメリカが一九八四年に半導体チップ保護法を制定した翌八五(昭 和六○)年、日本も保護法を制定(半導体集積回路の回路配置に関する法律)。回路配置の創作者は同法により、回路配置利用権を設定登録すれば、回路配置 を排他的に製造・譲渡・貸渡し・展示・輸入できる。権利存続期間は登録日から一○年。侵害に対しては差止・損害賠償の請求が可能。罰則もある。 ◆バイオテクノロジーの保護〔1997 年版 知的所有権〕 遺伝子組換え、細胞融合などのバイオ技術の進歩により、ポテトとトマトからのポマトなど植物新品種や、石油分解バクテリア(微生物)・がんにかかりやす い実験用ネズミの登場など、生命体に関わるアイデアの保護が問題となっている。バイオ技術は薬品・食品・化学・農業など応用範囲が広く、心筋梗塞治療用 TPAのように日米企業間で特許紛争を生じているものも多い。植物新品種は「植物新品種の保護に関する国際条約(日本は一九八二年加入)」の九一(平成 三)年三月の改正で、バイオ技術によるものも含めて、種苗法と特許法による二重の保護が可能となった。種苗法による保護は登録日から一五年(果樹など永 年性植物は一八年)存続。微生物の発明には特許が可能である。動物については倫理的反対など難問が多い。 ◆キャラクター・マーチャンダイジング(character merchandising)〔1997 年版 知的所有権〕 スヌーピーやアンパンマンなどの人気キャラクターを、商品につけたりサービスの宣伝に使ったりすること。著作権・意匠権・商標権・不正競争防止法・民法 (契約法・不法行為法)・独禁法など多くの法律が関係する。たとえばアニメ「キャンディ・キャンディ」のキャラクターを無断でTシャツにプリントして販 売した業者は、著作権の侵害として有罪判決を受けている。権利を侵害せずにキャラクター・マーチャンダイジングを行うには、権利者とライセンス契約を結 ぶ必要がある。 ◆フランチャイジング(franchizing)〔1997 年版 知的所有権〕 ハンバーガー・チェーンのように、フランチャイザー(事業本部)が、フランチャイジー(加盟店)に、チェーン全体を統一的イメージで事業展開するために、 自己の商標の下に築いた広範な経営ノウハウ(店舗の内外装・運営マニュアル・商品展開・仕入れ方法など)を提供し、見返りに加盟金や売上の一部を受ける、 契約関係。これによってフランチャイザーは、最小限の投資で地域を拡大できる。加盟者は独立の個人や企業だが、全体としてフランチャイザーを頂点とする 単一の事業体のような外観となる。契約の中核は商標ライセンスだが、たとえば提供商品がフランチャイザーの特許権の対象である場合のように、フランチャ イザーの有する権利内容によって、特許権・意匠権・著作権・営業秘密など多種多様な知的所有権のライセンスが関わってくる場合が多い。 ◆職務創作〔1997 年版 知的所有権〕 使用者(国・地方公共団体・法人・団体など)の指揮監督下での、従業者の創作活動とその成果。従業者には役員・公務員・顧問・出向社員など、指揮監督関 係にある者を広く含む。 「法人などの発意で職務上作成される著作物」を職務著作といい、著作権は原則としてその法人などに帰属する。他方、 「使用者などの 業務範囲に属する発明(または考案、意匠)の創作行為が、従業者の現在または過去の職務に属する場合」を職務発明(考案、意匠)といい、この場合は職務 著作とは逆に、特許などを受ける権利は従業者に属する。ただし使用者は、その特許権などを無償で利用できる(通常実施権)。 ◆仲介業務団体〔1997 年版 知的所有権〕 著作権者には著作物を利用する権利があるが、多数の利用者に個別に許諾を与えるのは大変なので、法律にもとづき著作権者から権利行使の委託を受け、集中 処理できるように設けられた団体。日本音楽著作権協会(JASRAC)・日本文芸著作権保護同盟・日本放送作家組合などがある。 ◆知的所有権の国際的保護〔1997 年版 知的所有権〕 知的所有権は、独自の産業・文化政策にもとづいて各国が保護を与えるという性質上、各国の領土内で成立し国内でのみ効力を有する(属地主義 principle of territoriality)のが原則。各国は、二国間または多国間の条約がなければ、外国で成立した知的所有権を承認する義務はない。そこで、諸国で知的所有権を確 保しようとすれば、各国個別の手続が必要となる。一方、経済相互依存の進展により、知的所有権保護のための国際的ネットワークとして各種条約が重要性を 増している。知的所有権の国際的保護のためのフォーラムとして重要なのが、公的国際機関WIPOとWTOであり、民間機関AIPPIである。 ◆世界知的所有権機関(WIPO)(World Intellectual Property Organization)〔1997 年版 知的所有権〕 国連の一六の専門機関の一つ(一九七四年)。本部はスイスのジュネーブ。六七年にストックホルムで署名された「世界知的所有権機関を設立する条約」にも とづき、七○年設立。前身は、工業所有権保護のためのパリ条約(一八八三年)と著作権保護のためのベルヌ条約(一八八六年)の合同事務局〔一八九三年、 BIRPI(知的所有権保護合同国際事務局)〕。世界の知的所有権保護の促進と、パリ同盟やベルヌ同盟など各種の知的所有権同盟の管理への協力を目的とす る。工業所有権と著作権という二大領域を対象とする。特に発展途上国における知的所有権制度の近代化の支援に力を入れている。一九九六年一月現在一五七 カ国が加盟(日本は七五年四月)。 ◆特許制度の統一〔1997 年版 知的所有権〕 WIPOでの各国制度の調和(harmonization)のための特許調和条約案検討作業は、各国の利害対立(知的所有権保護より自国産業育成を優先する発展途上 国と先進国との南北対立や、先願主義・先発明主義をめぐる対立など)とGATT交渉の結果待ちで進展が遅れていたが、南北問題をGATTに委ね、手続き 面の統一に絞ることで一時前進が期待された。しかし、アメリカが先発明主義に固執し、さらに審査期間短縮が条約案に含まれないことを理由に合意を拒否し たため、一九九四(平成六)年九月には条約案が否決され、特許制度の国際的統一が再び振出しに戻った。 ◆パリ条約(the Paris Convention for the Protection of Industrial Property)〔1997 年版 知的所有権〕 「工業所有権の保護に関する一八八三年三月二○日のパリ条約」が正式名称。工業所有権の国際的保護のための基本的な条約。 締約国は同盟(union)を形 成。加盟国間の関係を強化するためである。一九九六年一月現在一三六カ国加盟〔日本は一八九九(明治三二)年七月〕。最新のストックホルム改正(一九六 七年)まで、数次の改正を経ている。 保護の対象は、発明・実用新案・意匠・商標・サービスマーク・商号(企業の名称)・地理的表示(原産地表示と原産地名称)と広く、さらに不正競争防止規 定も含む。 基本原理は、 (1)内国民待遇(national treatment 他の同盟国の国民に、自国民と同一の保護を与える)、 (2)優先権(right of priority)制度、および(3) 共通規定(締約国すべてが従うべき最低限の保護規定)。優先権とは、ある締約国での出願後一定期間(特許・実用新案は一二カ月、意匠・商標は六カ月)内 の他の締約国への出願は、最初の出願と同じ日に出願したとみなす制度。同期間中は新規性が確保されるので、出願人はその間にどの国の保護を求めるかを考 えて手続できるのが利点。共通規定の内容は、特許独立の原則(independence of patents ある国で無効とされても他国での特許の効力は左右されない)など。 同盟国は、この条約の規定に反しないかぎり相互に工業所有権保護に関する「特別の取決め (special agreements)」を締結できる(一九条)。同条にもとづ く多国間または二国間の条約・協定は数多い。その中でWIPOが管理するものは次のとおり。 (1)特許協力条約(PCT Patent Cooperation Treaty)各国特許庁への重複出願の回避と出願人・特許庁の負担減とを目的として、一九七○年ワシントン で締結された特許出願方式統一のための条約。七八年一月発効。九六年一月一日現在八三カ国加入(日本は七八年一○月)。この条約により、一件の出願で、 指定した国々で別々に出願したと同様の効果、たとえば、保護を受けたい国々を指定して日本の特許庁(受理官庁)に日本語で国際出願すれば、その出願の日 に各指定国で出願したと同一の効果が生じる。また同条約は、十分な審査能力のない国でも安定した特許を付与できるように、先行技術(prior art)調査に当 たる国際調査機関(International Searching Authority)の制度を規定。現在は、オーストラリア、オーストリア、中国、日本、ロシア、スペイン、スウェー デン、アメリカの各特許庁と欧州特許庁が担当。九五年のWIPOの国際出願受理件数は三万八九○五件、一出願当たりの平均指定国数は四六・四五カ国。 (2)植物新品種保護のための国際条約(International Convention for the Protectionof New Varieties of Plants,1961) 植物新品種育成者の国際的保護制 度を定める。締約国は同盟(UPOVUnion for the Protection of New Varieties of Plants)を形成。九二年一月一日現在、二一カ国加盟(日本は八二年九月)。 (3)さらに、(1)特許につき、ストラスブール協定(国際特許分類 につき、ハーグ協定(意匠の国際寄託 1925)、ロカルノ協定(工業的意匠の国際分類 ニース協定(標章登録用の商品・サービスの国際分類 導的な原産地表示の防止 1971)、ブダペスト条約(特許手続上の微生物寄託の国際的承認 1968)、 (3)商標につき、マドリッド協定(標章の国際登録 1957)、ウィーン協定(標章の図形要素の国際分類 1891)、リスボン協定(原産地名称の保護と国際登録 1977)、(2)意匠 1891)、 1973)、 (4)その他、マドリッド協定(虚偽・誤 1958)、ワシントン条約(半導体集積回路 1989―未発効)、など。このうち 日本未加入は、ハーグ、ロカルノ、ウィーン、リスボンの各協定。 ◆欧州特許条約(EPC)(European Patent Convention)〔1997 年版 知的所有権〕 一九七七年発効。パリ条約の特別取決めとしての広域特許条約。この条約で欧州特許機構とその運営にあたる欧州特許庁(EPO European Patent Office ミ ュンヘン)が設置された。加盟国は九○年現在一四カ国。単一の手続(EPOでの出願・審査)によって、保護を希望して指定した複数の締約国での国内特許 の取得を可能とする。締約国以外(例、日本)からの出願も可能。PCT出願の際にEPOを指定することもできる。付与された欧州特許は各指定締約国で国 内法に応じた内容の相互に独立した特許となる。成立するのは複数の特許。これに対し、EC全域に有効な単一の統一的特許を成立させようとする共同体特許 条約(Community Patent Convention)はEC加盟国のみが加入可能だが、未発効。 ◆ベルヌ条約(the Berne Convention for the Protection of Literary and Artistic Works)〔1997 年版 知的所有権〕 著作権に関する基本的条約(正式には、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約)。一八八六年スイスのベルンで締結。一九七一年のパリ改正まで 数次の改正。締約国は同盟を形成。九六年一月一一日現在一一七カ国加盟(日本は一八九九年、アメリカは一九八八年)。(1)内国民待遇、(2)無方式主義 (著作権は創作時に発生)などが原則。著作権の保護期間を創作後著作者の生存間と死後五○年とするなど最低保護基準を定める一方、途上国には翻訳権と複 製権につき例外を設定。 九六年一二月には、二五年ぶりの改正のため外交会議を予定。条約整備(コンピュータ・プログラムなど)用特別取極、実演家などの保護、データ・ベース保 護がテーマ。 ◆万国著作権条約(the Universal Copyright Convention 1952)〔1997 年版 知的所有権〕 著作権の発生に登録などの方式を要する国はベルヌ条約には加入できないので、それらの諸国とベルヌ同盟加盟国をつなぐために締結された条約。ユネスコが 管理。日本は五六(昭和三一)年加入。内容は、 (1)方式主義の国でも(C)表示をつければ著作権を取得できる、 (2)保護期間は最低著作者の死後二五年、 (3)翻訳権の強制許諾制、など。 ◆ローマ条約(Rome Convention for the Protection of Performers, Producers of Phonograms and Broadcasting Organizations)〔1997 年版 知的所有権〕 実演家・レコード製作者・放送事業者の保護に関する条約(一九六一年)。九六年一月三○日現在、英仏独を含め五○カ国加入(日本は八九年、アメリカは未 加入)。 ◆AIPPI(国際工業所有権保護協会)(Association Internationale pour la Protection de la Propri#t# Industrielle)〔1997 年版 知的所有権〕 パリ条約を締結に導いた官民の代表者により、工業所有権の国際的保護を目的として一八九七年に設立された世界組織。本部はスイスのチューリッヒ。日本を はじめ、米・英・独・仏・ロシアなど世界九七カ国に各国部会を有し、弁護士・弁理士・大学教授・企業法務部代表など高度の専門家約六五○○名の会員を擁 する。途上国の工業所有権制度整備の支援など、WIPOと表裏一体の国際活動を行っている。国際的専門家集団としてWIPOから諮問を受けることも多い。 最新の工業所有権問題が議論される三年ごとの世界総会での決議内容は、WIPOでの条約案の起草などに強い影響を与えている。一九九七年には一○○周年 行事を予定。 AIPPI日本部会は、通産省・特許庁・外務省・経団連・日商などの勧奨により、五六年に設立。会長は経団連会長が兼務。法人・個人を含め会員約一○○ ○名と世界最大の部会である。主要各国特許庁および関係諸機関と密接に情報交流し、日本の工業所有権制度の向上をめざし、幅広い国際活動を展開。業務拡 大のため、九一年に社団法人日本国際工業所有権保護協会(AIPPI・JAPAN)を設立。同法人は、国際工業所有権保護協会の事業への協力、条約・各 国法令の調査研究とその成果の提供・普及、および内外関係団体との交流などによって、工業所有権の国際的な保護と育成を図り、日本の産業と経済の発展に 寄与することを目的とする。 ◆TRIPS協定(Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)〔1997 年版 貿易関連知的所有権に関する協定。WTO設立協定。三附属書の一つ(Annex 知的所有権〕 1C)。 (1)知的所有権保護の最低基準、 (2)知的所有権の分野への内国民待遇と最恵国待遇の適用、 (3)権利執行(enforcement)制度、を内容とする。 (1)で は、営業秘密やサービスマークの保護、特許期間を出願から二○年以上とする、医薬特許を認める、などを規定。WTO加盟国(一九九五年三月二日現在八六 カ国・地域)は、この協定によりパリ条約・ベルヌ条約・ローマ条約・集積回路に関するワシントン条約(一九八九年)の各条約に未加入でも、加入国同様の 保護義務を負うことになった。日本も、原子核変換物質の発明を特許対象とし、特許期間を出願日から二○年とするなど、各種の法改正を行った。この協定に 従った国内法整備につき、各国の開発度の差による猶予期間の定めがある(WTO協定発効日の一九九五年一月一日から最大一一年)。 ◆TRIPS理事会(the Council for Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights,The Council for TRIPS)〔1997 年版 知的所有権〕 貿易関連知的所有権に関する理事会。WTO設立協定により、一般理事会の下に、物品貿易、サービス貿易に関する各理事会とともに設置された理事会。TR IPS協定運用の監視を担当。 ◆日米知的所有権紛争〔1997 年版 知的所有権〕 一九八五年世界最大の債務国に転落したアメリカは、国際競争力強化のため、知的所有権強化を通商政策の柱として八八年の包括通商競争力法のいわゆるスペ シャル三○一条(知的所有権保護の不備な国の特定・通商制裁)にもとづいて諸国に圧力をかけている。同条による調査と制裁決定に当たるのがUSTR(ア メリカ通商代表部)。このような国家レベルでの通商紛争に加えて、日・米企業間の知的所有権侵害訴訟も多い。日本企業は米国特許取得件数の上位にランク されるが、基本的な特許よりも周辺的な特許が多い点が弱み。また特許範囲を広く解釈するアメリカの「均等論」や、素人の陪審員による特許の陪審裁判・広 範囲な証拠提出を求める「開示手続(Discovery)」など日本にはない訴訟手続が、日本企業に不利との指摘もある。 特許侵害事件は、連邦裁判所に提訴されるほか、包括通商法で強化された関税法三三七条に基づきITC(国際貿易委員会 International Trade Commission) に、アメリカ国内の知的所有権を侵害する輸入品の通関禁止を求めることもできる。ITCでは一年内に決着するため、提訴するアメリカ企業は、対応に追わ れる日本企業より有利となる。 ◆並行輸入(parallel import)〔1997 年版 知的所有権〕 知的所有権の保護対象となる商品(ブランド品、特許製品、著作権保護商品など)が権利者によって製造され適法に市場におかれた場合に、権利者から輸入ラ イセンスを得ずに、その真正商品をその市場で購入して輸入すること。無権利者の製造した不正商品ではないこと、輸入総代理店を通さず直接買付輸入するこ と、が特徴。内外価格差から最近急増しているが、輸入国での権利者による輸入差止を認めるか問題となっている。 商標で保護されるブランド品については、万年筆に関する一九七○(昭和五五)年のパーカー判決以来、真正商品の並行輸入は適法とされてきたが、著作権と 特許権では判例が分かれ、国際的にも論争を呼んでいる。著作権についてはビデオ・カセットの東京地裁判決(「一○一匹わんちゃん」事件、一九九四年七月 一日で並行輸入が違法とされ確定)。特許権では、アルミホィールに関する一九九五年三月二三日の東京高裁判決が東京地裁判決(一九九四年七月二二日)を 覆して適法とした。特許製品の並行輸入は特許侵害にあたらない、としたのである(上告された)。TRIPS協定でも並行輸入は問題とされながら合意を見 なかった。高裁判決に対して特にアメリカは知的所有権強化の立場から批判的だが、並行輸入の問題は自由貿易促進と知的所有権保護とのバランスという難題 をはらんでいる。 ◆情報スーパーハイウェイ〔1997 年版 知的所有権〕 マルチメディア技術の急速な進歩により、音声・文字・図形・映像がデジタル情報として双方向でネットワークを飛び交う時代となってきた。アメリカでは、 クリントン大統領が高速道路のように全米に情報ネットワークをはりめぐらそうとしている。この種の計画は、特に著作権について各種の問題を抱えている。 ネットワークを流れる内容の相当部分が著作権保護の対象となるからである。たとえば、複製も表現変更も容易になるが、著作権者の複製権・同一性保持権は どうなるか、また著作物の利用許諾をどうするか、送信による出版という事態にどう対応するか、セキュリティ管理をどうするか、といった問題がある。 ▽執筆者〔1997 年版 広告宣伝〕 小林太三郎(こばやし・たさぶろう) 早稲田大学名誉教授,埼玉女子短期大学学長 1923 年群馬県生まれ。早大文学部社会学専攻卒,同大大学院修了。日本学術会議会員。著書は「広告管理の理論と実際」 「現代広告入門」 「広告」 「産業広告」 「広告のチェックリスト」「広告宣伝」「生きる広告」ほか。 ◎解説の角度〔1997 年版 広告宣伝〕 ●わが国の 1995 年の総広告費は 5 兆 4263 億円で前年比 105%,前年後半から増加し,年間通して増えた。日本経済は回復基調,企業収益の改善,自動車・パ ソコンなど耐久消費財産が好調,電話・通信などの規制緩和に伴う企業間競争も強まり,広告,プロモーション,マーケティング・コミュニケーションが活発。 ●すべての媒体で増加,マスコミ 4 媒体は 5.7%の増。テレビは活況,SP広告も数年ぶりに増加。新聞広告費も 1 兆 1657 億円(前年比 104%),雑誌 3743 億円(107.8%),テレビ 1 兆 7553 億円(106.8%),ラジオ 2082 億円(102.6%),DM2746 億円(106.9%),ニューメディア広告 158 億円(126.4%)など。 ●1996 年におけるわが国主要広告主 221 社の広告関連重要課題は,1 位・販売部門との連携と支援の強化,2 位・総合企業イメージの確立強化,3 位・ブラン ド広告の戦略的効率運用。以下,トータルな広告宣伝予算の効率化,マーケティングの連動の体制づくり,効果測定と評価システムの検討,トップの明確な意 思疎通強化,全社的広報機能への参画と遂行,広告会社業との連携強化と活用の順である。 ★1997年のキーワード〔1997 年版 ★ドキュマーシャル〔1997 年版 広告宣伝〕 広告宣伝〕 かつてキリンビールがCSテレビに集中スポットを流し、松任谷由実のオリジナル曲「無限の中の一秒」をフルコーラスで流し、映画監督が撮影し、魅力的な 恋愛物語を作ったことがある。若いターゲットに商品イメージを定着するうえで成功だったようだ。自動車、通信、食品などのCM利用に力を入れている広告 主は、この種のものに関心があるようだ。 ★トムズ(TOMZ)〔1997 年版 広告宣伝〕 これは広告会社、東急エージェンシーが開発した雑誌媒体を評価・選択するときの指標である。同社は首都圏七○○○人をモニターにして、商品の購入・購入 希望調査と雑誌の閲読率をクロス集計し、これを求めているが、広告媒体価値判定指標として注目されている。 ★サンプル付き広告〔1997 年版 広告宣伝〕 たとえば、雑誌広告の紙面に商品サンプルを付け、消費者に見本試用のチャンスを与えることができる広告。サンプル付き広告でわが国の先鞭をつけたのは、 化粧品業界では資生堂といわれる。一九九四(平成六)年二月「an an」に掲出された口紅の広告が最初。九六年一月、コーセー化粧品は液状化粧品を見本に した広告を「Can Can」に出している。まず資生堂のサンプル付き広告の一つの効果としては、口紅レシェンテの広告掲載一カ月後、雑誌を買った読者の六割 近くがサンプルを使用、そのうち約二割が一カ月以内にレシェンテを購入したことが判明したようだ。 ★連合広告〔1997 年版 広告宣伝〕 数社の広告主が一つのスペースに相乗りで広告を出稿する形式をとる広告。新聞社・広告会社が特定テーマのもとに広告特集紙(誌)を企画・編集する。数社 広告主からなる広告は、この一種となる。 日産自動車は「グラツィア」の創刊号をはじめ、女性誌四誌にコーセー化粧品との連合広告を流したことがある。雑誌媒体側も連合広告には目下関心を高めて いる。媒体側には、広告出稿量を増大する一手段となるし、広告主にとっては、共同広告(またはジョイント広告、タイイン広告)の機会作りにこの広告は役 立つ。 ★インターネット広告(Internet advertising)〔1997 年版 広告宣伝〕 インターネットとは、複数のネットワークを接続すること。最初はアメリカ国防総省高等研究局が開発した通信ネットワーク「ARPANET」を母体にし、 世界各国の有力企業・大学・研究機関のネットワークがアメーバ状に相互接続したもの。現在ではパソコンLANやパソコン通信などとも接続していて、電話 網に次ぐ巨大な通信インフラである。 インターネットの各種サービスには、電子メール(e-mail Protocol Eメイル)、電子掲示板+会議室(Net News エフ・ティー・ピー)、リモート・ログイン(telnet ネットニュース)、ファイル転送(FTP File Transfer テルネット)、マルチメディア通信(Wolrd-Wide Web, WWW, W3, The Web)などがあ る。 広告会社はインターネット広告のサービスを次第に提供するようになるだろう。一九九六(平成八)年七月に設立した「サイバー・コミュニケーションズ」は 資本金一億円で、電通が五一%、ソフトバンクが四九%の出資。見込売上高は九六年度四億円、二○○○年には年間一○○億円を目標としているようである。 ホームページやパソコン通信の会社に代わり、広告会社が広告主を探し、広告の計画・製作を行うことになる。旭通信社は、アスキーとハイパーネット(東京・ 渋谷)ではじめた画面右側に広告スペースを設ける新サービスを開始している。なお、ネット広告の料金は、マスメディア系は「ヒット」数などを媒体価値の 基準とし、ハイパーのようなダイレクト・メール系は既存のDMコストやプロバイダーに支払う接続料(一分一○円前後)を基準にして決めている模様だ。広 告効果判定基準・効果測定法の開発がこれからは求められるようになるのは必至であろう。 ▲広告の機能と広告環境〔1997 年版 広告宣伝〕 広告に求められる機能は、ますます拡大・高質化している。ブランド・エクイティ(資産)と広告、環境保全と広告、製造物責任と広告、公共広告機構と広告、 規制と広告、などの関係をみるだけでも現代広告は進んできているといえよう。 ◆広告の差別化〔1997 年版 広告宣伝〕 広告表現の差別化、広告による商品の差別化などと同義で、広告表現面での差づくりを意味する。広告表現面で、他社のものと差をつけ、より効果・効率的な、 強力な市場インパクトをねらおうと、広告主側が強く心掛けているのが現況といえよう。表現方法の一つとして奇抜とか珍奇な広告コミュニケーションを効果 的にする一つの要因だが、所定の広告メッセージ目標の遂行にこれが同調していなければもとより意味はない。 ◆リセッション広告(recession advertising)〔1997 年版 広告宣伝〕 リセッション(景気後退)を全面的または部分的に扱った広告である。大別して扱い方に二つの流れがみられよう。(1)ウォール・ストリート・ジャーナル が行った広告、たとえば、リセッションのとき広告出稿を減退すると景気がよくなる時には企業の伸長とか上昇の時期が遅れるようになるなど、これまでの調 査・観察資料を踏まえて、リセッション時には広告の出稿が戦略的に大切だとアピールする広告、 (2)リセッションを逆に利用し、 「ダウンした市場にいかに 入り込むか、その方法を教えます」からリード文が始まる新聞広告の対住宅購買助言広告が一例となる。 ◆おとり広告〔1997 年版 広告宣伝〕 広告である一部商品価格が非常に安い旨を強調する場合、広告主にその商品を売る意思がなく、店に誘導した消費者に他のより高い商品や広告主にとってより 有利な商品を買わせようと意図しているときは、その広告はおとり広告として広告規制の対象となる。一九八二(昭和五七)年六月公正取引委員会は景品表示 法四条三号の規制により、「おとり広告に関する表示」を不当表示として規定、同年一二月から施行されたが、広告に掲載された商品やサービスが「実際に取 引することができないもの」とか「取引の対象となり得ないもの」である場合に、その広告が「おとり広告」と規定された。しかし、九三年四月二八日に「お とり広告に関する表示」は下表のように変更され、九三年五月から施行されている。 ▼おとり広告に関する表示 [1993(平成5)年4月 28 日、公正取引委員会告示第 17 号] 一般消費者に商品を販売し、又は役務を提供することを業とする者が、自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を除く。)に顧客を誘引す る手段として行う次の各号の一に掲げる表示 1 取引の申出に係る商品又は役務について、取引を行うための準備がなされていない場合その他実際には取引に応じることができない場合のその商品又は 役務についての表示 2 取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務に ついての表示 3 取引の申出に係る商品又は役務の供給期間、供給の相手方又は顧客の一人当たりの供給量が限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記 載されていない場合のその商品又は役務のついての表示 4 取引の申出に係る商品又は役務について、合理的理由がないのに取引の成立を妨げる行為が行われる場合その他実際には取引する意思がない場合のその 商品又は役務についての表示 ◆ブランド資産評価(brand asset valuator)〔1997 年版 広告宣伝〕 これはアメリカの大手広告会社(ヤング・アンド・ルビカム社)が開発したブランド資産評価(システム)で、ブランドがどのような過程で構築され、知覚・ 評価されるかを調査し、ブランドの力、潜在力を測定するシステムである。全世界を通じ、三万人の消費者、六○○○種のブランド(グローバル・ブランド四 五○種類が含まれる)を対象に、なぜあるブランドが成功・失敗したかについて、ブランド構築プロセスの中から差別(differentiation)、関連(relevance)、 尊重(esteem)、親密(familiality)の四要因の視点から調査分析する。この成果は、得意先の広告主を担当するブランド・マネジャー、クリエイターなどに、 広告戦略・戦術面での開発に利用されている。同社によれば、ブランド構築と商品が売れるプロセスは異なるようである。 ◆日本広告審査機構(日広審JARO)(Japan Advertising Review Organization)〔1997 年版 広告宣伝〕 広告主、媒体、広告代理業を主体とする会員から構成されている広告の審査機関で、広告問題の審査、処理にあたる部門と、この機構の運営にあたる二つの部 門からなっている。その事業内容は次のとおりである。 (1)広告、表示に関する問い合わせの受付、処理、 (2)広告、表示に関する審査、指導、 (3)広告、 表示に関する諸基準の作成、(4)広告主、媒体、広告代理業の自主規制機構との連携、協力、(5)消費者団体、関係官庁との連絡、協調、(6)企業、消費 者に対する教育、PR活動、 (7)情報センター機能の確立、 (8)その他、目的達成のための必要事項、などである。一九七四(昭和四九)年一○月から業務 を開始したが、その審査、処理部門には関係団体協議会、業務委員会、審査委員会をおき、諸々の問い合わせの審議と処理に当たる。審査委員会の裁定の結果、 広告主側に非ありとすれば、広告主に広告の修正・停止を求める。広告主がこれに従わない場合、この委員会は公表、媒体各社に広告掲載の差止め処理ができ る。事務局は問い合わせの窓口となり、可能な範囲で処理することとなっている。 ◆公共広告機構(Public Service Advertising Organization)〔1997 年版 広告宣伝〕 一九七一(昭和四六)年、関西に発足し、現在では東京にも本部を構える、公共広告を推進する非営利団体である。 アメリカには、広告協議会(AC Advertising Council)があって、小児マヒ、町の清潔、山火事、汚染防止などをテーマにした公共広告を展開してきたが、 これをお手本にした機関が公共広告機構といえる。機構の会員となった企業から資金を、媒体側から割安な紙面や時間を提供してもらい、資源、食糧、福祉、 身体障害者、留学生の扱い、道徳、その他をテーマにした広告を行ってきている。 九二年五月発行の、(1)公共広告機構二○年史、(2)七二年∼九一年までのキャンペーン作品集は機構を知るうえで大いに役立とう。 ◆国際広告のエージェンシー・ネットワーク(agency network of international advrertising)〔1997 年版 広告宣伝〕 エージェンシー・ネットワークは、競合的でない、経営規模もだいたい類似したいくつかの広告会社が、参加広告会社相互間でのアイディア交換、必要情報の 収集・提供、広告・マーケティング・サービスの提供などを通じ、相互の利益をたかめるためにつくられるエージェンシーのグループで、これは国内的と国際 的のネットワークに区分される。このエージェンシー・ネットワークは一九二○年代にアメリカに登場した。リン・エリス・グループが二九年に発足、これが 最初のエージェンシー・ネットワークとなったのである。中堅広告会社がエージェンシー・ネットワークに参加するケースが一般的である。広告会社の多くは、 グローバル・コミュニケーション時代、広告会社のサービスの国際化に対応するため、国際広告のネットワーク問題に関心を強めている。 ▲広告業界〔1997 年版 広告宣伝〕 一九九五(平成六)年、広告会社のトップマネジメントは何を重視しているのかを簡単にまとめておこう(小林太三郎監修「九五年広告会社第一四回ビジネス サーベイ」〈ADCON発行〉による)。わが国の上位広告会社の経営指針の一部である〔トップ広告会社(年間取扱高三九九億円以上 一三社の一部)〕。 (1)一九九五年という「潮目」の年を迎え、勇断を持って社の変革に取り組め。 (2)個々人の能力・個性を結集して、成果を出すこと。 (3)革新の年、革 新の中にビジネス・チャンスあり。 (4)創業二世紀に入り、時代認識をして「変革に向かって行動する年」がスローガンである。 (5)競争力強化、国際化の 推進。 (6)構造改革への変革に対応。生産性向上、営業収益の拡大、人事制度の見直し、社内システム化の推進。 (7)当社でなければできない仕事を明確に 打ち出して、クライアントの信頼に応えることを遂行する。(8)英知と行動を結集して体質改善に取り組む。(9)常に新しいものへの挑戦。(10)広告主の さまざまな価値に対応した、その存在意義をより明確にすべき年。九六年もこれら項目の重視が続行。 ◆クリエイティブ・エージェンシー(creative agency)〔1997 年版 広告宣伝〕 広告代理業の一種であるが、おもに広告のクリエイティブ・サービス(広告制作サービス)を、広告主に対して提供する代理業である。アメリカでは発達して いる。マーケティング・サービス、市場調査、広告効果測定、その他の総合広告代理業が提供しているようなサービスは、できる限り外部の専門機関を利用し てこれらの面を適当に処理しつつ、ユニークな広告クリエイティビティ面に主力をおく代理業といえる。 ◆ハウス・エージェンシー(house agency; inhouse agency)〔1997 年版 広告宣伝〕 広告代理業の特殊なタイプで一般に、特定の広告主によって、財務的に管理、所有されている広告代理業をさす。広告主からみれば、自社だけの専属代理業と いったものになる。広告主専属広告会社または代理業ともよばれている。大規模広告主の場合には、広告予算がきわめて大であるので、これを使うと媒体手数 料が回収でき、経済的であると同時に、企業機密を保持することができるといった長所はあるが、独立の広告代理業のもつ客観性、広告表現の創造性、媒体支 配力(または共生力)、豊富な広告知識と広告経験、バイタリティ、機動力といったものに欠けるおそれがある。とくにクリエイティビティのマンネリ化を防 ぐのがむずかしくなる。この種のエージェンシーは現在販売促進の分野で利用されているのが目につく。 ◆広告ネット(advertising network)〔1997 年版 広告宣伝〕 たとえば、ある親会社(広告会社)がその傘下各広告会社ネットワーク内の特定部門を統合し、その特定領域を表示したグローバル・ネットワークのことを「広 告ネット」とよぶ。この好例はS&S(サーチ&サーチ)で、傘下各会社ネットワーク内のヘルスケア部門を統合、グローバル・ヘルスケア広告ネットワーク 「ヘルスコム」という機関を創設した。大型広告会社のグローバル・サービス提供の戦略的提供方法として関心を集めている。 ◆ビリング(billing)〔1997 年版 広告宣伝〕 広告代理業が取引先の広告主(クライアント〈client〉、またはアカウント〈account〉ともよばれる。なお、一般によく使われているスポンサー〈sponsor〉は、 ラジオとかテレビの広告主を意味するもので、印刷媒体には適用されない)に請求する媒体料金に、広告スペースやタイムの購入以外の代理業が提供するサー ビスの代金の合計がビリングになる。これは広告代理業の「取扱い高」ともいわれている。広告会社が広告主に請求する金額のこと。 ◆プレゼンテーション(presentation)〔1997 年版 広告宣伝〕 広告代理業が、見込み広告主および取引中の広告主などを対象にして提出する広告キャンペーン計画書をふくむ提示・説明活動をいう。もっとも広告代理業が これまで取引してきた広告主に対して、取引継続のために提出する広告計画書の提示説明活動を、レコメンデーション(recommendation)と区別してよぶこ ともある。プレゼンテーションとは、一般的に広告代理業が広告主を対象にして行う場合が多いが、また媒体社がタイム・スペース販売のために広告代理業ま たは広告主に対してあるいは独立制作プロダクションが広告代理業、媒体社、広告主に対して行う特定キャンペーンに関するクリエイティブ企画、特定問題に 対する一連の解決策の提示説明、などをさしていう場合もある。 ◆VPコーディネーター(visual presentation coordinator)〔1997 年版 広告宣伝〕 デパートなどでの、消費者に伝えるメッセージの視覚的伝達がビジュアル・プレゼンテーションである。VPコーディネーターは、商品を陳列するデコレータ ー、照明をデザインする照明デザイナーではなく、視覚面のプレゼンテーションのアイディア、プランをあつかい、その領域に関係する人々をまとめあげる人 である。 ▲広告計画・広告管理とその周辺〔1997 年版 広告宣伝〕 広告計画の立案、広告戦略・戦術の展開には各種の重要関連要因が伴うので、プランナーは細心の注意をもって、これらの諸問題に対応するよう努めなければ ならない。広告はマーケティング・コミュニケーション、マーケティングなどに連動しているので、プランナー、広告主の幹部はこれらについての幅広い知識・ 経験が必要になる。「広告計画・広告管理とその周辺」で扱った項目はもとより、他区分での用語をも理解いただいた上で、計画・戦略問題に対応されたい。 ◆パブリック・リレーションズ(PR)(public relations)〔1997 年版 広告宣伝〕 個人または組織体が、相手の意見とか態度を好ましい方向に指向する際にみられるもので、「個人ないし組織体で持続的または、長期的な基礎に立って、自身 に対して公衆の信頼と理解をかち得ようとする活動」と定義されている。企業に例をとれば、一般大衆、消費者、従業員(その家族とか関係筋)、販売業者、 資材仕入先の関係業者、株主、債権者、銀行などの金融関係、政府諸機関、教育機関、その他のグループなどがPR活動の対象となりうる。活動に際しては、 (1)各関係グループの意見、または態度調査を行う、(2)好ましくないと思われている面を是正し、好ましいと思われている面をいっそう助長するような 考え方がなされていなければならない。PR活動の種類にはいろいろ含まれるが、パブリシティ、MPRおよびCPRもPRの一部である。 ◆MPR/CPR(Marketing PR/Corporate PR)〔1997 年版 広告宣伝〕 トータル・マーケティング連動と企業コミュニケーション連動の点から最近注目されているものに、これらに結びつくPR(MPRとCPR)問題がある。M PRは、マーケティング・パブリック・リレーションズの略語。一部の研究者の間には「MPRは、信頼できる情報の伝達と、企業とその商品は消費者のニー ズ・欲求・関心・利益などに直結しているという印象を通して、買い手の購買と満足を促進するプログラムの計画・実施・評価のプロセスである」といった見 方もある(トーマス・L・ハリス「マーケターのPRガイド」一九九一)。MPRは、マーケティング戦略・戦術に連動するマーケティング関連のPRである。 MPRはマーケティング・マネジメントの一機能であり、この使命はマネジメント目標の遂行に役立つことにある。 これに対し、CPR(コーポレート・パブリック・リレーションズ)は企業目標の遂行面でサポートするもので、コーポレート・マネジメントの一機能となる。 PRは、もともと個人ないし組織体が、持続的・長期的な基礎にたって、自身に対しての公衆の信頼と理解をかち得ようとする活動である。この場合、その対 象には、地域社会、顧客・消費者(産業用品のユーザーを含む)、従業員、金融機関、原料仕入先、流通関係、政府・公共機関、教育機関、調査機関、媒体関 係機関、その他のグループが考えられる。 ◆コーポレート・コミュニケーション(corporate communication)〔1997 年版 広告宣伝〕 これは次のように解される。(1)PRと同意語、(2)PRとコーポレイト・アイデンティティ(CI)を含む用語、(3)企業または機関とか組織体の各部 門、段階のコミュニケーションを統合する統一的コミュニケーション活動。 アメリカのある企業はコーポレート・コミュニケーションの中に、 (1)プレス関係、社内コミュニケーション、 (2)エディトリアル・サービス(講演、文献・ 資料提供、投資家関係など)、(3)パブリック・アフェアー(政府関係、地域社会関係、消費者関係、慈善活動関係など)、(4)広告などを含ませているが、 これは広義的なものとみてよい。 アメリカのPR・コンサルタントの一部は「コーポレート・コミュニケーションズ」という言葉をPRの代わりに使っている。 ◆スタンバイ・コミュニケーション(standby communications)〔1997 年版 広告宣伝〕 スタンバイ・コミュニケーションの「スタンバイ」は「緊急時用に用意されている」 「いざというときに頼りになる」 「待機している 用意されている、 いざ鎌倉 」などを意味する。この 時を待っている、コミュニケーションのことが、スタンバイ・コミュニケーションである。 この緊急時の「思いがけないたいへんな不幸」がディザスター(disaster)と呼ばれ、このディザスターの抑制がディザスター・コンテインメント(Disaster containment)と呼称されている。不慮の出来事をうまく抑える計画が、広告とかPRの世界では「ディザスター・コンテインメント・プラン」 (災難抑制計画) といわれるところのものである。 この災難抑制のために用意するコミュニケーションが、企業にとってますます大切となるのは必至。コーポレート・コミュニケーション、PR、企業広告視点 などから、その重要性はいっそう増すことになろう。 ◆メディア・ミックス(media mix)〔1997 年版 広告宣伝〕 広告媒体、つまり新聞、雑誌、ラジオ、テレビはじめ屋外広告媒体、交通広告媒体、ダイレクト・メール、劇場媒体(または映画広告媒体)、POP広告、新 聞折込広告、その他の広告媒体などを組み合わせることをいう。メディア・ミックスは広告媒体戦略に関するもので、広告主(企業側)にとって所定の広告メ ッセージを見込市場に効率的に伝達するためにはこれがどうしても必要になる。 ◆広告質(quality of advertising)〔1997 年版 広告宣伝〕 最近、テレビの視聴質が話題となっているが、広告質は広告の一面をあらわすもの。現在、わが国の広告産業界で云々されている広告「質」問題はおよその次 のとおり。 (1)新聞媒体の質=新聞広告の注目率(媒体サーキュレーション∼媒体到達率∼広告(物)露出・注目率関係視点からの)、クーポン広告の新聞媒 体・広告の活性化問題など、 (2)テレビ媒体の質=視聴質【ピープルメーター方式やフルパッシブメーター方式によるテレビの視聴】、電波料金の考え方・扱 い方、CM著作権への対応など、(3)雑誌媒体の質=雑誌発行・販売部数のいっそうの明確化による雑誌媒体・広告質の向上。 ◆流通広告(trade advertising)〔1997 年版 広告宣伝〕 チャンネル広告ともよばれている。これは消費者用品、または産業用品メーカーや卸商などが、小売業者を対象にして、当該商品のストックと売上げ増進をめ ざして行う広告。つまり、流通経路上の販売機関を対象にする広告。流通広告には主としてDM広告と業界紙・誌が用いられるが、ときに業界紙・誌の代わり として一般紙・誌が用いられることもある。 ◆意見広告(opinion advertising; issue advertising; advocacy advertising; protest advertising)〔1997 年版 広告宣伝〕 個人ならびに組織体が特定の重要な事柄についてそれぞれの意見を陳述する広告が意見広告である。わが国のある新聞社は、これについて「(1)表現が妥当 なものは掲載する。ただしその意見について署名者が責任をもち得ないと判断されるものは掲載しない。(2)広告および広告の機能を否定するものは掲載し ない。 (3)紛争中の意見は公共性が高いもので表現の妥当なものに限り掲載する。ただし裁判中の関係当事者の意見は原則として判決確定前は掲載しない。 (4) 個人の意見広告は内容、肩書きを問わず掲載しない」と広告掲載基準で規定している。 ◆アドボカシ広告(advocacy advertising)〔1997 年版 広告宣伝〕 企業と消費者間の信頼関係を回復しようとする広告。企業の動き、実態を知らせて、特定の企業活動とか利潤獲得がいかに適正であるかを理解させ、その企業 を支持させ支援を求めるための広告である。定訳はないがいまのところ擁護広告、または主張広告といえよう。これまでの企業広告とは広告姿勢がいささか異 なる。わが国でもこの種の広告は次第に考えられるようになるだろう。 ◆タイ・アップ広告/タイ・イン広告(tie-up ad./tie-in ad.)〔1997 年版 広告宣伝〕 ある広告主が同業者とか関連産業界の諸企業または商店街の諸企業などとタイ・アップする広告(水平的共同広告)、さらには広告主が自社の流通経路(たと えば販売店など)と共同して行う広告(垂直的共同広告)をタイ・アップ広告、タイ・イン広告、ジョイント広告、または共同広告という。 ◆リスポンス広告(response advertising)〔1997 年版 広告宣伝〕 広告の受け手から反応を直接得ることを目的とした広告を意味する。この目的に基づいたダイレクト・メール、通信販売用の広告などがその一例である。最近 は新聞、雑誌、新聞折込、ラジオ、テレビなどにもこの広告が掲載または流されるようになった。別名としてダイレクト・リスポンス広告、リザルト広告、直 接反応広告などがある。 ◆カギつき広告(keyed advertising)〔1997 年版 広告宣伝〕 「カギ」 (key)とは、広告でクーポンの返送をねらうとか、カタログ、サンプルなどを請求させる場合に、どの媒体、あるいは、どのコピーをみてそうしたの かを確認するための符号である。カギつき広告の使用目的は、(1)媒体価値測定、(2)コピー測定、(3)新製品の興味測定などで、一般には媒体価値測定 に使用されることが多い。つまり、新聞ごと雑誌ごとに送り先の番地や係名を変えたり、購読紙・誌を書かせたりして、回答を分析できるようにする。また、 このカギを各広告コピーごとに変えるようにするとコピーの評価もできる。これは、スプリットラン・テスト(splitrun test 分割掲載法)で、よくみられる ものである。 ◆ティーザー広告(teaser advertising)〔1997 年版 広告宣伝〕 広告キャンペーンの際、とくにその冒頭で「何の広告だろうか?」という疑問を消費者に抱かせることで、それらへの注意と関心を集めるために商品名とか広 告主などを判別できるようなメッセージを用いず、回を追って徐々にその商品名、広告主名を明らかにしていくか、あるいはある一定時点でそのベールを一挙 に脱ぐかのいずれかの方法により、その注意と関心の高まりはいうまでもなく、さらにこれらを確信・購買の段階へまで押し上げようとする広告のテクニック を意味する。印刷広告の場合は、シリーズ形式の広告をこのために用いる。覆面広告はこの別名である。一九九六(平成八)年三月、 「dos」という三人グルー プが初のシングルCDを出し、いきなり売り上げチャート上位に昇ったことがある。ポップス音楽界の小室氏は、九六年初めから意図的に三人グループのテレ ビ露出を控え、デビューまでの過程をうまく小出しにし、オーディエンスの関心を持続するティーザー効果的なものをねらい、結果的にはヒットチャートの上 位にならせたことがある。 ◆マルティプル・ページ広告(multiple pages advertising)〔1997 年版 広告宣伝〕 マルティプル広告ともいわれ多ページ広告、すなわち雑誌広告でいえば、たとえば、八ページ、一○ページというように数ページ構成の広告を意味する。 ◆イン・フロア広告(in-floor advertising)〔1997 年版 広告宣伝〕 小売店のフロア・スペースを使用したPOP広告で、ダラスのインドア・メディア・グループ社で開発したもの。二フィート 二フィート、二フィート 四フ ィートの四色刷広告パネルが床スペースに埋め込まれたもので、表面は透明で丈夫なポリカーボネート製タイルでカバーされており、パネルの変換は簡単。イ ン・ストアの戦略的な場に置けるから効果も大きい。この広告の媒体料金はマーケットごとに店舗数と各店の買物客取引回数に基づいて体系づけられ、一年が 四サイクルに区分され、一二週間で一サイクルというプログラム単位で契約が行われている。 ▲広告媒体と広告表現〔1997 年版 広告宣伝〕 ターゲットに、何を、どう効果的に伝えるか、それをどんな媒体とか手段で流すかといったところで、表現戦略と媒体戦略が登場することになる。この部門で は、メインフロア番組の変則統合CM、電子新聞用双方向広告システム、CD‐ROM広告媒体、視聴質問題、ピープルメーター、ストア配布媒体、その他な どの用語を取り上げてみた。 ◆インタラクティブ・メディア(interactive media)〔1997 年版 広告宣伝〕 インタラクティブは相互に関係し合うとか、 「双方向の」を意味する。インタラクティブ・テレビジョンはその一種。たとえば、アメリカのインタラクティブ・ ネットワーク社は、現在、サンフランシスコを中心に加入世帯を拡大中だが、電話回線にコントロール・ユニットを接続、テレビのスポーツやドラマ、ニュー ス、教育番組などに連動したクイズやデータなどをFM波で伝送、ユニット画面に表示された質問にキーパッドで答えると、即座に順位とか点数がわかる仕組 みになっている。視聴者のテレビ参加性はこれにより高まるというもの。マルチメディア・サービスの幅はこれからいよいよ広まろう。 ◆変則統合CM〔1997 年版 広告宣伝〕 統合CMとはラジオやテレビの番組の主なパフォーマンスの中で流されるCMで、番組内容がCMの一部になるといったコマーシャルのこと。 番組とCMの区分が視聴者にははっきり分からないので、この種の広告への批判も一部には出ている。電波広告のタイプの一つに「統合(型)広告」がすでに あるが、この「メイン・フロア」番組は、番組とCMの差をいっそう分からなくしているので、筆者は変則統合CMと名づけている。 ◆CD‐ROM広告媒体(Compact Disc Read Only Memory advertising medium)〔1997 年版 広告宣伝〕 CD‐ROMを広告媒体として利用する動きが目立ってきた。ソフトバンク社が発行するCD‐ROM付き雑誌のCD‐ROMに、コンピュータグラフィック ス(CG)技術を使い新たに制作した広告を入れる。ソフトバンク社が一九九四(平成六)年七月二○日に創刊した「D‐GMAG」(デジタルマガジン・フ ォー・マッキントッシュ)」に広告を入れた。同誌は紙媒体とCD‐ROMで構想され、創刊号には、編集番組としてCGアーティストの作品、マック用のソ フト紹介などが掲載され、発行部数は二万五○○○部。広告の画像は博報堂がCD‐ROM用に制作している。制作費はテレビCMの一○分の一以下のようだ。 ◆電子新聞用双方向広告システム〔1997 年版 広告宣伝〕 電子新聞の画面構成を想定し、それに広告を組み込む形で制作したもので、新聞記事の見出しが並ぶ画面では記事の下方に広告を配置し、画面上の広告部分を クリックすると詳細な広告を見ることができる仕組みのもの。テレビCMのように画面を映し出すのではなく、双方向型の特徴を出し、詳細な商品カタログの 検索やくじ引きなどができる。加えて、広告商品をその場で発注できるオンライン・ショッピング機能や割引券を出力する機能なども盛り込まれている。電通 は一九九四(平成六)年七月、この種の双方向型広告システムの試作品を開発、注目された。 ◆パルシング(pulsing)〔1997 年版 広告宣伝〕 電波広告を波形に流す戦略・戦術。これはウェーブ理論とかフライティング(flighting)ともいわれ、ある時期に広告量を増大し、その後減少、再び増やすと いうようなウェーブ状の広告量・広告投入の技法。このパルシング・キャンペーンには、広告メッセージの質、フライト間の間隔、メディア・ミックスなどが 考慮される。 ◆アール・エフ・エム(RFM)(recency, frequency and monetary value)〔1997 年版 広告宣伝〕 「リーセンシィ」は特定の顧客リストに掲載されている人または企業の、最も最近の購入・問い合わせ・その他の記録ずみ行動、「フリークエンシィ」はそれ らの購入・その他の活動の回数、「マネタリー・バリュー」は所定の期間(通常一二カ月)に顧客が支払った金額を意味する。ダイレクト・マーケティングや ダイレクト・リスポンス広告の効果・効率を高めようとすれば、顧客別のRFMのデータベースがつくられていなければならない。 ◆メディアジャック〔1997 年版 広告宣伝〕 広告主が広告のために電車や新聞などの広告スペースを占領すること。キリンビールが東京急行電鉄の東横線、田園都市線それぞれ一編成八両、一○両をハイ ネケン、ドライビールの広告だらけにしたこと、明治製菓が江の島電鉄などでマーブルチョコレートやスナック菓子の独占広告を行うなどはこの一例。この種 の広告はブロックバスター(高性能爆弾広告)ともよばれているが、高インパクトをねらう広告として広告主の間では話題となっていた。 ◆クーポン広告(coupon ad., couponing)〔1997 年版 広告宣伝〕 「日米構造協議」の影響を受け、いっそう目立つようになったものの一つにクーポン問題がある。クーポン広告はクーポンつきの広告を意味する(クーポンと は一種の割引券で、消費者はクーポン券をその売り手に示し、所定額を割り引いてもらう)。クーポンは、新規購入者の試用・試買の促進、反復購入の刺激づ け、市場シェアの防衛、広告の補強、販売店の在庫プッシュ、小売店側の協力を得るなどの面で役立つ。新聞本紙、雑誌、DM、新聞特集紙が利用されるよう になった(メーカー・クーポンの場合)。 日本においてクーポン広告産業が成長するには、広告主、広告会社、販促会社、印刷会社、調査会社、さらには消費者などのクーポンの受け手が、クーポニン グの仕組みや機能を理解していなければならないし、クーポン産業の発展に欠くことのできない、クーポン・リデンプション(償還)、クーポン・クリアラン ス(精算)などのシステムの確立、関連会社・協会の成長も大切となるし、加えて、流通業者のクーポンを十分に理解したうえでの協力(メーカー・クーポン の場合)が必要となるところである。一九九○(平成二)年はクーポン広告元年となった。九一年初め関連地区で、読売新聞と朝日新聞のメーカー・クーポン が流れたが、残念ながらクーポン広告が日本市場に定着するまでにはなおもある程度の期間が必要。広告会社、広告媒体側は本格的なクーポン時代の到来は、 ここしばらくは見込めないとみているのが現状。なお、クーポンの実践については、「実践クーポン広告」(一九九三年三月、電通)を参照のこと。 ◆FSI(free standing insert)〔1997 年版 広告宣伝〕 アメリカでクーポン広告配布手段として最も利用されているのがこのフリー・スタンディング・インサートで、インサート、フリー・スタンディング・スタフ ァーともよばれ、また日曜付録版(サンディ・サプルメント)の新聞に挿入されるので、日曜新聞インサートともいわれている。日曜新聞のFSIには単独ク ーポン・インサート、共同クーポン・インサートの二種類があるが、わが国の場合は後者に関心が高まるようになるだろう(日米の新聞事情が異なるので、F SIは日曜新聞に限定せず、もう少し幅広く解釈してよい)。 ◆コーポレート・カラー(CC)(corporate color)〔1997 年版 広告宣伝〕 企業カラーを意味する。コニカ株式会社は、コニカブルーを企業カラーとしている。これは明るく、さわやかで、清潔感のあるブルーである。清水建設株式会 社は、純白、青、赤、黒からなる四色をCCとしている。純白は光を、青は空と海と水、赤は生命ある血液イメージから人間、黒は無限空間のイメージから宇 宙を意味しているようである。日本中央競馬会は深みと落ち着きのある緑色をシンボルカラーとしている。CCはコーポレート・アイデンティティ(CI)の 一部となるもので、CIと無関係では存在しない。 ◆タイトル・スポンサーシップ(title sponsorship)〔1997 年版 広告宣伝〕 スポーツの試合名の前に広告主名がつくとすると、これはタイトル・スポンサーシップによるものとなる。アメリカで人気のある「ゲーター・ボウル」の前に 「マツダ」がついての「マツダ・ゲーター・ボウル」、 「サン・ボウル」の前に保険会社名がつく「ジョンハンコック・サン・ボウル」はこの一例。日本関係で は、KDDの名を冠した第一回ラグビーワールドカップ、サントリー・ジャパン・オープンテニス、三洋証券ニッポンカップヨットマッチレースなどがその一 例。テレビネットワーク側の経営財務事情から特定期間、特定スポンサー料を払ってもらい、タイトル・スポンサーになってもらうという動きも出てきた。タ イトル・スポンサーシップのほうが、試合中にCMをいれるより効果的という考え方も広告主側の一部にあるようだ。 ◆サーキュレーション(circulation)〔1997 年版 広告宣伝〕 一般に広告媒体の伝達流布の度合いをさす用語であるが、その意味するところは媒体ごとに異なる。新聞と雑誌についてはその発行部数もしくは販売部数を、 ラジオ・テレビについてはある時点で使用されているセット数、もしくは一定地域(聴取・視聴地域)内のラジオあるいはテレビの所有セット数を意味してい る。また、屋外広告については、ある特定の屋外広告を見る機会をもっている歩行者、車両利用者の数をいい、交通広告では広告掲載中の乗客数もしくは各駅 の乗降客数をいう。最近、特にアメリカの媒体分析の専門家の間ではサーキュレーション概念を新聞と雑誌だけに限定し、他の媒体については、オーディエン ス(audience 視聴者・聴取者など)概念を用いる傾向がでているが、これは新聞と雑誌についてのサーキュレーション数字を、定期的に公表しているABC (Audit Bureau of Circulation 発行部数公査機関)の活動に負うところが大きいといわれる。わが国では一九五八(昭和三三)年に創立された日本ABC協 会がこれを行っている。 ◆視聴質〔1997 年版 広告宣伝〕 広告コミュニケーションの効果・効率化の視点から視聴質が注目・研究されているが、これは有効ターゲットの視聴者、視聴反応、番組・CMなどの質を意味 する。民放連の研究調査によると、広告主、テレビ局営業担当者、広告会社とも、視聴者の質、視聴反応の質、番組の質、CMの質についての回答順位は三者 とも同一だったが、広告主側は実際に獲得されたターゲット観点からの「ターゲット視聴者の率」、テレビ局側は人口統計的属性視点からの「予想ターゲット の視聴者の属性」のほうにウェイトを置いているようだ。広告主側の視聴質提起は「個人視聴率の継続的安定的入手」にあり、ピープル・メーターなどによる 広告質の研究に関心を強めている。テレビ局側は「現行の視聴率調査・主義を尊重しつつも何らかの修正を求める広告主側の考えを変えて、これと局側の問題 意識を摺り合わせるときがきているのではないか」といった考え方を強めている。視聴率の実際面での適用化までには、なおも期間が必要とみる。テレビ朝日 調査部による一九九二(平成四)年六、七月の「企業のテレビ媒体活用に関する調査」では、広告主の個人視聴率観がまとめられているが、企業側の見方がわ かる。 九三年A・C・ニールセン社はピープル・メーターの実験証明を行ったが、関係者の関心を集めたようである。ビデオ・リサーチ社もこの面のサービス提供を ねらって努力・準備中であるが、わが国でこれが具体化されるには、広告主、広告会社、その他関係者などの理解と協力が必要となることを強調しておきたい。 ◆OHM/移動オーディエンス(Out-of-Home Media and mobile audiences)〔1997 年版 広告宣伝〕 広告オーディエンスの中で移動性の強いものは、「モービール(オートバイル)オーディエンス」と呼ばれる。屋外広告や交通広告の対象者がこの種のオーデ ィエンスとなる。この屋外広告媒体と交通広告媒体は屋外に配置・掲出されるから、 OHMと呼ばれる。家庭内にはいり込む媒体(広告)、さらには、消費 者が購入決定をしたり購入行動をとるPOPでの媒体(広告)についての戦略・戦術の理論と実際は今日ではかなり高度化してきたが、この両者間、または両 者の繋ぎとなるものがOHMである。このOHM(広告)のうまいブリッジ戦略・戦術が適切かつ効果的に計画・処理されていないと、これら両者の力と効果 が、下回りがちになることはここに言及するまでもない。 ◆屋外広告のリースボード〔1997 年版 広告宣伝〕 リースボードはリース形式の屋外広告板で、広告費の効果・効率的利用化、特定地域の集中メッセージ化、市場細分化、販売刺激化のためにいっそう注目され るようになってきた。これは、 (1)都市型リースボード、 (2)駅対象型、 (3)特定立地型、 (4)学校対象型に区分される。広告主は広告の設置地域、サイ ズ、料金・契約期間、目標のターゲット、外照設備、屋外広告効果資料(サーキュレーション、インパクト係数、到達率、露出回数、その他など)を踏まえて リースボードを選んでいる。 ◆ダイレクト・メール広告(DM)(direct mail advertising)〔1997 年版 広告宣伝〕 郵便によって直接見込客へ送り届けられる広告。ダイレクト・アド(直接広告 direct advertising)の一種で、俗に宛名広告ともよばれる。郵送先の宛名が明 記され、受信人へ直接に届けられるという個人的な性格をもつだけに、選ばれた人という優越感を対象者に与えることができる広告である。実施のタイミング やスペースの利用などの表現上の問題、それにもまして適切な対象者の選定という点に意をはらえば、かなりの効果が期待できる広告である。通信販売店、百 貨店を中心に現在盛んに利用されている。 ◆ハウス・オーガン(house organ)〔1997 年版 広告宣伝〕 機関誌。企業が、グッド・ウィル(好意とか信頼)の育成、売上高の増加、一般大衆の意見の創成を意図して、従業員、セールスマン、販売店、消費者一般の 理解と信頼を得るために発行する定期・不定期刊行物のこと。一般に無料であり、形式はブックレット形式、新聞形式、会報形式などがあり、ほとんどは企業 の総務部、広報部、広告部、販売部、販促部あるいは人事部などで作られる。別名、カンパニー・マガジン(company magazine)とか、カンパニー・ペーパ ー(company paper)といわれる。 ◆ストア配布媒体(store-delivered media)〔1997 年版 広告宣伝〕 顧客が店内にいる間にメッセージを流すシステム、媒体・販促手段のこと。 (1)客の購買頻度を高めるプログラム、 (2)インストア・コミュニケーション【シ ョッピング・カートに広告メッセージを付ける、小売店のフロア・タイルを広告のスペースにする(アドバータイル)、ストアのアイル上に掲出されるアイル ビジョン、ショッピング・カートの前に掲出されるビルボード、カートにつけられるビデオカート、POPラジオ、インストアのクーポニングおよびサンプル 配布】、 (3)特殊援助(インストアのマーチャンダイジングのプロモーションを担当する販売促進活動、商品調査から販売員の補足サービスまで提供するシス テム)、(4)テーク・ワン(インストアでのクーポン配布システム、店舗用で広告・促進メッセージを配るシステム)などが、主要項目となる。 ◆テレ・コンワールド〔1997 年版 広告宣伝〕 深深夜といってもよい午前三時、四時台に放送されるTVショッピングへの興味・関心が一段と高まっているが、その走りともいえるのが、テレビ東京が一九 九四(平成六)年七月から放送終了間際の時間帯に流している新手の買い物情報番組「テレ・コン ワールド」(月∼金)というプログラム。このプログラム の特徴は、商品紹介の方法がドラマ型で、一商品に一五分程度の時間をかけ、広告商品の特性に合わせ、時には公開ショー番組風、ときに郊外ロケをかなり入 れ込むアプローチをとることもある。約一時間の放送時間に広告商品が四点ほど扱われ、それぞれが独立したプログラムような感じを与え、オーディエンスを 惹きつける力は強力。この手法はフィラデルフィアをベースにするナショナル・メディア社が考案したもの。この種のものはインフォマーシャルとも呼べる。 広告商品は、ナショナル・メディア社の子会社、クアンタム・インタナショナル(本社はロンドン)が自社開発し製造している。この動きは地方にも広がり始 め、地方のローカル局が相次いで参入しているのが現況。 ◆ストーリー・ボード(story board)〔1997 年版 広告宣伝〕 テレビCMを作る場合の基礎となる「絵の部分」と「コピーの部分」からなるスクリプト(原稿)をストーリー・ボードという(絵コンテともよばれる)。つ まりCMのストーリーまたは流れにそって一連の絵とか映像が描かれ、その下または横に映像の説明文が加えられたもので、このボードにはチャート式、アコ ーディオン式などの種類がある。 ◆コピー(copy)〔1997 年版 広告宣伝〕 一般に印刷媒体に掲載される広告メッセージの活字になる部分、電波広告の場合ではCMの部分、さらにはアナウンサーやCMタレントがCM用として話す部 分などをいい、印刷広告の場合には、 (1)見出し(ヘッド)、 (2)副見出し(サブ・ヘッド)、 (3)本文(ボディ・コピーまたはテキスト)、 (4)小説明(キ ャプション)、(5)ブラーブ(またはバルーン)、(6)ボックス(またはパネル)、(7)スローガン、ロゴタイプの諸要素からなる。 ◆否定訴求(negative appeal)〔1997 年版 広告宣伝〕 広告商品の特徴・便益点を、マイナスのシーンや状況を醸しながら訴えること。不安感や恐れをかきたて、これをいわんとするところに結びつけるのが、否定 訴求のねらいだがあまり暗すぎると否定訴求も逆効果になることもある。この逆が、肯定訴求(positive appeal)である。これはこういうプラス、便宜がある から魅力的とストレートに訴えるもので、広告では一般にこの種のアピールが用いられる。 ◆シズル広告(sizzle advertising)〔1997 年版 広告宣伝〕 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚に訴え、実感として感じさせる五感広告の一つで、シズルとは(油で揚げたり、熱したり鉄板に水を落としたときなどのような) ジュージューとかシューシューという音のこと。魅力的な音をたてて、相手にその商品を食べたくならせるような広告がシズル広告である。その音からの高ま る感じがシズル感と呼ばれる。ビールの泡は、シズル広告、シズル感を説明するうえでの好例。 ◆比較広告(comparison advertising)〔1997 年版 広告宣伝〕 特定広告商品の特徴を他社商品(または自社のこれまでの商品)と比較する比較型の広告を比較広告という。自社のこれまでの商品と自社新商品の比較広告は、 これまでにもよく行われてきているが、他社商品との比較はややもすると中傷・誹謗となるので、わが国の広告産業界ではこの点を恐れている。 公正取引委員会は貿易摩擦問題に関連し、外国企業を考慮し、景品表示法では比較広告を制限または禁止していないことを再確認するとともに比較広告のガイ ドラインの作成や比較広告基準の設定に心掛け、ついに一九八七(昭和六二)年四月「比較広告に関する景品表示の考え方」(比較広告のガイドライン)を発 表した。比較広告は広告主間でいまのところ自粛されているので、ガイドラインの実践的利用化は目立たない。なおJARO(日本広告審査機構)は比較広告 のガイドラインを一九九○(平成二)年に制定した。 九一年、日本ペプシコーラはコカコーラとの比較広告を流したが、広告業界ではその賛否両論があった。ターゲットに誤認を与えないか、広告フォーマット(ユ ーモア・スタイル)の適正性と利用の限界などに意見がみられた。ペプシコーラの九一年秋のTV比較広告では、比較のコーラ名は視聴者にわからないよう作 られていた。また、日本ゼネラルモーターズの、トヨタ、日産のライバル車種とGM車を並べ、性能、価格などを比較した広告は話題となった比較広告の一例。 「ダイエットペプシは、おすすめできません。 ダイエットペプシは、コカ・コーラ・ライトの一二分の一カロリーだから。」の新聞広告も記憶に残る比 較広告である。急激ではないが、徐々に目につくようになろう。銀行広告面での比較広告は九三年から解禁された。 ◆カテゴリー広告(category advertising)〔1997 年版 広告宣伝〕 市場環境の変化とともに、個々のブランドを対象としたブランド管理にとって代わり、最近では一つのカテゴリー(範疇)に属する多種類の製品ブランド全体 の利益を一括して考える管理方法、すなわちカテゴリー・マネジメントが一部からより注目されるようになってきている。例えば、プロクター・アンド・ギャ ンブル社の食器洗い用洗剤のカテゴリー広告(印刷広告の場合)では、四つのブランド(ジョイ、アイボリー、キャスケード、ドーン)がいずれも食器の衛生 問題を解決すると訴求し、また同社の洗濯用洗剤カテゴリー広告(テレビCM)では、濃縮洗剤がゴミの量を少なくするのに役立つと環境問題をも取り上げて いる。 カテゴリー広告はカテゴリー内の各ブランドに共通する強力なメッセージで、PB商品や他の低価商品との競争に対抗するためといわれているが、長期的には ブランド・アイデンティティ、ブランド・エクイティを弱める要因にもなるのではないかという見方が、マーケティング・コミュニケーション業界にもある。 ◆奇抜広告〔1997 年版 広告宣伝〕 広告表現のインパクト効果を高めるため、相手に 奇抜 な印象を与える広告メッセージのこと。一九九一年、イタリアの代表的ファッションメーカー、ベネ トンは、へその緒がついたままの新生児の広告ポスターを流した。イギリス広告協会は同社に対しそのポスター撤去を命じた経緯がある。広告界では、古くか らキュリオシティ広告(珍奇とか奇異広告)というコトバが用いられているが、ベネトン式のものは、単に注意・関心喚起だけのものでなく、広告主のトップ の哲学がその背景となっているようで、その点これまでのものといささか異質である。 ◆3Bの法則〔1997 年版 3Bはビューティ(Beauty 広告宣伝〕 美女)、ベイビィ(Baby 赤ちゃん)、ビィースト(Beast 動物)を意味する。これらの要素は広告の注目率や閲読率を高めやす いから、広告メッセージをつくる際は、3Bを考慮することが大切というのが、3Bの法則である。 ◆記事体広告(editorial advertising)〔1997 年版 広告宣伝〕 記事のような構成でつくられている広告のこと。記事広告、記事型(または体)広告ともよばれているもので、広告メッセージの一つの型(フォーマット)。 最近の広告は、生活情報、商品情報を意欲的に提供するものが多くなったが、そのためによく記事型の広告が利用されている。日本新聞協会は新聞記事と混同 されるおそれがあるので、この種の広告には「広告」とか「PR」と表示するよう関係者に働きかけている。 ◆AIDMA(アイドマ)の原則〔1997 年版 広告宣伝〕 消費者の購買心理過程を表したものといわれ、広告制作での基本原則とされている。Aは注意(attention)、Iは興味(interest)、Dは欲求(desire)、Mは記 憶(memory)、Aは行為(action)を意味する。 「注意させ、興味を抱かせ、欲しがらせ、心にきざみつかせ、買わせる」ように意図した広告制作が、最も有効な広告物を誕生させるということである。この 原則とならんで、AIDCAまたはAIDAの原則も広くいわれている。この場合のCは確信(conviction)を意味する。 ◆5Iのルール〔1997 年版 広告宣伝〕 広告コピーをつくるときのコピー・ライティング・ルールのなかに5Iのルールがある。広告は、すばらしいアイデア(idea)から出発すること、直接的なイ ンパクト(immediate impact)という観点からつくられていること、メッセージは最初から最後までずっと興味(incessant interest)をもって見られ読まれ るように構成されていること、見込客にとっての必要な情報(information)が十分かつうまく盛り込まれていること、衝動を駆り立てる力(impulsion)を備 えていることを意味する。 ◆バイソシエーション(bisociation)〔1997 年版 広告宣伝〕 テレビCMの一つのスタイルで、アーサー・ケスターによる新造語である。ある要素に関係のない要素を、また一般的な視覚的な要素に似つかわしくない言葉 などを結びつけて(つまり「ニュー・コンビネーション」により)テレビCMの表現力をより強めようとするCMの一フォーマット(型)を意味する。「反コ ピー」(例、ミスタードーナツのCMで、二人の客が「結局、景品は景品やな」というのに対し、店員に「物の価値のわからないお客さんですね」と言わせる のも、反コピーの一例)も拡大解釈すれば、ニュー・コンビネーション、つまり、バイソシエーションの一作品例といえよう。 ◆インフォマーシャル(informercial)〔1997 年版 広告宣伝〕 インフォメーション(情報)とコマーシャルの二つの言葉から合成されたもので、ニューメディアを通じての情報提供型広告、つまりニューメディア時代の情 報量の多い長めのコマーシャルを意味する。 ◆クレスタ賞(CRESTA Awards/Creative Standards Awards)〔1997 年版 広告宣伝〕 国際広告協会(IAA)がクリエイティブ・スタンダード・インターナショナルと共同で制定した国際広告賞で、公共広告を含む消費者広告と産業広告の二つ の分野に同じ比重を置いて審査する賞。一九九三年から設けられた新しい国際賞である。世界各地のクリエイティブおよびIAA支部クリエイターによる第一 次選考を行い、国際審査委員会において、二七カ国の審査員による最終審査が行われる。審査基準はクリエイティブ・アイディアのオリジナリティーと作品の 質にあるとのこと、この賞についての日本での問い合わせ先はIAA日本支部(03・3561・6280)。 ▲広告調査と方法〔1997 年版 広告宣伝〕 広告調査と方法面では、いろいろな問題が登場してくるが、ここでは一部のみをながめるにすぎない。この分野に関心のある方は、小林太三郎監修『新広告効 果測定ハンドブック 理論編』、『新広告効果測定ハンドブック 実践編』(ともに日本能率協会一九九一年また小林太三郎監修・執筆「IMC技法ハンドブッ ク」〔一九九四年、日本能率協会総合研究所〕)を参照されたい。 ◆タキストスコープ(tachistoscope)〔1997 年版 広告宣伝〕 広告コピーの事前テストに、この器具がよく用いられている。これは各種の速度・メッセージ露出・照度という条件の下で、いろいろな刺激の呈示を可能にす るアタッチメントをともなうスライド・プロジェクターである。広告中に盛り込まれた、イラストレーション、コピー、シンボル・マーク、その他が特定の時 間や照度の下でどのくらい広告の受け手にわかるものかが、この器具から明らかになるので、制作者には効果の可能性の判断や広告メッセージを改良したりす るのにこの結果は役立つ。 このテスト時のメッセージ露出秒数は、一○○○分の一秒から数秒まであり、また照度も、適当に変えることもできるが、これらの条件はテスト広告物のねら い、種類、掲示される場所、テスト個所などによって、それぞれ違うことになる。 ◆サイコガルバノメーター(psychogalvanometer; galvanometer)〔1997 年版 広告宣伝〕 各種の心理的刺激に対する人びとの感情と反応を、精神電気反射の面から測定する計器である。この反応は、GSR(皮膚電気反射 PGR(精神電気反応 galvanic skin reflex)、 psycho galvanic response)ともよばれている。人間の神経活動が電気的なものであって、興奮などの精神的な動揺による発汗活動の 増大が、皮膚表面の電気抵抗を弱める結果、生体電流の増大として測定できることを利用した測定器で、俗に「うそ発見器」(lie-detector)とよばれているも の。 ◆TENS(Telephone Networks System)〔1997 年版 広告宣伝〕 対象者と会議室にいる司会者を電話回線で結んでインタビューする調査システム(電通リサーチが開発)をいう。対象者は、自宅、職場から参加できる、全国 規模のききとりが可能、対象者がリラックスしているのでホンネがきける、クライアントも司会者と同席し、その場で質問ができる、システムの持ち運びが可 能であるといった特徴がある。 ◆フルパッシブ・メーター(full passive meter)〔1997 年版 広告宣伝〕 TV視聴率の調査方式の一種で、調査対象世帯のTVセットに小型のカメラを設置し、事前に、家族の顔をメーター内蔵のコンピュータに記録しておく。各時 点で捕らえたイメージとのすり合わせを行って、誰が視聴しているかを記録する。測定に際して、ボタンを押すなどの視聴者の作業は、全く必要ない方式。 ◆コスト・パー・サウザンド(CPT)(Cost Per Thousand)〔1997 年版 広告宣伝〕 広告に使用する媒体比較のための経費効率の指標として一般に利用される。すなわち広告の到達読者(視聴者)一○○○人、あるいは一○○○世帯当たりに必 要な経費として表される。基本的には次の公式で計算される。 ◆CPR(Cost Per Response)〔1997 年版 広告宣伝〕 広告の反応当たりのコストをいう。たとえばある雑誌に広告を流したとする。その媒体料金を踏まえたうえで特定の反応または注文総量から、反応・注文当た りのコストを求めたものがCPR。広告産業界には以前からCPM(到達一○○○当たりのコスト)という媒体評価基準が用いられているが、これからは必要 によって、CPRの視点からの媒体評価が重要視されるようになる(ダイレクト・マーケティングとか、ダイレクト・リスポンス広告の場合)。 ◆クリッピング・サービス/広報効果分析レポート〔1997 年版 広告宣伝〕 広告主に代わって、広告主関係の新聞のパブリシティを切り抜き、朝一番に契約企業側に届けるサービスを、デスクワン(東京・本郷、社長 瀧川忠雄)はク ライアント七○社に提供中。記事抽出対象新聞は東京地区最終版の朝日、読売、毎日、日経、産経の五つで、パブリシティ記事を収集し、特定企業に関する記 事のスペースに一平方センチメートル当たりの出稿単価を掛け、広告換算値を算出している。記事が企業のイメージ創成に役立つなら「好意」、逆に事故・事 件などの加害者として扱われるものは「非好意」、自己責任のない事件・減益決算などの場合のものはニュートラルとして評価される。この種のクリッピング・ サービス会社は全国で約二○社だが、広報効果度の分析はこの業界では初めてとのこと。 ◆GRP(Gross Rating Point)〔1997 年版 広告宣伝〕 広告主が利用する各種銘柄媒体(=ビークル)のレーティングの合計が、GRP(グロス・レーティング・ポイント)である。いまある広告主が、ラジオ媒体 を通じて、一日に五本のラジオ・スポット(スポットの平均聴取率を三%とする)を一週間続けて使ったとすれば、一週間のGRPは一○五ポイント。したが って、電波媒体の場合でいえば、これは延べ聴取・視聴率を意味することになる。印刷媒体の場合は延べ注目率といったものになる。 ◆フォーカス・グループ法(focus group method)〔1997 年版 広告宣伝〕 広告の事前テスト法のひとつで、企業がねらう見込標的市場から一○∼二○名内外をしぼり、抽出し、彼らを、一つのグループにし、テストすべき特定のトピ ックについて討議させる。訓練を受けた有能な面接調査員が、テスト資料とか資材を彼らに上手に呈示するとともに、グループのディスカッションをうまくガ イドする。この目的は、ある問題についての情報を得ることで、最終的な回答を求めることではない。ディスカッションは、一般にテープに収められ、この会 合終了後、調査員がこの話し合いを分析し内容や合意点をまとめあげる。 ある広告コンセプトまたは戦略の価値を求めるためには、標的市場から二∼三のフォーカス・グループを抽出し使えばよいという声もある。 ◆新CMテストシステム/アドバンス(Advance plan)〔1997 年版 広告宣伝〕 この「アドバンス」はCM作品自体のインパクトから評価、診断を行うもので、東京三○キロメートル圏に居住する一八∼四○歳の男女一二○名をクオーター・ サンプリング法で選定、毎月一回最多六年のCMを集合テスト方式で調査するというやり方をとる。調査項目の(1)「CMに対する興味・関心」では、作品 の興味・関心に加え、場面ごとの好意・非好意的評価を秒単位で測定し、興味反応曲線をえがく。 (2) 「購買喚起力」面では、視聴による商品購入意志の変化 を、四八パターンに分け、各自の変容の大きさに応じ得点を加算し、購買喚起力を推計する。 (3) 「効果性評定」面では、CMの出来栄えをイメージ側面から 評価。制作者・生活者双方の視点から肯定・否定各二四、計四八の形容詞の選択で、CMの効果的判定を情緒性、伝達性、斬新性、躍動性の四評価軸から測定。 (4) 「好意度」では、 「好きな」 「また見たくなる」 「共感できる」の三尺度からCMの出来具合を判定する。このほか(5) 「CMの表現要素」、 (6) 「CMの 内容再生」、(7)「CMの良い点、悪い点」、(8)「伝達内容理解度」をも調査している(電通の開発によるもの)。 ◆POS情報分析システム開発〔1997 年版 広告宣伝〕 これは静岡新聞・静岡放送系列のマーケティング・サービス会社トムスが開発したもので、静岡県内に本社を置く有力スーパー六社一五店の協力を背景にして、 まず各店舗のPOSと地域流通VANを経由したデータを収集し、一週間ごとのデータを大型コンピュータで集計、売れ筋情報を分析する。生鮮食品の一部を 除く一週間の集計データは三五万件に達する。静岡県はテスト・マーケティングにもよく利用されるので、広告・販売促進活動の効果を判定する際の有力基準 を提供するものとして注目されている。 ◆安全顧客指数(secured customer index)〔1997 年版 広告宣伝〕 アメリカのバーグ顧客満足社(BCSC)は、このほど安全顧客指数を作るようになった。この作業担当者は同社の調査・開発ディレクター、アマンド・プラ ス氏。同社によれば、顧客ロイヤルティは商品試用のための提供物への反応物ではないし、このロイヤルティは強力な市場占有でもない。また、これは繰返し 購入とか習慣購入でもない。顧客ロイヤルティは顧客満足の上昇で高まるし、ブランドとか企業に顧客が続いて投資することにもかかわっているし、顧客の態 度と行動の組み合わせにも反映している。 前述の担当者は顧客の態度と行動に次のような見方を寄せている。態度には、 (1)同一企業からの再購入の意図、追加商品・サービスの購入意向、 (2)その 企業を他の人々に喜んで推薦すること、(3)競争相手の方への切替えに抵抗することでの、その企業へのコミットメントの三つが含まれる。一方ロイヤルテ ィに反映する消費者行動としては、(1)商品・サービスの繰返し購入、(2)同じ企業からのいっそうかつ他の商品・サービスの購入行動、(3)企業を他の 人々に推奨すること、これら態度・行動分野の諸要因の一つだけでロイヤル顧客が説明できるというわけでもないとのこと。こういう考え方を踏まえ、BCS C社は顧客ロイヤルティ測定をするためSCI(セキュアード・カストマー・インデクス、安全顧客指数)を開発するに至った。 顧客ロイヤルティ測定のための主要三構成要因 (1)全体的顧客満足(繰返しビジネスの見込み) (2)他人への企業推奨 (3)(産業によるが)指数に含められる他の要因 以上三項目が意味ある顧客ロイヤルティ指数の中核となる。つまり、これらが一緒になって顧客ロイヤルティ、またはより広い意味での顧客安全(セキュリテ ィ)を物語るものになるというのが、この社の所見。 例えば、レストランの顧客の全体的、かつ包括的な満足を調べるために、 「このレストランにあなたはどの程度満足していますか?」、推薦程度をみるため、 「あ なたは友人や同僚にこのレストランをどの程度お奨めしていますか?」、繰り返し購入の度合いを見るため、 「このレストランをどの頻度で利用になりますか?」 と質問し、その三回答に基づきSCIを求めることになるが、このインデクスを図示すると別図のようになる。確かで、安全な顧客は「全体的にたいへん満足 している」、そして「確かにそれを推奨する」加えて「確かに続けて使う」人である。この三満足、推奨、継続利用に連動する顧客が安全なカストマーでSC Iスコアの高い人である。自社ブランド、これと競合する他社ブランドのSCIを求め、相互に比較することで、市場発展に努めることは重要な戦略事項とな る。 ◆サブリミナル・アド(subliminal advertising)〔1997 年版 広告宣伝〕 潜在意識下に訴える広告。サブリミナルとは 意識されない の意味。テレビ、映画、ラジオなどに認知不可能な早い速度または小さい音量で広告を出す方法 をいう。 一九五七年にアメリカで、映画館で上映中のフィルムに重ねて、「コーラを飲もう、ポップコーンを食べよう」という広告を三○○○分の一秒で出したところ 館内売店のコーラやポップコーンの売上げが激増したという。その後、何回か試みられたが実際の効果は明らかにされなかったことや、倫理的な問題指摘など のため、ほとんど行われなかったが、松竹映画「RAMPO」やTBSがテレビの報道番組(九五年五月七日、一四日)の中でこの手法を用いて話題となった。 ●最新キーワード〔1997 年版 広告宣伝〕 ●ブランド・エクイティ(brand equity)〔1997 年版 広告宣伝〕 これはブランド・エクァティとも呼ばれ、ブランドの資産とか財産を意味する。最近これが、マーケティング・コミュニケーション、広告、プロモーション、 販売促進、PRなどの分野でより注目・研究されるようになってきた。デイヴィット・A・アーカー教授は、次のように述べている。「ブランド・エクァティ はブランド、そのネームやシンボルに結びつくブランドの資産・負債のセットを意味する」「ブランド・エクァティを示すための資産または負債にとり、それ らはブランドの名称とシンボルにリンクしていなければならない。ブランド名とかシンボルを変えるべきなら、資産または負債の全部とかその一部は、新しい 名やシンボルに変わるとしても、冒されるかまたは喪失してしまうことにもなろう。ブランド・エクァティの基づいている資産と負債は環境から環境によって ちがう。それらは次の五つに区分できよう。 (1)ブランド・ロイヤルティ、 (2)名称の知名や認知、 (3)知覚された質、 (4)知覚された質に加えてのブラ ンド連想、(5)その他の所有するブランド資産―特許権、トレードマーク、チャネル関係など」と。 ●グリーン・マーケティング広告(Green market ing advertising)〔1997 年版 広告宣伝〕 環境保護に連動したマーケティングに基く広告がこれになる。最近は環境保護をテーマにした広告が増えている。「自然が日本の住まいを育ててくれました。 だから、私たちは、自然を育ててゆきたいと考えています」(ミサワホーム)、「地球と話をしましたか」(NTTデータ通信)、などの新聞広告はグリーン・マ ーケティング広告の一例。またアメリカでは、広告関係者は環境保護の波にのっているが、その広告表現に誇張と混乱がみられるという声もあり、この分野の 広告のガイドラインの自主規制や立法制定化の動きが広告産業界にみられる。ミネソタ州政府合同専門家チームは、一九九○年初め、ガイドラインを公表し、 九一年には「グリーン・リポート 11」をまとめている。アメリカ広告業協会(4A)も、ガイドラインを公表した。アメリカ連邦取引委員会もガイドライン化 の動きを示している。 イギリスでもこの種の動きが目立つ。イギリス・民放テレビ協会(ITVA)は、グリーン広告のガイドラインを発表。これは環境に無害とか有益といった点 を強調するグリーン広告への苦情の強まりに対する動きで、環境に有益という広告表現は、その商品の製造から処分までの全過程を踏まえて判断されることに なる。「地球の友」などの環境保護団体は、このガイドラインをとりあえず歓迎している。わが国でもこの種の広告の定義、枠づけ、ガイドラインが関係筋か ら検討されていることを付言しておく。この広告は企業広告やブランド・エクイティ創成に連動する。 ●IA/MC(統合広告/マーケティング・コミュニケーション),IMC(Integrated advertising/Marketing Communication, Integrated marketing communication)〔1997 年版 広告宣伝〕 アメリカノースカロライナ大学では「広告学科」の名称を「統合広告/マーケティング・コミュニケーション学科」と変更。これからの広告はこのような視点 から扱うようにしないと「ニュー・アドバタイジング」といえる広告は考えられないという見方をする。広告の進んだ国々は、このIA/MC時代をますます 迎えるようになるのは必至である。 IMC(インテグレーティッド・マーケティング・コミュニケーション)の定義にはいろいろなものがあるが、有力なものの一つが以下の考え方である。「I MCのプロセスは測定可能で、効果的かつ効率的な双方向的コミュニケーション・プログラムを開発することを意図している」、そして「IMCアプローチは データベース、行動的セグメンテーション、全形態のコミュニケーションの利用、特定の反応、測定と評価によっている」(IMCは消費者とかオーディエン スのブランドまたは企業接触の全ソースを考慮する)という。またIMCについてのキー・ワードとして、「プロセス」「行動に影響する」「ブランド・コンタ クツ」「双方向」「測定可能」を指摘・強調していたが、IMCやニュー・アドバタイジングを考え、具体化する際にはこれらの考え方は大いに参考になる。 わが国ではIMCの研究が、広告会社、プロモーション会社、大学、その他の機関ですでにはじめられているが、ここしばらくの間はその基礎理念の研究が続 けられるものと思う。研究および適用・具現化が可能になるには、それに必要な諸条件・環境がある程度まで整い、かつ広告主、広告会社、販促会社、調査会 社、媒体社、教育・研究機関などの理解・協力・助言・その成果報告の積み重ねが得られるようになるのがその前提条件。 ●クライシス・コミュニケーション(crisis communications)〔1997 年版 広告宣伝〕 スタンバイ・コミュニケーションは緊急事態に対応するメッセージであるので、クライシス・コミュニケーションとも呼ばれる。ジャーナリスト高雄宏政氏は、 緊急事態を、アクシデント(災害、事故、事件)、企業内不祥事(反社会的行為、経営危機、企業機密の漏洩)、企業・業界問題(企業・業界への告発、誤報、 誹謗中傷)の三つに区分している。 ●新オープン懸賞(new open sweepstake)〔1997 年版 広告宣伝〕 オープン懸賞とは懸賞によって一般消費者に賞品・賞金などを提供するもので、その告知を主に広告を通じて行う場合をいう。いかなる場合でも取引に付随し ないことを条件とする。 「取引に付随しない」とは、 「商品を買わなければならないというものでない」の意。また買うことにつながる可能性がある場合は、取 引に付随するとみなされるので注意が必要(商品の容器や包装に問題を表示すること、容器や包装に示されている文字・模様などを模写したものを掲示させる こと、容器・包装に問題の答・ヒントが書いてあって、買うことで回答を容易にすること、小売店舗に応募用紙・応募箱を置くこと、小売店に行かないと応募 内容が明らかでないこと、などがないようにすること)。 一般業種オープン懸賞の制限内容は一○○万円以内(総額制限なし)であったが、公正取引委員会は一九九五(平成七)年六月末に公表した景品表示法の運用 基準を緩和するための改正案につき各方面から意見を聴取検討後、オープン懸賞の上限を一○○○万円に引き上げる、商品購入者・小売店の入店者全員にもれ なく景品類を提供する総付け景品の最高額五万円の上限枠を撤廃する、百貨店やスーパーでの景品付き販売を解禁する、などと改正した。 以上は、思いきった規制緩和策で、競争政策のいっそうの推進として注目される。 ●ピープルメーター(PM)(people meter)〔1997 年版 広告宣伝〕 「ピープルメーターとは、TVの状態と個人の視聴行動という二つの別のメーターの記録をつき合わせることによって個人視聴率を測定する技術である。現在 よく用いられているのは、パネルメンバーがリモコンについている個人に割り振られた自分のボタンを各視聴セッションの初めと終わりに押すという方式であ る。したがって個人の視聴記録はTVの状態にON‐OFF記録が重ね合わせて記録される形をとる」 [ヨーロッパ放送連盟/EBU(European Broadcasting Union)の見解]。 わが国の広告主は個人視聴率の測定に関心を強めているが、ニールセン・ジャパンは一九九四(平成六)年、個人視聴率データをラインメーターによる機械式 (PMに登録ボタンの押し忘れを防止するためのセンサーのついた「アドバンスト・ピープル・メーター(APM)」という方式を採用している)に変更する ことを発表し、これに対し日本民間放送連盟は、放送事業者との話し合いを持つよう求めた。ニールセン社のPMサービスについてのこれからの動きが注目さ れるところである。ビデオリサーチ社は九七年四月からPMの機械式調査を実施する予定である。VR社の調査システムは、誰がテレビを見ているかを、モニ ター家庭の人間が手動で登録するピープル・メーター(PM)方式、調査対象は精度を保つため六○○世帯、約一九二○人に広げる。 ▽執筆者〔1997 年版 マーケティング〕 村田昭治(むらた・しょうじ) 慶応義塾大学教授 1932 年生まれ。慶大経済学部卒。現在,同大商学部教授。著書は『マーケティング』『活性経営の知恵』『心と感性の経営』『評判が市場を創る』など。 斉藤通貴(さいとう・みちたか) 慶応義塾大学助教授 1955 年東京生まれ。慶大商学部卒。現在,同大商学部助教授。著書に『消費者行動の社会心理学』(共著)。 ◎解説の角度〔1997 年版 マーケティング〕 ●近年,経営やマーケティング環境は劇的な変化を示し,この変化へのマーケティング対応が要請されている。 ●消費者の知識,情報探索力といった消費技術はますます向上し,よりよい価格と価値・クオリティのバランスが求められている。また,マルチ・メディアに 象徴される情報・通信技術革新が,消費技術の高度化に拍車をかけ,one to one マーケティングが注目されている。 ●ビジネスと社会・自然環境との関係への関心は,ソサイエタル・マーケティング・コンセプトへの注目を集めている。 ●一方,価値観の多様化傾向の進展は,製品開発におけるニーズ認識の困難さを克服し,魅力的な価値を提供する対話型マーケティングの重要性を増やしてい る。継続的な消費者との対話やリレーションシップが鍵となろう。 ●豊かな生活を希求する市場への対応は,新たな価値提供を試みる小売新業態の発展・成長を促進している。よりより価格‐‐価値バランス,品揃えをもつデ ィスカウンターの成長は,パワーセンターといった業態の新展開を生み出している。 ▲環境変化とマーケティング〔1997 年版 マーケティング〕 経済環境の変化のみならず、ビジネスを取り巻く諸環境は大きく変化している。高度な生活情報ネットワークによって緊密に結びつけられた顧客は、グローバ ル消費者として企業・製品を評価する能力を高めている。また、情報を中心とした技術とインフラストラクチャーの発展・整備もビジネスのあり方を大きく変 えようとしている。 ◆市場成熟化(market maturization)〔1997 年版 マーケティング〕 市場の発展段階をちょうど人間の一生にたとえた場合に、成長過程から熟年に相当する時期を意味する。成熟化の特徴はつぎの経済・社会のさまざまな局面で みることができる。 (1)産業構造面からは、第三次産業への比重の高まり、 (2)物質的側面から、精神的側面へ、 (3)消費者ニーズの個性化、多様化傾向、 (4)経済成長率は鈍化し、福祉の充実がすすむ、(5)社会全般の安定化傾向。近年の市場成熟化、経営環境の厳しさは、企業の対応行動に大きな変化をも たらす要因となっている。 ◆飽和化市場(saturation market)〔1997 年版 マーケティング〕 一世帯当たりの普及率がほぼ限界普及率近くに達し、買替えによる購入比率が高く、市場そのものの伸びが、限界に達しているマーケット。化粧品、カメラ、 菓子、医薬品などのマーケットに広く見られる。飽和化市場では従来の普及率を高める市場開拓方法にだけ頼ることには無理があり必然的に発想基盤を変えた 市場開拓方法が求められる。そこに新製品開発、商品イメージの転換、従来のターゲットから新しいターゲットへの切替えなどによる新市場の創造、新規需要 の開発のもつ重要性がある。その意味で、水口健次(日本マーケティング研究所)のいう 選択率需要 を迎えている現在、消費を丹念に掘り起こし、飽和市 場を打開することは容易ではないが、独自性の普及や保有の真空地帯・空白世代をねらうことで、市場拡大の機会は存在する。消費財関連企業を中心に、飽和 市場の打開策は、今後のマーケティング活動の主流をなすテーマとなろう。 ◆脱・飽和化市場(postsaturated market)〔1997 年版 マーケティング〕 飽和状態になっているマーケットからの企業努力による脱出作戦。企業多角化、異分野への進出、成長分野への参入などによって、ゴーイング・コンサーン(先 進企業体)としての存続を図る脱出志向は、業種・業界の如何を問わず、一層強化されそうである。 ◆顧客満足(CS)(Customer Satisfaction)〔1997 年版 マーケティング〕 今日のマーケティングの基本的な考え方は、顧客のニーズを満たすこと=顧客満足を追求し、その結果として企業は利益を享受することにある。この意味では、 顧客満足という概念自体は決して新しいものではないが、あらためて顧客満足(CS)についての関心が高まっている。 従来は、売上げや収益によってCSを間接的に測っていたが、CSを経営全体の目標として置き、直接的に測定していこうという考え方が、今日のCSである。 ◆ヒューマニスティック・マーケティング・コンセプト/ソサイエタル・マーケティング・コンセプト(humanistic marketing concept/societal marketing concept)〔1997 年版 マーケティング〕 顧客のニーズ(欠乏感)やウォンツ(欠乏感を満たすための商品やサービスにたいする欲求)を満たし、その結果として企業は価値を実現し利益を獲得してい こうというマーケティング・コンセプトにたいして、その問題点を解決するためのマーケティング理念として考えられたもの。P・コトラーによれば、従来の マーケティング・コンセプトでは、消費者の短期的なウォンツのみが考えられており、長期的なニーズは軽視されてきた。たとえば、タバコへのウォンツを満 たすことは、長期的な消費者の利益にはならない。ヒューマニスティック・マーケティング・コンセプトは、消費者の長期的利益を考えたマーケティングを展 開すべきだというマーケティング理念である。しかし、消費者の利益に貢献することは、必ずしも社会の利益を生むことにはならない。そこで、単に標的市場 の利益にとどまらず、社会の利益を同時に実現できるマーケティングが望まれる。こうした理念がソサイエタル・マーケティング・コンセプトである。 ◆従業員満足(ES)(Employee Satisfaction)〔1997 年版 マーケティング〕 CS(顧客満足)は企業の環境(市場)にたいする考え方であるが、ES(従業員満足)は、CSを実現する企業内組織の満足がCS同様に重要であり、企業 の業績を左右する問題であるとして議論をよんでいる。多元的価値社会の到来と共に、いかにESを高め組織のモラルやモチベーションを向上させていくか、 ESを高める新たな組織観とは何かが模索されている。 ◆感性消費(emotional consumption)〔1997 年版 マーケティング〕 感覚や気分を基準において物・サービスを消費すること。さまざまの消費場面における選択肢が増大し、消費の多様化・個性化・分散化傾向が強まっている。 とくに人並み意識が希薄になるにつれて、人々が「良い・悪い」という社会的規範や価値観に従った消費行動よりも、むしろ「好き・嫌い」という価値観に従 った消費行動をとるようになってきている。この「好き・嫌い」という選択基準を「感性」と称している。このような消費行動をとる具体的な商品ジャンルに は、ファッション性・嗜好性の強いもので、機能的・品質的に商品間の差異がほとんどないもの、例えば雑誌、文房具、食品といった分野で顕著な傾向を示し ている。しかもこうした行動をとるのはヤング層・女性層に多い。 ◆ハイ・クオリティ型消費(high quality consumption)〔1997 年版 マーケティング〕 消費と所得は不可分の関係にあるが、本物、真の高級品に糸目をつけずに消費するものをハイ・クオリティ型消費と呼ぶ。オーセンティック(authentic)型 消費ともいう。成熟社会に見られる一つの消費性向である。 ◆階層消費時代〔1997 年版 マーケティング〕 「中流意識」が、上、下に分化し、消費面の格差が拡大しつつあるとの時代認識。大衆消費時代の終焉は各方面で議論され「分衆の時代」 「階層の時代」 「小衆 の時代」といった呼び方がなされている。現実に、明日の食事にもこと欠くというほどの貧乏層は見当たらないにせよ、そうだからといって余裕はないという ニュープア層の増加は「中流層」を分化させると同時に、消費市場にも大きなインパクトを与えている。階層消費社会の出現は、経済面への影響だけではなく、 社会構造の基盤を揺り動かすものとして、大いに注目される。 ◆消費のUカーブ〔1997 年版 マーケティング〕 高額商品に対する所得と支出の傾向を描いたカーブ。一般に、所得が高い人ほど高級商品を購入すると考えられるが、アメリカでの高級車の購買者調査をグラ フにした例で、横軸を所得額、縦軸を高額商品への支出額とするとU字型の曲線が得られた。つまり低所得者層の方が、中間層より高額商品を購入する傾向が 強かったのである。ここでの所得は納税額を基準にしているため、低所得者層にはドラッグ・ディーラー(麻薬の販売者)などのアンダーグラウンド・ビジネ スでの高所得者が実際には含まれていること、また、一台の車を共同で購入している例もみられる。興味深い点は、状況は異なるが、日本でも同じような傾向 がみられることである。この理由は、中間層が家やマンションのローン、子供の教育などへの支出額が大きい傾向があるのに対し、若い独身層は所得の絶対額 が低いにもかかわらず、すべての所得を自分一人のために支出できるからであろう。こうした傾向は自動車、オーディオ、レジャー関連支出に顕著にみられる。 ◆バイイング・パワー(buying power)〔1997 年版 マーケティング〕 大規模小売業とくに量販店がもつ巨大な販売力を背景にした仕入力・購買力を意味する。これはスケール・メリットによる流通効率化、消費者利益に貢献する 一方、他方では合理的、公正な商取引から逸脱した範囲で、売り手へのパワー・プレッシャー、取引における優越的地位の乱用といった経済的摩擦を起こしや すい。 ◆デモンストレーション効果(demonstration effect)〔1997 年版 マーケティング〕 もともとは経済学用語で、「人々はより高い所得層の消費にひかれ、経済的なゆとりができると消費を増大させる傾向」があり、これをデモンストレーション 効果と呼ぶ。略してデモ効果ともいう。今日の消費社会のなかでは、このデモ効果が薄れ、必ずしも企業側の期待する成果をもたらさなくなりつつある。 ◆テスト・マーケティング(test marketing)〔1997 年版 マーケティング〕 全国マーケットを狙った商品企画やイベント企画を、いきなり打ったのでは、もし失敗した場合、そのこうむるリスクは計り知れない。そのため限定した市場 で本番と同じマーケティング活動をテスト的に行い、その実施結果から、本格展開の際に修正する点があれば調整して、本番に備えるというもの。そのような 目的で実施されるものであるため、テスト・マーケティングの対象地域としては広島、静岡、札幌など全国市場をコンパクトにした平均的な市場特性をもった ところが、一般的には選択される。 ◆マーチャンダイジング(merchandising)〔1997 年版 マーケティング〕 一般に商品化計画と訳されている。適正な商品を、適正な値段で、適正な時期に、適正な数量を提供するための計画。つまり、科学的な手法をもとにした売れ る製品づくり、または適切な品揃え計画のこと。前者はメーカーの立場、後者は流通業者の立場に立ったものであるが、マーチャンダイジングは、とくに後者 を意味する場合が多い。 ◆プロダクト・プランニング(product planning)〔1997 年版 マーケティング〕 製品計画という。消費者ニーズに、的確に適応するための計画をさす。マーチャンダイジングが主として流通業者のそれを意味するのに対し、製品計画はメー カーのそれを意味する。その内容は科学的な市場調査に立脚し、 (1)製品・パッケージの開発・改良、 (2)ブランドの設定、 (3)価格決定、 (4)製品に付 随したサービスの開発、(5)製品ミックスの構成などが含まれる。 ◆テレ・マーケティング(telephone and telegraph marketing)〔1997 年版 マーケティング〕 電話を中心とした通信手段によるマーケティング活動。ダイレクト・マーケティングのひとつ。訪問販売と比較し、相対的に低コストで、販促活動と連動させ れば消費者へのそれなりの効果も期待できるため、関係者の関心を集めている。アメリカでは急成長を遂げているといわれるが、わが国ではいまだ電話セール スの印象がよくなく、その普及には多くの壁を乗り越えなければならないだろう。 ◆パーソナル・マーチャンダイジング(personal merchandising)〔1997 年版 マーケティング〕 文字どおり、個人を対象とした品揃えのこと。マーケティングの世界では、これまで不特定多数の大衆相手に商売を行ってきたところが多いが、これからは「あ なただけ」という限定付の商売が必要とされている。しかし行き過ぎたパーソナル・マーチャンダイジングは、結局、注文生産、注文販売とならざるを得ない だけに企業としてのプロフィットをどう確保していくか、消費の多様化・差別化といわれながらもきわめて類型的・均質的といわれる時代背景のなかでどのよ うなコンセプトでロットをくくるかが大きな問題である。 ◆ダイレクト・マーケティング(direct marketing)〔1997 年版 マーケティング〕 流通チャンネルを少しでも短くし、マーケティング担当機関の数を減らすことを指向する考え方。最近は、とくに顧客に関するデータ・ベースを武器とした通 信販売等の無店舗販売を指して用いられることが多い。その背景には、大衆消費社会の到来、知的水準の高度化、女性の社会進出といった社会的要因とともに、 日常の義務的買物行動が苦痛となってきた消費者の心理的要因も考えられる。わが国におけるダイレクト・マーケティングはここのところ多様な広がりを見せ ており、この分野への新規参入業者が盛んである。しかもメーカー、商社、卸売業、スーパー、小売業、出版社といった多種多様の業種・業態にまたがってお り、通信販売、訪問販売をはじめとしたダイレクト・マーケティングは消費生活に革新をもたらす要素を多分に含んでいる。 ◆マーケット・セグメンテーション(market segmentation)〔1997 年版 マーケティング〕 市場細分化。市場を、顧客の所得、地域、嗜好、年齢、職業等、およそ販売に影響を与える要因をすべて考慮に入れて細分化し、それぞれの特性に応じたきめ 細かい商品政策によりマーケティングを行うこと。それを生産、製品、販売の側からいうと、ディファレンシエーション(differentiation)すなわち多種化、 多様化になる。自動車会社が、小型大衆車から大型高級車までフルラインの乗用車をもとうとするのは、この戦略に立つものである。 ◆すきま戦略(niche strategy)〔1997 年版 マーケティング〕 市場のすきまを埋めていく戦略。niche(ニッチ)とは、くぼみ、適所という意味。たとえばコンビニエンス・ストアの急成長の背景には、大手スーパー、一 般小売店のカバーしえないマーケット・ニーズ(すきま)があったからだといわれる。そのすきまに応えるべくコンビニエンス・ストアは、立地的便宜性、品 揃え面での便宜性、時間的便宜性をもって対応している。さらに最近では、宅配便、クリーニング、DPEの取次など、商品以外のサービス合戦が展開されて いる。こうしたすきま戦略は、市場の成熟度が増すほど、いっそう重視される。 ◆セールス・プロモーション(SP)(Sales Promotion)〔1997 年版 マーケティング〕 広義では販売促進、狭義では、広告、人的販売、パブリシティを除いたものをいう。各種の方法を通じて需要を喚起し刺激すること。つまり、見込顧客に対し、 商品なりサービスなりについて需要をもつよう仕向け、あるいは、その欲望をさらに大きく、さらに強くさせるように仕向けることである。質的レベルでの競 争が激化する中で、このセールス・プロモーション活動は現代マーケティングの中心課題のひとつとなっている。 ◆消費者インセンティブ(consumer's incentive)〔1997 年版 マーケティング〕 セールス・プロモーション(SP)の一環として、消費者を対象に企業が行う購買刺激、動機づけのこと。具体的な方法にはサンプリング(見本配布)、キャ ンペーン、各種講演会、工場見学会などがある。近年、市場の成熟化、飽和化傾向が強まるなかで、消費者の商品(商店)選択基準が企業そのもののイメージ と密接に結びつくようになってきた。消費者インセンティブは間接的な形ではあるが消費者の信頼感を高め、消費刺激効果のある手段として重要な位置を占め る。最近では知名度、認知度を高める広告と同時にSP活動の主流となりつつある。 ◆サインレス・カード〔1997 年版 マーケティング〕 クレジット・カードによる支払いは、スーパーやコンビニエンス・ストアではサインが必要であったり、信用照会を行うために時間がかかり、混雑時には他の 客への気兼ねがあった。こうした問題を解決するために、自社カード(他のカードを使える店もある)によるサイン不要、また、POSレジにカードリーダを 組み込み、数秒で信用照会のできるシステムの開発が進んでいる。 ◆POSシステム(Point Of Sales system)〔1997 年版 マーケティング〕 販売時点情報管理システム。販売時点(小売店頭)における販売活動を総合的に把握するシステム。本社(本部)と各店舗の端末(レジスター)を連結させる ことで、販売時点での売上管理、在庫管理、商品管理などが容易にできる仕組みである。このシステムを信用販売に適用すれば、端末機にセットされたカード によって、利用者の信用照会、計算処理ができる。これをさらに利用者の銀行口座と結べば、自動振替による決済もでき、情報管理の合理化、イノベーション 手段として、流通業界で広く採用されつつある。一三桁のバーコードを使ってすべてが管理できる仕組みになっている。一三桁ある数字のうち、最初の二桁が 国名、次の五桁が会社名、その次の五桁が商品名を表し、最後の一桁は数字(コード)のエラーをチェックするための数字。このため価格は別途に表示される。 ◆スーパー・タグ(super tag)〔1997 年版 マーケティング〕 商品に取り付けられた送受信のための小さいIC素子と印刷されたアンテナ(約三センチ四方)に電波を当てると、商品の種類と値段を示す電波を発信し、商 品五○個の値段を一秒で読みとることができる装置。これによって、これまでのPOSレジのように、いちいち値段を読みとることが必要なくなり、買い物カ ートのごちゃ混ぜになった商品の値段が一度にわかるようになる。この技術は、イギリスのブリティッシュ・テクノロジー・グループと南アフリカの研究開発 機関であるCSIRによって開発されている。現在では、IC一つ当たり数百円かかるが、大量生産できれば二円以下になる見込みで、実用の可能性が期待さ れる。 ◆物流バーコード〔1997 年版 マーケティング〕 POSが店頭でバーコードを用いるのに対して、物流上の検品、仕分け、在庫管理のためにダンボールに表示され、用いられるバーコードで、アメリカやヨー ロッパで普及してきている。わが国では、菓子、日用雑貨、化粧品、医薬品メーカー、大手量販店などが採用しはじめており、今後、入荷のさいの検品自動化 などを目的として、普及することが予想される。一般に日本共通商品コード(JAN)に商品の数(仕入数)を加えた標準物流シンボル(ITF)が国際コー ド協会(EAN)で決められ、用いられている。 ◆新型コード(new code)〔1997 年版 マーケティング〕 従来のバーコードに対し、漢字の「田」の字を基本パターンとしたコード。従来のバーコードは世界的コンピュータ・メーカーのIBMが特許をもっており、 きわめて高い印刷精度が要求されている。新型コードは、たとえ多少の誤差があったとしても読取りには差し支えないうえ、原版一点あたり二○円と割安で、 盛り込める情報量も多く、二段重ねにすれば二五六種の表現が可能とあって、関係各方面に大きな反響を与えている。この新型コードは、「カルラコード」と 名づけられ、特許を申請中。現在、カルラシステム(株)が、その運営にあたっている。幅広い利用法が考えられ、今後、情報化社会の申し子ともいうべき役 割を果たす可能性を秘めている。 ◆ベリコード(beli-code)〔1997 年版 マーケティング〕 アメリカのベリテックス社が開発したもので、POSで用いられる従来のバーコードの八倍以上の情報量が入力可能な商品管理システムに用いられるコード。 新製品の急増に伴うバーコード不足が深刻化している現在、有望な代替システムと考えられる。正方形を升目状に区切ったところに白と黒の模様により商品情 報を記録、読み取り装置とコンピュータで情報の解析が可能となる。 ◆サンプル・セーリング・システム(sample selling system)〔1997 年版 マーケティング〕 商品のサンプルだけで小売するシステム。スーパーや百貨店で商品のサンプルだけを陳列しておき、顧客が好みの商品を買うとき、その商品のコードナンバー が打ってあるカードを店員から受け取って、それを売り場に持って行くと、帰るまでに無人倉庫から品物が受渡し口に届く。大型スーパーの今後を示唆するひ とつの形といえる。 ▲流通活動〔1997 年版 マーケティング〕 景気後退、大店法の見直し、国際的競争の展開、情報・通信技術の発展による新業態の出現、メーカーとの取り組みによる製販同盟など、ビジネス環境の変化 に伴って新しい流通の動きが進行している。 ◆戦略的同盟/製販同盟(strategic alliance)〔1997 年版 マーケティング〕 生活者である顧客に対しての価値づくりこそが、今日のメーカー・サービス業・小売業を問わず重要な問題であるという認識が高まっている。この価値づくり を行うためには、関係する企業間の協働関係が必要であり、この関係を戦略的に作り上げようとする同盟関係を戦略的同盟という。その代表的なものとして、 小売の大規模化による交渉力の増大とともにメーカーと小売間に発展していったこれまでの競争関係に代わって、川下の顧客の生活情報をもつ小売業とその情 報を活かして自らの製品開発力を発揮できるメーカーとの製販同盟が挙げられる。 戦略的同盟を結んでいる企業としてアメリカのウォルマートとP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)、日本ではダイエーと味の素、セブン・イレブン・ ジャパンとアメリカの食料品メーカー、フィリップ・モリスなどがある。 ウォルマート社では、顧客に対する価値づくりの観点から、メーカーとの価値観の共有・強い協力体制・コスト圧縮と効率改善と高いレベルのサービスの両立 を果たすために、メーカーとの戦略的同盟を結んだ。同社の全店のPOSデータは、衛星通信によってリアル・タイムに同盟関係のメーカーに送られ、それに よって効果的な製品開発を可能にし、在庫管理・物流などのコスト効率を改善し、特売ではないEDLP (Every Day Low Price 安定的に毎日安い)を実 現している。こうした企業間の同盟関係は、顧客満足型経営の重要性の認識の高まりと共に、ますます進展していくことが予測される。 ◆物流管理(physical distribution management)〔1997 年版 マーケティング〕 物流とは、物的流通の略であり、生産から消費にいたる物の流れを、経済的、技術的に合理化するための計画的・組織的マネジメント体系の一環をいう。物流 は、流通近代化として国民経済の課題であると同時に、個別企業の立場からマーケティング活動の合理化を促進する課題となっている。後者の観点からは、物 的流通を表す用語としてビジネス・ロジスティックス(business logistics)または、単にロジスティックスと表現することもある。 ◆コントラクト・ウェアハウス(contract warehouse)〔1997 年版 マーケティング〕 物流業の新しい経営形態で、委託倉庫(コントラクト・ウェアハウス)型の物流サービス業務を行う。コントラクトとは本来「契約」という意味。食品、化粧 品、家庭用品などの直接的に競合関係のない異業種メーカーからの委託を受け、保管、配送業務を協業化し、受注や配送情報もコンピュータで処理して効率的 な物流管理を行うところに特徴がある。通常、一社のコントラクト・ウェアハウスは二○∼三○社のメーカーからの委託を受ける。アメリカを中心に最近台頭 してきたが、わが国においても大手運輸業者(西濃運輸)と中堅倉庫業者(鈴与倉庫)による共同出資で同様の新型物流サービス業への全国展開が見られる。 ◆パレチゼーション(palletization)〔1997 年版 マーケティング〕 商品自体は全然動かさずに、商品をのせたパレット(荷台)だけを動かすというユニット輸送システムの一つ。 パレット輸送は物流における荷役の陰の主役といわれ、一般的なパレットの普及は年平均三○%の割合で伸長しており、今後ともこのパーセンテージはくずれ ないとされている。しかし、通産省が一貫パレチゼーション用に決定した規格パレット(八型と一一型)の普及率が低く、パレットプール制、パレットレンタ ル、輸送体制におけるパレチゼーションの未確立など多くの問題を残している。 ◆コンテナリゼーション(containerization)〔1997 年版 マーケティング〕 輸送のコンテナを工場にもちこみ、そのまま積載し、トレーラーで引いて直接、生産者から需要者へと運ぶ。梱包、荷役のコストダウン、輸送のスピードアッ プをねらったもので、これを陸上コンテナという。新鮮な野菜、魚介類を小売へ直送するコールドチェーンの花形にもなる。陸上コンテナをそのまま船に積ん で、港から港まで運ぶとすれば、大洋を越えて、工場と需要者を直結するドア・ツー・ドアが実現する。これを海上コンテナという。コンテナリゼーションは、 積みおろしの時間と労力をこれまでよりも大幅に短縮できる輸送革命である。 ◆ピッキング・システム(picking system)〔1997 年版 マーケティング〕 商品を仕分けし、それを取り出す一連の仕組み。ピッキングとは、商品を小分けすること。物流を担当する卸売業の主要な業務のひとつであり、この合理化は 受・発注業務や在庫管理と密接に結びつき、業績そのものを左右する重要な問題となっている。かつての人海戦術に頼ったやり方から、今日ではコンピュータ を駆使したものに変化し、得意先からの少量多頻度注文に的確に対応すべく機械化が進展している。卸売業の真剣勝負をかけたサバイバル競争の一端を示した ものでもある。 ▲販売形態と新商法〔1997 年版 マーケティング〕 マルチ・メディアをはじめとする技術革新によって、消費者の多元的な選択に適応するさまざまな販売形態の可能性を飛躍的に増大させている。特に、インタ ーネットに代表される新しい媒体を用いた無店舗販売が注目される。 ◆大規模小売店舗法(大店法)改正と関連四法〔1997 年版 マーケティング〕 一九九二(平成四)年、改正なった大規模小売店舗法と関連四法の主要ポイントは以下のとおりである。 ◎大規模小売店舗法(改正) ・大型店の出店調整期間を最長一年半から一年に短縮。 ・これまで出店調整を行ってきた商業活動調整協議会(商調協)を廃止し、出店調整機能を大規模小売店舗審議会(大店審)に移管し一元化する。 ・地方自治体独自の出店規制を抑制する。 ・施行二年後に必要があれば見直しを行う。 ◎輸入品売り場に関する特例法 ・大型小売店内の輸入品売り場については、一○○○平方メートル以下での設置は自由化する。 ◎民活法(改正) ・小売業、食品流通業の高度化を促進するために、共有型の商業集積施設などを、開発銀行無利子融資の対象にする。 ◎中小小売商業振興法(改正) 商店街の経営合理化への支援強化 ◎商業集積法 良好な都市環境の形成と中小小売商業の振興を目的とし、コミュニティ施設などの商業基盤施設と商業施設を組み合わせた商業集積施設の整備計画への公共事 業費の優先配分などを行い、支援していく。 こうした大店法と関連四法の成立は、「大店法」および「輸入品売り場に関する特例法」が大規模小売店の出店規制を緩和する方向にはたらき、一方、残りの 三法は、中小小売業の支援を目的としている。大店法の緩和以後、中堅のディスカウンターなどの出店、営業時間の延長がみられるようになった。 ◆再販指定商品の見直し〔1997 年版 マーケティング〕 一九九三(平成五)年四月一日より、メーカーが定価を決めている再販指定商品(化粧品と医薬品)について、公正取引委員会は、一部を除外することを決定 した。メーカーによる再販価格の維持は独占禁止法によって禁じられているが、再販指定を受けた商品は例外とされている。今回、再販指定から外された商品 は、化粧品一三品目と医薬品一○品目。消費税込み小売価格が一○三○円以下のシャンプーやリンスを含む化粧品など一四品目と医薬品一六品目は、これまで どおり残されるが、九五年からはドリンク剤と混合ビタミン剤が指定から除外され、そのほかについては九八年に再検討される。 ◆ストア・コンセプト(store concept)〔1997 年版 マーケティング〕 店づくり、店舗運営における基本をなす考え方、理念。小売業における経営戦略の出発点をなすものであって、百貨店、専門店といった業態においては、とく にこのストア・コンセプトが明確化されていない限り、マーチャンダイジング政策やイメージ戦略など市場標的と離れたところで見当外れの経営努力を行いか ねない。既存店舗のリニューアル作戦がストア・コンセプトの洗い直しからスタートするのは、このためである。 ◆スーパー・マーケット(super market)〔1997 年版 マーケティング〕 食料品など日用品を中心に、セルフサービス、現金販売、大量・廉価販売を原則とする小売店。アメリカで不景気の一九三○年ごろから大都市郊外のあき倉庫 を使って超格安で、ビン・かん詰食料品などを大量販売したのが起源である。その特色は、(1)客は入口でバギー(手押車の一種)または手さげかごをとっ て、店内に入る。 (2)特殊な売場以外は店員がいない。 (3)商品はすべての客の手のとどく範囲内に陳列されている。 (4)必ず価格の表示がある。 (5)客 は自分の欲する品物をバギーまたは手さげかごに入れて、出口で会計をする。(6)買物は袋に入れて持ち帰る。日本では単にスーパーと呼ぶのが一般的であ る。一定の条件を具備した小規模なスーパーをコンビニエンス・ストア、衣料品の比重の高いものをスーパー・ストアという。またイギリスでは平屋で売場面 積が五万平方フイートを超え駐車場と倉庫をもつものをハイパー・マーケットという。スーパーマーケット名鑑 91(商業界)ではスーパーと名のつくもの〔企 業体単位に売場面積二三一平方メートル(七○坪)以上、もしくは年間販売額一億円以上で、セルフサービス方式を採用している大量販売店〕は全国で一万六 六六三店となっている。 ◆無店舗販売〔1997 年版 マーケティング〕 店舗を構えずに、日用品、食料品、雑貨等の商品を販売する仕組みで、通信販売、カタログ販売、テレフォン・ショッピングなどの長所をとり入れた新しい小 売業態の一つである。消費者への時間や利便性にアピールするものとして注目を集めており、生活変化に応じた利用者層の存在はその発展の行方を握っている。 こうした無店舗販売の市場規模は、推定で一兆円にのぼるものとされ、その売上げは年率二桁の伸びを示している。 ◆バラエティー・ストア(variety-store)〔1997 年版 マーケティング〕 一定の価格帯を設定し、回転率の高い商品(非食品類)を中心として取り扱う小売店の一タイプ。原則的には生鮮食品や流行商品は取り扱わず、セルフサービ ス方式の販売形態をとる。アメリカで独自の発達を遂げたが、当初は日常雑貨品を中心とした一○セントストア(均一店)がそのスタートであった。アメリカ のウールワースはこのタイプの代表的企業。わが国では、当初はバラエティー・ストアからスタートしたものが現在では、スーパー・マーケット化、百貨店化 したものが多い。 ◆ウェアハウス・ストア(warehouse store)〔1997 年版 マーケティング〕 新しいタイプのディスカウント・ストア。できるだけ低コストな店づくりで、商品を安く提供することを目的とした小売業。ウェアハウスとは、「倉庫」を意 味する。しかし、近年アメリカでは、カラフルな店内装飾を施し、顧客獲得に工夫を凝らした店舗づくりで成長を遂げるところが多くなってきた。この傾向は 消長の激しいアメリカ小売業界における競争の激しさを端的に示すものであり、わが国においても小売の未来業態のひとつとして大いに注目される。 ◆カテゴリー・キラー(category killer)〔1997 年版 マーケティング〕 アメリカのトイザラスのように、ある商品分野における圧倒的な品揃えとメーカーとの直接取引などによる、徹底したディスカウントを特徴とする巨大専門店。 大規模店舗法の改正による出店規制の緩和によって、海外のこうした小売業の参入が進展していくと考えられる。 ◆ホールセール・クラブ(wholesale club)〔1997 年版 マーケティング〕 ホールセールとは「卸売」という意味で、コストをかけない倉庫のような店舗で、一定の会費を払った会員はディスカウント価格で買物ができる、一九七○年 代にアメリカで登場した小売形態。日本では九二(平成四)年一○月にダイエーが兵庫県神戸ハーバーランドに会員制のホールセール・クラブ「Kou's」 (コウ ズ)を開店した。 しかし、アメリカではホールセール・クラブの成長は頭打ちになり、代わってパワーセンターが成長している。 ◆ファクトリー・アウトレット(工場直販店)(factoty outlet)〔1997 年版 マーケティング〕 有名ブランド商品が割安で買える工場直販店のこと。アメリカではじまった新業態で、通常の使用では気にならない程度のキズもの(通常の販売には適さない 商品)を、直営店でかなり安く売っている。数年前から非常に人気を集めており、日本でも直営店ではないが、ファクトリー・アウトレットで買い付けた商品 を売る店も現れている。 ◆ショッピング・センター・エイジ〔1997 年版 マーケティング〕 大規模店舗法の運用改善と規制緩和、都市郊外地域の人口増加による、多核テナント型の郊外型ショッピング・センターや、食品スーパー・マーケットを中心 とした小型のショッピング・モールなどの出店ラッシュを意味している。カナダのエドモントン・モールをはじめ、多くのショッピング・センターの出店が予 想される。 ◆コンビニエンス・ストア(convenience store)〔1997 年版 マーケティング〕 大規模小売業が提供できないような便利さ(コンビニエンス)を顧客に提供することを目的とした小型スーパー・ストアで、一名ミニ・スーパーともいわれる。 便利さのなかには、 (1)立地的便利さ―大半が住宅地に近接して立地し、周辺に住む顧客に生活必需品を中心として手軽に購入できる便利さを提供。 (2)時 間的便利さ―交代制、ところによっては二四時間営業、一般小売店の営業時間外や休日にも開店することによって、いつでも消費者に商品を提供できる便利さ を提供。(3)品揃え面の便利さ―緊急度の高い日常生活の必需品をできるだけ幅広く揃えることによって、顧客の生活に密着したどのような注文にもその場 で応じうる便利さの提供、といった三本の柱が含まれる。地域密着型の小売業態として、今後の動向が大いに注目される。 ◆ストア・オートメーション(SA)(Store Automation)〔1997 年版 マーケティング〕 現代のハイテク機器を駆使した、小売店舗の自動化システム。たとえば、POSシステムと連動した陳列棚の価格表示自動化システム、光ファイバーによる店 内情報システムなど。こうした小売店舗の装置化は演出効果、雰囲気づくりに効果を発揮しようが、業態や業種による人間を重視したイメージ展開が新しい時 代に即した店づくりの基本的課題として残されている。 ◆量販店〔1997 年版 マーケティング〕 大量に商品を販売できる小売店。具体的には、ダイエー、西友ストア、イトーヨーカ堂などをはじめとする大手スーパーを暗黙裡に指すことが多いが、家庭電 気専門店でも特定のメーカー系列に属することなく、各地域に支店をもち大きな売上高を誇る店舗をも含めて使われる。商品に基づく業種区分ではなく、店舗 数や売上高を基準にした業態区分のひとつである。 ◆質販店〔1997 年版 マーケティング〕 「質」を販売することに主眼を置いた店。いわゆる量販店の対語。戦後に登場したわが国のスーパーは大量仕入、大量販売を中心とした安売り哲学で急成長を 遂げてきた。しかしここへきて、消費者の購買行動における品質重視の傾向、競争の激化に伴う差別化戦略の必要性から、画一的な商法では、企業の存続その ものが危ぶまれる情勢となっている。 「質販店」という言葉で表現される裏には、流通業界首脳の危機感、現状打開にかける意気込みをみてとることができる。 品質重視の経営姿勢は、終局的には高級化路線を歩むことになり、低価格を志向する消費者の存在がどのようにスーパー経営のなかにとり入れられるかが、成 否の鍵を握っているようである。 ◆ゼネラル・マーチャンダイズ・ストア(general merchandise store)〔1997 年版 マーケティング〕 小売業における業態の一つで総合的な品揃えをはかり一般大衆消費者を対象に販売するところから、総合小売業(GMS)といわれる。アメリカ流通業界の雄、 シアーズ・ローバック社はGMSの典型である。百貨店とはマーチャンダイズ・ポリシーの面で一線を画し超高級品は取り扱わない。わが国では、大手スーパ ーチェーンの一部の店舗(準百貨店ともいうべき大型店舗)にこの傾向がうかがえる。 ◆フランチャイズ・チェーン(franchise chain)〔1997 年版 マーケティング〕 商品の流通やサービスについて、フランチャイズ(特権)をもっている親業者(フランチャイザー franchiser)が、チェーンに参加する独立店(フランチャ イジー franchisee)に対し、一定地域内の独占的販売権を与え、サービスを提供する契約を結び、その見返りとして、加盟独立店から特約料を徴収するよう なチェーンをいう。契約チェーンと訳すこともある。このチェーンは強力な中央統制力(経営力)というレギュラー・チェーンの長所と、独立した資本・経営 手腕・意欲というボランタリー・チェーンの長所を組み合わせようとするところに特色がある。加盟独立店は、本部が指導する標準化された経営手法に従って いれば、商品管理や販売促進策を本部がやってくれるから、地域特権を利用して、販売に専念すればよいことになる。この制度はアメリカで発達したものであ るが、わが国にも、一九七○年代に入って急速に普及した。しかし、最近、急成長にともなってフランチャイズ商法をめぐる紛争も表面化し、公正な競争確保 の面から問題視されつつある。それに対し、フランチャイズ協会が反論をまとめ、関係筋に配布するなど、フランチャイズ・チェーンをとりまく環境は厳しい ものになりつつある。 ◆アンテナ・ショップ/パイロット・ショップ/センサー・ショップ(antenna shop/pilot shop/sensor shop)〔1997 年版 マーケティング〕 メーカーや問屋が、消費動向、売れ筋商品、地域特性を把握し、自社の経営管理に役立てることを目的に、通常は直営方式で展開する店舗。情報収集や実験が 本来の目的であるが、最近の小売経営環境の激化にともなって、本格的な小売店経営に乗り出すところがふえている。最近では、有名企業が全く会社名を伏せ た形で独自の事業として展開する覆面ショップも出てきている。実験段階にとどまっているうちはよいが、本格的展開にあたっては、経費面、人材面でネック になることがある。アパレル業界、ファッション業界をはじめとする変化の激しい業界に多くみられる。 ◆通信販売(mail-order selling)〔1997 年版 マーケティング〕 新聞・雑誌・ラジオ・テレビ・カタログ等で広告し、郵便・電話等で注文を受け、商品を配送する販売方法。世界最大のアメリカの小売商シアーズ・ローバッ ク社は、この方法で成長した。わが国では、欧米に比べると小売業売上げ全体に占める通販の比率は低いが、他の販売形態による売上げの伸びが低下するなか で、近年、その伸び率の高いことが注目を集めている。 高まる女性の社会進出、通販商品のクオリティと信頼性の向上、情報技術革新によるメディアの多様化が、通信販売の成長性に拍車をかけている。また「訪問 販売等に関する法律」では、その適正化のための法律関係を明確化し、とくにネガティブ・オプションを全面的に規制している。 ◆カタログ・ショッピング(catalog shopping)〔1997 年版 マーケティング〕 カタログを参考に購買するもので、通信販売の一形態である。使用される媒体が印刷媒体(新聞、雑誌、DM等)であるところに特徴がある。この電波媒体版 がいわゆるテレビ・ショッピング、ラジオ・ショッピングとよばれるものである。カタログ販売はかつての郵便主体の注文方法から電話主体へ、代金の決済方 法にもクレジット・カードや銀行口座からの引落しが用いられるようになり、時代背景の変化とともに変貌を遂げつつある。カタログ販売も市場の成熟化、知 的水準・文化水準の高度化といった背景に支えられ、カタログを使った通信販売を利用する家庭が増えている。商品を見る目の肥えた現代の消費者は、しっか りした商品の品揃え能力、価格設定の妥当な業者を選別する力を備えているだけに、消費者の支持が得られるよう評価を高めることが、次の飛躍につながる要 因となろう。 ◆訪問販売(call sales)〔1997 年版 マーケティング〕 販売員が直接顧客を戸別訪問し、必要な商品・サービス説明を行って販売するもの。伝統的な販売方法のひとつであるが、近年はダイレクト・マーケティング やニューメディアの発達によって、訪問販売に参入する企業が多い。その背景には、 (1)店舗への設備投資が不要、 (2)潜在需要の開拓が可能、といった企 業側の積極的な市場開発努力がある。しかし、訪問販売は通信販売と同様、トラブルの発生が多いため「訪問販売等に関する法律」を強化し、消費者の便益を 守るよう一一二国会で改正された。改正のポイントは、 (1)これまで規制の対象外とされていたサービス商品も含む、 (2)場合によっては刑事罰の対象とな りうることを盛り込んでおり、一九八八(昭和六三)年秋から実施されている。訪問販売の対象となる商品は多様であるが、化粧品・ミシン・書籍・ベッドな どはその代表である。 ◆ケータリング・サービス(catering service)〔1997 年版 マーケティング〕 ケータリングとは要求される品物を手渡すことを意味するが、それが転じて宴会、パーティー・イベントなどの設営・演出・料理の仕出しまでも含んだサービ ス事業を意味するようになってきている。大手都市ホテルが新たな市場として力を注いでいるが、最近は大手レストラン・チェーンも参入し、競争が展開され つつある。新しいサービス事業分野のひとつとして、その行方が注目される。 ◆アポイントメント・セールス(appointment sales)〔1997 年版 マーケティング〕 訪問販売の新種の一つ。同窓会名簿や組織団体のリストを手懸りに特定の人を電話で呼び出し、日時、場所を約束したうえで特典を説明し商品を売るやり方を とる。商品には語学用教材、海外旅行などがつきもので、支払能力のない学生などが被害にあうことが多い。強引な勧誘方法、不要不急の商品、契約段階での トラブルなど問題の多い商法。 ◆コンサルティング営業(consulting business)〔1997 年版 マーケティング〕 単に得意先や取引先に製品を販売するだけでなく、得意先・取引先と一緒になって諸々の企画を提案していくこと。コンサルティングとは、いろいろな形で相 談に乗ることを意味する。これからの営業マンには本来の営業マンの役割にプラスし、コンサルタント的能力が強く要請される。 ◆業態〔1997 年版 マーケティング〕 小売業における営業形態。つまり、電気店、金物店、菓子店といった区分が取扱商品に基づく業種分類であるのに対し、百貨店、専門店、コンビニエンス・ス トアなどは小売業態に関するものである。「業態」という言葉が出現してきた背景には、消費者の生活ニーズの多様化、新しい経営形態の小売業が出現してい るなど、多くの変化が潜んでいる。 ▲製品とブランド〔1997 年版 マーケティング〕 プロダクト・ライアビリティ(製品責任)についての関心は、近年、とみに高まっている。日付や製造年月日、ブランドに対する細かな注意は、その表れとみ てよい。PB商品もかつてのライバル意識で、ただ造りさえすればといった姿勢から、質と価格の高い次元でのバランスが求められ、個店ブランドにより流通 業者の良心を売ろうとする意味合いが色濃く感じられる。さらにエコロジー、環境問題からみた商品の責任が問われている。 ◆プロダクト・ライアビリティ(PL)(Product Liability)〔1997 年版 マーケティング〕 製造物責任・生産物責任などと訳されているが、定訳はない。プロダクト・ライアビリティとは、狭義には、企業がその生産・販売した製品について消費者や 社会一般に対する責任を意味し、広義には、製品の品質・機能・効用への責任はもとより、当該製品の使用中・使用後の環境への影響にまで責任をもつべきだ とする企業の姿勢・基本理念をも含んだものである。 ◆Sマーク〔1997 年版 マーケティング〕 消費生活用製品安全法により日常生活で活用されるものの中から安全性について問題がありそうな製品について、そのものの安全性を確保するために必要な構 造、強度、爆発性、可燃性などについての基準を作成し、検定、型式承認などを行い、適合すると認めたものに「S」マークをつける。 Sマークは一般消費者の生命・身体に対して特に危害を及ぼすおそれが多いものを「特定製品」として政令で指定し、安全基準に適合していれば、 「S」 (Safety の略)マークをつけ、かつ、Sマークのない製品の販売は禁止されている。 ◆リパック(repack)〔1997 年版 マーケティング〕 再包装すること。一度包装されたものをすべて外して再び包装しなおし、それと同時に日付を変えること。とくにスーパーでは生鮮品などがパック入りの状態 でセルフ形式中心に販売されるために、パックにつけられた「日付」が消費者にとって重要な意味をもっている。したがって、リパックは、製造年月日、加工 年月日の適正表示に対する業者側の苦肉の対応策ともいえるが、消費者の日付に対する関心の高さから今後は論議をよぶであろう。 ◆ブランド戦略〔1997 年版 ブランド(brand マーケティング〕 商標)を売り込み、他の同一製品と自己の製品とを差別し競争上有利な地位を築くマーケティング戦略。高価な商品や嗜好品のような商品 はもとより、従来ブランドなど問題にならないとされてきた分野にも、この戦略は広まりつつある。 従来は、メーカー・ブランドが中心であったが、百貨店・スーパー・生協など流通業者が自社ブランドをメーカーにつけさせ、自己の責任で販売する例が急増 している。今後この傾向はあらゆる商品に広まるであろうが、それにつれて消費者はブランドの内容に目を向けなければならない。 ◆ナショナル・ブランド(NB)(National Brand)〔1997 年版 マーケティング〕 AMA(アメリカ・マーケティング協会)の定義によれば「通常、広い地域にわたる適用を確保している、製造業者あるいは生産者のブランド」である。一般 に製造業者ブランドと呼ばれ、PB(プライベート・ブランド)に対応する用語として使われる。 ◆ストア・ブランド(SB)(Store Brand)〔1997 年版 マーケティング〕 PB(プライベート・ブランド)の同義語。従来のPBがむだなコストを省き、実質価値を重視するという、本来の意味を失い、消費者に悪いイメージを印象 づけ、単にNB(ナショナル・ブランド)の対立語になり下がってしまったことを考慮した大手スーパーの一部では、ブランドと新しい店舗イメージとの一体 化をはかるために、ことばそのものを替えて、あえてSBの呼称を採用している。 ◆デザイナーズ・アンド・キャラクター・ブランド(DC商品)(designer's and character brand)〔1997 年版 マーケティング〕 有名デザイナーの手になるブランド商品。著名ブランドの商品群を揃えることで多様化した消費者の差別欲求を充足させ、デザイン・品質に対する価値を高め、 店舗イメージや店格の向上を図ろうとするもの。最近では、大手百貨店が独自の売り場展開を行い、需要の掘り起こしや独特のイメージ作りを競っており、小 売マーチャンダイジングの軸となっている。 ◆シングル対象商品(goods for single market)〔1997 年版 マーケティング〕 一人暮らしを対象とした商品。パーソナル用の家電品、デザインや機能に工夫をこらした時計や電話機など、その数は確実に増えている。単身赴任世帯、一人 暮らしの女性世帯などを念頭においた商品の開発は、多様に分解するマーケット・ニーズに応える一方で、シングル・ライフをあるボリューム・ゾーンとして 把握するには感性をみがく必要があり、それだけに、ヒットする要因をていねいに分析しておくことが重要となる。 ◆プライベート・ブランド(private brand)〔1997 年版 マーケティング〕 略してPBともいう。ブランド戦略のひとつだが、商品開発は、安価で良質の商品を求める消費者のニーズに合わせている。すなわち、既存の生産、流通ルー トでは安くて品質がよい商品を仕入れるには限界があるところから、主としてスーパー・マーケットなどの大手小売業者が、自社の顧客に合わせて独自のブラ ンドによる商品の開発を行い、売り出したものをさす。この場合の製造業者は、いわゆる一流メーカーであることが多く、生産されたものはすべて発注者であ る小売業者が買い取る。したがって、メーカーの危険負担は小さくてすみ、消費者は一流メーカーの品を安く買うことができる。 生協のコープ商品もPB商品の一種である。 ◆ノーブランド(no brand)〔1997 年版 マーケティング〕 加工食品、日用雑貨品などの家庭用品を中心として、ブランド名をまったくつけず、白紙にその商品の一般名称(マヨネーズ、洗剤、ウイスキーなど)と容量 および法律で定められた事項のみ記されている商品。カラー印刷のラベルや写真の類も全くなく、その分だけSB(ストア・ブランド)商品と比べ一○∼三五% 程度安価である。ジェネリック・ブランド(generic brand)、ノーネーム(no name)、プレインラップ(plain wrap)などともよばれる。ブランド離れをはじ めた、わが国消費者にとっても、低価格志向の強い層を中心に、ノーブランド商品が受け入れられていく可能性は大きいとみられる。一部の大手スーパーやボ ックス・ストアでは、ノーブランド商品を主力とした品揃えで、消費者への浸透をはかっているところもあるが、品質における信頼性の面では、解決すべき問 題も多い。 ◆個店ブランド(individual store brand)〔1997 年版 マーケティング〕 その店でしか購入できない、独自のブランド。PBのバリエーションの一つと考えられるが、PBやSBが増える中で、どれだけの地位を築くことができるか は、未知数の要素が多い。 ◆エコロジー商品/環境関連商品〔1997 年版 マーケティング〕 フロンガス、ゴルフ場の雑草駆除のための農薬使用、森林資源への配慮など、エコロジー(生態系)、環境問題への関心の高まりを背景に登場した商品のこと。 ダイエーによる太陽光で分解するポリ袋や、ヘアスプレーのフロンガス使用からLPG(プロパンガス)への切り替え、ニチイによる古紙再生紙を用いた包装 紙の採用などが例としてある。メーカーもこうした動向に対応していくことが予想される。 ●最新キーワード〔1997 年版 マーケティング〕 ●ワン・トゥ・ワン・マーケティング(one to one marketing)〔1997 年版 マーケティング〕 データ・ベース、コンピュータ、ネットワーク、テレコミュニケーションをはじめとする情報・通信技術の発展によって、顧客とのワン・トゥ・ワン(一対一) の相互関係を前提としたマーケティングが可能となった。これをワン・トゥ・ワン・マーケティングという。 ワン・トゥ・ワン・マーケティング(原題 The One to One Future )の著者であるD・ペパーズ、M・ロジャースによれば、一九六○年代のマス・マーケ ティングから七○年代、八○年代のセグメンテッド・マーケティングへの移行は、多様なセグメントへの効果的なマーケティングを追求したものであったが、 それは単にマス・マーケティングよりも市場規模が小さくなっただけであった。顧客との関係性を前提としたリレーションシップ・マーケティングを情報テク ノロジーで武装することにより、顧客一人一人を把握し、一対一で対話し、個別の仕様に従ってカスタマイズ(個客化)した製品・サービスの提供を可能にし た。これがワン・トゥ・ワン・マーケティングである。 消費者の個性化・多様化が進展する中で、ワン・トゥ・ワン・マーケティングの重要性の認識が高まっている。 ●対話型マーケティング(dialogue marketing)〔1997 年版 マーケティング〕 顧客との対話によってマーケティングを成功に導こうとする新しいマーケティング戦略の考え方。マーケティング戦略を策定するうえで、まず標的市場のニー ズを確定し、その市場ニーズに適合したマーケティング・ミックスを計画することが重視されてきた。マーケティングの成功は、出発点である市場ニーズの的 確な把握、そのニーズへの製品・価格・プロモーション・流通チャネルの適合化に鍵があると考えられてきた。 しかし、今日の新製品開発の現場では、市場ニーズは先に存在・確定するものではなく、不断の顧客との対話のプロセスを通じて徐々に理解され、明らかにな っていくという構成的な立場がよく見られるようになった。市場が多様化・多次元化すればするほど市場ニーズを最初に確定することは困難になり、むしろ顧 客との対話を通じて発見し、マーケティング・ミックスも調整されていくという視点が重要であるという戦略論である。 ●オープン価格〔1997 年版 マーケティング〕 定価や標準価格、メーカー希望小売価格とは異なり、小売店が自由に値をつけることができる価格(制度)で、家電、食品、玩具業界などで増えている。オー プン価格への移行傾向の背景には、実売価格との差が大きい、地域・店舗によって流通・人件費などの小売側のコストが異なるために小売店が価格を決めた方 がよいという考え方がある。 公正取引委員会は、家電製品についてのオープン価格への切り替え基準として、「半数以上の店が二割以上値引きしている場合か、三分の二以上の店が一五% 以上の値引きをしている商品はオープン価格にする」と定めている。今日、この基準に該当する製品が増加しており、一九九三(平成五)年一一月、公取委に よるオープン化の徹底がはかられ、ビデオカメラなど家電メーカー八社は、三六四機種のオープン価格移行を行った。オープン価格化された商品では、メーカ ー希望小売価格と実際の小売価格を対照させて表示することは不当景品類及び不当表示法で禁じられている。紳士服ディスカウンターで問題になっている仕入 れ価格を大幅に上回る自店通常販売価格との比較によって値引率が高いように見せかける不当な二重価格表示などの問題の解決や、小売努力による低価格化の 進展、といった望ましい点がある反面、基準価格が表示されなくなるために、消費者の商品知識や品質を見る目が必要となる。 ●パワー・センター(power center)〔1997 年版 マーケティング〕 一九八○年代にアメリカで生まれ、急成長した流通形態。一店でも相当の集客力を持つ多くのディスカウンターやカテゴリー・キラーを同じ敷地内に集め、運 営されている。 日本では現在新潟県長岡市のアークプラザなど一○カ所ほどのパワー・センター形式のものが見られるが、アメリカに比べ、強力なディスカウンター、カテゴ リー・キラーの生育が遅かった。本格的なパワー・センターは、こうしたディスカウンター業態の発展にあり、その意味では今後のパワー・センターの成長が 期待できる。 ●ブランド・エクイティ(資産)(brand equity)〔1997 年版 マーケティング〕 ブランド、ブランド・ネーム、シンボル性によって形成されるブランドの資産と負債であり、ブランド・エクイティがプラスの資産となる時は企業とその製品・ サービスの価値を増大させ、一方、負債となる時は減少させるというブランドに対する考え方である。 D・A・アーカーによればブランド・エクイティは次の五つから構成され、ブランドを育成することによって競争上の優位性を獲得し、効果的ブランド戦略を 展開するうえで重要な概念であるといえよう。 (1)ブランド・ロイヤルティ、 (2)ブランド・ネームの認知度、 (3)知覚される品質、 (4)ブランド連想、 (5)ブランドに関する特許・商標・チャネル などの所有権。 ▽執筆者〔1997 年版 OAとパソコン〕 山本直三(やまもと・なおぞう) 愛知学泉大学教授 1929 年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。東芝OA事業部,東芝OAコンサルタント取締役を経て,現職。OA論専攻。著書は『実践オフィスオー トメーション』『日本語ワードプロセッサの活用法』『ワープロ文書生活』『ワープロ市民講座』など。日本事務機械工業会・ワープロ部会長,標準化委員で活 動。 ◎解説の角度〔1997 年版 OAとパソコン〕 ●オフィスでは,ワープロやパソコンを使えることは必要不可欠となり,電子メディアを紙のように扱うOAリテラシーは働く人の常識となった。ビジネス形 態は変化し,紙による帳票やファイルは,電子伝票や電子ファイルに代わり,マニュアルや書籍もDTPなどで自前で作成し,電子プリンターで印刷すること が普通になったし,オンラインでオフィスワークを行い,電子メールで情報を交換する。勤務形態が変わり,在宅勤務も生じ,オフィスの住環境やレイアウト も総合的に見直され,人が創造的に働きやすいオフィスの設計が必要とされる。 ●ネットワークの形態・役割・意味も大きな変化を遂げ,それがビジネス形態や経営システム,さらには社会変革をも引き起こす。インターネットの普及は, これまでのネットワークの状況を劇的に変えようとしている。 ●ネットワークにおいては,企業内の個々のシステムの接続,総合的なネットワークシステム,グローバルなシステム,異企業・異業種の結びつきと次第に進 んで来たが,さらにインターネットにより,社会一般にオープンなネットワーク環境がもたされた。 ▲OA一般用語〔1997 年版 ◆OAの定義〔1997 年版 OAとパソコン〕 OAとパソコン〕 企業などの組織体において、総合生産性を高めるため、オフィスの機能と作業の効率化・合理化を図る一連の活動および状態。端的には、高度情報化環境への 経営および事務システムの対応である。高度情報環境を利用すれば、これまでとは異なる高度なオフィスを創造でき、また在来のシステムから脱皮して、オフ ィスシステムを変革できる。ハワード・リー・モーガンは、「オフィスでは人間が中心である」と定義し、OAにおける人間性の重要性を指摘し、OAが単な る自動化でないことを主張している。 ◆OAリテラシー(OA literacy)〔1997 年版 OAとパソコン〕 リテラシーとは、一般に「読み書き」の能力をいうが、キーボード、ディスプレイ、ブラインド・タッチ、マウス、さらには電子ファイルの扱いなど、OA機 器に関わる基礎能力をとくにOAリテラシーという。 ◆グループ・アドレス(group address)〔1997 年版 OAとパソコン〕 オフィスのレイアウト、要員への机の割り当てなどの一つの方式。日本IBMが最初に実施をした。営業関係のオフィスで着席率が少ないことに着目して、居 場所を固定せずに、グループ単位に毎日弾力的に場所を指定し、コンピュータ・システムで、居場所、電話取り次ぎをするスペース割り当て方式。ファイルも センターファイル方式と移動方式を採り、解決する。 ◆デシジョン・ルーム(decision room)〔1997 年版 OAとパソコン〕 インテリジェント化してある会議室ないし重役室。会議の内容の質的な向上と決定のタイミングを向上させるような設備と情報の装備を持つ。具体的には、会 議室にはネットワーク、データベース検索、シミュレーション・システム、経営戦略資料の整備、プレゼンテーション・システム(プロジェクターなど)、遠 隔会議システムなどが、インテリジェント化の内容になる。 ◆電子会議(Electronic conference ;teleconference)〔1997 年版 OAとパソコン〕 インテリジェント機能を利用した会議。ネットワークを用いて遠隔地にいる人も参加できる方式。テレコンファレンスないし遠隔電子会議とも称する。また、 決定や選挙なども瞬時に行うことが可能である。ネットワークを通じて完全に互いに離れた場所にいて会議も可能である。 ◆電子メール(E‐MAIL)(electronic mail)〔1997 年版 OAとパソコン〕 ネットワーク、インターネットを通じて行う郵便。発信文を作成し、送り先アドレスを設定、発信をすると、先方の受信欄(郵便ポスト相当)に文が登録され る。先方が端末を見たとき、その到着を知る。特徴として手紙と同じ非同期通信であり、電子ファイルを送ることが可能。 ◆ローカル・オフィス(local office)〔1997 年版 OAとパソコン〕 ネットワークやOA環境の整備により、オフィスは物理的に集中する必要はなくなり、むしろ要員が通勤しやすく、働きやすく、地域に密着して、分散して配 置しながらも、統合したオフィスを構成することが可能となった(分散化された単位オフィス)。サテライト・オフィスという名称もある。ホーム・オフィス、 エレクトロコッテージは、家庭をローカル・オフィス化したものとみなしてよい。 ◆エレクトロコッテージ(electro-cottage)〔1997 年版 OAとパソコン〕 在宅勤務をするためインテリジェント化をした個人住宅。インテリジェント化の内容としては、ネットワーク接続ないしインターネット、パソコン、OA機器 など。A・トフラーが『第三の波』のなかで「情報化社会では、ネットワークの発達で、家庭にいてもビジネスができる社会がきて、プロシューマーが生ずる」 と展望したが、それが現実のものとなりつつある。インターネットの普及もそれを可能としている。 ◆在宅勤務〔1997 年版 OAとパソコン〕 家庭にいてオフィス・ワークをする活動形態。ダウンサイジング、ネットワークの発展、インターネット、イントラネット、バーチャル・システムの普及によ り、現実に可能な状況が生じつつある。在宅勤務の普及は、地域の交わり、地方の活性化によい影響を与えよう。 ◆情報ハイウェイ(information super highway)〔1997 年版 OAとパソコン〕 テキスト、音声、映像など、大量の情報がマルチメディアで行き交う高度情報化社会では、家庭に至るまで、光ケーブルなど高速のデジタル回線が敷かれる環 境が必要とされる。アメリカでは二○一○年を目標にスーパー・ハイウェイ構想を進めており、わが国でも構想を進めている。情報ハイウェイが進展すると、 社会システム全般にわたり、大きな変革が起き、巨大な需要を起こすと期待されている。 ◆モバイル・コンピューティング(mobile computing system)〔1997 年版 OAとパソコン〕 携帯端末から関係のシステムにオンラインで接続し、リアルタイム処理を行うこと。接続の方法として、通信衛星を利用したり、電話回線と室内無線を利用す る方式がある。PHSや携帯電話もデジタル化されつつあり、この方式の可能性は高まろう。 ◆移動OA(mobile office automation)〔1997 年版 OAとパソコン〕 移動状態においてネットワークなどにより、OAシステムと連動しながら事務作業をする方式。携帯端末、車載用端末、PDAなどによる。また、無線による オンライン型と端末のファイルを利用するオフライン型がある。 例として中距離輸送トラックのシステム、バンキング外販システム、レストラン店内のウェイトレスのオーダー・システムなどがある。 ◆オフィス・アメニティ(office amenity)〔1997 年版 OAとパソコン〕 オフィスの快適性のこと。OA環境の進化により、業務にとって効率的な配置環境ばかりでなく、居住空間としても、健康的かつ創造的な空間としても、優れ たオフィスが可能となり、様々に試みられている。 インテリジェント・ビルは、OAの基礎的な設備環境を十分に整備したビルであるが、あわせてオフィス・アメニティにも配慮することが通常である。 ◆VDT症候群(Video Display Terminal syndrome)〔1997 年版 OAとパソコン〕 液晶やブラウン管などのディスプレイ表示装置を多用するOA機器の操作によって生ずる人体的な諸症状。電磁波の影響や表示装置を長く注視すること、操作 姿勢などから、様々な症状が生ずる。一時間作業の中で一五分程度の休憩が必要とされる。 ◆EMC(電磁環境両立)(Electro-magnetic Compatibility)〔1997 年版 OAとパソコン〕 電子機器や携帯電話などは、電磁波を発生する。それが互いに干渉して誤動作を起こしたり、人体に悪影響を及ぼしたりするので、電磁波を遮蔽する必要があ るとされる。しかし、がんなど人体への影響は明確でない。郵政省では、詳しく調査し基準を定めようとしている。OA関連業界では、VCCIと称する自主 基準を定めている。 ◆VCCI(Voluntary Control Council for Interface)〔1997 年版 OAとパソコン〕 情報処理装置や電子事務機械の電波障害を防止するための自主基準で技術基準と運用基準があり、第一種(商工業地域)と第二種(住宅地域)がある。基準を 満たした機器にVCCIマークを貼付する。 ◆開放型システム〔1997 年版 OAとパソコン〕 外部からの接続やアクセスに開かれているシステム。これまでの企業のシステムのほとんどは閉鎖型であるが、OSIプロトコルの進展により、システム間の 相互接続が容易になり、開放型システムの方向へと向かっている。インターネットの普及はこれを一段と促進しつつある。 開放型システムでは、外部からの不正情報の侵入を防止するセキュリティのシステムが重要になる。イントラネットは、インターネットを利用した広域ネット ワークである。 ◆OSI参照モデル(Open System interconnection)〔1997 年版 OAとパソコン〕 国際標準化機構(ISO)が定めたシステム間の相互接続のためのプロトコルの参照モデルであり、開放型システム間相互接続のための基準である。ネットワ ーク・システムがこのモデルを実装(取り入れ)することにより、異機種、異なった環境との通信が可能となる。 ◆マルチベンダー(multi-vender)〔1997 年版 OAとパソコン〕 複数の売り主という意味であるが、OA関連では開放型システムへの移行により、あるシステムにおいて、同じ機能の機器でも異なった業者からのものの混在 が可能な状態をマルチベンダー環境と称する。この環境でないシステムは後れたシステムである。 ◆業際システム〔1997 年版 OAとパソコン〕 OAの進展により、WANやLANあるいはインターネットなどの環境が整備され、企業が単独企業の枠を越えて他企業、他業種あるいは消費者などと関連・ 連携して、広域システムを形成することが容易になった。学際に似せた考え方。 ◆分散システム〔1997 年版 OAとパソコン〕 ネットワークとコンピュータのコスト・パフォーマンスの向上により、OAシステムは複数のシステムに分散して構成することが容易になった。分散システム 相互の連携により、相互に協調しながら全体としても統合が可能であり、単位システムは自律的な運営が可能となる。分散システムは、相互に接続している形 態を特に協調分散システムと称し、システム全体としても信頼性も高く、この形態を通常とする。 ◆電子取引(EDI)(Electronic Data Exchange ; Eletronic Data Interchange)〔1997 年版 OAとパソコン〕 取引関係のデータの交換を、ネットワークを介して行うこと。これにより、書類中心のシステムから電子的な取引システムに変わる。親会社と子会社の関係、 金融機関との関係、国際的な関係も電子的に行われ、効率的かつ迅速で広域的なシステムへ変わる。 ◆電子決済〔1997 年版 OAとパソコン〕 ネットワーク上で取引の決済を行うこと。EDI、電子マネー、電子クレジットなどで生ずる。NTTの実験計画の電子マネーでは、銀行とは独立の電子マネ ー発行機関を設立、利用者は銀行に電子マネーの発行を登録して、発行機関から電子マネーの払い出しを受ける。利用者は電子マネーを使って商店で購入。商 店は銀行に電子マネーを預け入れ、銀行が発行機関へ還流すると決済になる。発行機関が独立しており、取引の機密が保たれる。 ◆電子伝票(electronic document)〔1997 年版 OAとパソコン〕 ネットワークとコンピュータの中で発行される取引データのこと。たとえば、端末で伝票フォームを表示して、その中に必要なデータを入力しながら、処理シ ステム内の注文書を発行するが、ペーパーの伝票は発行しない。EDIは、電子伝票を元にして成立する。 この取引の監査を行うには、テスト・データを入力して、このシステムの適切性をチェックし、また電子伝票を表示したり、印刷したりして内容をチェックす る。 ◆無人化店舗〔1997 年版 OAとパソコン〕 ネットワーク、自動化機器、店の遠隔監視装置、警備装置などを整備した無人で運営する店舗。たとえば大がかりなものとしては、銀行のCDとATMを設置 したカプセル無人店舗がある。 ◆電子マネー(electronic money)〔1997 年版 OAとパソコン〕 ネットワーク上あるいはICカードなどによる電子決済方式。いくつかの方法がある。プリペイドカード方式、ICカードによるクレジット方式、ICカード にあらかじめ自分の預金口座から相当額を移して、そのカードを現金と同じように使う電子キャッシュ方式(イギリス・モンデックスの実験)など。電子キャ ッシュ方式やICカード方式では、商店などがネットワーク型の読み取り装置を必要とする。問題として機密性の保持がある。富士銀行、大垣共立銀行、NT Tなどが新方式の実験を進めている。 イギリスのスインドン市におけるモンデックスの実験では、一万人の市民がカードを持ち、七○○店舗がこれを受け付け、郵便局の切手販売からバス料金に至 るまで生活万般の支払いが行われ、市民は現金を持つ必要はなく、子供の小遣いまで電子マネーのカードを子供に与える。 ◆CALS(Commerce At Light Speed)〔1997 年版 OAとパソコン〕 かつては、Computer Aided Logistic System の略号で、物流システムのWANを意味していたが、最近では、光速に近い瞬時電子取引をいう。アメリカ国防 総省が、技術マニュアル、図面、在庫データ、仕様書、取引資料などをすべて電子化し、ネットワーク化し、取引先と連携し、膨大な開発や調達を経費の面で もスピードの面でも画期的に改革した。CALSでは、必然的に標準規約に沿ったマルチメディアの情報交換の確立が必要となる。 わが国でも各企業がCALSに取り組んでいる。トヨタ自動車の例では、鉄鋼関連システムの電子取引化が急速に進められており、必然的に鉄鋼各社との電子 取引はオープン環境のもとに統一的に行われており、図面・仕様書などもネットワークで配布されるという。 ◆DTP(Desk Top Publishing System)〔1997 年版 OAとパソコン〕 パソコン、レーザー・プリンター、DTPソフトを用いて、文字・図形・写真などを取り入れて、電子編集を行い、製版をする簡易システムで、本格出版に近 い精密な製版ができる。企業内出版(インハウス・パブリッシング)を可能とする。 著述者が自前で編集ができること、製版のコストが節約でき廉価な出版が可能なこと、出版を迅速にできることが特徴である。なお、大量印刷、製本などの業 者依存状況はまだ続く。 ◆仮想システム(virtual system)〔1997 年版 OAとパソコン〕 本来は「事実上のシステム」という意味で、仮想現実システムということが多い。これは電子的あるいはネットワークの環境の中で提示されることからきてい る。この結果、二つの状況が考えられる。一つは、現実のものではないが、あたかも現実のもののように提示されること。もう一つは、現実に存在するシステ ムであるが、仮想的に表現されること。この二つは厳密に分けて考える必要がある。 ゲームや空想的な世界のものと、電子モール、電子決済、バーチャル大学などは現実的に運営される。 ▲OS・操作・アプリケーション〔1997 年版 OAとパソコン〕 ◆マン・マシン・インターフェース(man-machine-interface)〔1997 年版 OAとパソコン〕 人が機械を操作する場面、接点。たとえばキーボード、マウス、ディスプレイ、メニュー、アイコンなど、操作に関わるポイント。使用者の違和感やストレス をできるだけ少なく、健康への影響もないようにする必要があるが、技術的にはどうしても人と機械の間には、隙間が生じ、練習やOAリテラシーなど、人間 サイドから近づく必要がある。 ◆WYSIWYG(What You See Is What You Get)〔1997 年版 OAとパソコン〕 「見たとおりのものが得られる」という概念。ウィズィウィグと読む。分かりやすい効率的なコンピュータ操作のユーザーインターフェースの設計の基本とさ れている。特にレポートなどをワープロやパソコンで作成するとき、印刷したときのイメージと画面のイメージが同一なことが望ましいということである。 ◆マックOS(Mac OS)〔1997 年版 OAとパソコン〕 アップル社が提供する基本オペレーティングシステム。 Windows' UNIXなどと並び立ち、広く普及している。MacOS は、CRTを机上(デスクトップ)になぞらえ、すべて机上で仕事を進める感覚で誰でも平 易に操作できるように工夫されたWYSIWIGのマルチドキュメントの操作環境を提供する。WYISIWIGとは、見ているものがそのまま得られる意味 であり、この思想は、Mac によって打ち出され、ほかに広く適用されるようになった。また、Mac はハイパー・カードと称する優れたファイル方式を提供す る。 ◆ウインドウズ(Windows)〔1997 年版 OAとパソコン〕 マイクロソフト社が開発したOSをいう。ディスプレイに複数のウインドウを示すことができ、自由にそれを選択できること、DOS‐OSをベースにしてお りファイルは階層構造になっていること、プログラムはアイコンで示され、マウスでクリックするなど、イベント駆動方式のオブジェクト指向の構造になって いることなどに特徴がある。ウインドウズ 95 では、これまでの 3・1 に比べて著しく改良された。三二ビット方式、スタート画面にすべての必要なアイコンが 表示されること、ファイル名が八桁から二五五桁に拡張されたこと、ネットワーク接続機能がバンドルされたことなどである。急速に普及しつつある。 ◆MS‐DOS(Microsoft Disk Operating System)〔1997 年版 OAとパソコン〕 マイクロソフト社が開発した一六ビットパソコン用のOS。 ◆ウインドウ(window)〔1997 年版 OAとパソコン〕 ディスプレイに窓のように画面を表示し、その階層にあるファイルの情報をよびだせる表示機能。基本的にメニューバー、コントロール・ボックス、スクロー ル・バー、ボデイの部分などからなる。 ◆スクロール(scroll)〔1997 年版 OAとパソコン〕 本来の意味では巻物のことをいう。巻物ではぐるぐると巻きながら読む。これと同じように小さな画面で長いテキストや図表を見れるようにすることをスクロ ールと称する。スクロール・バーがあり、上矢印をクリックすると上、下矢印をクリックすると下の部分が、それぞれ出てくる。 ◆メニュー・バー(menu bar)〔1997 年版 OAとパソコン〕 献立表のように画面に示された一覧表形式の選択リストをメニューと称し、このリストをみてマウス・クリックなどで、いずれかを選択することになる。ウイ ンドウの上部にあるメニュー群のある行をメニューバーと称する。 ◆クリック(click)〔1997 年版 OAとパソコン〕 パソコンなどの、画面のアイコン、メニュー、ボタンなどをマウスなどで選択するとき、ハンド装置のキーを指で押す操作をクリックと称する。クリックには、 一回(シングル・クリック)、二回(ダブル・クリック)操作がある。クリックは鋭く押すが、その要領に慣れる必要がある。 ◆ショート・カット(short cut)〔1997 年版 OAとパソコン〕 アイコンやメニューのような手順に沿った操作ではなくキータッチによる操作手順。大概は、ファンクション・キー/コントロール・キー/アルト・キーなど と他のキーとの組み合わせで行う。その組み合わせは、プルダウン・メニューやマニュアルに示されるが、練習を要する。 ◆カット・アンド・ペースト(cut and paste)〔1997 年版 OAとパソコン〕 画像でも文字でも、切り取った部分やコピーした部分を再生(ペースト・貼り付け)すること。パソコンの操作での日常的によく用いる便利な機能で「切って 貼る」という感覚。削除しても一時的にクリップ・ボードに保存されるので、安心して操作できる。 ◆クリップ・ボード(clip-board)〔1997 年版 OAとパソコン〕 一時的な情報を張り付ける掲示板のようなもので、パソコンやワープロなどで、一時的に情報を張り付けるメモリーをいう。情報の切り取り(delete)、コピー などの操作をすると、その情報はクリップ・ボードに蓄えられ、張り付け(paste)により、それを復元あるいは複写できる。 ◆ドラッグ・アンド・ドロップ(drag and drop)〔1997 年版 OAとパソコン〕 マウスを押して画面をアイコンやオブジェクト(画像など)などを指定して(ハンドルがつくか強調表示される)、マウスのボタンを押したままでマウスを動 かし、画面の中でアイコンなどを移動させて放すことをいう。パソコンの基本操作のひとつ。 ◆MDI(Multi Document Interface)〔1997 年版 OAとパソコン〕 ウインドウ環境のもとでのアプリケーションは、画面の上では、ほとんど複数のウインドウの中にデータを表示して作業し、必要に応じてウインドウを切り替 えて、別の画面を表示する。こうした重なり合い、分割された状況がMDIである。ウインドウ環境はこれまでのシンプル画面(SDI)と異なり、MDI環 境を提供しており、プログラムの開発もそれに応じたオブジェクト指向になった。 ◆OLE(Object Linking and Embedding)〔1997 年版 OAとパソコン〕 データをあらゆるアプリケーション間で自由に交換できる機能で、現在開発が進行中で、一部提供が始まっている。これが完成すると、たとえば画像データを あらゆるアプリケーションに導入することができる。 ◆インストール(install)〔1997 年版 OAとパソコン〕 設置するという基本的な意味である。パソコンを購入して部屋に設置する物理的な設置と、ソフトウェアをパソコンにセットする設置がある。ソフトをインス トールするときは、多くの場合そのソフトの setup.exe を実行させると、自動的にインストールが行われる。 ◆プラグ・アンド・プレイ(plug and play)〔1997 年版 OAとパソコン〕 CD‐ROMやフロッピーなどのソフトをパソコンに装着すると共に動作が直ぐに始まるようになっていること。 ◆ウィザード(wizard)〔1997 年版 OAとパソコン〕 「魔法使い」の意味で、プログラミングあるいはアプリケーションの利用に当たり、利用者に様々な便利な機能を提供する。たとえば、帳票を設計しようとす ると、用意された標準形式を示したりして、利用者を支援する。 ◆プロパティ(property)〔1997 年版 OAとパソコン〕 ある機能の属性または特性をいう。プログラミングにおいて、オブジェクト(テキスト、画像、画面など)の特性の一覧を示し、その仕様をそれぞれ決めるこ とが普通であるが、この一覧をプロパティ・シートと称する。 ◆ファイル拡張子〔1997 年版 OAとパソコン〕 ファイルの内容表示は、ファイル名と拡張子からなり、filename.bas というようにファイル名・拡張子で表現する。拡張子によりファイルの性質を把握できる。 たとえば、filename.txt は、DOSテキストファイルであることを意味している。ほかにも以下のようなものかある。 jpg 〔JPEG 形式:国際的な標準画像形式〕 gif 〔GIF 形式:Internet 標準画像形式〕 mpg 〔MPEG 形式:国際的な標準動画形式〕 avi 〔AVI 形式:Windows 動画形式〕 mov 〔Quick Time:Macintosh 動画形式〕 lzh 〔lzh 形式:Windows で多用される〕 zip 〔zip 形式:Internet で多用される〕 htm 〔html 形式:インターネットのホームページファイル〕 ◆仮名漢字変換〔1997 年版 OAとパソコン〕 カナと英数字などで記述された文字列を調べて、辞書を用いて、漢字仮名交じり文に変換すること。これにより普通のキーボードを用いたタッチ・メソッドで、 和文をコンピュータで記述することができるようになり、一九七八(昭和五三)年に東芝より初めてワープロが発売された。 ◆フォント(font)〔1997 年版 OAとパソコン〕 同一形状の文字群のセット。通常は大阪、明朝、リューミライト、ゴチックなど、多種類のフォントをバンドルしているが、他に多くの多彩なフォントが工夫 され発売されており、オプションとしてセットできる。しかし、メモリーを大量に使うので、不要なフォントを入れるのは得策ではない。 ◆アウトライン・フォント(outline font)〔1997 年版 OAとパソコン〕 文字の輪郭の曲折点のベクトル・データを記憶する方式のフォント。パターンで記録する方式(ドット・パターン)よりも記憶容量が少なくてすむ。文字を表 示するときは、ベクトルデータによりプログラム的に復元する。文字の拡大縮小を行ってもなめらかな輪郭の形を表示できる。 ◆アフター・ダーク/スクリーン・セーバー(after dark/screen-saver)〔1997 年版 OAとパソコン〕 パソコンの操作を中断して、電源をオンにしたままに放置していると、CRTが速く焼けていたむ。これを防ぐために、暗い画面表示を作動させるソフト。マ ウスをタッチするなど操作を再開すると、自動的にもとの画面に戻る。アニメ、サウンドなど、楽しい動画が工夫されている。 ◆エンド・ユーザー・ユーティリティ(end user utility)〔1997 年版 OAとパソコン〕 コンピュータの利用を専門家の世界にとどめず、一般のコンピュータ知識のない人たちが、実際の用途に応じて容易に使えるようにするためのアプリケーショ ンのこと。 プログラムなど書かなくても、実務に携わる人が目前の仕事のための処理の仕組みを作り、コンピュータを使いこなせるアプリケーション。EXCEL、LO TUS123、ACCESSなどは、これに入る。 ◆リレーショナルDB(Relational Deta Base)〔1997 年版 OAとパソコン〕 物理的なデータファイルをもとに、関係式により関係するデータを結びつけて、物理的なファイルとは独立に様々なファイルを生み出すデータベースである。 パソコンでは、一般にACCESSが普及している。ACCESSでは、複数のデータファイルを一つのファイルにまとめることができ、表形式にまとめたフ ァイルから、関係するデータを検索して、仮想的に加工して、多様な表やレポートを作り出すことができる。 ◆クエリー(query)〔1997 年版 OAとパソコン〕 検索内容を指定し、検索を実行すること。クエリーの基本的な文法として、キーワードと and、OR、not など、あるいは、その組み合わせがある。また、ワ イルドカードとして*がある。 たとえば、ある項目欄について検索するとして、「情報欄 yes and キーワード欄 not *int* 」というクエリーを実行させると、情報関連のデータで、 int という文字がキーワードにないものを検索することになる。 ◆表形式DB(table style database)〔1997 年版 OAとパソコン〕 表計算方式のプログラミング・システムによるデータベース。EXCELやLOTUS123 などがこれである。 ◆テキスト・エディター(text editor)〔1997 年版 OAとパソコン〕 文字データファイルを作成したり、編集するソフト機能で、文字を扱うような様々な場面で利用する機能である。 ◆マクロ(macro)〔1997 年版 OAとパソコン〕 プログラムの複数命令を組み合わせて一命令にまとめたもの。マクロを利用すると、プログラミングの効率や正確性が向上する。 ◆コンポーネント・ウェア(component ware)〔1997 年版 OAとパソコン〕 完成済み部品プログラムのことで、最近のウインドウ環境、グラフィカル(GUI)かつマルチメディアの複雑なハード環境において重要な役割を担う。複雑 な環境を使いこなすのは、一からでは非常に困難で、たとえばウィンドウズ 95 などでは、コンポーネントウェアを多く持ち、プログラミングを支援している。 ◆オブジェクト指向(object-oriented)〔1997 年版 OAとパソコン〕 手続きや関数などでなく、データを構成要素として扱いプログラミングする方式。事物をあるがままに扱い、プログラミングし、その対象に関わったとき(イ ベント駆動)、それが働く。従来の始点から終点に流れる一貫形態ではなく、データ(オブジェクト)を揃えて、それを必要に応じて駆動するような方式のプ ログラミング。信頼性、拡張性に富み、MDI環境に沿ったプログラムを開発するのに適している。 ◆自動翻訳(aoutomatic translation service)〔1997 年版 OAとパソコン〕 コンピュータの自動翻訳ソフトで、言語間の翻訳を行うサービス。音声の自動翻訳は音声認識をともない、きわめて困難であるが、テキストでは比較的に容易 で、たとえばインターネットでは、端末で日英、英日の翻訳ソフトが提供されている。 ◆文字認識(character recognition)〔1997 年版 OAとパソコン〕 文字をコンピュータ処理でパターン認識し、文字コードとして把握すること。文字を読み取ったときは、イメージとしてである。このイメージの形状を調べ、 特徴を抽出したり、既存のパターンと比較したりして、最終的に文字コードとして認識するに至る。 ◆音声認識(speech recognition)〔1997 年版 OAとパソコン〕 人間の音声を識別し、内容をテキストにしたり、理解することで、高度のパターン認識である。キーボードに頼らないで、装置を操作することは、OAシステ ムのマンマシン・インターフェースの切実な問題であるが、単純な言葉に限り可能で、実用的な段階に至っていない。 ▲ハード・OA機器・PDA〔1997 年版 ◆DOS/V(Disk Operating system OAとパソコン〕 /v)〔1997 年版 OAとパソコン〕 日本IBMが開発した三二ビットパソコンのOSで日本語機能を搭載しており最も普及している。ウインドウズOAはこのOS環境の上に成立している。 ◆オール・イン・ワン(all-in-one type)〔1997 年版 OAとパソコン〕 一個の筐体のすべての機構を集めた形態の装置をいう。パソコンでは、CPU、プリンター、フロッピー、ハード・ディスクなどを収容したものをいう。装置 を外付けしないので、軽便であり、場所もとらない。 ◆デスクトップ(desktop)〔1997 年版 OAとパソコン〕 二つの意味がある。一つ目は机上のこと、机上に設置するコンピュータをデスクトップ型と称する。二つ目は、パソコンのディスプレイ表示の基本ウインドウ 画面をいう。これも仮想上の机上を意味している。 ◆ミニタワー(mini-tower type)〔1997 年版 OAとパソコン〕 コンピュータ(CPU)本体、ハード・ディスク、CD‐ROMなどの部分を小型の筐体に収め、机上にディスプレイとキーボードなどの操作部分と独立させ て設置する形態のコンピュータ装置ないしパソコン。CPUの拡張性や保守性に優れている。 ◆フルタワー(full-tower type)〔1997 年版 OAとパソコン〕 コンピュータ(CPU)本体、ハード・ディスク、CD‐ROMなどの部分を一つの筐体に収め、床に設置できるようにし、ディスプレイとキーボードなどの 操作部分と独立させて設置する形態のコンピュータ装置ないしパソコン。CPUの拡張性や保守性に優れている。 ◆ノート・パソコン(notebook-sized personal computer)〔1997 年版 OAとパソコン〕 ノート・サイズの薄く軽い形態のパソコンである。ハードディスクやフロッピーディスクを持ち、なかにはCD‐ROM装置を内蔵する本格的なパソコンもあ る。 ◆CPU(Central ProcessingUnit)〔1997 年版 OAとパソコン〕 コンピュータの中央演算処理装置。主メモリーから命令を取り出し、それを解析して、コンピュータの各装置に動作指令を出して、プログラムの実行を行う。 この動作を次々と連続してプログラムの手順に沿って行う。コンピュータの中核となる部分である。命令の取り出し、解析、動作指令などは、多重・並行的に 効率よく行うのが通常である。つまり解析をしながら次の命令を読み取っているという具合である。 ◆メモリー(memory)〔1997 年版 OAとパソコン〕 記憶装置のことで、内部記憶装置と外部記憶装置がある。内部では主にRAMが用いられる。外部では、ハード・ディスク、フロッピーディスク、磁気テープ、 光ディスクなどが用いられる。内部メモリーは大きなほどコンピュータの処理能力が高まるが、価格が上がる。 ◆RAM(Random Access Memory)〔1997 年版 OAとパソコン〕 任意に高速で読み書きのできる記憶装置であり、データの記録保持動作を必要としないSRAMと、保持動作を必要とするDRAMがある。また読み出しだけ できるROMがある。主に内部メモリーとして実装され、メモリー容量は一個の集積回路で一∼一六メガビットのものがあり、高密度化の開発が進んでいる。 ◆ハード・ディスク(hard disk)〔1997 年版 OAとパソコン〕 固定磁気記憶装置のことで、コンピュータの外部記憶装置の主流になっている。パソコンでは、五○○メガから一ギガバイトの装置を内蔵するのが通常である。 また、外部に外付けの装置を増設することもできる。ハード・ディスクは、コンピュータの内部メモリーを補強し、OSはじめプログラムのほとんどを記録し、 必要に応じて内部メモリーを高速に呼び出して(ロード)、実行させ、結果やファイルを大量に貯蔵する中核的役割を担う装置である。 ◆光ファイル(optical file)〔1997 年版 OAとパソコン〕 特殊な円盤に光学的な方法でデータを記憶する装置である。三・五インチMO(光磁気ディスク)では、フロッピーディスクに比べて、一二八メガバイト∼一 ギガバイトと、きわめて大量のデータを記録でき、外部記憶装置として多用されている。特に大量の情報を持つ、イメージ・データの記録には最適である。五 インチのROM型の光ファイルでは、一個で六ギガバイト程度の容量を持ち、複数のファイルで光ファイリング・キャビネットを構成し、図面や文書ファイル の大量記録検索装置として用いられる。 ◆光ディスク・ドライブ(optical disk drive)〔1997 年版 OAとパソコン〕 光ファイルの入出力装置である。読み書きの可能なものと、読み取り専用がある。三・五、五、一二インチのものがある。コンピュータの外部記憶装置として 用いられ、ROMは、とくにきわめて安定的でデータが破壊されない性質を持つ。 ◆ディスプレイ(display unit)〔1997 年版 OAとパソコン〕 コンピュータの入出力表示装置。ブラウン管(CRT)、液晶パネル、プロジェクター、プラズマディスプレイなど、形式も解像度も様々である。 ◆液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display)〔1997 年版 OAとパソコン〕 液晶とは、ある液状物質に電界や温度を与えると、分子が規則性をもって並ぶ性質(結晶)をいう。この液晶の性質を利用した表示装置を液晶ディスプレイと 称する。液晶素子を細かく配列し、文字、画像を表示する。薄型、小型、安価に製造でき、携帯型OA機器の発達に貢献している。 液晶は自身で発光せず、外光を必要とするが、背面から光を出し、反射させて発光させるバックライト方式が普及している。また、薄膜トランジスターを用い た高速表示の方式も普及している。カラーも表示できる。 ◆PDP(Plasma Display Panel)〔1997 年版 OAとパソコン〕 液晶と放電技術を融合した次世代型の薄型ディスプレイ。プレゼンテーションやハイビジョンなどでは、大型のフラット・ディスプレイにより、臨場感のある 画面を映し出したい。このようなディスプレイに期待される技術である。すでに四二インチテレビの販売が始まった。 ◆マウス(mouse)〔1997 年版 OAとパソコン〕 ネズミのような形をしたポインターのハンド操作セット。マウスを机上で動かすと、ディスプレイ上で矢印などの形状のポインターがそれにつれて移動したり、 目的のアイコンやメニューにポインターで指して、マウスのボタンをクリック(コツコツと押す)操作する。また画面の一部を指して、ドラッグ・アンド・ド ロップ、カット・アンド・ペーストなど、様々な操作もこれで行う。 ◆SCSI(Small Computer System Interface)〔1997 年版 OAとパソコン〕 パソコンと周辺機器との信号接続のコネクターの標準規格。スカジと呼ぶ。OCRやCD‐ROM読み取り装置などを接続するときは、たいがいはSCSI接 続である。 ◆PCカード(PC card)〔1997 年版 OAとパソコン〕 パソコンを拡張するための共通仕様のアタッチメントのICカードであり、このカードを目的に応じ、パソコンにオプションでセットすることにより、様々な 拡張機器を付加することができる。たとえば、SCSI、モデム、メモリーカードなどがある。 ◆イメージ・リーダー(image reader)〔1997 年版 OAとパソコン〕 画像や写真を走査(スキャン)して、デジタル・データとしてコンピュータに読み込む装置。白黒(モノクロ)とカラー・リーダーがある。イメージ・スキャ ナーとも称する。これに関連して、イメージで読み取った文字パターンをテキスト文字として認識するソフトもある。また、読み取ったイメージを編集するソ フトとして、フォトショップなどがある。 ◆OCR(Optical Character Reader)〔1997 年版 OAとパソコン〕 光学的文字読み取り装置。印刷文字あるいは手書き文字をスキャンして読み取り、コンピュータに入力する装置。印刷文字の読み取りは比較的に容易であるが、 手書き文字の読み取りでは、リジェクト文字または誤読文字が多くなる。リジェクト文字(排除文字)が出たときは人間が補足することになる。なお、読み取 りの後のソフトによるテキストの文脈チェックでミスを検出する方法もある。紙の質によってもリジェクト率が変わる。ハンディな簡便なOCRもある。 ◆プリンター(printer)〔1997 年版 OAとパソコン〕 コンピュータ出力用印刷装置。様々な印刷方式がある。ライン・プリンターは一行を一度に印刷する。シリアルプリンターは一文字ごとに印刷する。レーザー・ プリンター(電子写真方式)とサーマル・プリンター(感熱方式)とバブルジェット・プリンターなどがある。また、カラー・プリンターとモノクロ・プリン ターがある。 ◆バブル・ジェット・プリンター(bubble jet printer)〔1997 年版 OAとパソコン〕 インク・ジェット・プリンターの一種。インクを供給するノズルの発熱体でインクを気化させ、その気泡(バブル)を紙に飛ばして、印字する方式。ノズルの 束の集積により、レーザープリンターに近い文字品質が得られる。カラーインクを用いることにより、カラー印刷も容易である。作動音も静かで装置のコスト も低い。 ◆モデム(modem)〔1997 年版 OAとパソコン〕 電話回線と接続するための変調・復調装置。コンピュータのデジタル信号を電話回線のアナログ信号に変調し、電話回線からのアナログ信号をデジタル信号に 復元する。モデムの性能により、スピードが異なる。一二八 kbps では、一秒間に一二万八○○○ビットを送れる。 ◆PDA(Personal Digital Assistant)〔1997 年版 OAとパソコン〕 携帯情報端末のことである。アップル社が提唱した概念で、ネットワークの機能に支えられ、データの検索、保存、アイディアの発想の支援、ゲームなどまで 可能な家電・情報端末の性格を持つ低価格の端末。 ◆ICカード(IC card)〔1997 年版 OAとパソコン〕 CPUとメモリーのICチップを組み込んだ名刺大の記録処理機能を持つカード。カード自体に大きな記憶容量とデータ処理機能(インテリジェント)を持ち、 プログラムの内容により、様々の用途に弾力的に適用でき、しかも機密保持機能も高い。銀行カード、住民カード、入退室IDカード、クレジットカードなど に使われている。 ◆光カード(Optical memory card)〔1997 年版 OAとパソコン〕 ICカードで、データ記録部に光メモリーを持つもの。記憶容量が大きく大量のデータ、画像などを記録できる。住民カードでは住民情報を記録し、充実した 住民サービスが可能となる。医療カードでは、カルテの内容がゆうに記録でき、本人がどこに行っても、その詳細を病院に提示できる。しかし、光読み取り機 器を必要とし、あまり普及していない。 ◆電子手帳〔1997 年版 OAとパソコン〕 きわめて小型のパソコンで手帳のように携帯して利用する。名刺管理、スケジュール管理、辞書、メモ帳など日常的ソフトを持ち、他のパソコンとの情報の交 換や、中にはネットワークに接続できるものがある。キーボードの代わりにペン入力が通常である。 ◆PHS(簡易携帯電話)(personal Handy-Phone System)〔1997 年版 OAとパソコン〕 八○○メガヘルツの電波で無線基地局を経由して全国の地域や移動体と接続する携帯電話に対し、PHSでは地域的に基地局(半径二○○∼五○○メートルを カバー)を設け、一・九ギガヘルツ帯で基地を経由して通信を行う。デジタル無線通信であり、子機間通信もでき、普及した。 ▲文章・フォーマットの種類〔1997 年版 OAとパソコン〕 ◆電子ファイル(electronic file)〔1997 年版 OAとパソコン〕 ペーパーではなく、電子化されたファイルのことで、電子化ファイルともいう。メモリー、ハード・ディスク、ICカード、光カード、ネットワーク上のファ イルである。電子ファイルは、装置を用いないと読めないが、きわめてコンパクトで、検索は迅速で、場合により永久に保存できるが、消去は瞬間的にでき、 跡を残さない。また、大量にコピーでき、伝送できる。OAにおいては、この性質を利用して、ペーパーレス・オフィスを目標とする。 ◆ハイパー・テキスト(hyper text)〔1997 年版 OAとパソコン〕 ハイパー・テキスト標準記述方式により作成された電子文書。インターネットで常用する。文字、画像などをキーワードで結びつけ、文書間の関連も同様に結 びつけ、容易にジャンプできる。この標準規約を相互に守ることにより、情報を交換し、正確に復元することが可能となる。 ◆電子書籍(electronic book)〔1997 年版 OAとパソコン〕 CD‐ROMやDVDなどに記録した書籍。CD‐ROMの例では、新潮社の文庫一○○冊が一個のROMに収録されている。電子書籍の特徴は、ランダムに 検索でき、関連のテキストに移動できること、音声や動画も可能なこと、コンパクトなことなどで、新しい図書概念を生み出すと考えられる。 ◆EPWING〔1997 年版 OAとパソコン〕 CD‐ROMに書かれた電子辞書などを検索し、表示させる標準アプリケーション。データ構造はJIS規格化されている。 ◆CD‐ROM(Conpact Disk-Read Only Memory)〔1997 年版 OAとパソコン〕 書き込みができず読み取り専用の光記録のディスクで五五○メガバイトの容量がある。音楽用CDと同じ大きさで、デジタル記録をし、プログラムやデータを 大量に記録できる。マルチメディア表現の流行する今日のパソコンでは必要不可欠で、ソフトの供給もこれで行われることが多い。 ◆デジタル・ムービー(digital movie)〔1997 年版 OAとパソコン〕 デジタル記録の動画は、音声とカラー画像からなり、膨大なメモリーを要するが、MPEG2などデジタル圧縮技術が進み、長時間の動作やインターネットや ISDNによる通信も可能となっている。また、DVDなどの出現で広範囲のマルチメディアへの利用が期待されている。 ◆MPEG(Motion Pictures Expert Group)〔1997 年版 OAとパソコン〕 ISO(国際標準化機構)とIEC(国際電機標準会議)が制定している動画圧縮技術方式である。MPEG1は、転送速度一・五メガビット秒であるが、M PEG2では、一○メガビット秒と、ハイビジョンレベルとなった。さらに移動体用にMPEG4が検討されている。 ◆DVD(Digital Video Display)〔1997 年版 OAとパソコン〕 マルチメディアのデータをデジタルで長時間記録する高密度磁気ディスクで、直径一二センチの盤で二四○分の映像と音声を収録できる。次世代のビデオとし て期待されている。OA関連では、DVDを外部記録装置として利用し、マルチメディアを取り込んだシステムの要素として期待されている。 ◆Acrobat(アクロバット)〔1997 年版 OAとパソコン〕 アドビ・システムズ社が開発した電子的に文書を配布するための技術。DTPなどで作られたページイメージは、機種が異なると見ることができないが、Acrobat を使用すればそのままの形で見ることが可能となる。インターネット上での出版などで期待されている。Acrobat で使われるファイル形式を、PDF(Portable Document Format)という。一九九六(平成八)年冬に日本語版が発売される予定である。 ▲LAN/WAN通信の基礎用語〔1997 年版 ◆LAN(Local Area Network)〔1997 年版 OAとパソコン〕 OAとパソコン〕 閉域ネットワークあるいは企業内統合通信網など。電話、データ通信など複数の通信方式を統合して、オフィスに密度濃くネットワークを敷く。LAN環境は、 電子メール、電話、データ処理、ファイル管理、データべースなど、多面的なOAシステムの基盤となる。通信経路としては、光ケーブル、同軸ケーブル、メ タルワイヤー、無線などを用いる。光ケーブルが最も伝送容量が高い。ネットワーク形式には、リンク形式、バス形式、クラスタ形式がある。LANを通じて 共通の機能を提供する形態をサーバーと称し、ファイル・サーバー、プリント・サーバー、通信サーバーなどがある。LAN環境では、ホスト・コンピュータ の役割が軽くなり、端末同士の直接のアクセスが可能となる。これをクライアント・サーバー方式と称する。 ◆WAN(Wide Area Network)〔1997 年版 OAとパソコン〕 LANを広域に結合するものをWANと称するが、これも含めてLANとすることも多い。これが発展して国際的に展開するものをWAN(World wide Area Network)と称することもある。INSは一般に公開したWANである。 ◆LANカード(LAN card)〔1997 年版 OAとパソコン〕 パソコンなどを端末としてLANに接続するときの接続部分であり、送受信処理、エラー処理などを行うオプション装置である。LANアダプターあるいはL ANボードとも称する。 ◆無線LAN〔1997 年版 OAとパソコン〕 LANとの無線でデジタル通信をコードレスで行う方式である。中継装置から約一○○メートル以内の通信を行える。オフィスでは、ケーブルを敷かないで、 携帯端末を運用できる。実例として、レストランでオーダーを携帯パッドで取り、注文を調理場やフロントへ知らせる。 ◆クライアント・サーバー(client server)〔1997 年版 OAとパソコン〕 ホスト・コンピュータによって管理するコンピュータ・システムでは、各端末はホストを経由して相互に通信を行うが、クライアント・サーバーの方式では、 端末と端末が直接に、あるいは通信サーバーを通じて通信が行われる。したがって弾力的に効率よい通信が行える。 ◆ファイルサーバー(file server)〔1997 年版 OAとパソコン〕 LANでは分散処理システムを採り、諸機能の役割を集約して、共用する方式を採る。その機能中で共用ファイル機能をファイル・サーバーと称する。このフ ァイルでは、個人別、共用、システムソフト保存用、電子メール用など、様々な領域を設定して、弾力的な管理ができる。 ◆リモート・アクセス(remote access)〔1997 年版 OAとパソコン〕 離れた場所の端末からネットワークを通じてコンピュータや他の端末のファイルを扱える(アクセス)方式で、事前に接続方式をセットしておく必要がある。 たとえば自宅のパソコンから職場のファイル・サーバーのファイルに記録・更新できる。しかし機密管理が必要である。 ◆暗号化(encryption)〔1997 年版 OAとパソコン〕 情報を他人にさらされても、解読されないように情報を加工することをいう。特有の暗号化規則を適用し、暗号化したものを復元して情報を使う。インターネ ットを通じて通信をするときは、とくに一般の目に触れる機会も多く、機密を守るため暗号化が必要なことが多い。 ◆統合通信(integrated network)〔1997 年版 OAとパソコン〕 異なった通信方式を一つの通信方式にまとめることにより、高度なサービスを提供する通信方式。LAN、INS、ATMなどがある。 ◆ISDN(Integrated Services Digital Network)〔1997 年版 OAとパソコン〕 総合サービスデジタル網。NTTが一九八八(昭和六三)年から提供している高速デジタル通信回線であり、基幹幹線はほとんど光ケーブルになっている。マ ルチメディアの効率的な通信が可能で、スピードは、INSネット 64 が六四 kbps、ネット 1500 が一・五 Mbps。パケット通信と回線交換方式のサービスが ある。インターネットでは、INSを利用すると電話回線よりも高速に利用でき、接続通信経費も安い。 ◆INSネット 64〔1997 年版 OAとパソコン〕 NTT提供のデジタル通信回線、六四 kbps と一六 kbps の二チャンネルで構成される。アナログ電話回線よりも通信の質、容量が勝り、マルチメディア通信 も容易。回線交換もパケット通信もでき、大量の通信の利用によい。家庭ではターミナル・アダプタ(三万円程度)が必要。 ◆ATM(Asynchronous Transfer Mode)〔1997 年版 OAとパソコン〕 非同期通信モード。これからの通信方式の主流とされる広帯域ISDNの伝送技術。回線交換方式とパケット交換方式を組み合わせた方式で、ATM交換機に より、テキスト、音声、画像、動画など、マルチメディア情報の高速伝送を可能とする近未来の通信方式とされている。 ◆パケット(packet)〔1997 年版 OAとパソコン〕 小包の意味である。通信では、一つの情報を加工して、いくつかのパケットに分割して、パケットごとに伝送し、受け取り側で組み立てて復元する方式をパケ ット通信という。パケット通信では、情報が分割されるので、回線を独占することなく、回線が効率的に運用できるのであり、インターネットでは、この方式 を用いている。 ◆プロトコル(protocol)〔1997 年版 OAとパソコン〕 システム間の通信は、互いに共通の規約を守ることにより成立する。ネットワークの発達により、システム間の通信の重要性が高まると、広くオープンな通信 ができるように共通の規約が必要となり、プロトコルの最も基本的な規約としてOSIプロトコルが定められた。インターネットでは、TCP/IPが規約と なっている。 ◆TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)〔1997 年版 OAとパソコン〕 コンピュータおよびワークステーションなどのネットワーク接続のための標準通信制御手順。OSIプロトコルのトランスポート層、ネットワーク層の基本と なっている。インターネットにパソコンを接続するときは当プロトコルをOSに備える必要がある。 ▲インターネットの基礎用語〔1997 年版 ◆インターネット(internet)〔1997 年版 OAとパソコン〕 OAとパソコン〕 ネットとネットを接続しあって、蜘蛛の巣のように全世界を覆う状態(WWW ワールド・ワイド・ウェブ)のネットワークであり、ネットワークのネットワ ークである。したがってある単独のネットワークシステムではなく、特定の経営者はいない。インターネットでは、主に電子メール、遠隔リモート接続、ファ イル伝送、電子掲示板、ネットニュースの機能があり、TCP/IPプロトコルにより通信制御を行い、パケット通信である。ネットに接続するときは、直接 に管理団体(NIC Network Information Center)からIPアドレスとドメイン名をもらい接続する場合とプロバイダー業者など商業ネットワークを通じて 接続する場合がある。個人が行うときは、たいがいが後者の方法になる。 インターネットは、アメリカ国防総省が一九六九年に大学のコンピュータを接続して作ったのが前身であり、その目的は蜘蛛の巣状のネットワークにより、容 易に切断されないネットを形成することだった。そのうちにネットは研究目的に広く用いられるようになり、軍事目的と分かれて、一般の商用ネットとも接続 するようになり、一般化した。コンピュータのダウンサイジング、画像、音声、動画まで含む操作の容易なブラウザの普及もあり、急激に発達普及しつつある。 ◆イントラネット(intranet)〔1997 年版 OAとパソコン〕 インターネットを利用してシステムとシステムを相互に結びつけて形成された広域ネットワーク(WAN)をいう。個々のシステムがそれぞれLANシステム であるとすれば、LANからインターネットという公開ネットを経由して、他のLANに接続することができる。このときLANとして、第三者からのアクセ スや侵入を防ぐ必要があり、LANの中にファイアー・ウオール(fire wall)というセキュリティ機能を持つことが必要となるが、インターネットの媒介によ り、グローバルなネットワークを容易に形成できる優れたメリットがあり、利用する企業が増加しつつある。イントラネットの可能性はOAネットワークの進 化に大きな影響を与えつつある。つまり企業が企業内ばかりでなく広域にネットを展開し、異業種、異企業との連携や個人や家庭や消費者との交流を容易にす るからである。 ◆WWW(World Wide Web)〔1997 年版 OAとパソコン〕 ウェブないし3Wともいう。蜘蛛の巣のように世界中のネットワークを渡ってURLでハイパーテキストを検索できるようしたインターネットの掲示板サービ ス。ハイパーテキストのキーワードのクリックによって別のハイパーテキストに自由に移動できる。この移動をしながら検索をすることをネット・サーフィン と称する。 ◆FTP(File Transfer Protocol)〔1997 年版 OAとパソコン〕 インターネットにおいてTCP/IPによりファイル転送を行うための制御手順である。WWWのなかで提供されるファイルを入手するには、FTP機能を用 いて行う。FTPサービスを利用して、フリーウェア(無償提供ソフト)あるいは有償ソフトの提供が行われている。 ◆HTML(Hyper Text Markup Language)〔1997 年版 OAとパソコン〕 ハイパーテキスト形式のファイルを記述するための言語規約。データの表現形式がこの規約に統一されたことにより、インターネット上におけるテキストの透 過性とハイパーテキストの情報検索性が実現している。言語規約として、テキストの前後にタグをつけて表現するのであり、様々なタグが制定されている。例 として、他のHTML文書にリンクするときは、 〈A HERE= ファイル名 〉とする。この部分は青色で表示され、クリックすることにより、そこに移 動する。また、本文は「〈BODY〉高度情報化社会の未来〈/BODY〉」となる。〈....〉がタグである。 ◆インターネット識別子(internet identifier)〔1997 年版 OAとパソコン〕 インターネットでは、ひとりのユーザーを個別なものとして、識別する必要があり、その方法としてIPアドレスがあり、ドメインという方法をとる。この識 別をするために階層的な識別の方法をとる。国、団体、システム、サブシステム、個人というようにである。 ◆IPアドレス(IP address)〔1997 年版 OAとパソコン〕 インターネットに接続し電子メールなどをするには、接続者ごとに個別なアドレス番号を必要とし、三二ビットで番号を形成する。この数字のアドレスに対応 してドメイン名がつくが、物理的なセットには、IPアドレスを用いる。 ◆ドメイン(domain)〔1997 年版 OAとパソコン〕 通常は領域という意味においてプログラミング概念として用いられるが、インターネットでは、ネット側から見たホストコンピュータのIPアドレスを代表す る名称である。通常「ユーザー名@ドメイン名」と表現する。個々のユーザーは、いずれかのドメインに属する。 ドメイン名はわが国では「ホスト名(システム名).組織名.分類.国名」の構成で表現する。分類は、教育機関 ac、ネットワーク管理団体 ad、企業 co、政府 機関 go、その他団体 or などと表現し、日本は jp である。 ◆URL(Uniform Resource Locator)〔1997 年版 OAとパソコン〕 インターネットにおいて目的のアドレスにアクセスするための基本的記述方法。例としてNTTのホームページに移動しようとするときは、 「 http://www.ntt.jp/」とURLを記入する。 ◆ダイアル・アップIP接続〔1997 年版 OAとパソコン〕 ISDNあるいは電話回線にダイヤルして接続する形態。LANを通じた専用線接続のできないオフィスや家庭からは、プロバイダー経由でダイヤル接続をす ることになる。 ◆ブラウザ(browser)〔1997 年版 OAとパソコン〕 インターネットにおいて、WWWの情報を検索し、画面に表示するためのプログラムを称する。モザイク、ネットスケープ・ナビゲーター、マイクロソフト・ エクスプローラーなどをいう。 ◆情報検索リンク〔1997 年版 OAとパソコン〕 ハイパーテキストは特徴として、テキストの中で他の部分を検索しその部分に移ることのできるようなリンク機能を持つ。また、他のURLを検索することも できる。このような機能を使い、検索を継続することをネットサーフィンと称する。 ◆Java(ジャバ)〔1997 年版 OAとパソコン〕 サン・マイクロシステムズ社のプログラミング言語。Java で作られたプログラムは各種OS上のインタプリタの上で実行されるためどんな機種でも動作する。 またセキュリティー対策が施されており通信で安心して使用できる。WWWのアプレットを記述するための特色を持った言語である。 ◆アプレット(applet)〔1997 年版 OAとパソコン〕 Java 言語における実行可能なコンテンツ。画像やテキストからなるひとまとまりのクラスによるプログラム群であり、この中のプログラムを実行して、その 結果を画面に表示するなど実行できる。特定のアプレットを作成して、サブルーチンのように、利用することも可能。コンポーネントと同じようなもの。 ◆ショック・ウェーブ(Shock wave)〔1997 年版 OAとパソコン〕 動画が記録されたファイル。マクロメディア社製の場合、同社で制作されるムービーを表示させるときは、Shockwave fo director というプログラムをネット スケープナビゲーターに同社のWWWからプラグインして実行させる。 ◆仮想商店街(virtual shopping mol)〔1997 年版 OAとパソコン〕 インターネット上で提供される商品情報や取引情報に基づいて実際の取引が行われるWWWと電子メールによる通信販売システム。見積、注文、クレジットや 電子マネーによる支払いまで行える方式がある。店頭にいるような臨場感のある表示も体験できる。 ▽執筆者〔1997 年版 情報社会〕 小林弘忠(こばやし・ひろただ) 立教大学・武蔵野女子大学非常勤講師 1937 年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒。毎日新聞東京本社メディア編成本部長を経て,立教大学,武蔵野女子大非常勤講師。著書は『新聞記事ザッピ ング読解法』『マスコミ小論文作法』など。 ◎解説の角度〔1997 年版 情報社会〕 ●1995 年度は「パソコン元年」と名づけてもいいだろう。ウィンドウズ95の発売もあって,パソコン出荷台数は前年度比 55%増となった。96 年は,パソコ ン普及にともなって,インターネットが大流行した。さらに携帯電話も急速に伸びて,全国で 1000 万台を突破した。 ●しかし,こうした情報機器が普及するにつれ,新しい社会問題もおきてきた。インターネット・ポルノ,パソコン通信利用の詐欺,ソフト偽造といったいわ ゆるパソコン犯罪であり,携帯電話使用による交通事故の増加,医療機器誤作動などである。本格的な高度情報社会に向けての断面である。 ●21 世紀のマルチメディア時代をひかえて,各分野ではさまざまな試みが展開されている。電子マネー,電子新聞も登場し,放送のデジタル化も進められてい る。ネットワーク社会は,着々と進行しているが,情報産業を経済全体としてどう位置づけるか,ベンチャービジネスの育成という広範囲な課題のほかに,情 報倫理,情報管理体制をはじめとする社会現象面からも解決しなければならない問題も山積している。情報社会は,正念場を迎えているといえる。 ★1997年のキーワード〔1997 年版 ★テレワーク(telework)〔1997 年版 情報社会〕 情報社会〕 郵政省が計画している本省に出勤しなくても自宅や他の場所で勤務できる「出勤しない勤務」。専用線やパソコンネットで、本省にいるときと同じ内容の仕事 をすることができるマルチメディア時代の勤務形態。理論上では実現可能で、テレワーク方式が定着すれば、一般社会にも波及し、通勤混雑も解消、地方の雇 用機会の拡大、身体障害者の就労増進にも役立つといわれている。一九九五(平成七)年の国の新経済計画にも盛り込まれ、九六年には郵政・通産両省が推進 会議を発足させている。郵政省によれば、テレワークによる企業従事者は二○○○年には三五○万人にのぼると試算されている。郵政省は実際に郵便局で通常 の業務ができるかどうかを実験、テレワークの効果を研究し、全国二万四○○○の郵便局にテレワーク方式を拡大して行く方針。しかし、本省(本社)を離れ て手抜きせずに同じ業務ができるか、本省(本社)と同質の業務が可能かなどが課題。すべてを文書で処理しなければ仕事が進まない日本の社会に定着するか どうかと疑問視する声も多い。 ★電子商取引(EC)(Electronic Commerce)〔1997 年版 情報社会〕 コンピュータ上での契約や電子マネーによる商取引。インターネット利用の拡大で急速に拡大している。しかし、実際の取引相手が本物なのかどうか、機器の ミス、誤操作による契約のおそれ、悪用などの心配もある。現行の商取引制度はペーパーによる書類のやりとりを前提としているため、電子商取引では不正防 止、トラブル解決に対応できない面もあり、取引実態に見合ったルールづくりが叫ばれている。 このため通産省の電子商取引環境整備研究会は、不正、トラブルを防ぎながら取引を普及させるために、法改正を含む新たな商慣行の確立を提唱している。 ★電子通信倫理ガイドライン(ethicsguide of electronic telegraph)〔1997 年版 情報社会〕 パソコン通信の倫理上の問題を解決するために、大手事業者九六社でつくっている電子ネットワーク協議会が作成した自主的な手引き。事業者側と利用者側の 必要最小限のルールとマナーを盛り込み、プロバイダーやユーザーの参考に、と通産省とともに呼びかけた。事業者側には会員規約の整備、著作権の配慮を、 利用者側には中傷、プライバシー、ワイセツ画像の注意を要請している。このような自主ガイドラインが作成されたのは初めてで、それだけパソコン通信問題 が増えてきたともいえる。 しかし、一般ユーザーからはユーザーの発信する内容までルール化するのは「検閲」につながり「通信の秘密」をおかすと抗議がおこり、ネットのグループが 電子メールで撤回要求の声明を出し、抗議のホームページも開いた。インターネットの自由な運営のあり方をめぐって〈倫理〉と〈通信の自由〉の問題は、今 後も派生しそうだ。 ★イントラネット(intranet)〔1997 年版 情報社会〕 インターネットを社内の通信網に活用する社内インターネット推進計画。社内独自の通信網のLANとインターネットを結びつけるので、イントラ(内部)ネ ットと名づけて、活用する企業もふえてきた。たとえばパソコン画面に、社内ホームページを設け、商品情報や社内連絡事項を掲示し情報の一元化をはかる。 インターネットで使用される共通の通信手段なので社内ばかりか外部からでも社内情報が得られるほかインターネットで普及しているソフトを使えばパソコ ン会議もできる。インターネットは一般も接続できるので、極秘情報、機密情報の漏れを防ぐのが課題で、企業独自のパスワードをつくっているところもある。 ★五○○ドルパソコン〔1997 年版 情報社会〕 インターネットなどの利用に機能をしぼったネットワーク・コンピュータ(NC)。インターネットやイントラネットに接続して使う端末機。低価格で、従来 型のパソコンのように超小型演算処理装置(MPU)や大容量の記憶装置はない。電子メール、情報検索、ワープロ機能もある。アメリカのオラクル、IBM、 アップルコンピュータなど五社が九六年五月、規格統一で合意、パソコン市場を支配している形のマイクロソフト・インテルグループに対抗して売り出そうと している。 日本でも、オラクル社などが合意した統一規格を使った機種のパソコンを赤井電機が三万円以下で売り出し、日本電機なども低価格パソコンを販売するなどパ ソコン戦争が熾烈になってきている。 ▲情報社会の基礎概念〔1997 年版 情報社会〕 産業基盤は農業、工業から情報中心に移り、知的社会(情報社会)が現出した。しかし一方で、膨大な情報を処理しきれず、情報インフレ時代となってきてい る。国民の知る権利の確立もまだ未整備だ。情報を仲立ちとした円滑なネットワーク社会の実現のためには、ハード、ソフト面の開発に優先して、情報社会の 取り組み、理念確立と周知徹底が必要である。 ◆情報後進性(backwardness of information)〔1997 年版 情報社会〕 郵政省が発表した一九九六年版の「通信に関する現状報告(通信白書)」で、日本の情報通信の遅れが明らかにされた。インターネットが普及しているといっ ても、アメリカの二○分の一にすぎず、パソコンの設置率もアメリカの四分の一以下。欧米の積極姿勢に比べ、立ち遅れが目だつ。白書によると、インターネ ットに接続されているホストコンピュータは世界では九四七万台で、利用者は一億人に迫っている。このうちアメリカが六○五万台でトップ、ドイツ、イギリ ス、カナダと続き、日本は六位で台数は二六万九○○○台でアメリカの二○分の一、ドイツ、イギリスの六割。人口、経済規模を考慮すると、さらに低い水準 にある。パソコン設置率も日本を一○○とすると、アメリカは四七一、パソコン通信加入率はアメリカは一三三、携帯・自動車電話加入率三一○で、一五項目 の調査で日本が優位に立っているのは総合デジタル通信網の契約率だけだ。白書は欧米の通信政策の変化、アジアでの市場拡大をはじめとする最近の情報通信 事情を「世界情報通信革命の幕開け」と分析しながら、情報通信の経済成長と国民生活に与える重要性を強調している。 ◆情報民主主義(information democracy)〔1997 年版 情報社会〕 情報に関する基本的な権利。次の四つが柱。 (1)プライバシーの権利(right of privacy)=私的な情報が他人に知られることから守る権利。 (2)知る権利(right to know)=国民が国家機密などの情報を知ることができる権利。政府に情報開示を義務づける情報公開法はアメリカでは三○年以上の歴史をもち、連邦政府 関係だけでも、五○万件以上の情報が公開されている。 (3)情報使用権(right to utilize)=あらゆる情報を自由に利用できる権利。国家や大企業の情報独占 が防げる。(4)情報参加権(right to participate)=データベースなどの管理への参加、政府の重要な施策決定への参加権。(4)により国民の参加する直接 民主主義が実現する。これら「知りたい」 「知らせたい」 「知られたくない」権利は、憲法の理念に基づく基本的な権利である。情報民主主義は、産業民主主義 に代わるものとされている。 ◆情報縁社会(information unit society)〔1997 年版 情報社会〕 情報を仲立ちとした社会。これまでの地縁、血縁社会から共通の情報を基盤とした社会が到来しつつある。世界規模の情報基盤整備、インターネット、都市間 の情報通信ネットワークなど全地球、地域も情報で結ばれている。企業間のネットワークやパソコン通信ネットもやはり情報がとりもって相互の通信が行われ ている。国、地域、都市や企業、個人が情報でユニットされているといえる。現代は地縁、血縁というしがらみ社会から知的社会に移行しつつあり、新しい形 の情報縁社会がさまざまな組み合わせで実現しようとしている。 ◆ヒューマン・インターフェース(human interface)〔1997 年版 情報社会〕 人間が、OAシステムと接続する接点をいう。マンマシンインターフェース(MMI man-machine interface)ともいう。航空・電子等技術審議会(科学技 術庁長官の諮問機関)は一九九○(平成二)年、同長官の諮問を受けて「ヒューマンインターフェースの高度化に関する総合的な研究開発の推進方策」を答申 した。人間と情報システムのかかわりは、これからは接点だけにとどまらず、記憶、五感、連想、感情、心理など知的機能、人間の内面にまで入り込んだ高度 なヒューマンインターフェースが、とくに研究開発では必要だと述べている。 ◆マルチメディア(multimedia)〔1997 年版 情報社会〕 次世代通信網の代表として脚光を浴びているメディア。コンピュータ、電話、テレビを中心とする家電、エレクトロニクス製品などの産業がデジタルの世界で 融合して新しい機能を生み出すメディア。アメリカが先行して開発を進めているが、日本でも急ピッチで実現のための準備が進められている。容量の大きい光 ファイバーを通して情報を送るので、映像を伴ったさまざまな情報が双方向で利用できる。テレビで製品を紹介し、自宅にいながら買い物ができるテレビショ ッピング、テレビ電話を備えた端末を家庭と病院に設置しデジタル回線で結び、医者が患者の顔色や患部をみて診断するテレビ電話診療、パソコン通信を利用 した在宅勤務やテレコミューティング(通信勤務)も可能となる。CD‐ROMと音響、映像を組み合わせた立体データベース、ニュースの発信基地と端末を 結合して好みのニュースを取り出せる電子新聞など幅広い応用が考えられ、一部はすでに実験が始められている。郵政省は九四年をマルチメディア元年と位置 づけ、二一世紀にマルチメディア社会の到来を予想しているが、現実は難問が山積している。大容量の伝送路の確保、産業整備などのインフラストラクチュア、 膨大な光ファイバー敷設費用の捻出、ソフト内容と利用料金体系と著作権処理、官庁の〈縄張り〉解消、規制緩和、電気通信の標準化も大きな問題だ。 ◆データベース(data base)〔1997 年版 情報社会〕 膨大な情報を磁気テープやハードディスクなどの形でコンピュータに記憶させ、必要なときデータをすばやく取り出せるシステム。一九五○年代に米国防総省 が全世界に配備した兵員、兵器、補給品を集中管理するためにつくったデータ基地が語源という。データベース構築機関であるデータバンク(情報銀行 data bank) が情報提供者(IP)から各種情報を受けたり、独自の情報を収集してコンピュータ化する。用途別ではこのデータを一般に有料で提供する商用データベース と、企業や研究機関などがデータを集中管理し、企業、研究機関内だけで活用するインハウス・データベースに分けられる。種類別ではリファレンス・データ ベース(文献データベース)とファクト・データベース(ソース・データベース)などがある。前者は文献、記事など文書の形のデータベース。後者は資料そ のものや統計、数値、映像などのデータベースである。OA用に光ディスク使用の小型で大容量を記憶できる電子ファイル装置も開発され、今後も情報インフ ラストラクチュアの重要な柱となることが期待される。 ◆インターネット(internet)〔1997 年版 情報社会〕 各国のコンピュータネットワークが互いに接続し合った世界規模のネットワーク。一九六九年米国防総省で始まったARPAネットが母体。九○年代になって 商用用途にも飛躍的に増大し、九六年現在、電子メールをやりとりできる国は約一五○カ国、接続されているコンピュータは九四七万台、利用者数は推定一億 人。ひとつのコンピュータが全体を統括しているのではなく、それぞれのネットワークが共通したルールに従って独自に運営している。インターネットの利用 は、画面で文書をやりとりする電子メールのほか映像、音声を使った受発信、検索もできる。インターネットへ接続するサービス会社(プロバイダー)に一定 の月額料金を支払い、専用回線を設置すれば海外とも自由にやりとりできる。国内の利用者も急増、数百万人に達し、インターネットに機能をしぼった五○○ ドルパソコンも登場、さらに拡大の見通し。 リモコンで簡単操作できるインターネットテレビ、携帯電話内蔵の携帯情報端末も出回り始め、CATV回線を使って定額料金でインターネット通信サービス をしているCATVもある。 最近はホームページの開設が盛んで、商社がインターネット上で商社マン体験をさせたり、政府機関や個人もさまざまなホームページを開設してデータを送信 している。 しかし、世界的にみるとまだまだ日本は立ち遅れ、情報通信の後進性が指摘されている。社会的な問題もおきている。ホームページにポルノ画像を記録して提 供して逮捕された例もその一つ。アメリカでもポルノ掲示板が問題になっており、コンピュサーブ社では、世界の加入者対象にポルノ接続を停止する措置をと った。ドイツの捜査当局の要請を受けたといわれるが、通信の自由をめぐって論議もおきている。 ◆仮想社会(imaginary society)〔1997 年版 情報社会〕 コンピュータネットワークを維持するためネットワークの中を動き回って数々の働きをするエージェントの役割を果たすソフトによってつくられたコンピュ ータ環境。秩序、多様性、自律性があるので社会と呼ばれる。ネットワーク社会では共通の基盤をもった秩序がなければならず、その意味では実社会と同じ。 エージェントが経済観念、生存欲求など人間社会に必要な秩序、自立を備えていれば、人間の指令でコンピュータ上で実社会に似た環境が設置される。現実に ソフト会社の集団がネットワークに企業、大学、商店を誘致、実際の取引、買い物ができる仮想都市を構築している。 ◆日本版情報スーパーハイウェー〔1997 年版 情報社会〕 アメリカの情報スーパーハイウェー構想に対し、電気通信審議会が郵政省に答申した次世代通信網整備構想で、二○一○年までに全国に光ファイバーによる情 報スーパーハイウェーを整備し高度情報化社会に対応しようという日本の基本的な情報政策。二○○○年までに県庁所在地の都市、二○○五年までに人口一○ 万人以上の都市に光ファイバーを張り巡らせ、二○一○年に整備完了の三段階方針を打ち出している。答申では二○一○年には次世代通信網の整備でマルチメ ディア市場は約一二三兆円(自動車産業規模の約三倍)雇用を二四三万人と見込んでいる。光ファイバーケーブルは全国で四二万キロの共同溝をつくり、地中 に敷設する計画(建設省)で、学校、病院など公共機関にまず敷設を進める。光ファイバー整備に五三兆円(地中に敷設すればさらに四二兆円)が必要となる ので、整備の主体の民間電気通信事業者に対する無利子融資、税制面の優遇措置、さまざまな規制緩和策などが必要。光ファイバーによるマルチメディア化が 実現すると家庭用市場だけでも一七兆円になるといわれる。 ◆NII(情報スーパーハイウェー)(National Information Infrastructure)〔1997 年版 情報社会〕 アメリカのゴア副大統領が提唱した全米を光ファイバーで結ぶ次世代通信網構想。経済競争力強化と生活水準向上を目ざし、州を超えて家庭・企業・教育・医 療などをネットワーク化しようとする計画。二○○○年までに端末を直結して高度な情報サービスをする構想で実施に向けて審議を開始している。有線より約 六○倍という情報伝達量にすぐれた光ケーブルで情報機器をつなぎ、マルチメディア社会到来を目ざす。アメリカのねらいは、情報インフラストラクチュアを 確立し、情報産業を基盤に大量の失業者の解消を図り、経済力を高めるとともに、各国に先行して開発するハード、ソフトの技術面でも主導権を握る目的もあ るといわれる。日本、欧州各国、アジア諸国も情報スーパーハイウェー構想を打ち出しており、アメリカのNII推進と合わせ、経済成長と雇用増大の目的で、 GII構想(全地域的情報基盤)もサミットで確認された。 ◆携帯電話(handy telephone)〔1997 年版 情報社会〕 家庭以外のコードレスなどの携帯電話が爆発的な人気を得て、一九九六(平成八)年三月末の九五年度一年間の加入台数は五八七万台ふえ、累計で一○二○万 三七○○台と一○○○万台を突破した。九五年七月にスタートしたPHSも順調な伸びをみせ、九五年度末で一五○万台に達し、携帯電話は情報家電として生 活にとけこんできた。 携帯電話各社の調査によると、九五年度の携帯電話事業者の売上高の合計は二兆円で、前年度比五三%増加した。最大手のNTT移動通信網(NTTドコモ) グループの売上げは一兆二○○○億円といわれる。九五年から四○歳代のビジネスマンにかわり、三○、二○歳台の若手に普及してきたのが特徴。東京二三区 の使用率がもっとも高く、推定累計一八八万台で、同区内の就業人口(四五○万人)の三人に一人が利用者となる勘定という。 郵政省が九五年に全国の一般家庭六四○○世帯と事業所七六○○社を対象にした調査結果では、携帯電話をもっている家庭は一○・六%で、前年調査の五・八% に比べ倍増、事業所の普及率も四一・○%(前年二四・七%)に急増した。この調査によれば、携帯電話は一○軒に一台の割で普及していることになる。アメ リカの普及率(九五年一○月時点で一二・八%)に迫っており、三○○○万台になれば、世界でもっとも普及率の高いノルウェー(同一一月で二四・一%)並 みになる。 ビジネススタイルも携帯電話応用で変わりつつある。携帯電話とパソコンを組み合わせて、外出先からでも社内の情報システムにアクセスできるシステムや海 外支店、インターネットにも接続可能なシステムを構築している企業もある。 一方、携帯電話によるトラブル、社会現象も起きている。ドライバーの携帯電話使用による片手運転交通事故が増加しているのもそのひとつだ。たとえば埼玉 県で九六年一月から三月末までの調査では携帯電話使用中の事故は一五件、長崎県では二人死亡事故も起きている。警察庁の調べでは九六年六月中の人身事故 は一二九件で、うち五四件が受信の際の事故、四○件がかけようとしたときの事故だった。携帯電話の電磁波障害で精密医療機器のトラブルが起きていること も報告されている。心電図モニターに異常な波形がでたり、輸液ポンプに異常がみえたりして、携帯電話の持ち込みを禁止する病院もふえてきている。通産省 では被害防止のための電磁波規制措置を、二年以内に決める方針をとっている。電車内の携帯電話マナーを指摘する声も高くなり、家電として脚光を浴びてい る携帯電話が社会的に認知されるには、使用者側の利用の仕方にかかっているといえそうだ。 ◆PHS(personal handyphone system)〔1997 年版 情報社会〕 簡易型携帯電話。最近は自動車・携帯電話が飛躍的に伸びて一年間で倍増、携帯電話ブームといわれている。簡易型携帯電話は、システム的にいうと、家庭の コードレス電話の子機を屋外でも使えるようにするといったもので、九五年七月一日からサービスが始まり、ブームを加速させた。特徴は、電波を発受信する アンテナを電話ボックス、ビル、地下街に設置してあるので通常の携帯電話では通話不可能な場所でも通話できることと利用料が割安な点。携帯電話では加入 電話にかける通話料(三分)はNTTドコモが一五○∼二三○円、IDO(日本移動通信)が一九○円だが、PHSだと四○円。小型化も進み一○○グラム以 下のものもある。連続一五時間通話可能の機種もあり、ファクス通信では一秒に二○○○文字の送信ができる。しかし、通話の範囲が東京中心の八都県のエリ ア(同年一○月から拡大)に限られていること、走行中の車、電車からは通話できないのが難点。 ◆サイバースペース(cyberspace)〔1997 年版 情報社会〕 電子頭脳空間。オンライン化が発達したことで、標準システムを使って、オンライン上で高度な設計も処理しようとの試み。たとえば、ある企業が自社のCA Dソフト(コンピュータによる設計)でつくった画像を電子メールで送れば、メールを受け取った企業は発信側と同じソフトを使わなくても自社のCADソフ トで図形を自由に加工できる。パソコン用の基本ソフト(OS)に内蔵した異なるメーカーの三次元CADソフトをパソコンで処理してしまう。ネットワーク 上で高度のデータの自由なやりとりができるので、企業の連携には効果的。ネットワーク時代の新しい産業形態としても注目され、データ処理技術の標準化を 目ざす業界も設立されている。 ◆パーソナル通信(PCS)(personal communication system)〔1997 年版 情報社会〕 携帯電話をさらに小型、低価格化した次世代の個人電話。デジタル網を利用するので、いろいろな応用ができる。パソコン通信、データ通信も可能。将来、電 話が一人一台の割で普及すれば利用者が個別のID番号を持ち、電話の個人番号制度が実現する。自分への電話を外出先の電話に通話を集約できる「追いかけ 電話」やかかってきた電話の受話器をとる前に相手の電話番号が表示される「発信者IDシステム」も考えられている。携帯電話の飛躍的な伸びで、PCS時 代到来も夢でなくなった。 ◆広域ポケットベル〔1997 年版 情報社会〕 一九六八(昭和四三)年に運用が開始されたポケットベルは、移動中の人を無線で呼び出すシステムで、年々需要が伸びている。しかし、サービス・エリアが 限られていた。県単位のエリアを首都圏単位に拡大したのが広域ポケットベルで、遠距離通勤・通学者の利用が多い。最近は小型化、多機能化が実現、腕時計 ポケベル、FMラジオ併用のポケベルラジオも登場している。ポケベルも含めて移動者との無線通信をする自動車電話、携帯電話、船舶、航空電話などを移動 体通信(mobile communication)という。 ◆コールバック(call back)〔1997 年版 情報社会〕 日本から発信する国際電話を安い料金のアメリカ発信に切り替える通話方法。たとえば、日本から電話をかけて二、三度発信音を確かめて受話器をおくと数秒 後にアメリカに設置された交換機が自動的に電話をかけ返してくる(コールバック)。アメリカから日本の電話を数秒に一回くらいの割で呼び出しつづける方 法(ポーリング)なども実際に行われている。切り替えを受け持つ専門事業者は日本で約三○社あり、市場は二○○億円といわれる。日本発の電話料金にくら べ、アメリカ発の通話料は二∼六割も安いところからの料金格差利用の通話方法で、貿易企業など国際電話を多用するところは経費の節減につながる。しかし、 本来は電話発信国に入ってくる料金が、相手国に流れてしまううえに、ポーリング方式だと回線を独占してしまう。国内の設備をただ同然に使っている、とK DDなどは猛反発しているが、コールバック事業者の届け出義務がないため、実態もなかなかつかめず国際電話料金の価格破壊なのか抜け道なのかで議論が巻 き起こっている。 ◆パソコン・リサイクル(personal computer recycle)〔1997 年版 情報社会〕 廃棄パソコンの処理の回収整備体制。日本電子工業振興協会の調査によると、首都圏の企業向けの廃棄物のリサイクル率は、汎用コンピュータ八七%、ワーク ステーション五一%などだったが、個人向けは数量も把握できず、実態もつかめていない。パソコンブームにともなって、廃棄パソコンは急増し、社会問題と なることも予想され、回収整備体制が急がれている。 ◆ハイテク犯罪(hightech crime)〔1997 年版 情報社会〕 コンピュータを利用した犯罪。不正データを入力して金銭を詐取する金融機関犯罪、オンラインシステムの悪用、オウム事件のようなハイテク利用の犯罪のほ か、コンピュータソフトへの進入、他に感染させたり、増殖させたりしてプログラムやデータを破壊するコンピュータウイルス(computer virus)、コンピュ ータの中をいたずらするワーム(worm=虫)も含まれる。情報社会の反社会的なハイテク利用犯罪は年々増加、コンピュータウイルスは一九九○(平成二) 年には一四件だったが、毎年四倍のペースでふえている。九五年、総理府が発表した「科学技術に関する世論調査」(三○○○人対象)結果によると科学技術 の悪用・誤用に「非常に不安」の回答が三三・九%「やや不安」が四四・一%にのぼり、前回九○年に比べると「非常に不安」は一○・八ポイント増加した。 ◆エージェント(agent)〔1997 年版 情報社会〕 通常は代理人、斡旋者のことだが、コンピュータの世界では通信ネットワークの中で自由に駆け回り故障やコンピューターウイルスを監視する代理人、つまり コンピュータウイルス監視ワクチンともいえる存在のプログラム。世界的にコンピュータが接続され、ネットワークが拡大、複雑化されたときに問題となるの は故障やウイルス。そこで監視役のエージェントをネットワークに放って故障が起きたときには知らせたり伝言も伝える通信回線のパトロール役を務める。す でに実験が開始されている。 ◆チェーンメール(chain mail)〔1997 年版 情報社会〕 ネズミ算式に増殖していく手紙のことだが、インターネットの電子メールのメーリングリスト(mailing list)の混乱で、最近、情報渋滞の危険性も指摘されて いる。メールを出すとグループのメンバーすべてにコピーが送られるシステムがメーリングリストで、全員が同じ内容を読める。電子会議にも利用でき便利だ が、チェーンメール化すると情報がどんどん増殖し、制御がきかなくなりネットワークを混乱させ、正常な流通を妨げる心配もある。輸出用の血液提供を求め た善意のメールをメーリングリストにのせたところ、全国をめぐった事例もあり、インターネットの威力と同時に、制御面に脆い部分を浮き彫りさせた。 ◆情報ボランティア(information volunteer)〔1997 年版 情報社会〕 一九九五(平成七)年の阪神大震災で注目された新しいボランティアの形態。技能、労力を無報酬で提供する通常のボランティアとはちがい、的確な情報を流 して奉仕する。阪神大地震では被災者の安否情報がなかなか得られないときに、パソコンネットワーカーの活躍が目立った。避難所を回り、被災者の名前はじ め必要な物資のメッセージを商用ネットにのせるなどして、ネットワークを利用したボランティア活動をした。各ネットに働きかけて情報を共有したのが特徴 で、今後この種の情報ボランティア活動がふえると期待される。パソコン通信各社が連携して、災害情報を流すのも一種の情報ボランティアといえる。 ▲産業と利用システム〔1997 年版 情報社会〕 コンピュータの普及で、産業形態も変化してきた。パソコンによりパソコン関連製品販売が活発になった。企業もLANとインターネットを結びつけるなどし て有機的な利用法をはかり、企業、大学同士間のオンライン化も活発だ。 電子マネーにより決済方法も変わりつつあり、産業構造とともに、産業の形態、取引状況も変化の時代になった。 ◆ネオダマ〔1997 年版 情報社会〕 技術革新の進むコンピュータシステムの流れはネットワーク化、異なる機種間を接続するオープン化、機器を小型にするダウンサイジング化、そして文字、音 声、画像を合体させるマルチメディア化といわれる。この四つの頭文字をとってコンピュータシステムの新しい技術の流れを「ネオダマ」という。現在ソフト 業界は約六○○○社あり、四五万人が従事しているが、中小会社が多く競争も激しい。とくに「ネオダマ」関連の受注の急増で、仕事の内容も従来型が減り、 急速な「ネオダマ」型技術にどう対応していくかが課題となってきている。 ◆デジタルテレビ(digital television)〔1997 年版 情報社会〕 高画質、多チャンネル対応のマルチメディアテレビ。日本テレビ通信網が開発したプログレシブ・デジタルテレビが代表例。走査線(画面作成のために現行テ レビにある五二五本の横線)のフル使用と信号のデジタル化で微細な映像が見られる。ふつうのテレビは奇数、偶数の走査線を交互に走査させ、一回の走査で 全走査線の半分、二回目で半分を使って一画面をつくるが、プログレシブ・デジタルテレビは、一回の走査で全走査線を使うため一画面当たりの走査密度が高 まり画面のちらつきもなくなる。信号がデジタルに圧縮されているため一チャンネル分の周波数帯域で複数のチャンネルが放送できる。初のデジタル多チャン ネル放送局、日本デジタル放送サービスも設立され「パーフェクTV」としてデビュー、一九九六(平成八)年一○月からアダルト、ギャンブルチャンネルを 開設。高画質テレビは、一一二五本の走査線による微細な画像のハイビジョン、地上波で画質改良のクリアビジョン(第一世代高画質テレビ)、画質を高めて 横長にしたワイドクリアビジョン(第二世代)があり、多チャンネル時代を迎え画質の質的向上が競われている。 ◆デジタル衛星放送(digital BS television)〔1997 年版 情報社会〕 二○○○年に打ち上げする新衛星から始めるデジタル多チャンネル放送。郵政省が計画している。現在の衛星放送はNHK衛星放送などアナログ式の四チャン ネルだけだが、デジタル式になると一○チャンネル以上にふえる。BSは電波を中継する衛星で中継機の数は各国ごとに決まっていて、日本は八。このうち四 はBS‐3号機で、NHK衛星放送など四チャンネルに使われている。このほか四中継機(BS‐4号機)が九九年以後打ち上げられることになっている。こ の新衛星による放送をデジタル化しようとの試み。デジタル化されると一中継機一チャンネルしか使えないのが三∼六チャンネル使用できるので多チャンネル 化が実現できるという。 全国で一○○○万世帯ある視聴者増を見込んでの計画だがすでにデジタルテレビも登場、ハイビジョンテレビの普及を目ざしている放送局や家電メーカーは、 衛星放送のデジタル化に反発しており、実現のためには問題点は多い。 ◆電子新聞(electronic newspaper)〔1997 年版 情報社会〕 テレビで新聞記事が読める本格的な電子新聞が登場した。産経新聞社などが出資した電子新聞社が一九九六(平成八)年七月スタート、テレビを通して新聞記 事が自在に読める。送り手はテレビ電波のすき間を使って、記事を送信し、利用者はテレビに専用の受信装置をつないで携帯端末を差し込んで検索する。午前 六時にはその日の産経新聞朝刊の記事九割が入っているという。毎日新聞がジャストシステムと共同で開発した電子新聞毎日デイリークリックも七月からサー ビスを開始した。ジャストシステムの運営するインターネットに九ジャンルの記事の全文(フルテキスト)を流し、検索によって自由に読める。朝夕二回以上 内容を更新し、大きなニュースは随時速報される。マルチメディア時代を見越した電子新聞の競争は今後活発となりそうだ。商用パソコンネットに記事を流し ている新聞も多いが、アメリカではインターネットやパソコンにオンラインしている新聞は一七五。ただし採算は苦しく、今後採算ベースがカギ。 ◆音声新聞(voice paper)〔1997 年版 情報社会〕 目や耳が不自由な人、高齢者向けに、端末に声で指示すれば読みたい電子新聞の記事が音で流れてくる新聞。郵政省が通信・放送機構(同省の特別認可法人) に委託して開発を進めている。電子新聞、電子出版物は電話線を通してネット化されるため音声だけの送受信も可能。受け手の端末は、声を入れる装置とごく 簡単なボタン操作で情報が音声に変わるシステムにするという。 ◆システム・ハウス(system house)〔1997 年版 情報社会〕 ソフトウェア・ハウス(software house)から発展してできた言葉。システム設計やソフトウェアの開発だけでなくマイクロプロセッサなどを組み合わせてユ ーザーの求めるシステムを開発したり、一方でコンピュータ販売やハードの開発もする企業。マイクロ・コンピュータが自動車、ゲームマシン、家電製品など に広く普及してきたために登場した新しい型の情報関連企業。 ◆パソコン郵便(personal computer mail)〔1997 年版 情報社会〕 パソコン通信で封書の郵便物を扱う郵便システム。利用者が自宅のパソコンから文書を入力し、パソコン通信会社を通じて日本橋郵便局のホストコンピュータ に送信、郵便局はプリントアウトして封書郵便を作成し、宛て先へ配達する。A4判形式で一五円程度で、ほかに切手代金が必要。郵政省ははがき通信も検討 中で、これが実現すると年賀状形式も変わりそうだ。パソコン通信による郵送方式は、請求書の送りなど現在でも行われているが、大企業に限られ、全封書郵 便一二一億通の一%に満たない。 ◆マルチメディア・ラジオ(maltimedia radio)〔1997 年版 情報社会〕 FMラジオ局で始まったFM多重放送。見えるラジオともいう。ラジオに液晶画面を設置、文字情報のほか各種情報が得られるシステム。郵政省の規制緩和で、 音声以外の用途も実現した。ラジオで流れている音楽の曲名、アーチスト名の表示、ニュース、天気予報なども表示される。 ◆マルチメディア・カー(maltimedia motorcar)〔1997 年版 情報社会〕 郵政省が構想しているカーマルチメディア計画で検討されている交通システム。交通安全と車内の快適化を目ざしており、車からの情報発信も可能といわれる。 具体的には電波標識や電波カーブミラーなどを設置して、発信された電波で渋滞、時速制限情報を、ドライバーに車内端末を通じて音声で知らせたりする。ま た対向車、後続車情報、事故発生場所情報も音声で通報してくれる。高速料金も停車せずに支払え、ガソリンスタンド、駐車場なども知らせられる。自動車台 数は一九九五(平成七)年で七○○○万台、このうち自動車電話は二四万台(○・四%)、カーナビゲーションは九五年に五○万台。車内ですごす時間がふえ たわりには車の情報化は意外と進んでいないのが実情。カーナビゲーションと異なるのは、音声による双方向性があることで、車内から自宅のビデオ予約、ク ーラー調節もできるようになる。郵政省は「車のオフィス化」をうたい文句に、周波数の割り当てなどを研究し、二○○○年には実現したい考えだ。 ▲研究開発と手法・技術〔1997 年版 情報社会〕 コンピュータ社会の到来で生活様式も変わりつつある。デジタル・テレビ、インターネット・テレビが出現し、阪神大震災の混乱の教訓から、行政側も周波数 を統一して自治体の非常通信ネットワーク化の研究開発に乗り出している。 コンピュータの規格統一も進んでいる。 使用目的にあわせた機能のパソコンもできた。情報リテラシーが強調される理由もここにある。 ◆マルチメディア大学(multimedia university)〔1997 年版 情報社会〕 アジア太平洋地域で進められる情報スーパーハイウェー整備のため各国の人材を育成するための大学。郵政省が創設の方針を打ち出した。特定のキャンパスを もたずに、ネットワークを利用してソフト開発、マルチメディア技術の遠隔教育をする。アジア太平洋地域の大学と日本を衛星通信や光ファイバーで結び、専 門家の講義を中継したり質疑応答もできるシステム。地球的規模の情報整備(GII)の一環で、先進国にかたよっているマルチメディアの専門家技術者が、 途上国の人材育成を支援する国際的な電子高等教育機関。 ◆GIIC(global information infrastructure commission)〔1997 年版 情報社会〕 国際的な民間組織の「世界情報基盤委員会」。高度情報通信網を世界に広げる全地球的情報基盤(GII)構想の実現を目ざして一九九五年スタートした。各 国の政府や国際機関に通信網整備に対して提言するほか用途の実験なども展開する。米GII構想に、民間の各国企業が支援体制を組んだ形。(1)GII実 現のため民間主導の協力体制整備、(2)各国の情報スーパーハイウェー構想への協力、(3)各国の研究活動の推進と政策の提言、(4)教育、医療などの分 野でのGII利用実験、の四項目を活動の柱としている。九五年にワシントンで第一回総会を開き、九六年の総会は日本で開催の予定。事務局はアメリカCS IS(戦略国際研究所)のあるワシントン。 ◆バーチャル・リアリティ(VR)(virtual reality)〔1997 年版 情報社会〕 仮想現実。五感をコンピュータで計算して人工的に環境をつくること。人間は視、聴、触、味、臭の五感で事物を感じとっているが、現実にはないものをコン ピュータにより、人工環境をつくり現実のようにみせる。「物理的には存在しないが機能からは存在しうる環境設定」と定義できる。コンピュータ内にユーザ ーが入り、人工の現実感を感知できる世界といえる。 ◆ISDN(integrated service digital network)〔1997 年版 情報社会〕 総合デジタル通信網。メディア別に敷設されているテレコム回線を一本化してコストを軽減し、効率、品質ともによいデータを送信する回線網。情報を数値化 して送るデジタル送信、高速、大量の情報が送信できる光ファイバーの登場で一本化が実現した。 NTTが一九八四(昭和五九)年、INS(information network system)と名づけ音声、データ、画像を統合したネットワークの商用を開始したのが最初。 世界でもISDNづくりが盛んで、国際電信電話諮問委員会(CCITT)は、標準伝送容量を一四四キロビット/秒と規定している。しかし、現在サービス が行われているISDNは狭い地域の送信しかできないので、広帯域にさらに大量の情報を伝達する計画を広帯域ISDN(B‐ISDN broadband-ISDN) という。 現行のINSの伝送速度が毎秒六四キロビットから一・五メガビットなのに対し、B‐ISDNは一五五メガビットから六二○メガビットの大容量を持ってい るので、ATMを使えば音声、データ、画像だけでなく、映像、高精細度テレビ、多チャンネル番組の伝送まで可能になる。この通信網を使ったハイキャプテ ンもすでに実用化されている。これは従来のキャプテン・システムによる図形、文字情報のほか、カラー写真に音声を加えた情報を高速送信するシステムで、 高画質なので企業の販促、宣伝などに使われている。 B‐ISDNによって実質上のマルチメディア通信が実現すると期待されているが、問題は生活面の実用方法と光ファイバーの敷設方法。郵政省中心に検討が 進められている段階だ。 ◆総合知的通信網(UICN)(universal intelligent communication network)〔1997 年版 情報社会〕 総合デジタル通信網(ISDNの次世代通信網。情報通信と知的分野が融合した通信網。一本の通信線でより多角的な利用法が考えられている。ISDNを活 用し、映像とパーソナルな通信サービスを目ざすNTTのVI&P(visual intelligent and personal communication service=新高度情報通信サービス)と似 た構想。ネットワークの中核となるのはATM(非同期伝送モード=一種の交換器)で、電話回線に比べ二五○○倍の情報量を処理できる。映像、音声を同じ 信号の固まり(セル)に区分けしてセルごとに高速で伝送するので、電話線一つで電話、データ通信、放送網のほか、たとえば自動翻訳機につなげたり、テレ ビもハイビジョン、立体テレビに変えたりすることも可能。二一世紀までに実現が期されている。 ◆ATM交換機〔1997 年版 情報社会〕 広域総合デジタル通信網(B‐ISDN)はじめ高速通信デジタルネットワークの中核をなす非同期転送モード。企業、大学内や同一区域を汎用コンピュータ、 WS(ワークステーション)パソコンで結ぶLAN(構内情報通信網)、複数のLANをネットするWAN(大規模ネットワーク)が急速に広まり、さらに国 際的なネットワーク化も進んでいる。こうしたデジタルネットの基幹システムとなる交換機がATM。ATM交換機を使うと、毎秒一○○メガ(一メガは一○ ○万)ビット以上の膨大な情報量を多数の相手に送ることができる。送る情報量は、たとえば電話回線と比較すると二五○○倍という。伝送速度も早く従来の デジタル交換機の一○○倍以上。しかも文字情報はもちろん音声、アニメ、映画などの動画、映像も鮮明に伝送できるため情報スーパーハイウェーや双方向C ATV(ケーブルテレビ)の構築にはなくてはならない機器といわれている。大学や病院などではすでに実験的に実用化され、NTTではATMを利用した専 用線サービス(新高度情報通信サービス)の準備を進めている。次世代通信網時代を見越して、早くもATM交換機をめぐる商戦が活発化、国内の機器メーカ ーはATM交換機を受注したり現地生産に踏み切るなどアメリカを舞台に激しい戦いを展開している。 ▲政策と機関〔1997 年版 情報社会〕 一九九六年はインターネット、パソコンを悪用した犯罪が目だった年でもあった。インターネットのポルノ掲示、パソコン通信による詐欺事件もあいついだ。 情報が高度化されれば、陰の部分も暗さを増す。業界は電子通信の倫理自主指針を作成したが、情報の自由な流通のためには、使用者側のルール、マナーが、 これからはますます要求されてくる。 ◆通信標準化〔1997 年版 情報社会〕 マルチメディア時代に備えて電気通信技術を共通にする計画。一九九五(平成七)年電気通信技術審議会が標準化について二○○○年までのプログラムを策定、 郵政省に答申したことから具体化した。プログラムによると、(1)大量の情報を一度に送ることができる広域総合デジタル通信網(ISDN)はじめ基礎的 なサービスに必要な技術を九六年までに標準化、(2)世界のどこでも同じ端末で通話できる統合携帯電話サービス(FPLMTS)など高度サービス技術を 二○○○年までに共通にする。ホームショッピングなど代表的なアプリケーションの標準化も一五項目明示している。標準化については、国連の機関である国 際電気通信連合(ITU)も提唱しているが、審議に時間がかかるため民間活動が期待されている。今回の答申では、利用度が広い民間の電気通信仕様を公的 な標準に採用する公的機関と民間の連係、標準化の主体となる政府、国際機関と民間団体の連係も提唱している。 ◆情報弱者(information the weak)〔1997 年版 情報社会〕 情報が円熟した社会(メロウ・ソサエティ=mellowsociety)になると情報通信機器に慣れない高齢者などは時代からとり残されてしまう。高度化された情報 の扱いになじめない人たちをいう。音声だけで作動できるような技術開発(ヒューマンインターフェース技術)、情報弱者でも利用しやすい料金設定、プライ バシーの保護、災害への安全性の確保などが必要とされている。 ◆ネオテレトピア計画(neo teletopia)〔1997 年版 情報社会〕 地域の情報化を促進するために一九八五(昭和六○)年スタートした郵政省のテレトピア構想をマルチメディア時代に向けた新しい計画に組み直す新地域情報 開発基盤。ケーブルテレビ(CATV)や移動通信などを利用した高度情報システムを整備しようというのがねらい。今後のテレトピアの事業を、(1)家庭 と医療機関、福祉施設ネットの在宅ケア、 (2)CATV利用の遠隔工場、教育、 (3)PHS利用の交通、災害、気象情報サービスなどマルチメディア型にな ると想定、指定地域の自治体(現在一二七都市)が実施する事業に国が費用の三分の一を補助、自治体が出資している第三セクターへの無利子融資の現行の支 援を続ける一方、国の支援を市町村に拡大し小規模の自治体にも情報化を進める。 ◆COMETS〔1997 年版 情報社会〕 マルチメディア時代の通信放送衛星。一九九七年、H2ロケット5号機で打ち上げられる。他の衛星とのデータ伝送実験のほかデジタル放送、地上局を通さず に自動車電話と直接通信する高度移動体通信の実験をする。衛星の高さは約八メートル、両翼の長さ約三○メートル、静止初期の重さは約二トンと国内最大の 衛星。九七年八月打ち上げられ、静止軌道に投入される。 ◆非常用通信ネットワーク(emergency communication network)〔1997 年版 情報社会〕 広域で多目的に使える災害時のための新システム。阪神大震災のとき自治体の防災無線などに混乱があった反省から郵政省が開発を目ざしている。数種類の自 治体ごとの防災無線に、新たに統一した周波数を設け、広域的に同時利用したり、現在は一方通行の情報の流通を住民から自治体にも被災情報が流れるシステ ムにするのが特徴。自治体同士が自由に通話でき被災地は通話チャンネルをふやせるようにし、データ通信、映像送信の実現も計画している。兵庫県芦屋、西 宮市で実験を開始、早ければ一九九九年に実用化する。 ◆テレポート(teleport)〔1997 年版 情報社会〕 電波障害の少ない港湾地区に通信衛星と交信できる地上局をつくり、周辺を情報通信利用施設にしようとの計画で、電気通信基地を港にたとえてテレポートと 呼んでいる。東京都の「東京湾埋め立て計画」横浜市の「みなとみらい計画」もテレポート建設を目ざしている。アメリカではニューヨーク市の南にあるスタ ッテン島に通信基地を建設、同市の間を光ファイバーで結んで通信機能を高める準備が進んでおり、イギリス、マレーシアでも建設が計画されている。 ◆通信型情報端末(PDA)〔1997 年版 情報社会〕 簡易型携帯電話(PHS)を内蔵した電子メール交換、電子手帳機能ももつハンディ端末機。インターネットにも接続、ファクス通信もできる多機能性から五 ○○ドルパソコンの対抗商品と注目され、日米のメーカーが開発を競い合っている。すでに国内でも各社が発売競争を演じ、一九九六(平成八)年度で五○万 台、九七年度は一○○万台を見込み、市場拡大を目ざしている。 ●最新キーワード〔1997 年版 情報社会〕 ●パソコン新時代(new-year of personal computer)〔1997 年版 情報社会〕 パソコンの利用台数は、年々増加しているが、最近は飛躍的に伸びている。日本電子工業振興協会の調査によると、一九九五(平成七)年度の国内と輸出向け のパソコン出荷台数は、過去最高の六九一万九○○○台(前年度比五五%増)となった。プリンターやデスクなどパソコン関連の売り上げも三五%増加、これ らパソコン産業は二兆二○○○億円を突破、パソコン普及によるネットワーク社会は、新しい時代を迎えたといえる。 パソコンの普及は、ウィンドウズ 95 など操作しやすいソフトが登場したこと、インターネットへの関心が強まったこと、価格が下がったこと、パソコン操作 にアニメ・キャラクターやカラオケソフトを入れたり、ソフト機能をふやしたことなどがあげられる。国内向けは七○%増の五七○万台、輸出向けは七%増の 一二二万台で、パソコン本体の出荷額は、四三%増加の一兆六二八八億円だった。九六年度の出荷予定台数は八六七万台。アメリカでは、機能別に簡素化した 五○○ドルパソコンが注目をあつめたが、日本でも日本電算機が五万円パソコンを発売、話題となった。インターネットの利用に機能をしぼったボタン操作だ けの簡単な機器で、テレビに接続すればインターネットのホームページ(情報提供ページ)の閲覧のほか文書作成、電子メールの受発信もできる。アメリカの 五○○ドルパソコン競争に参入した形で、日本もいよいよ機能別利用時代を迎えたといえる。音声や手ぶりで操作できるものや外国語の翻訳もできるパソコン も開発中で、簡単操作の機器をめぐり、メーカーは加熱レースを展開している。ユーザー側の対応もさまざまだ。全戸にパソコンを設置してインターネットに もアクセスできるパソコン・マンションも福岡市に建設され、発売された。パソコン専用のスペースをつくり、最新型パソコンを置き、ISDN回線が設けら れ、インターネット、パソコン通信、オンラインショッピングもできるマルチメディア型マンションで、3LDKと4LDKタイプがある。富山県山田村では 四五八全世帯にパソコンを備え、電子メールで回覧板を回す全村ネットワーク化を目ざしている。こうしたパソコンの流行にともなって、さまざまな問題もお きている。パソコン犯罪がふえた点である。とくにソフトの違法コピーが激増、たとえば愛知県警が摘発した例では、一七都府県で海賊版フロッピーディスク 六万枚が押収されている。摘発されたほとんどが会社員、主婦、学生らで、アルバイト感覚で製造、販売した違法コピーは一七億円に相当するという。コンピ ュータソフトは著作権法で保護され、複製や無許可のレンタルは禁止されている。しかし、おなじものが瞬時にコピーできるため海賊版は跡を断たず、アメリ カのソフトウェア著作権保護団体の調べでは、日本国内のソフトのうち七割が違法ソフトで、メーカーがこうむる年間損害額は一○○○億円以上という。一日 中パソコンに向かっているネット中毒現象もアメリカで問題になり、検索・電話料金の増加による経済破綻も指摘されている。 ●情報公開制度(freedom of information system)〔1997 年版 情報社会〕 行政機関が所有している情報を公開する制度。日本の市町村単位では一九八二(昭和五七)年三月に山形県金山町が条例化したのが最初。自治省の調べによる と、九六年六月一日現在、情報公開条例や要綱をつくっている地方自治体は三三六。内訳は、都道府県四七、市二○四、特別区二三、町五九、村三。普及率は、 都道府県、特別区が一○○%、市が三○・六%、町三・○%、村が○・五%で、一二三二市町村全体の普及率は八・二%。住民の身近な自治体の普及率の低さ が目だつ。 一方、国の情報公開制度については、政府の行政改革委員会専門部会が、要綱案を公表した。九六年中に最終報告案をまとめ、政府は九七年度立法化を目ざし ている。要綱案は「政府の諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民による行政の監視・参加の充実に資することを目的とする」と うたっているが、不開示情報の項目が多い(「不当に国民に誤解を与えるおそれのある情報」はじめ六項目)こと、 「知る権利」の文言が明示されていない点な どから、まだ不十分との声もある。民事訴訟法の改正案では、当初裁判所による文書提出命令の規定で「当該監督官庁が承認しない公務員の職務上の秘密に関 する文書」は非公開としていたが、結局、行革委の要綱案の整合性がからみ、結論は先送りされた。要綱案の不開示項目、民事訴訟法のあいまいさなど検討さ れなければならない問題は多い。外国ではスウェーデンは一七六六年に、アメリカは一九六六年、デンマーク、ノルウェーが七○年、フランス七八年、カナダ が八二年にそれぞれ制度化されている。イギリスでは六七年、市民の苦情を受けるために議会オンブズマンが設けられている。 ●次世代インターネット(next generation internet)〔1997 年版 情報社会〕 インターネット利用者にとって、悩みは接続しにくいことと通信に時間がかかることだ。この難点を通信衛星を使って解消する試みが始動した。三菱グループ が出資している宇宙通信(SCCの事業によるインターネットターボサービスで、第二世代のインターネットともいわれる。茨城県のオペレーションセンター を通じて、インターネットの情報を通信衛星スーパーバードA号機に送り、宇宙から降らせる仕組みで、同社独自のサービスのほかプロバイダー(インターネ ット接続業者)にも貸してサービスするという。通信衛星を利用すれば、一定時間に転送できる情報を大量に処理でき、時間のかかる動画、写真も早く転送で きる。利用者は同社を経由して通信衛星にアクセスすればよく、待つこともなく常時パラボラアンテナから情報をキャッチ、パソコンに取り入れることができ る。パラボラアンテナとデコーダー(三万円程度)があればよい。同社は電話回線の約一○○○倍の早さで情報を転送できるシステムも開発、今後、接続しに くい悩みもなくなるばかりか、インターネット利用の電子新聞や電子出版も可能となりそうだ。 ●著作権権利情報集中機構(J‐CIS)〔1997 年版 情報社会〕 マルチメディアソフトの著作権保護を目的に、文化庁が設立する新しい公益法人。文字、データ、画像、動画、音声など多岐にわたる著作権を集中的に管理し ようという構想で、二○○○年までに設立される。マルチメディアは、文字、映像、音声などデジタル化された情報をコンピュータで融合するシステムで、複 雑な流通経路をたどるため著作権の管理が大きな検討課題だった。種類も膨大で、しかも融合して利用されるため個々のソフトの著作者をつきとめて許諾を得 るのは困難視されてきた。現在でも海賊版ソフトが相当出回っているといわれ、著作権者、ソフト制作者の要請で、九三年一一月、著作権審議会マルチメディ ア小委員会が管理体制を提言、文化庁で検討していた。この機構ができれば、ソフト管理面に役立つと期待される。構想によると、音楽など著作権の集中管理 が行われている分野では、権利者団体のデーターベースとJ‐CISとでコンピュータを接続し合い、著作者の特定を検索できるようにする。集中管理体制が 未整備の写真などの著作権管理は、新しくデーターベースを同機構内で構築し、それぞれの分野の著作権情報を一元的に管理する。利用者は、J‐CISに端 末を接続して、ほしい情報をデーターベースで検索、著作権の帰属を知ることができる。著作権所有者側の著作権料の徴収漏れの防止、著作権の処理の迅速化 もはかれるという。問題は利用者側のモラルで、現在でもパソコン通信を悪用した個人ユーザーの不正フロッピーディスクが出回っており、ユーザーがどれだ けJ‐CISを利用して、正しく著作権料を払うかが運営上の問題点として指摘できよう。ソフト著作物については、従来の著作物よりも、きびしく保護され るべきだ、というのが世界的に共通した考え方になりつつあり、デジタルソフト全体の法体系整備も今後の課題といえる。 ●電子マネー(electronic money)〔1997 年版 情報社会〕 現金を使わず、IC(集積回路)カードやネットワーク上で決済する方式。ICを組み込んだキャッシュカードに電話回線などをとおして自分の口座からカー ドに金を移し、買い物をする際はICカードを品物を買った店端末に入れれば決済される仕組み。現在利用されているプリペイドカードは、使い道が限定され、 使用回数にも限りがあるが、ICカードの電子マネーならば口座から金を移せば何度も使える。カードを紛失しても取り引き状況が記録されているので、残高 復活が可能。利用者は現金を持たないで買い物ができ、販売側も現金を用意する必要もなく、レジも不要なうえ売り上げの集計、税の申告もデータ化されるな どコスト面でメリットがある。イギリスでは九五年から実験的なカード使用を開始、日本でも銀行、NTTデータ通信とタイアップ、一部企業や大学で実用化 実験が始められている。問題はカード偽造など安全対策。確実な取り引きができないと経済が混乱するため、安全性の確立が課題となる。ICカードのほかに、 パソコン利用の決済方法も電子マネーといわれる。これは買い物をしたあとで銀行口座から金を引き出し、店のパソコンに代金を振り込む方式。 インターネット上で決済する「Eキャッシュ」もアメリカでは行われている。これは銀行口座から必要なだけインターネットのEキャッシュに移し、支払いや 送金をする仕組みである。サイバーキャッシュと呼ばれる電子マネーの実験も行われている。しかし、運営に失敗すると経済活動に混乱が生じ、その方策を整 備するのが成功のカギといわれる。 ▽執筆者〔1997 年版 放送・映像〕 志賀信夫(しが・のぶお) 放送批評懇談会理事長 1929 年福島県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。早大文学部講師を経て,放送批評懇談会理事長。著書は『テレビ媒体論』『放送』『いまニューメディアの 時代』など。メディア・ワークショップ代表理事。 ◎解説の角度〔1997 年版 放送・映像〕 ●本格的な多チャンネル時代が,デジタルCS(通信衛星)テレビ放送の実現とともに出現するため,郵政省は 1995 年 9 月から, 「多チャンネル時代における 視聴者と放送に関する懇談会」を設け,96 年末まで,議論を重ねている。 ●70 チャンネルのパーフェクトTVを筆頭に,97 年には 100 チャンネル以上のディレクTVやJスカイBなど,テレビ放送の多チャンネル化が進むと,番組 の種類・内容は増加するが,質の低い番組も増えると予測,その対策を検討し始めた。 ●「中間取りまとめ‐‐論点の整理」という同懇談会の中間報告書が,96 年 6 月に発表されたが,21 世紀に向けた放送の健全な発達を図るため,ペアレンタ ルロック機能を積極的に活用したいとしている。 ●米国のVチップにあたるのが,このペアレンタルロックで,両親の代わりに子供に見せたくない場面をかき消すコンピュータ機器を装着させる。米国では 13 インチ以上の受像機にすべて付けさせることになったが,日本ではデジタルCS放送のみに限られることになりそうだ。97 年にならなければ,結論的なことは いえない。 ★1997年のキーワード〔1997 年版 放送・映像〕 ★メガメディア化〔1997 年版 放送・映像〕 コンテンツ(番組)の制作から配給までを行うべく、メディア企業が合併、もしくは、提携によって大型化すること。通信・放送業界の規制緩和がこうしたメ ディア再編を促すきっかけとなった。 アメリカでは、一九九五年一一月に、三大ネットワークに対してプライムタイムの番組の自社制作を禁止する「フィンシン・ルール」が廃止された。この規制 緩和をにらんで、九五年七月から八月にかけて、三大ネットワークのうち、ABCは娯楽産業大手のウォルト・ディズニー・カンパニーに買収され、CBSは 総合電機メーカーのウエスチングハウスに買収された。NBCは八六年にゼネラル・エレクトリックの傘下に入っているので、三大ネットワークの中から独立 系ネットワークは姿を消すことになった。 九五年九月、タイム・ワーナー(TW)は、CNNを抱えるターナー・ブロードキャスティング(TBS)を買収することを決め、合意に達した。米連邦取引 委員会(FTC)は、この合併がCATVの運営や番組製作において過度の集中を引き起こすとしてきたが、九六年七月、条件つきで了解した。同年一○月に は買収手続きが完了する。 日本では、九六(平成八)年六月に、オーストラリアのニューズ・コーポレーションと日本のソフトバンク社が、合弁会社を設立し、旺文社メディアを買収す ることで、テレビ朝日の株を二一%取得すると発表した。ニューズ・コーポレーションは、日本のCSデジタル放送に参入を計画しており、テレビ朝日の持つ 番組制作ノウハウを獲得する狙いがあるという見方をされた。そうなると、日本初の伝送路とコンテンツの統合、つまり、メガメディア化となる。 今後とも、国内外において、通信、放送、映画、コンピュータ、エレクトロニクスなどの産業を巻き込んだメガメディア化が予想される。 ★TVショッピング〔1997 年版 放送・映像〕 テレビでコマーシャルや番組を放送し、その視聴者を対象とした通信販売。これまでは、スポットCMによる通信販売が主流だったが、最近では情報番組の形 態をとり、一商品を三○分間ほど説明する商品広告「インフォマーシャル 【information (情報)と commercial(コマーシャル)との合成語】」による通 信販売が売上を伸ばしている。 一九九四(平成六)年七月からテレビ東京で放送を開始した「テレ・コン・ワールド」が日本初のインフォマーシャル。テレ・コン・ワールドは三井物産と米 ナショナル・メディア社との提携によって実施されている。それに続いて、九五年一二月から、住友商事と米ホームショッピング・ネットワークによる「住商 HSNダイレクト」、九六年一月から三菱商事、同年四月からフジサンケイリビングサービスなどがそれぞれ放送を開始した。九六年七月現在、地上民放キー 局では、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京が、一週間当たり、延べ四一番組、一八時間四八分放送している。日本テレビでも九六年一○月から放 送を開始する予定。パーフェクTVやディレクTVといったCSデジタル衛星放送においても、ショッピング専門チャンネルが大きな目玉になりそうだ。日本 通信販売協会の調べによると、テレビショッピングの市場規模は九四年度で一六六○億円となっている。販売だけでなく、広告として、番組としても価値があ り、多チャンネル時代における重要なコンテンツとして期待されている。 ★電子新聞〔1997 年版 放送・映像〕 記事を、電波、あるいは、通信回線を利用して配信し、端末に呼びだして読む新聞。 一九九六(平成八)年七月、ジャストシステムと毎日新聞社が共同で、インターネット上での電子新聞サービスを開始した。膨大な記事情報の中から、個人の 興味にあわせたものを取りだせるのが利点。 オンラインではなく、テレビ電波のすき間を利用して記事を配信する電子新聞サービスも登場した。九五年一二月、フジテレビ、産経新聞、三菱商事、三菱電 機の四社が「株式会社電子新聞」を設立。同社は、九六年四月に認可された電子新聞の実用サービス「E‐NEWS」を同年一○月から関東地区で開始した。 家庭の受信機で受信した新聞情報などは、携帯型端末で読むことができる。こうした地上データ多重放送・携帯型端末による電子新聞実用化事業は世界で初め て。 ▲放送事業〔1997 年版 放送・映像〕 放送を取り巻く環境は、デジタル技術を中心にして技術革新が急速に進んだ。そのため、郵政省の「放送高度化ビジョン懇談会」は、九六年四月「放送高度化 ビジョン」の中間報告を行い、二○一○年のチャンネル数「四○○∼五○○程度に達すると考えられる」という数字を発表した。 CATVについては、同年において、光ファイバー網が全国に普及、最も低い場合で約四一%、最も高い場合で六○%の家庭に普及するだろうと予測している。 衛星放送は現在のようなBS放送とCS放送の両者の間の実質的な差はなくなり、CATV経由と直接受信を合わせて八五%程度の普及率となろう。地上放送 は地域番組を通じて地域の一体化に大きな役割を果たし、移動受信などのニーズに対応、今後も発展していくものと見られている。 ◆NHK(日本放送協会)(Nippon Hoso Kyokai)〔1997 年版 放送・映像〕 東京都渋谷区神南に本部をおき、NHKの電波を直接各家庭に向けて放送する特殊法人。その運営は受信料【一九九六(平成八)年度は収入五六七三億円で全 収入の九七・四%】でまかなわれている。NHKの電波は、地上放送と衛星放送の二種がある。前者には総合、教育の二テレビ、ラジオ第一と第二およびFM ラジオがある。後者には衛星第一と第二の二テレビがあり、合計して七波となる。それに加えて、九四年からハイビジョンの実用化試験放送を行い、九八年に 予定されている本放送に備えている。また、九六年三月からFM文字多重放送を開始した。国際放送では、ラジオ日本とNHKテレビ国際放送の二種がある。 ラジオ日本は二二言語、一日延べ六五時間放送している。NHKテレビ国際放送は九五年四月から開始し、北米で一日平均五時間三○分、ヨーロッパで一日平 均三時間四○分の無料・ノンスクランブル放送を行っている。放送法によって以下のようなことが定められている。(1)視聴者の要望に応えて報道・教育・ 教養・娯楽の各分野にわたって放送すること。(2)放送サービスが全国のすみずみまでゆきわたるように放送局を建設し、あわせて、地域社会に必要なロー カルサービスをすること。 (3)放送の進歩発展に必要な研究や調査をすること。 (4)国際放送をすること。事業計画・収支決算は国会の審議を経ることを求 められている。なお、運営の基本計画は、全国から選ばれた小林庄一郎、中村紀伊、草柳大蔵ら一二名の学識経験者からなる経営委員会で決める。九六年度の 事業計画では、総合テレビの二四時間放送化に向けての放送時間拡大、ハイビジョン放送の積極的推進などが挙げられた。また、NHKは九五年三月に放送開 始七○周年を迎え、これを契機に今後一○年の新しいビジョン「NEXT10」をかかげた。「NEXT10」の取り組みは、以下の五項目のビジョンに従い行わ れる。(1)視聴者本位制です。(2)二一世紀のテーマに着手します。(3)建て前主義をやめます。(4)「革新する総合メディア」です。(5)「さすがNH K」になります。その開始と同時に、「NHK」のロゴも卵を三つならべた新しいものになった。 NHKは関連団体と連携をとりつつ良質なソフトをより廉価で安定的に確保、多角的なメディアミックス事業、国際的な情報発信や交換、ハイビジョンなどニ ューメディア事業の推進などを目標にして、公共放送に寄与する関連事業を積極的に行い、公共放送事業の円滑な遂行にあてている。関連団体は、NHKエン タープライズ 21 などの放送番組の企画・制作、販売分野が八社、NHKきんきメディアプランなどの地域関連団体が六社、NHK総合ビジネスなどの業務支 援分野が六社、NHKサービスセンターなどの公益サービス分野が七社、福利厚生団体が二社となっており、形態も株式会社、財団法人、社会福祉法人などさ まざまである。 九五年度末の受信契約総数はおよそ三五三八万件となっている。大型企画番組は、「二一世紀への奔流」「故宮」など多彩な番組を編成している。 ◆民放(民間放送)〔1997 年版 放送・映像〕 放送番組や局の経営の費用を、スポンサー(広告主)が支払う広告料金(電波料、製作費、ネット費)で賄う商業放送、および契約者から視聴料金をとる有料 放送。一九九六(平成八)年八月一日現在、地上系が、音声放送九五社(中波四七社、短波一社、FM四七社)、テレビ放送一二三社、文字放送二三社(うち 第三者九社)、衛星系が、音声放送三社(BS一社、CS二社)、テレビ放送一四社(BS一社、CS一三社)である。 五一(昭和二六)年九月一日、名古屋の中部日本放送と大阪の新日本放送(現・毎日放送)がそれぞれラジオ放送を開始。テレビは五三年八月二八日、東京の 日本テレビが初放送を開始した。これら地上系に対し、衛星系はJSB(日本衛星放送)が九一年四月一日に放送を開始した。JSBの設備を利用したPCM 音声放送(テレビジョン音声多重放送)セント・ギガは九一年九月一日に放送を始めた。CS(通信衛星)によるテレビ放送は、日本ケーブルテレビジョン、 スターチャンネル、ミュージックチャンネルの三社が九二年五月一日からそれぞれ有料放送を開始した。民放一八一社(衛星系民放除く)の九五年度決算によ ると、営業収入の総額は二兆二七七五億七一○○万円。既存局で六・○%の増収となった。 ◆民放連(NAB)(The National Association of Commercial Broadcasters in Japan)〔1997 年版 放送・映像〕 日本民間放送連盟の略称。民放各社の共同の利益を守り親睦を図る目的で、民放誕生の年〔一九五一(昭和二六)年〕、初の免許を受けた一六社によって設立 され、九六年八月一日現在の会員社計は一八六社である。内訳はラジオ単営六二社(うち衛星系BS一社、CS二社)、テレビ単営八八社(うち衛星系BS一 社)、ラ・テ兼営三六社となっている。事務所の所在地は東京都千代田区の文芸春秋西館。 ◆放送法〔1997 年版 放送・映像〕 国民生活に大きな影響力を持つ放送が、健全な発達をとげることができるようにする目的で、放送番組、放送運営の全般を規律するもの。一九五○(昭和二五) 年春の国会で制定され、国民的基盤に立つ公共的な放送機関としてのNHKの設立、運営、財政、番組、監督について定め、また、電波法による放送局の免許 というかたちで放送事業者としての地位を得た民放については、番組の編成、広告放送の実施などについて、規定している。まだ民放テレビが生まれていなか った五○年に制定された放送法なので、何回も小幅な改正がなされてきたが、八九年の改正は通信衛星による放送を認めた点で、注目に値する。九四年六月、 「放送法の一部を改正する法律」では衛星通信による海外からの放送番組の受信と海外への発信を許し、「放送番組素材利用促進事業の推進に関する臨時措置 法」を第一二九回臨時国会で通過させた。九五年四月、訂正放送に関する放送法一部改正案が成立した。改正法は、事実でない放送をしたという理由で権利を 侵害されたとの請求があった場合に、訂正放送や取消放送を請求できる期間を放送後二週間以内から三カ月以内に延長し、あわせて放送番組の保存期間を放送 後三週間から三カ月に延長するなど、視聴者の人権を尊重する内容になった。 ◆ATP(全日本テレビ番組製作社連盟)(Association of all Japan TV Program Production)〔1997 年版 放送・映像〕 製作会社で組織された社団法人(藤井潔理事長)。一九八二(昭和五七)年三月に設立。八六年五月より社団法人となる。九五年八月現在、正会員社が五九社、 テレビ局などの賛助会員社五○社で構成される。シンポジウムを開いたり、テレビ局や著作権団体と交渉するなどの活動を行っている。ほかにも、製作会社を 目指す人を対象とした会社説明会とパネル・ディスカッションを兼ねたテレビ・エクザムを毎年開催している。また、毎年六月にATP賞を選んでいる。ドラ マ、ドキュメンタリー、バラエティの三部門に分け、それぞれ二番組ずつ、計六番組を選び、その中からグランプリを決める。九六年のATP賞グランプリは 「蔵」、郵政大臣賞は「台湾万葉集」が受賞した。 ◆国際放送(overseas broadcasting)〔1997 年版 放送・映像〕 外国において受信されることを目的とする海外向け放送のこと。日本では定期的放送を一九三五(昭和一○)年六月に開始した。国際放送は放送法に基づいて NHKに交付金が支出され、これとNHK自体の経費で行われている。現在、「ラジオ日本」と「NHKテレビ国際放送」の二つが放送されている。 「ラジオ日本」は、放送を短波で行っている。日本語と英語で全世界に放送する「一般向け放送」が、一日延べ三一時間、特定の地域にその地域で使われてい る言葉を用いた「地域向け放送」が、一日延べ三四時間、二二の言語で行われている。週間放送時間で比べると、世界の国際放送の中では、第八位の規模にな る。日本から全世界へ向ける「直接送信」と、イギリス、カナダ、シンガポール、スリランカ、ガボン、仏領ギアナ、アセンション島の世界七カ所の中継送信 局を経由する「間接送信」とがあり、一日二五○本以上のニュースや番組を二四時間世界に向けて発信している。一九九三(平成五)年に、最新のコンピュー タ技術、デジタル技術を取り入れた運行システムに大幅改善した。テレビの海外向け発信が認められて、九五(平成七)年四月からNHKは欧米で「NHKテ レビ国際放送」を開始した。衛星サトコムK‐1を使用して、北米では一日平均五時間程度、衛星アストラ1-b を使用して、ヨーロッパでは平均三時間一○分 程度放送を行っている。番組編成はニュースが中心。アジアではテレビ国際放送は行っていないが、衛星パンナムサット2を使用してアジア諸国の放送局やC ATV局に番組を提供している。民放は、一九九四年の放送法一部改正により国際放送が可能になった。九六年九月、シンガポールに設立予定のジャパン・エ ンターテインメント・テレビジョン(JET)は、九七年一月からアジアに向けて日本のテレビ番組を通信衛星で放送する予定である。JETには、住友商事、 米テレ・コミュニケーションズ(TCI)、東京放送(TBS)が出資するが、他の民放キー局が出資参加するかは未定。だが、各民放キー局とも番組提供に は参加する見通しである。 ◆越境テレビ(spillover)〔1997 年版 放送・映像〕 衛星放送などの電波が、本来対象としていない国境を越えた近隣の国に漏れる現象。衛星放送が開始され顕著となった。一九九一年八月から三八カ国・二七億 人をカバーするスターTVが放送を開始して以来、、アジア各国は新たな衛星を使った放送をつぎつぎに計画、越境するテレビ電波が急増することになった。 アジアの中でも大小一万余の群島国であるインドネシアでは、地上波のテレビやケーブルテレビにとって立地条件が悪く、衛星の集まる赤道上空のもとに国が 位置したせいもあって、七六年七月という早い段階で国内通信衛星パラパを打ち上げた。インドネシアは、タイ、フィリピンなどの周辺国に余剰チャンネルを 貸し出したり、「アジア・フリー・スカイ・ルール」を提唱するなど、越境電波の受信には寛容な姿勢を示している。しかし、NHKの衛星放送に対して韓国 が「電波による文化の侵略」と批判するなど、アジアの多くの国々では、越境テレビを問題視してきた。 ◆衛星放送〔1997 年版 放送・映像〕 赤道上空三万六○○○キロの静止軌道上に浮かぶ放送衛星(BS)および通信衛星(CS)から家庭に直接電波を届ける放送。地球局から衛星に電波を送り(ア ップリンク)、それを受信した衛星は電波を増幅して地上に送り返す。家庭では、送られてきた電波をパラボラアンテナで受け視聴する。電波が上空から届く ので途中さえぎるものがなく、ゴースト(多重像)のない、きれいな映像が得られる。音声は、PCM方式による高品質のデジタルサウンドであるため、低い 音から高い音まで、弱い音から強い音まで、きれいに忠実に再現できる。また、衛星一つで日本全国をカバーできるのも利点の一つであるが、地域に密着した ローカル情報には向かない。さらに、地上波に比べ、大容量の情報を送れるので、ハイビジョン放送に利用されている。中継局や送電線が必要ないので、災害 時や海上、僻地でも受信できることも強み。日本では一九八九(平成一)年にNHKがBS二波による本放送を開始したことにより衛星放送が始まった。現在、 日本で放送に使用されている衛星はBS3、JCSAT2、JCSAT3、スーパーバードBの四つである。 ◆通信衛星(CS)(Communications Satellite)〔1997 年版 放送・映像〕 一九六四(昭和三九)年に暫定制度として発足、七三年に恒久制度となったインテルサット(国際電気通信衛星機構)は、現在約二○基の通信衛星を配置し、 多国間にまたがる通信サービスを行っている。企業は電話、データ伝送、テレビ局は映像伝送のため、そのサービスを利用している。七六年に暫定制度として 発足、七九年に国際機関となったインマルサット(国際海事衛星機構)は、衛星を船舶通信に利用する目的で設立された。しかし、船舶通信だけでは需要が伸 びず、八五年に航空機との通信、八九年には地上の移動体通信に利用できるよう条約が改正された。テレビ局や通信社・新聞社が僻地等からのデータ伝送に利 用している。民間企業としては、欧米間、南北米間の通信サービスを行うパンナムサットや、欧州のアストラ、アジア地域のアジアサットなどが登場した。八 ○年代に入り、ユーテルサットやアラブサットなど広範囲ではないものの近隣諸国への伝送を可能にする通信衛星機構が現れた。 現在では、ケーブルテレビ向けの番組供給に利用されたり、出力が上がったこともあって、アストラのようにDTH(直接受信衛星放送)サービスを行う衛星 も増えた。 ◆BS放送〔1997 年版 放送・映像〕 衛星放送の中でも、放送衛星(BS Broadcasting Satellite)を使った放送。放送衛星はテレビの難視聴解消を主目的として打ち上げられた。通信衛星(CS) と違って、BSは衛星の位置に取り決めがあり、日本には八チャンネルが割り当てられている。 NHKの衛星放送は、放送衛星2-b により試験放送を続けてきたが、一九八九(平成一)年六月一日から本放送となった。同年六月三日からは二波による二四 時間放送を開始した。NHK衛星第一テレビはニュース&スポーツチャンネルとして、国内外の情報を一○○%独自放送し、衛星第二テレビはカルチャー&エ ンターテインメントチャンネルとして、娯楽や芸能・文化を中心に定曜・定時編成し、海外のソフトも放送している。衛星第二は難視聴解消のために、地上放 送の同時放送のほか、先行・時差放送や同種番組の集中編成なども行っている。九五年度の衛星放送契約数は七三七万件に達した。 放送衛星BS‐3が九○年に打ち上げられ、九一年から二チャンネルが三チャンネルとなった。それは、民放初の日本衛星放送(JSB=愛称WOWOW ワ ウワウ)が放送を開始したからである。WOWOWは、音楽、映画、スポーツを中心とした編成をし、九五年度に加入世帯二○○万件を超えた。 現在、BS‐3の一チャンネルはハイビジョンの試験放送にも使用されている。 また、放送衛星を利用した初のデジタル音声放送局、衛星デジタル音楽放送(SDAB=愛称セント・ギガ)は九一年三月、本放送を開始した。 九七年に次期放送衛星BS‐4が打ち上げられる予定だが、その八チャンネルをめぐり、放送事業者間での調整は困難が予想される。 ◆CS放送〔1997 年版 放送・映像〕 通信衛星(CS)を使った放送。放送衛星(BS)と違って周波数は国際的に取り決めされ、衛星の軌道位置もいくつも取れるのが特徴。もともとが通信衛星 のため、国際的な対応も可能で、国内から海外に発信することもできる点でBSより自由度が高いといえる。また、BSに比べて出力が小さいので、パラボラ アンテナの口径が大きくないと受信できなかったが、最近では小型化し、どこの家庭にも設置できるようになった。 一九八九(平成一)年に日本通信衛星および宇宙通信のCSがそれぞれ打ち上げられた。これらのCSを利用した放送サービスを行うため、同年一○月に放送 法と電波法が一部改正された。その改正により、放送サービスを行う事業者は、CSを管理・運用する受託放送事業者とCSのトランスポンダを借用して実際 に番組サービスを行う委託放送事業者に分けられ、後者の事業者を認可制としている。 現在、受託放送事業者は日本衛星通信とサテライトジャパンが合併してできた日本サテライトシステムズと宇宙通信の二社。委託放送事業者は、日本サテライ トシステムズの衛星JCSAT2を使う「CSバーン」系が五社、宇宙通信の衛星スーパーバードBを使う「スカイポートTV」系が八社で計一三社。 また、CSを利用したPCM音声放送局は、九二年の放送開始時には六社あったが、合併が相次いだ。九六年一○月、エフエム東京系のミュージックバードが、 角川書店系のジパング・アンド・スカイコミュニケーションズを吸収合併することで、一社に集約された。 九六年よりCSデジタル放送が開始される。パーフェクTVは九六年一○月から無料放送を開始し、九七年一月から有料放送に移行する予定。ディレクTV、 スカイD、JスカイBが後を追う形になる。 ◆インテルサット(INTELSAT)〔1997 年版 放送・映像〕 アメリカの主唱で設立された国際電気通信衛星機構。事務局ワシントン。一九六四年に日本を含む一九の西側諸国によって暫定制度として発足、その後七三年 に恒久制度へ移行し、法人格の国際機関となった。日本の出資額は現在アメリカ、イギリスに次いで第三位である。現在、大西洋上に一○基、太平洋上に四基、 インド洋上に四基、太平洋とインド洋の中間に一基、計一九基の通信衛星を配置し、インテルサット非加盟国を含む全ての地域に対して商業ベースで通信サー ビスを提供している。インテルサットのサービスには、テレビ局向け映像伝送のほかに電話や企業向けデータ通信などがある。テレビ中継のためにインテルサ ット衛星を使うのは、オリンピックやワールドカップ・サッカーなど世界的スポーツイベントの中継、日々行われているニュース素材や番組の国際的配信など であり、その量は年々増加してきている。 ◆デジタル放送(digital broadcasting)〔1997 年版 放送・映像〕 従来のアナログ放送は一つの電波には一つの映像しか乗せられず、音声は別の電波で送る必要があった。これに対し、デジタル放送は一つの電波に複数の映像 や音声などを乗せられるほか、品質を落とさずに情報を圧縮できるため、従来のアナログ放送一チャンネルの周波数帯で四∼八チャンネルを設定できる。また、 コンピュータを使って情報をコントロールしやすく、視聴者側からの注文による情報も送れる「双方向性」をも可能にする。アメリカでは、すでにデジタル衛 星放送(DSS)による多チャンネル放送を開始しており、世界的に放送のデジタル化が進みつつある。日本では、一九九六(平成八)年に通信衛星(CS) のデジタル放送を開始した。放送衛星(BS)でのデジタル放送の導入時期については意見が分かれている。BSでのデジタル放送の導入は、伝送方式がアナ ログのハイビジョン放送を見直すということから、ハイビジョン推進派の放送・家電業界は反発した。結局、「マルチメディア時代における放送の在り方に関 する懇談会」により九五年三月に出された最終報告は、放送・家電業界が支持するデジタル化を二○○七年以降に先送りするA案と、通信業界・学者・有識者 が支持する九九年に打ち上げられるBS‐4後発機からデジタル化するB案の両論併記という異例の形をとった。また、郵政省の「放送高度化ビジョン懇談会」 は地上波テレビも二○一○年にはデジタル化すると予測した。 デジタル放送への移行の段階で、視聴者保護のために一○∼一五年はアナログ放送もサイマル(同時)放送しなければならない。その費用は民放テレビ全社で 約一兆円かかるなどの課題も指摘されている。 ◆CSデジタル放送〔1997 年版 放送・映像〕 通信衛星(CS)を利用し直接、家庭に配信するデジタル放送。デジタル技術を用いているため、一○○チャンネル以上の多チャンネル、高画質、高音質が特 徴である。アメリカでは、一九九四年六月、ヒューズ社が事業を開始した。その「DIRECTV(ディレク・ティービー)」は、サービス開始以来一年で一 ○○万世帯の受信契約を結び、チャンネル数も約二○○チャンネルとなって、急成長した。日本では、九五(平成七)年八月、日本サテライトシステムズ(J SAT)が打ち上げた通信衛星JCSAT3に搭載したトランスポンダ(中継器)八本を利用し、九六年四月から試験放送を開始、同年一○月から無料放送、 九七年一月から有料放送に移行する。日本初のデジタル衛星放送サービス「PerfecTV(パーフェク・ティービー)」は、JSAT、伊藤忠商事、日商岩井、三 井物産、住友商事が共同出資する日本デジタル放送サービスが行う。衛星の管理は受託放送事業者であるJSATが、顧客の管理は日本デジタル放送サービス がそれぞれ行い、委託放送事業者が番組の供給を行う。映画、スポーツ、娯楽、教養、ニュースなど、五七チャンネルを放送、七○チャンネルに増える予定。 視聴者は専用機器をそろえ、視聴料を払い、サービスを受けることになる。 「パーフェクTV」に続き、 「ディレクTV」が九七年夏に放送を開始する計画である。 「ディレクTV」は、米ヒューズ・コミュニケーションズ、日本の大手 ビデオレンタルチェーンであるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)、大日本印刷、松下電器、宇宙通信が共同出資するディレクTVジャパンが運 営する。 そのほか、CSアナログ放送を行っているスカイポートTVの「スカイD」、世界のメディア王マードックによる「JスカイB」がCSデジタル放送を計画し ている。 多チャンネルになるため、番組内容はより専門性の高いものが増えるだろうし、トランスポンダ利用料が大幅に安くなるので、番組提供業者が参入しやすくな る。その一方、質の低い番組の増加や、番組の編集責任に対する認識の低下が懸念されている。 ◆総合デジタル放送(ISDB)(Integrated Service of Digital Broadcasting)〔1997 年版 放送・映像〕 複数の映像・音声・文字・図形・データなど各種情報をデジタル化して、小さな単位に分割し、まとめたものを一つのチャンネルで送る放送。視聴者は一台の 受像機で受信し、受信したものは好きな時間に自由に選択し、組み合わせたり、加工して利用できる。たとえば、二四時間いつでも天気予報を見たり、スポー ツ中継では好きな選手だけを追ったり、過去の成績を取り出して見たりできる。通信業界の次世代通信サービスがISDN(総合デジタル通信網)だとしたら、 放送業界の次世代放送サービスはISDBとなる。NHK技術研究所で実験中。 ◆二四時間テレビ放送〔1997 年版 放送・映像〕 二四時間ぶっ続けのテレビ放送。定時放送はNHKの衛星第一放送が最初で、 「ワールドニュース」 「衛星スペシャル」 「スポーツミッドナイト」などが主な柱。 溶鉱炉と同じで、衛星は火を消さないほうが効率がいいからで、一九八七(昭和六二)年七月から放送開始した。九七年四月から総合テレビでも二四時間放送 が開始される。また民放では、日本テレビが開局二五周年記念番組として、七八年八月「二四時間テレビ」を放送、現在まで毎年夏続けている。フジテレビと 東京放送は地上波としては世界初の本格的二四時間放送を八七年一○月から実施した。日本テレビとテレビ朝日は、八八年一○月から開始した。フジテレビも 夏の風物詩「FNSの日」を放送、九六年で一○回目を迎えた。 ◆FM文字多重放送〔1997 年版 放送・映像〕 「見えるラジオ」の愛称もある。FM波にデジタル信号を重ね、文字、データなどの情報を送り、専用受信機で受信するFM文字多重放送で、TOKYO F Mが一九九四(平成六)年一○月から放送を行ったのが始まり。全国的な放送は九五年四月からのスタートとなった。放送を行っているのは、JFN(全国F M放送協議会)に加盟する三三社で、主な情報はTOKYO FMがCSを用いたJFNの番組配信システムで各局に配信し、地域の情報をそれと組み合わせ 提供する。放送内容は、(1)オンエア中の曲名やリクエスト電話・FAX番号などの「番組情報チャンネル」、(2)ニュースやスポーツの結果などの「ニュ ース&スポーツチャンネル」、 (3)天気、降水確率、気温などの「天気情報チャンネル」、 (4)渋滞状況などの「交通情報チャンネル」、 (5)占い、クイズな どの「エンタテインメントチャンネル」の五チャンネルで二四時間放送。受信機には、一五文字 二行の文字を表示する液晶パネルがついている。受信機の種 類は、PDA(個人用情報端末)型のものが最もポピュラーで二万円台で登場した。ほかにも、カーナビ型、車載型、ラジMD型、ミニコンポ型などが発売さ れる予定。商業放送なので、三六画面のうち六画面がCMとして表示される。つまり、自動でページをめくらせている場合、六分間に一分の割合でCMが入る。 情報をプリントアウトできるなどの「データ情報サービス」、街頭やタクシー車内の電光掲示板スタイルの受信機「パパラビジョン」サービス、野球中継で次 のバッターのバッティングを予想するゲームなどの対話型サービス「ジーコム」、自由な周波数の利用を可能とする制度の導入により実現するページング(ポ ケベル)サービスなど、今後、事業を展開していく予定だ。TOKYO FMは「見えるラジオ」でNAB(全米放送事業者連盟)から「放送事業国際特別功 労賞」を受賞するなど伝送技術が高く評価された。JFNに続いて、関東ではJ‐WAVEの「アラジン」、大阪ではFM802 の「ウオッチ・ミー」が放送を 開始。NHKも九六年三月から全国八地域で放送を開始した。 ◆テレビ音声多重放送〔1997 年版 放送・映像〕 現在使っている電波のすき間を利用してステレオ、二カ国語放送、第二音声放送を出すこと。一九八一(昭和五六)年、郵政省はNHKと民放三八社に対し、 テレビ音声多重放送の補完的利用の拡大を許可した。従来の音声多重放送は「ステレオ」か「二カ国語」放送の二つに限られていたが、利用方法の拡大が認め られ、現在の多重放送は、 (1)主番組に関連のある放送なら第二音声でどんな放送でも流すことができる。 (2)災害情報なら、主番組とは無関係に出せるこ とになり、多重ニュースやプロ野球中継のやじうま放送、歌舞伎の解説放送などもできる。 ◆静止画放送(still picture broadcasting)〔1997 年版 放送・映像〕 通常のテレビのような動画ではなく、一コマ一コマの静止画像(文字、イラスト、スチール写真など)と音声によって構成される番組をテレビの電波で送る放 送。わが国で開発されているのは、テレビ電波一チャンネル分の専用波を使って、同時に約五○種類の音声つきカラー静止画番組を送ることができる方式。視 聴者はテレビ受像機にアダプターをつけることにより、希望する時間に必要な静止画番組を選んで見ることができるのが特徴で、生活情報や学習・教養番組、 趣味の番組など利用範囲は広い。なお、ハイビジョンの静止画は、岐阜美術館などにおいて、ハイビジョンギャラリーとして利用され、話題を呼んでいる。 ◆文字放送〔1997 年版 放送・映像〕 テレビ画面の映像を構成する順次走査の下から上に戻る時間的すき間「垂直帰線消去期間」を利用し、現行の空中波で文字や図形を送信するシステム。現行テ レビのNTSC基準では五二五本の走査線があるが、「垂直帰線消去期間」は二一本あり、そのうち四本が使用可能となっている。利用者は、文字放送用アダ プターが必要。事業者は広告を主要財源とし、無料でニュース、天気予報、交通情報などを提供する。NHKや民放事業者によって文字放送サービスは、現在 大部分の都府県で実施されている。 ◆移動体向け文字放送〔1997 年版 放送・映像〕 JR山手線の新型車両に搭載されている移動体用文字放送受信機はエル・エス・アイ・ジャパンが開発し、一九九一(平成三)年秋から日本テレビ系のアクセ ス・フォアが放送ソフトを制作・放送している。 電車のような移動体ではアンテナの指向性が常に変わるため、従来は「文字放送の受信は無理」とされていた。この課題を解決するため、(1)移動体に取り つけた四本のアンテナからそれぞれ文字放送信号を読み込み、その中から最良のデータを一つ選ぶマルチチューナー方式と、(2)これだけでは受信が不安定 なため、反復複合方式技術を併用した。文字放送では、一つの番組を繰り返し送出する。この仕組みを利用し、一回の周期で画面が完成しない場合でも、次の 周期で得た画面と次々と合成、これによって、移動体でも室内と同品質の文字放送ができるようになった。車載用受信機の商品化には目下慎重になっている。 それは一セット九万八○○○円で売る計画を立てているものの、この価格では年間一万セット売れないと採算が合わない現状にあるからであり、 ニューメデ ィア期待の星 といわれながらも、利用方法の開発が目下の急務とされている。 ◆国会中継専用テレビ〔1997 年版 放送・映像〕 CS(通信衛星)やCATVを媒体として、本会議や各種委員会審議の模様を各家庭に伝えるテレビ。最初から最後まで、無編集、ノーカット、コメントなし で、原則として発言者だけを映す。現在、開局準備が進められている段階。 この国会テレビの構想は、リクルート事件後の政治改革論議を進める中で、自民党から提案があり、一九九一(平成三)年三月、各党の賛成を得て、衆議院に 「国会審議テレビ中継に関する小委員会」が設けられた。また、参議院でも議院運営委員会を中心に、時期を同じくして調査会がスタートした。九三年には、 日本でのC‐SPAN(アメリカの議会中継専門テレ ビ局)の配給会社「C‐NET」の田中良紀社長が、「国会TVを実現し、二一世紀型国会をつくる会」 を発足させ、国会テレビの推進にあたった。 現在、民間の政治改革推進協議会(民間政治臨調)が株式会社設立に向けて準備を進め会社設立案をまとめた。(1)国会テレビ会社は国会が撮影した審議映 像を無償で受け、一切編集せずに放送する。 (2)一般国民の受信は無料とする。 (3)将来は衆参両院二チャンネルを目指すが、当面は衆参共用の一チャンネ ルで開始する。 国会テレビは、採算が合うかが課題となっており、ケーブルテレビ局に負担させたり、民放、NHKから映像使用料をとったり、広告などを収入にあてる予定 である。 ◆ナローキャスティング(narrowcasting)〔1997 年版 文字どおりブロードキャスティング(broadcasting 放送・映像〕 = 放送)の対語で、地域的、階層的に、限定された視聴者を対象とするテレビ放送を意味する言葉。ケ ーブルテレビがもたらした新しい概念。 ケーブルテレビが、限られた地域を対象としていることや、非常に多くのチャンネルを収容するケーブルの特性を利用して、一つ一つのチャンネルのサービス 内容を細分化し、たとえばニュース、映画、スポーツなどの専門チャンネルとして使っていることなどからいわれ始めた言葉。 ◆CATV(cable television; community antenna television)〔1997 年版 放送・映像〕 ケーブルテレビ、有線テレビ。CATVは大別すると都市型と農村型とに分けられ、農村型CATVの地域密着情報システムに対し、都市型CATVの最大の 特徴は多チャンネル・娯楽情報タイプといえる。一九九五(平成七)年三月末現在、CATV局数は六万一六○六施設で、加入世帯数は約一○二五万世帯。 一九五五(昭和三○)年四月にテレビ難視聴対策施設として、群馬県伊香保温泉で誕生したわが国のCATVは、BS、CS放送といった衛星メディアの台頭 や、ソフト開発面のプラス要素や電話利用もあって、これから本格的な発展への重要な段階を迎えるといえそうだ。九六年、インターネットへの接続サービス を行うCATV局も現れ、放送以外の利用も進みそうだ。 ◆都市型CATV〔1997 年版 放送・映像〕 都市型CATVの定義は、 (1)端子数(加入が可能な世帯数とほぼ同じ意味)一万以上、 (2)自主放送(民放やNHKの再送信ではない放送)が五チャンネ ル以上、(3)双方向機能があるCATVのことである。多チャンネルといっても現実には十数チャンネルから五十数チャンネルが日本の現状で、アメリカの ように一五○チャンネルのものはない。 加入時の費用は、契約料五万円前後とケーブルを家庭に引き込む工事費などがかかる。利用料は基本が月額三○○○円前後、それに加えて映画などのチャンネ ルを別料金にしている局もある。日本初の本格的ペイ・パー・ビュー(視聴ごとに料金を支払う)方式を、日本ヘラルド映画は通信衛星を使って、一九九○(平 成二)年七月から自社配給洋画の配信について始めた。 このように民間通信衛星の利用が広がって、日本の都市型CATVは、やっと本格的な多チャンネル時代に入ろうとしており、番組供給業者は現在約四○社ほ どあるが、衛星による番組送信はCATVやホテル、マンションまでで、各家庭の配信は放送事業と同様になると規制されている。九六年三月末現在、施設数 二○一、加入者数三○一万世帯となった。放送内容も多様化し、加入のメリットも認識されるようになってきた。 ◆ペイテレビ(pay television)〔1997 年版 放送・映像〕 特定の契約者に有料で特別の番組を提供するテレビシステム。その方法は主としてケーブルシステム(ペイケーブル)で行われている。ペイケーブルは、有料 テレビ用の番組提供会社が国内衛星を使って新しい劇映画やスポーツのビッグイベント、有名ステージショーなど魅力ある番組を、このCATVに分配するこ とで急速に伸びた。 ◆有線放送〔1997 年版 放送・映像〕 ケーブルを通じて音楽や情報を放送する業種。これまでは夜の盛り場のバーや飲食店などに、演歌などのレコードを流していたが、最近は一般家庭向けに方向 を変えだしている。現在、家庭への普及を計っている業者は約一○社、加入者は一○万世帯を上回っているという。業界の最大手の大阪有線放送社(大阪ゆう せん)は、日本最大の四四○チャンネルを有しており、従来の飲食店向けの営業方針を大きく転換、一般家庭への進出をねらっており、一九九三(平成五)年 BBCインターナショナルの放送も流した。業界第二位のキャンシステム株式会社も八八年から家庭への売り込みに力をいれている。 ◆放送大学(university of air)〔1997 年版 放送・映像〕 テレビ・ラジオの放送で学ぶ大学として一九八三(昭和五八)年四月発足、八五年開校された。教養学部のみの単科大学で三コースと六専攻がある。関東でテ レビ放送、FM放送による授業放送を実施している。視聴できない人を対象に、ビデオ、オーディオテープの視聴により授業を行う地域学習センターが設置さ れている。受講者は全科、専科、科目の各履修生にわかれる。全科履修生は四年以上在学し、一二四単位を取得すると「学士(教養)」の学位が得られる。他 は卒業を目的とせず、自分の学習したい科目を約三○○の科目から選択し、講義をうける受講者。放送大学は学生を受け入れてから一二年経ち、九六年三月時 点で八三四○人が卒業単位をとって学士となり、九六年度の学生数は五万七九七九人。面接授業では私語がまったくなく、一般の大学生とは違った自主性が見 られる。現在関東地区に限られているが、九七年に打ち上げられる放送衛星BS‐4を利用すると「いつでも、どこでも、だれでも学べる」という設置目的が 初めて実現することになる。 ▲電波と放送技術〔1997 年版 放送・映像〕 無線による放送を所管する電波監理審議会と有線テレビジョン放送と有線ラジオ放送とを所管する電気通信審議会有線放送部会の両委員会によって、放送の高 度化と将来像の検討が行われてきたが、コンピュータとの関連が深まるという技術的な結論が出た。 放送のデジタル化により、放送と通信および放送とコンピュータとは、デジタルという共通の技術基盤を有して進み、番組制作や受像機端末の面においても、 コンピュータは放送に急速に接近してきて、相互の関係はサービス面においても急速に結びつくとしている。 ◆デジタル放送システム〔1997 年版 放送・映像〕 取材、編集、番組送出に、デジタル機器を使うことにより、番組の製作からオンエアするまでの時間を短縮できるシステム。デジタル機器とコンピュータを組 み合わせて使うことにより、速く、容易に編集できるノンリニア編集が可能となる。これまでのテープからテープへの編集では編集を重ねるごとに画質が劣化 してしまったが、デジタル機器を使ったノンリニア編集では画質は劣化しない。また、卓上操作で番組が制作できるため(DTPP=Desk Top Program Production)、設備がコンパクトになり、小さなテレビ局や放送が多チャンネル化した場合には不可欠になると予想される。 デジタル放送システムの市場では、放送局用機器や取材用カメラの市場で圧倒的優位に立つソニーと追撃する松下がしのぎを削っている。 ◆衛星データ放送〔1997 年版 放送・映像〕 衛星放送の電波にデジタル信号を重畳して、ファクシミリ、静止画、番組コードなどを放送する。一九九四(平成六)年九月に実用化が可能になり、九五年四 月からセント・ギガ(衛星デジタル音楽放送)が放送を開始した。BSチューナーに任天堂「スーパーファミコン」と専用アダプターを接続し受信する。放送 内容は、ゲームソフト、カラオケ、天気予報など。将来、統合デジタル放送(ISDB)に発展すると期待されている。 ◆SNG(Satellite News Gathering)〔1997 年版 放送・映像〕 サテライト・ニュース・ギャザリングは、通信衛星を利用し、テレビニュースの取材機能、機動性と配信力を高める送受信システム。現在の主なテレビ・ニュ ースは、ENG(Electric News Gathering)で取材しており、遠隔等で取材したものを局に送信する場合FPU(Field Pick-up Unit)でマイクロ伝送してい るが、離島や遠隔の山間部からの送信にはやはり困難があった。それを改善すべくSNGシステムが開発された。アメリカでは早くから実用化され、コーナス というSNG専門のテレビ・ニュース配信会社が設立された。加盟六八社にパラボラと車載局を配置、取材したニュースを一日四∼五回ネットしている。日本 では一九八九(平成一)年春から実施され、ニュース以外のスポーツ中継、ワイドショーなどの素材送りにも利用すべく、テレビ各社は湾岸戦争以降競って準 備を進め、態勢を固めた。 ◆ビデオ・オン・デマンド(VOD)/ニュース・オン・デマンド(NOD)(Video On Demand/News On Demand)〔1997 年版 放送・映像〕 現在のCATVでも、数十チャンネルの中から好きな番組を選べるが、放送日時は家庭から指定できない。ところが、「ビデオ・オン・デマンド」は、家庭に いながらにして好きな番組を見たい時に呼び出せる。家庭で好きな番組を選び、端末機で注文すると、すぐにわが家のテレビに送信される。ビデオレンタル店 に行かずに好きな映画を見られるほか、実用化が進めば、見逃したドラマやニュースなどを、呼び出して見ることもできる。「ニュース・オン・デマンド」と は、その好きなニュースを注文して視聴するシステムをいう。 一九九四(平成六)年七月から、関西文化学術研究都市で始まった、光ファイバーを使ったマルチメディア実験では、このビデオ・オン・デマンドが目玉とな っており、三○○のモニター世帯に光ファイバーを引き、実用化へのステップにしている。 ◆ハイビジョン/HDTV(High Definition Television)〔1997 年版 放送・映像〕 「次世代テレビ」と期待されているハイビジョンは、実用化への第一歩として、横長テレビを発表し、一九九二(平成四)年から、バルセロナ五輪にあわせて ミューズ式本格受像機を一○○万円前後でメーカー各社が発売した。七○(昭和四五)年初めからNHKが中心になって開発してきたハイビジョンは、現行テ レビに比べて走査線が約二倍の一一二五本、画面の縦横比が九対一六であり、情報量も約五倍、ミューズ式コンバーターを含めた受像機で、九四年一一月から NHKと民放六社が実用化試験放送開始。二○○七年までにはデジタル方式の実用化を図る。日本のハイビジョン方式は、九○年五月デュッセルドルフでの国 際無線通信諮問委員会(CCIR)総会で国際規格として認められ、九一年一一月から放送衛星BS‐3b の使用による一日八時間の試験放送が開始、九六年 度から放送時間を拡大、NHK・民放合わせて、平日一日一三時間、土曜・日曜一日一四時間の放送を実施している。九七年から九八年には本放送を開始し、 いずれは欧米の目指すデジタル方式に移行する予定。値段が高かった受像機は、最も低価格のものが五○万円をきり低廉価化が進んできた。また、大きかった 受像機は、壁掛けテレビの開発により重量、奥行きを抑えることが可能となる。高品位で高精細な映像を持つハイビジョンは、放送以外の分野(美術館、博物 館、映画、医療、教育など)には利用されだしたが、広範な産業応用への期待もされている。全国の多くの美術館や地方自治体などのホールではハイビジョン 機器をすでに設置し、部分拡大や資料交換などに活用し始めた。九六年にはハイビジョン用レーザーディスクが発売された。 ◆ワイドクリアビジョン/EDTV‐2(Enhanced Definition Television)〔1997 年版 放送・映像〕 民放のテレビ番組を見ていると、画面の隅に「クリアビジョン」という文字が出ていることが多い。NHKの「ハイビジョン」に対抗して、民放が開発に力を 入れている高画質テレビであり、EDTV(エンハンスト・ディフィニションTV)の愛称である。従来のテレビと両立させて使うことができ、チラつきや色 にじみを防ぎ、ゴーストがないので鮮明に見える。第一世代クリアビジョン放送は、一九八九(平成一)年八月に本放送を開始、現在は民放のほとんどの局が 実施している。さらに性能のよい第二世代クリアビジョンとして開発されたのがEDTV‐2で、統一名称が「ワイドクリアビジョン」となる。画面の縦横比 はハイビジョンと同じ九対一六の横長の画面で、高画質化を実現した。すでに一部メーカーは「パノラマビジョン」などと宣伝して販売、九四年の出荷台数は 一○○万台を超えた。従来の標準テレビの画面では上下に絵のない「レターボックス型」になる。九五年七月に、日本テレビが本格放送を開始した。 ◆壁掛けテレビ〔1997 年版 フラットTV(flat 放送・映像〕 TV)ともいわれる。これは現在のブラウン管の代わりに、薄型になるディスプレイ素子(液晶、プラズマ・ディスプレイ、発光ダイオ ード)を画素表示に用いて、パネルのように壁に掛けられるテレビ受像機。九六年からプラズマ・ディスプレー・パネル(PDP)の量産化がスタートした。 四○インチクラスのもので、厚さが五から七・五センチ、重量が一四キロから一八キロ。ハイビジョン仕様のPDPは、さらに高度な技術を使用するため高価 であり、いかにして価格を下げるかが今後の課題になる。 ◆立体テレビ(stereoscopic television)〔1997 年版 放送・映像〕 テレビ画像を三次元的に再現する方式。撮影するときに二眼で撮影する二眼式と多眼で撮影する多眼式との二つに大別され、それぞれにいくつか方式がある。 どの方式にもいまだに問題がある。放送での実用化は難しい状態にあり、医学用、工業用、教育用などの専門分野の利用への開発を進めている。 日本では、 「オズの魔法使い」 〔日本テレビ一九七四(昭和四九)年・人形劇〕、 「家なき子」 (日本テレビ七七年・アニメーション)、 「ゴリラの復讐」 (テレビ東 京八三年・怪獣もの)などが立体テレビとして放送されたが、いずれも特殊な眼鏡をかけないと、立体的に見えなかった。こうした特別な眼鏡をつけなくても 立体的に見える立体テレビを松下電器が科学万博 85 に出展した。この試作品は、左の目と右の目に、それぞれ異なる方向から画像が入るように工夫、眼鏡な しの立体画像を可能にした。NHKは 89「技研公開」において、世界初のハイビジョン立体テレビを展示したが、これまた眼鏡を使用していた。なお、NH Kは 90「技研公開」で液晶投射型メガネなし立体テレビを一般公開、注目を集めた。また、イギリスのデルタ・グループは「ディープ・ビジョン」という受 像機に特殊スクリーンを装着する眼鏡不要の新方式立体テレビを開発した。さらにホログラフィー映像をコンピュータで次々につくり出す立体テレビ「ホロテ レビ」もアメリカのMITで開発された。九六年には、NHK技研が眼鏡不要で視点が少々動いてもよい立体テレビを試作した。これは視差がある四つの映像 を次々と切り替えながら表示することで実現した。 ◆バーチャル・ビジョン(virtual vision)〔1997 年版 放送・映像〕 携帯用メガネ型テレビ。超小型の液晶ビデオディスプレイと精巧な光学反射レンズを、ステレオヘッドホンに組み込んだメガネのグラスの一つの端に装着した 「アイウエア」。このテレビ付き眼鏡とチューナー、アンテナを収納した「ベルトバック」との二つで構成され、アイウエアを装着したユーザーの視界の一部 に、カラーテレビ映像やビデオ映像、テレビゲーム画面などを映し出す、まったく新しい映像機器。従来のポータブルテレビや液晶テレビのように持ち歩く必 要がなく、眼鏡付きヘッドホンを頭に掛け、常に自分の視界の一部にテレビやビデオ画面を映すことができる。効き目のほうの眼鏡のグラスの下部に液晶と反 射レンズをつけたヘッドホンを使ったほうがよく、左右のグラスに別々に装着した機器が用意されている。 野球場やサッカー場で、試合を観戦しながら、テレビのクローズアップ映像を瞬時に体験することが可能であり、この新機器の使用方法は幅広く、好みの番組 を見ながら車の洗車や買物もでき、自由なテレビライフを実現できる。また、ベルトバックはビデオカメラが接続可能で、ユーザーは小さなファインダーを覗 くことから解放され、撮影しながら同時に周囲の状況も見ることができる。人込みでも快適でしかも安全な撮影が可能である。 ▲放送番組関連〔1997 年版 放送・映像〕 多チャンネル化により、放送番組の幅が広がるが、そのため良質な番組だけでなく、質の低い番組も増加する恐れがある。多様な専門放送や複数チャンネルの 登場は、放送番組の従来の編成に変え、視聴者が見たい時に見たい番組を視聴することを可能にする。 多数の人を対象とする総合放送、有料で提供する一般の専門放送、比較的少数の人を対象とする特殊な専門放送など、放送の種類の多様により、放送番組の制 作は広い層に拡大、視聴者が参加する機会も増える。 ◆月九ドラマ〔1997 年版 放送・映像〕 フジテレビの月曜午後九時から放送される一時間ものの連続ドラマ。そのほとんどが視聴率ランキングの上位に入る。一九九六(平成八)年四月から放送され た「ロングバケーション」は話題をよんだ。広い年齢層に受け入れられやすいストーリーであること、月曜九時という比較的家にいる人が多い時間枠であるこ となどが、高視聴率をマークする原因となる。 ●月九ドラマ平均視聴率ベスト3 1.ロングバケーション 29.6% (1996 年 4 月∼ 6 月) 2.ひとつ屋根の下 28.2% (1993 年 4 月∼ 6 月) 3.あすなろ白書 27.0% (1993 年 10 月∼12 月) ●月九ドラマ最高視聴率ベスト3 1.ひとつ屋根の下 37.8% (1993 年 6 月 21 日) 2.101 回目のプロポーズ 36.7% (1991 年 9 月 16 日) 3.ロングバケーション 36.7% (1996 年 6 月 24 日) ◆視聴率(rating)〔1997 年版 放送・映像〕 ある番組が国民の何パーセントの人々に見られているかという比率。ラジオの場合は聴取率。現在、視聴率調査には個人面接法と調査機を用いる方法の二つが ある。個人面接法は、層化、無作為、多段階抽出法で選んだ数千の視聴者を、調査員が一人ひとり訪ねて、どの番組を見たかを答えてもらうもの。調査機によ る方法は、テレビ受像機にメーターをとりつけて、いつ、何時間、どのチャンネルを見ていたかを記録するもの。ビデオ・リサーチとニールセンの二つの調査 会社がこの方法によって、東京、大阪、名古屋などの地区で調査している。個人面接法と調査機を用いる方法では、前者が個人単位、後者が世帯単位であるが、 広告主は世界的な傾向からみても、個人視聴率に切り換えたほうがいいと主張している。 一九九七年から日本でも個人視聴率調査が本格的に行われそうだ。なお全国視聴率一%当たり推定視聴者人数は一一○万人である。視聴率を、放送開始から終 了までの「全日」、午後七時から一○時までの「ゴールデンタイム」、同七時から一一時の「プライムタイム」の三分類してそれぞれ出し、それらで比較、各テ レビ局が競争している。この三つともトップとなるのを視聴率三冠王、最近では、これに午後六時から同七時、午後一一から午前零時までの「ノンプライム」 を加えたトップを四冠王と俗称する。 ◆個人視聴率〔1997 年版 放送・映像〕 調査の対象を世帯単位から個人単位に変えた視聴率。視聴者の世代、性別がはっきりする。テレビが一家に一台から一人に一台になりつつあることや、ある世 代や性別の視聴者をターゲットにした番組が増えて家族全員でテレビを視聴することが少なくなってきていることが移行の背景にある。広告効率を高めたい広 告主側の要望に応えて、視聴率調査会社ニールセン・ジャパンは、調査システムに疑問が残るという民放側の強い反対の中、一九九四(平成六)年一一月から 個人視聴率の調査を開始した。ビデオ・リサーチも九五年三月より、個人視聴率調査の実験を開始した。 ニールセンの調査には、改良型ピープルメーターとよばれる機械が使われている。テレビを見る時、調査協力者が自分のボタンを押すと電話回線を通じてニー ルセンに送られる。ボタンの押し忘れを気づかせるため、センサーがついている。ビデオ・リサーチも九五年三月より、個人視聴率調査の実験を開始した。 各業界が対立する中、個人視聴率調査システムを検証・研究する第三者機関の必要性が話し合われ、九五年六月一日に民放連、日本広告主協会、日本広告業協 会で構成する「個人視聴率調査懇談会」が発足した。九六年六月には同懇談会の作業部会が機会式調査について「適切な改善がなされるならば有効と判断する」 との報告書を提出した。それを受けて民放連個人視聴率問題特別委員会は「視聴率はあくまで世帯視聴率が中心で、個人視聴率はそれを補完する参考データに し、メディア取引には使用しない」と提言した。早ければ九七年にも個人視聴率が導入されることになる。 ◆ニールセン調査(Nielsen research)〔1997 年版 放送・映像〕 アメリカのニールセン視聴率調査会社の調査。調査の方法は日本では、東京、大阪などに一定のサンプル(標本)の家庭を選び、そこの受像機にオーディオ・ メーターをとりつけ、視聴状況を集積し、パーセンテージとして表す。 ◆ビデオ・リサーチ〔1997 年版 放送・映像〕 民放二○社、東芝、電通、博報堂、大広の出資による日本最大手の総合調査会社。テレビ視聴率調査はミノル・メーターにより関東地区(標本数三○○世帯)、 関西地区(同二五○)。ビデオ・S・メーターにより名古屋地区(同二五○)、北部九州地区(同二○○)、札幌地区(同二○○)、仙台地区(同二○○)、広島 地区(同二○○)、静岡地区(同二○○)。日記式により長野地区(同四○○)の九地区について定期的に調査を実施している。 ▲映像とビデオ〔1997 年版 放送・映像〕 放送に使われている映像は、人間や自然を撮影したフィルムやビデオ、人工的に創り出したアニメーションやCG(コンピュータ・グラフィックス)の二種に 大別できるが、ビデオの使用が圧倒的に多い。だが、ビデオ・テープの編集には時間と経費がかかり、CDなどによるテープレス編集が進められ、ノンリニア 機器の記録・再生によるリアルタイム機能が求められだしている。そのため、ビデオ・テープ全盛時代は終わりをつげ、テープレス放送の新しい時代が間もな く日本にも訪れるだろう。 ◆映像文化〔1997 年版 放送・映像〕 映画、テレビなどの映像媒体の発達によって、映像は現代社会に氾濫するようになり、活字文化中心社会から映像文化を主体とする時代に移りつつある。すな わち、動く映像によって芸術や大衆文化が創造され、それが社会に大きな影響を与えるようになった。さらに、マルチメディア時代は 映像新時代 と呼ばれ ているように、多様な映像を使ったコミュニケーションが用いられるようになり、それがまた新しい文化を形成するだろうとみられている。電話はテレビ電話、 レコードはビデオディスク、有線放送は有線テレビへ、さらにビデオテックス、ハイビジョンなどの登場によって、映像を用いたコミュニケーション活動は一 段と活発化するに違いない。そうなると、映像が持っている単一・具象表現は、大きな社会問題となってくる。それは、人間の想像力を退化させることになり かねないからである。しかし同時に映像そのものは外部撮影のものばかりでなく、CG(コンピュータ・グラフィックス)のように人間や物体の内部に視点を 設定した映像を創ることが可能になり、映像文化の範囲や考え方を大きく変えるだろう。CGの発達は人間の絵を描く手法を変革、映像の概念を根本的に変え かねない。 ◆3D映像(立体映像)(3‐dimension scenography)〔1997 年版 放送・映像〕 映像を三次元的に再現する方式。二台のカメラで撮影し、二台の映写機で写すステレオスペース方式によるもの、一台の撮影機、映写機ですべてまかなう七○ ミリ立体映画、コンピュータ・グラフィックスを使って画像をつくったものなど、さまざまな立体映像がある。 立体的に見える原理は、画像を見る両目の視角を変えることである。そこで、立体視するためには、右目で見た画像と左目で見た画像をスクリーンに投影、左 右の目にそれぞれの画像だけを送りこまなくてはならない。そのために赤・青の色眼鏡で区別をするか、光の振動方式で区別する偏光フィルターの眼鏡が必要 になる。二色焼付けした立体写真のアナグリフ式はカラー画像ではできない。しかし、観客にとって左右一八○度、前後には一二五度の範囲がすべて立体映像 で占められるので、完全に画像の中に入りこんだ感じになる。ステレオスペース方式はポラロイド方式でカラー映像が可能。大型画面にするため七○ミリフィ ルムを二本使うシステム。また眼鏡なしでも立体映像を体験できるようになった。 ◆CG〔1997 年版 放送・映像〕 コンピュータ・グラフィックス(Computer Graphics)の略称。コンピュータを用いて、図形や画像をつくること。統計グラフの作成、自動車や飛行機の設計、 建築や都市計画の設計、衣服のデザイン、CF(コマーシャル・フィルム)やアニメーションの制作など、さまざまな分野で広く実用化されている。それらの 図面はそのままハードコピーとして取り出せるのはもちろん、映像ディスプレイも簡便で説得力がある。CGの基本的な技法は、図形を数値データに置き換え てコンピュータに記憶させ、そのデータの一部を変えることによって、原図を自由に変形させ、望みの図形を描き出そうというものである。データ入力は、キ ーボード操作であったが、最近は、ライトペンを使っている。また、デジタイザーやスキャナーを手描きの絵にあてるだけで、コンピュータに読み込ませるこ ともある。図形を出力させるとき、筆の太さや色彩の選択の幅も広がっており、ぼかし、図形の拡大・縮小、上下・左右への移動などもいまは自由に行えるよ うに発達している。このテクニックをアニメーションに応用したのが、コンピュータ・アニメーションである。パソコンを使ったCGが開発されており、一般 の利用が急速に進みつつある。 ◆CGアニメーション(Computer Graphic Animation)〔1997 年版 放送・映像〕 一九九五年(平成七)年四月から、コンピュータで作った映像のみを使ったアニメーション番組、「ビット・ザ・キューピッド」(テレビ東京)と、「ネオハイ パーキッズ」(日本テレビ)の二つが放映開始された。制作費が普通のアニメに比べると二倍もかかるが、人体の動きを解析して再現させる「モーションキャ プチャー」技術などの工夫により、これまでにない動きの番組が生み出された。 ◆SFX(special effects)〔1997 年版 放送・映像〕 特殊視覚効果のことをいう。「effects」と発音すると、「エフェックス(FX)」と聞こえるので、この表記となった。怪獣、空想科学、科学戦争、冒険劇、恐 怖劇(ホラー・ムービー、スプラッター・ムービー)などのジャンルに多用され、特撮という言葉にかわって、SFXという言葉が広く使われだした。それは、 特撮という言葉が似つかわしくないほど、新しいテクノロジーを駆使したものが多くなったからである。SFXとは、ニューサイエンス時代にふさわしいハイ テク感覚を持ったメタリックな特殊視覚効果を指すといえよう。 ◆バーチャル・セット(virtual set)〔1997 年版 放送・映像〕 コンピュータ・グラフィックス(CG)によって作られたテレビ番組の美術セット。美術セットをすべてCGで作り、ブルーバック前に立つ出演者とリアルタ イムで合成する。実際のセットで表現するには困難な、もしくは、不可能な空間に、出演者を立たせることができる。また、セットを保管しておくスペースや、 セットを組み立てる時間を省くことができる。一九九六(平成八)年四月から日本テレビ「あさ天5」が、毎日の番組としては初めて運用を開始した。 ◆サブリミナル的手法〔1997 年版 放送・映像〕 映像の中に、人間の目では感知し得ないほど短い、内容とは関係のないコマ(画像)を繰り返し挿入する手法。テレビだと、そのコマ数は一秒間三○フレーム の中に一∼三フレームを挿入する。効果のほどは定かではないが、挿入された映像を見る人の潜在意識に残すといわれている。一九八九(平成一)年一二月、 日本テレビのアニメ「シティハンター3」にサブリミナル的手法が使われ問題になった。最近では、九五年五月に放送された、TBSの「報道特集」の中でサ ブリミナル的手法が使われ議論をよんだ。同年六月一五日、TBSは記者会見でサブリミナル的手法が「不適切」であったと陳謝した。同年七月二一日、郵政 省からTBSに文書により厳重注意がなされた。サブリミナル的画像は通常感知し得ないため、チェックが難しい。読売テレビは日立製作所の協力でサブリミ ナル的画像を事前にチェックできるシステムを開発するなどの対策をたてた。 ◆ビデオジャーナリスト(video journalist)〔1997 年版 放送・映像〕 小型のビデオカメラを用いて、撮影から取材、編集、解説にいたるまでを、一人でこなす映像記者のこと。略称VJ。映像記者。「ビデオジャーナリスト」の 名称を付けたマイケル・ローゼンブルムは、 「一人の記者がペンを持つように、ビデオカメラを常に所持して映像という言葉で表現する人」と定義づけ、 「低コ スト、規模縮小の設備で、テレビ界を変革させる武器になる」と断言している。市販のビデオカメラを手にし、ライトマンやオーディオマンの助けも借りずに、 一人で被写対象を撮影するばかりか、そのカメラを三脚の上にのせ、カメラに向かって、自分自身でコメントをも語る。機動性にすぐれ、相手により近づき等 身大の取材ができるのが長所。ノルウェーの「テレビ・ベルゲン」が、VJを用いた最初のテレビ局で、一九九○年代になって、アメリカのCATV向け二四 時間ニュース専門局「ニューヨーク1」などでVJが活躍しだした。日本でも、すでにCSテレビ「朝日ニュースター」でVJ は使われていて、一九九五(平 成七)年一一月開局の「東京メトロポリタンテレビ」はVJ主体のテレビ局となる。東京では、ビデオジャーナリストを養成する講座も開かれた。九六年七月、 映像記者を組織化し、自立できるよう支援する日本ビデオジャーナリストクラブ(JVJC)が大阪で発足した。VJは、あくまでもジャーナリストであって、 一人で撮影や編集をこなせばいいというわけではない。本当の意味でのVJは日本でも数少ない。ENGからSNGへというニュース取材の方法の進歩や、デ ジタルビデオカメラの登場やノンリニアによる簡便な編集は、これからVJが育つ土壌となる。プロからアマチュアに撮影・制作が転化するきっかけを作る点 で、注目すべきマルチメディア時代の機器利用ともいえる。 ◆ビデオ・ライブラリー(video library)〔1997 年版 放送・映像〕 テレビ番組やビデオアートなどのビデオ作品を蒐集し、一般に公開する映像図書館。テレビ放送開始三○周年の記念番組を制作しようとして、草創期のビデオ 番組がほとんど残っていないのに気づき、一九八二(昭和五七)年九月「放送文化財保存問題研究会」が発足した。同研究会は八三年から「テレビ番組を開か れた文化財とする運動」 (略称 ビデオ・プール video-pool)を展開し、八四年国会議員と懇談したり、シンポジウムを開いたりした。八五年には、放送文化 基金助成を得て「草創期テレビ保存番組リスト∼昭和四五年までの公的記録保存資料から∼」を作製した。NHKが八一年に「放送番組ライブラリー」を設置 したが今はなく、現在、過去に放送された番組など総合的なビデオ映像を公開しているのは、郵政省が法的にただ一つ指定した「放送番組センター」のみであ る。放送番組センターの「放送ライブラリー」(問い合わせ先○四五・二二三・二一一一)は、横浜のみなとみらい地区にあるが、九八年に横浜市中区に完成 する横浜市情報文化センター内に移転する予定である。文部省が教材としてビデオを認可してから、ビデオをライブラリー化していろいろなところで利用する 傾向が高まり、東京・青山の「こどもの城」でもビデオ図書館を開いた。 ◆ビデオソフト(video soft)〔1997 年版 放送・映像〕 ビデオカセットやビデオディスクなどに収録されているソフト(テレビ番組、映画、その他の映像情報)。ポニーが最新のビデオソフト一七作品を発表したの が一九七○(昭和四五)年七月。そのときはすべてオーブンリール型VTR用の三○分ソフト、価格は三万円だった。映画、テレビに続く第三の映像を目指し、 「ビデオソフト五○○○億円産業説」が唱えられたが、笛吹けど踊らず、昭和五○年代まで低迷、昭和六○年代に入って急激に成長して、ビデオ関連市場の総 売上高は映画興行収入を上回るようになった。それはビデオカセット・レンタルを主にホームビデオの需要が急上昇したからであり、国際映像ソフトウェア推 進協議会(AVA)の八九(平成一)年のホームビデオ全体の産業規模は四五一六億円となり、劇映画一六六七億円の三倍近くになった。日本映像ソフト協会 によると、九五年一月から一二月のソフト総売上金額は二六○三億八四○○万円、その内訳はカセットが一七七○億一五○○万円、ビデオディスクが六一七億 二七○○万円、CD関連が二一六億四二○○万円となっている。 ◆レンタル・ビデオ(rental video)〔1997 年版 放送・映像〕 賃貸料金をとって貸し出すビデオカセット。劇映画をビデオ化したものが圧倒的に多く、レンタル・レコードがかつて流行したように、レンタル・ビデオ店が 街に進出しており、アメリカでは激しい商戦を展開している。映画は映画館に行って観るか、テレビの放映時間に合わせて観るしかなかったが、レンタル・ビ デオを借りれば、いつでも観られるわけであり、自宅で自由に新作映画まで楽しめるようになり、映画の見方を大きく変えている。レンタル・ビデオの大型店 舗があちこちにでき、何千本ものソフトを備えているところもある。一九九六(平成八)年八月一日現在、全国の日本映像ソフト協会レンタルシステム加盟店 数は一万二三三三店であるが、そのうち調査して不明な店舗は二二○一店にのぼっている。またチェーン化も進み、スーパー、駅前商店街、大型団地、コンビ ニエンス・ストア、オフィスビル、郊外店などに店舗が広がっている。無店舗営業も行われ、DP屋などで、カタログをみて決めるとビデオテープが送られる 方法もあり、レンタル・ビデオ業界は目下大型・整理化している。同時に、著作権を無視した海賊版ビデオも登場しており、その取り締まりに懸命である。 九六年一月の日本映像ソフト協会の調査によると、標準レンタル料金は一泊二日で新作四四五円、旧作三六四円となっている。 ◆Vチップ/ペアレンタルロック(V-tip/parental lock)〔1997 年版 放送・映像〕 過激な暴力、性描写のシーンを、ランクに応じて、画面に写らないようにする装置。Vはバイオレンス(Violence)のV。電波とともに送られてくるランク情 報を、テレビに内蔵された半導体が、あらかじめ設定されたランクと照らし合わせ、送られてくる映像を画面に写すか写さないかを判断する。 アメリカの「一九九六年電気通信法」が、一三インチ以上の受像機にVチップを搭載することの義務を規定した。これに対して、言論の自由の侵害と米テレビ 界は反発した。ランク付けをどのように行うかなど課題が残っている。 日本でこれに類する装置はペアレンタルロックで、子供に見せたくない番組を親が暗号によって「鍵」をするという仕組み。一九九五(平成七)年九月から郵 政省内に設けられた「多チャンネル時代における視聴者と放送に関する懇談会」において、ペアレンタルロックを導入するか等が議論されている。 ●最新キーワード〔1997 年版 ●TBS問題〔1997 年版 放送・映像〕 放送・映像〕 東京放送(TBS)が坂本堤弁護士のインタビューテープを放送前にオウム真理教幹部に見せたことと、それが表面化したあとの内部調査をめぐっての一連の 問題。一九八九(平成一)年一○月、TBSワイドショー番組『3時にあいましょう』が、オウム真理教を取材。その際、事前に収録した坂本弁護士のインタ ビューテープをオウム真理教側に見せることを、プロデューサーが了承した。TBS千代田分室を訪れたオウム真理教幹部らはインタビューテープを見て、放 送中止を求めた。『3時にあいましょう』は坂本弁護士のインタビューの放送を取り止めた。 一九九五年一○月、日本テレビが「TBSが坂本弁護士のインタビューテープをオウム真理教に見せた」と報道、問題が表面化した。これに対し、TBSは否 定し続けたが、九六年三月、磯崎洋三TBS社長は事実を認め、陳謝した。磯崎社長は辞任、新社長には砂原幸雄取締役が就任した。TBSは社内調査チーム を発足させ検証番組を放送したが、疑惑は残された。 この問題をきっかけに、報道倫理問題、視聴率至上主義の問題、外注制作をめぐる問題など、テレビをめぐる議論が様々な形で公にされ白熱した。また、マス コミに対する公権力の介入を心配する声もあがった。そうした中、民放連は九六年五月、「これまで以上に国民の信頼に応える放送を行い、公共の電波を預か るものとして、その社会的責任を果たすことを誓う」とする決議文を採択した。また、 「放送倫理綱領」の制定、 「取材・報道に関するガイドライン」の作成な どの具体策に取り組むことを示した。 ●東京メトロポリタンテレビ(JOMX‐TV)〔1997 年版 放送・映像〕 東京で六番目の地上民放テレビ局で、一四チャンネル。既存の在京民放テレビ局とは異なる点がいくつかあげられる。(1)全国のテレビ局に配信せず、対象 エリアも関東一帯ではなく、東京だけを対象にしている。 (2)VHF(超短波)帯ではなく、UHF(極超短波)帯の電波を利用して放送する。 (3)ニュー スを主体とする二四時間放送。 (4)局外の契約制のゼネラル・プロデューサーが、制作・編成を担当する。 (5)ニュースや番組の取材から編集を映像記者(ビ デオジャーナリスト)が行う。一九九五(平成七)年一一月一日から放送を開始。本社は、臨海副都心のテレコムセンタービル。電波の届かない地域は中継局 がカバーする。受信できる地域は、都内全域と横浜市、大宮市、船橋市などを含む東京三○キロメートル圏。資本金は一五○億円と、TBS(約四四○億円)、 日本テレビ(約一八三億円)に次ぎ、地上民放テレビでは三番目の規模だが、役職員の数は一一○人と超スリムな経営となる。番組内容は、ニュース、天気・ 交通情報、映像記者報告、インタビュー、都の情報で構成される「東京NEWS」、長めの時間をとった映像記者報告、ドキュメンタリーを紹介する「ニュー スマガジン」、スポーツ中継、防災番組などである。天気情報が一日一○一回放送されるのも特徴。受信エリアには約七○○万世帯あるが、UHF用のアンテ ナが必要なのが課題である。 ●外国語FM放送〔1997 年版 放送・映像〕 在日外国人向けのFMラジオ放送。一九九五(平成七)年一○月に大阪では「関西インターメディア」が、東京では九六年四月に「エフエムインターウェーブ」 が開局した。英字新聞の発行会社ジャパンタイムス社が主体となり、三井物産や徳間書店が参加するのが「エフエムインターウェーブ(インターFM)」。周波 数は七六・一メガヘルツで、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県は全域で、群馬県、栃木県、茨城県は一部地域で受信できる。音楽番組を主軸にしながら、ニ ュースや来日する海外の政治家、経済人などのインタビュー番組、外国人向けの生活関連情報、娯楽情報なども放送する。 〈東京発の情報発信〉 〈地域密着型メ ディア〉〈災害発生時の緊急情報と避難ルートガイド〉などを番組編成の基本にしている。番組で使う言語は、英語を中心に北京語、韓国・朝鮮語、スペイン 語、ポルトガル語、タガログ語、タイ語、インドネシア語の八カ国語。かつてFM東京がポルトガル語とタガログ語を使用した外国人を対象にした放送を行っ たことがあったが、現在は放送していない。受信可能な地域に住む外国人は約四○万人ほどなので、スポンサー獲得のためにも、日本の聴取者をどれだけ増や せるかが課題となる。 関西電力が中心となって設立した「関西インターメディア」は一足早く開局しており、十数カ国語の言語を使い、音楽番組、情報番組を放送している。 ●コミュニティ放送〔1997 年版 放送・映像〕 通常のFMより出力の小さいFM放送局。従来の県域単位のラジオではカバーしきれない地域情報の提供を通じて、地域の活性化を図るねらいで、一九九二(平 成四)年に制度化された。コミュニティ放送は一地域一局に制限されていたが、九四年五月に複数設置が認められた。当初出力は一ワツトと制限されていたが、 それではカバーできる地域が狭いため、九五年三月に出力の上限が一ワツトから一○ワツトに引き上げられた。こういう規制緩和が開局を促進・増加させてい る。九二年一二月に北海道函館市の「FMいるか」が開局して以来、コミュニティ放送局は増え続け、九六年八月現在、全国で四○局になった。 ●パパラジーコム〔1997 年版 TOKYO 放送・映像〕 FMが実施しているFM文字多重放送「見えるラジオ」を利用した双方向サービスの名称。テレビ用アンテナに専用端末を接続、毎月送られてく るカードを挿入すると、リモコン操作でさまざまなサービスが受けられる。たとえば、放送中のドラマで使われている曲、ロケ地などの情報を入手できる。ま た、クイズ番組で出題される問題に回答したり、プロ野球中継の結果を予想することでカードに得点が印字される。高得点が印字されたカードをコンビニやガ ソリンスタンドに持っていくと賞品と交換できる。チケット前売り情報、CDリリース情報や、自分の興味にあった情報をカードに印字して見ることもできる。 カードを差し込まない時には、見えるラジオを利用できる。 一九九六(平成八)年七月からサービスを開始した。サービス地域は東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県でFMステレオ放送が受信できる地域。パパラジーコ ムは加入料六○○○円、月額視聴料一○○○円の有料放送、端末は無料貸与される。TOKYO ●ニア・ビデオ・オン・デマンド(NVOD)(Near Video On Demand)〔1997 年版 FMとジーコム・カードシステムがサービスを実施している。 放送・映像〕 同じ映像を、時間をずらして複数のチャンネルで送出するサービス。たとえば、同じ映画を二○分ずつずらして放送すれば、それを見たい視聴者の待ち時間は 二○分以下ですむ。時間差を小さくすることで待ち時間は少なくなるが、多くのチャンネルが必要になる。いつでも見たい映像が見られるビデオ・オン・デマ ンドに比べるとやや不便だが、ある程度のチャンネル数さえあれば実現可能。デジタル圧縮技術で多チャンネルを確保できるケーブルテレビや衛星放送でサー ビスが行われる。 ●インタラクティブ・ドラマ/双方向ドラマ(Interactive Drama)〔1997 年版 放送・映像〕 視聴者がストーリー展開を電話投票で選択し、投票によって複数用意された結末のうち一つだけが放送されるというドラマ。一九九六(平成八)年六月、関西 テレビとフジテレビが「東芝インタラクティブ劇場・犯人がいっぱい!」を深夜に放送した。主人公が殺人事件を解決するというストーリーで、三つの二者択 一の選択肢が設けられた。CMの間に投票の受け付けと集計を行い、CM終了後、票の多かった選択肢にそったストーリーが放送され、八つ用意されたうちの 一つの結末にたどりついた。NTTの電話投票システム「テレゴング」を利用したが、ドラマでの利用はこれが初めて。マルチメディア時代の双方向放送の一 つの例といえる。 ▽執筆者〔1997 年版 コンピュータ〕 細貝康夫(ほそがい・やすお) 福井工業大学講師 1934 年神奈川県生まれ。防衛大学校理工学研究科卒。防衛庁技官, (株)三菱研究所主任研究員などを経て,現職。専門は情報処理論,コンピュータ概論な ど。著書は『データ保護と暗号化の研究』 (日本経済新聞社) 『コンピュータウイルスの安全対策』 (にっかん書房), 『カードビジネスのすべて』 (日刊工業新聞 社)など。 ◎解説の角度〔1997 年版 コンピュータ〕 ●アメリカでは,大企業を中心としてWWWサービスやブラウザなどインターネット技術を使って企業内情報システムを構築するイントラネットが急速に普及 してきている。わが国の企業もイントラネットの活用に乗り出した。 ●インターネット・イントラネットの関連製品であるネットワーク・コンピュータ,WWWサーバなどのブラウザ専用機,ジャバ言語,ブラウザなどのソフト ウェア製品の発表が相次いでいる。 ●インターネットのブームにより,本格的なネットワーク・コンピューティングの時代へと突入した。企業では,水平分散情報システムの実現へと情報化投資 が盛んに行われている。 ●インターネットからイントラネットへの不法侵入を守るファイアウオールが開発され,グループウエアや電子メールなどをファイアウオール経由で利用でき るようになってきた。 ●情報技術の進展で,企業は取引のスピード化による経営効率を強く意識し,電子財布の開発競走も活発化してきた。そのため,電子商取引への関心が高まり, CASL(生産・調達・運用支援統合情報システム)の実用化実験が進められている。 ★1997年のキーワード〔1997 年版 ★五○○ドルパソコン(500 服 コンピュータ〕 personal computer)〔1997 年版 コンピュータ〕 オラクル社が一九九六年一月に開発構想を発表したインターネットへの接続機能を備えた、安価な超小型パソコンのことで、ネットワーク・コンピュータ(N C)ともいう。オラクル、サン・マイクロシステムズ、ネットスケープ・コミュニケーションズ、IBM、アップルの五社は、NCハードの規格を統一するこ とで合意した。合意内容は、(1)アーキテクチャ(設計思想)に依存せず、インターネット接続や画面表示で現在の標準技術を取り入れた端末の仕様を固め ること、 (2)基本ソフトやプロセッサに関係なく互換性をもたせること、 (3)ネットワーク接続に特化して価格は五○○ドル以下に抑える、などである。そ の狙いは、「誰でも簡単に操作できる」機能特化型のクライアント・パソコンをイントラネットの端末や一般家庭向きのNCとして提供することにある。ハー ドは、三二ビットのCPUと八MBの記憶装置から構成され、ネットワークやデータベースへの接続機能のほか、映像や音声の処理、ならびにテレビ会議もで きる。どのNCでも動作させるために、Java 対応の同じアプリケーションソフトウェアをインターネットからダウンロード(取入れ)して使用する。 NC製品には、日本電算機の「iBOX home」、バンダイの「ピピン・アットマーク」などがある。 ★ジャバ言語(Java language)〔1997 年版 コンピュータ〕 サン・マイクロシステムズが一九九五年五月にインターネット関連製品として発表したプログラミング言語である。現在、インターネットの標準言語といわれ ている。 Java は、三つの性質をもっている。(1)オブジェクト指向プログラミング言語であること、(2)データベースへのリンクやマルチメディアに対応する広範 囲な応用プログラムとのインターフェースをもつこと、(3)どんな機種でも、どんなOSにも動くこと。そして、その目標はインターネットやイントラネッ トにおける完全にオープンなソフトウェアプラットフォームを提供することである。 Java で書かれたウェブ・ブラウザ上で動作するプログラムをアプレットというが、これを実行させるシステムには、保護機能が組み込まれているので、ウイ ルスの侵入などネットワークで発生するトラブルに強い。 HotJava とは、ジャバ言語で書かれたウェブ・ブラウザ(閲覧ソフトウェア)のことである。 ★西暦二○○○年問題〔1997 年版 コンピュータ〕 西暦二○○○年になると、コンピュータシステムに誤作動が発生するであろうという問題である。コンピュータの処理能力が低かった時代にデータ量を節約す るために西暦の下二ケタで管理してきたのが原因である。 西暦の下二ケタが「○○」のとき、システムが「二○○○」を「一九○○」と認識してしまうわけである。 そのため、システムの停止や日数計算・日付け入力エラーが起こり、受・発注や生産ラインが止まったり、金利や給与計算などが間違ったりするという。 対策としては、企業ユーザのシステムを手直しする必要がある。また、蓄積データを書き換える必要もある。各コンピュータメーカーは、早めに体系的な専門 サービス商品を設定し、対応するという。 ★超並列コンピュータ(super parallel computer)〔1997 年版 コンピュータ〕 単一のシステムの中に少なくとも一○○○個以上のプロセッサを連結してそれらが互いに協調動作することによって、複数のプロセッサをうまく制御してプロ グラムを分散処理するコンピュータのこと。市場動向としては、米インテル社は処理速度が最大四○○○個のプロセッサを使って処理速度が三○○ギガFLO PS(毎秒三○○○億回の浮動小数点演算速度)のPARAGO NXP/Sを、そして米シンキングマシン社は、一万六三八四個のプロセッサを使って処理 速度が一テラFLOPS(毎秒一兆回の浮動小数点演算速度)のCM‐五を発表している。 研究開発動向としては、筑波大学計算物理学研究センターが中心になって開発してきた科学計算用の超並列コンピュータ「CP‐PACS」が一九九六年五月 に完成した。「CP‐PACS」は一○二四個のプロセッサを搭載し、演算の最大速度は、三○○ギガFLOPSである。秋までにプロセッサを二○四八個に 増設し六○○ギガFLOPSを実現する計画である。 電子技術総合研究所は、八○個のプロセッサを搭載した並列コンピュータ「EM‐X」を試作した。在来の並列機は、一つ一つのプロセッサが別のプロセッサ をメモリとデータ交換するのに一○○命令程度かかるのに対して、試作機は一命令で済むように設計した。その結果、処理性能は在来の並列機の約五倍を示し たという。 ★脳型コンピュータ(brain computer)〔1997 年版 コンピュータ〕 「脳型コンピュータ」とは、人間の脳の働きをまねて、直観による情報処理や価値判断の能力をもたせたコンピュータである。 開発動向としては、通商産業省工業技術院は、 「ブレインウェア(脳機能情報処理)」と名付けた研究プロジェクトを一九九五年度から開始した。超高速の情報 処理ができる超並列処理コンピュータや、学習機能に優れたニューラルネットなどの既存技術の長所を組み合わせるほか、シリコン半導体を応用して集積度を 高めたり、バイオ素子を使って自然な言葉や音声で命令できるシステムの開発を目指す。また、カオス理論や非線形学などの最新の知見を取り入れる。 東京大学先端技術研究センターでは、「神経細胞が自分が最も心地よい状態に努力すると、自然に最適な答えが導き出せる」という学習の法則をロボットのア ームを制御する頭脳に組み込んだ。すると、アームの一部を針で刺すと、アームは素早い動きで針から逃れた。 東京工業大学の研究グループは、ニューロが結合指定する「シナプス」という部分と同じ働きをするトランジスタを作った。そして、シナプスは刺激が何度も 伝わると、刺激に応じて結合を強めるという「ヘブの法則」を用いてシナプスの働きを再現した。 ★高速ニューロボード(highspeed neuro boad)〔1997 年版 三菱電機は、ニューロチップ「NEWRO 「NEWRO コンピュータ〕 4」に周辺回路を搭載したニューロボードを開発した。 4」は、浮動小数点の積和演算計算機能をもち演算ユニット一二個とニューラルネットワーク処理に必要な非線形演算ユニットをワンチップ化 したものである。 同ボードは、四枚まで拡張でき、最大システム性能は、三・一七ギガFLOPSと従来のパソコンの約二○○倍の能力を発揮するという。このため画像、音声 などの認識機能が飛躍的に高まり、高効率のマルチメディア対応のシステム構築が可能となる。 ★連想メモリ〔1997 年版 コンピュータ〕 連想メモリとは、人間が「赤い」という言葉から「赤いリンゴ」や「赤い靴」を連想するのと同様に、引き出したいデータの一部を入力するとそれに関連する すべての情報を出力するメモリのこと。 NTTが共同開発した連想メモリは、画像処理用で記憶容量が三三六キロビットあり、一つ一つのメモリには記憶だけでなく、簡単な演算処理機能も付けてあ り、並列コンピュータと同様の高速検索を実現している。 一方、東北大学の研究チームは、自動車の衝突予防システムへの応用を念頭においたメモリを開発した。 ★ウインドウズ 97(Windows 97)〔1997 年版 コンピュータ〕 東芝は米マイクロソフト社と共同で、次世代パソコンの基本ソフト(OS)である通称「ウインドウズ 97」を開発することを明らかにした。また、日本電気も 来年中にも米マイクロソフト社と「ウインドウズ 97」の日本語版の共同開発をする予定。ウインドウズ 97 は、マイクロソフト社が今年に入ってから本格的に 開発を始めたOSで 95 よりも通信機能や使いやすさがさらに向上するという。しかし、同社は名称や発売時期について公表していないが、一九九七年中にア メリカで発売されるとみられている。 ▲話題のコンピュータ〔1997 年版 コンピュータ〕 CMOS(相補型金属酸化膜半導体)を全面採用し、小型化・ハイコストパフォーマンス化を図ったり、並列処理を高速化する高速結合装置を開発することに より、並列処理機能を強化した大型汎用コンピュータが登場した。一方、液晶表示装置のLSD上から手書き入力できる携帯情報端末が実用段階に入った。 ◆CMOS並列機(CMOS parallel computer)〔1997 年版 コンピュータ〕 大型汎用コンピュータでは、CMOSプロセッサの開発と並列処理技術の進歩により、高速化競争が激化している。各社のCMOSプロセッサの性能は、二四 MIPSから四五MIPSの範囲にある。 日本IBMは八個のプロセッサを搭載したIBM9672‐R2/R3型並列サーバを一九九五年八月に、日本電気は三二個のプロセッサを搭載したPX 7800 を 九六年三月に、日本ユニシスは八個のプロセッサを搭載したITASCA3800 を九六年三月に出荷した。日立製作所は三二個のプロセッサを搭載した「MP 5600 プロセッサグループ」を九六年四月に発売した。富士通は八個のプロセッサを搭載したGS8600 を九六年一○月から出荷。 ◆マルチメディア・パソコン(multimedia personal computer)〔1997 年版 コンピュータ〕 音声、静止画像、動画像、文字などマルチメディア情報を一括して扱うために、高度なグラフィック機能、オーディオ機能、ボイス/FAX機能を備えたパソ コンのこと。このパソコンは、CD‐ROMタイトル(ソフトウェア)を動かすためCD‐ROM(コンパクトディスクを使った読み出し専用メモリー)駆動 装置、カラー表示ディスプレイ、スピーカ、テレビチューナー、ファックスモデムなどを一体化している。したがって、情報量の多い動画像や音声のデータが このパソコンで扱えるようになった。 利用範囲としては、企業では社内教育、商品のプレゼンテーションなどであるが、家庭ではテレビ、音楽、ゲームなどが楽しめる。将来は教育全般やエンター テインメント、種々のガイド、趣味などの分野に広がるだろう。 ◆PDA(Personal Digital Assistant)〔1997 年版 コンピュータ〕 PDAは、ワープロ、ペン入力、通信、住所録などの機能を備えた手帳サイズほどの超小型パソコンで携帯情報端末と呼ばれている。 一九九四(平成六)年にゼネラル・マジック社のPDA用OS「マジック・キャップ」を搭載した「マジックリンク」をソニーが発売した。 「マジックリンク」 は、エイジェント指向型通信ソフト「テレスクリプト」を備えており、電子メール機能は評価が高い。米アップルコンピュータ社が九六年六月に発売した「ア ップル・メッセージパッド」は、ビデオ・カセットほどの大きさで重量は四八○グラムであり、液晶表示装置を搭載し、LCD上に手書き入力した筆跡をその まま画像として保存したり、ペン入力機能や手書き文字認識機能を備えており、外部接続の周辺装置を通じてファックス通信や電子メールを送信することもで きる。 日本における主な製品は、シャープの「カラーザウルス」、ヒューレット・パッカードの「200LX」、富士通の「OASYS ルギア」などがある。 ◆スーパー・コンピュータ(super computer)〔1997 年版 コンピュータ〕 Pocket3」、日本電気の「モバイ 同時代のコンピュータの中で最も超高速の演算能力をもつものを呼ぶ名称である。原子力、気象、宇宙などの膨大な計算が要求される分野で利用されている。 最初米クレイ社のCRAY‐1(クレイ・ワン)が市場に出荷され、この名が浮上した。 市場動向としては、米クレイ社は、処理性能が一・二テラFLOPS(一テラFLOPSは毎秒に一兆回の浮動少数点演算速度)のCRAYCT3Eを一九九 五(平成七)年一一月に販売した。次に、日本電気は処理性能が一テラFLOPSである最上位機種「SX‐4」を九五年一二月に出荷した。 これに対して富士通は、処理性能が一・一二六テラFLOPSである「VPP700 シリーズ」を九六年三月に発表した。 ◆データフローマシン/SIGMA1(data flow machine)〔1997 年版 コンピュータ〕 アメリカ・マサチューセッツ工科大学のJ・B・デニスが提案した非ノイマン型コンピュータの一種で、データ駆動コンピュータとも呼ばれる。このコンピュ ータには命令の逐次実行系列を制御するプログラム・カウンタがない。その代わり、各命令は命令の種類と命令の実行結果の行先情報をもち、プログラム自体 はデータの依存関係を示すデータフローとして表現される。並列計算による高速性があり、非定型的高速処理を要求される科学技術計算用として期待されてい る。 工業技術院(つくば市)はデータ駆動型の並列処理コンピュータSIGMA1を開発した。演算処理装置は約七○○個の集積回路で構成され、これに記憶など を扱う処理装置を加えたものを四組まとめて基本ユニットとしている。 処理速度は、一秒間に一億七○○○万回の加減乗除を行う能力をもっている。ネットワークを介して、三二ユニットの演算処理装置をホストコンピュータによ って制御することに成功した。 ◆OLTPマシン(Online Transaction Processor)〔1997 年版 コンピュータ〕 このマシンは、内部に複数の中央演算処理装置やメモリー、ディスクを装備しており、システムの一部が故障しても全体を停止することなく修復できるもので、 別名ノンストップコンピュータという。そのため、従来の汎用機に比べてオンライン取引の処理に適している。 導入効果として、(1)多数のオンライン取引処理が汎用機より優れ、コストも安い、(2)故障に強く、二四時間無停止の稼動が可能、(3)システムを柔軟 に拡張できるなどがある。 このマシンの技術動向は、RISCチップを採用し高性能化している、データベース機能の充実によりデータベースマシンとしても利用できる。 ◆ニューロ・コンピュータ(neuro computers)〔1997 年版 コンピュータ〕 (neural network)の構造・情報処理機能をモデル化し、高度の情報処理装置の実現を目指したコンピュ 脳を構成している神経細胞(neuron)・神経回線網 ータをニューラルコンピュータ(neural computers)とよび、この原理を既存のノイマン型コンピュータの上にソフト的に、またはハード的に模倣したコンピ ュータをニューロコンピュータと通常称している。ニューロコンピュータモデルは非線形のニューロモデルを数多く結んだネットワーク上で並列分散的に情報 処理を行うところに特徴がある。このアプローチのことをコネクショニズムとか並列分散ともよぶ。 応用分野には、英文の音読学習、両眼立体視モデル、パターンの認識・理解、ロボット制御、金融関係の予測、大量あいまい情報の処理などへの適用例が多く みられる。 ◆光コンピュータ(optical computer)〔1997 年版 コンピュータ〕 光の優れた属性を生かした新しい発想でイメージされているコンピュータである。光を情報処理に利用するとき着目されている属性は、(1)超並列・高速処 理、(2)信号の空間配列の利用、(3)信号処理の多機能性、(4)信号相互間の無干渉性、(5)広帯域性、(6)信号の多様性、などである。 現在研究中の光コンピュータの方式には、(1)時系列演算方式(ノイマン方式)、(2)並列アナログ演算方式(画像処理による方式)、(3)並列デジタル演 算方式の三つがある。目指すところは超並列・高速処理コンピュータであり、ニューロコンピュータの技術として期待されている。 しかし、その実現には光技術に適したアーキテクチャの研究をはじめ光インタコネクション(素子間を光で接ぐ技術)、非線形光学素子、空間光変調器の開発 など多くの課題がある。 ◆光ニューロコンピュータ(optical neuro computer)〔1997 年版 コンピュータ〕 ニューロコンピュータは生物の脳の情報処理機構をハード的に模倣したもので、その特徴は「並列処理」と「学習」にある。この機能を光演算器を利用しレン ズの組合せやホログラフィにより相関などの演算を行わせたものが、光ニューロコンピュータである。 光ニューロコンピュータの特徴は、 (1)光には空間並列性という特徴があり、膨大な数のニューロン間配線が可能である、 (2)光波は互いにクロストークを 受けないで伝搬し、伝送容量が大である、(3)超高速演算ができるなどである。 ベクトル行列演算に光技術を応用した光連想メモリーの研究や光アソシアトロンなどの学習機能をもつコンピュータの研究が進められている。 ◆二世代ファジー/ファジーコンピュータ(the second generation fuzzy/fuzzy computer)〔1997 年版 コンピュータ〕 ファジーとは、柔らかでぼんやりしていて、あいまいなことをいう。現在使われているノイマン型コンピュータは1か0か、正か負か、というように二値論理 (デジタル論理)で割り切っている。これをクリスプ(crisp)な世界というが、クリスプでは中間的な値がうまく取り扱えない。ファジー論理ではメンバーシ ップ関数という一種の確率変数で中間的なあいまいな状態を表現し、人間の言葉のあいまいな意味内容を数理的に扱えるようにした。 第一世代ファジーは、地下鉄の運転、掃除機、洗濯機、調理器などの自動制御に威力を発揮した。第二世代ファジーは、人間や社会に直接働きかけ、知識処理 に威力を発揮するといわれている。人間は直感や経験に基づく融通自在(ファジー)な行動を行う。これらをコンピュータでやらせようとするのがファジーコ ンピュータである。九州工業大学では、ファジーチップを開発し、本格的なコンピュータ化を目指している。ファジー・ソフトウェアはコンピュータ言語でこ れを実現させたもので、ファジーProlog、ファジーLISP、ファジー・プロダクションシステムなどが開発されている。 ◆PCカード(Personal Computer Card)〔1997 年版 コンピュータ〕 PCカードとは、ノート型パソコンなど携帯型情報機器向けのカード型記憶装置のことで、ICメモリー・カードともいう。ノート型パソコンは小型化の代償 として機能拡張性が小さい。PCカードは、ノート型パソコンの機能を拡張し、利用範囲を拡大するために使用される。出張先で情報収集が必要な場合、モデ ム機能をもったPCカードをパソコンのスロットに差し込みデータベースにアクセスすればよい。また、カードの先端に付いているコントロールユニットに電 話線とイヤホーンを差し込めば通話できる。ダイヤルはパソコンが自動的にかけてくれる。オフィスに戻ったらLANアダプターのカードに差し替えてパソコ ンをLAN端末として使える。そのほかに、ハードディスク、フラッシュメモリ、ビデオ、サウンド、FAXの機能をもつカードなどが利用されている。 ▲コンピュータ・ネットワーク〔1997 年版 コンピュータ〕 社内ネットにインターネットの情報技術を活用したイントラネットの構築が「企業内情報革命」として脚光を浴びている。そこでイントラネット構築に関連す るネットワーク技術について概観する。また、インターネット・イントラネットの運用には、ファイアウォールやセキュリティ技術が必須である。 ◆コンピュータ・ネットワーク(computer network)〔1997 年版 コンピュータ〕 独立した複数のコンピュータ・システムを通信回線により、互いに資源を共有することができるように結合させたシステムのこと。 コンピュータ・ネットワークの特徴として、(1)複数の処理装置を含むこと、(2)処理装置が独立または共同して動作できること、(3)処理装置間が有機 的に結びついていることがあげられる。その効果には、(1)通信回線の共用による通信コストの削減、(2)分散による信頼性の向上、(3)異業種間の結合 による複合型業務処理の実現化、(4)情報流通の促進などがある。 コンピュータ・ネットワークは、規模により、ローカル・エリア・ネットワーク(LAN)とワイド・エリア・ネットワーク(WAN)に大別される。 ◆HTML(Hypertext Markup Language)〔1997 年版 コンピュータ〕 WWWのホームページや、その他のハイパーテキスト文書を作成するための文書処理系の言語のことである。 インターネットでHTML文書(ドキュメント)をアクセスすると、テキスト、グラフィックス、そして他の文書へのリンクが混在したものを表示する。その 中のリンクを選択すると、それに関連した文書が自動的に開かれる。HTML文書には、多くの場合、 .html ◆WWW/ホームページ(World Wide Web/ homepage)〔1997 年版 という拡張子が使われる。 コンピュータ〕 ワールド・ワイド・ウェブまたはスリーダブリュと読む。WWWとは、HTMLで作成されたハイパーテキスト(マルチメディア情報も含む)を効率的に閲覧 するシステムのことである。それはCERN(ヨーロッパ合同原子核研究機構)で開発された情報表示システムである。ホームページとは、WWWブラウザで 見ることができるハイパーテキストの最初に表示されたページのことで、Web ページという。ホームページには、リンクという文章と画像を組み合わせた情報 が入っており、リンクを使って関連するページに移動したり、他のホームページに移動したりすることができる。 ◆ウェブ・ブラウザ(Web browser)〔1997 年版 コンピュータ〕 インターネット上のWWWサーバへアクセスするための検索閲覧用ソフトウェアのこと。それはウェブ上で複数のHTML文書へのリンクを可能とするWWW のクライアント用ソフトウェアであり、主な製品にネットスケープ社の「ネットスケープ・ナビゲータ」や HotJava がある。数多くの文書を拾い読みして (browsing)、興味のあるホームページを見つけたとき、それをマウス(ポインティングデバイス)でクリック(指示)すると、自動的に目的の文書があるイ ンターネット・ホストにアクセスする。したがって、ユーザーはIPアドレス(各コンピュータごとにもつ固有の番地)やホスト・システム名などの詳細を知 らなくても閲覧できる。 ◆リンク(link)〔1997 年版 コンピュータ〕 Web サーバを中心にして、イントラネットで使用されているインタフェース・ツールのことで、連携ともいう。具体的には、文書管理システム、グループウェ ア、データベース管理システム、ホスト情報システムなどとソフトウェア上の互換性を実現することをいう。 ◆TCP/IP(転送制御プロトコル/インターネット・プロトコル)(Transmission control Protocol/Internal Protocol)〔1997 年版 コンピュータ〕 インターネット、イントラネットを支えるコンピュータ・ネットワークの標準プロトコル(通信規約)で、インターネットの基盤をなす情報技術である。一九 七○年代に米国防省防衛高等技術研究計画局によって最初に開発された。TCP/IPは、インターネット・イントラネットへのアクセス、パケット通信、電 子メール、パソコン会議などを統括する。TCPはデータが正しく伝送されたことを保証するプロトコルであり、IPは異機種間接続とルーティングのプロト コルで、パソコンからメインフレームまで、あらゆる機種のコンピュータに接続することができる。また、異なったネットワークをまとめて一つのネットワー クにすることもできる。 ◆ファイアウォール(firewall)〔1997 年版 コンピュータ〕 外部からネットワークへの不法侵入を防ぐ技術やソフトウェアをファイアウォール(防火壁または防御壁)という。インターネット・イントラネット環境では、 セキュリティ(安全保護)を確保する必須の情報技術である。 ファイアウォールの役割は、インターネットとイントラネットの間に位置し、インターネットからの不法侵入を防ぎながら、社内ユーザーによるインターネッ トへの利用制限を設けることにある。ファイアウォールの種類は、(1)パケット・フィルタリング方式、(2)サーキットレベル・ゲートウェイ方式、(3) アプリケーション・ゲートウェイ方式の三つに大別される。その防御の仕組みは、ルータ(LANを相互に接続する装置)やゲートウェイ(複数のネットワー クを接続するときの装置)で、情報のフィルタリングおよび発信元や発信先、パスワードなどの識別を行うものである。主な製品としては、サン・マイクロシ ステムズの「SunScreen SPF‐100G」、日本電気の「Goah/Privatenet SV」、米トラステッドインフォメーションシステムズの「Gauntled」などがあ る。 ◆拡張子(extension)〔1997 年版 コンピュータ〕 file.txt のように、ファイル名の終わりに付けられているピリオドとそれ以降の三文字までのアルファベットのことである。拡張子は、ファイルの性質を表示す るために用いられる。たとえば、「.txt」はテキストファイルを示し、「.pax」は圧縮ファイルを示す。 ◆ファイル圧縮/解凍(file compresion/depresion)〔1997 年版 コンピュータ〕 ファイルの圧縮とは、ファイルの容量をできるだけ小さくすること。これによりディスクの容量を節約でき、ファイル伝送時間を短縮することができる。解凍 とは、圧縮されたデータをもとに戻すことをいう。 ◆エムペグ(MPEG)(Moving Picture Expert Group)〔1997 年版 コンピュータ〕 MPEGとは、映画など動画像の情報を何十分の一にも圧縮する技術のこと。ムービング・ピクチャ・エキスパート・グループの略で、動画像圧縮に関する各 国の専門家会合のこと。ここで合意した標準規格をMPEG1(CDなど蓄積型メディアの圧縮)とかMPEG2(通信型メディアの圧縮)と名付けている。 ◆ホストコンピュータ(host computer)〔1997 年版 コンピュータ〕 複数のコンピュータを一緒に使用する場合、フロントエンドプロセッサ(前置処理装置)に対して背後にいて、主役(ホスト役)となるコンピュータをホスト コンピュータという。たとえば、大型コンピュータをホストコンピュータとして、それに、フロントエンドプロセッサのミニコンやパソコンを回線でつなぎ、 非常に時間がかかり複雑な処理をホスト側にやらせて、ミニコンやパソコンは端末としてデータの入出力を行ったり、パソコンがホストからの指示により各種 の処理を分担して行ったりする。 ◆ネットワークOS/NOS(Network Operating System)〔1997 年版 コンピュータ〕 NOSとは、アプリケーション・プログラムに対して通信関連サービスを提供すると同時に、OSIの中位レイヤ層のプロトコル処理を行う基本ソフトウェア のことである。NOSの基本機能としては、サーバ上のファイルとプリンタの共有機能、ユーザー管理とセキュリティ機能、障害対策機能があげられる。 その導入効果は、(1)異機種接続ができるため、ユーザーが自由にLANのハードウェアを選択できる、(2)既存の情報資産が継承できる、(3)パソコン の能力を最大限に引き出せる、(4)市販のパッケージ・ソフトウェアを手軽に利用できるなどである。 ◆非同期伝送モード(ATM)(Asynchronous Transmission Mode)〔1997 年版 コンピュータ〕 ATMとは、マルチメディア時代における大量情報の転送に対応した、パケット通信による情報通信の基準のこと。米ベル研究所で一九六○年代末から開発を 進めてきた非同期時分割マルチプレックサ(ATDM)の技術を基に、九○年代から実用化が進められている。ATMでは、送信する各文字の前後にスタート ビット「0」とストップビット「1」を挿入して文字ごとに区切りを入れ、これらのビットを手がかりにして、受信側が文字を同期させる。調歩同期式ともい う。 九五年四月に開催されたプロトコルの国際標準化を図る国際会議(ISO/IECJTC1/SC6)において、高速転送プロトコルは、アメリカが提案した DQDB(ディストリビュテッド・キューデュアル・バース)方式に決定された。日本提案のATM方式が採択されなかったため、国内のコンピュータ・メー カーは、今後DQDB方式への対応を余儀なくされることになった。 ◆データ暗号規格(DES)(Data Encryption Standard)〔1997 年版 コンピュータ〕 DESは、アメリカ商務省標準局(NBS)が一九七七年に公布したアメリカ連邦政府機関の標準暗号方式である。NBSが七三年に公募した中からIBMが 開発・提案した方式を採用した。DESは、送信者と受信者が同一の鍵を用いて通信文を暗号化・復号するという慣用暗号方式の一種である。その処理手順は、 六四ビットに分けられた平文の入力を五六ビットの鍵が制御しながら、一六段にわたる転置と換字処理を行って六四ビットの強力な暗号文を出力する。復号は、 これと逆の操作によって行われる。その特徴は、(1)取扱いが容易なこと、(2)暗号化・復号の処理効率がよいこと、(3)鍵の生成が容易なことである。 ◆公開鍵暗号方式(public-key cryptosystem)〔1997 年版 コンピュータ〕 スタンフォード大学のヘルマン、ディフィー、マークルらが共同で発案した新しい暗号方式で、その原理は、次のとおりである。受信者が一対の暗号化鍵(公 開鍵)と復号鍵(秘密鍵)を作成し、復号鍵を秘密に保持するとともに暗号化鍵を公開して送信者に配送する。送信者は配送された暗号化鍵で平文(通信文) を暗号化し、暗号文を受信者に送信する。受信者は受信した暗号文を復号鍵で復号し、平文を得る。この方式は、一九七七年マサチューセッツ大学のリベスト らが素因数分解の困難さを利用したエレガントなアルゴリズムを開発し実現化した。彼らの頭文字をとってRSA方式という。この方式の特徴は、暗号化鍵を 公開しているため鍵管理が容易であり、また、デジタル署名が容易に実現できることである。 RSA129 とよばれる「究極の暗号」は、米ベル通信研究所のアージェント・レンストラ博士らによって公表から一七年目に解読された。暗号文の解読に何兆 年を要するが、博士は世界各地の研究者の協力で一六○○台のコンピュータを八カ月間動かして解読し、賞金一○○米ドルの小切手をリベスト氏から受領した。 暗号文の正解は「気むずかしいヒゲワシ」である。 ◆デジタル署名(digital signature)〔1997 年版 コンピュータ〕 データ通信では、手紙のように本人確認のための直筆署名を付けられない。デジタル署名とは、デジタル通信情報に対し、送信者の身元の識別・確認と情報の 内容が偽造されていないことを識別・確認する手続きである。デジタル署名は安全性の面から、 (1)署名文が第三者によって偽造されない、 (2)署名文が受 信者によって偽造できない、(3)署名文を送った事実をあとで送信者が否定できない、ことの三つの条件を満たす必要がある。 デジタル署名には、通信者間で署名生成に使用する情報を秘密にもつ一般署名と、送信者が調停者にメッセージと署名を認証してもらう調停署名がある。調停 署名は条件(3)を満たす。慣用暗号方式では、条件(1)だけを満たし、一方、RSA公開鍵暗号方式は条件(1)と(2)を満たす。それゆえ、重要なデ ータ通信では、RSA公開鍵暗号方式と調停署名を用いるのがよい。 ◆イントラネット構築専用サーバ〔1997 年版 コンピュータ〕 企業内情報システムであるイントラネットを構築するための専用サーバのこと。イントラネットで情報を扱うために必要なソフトウェアがあらかじめ組み込ま れている。主な製品としては、日本電気「ゴア/イントラSV」、日本DECの「アルファ ▲コンピュータの利用〔1997 年版 XLイントラネットサーバ」など。 コンピュータ〕 人間の知的活動を支援するための道具として、コンピュータが利用されている。生物の生態や振舞いから特別な問題を解決するアルゴリズムが研究・開発され ている。 また、ホワイトカラーの生産性を高めるグループウェアや機械翻訳、電子化辞書などの製品が実用化段階をむかえている。 ◆人工知能(AI)(Artificial Intelligence)〔1997 年版 コンピュータ〕 人工知能研究が正式に始まったのは、一九五六年に行われたダートマス会議である。人工知能とは、高度情報処理技術者育成指針(中央情報教育研究所編)に よれば「人間が用いる知識や判断力を分析し、コンピュータプログラムに取り組み、知的な振舞いをするコンピュータシステムを実現する技術」としている。 AIに期待されている効果は、情報を相互に独立する個々のモジュールを内部にもち、ユーザーの必要に応じて問題解決手順を組み立てる知的な働きである。 AI研究には次の二つのアプローチがある。(1)科学的立場からのもので、シミュレーションによって知能のメカニズムを解明することを目的に、コンピュ ータが使われている。この場合は一般的に認知科学といわれている。(2)工学的立場からのもので、知的能力をコンピュータに与えることを目的とし、知識 工学とよばれる分野に属している。応用面ではエキスパートシステムがある。 ◆群知能〔1997 年版 コンピュータ〕 個々のアリ(蟻)は、餌を集めるにしても、においの刺激に応じて条件反射で物をくわえたり放したりしているだけで「餌を探して集める」と考えて行動する わけではない。しかし、こうした単純作業も多数のアリが繰り返すと、一定の効率で「餌を探して集める」という目的が達せられる。「賢くない」アリを多数 集めると、単純な足し算ではなく、群れにそれ以上の知能、つまり群知能が生まれる。こんなアリの生態を工学的に活用する研究が始まっている。 三菱電機中央研究所は、群知能を応用した文書分類法を開発した。アリがにおいを基に餌などを分別するのと同様に、文中の特定の単語を手がかりにコンピュ ータが内容ごとに分類する。高度の人工知能を使わなくてすむのがこの応用の利点で、膨大なデータベースにある大量の文書情報の自動分類に有効。東京大学 工学部の三浦宏文教授らの研究グループは、超小型ロボットであるマイクロマシンの制御にアリの群知能を利用して、多数のロボットを目的に向かって誘導す る研究を進めている。群知能では一台のロボットは交信や指揮のための高度な人工知能やセンサーを搭載しないから、サイズが小さく、多くの機能を搭載しに くいマイクロマシンに適しているという。 ◆最大クリーク問題の解明法〔1997 年版 コンピュータ〕 情報科学で最難問の一つ、集団の中で特定の性質をもった最大のグループを見つけ出す「最大クリーク(派閥)問題」を高精度で画期的なスピードで解くこと に、電気通信大学電子情報学科の富田悦次教授らのグループが成功し、電子情報通信学会で発表した。 この問題は、たとえば二国間を「友好的」か「非友好的」に分けた場合、どの二国間をとっても友好的な国どうしの最大派閥を探すことである。 この問題を厳密に解くためには、あらゆる国の組合せが派閥かどうかしらみつぶしに調べる必要がある。この方法だと国の数が増えると膨大な計算時間が必要 になる。そこで実用的な意味で正解に近い答を高速で得る近似解法が求められていた。 近似解法の基本的な計算手順は六段階(行)で表すことができ、パソコンでもプログラムを組める。 実用分野には、電子回路回線の最短化や作業工程の最適化といった工業面のほか、高収益店舗の最適配置、人員の適正配置、放送周波数の割り当てなど産業上 の合理化、効率化への適用が考えられる。 ◆遺伝的アルゴリズム(GA)(Genetic Algorithm)〔1997 年版 コンピュータ〕 GAはミシガン大学のJ・ホランドによって一九七五年に提案され発展してきた。GAは生物が遺伝子を組み換えながら進化する「進化過程」をモデルとした 確率的アルゴリズムである。つまり、遺伝子に見立てた複数の個体(解の候補)からなる集団を用いて、解の候補を次々に組み換えて最適解を探索する計算手 法である。GAでは、解の候補をビット列に置き換える。ビット列の解釈を与えるのが適応度関数である。その関数は各ビット列に対して、与えられた問題空 間におけるその問題の強さ(適応度)を与える。次にビット列を部分的に入れ替える「交叉」や、確率的に選んだ適当なビットを反転させる「突然変異」の処 理を施す。その中から所定の条件を満たす(適応度の高い)解の候補だけを取捨選択して、同様の操作を繰り返す。環境に適応した生物だけが生き残れるよう に、条件を満たす解の候補が自動的に作成できる。GAは組み合せが多すぎて解く方がまったく分からない問題でも、比較的スムーズに最適解を求めることが できる。GAの応用事例には、並列コンピュータのタスク割当て、パターン認識、通信ネットワークの設計、最良な生産計画を発見するプログラムの作成、最 適な物流計画システムの立案、ロボットの運動制御などがある。 ◆第四世代言語(4GL)(4th Generation Languages)〔1997 年版 コンピュータ〕 第四世代言語の明確な定義はない。通常は、データベースの扱いを前提としたオンライン事務処理用のアプリケーションを対話型で開発するための支援ツール のこと。 習得とシステムの変更が容易で、COBOLやFORTRANなどより生産性が数倍以上向上するといわれている。ほとんどの事務処理業務に適用できるが、 それぞれ得意な適用分野をもっているために、各言語を使いわけることが望ましい。 今後は、4GLはシステム開発全体を支援する一貫支援ツール群の中核になるとみられている。また、オブジェクト指向の概念を取り入れたイベント駆動型4 GLの開発が進められている。現在、知られている4GLには、IBMのCSP、ユニシスのMAPPER、インフォメーション・ビルダースのFOCUSな どがある。 ◆DBMS(データベース管理システム)(Database Management System)〔1997 年版 コンピュータ〕 データベースの維持と運用、すなわち、複数のユーザーが同時に更新や検索をしても効率よく処理しかつデータに矛盾が起こらないように管理するソフトウェ アをDBMSという。また、DBMSをハードウェア化して組み込んだコンピュータをデータベース・マシンという。 DBMSは汎用ソフトウェアとして多くの商用システムが開発されており、これらはデータ構造から、階層型、ネットワーク型、リレーショナル型に分類する ことができる。近年、オブジェクト指向DBMSが登場し始め、複雑な図形データの管理や、音声、イメージ等のマルチメディア・データの統合管理に威力を 発揮している。 ◆標準一般化マーク付け言語(SGML)(Standard Generalized Markup Language)〔1997 年版 コンピュータ〕 SGMLは、卓上出版(DTP)を実現するための文書処理系の言語である。SGMLは、文書中に論理構造を示すマークであるタグ(荷札)および文書構造 の記述方法を指定することができる。SGMLの導入効果は、マルチベンダ環境における文書の交換や電子的処理を可能にすることである。また、情報をプリ ンタ、ディスプレイ、CD‐ROMなどの様々な媒体へ出力したり、情報の取り出しができることである。SGMLは、国際標準化機構(ISO)で標準化さ れており、欧米の公的機関をはじめ、米・国防総省や欧州共同体出版局など公的機関、さらにオックスフォード大学出版局で採用している。 もちろん、米・国防総省のCALSにおいてもこの言語が規格として採用されている。 ◆グループウェア(groupware)〔1997 年版 コンピュータ〕 協調して作業を進めるグループのために特別に設計されたシステムのこと。また、グループによる知的生産活動を支援するコンピュータ・システムともいわれ る。グループウェアの導入目的は、組織やチームなどグループによる仕事の効率化を図るとともに創造的な仕事を支援することである。主な製品には、オンラ イン・マルチメディア会議システム、共同執筆・デザイン・出版システム、フィルタリング機能付き電子メール、ワークフロー管理ソフトウェア、共同意思決 定支援システムなどがある。主な製品には、ロータスの「ノーツ」、マイクロソフトの「Exchage」、ノベルの「Group Wise」、富士通の「Team WARE」、 日立制作所の「Groupmax」、日本電気の「Star Office」などがある。 ◆ワークフロー管理ソフトウェア(work-flow management software)〔1997 年版 コンピュータ〕 伝票処理や文書の回覧のような部門を超えた業務の流れを自動化すること。ワークフロー管理の目的は、顧客満足度を向上させるために、オフィスワークの生 産性を大幅に向上させるとともに煩雑な文書業務などを合理化し、個人の能力をより創造的な作業に振り向けることである。 主な機能には、部門間にまたがる業務を管理し自動化するワークオートメーション機能、業務処理の進捗状況を追跡する機能、マルチプラットフォームのクラ イアント・サーバ環境への対応機能、処理の電子的な認証機能などである。製品には、日本ユニシスの Staffware、IBMの FlowMark、日本ディジタルイク イップメントの FlowWorks などがある。 ◆自然言語処理〔1997 年版 コンピュータ〕 自然言語とは、相互の意思疎通を行う手段として、人類の誕生とともに自然発生的に生まれ、人類の進化とともに発展してきた言語をいう。計算機を用いて自 然言語を処理するのが自然言語処理である。 自然言語処理の意義は、言語理解の過程がどのようになっているかを研究し、使用言語の相違に基づく意味上の差違を解消して、人間とコンピュータとの新し いインタフェースを確立することである。 自然言語処理の応用には、ワードプロセッサの文字作成支援、データベース・システムの自然言語インタフェースによる検索、機械翻訳やエキスパート・シス テムへの質問応答などがある。 ◆機械翻訳(machine translation)〔1997 年版 コンピュータ〕 機械翻訳とは、コンピュータを用いてある言語(原言語)で書かれた表現(原文)から、原文と同じ意味をもつ他の言語(目標言語)の表現(訳文)を生成す る技術である。機械翻訳システムの導入目的は、翻訳のコスト削減やスピードアップを実現することである。 翻訳方式は、次の三つの方式に大別される。 (1)直接変換方式 単語の置き換えや語順変換等により原文から直接訳文に変換する。 (2)トランスファ方式 文を解析し、原言語の中間表現を目標言語の中間表現に変換してから、訳文を生成する。(3)中間(ピボット)言語方式 原 意味解析を徹底的に行い、原文を 原言語に依存しない普遍的意味表現(中間言語)に変換してから、訳文を生成する。 ◆電子化辞書〔1997 年版 コンピュータ〕 日本電子化辞書研究所は、人間の言葉をコンピュータに理解させるための電子化辞書を開発した。開発した電子化辞書は、単語辞書、対訳辞書、概念辞書、共 起辞書の四種類である。電子化辞書は、それぞれの単語がもつ意味を背景にある概念をもとに体系的に整理したものでコンピュータに単語の意味を正しく認識 させることができる。 辞書の構造は日本語でも英語でも共通になり、正確な訳文を作る次世代の機械翻訳や人工知能の研究などに応用できるという。単語辞書は、単語の意味をコン ピュータが理解できるように言葉ではなく、特定の概念に対応づけて整理した。つまり、ある単語の意味に関する概念を単語ごとに整理、概念の番号で表した。 単語の数は、日本語版が二五万語、英語版が一九万語である。概念辞書はコンピュータに単語の意味を理解させるもので、四○万種の概念について、どの概念 とどの概念がどんなつながりにあるかを系統的に整理した。対訳辞書は、異なる国の単語を相互に調べることができる。共起辞書は、言葉の言い回しに関する 情報を提供する。また、コーパス(例文)辞書の開発も進めている。 ◆仮想現実感(VR)/人工現実感(AR)(virtual reality/artificial reality)〔1997 年版 コンピュータ〕 仮想現実感とは、人間の感覚器にコンピュータによる合成情報を直接提示し、人間周囲に人工的な空間を生成することである。これは人工現実感とも称されて いる。人工現実感の研究は現在機械技術研究所や米航空宇宙局で進められている。仮想体験システムは、仮想現実感の技術を応用して、仮想環境を作り出し対 話的に擬似体験を提供するシステムのこと。事例には、住宅展示場で特殊なアイフォンというメガネに写る虚像とデータグローブによりキッチンルームの体験 をしたり、難病児の医療用として病室で多摩動物公園を散策する体験をしたり、教育用としてタービン発電機の生産工場モデルで危険な作業の安全性を学ぶこ となどがある。 ◆コンピュータ・シミュレーション(computer simulation)〔1997 年版 コンピュータ〕 シミュレーションとは、現実の場を使って実験することが困難な場合または不可能な場合に何らかの模型を作って実験を行うものである。また、様々な情報を 収集し、分析し、起こりうる状況を想定して行動の指針にする方法ともいわれている。コンピュータ・シミュレーションは、数学的モデル(模擬表現)を作成 しコンピュータによってシミュレートするもので、確率論的と決定論的シミュレーションがある。 プログラムの作成はかなり複雑で高度な技術が必要であるため、GPSS、DYNAMO、CSMPなどの汎用シミュレーション言語が開発されている。 ◆CASE(Computer Aided Software Engineering)〔1997 年版 コンピュータ〕 CASEは一九八六年頃から使われ始めた言葉で、コンピュータ支援ソフトウェア工学と呼ばれ、その目的はソフトウェアのライフサイクル全般にわたる自動 化である。 第一世代CASEは、ソフトウェア開発において、要求分析から基本設計まで上流工程を支援するアッパーCASEと、詳細設計から原始プログラムや設計書 や操作説明書などのドキュメント(文書)の自動作成まで下流工程を支援するロウアーCASEからなる。 現在は第二世代CASEの統合型CASEに移っている。それは、要求分析から保守に至るソフトウェアのライフサイクル全体にわたって、一元的な開発環境 を取り扱うことができる。 統合型CASEでは、統一されたユーザー・インタフェースによって各工程別ツールにアクセスできること、各工程で作成されたドキュメント、原始プログラ ム、テストデータといったソフトウェア資産が共通データベースに標準化された形式で保管されることが不可欠である。 ◆CALS(Continuous Acquisition and Lifecycle Support)〔1997 年版 コンピュータ〕 CALSとは、調達側、供給側にとって製品やシステムの調達(契約、設計、製造、試験、納入)から運用・維持、廃棄・再利用までの全ライフサイクルにわ たって品質の向上、経費の削減、リードタイムの短縮を目的とする概念/運動のことである。 その実現の方法は、 (1)最新技術情報を使った技術データやビジネスデータのデジタル化とデータベース化、 (2)国際標準の活用(オープンシステム化)、 (3) ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)の実施である。 その意義は、契約内容、設計情報、保守マニュアルなどすべてのデータが電子化されることによって、情報伝達の品質向上と経費の削減が可能となる。また、 情報の共有や再利用が容易となることから産業活動や経済社会システムの効率化が促進され、海外企業との共同開発・部材調達も可能となる。 ▲コンピュータの基礎用語〔1997 年版 コンピュータ〕 システムソフトウェアは、ハードウェアの機能を効果的に活用させるものである。また、人間とコンピュータという二つの異なった性格を有する知的主体を有 機的に結合し、最高の性能を発揮させる必要がある。そのためには、ソフトウェア体系やヒューマンインタフェースなどの基礎知識をよく理解させることであ る。 ◆アーキテクチャ(architecture)〔1997 年版 コンピュータ〕 ハードウェア・ソフトウェアを含めたコンピュータシステム全体の設計思想、つまり構成上の考え方や構成方法のことをアーキテクチャという。これによりコ ンピュータシステムの使い勝手、処理速度などの基本的な性格が決まる。具体的には、ハードウェアでは、処理単位である語長、記憶装置やレジスタのアドレ ス方式、バスの構成方法、入出力チャネルの構造、演算制御や割り込みの方法などがある。 また、ソフトウェアでは、オペレーティング・システム(OS)の機能と構成、使用言語、プログラム間のインタフェースなどである。 ◆RISC(縮小命令セットコンピュータ)/CISC(複合命令セットコンピュータ)(Reduced Instruction Set Computer/Complex Instruction Set Computer)〔1997 年版 コンピュータ〕 RISCは、CPU(中央処理装置)内の命令語のアーキテクチャ(設計思想)に関する言葉である。 従来からのCISCは、複雑な命令語体系をもち、同じ処理を行うプログラムを少ない命令数で実現するよう設計されている。そのため計算速度やコストが犠 牲にされていた。しかし、RISCは単純で限定された数の命令語体系をとり、演算方式を単純化してスピードアップとコスト削減を図った。 現在はRISCチップの低価格化が進み、ビジネスWSの市場が拡大されている。また、無停止型のOLTPマシンにも搭載されており、さらに六四ビットの RISCを搭載し、処理能力が二○○MIPSもあるWSが発売され、いよいよ六四ビットの時代に突入する。 ◆TRON(The Realtime Operating system Nucleus)〔1997 年版 コンピュータ〕 TRONとは数千、数万のコンピュータを接続し、さまざまな相互関係をもたせながらそれぞれの目的を同時並列的に遂行する超機能分散システムを実現させ るOS(基本ソフト)のこと。TRONプロジェクトは、超機能分散システムの構築を掲げて一九八四年から開始された。 TRON基礎プロジェクトとしてBTRON(ヒューマン・インタフェースをつかさどるOS)、ITRON(制御用リアルタイムOS)、CTRON(情報通 信ネットワーク向きOSインタフェース)、MTRON(分散型マルチ・マイクロプロセッサ用OS)、TRONCHIP(三二ビットVLSIマイクロプロセ ッサ)がある。TRON応用プロジェクトとして電脳ビル、電脳住宅、電脳都市、電脳自動車網、TRONマルチメディア通信などがある。また、NTTは、 CTRONをISDN機器のOSの統一規格にすることを決定している。サン・マイクロシステムズはプリンタや各種周辺機器をリアルタイムで制御するOS としてITRONを採用した。 ◆プラットフォーム(platform)〔1997 年版 コンピュータ〕 プラットフォームとは、コンピュータの基盤のことであり、ハードウェアとソフトウェアとがある。ハードウェアでは、かつては汎用コンピュータが唯一のプ ラットフォームであったが、八○年代以降はパソコンが普及し、そしてワークステーションが台頭して、プラットフォームも多様化の時代となった。ソフトウ ェア・プラットフォームは、基本ソフトウェア(OS)のことである。IBM社のOS/2Warp、マイクロソフト社の Windows95、アップル社の MacOS な どが次世代ソフトウェア・プラットフォームの主導権を競っている。 ◆システムソフトウェア(system software)〔1997 年版 コンピュータ〕 ハードウェアの機能を効率的に活用させるとともに、コンピュータの利用を容易にさせるための機能をもつソフトウェアのこと。基本ソフトウェアとミドルウ ェアから構成される。 ◆基本ソフトウェア(operating system)〔1997 年版 コンピュータ〕 広義のOS。基本ソフトウェアは、制御プログラム(狭義のOS)、汎用言語プロセッサ、サービスプログラムから構成される。 (1)制御システムは、コンピュータに付属する各種資源(コンピュータ本体、ディスプレイ、プリンタ、記憶装置など)の資源を効率的に管理し、ユーザー プログラムからの要求に対して資源を割り当てたり、各プログラムの実行をスケジュールし、監視する。 IBMのOS/2Warp は、主記憶容量が最小四MBでも動作し、全体的な性能が向上している。特に、動画・静止画・音声を扱うマルチメディア機能が充実 している。さらに、ワープロやチャートなどの統合ソフト、テレビ会議、インターネットへの接続、ファクシミリ通信ソフト、パソコン通信ソフトなどの通信 機能と各種の応用ソフトが添付されている。 マイクロソフトのウインドウズ 95 は、シェル(ユーザーとコンピュータの仲立ちをするソフト)が本格的に改良され、操作性が向上している。また、ディレ クトリの構造をすぐに見られる「explorer」というユーティリティや三次元グラフィックス「Open GL」が搭載されている。さらに、ネットワーク機能とし て、パソコン通信サービスのサポート、電子メールの送受信、FAXの送受信、インターネットへのアクセス、ダイアラー、電話回線やケーブル接続による他 のコンピュータとの接続などがある。 (2)汎用言語プロセッサは、各種言語のコンパイル、アセンブル、リンケージなどの役割を行う。 (3)サービスプログラムは、ダンプルーチン、プリントルーチン、エディタなどのサービスを提供する。 ◆ミドルウェア(midleware)〔1997 年版 コンピュータ〕 コンピュータソフトウェアのうち、基本ソフトウェアと応用ソフトウェアとの中間に位置しており、多様な利用分野に共通する基本的機能・サービスを実現す るソフトウェアのこと。 主なプロダクトとして、DBMS、通信管理システム、ソフトウェア開発支援システム(CASEを含む)、第四世代言語、EUCツール、GUI制御、ワー ドプロセッサ、グラフィック処理、運用管理ツールなどがある。ミドルウェアの役割は、一般に、ユーザーがその機能を利用するためのプログラミング・イン タフェースをもっていることから、ユーザーがアプリケーションに要求する機能をすべて独自に開発するのではなく、目的に合ったミドルウェアを選択させ、 そのインタフェースを利用して高度でオープンな情報システムを素早く開発させることである。 ◆UNIX〔1997 年版 コンピュータ〕 一九六九年にアメリカAT&Tベル研究所がPDP7上に開発した時分割方式のマルチタスク・マルチユーザーのオペレーティングシステム(OS)である。 七一年にPDP11 上に移植する際にC言語で書き直され、移植性の高いオープンシステムのOSとなった。七五年頃からソースプログラムが大学、研究所、企 業等に配布されるようになって急速に普及・発展した。UNIXの優れている点は、(1)高品位文書の作成が容易、(2)文書検索が容易、(3)オープンシ ステム、(4)優れた操作性などである。 ◆コンパイラ(compiler)〔1997 年版 コンピュータ〕 FORTRAN、C言語、COBOL、PL/1などの高級言語で書かれたプログラムを機械語プログラムに翻訳するプログラムまたは、そのプログラム言語 の総称。一般にコンピュータ自身が唯一理解、実行できる言語を機械語とよぶ。この機械語を人間が直接理解し、使用することは、不可能に近い。そこでプロ グラムを人間が使用する口語に近い形で記述し、その言語の機械語への翻訳をコンパイラが行う形式をとるほうがプログラムの作成、保守には有利である。ま た、機械語はコンピュータのハードウェアに密接に関連するため使用するコンピュータによってまちまちである。そこで各コンピュータがこのコンパイラを用 意することによって、人間が記述するプログラムをコンピュータに左右されにくいものにした。 ◆インタプリタ(interpreter)〔1997 年版 コンピュータ〕 高級言語で書かれたソースプログラムを処理の実行にそって一文ずつ読み込み機械が理解できる形に翻訳しながら実行するプログラムまたは、そのプログラム 言語の総称。 コンピュータの歴史からみると、インタプリタの存在の前に高級言語としてはコンパイラが存在した。パソコン用のインタプリタとして有名なBASICは、 元来、汎用機のコンパイラ、FORTRANの入門用として発明された経緯がある。 インタプリタは、全ての処理の実行に先だって機械語への翻訳を一括して行うコンパイラに比べて処理速度の遅さなどの問題があるとはいえ、任意の文の実行 がその場ででき、結果の確認が容易であるためプログラムの入門、デバックに幅広く使用される。 ◆オープン・システム(open system)〔1997 年版 コンピュータ〕 一般には一つのメーカーやベンダーに依存しない、標準化または開示されたインタフェースをもつコンピュータ・システムのこと。オープン・システム化の意 義として、情報システムの相互運用性の確保を図り、ユーザーの機器選択の幅を広げるとともに不必要な重複投資を回避すること、情報通信環境をつくり、業 界内や業界間の情報流通の促進を図ること、マルチベンダー環境を生かして継承情報資源の有効活用を図ること、ソフトウェア・パッケージの市場創出により ソフトウェア開発費を軽減することがあげられる。オープン・システムのOSには九四年の半ばまでに世界統一規格が決まったUNIXやIBMのOS/2 Warp があり、オープン・プロトコル・アーキテクチャには、標準OSI(開放型システム間相互接続)がある。また、ネットワークOSも開発されており、 代表的なものに米ノベル社の NetWare、米マイクロソフト社のLANマネジャや WindowsNT などがある。 ◆分散統合処理〔1997 年版 コンピュータ〕 分散処理とは、一台のコンピュータで行っていた処理を処理レベルにあわせて何台かのコンピュータを使用し、段階的または並列的に行うシステムの総称のこ と。分散統合処理とは、ホストコンピュータの機能を分散することおよび分散から統合することである。ユーザー部門に分散配置されたワークステーションや パソコンの高度化によってデータやプログラムの重複管理、データの全社的な共有化ニーズが増加し、処理機能が限界にきている。これらに対処するため、分 散統合処理が必要になってきた。具体的なシステムとしては、クライアント・サーバシステムやパソコンLANがある。 ◆マルチタスク(multitasking)〔1997 年版 コンピュータ〕 コンピュータ処理において、見かけ上、同時に複数の仕事(タスク)を処理できるようにした処理方式をいう。同種の用語にマルチジョブがある。また、同時 に一つの仕事しかできないものをシングルタスクという。マルチタスクは一般に仮想記憶を前提としており、大型コンピュータやミニコンではCPU(中央処 理装置)の能力が高くマルチタスク方式が当然となっているが一九八七(昭和六二)年頃からパソコンにおいてもマルチタスク方式が採用され始めた。 ◆トランザクション(transaction)〔1997 年版 コンピュータ〕 遠隔地の端末から利用者がコンピュータに処理を要求する単位をトランザクションといい、トランザクションをリアルタイムで逐一処理していくコンピュータ の処理形態をトランザクション処理という。 航空機や鉄道の座席予約や預貯金システムなどが代表的なもので、リアルタイム性、障害時の復旧、排他制御、高い処理効率などが要求される処理である。 ◆グラフィカル・ユーザー・インタフェース(GUI)〔1997 年版 コンピュータ〕 GUIは、ユーザーと計算機システムの節点となる技術で、視覚に訴えたグラフィック表示(アイコン)で、ユーザーにとって簡潔で理解しやすい環境を提供 するものである。GUIの意義としては、ユーザーと計算機の間に発生する複雑さを抑え、ユーザーの生産性、満足度を最大化すること、ユーザーがアクセス する範囲を拡大し、かつて可能でなかったことを可能にすること、ウインドウ画面におけるグラフィック情報の直感的なわかりやすさと操作性を人間工学の観 点から研究することである。GUIの研究は米ゼロックス社を中心に一九七○年代から始まったが、その商品化ではアップル社がパソコン上で実現させた。G UI構築ツールには、MS‐DOSでは MS-Windows、OS/2では Presentation Manager、UNIXでは Motif や Open Look などがある。 ◆マルチウィンドウ(multi-window)〔1997 年版 コンピュータ〕 マルチウィンドウは、コンピュータのディスプレイの画面をウィンドウ(窓)とよばれる複数の領域に分割して、同時に複数の処理の状況を見られるようにす るものである。マンマシン・インタフェース向上の要求に伴い、一九八二年頃から一般にパソコンやワークステーション(WS)への適用が始まった。マルチ ウィンドウ・システムにはマルチタスクをサポートしているか否か、それぞれのウィンドウで動いているタスク間でデータ交換ができるか否かなどの違いがあ る。 ◆仮想記憶(virtual memory)〔1997 年版 コンピュータ〕 一般に現在のコンピュータは、主記憶装置に展開されたプログラムの実行しかできないため、主記憶の容量を超えた大規模なプログラムはそのままでは実行で きない。 また主記憶を構成する素子はその速度要求等との関連から非常に高価なものが使用され一概にこの部分を大容量のものにするわけにもいかない。そこで考えだ されたのが比較的安価な補助記憶装置を利用する仮想記憶である。 仮想記憶は、プログラムの実行に先だってその処理を行うために必要な部分のみを主記憶に読み込み、不必要になった部分を主記憶から排除するという処理を 繰り返すことで、あたかも補助記憶装置も主記憶の一部分であるかのように利用するのである。 ◆MIPS(Million Instructions Per Second)〔1997 年版 コンピュータ〕 コンピュータが単位時間に実行できる命令の数を表す単位。一MIPS(ミップス)とは一秒間に一○○万回の命令が実行できることをいう。 現在の超大型コンピュータは、およそ一○から一○○MIPS程度の性能である。関連用語としては、浮動小数点演算の速度の単位を表すFLOPS(フロッ プス)、論理演算の単位を表すLIPS(リップス)などがある。 ●最新キーワード〔1997 年版 コンピュータ〕 ●イントラネット(intranet)〔1997 年版 コンピュータ〕 WWWサーバやウェブ・ブラウザなどのインターネット技術を活用したオープンな企業内コンピュータネットワーク、つまり企業内情報システムのこと。 イントラネットは、企業内ネットワーク(LAN)と社内WWWサーバを中核にして構築し、クライアントは同一のブラウザ(検索閲覧ソフトウェア)で利用 する。そのため、これまでの情報システムに比べ、初期導入費用が安く、構築も段階的に簡単にできる。それに情報の発信や閲覧が容易にできるという特徴が ある。 イントラネット構築のポイントとしては、次の二つがあげられている。(1)インターネットとの接続、LAN/WANの構築ネットワークコンピュータ体制 の確立などの通信インフラの整備、(2)WWWブラウザやグループウェアなどネットワーク統合ソフトウェアを上手に使い分けること。 導入目的は、エンドユーザの使い勝手を向上させ、世界共通のインフラの上で、社内と社外の情報資源のシームレスな活用を実現すること、およびイントラネ ットが企業の内側だけに閉ざされることなく、インターネットの膨大な知的情報資源と、コストゼロの公共的な通信インフラを利用しながら、全社的な「情報 の共有」によって、経営資源のオープンな活用を図ることである。 ●電子商取引(EC)(Erectronic Commerce)〔1997 年版 コンピュータ〕 商取引のすべての業務プロセスの情報交換をオープンネットワーク上で電子化して行うことである。 通商産業省では、ECの分類を三つに大別している。 (1)企業‐消費者ネットワーク 企業‐消費者間をインターネットを介して電子的に商取引を行う。 事例として、バーチャル・モール(電子店舗)を開設して、消費者向けに商品販売をしたり、航空券、鉄道、ホテルの予約サービスを行い、同時に決済を行う いわゆるオンラインショッピングである。 (2)不特定企業間の不特定多数ネットワーク EDI(電子データ交換)を利用して電子的に企業間のオープンな商取引を行う。EDIとは、異なる組織間 で取引のためのメッセージを通信回線を介して標準的な規約を用いてコンピュータ間で交換することである。 (3)企業間の特定ネットワーク CALSを利用して、電子的に特定企業間の商取引を行う。CALSとは、生産・調達・運用支援システムのことで、コン ピュータを高度に使った情報の共有環境を実現することである。 企業‐消費者間ECの主な課題として、技術的課題と相互運用性の確保の課題がある。具体的には、次の課題があげられている。 (1)商品属性情報の標準化、 (2)複合コンテンツ対応(エージェント的機能)技術、 (3)コンテンンツプロバイダー/バーチャルモールのビジネスプロセスの標準化、 (4)各種暗号化 技術、(5)セキュリティ・プロトコル技術、(6)バーチャルモール構築技術、(7)本人認証技術、(8)ICカード関連技術、(9)認証局接続技術。 ●リアルワールド・コンピューティング計画(real world computing program)〔1997 年版 コンピュータ〕 略称、RWC計画。通産省は一九九三年度から「より人間に近い情報処理」の実現をめざして、RWC計画(通称四次元コンピュータ計画)を本格的に開始し た。二一世紀の高度情報化社会において必要とされる先進的で柔軟な情報基盤技術の研究開発を目的とする。期待される「柔らかな情報処理機能」としては、 「メタ確率空間でのベイス推定」の理論基盤の上に、(1)不完全な情報や誤りを含む複雑に関連し合った情報を総合し、有意な時間内に適当な判断や問題解 決を行う機能、 (2)オープンなシステムの中で必要な情報や知識を能動的に獲得し、具体例から一般的な知識を帰納的かつ実時間的に修得する機能、 (3)多 様な利用者や使用環境の変化に対してシステムが自らを適応させ、有効な時間内に変容する機能などである。つぎに「超並列超分散処理」を実現するためには、 (1)汎用超並列システム、 (2)ニューラルシステム、 (3)統合システムの抽象化と設計などの新情報処理技術のシステム基盤を確立することである。また、 光技術の役割は、情報媒体としての特徴を生かし、(1)並列ディジタル光コンピュータ、(2)光ニューロコンピュータ、(3)光インターコネクションを提 供することである。 ●BPRを支える情報技術(information technology to support business process reengineering)〔1997 年版 コンピュータ〕 M・ハマー&J・チャンピーによれば、BPR(業務革新)を支える情報技術の役割は、従来のプロセスを改善することではなく、古いルールを破壊し、まっ たく新しい業務プロセスを創造することであるという。一方、T・ダベンポートによれば、情報技術はプロセスにおける活動を変革させるイネーブラー(促進 剤)の役割を果たすという。 BPRを支える情報技術には、次のものが挙げられる。 (1)グループウェア 共同作業を支援する、(2)オブジェクト指向 る、 (3)ワークフロー管理ソフトウェア サーバ 共通処理をサーバ側に置き、クライアントに独自性をもたせることによって、標準化から解放され、働く人々の能力にあった活動形態が取れる、 (5) データベース 術 実世界のシミュレーションが可能になり、それに基づき適切な行動がとれるようにな 業務の流れを自動化することによって、業務プロセスの無駄を排除し、確実な連係を促進する、 (4)クライアント・ 複数の業務プロセスが情報を共有して使用できる、 (6)エキスパートシステム ゼネラリストでも専門的な仕事を可能にする、 (7)EUC技 現場の情報を多様な視点で積極的に活用できることから、ユーザーが自律的に自らの裁量で行動を進めることができる。 ●ハイパーメディア(hyper media)〔1997 年版 コンピュータ〕 ハイパーメディアとは、テキスト、音声、図形、アニメーションやビデオの画像など複数の情報を意味上まとまりのあるノードと呼ばれる小部分に分割し、ノ ード間をリンクにより関係づけたネットワーク(網の目)構造のことである。このリンク機能を使用して情報を有機的につなぎ、芋づる(ナビゲーション)式 に関連する情報を対話的に引き出すことができる。ハイパーメディアの意義は、人間の思考を豊かな表現力で容易にかつ自由に関係づけて、思考支援やコミュ ニケーションの円滑化を図ることである。 ハイパーメディア構築ツールの特徴は、 (1)具体的なデータ値に対して次々と直接操作を行うナビゲーションによる情報検索機能、 (2)データと手続きの一 体化によって、データ自身に関連情報を引き出す操作が付与されることである。 この応用としては、電子出版、文書化を容易にする知的ファイリング・システム、企業電子編集印刷システム、思考支援システム、画像や音声の解説付き教育 システム、ビジュアルなガイドシステムなどがあげられる。 ●クライアント・サーバ・システム(CSS)(cliant server system)〔1997 年版 コンピュータ〕 クライアント(顧客、具体的にはユーザーのパソコン)からLAN(構内情報通信網)上の異なる複数のパソコン、ワークステーション、メインフレームなど の情報資源(サーバ)を連携させ、分散処理するシステムのことである。資源を提供する側をサーバ、サーバに処理を要求する側をクライアントという。ただ し、サーバとは、LANにおいてファイル、プリンタ、通信などの特別な機能を専門的に行うプロセッサのことである。CSSは次の四つのシステム開発・運 用環境を提供する。 (1)EUC環境 クライアントに対してデータファイル、プリンタ、プログラムなどを共用する連携機能を提供する。 (2)GUI操作環境 エンドユーザーが可視的にわかりやすく簡単に操作できる環境を提供する。(3)相互運用支援環境/オープン環境 コンピュータとクライアントとを接続しかつオープン使用を可能とする環境を提供する。(4)システムインテグレーション支援環境 異機種のホスト CASEなどの情報シ ステム構築の支援環境を提供する。 ●エンドユーザー・コンピューティング(EUC)〔1997 年版 コンピュータ〕 EUCとは、エンドユーザー(利用部門)が自部門の情報システムに対して設計・構築・運用等のすべてを主体的に行うこと。 その思想は、利用部門の不満が始まりという。つまり、情報システム部門は利用部門の情報化要求に対して、硬直肥大化した情報システムの保守や運用で手一 杯のため、サービスの低下やシステムのバックログ(開発待ち)の増加という事態が発生した。このような状況に対して当然利用部門は自分達を主体に意識、 やり方、体制を変えようとする動きが現れた。また、この時期にEUCを支援する技術として、第四世代言語、GUI、表計算ソフトウェア、統合型CASE、 オープン・システム化技術等が登場した。 実現化には、 (1)操作が容易で利用部門が直接使用できる第四世代言語の利用、 (2)ネットワーク化により、利用部門の共同作業が可能となったパソコンL AN(構内情報通信網)の利用、(3)利用部門が計画、分析、設計作業に参加すれば、情報システムを自動作成できる統合型CASEの利用、という三つの 形態がある。 ●オブジェクト指向概念(object-oriented concept)〔1997 年版 コンピュータ〕 データと手続きを一体化(カプセル化)したオブジェクトという自律的機能モジュールが互いにメッセージをやり取りしながら協調して問題を解決するという 考え方である。個々のオブジェクトは、あるオブジェクトからメッセージを受けると、手続きが起動され、自分自身に記述されている手続きを実行する。 ただし、データに対しては、情報を隠ぺいしているため外部から直接アクセスできない。したがって、オブジェクト同士の独立性は非常に高いため、プログラ ムが単純化され、生産性と信頼性の高いシステムを構築できる。 また、データの値が未定の場合オブジェクトをクラスとして定義し、機能が同じでデータの値だけが異なる複数個のオブジェクト(インスタント)を効率よく 生成できる。さらに、上位クラスのもつ手続きを下位クラスの手続きとして継承できるような階層構造により、少しずつ機能の異なるオブジェクトを効率よく 作成できる。この概念に基づいて Smalltalk 80 や Lisp などのオブジェクト指向プログラミング言語やオブジェクト指向データベース・システムなどが 開発されている。 ●エージェント指向概念(agent-oriented concept)〔1997 年版 コンピュータ〕 エージェントとは、「そのものの基本意思決定原理に基づき自己の信念や興味に応じて行動するモジュールのこと」である。つまり、エージェントは自分の行 動を自分で決定し、自発的に活動する。理解を助けるために、エージェントシステムが組み込まれネットワーク管理システムを例示する。このシステムを作動 すると、端末画面にロボットの姿をしたエージェント(代理人)が現れ、 「私はネットワークを管理するエージェントです」と自己紹介する。ユーザーが、 「今、 ネットワークがダウンしているので、故障の原因を調査して報告して欲しい」と依頼する。エージェントは、ネットワーク管理システムに入り込み、故障箇所 を調査し、故障の原因と修復手段を報告書にまとめて提出する。ユーザーが細かな指示を出さなくても、意思を伝えるだけで作業をしてくれるシステムで、ま るで人間相手にしているように使えるのが特徴である。エージェント指向は、分散人工知能技術の応用として発展してきている。エージェント開発用のプログ ラミング言語としては、ゼネラル・マジックの「テレスクリプト」、富士通の「April」などがある。
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