外国語授業での iPhone と iPad の利用

情報教育フロンティア
外国語授業での iPhone と iPad の利用
田川 光照 (愛知大学経営学部)
要旨
スマートフォンやタブレット端末は,ノートパソコン以上の携帯性を備えると同時に,と
くにコンテンツ閲覧についてはそれを超える利便性を備えている。筆者は,iPhone と iPad を
Bluetooth 対応のスピーカーおよびプロジェクターと組み合わせて外国語(フランス語および韓
国・朝鮮語)の授業を行なっている。モバイル端末を使うことで,機動的な授業を行なうこと
ができ,今後,語学用の教室の機器が整備される場合には,Wi-Fi や Bluetooth による無線化に
対応させることを提案する。
キーワード:i Phone,iPad,外国語授業,ポッドキャスト,音声教材,視聴覚教材,再生機器
の変遷と多様化
1.はじめに
いて,iPhone,iPad,プロジェクター,
Bluetooth 対応のモバイルスピーカーを
iPhone を は じ め と す る ス マ ー ト フ ォ
組 み 合 わ せ て 使 っ て い る の で あ る。 以
ン お よ び iPad を は じ め と す る タ ブ レ ッ
下,それらをどのように使っているかを
ト 端 末 が 急 速 に 普 及 し て い る。 そ れ ら
紹介したい。一般教室(LL 教室以外の教
は,超小型携帯パソコンと言ってよい機
室)での外国語授業におけるモバイル端
能を備えており,長文の文章を書くなど
末の利用法や今後の教室設備について参
のコンテンツ作成には適さない面がある
考になれば幸いである。
ものの,少なくともコンテンツの閲覧に
おいては,パソコンをはるかに凌駕する
2.音声は iPhone で
便利な情報端末であると言える。
筆 者 に と っ て,iPhone と iPad は な く
2001 年 に Apple 社 か ら 初 代 iPod が 発
て は な ら な い 道 具 と な っ て い る。 私 的
売された時,すぐに購入した。当初はそ
な 利 用 や 研 究 上 の 利 用 だ け で な く, そ
れを授業で使うことは考えていなかった
れら端末を授業でも使っている。現在,
のであるが,間もなく,フランス語の教
フ ラ ン ス 語 お よ び 韓 国・ 朝 鮮 語 の 授 業
科書に付属している CD 音源を iPod に入
を 担 当 し て い る が, そ れ ら の 授 業 に お
れ,教卓の外部入力端子に接続して,教
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室のスピーカーから音を流すという使い
方をはじめた。また,ディクテーション
は,CD 音源をパソコンで編集したもの
を iPod に入れて行なうようにした。
当時,授業で音声教材を使う場合,授
業用に教科書会社が用意しているカセッ
トテープを使うのが普通であった(現在
で も 用 意 さ れ て い る )。CD は 特 定 の ト
ラックの頭出しは簡単にできるものの,
そのトラックの中の一部だけを再生した
い場合は不便で,その点,カセットテー
プのほうが融通がきき,使いやすいので
あ る。 た だ し, カ セ ッ ト テ ー プ の 場 合
は,頭出しの点で CD よりも使い勝手が
劣る。それに対して,iPod はそれら両者
の長所を合わせもっている。
そして,2008 年に iPhone が登場し,そ
写真 1 iPhone のスクリーンショット
れを購入してからは iPod から iPhone に
切り替えた(本稿執筆時点では iPhone4
あるから,十分な設備が備えられていな
を使用)。その使い方は iPod の場合と同
いことは分かっていた。しかし,少なく
様 で あ る。 再 生 し た い ト ラ ッ ク を 選 択
ともスピーカーと外部入力端子くらいは
し,そのトラックの一部を再生したい場
備えられているだろうと勝手に思ってい
合には,画面上部のスライダーを指で動
たのである。それさえあれば,音声につ
かすことで再生位置を決めることができ
いてはどのような再生機器にも対応でき
る(写真 1 参照)。なお,トラックの選択
る。それさえもないと分かった時,30 年
は CD プレーヤーよりもさらに簡単であ
以上前の教室を思い出した。
る。
そ の 対 応 策 と し て 考 え た の が,
今年(2012 年)の 3 月下旬,新名古屋
Bluetooth 対応のモバイルスピーカーを
校舎の語学用教室を見に来て愕然とし
使ったらどうかということであった。昨
た。校舎建設工事が 2 期に分けられたた
年 度 ま で は, 外 部 入 力 端 子 に 接 続 し て
めに,教室不足を補う必要から語学用教
使っていたため,再生する時には,教卓
室は 100 人教室を二つに分割したもので
にへばりついていなければならなかっ
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た。iPhone の Bluetooth を ON に し て,
るため,音量に不安があったが,実際に
そのモバイルスピーカーから音を出すよ
使ってみると,語学用教室の広さでは問
うにすれば,教室内のどこからでも,学
題なかった。
生 の 机 の 間 を 動 き 回 り な が ら で も, ポ
そ の よ う な 訳 で, 今 年 の 4 月 か ら は
ケ ッ ト か ら iPhone を 取 り 出 し て 再 生 で
音 声 に つ い て は iPhone と Bluetooth ス
きると考えたのである。
ピーカーを組み合わせて使っている。教
使いやすそうなものを探した結果,サ
室のどこにいても再生できるのは,実に
ン ワ サ プ ラ イ の Bluetooth ス ピ ー カ ー
便利である。なお,iPhone は携帯電話で
(品番:400-SP021)を購入した。これを
もあるから,授業中に電話がかかってき
選んだ理由は,安価(6000 円弱)である
ては困る。そこで,「飛行機モード」を
こと,充電式バッテリーを内蔵している
ON にして電話をシャットアウトしたう
こと,幅 163 ミリ,直径 42 ミリの円筒形
え で,Bluetooth を ON に し て 使 っ て い
で重さは 170 グラムと小型軽量であるこ
る。学生には授業中に携帯電話やスマー
と,そして円筒形であるため,教室のホ
トフォンを操作することを禁じている手
ワイトボードのマーカー受けにすっぽり
前,最初の授業でそのことを説明するよ
と置くことができることにある(写真 2
うにした。
参照)。最大出力が 4W(2W+2W)であ
写真 2 ホワイトボードのマーカー受けに置いたモバイルスピーカー
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3. 文 法 等 の 説 明 は iPad と プ ロ ジ ェ ク
ターで
たのである。
初めは,iPad2 のみをプロジェクター
と組み合せて使うことを考えていた。し
iPad と プ ロ ジ ェ ク タ ー を 組 み 合 せ て
かし,プレゼン用アプリや手書きアプリ
授業を行なうことは,教室の仕様に関係
な ど, 授 業 で 使 え そ う な ア プ リ を い く
なく,昨年(2011 年)の年末頃から考えて
つもダウンロードして使い勝手を試し
い た。 そ れ ま で 初 代 の iPad を 持 っ て い
ているうちに,iPad2 とプロジェクター
たが,iPad2 を購入したことがその契機
の 組 み 合 せ に 初 代 iPad も 加 え て 使 う こ
である。なぜ,それが契機になったかと
と に し た。 ア プ リ の 中 に, Wi-Fi ま た は
言えば,iPad2 がミラーリング機能を備
Bluetooth を使って,複数の端末間で同
えているからである。プロジェクターに
期を行なうプレゼン用あるいは電子会議
接続すれば iPad2 の画面をそのまま投写
用アプリがあることに気づいたからであ
できるのであるから,授業の様々な場面
る。その種のものをいくつか試してみた
で臨機応変に利用できるであろうと思っ
結果,EBooklet2Pro 1)というアプリを使
写真 3 左 下の教卓の上にあるのがプロジェクターで,この写真では分からないが,そ
の向こう側にプロジェクターに接続した iPad2 が置かれている。手にしてい
るのが初代 iPad で,胸のポケットに iPhone が入っている。投写面の書き込み
は,手にしている iPad 上でスタイラスペンを用いて書いたもの。
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うことにした。
る。また,専用スクリーンではなくホワ
このアプリをそれぞれの端末にインス
イトボードに投写することで,その投写
トールし,それぞれで同じ PDF ファイル
面上に直接マーカーで書き込むこともで
を開けば,一つの端末での操作,すなわ
き,また,投写面の両サイドを有効に使
ち,PDF ファイルのページ繰り,拡大,
うこともできる。
手書きによる書き込みなどの操作が他の
ところで,iPad2 をプロジェクターに
端末に直ちに反映されるのである。そこ
繋 ぐ こ と で,EBooklet2Pro 以 外 の ア プ
で,ミラーリング機能を持つ iPad2 をプ
リを使って補助教材を提示したい場合,
ロジェクターに繋いで,ホワイトボード
それをミラーリングで投写することがで
に投写し,操作は Bluetooth を使って初
きるという利点がある。たとえば,フラ
代 iPad 側 で 行 な う こ と に し た。 そ う す
ンス語の教科書にエッフェル塔やルーヴ
ることで,PDF ファイルの操作が教室内
ル美術館が出てきた時には,iPad2(学
のどこからでも行なえ,プロジェクター
内 無 線 LAN に 登 録 し て あ る ) で 地 図 ア
に 繋 い だ iPad2 の 傍 に い る 必 要 が な い。
プリを使ってそれらの位置を示すととも
教室の中を動きながらでも操作でき,必
に,インストールしてあるパリ写真集の
要 な 時 に は ポ ケ ッ ト か ら iPhone を 取 り
2)
アプリ(Fotopedia )でそれらの写真を
出して音声を流すこともできるという,
見せた。また,別の場面では YouTube の
機動的な授業ができる(写真 3 参照)。
動画を見せたこともある。これらの場合
で は, 具 体 的 に Ebooklet2Pro を ど の
は,初代 iPad を使って教室のどこからで
ように使っているかを,簡単に紹介した
も遠隔操作できるという訳にはいかない
い。パソコンとドキュメントスキャナー
が,たまにしかやらないことなので不便
を使って教科書を PDF ファイル化し,初
はない。
代 iPad と iPad2 の EBooklet2Pro に 取 り
な お, 教 室 の ど こ か ら で も 操 作 で き
込む。そして,教科書の例文などについ
る よ う に す る た め, 上 記 の ご と く 2 台
て の 説 明 を 初 代 iPad 上 で 手 書 き し な が
の iPad を 使 っ て い る が, 実 は, 同 様 の
ら行なうというのが,主たる使い方であ
ことを 1 台だけで行なうことのできるシ
る。iPad2 と プ ロ ジ ェ ク タ ー を 通 し て,
ン プ ル な や り 方 が あ る。 筆 者 が 使 っ て
その画面がホワイトボードに映し出され
い る, 本 学 名 古 屋 校 舎 講 師 控 室 に 備 え
るため,学生にとってどこの説明をして
ら れ て い る プ ロ ジ ェ ク タ ー は, エ プ ソ
いるのか分かりやすくなるとともに,説
ン の EB-1760W で あ る。 こ の プ ロ ジ ェ
明のために教科書の例文をホワイトボー
ク タ ー は, オ プ シ ョ ン で 無 線 LAN に 対
ドに書き写す必要がないという利点があ
応 し て お り, 無 線 LAN ユ ニ ッ ト を 装
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着 し, エ プ ソ ン が 無 料 で 配 布 し て い る
プンリールの録音テープから,1970 年代
iProjection 3) を端末にインストールすれ
に は カ セ ッ ト テ ー プ に 移 行 し,1990 年
ば,PDF ファイルだけでなく,Word 文
代になると CD が主流になった。カセッ
書や,Web ページなども Wi-Fi を使って
トテープ時代は,授業用のカセットが教
無線でプロジェクターに送ることがで
科書会社によって無料で用意されていた
きる。しかも,EBookltet2Pro と同様の
が,学生に対しては別売で,値段も教科
マーカー機能を備えており,端末上での
書 本 体 よ り 高 い く ら い で あ っ た。 し た
書き込みも投写される仕様になってい
が っ て, 学 生 が カ セ ッ ト を 購 入 す る こ
る。EBookltet2Pro の 場 合 は PDF フ ァ
と は ほ と ん ど な か っ た は ず で あ る。CD
イ ル し か 扱 え な い の に 比 べ て, 扱 え る
への移行によって,教科書に CD が付属
ファイルの種類が多いことも魅力であ
4)
するようになったが ,授業用の無料カ
る。そこで,その無線 LAN ユニットを購
セットテープは,現在まで存続し続けて
入して欲しいという要望を教務課に出し
いる。
たのであるが,この原稿を書いている時
最近になると,まだ CD が主流の座を
点ではまだ未入荷で,試すことができず
占めつつも,ポッドキャストなどによる
にいる。
配信も行なわれるようになってきてい
最 後 に,DVD を 見 せ る 場 合 に は, ど
る。音楽ソフトが CD からネット配信に
うしても DVD プレーヤーなり,DVD を
移行してきていることからも,遠くない
再生できるノートパソコンなりが必要に
将来,語学用についても CD による音源
な る。 た だ, 研 究 室 の パ ソ コ ン に DVD
配布は脇役になると思われる。再生機器
を セ ッ ト し て, ス ト リ ー ミ ン グ で 流 し
を 見 て も, 一 般 的 に は MP3 プ レ ー ヤ ー
て iPhone なり iPad で受信するというこ
やスマートフォンが主流になっていると
とも可能ではある。とはいえ,著作権保
言ってよいであろう。
護がなされた DVD の場合はまともにス
また,視聴覚教材について見れば,ス
トリーミングされない。できたとしても
ライド写真と録音テープの組み合せから
違法になる可能性があるうえ面倒でもあ
1970 年 代 末 頃 に な る と ビ デ オ テ ー プ へ
り,現実的ではないかもしれない。
の移行がはじまり,ビデオテープ全盛時
代を経て 2000 年代に入ると DVD が主流
4.副教材と再生機器の変遷・多様化
になった。さらに現在では,音声教材ほ
どではないにしても,ポッドキャストな
外 国 語 学 習・ 授 業 の た め の 音 声 教 材
5)
どでの配信も行なわれはじめた 。MP3
は,おおまかに言えば,レコードやオー
プレーヤーの中には,動画の再生ができ
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る も の も 登 場 し て い る ほ か, ス マ ー ト
5.おわりに
フォンやタブレット端末でも再生できる
ことを考えると,ポッドキャストなどに
タブレット端末はそれほどでないにし
よる配信が次第に増えていくのではない
ても,スマートフォンを持っている学生
かと思われる。
は 随 分 増 え た。 教 員 の 端 末 と そ れ ら を
さらに,インターネット上には,教材
Wi-Fi で 結 ぶ こ と で, 教 員 と 学 生 の 双 方
と な り う る 素 材 が 豊 富 に あ り, 場 合 に
向の授業を行なえる可能性もないではな
よっては,授業の中でそれらを利用でき
い。しかし,仮に全員が持っていたとし
る。たとえば,KBS など韓国のテレビ局
て も,iPhone を 持 っ て い る 学 生 も い れ
のホームページには,テレビニュースの
ば,Android 系のスマートフォンを持っ
クリップがスクリプト付きで置かれてい
ている学生もいる。それらの間に完全な
6)
る 。
互換性がない限り難しいと思われる。さ
以上のように,音声教材および視聴覚
らに,現実的な問題として,授業中に端
教材のメディアの変化,そして教材とし
末を使ってゲームなどをしていても,そ
て利用しうる素材の多様化が進む中で,
れをチェックすることが難しいという側
また,再生機器の変化と多様化が進む中
面もある。このことは,タブレット端末
で,今後はそれらに対応する教室設備を
についても同じことが言える。したがっ
考 え る 必 要 が あ ろ う。 と く に ス マ ー ト
て,少なくとも現在のところ,授業での
フォンやタブレット端末といったモバイ
スマートフォンやタブレット端末の利用
ル端末にも対応できるようにしてもらい
は,筆者のような使い方に限らざるをえ
たいと思っている。スピーカー,DVD プ
ないであろう。
レーヤー,大型液晶モニターまたはプロ
ジェクター(筆者は後者でホワイトボー
注
ドに投写するのがよいと思っている)を
1) こ の ア プ リ に つ い て の 詳 細 は, 開 発 元
基本とし 7),外部入力端子を備えるだけ
の日本インフォメーションのホームペー
でなく,Wi-Fi や Bluetooth による無線化
ジ http://www.nicnet.co.jp/system/
に対応することである。それによってモ
ebooklet.html を参照されたい。
バイル端末を使った機動的な授業ができ
るようになる。
2) 開 発 元 は Fotonauts Inc. で,Fotopedia
のシリーズは,パリ写真集のほか,世界遺
産写真集,モロッコ写真集,北朝鮮写真集
などいくつもの写真集を無料で提供してい
る。http://www.fotopedia.com/ を参照。
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3) こ の ア プ リ に つ い て の 詳 細 は エ プ ソ ン
の ホ ー ム ペ ー ジ http://www.epson.jp/
products/offirio/emp/ipj/ を 参 照 さ れ た
い。なお,このアプリがミラーリングに対
応すれば申し分ないが,残念ながらそれに
は対応していない。
4)1970 年代末頃まで,ソノシートを付録に
つけた教科書が存在した。
5)たとえば,朝日出版社の教科書『話してみ
ようフランス語―Oui;-)』には授業用 DVD
が 用 意 さ れ て い る が, そ の DVD に 収 録 さ
れているビデオはポッドキャストでも提供
されており,学生も利用できるようになっ
ている。
6)昨年度(2011 年度)の「韓国・朝鮮語応
用」のクラスで,最後の 2 回の授業は,KBS
テレビの天気に関するニュースを教材に用
いて総まとめとした。スクリプトに注をつ
けて学生に配布し,iPhone に保存しておい
たクリップを外部入力端子を使って教室の
テレビに写し出した。
7)CD を用いる場合は DVD プレーヤーで再
生すればよい。なお,再生の際に融通がき
くことから,CD よりもカセットテープを
好む教員もいるから,この点も考慮に入れ
る必要があろう。
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