国際物流におけるシベリア・ランドブリッジの活用と

国際物流におけるシベリア・ランドブリッジの活用と
青函架橋の効果に関する研究
中村勇作
1.本研究の背景
1.1 シベリア・ランドブリッジ
1970 年代に、国際輸送におけるコンテナ化の波に乗
り、鉄道と船を組み合わせて日本とヨーロッパの間をス
エズ運河経由よりも速く輸送するシステムが確立された。
このルートは、欧州への架け橋となるとのイメージから
シベリア・ランドブリッジ(SLB)と呼ばれた。
日本のコンテナ輸送は、初年度の 1971 年を皮切りに
快進撃を続け、1981 年には 10 万 TEU を突破するまで
になる 1)(図-1)。また 1976 年には、ナホトカに隣接す
るボストーチヌイ港が日ソ共同プロジェクトとして完成
した。しかし 90 年代を境に、ソ連崩壊を発端とする政
治や経済の混乱により SLB 輸送が激減していった。
その一方で、近年韓国と中国のシベリア鉄道利用コン
テナ量が急伸している。そして 2004 年には、中韓発着
の貨物量が 1980 年代前半に記録した日本発着貨物の記
録を塗り替えた。
ところが近年になって、ロシア政府やロシア鉄道の関
係者が、日本に対して SLB の利用を促す発言をしてい
る。2013 年 11 月、ロシア本土とサハリン州、さらに北
海道を鉄道で結ぶという構想をテーマにした会議がサハ
リン州ユジノサハリンスク市で開かれ、「国際的な物流
回廊の発展に寄与する」との決議を採択した。
120000
100000
80000
はあるが、技術が追いつく前から将来への戦略を検討し
ていくことが必要だと考える。
2.本研究の目的
本研究では、日本から欧州・ロシアへ向けた国際物流
ルートとして SLB を活用した新たなルートを提案する。
そして SLB ルートの有効性を示す過程において、青函
架橋の効果について検討していく。その結果として、北
海道を多くの貨物が通過するという予測を示し、ひるが
えって青函架橋の必要性を提示する。
また歴史的に見れば、先人達が SLB や青函架橋に見
た夢の現在における検証でもある。先駆者の知恵に学び、
国内では辺境である北海道を物流拠点として生かすこと
で、将来に向けて国際的な地理的優位性に発展させるこ
とを目指す。
3.研究対象と方法
3.1 SLB ルートの概要
本研究で提案する SLB ルートの概要を図-2 に示す。
国内の各地域から 3 つの海峡を通って、シベリア鉄道、
もしくは第 2 シベリア鉄道(バム鉄道)へと接続する。青
函に加えて、宗谷海峡と間宮海峡にも鉄道トンネルが開
通したものと仮定して、北海道からサハリンを経由して
陸路でシベリア鉄道へと接続し、さらにはその先のヨー
ロッパまでつながる国際物流ネットワーク(SLB ルート)
を想定する。
第2シベリア鉄道(バム鉄道)
(TEU) 60000
東航
間宮海峡
西航
40000
シベリア鉄道
20000
0
1971
75
80
85
90
(year)
95
2000
2005
図-1 日本発着トランジット貨物の推移
1.2 青函架橋
かつての南満州鉄道調査部には、東京発パリ行の弾丸
列車の構想があった。また以前から、北海道と青森県を
結ぶ自動車専用道の「津軽海峡大橋」を架橋しようとい
う声が挙がっていた。約 50 年前から議論がされてきた
中、1991 年には、大橋猛氏が「青函連絡橋の夢検証」
という論文を発表した 2)。その 3 年後には、「本州北海
道架橋を考える会」が発足している。
本州間架橋の前例である本州四国連絡橋の建設構想は、
1879 年の大久保甚之丞の提案に始まるとされる。しか
し、時を経て三橋が完成したのは実に 120 年後の 1999
年である。今の時点では技術的な課題もある青函架橋で
宗谷海峡
津軽海峡
図-2
SLB ルートの概要
3.2 分析対象ネットワークと OD
OD の作成には、2008 年に行われたコンテナ貨物流動
調査 3)のデータを用いる。各都道府県発の輸出の OD を
配分し、地域別にまとめた。そのほとんどが欧州航路を
通る欧州向けコンテナに対して、ロシア向け輸出コンテ
ナの荷揚げ水域の割合は欧州港湾 73.7%、極東港湾が
26.3%である。本研究で分析の対象とするネットワーク
のイメージを図-3 に示す。
700
600
500
400
フェリー
(h)
トラック
300
図-3 ネットワークのイメージ
次に、リンクの設定の方法を述べる。輸送時間につい
て、国内輸送は物流センサスの都道府県間物流時間、海
運はコンテナ船航路輸送時間 4)、鉄道は各国のフォワー
ダーが提示しているスケジュールを参考にする。コスト
について、国内輸送は都道府県間流動輸送単価、海運は
船社の公表運賃、鉄道は環日本海研究所の試算を用いる。
3.3 最短経路探索法
ネットワークの評価には、Dijkstra 法(最短経路探索
法)を用いる。SLB ルートと、現行のスエズ運河を通る
欧州航路や極東港湾に接続する日本海ルートとの比較検
討を行う。通関に要する時間について、ウラジオストク
港の現状からトランジットは 1 日、バイラテラルは 3 日
とし、港湾での荷役時間等と共に別途リンクコストとし
て設定した。また、一般化費用を算出するための時間価
値については、輸出貨物のコンテナ船基幹航路の平均時
間価値として 2,146 円/h・TEU を採用した。
鉄道直通
200
100
0
現状のシベリア鉄道
BTの導入
バム鉄道整備
図-5 シナリオ別所要時間
結果、青函通過のシナリオについては、コンテナの積
替えの必要がない鉄道輸送が最短時間となった。また、
ブロックトレインを導入することにより 3 日と数時間の
短縮効果が得られたが、これは現実の運行体制に即して
おり妥当な分析であると言える。
4.3 SLB ルートの容量を考慮した分析
現在の欧州・ロシア向けコンテナを、SLB ルートの
容量を考慮して、一般化費用が最小になるように各ルー
トに配分した(図-6)。第 2 青函トンネルは鉄道輸送、
青函架橋はトラック輸送の輸送能力増加を想定している。
SLBのみ
SLBルート
SLB+第2青函トンネル
4.国際物流ネットワークの評価
4.1 シナリオの設定
青函を通過する貨物の輸送について、以下の 3 つのシ
ナリオを設定する。青函の容量については、フェリーと
鉄道の輸送能力から実際の輸送量を差し引いて求める。
(1) フェリー(トラック含む)で青函通過、札幌にて鉄道
へ積替え
(2) トラックで津軽海峡大橋を通過、札幌にて積替え
(3) 鉄道で青函トンネルを通過、積替えなし
シベリア鉄道の輸送についても、同じく 3 つのシナリ
オを設定する。
(a) 現状の貨物列車の平均速度である 50km/h で運行
(b) バム鉄道の平均速度が 18km/h から 50km/h へ上昇
(c) 速度 120km/h のブロックトレイン(BT)による輸送
4.2 所要時間に関する分析
図-4 に、日本発欧州行トランジットコンテナの平均
の輸送時間を示す。SLB ルートの設定については、各
海峡が段階的に整備された状況を想定した。現状の欧州
航路に比べて、SLB ルートが大きな時間短縮効果を期
待できることが分かる。
欧州航路
日本海ルート
日本海ルート
欧州航路
SLB+青函架橋
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
図-6 容量を考慮したコンテナのルート選択割合
また、上記のようにコンテナが配分された時、それぞ
れの総所要時間と現状で要している総所要時間との比較
を図-7 に示す。青函架橋が実現した場合、総所要時間
の短縮効果による便益は年間で 7,860 億円となる。
現状
SLBのみ
SLB+第2青函トンネル
SLB+青函架橋
6600
図-7
6800
7000
7200
7400
7600
(1,000TEU・h)
7800
8000
8200
8400
輸送ルートの転換による総所要時間の変化
5.おわりに
本研究では、国際物流に関する SLB ルート活用の効
果を示した。その際、我が国におけるボトルネックが津
軽海峡であり、その解決策として構想段階にあった青函
架橋が有効なため、改めて検討する価値があると考える。
北極海航路
間宮トンネル開通
宗谷トンネル開通
青函架橋
0
100
200
300
400
500
600
700
800
900
(h)
図-4 トランジット貨物の平均所要時間
次に、前述の SLB ルートに関するシナリオを整理す
る。青函の通過とシベリア鉄道の輸送について、それぞ
れのシナリオにおける所要時間の変化を図-5 にまとめ
た。
参考文献
1) 辻久子:シベリア・ランドブリッジ―日ロビジネス
の大動脈―、成山堂書店、2007
2) 大橋猛:新・北海道飛躍のシナリオ、クレオ・ムイ
ナス、1999
3) 国土交通省:平成 20 年度全国輸出入コンテナ貨物流
動調査、2008
4) 三条 肇:北極海航路実現による北海道の国際物流拠
点化に関する研究、北海道大学修士論文、2013