第5章 関数③ 6.多変数関数 これまで,(そして,おそらく高校の数学でも

第5章
関数③
高校数学では教わらなかった多変数関数を学ぶ.経済学で多変数関数を用いるのは,
経済は,単純な因果関係だけで成立するわけではなく,複数の経済変数の相互作用によ
り成立するためである.しかし,変数の多さは,複雑さが増すことを必ずしも意味しな
い.きちんと整理して考えれば,基本的には,これまでの関数の性質と同じである.
6.多変数関数
これまで,(そして,おそらく高校の数学でも,)1つの外生変数の値が決まれば,内生
変数の値が決まる 1 変数関数を扱ってきた.ここからは,大学の数学として,多変数関数
も扱う.多変数関数では,2つ以上の外生変数の値が決まることで,はじめて内生変数の
値が決まる.たとえば,外生変数として x, y を,内生変数として z をとるとき,関数
z = x+ y
(1)
は多変数関数である.2つの外生変数 x, y の値がともに決まらないと,内生変数 z の値が
決まらない構造になっていることに注意してほしい.この場合,外生変数が2つなので,
2変数関数と呼んでもよい.
1変数関数のときもそうであったが,外生変数と内生変数の間の数量的関係を明示的に
表わすには具体的な関数を記述した方がよいが,単に変数間の因果関係を示しておきたい
だけなら抽象的な関数形を表示する方が,記述が簡素化されてよい.そこで,上の例にな
らって,外生変数として x, y を,内生変数として z をとる.このとき,それらの因果関係
は,
z = F ( x, y )
のように表わすことができる.ここでは, F ( , ) が関数形を表わしている.
ここからは,2変数関数の性質について説明していこう.1変数関数同様,2変数関数
も,それを表わすグラフを描くことができる.1変
z
数関数は,外生変数が1つだけなので,外生変数に
対応して横軸を1つだけとり,縦軸に内生変数をと
y
ることで座標平面を記述できた.2変数関数の場合,
外生変数が2つある.そのため,横軸は2つ必要に
なる.もう少し詳しく言えば,2つの横軸は直交し,
0
平面を形成する.内生変数は,この平面に直交する
x
ような軸としてとられるのである.このとき,変数
の値をとる範囲は座標空間になる.
上の例を使えば,外生変数 x, y の2つの軸が直交してできる x y 平面を横に描く.
(x y平
面が外生変数のとり得る値の範囲になる.)さらに,この x y 平面に直交するように縦軸を
とると,それが内生変数 z の軸となる.
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実際に,式(1)の2変数関数のグラフを見てみよう.まず,図を見やすくするために,い
くつか条件をつけておく.外生変数 x, y のとり得る値の範囲を,
(2)
0≤ x≤2, 0≤ y≤2
とおく.関数における外生変数がとり得る値を定めた範囲のことを定義域という.(2)の条
件は, x, y がともに区間 [0, 2] の範囲内であることを示している.これは, x, y はともに区
間 [0, 2] の要素であると言い換えることができる.よって,(2)は集合の記号(“要素である”
という記号)を使って,
x ∈ [0, 2],
y ∈ [0 , 2]
と表わすこともできる.
次に,式(1)における x, y のとる値と,それに対応する z の値を調べよう.次の表は, z の
値が同じになるような( x, y )の組を表わしたものである.
表 5.1
z=0
z =1
z=2
x
y
0
0
1
0
0
1
2
0
1
1
0
2
上の表から読み取れる( x, y , z )の点を,座標空間の中の点としてとる.さらに, z の値が
同じになるような点を結んだ直線を描く.最後に,これらの直線を含むような1つの面を
描く.(この例では,平面になる.ただし,関数形により,曲面になる場合もある.)
図 5.1
z
2
y
1
0
1
2
x
したがって,式(1)で表わされる2変数関数のグラフは,上の図のような平面として表わさ
れる.ここまでで,1変数関数は2次元(=平面)上に線として表わされ,2変数関数は
3次元(=空間)内に面として表わされることがわかった.
26
7.等量曲線
座標空間上に表わされるグラフは,数値を読み取りにくく,分析には不向きである.3
次元(=空間)上のグラフを,2次元(=平面)上に描こうとするのだから無理が生じて
当然である.3次元のグラフを,1次元落として,2次元のグラフにできれば,扱いやす
くなるだろう.
等量曲線とは,内生変数の値を一定に保つような外生変数の組み合わせを座標平面上に
とったものである.先にあげた表 5.1 は, z の値が同じになるような( x, y )の組を表わした
ものである.表 5.1 より( x, y )の組を xy 平面上にとり, z の値が同じになる( x, y )の点を結
ぶ.
図 5.2
y
2
1
z =1
z=2
z=0
0
1
2
x
図 5.2 は,2 変数関数 z = x + y を, z の値で場合わけをして,グラフを描いたものと解釈
できる.つまり, z = 0 の直線(図中では点として表わされている)は, 0 = x + y を示して
おり, z = 1 , z = 2 の直線は,それぞれ, 1 = x + y , 2 = x + y を示している.これらの(点
と)直線は,それぞれ,図 5.1 における原点と太線で表わされる直線に対応している.図
5.1 の太線で表わされる直線を x y 平面に投影した直線こそが上の等量曲線なのである.
z
y
1
1
y
1
0
1
x
① z = 1 のときの( x, y )の組を表わす直線
(または曲線)を x y 平面に投影する.
0
1
x
② x y 平面上に投影された直線(または曲
線)が z = 1 のときの等量曲線である.
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練習 5.1
2変数関数 z = x + y に関して, z = 3 のときの等量曲線を x y 平面上に描け.
経済学では,2変数関数を扱うことが多い.しかし,2変数関数は,そのまま3次元の
グラフとして描かれることはほとんどなく,たいていの場合,等量曲線として描かれる.
等量曲線でも分析ができるのは,3次元のグラフと等量曲線とがきちんと対応しているか
らである.そこで,反対に,等量曲線の形状がわかっているときに,3次元グラフがどう
いう構造になるかも判断できるようになる.以下では,いくつかの等量曲線の形状を見て
いく.
上の例では,等量曲線が直線になる場合を扱ったが,それが曲線になる場合も当然ある.
例として,2変数関数 z = x y を考えよう.この関数は,
1
1
z = x2 y2
(3)
y
と表わすこともできる.このような形の関数のこと
2
をコブ=ダグラス型関数と呼ぶ.上に挙げたコブ=
z=2
ダグラス型関数を等量曲線として表わすと右図のよ
1
うな形状になる.
z =1
コブ=ダグラス型関数は「外生変数の値をm倍に
すると,内生変数の値もm倍になる」という性質を
0
1
2
x
もっている.この性質のことを 1 次同次性といい,
この性質をもつ関数のことを 1 次同次関数という.
たとえば,式(3)において,外生変数の値を x = 1, y = 1 から x = 2 , y = 2 へと 2 倍にすると,
内生変数の値は z = 1 から z = 2 へと 2 倍になる.(図からも確認できる.)よって,式(3)で
表わされる2変数関数は,1次同次関数である.
例)式(3)が,上の例以外の値を使っても,1次同次性を満たすことを示す.まず,
1
1
x = a , y = b とおく.このときの z の値を z 0 とすると, z 0 = a 2 b 2 である.次に,外生変
数 x , y を,それぞれ,m倍する.このときの z の値を z1 とする.すると,
1
1
z1 = (ma ) 2 (mb) 2
1
1
1
1
= (m 2 a 2 )(m 2 b 2 )
1
+1
1
1
= m 2 2 a 2b 2
1
1
= m (a 2 b 2 )
= m z0
となり,それゆえ,内生変数もm倍になったことが示された.
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練習 5.2
1
1
コブ=ダグラス型関数 z = x 2 y 2 ( z = x y )に関して,次の手順にしたがって,z = 2
のときの等量曲線を描け.
1) z = 2 となるような( x , y )の組を求める. 2 = x y となるように( x , y )の組をとり,
次の表を完成させよ.
1
2
x
1
2
1
2
1
y
2)上の表の( x , y )の組を x y 平面上の点としてとる.その後,これらの点をなだらか
な曲線で結ぶ.このようにして等量曲線を描け.
1次同次関数において,内生変数の変化が外生変数の変化に比例する.これは,1変数
関数で考えると,線形関数に対応する.ここで,線形関数を内生変数の変化が外生変数の
変化に比例する関数と定義しなおせば,1次同次関数は,多変数関数における線形関数な
のである.多変数関数になり,一見,複雑さが増したように見えるかもしれないが,基本
的には 1 変数関数で見てきたような性質が,多変数関数でも成立する.
練習問題5
1
次の文章の空欄(1)∼(5)にもっとも適当な語句を[語句]欄から選びなさい.
関数 z = f ( x , y ) は,
(
1
)変数の数が2つなので,2変数関数である.では,関数形
を f ( x , y ) = x + y としよう.このとき, z の値を一定に保つような( x , y )の組を描いた
(
2
)は右下がりの直線として表わされる.また,この関数は,
(
倍すると,( 3
1
)変数の値をm
)変数の値がm倍になるという性質をもつので,( 4
)関数とも呼ば
れる.この性質は(
5
)型関数にも見られる特徴である.
[語句] 2変数,多変数,外生,内生,直線,双曲線,等量曲線,1次同次,コブ=ダグラス
2
2変数関数 z = x + y が1次同次であることを示せ.
3 コブ=ダグラス型関数の一般形は z = x a y b と表わされる.では,a = 1, b = 1 とおこう.
このとき, z = 0, z = 1, z = 2 のとき,それぞれの等量曲線を同じ平面上に描け.
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経済学で利用される主な多変数関数
○ 効用関数
−
消費量に応じて消費者が得る効用(=満足度)をあらわす
U = u (c1 , c 2 , ... , c n )
外生変数:
c1 , c 2 , ..., c n
内生変数:
U
(消費財 1, 2, …, n)
(効用)
(2 変数関数 U = u (c1 , c 2 ) として表現されることの方がおおい.)
○ 生産関数
− 資本(=機械,原材料など)と労働の投入量に対して,生み出
される製品の生産量をあらわす
Y = F ( K , L)
外生変数:
内生変数:
K
Y
(資本), L
(生産量)
○ 貨幣需要関数(LM 曲線)
(労働)
GDP と利子率の水準に対応する均衡貨幣量
−
をあらわす
m = L(Y , r )
外生変数:
内生変数:
Y
m
(但し, m =
(GDP),
r (名目利子率)
(実質貨幣残高)
M
, M :名目貨幣残高, P :物価水準)
P
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