ASCETで開発された ファジー理論システム

DEVELOPMENT
SOLUTIONS
ASCETで開発された
Central Corporate
Research of
Robert Bosch GmbH
Alexandra
Fuchsbauer、
Dr. Christian Fuchs
ファジー理論システム
ファジー理論コンポーネントをASCETの
クラスにより実装
ファジー理論コンポーネントをASCETのク
電子制御ユニットがアルゴリズムを処理する場面では必ず、ブール論理によりYES(はい)またはNO(いいえ)
ラスにより実装
という明解な決断が下されます。もちろん、エアバッグの装備については、ファジー理論で許されるような曖昧
ファジー理論システムの作成に必要な基本
なPOSSIBLY(できる限り)という判断では惨事を招きかねません。しかし、自動車の他の機能、たとえばNOx
の1つは、ファジー集合を操作できることで
吸蔵触媒コンバータの複雑な再生方法などについては、曖昧さの入る余地があります。その証拠に、Boschのエ
す。ファジー集合についての論理演算では
ンジニアはASCETを使用して、コンバータの再生方法をファジー理論モデルに変換しました。
数学的に結論が出されるので、ファジー集
合について論理演算を行うたびに新しいファ
ジー集 合 が作 り出 されます。そのため、
通
この低減プロセスを常に持続させることは
数の修正が出力変数に与える影響について、
吸蔵触媒コンバータを再生させる必要があ
ECUファンクション導入時にファジー集合
を1つのデータタイプとして定義することが
必要でした。ASCETでは新しいデータタイ
実験業務から得た経験に基づく優れた理解
ります。ただし、このプロセスは特定の状況
プの定義がクラスという基本コンセプトに
を有しています。たとえば制御方法を開発
でしか行えないため、ここで紹介している
よりサポートされているので、新しいデータ
する過程でこのようなケースに遭遇した場
ECUファンクションでは指定された時点が
タイプの構造(台形波形など)をクラスと
合は、ファジー理論に関連する専門家のシ
再生サイクルにどの程度適しているかを一
いう枠 組 みの中 で定 義 できます。この
ステム技術を活用するというのが良いアド
連のルールに基づいて評価しています。こ
バイスになるでしょう。このテーマについて
の場合、入力変数はエンジンの運転データ
“Fuzzy Set”クラスのインスタンス化が、
たとえば言 語 変 数 “ Speed ”の言 語 値
言えば、専門家なら自分の知識をIF-THEN
と触媒コンバータの負荷条件となります。
“Small”のような、求められる構造不変特
例、新しいシステムの開発プロセスに
関与している方は、システムの入力変
不可能なので、運転操作中、定期的にNOx
ルールに変換します(図1)
。言語を近似化
うにして作成されたルールを数学言語に変
換することができます。
イン実験で最適化できる再生方法を見つけ
度にインスタンス化が行われます。また、各
ることが可能になりました。マップに基づ
クラスに無限数のデータセットを定義でき
真価はいかに:
く従来の制御方法ではこのような理論の実
るので、ファジー理論ルールのボディを自由
NOx吸蔵触媒コンバータ
Robert Bosch GmbHの Central Researchのエンジン制御/混合気生成セクショ
ン(CR/AEE)で行われた研究では、NOx
吸蔵触媒コンバータ用ECUファンクション
験は不可能です。ファジー理論モデルの本
自在に構築できます。例として、言語変数
質的なメリットは、その明確性です。どの
“Speed”用データセットを作成する過程を
の開発にファジー理論を導入するメリット
最適化を進めていくことができます。この
が詳しく調べられています。この触媒コン
ようにファジー理論は非常に多くの決定パ
バータをディーゼルエンジンの排気システム
ラメータを持つ複雑なシステムに特に適し
に挿入すると、化学的還元プロセスにより
ていますが、そのようなファンクションにつ
。
窒素酸化物が減少します(図2)
いて包括的に記述するには莫大な労力が必
ブジェクト用のデータセットが作成される
ような種類の抽象化も必要ないため、入力
図 4に紹 介 します。この場 合 、タイプ
変数の変化をきわめて容易にモデルにマッ
“ Fuzzy Set”のオブジェクトは言 語 値
“Small”です。
ピングでき、非常に短い期間で再生方法の
要です。
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RT J2. 2006
性を生成するための基礎になります(図 3
1)
。技術的に見ると、ASCETでは新規オ
ASCETで開発されたファジー理論採用の
ECUファンクションモデルにより、オフラ
するシステムを使用することにより、このよ
DEVELOPMENT
SOLUTIONS
言語値は言語近似化メソッドに従って言語
算子の計算をポイント毎に行うのではなく、
またASCETでマルチレベルのルールセット
変数に代入されます。このようにして代入
演算を減らし、多くても台形の頂点の再計
を作成できることも実証されました。これに
されて初めて、言語値はその内容に即した
算か、あるいはルールの結果を求めるため
よりファジー理論の非常に複雑なルールセッ
意味を持つようになります。この基本的手
にポリゴンの頂点の再計算しか行わないよ
ト内のルール数を減らすことができ、システ
順が確実に守られるように、ASCETでは
。
うにすることができます(図1)
ムは格段に把握しやすいものになります。
“Fuzzy Set”というクラスだけでなく“Lin-
guistic Variable”というクラスも作成され
ます。このクラスのオブジェクトは、タイプ
“Fuzzy Set”のオブジェクトに割り当てら
れた特性を共有します。前述のように、こ
図1:
ルールの前提と結論を
AND演算子で記述
うして代入されたオブジェクトは言語変数
の特性を定義します。オブジェクト指向の
観点からみたASCETクラスの挙動は、ユー
ザーが定義するメソッドにより定義できま
す。
“Linguistic Variable”クラスの場合、
このような1つのメソッドにより、物理入力
変数が特定の言語変数にどの程度適合する
かが計算されます。たとえば、50km/hと
いう速度が入力(図1および図31)された
図2:
NOx吸蔵
触媒コンバータ内の
化学的還元プロセス
場合、このメソッドは(あらかじめ定義さ
れているルールを評価した後、
)この速度に
は“Speed, Low”という基準についての
メンバーシップがどの程度あるか、つまり
50kmという速度が「低速」というカテゴ
リに帰属する度合を計算します。
図3:
図1のルールに基づき
専門家の知識を数学的に表現したものは
ASCETで作成された
ルールという形をとり、各ルールは条件と
全体構造
結果で構成されます。これらのルールを数
学言語で記述するためには、言語変数と言
語値の他にAND演算子が必要です。この演
算子により、指定されたルールの各基準間
の相互関係が定義されます(図32)
。また、
AND演算子はルールの条件部を結果部にリ
ンクさせるためにも使用されます(図33)
。
現実的なアプリケーションでは、このよう
図4:
“Linguistic Variable”
クラスと“Consequence”
クラスをインスタンス化する
なAND演算子は2つのファジー集合につい
ためのデータセットの生成。
てポイント毎に最小値を計算することで容
ASCETではこれらの
易に実装できます。OR演算子の処理も同様
データセットに、個々の
で、ポイント毎に最大値を計算して記述さ
れます。つまりASCET には、一連のファ
ジー理論ルールの評価に必要な全演算子も
基本的演算エレメントとしてすでに備わっ
ているのです。このことから明らかなよう
に、ファジー理論アルゴリズムの構造はシ
ンプルです。
インスタンスについての
クラス変数の値を定義します。
“LinVar”属性(画面1)を
ダブルクリックすると
画面2が開きます。
画面2では、
“Fuzzy Set”クラスの
インスタンス用データセット
について定義します。
ECUのアルゴリズムではプログラムコード
内のループをなくすことは基本的な要件な
ので、ファジー理論のエキスパートシステム
をASCETで導入する際にプログラムループ
が一切使われなかったことは注目に値しま
三角波や台形波を定義できる
ように、各データセットは
8個の頂点で構成されています。
画面2のEckpunkt3_x
(Vertex3_x)という
エレメントをダブルクリック
す。最終的に、台形ファジー集合をパラメー
すると画面3が開き、
タにより表現するという方法が採用されま
そこでその頂点を
した。その結果、AND演算子またはOR演
適合し直すことができます。
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J 2 0 0 6 .2 RT