〔生化学 第8 1巻 第3号,pp.2 2 3―2 3 2,2 0 0 9〕 !!! 特集:生体防御メカニズムの分子基盤 !!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! ユビキチン様分子 ISG1 5による免疫反応制御 奥 村 文 彦 ISG1 5(interferon stimulated gene,1 5kDa)はインターフェロン刺激依存的に分子量約1 7 kDa の前駆体として合成されるタンパク質である.ISG1 5分子は二つのユビキチン様ドメ インから構成されており,C 末端側の数個のアミノ酸(ヒト ISG1 5では8個)が取り除か れることで成熟型ユビキチンと同じアミノ酸配列(-LRLRGG)を持ち,基質タンパク質 に共有結合できる成熟型 ISG1 5になる.タンパク質のユビキチン修飾は主にプロテア ソーム依存的なタンパク質分解に寄与していることは広く知られているが,ISG1 5修飾の 生理的な役割は現在までのところあまり解明されていない.我々はメッセンジャー RNA のキャップ構造結合タンパク質である4EHP(eIF4E homologus protein)が ISG1 5修飾を受 けることや,4EHP の ISG1 5修飾がキャップ構造への結合を安定化させることを見出し た.また,効率的な ISG1 5修飾が起こるために ISG1 5は一酸化窒素(NO)による制御を 受けていることも明らかにした.本稿においては,ISG1 5における過去の知見と ISG1 5修 飾の機能に関しての最近のトピックスを紹介する. 1. ISG1 5の歴史 ISG1 5は抗ユビキチン抗体によって認識されたことから, ubiquitin cross-reactive protein(UCPR)ともよばれる.2 0 0 5 ISG1 5は1 9 7 9年に Farrell らにより発見された初めての 年には立体構造が明らかとなりアミノ末端側,カルボキシ ユビキチン様分子である.二つのユビキチン様ドメインか 末端側のそれぞれのユビキチン様ドメインがやはりユビキ らなっており(図1A) ,1 9 8 4年に Korant らにより,その チンに似ていることが報告された3).現在までのところ, タンパク質発現がインターフェロン誘導性であることが示 ISG1 5遺伝子は脊椎動物にのみ存在しており,進化的に新 された.1 9 8 8年には,Knight らにより1 6 5アミノ酸から しい遺伝子であることが推測される. なる前駆体 ISG1 5は,C 末端の8個のアミノ酸がプロセシ ングにより取り除かれ,成熟型 ISG1 5となることが示さ 2. ISG1 5の発現制御 れた(図1B) .その他にも,多くのユビキチン様分子は前 ISG1 5のタンパク質発現は,A5 4 9細胞をインターフェ 駆体として合成された後,C 末端側の数残基がプロセシン ロン β 刺激後,約2時間で確認され,約2 4時間後に最大 グを受けることで成熟型となることが知られている1).成 の発現量を示す4).図2に示すように¿型インターフェロ 熟型ユビキチンと ISG1 5はまったく同じアミノ 酸 配 列 ン受容体である IFNAR1/IFNAR2ヘテロダイマーにイン (-LRLRGG)を C 末端に有する .また交差反応性により, 2) ターフェロン α/β が結合することにより,Janus kinase1 (Jak1) ,protein-tyrosine kinase 2(Tyk2) ,インターフェロ 北海道大学大学院医学研究科生化学講座医化学分野 (〒0 6 0―8 6 3 8 北海道札幌市北区北1 5条西7丁目) Regulation of immune response by ubiquitin-like molecule ISG1 5 Fumihiko Okumura(Department of Biochemistry, Graduate School of Medicine, Hokkaido University, N1 5, W7, Kitaku, Sapporo0 6 0―8 6 3 8, Japan) ン受容体のチロシン残基のリン酸化が起こる.その後, signal transducers and activators of transcription(STAT)の Src ホモロジードメインを介して STAT1/2が受容体に結合す る.STAT1/2は Jak1や Tyk2によりリン酸化されヘテロ ダイマーを形成し,さらに IFN regulated factor(IRF)9と 結合し,核内に移行する.この複合体(ISGF3)はインター 2 2 4 〔生化学 第8 1巻 第3号 図1 ISG1 5とユビキチンの相同性 A,ISG1 5は二つのユビキチン様ドメインを持つ.B,ヒト ISG1 5のアミノ末端側,カルボキシ末端側のそれぞれのユビキチン様ド メインとヒトのユビキチンの一次配列を比較した.*は保存されているアミノ酸を示している.ISG1 5もユビキチンも前駆体とし て合成されたのち,特異的酵素により切断され C 末端側に-LRLRGG 配列を持つ成熟型となる. 図2 インターフェロンなどによる ISG1 5の発現誘導 2 2 5 2 0 0 9年 3月〕 フ ェ ロ ン 誘 導 性 分 子 の IFN-stimulated response element (ISRE) に結合し ISG1 5の発現を制御する5∼7).その他にも, ISG1 5遺伝子発現は IRF3の制御も受けている8).つまり, インターフェロンやウイルス感染などで IRF3はリン酸化 エネルギーを用いて ISG1 5とチオエステル結合を形成す る. 5. E2 を受け核内に移行し ISG1 5の転写を誘導する8).ISG1 5プ UBE1L により活性化された ISG1 5は,UbcH6あるいは ロモーターは PU. 1結合領域も有する9).PU. 1は Ets ファ UbcH8に転移される.UbcH6/H8はともに,インターフェ ミリーに属する B 細胞,骨髄細胞特異的な転写因子であ ロン α あるいは β により発現が誘導される分子であ る10∼12).PU. 1は,IRF4あ る い は IRF8と 協 調 し て ISG1 5 る25,26).UbcH8が最初に ISG1 5結合酵素として同定された の転写を亢進する.一方,IRF8欠損マウスを使用した解 ので多くの場合 UbcH8を用いて研究が行われているが, 析により,マクロファージに ISG1 5分子の発現亢進が認 UbcH6/H8ともに ISG1 5とジスルフィド結合を形成し得 められることが報告されている . る.一方,UbcH7は一次構造上,最も UbcH8に類似した 1 2) また,ISG1 5は様々なストレスに応答して誘導される. E2であるが ISG1 5とジスルフィド結合を形成できず24), 細菌やウイルスの感染は,IRF3と ISGF3を活性化するこ ISG1 5修飾を亢進することもできない25).UbcH8は,ユビ とで ISG1 5の発現を誘導する13).その他に γ 線照射14),抗 キチンとも ISG1 5ともジスルフィド結合を形成し得る24)こ がん剤であるカンプトテシン ,毛細血管拡張性失調症 とは,ユビキチンシステムと ISG1 5システムが非常に密 1 5) (ataxia telangiectasia) ,活性型 JNK1β や SV4 0 T 抗原 1 6) 1 7) 1 8) 接に関係していることを想像させる.実際 ISG1 5あるい の発現などにより,ISG1 5の発現が誘導されることが知ら は ISG1 5修飾システムが,タンパク質のポリユビキチン れている. 化を阻害するという報告がある18).しかしながら多くの データはトランスフェクション実験に基づいており,また 3. ISG1 5修飾システム 内在性 ISG1 5に対して約1 0% 程度の強制発現で約9 0% これまでに1 5 0種を超えるタンパク質が ISG1 5修飾を 程度ポリユビキチン化が阻害されていることなどから,今 受けることが報告されている19∼21).様々な分子の ISG1 5修 後の詳細な検討が必要と思われる.さらに ISG1 5システ 飾のメカニズムはユビキチン修飾メカニズムと酷似してい ムによるユビキチンシステムの阻害効果の生理的役割は明 る.図3に示すようにユビキチンはユビキチン活性化酵素 らかになっておらず,さらなる解析が必要とされる. (E1) ,ユビキチン結合酵素(E2) ,ユビキチンリガーゼ (E3)という3種類の酵素による一連の触媒反応を経てさ まざまな基質タンパク質の主にリジン残基に共有結合す 6. ISG1 5リガーゼ 基質タンパク質を認識している ISG1 5リガーゼにより, UbcH6あるいは UbcH8にエステル結合した ISG1 5は,基 る22). ISG1 5修飾はユビキチン修飾とほぼ同様のシステムを用 質タンパク質のリジン残基の ISG1 5修飾に用いられる. いて起こる.すなわち,ubiquitin activating enzyme E1-like UbcH6/H8がユビキチンシステムと ISG1 5システムの間の 2 3) 2 4∼2 6) (UBE1L) ,E2(UbcH6と UbcH8) ,ISG1 5リ ガ ー ゼ 密接な関係の橋渡しをしていることから,UbcH6/H8と結 という3種類の酵素により触媒される27).またユビキチン 合するユビキチンリガーゼは ISG1 5リガーゼとしても機 がいくつも連なった「ポリユビキチン鎖」のような「ポリ 能する可能性がある.ユビキチンリガーゼである double ISG1 5鎖」は現在報告されていない. ring-finger protein(Dorfin) ,E6AP, human homologue of Drosophila ariadne(HHARI) ,UbcH7-associated protein 1 4. UBE1L (H7-AP1) ,Parkin な ど は UbcH6/H8と 結 合 で き る た め UBE1L はユビキチン E1と約4 5% の相同性を持ち,酵 ISG1 5リガーゼとしても機能する可能性がある30∼34).実際 素としての活性中心であるシステインも保存されてい に ISG1 5リガーゼとしても機能するユビキチンリガーゼ る .酵母ツーハイブリッドシステムを用いて B 型インフ 3 5) として estrogen-responsive finger protein(EFP) ,HECT and ルエンザウイルスの NS1B 分子が ISG1 5と結合すること 2 1, 3 6, 3 7) RCC1 domain protein 5(Herc5) ,HHARI38)が報告され が示されている .NS1B は ISG1 5と結合 す る こ と に よ ている.EFP は1 4-3-3σ に対する ISG1 5リガーゼであり, 2 8) 2 9) り,ISG1 5が他の分子の翻訳後修飾に用いられることを抑 HHARI は4EHP に対する ISG1 5リガーゼである(後述). 制する29).UBE1L は ISG1 5専用の活性化酵素であり,ユ Herc5は様々な基質分子の ISG1 5修飾を著しく亢進する基 ビキチン化特異的な活性化酵素 E1は ISG1 5修飾には用い 質非特異的な ISG1 5リガーゼとして機能するが,詳細な られない25).UBE1L のプロモーター領域にも ISRE が存在 分子メカニズムは解明されていない.EFP と Herc5はイン しインターフェロン α あるいは β で発現が誘導される . ターフェロン誘導性の分子である.ISG1 5リガーゼは, UBE1L は E1と同じく ATP 結合ドメインを持ち,ATP の ISG1 5の C 末端の-LRLRGG モチーフのカルボキシル基と 2 5) 2 2 6 〔生化学 第8 1巻 第3号 図3 ISG1 5システムによるタンパク質の ISG1 5修飾とユビキチンシステムによるユビキチン修飾の類似性 2 2 7 2 0 0 9年 3月〕 基質分子のリジン残基の ε 位のアミノ基との間の共有結合 様々なタンパク質が ISG1 5修飾を受けるが,その生理的 の形成を促進する. 役割はほとんど明らかになっていない19∼21).ISG1 5は通常 これまで報告された ISG1 5修飾を受ける基質タンパク 発現が抑制されており,¿型インターフェロンで急速に発 質として Jak1,STAT1,phospholipase C (PLC) -γ1,extra- 現が誘導されることから免疫システムにおいて重要な働き cellular regulated kinase (ERK)1/2などが報告されてい を担っていると考えられている.タンパク質の翻訳後修飾 る39).特 に Jak1,STAT1は¿型 イ ン タ ー フ ェ ロ ン や, としては,ユビキチン化,リン酸化,SUMO 化,NEDD8 様々なサイトカインによるシグナル伝達に重要な分子であ 化,アセチル化,メチル化などが挙げられ,それぞれの修 り40),ISG1 5修飾がそれらの機能制御に関与することが示 飾によって基質タンパク質は様々な機能制御を受けてい 唆されている. る.ISG1 5はその発見後約3 0年が経とうとしているが, 7. UBP4 3 未だに機能未知の翻訳後修飾として扱われている.ISG1 5 修飾を受ける基質タンパク質候補群が網羅的に同定されて 脱ユビキチン酵素が基質タンパク質からユビキチンを取 いるが19∼21),それぞれの基質分子に対する個々の研究は進 り除くように,脱 ISG1 5酵素が存在し ISG1 5修飾を受け んでおらず ISG1 5修飾がある程度共通の役割を担ってい た基質タンパク質から ISG1 5を取り除くことができる. るのか,それとも多種多様な役割を担っているのか判明し この酵素は, UBP4 3あるいは USP1 8と呼ばれる41,42). UBP4 3 ていない.ISG1 5は基質タンパク質への翻訳後修飾に用い もインターフェロン誘導性のタンパク質である.先に述べ られるだけではなく,単体としても存在しえることから たように ISG1 5は前駆体として合成された後,C 末端の数 様々な可能性を秘めている. 個のアミノ酸が取り除かれ-LRLRGG の配列を C 末端側に ISG1 5欠損マウスはインフルエンザ A/WSN/3 3,イン 持つ成熟型となるが,このプロセシング酵素として酵母の フルエンザ B/Lee/4 0ウイルス,1型単純ヘルペスウイル Ubp1の ortholog が示唆されている43).UBP4 3もプロセシ ス,マウス γ ヘルペスウイルス6 8,Sindbis ウイルスに対 ング酵素の候補の一つであるが UBP4 3欠損マウスが前駆 する抵抗性が野生型に比べて低下している47).特に Sindbis 体 ISG1 5のプロセシングを起こすことから UBP4 3は主要 ウイルスに対する抵抗性は野生型 ISG1 5(C 末端配列が な酵素ではないと考えられている. LRLRGG)の強制発現によって回復したが,基質タンパク UBP4 3欠損マウスは野生型マウスに比べて寿命が短く, 質に修飾できない変異体 ISG1 5(C 末端配列が LRLRAA) 約2 0週間目には死に至る44).その多くは脳細胞障害によ では回復しなかった47).これらの結果は,何らかの基質タ るものと考えられており,ISG1 5修飾が脳細胞のホメオス ンパク質の ISG1 5修飾が抗 Sindbis ウイルス活性に重要で タシスに関与していることが示唆されている.UBP4 3欠 あることを示唆しているが,未だその基質タンパク質は同 損細胞は野生型細胞に比べて ISG1 5の発現,基質分子の 定されていない.しかしながら,この知見は,ISG1 5修飾 ISG1 5修飾,共に亢進している .UBP4 3欠損骨髄細胞を システムが免疫システムの調節系であることを示す上で非 インターフェロン β で刺激すると約7 0% の細胞がアポ 常に重要と思われる. 4 4) トーシスを起こす .その原因として Jak-STAT 経路の持 4 5) 続的な活性化が示唆されている45).野生型骨髄細胞をイン 9. 翻訳後修飾以外の役割 ターフェロン β で刺激すると,1時間後には STAT1のリ 1 9 9 1年に ISG1 5が細胞外に分泌されることが報告され ン酸化がみられるが,1 2時間後にはほとんど確認できな た48).リンパ球や単球はインターフェロン β 刺激によって い.一方,UBP4 3欠損骨髄細胞では2 4時間後でも STAT1 ISG1 5を細胞外に分泌し,2 4時間後には約5 0% の ISG1 5 のリン酸化が確認でき,STAT1のリン酸化は野生型より が細胞外に存在することが報告されている48).ヒト単球細 も亢進している45).脱 ISG1 5化に必要なシステイン残基を 胞 株 THP-1も 同 様 に イ ン タ ー フ ェ ロ ン β 刺 激 に よ り 変異させた UBP4 3(C6 1S)を UBS4 3欠損細胞に発現させ ISG1 5を分泌する.THP-1細胞株以外にも様々な細胞株が るとインターフェロン依存的な Jak1,Tyk2,STAT1のリ ISG1 5を 分 泌 す る こ と が 報 告 さ れ て い る.B 細 胞 株 ン酸化を抑制できることから Jak-STAT 経路の異常な亢進 (Burkitt’ s lymphoma,Raji 細胞株) ,T 細胞株(Jurkat 細胞 は UBP4 3の脱 ISG1 5化活性に依存しないことが報告 さ 株) ,肺がん細胞株(A5 4 9細 胞 株) ,卵 巣 腺 が ん 細 胞 株 れている .実際には,UBP4 3は Jak1と Interferon (alpha, (OVCAR-3細胞株)などが,ISG1 5を分泌することが知ら beta and omega)receptor 2(IFNAR2)の間の相互作用を競 れている49).またマクロファージ細胞株(RAW2 6 4. 7細胞 合阻害する機能を有することが明らかとなっている46). 株)は大腸菌成分であるリポポリ多糖体(LPS)刺激によ 4 6) 8. 翻訳後修飾としての役割 ISG1 5は主に¿型インターフェロンにより誘導され, り ISG1 5を発現し,細胞外に分泌する27).健常人にイン ターフェロン β を投与するとその投与量依存的に,血清 中に分泌された ISG1 5が確認された49).ISG1 5はウシの子 2 2 8 〔生化学 第8 1巻 第3号 宮内膜からも分泌されることが報告されている50).妊娠後 翻訳過程において非常に重要なステップである.eIF4G は 1 8日以降にはその分泌が確認され,妊娠していないウシ poly-A binding protein(PABP)と結合し,メッセンジャー RNA はキャップ構造に結合した eIF4E-1,ポリ A テール では ISG1 5の分泌は確認されなかった. ISG1 5は分泌タンパク質に特徴的なシグナル配列がな に結合した PABP,その両方に結合する eIF4G により環状 く,他のサイトカインとも一次構造上類似しない.従っ 構造をとる.メッセンジャー RNA のこのような環状化は て,ISG1 5は本当に細胞から生理的に分泌されているのか タンパク質翻訳開始に重要であることが示唆されている. 明らかではないが,新規のメカニズムにより分泌されてい 一方,eIF4E-3に関してはほとんど解析が進んでいない.3 るのか,アポトーシスなどで死滅した細胞などから漏れ出 種類の eIF4E のうち4EHP のみ eIF4G と結合できないた ているのか,今後検討する必要がある. め,上記のようなメッセンジャー RNA の環状化が起こら 大腸菌を用いて合成した ISG1 5を CD3+細胞培養液に加 ないことから,4EHP の生理的な役割は不明であった. .リ 2 0 0 5年 Cho らにより,ショ ウ ジ ョ ウ バ エ の4EHP は Bi- コンビナント ISG1 5は natural killer(NK)細胞の増殖を亢 coid と呼ばれる RNA 結合分子と結合し,選択的に Caudal 進 し 細 胞 障 害 活 性 も 増 加 さ せ る が,interleukin-2や のタンパク質翻訳を抑制していることが示された59).Bi- interleukin-1 2の産生増加はみられない51).また,プロセシ coid は eIF4G のような役割を担いメッセンジャー RNA の ングを受けた成熟型 ISG1 5は細胞外へと放出されるが未 非翻訳領域に存在する Bicoid binding region(BBR)に結 えると CD3 細胞から産生される IFNγ が増加する + 5 1, 5 2) 成熟 ISG1 5は放出されない .細胞外に放出された ISG1 5 合し,メッセンジャー RNA の環状化を引き起こす.従っ は好中球に対する走化性因子として機能することが報告さ て,eIF4E-1を含むタンパク質翻訳開始複合体がキャップ れているが,ISG1 5に対する受容体が存在するのかという 構造に結合できないために Caudal のタンパク質翻訳が選 ことに関しては未だ明らかになっていない53).しかしなが 択的に阻害される.彼らの提唱するモデルをもとに我々は 4 9) ら,これらの報告は ISG1 5が細胞外でサイトカイン様の 役割を担っている可能性を示唆している. ISG1 5は HECT 型ユビキチンリガーゼ Nedd4と UbcH6 との結合を阻害することで Nedd4の機能を抑制する54,55). Nedd4のユビキチンリガーゼ活性が抑制されるとエボラウ イルスのマトリックスタンパク質である VP4 0のユビキチ ン修飾が抑制され virus-like particle(VLP)の産生が阻害 さ れ る54,55).NEDL1,NEDL2,WWP2も Nedd4と 同 様 に VLP の産生を亢進するが,ISG1 5の存在下ではその効果は 著しく減少する54).また ISG1 5は HIV の複製を抑制する ことも報告されている56). 1 0. 4EHP は ISG1 5修飾によりキャップ構造結合活性が 増大する 当初 ISG1 5リガーゼに関する情報がほとんどなかった ので,我々はまず ISG1 5リガーゼの同定を試みた.先に 述べたように ISG1 5修飾に必要な酵素である E2(当時は UbcH8のみ知られていた)はユビキチン修飾にも用いら れ る.従 っ て,UbcH8に 結 合 す る こ と が 知 ら れ て い た HHARI とその基質であるメッセンジャー RNA キャップ構 造結合分子 eIF4E homologous protein(4EHP) に着目した57). ヒトのメッセンジャー RNA キャップ構造結合タンパク質 は現在3種類のファミリーが報告されている.eukaryotic translation initiation factor 4E(eIF4E) -1,2,3の3種類が 存在し,それぞれキャップ構造に結合することができ る58).多くの場合,タンパク質翻訳は eIF4E-1に依存して いると考えられている.eIF4E-2は4EHP とも呼ばれる. 図6に示すように,eIF4E-1と eIF4G の結合はタンパク質 図4 4EHP は ISG1 5修飾を受けると安定にキャップ構造に結 合する A,2 9 3T 細胞に図に示す分子を 発 現 さ せ,Ni-NTA カ ラ ム で His6-ISG1 5修飾を受けた分子を精製し,キャップ構造を模した カラム(m7GTP カラム)により FLAG-4EHP のキャップ構造結 合活性を検討した.B,未修飾の4EHP と ISG1 5修飾を受けた 4EHP をほぼ等量含む粗精製画分(input)を m7GTP カラムで精 製すると ISG1 5修飾を受けた4EHP が優位に得られた.すなわ ち4EHP の ISG1 5修飾はキャップ構造結合活性を増強すること が示された. 2 2 9 2 0 0 9年 3月〕 以下の実験を進めた. ルを用いてさらに検討することを試みた(図6) .幸運な HHARI が UbcH8に 結 合 で き る こ と か ら34),ISG1 5リ ことにヒトの4EHP がショウジョウバエの Bicoid に結合 ガーゼとしても機能する可能性を検討した結果,4EHP は することが分かったので Cho らの in vitro のアッセイシス HHARI 依存的に ISG1 5修飾を受けることが明らかとなっ テムを用いてタンパク質翻訳に対する ISG1 5修飾の効果 た .内在性の4EHP はインターフェロン α 刺激により を解析した.ショウジョウバエの4EHP の代わりにヒトの ISG1 5修飾を受け,質量分析を用いた解析によりその修飾 4EHP を用いた場合でもショウジョウバエ Caudal のタンパ 部位は1 3 4番目,あるいは2 2 2番目のリジン残基であるこ ク質翻訳を約25% 抑制した38).4EHP-ISG1 5融合タンパク とが判明した.おそらく立体構造上の位置関係のため二つ 質を用いた場合, 約5 0% 翻訳抑制することがわかった38). 3 8) のリジン残基が同時に ISG1 5修飾を受けることはなく, 4EHP や4EHP-ISG1 5融合タンパク質を2 9 3T 細胞に過剰 どちらか一方のリジン残基のみ ISG1 5修飾を受けること 発現させても一般的なタンパク質翻訳は影響を受けなかっ がわかった.次に,4EHP はキャップ構造結合タンパク質 たので,やはりショウジョウバエのようにある特異的な であるので,4EHP の ISG1 5修飾がキャップ構造結合にど メッセンジャー RNA のタンパク質翻訳を抑制していると のように影響を与えるかを検討した.その結果,ISG1 5修 考えている.今後の課題としては Bicoid に相当する分子 飾を受けた4EHP は未修飾のものに比べて,非常に安定に を同定すること,また標的となるメッセンジャー RNA を キャップ構造に結合することが判明した(図4) .このこ 同定することが挙げられる(図6) . とは4EHP と ISG1 5の融合タンパク質を用いた実験からも 証明された(図5) .特に C 末端側に ISG1 5を融合させた 1 1. ISG1 5のニトロ化 4EHP-ISG1 5は,4EHP よりも約2 0倍安定してキャップ構 既に紹介したように1 5 0を超える分子が ISG1 5修飾を 造に結合した.さらに,ヒト4EHP が標的とするメッセン 受けることが示されている.すなわち,ISG1 5修飾が様々 ジャー RNA が不明であったためショウジョウバエのモデ な機能に影響を与える可能性を示唆している.ISG1 5が免 図5 4EHP と ISG1 5の融合タンパク質は4EHP よりも安定にキャップ構造に結合する A,実験に用いた ISG1 5,4EHP と融合タンパク質.B,A に示したそれぞれの分子を 用いてキャップ構造結合活性を検討した.C,3回繰り返した B の定量データ.FLAG4EHP-ISG1 5が最も安定にキャップ構造に結合した(4EHP のキャップ構造結合量を1 とした) . 2 3 0 〔生化学 第8 1巻 第3号 疫反応の初期応答に重要であることが示唆されていること から,効果的な ISG1 5修飾もまた免疫システムに重要で あることが想像される.高濃度の ISG1 5は二量体を形成 しやすく60),ISG1 5がシステイン残基を有していることか らジスルフィド結合による二量体形成が起こっているので はないかと考えた.システインをセリンに変異させた ISG1 5を用いて検討した結果,ジスルフィド結合を介した 二量体が形成されていることが判明した61).また,ISG1 5 と類似の環境下で誘導される分子の一つに inducible nitric oxide synthase(iNOS)が知られている.iNOS は NO を合 成し様々なタンパク質の主にシステイン残基のニトロ化に 寄与している.タンパク質のニトロ化は非常に重要な翻訳 後修飾の一つであり,タンパク質―タンパク質相互作用や 酵素活性などに影響を与えることが多数報告されてい る62).ISG1 5の二量体形成もタンパク質のニトロ化も共に システイン残基が用いられていることから,我々は ISG1 5 のシステイン残基のニトロ化が二量体形成を阻害し, ISG1 5単体を増加させることで効果的な ISG1 5修飾に貢献 している可能性を検討した.その結果,ISG1 5のシステイ ン残基はニトロ化を受けることが分かり,iNOS の発現に より ISG1 5修飾の効率が増大することが分かった61).ま た,NOS 活性を S -ethylisothiourea(ETU)で阻害すると内 在性の ISG1 5修飾は減少した.ISG1 5は二量体を形成する が iNOS を発現させると ISG1 5同士の相互作用が抑制され た61).このことは,iNOS,NO,システイン残基のニトロ 化の少なくとも一つ, あるいは二つ以上が共同して, ISG1 5 のジスルフィド結合による二量体形成を阻止していること を示唆している.以上より,ISG1 5のニトロ化は ISG1 5の 二量体形成を抑制し ISG1 5単体を増加させ効率的な ISG1 5 6 1) 修飾に寄与していることが判明した(図7) . 図6 4EHP 依存的な選択的タンパク質翻訳抑制 A,ショウジョウバエの4EHP と Bicoid は選択的に Caudal 分子 のタンパク質翻訳を抑制する.B,脊椎動物の4EHP はキャッ プ構造結合力が eIF4E1に比べて約1 0 0―2 0 0倍程度弱いために タンパク質翻訳を抑制しない.C,ISG1 5修飾システムが誘導 されると4EHP は ISG1 5修飾を受け,未修飾の4EHP よりも安 定にキャップ構造に結合し,特定のタンパク質翻訳を抑制する と予想される.標的メッセンジャー RNA,Bicoid に相当する 分子は未だ同定されていない. 1 2. 謎の分子 ISG1 5 ISG1 5修飾の生理的な役割は不明なところが多く, ISG1 5 修飾自体もニトロ化を含む様々な制御を受けている可能性 がある.ISG1 5は最初に発見されたユビキチン様分子であ るが,その解析は他のユビキチン様分子に比べて非常に遅 図7 ISG1 5のニトロ化は二量体形成を阻害し ISG1 5の機能を制御する ニトロ化により ISG1 5の二量体形成は阻害され,単体の ISG1 5が増加する.このこ とは効率的な ISG1 5修飾を介してタンパク質の選択的翻訳抑制や抗ウイルス活性に 貢献するものと思われる.また,単体の ISG1 5が増加することで HIV の複製阻害や インターフェロン γ 合成,好中球に対する走化性などに影響を及ぼす可能性がある. 2 3 1 2 0 0 9年 3月〕 れており,生理的に重要な分子であるのかどうかも意見が 分かれている.ISG1 5の解析が進まない一つの理由とし て,ISG1 5修飾率の低さが挙げられる.これまでに調べら れた限りにおいて基質タンパク質の数パーセント程度しか ISG1 5修飾を受けておらず,大部分の基質は未修飾のまま 存在する.ISG1 5修飾を受けた微量の基質タンパク質を単 離精製し解析することはきわめて困難である.また,in vitro で ISG1 5修飾を起こす手法がユビキチンのように確 立していないことも今後の課題として挙げられる. ISG1 5修飾 酵 素 群(ISG1 5,UBE1L,UbcH6,UbcH8な ど)と脱 ISG1 5修飾酵素 UBP4 3はインターフェロン誘導 性タンパク質であり,その発現は厳密に制御されている. このことは,やはり ISG1 5修飾システムの免疫システム における重要性を想像させる.今後,ISG1 5の生化学的解 析のみならず,複雑な制御系である免疫システムを理解す る上で ISG1 5の機能に関する研究の進展は非常に重要で あると思われる. 文 献 1)Jentsch, S. & Pyrowolakis, G.(2 0 0 0)Trends Cell Biol ., 1 0, 4 2. 3 3 5―3 2)Knight, E., Jr., Fahey, D., Cordova, B., Hillman, M., Kutny, R., Reich, N., & Blomstrom, D.(1 9 8 8)J. Biol. Chem., 2 6 3, 4 5 2 0―4 5 2 2. 3)Narasimhan, J., Wang, M., Fu, Z., Klein, J.M., Haas, A.L., & Kim, J.J.(2 0 0 5)J. Biol. Chem.,2 8 0,2 7 3 5 6―2 7 3 6 5. 4)Loeb, K.R. & Haas, A.L.(1 9 9 2)J. Biol. Chem., 2 6 7, 7 8 0 6― 7 8 1 3. 5)Wesoly, J., Szweykowska-Kulinska, Z., & Bluyssen, H.A. (2 0 0 7)Acta Biochim. Pol .,5 4,2 7―3 8. 6)Kessler, D.S., Levy, D.E., & Darnell, J.E., Jr.(1 9 8 8)Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.,8 5,8 5 2 1―8 5 2 5. 7)Sadler, A.J. & Williams, B.R.(2 0 0 8)Nat. Rev. Immunol ., 8, 5 5 9-5 6 8. 8)Au, W.C., Moore, P.A., Lowther, W., Juang, Y.T., & Pitha, P. 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Chem., 2 7 7, 3 5 0 7 1―3 5 0 7 9. 3 2)Tanaka, K., Suzuki, T., Chiba, T., Shimura, H., Hattori, N., & Mizuno, Y.(2 0 0 1)J. Mol. Med .,7 9,4 8 2―4 9 4. 3 3)Niwa, J., Ishigaki, S., Doyu, M., Suzuki, T., Tanaka, K., & Sobue, G.(2 0 0 1)Biochem. Biophys. Res. Commun.,2 8 1,7 0 6― 7 1 3. 3 4)Moynihan, T.P., Ardley, H.C., Nuber, U., Rose, S.A., Jones, P. F., Markham, A.F., Scheffner, M., & Robinson, P.A.(1 9 9 9)J. Biol. Chem.,2 7 4,3 0 9 6 3―3 0 9 6 8. 3 5)Zou, W. & Zhang, D.E.(2 0 0 6)J. Biol. Chem., 2 8 1, 3 9 8 9― 3 9 9 4. 3 6)Wong, J.J., Pung, Y.F., Sze, N.S., & Chin, K.C.(2 0 0 6)Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.,1 0 3,1 0 7 3 5―1 0 7 4 0. 3 7)Dastur, A., Beaudenon, S., Kelley, M., Krug, R.M., & Huibregtse, J.M.(2 0 0 6)J. Biol. Chem.,2 8 1,4 3 3 4―4 3 3 8. 3 8)Okumura, F., Zou, W., & Zhang, D.E.(2 0 0 7)Genes Dev., 2 1, 2 5 5―2 6 0. 3 9)Malakhov, M.P., Kim, K.I., Malakhova, O.A., Jacobs, B.S., Borden, E.C., & Zhang, D.E.(2 0 0 3)J. Biol. 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