Mind the Age Gap 年齢格差に注意

Mind the Age Gap
年齢格差に注意
多くの労働者が退職を先延ばしする中、労働市場に参入しようとしている若年層、とりわけ高いスキル
を必要とする希少な役職にはどのような影響があるのでしょうか?
経済的に活発な 65 歳以上の年齢層の急増が予想されるなか、労働環境は変化しており、特に労働者
の年齢構成には顕著な変化がみられます。
特に歴史的に教育制度の整った国では、こうした高スキルを持ち、経験豊かな高年層が雇用者から
重宝されるようになり、スキル不足によって低迷しているセクターではその傾向が強まるでしょう。しかし、
世界的な傾向として労働者層の成熟が進み、従来の社員構成の中で高年層がまだフル稼働している
場合に、Y 世代や Z 世代の人材をどのように投入するかという懸念が高まります。
これは実業界全体が憂慮すべき状況であり、世界経済に波紋が広がる可能性があります。高スキル
の高年層の労働者が最終的に退職する時、スキルの空洞化が起こり、それを埋めるのに何年もの歳月
と多額の投資が必要になる恐れがあります。
The Economist Intelligence Unit が 2014 年に、ビジネスコンサルティング会社 Towers Watson に代わ
って、欧州全域の企業のシニアエグゼクティブ 480 人を対象に調査を実施したところ、ほぼ 4 分の 3 に
あたる 71%が、2020 年までに 60 歳以上の社員が増加し、22%は大幅に増加すると予想しています。ベ
ネルクス三国で 15,000 人を雇用するテクノロジー大手企業 Philips では、過去 10 年で社員の平均年齢
が 41 歳から 44.3 歳に上昇しています。2007 年には 50 歳以上の社員は 26%でした。現在、その比率
は 32%まで高まっている一方、30 歳未満の社員の比率は 8.8%から 6.2%に低下しています。
同様の傾向は自動車メーカーBMW でも見られます。BMW はドイツで 79,000 人を雇用し、その平均年
齢は 42.7 歳ですが、2020 年には、平均年齢は 46 歳前後に上昇し、同期間に 50 歳以上の社員の比率
は 25%から約 35%に上昇すると思われます。
新興市場では近年教育の向上が急速に進み、若い人材の方が高年層よりも有利になっていますが、
欧州の場合はむしろ Y 世代の将来が懸念されます。ここで懸念されることは、キャリア、組織、最終的に
は働いている業界の将来に不可欠なスキルを発展させられる役職に就けない可能性があることです。
年齢の高い労働者を採用する傾向は強まっており、この傾向はスキルをあまり必要としない職種でさ
え衰える兆しがありません。最新の 2013/14 年 Comensura Government Index では、34 歳以上のすべ
てのグループで一時雇用者が増加していました。特に 45 歳から 54 歳の伸び率は前年比 9.3%、55 歳
から 64 歳は 8%、65 歳以上は 12.1%でした。
しかし、Oxford Institute of Population Ageing の Sarah Harper 教授は、高年層の労働者が若い世代
の昇進とスキルの発展を阻害しているとはいうものの、高年層の社員を採用する利益の方が勝ると考
えています。
Harper 教授は以下のように述べています。「雇用企業は年齢の高い社員を必要としています。年齢の
高い社員はぶらぶらしているだけだという考えは間違っています。その年代は教育水準が高く、働くこと
ができ、また働き続けることを希望しているため、60 代、70 代になるまで組織に貴重な貢献をします。さ
らに、幅広い経験があるため、職務を迅速かつ効率的に行う方法を習得しており、多くの点でその職務に
ついたばかりの若い世代よりも生産的です。」
Harper 教授はまた、このことがキャリアの階段を上り始めるチャンスをうかがっている若い人材に与え
る影響について以下のように主張しています。「南欧の一部地域を見ると、若年層の失業率は高く、雇用
インフラは極めてぜい弱です。若年層にとって 1 つのソリューションは、仕事がある場所に移動することで
しょう。」
求職
地理的に、若年層の失業率が高い分野がある地域では、仕事を求める若年層が移動することが現実的
な提案である可能性があります。しかし、業界の視点から状況を見ると、例えば石油やガスの場合、状況
はさらに複雑で、年齢構成のシフトが業界にダメージを与えた実例があります。
30 年前、英国の重工業および造船業界は、石油ガス業界に参入する若者たちがスキルを習得する場
所でした。しかし、オフショアプラットフォームやオンショア施設のプロセスの自動化が進み、それまでのロ
ーカルのヤードが海外との競争にさらされるにつれ、業界に入る若者が減少し、トレーニングは下火にな
りました。
Hays オペレーションズ担当取締役石油ガス CERoW (Continental Europe and Rest of World)Gary
Ward 氏はこう言います。「欧州と英国はスキルを中東などへ輸出し始めました。UAE では、人口の 90%
が外国から来たスキルのある人材で成り立っています。しかし、その欧州大陸から輸出されていたスキ
ルは、インドやフィリピンの安い労働力に取って代わられています。」
石油ガス業界の労働者の高齢化は、ロシア、南米、極東の一部の地域でも、海外の給与の方が高いた
めに、現地のニーズを満たすために必要なスキルが不足するという問題につながっています。こうした諸
国は自力で高等教育を行い始める一方、大規模な採用活動も行っています。「この問題は、石油ガス業界
の中心的なスキルを必要とする新規電力発電所の建設が始まると英国で問題になるでしょう」と Ward 氏
は述べています。本国でスキルが賄えない場合、英国はおそらく海外からそうした人材を誘致しなければ
ならなくなります。
2012 年に Centre for Retirement Research at Boston College のチームが米国で実施した調査の分析
結果には、スキルを要するポジションから締め出される若い労働者の意識が垣間見えます。
Will delayed retirement by the baby boomers lead to higher unemployment among younger workers?
(ベビーブーマーが退職を遅らせることによって若年層の失業率は上昇するか?)と題し、1977 年から
2011 年の過去の人口統計を使用し、どの程度そのようなクラウディングアウトが米国で存在するかを調
査したところ、高年層の労働者の雇用が増加したために若年層の就業機会が減るという証左はまったく
見られませんでした。
これに対する一つの説明は、スイスのローザンヌ大学と提携関係にあるビジネススクール HEC
Lausanne の組織行動教授兼副学部長 Jörg Dietz 氏が行っており、有能な高年層の労働者が長期間い
ることによって、実際には他者の雇用を創出していると説明しています。
同氏によると、「ここでは熟練を必要とする労働のことを話題にしていますが、私の見解では、こうした極
めて経験が豊富で熟練した社員が 2 年間長く働いても、若年層の社員の就業機会に影響しません。
考えなくてはならない問題は、’誰が熟練しているか’であって、’熟練した労働者は何歳か’ではありま
せん。有能な人材を雇用し、能力を開発し続ける限り、その社員は組織の成功に貢献し、ひいては新し
い雇用を創出します。」
スキルのシェアリング
もちろん、そのソリューションは、近年は個々の企業の制御をはるかに超えている市場の繁栄が続くこと
が前提です。ウェストヨークシャーを拠点とする公営住宅協会 Incommunities Group の不動産ソリューシ
ョン担当ディレクターDelroy Beverley 氏は、雇用企業は高齢化の問題を無視できないと言います。
同グループは建築や建設、会計、ICT などの幅広いセクターで 1,200 人を雇用しています。
Incommunities には、希望者が多すぎる場合は活発な見習いプログラムという形式のスキル開発パイプラ
インがあり、これは労働力に加わろうとする全員に実現可能なキャリアパスを提供すると考えられていま
す。ただし、他者のスキル開発に依存するのはリスクであり、Bradford University’s School of Management
国際諮問委員会会長も務める Beverley 氏は、人々がかつてよりも長く労働市場に残り、これが現在と将
来必要なスキルにどのような影響を与えているかを否定する組織もあると考えています。Beverley 氏によ
ると、「多くの点で、これは雇用企業が向き合いたがらない話題ですが、それが起こっていないかのように
ふるまうのではなく、他の組織、ローカル地域内のセクター全体で、協力する動きがみられます。」
そのような広範なアプローチによって、業界、あるいは全国規模の人材不足さえも、手遅れになる前に
防止し、英国の北海で石油ガス業界が経験したような人材の流出を回避できるかもしれません。「同地
域の他の業界の他の雇用企業と協力し、お互い助け合うために何ができるかを検討する方がよいと思
います。高年層の労働者もやがては退職し、その時にはその人たちのスキルを埋め合わせなければな
らなくなります。」
ケーススタディ
Tyco Fire Protection Products
スペインのマドリッドを拠点とする TYCO FIRE PROTECTION Products (TFPP)は、スプリンクラーシステ
ムなどの製品を販売する米国の多国籍企業 Tyco group の主要部門の 1 つです。
欧州大陸全体で、同社の 60 歳以上の社員数は TFPP の全社員数の 3%を占めます。しかし、設置サー
ビスでは 18%、施設では 14%など、一部の部門ではその比率は著しく高くなっています。
人事部長 Jean Jacques Ribeiro Alves 氏は、同社にはいくつかのスキル移転プログラムがあると述べて
います。「[当社には]、スーパーバイザーレベルでメンタリングプログラムがあり、シニアの社員が若い社員
や新しい社員を指導します。同様のプログラムは管理職候補者にも用意されています。これに加え、一部
の国では「バディシステム」を採用しており、新しく働き始めた社員が最初の 2、3 ヵ月に支援を受けられる
ようにしています。」
Tyco は高齢層の社員のスキルを常に向上させることも重要であると認識しています。Ribeiro Alves 氏は、
「現在の環境は規制が非常に厳格であり、絶え間なく変化しているため、最新の状況に合わせて社員のス
キルを向上させることは欠かせません。全部門、全カテゴリの社員が総力をあげて努力することになります」
と 述べています。
インサイト
人材への信頼
「高年層の社員の仕事が多ければ、若い社員の仕事が減る」という見解には根拠がない、と Jobs
Economist の取締役で元 CIPD の主任経済アドバイザーの John Philpott 氏は言います。
「労働力の高齢化に伴うスキル関連の問題でより深刻なのは、高年層の労働者のスキルを最新の状
態に維持するための投資が十分ではないことです。
若年層の問題は、職場でそうしたスキルを利用する機会がないことです。」しかしながら、これは個々の
組織で見れば若年層にとって問題となるかもしれませんが、経済全体で見れば問題ではありません。同氏
は、自然な事業の創造と崩壊に、企業内の労働力の回転が加われば、若年層にはむしろ十分である以上
の仕事を得る機会が常にあるとしています。
「確かに、近年こうした機会は限られていますが、これは社員の高齢化に関連する構造的な変化ではなく、
スキルのパイプラインへの投資の減少と、若年層の雇用率の低下を反映するものです。」