平成 21 年 12 月 28 日 報道機関各位 公的な職業紹介システムの今日的な意義に関する調査研究 発表について 財団法人日本生産性本部 財団法人日本生産性本部(理事長 谷口恒明)は、 「公的な職業紹介システムの今日的な意義に関 する調査研究」 (財団法人労働問題リサーチセンター委託研究、研究会主査:仁田道夫東京大学教授) についての報告書をとりまとめた。この調査研究では、主要国の公的な職業紹介システムの現状と 問題点に関する現地調査を行ったものであり、その結果を踏まえてわが国の公共職業安定機関の役 割とその方向性に示唆すべき課題について検討を行った。 公的な職業紹介システムの今日的な意義に関する調査研究 1 主要国(フランス、アメリカ、オーストラリア)の各国について、公的な職業紹介システムの 状況に関する現地調査を行い、それぞれの国における公的職業紹介サービスの現状とその課題を 整理した結果、以下のような特徴が見られた。 ① フランス 「公共職業紹介サービスの効率化・組織統合の取り組み」が進展。 職業紹介においては、国の機関である公共職業安定所(ANPE)と、失業給付を担う労使団体 (UNEDIC/Assedic)が深く関わり、その機能を発揮している。2009 年から ANPE と UNEDIC は統合された。 ② アメリカ 「ワンストップ・センターの地域におけるガバナンス」が課題。 ワンストップ・センターは、州レベルで設置されるボードによって、連邦政府拠出の予算お よび自前の予算の配分が決まる。将来の産業動向分析による労働力需要側の視点か、または未 熟練労働者支援のニーズに着目した労働力供給側の視点か、といった論点が浮き彫りとなった。 ③ オーストラリア 「ジョブ・ネットワーク改革と長期失業者支援のあり方」が課題。 1996 年以降、公共職業紹介の民間委託が進められてきたが、民間委託手法への批判や、今後 の方向性など、様々な課題が生まれ、現在制度見直しが進められている。 2 わが国の公的職業紹介システムとしては、ハローワーク(公共職業安定所)が設置されている。 その抱える課題は、職業紹介に関する専門性の充実、業務量増加の中での職員数の削減、対求職 者サービスとともに対求人サービスの充実、働き方の多様化と労働力需給調整面の対応などがあ る。 3 主要国の調査結果からみたわが国の公的職業紹介システムへの示唆としては、次のとおり。 ① 失業認定と職業紹介の一体的運用には合理性。 ② 相談機能を中心にした専門性充実が最大の課題。また、キャリアカウンセリング機能の強化 が重要。 ③ 公的職業紹介サービスは、多くの民間事業者との競合、競争の中での補完が基本的な考え方。 一方で、セーフティネットの観点から公的機関の適正配置に留意が必要。 ④ 雇用政策全般との関係性の強化が重要だが、とくに職業訓練とのリンケージが最大の課題。 【お問合せ先】 (財)日本生産性本部 社会労働部 〒150-8307 東京都渋谷区渋谷3-1-1 TEL. 03-3409-1122 FAX. 03-3409-1007 齋藤 要 Ⅰ 旨 主要国の公的な職業紹介システムの概況 1 フランス:公共職業紹介サービスの効率化・組織統合の取り組み 職業紹介においては、国の機関である公共職業安定所(ANPE)と、失業給付を担う労使団体 (UNEDIC/Assedic)が深く関わり、その機能を発揮する。こ ANPE に対する評価としてはサ ービスの成果などの明確な数値目標が設定されており、公的な役割を担う機関のガバナンスの あり方として注目される。 特色としては、ANPE 地域支部(ALE)における求職者対応のセクター別アプローチがある。各 地域の求人需要を踏まえ ALE 毎に支援対象とするセクターを設定している。現場の職員レベル では、情報共有・チームワークを重視した人材マネジメントがなされている。 ANPE と失業保険制度の運営機関である UNEDIC は、失業保険の給付と求職活動支援をひとつ の組織で対応する(ワンストップサービス化)ために統合され国の機関となった。 2 アメリカ:ワンストップ・センターの地域におけるガバナンス課題 ワンストップ・センターは、州レベルで設置されるボードによって、連邦政府拠出の予算およ び自前の予算の配分が決まる。将来の産業動向分析による労働力需要側の視点か、または未熟 練労働者支援のニーズに着目した労働力供給側の視点か、といった論点が浮き彫りとなった。 ヒアリング対象のメリーランド州では、すでに民間営利企業は撤退し、運営は官に戻されてお り、部分的に NPO がプログラム運営を担うなどの連携が行われている程度である。ワンストッ プ・センター職員については州職員が担っているが、民間からの転職が頻繁に行われている。 3 オーストラリア:ジョブ・ネットワーク改革と長期失業者支援のあり方 オーストラリアでは、ハワード政権下の 1996 年以降、公共職業紹介の民間委託が進められた。 民間委託手法への批判、新政権における位置づけ、今後の方向性など、様々な課題が生まれて いる。 わが国と大きく異なるのは、公共職業紹介の対象が失業扶助制度(オーストラリアには失業保 険制度はない)の対象となる深刻な長期失業者や若年失業者、そして先住民族に限定されてお り、深刻な福祉的ニーズの観点なくしては成立しない点である。民間委託先としても、例えば サルベーション・アーミー(救世軍)など非営利組織がその発注先の大手となっている。 Ⅱ わが国における公的職業紹介システムの現状と今後の展望 -主要国の調査結果からみたわが国の公的職業紹介システムへの示唆- 1 ハローワークの現状と課題 わが国の公的職業紹介システムとしては、国の機関としてハローワーク(公共職業安定所)が 設けられている。就職にあたって、ハローワークを入職経路とした者の割合は約 2 割(平成 18 年)で、平成 10 年以降同水準となっている。失業者の主な求職方法はその 4 割程度がハローワ ーク求職となっており、求人広告などその他の求職方法よりも失業者の利用が多いのが特徴。 公的な職業紹介システムとしてのハローワークには、①申し込まれた求人・求職はすべて受け 入れ、適切な対応を行うこと、②全国どこにあっても求人・求職ができること、③無料の職業 紹介サービスであること、④公共政策としての雇用政策に沿う面を持つことが要請される。 ハローワークの抱える課題としては、職業紹介に関する専門性の充実、業務量増加の中での職 員数の削減、対求職者サービスとともに対求人サービスの充実、働き方の多様化と労働力需給 調整面の対応などがある。 2 今後のわが国の公的職業紹介システムの方向 主要国の調査結果からみた、公的職業紹介システムへの示唆としては、次の点が考えられる。 雇用保険の認定との関係については、失業認定と職業紹介の一体的運用には合理性がある。 職業紹介サービスの機能については、相談機能を中心に、その専門性を充実していくことが最 大の課題となる。また、キャリアカウンセリング機能の強化を図ることが重要。 公的な職業紹介サービスは、多くの民間事業者との競合、競争の中で補完していくのが基本的 な考え方となるが、セイフティネットという観点から公的機関の適正配置にも留意する必要。 雇用政策全般との関係性を強化することが重要であるが、今後、職業訓練とのリンケージが最 大の課題。 1 概要 公的な職業紹介システムの今日的な意義に関する調査研究 Ⅰ 主要国の公的な職業紹介システムの概況 1 フランス―公共職業紹介サービスの効率化・組織統合の取り組み― 公共職業紹介体制の新たな組織体構築に取り掛かっている。職業紹介においては、国の機関 である公共職業安定所(ANPE)と、失業給付を担う労使団体(全国商工業雇用連合(UNEDIC) /地域商工業雇用協会(Assedic))が深く関わり、その機能の多くを担うが、ANPE と UNEDIC を統合し、職業紹介と失業給付の双方を担当する国の機関である新たな組織「Pole emploi (雇用局)」が 2009 年1月に設立された。新たな組織体構築は効率的運営と、個別雇用計画 (PPAE、第 5 項目参照)を軸としたサービス向上の上で進められている。 ANPE に対する評価としてはサービスの成果などの明確な数値目標が設定されており、公的 な役割を担う機関のガバナンスのあり方として注目される。また、ANPE、UNEDIC/Assedic ともに、現在、一部の業務の民間委託を行っている。 更なる特色としては、ANPE 地域支部(ALE)における求職者対応の業種セクター別アプロ ーチがある。各地域の求人需要の動向を踏まえて、ALE 毎に支援対象とする業種セクターを 設定し、地域別の業績管理を徹底している。また、現場の職員レベルでは、情報共有・チー ムワークを重視した人材マネジメントがなされている。 失業保険制度は、労働協約に基づき、制度の管理運営を労使により設立された公益法人たる 全国商工業雇用連合(UNEDIC)および地域商工業雇用協会(Assedic)が運営している。失 業保険給付の種類は、2001 年の失業保険協定により、雇用復帰支援手当(ARE)に原則一本 化。ARE の受給は、非自発的に仕事を失い、一定の条件を満たしている場合に認められる。 失業者が雇用保険給付を受給するためには、求職者登録が必要である。求職者登録には再就 職活動が義務付けられ、その指針となる「個別就職計画(PPAE)」が作成される。この PPAE の最大の特徴は、雇用保険給付の支給と再就職活動を一体化させたこと。この計画は公共職 業安定所(ANPE)で作成され、個人の就職活動を支援する。職業訓練が必要とみなされた 場合、雇用契約の中に盛り込むことが検討され、場合によっては Assedic による特別手当の 支給も明記。この PPAE は Assedic にも伝えられて、その計画が実行可能かどうかを確認。 PPAE 以前の制度(雇用復帰支援計画、個別行動計画)との相違点は、個々の求職者の就職 活動を一段と強化したことと、雇用保険給付の受給権を持たない求職者にも適用される点。 その結果、求職者の状況を問わず同一の制度の下で、就職活動が支援される。 長い間 ANPE に職業紹介についての公的な独占権が与えられていたが、2005 年 1 月 18 日の 「社会的な結合枠組み法令」(Social Cohesion Framework)によって、いくつかの条件の下、 民間事業者の活動が認められた。また、地方公共団体に公的雇用サービスへの協力を義務付 けることなどが定められた。さらに「公的雇用サービスの組織の改革に関する 2008 年 2 月 13 日の法律」により、ANPE と失業保険制度の運営機関である UNEDIC は、失業保険の給付 と求職活動支援をひとつの組織で対応する(ワンストップサービス化)ために統合された。 2 2 アメリカ―ワンストップ・センターの地域におけるガバナンス課題― アメリカにおける労働力の需給調整は、基本的に州の責任とされ、各州にある公共職業サービ ス機関は、各州が所掌・運営している。連邦労働省が雇用・失業対策行政を所掌しており、労 働省の雇用訓練局(Employment and Training Administration: ETA)が雇用および職業訓練 にかかる政策・法令を所掌する。 職業訓練については、1980 年代の経済失速を受け、90 年代に入り公的職業訓練政策のあり方 が議論となった。この流れを受け、1996 年個人責任と就労機会調停法(福祉改革法)により「生 活保護プログラム」を廃止し、自立のための生活保護に切り替えられた。さらにより効果的な 職業訓練政策の実施が求められ、労働力投資法(WIA)が施行された。 社会保障法に基づき、連邦・州失業保険が整備され、連邦労働省が制度のガイドラインを決め て監督し、各州が独自のプログラムを管理運営している。制度の主な目的は、①非自発的失業 者に対する賃金の一時的、一部補填及び②景気後退期における経済の安定確保である。 職業紹介については、労働力投資法の下、連邦労働省が政策面を所掌するが、ワンストップ・ センターの運営は各州レベルが所掌する。州レベルで設置されるボードによって、連邦予算お よび自前の予算の配分が決まる。ローカル(もしくは州)ボードにおける民間ビジネスの存在 がある。このボードでは、51%がビジネスから選出されなければならない。コミュニティ・ビ ジネス組織や労働組合なども選出される。 現在は、労働力投資法(1998 年、Workforce Investment Act)の下、ワンストップ・センタ ーが運営されている。ワンストップ・センターは、州レベルで設置されるボードによって、連 邦政府拠出の予算および自前の予算の配分が決まる。将来の産業動向分析による労働力需要側 の視点か、または未熟練労働者支援のニーズに着目した労働力供給側の視点か、といった論点 が浮き彫りとなった。 民間委託の状況としては、州によっては、センター運営全体を民間営利企業が担う事例もある が、多くはない。ヒアリング対象としたメリーランド州については、既に民間営利企業が撤退 し、運営が官に戻されていた。民間との連携については、部分的な形で、NPO がプログラム運 営を担うなどが行われている程度である。ワンストップ・センター職員についても州職員が担 っているが、民間からの転職者が多く見られている。 3 3 オーストラリア―ジョブ・ネットワーク改革と長期失業者支援のあり方― オーストラリアには他の欧米先進国のような失業保険制度はない。ただし、1991 年社会保障法 (Social Security Act 1991)および 1973 年学生および若年者援助法(Student and Youth Assistance Act)に基づき、全額国庫負担による社会保障給付の一環として給付されるミーン ズテストを要する失業扶助制度がある。その主な給付としては、16~24 歳を対象とする若年者 手当(Youth Allowance)、21 歳以上を対象とする新就職手当(New start Allowance)があ る。 失業扶助受給者は、連邦政府の社会保障給付等を総合的に行うセンターリンク(Centrelink) に申請を行い、Job Seeker Classification Instrument によって就職困難度についての審査を受 ける。審査により求職支援にあたる者は、ジョブ・ネットワーク事業者を紹介される。 ハワード政権下の 1996 年以降、公共職業紹介(CES)の民間委託が進められてきた。CES の 効率性とサービス水準が問題視され、CES は政府出資のエンプロイメントナショナル社に再編 され、公共職業紹介の民間委託が進められてきた。3 年ごとの入札により事業者が政府に代わ り職業紹介事業を行うこととなり、同社を含む民間事業者による競争入札によってジョブ・ネ ットワークを形成した(1998 年)。しかしながら、エンプロイメントナショナル社は赤字のた め 2003 年に清算された。 その後、民間委託手法への批判や、新政権における位置づけ、今後の方向性など、様々な課題 が生まれ、民間開放から 10 年目を節目として、政府によるディスカッションペーパーが出さ れた。その主要な論点は、契約管理業務が煩雑化した点の是正や、意欲の低い求職者に対する 制裁的な枠組みの是正など、より求職者重視かつ訓練重視への転換の方向である。 求職者支援サービスに関しては、落札した 100 近くの事業者が 1100 箇所以上の職業紹介所を 運営している。特徴は、公共職業紹介の対象が失業扶助制度の対象となる深刻な長期失業者や 若年失業者、そして先住民族に限定されており、深刻な福祉的ニーズという観点なくしては成 立しない点にある。これは日本と大いに異なっている。 民間委託先としても、例えばサルベーション・アーミー・エンプロイメント・プラス(SAEP; 慈善団体である救世軍によるジョブ・ネットワーク・プロバイダ)がその発注先の大手となっ ている。また、ジョブ・ネットワークと呼ばれる民間委託 10 年の経験により、参入している 事業者は体力のある事業者に選別されている。 ジョブ・ネットワーク事業者の職員についても、ヘッドハンティングなどの人材紹介分野の経 験というよりは、元 CES(公的職業紹介所)職員や元センターリンク職員であり、職業紹介分 野を同じくして、その志を遂げるべくフレキシブルに労働市場を渡り歩く人材の層が見られた。 4 Ⅱ わが国における公的職業紹介システムの現状と今後の展望 -主要国の調査結果からみたわが国の公的職業紹介システムへの示唆- 1 ハローワークの現状と課題 (1) ハローワークの現状 ハローワークにおける平成 20 年度の新規求人数は 1 月当たり 63 万人で 1 年間に 760 万人、新 規求職者数は 1 月当たり 59 万人で 1 年間に 703 万人。 ハローワークへの求職申込みを主な求職方法であるとする完全失業者の割合は 4 割程度(平成 19 年)を占め、「求人広告・求人情報誌」「学校・知人などの紹介依頼」「労働者派遣事業所に 登録」「民間職業紹介所などに申込み」などのハローワーク以外の求職方法よりも多い。 入職者の入職経路をみると、ハローワークにより入職した割合は約 2 割(平成 18 年)で、平 成 10 年以降同水準を維持。 ハローワークの利用者には実態として次のような特徴。 ① 現に在職している人やこれまで未就業で仕事に就こうとする人の利用は相対的に少なく、 離職者の利用が多く、離職者の中では、非自発的離職者が多いこと。 ② 正社員で就職を希望する人が多いこと。 ③ 失業期間 3~6 ヶ月未満を中心に 1 年未満の人の利用が多いこと。 ④ 若年層と高年齢層での利用が多いこと。 ⑤ 製造業や医療・福祉といった産業でハローワーク経由の入職者が相対的に多いこと。 ⑥ 規模の小さい企業でハローワーク経由の入職者が相対的に多いこと。 ⑦ 大都市圏に比べて地方圏に属する地域での利用が相対的に高いこと。 ⑧ 生産工程や医療福祉といった現業的な職業や事務など、一般的な職業において求職・求人が 相対的に多いこと。 ⑨ 上記のような特徴があるものの、相対的に少ないとされる利用者層についても、近年利用 が伸びている面があること。 (2) 公的な職業紹介システムとしてのハローワーク 公的な職業紹介システムとしてのハローワークには、次のような事項が要請される。 ① 申し込まれた求人・求職はすべて受け入れ、適切な対応を行うこと ② 全国どこにあっても求人・求職ができること(ハローワークが全国ネットワークを構成し 求人者・求職者を支援する) ③ 無料の職業紹介サービスであること ④ 公共政策としての雇用政策に沿う面を持つこと (3) ハローワークの課題 (職業紹介に関する専門性の充実) ハローワークの課題としては、まず、職業紹介に関する専門性の一層の充実であり、とりわけ 5 相談機能の充実を挙げることができる。 (業務量増加の中での職員数の削減) ハローワークが取り扱う職業紹介関係の業務量は長期的に増大してきている一方で、ハローワ ークの職員数は減少してきている。主要諸外国の公的職業紹介機関と比較しても、我が国のハ ローワークはかなり少ない人員で多くの業務量を担っているといわれている。こうした客観的 な環境条件に対応し、業務の効率化や職業紹介における一層の効率化を図ることが求められて いる。 (対求職者サービスとともに対求人サービスの充実) 今後は対求人サービスも意識して充実を図りつつ、対求職者サービスと対求人サービスとが車 の両輪としてバランスをもって行われることが重要。 (働き方の多様化と労働力需給調整面の対応) 雇用・就業形態の多様化、働き方の多様化が急速に進展しており、そのことがハローワークの職 業紹介にも様々な影響と課題を投げかけている。すなわち雇用慣行の見直しの中での正社員の 労働移動の高まりと、それに対するハローワークの対応、パートの求人・求職がハローワークに おいて一定のウエイトを持ってきている中、パートについて職業紹介を通じての貢献、さらに、 派遣労働、請負労働増加に対する対応などが求められている。 2 今後のわが国の公的職業紹介システムの方向 (1) 雇用保険の認定との関係 我が国においては、ハローワークにおいて職業紹介、雇用保険、雇用対策の三つの雇用セイフ ティネットの機能が一体的に整備されていることが大きな特徴。このことが、雇用情勢の変化 に対する機動的対応を可能にしているとともに、求職者の再就職活動を促進していくうえで有 効であった。 失業の認定行為と職業紹介を切り離していくことの可否が、人材ビジネスとの関係でひとつの 論点。両者を別々の機関で行うことが合理的であるという考え方もあり得る。なお、フランス ではこれまで両機能を ANPE と UNEDIC という別機関が分担していたが、現状では両機関が統 合されている。 この問題は、雇用(失業)保険の役割をどのように捉えるかに大きく依存。わが国の場合には、 失業保険法から雇用保険法への転換を経て、失業予防、雇用安定、能力開発という雇用政策目 的を果たすための機能が強化されたかたち。失業給付についても、仕事を探すことについての 意思の確認を前提に、定額制ではなく、求職者の就職困難度などとリンクすることで、再就職 促進という政策効果が強調される。失業認定と職業紹介の一体的運用には合理性。また、雇用 保険財政の健全性の観点から、職業紹介同様地域に分割せず全国一本で運営することが必要。 (2) 職業紹介サービスの機能 職業紹介サービスについては、相談機能を中心に、その専門性を充実していくことが最大の課 題。その具体的な方向性は、ハローワークの専門性の向上と担当する職員の資質向上との二つ。 6 前者については、フランスの例にみられるように、対象とする業種の重点化など対象の特性に 応じた対応を図ることが考えられる。 一方、職員の資質向上については、キャリアカウンセリング機能の強化を図ることが重要。カ ウンセラー能力の向上が中心的な課題となるが、それにとどまらず産業事情や企業活動につい ての専門知識など幅広い知見を持って行動できるようにすることが必要。このため、研修機能 の充実はもとより、日常的な業務の遂行をサポートできるようなヘルプデスク的機能の充実を 含め、関係情報のデータバンク化が必要。また、関係業界との密接な情報交換など地域レベル でのネットワークの形成を果たすコーディネーターとしての役割も重要。 (3) 民間事業者との関係 職業紹介サービスは、現状においても公的機関の独占ではなく、多くの民間事業者との競合、 競争の中で補完していく姿。今後も、この考え方は基本的に支持されるが、その一方、セイフ ティネットという観点から、民間事業者の不在によって雇用政策的な欠陥をもたらすことのな いよう、公的機関の適正な配置にも留意する必要。 民間事業者との補完関係という点については、採算の可能性などの点で民間事業者が地域的に 偏在してしまう可能性、求職者の「困難性」の把握は、その地域の労働市場の状況に左右され るとともに、実際の相談過程の中で行われていくという側面もあることから、機械的に分担関 係を特定することは難しい。 一方、民間事業者とセミナーや相談会など共同で事業を実施するような形での連携はもっと考 えられてよいのではないか。その場合、公的機関が地域の中核センターの役割を果たし、共同 事業の実施場所などプラットフォームとして機能させることも考えられよう。また、人的な面 でも、カウンセラーなどの専門人材について、積極的に外部から採用したり、協力者のネット ワーク化とその活用システムを構築したりするなど民間人材の登用を進めるべきである。 (4) 雇用関連施策とのリンケージ 職業紹介に関する公的機関が雇用のセイフティネットの機能を十分に果たしていくためには、 雇用政策全般との関係性を強化することが重要な課題である。特に、就職困難者に対しては、 職業紹介と職業指導(労働条件緩和指導等) 、雇い入れ支援助成等との連携強化が必要である。 今後、職業訓練とのリンケージが最大の課題となる。今回の調査研究においても、各国の職業 紹介機関のサービスは教育訓練の付加サービスと結びつくことで、その有効性が発揮されてい るといえよう。具体的に、職業訓練との関係性を強めるためには、雇用保険制度においても、 求職者の教育訓練の受講を支援するため、個々の求職者の状況に応じて弾力的な給付が行える ような仕組み等の検討も今後の課題であろう。 7
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