ふとんの新 JIS 取扱い表⽰に関する JBA ガイドライン 2016年2⽉ ⼀般社団法⼈⽇本寝具寝装品協会 1.ふとんの新JIS取扱い表示を考える際の時代背景 ●JISの制定、繊維製品品質表示規程の改正と施行 家庭用品品質表示法により指定された繊維製品は、洗濯などの「取扱い表示記号」を表示しなけれ ばならないが、衣類などの生産や流通において国際化の取引が一般的になってきた。この流れに対応 するために新しい「取扱い表示記号」が、平成 26 年 10 月 20 日に「繊維製品の取扱いに関する表示記 号及びその表示方法」JIS L 0001 として制定された。そして、「取扱い表示記号」に関する繊維製 品品質表示規程が平成 27 年 3 月 31 日に改正され、平成 28 年 12 月 1 日から施行される。 ●寝具業界の状況 ふとんは、洗濯などの「取扱い表示記号」を表示する対象品目にはなっていないが、家庭で洗濯で きるふとんの要望やふとんも洗えるように素材開発や加工技術が進み、縫製面での工夫もあり、洗え るふとんが多くなってきた。ふとんメーカーは、消費者に家庭で洗濯できるふとんであることが分か り易いように「ウォッシャブルふとん」の名称や洗濯などの「取扱い表示記号」を商品に付けるよう になった。 しかし、ふとんに取扱い表示を付ける場合、商品特徴として ①生地の寸法安定性(生地の組成、 防縮加工等)、②詰めものの形状(生わた、樹脂加工、羽毛等)、③キルティングデザイン(キルト の大きさや綴じの個数等)、④機能加工(抗菌防臭加工、防ダニ加工、消臭加工等)などが個々に違 うので、それらを考慮して個々のふとんの特性に合った取扱い表示記号を決める必要がある。 ●家庭洗濯とふとんクリーニング業者 消費者がふとんを洗濯する場合は、家庭洗濯をするか、あるいは、ふとんクリーニング業者に依頼 することになる。JEMA( 一 般 社 団 法 人 日 本 電 機 工 業 会 ) の 統 計 ( 経 済 産 業 省 「 生 産 動 態 統 計 調 査 」 ベ ー ス ) に よ る と 、 1990 年 以 降 の 洗 濯 機 市 場 は 91 年 を ピ ー ク ( 出 荷 台 数 約 570 万 台 ) に 2002 年 ま で 微 減 傾 向 に あ っ た も の の 、 そ の 後 持 ち 直 し て 450 万 台 前 後 で 推 移 し て い る 。家庭洗濯機の市場動向は調査会社GfKジャパンの調べによると、『タイプ別数量構成比は 縦型が86%、ドラム式は10%、二層式が4%。2011 年から 2014 年までドラム式が微減傾向にあり、 “縦型回帰”の方向性が見える。』としている。(日経トレンディ 2015.9.1 より) また、家庭洗濯機メーカーの取扱い説明書を調べると、毛布やふとんに関する洗い方の記載があるも のや独自の“毛布コース”や“大物洗いコース”が設定されているものがある。また、毛布やふとん の洗濯時には、洗濯ネットに入れてください。洗濯キャップ(別売)を使用してください。などの記 載があり、洗濯機メーカーにより内容が異なっているのが現状である。 一方、ふとんクリーニング業者については、全国ふとんクリーニング協会(1995 年設立 理事長 木 村正義、正会員企業40社・団体からなる全国組織)があるほか、独自のクリーニング技術を持つふ とんクリーニング事業者が全国にある。クリーニング店やふとん店がふとん洗いの取次店となり専門 的なクリーニングが行われている。 2.JBAの対応 JBAでは、ふとんの標準的な取扱い表示の表記例を示すことで、業界としてバラバラの表示でな くある程度のまとまりのある表示にすることにより、消費者の混乱が少なくなると考える。そこで、 1 代表的な掛けふとんの種類ごとに洗濯試験を行い、標準的な取扱い表示の表記例を示すことにした。 表記例は、“上限表示”と“JBA推奨”の 2 通りを記載したが、実際の洗濯表記の決定にあたって は、寝具メーカー各社での洗濯試験や商品特性を考慮して洗濯表記を決める必要がある。なお、敷き ふとんについては、素材の組み合わせや構造が多岐に渡る現状であるため標準的な表記例が示しにく いと考え、今回の洗濯試験からは除外している。また、以下の現状を踏まえた付記用語もケア表示が 必要と考える。 ① JIS 規格の試験方法(JIS L 1930、JIS L 1931-1~1931-4)には、詳細な試験方法が規定され ているが、ふとんの家庭洗濯試験方法においては浴比など、JIS の規定通りの洗濯では製品を傷め る恐れがあるので、JBA での試験では、水位は「高水位」で行なうなど、現実的な洗濯方法で行う こととした。その観点から家庭洗濯できるふとんにおいては、消費者に注意喚起するためのケア表 示として「洗濯機をご使用の場合、洗濯ネットの使用、水位の設定等は取扱説明書に従ってください。」 を表記する。 ② 家庭洗濯、ドライクリーニング及びウェットクリーニングもできないふとんにおいては、ケア表示 として「やむを得ずクリーニングする場合は、丸洗い専門業者等にご相談ください。」を表記する。 ③ 家庭洗濯、ドライクリーニングはできないが、特殊な技術をもつ丸洗い専門業者が行うウェットク リーニング (非常に弱い処理)のみができる場合は、ケア表示として「丸洗い専門業者等にご 相談ください。」を表記する。 ④ 新 JIS では、“上限表示”をすべきであるので、塩素漂白剤はダメでも酸素系漂白剤の使用が可能であ るかについて考察した。酸素系漂白剤は、液体タイプ(過酸化水素)と粉末タイプ(過炭酸ナトリウム) がある。過炭酸ナトリウムは、水に溶けると過酸化水素と炭酸ナトリウムに分かれ、炭酸ナトリウムは、 アルカリ性なのでたんぱく質系素材には不向きである。したがって、たんぱく質素材(羽毛、羊毛、絹) を使用している製品で の表記をする場合は、液体タイプを使用する必要があることから、付記用語 として「液体酸素系漂白剤使用」を表記する。 ⑤ 水分にデリケートなウール素材の製品については、ドライクリーニングにおいてソープの添加は回避す べきことから「ソープなし」の付記用語が必要とも考えたが、 の洗濯基準条件には水の添加0% (ソープなし)が含まれているので、「ソープなし」の付記用語は表記しない。 3.取扱い表示の具体例 今回の洗濯試験の結果を基に掛けふとんの種類ごとの取扱い表示と付記用語の表記例を以下に示す。 表記は、①取扱い表示記号、②付記用語(取扱い表示記号を補足する言葉)、③ケア表示(ふとんの 洗濯に関する全体的な留意点)の3つに分けて記載している。 品質表示ネームへの記載は、取扱い表示記号・付記用語・ケア表示の順で表記する。 【注 意】 ふとんは同じ素材の生地や詰めものであっても詰めもの重量やキルティングデザイン等が多岐に渡り、 その仕様により洗濯の可否や耐久性、洗濯の方法が大きく変わる。以下に示した表示記号はあくまで 標準的な仕様の製品に対する取扱い方法であり、実際の表示にあたっては、その製品の仕様等を考慮 し表示者の責任において表示を行うこと。 2 ふとんの種類 羽毛掛けふとん 取扱い表示記号 上限表示: 付記用語 ・中性洗剤使用 がわ生地: 綿 100% 又は、 T/C(綿 50%以上) 羽毛掛けふとん JBA 推奨: 上限表示: ・中性洗剤使用 (ポリエステル 50%以上) JBA 推奨: ・中性洗剤使用 羽毛肌掛けふとん 上限表示 がわ生地: T/C・TTC ・中性洗剤使用 がわ生地: 綿 100% 又は、 T/C(綿 50%以上) 羽毛肌掛けふとん JBA 推奨: ・中性洗剤使用 上限表示: ・洗濯ネット使用 がわ生地: ・液体酸素系漂白剤 T/C・TTC (ケア表示/必須)洗濯機をご使用の場合、洗濯ネットの使用、水位の 使用 (ポリエステル 50%以上) 設定等は取扱説明書に従ってください。 ・中性洗剤使用 JBA 推奨: ・液体酸素系漂白剤 使用 羊毛掛けふとん ・中性洗剤使用 上限表示: がわ生地:綿 100% JBA 推奨: 羊毛肌掛けふとん ・中性洗剤使用 上限表示: がわ生地:綿 100% JBA 推奨: 3 羊毛ウォッシャブル ・中性洗剤使用 上限表示: ・洗濯ネット使用 肌掛けふとん がわ生地: ・液体酸素系漂白剤 (ケア表示/必須)洗濯機をご使用の場合、洗濯ネットの使用、水位の 綿 100%(防縮加工) 又は、T/C・TTC (ポリエステル 50%以上) ・中性洗剤使用 JBA 推奨: ・洗濯ネット使用 (ケア表示/必須)洗濯機をご使用の場合、洗濯ネットの使用、水位の ・液体酸素系漂白剤 設定等は取扱説明書に従ってください。 真綿掛けふとん がわ生地:絹 100% 上限表示: (ケア表示/必須) 和とじ やむを得ずクリーニングする場合は、丸洗い専門 業者等にご相談ください。 JBA 推奨: (ケア表示/必須) やむを得ずクリーニングする場合は、丸洗い専門 業者等にご相談ください。 真綿掛けふとん 上限表示: がわ生地:綿 100% *キルティングが 細かな場合 JBA 推奨: (ケア表示/必須) やむを得ずクリーニングする場合は、丸洗い専門 業者等にご相談ください。 合繊掛けふとん 上限表示: がわ生地: 綿 100% 又は、 T/C(綿 50%以上) 使用 設定等は取扱説明書に従ってください。 JBA 推奨: 4 使用 合繊肌掛けふとん がわ生地: 綿 100% 上限表示: ・洗濯ネット使用 (ケア表示/必須)洗濯機をご使用の場合、洗濯ネットの使用、水位の 又は、 設定等は取扱説明書に従ってください。 T/C(綿 50%以上) JBA 推奨: 合繊肌掛けふとん がわ生地: 上限表示: ・洗濯ネット使用 (ケア表示/必須)洗濯機をご使用の場合、洗濯ネットの使用、水位の 綿 100%(防縮加工) 設定等は取扱説明書に従ってください。 又は、T/C・TTC (ポリエステル 50%以上) JBA 推奨: (ケア表示/必須)洗濯機をご使用の場合、洗濯ネットの使用、水位の ・洗濯ネット使用 設定等は取扱説明書に従ってください。 麻掛けふとん がわ生地:麻 100% 上限表示: ・洗濯ネット使用 (ケア表示/必須)洗濯機をご使用の場合、洗濯ネットの使用、水位の 詰めもの:麻 100% 設定等は取扱説明書に従ってください。 (樹脂加工わた) JBA 推奨: ・洗濯ネット使用 (ケア表示/必須)洗濯機をご使用の場合、洗濯ネットの使用、水位の 設定等は取扱説明書に従ってください。 綿掛けふとん がわ生地:綿 100% 和とじ 上限表示: (ケア表示/必須) 丸洗い専門業者等にご相談ください。 及び キルティング JBA 推奨: (ケア表示/必須) やむを得ずクリーニングする場合は、丸洗い専門 業者等にご相談ください。 5 次に、ふとんの品質表示ネームでの表示の一例を示す。 品質表示ネーム 裏面 表示例 (羽毛肌掛けふとん 洗濯可の場合) パターン1 パターン2 4.クリーニングトラブルを起こさないための課題 ふとん業界: ・各社が製造販売する製品で、「洗濯可能」と表記する規格の製品は、自社でも家庭洗濯や商業クリ ーニング試験を行い、洗濯後の変化(寸法変化、詰めものの片寄りや綿切れなどの形状変化)を掴 んでおく必要がある。また、飾り付きや機能加工の仕様の製品は、その洗濯耐久性を把握しておく こと。 ・家庭洗濯可能とする製品は、洗濯した後の脱水方法と乾燥方法と乾燥に必要な時間を考慮して決め る必要がある。洗いから乾燥までが家庭で現実的にできて家庭洗濯可能と言える。クリーニング工 場でもふとん洗いでは、乾燥・仕上げ工程が一番難しいとも言われているので要注意である。 ・品質表示ネームに取扱い表示を印刷する場合は、使用期間中は取扱い表示が判読可能な耐久性を持 っていることを確認しておくこと。 6 ふとんクリーニング店、ふとんクリーニング工場: ・新 JIS の取扱い表示では、ウェットクリーニングの表示が新たに加わったので、ふとんにおけるウ ェットクリーニングとはどのような洗い方を標準とすべきかなど、ふとんクリーニングに係わる関 係者でのウェットクリーニングの標準化(設備と洗濯後の評価基準)が不可欠と考える。 標準化を考える上で、洗濯後の評価基準の項目としては、①寸法変化率、②風合い変化(硬化、フ ェルト化、かさ高性等)、③中わたの吹き出し、④中わたの片寄り・わた切れ、⑤生地の毛羽立ち・ しわ・破れ、⑥キルト・とじ糸のはずれ、⑦生地の変色などが考えられる。 ・設備の機械力やふとん製品への洗濯による負荷の大きさを判断するにはMA布を製品に縫い付けて 評価する方法は有効であると考えている。 ・JBAとしては、これらの項目に対してクレーム事例等を参考に検討を進め、ウェットクリーニン グを含めた「ふとんクリーニングの標準化」が実現できるように、関連業界に働きかけを行ってい きたいと考えている。 5.ふとんの需要創出のために. ふとんは使用や保管により、ふとんのかさ高の低下が起こる。これにより、保温性も当初より落ちてくる 〔保温機能の低下〕。また、ふとんの使用期間が長くなると、汗などの不純物が、ふとんがわ生地や詰めも のに付着するので、衛生的に使用するためには日頃の手入れや買い替えが必要になる〔衛生面での問 題〕。 しかし、消費者は、今使っているふとんをいつ購入したかを気にしている人はほとんどなく、 また、ふとんをクリーニングに出したり、買い替えをする頻度は少ないのが現状であろう。 今回の取扱い表示記号の改正をきっかけとして、ふとん業界とふとんクリーニング業界が、更に密な 情報交換等を行い、消費者のためのふとんのメンテナンス、ふとんクリーニングの啓発活動ができる 協力体制を構築し、消費者がいつも清潔で快適なふとんを使用出来る環境を整備して行きたい。 そのためには、JBAの「ふとん品質表示規程集」に掲載している「お手入れ年月」の表示の主 旨をご理解いただき、ふとん製造業者、小売店、ふとんクリーニング業者に大いに活用していた だきたい。機能面や衛生面からふとんの種類ごとの買い替えの目安を以下に示す。 適切な「取扱い表示」、「お手入れ年月」の活用、 そして、ふとんの製造業者・販売業者・ふとん のリフォーム・クリーニング業者の協力体制が、新たなふとんの需要創出に繋がると考える。 7
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