熱流体解析理論 - ソフトウェアクレイドル

熱流体解析理論
株式会社ソフトウェアクレイドル
©2014 Software Cradle
ごあいさつ
いつも弊社製品をお引き立て頂き誠にありがとうございます。おかげさまで弊社は創立
以来 30 年以上に渡って熱流体解析ソフトの開発・販売・教育・サポートを続けて参りまし
た。私共の事業の中で、御客様に向けた教育プログラムの一環として、定期説明会として
熱流体解析理論コースを開講しておりましたが、内容としては数値解析法の仕組みを主に
イメージとして捉えて頂くように解説をして参りました。流体力学や係る数学を学んだ御
客様にはそれでも数値解析法の仕組みが伝わったと思いますが、時代が変わり、流体力学
などの基礎を学ぶ機会がなくとも CFD を使われる御客様も増えてきました。
すでに商用 CFD はそのような知識がなくとも、ある程度使いこなせるようにもなってき
ています。それでも基礎知識として、流体力学や数値流体力学を知っておきたいというニ
ーズも依然あります。この度、このような御客様の需要の変化を鑑みて内容を刷新し、流
体力学、基礎数学そして数値流体力学の概要の講義を受けて頂くという形に更新致しまし
た。
内容は、相応に幅が広いもので、私共、熱流体解析理論コース担当講師が、全範囲を各
専門家と同じレベルで執筆するのは難しい点もありました。よって私共の理解不足ゆえ、
説明が不正確の箇所もあるかもしれませんが、御容赦頂き、併せて御教示頂けますと幸い
です。なお、本書は必ずしも講義を要しなくともお読み頂けるように心がけておりますが、
熱流体解析理論コースでは本書の重要なポイントについて講義形式で解説を致します。ま
た、内容について御質問がおありの場合も、熱流体解析理論コースに御参加の上、御質問
頂ければ幸いです。熱流体解析理論コースについては次ページも御参照ください。
本書が少しでも皆様の熱流体解析業務にお役に立てることができれば幸いです。
2014 年 4 月 株式会社ソフトウェアクレイドル
http://www.cradle.co.jp/
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定期説明会 熱流体解析理論コースについて
熱流体解析理論コースは、年間 3 回、東阪会場にて開催しており、本書の内容について、
そのポイントの解説を講義形式で行っております。以下を御一読の上、御興味がございま
したら是非御参加ください。
流体力学の効率的な理解には、ベクトル解析、テンソル解析などの数学が必須で、講義
でもそれらの数学を使います。これらの数学は本書の第 2 章で説明していますが、数学的
記述に不慣れな方は、ベクトル解析・テンソルについて予習頂いた上で参加頂けますと幸
いです。
本書を読まれて平易に理解できる方は、熱流体解析理論コースに御参加頂かなくても十
分と思います。その場合は、必要に応じて参考文献を御参照ください。
また、熱流体解析理論コースは本書に沿った理論の解説を行うものであり、実際の解析
例やパラメータ設定例など、熱流体解析の実務的な側面にはほとんど触れません。実習を
伴わない、終日本書の内容の講義になりますので、その点御了承頂けますようお願い申し
上げます。
講義では、次ページの目次で*のマークがついている章、節を重点的に解説することを
予定しております。
執筆者・2014 年度 熱流体理論説明会講師
・和久智裕 [email protected]
執筆担当章節: 1-4.1, 5
・渡邊則彦 [email protected]
執筆担当章節: 4.2, 6
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目次
(1) 流体力学の基礎
(1-1) 流体力学の枠組み
(1-2) ベルヌーイの定理
(1-3) 音速
(1-4) 粘性係数、熱伝導率、拡散係数
(1-5) 非粘性1次元定常流れ
(1-6) 衝撃波
(1-7) キャビテーション現象
(2) 流体力学を記述する数学
(2-1)
常微分と偏微分
(2-2)
ベクトルとテンソル(*)
(2-3)
方程式と境界条件
(3) 流体力学の基礎式
(3-1)
単一組成基礎式(*)
(3-2)
2 成分基礎式(*)
(3-3)
多成分基礎式(*)
(3-4)
輸送現象の表現
(4) 数値流体力学(*)
(4-1)
非圧縮性流体の解法
風上差分・制限関数・SIMPLE 法と圧力補正式・スタッガード格子・
緩和係数・連続式での数値流束
(4-2) 圧縮性流体の解法
圧縮性と波動・密度ベース解法・流束ヤコビアン行列と FDS 法・
近似リーマン解法
(5) 乱流のモデル化 (*)
(5-1)
RANS
(5-2)
LES
(5-3)
ハイブリッドモデル
(6) 流体音解析の基礎(*)
(6-1)
音の性質
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(6-2)
流体音
(6-3)
Lighthill 方程式
(6-4)
Lighthill テンソルのモデル化
Powell(-Howe)のモデル・Lilley のモデル
(6-5)
CFD による音の直接解法
(6-6)
CFD による音の分離解法
Curle の式・Ffowcs Williams & Hawkings の式
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(1)流体力学の基礎[1-4]
この章では、流体力学の扱う対象や用語を紹介する。
(1-1) 流体力学の枠組み
流体力学は流体を扱う学問であるが、流体を構成する分子の個々の動きは直接扱わず、
そのマクロな平均量にて、現象を記述する。例えば、分子のスケールより十分大きな体積
で平均化すれば、単位体積当たりの分子の数密度が定義できる。流速の大きさ U [m/s]は
分子の平均速度として定義される。
流体力学でのマクロな平均量は、熱力学で使うものと共通しているものも多い。
単位体積当たりの質量は、密度 r
[kg/m3]である。熱力学では比体積 v = 1 / r [ m3 /kg]とし
て出てくることのほうが多い。流体中で、物体に垂直にかかる力は圧力 P [N/m2]である。
温度 T [K]、内部エネルギー u 、エンタルピー h º u + p / r などがある。
定積比熱 C v は
内部エネルギーの増加を du 、温度の増加を dT とし、 du = C v dT で関係づけられる。定圧
比熱は定圧比熱 C p を用いて、dh = C p dT となる。流体の持つエネルギー e [J/m3]は、熱力
学 で も 出 て く る 内 部 エ ネ ル ギ ー u に 加 え て 、 運 動 エ ネ ル ギ ー (1 / 2 )U 2 を 考 慮 す る
( e = u + (1 / 2 )U 2 )。
流体力学は、質量保存、X,Y,Z各方向の運動量の保存、エネルギーの保存、これら
保存則から成り立つ。多成分ガスの場合には、化学種の保存式も加わる。これら保存式、
加えて、熱力学的量には状態方程式および熱力学の関係式が成り立つとする。
(1-2) ベルヌーイの定理
もっとも簡単な例として、いま直方体の容器に水が静止している場合を考える。Z方
向を鉛直方向に設定する。Z方向の運動量の保存(力の保存)は,
r g + dP dZ = 0
(1-1)
P = - rgZ
(1-2)
海中で深く潜れば潜るほど水圧がかかること知られているが、これと一致する。
流体は粘性を持つが、これを無視した近似を完全流体と呼ぶ。この近似では流体は体積力
として重力、面積力として圧力を扱う。いま定常な流れ場を考える。この条件の流線に沿
った運動量の保存式を考える。
流線方向の運動量の釣り合いは、
rU
dU
dP
dZ
=- rg
ds
ds
ds
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(1-3)
(2)
流体を記述する物理量と数学
この章の目的は、流体力学を記述する数学(ベクトル、テンソル)に慣れ、ガウスの発散
定理、レイノルズの輸送定理を使えるようになることである。また、数値解析で出てくる
用語(有限体積法、数値流束、要素中心、節点中心)になじむ。
…
(2-2)
ベクトル・テンソル
・ベクトル
流体の流速は流速ベクトル u で記述される。すなわち、流速の大きさとその方向で記述で
きる。座標系を決めれば、ベクトルは、成分表示することもできる。いま、図 2.2-1 のよう
に、直交座標系を考える。この場合、 u は、その x, y, z 方向成分、 ux 、 uy 、 uz で指定で
きる。
これをまとめて、 ui と書く。すなわち、 u 1 = ux 、 u = uy 、 u 3 = uz 。
2
単位ベクトル ei を用いると、流速ベクトル u は
3
u = u 1e 1 + u 2 e 2 + u 3 e 3 = u i e i º å u i e i
(2.2-1)
i =1
となる。ここで、 u i e i では添え字 i が重なっているが、この場合は和を i についてとること
にする。すなわち、
3
u iei º å u i ei
(2.2-2)
i =1
流速成分 ui は場所 r と時間 t の関数として記述できる
u i = u i ( x, y, z, t ) º u i (r, t )
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(2.2-3)
ここで、 r は位置ベクトルである。
r º xe 1 + ye 2 + z e 3 = x i e i
(2.2-4)
次に、流速成分 ui の微分についての記法を確認する。
場所 r を一定のまま、 ui を時間 t での微分を次式で表わす。
¶u i ¶u i
º
¶t
¶t
(2.2-5)
x, y , z
これを時間 t での偏微分という。座標 x で偏微分すると
¶u i ¶u i
º
¶x
¶x
(2.2-6)
t , y, z
以上、ベクトル u をある直交座標系(x-y-z) の場所と時間 t の関数として表記した。
このような静止した座標系をオイラー系と呼ぶ。オイラー系以外に、流れとともに移動す
る座標系も流体力学ではよく使用する。この流れとともに移動する系をラグランジュ系と
いう。ラグランジュ系では、たとえば、t=0 のときの x , y , z を X , Y , Z すると、これを基準
に任意時刻の座標を考えることができる。
u i = u i ( X , Y , Z , t ) º u i ( X i , t ) = u i (r0 , t )
(2.2-7)
流れとともに動く座標系ということなので、
¶x i ( X , Y , Z , t )
u =
¶t
i
X ,Y ,Z
Dx i
º
Dt
(2.2-8)
が成り立つ。
Dx i
Dt
の微分記号が大文字Dになっているが、これはラグランジュ的な描像での時間微分
を強調するために用いられる。
オイラー系とラグランジュ系の記述は互いに変換できる。例えば、ラグランジュ系にお
ける任意のベクトル A i の時間微分をオイラー系に変換してみる。
DAi ¶Ai ( X , Y , Z , t )
º
Dt
¶t
X ,Y , Z
i
¶A ( x, y, z , t ) ¶x ( X , Y , Z , t ) ¶Ai ( x, y, z , t ) ¶Ai
j ¶A
=
+
=
+
u
¶t
¶t
¶x j
¶t
¶x j
i
j
(2.2-9)
式(2.2-9) ではベクトルの成分についての等式であるが、一般に、テンソル表記という。
一方、次式のように直接ベクトルの形で書くこともでき、これをダイアディック表記とい
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う。
DA ¶Ai ( X , Y , Z , t )e i
º
Dt
¶t
ここで、 u ·
=
X ,Y , Z
¶A
¶A ¶A
¶A
+uj j º
+u·
¶t
¶t
¶x
¶r
(2.2-10)
¶A
の · はベクトルの内積を表わす。
¶r
任意のベクトル a, b の内積を成分表記すると、
3
a · b = a i bi º å a i bi
(2.2-11)
i =1
式(2.2-10)から式(2.2-9)を導出するには、 ei と式(2.2-9)の内積をとり、 ei が一定であること
から、時間微分、空間微分と交換することを使う。ここで、ベクトル A i の基底ベクトル ei が
一定でない場合は、微分と交換しないので、それに起因する項が加わる。
基底ベクトル ei が時間とともに変化する例として回転座標系を考えてみる。回転する直
交座標系の単位基底ベクトルを ~
ei とする。 ~ei は時間の関数である。例えば、回転座標系で
流速成分 u~ i º u · ~
ei が時間によらず一定だったとする。
¶u~ i
=0
¶t
(2.2-12)
このとき、流速ベクトルを時間微分すると、
~i ~
d~e
¶u ¶u ei
=
= u~ i i = u~ i ω ´ ~
ei = ω ´ u
¶t
¶t
dt
となる。ここで
´
(2.2-13)
はベクトルの外積を表す。ω は次式で定義される角速度ベクトルであ
る。
d ~ei
= ω ´ ~ei
dt
(2.2-14)
回転座標系で速度成分が定常の場合、次式の流体の運動量保存式の時間項は、ゼロになら
ない。 ω が一定であれば、運動量式で、見かけの力として考慮できる。
r
¶u
= rω ´ u (式(2.2-12)の条件下で)
¶t
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(2.2-15)
(3)
流体力学の基礎式
この章の目的は、基礎式の各項の物理的意味を理解し、必要に応じて最適な近似の基礎式
を選択できることである。
流体力学は流体を密度 r 、速度 u 、温度 T 、濃度(質量分率 Yi )というマクロな量で記述
する。これらのマクロな量は、保存量と関連し、おのおの下記の形の保存式でモデル化す
る。
¶rf
+ Ñ · ruf = Ñ · GÑf + b
¶t
(3-1)
ここで、 f は、 e(T , Yi ) を内部エネルギーとして( e は全エネルギーを示すように表記する
こともあるがこの章では内部エネルギーなので注意)
é1
ù
êu
ú
ú
f=ê
êe + (1 / 2)u · uú
ê
ú
ëYi
û
(3-2)
式(3-1)の左辺第1項は、f の時間変化を表わす。第2項は流れに起因した f の変化を表わす。
右辺第1項は、拡散項で f の空間変化をなくすように働く。G は拡散に関係する係数である。
それ以外の項を b としている。
モデル式(3-1) の仕組みを理解するために、ある静止した有限の体積領域 v で積分し、 v に
対する釣り合いの式の形に変形する[1]。
d
rfdv = ò ( ruf - GÑf ) · ( -dS) + ò bdv
dt òv
S
(3-3)
ここで、 S は体積領域 v の表面を表わし、 d S は体積領域 v の表面に垂直な微小面積ベクト
ルを表わす。体積領域 v が静止していると、時間微分は体積積分の外に出せること、及び、
ガウスの発散定理(式 2.2-38)を用いた。式(3-3)の左辺は体積 v での保存量 rf のトータル
の時間変化を表わす。右辺第1項は、体積領域 v の表面での積分で、 ( -dS) は、体積領域に
入ってくる方向を向いた微小面積ベクトルである。この微小面積を通過して入ってくる保
存量は、 ( ru f - GÑf ) · ( - dS ) である。 u · ( - dS ) は、単位時間当たり微小面要素を通過す
る体積流量である。 rfu · ( - dS ) は微小面要素を単位時間当たり通過する rf である。
[
]
G は必ず正の係数としてモデル化する。 G / r は常に面積速度 m /s の次元をもっている。
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2
- GÑf にマイナスがついているが、体積領域 v の f が周囲より大きければ - GÑf · ( - dS) を
負にし、f の空間分布を滑らかにする。この移流 r u f と拡散 - GÑf 以外の効果は、まとめ
て b として表現している。扱う対象により、 b や内部エネルギーの関数形 e(T , Yi ) は変わっ
てくる。
(3-1) 単一組成基礎式[1,2,3]
まずは、単一組成の場合(たとえば、乾き空気だけ、水だけ)で、式(3-1)の各 f の式を書
き出してみる。 f = 1 の場合、保存量は r で質量保存式と呼ばれる。連続の式とも呼ぶ。こ
の場合は b = 0, G = 0 である。
¶r
+ Ñ · ru = 0
¶t
(3-4)
式(3-4) は 2 章でいうところのオイラー系での記述である。流体とともに移動するラグラン
ジュ系での記述に変形してみる。すなわち、流れとともに移動する体積領域 v を考える。
レイノルズの輸送定理(式(2.2-40))で、 f = 1 、体積領域 v の移動速度 u 0 = u とすると
d
¶
æ ¶r
ö
rdv = ò rdv + ò ru ·dS = ò ç + Ñ · ru ÷dv = 0
ò
dt v
¶t
¶t
ø
v
S
vè
(3-5)
ここで、式(3-4)、ガウスの発散定理(式(2.2-38))を使った。 dv は dxdydz の簡易表記でベ
クトルでないことに注意。流れとともに移動する体積領域の全質量が保存していることを
表わしている。
f = u の場合、保存量は r u で運動量保存式と呼ばれる。
¶ru
2m
+ Ñ · ruu = Ñ · mÑu + Ñ · m (Ñu) t - Ñ
Ñ · u - Ñp + rf
¶t
3
(3-6)
¶u i
¶u j
t
のとき、
は、
(
Ñ
u
)
=
ij
¶x j
¶x i
f は単位体積当たりの外力。 m は粘性係数で、動粘性係数n = m / r は面積速度の次元を持
ここで、 (Ñu) t は、 (Ñu) の転置行列。すなわち、 (Ñ u ) ij =
つ。 p は圧力である。特に式(3-6)を Navier-Stokes の方程式と呼ぶ。
式(3-6)をラグランジュ系で記述していく。レイノルズの輸送定理(式(2.2-40))で、f = u 、
体積領域の移動速度 u 0 = u とすると
d
¶
æ ¶ru
ö
rudv = ò ( ru)dv + ò ruu ·dS = ò ç
+ Ñ · ruu ÷dv
ò
dt v
¶t
¶t
ø
v
S
vè
式(3-7)に式(3-6)を代入すると、
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(3-7)
(4)
数値流体力学
(4-1) 非圧縮流体用の解法
この節では、係数行列がどのように作成されるか学習する。このとき、係数行列の符号の
重要性を解説する。非圧縮流体用の解法 では質量保存式だけ特別に扱う。
(4-1-1) 記号等
3 章の一般保存式を再度下記に書く。
¶rf
+ Ñ · ruf = Ñ · GÑf + b
¶t
(4.1-1)
これを検査体積(=コントロールボリューム) dv で積分する。
d
rfdr = ò r (u - u 0 )f ·(-dS) + ò - GÑf ·(-dS) + ò bdr
S
S
dv
dt òdv
(4.1-2)
時間項
移流項
拡散項
ソース項
ここで、レイノルズの輸送定理(式(2.2-40))で時間微分を積分の外に出した。 u0
は検査
体積すなわち計算格子(=メッシュ)の移動速度である。S は検査体積の外側表面で、d S は
S の外向きの微小面積ベクトルである。( -dS) は検査体積に入ってくるほうを正となる。式
(4.1-2) の左辺を時間項、右辺第1項を移流項、右辺第2項を拡散項、右辺第3項をソース
項と呼ぶ。おのおの項を、従属変数 f の定義点での値で表現できれば、離散化は完了する。
たとえば、
図 4-1 のようなメッシュを想定して離散化を行う。●が f が定義されている点で、
四角が要素である。式(4.1-2)を●の f の代数方程式に近似する。点Pを含む検査体積で離散
化してみよう。以下、点Pの f を f P と表す。同様に、点E,W,WW、N,Sの f を f E ,
fW ,
fWW , f N , fS とし、これら点Pの周辺の f を f NB と書く。小文字の点 e,w,n,s は検査体積の
界面に位置する。時間項、移流項、拡散項、ソース項の順に離散化していく。
(4-1-2) 時間項の離散化
r PfPdV - r POfPOdV O
d
rfdr =
dt òdv
dt
(4.1-3)
ここで、dt は解析を進める時間刻みで、時間方向の計算格子の幅に相当する。fP
O
の上
付きの O は dt だけ前の時刻を意味する。fP は既知である。fP はこれから求めようとする
O
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未知数である。 dV はコントロールボリュームの体積。
式(4.1-3)は時間1次精度である。
簡易的に時間方向に2次精度を得るには、時間微分のみを2次精度で差分近似する。現在
の時間刻み dt とその前の時間刻み dT とすると、
f (t - dt ) = f (t ) - dtf '+(dt 2 / 2) f ' '+O(dt 3 )
(4.1-4)
f (t - dt - dT ) = f (t ) - (dt + dT ) f '+{(dt + dT ) 2 / 2} f ' '+O(dt 3 )
f = r Pf P dV とすると、
d
dt
òd
v
rf dr =
C1.5 ( r Pf P dV ) - C 2.0 ( r Pf PdV ) O + C 0.5 ( r Pf PdV ) OO
dt
(4.1-5)
ここで、上付きの OO は前の前の時刻での値を示す。
C1.5 =
2+c
1+ c
1
, C 2.0 =
, C 0.5 =
, c = dT / dt
1+ c
c
(1 + c)c
(4.1-6)
以下、時間精度は1次の場合で説明する。
次の移流項に行く前に、時間項を次式の形に格納する。
a p f P = a E f E + a W fW + a N f N + a S f S + a t f P + B
o
(4.1-7)
点P以外のすべての点について考えると、行列になる。以下、マトリックスとよぶ。
式(4.1-3)から
r dV
æ r dV ö
、 at = ç P
ap = P
÷
dt
è dt ø
O
で、いまのところ a E = aW = a N = a S = B = 0 である。
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(5) 乱流のモデル化[1,3]
この章では、RANS,LES を紹介する。
レイノルズ数が十分小さいときは、層流状態が維持され、この場合には境界条件によっ
ては、定常解が存在する。レイノルズ数が大きくなると、もはや定常解は存在せず、流れ
場は非定常になる。この場合でも速度場の時間平均値が存在する場合があり、この場合は
時間平均速度場の定常解が存在する。
一般に、定常解を求めるよりは非定常解を時間とともに求めるほうが、計算コストが増
大する。特に計算機の能力が十分でなかった時代、乱流に対しても、時間平均速度場の定
常解を求める手法がメインであった(RANS)。時間平均が存在する場合は、例えば、乱流に
起因する小さなスケールの速度変動と平均速度場の大きなスケールの速度変動がくっきり
分かれているような場合である。しかしながら実際の乱流では、さまざまなスケールの速
度変動が存在し、RANS で精度良く予測できるものは決して多くない。LES は、計算格子
より小さい乱流変動のみモデル化し、できうるかぎり NS 式をそのまま解いてやろうとい
う手法である。RANS と比べると予測精度は良い。たとえば、サイクロン流れのように
RANS で定性的予測すら、失敗するようなものも、LES では予測できる。物体後方に剥離
域を伴う場合、RANS では剥離域の予測が悪いが、LES では予測可能である。
一方、LES は非定常計算であることも合わせて、RANS より計算負荷が大きい。
壁の近傍のみ RANS を用い、その外側を LES にするハイブリッドモデルでは、純粋な LES
より計算格子が節約できる。
LES もモデルには違いないので、LES のモデルに依存し計算結果は多少異なる。直接
NS 式を解く場合は単相流の場合、実質実験と等しい(DNS)。しかし現状、DNS は計算負
荷が非常に大きく、設計の現場で用いることはない。
以下、RANS,LES,ハイブリッドモデルの順に、よく利用されているモデルを紹介する。
より詳細が説明してあるものとして、文献[1]を挙げておく。
(5-1)
RANS (Reynolds averaged NS equation:RANS)
非圧縮の連続の式とNS式は
ここで、
¶u i
=0
¶x i
(5-1)
¶u i ¶u j u i
¶ ¶u i 1 ¶p
+
= jn j - g i b (T - T0 )
j
i
¶t
¶x
¶x ¶x
r ¶x
(5-2)
n = m / r は動粘性係数である。浮力は基準温度 T0 からの温度差の線形近似(ブ
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ジネスク近似)で扱っている。 g は重力加速度ベクトルで、比例定数 b は体膨張係数と呼
i
ばれる。
時間平均速度を u i とすると、
u i = u i + u¢i
(5-3)
式(5-3)を式(5-1),(5-2) に代入すると、
¶u i
=0
¶x i
(5-4)
¶u i ¶u j u i
¶ ¶u i 1 ¶p ¶u ¢ j u ¢i
+
= jn j - g i b (T - T0 )
j
i
j
¶t
r ¶x
¶x
¶x ¶x
¶x
(5-5)
式(5-5) の右辺第3項の u ¢ u ¢
j
i
はレイノルズ応力と呼ばれ、何かしらのモデル化式で与え
ねばならない。なお、圧縮流体の場合は、Favre 平均を使う[2].
ru i
i
~
u º
(5-6)
u i = u~ i + u ¢¢ i
(5-7)
r
このとき、連続の式は
¶r ¶r u~ i
+
=0
¶t
¶x i
(5-8)
NS 式は、
~
¶r u~ i ¶r u~ j u~ i
¶ æ ¶u~ i ¶u~ j 2 ¶u~ k i ö ¶p ¶r u ¢¢ j u ¢¢ i
+
=
mç
+
d j ÷÷ - i - rg i
j
¶t
¶x j
¶x j çè ¶x j ¶x i 3 ¶x k
¶
x
¶
x
ø
・レイノルズ応力のモデル化[2,3]
乱流混合が運動量の交換を促進するとして、
æ ¶u i ¶u j
- u ¢ i u ¢ j = n t çç j + i
¶x
è ¶x
kº
ö 2 i
÷÷ - kd j
ø 3
1 i i
u¢ u¢
2
(5-10)
(5-11)
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(5-9)
(6) 流体音解析の基礎
本章では近年試みられつつある流体音解析について、背景と代表的な手法を簡単に述べ
る。流体が音源となる音のモデル化については流体の持つ乱流現象とも相まって多くの表
現や解析方法が提案されてきているが、紙幅の問題もあるので、本章ではその概説に留め
る。各論については必要に応じて参考文献を参照されたい。
(6-1) 音の性質[1]
音とは我々人間の「感覚」の一つでもあり、言葉で定義するよりもそのまま感覚として
捉えている方が最もその実態をイメージしやすい。しかしながらそのダイナミクスを、物
理学を用いて考察する上では、煩雑ではあるが多少言葉で表現をしておく必要もあるだろ
う。
音とは空気の粗密波であり、通常進行方向に粗密が変化するいわゆる縦波である。粗密
の変化とは密度の変化であり、この密度が変化するという点から流体力学的には圧縮性の
性質を伴うが、空気の局所の音速に等しい波であり衝撃波のような非線形性は持たないも
のとして扱われる。これを音波と言う。音波は波であるので、反射、回折などの波の持つ
性質をそのまま同様に持つ。また音波は比較的変化が小さな波であり、式(1.7)で示すよう
に、その熱力学的変化は等エントロピー的であり、密度変化は圧力変化と直接的な関係が
ある。言い換えると音波とは極めて微小な圧力波である。この圧力変化の大小が人間の鼓
膜を振動させ、人間が音を感受することになる。ちなみにこの小さな圧力変動は鼓膜を振
るわせた後、耳小骨(じしょうこつ)という 3 つの骨に伝わり、約 20 倍程度の増幅がなさ
れ、その後三半規管に伝わる。ちなみに三半規管にはリンパ液が満たされており、気液固
の 3 体を伝わって音が知覚される。このように音波はそれが伝わる媒質は気体に限らず、
液体や固体内にもそれぞれの媒質に応じた音速で伝わる。
音にはその性質を表す 3 つの指標がある。それぞれ、音の「大きさ」
「高さ」
「音色(音色)」
であり、これらを音の 3 要素という。図 6-1 に音波の波形の例を示す。ここで、音の大き
さは波の振幅を、高さは波のピッチ、つまり周波数を、音色は波形そのものの傾向に相当
する。
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