中学校新入生におけるレジリエンスと強迫性が リアリティショックに及ぼす

学校教育学研究, BCA
B, 第BM巻, !
B
中学校新入生におけるレジリエンスと強迫性が
リアリティショックに及ぼす影響
前
田
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大
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本研究では, 中学1年生のレジリエンスとリアリティショック, 強迫性とリアリティショックの関連性を明確することを
目的とした。 121名の中学生が本研究に参加した。 小塩・中谷・金子・長峰 (2002) と森・清水・石田・冨永・
(2002)
のレジリエンス尺度, 南・浅川・中間・浅川 (2011) の中学生版知覚されたリアリティショック質問項目と (1977) による (
) が翻訳 (訳者
吉田・切池・永田・松永・山
上) された 強迫検査を使用した。 主な結果は
1) 強迫性高群が強迫性低群よりも, 著しく他律的リアリティショック得点が高くなる;
2) レジリエンス低群・高群と比較して中群は, リアリティショック全体得点・他律的リアリティショック得点が高い。
以上の結果を学校心理学の視点から検討した。
キーワード:レジリエンス, 強迫性, リアリティショック, 中学校新入生
前田
陽子:兵庫教育大学大学院・臨床心理学コース院生, 〒673
1494 兵庫県加東市下久米942
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林
麻由:兵庫教育大学大学院・臨床心理学コース院生, 〒673
1494 兵庫県加東市下久米942
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福井
紫帆:兵庫教育大学大学院・学校心理学コース院生, 〒673
1494 兵庫県加東市下久米942
1,
遠藤
裕乃:兵庫教育大学大学院・人間発達教育専攻・准教授, 〒673
1494 兵庫県加東市下久米942
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学校教育学研究, #$%#, 第#&巻
問題・目的
文部科学省の不登校の学年別統計をみると, 中学校1
クを検討する。
中学校新入生は, 危機的環境移行の過程で多かれ少な
年生での不登校が急増している (文部科学省, 2009)。
かれ, 何がしかのリアリティショックを感じていると考
この背景には, 従来より慣れ親しんだ環境を離れ新たな
えることができる。 このリアリティショックを軽減する
環境への移行を余儀なくされる事態の経験によるものが
ために, 小学校6年生は, 中学校での授業見学を行った
大きい。 このような状況を危機的環境移行としている。
り, 中学校の教員が小学校に行き, 授業を行うなどの取
山本・
(1991) は危機的環境移行を人間―環境
り組みもされている。 また, 小中一貫教育もリアリティ
システムの急激な崩壊と定義している。 つまり, 人間と
ショックを軽減する一つのねらいとも考えることができ
環境とは相互に影響しあいながら1つのシステムを形成
る。
しており, 安定していた人間―環境システムが, 発達の
さて, 中学生におけるリアリティショックに影響を与
要因や環境の変化によって均衡が崩れ, 新しい人間―環
える個人内要因として考えられるもののひとつに, レジ
境 シ ス テ ム を 形 成 す る 過 程 で あ る 。 ま た , リエンスがある。 近年, 幅広い分野で, ストレスフルな
& (1973) は, このような環境移行事態
出来事の克服を可能にする資源としてレジリエンスが注
における個人の適応プロセスについて人間―環境相互交
目されている。 レジリエンスとは, 困難な環境にさらさ
流 (
) 論を展開してい
れているにもかかわらずその環境と調和してうまく適応
る。 彼らは, 新環境移行後の適応過程において個人が積
する過程・能力・結果と定義される (
&
極的に新たな環境に働きかけること, 新環境の構造化や
1990)。
再体制化には一定の秩序だった流れがあり, 定向進化的
小塩・中谷・金子・長峰 (2002) は, このレジリエン
な質的変化過程が存在するとしている (内藤・浅川・小
スについて, 個人の精神的な柔軟性や弾力性という側面
泉・米澤, 1985)。
を検討するために, 「新奇性追求」, 「感情調整」, 「肯定
青年期前期では, 個人は身体的成熟の開始や親との関
的な未来志向」 の3因子からなる精神的回復力尺度を作
係の再編などの発達課題や, 小学校から中学校への切り
成 し て い る 。 ま た , 森 ・ 清 水 ・ 石 田 ・ 冨 永 ・ 換わりといった社会的移行を経験する。 とりわけ中学校
(2002) は, 「」 「 」 「
!」 「
""」 の
段階では, 小学校からの移行に伴い, 学業面で学級担任
4因子からなるレジリエンス尺度を, 石毛・無藤
制から教科担任制への転換や学習内容の高度化, 対人関
(2006) は, 「意欲的活動性」 「内面共有性」 「楽観性」 の
係面で友人や教師との新たな関係づくり, 加えて部活動
3因子からなるレジリエンス尺度を作成している。
への参加など様々な変化を経験する。 これらの変化はス
リアリティショックに影響する, もう一つの個人内要
トレスを引き起こし, 種々の不適応現象として顕在化し
因として考えられるものに強迫性がある。 強迫性とは,
ているという (石毛・無藤, 2006)。
できるだけ無駄を排除し, 与えられた課題を正確に速や
不登校の学年別統計による中学校1年生での不登校の
かに達成しようとする行動志向である。 完全主義ともよ
急増 (文部科学省, 2009) の背景として, もう一つ考え
びうるもので, 几帳面であり, キッチリスッキリした状
ることができるのがリアリティショックである。 リアリ
態を好み, あいまいさを嫌う性格特性でもある。 過度の
ティショックは, (1974) が看護師の早期離職
完全主義は, 瑣末事にこだわり, 大きな判断ができなく
の問題から概念化したものである。 によるとリ
なったりする。 あきらめるべきことすら, おこたりなく
アリティショックの概念の中で使われているショックと
やろうとして疲労に陥り, 次第にその疲労を蓄積する。
は, 耐えられないくらい厳しい状況の中で, 予期せず,
しかも, 強迫性は疲労を回復させるような無駄な時間や
望まれもしない社会的, 心理的, 感情的な人の反応のす
遊びを許さないために, ますます疲労は強大となる (小
べてを意味している。 また, 多くの場合, 予想と現実の
柳, 1999)。 また, 小柳 (1999) は強迫性が過度になり
不一致の反応は, その状況で個人がまさしくやり直すこ
すぎることは不適応の源泉になると述べ, 人間関係にお
とができないくらいとても強いとしている。 専門職にお
いては, その性格ゆえに自他の欠点ばかりが目につき,
いてのリアリティショックが多く研究されている。 その
その結果, 強迫性が自分に向けられれば劣等感となり,
なかには学業についてのリアリティショックも研究され
他人に向けられれば批判的となるために, 円満な学校生
ている。 なかでも半澤 (2007) は大学生における学業に
活に支障をきたすというのである。
ついて研究しており, リアリティショックを, 入学前に
以上のことより, 小学校から中学校への危機的環境移
抱いていた学校における学業イメージや期待と, 入学後
行を経験する中学1年生のレジリエンスはリアリティショッ
に経験している学業との間の, ズレによって生じた否定
クと深い関係があると考えることができる。 しかし, こ
的な違和感と定義している。 本研究では, 半澤の研究を
れまで中学生のレジリエンスとリアリティショックにつ
参考に小学校から中学校への移行におけるリアリティショッ
いての関係を調べた系統的, 組織的研究は希少である。
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リアリティショックに及ぼす影響
そこで, 本研究では, 中学1年生のレジリエンスとリア
の心理特性と他人との協調, 他人を思いやることなど環
リティショックの関連性について検討することをまず第
境の資源をも反映させた森・清水・石田・冨永・
一の目的とした。 新入生が入学後にさまざまな体験をす
(2002) の尺度を用いた。 本尺度は合計35項目の質問項
る中で, 彼らの変化とレジリエンスについて検討するこ
目で構成されていた。 「よくあてはまる (4点)」 「かな
とは, 不登校予防のための開発的支援の方途を考えるう
りあてはまる (3点)」 「すこしあてはまる (2点)」 「まっ
えで意義あることと思われるからである。 言い換えると,
たくあてはまらない (1点)」 の4件法によって回答が
生徒個人のレジリエンスを把握することは, 教師にとっ
求められた。
て生徒個人と学校環境との関係性について理解する上で
してレジリエンスとは反作用的な機能を有する強迫性に
中学生版知覚されたリアリティショック質問項目
南・浅川・中間・浅川 (2011) の作成によるものであっ
も注目し, 強迫性の程度がリアリティショックに与える
た。 「中学校生活予期不安尺度」 (南・浅川・秋光・西村,
影響も検討することとした。 レジリエンスとリアリティ
2011) から実際の中学校生活とどう関連するのかをみる
ショック, 強迫性とリアリティショックの関連性が明確
ために, 南・浅川・中間・浅川 (2011) によって文章を
になれば, リアリティショックを低減するための方策を
変更して作成された質問項目である。 本質問項目は21項
考える際に有意であると思われるからである。
目から構成されており, 「よくあてはまる (4点)」 「か
の一つの指標となると考えられる。 また, 第2の目的と
なりあてはまる (3点)」 「すこしあてはまる (2点)」
仮説
「まったくあてはまらない (1点)」 の4件法によって回
本研究では, レジリエンスとリアリティショックにつ
答が求められた。
いて, レジリエンスがリアリティショックを緩和するも
のと考えるため, 次のように仮説をたてた。 ①レジリエ
ンスが高いとリアリティショックを感じず, レジリエン
スが低いと最もリアリティショックを感じるとする。 強
強迫検査
& (1977)
に よ る (
) が翻訳 (訳者
迫性とリアリティショックについて, 強迫性がリアリティ
吉田・切池・永田・松永・山上) されたものを使用し
ショックを強化するものと考えるため, ②強迫性が強い
た。 本尺度は29の質問項目から構成されており, 下位尺
人がリアリティショックを強く感じ, 強迫性が弱い人が
度として 「確認」, 「清潔」, 「優柔不断」, 「疑惑」 が設定
リアリティショックをあまり感じないことを第2の仮説
されていた。 なお, 中学生年齢の回答者が取り組みやす
とする。
いように表現や語尾を変更した。 「よくあてはまる (4
点)」 「かなりあてはまる (3点)」 「すこしあてはまる
方法
(2点)」 「まったくあてはまらない (1点)」 の4件法に
よって回答が求められた。
調査対象者:鳥取県下 市内の公立 中学校の1年生
が本研究に参加した。 中学校新入生は3つの小学校か
手続き
ら 中学校に入学していた。 そのうちわけは, 男子66
調査は各教室で学級担任が調査者の作成した手引きを
名と女子67名の合計133名であった。 そのうち, レジリ
もとに教示・説明した後, 学級ごとに集団で実施された。
エンス尺度, 強迫性尺度, リアリティショック質問項目
この際に学級担任から教室全体に①テストではなく, 成
の回答に不備があった男子9名, 女子3名を除く121名
績に影響がないこと, ②回答には自由に拒否してもよい
が分析の対象者となった (有効回答率
こと, ③個人情報は保護されることが伝えられた。 回答
91%)。
時間は, 約20分であった。 冊子は回答終了後にクラスの
時期
2011年7月
材料
質問紙の構成
担当教員によって回収された。
結果
本研究で用いられた質問紙は, 以下の通りであった。
レジリエンス尺度得点とリアリティショック質問項目得
森・清水・石田・冨永・
(2002) のレジリエン
レジリエンス尺度
点の相関分析
まず, レジリエンス尺度の合計得点が求められた。 そ
ス尺度を使用した。 (2009) によれば, レジリエ
の範囲は, 35∼140点であった。 平均得点は69
07, 標準
ンスを生み出すためには, 環境の資源と個人の特性の複
偏差は11
61であった。 次いで, 強迫性尺度の合計得点
雑な交互作用が必要であることから, 本研究では, 個人
が求められた。 その範囲は, 29∼116点であり, 平均得
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学校教育学研究, , 第巻
点は34
53, 標準偏差は5
29であった。
強迫性の水準群 (低, 高) 及び性別ごとにリアリティ
そして, レジリエンス尺度得点と強迫性尺度得点の相
関係数が求められた。 その値はγ
=−
095であり, レ
ジリエンスと強迫性の間には相関関係はみられなかった。
ショック得点を算出したものが 3 である。
Table3 ᒝㄼᕈ᳓Ḱ⟲ߥࠄ߮ߦᕈ೎ߏߣߩ࡝ࠕ࡝࠹࡚ࠖࠪ࠶ࠢਅ૏⾰໧㗄
強迫性水準群ならびに性別ごとのリアリティショック
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下位質問項目の平均値, 標準偏差及び分散分析結果
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Table1
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レジリエンス尺度得点と強迫性尺度
得点の平均値と標準偏差および相関係数
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37.38
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10.24
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12.48
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ᐔဋ
8.07
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9.77
SD
2.78
1.72
3.74
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ᐔဋ
45.45
46.76
50.39
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SD
11.77
10.91
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平均点と標準偏差をもとに高中低群に分けた。 合計得
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レジリエンスと強迫性の相関係数
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レジリエンス尺度得点がリアリティショック質問項目得
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点に及ぼす影響について
ోዤᐲ
点が63点以下 (平均値−1
2) の低群, 64∼74点の中
そして, リアリティショック質問項目得点を従属変数,
群, 75点以上 (平均値1
2) の高群の3群に分けら
2 (強迫性の水準) ×2 (性別) を独立変数とした2要
れた。 その内訳は, 低群が35名, 中群が45名, 高群が41
因の分散分析を行った。 その結果, リアリティショック
名であった。
第2因子 (他律的ショック) の得点について, 強迫性水
レジリエンスの水準群 (低, 中, 高) 及び性別ごとに
準の群の主効果が0
1%水準で有意であった ((1
115)
リアリティショック得点を算出したものが 2であ
=13
63, <
001)。 つまり, 強迫性高群が強迫性低群よ
る。 そして, リアリティショック質問項目得点を従属変
りも, 著しく他律的ショック得点が高かった。 他の主効
数, 3 (レジリエンスの水準) ×2 (性) を独立変数と
果及び交互作用は有意ではなかった。
した2要因の分散分析を行った。
レジリエンス水準ならびに性別ごとのリアリティショック
Table2‫ޓ‬
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下位質問項目の平均値, 標準偏差及び分散分析結果
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20
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15
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ᅚ
20
↵
25
ᅚ
17
24
考
察
本研究の分析結果から, 強迫性高群が強迫性低群より
も, 著しくリアリティショック得点が高くなることが示
された。 (1973) によると個人と環境の不
ᐔဋ
35.55
38.93
40.9
41.96
39.35
36.25
均衡状態は人間の適応に影響を及ぼす。 そして, この不
SD
9.21
5.47
12.81
9.15
11.72
10.86
均衡状態から生じた違和感が学業に対するリアリティショッ
ᐔဋ
8.55
9.4
10.8
9.12
8.47
8.29
クだと考えられる (たとえば, 半澤, 2007)。 したがっ
SD
2.76
3.07
4.19
2.74
2.94
2.46
ᐔဋ
44.1
48.33
51.7
51.08
47.82
44.54
SD
10.84
6.21
15.65
10.54
13.05
11.73
て, リアリティショックが学校生活上の不適応となりう
るとするならば, 本研究からは, 強度の強迫性が学校生
活上の不適応を呈するという小柳 (1999) の見解を支持
その結果, リアリティショック第2因子 (他律的ショッ
するものである。 強迫性がリアリティショック, 特に他
ク) の得点について, レジリエンスの群の主効果が有意
律的な因子に影響を及ぼすことから, 「恐怖から逃れた
傾向であった。 ( (2
115) =2
89, <
10)。 つまり,
くても逃れられないために不安や緊張をもたらすこと」
レジリエンス中群が, レジリエンス高群, 低群よりも,
が学校の決まり事など自分以外の周りに影響されること
リアリティショック得点が高い傾向にあった。 また, リ
につながると言い換えることができる。 強迫性がリアリ
アリティショック全質問項目の得点についても同様に,
ティショックに影響を及ぼすことから, 強迫性に対して
レジリエンスの群の主効果が有意傾向であった。 (
の小学生段階での対応がポイントであることが示唆され
(2
115) =2
69, <
10)。 他の主効果及び交互作用は有
た。
意ではなった。
レジリエンスは 「困難な環境にさらされているにもか
かわらずその環境と調和してうまく適応する過程・能力・
強迫性尺度得点がリアリティショック質問項目得点に及
結果 (
& 1990)」 と定義される
ぼす影響について
ᒝㄼᕈዤᐲᓧὐ߇࡝ࠕ࡝࠹࡚ࠖࠪ࠶ࠢ⾰໧㗄⋡ᓧὐߦ෸
平均点を境に高低群に分けた。 合計得点が34点以下の
߷ߔᓇ㗀ߦߟ޿ߡ
ことから, レジリエンスが高いとリアリティショックを
低群と, 合計得点が35点以上の高群の2群に分けられた。
を感じるという仮説をたてた。 しかし本研究の結果では,
その内訳は, 低群が58名, 高群が63名であった。
レジリエンス中群が最もリアリティショック得点が高く,
感じず, レジリエンスが低いと最もリアリティショック
/-
リアリティショックに及ぼす影響
低群・高群は低かった。 レジリエンス中群・高群だけを
なく, 時間の経過においてどのように変化し, 進展して
比較した場合, レジリエンスが高いほどリアリティショッ
いくかを反映する力動として概念化されなければならな
クは低くなるという仮説は支持された。 しかし, レジリ
いと述べており, 今後は縦断研究をも念頭において検討
エンス低群が中群よりリアリティショック得点が低いと
していく必要があろう。
いう結果は仮説に反している。 小塩・中谷・金子・長峰
引用文献
(2002) の研究結果によれば, レジリエンスは個人が危
機に陥った状況において, 特に重要な役割を担うという
石毛みどり・無藤
隆 (2005). 中学生における精神的
見解が提出されていた。 レジエンス中群と高群の比較結
健康とレジリエンスおよびソーシャル・サポートとの
果は, この見解を支持するものである。 また, レジリエ
関連−受験期の学業場面に着目して−
ンスはストレスフルな事態で健康的な状態をつくり出す
究, 53, 356
367
働きをする (石毛・無藤, 2005) という解釈を支持する
石毛みどり・無藤
266
280
の結果については, 次のように考察することができる。
る。 自分の能力に対する項目である 「自己効力感」, 自
隆 (2006). 中学生のレジリエンス
とパーソナリティとの関連 パーソナリティ研究, 14,
ともいえる。 しかし, 仮説とは反するレジリエンス低群
レジリエンス尺度は次の4つの因子項目で構成されてい
教育心理学研
伊藤美奈子・相馬誠一 (2010).
臨床心理学
サイエンス社
グラフィック
学校
144
148
分を助けてくれる人に関する項目である 「サポート資源」,
小塩真司・中谷素之・金子一史・長峰伸治 (2002). ネ
自分を肯定的にとらえる項目である 「自己肯定感」, 自
ガティブな出来事からの立ち直りを導く心理的特性―
分の将来に対する楽観的な見通しをとらえる項目である
精神的回復力尺度の作成― カウンセリング研究, 35,
「楽観的思考」 である。 レジリエンス低群は, これらの
57
65
項目得点が低い。 言い換えると個人の持っている資源が
小柳晴生 (1999). 学生相談の 「経験知」
少ないとみることができる。 また, リアリティショック
(1974). 得点を環境移行の課題に対してのリアリティショックと
とらえる。 そうすると, 個人の持っている資源が少ない
垣内出版
佐藤修策・濱名昭子・浅川潔司 (2011). 親と教師がむ
きあう不登校
と環境移行の課題に対して, 解決しようと思わない, 課
メッセージ
題を回避してひきこもる結果, 悩まない, 対応しようと
こどもとともに親が歩む親の会からの
あいり出版
189
する姿勢が少なく, 課題に積極的に取り組まないことが
半澤礼之 (2007). 大学生における 「学業に対するリア
予想される。 そのため, リアリティショックをあまり感
リティショック質問項目」 の作成 キャリア教育研究,
じず, リアリティショック得点が低くなると解釈するこ
25, 1, 15
24
とができる。 これに反して, レジリエンス中群はある程
門脇朋子・岩間伸之・山縣文治
訳 (2009).
度の資源を持っているため, 課題に対して解決しよう,
もの力を活かす援助−
対応しようとするがやりきれないために, 主観的には苦
痛を体験し, リアリティショック得点が高くなると考え
子どものリスクとレジリエンス−子ど
ミネルヴァ書房
33
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% (1990) .
ることができる。 レジリエンス高群は, 資源があるため
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課題に対して対応できるので大変だと思わない。 むしろ
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2425
444
楽しいと感じるため苦痛を感じない。 そのため, リアリ
ティショック得点が低くなっていると考えることができ
森
る。 よって, レジリエンス中群, 高群では, レジリエン
*
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スはリアリティショックの緩和に影響を与えるが, レジ
スの関係
リエンス低群においては, リアリティショックを感じな
南
レジリエンス中群が, レジリエンス低群よりもリアリ
ティショック得点が高くなることは, リアリティショッ
クを低減するための方策を考える上で, 意味のある結果
である。 したがって, (2009) は人と環境の
適合状態の特性は, 個人と状況が, その相互作用だけで
学校教育実践学研究, 8, 179
187
雅則・浅川潔司・秋光恵子・西村
淳
(2011).
係に関する学校心理学的研究
考えることができる。 今後は, 心理的資源を測定する他
理由を詳しく検討していく必要があると考える。
(2002). 大学生の自己教育力とレジリエン
小学生の予期不安と中学校入学後の学校適応間との関
いよう内的にひきこもるため, 尺度得点は低くなったと
の尺度を取り入れるなどして, このような結果となった
潤・冨永美穂子・
敏昭・清水益治・石田
南
雅則・浅川潔司・中間玲子・浅川淳司 (2011). 中
学校への環境移行における予期不安・リアリティショッ
クと学校適応感との関連
第19回日本青年心理学会大
会発表論文集 (印刷中)
26
27
山本多喜司・
ワップナー (1991). 人生移項の発達心
理学
北大路書房
吉田暁子 (2009). 中学生のレジリエンシーとソーシャ
&"
学校教育学研究, "#$", 第"%巻
ル・サポートがストレス反応に及ぼす影響
大学大学院
兵庫教育
学位論文
吉田充孝・切池信夫・永田利彦・松永寿人・山上
榮
(1995). 強迫性障害に対する (
) 邦訳版の有用性につい
て
精神医学
37 (3) 291
296
&
1973
!
5255
289
(2011.8.31受稿, 2011.11.28受理)