2016/4/22 鏡映反転の謎を解く (高野陽太郎の説の紹介) 2016年5月11日 わかみず会 鈴木 勝 1 内容 • 鏡映反転とは • 鏡の光学的性質 • 鏡映反転の説明 • • • • 光学反転 表象反転 視点反転 多重プロセス理論 • 説明の検証 • 実験結果 • 参考文献 「鏡映反転 – 紀元前からの難問を解く」、高野陽太郎、岩波書店、 2015/7(本資料の図表はすべて同書から引用) 関連URL http://iwnm.jp/005248m 2 1 2016/4/22 高野陽太郎 略歴( Wikipediaより ) • • • • • • • • 認知心理学、社会心理学を専門とする心理学者 1985年コーネル大学心理学部大学院博士課程修了、ヴァージニア大学 専任講師 1987年早稲田大学文学部専任講師 1990年東京大学文学部助教授 2003年同人文社会系研究科教授 2013年から放送大学客員教授 2016年3月東京大学定年退官 著書 – 『傾いた図形の謎』 東京大学出版会 1987 – 『鏡の中のミステリー』 岩波書店 1997 – 『「集団主義」という錯覚』 新曜社 2008 – 『認知心理学』 放送大学教育振興会 2013 – 『鏡映反転 –紀元前からの難問を解く』 岩波書店 2015 3 鏡映反転とは • 一般的には「鏡に映ると左右が反対に見える」と言われる 鏡に映った人 鏡に映った時計 鏡に映った文字 • 実際には「いつも反対に見える」わけではない • 単純な説明で済む単純な現象ではない 4 2 2016/4/22 鏡の光学的性質 • 「表面に垂直な方向だけを反転する」 – 正確には「表面に垂直な方向が反転して見えるような光学的変換を 行う」 鏡に正対した人とその鏡像(小さい丸印は腕時計) – この図の場合に左右反転を認識する人と認識しない人がいる 5 鏡映反転の説明(1) • 鏡映反転は物理の問題ではなく、認知の問題である • 鏡映反転は「光学反転」、「表象反転」、「視点反転」という 三つの現象の集まりである (1)光学反転 左右反転を認識 鏡に横対した文字(F)の光学反転 6 3 2016/4/22 鏡映反転の説明(2) (2)表象反転 観察者が何かの鏡像を見たときに、記憶にある同じものの形状と 比較して反転しているか否かを判断する (a)左右反転していないと判断 (b)左右反転していると判断 鏡に正対した文字(F)の表象反転 7 鏡映反転の説明(3) • 光学反転と表象反転の比較 – 紙の上の文字とその鏡像を比較 した場合は光学反転 – 文字の鏡像と記憶にある文字を 比較した場合は表象反転 – 両方の可能性がある 文字(F)の光学反転と表象反転 8 4 2016/4/22 鏡映反転の説明(4) (3)視点反転 鏡像の視点から左右を判断するためには視点変換が必要 (a) 通常は実物の自分に座標系を設定(腕時計は左手にある) (b) 座標系を平行移動して鏡像に重ねる(実物と鏡像の前後が反対) (c) 前後を合わせるために座標系を180度回転(腕時計は鏡像の右手 にある) → 左右反転を認識 実際にはこのような手順を踏まないで、直接(c)を設定することに慣れている 9 鏡映反転の説明(5) • 鏡像の視点をとる理由(少なくともその一つ) – 人間の身体はほぼ左右対称であり、よく似た形の部位が二つずつあ るため、それぞれを呼び分ける必要がある • 右目と左目、右手と左手、右足と左足など – そのためには、その身体部位をもっている当人の視点から判断する 必要がある • もし外科医が自分の視点から患者の部位の左右を判断したら、大変な医療ミスに なる – 鏡に映った自分の姿は他人ではないが、自分の鏡像の身体部位の 左右を判断するとき、他人の身体部位を判断するときの習慣によって 視点変換を行うことがある → 左右反転を認識する – 鏡像に対する視点変換は任意の心理的プロセスであるため、変換を 行わない場合(人)もある → 左右反転を認識しない • 身体部位の左右の判断が必要ない場合など • 幼児には視点変換が難しい 10 5 2016/4/22 多重プロセス理論 • 複数のプロセスから生み出される現象として鏡映反転を説明 • 鏡映反転は一つの現象ではなく、複数の現象の集まりである 3種類の鏡映反転 鏡の光学的性質に由来する光学変換はすべてに共通している 11 説明の検証(1) • 実験の必要性 – 従来の説明は直感に頼って判断していたが、これは先入観に影響さ れやすい – これを避けるためには、多くの人たちにいろいろな鏡像を実際に見て もらって、左右や上下が反対になっているかどうか、感じたままを率直 に答えてもらう必要がある • 実験の方法 – 50~100人の被験者に一人ずつ実験室に来てもらい、いろいろな鏡像 を見てもらう – それぞれの鏡像について、「上下は反対になっているか」、「左右は反 対になっているか」、「前後は反対になっているか」を質問し、「はい」、 「いいえ」、「わかりません」のどれかで答えてもらう – 一部の実験では確信の度合いを1~7の数値で答えてもらう • 較正 – 心理学実験には誤差がつきものであり、従来の経験から5%までは誤 差範囲内として扱う 12 6 2016/4/22 説明の検証(2) • 実験の被験者 – 被験者の同意を得て、実験の様子をビデオ・カメラで撮影し、必要が 生じた場合は再生して確認 13 実験結果(1) • 鏡に正対した文字の鏡映反転と被験者自身の鏡映反転の 比較 (a)~(c)は文字を変えた鏡像の実験 ほぼ全員が左右反転を認識 → 表意反転による (d)~(e)は被験者の鏡像の実験 左右反転を認識しない人がいる → 視点反転を行っていない 14 7 2016/4/22 実験結果(2) • 反転鏡に映った被験者と文字の比較 (a)の場合は、視点変換をしない人は鏡映反転を 認識し、視点変換をする人は鏡映反転を認識 しない (b)の場合は、視点変換には依存せず、ほぼ 全員が鏡映反転を認識しない 反転鏡に映った鏡像の左右反転 15 実験結果(3) • 「視点反転」対「光学反転」 鏡に横対した文字と観察者の 鏡映反転 文字の場合は、光学変換だけが原因で 生じる光学反転である 観察者の場合は、光学変換だけでは 鏡映反転を認識せず、座標系を鏡像の 中心に移動させた視点変換を行うと 鏡映反転を認識する 16 8 2016/4/22 実験結果(4) • 切り抜いた文字(表が黒、裏が赤)の鏡映反転 – 文字が観察者に正対した場合 – 文字が鏡に正対した場合 – 「鏡に映るといつも左右が反対に見える」というわけではなく、表象と比べたと きに左右が反対になっているかどうかが問題である 17 実験結果(5) • 未知の文字 左右反転の認知率 記憶の中に表象がないため、 「鏡に映っているのだから左右は反対になっているに違いない」と推測して「はい」と答えるか、 「比較ができないのだから、反対になっているとはいえない」と考えて「いいえ」と答えるか、 素直に「わかりません」と答えるか、 いずれにしても、答えが「はい」か「いいえ」に収束しない 18 9 2016/4/22 実験結果(6) • 学習経験の有無 キリル文字の鏡像 左右反転の認知率 19 実験結果(7) • 文字以外の表象反転 日本地図の鏡像 左右反転の認知率 20 10 2016/4/22 実験結果(8) • モナリザの鏡映反転(表象の左右の区別があいまいな場合) モナリザの鏡像 反転させた モナリザの鏡像 左右反転の認知率 – 絵に描かれているのは人物だが、本当の人物の鏡像ではないので、 左右反転の認知は視点反転ではなくて表象反転である 21 実験結果(9) • 鏡に映った自動車(モデルカーでの実験) (a) 右ハンドルの国産車の鏡像 (b) 左ハンドルの外車の鏡像 ハンドルの位置についての判断 – 自動車の鏡像の場合は視点変換を行わない人が多い – カーブミラーに映った自動車のウィンカーの方向の正しい判断が重要 22 11
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