「首がねじれる」合併症に対するガイドライン ―頭頚部手術後の「環軸椎

「首がねじれる」合併症に対するガイドライン
―頭頚部手術後の「環軸椎回転性亜脱臼 AARS」―
はじめに
環軸椎回転性亜脱臼(以下,AARS: atlanto-axial rotatory subluxation)は,生命に関わる疾
患ではないが,その存在を認識していれば,早期発見・早期治療により完治も早く,患者のQ
OL低下を最小限にすることができる.
AARSとは
AARSは,第1頸椎(環椎)と第2頸椎(軸椎)の関節面が,頸を
回す(回旋させる)ことにより,ある位置で固定され回らなくなる病
態をさす.(1) 小児(5∼15才)に好発,(2) Cock robin Position
(イラスト参照)と呼ばれる特徴的外観,(3) 頚部の自他運動で
疼痛,(4) 斜頚側への回旋制限,(5) 整復後は直ちに回旋運動は
正常化,(6) ほとんどの場合神経学的異常はなし,などの特徴が
あり,自然整復する場合も少なくない.
AARSの発生原因
Cock robin Position
頚部の支持組織の脆弱な小児や,当該領域の軽微な外傷(口腔・咽頭の手術)や炎症が
基礎にある場合,過回旋などの外力で容易に生じうる.手術時の体位に起因する合併症と
して,注意すべきであり,耳鼻咽喉科領域での報告例が最も多いとされている.特に,全身
麻酔下では頚部筋群の緊張が減少し,生理的頸部回旋範囲(25∼53度)を超え,65度を
上回る回旋では,脱臼が生じやすい.
AARSの診断
CT(特に3次元CT)により,第1頸椎(環椎)と第2頸椎(軸椎)の関節面の脱臼が確認でき
る.重要なことは,『頸が曲がりにくい』という患者の訴えや,首がねじれた外観により,本疾患
を疑うことである.また第3頸椎以下の回旋代償が行われる場合には,一見してわからない
こともある.
AARSの治療
早期の整復・固定の保存的治療により良好な経過をたどる.しかし診断が遅れると,(1) 再
発の頻度が増加,(2) 回旋位でも固定に移行,(3) 斜頚の永続・斜頭蓋・顔面の非対称が出
現,(4) 観血的治療の必要性が上昇,などが指摘されている.
AARSの発生予防
15才以下の小児例,上位頸椎の奇形(ダウン症,キアリ奇形,関節リウマチなど),耳鼻咽
喉科領域の感染性疾患,(中耳炎,扁桃炎,頸部膿瘍,リンパ節炎)及び腫瘍性疾患などは,
AARS発症のハイリスク群である.
頚部の一般的な生理的回旋範囲は25∼53度で,最大60度までとされているが,これには
個人差があるため,術前の覚醒時に生理的に可能な回旋範囲をチェックしておく必要がある.
強度の回旋が長時間にわたる場合には,肩枕を入れた半側臥位,側臥位の頸部側屈,ある
いは十分な身体固定による手術台回旋などの工夫により,回旋を可能な限り生理的範囲に
抑えるようにする. AARSの早期発見
予後は比較的良好であるが,早期治癒のためには早期診断が最も重要であるので,
強度の回旋を要した術後は,覚醒後(少なくとも翌日には)AARSを念頭において,病室に
て頭部回旋チェック,頭位チェックを行い,異常や訴えがあれば直ちに脊椎専門医の受診を
すすめる
術前説明とインフォームドコンセント
この合併症は,上記にあげたリスクファクターを持つ患者では十分に予測されるものである
ので,可能性の高いリスクとして,術前説明の際に明示しておく.また注意深く予防策を講じ
ても,完全には防ぎ得ない合併症であるが,早期発見により早期の完治が見込める旨の説
明もしておくべきである.
まとめ
環軸椎回転性亜脱臼(AARS)は,頭頚部の疾患を扱う各科で,常に生じうる合併症であり,
本疾患の存在を共通認識とした上で,予防対策・早期発見・発生時の速やかな対応を行う
ことが肝要である.
参考文献:
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2) 岡田文,黒瀬眞之輔,斉藤太一:小児の環軸椎回旋位固定に対する治療経験.整形外科と災害外科52:549-552,2003
3) 山田圭,吉田健治,山下寿:環軸椎回旋位固定の治療方針の検討.整形外科と災害外科52:67-72,2003
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5) Roche CJ, O'Malley M, Dorgan JC:A pictorial review of atlanto-axial rotatory fixation: key points for the radiologist..
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6) Holcomb JD, Jaffe DM, Greinwald JH Jr: Nontraumatic atlantoaxial rotary subluxation in the pediatric otolaryngology
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