小児期心疾患における薬物療法 ガイドライン

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011年度合同研究班報告)
小児期心疾患における薬物療法
ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases(JCS2012)
合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本移植学会,日本川崎病学会,日本小児高血圧研究会,日本小児血液学会,
日本小児脂質研究会,日本小児循環器学会,日本小児腎臓病学会,日本小児心電学研究会,
日本小児麻酔学会,日本小児臨床薬理学会,日本心臓病学会,日本未熟児新生児学会,
日本臨床薬理学会
班 長 佐
地 勉 東邦大学医療センター大森病院小児科
班 員 石 川 司 朗
越 前 宏 俊
岡 田 知 雄
小 川 俊 一
鈴 木 康 之
住 友 直 方
瀧 正 志
中 川 雅 生
中 西 敏 雄
丹 羽 公一郎
濵 岡 建 城
岩 崎 達 雄 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
福岡市立こども病院循環器
麻酔 ・ 蘇生学分野
明治薬科大学薬物治療学
牛ノ濱 大 也 福岡市立こども病院循環器科
神 山 浩 日本大学医学部小児科
後 藤 美 和 独立行政法人国立病院機構東京医療
日本大学医学部小児科
日本医科大学付属病院小児科
国立成育医療研究センター手術 ・ 集中治療部
日本大学医学部小児科
小 林 徹
鈴 木 えり子
関
満
髙 月 晋 一
長 江 千 愛
中 山 智 孝
深 澤 隆 治
藤 田 直 也
聖マリアンナ医科大学小児科
滋賀医科大学小児科
東京女子医科大学循環器小児科
聖路加国際病院心血管センター循環器内科
京都府立医科大学大学院医学研究科
小児循環器 ・ 腎臓病学
林 昌 洋 国家公務員共済組合連合会
虎の門病院薬剤部
福 嶌 教 偉 大阪大学大学院医学系研究科
本 田 雅 敬
松 裏 裕 行
村 上 智 明
与 田 仁 志
協力員 石 川 友 一
石 川 洋 一
糸 井 利 幸
センター小児科
群馬大学大学院医学系研究科小児科学分野
東邦大学医療センター大森病院薬剤部
群馬県立小児医療センター循環器科
東邦大学医療センター大森病院小児科
聖マリアンナ医科大学小児科
東邦大学医療センター大森病院小児科
日本医科大学付属病院小児科
総合病院聖隷浜松病院小児科
外部評価委員
重症臓器不全治療学腎臓内科
石 井 正 浩
和 泉 徹
伊 藤 真 也
伊 藤 進
川 合 眞 一
東京都立小児総合医療センター
東邦大学医療センター大森病院小児科
千葉県こども病院循環器科
東邦大学医療センター大森病院新生児科
福岡市立こども病院循環器科
国立成育医療研究センター薬剤部
北里大学医学部小児科
北里大学医学部循環器内科学
トロント大学トロント小児病院臨床薬理学
香川大学医学部小児科
東邦大学医療センター大森病院膠原病科
(構成員の所属は 2012 年 12 月現在)
京都府立医科大学大学院医学研究科
小児循環器 ・ 腎臓学
目 次
総論
Ⅰ.小児薬物療法の基礎知識…………………………………… 91
1. 臨床薬理学的な観点に基づく薬物療法の考え方 …… 91
2. 処方せん記載方法の標準化と臨床薬理的視点 ……… 91
3. 小児薬用量設定への PK-PD 情報の利用状況 ………… 92
4. 小児の薬物動態(PK)の発達変化 …………………… 92
Ⅱ.母乳と妊娠・胎児の薬理学………………………………… 96
1. 母乳と乳児の薬理学 …………………………………… 96
2. 妊娠と胎児の薬理学 …………………………………… 99
3. 妊娠・授乳期の薬物療法に対する母児のリスク・ベネ
フィト評価の重要性 ………………………………… 104
4. 妊婦・授乳婦への薬物療法情報について ………… 105
各論
Ⅰ.抗心不全薬総説…………………………………………… 112
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
89
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
1. 疫学 …………………………………………………… 112
2. 定義 …………………………………………………… 112
3. 心不全の分類 ………………………………………… 112
4. 薬物治療 ……………………………………………… 113
5. 心不全の予後 ………………………………………… 114
Ⅰ a.血管拡張薬:ホスホジエステラーゼ 3 阻害薬,カルシウ
ム感受性薬 ………………………………………………… 116
1. 心不全治療の概念 …………………………………… 116
2. PDE3 阻害薬 ………………………………………… 116
3. カルシウム感受性薬 ………………………………… 117
4. 薬物療法の実際 ……………………………………… 117
Ⅰ b.心不全に対する血管拡張薬 …………………………… 120
1. 薬物療法の実際 ……………………………………… 120
Ⅰ c.利尿薬 …………………………………………………… 129
1. 定義 …………………………………………………… 129
2. 小児の病態 …………………………………………… 129
3. 小児の臨床的特徴 …………………………………… 129
4. 小児心不全治療における利尿薬の役割 …………… 130
5. 薬物療法の実際 ……………………………………… 130
Ⅱ a.川崎病急性期治療薬 …………………………………… 132
1. 疫学 …………………………………………………… 132
2. 定義 …………………………………………………… 132
3. 小児の病態と臨床的特徴 …………………………… 133
4. 薬物療法の実際 ……………………………………… 133
Ⅱ b.虚血性心疾患の薬物療法 ……………………………… 136
1. 心筋虚血の定義と治療の原則 ……………………… 136
2. 虚血性心疾患の分類 ………………………………… 136
3. 小児期の特殊性と問題点 …………………………… 136
4. 抗虚血療法 …………………………………………… 137
Ⅱ c.抗血小板薬,抗凝固薬,血栓溶解薬 ………………… 142
1. 序文 …………………………………………………… 142
2. 各種疾患に対する抗凝固・抗血小板療法 ………… 144
Ⅲ.高脂血症治療薬…………………………………………… 153
1. 疫学 …………………………………………………… 153
2. 定義 …………………………………………………… 154
3. 小児の病態と臨床的特徴 …………………………… 154
4. 薬物療法の実際 ……………………………………… 155
Ⅳ.抗不整脈薬………………………………………………… 159
1. 上室期外収縮 ………………………………………… 159
2. 心房細動 ……………………………………………… 159
3. 心房粗動 ……………………………………………… 160
4. 上室頻拍,心房頻拍 ………………………………… 160
5. 心室期外収縮,特発性非持続性心室頻拍 ………… 161
6. 特発性持続性心室頻拍 ……………………………… 162
7. 多形性心室頻拍 ……………………………………… 162
8. QT 延長症候群 ……………………………………… 163
9. 抗不整脈薬の適応と用量 …………………………… 164
Ⅴ.降圧薬……………………………………………………… 167
1. 小児高血圧の一般的治療指標 ……………………… 167
90
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
2. 重症高血圧の治療 …………………………………… 169
3. 二次性高血圧 ………………………………………… 171
4. 小児高血圧に使用する降圧薬 ……………………… 173
5. 小児期腎不全患者への薬物療法 …………………… 173
Ⅵ.低血圧治療薬……………………………………………… 188
1. 低血圧の分類 ………………………………………… 188
2. 小児低血圧の定義 …………………………………… 188
3. 昇圧剤 ………………………………………………… 188
Ⅶ.小児肺高血圧治療薬……………………………………… 190
1. はじめに ……………………………………………… 190
2. 内科治療 ……………………………………………… 190
3. おわりに ……………………………………………… 195
Ⅷ.小児の心筋疾患,心膜疾患治療薬……………………… 195
1. 心筋症 ………………………………………………… 195
2. 心筋炎 ………………………………………………… 207
3. 心外膜炎 ……………………………………………… 208
Ⅸ.救急用製剤治療薬………………………………………… 209
1. 心原性ショック ……………………………………… 209
Ⅹ.麻酔薬,鎮静薬,周術期関連薬………………………… 214
1. 薬物療法の実際 ……………………………………… 214
ⅩⅠ.感染性心内膜炎の予防薬・治療薬 …………………… 220
1. 疫学 …………………………………………………… 220
2. 定義 …………………………………………………… 220
3. 小児の病態と特徴 …………………………………… 221
4. 薬物療法の実際 ……………………………………… 221
ⅩⅡ.新生児・未熟児の循環作動薬 ………………………… 224
1. 未熟児動脈管開存(PDA) ………………………… 224
2. 新生児・未熟児の低血圧 …………………………… 226
3. 新生児遷延性肺高血圧 ……………………………… 227
ⅩⅢ.核医学検査用薬剤,負荷試験薬剤 …………………… 229
1. 小児期核医学検査用薬剤の投与量 ………………… 229
2. 心臓核医学検査用薬剤と放射線被ばく …………… 230
3. 核医学検査用薬剤の種類 …………………………… 231
4. 核医学検査用の負荷試験薬剤 ……………………… 232
ⅩⅣ.小児臓器移植の免疫抑制薬 …………………………… 234
1. 疫学 …………………………………………………… 234
2. 免疫抑制療法の定義 ………………………………… 235
3. 薬物療法の実際 ……………………………………… 236
4. 抗体関連型拒絶反応(antibody mediated rejection: AMR)
の治療戦略 …………………………………………… 242
5. 拒絶反応に対する非薬物療法 ……………………… 243
ⅩⅤ.小児循環器用薬剤一覧 ………………………………… 248
文 献…………………………………………………………… 250
(無断転載を禁ずる)
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
総 論
2
Ⅰ
小児薬物療法の基礎知識
処方せん記載方法の標準化と
臨床薬理的視点
従来,内服薬の処方せんの記載は,① 1 日分量と,②
1
臨床薬理学的な観点に基づく
薬物療法の考え方
(用法・用量として)1 回当たりの服用量,1 日当たりの
服用回数,服用時点の明示と投与日数の記載が求められ
ていた.しかし,1 日分量の分割方法の記載が標準化さ
れていない(例,1 日 3 回に分割投与の指示には,×3,
従来から薬物療法は「投与量─効果・副作用関係」に
3 ×,分 3 などが慣用されている)ため,本来は 1 日分
基づいて考えられてきた.しかし,投与された薬物が血
量を3分割すべき指示が,誤って3倍量調剤されてしま
液により作用部位に送達され効果を発揮するまでの動的
うなどの医療安全上の問題が生じている.このため,平
過程(体内薬物動態:pharmacokinetics, PK)が研究さ
成 22 年の「内服薬処方せんの記載方法のあり方に関す
れると,この過程には大きな個人差があることが判明し,
る検討会報告書」3)では,処方せんの記載方法を②の記
PK の個人差が効果や副作用発現の個人差の原因となる
載法に標準化すべきであると提言している.
ことが明らかとなった .
臨床薬理的な観点からは,処方せんにおける① 1 日分
また,血液中の薬物濃度と応答性の関係に基づいて,
量記載法は,その基礎に薬物の必要量を「投与量─効果
薬物の標的分子(酵素,受容体など)レベルでの応答性
関係」としてとらえる思想が背景にあるが,②用法・用
の個人差(薬力学,pharmacodynamics, PD)を検討でき
量の記載は 1 回当たりの服用量により生じる体内薬物量
1)
(血中濃度)の最大・最小値と,1 日当たりの服用回数
るようになった(図 1).
小児においては,特に新生児から乳児期に薬物代謝や
で規定される薬物濃度の時間経過を意識した「投与量─
排泄に関係する肝・腎機能に大きな発達変化が生じるた
血中濃度─効果関係」の思想が背景にある.この意味か
め成人の薬物療法にもまして臨床薬理学的な観点に基づ
ら上記検討会の提言は,単に医療安全上の養成から記載
いたアプローチが重要である.
方法の標準化するだけでなく,薬物療法を臨床薬理学的
の観点から考える大きな意義がある.
図 1 薬物の応答性を支配する薬物動態と感受性の関係(文献 2 より引用)
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
91
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
3
小児薬用量設定への PK-PD
情報の利用状況
乳児の薬物吸収速度は年長児よりも遅く,最高血中濃度
到達時間は遅れる傾向がある.しかし,吸収総量には臨
床的に問題となるほどの差はないとされる 1).新生児か
ら乳児期において薬物吸収を経時的に評価した研究は少
新生児から成人までの発達過程で体重は約 20 倍,臓
ないが,フェノバルビタール,サルファ剤,ジゴキシン
器重量では体表面積から推測して約 8 倍の発達変化を生
などの受動的吸収を受ける薬物やキシロースなどの吸収
じる.また,新生児では薬物動態に関係する肝薬物代謝
は生後 4 か月までに成熟する 4).新生児では胃酸分泌が
酵素活性や腎糸球体濾過機能などが未熟で乳児期にかけ
未発達なため胃内 pH が高いので,イトラコナゾールな
て急速な発達を遂げることも知られている.このような
どの溶解度が中性 pH で著明に低下する.薬物では吸収
発達変化(ontogeny)を生じる小児の薬物療法は,本来
が遅延または低下する可能性がある.一方,薬物自体が
小児で観察される PK/PD 情報に基づいて行われるべき
酸性条件下で不安定な薬物(ベンジルペニシリンベンザ
であるが,倫理的配慮や種々の技術的な困難さにより臨
チン,アンピシリン,ナフシリンなど)は,新生児での
床薬理学的な臨床試験は少なく,小児の薬物療法ガイド
消化管吸収率が小児や成人よりも高い 5).
ラインの基礎となるべき PK/PD データは不備である.
薬物の消化管吸収速度は剤型により影響される.錠剤
従来,小児薬用量は成人薬用量を該当患児の年齢や体
やカプセルの剤型で服用される薬物は,消化管内で崩壊
重などの生物的な発達パラメーターを尺度として換算す
と溶解の過程を経て初めて吸収される.したがって,一
る経験式(Augsberger 式など)が使用されたが,現在で
般に液体の剤型(シロップ,懸濁剤)からの薬物吸収は
は科学的な根拠の不十分さから欧米の代表的な教科書で
固形剤型(錠剤,カプセル剤)より速い.学童期までの
は言及されていない.最近では,おおよそ 5 ~ 6 歳以後
小児には誤嚥防止の観点から液剤やドライシロップなど
の小児薬用量は抗がん剤などの治療濃度域が狭い薬物を
を用いることが多いが薬物吸収の観点からは望ましいこ
はじめとして,徐々に薬物代謝や排泄に関わる肝臓や腎
とである.
臓の重量発達を近似する体表面積を基準として体表面積
近年,上部消化管粘膜上皮細胞には薬物代謝酵素
あたりの成人量を用いて小児用量を換算する事例が増加
(CYP3A,CYP1A など)や薬物の上皮細胞への吸収あ
している.また,新生児期から乳児期における PK の変
るいは上皮細胞から消化管内腔への排泄を能動的に行う
化を考慮していくつかの薬物が年齢に応じた推奨投与量
薬物輸送トランスポーター(P 糖蛋白;PgP など)が発
が,ゲンタマイシン,セフタジジム,クリンダマイシン,
現していることが判明した 6).これらの発現量の個人差
カルバマゼピン,フェニトイン,フェノバルビタール,
が免疫抑制薬シクロスポリンやタクロリムスを経口投与
テオフィリン,ジゴキシン,カプトプリル,ラニチジン
する際の生体内利用率(バイオアベイラビリティ)の個
1)
などで確立している .以下に,小児の PK と PD に関す
人差に影響することが示唆されている(図2)7).PgP の
る知見を簡略にまとめる.
基質としては,他にアジスロマイシン,デキサメタゾン,
4
1
小児の薬物動態(PK)の発
達変化
薬物吸収 absorption
薬物を血管内投与以外の方法で薬物を投与する場合に
は, 薬 物 の 投 与 部 位 か ら 血 液 循 環 へ の 移 動( 吸 収:
absorption)効率は必ずしも 100 %ではなく,また時間
的に遅れが生じる.
①経口投与 (oral administration, po)
ほとんどの薬物の消化管吸収過程は受動拡散である.
消化管粘膜の絨毛形成は既に胎生期に完了している.一
方,胃から小腸への排泄運動の未成熟により,新生児と
92
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
ジゴキシン,エリスロマイシン,フェンタニル,イトラ
コナゾール,モルヒネなど多くの薬物がある.ヒトの消
図 2 消化管粘膜上皮における CYP3A4 と P 糖蛋白の
共発現と協同的な消化管での初回通過効果
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
化管 PgP 活性の小児発達については情報が少ない.また,
吸入投与による薬物の投与は,気管支喘息の治療で
消化管粘膜の CYP3A 活性がグレープフルーツジュース
βアドレナリン作動薬やステロイド性抗炎症薬などで広
(GFJ)に含有される成分により阻害されるため多くの
く用いられている.この投与法は薬物を作用部位近傍に
CYP3A 基質薬のバイオアベイラビリティを増加させる
直達させるため全身吸収量は少なく,一般的に全身的な
相互作用を生じる原因となることも注目されている.
薬理作用は少ない.しかし,高用量で長期に使用された
②その他の投与経路
吸入βアドレナリン作動薬による心循環器系副作用や
ステロイド性薬による副腎機能抑制などの副作用が生じ
経口投与が困難で静脈確保が困難な際などには薬物を
ることがある.これらの薬物の上気道粘膜および経下気
筋肉内注射することがある.生理的な pH で溶解度が低
道的な吸収は気管支組織および呼吸機能の発達により影
い薬物(フェニトイン,ジアゼパムなど)は筋肉内で析
響されると推測されるが,十分研究されていない.
出するので,血管内への吸収速度に大きな個人差が生じ
ることがある.また,循環不全により筋肉血流が減少し
③分布 (distribution)
ている病態では吸収速度は低下する.
投与部位から吸収された薬物は主に血液循環に移行し
坐薬による薬物の直腸内投与は,嘔吐や意識障害のた
全身組織に分布する.このとき,薬物が血液濃度と同じ
めに薬物を経口投与できない場合などに便利な投与経路
濃度で一様に分布していると仮定して計算した値が分布
であり,フェノバルビタール,アセトアミノフェン,ア
容 積(volume of distribution: Vd) で あ る. も ち ろ ん,
ミノフィリンなどの薬物で使用されてきた.直腸下部粘
薬物は血液と同じ濃度で組織中に分布するわけではない
膜から吸収された薬物は門脈を経由せず大循環に到達す
ので,この値は見かけ上の値であり,何ら実在の生理的
るので,肝臓における初回通過効果を回避する利点もあ
容積を表すものではない.しかし,この値は薬物の初回
る.しかし,直腸粘膜の表面積は小腸よりも小さく,小
投与などで投与直後に治療効果に基づいて設定した薬物
児では排便回数が多いため吸収のバラツキの原因とな
血中濃度を得るために必要となる負荷投与量を推測する
る.したがって,この投与経路は重篤な臨床状況で確実
際に有用である.
な薬物吸収を期待する際には最適の投与法ではない.ア
必要な薬物投与量 = Vd ×Δ血中濃度 ミノフィリンの坐薬投与に伴う吸収率の個人差により効
ここでΔ血中濃度は投与前と投与後の血中濃度増加
果不足や中毒が生じることが報告されている.一方,ジ
値である.この式は初回投与でも経過中の追加投与の場
アゼパムやバルプロ酸の坐薬投与によりてんかんの急性
合にも使用できる.
および慢性治療を安全かつ効果的に実施できたとの報告
新生児および乳児では成人よりも体重当たりの体内水
もある.
分量・細胞外水分量が多いため 1),アミノグリコシド系
薬物の経皮投与は皮膚湿疹などの局所治療の他に,経
抗菌薬のように比較的水溶性が高く血漿蛋白結合率の低
皮吸収による全身投与を目的としたニトログリセリン,
い薬物の体重当たりの分布容積は成人よりも大きい.し
ツロブテロールなどの貼付製剤でも使用される.小児の
たがって,それらの薬物では小児薬用量を体重当たりの
皮膚血流は成人よりもむしろ多いので,一般に小児にお
成人用量から換算して投与すると血中濃度が治療域を下
ける薬物の経皮吸収は成人よりも良好である.小児の体
回ることがある 9).一方,脂溶性が高い薬物の体重当た
重当たりの体表面積は成人より約 3 倍大きいため,同一
りの分布容積は小児と成人で大きな差異はない.
皮膚面積から吸収される体重当たりの薬物量は成人より
血漿中の薬物は遊離型と血漿蛋白との結合形が可逆的
も多い.アトピー性湿疹などで副腎皮質ステロイド外用
な平衡状態にある.酸性薬物(フェニトインなど)は主
薬を長期投与する場合には全身的な副作用の観点から留
としてアルブミンに,塩基性薬物(リドカイン,ジソピ
意が必要である.
ラミドなど)は主としてα 1- 酸性糖蛋白(AAG)に結
また,新生児では皮膚角質層の厚さは成人よりも薄い
合する.新生児では1歳児と比較しても血清アルブミン
ため経皮的な薬物や化学物質の吸収が良く,局所投与を
濃度は 30%前後,AAG 濃度は 50%前後低いので蛋白結
目的とした殺菌剤(ヘキサクロロフェン,ヨード)やそ
合率が高い薬物の遊離型分率は増加している 1).
の基剤(プロピレングリコール),さらには薬物(サル
血管内皮を通過して組織に自由し,作用部位(酵素,
ファ剤,ジフェンヒドラミン,リドカイン,プロメタジ
蛋白など)に到達できるのは遊離型薬物であるので,薬
ン,ヒドロコルチゾンクリーム)が経皮的に吸収されて
物の効果は血液中の遊離型薬物濃度が関係する.血漿蛋
中毒症状を生じた報告がある 8).
白結合率が高く(典型的には> 90%),分布容積が小さ
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
93
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
血漿中総(総合形+遊離形)濃度(任意の単位)
図 3 薬物の血漿蛋白結合濃度の低下に伴う血漿遊離型分率の
増加と総および遊離型薬物の変化
加を考慮して(図 3),報告された測定値を蛋白濃度が
正常な場合の測定値に換算して解釈する必要がある.
120
100
している新生児や低蛋白血症の小児では遊離形分率の増
遊離形 10%
結合形濃度
遊離形濃度
④代謝(metabolism)
循環器系薬物は比較的脂溶性が高く,肝臓で代謝を受
80
遊離形 20%
60
け不活化されるものが多いので肝臓の薬物クリアランス
の発達は薬物療法を考える上で重要である.繰り返し投
与により定常状態(蓄積が完了した時点)に到達した薬
40
物の血中濃度(全身薬物量)は投与量と全身クリアラン
スにより決まる.その全身クリアランスは,単位肝組織
20
当たりの薬物代謝酵素活性(発現量)と臓器重量の積に
0
正常
低下
血漿蛋白結合
より決まる.したがって,小児の薬物代謝クリアランス
の ontogeny は主として新生児から2歳ころまでの肝細
胞当たりの酵素発現量が成人値に向かって増加する時期
(質的成長期)と,それ以後の主として臓器サイズ発達
94
い薬物では,体内の薬物の大部分が血液中に存在してい
により全身クリアランスが増加する時期(量的成長期)
る.このような薬物の結合率が低下(例えば 90 %から
に分けて論じる必要がある.ただし,現時点では両期の
80 %)すると,遊離型薬物の分率は 10 %から 20 %へと
境界を異なる酵素分子種に対して明確に設定することは
倍増し,組織に分布できる遊離型薬物が増加する.この
できていない.以下に薬物代謝酵素の発達変化を第 1 相
ため,薬物の血中総(遊離型+結合型)濃度は蛋白結合
反応(酸化反応が主体)と第2相反応(転移あるいは抱
が正常な場合より低くなる.しかし,効果に関係する遊
合反応が主体)に分けて論じ,その概要は表 1 にまとめ
離型薬物濃度は,遊離型分率の増加と総薬物濃度薬物の
た.
低下が相殺されるため,蛋白結合率が正常な場合と大き
1)新生児から2歳前後までの質的成長期
な差はなくなる.さらに,薬物投与から時間が経過する
①薬物酸化代謝酵素
と,血液中の遊離型薬物を除去する肝臓や腎臓の浄化能
ヒトの薬物酸化代謝酵素で最も重要なものは 3 種類の
力(クリアランス)が正常な場合は,分布の変化により
シ ト ク ロ ム P450(CYP) フ ァ ミ リ ー で あ る(CYP1,
増加した血液中の遊離型薬物を正常化させるので薬理効
CYP2, CYP3).CYP3 群では,CYP3A7 が胎生早期から
果への影響はさらに少なくなる.この現象は薬物蛋白結
に発現しているが,生後まもなくその発現は減少し,生
合部位における併用薬との相互作用の場合でも同様であ
後1年までにほとんど検出されなくなる.一方,成人型
る.
の CYP3A4 は出生時には発現量が少ないが,生後1~
ただし,新生児・乳児では後述するように肝臓や腎臓
2年後にかけて発現量が増加する 10).CYP3A4 活性の指
の遊離型薬物に対するクリアランス(酵素活性自体)が
標であるミダゾラムの全身クリアランスは新生児から乳
未発達であるため,蛋白結合率の低下による遊離型薬物
児期にかけて 7 から 8 倍増加することが明らかとなって
濃度の増加が薬物クリアランスにより迅速かつ充分に正
いる 11).
常化できず薬理効果の増強や毒性発現が生じるものと考
CYP2C 群 の 主 要 な 分 子 種 は CYP2C9,CYP2C19,
えられる.したがって,新生児では生理的に増加してい
CYP2C8 である.フェニトイン,ワルファリン,スルホ
る遊離型薬物濃度をさらに増加させるような蛋白結合部
ニル尿素薬,酸性非ステロイド性消炎鎮痛薬(ジクロフ
位での相互作用を持つ薬物の投与は避けるべきである.
ェナクなど)などを代謝する CYP2C9 の発現量は胎生
内因性ビリルビンはアルブミン結合物質であるため新生
25 週ころから発現し,個人差は大きいものの出生後急
児黄疸にサルファ剤を投与すると核黄疸リスクが増加す
速に増加し,生後 5 か月ころまでに半数の小児では成人
るため禁忌となっている.
値に到達する 12).一方,プロトンポンプ阻害薬,クロピ
臨床で日常的に実施されている薬物血中濃度モニタリ
ドグレルなどの代謝に関係する CYP2C19 は,生後 5 か
ング(TDM)ではほとんどの場合総(結合型+遊離型)
月以上かけて緩やかに発現量が増加する 12).一方,テオ
濃度を測定するので,血液中の薬物結合蛋白濃度が低下
フィリンおよびカフェインを基質とする CYP1A2 は発
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
表 1 新生児・乳児期の単位臓器重量当たり肝代謝および腎排
泄活性の個体発生(ontogeny)
肝代謝
代謝酵素
CYP1A2
出生時には活性がほとんどないが,生後 1 ~
3 か月から発現が始まり,4 ~ 5 か月に成人
値となる.
CYP2C9
出生時には活性が低いが,生後急速に活性は
増加し,生後 5 か月頃までに半数の小児でほ
ぼ成人値となる.
CYP2C19
出生時には活性が低いが,生後 5 か月以上か
けて緩やかに発現量が増加する.
CYP2D6
出生時にはほとんど活性がなく,生後 2 週間
までは低いが,3 週目以降は遺伝子型に応じ
て活性が発達し,遺伝多型による活性の差異
が明瞭となる.10 歳までに成人値に達する.
CYP3A4
出生時には発現量が少ないが,生後 1 ~ 2 年
かけてゆっくりと成人値まで増加する.
CYP3A7
胎生早期から発現するが,生後まもなく発現
が減少し,生後 1 年までにほとんど消失する.
抱合(転移)代謝酵素
UGT1A1
ヒトでは十分な研究がなされていない
UGT1A4
出生時は成人の 50% 以下であるが,1.5 歳頃
までにほぼ成人値まで発達する
UGT1A6
新生児~乳児期を通じて活性は低い.
UGT2B7
新生児での活性は小児(10 歳前後)の 20%
程度で,出生後 2 ~ 6 か月で急速に増加する.
硫酸抱合酵素 新生児でも成人値の 70% 前後の活性がある.
N ⊖ ア セ チ ル 出生時から生後 2 か月までは低い.生後 6 か
化酵素
月で遺伝多型の差異が出現し生後 1 ~ 4 年で
成人値となる.
メチル基転移 出生時にすでに成人値を示す.
酵素
腎排泄
糸球体濾過速 新生児期には成人の 10 ~ 20% であるが,1
度
歳前後で成人値まで成熟する.
尿細管分泌機 新生児期には低い。糸球体発達より発達は遅
能
れるが 1 歳前後で成人と同じになる.
出現するのは,ビリルビンを抱合体謝する UGT1A1 は
胎生期にほとんど活性がなく,出生時には極めて低値で,
出生後急速に増加するためである.新生児に UGT の基
質である抗菌薬のクロラムフェニコールを投与すると高
頻度で Gray 症候群と呼ばれる重篤な中毒反応が生じた
のは新生児期の UGT が低活性であるためである.クロ
ラムフェニコールの代謝は生後 6 か月で成人値に達す
る 15).出生時の肝組織 UGT1A4 活性は成人の 50 %以下
で あ る が 1.5 歳 頃 ま で に ほ ぼ 成 人 値 ま で 発 達 す る 16).
UGT1A6 活性は基質であるアセトアミノフェンのクリ
アランスで評価すると,新生児,乳児を通じて低い.抗
がん剤イリノカテンなどの代謝に関係する UGT1A1 の
発達変化についてはヒト肝臓試料での活性研究がある
が 17),in vivo での全身クリアランスについては情報が
ない.一方,UGT2B7 はモルヒネの代謝に関係する.モ
ルヒネの全身クリアランスで評価した新生児の
UGT2B7 活性は 10 歳前後の小児の 10 ~ 20%程度に過ぎ
ず,出生後 2 ~ 6 か月で急速に増加することが知られて
いる 18).硫酸抱合酵素の活性は新生児でも十分に発現し
ているとされる.
2)幼児期以降の量的発達期
主として学童から思春期の小児を対象とした薬物動態
研究(ワルファリン,ジソピラミド,テオフィリン,カ
ルバマゼピンなど)では体重当たりに換算した小児薬用
量が対応する成人量を 2 倍程度上回ることが知られてい
る 1).この現象は,主として薬物の体内動態に関わる臓
器(肝臓,腎臓)重量と体重の比率が小児では成人より
大きいことに由来する見かけの現象である.画像検査で
計測した肝容積で標準化したいくつかの典型的な肝代謝
型薬物の小児クリアランス値は成人値とほとんど差がな
い 19,20).
現が遅く,生後 1 から 3 か月から発現が始まる 13).
比較生物学的な経験的アロメトリー原理によればエネ
CYP2D6 は抗不整脈薬(フレカイニドなど),β 遮断
ルギーを要する生命活動(薬物代謝など)の同種または
薬(メトプロロールなど)などの循環器薬物,抗うつ薬,
異種動物間での差異はサイズ(体重)の 3/4 乗に比例する.
抗精神病薬,抗てんかん薬,コデインなどの中枢神経作
アロメトリー原理を用いた生理的薬物動態モデルを小児
用薬の代謝に関係する.出生時にはほとんど活性がなく,
薬用量推定に利用する試みが盛んに行われているが,現
生後 2 週間までは低いが,3 週目以降に活性が発達し 10
時点ではまだ研究段階である 21).アロメトリー原理は身
歳までに成人値に達する 14).
体サイズは異なるが臓器機能は成熟した小児期の薬物ク
②抱合代謝酵素
リアランス予測を目的とした理論であるので,新生児や
抱合酵素は酸化代謝酵素よりも分子種が多い.代表的
乳児のように肝細胞当たりの薬物代謝酵素活性が発達中
な抱合酵素であるグルクロン酸転移酵素(UGT)は遺
の時期には適応できない.体重の 3/4 乗の成長曲線は体
伝子構造から UGT1A と UGT2B のサブファミリーに分
表面積のそれと良く一致している.
類される.UGT1A 群はさらに 9 分子種に,UGT2B 群は
7 分子種に分類される.
生後数日から 1 週間程度に生理的高ビリルビン血症が
⑤腎排泄(renal elimination)
腎臓組織におけるネフロンの形成は胎生期の早期から
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
95
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
始まり,36 週にはほぼ完成されるとされる.さらに生
後 2 週間の間に急速に発達し,8 から 12 か月で完成する.
このため,糸球体濾過率(GFR)は,未熟児では 0.6 ~
Ⅱ
母乳と妊娠・胎児の薬理学
0.8mL/min/1.73m2 であるが,満期産の新生児では 2 ~
4mL/min/1.73m2 に増加し,1 歳前後には体表面積で標準
妊娠・授乳期の母親に薬物療法を必要とする症例があ
化した値(mL/min/1.73m2)は成人とほぼ同等となる 1).
る.この場合,母体に投与した薬物が胎盤・母乳を介し
尿細管分泌機能も新生児期には未熟であるが糸球体濾過
て胎児・乳児に移行する可能性があり,胎児・乳児へ及
機能より遅れて生後 1 年前後に成熟する.このような腎
ぼす薬理作用への配慮が必要となる.授乳期の薬物療法
機能の発達変化は,主に腎糸球体濾過により排泄される
と母乳・乳児への影響,妊娠期の薬物療法と胎児の薬理
水溶性薬物(アミノグリコシド系薬,ファモチジン,ラ
学的相関と胎児毒性の評価に関する基本的な考え方をま
1)
ニチジン等)の動態の発達に大きな影響を与える .例
とめる.一方,胎児診断の進歩とともに,母体を介して
えば,ゲンタマイシンの消失半減期は,未熟児では 36
経胎盤的に薬物を投与し胎児治療を行うことも現実的な
~ 48 時間,新生児では 24 時間と,成人の 2 ~ 4 時間に
治療選択肢となっている.なお,妊娠・授乳期の薬物療
比べて著明に延長している 22).
法に関しては,倫理的な配慮から無作為化二重盲検比較
尿細管分泌機能には各種の有機イオントランスポータ
試験は行われないため根拠情報のエビデンス・レベルに
ーが関係しており,薬物によってはそのクリアランスが
は限界がある.こうした中でも胎児曝露例の前向きコホ
腎糸球体濾過速度を上回ることもある.尿細管分泌クリ
ート研究,人母乳並びに乳児血中薬物濃度解析等の臨床
アランスの発達は腎糸球体濾過のそれよりも遅れる.有
薬理研究が得られるものでは科学的根拠に基づく評価が
機アニオン・トランスポーターの発達変化はパラアミノ
可能となっている.
馬尿酸(PAH)やブメタニド,フロセミドの腎クリアラ
ンスで評価されている.新生児の体重当たりのブメタニ
1
母乳と乳児の薬理学
ド全身クリアランスは成人の 20 %であるが,新生児か
ら乳児期に 3 倍以上の発達変化が観察される 23).同様の
授乳期の薬物療法では,母乳分泌への薬理作用,母乳
変化がフロセミド,アンピシリン,ベンジルペニシリン
への薬物・代謝物の移行性,母乳を介した乳児の薬物曝
などで観察されている 24).腎尿細管の有機カチオントラ
露量,経母乳的な薬物曝露が乳児に及ぼす薬理作用,そ
ンスポーターや PgP 活性の発達変化については未だに情
の薬理作用と母乳保育のリスク・ベネフィット評価が必
報が少ない.
要となる.プロラクチンレベルを低下させ母乳分泌を抑
⑥小児の薬物感受性の成人との差異に関する知見
薬力学(PD)の ontogeny については PK よりも情報
がはるかに少ない.新生児・乳児ではシクロスポリンに
制する薬物としてブロモクリプチンメシル酸塩に代表さ
れる中枢ドパミン神経作動薬がある 25).
1
薬物の母乳移行
よる免疫抑制作用,ワルファリンによる抗凝固作用,ラ
授乳婦が摂取した薬物の母乳移行性を規定する薬物側
ンソプラゾールによる胃酸分泌抑制効果における感受性
因子として,薬物の分子量,塩基性,脂溶性,血中蛋白
がより年長の小児や成人よりも高いとする報告があ
結合率などがある(図 4).
る
1),8),24)
.また,結核の化学療法やバルプロ酸による肝
障害の出現頻度は小児において成人よりも高いことなど
①分子量
副作用頻度にも成人との差異が報告されている 1),8).従
低分子の化合物は,分子量が小さく受動拡散により母
来の研究では,薬物応答性の発達変化は「投与量─効果
乳に移行することが知られている.一方,ダルテパリン
関係」により評価されることが多かったので,今後は「血
等の低分子ヘパリンは,分子量が大きく母乳中の薬物濃
中濃度─効果関係」に基づいて評価し,PD の ontogeny
度は検出限界以下であった 26).未分画ヘパリンはさらに
を検討する必要がある.
分子量が大きいため母乳移行性はさらに低いと考えられ
ている.
②塩基性
母体血漿と母乳間の薬物の受動拡散は分子型薬物のみ
96
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
図 4 母体血漿から母乳中への薬物の拡散様式
母体血漿中
母乳中
乳脂肪球
脂溶性薬物
−
イオン型
遊離型薬物
分子型
+
タンパク
薬物
タンパク結合型薬物
遊離型薬物
−
分子型 イオン型
+
タンパク
薬物
タンパク結合型薬物
が対象となり,イオン型薬物は荷電を有するため膜を通
ンやシメチジン等の薬物の輸送に関わっている 27),28).
過できずに母乳中へ移行しない.母体血漿の pH と比較
分子量・塩基性・疎水性・蛋白結合率などの因子から予
して母乳の pH は若干酸性であるため,弱塩基性の薬物
想される以上に母乳中に高濃度に移行する要因として留
は血中に比べて母乳中でイオン型となる比率が高い.こ
意する必要がある.
のため母乳中に留まることとなり相対的に母乳中濃度が
高くなる性質をもつ.この現象はイオントラッピングと
呼ばれる.
③脂溶性(疎水性)
⑥代謝物の活性・母乳移行性
母体に投与された薬物は,小腸粘膜あるいは肝臓で代
謝され代謝物となり胆汁中あるいは尿中に排泄される.
この過程で代謝物も母乳への移行が認められている.原
乳汁中の脂質濃度は母体血中の脂質濃度より高い.脂
薬と比較して代謝物の活性は低いことが一般的である.
溶性の薬物は,乳汁中の脂質に分布しやすいため親水性
ただし,いくつかの薬物では代謝物が同等の活性を有し
の薬物と比較して母乳移行性が高くなる.薬物の疎水性
ていたり,親化合物以上の乳児毒性を示すことがあり注
の指標としてオクタノール/水分配係数が用いられる.
意が必要である.
④蛋白結合率
抗不整脈薬プロカインアミドでは肝代謝により生じる
N -アセチルプロカインアミドが同等の活動電位持続時
低分子の化合物は遊離型分子あるいは,血清アルブミ
間の延長作用を有しており,曝露量も親化合物を超える
ンまたはα1 酸性糖タンパク質などの血漿蛋白と結合し
ことがしばしば認められる.定常状態における親化合物
た形で血中に存在している.血漿蛋白に結合した薬物は
の母乳中濃度が 5.4mg/L に対して,代謝物の母乳中濃度
半透膜である乳腺上皮細胞膜を通過できない.したがっ
は 3.5 mg/L であり 29)原薬と代謝物を合わせた乳汁移行
て,受動拡散により母乳中に移行するものは遊離型の薬
性と乳児への影響評価が必要である.
物になる.このため血漿蛋白結合率が高いことは,母乳
コデイン 30mg を鎮痛薬として使用した授乳婦の乳児
中への移行性が低いことと関連する.
に代謝物であるモルヒネ中毒が発現し死亡した事例があ
⑤トランスポーター
る.母体がコデインの代謝酵素 CYP2D6 の超迅速代謝
(ultra-rapid metabolizer)であったこと,母乳中モルヒ
乳腺上皮には薬物の担体輸送に係わるトランスポータ
ネ濃度が一般的報告の 4 ~ 40 倍の 87ng/mL に達してい
ー が 発 現 し て い る.BCRP(breast cancer resistance
たことが要因として推察されている 30).母乳中の代謝物
protein: ABCG2)は乳汁分泌期に発現が増加し,ビタミ
への注意が必要な典型例と言える.
ン B2,ビオチン等の輸送を担うほかニトロフラントイ
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
97
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
2
ける薬物クリアランス値は明らかでない場合が多い.
乳児の薬物動態
なお,詳細は前項「総論Ⅰ:小児薬物療法の基礎知識」
母乳を介して摂取された薬物の乳児への影響を評価す
るにあたり母乳中の薬物の乳児における薬物動態と曝露
量,毒性の評価が重要となる.
に譲る.
3
乳児への影響評価
乳児への薬物の影響を評価するには,薬物動態学(PK)
①吸収
と薬力学(PD)の両面からの考慮が必要だが,薬力学
新生児の胃液の pH は,出生直後では高いものの時間
的考慮の指標となる各種レセプターの発現量や酵素の発
とともに低下し 24 時間後には正常の酸度となる.この
現量などに関する乳児のデータは明らかでないことが多
ため経母乳的に摂取した薬物のうちプロトンポンプ阻害
い.以下,乳児曝露量を中心に解説する.
薬のように酸に不安定な薬物は乳児の胃内で分解される
ため薬理作用を発揮するとは考えられない.こうした薬
物は酸による分解を避けるため腸溶製剤として市販され
①乳汁/血漿薬物濃度比
(Milk-to-Plasma drug concentration ratio:M/P 比)
ており判別の参考になる.
母乳中の薬物濃度を母体血漿薬物濃度で除した値は
また,生体における吸収が不良な薬物は吸収を高める
M/P 比と呼ばれ,薬物の母乳移行性の指標として汎用さ
ためエステル化等の化学修飾を施した化合物として市販
れている.カプトプリル 34),プロプラノロール 35),ニ
されている.ACE 阻害薬エナラプリルは,母体に投与
フェジピン 36)における M/P 比は,それぞれ 0.03,0.33 ~
した後にエステラーゼにより脱エステル化され活性体
1.65,1.0 と小さく,アテノロール 37),ソタロール 38)で
(エナラプリラート)となって降圧作用を発揮する.経
は 1.5 ~ 6.8,5.4 と大きく,ヨウ素では極めて高い.
母乳的に摂取するエナラプリラートあるいはエナラプリ
M/P 比は母体血漿薬物濃度と母乳中薬物濃度の比であ
ルは母体への投与量の 0.16%程度
と微量であり活性体
り,両薬物濃度がともに高値の場合は,M/P 比が相対的
の吸収が不良であることを考慮すると乳児の全身循環に
に低い値となり乳児への影響を過小評価するおそれがあ
至る吸収量は極めて微量であることが推察できる.
る.また,M/P 比が大きな値になったとしても,母乳中
31)
さらに,分子量が極めて大きな薬物,例えば低分子ヘ
薬物濃度の絶対値が極めて小さく薬理作用が認められな
パリン,未分画ヘパリン等は,経母乳的に微量の薬物を
い場合もある.M/P 比は本来母乳移行性の指標であり,
摂取したとしても,腸管からの吸収は期待できず乳児の
乳児への経母乳的薬物の影響を評価する間接的な指標に
曝露による薬理作用発現は想定されない.
しかならないことに留意したい.
②分布
②相対乳児摂取量(Relative Infant Dose: RID)
妊娠初期に胎児体重当たり 90 %程度を占めていた水
M/P 比より直接的に乳児へ影響を評価できる指標とし
分量は,正期産新生児では 75%程度に減少し生後 3 か月
て,乳児薬物摂取量(mg/ 日)あるいは相対乳児摂取量
には 60 %程度になる 32).このことは新生児・乳児で体
(%)がある.RID は,乳児が母乳を介して 1 日に摂取
重当たりの薬物の分布容積(Vd)が大きいことと一致
する体重当たりの薬物摂取量(mg/kg/ 日)を,母親の
している.
体重当たりの 1 日投与量(mg/kg/ 日)で除した値の百分
また,新生児期は血清アルブミン,α1- 酸性糖蛋白質
率として表わされる(図 5).
ともに低値であり,成人と比較して薬物の蛋白結合率が
RID は,体重換算された値であるため,母体に投与さ
低く,薬理作用に関与する遊離型薬物の血中濃度が高く
れた薬物が乳児にどの程度摂取され薬理作用を及ぼし得
なる傾向がある
33)
.
③代謝・排泄
る曝露量なのか否か評価する際に有用である.本来,母
体の投与量と比較するよりも乳児の治療量(投与量)と
比較する方が合理的だが,多くの薬物で乳児の治療量が
新生児期の薬物クリアランスは一般に低いことが知ら
れている.乳児曝露量ならびに乳児への薬物の影響を評
価するにあたり,肝臓における薬物代謝酵素の発現量,
GFR 等の腎における薬物排泄能などが低値であること
を考慮する必要がある.ただし,個々の薬物の乳児にお
98
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
図 5 相対的乳児投与率(RID: Relative Infant Dose)計算式
[(母乳を介する乳児薬物摂取量)/乳児体重]
RID(%)= ×100
[(授乳婦への薬物投与量)/母親体重]
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
確定していないために母体への投与量との比較としてい
針 47)では,近代的な疫学研究や,最新の実験技術を用い
る.海外の専門家は,RID が 10 %未満の薬物の授乳は
た広範囲な研究により,乳児の栄養として人母乳を用い
概ね安全と評価している.
ること,ならびに母乳保育によって乳児・母親・家族・
カルシウム拮抗薬のニフェジピン 39)・ニカルジピン
社会が得られる健康,栄養学,免疫学,発達,心理学,
の RID は,それぞれ 0.1%・0.073%,β 遮断薬のプロ
社会,経済,環境的な利益について根拠が示されている.
40)
プラノロール 35),41)の RID は 0.1 ~ 0.9 %,αβ 遮断薬で
我が国でも,2007 年に厚生労働省が公表した授乳・離
の RID は 0.004 ~ 0.07%であり乳
乳の支援ガイド 48)では「薬の使用による母乳への影響に
あるラベタロール
41),42)
児への影響なしに授乳婦へ投与できる可能性が示されて
ついては科学的根拠に基づき判断の上,支援にあたる」
いる.一方,β遮断薬の中でもアテノロール 41)・アセ
との考え方を示している.さらに,日本小児科学会が
の RID は 5.7 ~ 19.2 %・1.9 ~ 9.2 %と高く
2007 年に公表した「若手小児科医に伝えたい母乳保育
哺乳した乳児に徐脈,低血圧,チアノーゼ等が認められ
の話」49)の中では,米国小児科学会同様に母乳保育の利
たことが報告されている.
点を解説した上で,投薬中の授乳に関して「母乳への薬
ブトロール
43)
③ Exposure Index: EI
乳児の薬物クリアランスをパラメーターに取り入れた
乳児への影響を評価できる指標として,Exposure Index:
剤の移行機序を理解することの重要性と,添付文書以外
の情報を収集し評価することの必要性」を強調している.
2
妊娠と胎児の薬理学
EI(%)が提唱されている.M/P 比に 10 を積算し乳児
の薬物クリアランス(mL/kg/ 分)で除した式で表わさ
妊娠した母体では「妊婦─胎盤─胎児」系が確立し,
れる.係数 10 は,乳児の標準母乳摂取量である 150mL/
妊娠の進行とともに母体の消化管運動能や分泌能が低下
kg/ 日と EI を百分率として表わすための式から導かれ
し,血漿容積や相対水分量は増加し,心拍出量や糸球体
44),45)
.乳児の薬物クリアランスが明らかでない薬物
ろ過量は増加するが,アルブミン濃度は低下し,代謝酵
が多いため,成人の薬物クリアランスで代用するか,乳
素活性が変化する.こうした母体の生理的な変化は,薬
児の薬物クリアランスの未熟性に配慮して成人の 50 %
物の体内動態に,潜在的あるいは臨床的インパクトを持
とするなどして推定に使用される.
って変化を与えている.
る
④乳児毒性が予想される薬物
1
妊婦の薬物吸収の変化
フルオロウラシルなどの 5-FU 系の代謝拮抗薬,ドキ
妊婦では,血漿プロゲステロン値の上昇により消化管
ソルビシン,シクロホスファミド等の抗腫瘍薬は,母乳
の運動能が低下して,胃内容物排泄速度は 30 ~ 50%遅
移行性のデータの有無にかかわらず,細胞毒性があるた
延することが知られている 50).このため内服した薬物の
め治療中の授乳は禁忌とされている.また,モルヒネや
吸収も遅延する可能性があり,迅速な薬効を期待する状
コカインなどの麻薬も依存性が生じる恐れがあり使用中
況下では影響が生じる可能性がある.また,妊婦では胃
の授乳は禁忌とされている.
酸の分泌が減少するため胃内 pH が上昇することが知ら
循環器系の薬物の中では,抗不整脈薬アミオダロンの
れており,溶解と吸収量が胃の酸度で高くなる薬物では,
RID が 43.1%と高く 46),哺乳児に甲状腺機能低下症が認
溶解度・吸収量が低下する可能性がある.
められた症例が報告されている.
4
母乳保育の乳児利益
2
妊婦の薬物分布容積の変化
妊娠の進行に合わせて,胎盤・胎児・羊水量が増大す
我が国の医療用医薬品添付文書では,動物実験または
ること,循環血漿量が約 40 ~ 50%増加するため母体の
人で母乳中に移行が認められるデータがある場合,「授
相対水分量は約 8L 増加すると考えられている 51).こう
乳婦への投与を避ける」または「授乳を避けさせる」こ
した体成分の容積増大のため,水溶性の薬物の分布容積
とと注意喚起されることが一般的である.一方,海外の
が増加する可能性や,最高血中濃度が低下する可能性が
専門家は母乳保育が乳児にもたらす利益と,母乳に移行
考えられる.ただし,臨床的な投与量の変更が必要にな
した薬物が乳児にもたらす不利益を比較考慮して,母乳
るか否かは,母体の他の生理的変化とも関連しており個
保育がもたらす利益を損なわないよう配慮すべきことを
人差もあることから一様ではない.
勧告している.米国小児科学会が 2010 年に公表した指
妊娠の進行に伴いアルブミン産生量は増加するがこれ
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
99
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
を上回る循環血漿量の大幅な増加が生じるため希釈性の
左右する要因として以下のものが知られている.
低アルブミン血症が生じる.さらに,妊娠週数の進行と
分子量が 300 ~ 600 程度の薬物は比較的容易に胎盤を
ともにエストロゲンやプロゲステロン等の女性ホルモン
通過し,1,000 以上になると通過し難い.抗凝固療法が
や遊離脂肪酸の血中濃度が増大するために,タンパク結
必要な妊婦では,胎盤通過性の高いワルファリンではな
合率が低下することが知られている.
く,通過性の低いヘパリンが選択される.
こうした母体の生理学的変化は非結合型の薬物の増加
脂溶性の薬剤は,水溶性の薬剤より容易に胎盤を通過
を示唆しているが,非結合型の薬物は薬物代謝酵素の標
する.このため脂溶性のビタミンAやフェノバルビター
的となること,妊娠中に増大した腎クリアンスによって
ルなどは容易に胎児へ移行する.
排泄されることにより,多くの薬物では顕著な変化には
ジゴキシンやアンピシリンなどの蛋白結合率が低い薬
至らない.
物は胎児および羊水に比較的高い濃度で到達する.一方,
3
妊婦の薬物クリアランスの変化
型薬物のみが胎盤関門を通過するために,一般に母体に
妊娠中は,増大したエストロゲンやプロゲステロンレ
おいて高く,胎児への移行は少ないと報告されている.
ベルの影響を受けて,薬物の代謝が変化することが報告
胎児血の pH は母体血よりもわずかに低く,この pH
されている.薬物の第 1 相の代謝を担うチトクローム
の差異がイオントラッピングと呼ばれる効果を及ぼすこ
P450 群に属する酵素は,その分子種により妊娠中の活
とが知られている.pKa 値が血液 pH に近い弱塩基の薬
性が上昇するもの,低下するもの,大きくは変わらない
物は,母体血中では主に非イオン型で存在するため胎盤
ものが知られている
50),51)
を通過しやすくなる.胎盤を通過した薬剤は,より酸性
.
妊娠中はカルバマゼピン血漿濃度の低下が報告されて
を示す胎児血と接触しイオン化するため胎児側では非イ
おり CYP3A4 活性の増大が関与していると報告されて
オン型薬物の濃度が低下して濃度勾配を生じ,母体側か
いる.また,フェニトイン血漿濃度も低下することが報
ら胎児側へ向かってさらに薬物が移行することにつなが
告されており CYP2C9 活性が増大していることが,その
る.逆に,弱酸性の薬物では,胎児から母体循環への移
原因として指摘されている.また,妊娠中はフルオキセ
行が起こりやすい.
チンの N -脱メチル体であるノルフルオキセチンの血
胎盤はミトコンドリアや栄養膜細胞の小胞体に多くの
漿薬物濃度が増加することより CYP2D6 の活性が誘導
チトクローム P450 群に属する酵素を含んでいて,ステ
されていると考えられている.一方,妊娠中はテオフィ
ロイドホルモンの合成や異化に関与しており,同様に各
リンのクリアランスが低下していることが報告されてお
種ビタミンや脂肪酸,薬物の代謝に関与している.妊娠
り,CYP1A2 の活性低下が指摘されている.こうした代
第1三半期から分娩時まで CYP1A1 の活性が確認され
謝 酵 素 活 性 の 変 化 は, そ の 妊 婦 が EM(extensive
ている.また,mRNA の検出や免疫組織化学的手法で
metabolizer)の場合と PM(poor metabolizer)の場合で,
は妊娠第1三半期に CYP3A4,3A5,3A6,3A7 の発現
誘導・阻害への反応性が異なることも考えられており一
が認められている 52).
様ではない.さらに,第 2 相の薬物代謝を担うグルクロ
胎 盤 を 構 成 す る 栄 養 膜 の 母 体 側 刷 子 縁 に は,
ン酸抱合能はバルプロ酸などで増加していることが報告
P-glycoprotein や multidrug resistance protein 2(MRP2)
されているが,アセトアミノフェンなどの硫酸抱合は減
が発現しており,胎児側基底膜には multidrug resistance
少していたことが報告されている.
protein 1(MRP1)や multidrug resistance protein 3(MRP3)
妊娠中は糸球体ろ過量が約 50 %増加することが知ら
が発現して,薬物を母体側に排出していることが報告さ
れており,腎排泄型薬物であるジゴキシン,リチウム,
れている 53).P-glycoprotein は,妊娠第 1 三半期の胎盤
ペニシリン系・セフェム系等の多くのβラクタム系抗
栄養膜からも見出されていて,この基質となる薬物を胎
生物質などの腎クリアランスが増加し,薬物血中濃度が
児側から母体側へ輸送していることから,妊娠初期の胎
低下する可能性が考えられている
4
50)
.
薬物の胎児移行性(胎盤通過性)
母体に投与された薬物は,一部の例外を除いて胎盤を
100
蛋白結合率が高いグリベンクラミドなどの薬物は,遊離
児曝露を軽減するよう働いている可能性が考えられてい
る.
5
胎児の薬物動態の特殊性
通過して胎児へ到達する.胎盤の通過性は妊婦へ投与す
胎児のガス交換は胎盤で行われるため,胎児特有の血
る薬物を選択する上で重要な因子である.胎盤通過性を
液循環として「動脈管」と「静脈管」が機能している.
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
臍帯静脈から胎児に移行した薬物は,その約 50 %が胎
催奇形性との相同性が疑われる場合には注意が必要と考
児肝を経ずに静脈管を通って下大静脈に至り,胎児心の
えられている.
卵円孔を通って主に頭部を中心に分布する.頭部から胎
一方,製薬企業が行う市販後調査等はイベントレポー
児心に戻った血液は肺動脈をバイパスして下行大動脈に
トであり,妊婦使用例に先天奇形が認められた場合に収
至る動脈管を通って全身循環へと分布したのちに臍動脈
集され,妊婦使用例に健常児が生まれた場合には収集さ
に戻る経路をとっている.
れにくいという特性があり,発現状況から単純に催奇形
こうした胎児循環の解剖学的な特徴が,胎児への薬物
性との関連を考察することはできない.
分布にどの程度影響を与えているか十分に明らかにされ
ヒトにおける薬物の催奇形性は,ヒト疫学調査に基づ
ている訳ではないが,胎児の薬物動態と薬力学的な特殊
く評価が最も信頼性が高いと考えられている.疫学的調
性を生じる可能性として考慮しておく必要がある.
査には,コホート研究と症例対照研究がある.一般に,
母体のアルブミン濃度が徐々に減少するのに対して,
研究の信頼性に関しては前者が優れており,極めて稀な
胎児では出産時に向けてアルブミン濃度が徐々に増加し
先天異常の検出に関しては後者が現実的と考えられてい
ていく.胎児のアルブミンも薬物結合能を有しているが,
る.いずれにしても,割付等の研究デザイン,両群の患
母体のアルブミンと比較して薬物の親和性は低い傾向が
者背景ならびに規模・症例数等に留意する必要がある.
あると報告されている.
その上で,疫学データの取り扱いに際しては,バイアス
胎 児 の 薬 物 代 謝 酵 素 活 性 は 総 じ て 低 く,CYP1A,
と交絡因子の有無を特に吟味する必要がある.
2D6 などが妊娠の後半に徐々に発現してくることが確認
症例対照研究では,妊娠中の薬物使用に関して母親の
されている.胎児の肝において比較的高い活性を示す薬
聞き取り調査を行う形式のものが多い.この場合,奇形
物代謝酵素として,ステロイドホルモンの代謝に関与す
を有する児を出産した母親群では,医師,家族からの繰
る CYP3A7 が知られている.CYP3A7 はデヒドロエピ
り返しの質問によって,健常児を出産した母親群より記
アンドロステロン- 3 硫酸やレチノイン酸化合物に対し
憶情報量が多い傾向があり,両群の記憶の正確性にバイ
て CYP3A4 より高い活性を有しており,胎児が高濃度
アスが生じているおそれがある.また,薬物を使用した
に曝露することを防いでいる可能性が考えられている 54).
母親と使用しなかった母親の 2 群を比較する際に,年齢,
胎児からの薬物の排泄は,主に母体への薬物拡散によ
人種,嗜好品,居住地等の背景を均等化しても,さらに
っている.しかし,胎児側で代謝を受けた薬物は極性が
両群間に服薬以外の差異が存在し,評価結果に影響を与
高くなるため胎盤を通過しにくくなることが考えられ
えることがある.一例として,アルコールの催奇形性を
る.このことは代謝された薬物が胎児に蓄積する可能性
評価する際に,他の非合法ドラッグ使用の有無が影響す
があることを示している.
る場合などがあげられる.
胎児の腎機能は成人と比較して低いことが報告されて
ヒトでの催奇形性物質のスクリーニングとして動物実
いる.それでも妊娠後期の羊水は大半が胎児尿でできて
験が行われている.アルコール,大量ビタミン A などの
いることからわかるように,胎児腎機能の成熟にあわせ
ように動物実験で催奇形性が認められた薬物で,ヒトで
て胎児尿を介して羊水中に薬物が排泄される.
も催奇形性が確認された薬物があり,ヒト妊婦における
6
胎児への影響調査
①薬物の催奇形性
催奇形性を直接評価した情報が極めて限られている現状
からは貴重な情報と言える.一方,動物実験で催奇形性
が認められてもヒトでは催奇形性との関連が否定的な薬
物や,ある種の動物では催奇形性が認められなくてもヒ
自然発生的な先天奇形が存在するため,薬物使用例の
トで催奇形性が認められる場合もあり,ヒトへの外挿は
児に奇形が認められた症例報告のみでヒトの催奇形性を
単純ではない.特に,動物実験では臨床用量より高用量
判断することは難しい.それでも,ワルファリンのよう
を用いるため,臨床とは異なる薬理作用が発現したり母
に妊婦年齢層が使用することが比較的稀な疾患において
動物の毒性による間接的影響が認められたりする場合が
特徴的な奇形症例が続けて報告されたことにより薬物の
ある.したがって母動物の変化を考慮して胎児の変化を
催奇形性が明らかとなったこともあり慎重な評価が必要
評価する必要がある.
である.特に,ワルファリンのように催奇形機序として
ビタミンK依存性の骨形成因子の関与が考えられる場合
や,ビタミンA大量投与のように動物実験で認められた
②胎児の器官形成と薬物感受性 55)
胎児の薬物感受性は,妊娠時期(妊娠週数)によって
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
101
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
図 6 妊娠時期と胎児への薬物の影響
※書籍「妊娠と薬」第 2 版より引用
大きな変化を伴う.妊娠 28 日から 50 日の器官形成期に
生していない.
は,催奇形性の観点から最も影響を受けやすい時期とな
ただし,胎芽・胎児の発育には相当の個体差があり,
る.一方妊娠 113 日以降は,催奇形性よりも胎児への発
最終月経から胎齢を推定する方法そのものにもある程度
達毒性・機能毒性に係わる問題に留意する必要がある
のばらつきがあるので,器官形成期の臨床的な境界は曖
(図 6).
102
昧にならざるを得ないことに留意する必要がある.
1)受精から妊娠 27 日目
この時期の薬剤の投与は,治療上不可欠なものに限る
受精後 2 週間(妊娠 3 週末まで)以内の薬剤による影
とともに,催奇形性の危険度の低い薬剤を選択するなど
響形態は,「all or none の法則」と呼ばれている.受精
特に慎重な配慮が必要である.
後何日目から催奇形臨界期に入るかは,サリドマイドに
3)妊娠 51 日目~ 112 日目
よる催奇形事例の調査により明らかにされている.月経
胎児の重要な器官の形成は終わっているが,生殖器の
周期が 28 日型の妊婦で月経初日から 33 日目ぐらいまで
分化や口蓋の閉鎖などはこの時期にかかっている.主要
はサリドマイドを使用していてもその児に奇形は生じて
な奇形に関する胎児の感受性は次第に低下するが,催奇
いない.したがって,この時期の薬物療法については,
形性のある薬剤の投与はなお慎重であったほうがよい.
胎児への影響を基本的には考慮する必要がない.
4)妊娠 113 日~分娩
2)妊娠 28 日目~ 50 日目
薬剤投与によって,内因性の奇形のような形態的異常
この時期は胎児の中枢神経,心臓,消化器,四肢など
は形成されない時期である.むしろ胎児の機能的発育に
の重要臓器が発生・分化する時期にあたり,催奇形とい
及ぼす影響や発育の抑制,子宮内胎児死亡のほか,分娩
う意味では胎児がもっとも薬物の影響を受けやすい時期
直前では新生児の適応障害や薬剤の離脱症状などが起こ
になる.
り得る時期である.
妊婦がサリドマイドを服用した時期と,それによって
この時期の薬剤の催奇形性として問題になるのは,羊
生じた奇形の間には明確な相関があり,最終月経から
水過少症を引き起こす ACE 阻害剤や ARB 等の薬物,あ
32 日目以前,あるいは 52 日目以降の服用では奇形が発
るいは骨に沈着し歯牙の形成不全を引き起こすテトラサ
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
イクリン系抗生物質など特殊な薬剤に限定される.一方,
に呼吸窮迫,徐脈,低血糖などの新生児の適応障害が報
胎児の機能への影響として,非ステロイド性解熱鎮痛薬
告されている 70)-72).前者については妊娠中の高血圧が
による胎児動脈管の収縮の問題がある.
何らかの影響を及ぼしているとも考えられるが,β 遮
胎児は肺ではなく胎盤でガス交換を行っており,新生
断薬の薬理作用として子宮収縮を促す作用や胎盤血流を
児と異なり肺への血流はごくわずかで動脈管(Botallo
減少させる可能性があること 73)より関連が指摘されてい
管)を通って血流がバイパスする特有な循環経路を有し
る.
ている.動脈管はプロスタグランジンなどの働きによっ
3)神経発達
て開存しているため,妊娠末期に NSAIDs を使用すると
胎児期の薬物曝露と児の知的発達に関して,抗てんか
動脈管が収縮し,胎児の血液循環に障害を来たす恐れが
ん薬,アミオダロンなどでいくつかの知見がある.
ある.胎児に肺高血圧と右心不全が生じる恐れがあるた
米国と英国で実施された抗てんかん薬曝露後の児の神
め,妊娠後期における NSAIDs の使用は避けることが原
経発達調査について 3 歳時の中間分析が報告されており
則となっている.
309 人の児の認識機能が調査されている.子宮内でバル
プロ酸として 1,000mg 以上の高用量に曝露された児は,
③発達毒性・機能毒性
他の抗てんかん薬に曝露されていた児より有意に低い
母体に使用した薬物が経胎盤的に胎児に移行し,先天
IQ スコアであった.各抗けいれん薬に子宮内で曝露さ
奇形とは別に胎児の発達あるいは生理機能に影響を及ぼ
れた児の平均 IQ は,ラモトリジン群:101,フェニトイ
すことがある.
ン群:99,カルバマゼピン群:98,バルプロ酸群:92 で,
妊婦へのβ遮断薬投与と子宮内発育遅延・徐脈,あ
バルプロ酸の用量と IQ とに関連が認められたと報告さ
るいはアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)ない
れている 74).このほかにも,妊婦の抗けいれん薬服薬に
しアンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)と羊水過少症・
より,胎内で曝露された児の IQ を調査した報告は複数
腎機能障害,抗てんかん薬と児の神経発達への問題など
あり,
ある程度の影響がみられると指摘したものがある.
が知られている.ここでは循環器系薬を中心に胎児の発
一方,出生後の児の IQ の発達を規定する因子は育児環
達毒性,機能毒性に関して解説する.
境,親の経済状態など複数あり,また,どこまでの低下
1)薬剤性の羊水過少症
が日常生活に支障を来たすのか,キャッチアップ困難な
妊娠第 2 三半期,第 3 三半期のエナラプリル,カプト
のかなど検討する課題は多く,一概に曝露された児の将
プリルをはじめとした ACE-I や,ロサルタン,カンデ
来を予測し得るものではない.
サルタンをはじめとした ARB による母体高血圧の治療
不整脈の治療として妊娠中にアミオダロンの投与を受
と,胎児の腎機能障害,羊水過少症,子宮内発育遅延,
けた妊婦の児に,甲状腺機能低下が認められたことが複
胎児死亡が報告されている
56)-65)
.
数報告されている.アミオダロンは化合物としてヨウ素
妊娠中期以降の羊水の産生は主として胎児尿によると
を含有しており論理的にも実在するリスクとしても認識
考えられている.ヒト胚子では第 4 週のはじめに前腎が
されている.アミオダロンを妊娠中に使用した母親の児
出現するが痕跡的で消失し,第 4 週後期に中腎が発生し
に認知能力の低下や学習障害が認められたことが報告さ
約 4 週間程度暫定的に機能するが,第 5 週の早期に発生
れている 75),76).しかし,神経学的な影響に関して,コ
が始まる後腎が 4 週程度かけて機能をはじめ永久腎の原
ホート研究は未だなく毒性学的な発現機序も解明されて
基となる
66)
.胎児尿量は妊娠週数とともに増加し妊娠末
いないため確定的なリスクとまでは結論付けられていな
期には 700 から 900mL/ 日になる 67),68).母体に投与した
い.
ACE-I,ARB は胎盤を通過し胎児に薬理作用を及ぼし,
4)聴力障害
腎機能障害を引き起こすことがある.
胎児期の薬物曝露と児の聴力障害についてもいくつか
このほか,非ステロイド性消炎鎮痛薬のインドメタシ
の薬物で報告がある.
ンやイブプロフェンにより羊水過少症が生じたことが報
ストレプトマイシン,カナマイシンなどのアミノグリ
告されている
59),69)
.これらの薬物は胎児動脈管の収縮
コシド系抗結核薬は,新生児に第 8 脳神経障害があらわ
が問題となり妊娠末期の使用は禁忌となっている.
れる恐れがあることが指摘されている.
2)子宮内発育遅延
妊娠中に抗結核薬を服用した妊婦に関する複数の論文
妊娠中にプロプラノロール,アテノロールなどの β
データが収集・評価されており,ストレプトマイシンを
遮断薬を使用した妊婦の児に,子宮内発育遅延,ならび
使用した 203 例の妊婦が出産した児のうち 35 例に異常
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
103
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
の記録があり,34 例は聴覚障害を伴っていた.この報
告では,ストレプトマイシンの聴覚毒性は他の催奇形性
物質とは異なり,妊娠初期に限らず妊娠のいずれの時期
⑤妊娠母体への影響
であっても影響し得ると考察されている 77).本報告は,
妊娠末期の母体不整脈治療にジソピラミドを使用した
症例報告を含む複数の文献報告の集積結果を解析したも
症例に,子宮収縮,胎盤剥離,早産が報告 84)されており,
のであり,コホート研究やケースコントロール研究のよ
小規模な臨床薬理試験でジソピラミドに分娩誘発作用が
うに先天異常の発現頻度やリスク比を評価できるもので
認められており 85)注意が必要である.
はないが,アミノグリコシド系抗菌薬が胎児・新生児に
第 8 脳神経障害を来たし聴覚障害を示す恐れが実在して
⑥経母体的な胎児疾患の薬物療法
いることの根拠となっている.
最近では胎児診断の進歩とともに,経母体的に薬物を
なお,アミノグリコシド系抗菌薬全般について,聴覚
投与し胎児の治療を行った事例が報告されている.まだ,
毒性と遺伝的要素に基づく感受性の差異があることが知
試験的な段階ではあるが,母体に投与した薬物の薬理作
られており,ミトコンドリア遺伝子 1555A → G 変異と
用が胎児に及ぼす影響の研究の進展が待たれる.その一
関連が示されている.成人ではストレプトマイシンを 1
例として胎児不整脈に対して経母体的あるいは直接的に
日 1 g 注射で累積投与量が 20 g 前後で聴覚毒性が発現
アミオダロン 86),87),β遮断薬 88),89)の投与が試みられ治
することが多いとされるが,アミノグリコシド系抗菌薬
療に成功したことが報告されている.また,胎児水腫の
に遺伝的に高感受性を有する患者では 1 回の投与でも難
治療に経母体的にフロセミドの投与を行ったことが報
聴を来たすことがあり注意が喚起されている
78)
.
告 90)されている.このほか,強心配糖体であるジゴキシ
5)その他
ンは,その陽性変力作用と陰性変時作用を利用して,胎
妊婦のサイアザイド系利尿薬の使用と新生児の血小板
児の心不全や不整脈の治療に用いられる 91),92)ことがあ
減少症の関連を指摘した報告 79)がある.一方,506 例の
る.こうした薬物療法では,胎児にみられる薬理作用と
ヒドロクロロチアジドを使用した妊婦に関する研究では
副作用に加えて,母体への副作用に関する配慮が欠かせ
症候性の血小板減少症はみられていない 80).
ない.
④胎 児期から新生児期における母体投与薬物の薬
理作用・離脱症候
母体に投与した薬物は,胎盤を経由して胎児に移行す
る.移行した薬物が胎児にどのような影響を及ぼすのか
104
徐脈がみられることがある 83).
3
妊娠・授乳期の薬物療法に対
する母児のリスク・ベネフィ
ト評価の重要性
評価した上で,母児の利益を最大限に確保する治療を選
1950 年代後半から 1960 年代へかけて人類が経験した
択する必要がある.抗不安薬として用いられるベンゾジ
サリドマイド禍の教訓により,医療従事者はもとより一
アゼピン系薬物を妊娠後期で使用した妊婦の児に薬理作
般の妊婦にも薬物の催奇形性に関する認識が普及し,む
用によると考えられる筋緊張低下や傾眠,呼吸抑制,あ
しろ過剰な不安を抱く傾向がある.第二のサリドマイド
るいは易刺激性,神経過敏がみられることがあり,母体
禍を避けるための慎重な配慮の一方で,胎児への影響を
に投与した薬物が胎児に移行して発現した薬理作用であ
懸念するあまり必要な処方が控えられることによる母児
ると同時に離脱症状であると考えられている.
の不利益は避ければならない.不整脈,高血圧,糖尿病,
母体の不整脈に対するアミオダロン治療では,前述の
けいれん性疾患などを合併する妊婦の薬物療法におい
ように新生児の甲状腺機能低下が指摘されている.また,
て,母体の治療が胎児の発育環境を良好に保つことに繋
妊娠期間中に継続してアミオダロン治療を行っていた妊
がり,母子の健康にベネフィトを提供することが証明さ
婦の児に徐脈が認められたことが報告されており 75),胎
れている.こうした利益を最大限に確保するためには,
児・新生児に母体に投与した薬物の薬理作用が発現する
薬物の催奇形性・胎児毒性を適正に評価し,母体治療上
可能性があることに留意する必要がある.
の必要性を満たし母児への危険度が低い薬物を選択する
分娩に近い時期に母体へフロセミドを投与したことに
とともに妊婦に対する服薬カウンセリングを適切に行う
より,新生児にループ利尿薬の薬理作用による電解質異
必要がある.
常が認められたことが報告されている 81),82).また,分
また,母乳保育においても,経母乳的に乳児が摂取す
娩に近い時期の母体へのβ遮断薬の使用では新生児の
る微量の薬物の影響を過大に評価して,母乳保育のメリ
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
ットが得られなくなることは避けるべきである.授乳期
が,人妊婦での対照試験は実施されていないもの.
の薬物療法では,科学的根拠に基づく授乳可否の判断が
あるいは,動物生殖試験で有害な作用が証明されて
なされ,医療関係者間だけでなく両親にもその情報が共
いるが,ヒトでの妊娠初期 3 か月の対照試験では実
有されることが重要である.
証されていない.また,その後の妊娠期間でも危険
4
妊婦・授乳婦への薬物療法情
報について
であるという証拠のないもの.
C:動物生殖試験では,胎仔に催奇形性,胎仔毒性,そ
の他有害作用があることが証明されており,ヒトで
の対照試験が実施されていないもの.あるいは,ヒ
妊婦・授乳婦への薬物療法については,臨床試験の実
ト,動物ともに試験は実施されていないもの.ここ
施にあたって特に倫理的配慮が必要なこともあり,エビ
に分類される薬物は,潜在的な利益が胎児への潜在
的危険性よりも大きい場合に使用すること.
デンスレベルの高い情報が少なく,関連した根拠情報は
限られている.
D:ヒト胎児に明らかに危険であるという証拠があるが,
この限られた情報から母児にとっての治療上の有益性
危険であっても,妊婦への使用による利益が容認さ
と安全性を評価せざるを得ない現状に配慮し,国内外の
れるもの.例えば,生命が危険に曝されているとき,
専門家のコンセンサスと位置付けられる,国内添付文書
または重篤な疾病で安全な薬物が使用できないと
情報,FDA Pregnancy Category ならびに米国医学図書館
き,あるいは効果がないとき,その薬物をどうして
授乳支援情報(Lactmed)を中心に循環器用薬に関する
も使用する必要があるとき.
妊婦・授乳婦への薬物療法と妊娠母体,胎児・乳児への
X:動物またはヒトでの試験で,胎児異常が証明されて
薬理ならびに毒性情報を一覧としてまとめて掲載した.
いる場合,あるいはヒトでの使用経験上胎児への危
1
険性の証拠がある場合,またはその両方の場合で,
FDA Pregnancy Category(表 2)
この薬物を妊婦に使用することは,他のどんな利益
よりも明らかに危険性の方が大きいもの.
(Drug Information for the Health Care Professsionals:
USDPI Vol.1 Micromedex 23rd edn., 01.01.2003)このカ
ここに分類される薬物は,妊婦または妊娠する可能性
テゴリーは一番安全な A から,危険として知られ,使用
のある婦人には禁忌である.
してはいけない X までが含まれており,妊娠中および授
乳中の女性に適応される.
米国医薬食品局 FDA による薬剤胎児危険度分類基準
2
米国医学図書館授乳支援情報
(Lactmed)
であり,下の 5 つのカテゴリーに分類されている.
米国医学図書館が提供する授乳婦薬物療法と薬物の母
A:ヒト妊娠初期3か月間の対照試験で,胎児への危険
乳移行性,胎児毒性に関するオンラインデータベース.
性は証明されず,またその後の妊娠期間でも危険で
現在,授乳の分野で最も有用な情報源と判断できる.下
あるという証拠のないもの.
記の URL より利用可能である.
B:動物生殖試験では胎仔への危険性は否定されている
http://toxnet.nlm.nih.gov/cgi-bin/sis/htmlgen?LACT
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
105
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
表 2 妊婦・授乳婦薬物療法に関する公的情報と文献情報
添付文書
妊婦
胎児・乳児への影響,副作用
妊娠中にアミオダロン投与を受けた
母親の児に,先天性の甲状腺腫,甲
状腺機能低下症,あるいは甲状腺機
能亢進症の報告がある.
継続投与された後出産した母体及び
新生児の血漿中濃度から胎盤通過率
は約 26%と推定されている.
投与しないこ 授乳を避ける
とが望ましい
D
母乳中への薬物・代謝物・
ヨウ素の移行があり,乳児
心機能,甲状腺機能への影
響が考えられる.
ジソピラミド
Disopyramide
投与しないこ 授乳を避ける
とが望ましい
C
ジソピラミド治療中の授乳婦 妊婦に投与した例において子宮収縮
の乳児の血中薬物濃度が母体 が起こったとの報告あり
の 10%程度に及んだとの報
告がある.哺乳児への抗コリ
ン作用の発現,母乳分泌への
影響が想定される.
ジソピラミドと代謝物 N ⊖モ
ノデスアルキルジソピラミド
が人母乳から検出されてい
る.RID は 10%以下で,哺乳
児の血中薬物濃度は母体の
7.5%程度との報告がある.
リドカイン
Lidocaine
プロカインアミド
Procainamide
プロパフェノン
Propafenone
ソタロール
Sotalol
106
US NLM
Lactmed
アミオダロン
Amiodarone
フレカイニド
Flecainide
抗不整脈薬
授乳婦
FDA
Pregnancy
Category
禁忌
授乳を避ける
C
母乳中の薬物濃度は低く,
経母乳的に摂取する薬物量
は僅かで乳児に何らかの有
害作用が生じるとは考えら
れない.
有益性投与
注意記載なし
B
母乳中の薬物濃度は低く, 母体へのリドカイン静脈投与により
経母乳的に摂取する薬物量 胎児の不整脈治療に成功した事例が
は僅かで乳児に何らかの有 報告されている.
害作用が生じるとは考えら
れない.
有益性投与
授乳を避ける
活性代謝物
N⊖アセチル
プロカインア
ミド
C
1 日 2g までの治療量では,
母乳中薬物濃度,哺乳児の
摂取量は少なく,生後 2 か
月以降の乳児に有害作用が
現れるとは考えにくい.
母乳のみで育てる場合,乳
児毒性への懸念を排除する
ために児の血中濃度測定を
含む慎重なモニタリングを
行うべき.
妊娠第 2・3 三半期の母体へのプロ
カインアミド投与により胎児の不整
脈治療が行われたことが報告されて
いる.
授乳を避ける
C
1 日 900mg までの治療量で
は,母乳中薬物濃度,哺乳
児の摂取量は少なく,生後
2 か月以降の乳児に有害作
用が現れるとは考えにく
い.
母親あるいは胎児の不整脈治療にプ
ロパフェノンを用いたとの報告があ
る
投与しないこ 授乳を避ける
とが望ましい
B
母乳移行性が高く,腎機能
が未熟な2か月未満の新生
児では影響が出やすいので,
特に新生児・早産児では他
のβ遮断薬
(Propranolol,
Metoprolol)が望ましい.
いくつかの文献の著者は,
授乳婦にソタロールの投与
が必要な場合は,
β遮断作
用の発現に関して緊密にモ
ニタするよう勧告している.
妊娠第 2・3 三半期の母体ソタロー
ル投与により胎児の不整脈治療が行
われたことが報告されている.
母体の不整脈治療にソタロールと他
の不整脈薬を併用したとの報告があ
る
有益性投与
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
妊娠母体の不整脈治療,胎児不整脈
の治療にフレカイニドを経母体的あ
るいは直接的に胎児に投与した症例
が報告されている.治療成功例と胎
児死亡例(関連不明)が報告されて
いる.
新生児期の心電図にフレカイニドの
影響が認められた症例が報告されて
いる
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
添付文書
強心薬
その他の
降圧薬
胎児・乳児への影響,副作用
緊急以外投与
しないことが
望ましい
授乳を避ける
C
母乳中の薬物濃度は低く, 新生児の発育遅延,血糖値低下,呼
経母乳的に摂取する薬物量 吸抑制が認められたとの報告あり
は僅かで乳児に何らかの有
害作用が生じるとは考えら
れない.また,哺乳児に関
する研究でも直接的な有害
作用はみられていない.
有益性投与
授乳を避ける
D
母乳移行性が高く,
腎機能が
未熟な2か月未満の新生児
では影響が出やすいので,
他
の β 遮 断 薬(Propranolol,
Metoprolol)が望ましい.
胎児の発育遅延が認められたとの報
告がある
新生児に低血糖,徐脈があらわれた
との報告がある
禁忌
授乳を避ける
C
母乳中の薬物濃度は低く,
経母乳的に摂取する薬物量
は僅かで乳児に何らかの有
害作用が生じるとは考えら
れない.哺乳児に関する研
究でも直接的有害作用はみ
られていない.
メトプロロールはβ遮断薬であり,
β遮断薬は胎盤還流血漿量を減じ
て,胎児死亡,早産,低出生体重を
引き起こす可能性がある.(UK 添付
文書)
ラベタロール
Labetalol
有益性投与
授乳を避ける
C
母乳中の薬物濃度は低く, 胎児に徐脈等,新生児に血圧低下,
経母乳的に摂取する薬物量 徐脈等の症状が認められたとの報告
は僅かで乳児に何らかの有 がある
害作用が生じるとは考えら
れない.
ジゴキシン
Digoxin
有益性投与
注意記載なし
(注意不要)
C
ジゴキシン内服治療中で母
体血中濃度が治療域にある
場合の母乳中薬物濃度は低
く比較的安全に授乳できる
との報告がある.
ジゴキシンは妊婦に使用可能だが,
妊娠した患者の血漿量の増加,蛋白
結合の低下,腎排泄の増加により投
与量の調節が必要になる可能性があ
る.
ヒドララジン
Hydralazine
有益性投与
授乳を避ける
C
限られた母乳中薬物濃度と
哺乳児のデータではある
が,長年周産期の母親に使
用されてきており授乳婦の
降圧薬として処方可能と考
えられている.
新生児に血小板減少等を起こすおそ
れがある
メチルドパ
Methyldopa
有益性投与
授乳を避ける
B
母乳中の薬物濃度は低く, 新生児に浮腫による著しい鼻閉を生
経母乳的に摂取する薬物量 じたとの報告がある
は僅かで乳児に何らかの有
害作用が生じるとは考えら
れない.
ニフェジピン
Nifedipine
20W 未満
禁忌
20W 以降
有益性投与
授乳を避ける
C
母乳中の薬物濃度は低く,
経母乳的に摂取する薬物量
は僅かで乳児に何らかの有
害作用が生じるとは考えら
れない.哺乳児に関する研
究でも直接的有害作用はみ
られていない.
アムロジピン
Amlodipine
禁忌
授乳を避ける
C
母乳移行量,哺乳児摂取量 動物実験で妊娠末期に投与すると妊
に関する情報がない.他の 娠期間及び分娩時間が延長
類薬(Nifedipine)の使用を
考慮する.
アテノロール
Atenolol
メトプロロール
Metoprolol
αβ遮断薬
US NLM
Lactmed
授乳婦
プロプラノロール
Propranolol
β遮断薬
FDA
Pregnancy
Category
妊婦
Ca拮抗薬
20W 以降:急激かつ過度の血圧低
下とならないよう,長時間作用型製
剤の使用を基本とし,過度の血圧低
下や胎児胎盤循環の低下等の異常に
適切に対処
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
107
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
添付文書
Ca拮抗薬
FDA
Pregnancy
Category
US NLM
Lactmed
胎児・乳児への影響,副作用
C
データが少ないが,経母乳
的に摂取する薬物量は僅か
で乳児に何らかの有害作用
が生じるとは考えられな
い.
妊婦治療例に関する情報は極めて少
なく未確立.健常児の出産例もある.
授乳を避ける
C
1 日 360mg までの治療量で
は,母乳中薬物濃度,哺乳
児の摂取量は少なく,乳児
に有害作用が現れるとは考
えにくい.
限られた情報ではあるが,いくつか
の疫学研究では,妊娠中の使用と催
奇形性の関連はみられていない.
妊娠後期の使用による児への有害作
用はみられていない.
胎児の不整脈治療に妊娠第 2 三半
期,第 3 三半期に使用した報告が複
数ある.
禁忌
授乳を避ける
D
母乳中の薬物濃度は低いの
で,経母乳的に摂取する薬
物量は僅かで乳児に何らか
の有害作用が生じるとは考
えられない.
妊娠中期及び末期にアンジオテンシン変
換酵素阻害薬を投与された高血圧症の患者で
羊水過少症,胎児・新生児の死亡,新生児の
低血圧,腎不全,高カリウム血症,頭蓋の形
成不全及び羊水過少症によると推測される四
肢の拘縮,頭蓋顔面の変形等があらわれたと
の報告がある.
海外で実施されたレトロスペクティブな疫学
調査で,妊娠初期にアンジオテンシン変換酵
素阻害薬を投与された患者群において,胎児
奇形の相対リスクは降圧剤が投与されていな
い患者群に比べ高かったとの報告がある.
エナラプリル
Enalapril
禁忌
授乳を避ける
C(1st Trim) 母乳中の薬物濃度は低く, ※カプトプリルに同じ
D(2nd・3rd Trim) 経母乳的に摂取する薬物量
は僅かで乳児に何らかの有
害作用が生じるとは考えら
れない.
ロサルタン
Losartan
禁忌
授乳を避ける
C(1st Trim) 母乳移行量,哺乳児摂取量
D(2nd・3rd Trim) に関する情報がない.他の
類薬(Captopril,Enalapril)
の使用を考慮する.
カンデサルタン
Candesartan
禁忌
妊婦
授乳婦
ジルチアゼム
Diltiazem
禁忌
授乳を避ける
ベラパミル
Verapamil
禁忌
カプトプリル
Captopril
アンジオテンシン
変換酵素
阻害薬
(ACE-I)
アンジオテンシンⅡ
受容体
拮抗薬
バルサルタン
(ARB)
Valsartan
108
禁忌
妊娠中期及び末期に本剤を含むアン
ジオテンシンⅡ受容体拮抗剤やアン
ジオテンシン変換酵素阻害薬を投与
された高血圧症の患者で羊水過少
症,胎児・新生児の死亡,新生児の
低血圧,腎不全,高カリウム血症,
頭蓋の形成不全及び羊水過少症によ
ると推測される四肢の拘縮,頭蓋顔
面の変形,肺の低形成等があらわれ
たとの報告がある.
C
(1st Trim) 母乳移行量,哺乳児摂取量 ※ロサルタンに同じ
D(2nd・3rd Trim) に関する情報がない.他の
類薬(Captopril,Enalapril)
の使用を考慮する.
授乳を避ける
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
D
母乳移行量,哺乳児摂取量
に関する情報がない.他の
類薬(Captopril,Enalapril)
の使用を考慮する.
本剤を含むアンジオテンシンⅡ受容体拮抗剤
並びにアンジオテンシン変換酵素阻害薬で,
妊娠中期~末期に投与された患者に胎児死
亡,羊水過少症,胎児・新生児の低血圧,腎
不全,高カリウム血症,頭蓋の形成不全,羊
水過少症によると推測される四肢の拘縮,脳,
頭蓋顔面の奇形,肺の発育形成不全等があら
われたとの報告がある.
海外で実施されたアンジオテンシン変換酵
素阻害薬におけるレトロスペクティブな疫学
調査で,妊娠初期にアンジオテンシン変換酵
素阻害薬を投与された患者群において,胎児
奇形の相対リスクは降圧剤が投与されていな
い患者群に比べ高かったとの報告がある.
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
添付文書
硝酸薬
FDA
Pregnancy
Category
US NLM
Lactmed
授乳婦
硝酸イソソルビド
Isosorbide Dinitrate
有益性投与
授乳を避ける
C
ニトログリセリン
Nitroglycerin
有益性投与
授乳を避ける
C
授乳婦への舌下または静注
したニトログリセリンと授
乳に関する研究がない.
子宮収縮の抑制と分娩の抑制にニト
ログリセリンを使用し,新生児に有
害作用は見られなかったとの症例が
複数報告されている
ヒドロクロロチア
ジド
Hydrochlorothiazide
有益性投与
授乳を避ける
B
1 日 1 回 50mg ま で 用 量 で
は,授乳中も使用可能と考
えられる.高用量の投与は
母乳産生を低下させる可能
性がある.
治療量のヒドロクロロチアジドと催
奇形性との関連はみられなかったと
の疫学調査がある.
分娩前の投与により新生児に血小板
減少が見られたとの報告がある.
フロセミド
Furosemide
有益性投与
授乳を避ける
C
母乳移行量,哺乳児摂取量
に関する情報がない.他の
類薬(Hydrochlorothiazide)
の使用を考慮する.
胎児水腫の治療に経母体的あるいは直接
フロセミドを投与したとの報告がある.
母体へのフロセミド投与により胎児に利
尿作用が認められたとの報告がある.
妊娠中の母親のフロセミド使用と出生時
体重の増加に相関が見られたとの疫学調
査がある
スピロノラクトン
Spironolactone
有益性投与
授乳を避ける
C
授乳中も使用可能と考えら
れる.
母乳中活性代謝物(カンレ
ノン)濃度,哺乳児の活性
代謝物摂取量は低く,乳児
に電解質異常はみられなか
ったという症例が報告され
ている.
妊婦治療例に関する情報は極めて少
なく未確立.健常児の出産例もある.
授乳を避ける
授乳を避ける
B
シンバスタチン
Simvastatin
禁忌
授乳を避ける
X
薬剤が新生児の脂質代謝を
障害する可能性を考慮する
と,授乳婦に投与すべきで
ないことがコンセンサスで
ある.
他剤(コレスチラミン等)
の使用を考慮.
ラットでシンバスタチンの活性代謝
物(オープンアシド体)及び他の
HMG-CoA 還元酵素阻害剤の大量投
与で胎児の骨格奇形が報告されてい
る
妊婦に対するスタチン系薬物投与は
避ける.
限られたデータとして妊娠中にスタ
チン系薬に曝露された児に関する疫
学研究があり催奇形性はみられなか
った.
アトルバスタチン
Atorvastatin
禁忌
授乳を避ける
X
薬剤が新生児の脂質代謝を
障害する可能性を考慮する
と,授乳婦に投与すべきで
ないことがコンセンサスで
ある.
他剤(コレスチラミン等)
の使用を考慮.
動物実験で出生児数の減少及び生
存,発育に対する影響が認められ,
胎児にも生存率低下と発育抑制が認
められている.また,ラットに他の
HMG-CoA 還元酵素阻害剤を大量投
与した場合に胎児の骨格奇形が報告
されている.更に,ヒトでは,他の
HMG-CoA 還元酵素阻害剤で,妊娠
3 か月までの間に服用したとき,胎
児に先天性奇形があらわれたとの報
告がある.
妊婦に対するスタチン系薬物投与は
避ける.
限られたデータとして妊娠中にスタ
チン系薬に曝露された児に関する疫
学研究があり催奇形性はみられなか
った.
(Lactmed なし)
利尿薬
エプレレノン
Eplerenone
スタチン系薬
胎児・乳児への影響,副作用
妊婦
(Lactmed なし)
妊娠第 3 三半期の妊娠高血圧症の治
療に硝酸イソソルビドを用いたとの
報告がある
妊婦治療例に関する情報はなく未確
立.
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
109
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
添付文書
FDA
Pregnancy
Category
母乳移行量,哺乳児摂取量
は少ないが,薬物が新生児
の脂質代謝を障害する可能
性を考慮すると,授乳婦に
投与すべきでないことがコ
ンセンサスである.
他剤(コレスチラミン等)
の使用を考慮.
他の HMG-CoA 還元酵素阻害剤にお
いて,動物実験で出生児数の減少,
生存・発育に対する影響及び胎児の
生存率の低下と発育抑制が報告され
ている.また他の HMG-CoA 還元酵
素阻害剤において,ラットに大量投
与した場合に胎児の骨格奇形,ヒト
では妊娠 3 か月までの間に服用した
場合に胎児の先天性奇形があらわれ
たとの報告がある.
妊婦に対するスタチン系薬物投与は
避ける.
限られたデータとして妊娠中にスタ
チン系薬に曝露された児に関する疫
学研究があり催奇形性はみられなか
った.
プラバスタチン
Pravastatin
禁忌
授乳を避ける
X
フェノフィブラート
Feneofibrate
禁忌
授乳を避ける
記載なし
(Lactmed なし)
妊婦に対するフィブラート系薬物投
与は避ける.妊婦治療例に関する情
報はなく未確立.
ベザフィブラート
Bezafibrate
禁忌
授乳を避ける
記載なし
(Lactmed なし)
妊婦に対するフィブラート系薬物投
与は避ける.妊婦治療例に関する情
報はなく未確立.
有益性投与
注意記載なし
(注意不要)
記載なし
(Lactmed なし)
本薬は高分子で,母体の腸管から吸
収されない.
有益性投与
注意記載なし
(注意不要)
記載なし
禁忌
授乳を避ける
X
1 日投与量 12mg までのワ
ル フ ァ リ ン治 療 中 で あ れ
ば,母乳中薬物量,哺乳児
の摂取量は少ない.ワルフ
ァリン治療中の授乳に関し
て哺乳児の有害作用は報告
されていない.
胎盤を通過し,点状軟骨異栄養症等
の軟骨形成不全,神経系の異常,胎
児の出血傾向に伴う死亡の報告があ
る.分娩時に母体の異常出血があら
われることがある.
アスピリン
aspirin
出産予定日12
週以内:禁忌
授乳を避ける
D
アスピリンは授乳中避ける
べき薬剤とされているが,
専門家の一部は低用量アス
ピ リ ン(75 ~ 126mg) は
授乳婦の抗血小板薬と考え
ている.
妊娠期間の延長,動脈管の早期閉鎖,
子宮収縮の抑制,分娩時出血の増加
につながるおそれがある.
海外での大規模な疫学調査では,妊
娠中のアスピリン服用と先天異常児
出産の因果関係は否定的であるが,
長期連用した場合は,母体の貧血,
産前産後の出血,分娩時間の延長,
難産,死産,新生児の体重減少・死
亡などの危険が高くなるおそれを否
定できないとの報告がある.
また,ヒトで妊娠末期に投与された
患者及びその新生児に出血異常があ
らわれたとの報告がある.
チクロピジン
Ticlopidine
投与しないこ 授乳を避ける
とが望ましい
B
(Lactmed なし)
妊婦治療例に関する情報は極めて少
なく未確立.健常児の出産例もある.
コレスチミド
colestimide
コレステロー コレスチラミン
ル吸収阻害薬 colestyramine
ワルファリン
Warfarin
抗凝固薬
抗血小板薬
Xa 阻害薬
110
胎児・乳児への影響,副作用
授乳婦
スタチン系薬
フィブラート系
US NLM
Lactmed
妊婦
妊婦・授乳婦の脂溶性ビタミンの吸
収不良に留意
本薬は高分子で,母体の腸管から吸
収されない.
クロピドグレル
Clopidogrel
有益性投与
授乳を避ける
B
(Lactmed なし)
妊婦治療例に関する情報は極めて少
なく未確立.健常児の出産例もある.
ダナパロイド
Danaparoid
有益性投与
授乳を避ける
B
(Lactmed なし)
妊婦治療例に関する情報は極めて少
なく未確立.健常児の出産例もある.
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
添付文書
US NLM
Lactmed
胎児・乳児への影響,副作用
授乳婦
フォンダパリヌクス
Fondaparinux
有益性投与
授乳を避ける
B
エノキサパリン
Enoxaparin
有益性投与
授乳を避ける
ことが望まし
い
B
限られた情報ではあるが, 子宮内で曝露された児に関する研究
高分子であり母乳中に移行 があり先天性の形態異常の確率はバ
する量は少なく,哺乳児の ックグラウンド値と類似していた.
腸管から吸収されることも
予想されない.
有益性投与
注意記載なし
(注意不要)
C
ヘパリンに関する研究は無
いが,低分子ヘパリンの研
究結果から,より高分子で
あり母乳中に移行する量は
少なく,哺乳児の腸管から
吸収されることも予想され
ない.
トラクリア
Bosentan
禁忌
投与しないこ
とが望ましい
X
(Lactmed なし)
動物を用いた生殖試験で催奇形性が
認められている.
妊婦治療例に関する情報は極めて少
なく未確立.健常児の出産例もある.
アンブリセンタン
Ambrisentan
禁忌
授乳を避ける
X
(Lactmed なし)
動物を用いた生殖試験で催奇形性が
認められている.
シルディナフィル
Sildenafil
有益性投与
授乳を避ける
B
(Lactmed なし)
動物実験で子宮潅流血漿量を低下さ
せることが報告されている.この報
告では,胎仔の低体重,低血圧,頻
脈が指摘されている.
妊婦治療例に関する情報は極めて少
なく未確立.健常児の出産例もある.
タダラフィル
Tadalafil
有益性投与
授乳を避ける
B
(Lactmed なし)
類薬で動物実験で子宮潅流血漿量を
低下させることが報告されている.
この報告では,胎仔の低体重,低血
圧,頻脈が指摘されている.
妊婦治療例に関する情報はなく未確
立.
ベンジルペニシリン
Benzylpenicillin
有益性投与
授乳中止が望
ましい
B
授乳可
ペニシリン系抗生物質は妊娠中も安
全に使用可能.
バンコマイシン
Vancomycin
有益性投与
授乳を避ける
C
限られた情報ではあるが,
母乳中に移行する量は少な
く,哺乳児の腸管から吸収
されることも予想されな
い.
妊婦治療例に関する情報は極めて少
なく未確立.第 2 三半期,第 3 三半
期に使用した妊婦の児に聴力障害,
腎障害はみられていない.
リネゾリド
Linezolid
有益性投与
授乳を避ける
C
抗凝固薬
抗血小板薬
Xa 阻害薬 ヘパリンナトリウム
Heparin
肺高血圧
治療薬
FDA
Pregnancy
Category
妊婦
抗菌薬
(Lactmed なし)
妊婦治療例に関する情報は少ない.
健常児の出産例もある.
授乳婦の情報が少ない.投 妊婦治療例に関する情報は極めて少
薬は授乳中止の理由にはな なく未確立.健常児の出産例もある.
らないが,哺乳児の消化器
系の副作用に注意する.新
生 児・ 未 熟 児 で は 代 替 薬
(Vancomycin)を考慮する.
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
111
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
各 論
害のみを指すものではなく,より複雑な進行性の臨床過
Ⅰ
程を示す用語である.心臓のみならず心臓外の多くの生
抗心不全薬総説
理過程と密接に関係しながら病状が進行する.たとえば
虚血や高血圧,感染であっても心臓にまず何らかの一次
的な障害を引き起こす.その結果,心負荷が増大し頻脈
1
が惹起され,さらに心臓内あるいは関連する諸臓器に二
疫学
次的な反応が生じてくる.最初の傷害がどのようなもの
であれ,二次的な諸臓器の反応と臨床症状の進行過程は
心不全は欧米をはじめ我が国でも疫学上極めて重要な
共通した経過をたどり,無治療では終末期の心不全へと
問題と認識されており,米国では年間 90 万件の入院,
進行し死に至る.
25 万件以上の死因を占める.心不全の大部分は成人に
心臓障害による二次的な反応は少なくとも初期には可
発症し,小児期の心不全については今まであまりよく調
逆的であり,生存に不可欠な臓器への血流は代償され保
べ ら れ て こ な か っ た. し か し 近 年 の Pediatric
たれる仕組みとなっている.つまり心筋の局所的な障害
Cardiomyopathy Registry のデータでは小児心筋症の発
に対してはさまざまな代償機転が働いて総合的な心機能
症率は 1.13/10 万人 / 年であり,これらの児の大部分が心
が維持されるのである.しかし病状の進行とともにこれ
不全を発症し,拡張型心筋症においては 13.6% /2 年が死
らの代償機転は破綻し,ついには代償不可能な心不全を
亡する
93)
. 心不全の病因は小児と成人では大きく異なる.
呈するようになる.心筋肥大や壁応力の増大により酸素
小児では認識可能な症候群あるいは遺伝子診断できるも
消費量が増大し,潜在的に心筋傷害が進行する.同時に
のが 27%を占め,5%が心筋炎によるとされる.しかし
生じるレニン・アンジオテンシン系の慢性的な賦活化は,
94)
.
浮腫や肺高血圧を生じ後負荷が増大する.一方で交感神
1987 年から 1996 年に National Population-based Registry
経活性の亢進は不整脈や突然死を惹起する.治療は左室
in Australia に心筋症として登録された小児の 5 年生存率
機能が不可逆的に悪化する前,いわゆる終末期心不全の
終末期の心不全の最大の病因は先天性心疾患である
(移植回避率)は肥大型心筋症で 83% 95),拡張型心筋症
では 64%
2
96)
でしかない.
定義
前に開始されなければならない(図 7).
我々が心不全であると認識するのは,臨床症状や血行
動態,神経体液性因子といった患者のさまざまな特徴を
通じてである.病歴,エコーや心臓カテーテル検査のデ
ータ,循環血液中のホルモンの異常が診断根拠となるこ
心不全とは複雑な臨床症候群であり,多種類の病因,
ともある.小児においては左右シャントを有する未治療
多様な臨床症状を伴う.さまざまな定義が提唱されてき
の構築異常に対しても心不全という用語を使用するとい
たが,Arnold Katz らの定義が臨床面のみならず細胞/
うあいまいさがある.この心血管構築異常は小児心不全
分子レベルでの変化と対照しており好ましいと思われ
の多くを占めるが,外科的な修復で根治するものも多い.
る.すなわち「心不全とは心拍出量減少,中心静脈圧増
大を来たす臨床症候群で,背景に分子生物学的異常によ
3
心不全の分類
り惹起される進行性の心臓機能低下と幼弱心筋細胞死を
伴う」と表現されている 97).
112
■ NYHA 分類
“ Heart failure is a clinical syndrome in which heart
New York Heart Association(NYHA) 分 類 は, 現 実
disease reduces cardiac output, increases venous pressures,
的な身体活動制限によって評価するという簡便さから成
and is accompanied by molecular abnormalities that cause
人の心不全重症度分類に広く用いられている指標であ
progressive deterioration of the failing heart and premature
る.身体活動の制限される度合いから求めた指標である
myocardial cell death.”
ため幼小児への適用は限定される.
従来,心不全は単純に,重篤で不可逆的な心臓障害で
■ Ross 分類
あり,収縮力の低下した心室に対する有効な治療法はな
Ross 分類は幼小児における心不全重症度評価のため
いと考えられてきた.しかし,心不全とは単一の心臓障
に考案された指標である(表 3)98).1994 年にカナダ心
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
図 7 心筋傷害への反応
表 3 Ross 分類
治療により改善しうる︵逆行可能︶
クラス
Ⅰ
心筋傷害
Ⅱ
心臓および全身性の代償性反応
Ⅲ
心臓および全身性の不適応な反応
Ⅳ
症状
無症状
乳児:授乳中の軽い多呼吸または発汗
小児・学童:努力性呼吸
乳児:授乳中の著明な多呼吸または発汗
心不全による体重増加不良と哺乳時間の延長
小児・学童:著明な努力性呼吸
安静時の多呼吸・陥没呼吸・呻吟あるいは発汗
心不全の進行
ACC/AHA 心不全ガイドラインではこれらの不足を説明
する心不全の分類シェーマを用いて NYHA 分類を補っ
限界閾値
ている(図 8)101).ACC/AHA ステージングは,心不全
不可逆的な心不全
リスクで患者を選別し,そのリスクに対して早期に介入
し症状発現を遅らせるように設計されており,また症状
が発現した患者に対してより強力な管理が必要であるこ
Delgado RM, 3rd, Willerson JT: Pathophysiology of heart failure:
A look at the future. Tex Heart Inst J 1999;26:28-33. より改変
障害により心臓内および関連組織に代償性の反応が生じる。
この状態が進行するとこれらの反応はむしろ生体にとって有
害となり,病態を進行させ症状を出現せしめる.治療により
この有害な変化は逆行し,左室機能が回復するが,不可逆的
となる前に行う必要がある.
る成人用心不全分類システムは多少の変更を加えるだけ
臓 血 管 協 会 に よ り 公 的 シ ス テ ム と し て 提 唱 さ れ 99),
ステージングに沿った治療を行う.すなわち代償不全
National Cardiomyopathy Registry や Carvedilol の多施設
でサポートが必要な場合は急性心不全として加療する.
共同研究にも用いられている.この Ross 分類は血漿ノ
代償ができていて安定してはいるが,リスク因子を抱え
ルアドレナリン濃度と正相関し 98),β受容体の密度と
ている場合は基本的にそのリスク因子へのステージング
は逆相関することが示されており
100)
,このシステムの
妥当性の根拠の一つとされる.
■その他の Scoring システム
小児心不全の重症度決定のためのスコアリングシステ
とも記されている.この ACC/AHA により提唱されてい
でほぼそのまま幼小児にも適用できる(表 4)105).
4
薬物治療
に沿った加療が必要である.多くは心保護を目指す,結
果として予後改善や QOL 改善をはかることになる.
急性心不全の薬物によるサポート
1
ムはこれら以外にもいくつか提唱されている.たとえば
成人では,通常管理に反応しない低灌流および低血圧
乳児に対する 12 ポイントスケール 101)などがそうで,栄
を伴う急性の心不全増悪に対し強心剤は必要とされ
養の質と期間,呼吸数と様式,心拍数,末梢循環,拡張
る 106).現在使用可能な強心剤は細胞内の cAMP レベル
期充満音の有無,肝腫大の程度などをその変数としてい
る.Ross score を よ り 詳 細 に 分 類 し た Modified Ross
102),103)
score
などもある.しかしこれらのシステムも多数
の対象に使用したものではなく,また生物学的指標や運
動耐容能と比較も十分にはなされていない.ただし
表 4 乳児および小児の心不全ステージングシステムの提案
Stage
A
Ohuchi らは先天性心疾患の小児や若年成人の臨床症状
と神経体液性因子の変化に相関があると詳細に報告して
いる 104).
B
■ Staging system
NYHA 分類も Ross スコアも現時点という時間的には
一点の症候に焦点をあてたものであり,病初期の患者を
選別したり,病気が安定した状態にあるのか代償されて
いるのかを見分けるシステムではない.2002 年以降の
C
D
症状
心不全に進展するリスクが増大しているが,正常
な心機能を有し容量負荷を認めない患者
例:心毒性を有する薬剤の使用歴,遺伝性心筋症
の家族歴,単心室,修正大血管転位
心奇形あるいは低心機能であるが,心不全症状も
心不全の既往もない患者
例:左室拡大に伴う大動脈弁閉鎖不全,アントラ
サイクリンの使用歴があり左室収縮能が低下し
ている
心不全の既往または症状を有する,構造的ないし
機能的心臓病患者
強心剤の持続投与,機械的循環補助,心臓移植,
あるいはホスピスケアを要する終末期心不全の
患者
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
113
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
図 8 心不全の病期分類と推奨される治療
心不全危険因子
心不全
Stage A
器質的心疾患なし
心不全症状なし
心不全ハイリスクあり
Stage B
器質的心疾患あり
心不全症状なし
心不全徴候なし
Stage C
器質的心疾患あり
心不全症状もしく
は既往あり
Stage D
特別な治療を要する
難治性心不全
以下を有する患者
・高血圧
・動脈硬化性疾患
・糖尿病
・肥満
・メタボリックシンド
ローム
・心毒性のある薬剤
の使用歴
・心筋症家族歴
以下を有する患者
・心筋梗塞既往
・左室肥大および
駆出率低下を含
む左室リモデリ
ング
・無症候の弁膜症
以下を有する患者
・器質的心疾患の
存在
および
・息切れや易疲労
感,運動耐容能
低下
以下を有する患者
・最大限の薬物治療
にもかかわらず,
安静時に著明な症
状(繰り返し入院,
もしくは特殊な医
療行為なしでは安
全に退院できない
患者など)
治療
ゴール
・高血圧治療
・禁煙を促す
・高脂血症治療
・規則正しい運動を促す
・アルコール減量,禁止
薬物中止を促す
・メタボリックシンド
ロームのコントロール
薬物
・ACE 阻害薬または ARB
を血管疾患または糖
尿病を有する患者に
適正使用
器質的
心疾患
への進
展
心不全
症状の
出現
治療
ゴール
・すべての状態を
stage A 以下とする
薬物
・ACE 阻害薬または ARB
の適正使用
・β遮断薬の適正使用
適応患者へのデバイス治療
・植え込み型除細動器
治療
ゴール
・すべての状態をstage Aと
B 以下とする
・塩分制限
通常の薬物
・体液貯留に対する利尿薬
・ACE 阻害薬
・β遮断薬
特定患者への薬物
・アルドステロン拮抗薬
・ARB
・ジギタリス
・ヒドララジン / 硝酸薬
適応患者へのデバイス治療
・両心室ペーシング
・植込み型除細動器
安静時
の難治
性心不
全症状
治療
ゴール
・適切な stage A,
B,C 以下の
レベル
・適切なレベルのケアを決定
オプション
・慈悲深い終末期ケア
・特殊な治療
心臓移植
強心薬持続投与
永久的な機械的循環補助
実験的手術または投薬
を上昇させるという共通経路を通して心筋の収縮性を増
柱であった.しかし現在ではポンプ機能増強ではなく,
大させる.細胞内 cAMP の上昇により筋小胞体からのカ
心不全を進行させる神経体液性因子の刺激を減じること
ルシウム放出が増大し興奮収縮連関での収縮力生成が増
に主眼がおかれている.事実,陽性変力作用を有する薬
強する.cAMP の上昇は主に二つの異なる経路で生じる.
剤では心不全の予後は改善しないが,心保護薬を用いる
ひとつはβアドレナリンを介した刺激(産生亢進)で
と予後が改善することが成人領域で証明されている.代
もうひとつはホスホジエステラーゼ(PDE)Ⅲ阻害(分
表的な心保護薬としてはレニンアンジオテンシン系を抑
解抑制)である
107)
.
制する ACE 阻害薬(ACE-I)およびアンジオテンシン
カテコラミンはもっとも強力な強心剤であるが,その
Ⅱ受容体拮抗薬,β遮断薬,アンジオテンシンⅡ受容
効果は陽性変力作用に限定されるものではない.陽性変
体拮抗薬(ARB)が挙げられる.それぞれの薬剤の詳
時作用も有し,血管床や他の臓器にも複雑な影響を及ぼ
細については別頁を参照されたい.
す.したがって薬剤の選択は心筋のみならず循環動態の
さまざまな状態にも依存する.
5
心不全の予後
それぞれの薬剤の詳細については別頁を参照されたい.
2
114
慢性心不全の治療
心不全と診断された小児の予後を決定するデータはほ
とんどない.今後の新しい薬物療法やペーシングインタ
かつてはうっ血性心不全の原因がポンプ機能不全と判
ーベンションの出現に伴い予後の改善が期待される.小
明すればポンプの仕事をよりよくすることが治療戦略の
児拡張型心筋症(DCM)に関する 13 研究のメタ解析に
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
おいて一年死亡率は 27 %と高値をしめす(表 5)108).
要因は高年齢,心不全症状あり,左室収縮能(FS また
しかし適切な除細動器植込みによりこのような症例を救
は EF)の低下,治療中に左室機能の改善がみられない,
命できる可能性がある.また,心臓再同期療法効果も期
家族性心筋症,中等度以上の僧帽弁逆流,心室性不整脈
待される.
が挙げられている(図 9).
前 方 視 的 か つ 大 規 模 な 多 施 設 研 究 の 予 備 試 験 で,
ACE-I やその他の薬剤を内服して最低 1 か月以上安定し
ていた心不全小児の 50%以上が 8 か月以上経過した後の
評価で改善していたという報告もある 109).さらに長期
の予後調査が心不全症状を伴う DCM の小児で行われて
いる 110),111).
これらの研究によれば死亡あるいは移植に至るリスク
表 5 小児拡張型心筋症患者における突然死と総死亡
患者数
死亡数
死亡率
(%)
456
172
38
平均追跡期間
(月)
1 年死亡率
(%)
5 年死亡率
(%)
突然死
心不全死
46
27
73
46
126
図 9 発症から死亡ないし心移植までの生存曲線
Daubeney P E F et al. Circulation 2006;114:2671-2678 より改変
全体,
(B)
年齢別,
(C)
家族性心筋症,
(D)
リンパ球性心筋炎
(心内膜心筋生検)
( A)
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
115
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
Ⅰa
血管拡張薬:ホスホジエステラーゼ3阻害薬,カルシウム感受性薬
疾患や重症急性心筋炎のように可逆的疾患が原因なので
強心薬の短期的使用が適用される.
2
1
心不全治療の概念
PDE3 阻害薬
代表的な細胞内セカンドメッセンジャーである cAMP
と cGMP は,心血管系においては短時間の収縮・弛緩反
心不全治療の基本概念(図 10)は,心血管系の至適
応を制御している.一般的に心筋に対して cAMP は陽性
結合状態を維持させつつ末梢臓器への血液供給を保証す
変力的に,cGMP は陰性変力的に作用するが,それぞれ
るための作動血圧を維持させることで(図 10c),治療
の細胞内濃度の変化は一過性である.これらの環状ヌク
目標は容量負荷の減少,強心薬による心収縮力増強,血
レオチドのシグナル制御に重要な役割を担っている酵素
管拡張薬による後負荷軽減である 112).
が PDE である.PDE はさまざまな細胞で Mn2+ 存在下に
急 性 非 代 償 性 心 不 全(acute decompensated heart
cAMP と cGMP を加水分解し,プロテインキナーゼ A
failure, ADHF)の病態判断のために,成人では Forrester
(PKA)とプロテインキナーゼ G(PKG)の活性を制御
分類が用いられているが,Swan-Ganz カテーテルの挿入
している.現在,11 種類の PDE サブファミリーが報告
など侵襲的検査が必要であり,新生児・乳幼児に対する
さ れ, 心 筋 で は 4 種 類 の PDE ア イ ソ ザ イ ム(PDE1,
評価法としては不都合である.Stevenson らによって提
PDE2,PDE3,PDE4)が存在する 115).
唱された概念は身体的所見から分類し,Forrester 分類に
PDE3 の加水分解作用による cAMP および cGMP の心
ほぼ対応するので小児領域においても極めて有用である
臓 に お け る 解 離 定 数 は Km cAMP=0.2 ~ 0.3μM,Km
(図 11)113).心不全患者はうっ血と低心拍出量の有無に
cGMP=0.1 ~ 0.2 μ M と 大 差 は な い が,cAMP の 産 生・
より4グループのうちのひとつに分類される.代償され
分解速度は cGMP に対して約 10 倍速いため,PDE3 阻害
ている患者(グループ A)が過剰容量負荷になると体循
により cAMP 濃度が有意に高まる.cAMP-PKA 連鎖の
環あるいは肺循環のうっ血徴候をあらわすグループ B に
亢進は L 型カルシウムチャネルの活性化と細胞膜での
移動する.その後,心拍出量が減少するとグループ C に
Ca2+ 流入の促進に加えて,筋小胞体リアノジン受容体を
入る.利尿薬の使用や体血管抵抗を低下させることによ
活性化して筋小胞体に貯留されている Ca2+ の放出を誘
りグループ C,B の患者の大多数はグループ A に戻る.
発することにより強心作用を発揮する 115),116).一方,細
しかし,一部の患者は正常な体循環量の維持にも関わら
胞内 cAMP の増加はホスホランバンの PKA 依存性リン
ず低灌流が持続し(グループ D),強心薬の持続投与量
酸化による筋小胞体の Ca2+-ATPase (SERCA2 pump) を
の増加さらには機械的補助循環が必要となる 113),114).
介する Ca2+ 取り込みも亢進させて左室の拡張能を改善
ADHF に対する強心薬(ドパミン,ドブタミン)の急
させる(陽性変弛緩作用)116).
性期効果は明らかであるが,心筋酸素消費量の増加,不
PDE3 は血管平滑筋細胞にも多く存在し,cAMP 産生
整脈誘発の機会となる心拍数の増加を伴うため長期使用
を増加させ,PKA を活性化して筋小胞体への Ca2+ 取り
は推奨されていない.新生児期のエピネフリンの長期投
込みを促進すると同時に,イノシトール 1, 4, 5 -三リン
与は心筋壊死や高度の拡張能低下を来たすこと,β 受
酸(IP3)による IP3 -誘発性 Ca2+ 放出を抑制するため,
容体のダウンレギュレーションによる薬剤効果の減弱な
Ca2+ が筋小胞体に保持された状態となり血管弛緩作用が
どの問題があるが,小児の ADHF の多くは,先天性心
強まる 116).
図 10 左室機械効率からみた心不全の補正
作動血圧
最適血圧
c
動脈圧
b
動脈圧
動脈圧
a
作動血圧
血管拡張薬
作動血圧
至適結合関係
最適血圧
最適血圧
陽性変力増強薬
収縮能
116
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
収縮能
収縮能
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
図 11 急性非代償性心不全の評価法
安静時の低灌流
安静時のうっ血
無
有
無
有
Warm and dry
Warm and wet
A
B
Cold and dry
Cold and wet
D
C
の 3 種類に分類される 119).Ca 感受性薬はカテコラミン
と異なり,アシドーシスや虚血,スタンニングなど病的
状態でも心筋収縮力を増強できるが,細胞内が低 Ca 濃
度であっても心筋線維の Ca 感受性を増強するので,不
低灌流のエビデンス:
脈圧狭小,四肢冷感,眠気,
血清ナトリウム値低下,
腎機能低下
うっ血のエビデンス:
起坐呼吸,高い頚静脈圧,
S3 亢進,P2 亢進,ラ音,
浮腫,腹水
全心の拡張機能を悪化させる可能性がある.特にクラス
Ⅲに属する薬剤の副作用として重要であるが,ピモベン
ダン(クラスⅠ)やレボシメンダン(未承認薬)(クラ
スⅡ)は PDE3 阻害作用を併せ持つために,拡張機能障
害を起こすことはないとされ,臨床的にもこの 2 剤が治
療薬として用いられている.ピモベンダンは PDE3 阻害
作用が強いため,活動電位持続時間の延長により QT 延
PDE3 阻害薬は心筋に対する陽性変力作用と陽性変弛
長を来たす恐れがある.また Ca 依存性カリウムチャネ
緩作用とともに,体循環,肺循環血管拡張作用と冠血流
ル を 刺 激 し て 血 管 拡 張 作 用 も 有 す る.PICO-trial や
増強作用を有する.したがって心不全に対して心血管系
EPOCH-study において,ピモベンダン経口投与は心不
の至適結合状態を維持する理にかなった治療薬といえ
全患者の QOL を改善させることが示されたが,死亡率
る.現在我が国で認可されている PDE3 阻害薬(静注薬)
の改善を明らかにすることはできなかった 119).
はミルリノンと塩酸オルプリノンである(いずれも保険
クラスⅡに属するレボシメンダン(静注薬)は,Ca
償還対象).
依存性にトロポニンCに結合して,カルシウムのトロポ
ミルリノンは静脈投与により数分で血管拡張作用,心
ニンCへの結合を安定化させるが,結合時間を延長しな
収縮増強作用をあらわし,心拍出量を 20 ~ 42%増加さ
いため拡張能への影響はなく,酸素消費量も増加させな
せ,体循環抵抗を 15 ~ 30%,肺動脈楔入圧を 20 ~ 30%
い.さらに,ATP 依存性 K チャネルを活性化により血管
.塩酸オルプリノンは我が国で開発され
拡張機能や心筋保護作用も併せ持つ 120).ピモベンダン
た静注用 PDE3 阻害薬である.血行動態に対する作用は
と異なり心不全患者の死亡率低下のエビデンスも得られ
両薬剤に違いがある.ミルリノンは容量依存性に心係数
ている 121),122).
減少させる
117)
の増加を伴わずに肺血管拡張作用が亢進するが,塩酸オ
ルプリノンは低容量では肺血管拡張作用が中心となり,
4
薬物療法の実際
投与量を増加させるにつれて,肺血管拡張作用よりも心
拍出量増加作用が中心となる 118).
3
カルシウム感受性薬
急性心不全による入院患者で,低灌流による低血圧,
前負荷増大(拡張末期圧増大)に対する静注陽性変力薬
は 2009 年の ACCF/AHA ガイドラインでは,推奨度クラ
ス 1 でエビデンスレベルは C である 123).収縮能低下,低
カテコラミン同様に PDE3 阻害薬も心筋細胞内のカル
血圧,低心拍出量に対する,ミルリノンを含む静注陽性
シウム濃度を増加させるため,長期投与により細胞内
変力薬はクラス IIb でレベル C となっている 123).
Ca2+ overload による心筋細胞のアポトーシス,壊死,不
ESC2008 ガイドラインでは急性心不全に対するミル
整脈誘発のリスクが増す.さらに,Ca 依存性の収縮増
リノン投与はクラス IIb でレベル B,レボシメンダン投
強は心筋の ATP,酸素消費を亢進させるため既に代償機
与はクラス IIa でレベル B である 124).OPTIME-CHF,お
構が破綻している不全心筋に対してより過大な負担を強
よび 21 の臨床研究を対象にしたメタアナリシス 125)では,
いることになる.Ca 感受性薬は心筋線維ないしはクロ
慢性心不全に対する経口 PDE3 阻害薬の長期投与は予後
スブリッジ連関に直接影響して変力作用を発揮する薬剤
を不良にすると結論づけている一方で,心収縮能の維持
で,細胞内 Ca 濃度を変化させることなく心筋収縮力を
に対する短期的な PDE3 阻害薬の投与の有用性も明らか
増加させることができ,作用部位によってクラスⅠ(ト
にされている.
ロポニン C の Ca 感受性を増強させる),クラスⅡ(トロ
小児に対する人工心肺使用の先天性心疾患術後に対す
ポニン C の Ca 感受性に影響を与えることなく直接アク
る PRIMACORP study ではミルリノンの有用性が示され
チン線維に作用してアクチン─ミオシン連関を良くす
た.人工心肺使用による先天性心疾患手術の 6 ~ 18 時
る),クラスⅢ(クロスブリッジ連関に直接作用する)
間後に心拍出量が低下し,PDE3 阻害薬が心拍出量を改
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
117
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
善することから(レベル B ~ C),小児に対する心臓手
0.2μg/kg/ 分と報告している 133).しかし,彼らは
術後にミルリノン投与を強く推奨したガイドラインが定
新生児心筋では PDE 活性が低く,ミルリノンの強
められている
126),127)
心作用は成熟心より弱いと考察している.この研
(クラスⅡ a).
塩酸オルプリノンは海外での大規模臨床治験は施行さ
れていないが,我が国では特に成人,小児を問わず人工
究でミルリノンが未熟児の動脈管閉鎖を遅らせる
ことも報告している.
心肺使用による心臓手術後に対する有用性について数多
●塩酸オルプリノン
く報告されている.その多くはレベル C であるが,日本
①初期投与量(成人):10μg/kg(5 分間),維持投与
循環器学会の「急性重症心不全治療ガイドライン(2006
量 0.1 ~ 0.3μg/kg/ 分.0.4μg/kg/ 分 ま で 増 量 で き
年改訂版)」128)ではミルリノンと同列に記載されている.
る 128).
カルシウム感受性薬を考慮した慢性心不全の急性増悪
②心臓心術後の小児:初期投与量 10μg/kg(20μg/kg
に対する治療アルゴリズムではレボシメンダンが心不全
では心拍数の増加による酸素需要量が増加するた
分類B,Cに対してミルリノンと同等に推奨されてい
め)134).
る 129).
●ピモベンダン
肺血管抵抗(PVR)の低下という点ではミルリノンの
①成人急性心不全:1 回 2.5mg.病態に応じて 1 日 2 回
方が有利と考えられている.特に,複雑心奇形を有する
患児では,心血行動態面から PVR の制御を考慮した上
での薬剤選択が望まれる.その意味では,VSD 術後な
経口投与することができる.
②成人慢性心不全(軽症~中等症):1 回 2.5mg を 1 日
2 回.年齢,症状により適宜増減.
どの肺高血圧残存症例,Fontan 手術や Glenn 手術後のよ
③現在のところ低出生体重児,新生児,乳児,幼児ま
うに PVR を低下させて心拍出量の増加を促し,循環動
たは小児に対する適性は投与量の報告はない.
態の改善を図る症例などがミルリノンのよい適応なり,
PVR の低下が望ましくないシャント残存症例などは塩
[使用上の注意事項]
酸オルプリノンの方が有利と思われるが,大規模臨床治
●禁忌
験は施行されていないためクラスⅡ b,レベルCである.
・ 閉塞性肥大型心筋症(流出路閉塞が悪化する可能性
図 12 に 2010 年に発表された小児心不全に対する治療
がある):ミルリノン,塩酸オルプリノン
アルゴリズムを一部改変して示した 113),114).このアルゴ
・ 妊婦または妊娠している可能性のある婦人:塩酸オ
リズムではカテコラミン使用の前に PDE3 阻害薬を挙げ
ルプリノン(動物実験で胎児発育遅滞),ピモベン
ている.
ダン(禁忌に挙げられていないが,ラットに対する
初期投与試験で胚死亡率の増加,出生体重の低下が
[用量・使用法]
認められる)
●ミルリノン
●重大な副作用
①初期投与量 50μg/kg(10 分,小児では省略可),維
・ 心室細動,心室頻拍(Torsades de pointes を含む)
(0.1
持投与量 0.5μg/kg/ 分,症状に応じて 0.25 ~ 0.75μg/kg/
~ 5 %未満):ミルリノン,塩酸オルプリノン,ピ
min の範囲で増量可(薬剤効能書)
モベンダン
・ 血圧低下(0.1 ~ 5%未満):塩酸オルプリノンはミ
②心臓手術後の小児
・ 0.3 ~ 0.6μg/kg/ 分(初期投与なし)
130)
.
・ 初 期 投 与 量 50μg/kg(30 ~ 60 分 ), 維 持 投 与 量
0.375 ~ 0.75μg/kg/ 分 126),127).
③初期投与量 50 ~ 75μg/kg,維持投与量 0.5 ~ 0.75μ
④初期投与量 50μg/kg(30 ~ 60 分),維持投与量 0.25
132)
.
⑤ Paradisis らの生後 18 時間までの未熟児に対するミ
118
オルプリノン,ピモベンダン.特に利尿薬との併用
する際,
利尿が促進され脱水傾向になることがある.
・ 頻脈,上室または心室期外収縮などの不整脈(0.1
g/kg/ 分 131)
~ 0.75μg/kg/ 分
ルリノンに比べて血圧低下作用が強い
・ 腎機能の悪化(0.1 ~ 5%未満):ミルリノン,塩酸
~ 5%未満)
・ 血小板減少(0.1 ~ 5%未満):塩酸オルプリノンは
ミルリノンに比べて血小板減少作用は弱い
ルリノン投与による脳血流低下予防の検討では初
・ 低酸素血症(0.1%未満):血管拡張作用により肺内
期投与量として低血圧を避けるため 0.75μg/kg/ 分
シャントが増加し,PaO2 の低下を来たすことがあ
と少量を 3 時間かけて投与し,維持投与量として
る.
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
図 12 心不全治療のアルゴリズム
低血圧
頻脈
呼吸困難
胃腸症状
No
Yes
somewhat
A
B
C
ループ利尿薬開始
静注利尿薬,
PDE3 阻害薬
EF > 40%
軽度拡張
良好な右室機能
48 時間以内に
症状改善
末梢,冷感改善と
利尿効果
No
Yes
No
Yes
ACE-I
ACE-I
Yes
β遮断薬
(BNP↓)
No
ミルリノン減量
(0.33μg/kg/ 分)
48 時間継続
(BNP↑)
Na
正常Na
SBP<75mmHg
(乳児は 65mmHg)
クラス A へ
クラス C へ
・ 肝機能障害(頻度不明):ピモベンダン
●基本的注意点
・ 重篤な不整脈のある患者では症状を増悪させること
がある.
・ 腎排泄型薬剤のため,腎機能が低下している患者で
は血中濃度が高くなる恐れがある.
D
エピネフリン
補助循環
クラス B へ
プリノン,ピモベンダン
・ 他の注射薬と混合せずに用いることが望ましい.
・ ミルリノンとの配合変化が確認されている薬剤:フ
ロセミド,ブメタニド,カンレノ酸カリウム,ピペ
ラシリンナトリウム,ジベカシン硫酸塩,リン酸ピ
リドキサール,ジアゼパム,炭酸水素ナトリウム
・ 循環血液量が欠乏している状態では,前負荷が減少
・ 塩酸オルプリノンとの配合変化が確認されている薬
して過度の低血圧を生じやすい.循環血液量が十分
剤:カンレノ酸カリウム,ウロキナーゼ,フロモキ
保たれた状態で投与することが望ましい.
セフナトリウム
・ 心不全患者の不整脈を助長する可能性がある
・ 高度の大動脈弁狭窄・僧帽弁狭窄がある患者では改
善がみられない可能性がある.
・ 慢性心不全の場合,長期予後に対する安全性は確立
されていない:ピモベンダン
・ 投与中は授乳を避けること:ミルリノン,塩酸オル
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
119
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
Ⅰb
心不全に対する血管拡張薬
も頻度の高い心構築異常の一つである心室中隔欠損に対
する強心薬の役割に関しても,左心室の収縮不全に起因
する心不全の場合とは異なることが報告されている.
本稿では成人でのデータも含めて考慮しながら,小児
1
のデータがあれば小さなエビデンスでも紹介する.
薬物療法の実際
1
心不全に対する血管拡張薬は大きく二つに分けられ
る.一つはα遮断薬や硝酸薬などの単純な血管拡張薬,
もう一つは活性化している神経体液性因子の抑制を目標
血管拡張薬
①ニトロプルシッドナトリウム
ニトロプルシッドは短時間作用型の強力な血管拡張薬
とした心保護薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬
で,動脈 ・ 静脈ともに拡張させる作用を有する.作用は
(ACE-I)・アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB),
早く,速やかに一酸化窒素とシアン化物に代謝される.
そしてβ遮断薬)である.前者は主に心臓手術後ある
この薬理学的特性により急性鬱血性心不全の治療に適し
いは集中治療の場で使用されることが多く,後者は慢性
ている.シアン化物は肝臓でチオシアン化物に代謝され
心不全の治療として投与されることが多い.
る.シアン中毒は長期使用の場合,特に肝腎機能低下あ
単純な血管拡張薬は使用にあたって血行動態の把握が
るいは低心拍出による肝還流の低下している患者におい
重要である.静脈拡張により充満圧を低下させるか,あ
て起こりやすい. 成人の急性心不全においては心拍出
るいは動脈拡張により後負荷を軽減させ拍出量を増加さ
量を増加し,心室充満圧を低下させ,心房容積を減少さ
せることを目的とするため,心血管構造異常としての先
せ,さらに僧帽弁 ・ 三尖弁逆流を改善する.小児におい
天性心疾患に起因する複雑な血行動態の心不全に対して
ては敗血症や ARDS における低心拍出を改善すること
は必ずしも血行動態の改善につながらない可能性を念頭
が報告されている 138).心室中隔欠損においては左右短
に入れて治療することが肝要である.
絡を増加させ体循環量を減少させるという報告もある
心保護薬の二つの柱である RAA 系の抑制とβ遮断は
が,その循環動態によってさまざまに作用するという報
現代の成人における慢性心不全治療において欠かせない
告もある.成人においてニトロプルシッドは大動脈
ものとなっているが,小児領域では必ずしも良好なエビ
弁 139)および僧帽弁閉鎖不全において逆流量を減少させ,
デンスが得られているわけではない. その理由の一つ
充満圧を低下させることが報告されている.
は,前述のように小児心不全の成因が左心室の収縮不全
であることよりも血行動態の異常に起因することが多い
心機能障害による小児鬱血性心不全に対するニトロプル
ためである.また成人と同様の心不全に限った報告でも
シッドの投与
必ずしも有効であるというデータが得られているわけで
クラス IIa エビデンスレベル C
はない 135)が,その報告の中でも条件設定が困難である
ことが述べられており,無効であると結論づけられてい
るわけではなくパワーを持ったランダム化比較試験が必
ニトログリセリンは血管平滑筋のグアニル酸シクラー
要であると結ばれている.このような背景から,小児に
ゼに作用し直接的に血管拡張を,主に静脈系に惹起する.
おいても左心室の収縮不全に起因する心不全に対して
細胞内で遊離した一酸化窒素がグアニル酸シクラーゼを
は,エビデンスが十分ではないものの成人に準じた心保
活性化した結果,増加した cGMP が cGMP 依存性キナー
護療法が行われることが多い
136)
.すなわちカテコラミ
ゼを活性化しさまざまな調節タンパクのリン酸化状態が
ンに代表される強心薬は急性心不全に対する治療薬とし
変化し,その結果血管拡張に至る.ニトログリセリンも
ては今でも重要な存在であるが,予後改善効果を期待す
肝臓で速やかに代謝され,血中半減期は短く(成人で 1
ることはできない
120
②ニトログリセリン
137)
.使用は可能な限り最少量・最短
~ 4 分)静注で投与する際は持続静注される.治療濃度
時間に留め速やかに心保護療法を開始することが重要で
での主な作用部位は太い静脈であり心房 ・ 心室の充満圧
ある.
を低下させる.副作用として低血圧,頻脈などを認める
以上のように小児の心不全治療においては心不全だか
ことがある.小児におけるデータは少ないが,左右短絡
らこの薬剤といった単純な考え方ではなく血行動態をよ
性先天性心疾患において肺体血流比を変えずに心室充満
く理解した上で治療戦術を考える必要がある.例えば最
圧を低下させることが知られている.また同疾患の心内
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
修復術後の有用性も報告されている.新生児の循環不全
においては収縮機能を改善させ中心静脈圧を低下させる
ことが報告されている.貼付型の剤型は小児では血中濃
度の上昇がよくないことが報告されている.閉塞隅角緑
内障の患児には禁忌である.
2
心保護薬
①アンジオテンシン変換酵素阻害薬
慢性心不全に対する ACE-I の効果は CONSENSUS 試
験 141),SOLVD 試験 142)などでエナラプリルによる左室
③ヒドララジン
収縮不全に対する予後改善効果が報告された.理論的に
細動脈の血管平滑筋に直接作用し血管拡張を惹起す
はアンジオテンシン変換酵素抑制のみではキマーゼなど
る.広く全身の血管に作用するが骨格筋 ・ 皮膚における
の他の変換酵素をブロックすることはできないためアン
よりも ・ 脳 ・ 内臓 ・ 腎 ・ 冠動脈により強く作用する.主な
ジオテンシン II 産生を抑制することはできず,実際に
血行動態の変化は抵抗血管拡張による心拍出量の増加で
ACE-I 長期投与ではアンジオテンシン II 濃度はしばしば
ある.体動脈圧 ・ 心室充満圧の低下は軽度である.注射
治療前のレベルに戻ることが知られている.それゆえ
薬 ・ 内服薬があるが腸管 ・ 肝臓での初回通過効果がある
ACE-I の慢性心不全予後改善効果は単に RAA 系の抑制
ため経口での生物学的利用度は低い.スローアセチレー
のみでは説明できない.アンジオテンシン変換酵素はキ
ターでは血中濃度の上昇が高いため副作用の頻度が高く
ニナーゼ II でもありこれを抑制することでブラジキニン
低用量で治療されるべきである.成人においては心不全
系が活性化し,その結果一酸化窒素産生系 ・PGI2 産生系
症状を軽快させ運動耐容能を改善するが,エナラプリル
が亢進することが作用の一因であると言われている.
のような予後改善効果はない
.成人では 10%程度に
小児心不全においてはカプトプリルあるいはエナラプ
140)
ループス様症候群が認められ,スローアセチレーターで
リルを投与したデータがほとんどである.国内ではシラ
投与量が多いほど発生頻度が高い.抗核抗体は陽性とな
ザプリルを投与した報告も散見される 143),144).小児にお
るが,抗核抗体が陽性であれば必ず症状が出るとは限ら
いても収縮不全 144)-147),あるいは弁逆流に起因する鬱
ない.有症状で抗核抗体が陽性であれば投与の中断が必
血性心不全に対する有効性が報告されている.さらに左
要であるが,一般的には可逆的で中止後 6 か月以内に症
右短絡性疾患に起因する鬱血性心不全に対しても有効で
状は消失する.
あるが 148),149),血行動態的には体血管抵抗を低下させて
④フェントラミン
肺体血流比を改善するため肺血管抵抗が相対的に高い症
例ではむしろ肺体血流比が増加して心不全が増悪する可
フェントラミンは術後や集中治療の際に使用されるこ
能性があり注意を要する 150),151).
とがある混合型の血管拡張剤であるが静脈拡張作用は比
副作用として,咳に関しては小児では頻度は少なく,
較的少ない.α1 受容体のみならず前シナプスの α2 受容
また投与継続で消失することが多い.咳はブラジキニン
体も遮断するため,ノルエピネフリンの放出は増加し頻
不活化によるキニン産生増加を意味し心不全に対して有
脈あるいは不整脈を引き起こすことがあるが,成人に比
効であることを意味することから可能であれば投与を継
較し小児では少ない.心不全患者において体血管抵抗を
続するべきであろう.まれではあるが喉頭浮腫の報告が
下げ心拍出量を増加させるが充満圧を低下させる作用は
あり留意が必要である.また妊娠中は禁忌である.投与
弱い.セロトニン受容体の遮断作用も有するため消化器
方法に関しては 1 日 1 回投与よりも 2 回投与の方が血行
症状が出現することがある.
⑤ Ca 拮抗薬
主に動脈拡張を惹起する.ニフェジピン,ニカルジピ
ンなどのジヒドロピリジン系 Ca 拮抗薬は強力な血管拡
動態の変化はないものの,心不全予後規定因子の一つで
あるノルエピネフリン値が低下することが報告されてい
る.
②アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬
張作用を持つが陰性変力作用は他の薬剤に比較して弱
RAA 系を抑制するもう一つの薬剤は ARB である.こ
い.肺高血圧を有する心室中隔欠損の児においてニフェ
れはアンジオテンシンⅠ型受容体をブロックすることで
ジピンは体血管抵抗を低下させ,左右短絡を減少させる.
アンジオテンシンⅠ型受容体の作用を抑制するのみなら
ず,間接的にアンジオテンシンⅡ型受容体の作用を活性
化 し 一 酸 化 窒 素 や ブ ラ ジ キ ニ ン を 増 加 さ せ る(Dual
Effect).心不全に対する ARB の有効性に関するエビデ
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
121
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
ンスは ACE-I ほどではないが多数の報告がある.ELITE
II 試験では ARB(ロサルタン)が ACE-I(カプトプリル)
と同様に心不全患者の予後を改善することが示され,ま
クラス IIb エビデンスレベル C
3
β遮断薬
た成人の CHARM-Alternative 試験でも ARB(カンデサ
Waagstein らは拡張型心筋症患者にβ遮断薬を投与す
ルタン)の心不全患者の死亡率,有害事象を減少させる
ることで心不全症状が改善し心機能が回復することを示
ことが示された.しかし理論的には ACE-I より RAA 系
し,さらには予後改善効果を報告した.その後,US
を効率よくブロックするにもかかわらず心不全に対する
Carvedilol study ではカルベジロール,CIBIS II 試験では
効果としては ACE-I を越えるデータはない.ACE-I と
ビソプロロール,そして MERIT-HF 試験ではメトプロ
ARB の併用に関して,Val-HeFT 試験では ACE-I を含め
ロールの慢性心不全における予後改善効果が証明され
た標準的な心不全治療に ARB(バルサルタン)を追加
た.COPERNICUS 試験では NYHA IV 度の重症心不全
することで全死亡率は変わらないが有害事象を減らすこ
に対しても死亡率改善効果が示され,CAPRICORN 試
とができることが示された.CHARM-Added 試験では
験では症状を有しない左室駆出率低下患者に対する死亡
ACE-I 治療中の慢性心不全患者に ARB(カンデサルタ
率低下が証明された.
ン)を併用した際の死亡率・予後を改善することが示さ
本薬剤は小児心不全を対象とした最も大きな臨床試験
れた.成人では高血圧に合併した心不全が少なくないこ
では有効性は認められていない 152).しかしこれは小児
と,および咳嗽という ACE-I の副作用が ARB では生じ
心不全の多様性に起因すると考えられており,サブ解析
ないため忍容性が高いことから ACE-I に先んじて投与
では“左室を主心室にする症例”に対しては有効で,こ
されることが多い.小児において心不全はむしろ血圧が
れは他の小児拡張型心筋症を対象とした臨床試験の結果
低い状態であることがほとんどであることから,ACE-I
と一致する 153),154).現在小児科領域においてはカルベジ
を優先して投与することが多い.ACE-I と ARB どちら
ロール,メトプロロールが用いられることが多い 155).
が有効か,あるいは ACE-I の中でどの薬剤がより効果
メトプロロールは,初めて心不全に有効であることが証
が強いかなど強い関心を持たれているが,いずれも投与
明されたβ遮断薬である.カルベジロールはα,β 受
量が多いほど効果の強い薬剤であることから結論を導き
容体遮断作用と抗酸化作用を持つ.これらの薬剤は
出すのは容易ではない.
ACE-I と異なり,心筋リモデリングを抑制するだけでな
③抗アルドステロン薬
く逆リモデリング,すなわち左室リモデリングを逆行さ
せ左室を小さくし,収縮性の改善をもたらすという特徴
従来フロセミド投与時に生じる低カリウム血症予防の
がある.この効果は ACE-I を併用した際に,より効果
ために併用されてきたスピロノラクトン(心性浮腫に適
が大きいことが知られている.
応あり)も RAA 系をブロックして心不全の予後を改善
β遮断薬は“心機能を低下させる薬剤”であるため,
することが知られている.近年ではより選択性の高いエ
少量から開始し,漸増する.投与初期は心機能が低下す
プレレノン(心不全の適応なし)も我が国で使用可能と
ることが少なくないため,もともとの心機能が非常に悪
なったが,本薬剤は ACE-I およびβ遮断薬投与下でも
い場合は入院して導入する.また導入時の心機能低下に
さらなる予後改善効果が報告されている.利尿薬である
はベータ受容体を介さない PDE3 阻害剤の投与が有効で
トラセミドの慢性心不全患者への予後改善効果の一つの
ある.少量でも有効であるという報告もあるが忍容性が
理由として,フロセミドにはない抗アルドステロン作用
あれば投与量が多い方が有効である.成人ではカルベジ
が指摘されている.
ロールの AHA ガイドライン推奨量 50mg/ 日に対して日
本での投与量は 5 ~ 20mg/ 日と少なく設定されている.
122
心機能障害による小児鬱血性心不全に対するアンジオテ
これは少量でも有効であるという日本での臨床研究に基
ンシン変換酵素阻害薬の投与
づいて設定されているが,このデータでも容量依存性に
クラス IIa エビデンスレベル C
心不全入院・死亡率を減少させるという点は同様であり,
大動脈弁 ・ 僧帽弁逆流による小児鬱血性心不全に対する
また最近では日本人においても容量依存的に予後を改善
アンジオテンシン変換酵素阻害薬の投与
するとの報告もある.小児では血中濃度が上昇しにくい
クラス IIa エビデンスレベル C
という報告もあり 152)可能な限り増量が望ましい.表 6
左右短絡による小児鬱血性心不全に対するアンジオテン
は欧米での投与量であり日本国内ではメトプロロールは
シン変換酵素阻害薬の投与
同程度の量が,カルベジロールはこの半量程度が投与さ
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
表 6 米国の text にある血管拡張薬の小児投与量
一般名
商品名
ニトロプルシッド ニトプロ
ニトログリセリン ミリスロール
ミリステープ
ヒドララジン
アプレゾリン
作用機序
GC 活性化
GC 活性化
剤型
注射液
注射液
貼付剤
注射液
錠・散
注射液
投与経路 ・ 用量 ・ 用法
0.5 ~ 3 μ g/kg/ 分 持続静注
0.5 ~ 3 μ g/kg/ 分 持続静注
動脈拡張
フェントラミン
レギチン
α1/ α2 遮断
ニフェジピン
アダラート
カルシウム受容体遮断 カプセル
エナラプリル
レニベース
ACE 抑制
錠
リシノプリル
カプトプリル
ロンゲス
カプトリル
ACE 抑制
ACE 抑制
錠
カプセル・錠・細粒
カルベジロール
アーチスト
β1/ β2/ α1 遮断
錠
錠
メトプロロール
セロケン,
ロプレソール β1 遮断
ACE,アンジオテンシン変換酵素:GC,グアニル酸シクラーゼ
*薬用量は Moss and Adams’ Heart Disease in Infants, Children, and Adolescents 6 th ed.
0.1 ~ 0.5mg/kg/ 回 静注(最大 20mg)
0.25 ~ 0.75mg/kg/ 回
0.05 ~ 0.1mg/kg/ 回 静注(最大 5mg)
2.5 ~ 15 μ g/kg/ 分 持続静注
0.1 ~ 0.5mg/kg/ 回 8 時 間 毎( 最 大
20mg)
0.1 ~ 0.4mg/kg/ 日 分 1 ~ 2
成 人 2.5 ~ 5mg/ 日 10 ~ 40mg/ 日 ま で
増量
0.08mg/kg/ 日 分 1(最大 40mg)
0.1 ~ 0.5mg/kg/ 回 8 時間毎
成人 6.25 ~ 25mg/ 回 8 時間毎
0.05mg/kg/ 回 を1日 2 回 か ら 開 始 し 0.1
~ 0.5mg/kg/ 回 1日 2 回まで週毎に増量
成人の最大量 25 ~ 50mg/ 回 1 日 2 回を
超えない
1 ~ 2mg/kg/ 日 分 2
れているものと推測されるが,国内でも欧米と同量のカ
作用に伴う心筋酸素消費量増大と相殺する 158).
ルベジロール投与で有効であったという報告もある.
ドブタミンは単剤で使用される急性循環不全治療薬と
CIBIS-III ではβ遮断薬と ACE-I はどちらを先に導入
して,あらゆる年代でもっとも汎用されている薬剤であ
しても全死亡,全入院などに変わりがなかったものの低
る.ドブタミンの魅力は単剤で陽性変力作用と体血管お
駆出率群ではβ遮断薬先行群で成績が良かったとされ
よび冠血管拡張作用を併せ持つという,他のカテコラミ
ている.しかしながら重症心不全ではベータ遮断薬を安
ンにはない特徴である.この特性から術後の体外循環離
全に導入するために,ACE-I を先に導入し心機能に余力
脱や急性心不全初期治療に乳児や学童でも汎用され
を持たせた状態でβ遮断薬を導入することも考慮され
る 159).
るべきであろう.Val-HeFT 試験では ACE-I,β 遮断薬
変時作用が少ないという利点もある 160).
投与患者に ARB 追加投与をすることで予後を悪化させ
[適応]
る可能性が懸念されたが,CHARM-Added では3者併
・ 国内適応:急性循環不全における心収縮力増強として
用で予後の改善が認められている.気管支喘息患児では
承認される(クラス I,レベル C).低出生体重児,新生児,
禁忌である.また心機能を落とし,心内伝導を抑制する
乳児,幼児又は小児に投与する場合には,観察を十分に
薬剤であるので注意が必要である.
行い少量より慎重に開始する.開心術後に心拍数が多い
小児等に投与し,過度の頻拍を来したとの報告がある
小児左室収縮不全に基づく鬱血性心不全に対するカルベ
(クラス IIa,レベル C).ドブタミンは過度の頻脈を生
ジロール投与
じるため,未熟児の血圧上昇に対してドパミンほど有効
クラス IIa エビデンスレベル C
ではないし,すでにドパミンを使用している患者への追
参考
)
加効果はない 161(クラス
IIb,レベル C).
カテコラミン
・ 国外での動向:FDA では小児に対する使用は正式に
は承認されていない.成人に対しては心拍出量減少を伴
①ドブタミン
う心不全への使用が承認されている.英国での同薬添付
ドブタミンは当初循環不全成人に対する陽性変力カテ
コラミンとして開発された
156)
.β刺激作用を有し,心
収縮性の増大および末梢血管拡張と軽度の心拍数増加を
引き起こす 157).心筋血流の改善作用を併せ持ち,変時
文書には小児への有効性は確立されていないと記載され
ている.
[用量]
国 内 で の 小 児 用 量 と し て は 5 ~ 20µg/kg/ 分 と さ れ
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
123
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
る 162).成人量として通常 1 分間あたり 1 ~ 5µg/kg を点
から,低用量を腎用量,高用量を心臓用量とする使用法
滴 静 注 す る. 海 外 で の 小 児 用 量 は 2 ~ 20µg/kg/
が一時ひろく用いられた(クラス IIb,レベル C).しか
,5 ~ 20µg/kg/ 分(5),2.5 ~ 20µg/kg/ 分
163)-165)
166)
と
しこの用量選択的効果を実証した報告はなく,今やこの
される.投与量は患者の病態に応じて望ましい心血管効
概念は過去のものとなりつつある 173).ドパミンを投与
果が得られるまで適宜増減し最適な投与量を維持す
した際に認められる生理的反応は,収縮性の増加,心拍
る 164).必要ある場合には 1 分間あたり 20µg/kg まで増量
数増大,血管緊張の増大であり体血管拡張を示唆する反
できる.DRUGDEX 2.0 では 17 歳以下の小児患者に対
応は全く見られない.ただし高用量になるほどα刺激
する最大投与量は 40µg/kg/ 分とされる
作用が増大する 160).いずれにせよドパミンは体血管や
分
Ⓡ
167)
.
[小児での薬物動態]
肺血管をともに収縮させ,自身の陽性変力作用を打ち消
平均年齢 5.2 歳の小児において全身クリアランスは
151mL/ 分 /kg(点滴静注;7.47µg/kg/ 時),分布容積は
らい(クラス IIb,レベル C).体血管拡張薬とドパミン
1.13L/kg,点滴静注終了後の血中濃度推移に関しては,
を併用することである程度使えるようになるが(クラス
2 相性の消失がみられた患者と 1 相性の消失がみられた
IIb,レベル C),小児 ICU ではあまり使用されていな
患者の二つに分けられる.分布相における半減期(t1/2
い 159).
α)は 1.65 分(両グループ間に差はあまりみられない),
[適応]
また消失相における半減期(T1/2 β)は 25.8 分であっ
・ 国内適応:急性循環不全(心原性ショック,出血性シ
た 168).
ョック)として承認されるが小児等への投与は設定され
[相互作用]
ていない(成人同様の注意が必要である).ただし国内
β遮断剤:本剤の効果の減弱・末梢血管抵抗の上昇が
承認申請の際の臨床試験において 5 歳以下の患者 25 名
(15 %)および 6 歳から 20 歳の患者 12 名(8 %)が含ま
起こるおそれがある.
アルカリ溶液内で不安定となるため炭酸水素ナトリウ
ムとの混合は避けるべきである
164)
れており安全性に全体との差はないとされる.
・ 国外での動向:FDA では小児に対する使用は正式に
.
[禁忌]
は承認されていない.しかし使うとすれば初期量として
閉塞性肥大型心筋症の患者(左室からの血液流出路の
2 ~ 5µg/kg/ 分で開始し 5 ~ 10µg/kg/ 分で維持し,最大
閉塞が増強され症状を悪化するおそれがある).ドブタ
30µg/kg/ 分とされる.成人最大量は 50 µg/kg/ 分である.
ミン塩酸塩に対し過敏症の既往歴のある患者.
EMEA(欧州医薬品庁)では小児のドパミン使用に関す
[副作用]
る記載はない.
承認時における安全性評価対象例 521 例中,臨床検査
[用量]
値の異常変動を含む副作用は 30 例(5.8%)に認められ
国 内 で の 小 児 用 量 と し て は 2 ~ 20 µg/kg/ 分 と さ れ
た.主なものは頻脈 12 例(2.3%),心室期外収縮 12 例(2.3
る 162).成人量として 1 ~ 5µg/kg/ 分,最大 20µg/kg/ 分.
%),
海 外 で の 小 児 投 与 量 は 2 ~ 20µg/kg/ 分 163)-165),1 ~
血圧上昇 4 例(0.8 %)等であった.再審査終了時に
20µg/kg/ 分 以 上 160),2.5 ~ 20µg/kg/ 分 166) と さ れ る.
おける安全性評価対象例 6506 例中,臨床検査値の異常
FDA では初期量として 2 ~ 5µg/kg/ 分で開始し 5 ~ 10µg/
変動を含む副作用は 166 例(2.55%)に認められた.主
kg/ 分で維持し,最大 30µg/kg/ 分としている.成人最大
なものは頻脈 65 例(1.00%),心室期外収縮 43 例(0.66
量は 50µg/kg/ 分である.いずれにせよ患者の病態に応
%),上室期外収縮 10 例(0.15%),洞頻脈 10 例(0.15%)
じて望ましい心血管効果が得られるまで適宜増減し最適
等であった.
な投与量を維持する 164)
[小児での薬物動態]
②ドパミン
①新生児患者 11 例(在胎週数 34 ± 4.5 週,日齢 30.4±
ドパミンは内因性の神経伝達物質として 1958 年に発
見され
124
してしまうため循環不全の乳幼児には単剤では使用しづ
169)
,後に昇圧作用
170),171)
と心臓への直接作用
172)
18,出生体重 2.38 ± 0.93kg)に対しドパミン持続静注
(5 ~ 20µg/kg/ 分 ) 中 の 血 漿 ド パ ミ ン 濃 度 を 測 定:
を有することが判明した.α,β,ドパミン受容体を刺
0.013 ~ 0.3µg/mL.クリアランス:115mL/kg/ 分,分
激し,ドパミン受容体刺激作用による血管拡張に始まり,
布容積 1.8L/kg,T1/2 6.9 分(5 ~ 11 分)174).
高用量ではαおよびβ受容体刺激に伴う一連の生理的
②小児患者 17 例(年齢 3 か月~ 13 歳,体重:5 ~ 73kg)
反応を惹起する.理論的な用量相関効果のスペクトラム
に対しドパミン持続静注(1 ~ 20µg /kg/ 分)後の血漿
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
ド パ ミ ン 濃 度 を 測 定. 半 減 期 T1/2 α = 1.8±1.1 分,
されていないため,少量から投与を開始するなど患者の
T1/2 β= 26 ± 14 分であった.また分布容積は 2952 ±
状態を観察しながら慎重に投与する.
2332mL/kg であった.クリアランスは 454 ± 900mL/
国外での動向:アドレナリンは通常 inotropic agent と
kg/ 分 であった.肝機能あるいは腎機能障害はドパミ
して心機能不良の患者,たとえば心臓手術後急性期など
ンの薬物動態に影響しなかった
175)
に投与される(クラス IIb,レベル C).最低使用量にお
.
[相互作用]
いても体血管の収縮が強い患者には投与しにくく(クラ
・ MAO 阻害薬:ドパミンの代謝が阻害され作用が増強
かつ延長
ス IIb,レベル C),心室後負荷を上昇させてしまうこと
を術後早期の患者においてよく見られる.不要な体血管
・ ドパミン持続静注中に Phenytoin 静注で血圧低下
の収縮を克服するために,短時間作用型(静注)の硝酸
・ ドパミン受容体拮抗薬 作用減弱
)
剤血管拡張薬を注意深く併用することを考慮する 159(ク
[禁忌]
ラス IIb,レベル C).
褐色細胞腫(カテコラミンを過剰に産生する腫瘍であ
[用量]
アドレナリンとして,通常成人 1 回 0.2 ~ 1mg を皮下
るため,症状が悪化するおそれがある).
[副作用](有害事象)
注射又は筋肉内注射する.なお,年齢,症状により適宜
1981 年 3 月までの副作用頻度調査において 2389 例中
増減する.蘇生などの緊急時には,アドレナリンとして,
副作用の発現例は 240 例(10.0%)で 254 件.不整脈 201
通常成人 1 回 0.25mg を超えない量を生理食塩液などで
件(8.4%),四肢冷感 12 件(0.5%),嘔吐 11 件(0.5%)
希釈し,できるだけゆっくりと静注する.なお,必要が
等であった.
あれば 3 ~ 5 分ごとにくりかえす.
多数の海外小児心肺蘇生ガイドライン 177),178)および
[使用上の注意事項]
ドパミンはα作用を有し末梢血管を収縮させるため
AHFS2010179),Nelson の成書 163)では蘇生初期量 0.01mg/
国内では四肢冷感が 0.5% に発現している.海外ではド
kg 静注もしくは 0.1mg/kg 気管内投与を推奨している(ク
パミンの使用により末梢虚血と壊疽を生じ四肢の切断を
ラス IIa,レベル C).最大投与量は静注 1mg,気管内投
余儀なくされた 4 例の報告がある 176).糖尿病やしもや
与 10mg で 3 ~ 5 分おきに繰り返す 163).新生児の蘇生に
けなど末梢虚血を起こしやすい素因のある患者には慎重
おいては 0.01 ~ 0.03mg/kg 静注 179)が推奨されている(ク
に投与する必要がある(クラス IIa,レベル C).小児で
ラ ス IIa, レ ベ ル C). 緊 急 時 の 心 腔 内 投 与 は 0.005 ~
も末梢静脈挿入式中心静脈用カテーテルの先端や末梢投
)
0.01mg/kg179(クラス
IIb,レベル C).急性心不全に対し
与部位などで血管収縮から皮膚の虚血・チアノーゼが生
て は 持 続 静 注 0.1 ~ 0.5µg/kg/ 分 162),0.1 ~ 1µg/kg/
じることがあり注意を要する(クラス IIb,レベル C).
分 163),164),0.1 ~ 1.5µg/kg/ 分 165),0.05 ~ 2.0µg/kg/ 分 160),166)
また,アルカリ溶液内で不安定となるため炭酸水素ナト
の記載がある.
リウムとの混合は避けるべきである
164)
[小児での薬物動態]
.
重症小児患者に対する 0.03 ~ 0.2µg/kg/ 分のアドレナ
③アドレナリン
リン持続静注下の血漿アドレナリン濃度は 4360±3090
アドレナリンはα受容体およびβ受容体作動薬であ
pg/mL(670 ~ 9,430)であり用量と濃度は直線相関を示
り,低用量では理論的には心拍数や収縮性増大と末梢血
し た. ア ド レ ナ リ ン ク リ ア ラ ン ス レ ー ト は 29.3±
管抵抗の減少,心拍出量増大などのβ刺激作用が優位
16.1mL/kg/ 分(15.6 ~ 79.2)で血漿濃度に依存しなかっ
になるとされる 160).高用量ではアドレナリンは α 受容
た 180).
体刺激作用により血管抵抗を増大させ同時に心筋酸素消
[相互作用]
費量を増大させる.理論的効果は用量により変化するが,
血圧異常上昇:MAO 阻害剤,三環系抗うつ剤(イミ
実地臨床においてはβないしα作用のバランスは予測
プラミン・アミトリプチリン等),セロトニン・ノルア
しがたく,体血管の収縮が起こりやすい
159),160)
.
[適応]
・ 国内適応:複数の適応があるが,循環器領域の適応と
ドレナリン再取り込み阻害剤(SNRI;ミルナシプラン
等),その他の抗うつ剤(マプロチリン等),メチルフェ
ニデート,分娩促進剤(オキシトシン等),エルゴタミ
しては「各種疾患に伴う急性低血圧またはショック時の
ン製剤,抗ヒスタミン剤(クロルフェニラミン・トリペ
補助治療,心停止時の補助治療」に限定される.低出生
レナミン等),アメジニウムメチル硫酸塩.
体重児,新生児,乳児,幼児又は小児では安全性が確立
頻脈・心室細動:ハロゲン含有吸入麻酔薬(ハロタン,
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
125
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
表 7 一般名
Dopamine
商品名
イノバン
一般名
商品名
Dobutamine
ドブトレックス
作用機序
剤形
交感神経α 1,β 1,DA1 受容体刺激 (アンプル)
50mg
100mg
200mg
急性循環不全
(シリンジ)
50mg
150mg
300mg
作用機序
剤形
心筋β 1(β 2,α 1)受容体刺激
商品名
ボスミン
適応
(アンプル)
100mg
(ボトル)
200mg
600mg
一般名
Adrenaline
適応
急性循環不全における心収縮力増強
作用機序
剤形
適応
交感神経α,β 1,β 2 受容体刺激 (アンプル) 気管支痙攣
1mg
急性低血圧・ショック
心停止
局所麻酔薬の作用延長
局所出血
虹彩毛様体炎時における虹彩癒着の防止
小児蘇生
新生児蘇生
蘇生からの回復後,急性心不全(小児)
一般名
商品名
Noradrenaline
ノルアドレナリン
作用機序
交感神経α,β 1,β 2 受容体刺激
剤形
(アンプル)
適応
ショック,急性低血圧
1mg
過度の血管拡張に伴う低血圧(小児)
126
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
投与経路・用量・用法
点滴静注
点滴静注 1 ~ 20µg/kg/ 分(成人)
点滴静注 2 ~ 20µg/kg/ 分 162)-165)
点滴静注 1 ~ 20µg/kg/ 分 160)
点滴静注 2.5 ~ 20µg/kg/ 分 166)
点滴動注 2 ~ 20µg/kg/ 分 163)
投与経路・用量・用法
点滴静注
1 ~ 20µg/kg/ 分
2 ~ 20µg/kg/ 分 163)-165)
2.5 ~ 20µg/kg/ 分 160)
5 ~ 20µg/kg/ 分 160),162)
点滴動注 2 ~ 20µg/kg/ 分 163)
投与経路・用量・用法
吸入 0.3mg/ 回以内
皮下注 筋注 0.2 ~ 1mg
静注 0.25mg/ 回 5 ~ 15 分ごと
局所麻酔薬に添加:10mL に 1 ~ 2 滴
原液あるいは 5 ~ 10 倍希釈液を直
接塗布 点鼻・噴霧・タンポン
10µg/kg 動注静注 163),静注 177)-179)
気管内投与 100µg/kg163),177)-179)
心腔内投与 0.005 ~ 0.01mg/kg179)
静注 10 ~ 30µg/kg179)
持続静注(中心静脈)0.1 ~ 1.5µg/
kg/ 分 165)
持続静注(中心静脈)0.1 ~ 0.5 µg/
kg/ 分 162)
持 続 静 注( 中 心 静 脈 )0.1 ~ 1µg/
kg/ 分 163),164)
持 続 静 注( 中 心 静 脈 )0.05 ~
2.0µg/kg/ 分 160),166)
投与経路・用量・用法
点滴静注 2 ~ 4µg/ 分(成人,添付
文書)
皮下注 成人 0.1 ~ 1mg/ 回
点滴静注
持 続 静 注( 中 心 静 脈 )0.1 ~ 2 µg/
kg/ 分 163)
持 続 静 注( 中 心 静 脈 )0.05 ~ 0.1
µg/kg/ 分 162),164)
持続静注(中心静脈)20 ~ 100 ng/
kg/ 分 ~ 1µg/kg/ 分 165)
持 続 静 注( 中 心 静 脈 )0.05 ~
0.5µg/kg/ 分 166)
作用発現時間 最大血中濃度
10 分(イヌ) 30 分
血中半減期
持続静注中止後 1 分
腎排泄
主な副作用
注意事項・禁忌
不 整 脈(8.4%)重
大な副作用:麻痺 慎重投与:末梢
イレウス,末梢虚 血管障害
血
作用発現時間
最大血中濃度
10 分(ヒト) 10 ~ 15 分
作用発現時間
最大血中濃度
血中半減期
持続投与中止後 3 ~
4分
腎排泄
血中半減期
腎排泄
3 ~ 10 分
主な副作用
注意事項・禁忌
禁忌:閉塞性肥
大型心筋症
不整脈(1.0%)
主な副作用
注意事項・禁忌
頻脈,高血圧,不
整脈,重篤な血清
カリウム値の低下
データなし
3.5 分
禁忌:高血圧
5 分(成人)
作用発現時間
最大血中濃度
5分
腎排泄 2.4 分
データなし
5 分(成人)
血中半減期
181)
主な副作用
重大な副作用:徐
脈
高血圧,重度の血
管収縮および末梢
虚血,不整脈
注意事項・禁忌
禁忌:高血圧
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
127
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
イソフルラン,セボフルラン)
ある 159)
(クラス IIb,レベル C).
異所性不整脈:ジギタリス製剤
また,β 1 受容体刺激作用による強心作用がないわけ
冠不全発作:甲状腺製剤チロキシン等
ではないが,α作用がきわめて強く腎虚血におちいり
血圧上昇・徐脈:非選択性β遮断薬(プロプラノロー
やすい 160).
ル等)
・ 国内適応:各種疾患若しくは状態に伴う急性低血圧又
血圧上昇・頭痛・痙攣等:ブロモクリプチン
はショック時の補助治療(心筋梗塞によるショック,敗
作用減弱:利尿剤
血症によるショック,アナフィラキシー性ショック,循
[禁忌]
次の薬剤を投与中の患者
①ブチロフェノン系・フェノチアジン系等の抗精神病薬,
α遮断薬
②イソプロテレノール等のカテコラミン製剤,アドレナ
環血液量低下を伴う急性低血圧ないしショック,全身麻
酔時の急性低血圧など).小児適応なし.
・ 国外での動向:小児での安全性および効能は確立して
いない 179).
[用量]
リン作動薬(ただし,蘇生等の緊急時はこの限りでな
点滴静脈内注射:ノルアドレナリンとして,通常,成
い.)
人 1 回 1mg を 250mL の生理食塩液,5% ブドウ糖液,血
[副作用](有害事象)
漿又は全血などに溶解して点滴静注する.一般に点滴の
重大:肺水腫(初期症状:血圧異常上昇),呼吸困難,
速度は 1 分間につき 0.5 ~ 1.0mL であるが,血圧を絶え
心停止(初期症状:頻脈,不整脈,心悸亢進,胸内苦悶)
ず観察して適宜調節する.
高頻度:心悸亢進,頭痛,めまい,不安,振戦,悪心・
皮下注射:ノルアドレナリンとして,通常,成人 1 回
嘔吐,熱感,発汗.
0.1 ~ 1 mg を皮下注射する.なお,年齢,症状により適
[使用上の注意事項]
宜増減する.
点滴静注で大量の注射液が血管外に漏出した場合,局
小児では点滴静注 0.1 ~ 2µg/kg/ 分 163),0.05 ~ 0.1µg/
所の虚血性壊死を生じるため,必要な場合はただちにフ
kg/ 分 162),164),20 ~ 100ng/kg/ 分 ~ 1µg/kg/ 分 165),0.05 ~
ェントラミンで加療する 164).また,炭酸存在下で不活
0.5µg/kg/ 分 166)の記載がある.
化するため併用薬に注意を要する.
④ノルアドレナリン
ノルアドレナリンは強力なα受容体刺激作用を有し,
[小児での薬物動態]
小児での報告なし.健常若年成人における半減期は
2.4 ± 0.7 分であった 180),181).
[相互作用]
直接の心拍出に影響を及ぼすことなく全身の血管を収縮
MAO 阻害剤,三環系抗うつ剤(イミプラミン・アミ
させる.過度の血管拡張時には望ましい作用となるが,
トリプチリン等),セロトニン・ノルアドレナリン再取
心室後負荷が上昇しており心機能が低下傾向の症例には
り込み阻害剤(SNRI;ミルナシプラン等),その他の抗
血行動態を増悪させる可能性がある.
うつ剤(マプロチリン等),メチルフェニデート,分娩
ノルアドレナリンは心臓集中治療における単一薬剤と
促進剤(オキシトシン等),エルゴタミン製剤,抗ヒス
しては注意深く投与されるべきである.なぜなら何の代
タミン剤(クロルフェニラミン・トリペレナミン等),
償的心血管機能の増強なく全身体血管抵抗のみを増大さ
アメジニウムメチル硫酸塩で作用増強から血圧異常上昇
せるからである.それ故,ほとんど心予備能のない患者
が生じる可能性がある.
の低心拍出量を増悪させうる.それでも低用量であれば,
また,甲状腺製剤チロキシン等との併用で冠不全発作
術後の全身炎症性反応による循環不全の患者に対しては
が生じる可能性がある.
有用である(クラス IIb,レベル C).ノルアドレナリン
各種利尿剤で作用減弱することがある.
は単剤もしくは注意深く陽性変力作用を有する薬剤とと
もに使用され,致命的に減少した肺血流や,拡張期流出
のある際の冠動脈血流を改善させる(クラス IIb,レベ
ル C).たとえば,Fontan conversion 後の心室機能はよ
128
[適応]
血糖降下作用減弱:血糖降下薬(インスリン等)
[禁忌]
ハロゲン含有吸入麻酔剤投与中もしくは他のカテコ
ールアミン製剤投与中の患者
[副作用](有害事象)
いが心拍出が乏しい症例,体肺シャントをおいたあとの
本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる
乳児,術前に肺循環が致命的に閉塞しかけた症例などで
調査を実施していない.重大な副作用(頻度不明)とし
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
て徐脈(アトロピンにより容易に回復する)がある.
[使用上の注意事項]
拡張性障害に対しては,利尿剤を含めた薬剤投与が適応
となる.
①静脈内に投与する場合には,血圧の異常上昇をきたさ
ないよう慎重に投与すること.
ファロー四徴症の術後など,小児では右心不全の病態
が多い.ファロー四徴症の術後,肺動脈閉鎖不全をきた
②点滴静注で大量の注射液が血管外に漏出した場合,局
し,右室の容量負荷に起因する右心不全と左心不全を認
所の虚血性壊死があらわれることがあるので,注意す
めることがある.この場合の左心不全の原因はよくわか
ること.原則として中心静脈ラインで維持投与する.
っていない.
③本剤により,過度の血圧上昇を生じた場合には,α
肺動脈閉鎖で,人工血管等の心外導管によって肺動脈
遮断薬(フェントラミンメシル酸塩等)を使用するこ
と静脈側心室(通常右室)をつなぐ Rastelli 手術後に,
と.
導管逆流と導管狭窄をきたすことがある.この場合も右
室の容量負荷に起因する右心不全と左心不全を認めるこ
Ⅰc
1
とがある.
利尿薬
先天性心疾患では,時に解剖学的右房—解剖学的右室
—肺動脈,解剖学的左房—解剖学的左室—大動脈と正常
の結合がない場合がある.解剖学的右室が体心室のこと
定義
があり,そのことに起因する心不全がありうる 187).
完全大血管転換症では右室から大動脈が起始する.本
小児においても,心不全の病態は,収縮障害と拡張障
症に対する心房内血流転換術(Mustard 手術,Senning
害に大別される.成人では収縮障害と拡張障害は半々で
手術)後には,右室が体心室として働く状態が持続する.
あるといわれるが,小児での割合は不明である 182).収
右室は経年的に機能が低下し心不全となる傾向を有す
縮障害や拡張障害がなくても,左右短絡による肺血流増
る.体心室側房室弁(三尖弁)閉鎖不全が進行すること
加により呼吸障害をきたして心不全様症状となることが
があり,心不全の増悪因子となる 187).
ある.利尿剤を含めた抗心不全薬の適応となるのは,そ
体静脈ないし右房を直接肺動脈に吻合する Fontan 手
れらの全てである
183),184)
.
術では,宿命的に肺動脈へ駆出する心室がない.Fontan
成人では NYHA 機能分類が多用されている.小児心
手術は三尖弁閉鎖など単心室血行動態疾患に対して施行
不全の重症度分類は成人に比べて難しいが,NYHA 機
される.右心室を通過しないため,中心静脈圧は正常よ
能分類の小児適用は,乳幼児を除いては不可能ではな
り高く,心拍出量は少なめである.体心室は,収縮障害,
い 183). New York University Pediatric Heart Failure
拡張障害,あるいはその両者ともに認められることがあ
185)
Index
も臨床試験では用いられることがあるが,一般
る.また高い中心静脈圧のために浮腫や腹水など右心不
的ではない.
全症状を認めることもある.
成人と同じく小児においても,AHA/ACC の心不全分
心内膜床欠損(房室中隔欠損)や単心室で,房室弁の
類 Stage B すなわち,無症状でも心機能パラメーターに
逆流が強い例では,成人の僧帽弁閉鎖不全の病態をとる
異常がある場合には,利尿剤を含めた抗心不全薬の適応
ことがある.
となることがある.
心室中隔欠損等の左右短絡性疾患では,出生後肺血管
2
小児の病態
抵抗の低下とともに肺血流量が増加し,呼吸障害や哺乳
障害,体重増加不良などの症状が出現する.
心室中隔欠損に動脈管開存,大動脈縮窄・離断合併では
小児においても,左房圧上昇や低心拍出量による左心
不全と,右房圧上昇による右心不全に大別される.小児
心不全の原因は,成人と異なり多くを先天性心疾患の術
前,術後が占める
心不全症状がより早期に出現する.
3
小児の臨床的特徴
186)
.
左室流出路の狭窄が高度だと,後負荷ミスマッチをお
左房圧上昇に伴う症状は,呼吸促迫,咳,労作時呼吸
こし,収縮障害をきたす.この際の治療は,緊急手術な
困難感,起座呼吸などである.低心拍出量の症状は,成
いしカテーテル治療で,その後の補助手段として利尿剤
長発育不全,易疲労,顔色不良,末梢冷感などである.
を含めた薬剤投与が適応となる.慢性の左室収縮および
右心不全の症状は,肝腫大,浮腫,胸水,腹水貯留など
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
129
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
である.左右短絡疾患では,呼吸不全,哺乳障害,体重
増加不良などを認める
4
186)
クトンとの併用も有用である.低 Na 血症を認め,治療
が必要なことがある.低 Cl 血症のために代謝性アルカ
.
小児心不全治療における利尿
薬の役割
ローシスになることがある.
尿への Ca 排泄が増加するので,尿路結石の可能性が
ある.高濃度では腎毒性,感音障害の可能性がある.難
聴を防止するために,ボーラス静注でなく持続点滴で投
利尿薬は心不全治療でまず用いられる薬剤である.こ
与する,などの注意をはらう.32 週未満の未熟児では
とに左右短絡性疾患や浮腫に対しては第一選択である.
血中濃度が上がる可能性がある.アミノグリコシドの併
ループ利尿薬であるフロセミドが最もよく用いられる.
用では特に感音障害の発生に注意する.
低カリウム血症の予防も兼ねてスピロノラクトンを併用
アルブミンと結合したビリルビンを遊離させる作用が
することが多い.各利尿薬の作用機序を表 8 に示す.通
あるので,高ビリルビン血症に注意する.
常の心不全治療においては,利尿薬単独ではなく,他の
長期使用によりフロセミドに対する抵抗性がでてくる
心不全治療薬と併用して用いられることが多い
5
薬物療法の実際
186)
.
ことがある.遠位尿細管での Na と水の再吸収が代償性
に亢進するからである.
188)
フロセミドは未熟児動脈管に対するインドメタシンの
効果を減弱させる可能性がある.
ループ利尿薬
1
①フ ロセミド(商品名 ラシックス)(クラスⅠ,
レベル C)
肝臓と腎臓から排泄され,腎排泄は年齢とともに増加
する.
ループ利尿薬であるフロセミドはヘンレループの上行
[成人用量] 0.5 ~ 1 mg/ 日 静注
脚に作用し,Na+-Ca2+-Cl- 共役輸送系を阻害し,Na 再
[小児用量]
吸収を抑制する.
新 生 児 0.01 ~ 0.05 mg/kg/dose( 経 口 / 静 注,1 日 1 回
[成人用量] 40 ~ 80 mg/ 日,20mg 静注
~ 2 日に 1 回), [小児用量] 0.5 ~ 4 mg/kg/ 日
乳児 / 小児 0.015 ~ 0.1 mg/kg/dose(経口 / 静注,1 日 1
新生児 1mg/kg/ 日(PO/IV), 乳児 / 小児 1 ~ 4 mg/kg/ 日(PO),1 ~ 2mg/kg/dose 静
注 1 日 1 ~ 4 回
点滴 0.05 ~ 0.1 mg/kg/ 時で開始,0.3mg/kg/ 時まで.
[小児の薬物動態(PK)]
T1/2 は 未 熟 児 12 ~ 24 時 間, 新 生 児 4 ~ 8 時 間,
乳児 / 小児 1 ~ 2 時間
効果持続 乳児 / 小児 4 ~ 6 時間
新生児では 99% は肝臓から排泄される.小児や成人
では 50% は肝臓,残りは腎臓で排泄される.腎臓から
の排泄が少ないので新生児では半減期が長い.
[副作用]
低 K +血症,ジギタリス薬の副作用増大,高尿酸血症,
低カルシウム血症,低マグネシウム血症,代謝性アルカ
ローシス,黄疸,Stevens-Johnson 症候群などがある.
[使用上の注意事項]
+
130
②ブメタミド(商品名 ルネトロン注射液)(クラ
ス IIa,レベル C)
~ 4 回)
③トラセミド(商品名 ルプラック)(クラス IIa,
レベル C)
ループ利尿薬である.
[成人用量] 4 ~ 8mg/ 日,1 日 1 回,経口
④アゾセミド(商品名 ダイアート)(クラス IIa,
レベル C)
[成人用量] 60mg/ 日,1 日 1 回~ 2 回,経口
2
K 保持性利尿薬
(ク
①スピロノラクトン(商品名 アルダクトン A)
ラス IIa,レベル C)
遠位尿細管で上皮 Na チャネルにより Na が取り込ま
低 K 血症に注意する.心室期外収縮が出やすくなる
れ,K が尿中に排泄される.アルドステロンは遠位尿細
ので,K 製剤の経口投与をおこなったり,集中治療下で
管での Na 再吸収とカリウム尿中分泌を促進する.その
は K の点滴補充をおこなうことがある.またスピロノラ
結果,アルドステロンは体内の水分を増やし,血圧を上
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
昇させる働きがある.スピロノラクトンやカンレノ酸は
アルドステロン受容体を阻害することで,ナトリウム再
吸収とカリウム分泌を減らす.
心不全では RAA 系が賦活され,アンジオテンシンⅡ
③トリアムテレン(商品名 トリテレン)(クラス
IIa,レベル C)
トリアムテレンは K 保持性利尿剤であるが,スピロノ
が過剰に産生される.ACE-I 投与にもかかわらず,投与
ラクトンのような全身的な抗アルドステロン作用はな
初期には低下していたアルドステロンの血中濃度が再び
い.集合管に作用し,Na +-K + 交換を阻害し,K + を保
増加してくるブレイクスルー現象が認められることがあ
持したまま利尿作用を表わす.
る
189)
.また,不全心ではレニンやアンジオテンシンⅡ
[用量] 90 ~ 200 mg/ 日 (1 日 2 ~ 3 分割)
のみならずアルドステロンも心臓で産生されるという報
[小児用量] 1 ~ 2 mg/kg/ 日
告もある 190).アルドステロン自体が交感神経を亢進さ
[成人の薬物動態] T1/2:4 時間,効果 8 時間
せたり,心筋の線維化をうながす可能性があるので,ア
[禁忌] 高カリウム血症,急性腎不全
ルドステロン拮抗薬には,心筋保護作用も期待でき
[副作用] 高 K 血症
る
190)-192)
.
成人の NYHA Ⅲ度以上の左室収縮機能不全に基づく
重症心不全患者を対象とした大規模試験(RALES)では,
スピロノラクトンの併用が全死亡率,心不全死亡率,突
然死のいずれをも減少させることが報告された 193).
3
サイアザイド系利尿薬
①トリクロルメチアジド(商品名 フルイトラン)
(クラス IIa,レベル C)
ACE-I 薬やβ遮断薬等の標準治療薬に抗アルドステロ
サイアザイド系利尿薬は近位尿細管中に分泌され,遠
ン薬を併用することが生命予後の改善につながることが
位尿細管において Na +,Cl -の再吸収を抑制する.チア
証明された.小児心不全におけるスピロノラクトンの効
ジド系利尿薬にはトリクロルメチアジドがある.遠位尿
果を検討した研究は小規模なもののみである
194)
.
細管で Na と Cl の再吸収を阻害することで,Na 利尿を
[用量] 50 ~ 100mg/ 日,経口
起こす.また集合管への Na 排泄負荷がかかるため,ル
[小児用量]
ープ利尿薬と同様,集合管でのナトリウム再吸収と交換
未熟児 1mg/kg/ 日(1 日 1 回),
に K 尿中排泄,H + 排泄が亢進し,低 K 血症と代謝性ア
新生児 1 ~ 2mg/kg/ 日(分 1 ~ 2)
ルカローシスが生じる.
乳児 / 小児 1 ~ 3mg/kg/ 日(分 2 ~ 3)
また遠位尿細管での Na-Ca 交換が阻害されるため,
[成人の薬物動態]
T1/2:1.5 時間,効果 72 時間
[禁忌]
高カリウム血症,急性腎不全
[副作用]
高 K 血症が認められることがある.未熟児で腎石灰化
の可能性がある.男性で女性化乳房はしばしば認める.
使用上の注意事項
腎不全の可能性がある場合には使用しないか少量から
開始する.
Ca 血中保持に働き,低 Ca 血症,高 Ca 尿症の治療やカ
ルシウム維持目的で使用されることもある.
しかし腎機能低下時(GFR < 30mL/ 分)は効果は乏
しいため,慢性腎不全患者ではあまり使えない.
[用量] 2 ~ 8 mg/ 日 1 ~ 2 回に分割,経口
[副作用] 低 K 血症,高尿酸血症.
4
浸透圧性利尿剤
①マ ニトール(マンニットール)治療薬(クラス
IIa,レベル C)
(ク
②カンレノ酸カリウム(商品名 ソルダクトン)
ラス IIa,レベル C)
[用量] 1 ~ 3g/kg 点滴,200 g/ 日まで.
抗アルドステロン薬.
[成人の薬物動態] T1/2:4 時間, 効果 2 ~ 4 時間
[成人用量] 1 回 100 ~ 200mg/10 ~ 20mL に溶解して,
ゆっくり静注.600mg/ 日まで.
[小児用量] 0.25 ~ 1 g/kg,1 日 4 回 点滴静注
[副作用]
細胞外の水が血管内へ移動するので,心不全が悪化す
る可能性がある.
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
131
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
表 8 利尿薬の作用機序
種類
炭酸脱水素酵素抑制薬
浸透圧利尿薬
作用部位
近位尿細管
近位尿細管
作用機序
炭酸脱水素酵素抑制
浸透圧利尿
ループ利尿薬
ヘンレループ
Na 再吸収阻害
サイアザイド
K 保持性利尿薬
遠位尿細管
遠位尿細管
集合管
集合管
Na 再吸収阻害
アルドステロン阻害
アルドステロン拮抗
アルドステロン拮抗
炭酸脱水素酵素抑制薬
5
商品名
ダイアモックス
マンニットール
グリセオール
ラシックス
ルネトロン
ルプラック
ダイアート
フルイトラン
アルダクトン A
トリテレン
ソルダクトン
[用量]
①アセタゾラミド(商品名 ダイアモックス)(ク
ラス IIa,レベル C)
炭酸脱水素酵素によって重炭酸(H2CO3)から H + と
-
薬剤
アセタゾラミド
マンニトール
グリセリン
フロセミド
ブメタミド
トラセミド
アゾセミド
トリクロルメチアジド
スピロノラクトン
トリアムテレン
カンレノ酸カリウム
+
+
HCO3 が遊離する.このとき生成した H は Na と交換
15mg/ 日,1 日 1 回経口
[副作用] 高 Na 血症
[使用上の注意]
入院等の十分な管理の下で投与.投与開始したら血清
Na 濃度を頻回に測定すること.
することで尿中に排泄される.このとき,水が一緒に再
吸収される.脱炭酸酵素を阻害することで水が再吸収さ
れにくくなり,尿量が増加する.
[適応]
Ⅱa
川崎病急性期治療薬
本薬剤が,小児の心不全治療に用いられることはほと
んど無い.
[用量]
1
疫学
1 日 1 回 250 ~ 500mg 経口
5 ~ 10mg /kg/dose
最新の第 21 回川崎病全国調査成績(2009 年~ 2010
[成人の薬物動態] PK T1/2 4 時間, 効果 8 ~ 12 時間
年 )198)で は, 患 者 数 2009 年 10,975 人,2010 年 12,755
[副作用] Ca 排泄増加のため尿路結石,代謝性アシド
人のあわせて 23,337 人であり,2 年間平均の罹患率は 0
ーシス
6
バソプレッシン V2 受容体拮抗薬
①トルバプタン(商品名 サムスカ)(クラス IIa,
レベル C)
~ 4 歳人口 10 万対 222.9(男 247.6,女 196.9)であった.
患者数の性比(男/女)は 1.32,罹患率の性比は 1.26 で
男の方が多かった.同胞例ありの割合は 1.5%(男 1.5%,
女 1.7 %),再発例の割合は 3.5 %(男 3.9 %,女 3.1 %),
死亡例は2年間で 1 人(女1人)報告され,致命率は
0.004%であった.発病後1か月以内に出現した急性期
非ペプチド性バソプレシン V2- 受容体拮抗薬.腎臓の
心障害の割合は 9.3 %(男 11.0 %,女 7.1 %),後遺症の
集合管において,バソプレシン(抗利尿ホルモン)の
割合は 3.0%(男 3.6%,女 2.1%)であった.
V2- 受容体への結合を選択的に阻害する 195)~197).バソプ
レシンの働きを抑制することで,尿中から血中への水の
2
定義
再吸収を減少させ,ナトリウムなどの電解質排泄に直接
の影響を与えずに水分のみを体外へ排出する.ループ利
132
川崎病の診断は診断の手引き第 5 版 199)に基づいて行
尿薬等の他の利尿薬で効果不十分な心不全における体液
う.以下に示す 6 つの主要症状のうち 5 つ以上の症状を
貯留に用いる.効果が認められているのは,短期使用の
伴うものを川崎病とする.
みである.小児での使用報告は未だない.
(1)5 日以上続く発熱(ただし,治療により 5 日未満
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
で解熱した場合も含む)
現時点で最も信頼できる抗炎症療法は,早期に大量の
(2)両側眼球結膜の充血
完全分子型 IVIG の静注療法を開始することである(ク
(3)口唇,口腔所見:口唇の紅潮,いちご舌,口腔咽
ラスⅠ,レベル A).
頭粘膜のびまん性発赤
IVIG は用量依存性に川崎病の臨床症状および検査所
(4)不定形発疹
見をすみやかに沈静化させ,冠動脈病変の発症頻度を低
(5)四肢末端の変化:(急性期)手足の硬性浮腫,掌
下させることができる最善の治療法である 202)-204).特
蹠ないしは指趾先端の紅斑
に 2g/kg/ 日の単回投与は分割投与に比し冠動脈瘤形成の
(回復期)指先からの膜様落屑
頻度も低く,炎症性マーカーを早期に沈静化させる点で
(6)急性期における非化膿性頸部リンパ節腫脹
有効性が高い 204).
ただし,上記6主要症状のうち,4 つの症状しか認め
従来から使用されていた経口アスピリンは,通常
られなくても,経過中に断層心エコー法もしくは,心血
IVIG と併用するが,欧米で推奨されている 80 ~ 100mg/
管造影法で,冠動脈瘤(いわゆる拡大を含む)が確認さ
kg の高用量では肝機能障害や消化管出血の発症頻度が
れ,他の疾患が除外されれば川崎病と診断する.主要症
高 く, 本 邦 で は 抗 炎 症 作 用 を 期 待 す る 場 合 は,30 ~
状を満たさなくても,他の疾患が否定され,本症が疑わ
50mg/kg の中等量で解熱するまで併用投与する.その後,
れる不全型川崎病患者が約 18 %存在する.この中には
48 ~ 72 時間の解熱を確認し 1 日量として 3 ~ 5mg/kg/ 日
冠動脈瘤(いわゆる拡大を含む)が確認される例がある.
の低用量(1 回投与)に減量する.冠動脈障害がない例
3
小児の病態と臨床的特徴
においても低用量アスピリンを発症後 6 ~ 8 週まで続け
ることが一般的である(クラスⅡ a’,レベルC).
[適応]川崎病と診断され,冠動脈障害発生の可能性の
川崎病は小児期に好発する原因不明の急性熱性疾患
高い症例に対して IVIG の投与を行う(クラスⅠ,レベ
で,その病態は中型動脈を中心とした全身性の血管炎症
ル A).2009 年に 集計された第 20 回全国調査成績では,
候群である.特に冠動脈に強く血管炎が惹起され,無治
87%の急性期症例で IVIG が使用されている 198).米国の
療では約 25 %に冠動脈病変が形成される.疫学的見地
ガイドライン 205)では川崎病と診断されたすべての患者
から何らかの感染症が原因で,感染症を契機に起こった
に IVIG を投与することが推奨されている.
免疫反応によって高サイトカイン血症が引き起こされる
[用量]IVIG 2g/kg/ 日を1日,または 1g/kg/ 日を1日ま
サイトカイン関連疾患と考えられており,血管炎をより
たは2日連続で投与する.200 ~ 400mg/kg/ 日を 3 ~ 5 日
早期に終息させることが冠動脈のリモデリングを抑制し
間分割する投与法は現在ほとんど行われない.
冠動脈病変合併を抑制するために重要である 200).また
1g/kg/ 日で明らかな効果が認められた場合には2日間
人種によって罹患率が異なること,発症頻度に性差があ
の連続投与を必要としないこともある.第 21 回全国調
ること,同胞例が 1 ~ 2 %にみられること,川崎病多発
査の結果では,投与例の約 84.5%は 2g/kg/ 日単回投与を
同胞例や親子例があることなどから何らかの遺伝的素因
行っており,1g/kg/ 日× 1 日または 2 日の方法は,13.7
が発症に関与していると考えられている.近年,疾患感
%であった 198).
受性遺伝子や治療反応性に関連する遺伝子多型が報告さ
単回投与は製剤間に注入速度の若干の違いはあるが,
れている
4
201)
.
薬物療法の実際
12 ~ 24 時間かけて点滴静注し,心不全の発症および心
機能低下の増悪に十分留意し,投与速度が速すぎないよ
うに注意する.また重症度に応じて適宜増減する.投与
によるショック,アナフィラキシー様反応や,無菌性髄
1
治療目標
膜炎等の副反応に対しては十分な観察が必要である.
[禁忌]IVIG に対しショックの既往がある患者.IgA 欠
急性期川崎病治療のゴールは“急性期の強い血管炎症
損症の患者,腎障害のある患者,脳・心臓血管障害又は
状を可能な限り早期に終息させ,結果として合併症であ
その既往歴のある患者,血栓塞栓症の危険性の高い患者,
る冠動脈瘤の発症頻度を最小限にすること”である.治
溶血性・失血性貧血の患者,免疫不全患者・免疫抑制状
療は第7病日以前に免疫グロブリン(IVIG: intravenous
態の患者,心機能の低下している患者には慎重に投与す
immunoglobulin)の投与が開始されることが望ましい.
る.
初回治療薬の選択
[副作用]これまで本邦においては,IVIG が明らかにウ
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
133
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
イルス感染を起こしたという報告はないが,血液製剤で
あるためその適応と投与方法には十分な配慮が必要であ
初期治療不応例に対する治療選択
る.頻度は高くないが,投与による悪寒戦慄,ショック,
初期治療開始後 24 ~ 48 時間においても解熱せず,効
アナフィラキシー様反応,無菌性髄膜炎,溶血性貧血,
果が不十分で不応例と判断された場合,いくつかの治療
血栓塞栓症,肝障害等の副反応に対しては十分な観察が
選択肢がある.これら初期治療不応例に対する治療法に
必要である.
ついて現在さまざまな検討が行われているが,適切なラ
IVIG は安全性と有効性が高い治療法であるが,15 ~
ンダム化比較試験が行われていないため,総じてエビデ
20%は IVIG で解熱しない IVIG 不応例であり,冠動脈病
ンスレベルは低い.これまでに報告されているものには
変を合併する患者の大部分が IVIG 不応例に該当する.
下記の治療手段が挙げられる.現時点では IVIG の追加
そのため初期治療の強化を試みる臨床研究が近年複数実
投与が最も多く行われているが,各々が併用されること
施された.初回 IVIG 療法に加えてプレドニゾロン(PSL)
もある.
を最初から併用すると治療不応例と冠動脈病変合併頻度
が有意に減少することが多施設共同前方視的無作為化比
較試験で明らかとなり(クラスⅡ a,レベル B)206),さ
らに IVIG 不応予測モデル 207)を用いて定義された重症川
① IVIG の 1g/kg/ 日ないし 2g/kg/ 日(クラスⅡ a’,
レベル C)
[適応]再度 IVIG を追加することで,抵抗例の約半数に
崎病患者に対して IVIG + PSL 初期併用療法は IVIG 単独
は症状改善効果が認められるとされ,全国調査では 44
療法に比較して冠動脈病変形成阻止,治療抵抗例抑制効
%の施設がこの方法を基本としており,全症例の 16.5%
果が高いことが大規模多施設共同前方視的無作為化比較
が再投与を受けている 214).米国のガイドラインでは IVIG
試験による追試で明らかとされた(クラスⅠ b,レベル
不応例に対する治療法として 2g/kg の IVIG 再投与が第
A)208).一方,初回 IVIG にメチルプレドニゾロンパル
1選択とされている.
ス(IVMP)療法を併用する治療法は,米国での二重盲
検無作為化比較試験
209)
によって否定された(クラスⅢ,
レベル B).しかし,本邦では IVIG 不応予測例 210)に対
する初回 IVIG と IVMP の併用は,IVIG 単独の historical
control に比べ,解熱が早く冠動脈障害(CAL)合併率
も有意に少ないこと 211)が報告され,小規模の無作為化
[用量]2g/kg/ 日を1日,または 1g/kg/ 日を1日または 2
日連続で投与する.
[禁忌・副作用]前述の通りである.
②メチルプレドニゾロンパルス療法(クラスⅡ a’,
レベル C)
比較試験 212)でも治療抵抗例が少なく冠動脈拡張の程度
[適応]IVIG 初回不応例に対する IVMP の効果を IVIG
が軽度であることが報告されている(クラスⅡ a’,レ
追加と比較した場合,解熱効果は早く,CAL 合併率が
ベル B).また,IVIG に加えウリナスタチンを初期から
同等で医療費が安価 215)-217)という複数の研究がある(ク
併用すると IVIG 不応例や冠動脈病変発生頻度を減少さ
ラスⅡ a’,レベル C).三浦ら 218),219)は IVIG 追加不応例
せるという後方視的な研究結果 213)も得られている(ク
に IVMP を投与し PSL の後療法を行うことで,CAL 合
ラスⅡ a,レベル B).
併率を低値(0.9 %)にすることができると報告した.
[適応]IVIG 不応例であることが予想される重症川崎病
米国のガイドライン 205)では,IVMP は IVIG 2g/kg を 2
患者に対しては PSL を IVIG に加えて初期から併用して
回行った不応例に限定するべきであると記載されてい
もよい(クラスⅠ b,レベル A).
る.
[用量]PSL 2mg/kg/ 日を分 3 で経静脈的に投与する.解
[用量]メチルプレドニゾロン 30mg/kg を 1 日 1 回,1 ~
熱し全身状態が改善した後に経口に変更し,CRP が陰
3 日間とする報告が多い 213),215),217).IVMP の半減期が 3
性化した後に同量で 5 日間継続する.再燃の兆候がなけ
時間と短いことから終了後にプレドニゾロンの後療法
れば 1mg/kg/ 日分 2 を 5 日間,0.5mg/kg/ 日分1を 5 日間
(1 ~ 2 mg/kg/ 日で開始し 1 ~ 3 週間かけて漸減)を行う
投与後中止する 208).
報告 216),218)もある.
[副作用]ステロイド療法全般に共通するものとして,
[副作用]前述のステロイド療法全般に共通するものと
感染症,高血糖,高脂血症,電解質異常,消化性潰瘍,
IVMP 特有のものに分けられる.後者としては,味覚障
高血圧,精神障害,大腿骨頭壊死などがある.成長障害,
害,顔面紅潮,痙攣,洞性徐脈・房室ブロック・頻拍症
副腎機能抑制,骨代謝異常はないか軽微であると考えら
などの不整脈などがあげられる.
れる.
134
2
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
③プレドニゾロン療法(クラスⅡ b,レベル C)
[適応]初回 IVIG との併用療法と同様,IVIG 不応例に
対する追加治療としても PSL は有用であるといった報
抵抗例,および再燃例への一部での有効性が指摘されて
おり,不応例に対する代替治療薬の一つとして位置付け
られている 224).
[用量]小児用量は確立されていないが,5,000 単位 /kg/
もある.しかし,IVIG 不応例に対し病日が進んだ
回,3 ~ 6 回 / 日(1 回は 50,000 単位を超えない)を数日
段階で PSL を投与することは冠動脈病変形成を促進す
間使用することが多い.半減期は,30 万単位 /10mL 静
る可能性を指摘する報告 221)もある.IVIG 不応例に対す
注で 40 分である.
告
220)
るランダム化比較試験が実施されていないため,現時点
では一定の見解が得られていない.
[禁忌]ウリナスタチン製剤に対し過敏症の既往歴のあ
る患者
[用量]PSL 2mg/kg/ 日を分 3 で経静脈的に投与する.解
[副作用]重大な副作用としてアナフィラキシーショッ
熱し全身状態が改善した後に経口に変更し,CRP が陰
クがある.警告事項として,①薬剤に過敏症の既往歴の
性化した後に同量で 5 日間継続する.再燃の兆候がなけ
患者,②過敏性素因患者,③過去にウリナスタチンの投
れば 1mg/kg/ 日分 2 を 5 日間,0.5mg/kg/ 日分1を 5 日間
与を受けた患者には慎重に投与する.その他の副作用と
投与後中止する 208).
して,肝機能異常,白血球減少,発疹,掻痒感などの過
[副作用]前述の通りである.
④抗 TNF α抗体(クラスⅡ a’,レベル C)
2004 年 Weiss JE によって IVIG 不応,PSL 不応の川崎
病患者に対するインフリキシマブの有効性が初めて報告
された
222)
敏症状,下痢,血管痛,一過性 AST,ALT 上昇,好酸球
増多,注射部位の血管痛がある.
⑥シクロスポリン A 療法(クラスⅡ a’,レベル C)
[適応]2001 年に Raman ら 225)が,IVIG 不応・IMP 不応
.その後本邦でも IVIG 不応例・ステロイド不
の川崎病症例に対してシクロスポリン A(CsA)の使用
応例を中心に使用されるようになった.日本川崎病学会
経験を最初に報告した.鈴木らは 2 回の IVIG に不応で
が行った使用実態全国調査の結果では,概ね 80 %近く
あった難治性川崎病 28 例に CsA を使用し,解熱効果お
の症例に解熱効果があり,使用時期が 10 病日以前であ
よび炎症反応抑制に有効であったことを報告した 226).
れば,冠動脈瘤を形成する頻度が低いとする結果がまと
[容量]小児用量は確立されていないが,ネオーラルⓇ
められている
223)
.現在米国では IVIG 初回投与に抗 TNF
α製剤を追加する治療法の有用性を検証するため,第Ⅲ
相の臨床治験が実施中である.
[用量]インフリキシマブ 5mg/kg を 2 時間以上かけて点
滴静注する(単回投与).
[禁忌]重篤な感染症,活動性結核,過敏性症例,脱髄
疾患,うっ血性心不全の患者.
[副作用]生物学的製剤の使用における小児の安全性の
研究成果は報告が少ないが,心不全増悪,悪性腫瘍,
infusion reaction,感染症増悪が懸念される.
を経口投与 4mg/kg/ 日(目標トラフ値 60 ~ 200ng/mL)
で開始する報告が多い.容量は熱型や検査データを参考
として変更する.投与期間は解熱し CRP が陰性化する
まで,または 2 週間を目安とする.
[禁忌]CsA に対し過敏症の既往歴のある患者 ,タクロ
リムス(外用剤を除く),ピタバスタチン,ロスバスタ
チン,ボセンタン,アリスキレンを投与中の患者,肝臓
又は腎臓に障害のある患者でコルヒチンを服用中の患
者.
[副作用]CsA の一般的な副反応として,腎障害 ,肝障害・
使用注意事項:投与前に注意深い問診,家族内感染の有
肝不全,中枢神経系障害,感染症,進行性多巣性白質脳
無,BCG 接種の有無,胸部 CT や胸部レントゲン写真で
症,急性膵炎,血栓性微小血管障害,溶血性貧血・血小
の異常所見の有無等を確認することが重要である.特に
板減少,横紋筋融解症,悪性リンパ腫,リンパ増殖性疾
BCG を接種していない乳幼児への投与は細心の注意が
患,悪性腫瘍等がある.川崎病患者においては無症候性
必要である.また生ワクチン接種後は 2 ~ 3 か月以上の
の高カリウム血症を 4 割に認めたという報告がある.
間隔が必要と考えられているが定説はない.
⑤ウリナスタチン静注療法(クラスⅡ b’,レベル C)
[適応]川崎病に対して 1993 年に初めて使用が報告され
て以降
223)
⑦血漿交換療法(クラスⅡ a’,レベル C)
[適応]城らが 1983 年に川崎病における血漿交換の有用
性を報告した 227).血漿交換療法は血中の炎症性サイト
,症例報告が相次ぎ①軽症例での単独の効果,
カインやケモカインを体外に除去することによって,高
②併用による IVIG の減量効果,③ IVIG 無効例・不応例・
サイトカイン血症およびそれに付随する全身症状を平常
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
135
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
化すると考えられている.今川らは IVIG 不応例におい
血流量の増加を図ることにある.抗虚血療法と抗血栓療
て血漿交換療法は IVIG 追加療法と比較して冠動脈病変
法が主体となるが,抗虚血療法としては,以下の薬剤が
の発症頻度が優位に低いことを報告している
228)
.一方,
中心となる.
適切なブラッドアクセスの確保や低体重児への応用など
①β遮断薬:心拍数の低下,体血管抵抗の減少
技術的な困難さから実施施設は限定される.そのため
(後負荷減少)
IVIG 不応例における第1選択とはならない.
② Ca 拮抗薬:心拍数の低下,後負荷の減少,冠血流
[用量]置換液を 5%アルブミンとし,循環血漿量(BW/
量の増加
13 ×(100-Hct)× 100): BW =体重(kg),Hct =ヘマト
③硝酸薬:静脈還流量・心容積の減少(前負荷の減少),
ク リ ッ ト 値( %)) の 約 1 ~ 1.5 倍 を 交 換 量 と す る.
冠血流量の増加,後負荷の減少
Blood access としては,患児の大腿静脈,鎖骨下静脈あ
るいは外頚静脈に 6 ~ 7 Fr 小児透析用ダブル・ルーメン
2
虚血性心疾患の分類
カテーテルを留置する.施行中には主にヘパリン(開始
時 15 ~ 30U/kg 静注,その後 15 ~ 30U/kg/ 時を持続投与)
虚血性心疾患は症状および心筋壊死の有無により,狭
を 抗 凝 固 薬 と し て 使 用 し, 活 性 凝 固 時 間(Activated
心症,無痛性心筋虚血,心筋梗塞に分類される.さらに,
Clotting Time)を 180 ~ 250 秒にするようにヘパリン量
狭心症は安定(労作性)狭心症,冠攣縮性狭心症,不安
を調整する.また,患児は必要な鎮静を行いベッドにし
定狭心症などに分類される.不安定性狭心症はプラーク
っかりと固定する.
の増大,破綻により血管内腔が急激に狭小化し,そこに
[副作用]体外循環導入時のショック,ブラッドアクセ
ス挿入時の血管損傷等に注意が必要である.
血小板血栓が形成され,さらに冠動脈攣縮などの関与に
より冠血流量は減少し心筋虚血が惹起されるものをい
う.冠攣縮の合併により心筋虚血症状発生頻度が増加し,
[参考ガイドライン]
1. 川崎病急性期治療のガイドライン(2003 年).日本
循環器学会
持続時間も長くなる.不安定狭心症は急性心筋梗塞と併
せ,急性冠症候群(acute coronary syndrome: ACS)と
呼ばれる.
2. 川崎病心臓血管後遺症の診断と治療に関するガイド
ライン(2008 年改訂版).日本循環器学会
3
小児期の特殊性と問題点
3. Diagnosis, treatment, and long-term management of
Kawasaki disease: a statement for health professionals
小児期に認められる心筋虚血は川崎病後の冠動脈合併
from the Committee on Rheumatic Fever, Endocarditis,
例がほとんどで,その他,左冠動脈肺動脈起始症や冠動
and Kawasaki Disease. Council on Cardiovascular
脈瘻などの先天性冠動脈異常,完全大血管転換症の冠動
Disease in the Young, American Heart Association.(2004
脈移植術後の冠動脈有意狭窄や閉塞などの疾患において
年)
認められる.特に川崎病では冠動脈瘤が残存するとその
前後に狭窄性病変が出現し,血管内腔を狭小化させ,心
Ⅱb
虚血性心疾患の薬物療法
筋虚血が惹起される.また,冠動脈病変が残存した症例
では病変部位は勿論,退縮した部位においても血管内皮
機能の低下が認められ 229),この様な症例では冠攣縮が
惹起される可能性がある.一方,小児期には側副血行路
1
心筋虚血の定義と治療の原則
の発達が良好であり,成人で認められるような貫壁性の
心筋虚血を起こすことは極めて稀である.また,小児期
に脂質プラークの形成・破綻などを来した不安定狭心症
心筋の酸素需要に対する酸素供給が不十分となり,心
が認められたとの報告も無い.新生児・乳児期には自覚
筋が低酸素・低灌流容量に曝されている状態を心筋虚血
症状に対する表現が不十分であり,臨床的に心筋虚血を
と定義する.心筋酸素需要は心拍数,収縮能,壁応力に
見逃してしまうことがある.
依存し,心筋酸素供給は酸素運搬能,冠血流量,心筋血
流量に依存する.心筋虚血の治療の主体は心拍数を低下
させ(心仕事量の低下),前・後負荷の軽減,および冠
136
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
4
チアゼピン系のカルシウム拮抗薬がある.長時間作用型
抗虚血療法
カルシウム拮抗薬は心臓死や非致死性心筋梗塞発症など
の心事故を増加させない.但し,うっ血性心不全や,房
1
室ブロックがない場合に限られる.特に,成人領域では
安定
(労作性)狭心症に対する治療
ベニジピンが冠攣縮性狭心症の患者生命予後を改善した
心筋酸素消費量を低下させることが治療の主体とな
と報告されている 235).ベニジピンは他のカルシウム拮
る.β遮断薬はカテコラミンや交感神経活動による β1 受容体
抗薬に比し,有意に冠血管への選択性が高く 236),また
の刺激を遮断して心拍数の減少,心収縮力の低下をもた
抗酸化作用も有し 237),NO の産生増加による心血管保護
らし,心臓の仕事量を軽減させる作用を有する.さらに,
作用も高い 238).長時間作用型カルシウム拮抗薬を使用
心拍数低下にともない拡張期が延長し,特に左冠動脈血
した症例の投与を中止した場合にはリバウンド現象が起
流量が増加する.以上より,β遮断薬が第一選択薬と
こることがあり,減量・中止の際には段階的に減量し中
なる.必要に応じて硝酸薬,ニコランジルの併用療法を
止することが重要である.なお,小児の適応はない.(ク
行う.
2
ラス IIb,小児でのエビデンスはない)(表 9)
[用量]
冠攣縮性狭心症に対する治療
成人の使用量を記載する.なお,小児薬用量は成人量
冠攣縮とは,心臓の表面を走行する比較的太い冠動脈
より体重換算にて求め使用する.いずれも経口投与であ
が一過性に異常に収縮した状態と定義される.冠攣縮に
る.
よりほぼ完全に冠動脈が閉塞されると貫壁性の虚血が生
じ,心電図上 ST 上昇を伴う狭心発作が生じる.一方,
●短時間作用型カルシウム拮抗薬:
不完全に閉塞されたり,側副血行路が発達していたりす
・ アダラート,セパミット : 1 回 10mg を 1 日 3 回
る場合には非貫壁性の虚血が生じ,ST 低下を伴った狭
・ ベルベッサー : 1 回 10mg を 1 日 3 回
心発作が生じる.冠攣縮狭心症は欧米人に比し日本人で
●長時間作用型カルシウム拮抗薬
多く 230),冠攣縮性狭心症確定例と疑い例を冠攣縮性狭
・ セパミット -R,アダラート L: 1 回 20mg を 1 日 2 回
心症と診断する.なお,その診断基準は日本循環器学会
・ アダラート CR: 1 回 40mg を 1 日 1 回
ガイドライン「冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガ
・ アムロジン : 1 回 5mg を 1 日 1 回与
イドライン」に準拠し 231),確定例および疑い例に対し
・ コニール : 1 回 4mg を 1 日 2 回
治療を行う.冠攣縮の治療薬の主たる作用機序は血管平
[禁忌]
滑筋の弛緩作用であり,カルシウム拮抗薬が中心となり,
妊娠またはその可能性がある場合,心原性ショック,
必要に応じて硝酸薬,ニコランジルを併用する.
急性心筋梗塞,本剤に薬剤過敏の既往がある場合などが
3
禁忌である.
抗虚血薬各論
[副作用(有害事象)]
めまい,ほてり,眩暈・ふらつき,動悸,顔面紅潮,
①カルシウム拮抗薬
頭痛などの循環器症状,悪心・嘔吐などの消化器症状が
[適応]
認められる.しかしいずれも数%以下である.
カルシウム拮抗薬は血管平滑筋細胞への Ca 流入を
++
抑制し,冠攣縮の予防に有用である.成人領域において
は冠攣縮性狭心症の第一選択薬とされている
232)
.また,
内服により冠攣縮性狭心症の生命予後も良好となる
233)
.
川崎病の心筋梗塞は安静時または睡眠時にも発症してお
り,冠攣縮を合併していると考えられる場合がある
234)
.
[使用上の注意事項]
投与を急に中止したときに症状が悪化することがあ
り,休薬する場合には徐々に減量すること.降圧作用に
基づくめまい等が出現することがあるので,高所での作
業,自動車運転等危険を伴う機械を操作する際には注意
させる.
一方,乳児期に冠攣縮が起こっているとする報告は無い
生後数か月以内の新生児・乳児に対する使用は禁忌と
が,生後数ヶ月間は心筋細胞内の筋小胞体は未発達であ
するべきである.
り,細胞内 Ca 濃度は心筋細胞膜 Ca チャンネルを介
++
++
しての Ca++ 流入に依存しており,カルシウム拮抗薬は
禁忌と考えるべきである.ジヒドロピリジン系とベンゾ
②硝酸薬
[適応]
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
137
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
表 9 カルシウム拮抗薬の一覧 (成人の使用量を記載する.なお,小児薬用量は成人量より体重換算にて求め使用する)
一般名
ニフェジピン
ニフェジピン徐放剤
塩酸ジルチアゼム
商品名
作用機序
剤形
適応
投与経路・用量・
用法
セパミット
ジヒドロピリジン系
Ca ++拮抗薬:Ca ++
の血管平滑筋細胞お カプセル
よび心筋細胞内への
流入を抑制
同上
錠剤
アダラート CR
同上
錠剤
アダラート L
同上
錠剤
セパミット⊖ R
同上
細粒,カプセル
同上
ヘルベッサー
ベンゾチアゼピン系
Ca ++拮抗薬
錠剤
狭 心 症:1 回 30mg
狭心症,
異型狭心症,
を 1 日 3 回経口投与
本態性高血圧
(成人)
アダラート
狭 心 症:1 回 10mg
本態性高血圧症,腎
を 1 日 3 回経口投与
性高血圧症,狭心症
(成人)
同上
同上
高血圧,腎実質性高
狭 心 症:1 回 40mg
血圧,腎血管性高血
を 1 日 1 回経口投与
圧,狭心症,異型狭
(成人)
心症
狭 心 症:20mg を 1
同上
日 2 回経口投与(成
人)
狭 心 症:1 回 20mg
を 1 日 2 回経口投与
(成人)
ベシル酸アムロジピン アムロジン
ジヒドロピリジン系
錠剤
Ca ++拮抗薬
高血圧症,狭心症
狭心症:1 回 5mg を
1 日 1 回経口投与
(成
人)
ベニジピン
同上
高血圧症,腎実質性
高血圧症,狭心症
狭心症:1 回 4mg を
1 日 2 回経口投与
(成
人)
コニール
錠剤
硝酸薬は NO を放出させ,グアニル酸シクラーゼを活
がない場合には約 5 分後に再度の舌下または噴霧を行
性化し,細胞内 cGMP を増加させ,動脈・静脈ともに血
う(成人例).小児では体格に合わせ 1/2 ないしは 1/3
管拡張作用を発揮する.さらに,硝酸薬は NO を介して
錠の舌下投与を行う.
.その結果,ミオシン軽
・ ニトログリセリン : 1 錠舌下投与.効果がない場合に
鎖のリン酸化が抑制され血管平滑筋が弛緩し血管が拡張
は約 5 分後に再度 1 錠舌下する(成人例).小児では
Rho kinase の活性化を抑制
239)
する.動脈の拡張に伴い血圧は低下し,後負荷は減少し
体格に合わせ 1/2 ないしは 1/3 錠の舌下投与を行う.
酸素需要を減少させる.また,静脈の拡張に伴い右室前
●発作予防:
負荷は減少し,酸素需要を減少させる.労作時狭心症,
・ 長時間作用型硝酸薬が有効である.ただし,継続的使
冠攣縮性狭心症の発作時および発作予防に適応となる.
発作時にはニトログリセリンや硝酸イソソルビドの舌
下,または口腔内スプレーが有効でさらに発作予防には
用により耐性を生じることがあるので注意する.
・ ニトロール R: 1 日 20mg を 1 日 2 回経口投与
[禁忌]
長時間作用型硝酸薬が有用である.なお,小児の適応は
重篤な低血圧症または心原性ショックのある患者,閉
ない.
(クラス IIb,小児でのエビデンスは無い)
(表 10)
塞隅角緑内障の患者,頭部外傷または脳出血のある患者,
[用量]
高度の貧血がある患者,硝酸・亜硝酸エステル系薬剤に
成人の使用量を記載する.なお,小児薬用量は成人量
過敏症の既往のある患者,PDE5 阻害薬を投与中の患者
より体重換算にて求め使用する.
などへの使用は禁忌となる.
[副作用]
138
●発作時:
熱感・潮紅・めまい・血圧低下・動悸・失神などの循
・ 硝酸イソソルビド : 1 錠舌下投与または 1 噴霧.効果
環器症状が 0.1%未満認められる.また,頭痛・胃部不
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
作用発現時間
10mg 経口投与:
1 時間後
経口摂取 3 時間後
最大血中濃度
血中半減期
主な副作用
注意事項・禁忌
本剤に過敏症の既往がある患
顔 面 紅 潮(1.23 %)
,頭痛
10mg 経 口 投 与 時: 10mg 経口投与時:1.03
者,妊娠またはその可能性の
(0.93%)
,
めまい(0.61%)
132.4±23.68ng/mL ± 0.11 時間
ある場合,心原性ショック,
など
急性心筋梗塞の患者には禁忌
10mg 経 口 投 与 時: 10mg 経口投与時:3.51
26.1 ± 2.2ng/mL
± 0.6 時間
60mg 経 口 投 与 時: 60mg 経 口 投 与 時: 60mg 経 口 投 与 時: 約
3 ⊖ 5 時間
50ng/mL
4.5 時間
2.5mg 経口投与時: 2.5mg 経口投与時: 2.5mg 経口投与時:36.5
5.6 ± 1.0 時間
1.23 ± 0.26ng/mL
± 4.2 時間
4mg 経 口 投 与 時: 4mg 経 口 投 与 時: 4mg 経 口 投 与 時:1.7 ±
0.8 ± 0.3 時間
2.25 ± 0.84 ng/mL
0.7 時間
同上
頭 痛・ 頭 重 感(2.77 %),
顔 面 紅 潮・ 顔 の ほ て り
(2.26 %)
, 動 悸(1.31 %)
など
顔面紅潮
(1.20%)
,めまい
(0.7 %), 頭 痛(0.66 %)
等
ほてり・のぼ(0.6%)
,動
悸(0.29 %), 顔 面 紅 潮
(0.25%)
,下肢浮腫・下腿
浮腫・浮腫(0.16%)
,悪心・
嘔 吐(0.19 %), め ま い
(0.16%)等
め ま い(0.5 %),徐 脈(0.4
%),顔面紅潮(0.2%),房
室 ブ ロ ッ ク(0.2 %), 消 化
器(1.4%)など
ほてり
(0.8%)
,眩暈・ふら
つき(0.7%)
,頭痛・頭重
(0.6%)
,動悸(0.3%)な
ど
動 悸(0.5 %)
,顔面紅潮
(0.5 %)
, 頭 痛(0.4 %)
,
肝機能障害,など
同上
同上
同上
同上
妊娠またはその可能性のある
場合には禁忌
心原性ショックの患者,妊娠また
はその可能性のある場合には
禁忌
快感なども 0.1%未満認められる.貼付薬による接触性
予後を悪化させることがあり注意を要する 235).カルペ
皮膚炎は数%に認められる.
ジロールはα1 遮断効果を有する非選択性β遮断薬であ
[使用上の注意事項]
り,冠動脈の末梢抵抗を減少させ冠血流量を増加させ
急に投薬を中止することにより症状の悪化が危惧され
る 241).冠攣縮性狭心症にβ遮断薬を使う際にはカルシ
るため,徐々に投与量を減じる.ただし,過度の血圧低
ウム拮抗薬,硝酸薬の併用が推奨される.なお,小児の
下が起こった場合には,直ちに本剤の投与を中止し,昇
適応は無い.
(クラス IIb,小児でのエビデンスはない)
(表
圧剤の投与等,必要な処置を行う.起立性低血圧を起こ
11)
すことがあるので注意する必要がある.
③β遮断薬
[適応]
[用量]
成人の使用量を記載する.なお,小児薬用量は成人量
より体重換算にて求め使用する.
・ テノーミン : 1 回 50mg を 1 日 1 回
安定労作性狭心症の第一選択薬はβ遮断薬である.
・ メインテート:1 回 5mg を 1 日 1 回
心臓以外の臓器副作用を軽減するためにβ1 選択性遮断
・ セロケン:1 日 60 ~ 120mg を 2 ~ 3 回に分割
薬が有効.心筋の仕事量を減少させ酸素消費量を抑制す
・ アーチスト:1 回 1.25mg を 1 日 2 回より開始し,段階
るとともに,拡張期延長に伴い冠血流量を増加させて心
筋虚血の発生を予防する.アテノロール,ビソプロロー
的に増量
[禁忌]
ル,メトプロロールが有用である 240).但し,冠攣縮が
気管支喘息・気管支痙攣のある患者,糖尿病性ケトア
存在すると考えられる状況ではα受容体作用が優位と
シドーシス・代謝性アシドーシスがある患者,心原性シ
なり,冠トーヌスを亢進させ冠攣縮性狭心症を増悪させ,
ョックの患者,高度の徐脈,非代償性の心不全患者,強
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
139
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
表 10 硝酸薬の一覧 (成人の使用量を記載する.なお,小児薬用量は成人量より体重換算にて求め使用する)
一般名
商品名
ニトロール
ニトロール R
同上
カプセル
フランドル
同上
錠剤,テープ
ニトロペン
同上
錠剤
ミリスロール
同上
注射剤
ニトロダーム TTS
同上
貼付剤
ミニトロ
同上
テープ
ミリステープ
同上
貼付剤
適応
狭心症発作の寛解
投与経路・用量・
用法
1回1噴霧
(1.25mg)
,
効果不十分の場合に
は1回1噴霧追加(成
人 ),1 回 5 ~ 10mg
を1日3~4回 経 口
又は舌下投与
(成人)
狭心症,
心筋梗塞(急 1 回 1 カ プ セ ル を 1
性期を除く),その 日 2 回経口投与(成
他虚血性心疾患
人)
1 回 1 枚(硝酸イソソ
ルビドとして40mg)
同上
24-48 時間後に貼り
かえる(成人)
狭 心 症:1 ~ 2 錠 を
狭心症,心筋梗塞,
舌下投与.数分後に
心臓喘息,アカラジ
1 ~ 2 錠追加可能
(成
アの一時的緩解
人)
不 安 定 狭 心 症:0.1
手術時の低血圧維
~ 0.2 μ g/kg/ 分 で
持,手術時の異常高
開始し,約 5 分ごと
血圧の救急処置,急
に0.1~0.2μ g/kg/
性心不全,不安定狭
分ずつ増量し,1 ~
心症
2 μ g/kg/ 分で維持
1 日 1 回 1 枚(25mg)
貼付,効果不十分の
狭心症
場 合 は2枚 に 増 量
(成人)
1 日 1 回 1 枚(27mg)
貼付,効果不十分の
狭心症
場 合 は2枚 に 増 量
(成人)
1 回 1 枚(5mg) を
狭心症,急性心不全
1 日 2 回, 症 状 に よ
(慢性心不全の急性
り適宜増減する(成
増悪期を含む)
人)
心薬又は血管拡張薬を静脈内に投与する必要のある心不
には徐々に減量する.手術前 48 時間は投与しないこと
全患者,肺高血圧による右心不全がある患者,うっ血性
が望ましい.めまい,ふらつきが現れることがあるので,
心不全のある患者,妊娠またはその可能性がある場合,
本剤投与中の患者(特に投与初期)には,自動車の運転
β遮断薬に対する薬剤過敏の既往がある患者には使用禁
等危険を伴う機会の作業に注意させる.
忌となる.
[副作用]
徐脈,めまい・ふらつきなどの循環器症状が 1%以下
④ニコランジル
[適応]
認められる.その他,倦怠感,悪心・嘔吐,頭痛,肝機
ニコランジルはニコチン酸アミド誘導体であり,血管
能障害などが 0.5%以下に認められる.
平滑筋細胞の ATP 感受性 K+ チャンネルを活性化し細胞
[使用上の注意事項]
140
剤形
NO を放出させ,グ
アニル酸シクラーゼ
を活性化し,細胞内
cGMPを増加させる.
さらに,NO を介し 錠剤,注射剤,ス
て Rho kinase の活性 プレー
化を抑制し,ミオシ
ン軽鎖のリン酸化が
抑制され,血管拡張
作用を発揮する
硝酸イソソルビド
ニトログリセリン
作用機序
内への Ca++ 流入抑制,筋小胞体からの Ca++ 放出の抑制,
長期投与の場合には定期的に心機能のチェックを行
cGMP 増加による細胞外への Ca++ 汲み出しの促進などに
う.本剤使用中の狭心症の患者で急に投薬を中止した際
より,冠動脈拡張と抗冠攣縮作用を有する 242),243).カル
に心筋梗塞を起こすことがあるので,休薬を要する場合
シウム拮抗薬に抵抗性の冠攣縮性狭心症に対してカルシ
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
作用発現時間
硝酸イソソルビド
2.5mg(2 回口腔内
噴霧)噴霧時:7.7
± 0.9 分
硝酸イソソルビド
5mg 経口:25.6 分
最大血中濃度
血中半減期
主な副作用
注意事項・禁忌
重篤な低血圧症または心原性
ショックのある患者,閉塞隅
角緑内障の患者,頭部外傷ま
硝酸イソソルビド
熱感・潮紅・めまい・血圧
たは脳出血のある患者,高度
2.5mg 噴霧時:36.5 硝酸イソソルビド 2.5mg
低下・動悸・失神(0.1%
の貧血がある患者,硝酸・亜
± 4.2ng/mL
噴霧時:α相 7.5 分,β
未満),頭痛・発疹・胃部
硝酸エステル系薬剤に過敏症
硝 酸 イ ソ ソ ル ビ ド 相 55.2 分
不快感など(0.1%未満)
の既往のある患者,PDE5 阻
5mg経口:5.8ng/mL
害作用を有する薬剤を投与中
の患者
20mg 経 口 投 与 時: 20mg 経 口 投 与 時:
3.5 ± 0.50 時間
2.7 ± 0.14ng/mL
同上
同上
硝酸イソソルビド 硝 酸 イ ソ ソ ル ビ ド
40mg 貼 付:12 時 40mg 貼 付:2.60 ±
間
0.2 ng/mL
接 触 性 皮 膚 炎(5.15 %),
頭痛(0.98%),血圧低下 同上
(0.19%)
ニ ト ロ ペ ン1錠 舌 ニ ト ロ ペ ン1錠 舌
下:4 分
下:1.3 ng/mL
脳貧血,血圧低下,熱感,
潮紅,動悸,めまい,頭痛,
同上
失神,悪心・嘔吐,尿失禁
(いずれも 0.1%未満)
血圧低下(1.6%)
,頻脈(1.1
%)
,頭痛・頭重(0.4%)
, 同上
など
め ま い, 頭 重, 血 圧 低 下,
動悸,浮腫,発疹,接触性
同上
皮膚炎(いずれも 0.1%未
満)
1 枚貼付時:0.44 ±
0.25 ng/mL
頭痛(10.7%),頭重(2.5
%)
,発赤(13.5%)
,発疹 同上
(2.8%)
1 枚貼付時:約 1 時 1 枚貼付時:0.3ng/
間
mL
動悸,血圧低下,めまい,
起立性低血圧,頭痛,頭重,
同上
悪心・嘔吐(いずれも 0.1
%未満)
1 枚 貼 付 時:3.6 ±
0.8 時間
ウム拮抗薬との併用療法,さらに,低血圧,徐脈を伴う
冠攣縮性狭心症にも有用である.また,ニコラジルはミ
倦怠感(0.12%)など.
[使用上の注意事項]
トコンドリアに作用して心筋虚血のプレコンデイショニ
投与開始時には血管拡張作用による拍動性の頭痛を起
ング様作用を発揮する.小児の適応は無い.(クラス
こすことがあり,減量または中止する.
IIb,小児でのエビデンスはない)
(表 11)
[用量]
成人の使用量を記載する.なお,小児薬用量は成人量
4
抗血栓療法
(小児の抗血小板薬,抗凝固薬,血栓溶解薬の項を参照)
より体重換算にて求め使用する.
・ シグマート : 1 回 5mg を 1 日 3 回 経口投与
[禁忌]
PDE5 阻害薬を投与中の患者に対しては使用禁忌
[副作用(有害事象)]
頭痛(3.6%),嘔気・嘔吐(0.44%),めまい(0.15%),
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
141
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
表 11 ニコランジルおよびβ遮断薬の一覧 (成人の使用量を記載する.なお,小児薬用量は成人量より体重換算にて求め使用する)
一般名
商品名
作用機序
剤形
適応
投与経路・用量・
用法
ニコランジル
シグマート
血管平滑筋細胞の
ATP 感 受 性 K + チ ャ
ンネルを活性化し冠 錠剤,注射剤
動脈拡張作用と抗冠
攣縮作用を発揮する
アテノロール
テノーミン
β受容体遮断薬
錠剤
狭 心 症:1 回 50mg
本態性高血圧症,狭
を 1 日 1 回経口投与
心症,頻脈性不整脈
(成人)
ビソプロロール
メインテート
同上
錠剤
本態性高血圧症,狭 狭心症:1 回 5mg を
心症,心室性期外収 1 日 1 回経口投与
(成
縮
人)
メトプロロール
セロケン
同上
錠剤
本態性高血圧症,狭
心症,頻脈性不整脈
カルベジロール
アーチスト
β並びにα 1 受容体
錠剤
遮断薬
狭心症
1 回 5mg を 1 日 3 回
経口投与(成人)
狭 心 症:1 日 60 ~
120mg を 2 ~ 3 回 に
分割経口投与
(成人)
虚血性心疾患:1 回
1.25mg を 1 日 2 回
虚血性心疾患,慢性
食後経口投与より開
心不全
始し,段階的に増量
する(成人)
血小板療法に対するエビデンスは皆無に近いため,限ら
Ⅱc
抗血小板薬,抗凝固薬,血栓溶解薬
れた情報と経験に基づき個々の施設で独自の方法が選択
されているのが現状であり,ガイドライン作成において
ランク付けされたエビデンスを添付することは極めて困
難な状況にある.本ガイドラインの作成に際しては日本
1
序文
循環器学会が策定している循環器疾患における抗凝固・
抗血小板療法に関するガイドライン(2009 年改訂版)244)
の小児領域の分野(2003 年に施行されたアンケート調
142
小児を対象に抗凝固・抗血小板療法を行う場合は,小
査によるデータベースをエビデンス情報の一つとしてい
児の止血生理の特異性を理解し,成長発達の過程にある
る),川崎病心臓血管後遺症の診断と治療に関するガイ
ことや新生児から思春期まで体格や体重に幅があること
245)
ドライン(2008 年改訂版)
,心房細動治療(薬物)ガ
を考慮する.小児の循環器疾患を対象とした抗凝固・抗
イ ド ラ イ ン(2008 年 改 訂 版 )246)を も と に,American
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
作用発現時間
最大血中濃度
血中半減期
主な副作用
注意事項・禁忌
シグマート 10mg 単 シグマート 10mg 単
頭痛(3.6%)
,嘔気・嘔吐
シグマート 10mg 単回投
PDE5 阻害作用を有する薬剤
回 投 与 時:0.55 ± 回投与時:152.3 ±
(0.44 %)
, め ま い(0.15
与時:0.75 時間
を投与中の患者
0.12 時間
29.1 ng/mL
%)
,倦怠感(0.12%)
50mg 服薬時:
3.8 ± 0.4 時間
50mg 服薬時:
159.8 ± 54.6 ng/mL
50mg 服薬時:
10.8 ± 2.7 時間
5mg 単回投与時:
3.1 ± 0.4 時間
5mg 単回投与時:
23.7 ± 1.0ng/mL
5mg 単回投与時:
8.6 ± 0.3 時間
40mg 単回投与:
1.9 時間
40mg 単回投与:
41.8ng/mL
40mg 単回投与:
2.8 時間
5mg 単回投与:
0.6 ± 0.1 時間
5mg 単回投与:
13.5 ± 2.3 ng/mL
5mg 単回投与:
1.95 ± 0.39 時間
本剤に過敏症の既往がある場
合,糖尿病性ケトアシドーシ
ス・代謝性アシドーシスがあ
,心拍数心
徐脈(1.57%)
る場合,心原性ショックの患
リズム障害(1.69%),め
者,肺高血圧による右心不全
ま い な どの 中 枢 神経 障 害
がある患者,低血圧の患者,
(0.84%)
,倦怠感(0.65%)
重度の末梢循環障害のある患
者,未治療の褐色細胞腫の患
者
高 度 の 徐脈・ 房 室 ブ ロ ッ ク
(Ⅱ,Ⅲ度)・洞房ブロック・
洞不全症候群の患者,糖尿病
徐脈(1.01%)
,
めまい(0.2 性ケトアシドーシス・代謝性
%)
,倦怠感(0.19%)
,肝 アシドーシスがある患者,心
機能障害(0.18%)
,ふら 原性ショックの患者,肺高血
圧による右心不全がある患
つき(0.14%)
者,うっ血性心不全のある患
者,妊娠またはその可能性が
ある場合
徐脈(1.2%)
,めまい・ふ
らつき(0.59%)
,倦怠感
(0.31%)
,
悪心・嘔吐(0.26 同上
%),頭痛(0.25%)
,肝機
能障害(0.15%)
気管支喘息・気管支痙攣のあ
る患者ある患者,糖尿病性ケ
トアシドーシス・代謝性アシ
ドーシスがある患者,心原性
高度の徐脈,
めまい(1.6%)
,全身倦怠 ショックの患者,
, 非代償性の心不全患者,強心
感(0.8%)
,眠気(0.8%)
頭痛(0.6%)
,
徐脈(0.6%)
, 薬又は血管拡張薬を静脈内に
喘息様症状(0.2%)
投与する必要のある心不全患
者,肺高血圧による右心不全
がある患者,うっ血性心不全
のある患者,妊娠またはその
可能性がある場合
College of Chest Physicians(ACCP)の新生児と小児に
る.近年,経口抗トロンビン阻害薬や合成 Xa 阻害薬な
おける抗血栓療法のガイドライン(2008 年改訂版)
どが次々と開発された.これらは薬効のモニタリングの
247)
を参考にした.またこれまでに行われた前方視的な無作
必要性がなく一定の抗凝固効果が得られる利点があり,
為化比較試験でエビデンスとなる論文を検索し,小児循
今後循環器疾患にも適応が拡大することが期待されてい
環器疾患を対象とした抗凝固・抗血小板療法の適応指針
を作成した. る.現在わが国で保険適応による使用が可能な抗血栓薬
(抗血小板薬,抗凝固薬,血栓溶解薬)を表 12 ~ 14 に
急性心筋梗塞やアテローム血栓性血栓などの動脈血栓
示す.
の治療の主体は抗血小板薬であり,深部静脈血栓症や心
抗血栓療法を行う場合には,出血性合併症の危険性を
房細動時の左房内血栓などの静脈血栓の治療の主体は抗
常に考慮する.個々の症例に関して抗血栓療法を行うか
凝固薬が主体となる.小児に抗血栓療法を行う場合,定
否かは,本ガイドラインの推奨の有無にかかわらず,十
期的かつ確実な内服が困難であること,頻回の薬効モニ
分なインフォームドコンセントのもとに個別に決定され
タリングが困難であることなど小児特有の問題が生じ
るべきであり,ガイドラインの推奨を一律に全ての症例
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
143
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
に適応すべきでない.近い将来,我が国でも小児を対象
~ 50mg/kg/ 日,分 3)投与が一般的な治療法として推奨
としたレベルの高いエビデンスが数多く創出され,エビ
されている.診断時に肝機能障害を認める場合やアスピ
デンスと経験の蓄積に基づいたガイドラインの改訂がな
リン使用中に肝機能障害が出現した場合は,代替薬とし
されることを期待する.
てフルルビプロフェンを用いる.小児では 3 ~ 5mg/kg/
2
日,分 3 が一般的な用法・用量である.
各種疾患に対する抗凝固・抗
血小板療法
急性期以降は冠動脈障害のない症例においても概ね
川崎病
年にわたって血小板機能が亢進した状態が持続するため
3 か月間低用量アスピリン 3 ~ 5mg/kg/ 日,分 1 を投与す
る.これは,発症後 3 か月間程度,まれには数か月~ 1
1
である 248)-251).イブプロフェンや他の非ステロイド性
抗炎症薬の併用はアスピリンの効果を妨害する可能性が
<推奨>
1. 急性期の有熱時には中等量のアスピリン(30 ~
50mg/kg/ 日,分 3)を投与し,解熱後には低用量
あるため,これらの薬剤は避ける.
②冠動脈病変を伴った患者における抗血栓療法
アスピリン(3 ~ 5mg/kg/ 日,分 1)を投与する(ク
冠動脈病変を伴った川崎病患者における血栓予防のエ
ラスⅠ , レベル C).
ビデンスとなりえる前方視的なデータはない.よって推
2. 急性期を過ぎても(回復期),低用量アスピリン(3
奨は病態生理学的知識や川崎病の小児における後方視的
~ 5mg/kg/ 日,分 1)を 2 ~ 3 か月間投与する(ク
な症例検討,冠動脈疾患をもった成人の経験からの推定
ラスⅠ , レベル C).
に基づいている.
3. アスピリンの投与が禁忌の症例では急性期にフ
冠動脈瘤を形成した症例では,瘤のサイズに関わらず
ルルビプロフェン(3 ~ 5mg/kg, 分 3 経口投与 )
抗血小板薬を継続して投与する必要があり,低用量アス
を投与する(クラスⅡ a’,レベル C).
ピリンの投与が標準的治療である.一方,抗凝固薬の適
4. アスピリン治療期間中,イブプロフェンや他の
応は,中等~巨大冠動脈瘤形成例,急性心筋梗塞既往例,
非ステロイド性抗炎症薬を併用しない(クラス
瘤内の血栓形成疑い例などに限られる.巨大冠動脈瘤に
Ⅱ a’,レベル C)
おける血栓形成の予防にはアスピリンなどの抗血小板薬
5. 冠動脈病変の存在する症例には低用量アスピリ
のみでは不十分であり,ワルファリンの併用が必須であ
ン 3 ~ 5mg/kg/ 日,分 1 の投与を継続する(クラ
る.低用量アスピリンとワーファリン併用療法の有用性
スⅠ,レベル C).さらに冠動脈病変の重症度に
は多く報告されており,コンセンサスの得られた抗血栓
よって,低用量アスピリンとワルファリンの併
療法の Regimen である.日本循環器学会(JCS)の川崎
用や,低用量アスピリンと硫酸クロピドグレル,
塩酸チクロピジンやジピリダモールなどの抗血
小板薬の併用を考慮する(クラスⅡ a’,レベル C)
6. 巨大冠動脈瘤を伴った症例では低用量アスピリ
ンとワルファリンを併用する(クラスⅡ a’,レ
ベル C).
7. 心筋梗塞発作時には経皮的冠動脈内血栓溶解療
病心臓血管後遺症の診断と治療に関するガイドライン
220)
(2008 年改訂版)
では,重症度 - Ⅲ(regression 群:30
病日に動脈瘤を残すが,発症後 1 年以内に完全に正常化
し,かつ狭窄性病変を残さないもの)ではアスピリン,
ジピリダモールを用い,重症度に応じて塩酸チクロピジ
ンを加える.重症度 - Ⅳ(冠動脈瘤の残存群:1 年以上
経ても冠動脈造影で冠動脈瘤を認めるが,狭窄病変のな
法や抗凝固療法の継続を考慮する(クラスⅡ a’,
いもの),重症度 - Ⅴ(冠動脈造影検査で狭窄病変を認
レベル C).
めるもの)ではワルファリンを加える(表 15,図 13).
2004 年の AHA のガイドラインでも巨大冠動脈瘤例や狭
①急性期の抗血栓療法
144
窄性病変の合併例に対する血栓予防の最も一般的な治療
は,アスピリンとワルファリンの併用である(レベル
アスピリンの投与量は,海外では急性期の 14 日間ま
C)252).
で 高 用 量(80 ~ 100mg/kg/ 日 ) 投 与 が 推 奨 さ れ て い
わが国の多施設共同研究として巨大冠動脈瘤例に対し
る 247).我が国でもガンマグロブリン療法が開始される
てワルファリンとアスピリンを 3 か月以上併用している
以前は高用量投与が行われていたが,現在は中等量(30
83 例を対象に後方視的に検討を行った結果,心イベン
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
ト回避率(臨床的心筋梗塞あるいはそれを防ぐための冠
した血栓予防が行われているのが現状であろう.
動脈内血栓溶解療法を心イベントとする)は 1 年の時点
血栓塞栓症の既往がある症例に関してはワルファリン
で 92.5 %,10 年で 91 %と良好な成績が得られており,
の投与を行うべきである.また,先天性心疾患の中でも
巨大冠動脈瘤例でのアスピリンとワルファリンの併用療
血栓形成傾向の強い循環動態である Fontan 型手術後,
法は出血の合併症を伴う危険性はあるものの心イベント
またはチアノーゼを呈する病態,弁膜性,そして成人年
)
を抑制するのに有用である 240(クラスⅡ
a, レベル C).
齢に達した場合などに心房細動が確認された場合には発
アスピリン・ワルファリン併用療法の期間については,
作性,持続性を問わずワルファリン療法(PT-INR1.6 ~
現在のところ一定した見解はない.
2.5 を目標とするが,出血傾向のある時は調整する),ま
③急性心筋梗塞に対する再灌流療法 245)
たはアスピリンの追加を行う.心房性不整脈の有無にか
かわらず Fontan 型手術後全例にワルファリンを投与し
できるだけ早期に再灌流に向けた血栓溶解療法あるい
ている施設ではそのまま継続している.Fontan 型手術後
は冠動脈インターベンションを開始することが急性期治
でも,成人年齢に達しておらず,運動能良好,Fontan 回
療として重要である.しかし,小児に対するエビデンス
路内の圧上昇がみられず,血栓もない場合には,心房細
レベルの高い研究はなく,長期的な予後も不明である.
動あるいは心房粗動が反復しない限り,アスピリン単独
また,小児に対する薬剤投与量の基準は定まっていない
もしくは他の抗血小板薬との併用で経過観察することも
ため,投与に際しては症例ごとに慎重に判断する必要が
あるが,その場合には血栓症の危険についての十分な説
ある.血栓溶解療法の合併症として,カテーテル挿入部
明が必要である.
位の皮下出血,脳出血,再灌流不整脈に注意する.
本邦の成人領域のガイドラインでは,心房細動に対し
2
心房細動などの不整脈に対する血
栓予防
て塞栓症のリスクに応じた抗凝固療法が推奨されてお
り 253)-258)小児ではこのような塞栓症のリスクに関する
エビデンスはないが,脳梗塞など血栓塞栓症の既往のあ
る患者,僧帽弁狭窄,人口弁(機械弁)置換術後の患者
<推奨>
は,成人同様に血栓塞栓症の高リスクと考えられる.ま
1. 血栓塞栓症の既往のある症例にはワルファリン
た,心不全または左室収縮力低下を伴う場合やチアノー
の投与を行う(クラスⅠ,レベル B)
2. 人口弁(機械弁)置換術後の患者にはワルファ
リンの投与を行う(クラスⅠ,レベル B)
3. Fontan 手術後に心房細動を伴い,Fontan 回路内
ゼに呈する病態,高血圧や糖尿病を合併する場合,そし
て成人年齢に達した場合には血栓塞栓症のリスクが高く
なるため,適切な抗血栓療法(ワルファリン療法のみ,
またはアスピリンを追加)を行うことが推奨される.
に血栓が認められた場合には禁忌がない限り線
心房細動以外に血栓塞栓症が問題となるものには,心
溶療法を行う(クラスⅠ,レベル C)
房粗動,洞不全症候群,ペースメーカ治療後,各種不整
4. Fontan 手術後や弁膜性の心房細動の症例にはワ
ルファリン投与あるいはワルファリンにアスピ
リンの追加を行う(クラスⅡ b,レベル C)
5. 僧帽弁狭窄,心不全または左室収縮力低下を伴
脈に対する高周波アブレーション後があるが,小児にお
いて抗血栓療法を推奨できるエビデンスはない.
3
弁置換後
う場合やチアノーゼを呈する病態,高血圧や糖
尿病の合併,成人年齢に達した場合には血栓塞
<推奨>
栓症のリスクが高くなるため,適切な抗血栓療法
1. 小児における弁置換後のワルファリンによるコ
(ワルファリン療法のみ,またはアスピリンの併用)
の開始を考慮する.
(クラスⅡ b,レベル C)
ントロールは,わが国の成人領域のガイドライ
ンに準じて ACC/AHA のガイドラインよりも低
めの PT-INR コントロール値の設定が望ましい.
成人と異なり小児では特発性心房細動は稀な疾患であ
り,多くは先天性心疾患術後の合併症として生じる.そ
(表 15 参照)1)
(クラスⅠ,レベル B)
2. 人工弁置換術術後(3 か月未満)の症例ではワル
のため小児の心房細動などの不整脈に対する血栓予防に
ファリンによる抗凝固療法を行い,PT-INR を 2.0
関するエビデンスレベルの高い研究は存在せず,多くの
)
~ 3.0 にコントロールする.(表 16 参照)244(ク
施設で成人のエビデンスや海外のガイドラインを参考に
ラスⅠ,レベル B)
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
145
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
表 12 抗血小板薬
一般名(商品名)
剤形別の心疾患に対す
る抗血栓薬としての適応
末:川崎病(心血管後
遺症を含む)
腸溶錠:
①狭心症・心筋梗塞・
アスピリン
虚血性脳血管障害・冠
(末:アスピリン
動脈バイパス術あるい
腸 溶 錠: バ イ ア ス ピ
は経皮経管冠動脈形成
リン)
術施行後における血
栓・塞栓形成の抑制,
②川崎病(心血管後遺
症を含む)
禁忌
主な副作用
末:本剤またはサリチル
酸系製剤に対し過敏症の
既往歴のある患者,消化 ショック,
アナフィラキシー
性潰瘍のある患者,
様 症 状, 出 血,Stevens出血傾向のある患者,
Johnson 症候群,再生不
アスピリン喘息またはそ 良性貧血,血小板減少,
の既往歴のある患者,
白血球減少,喘息発作の
出産予定日 12 週以内の 誘発,肝機能障害,黄疸,
妊婦,
消化性潰瘍,
Reye synd( 中 等 量 以 上
腸溶錠 : 上記以外は低出 の投与)
生体重児,新生児又は乳
児
ジピリダモール
(ペルサンチン,
アンギナール)
①狭心症,
心筋梗塞
(急
性期を除く)
,その他
高度冠動脈狭窄例での狭
の虚血性心疾患,うっ
心症誘発,盗流現象(正
血性心不全,
常血管を拡張させ,障害
②ワルファリンとの併 本剤の成分に対し過敏症 血 管 の 血 流 を 減 少 さ せ
用による心臓弁置換術 の既往歴のある患者
る.少量投与では通常起
後の血栓・塞栓の抑制
こりえない)
,出血傾向,
25mg 錠 は ①, ②,
血小板減少,過敏症,頭
100mg 錠 と 除 放 カ プ
痛,めまい
セルは②のみ
塩酸チクロピジン
(パナルジン)
出血している患者,重篤
血管手術及び血液体外 な肝障害のある患者,白
循環に伴う血栓・塞栓 血球減少症の患者,塩酸
の治療ならびに血流障 チクロピジンによる白血
害の改善
球減少症や過敏症の既往
歴のある患者
硫酸クロピドグレル
(プラビックス)
出血,肝機能障害,黄疸,
出血している患者(血友
経皮的冠動脈形成術が
血栓性血小板減少性紫斑
病,頭蓋内・消化管・尿
適用される急性冠症候
病,間質性肺炎,無顆粒
路出血など),本剤の成
群,定定狭心症,陳旧
球症,汎血球減少症,胃
分に対し過敏症の既往の
性心筋梗塞
腸症状,倦怠感,筋痛,
ある患者
頭痛,発疹
血栓性血小板減少性紫斑
病,無顆粒球症,重篤な
肝障害,汎血球減少症,
赤芽球癆,
血小板減少症,
出血,
中毒性表皮壊死症,
消化性潰瘍,
急性腎不全,
間質性肺炎,SLE 様症状
投与経路・用量・用法
末:急性期有熱期間は 1 日
30 ~ 50mg/kg を 3 回 に 分
服,解熱後の回復期から慢
性 期 は 1 日 1 回 3-5mg/kg
経口投与
腸溶錠(成人)
:① 1 日 1 回
100mg 経 口 投 与, 症 状 に
よ り 1 回 300mg ま で 増 量
可,②は末と同様
経口 2 ~ 5mg/kg/ 日,分
3
成人では
① 1 回 25mg,1 日 3 回
② 1 日 300 ~ 400mg,3 ~
4 回に分服
徐放カプセルは1回150mg,
1日2回
注 射 : 1 回 10mg,1 日 1 ~
3 回徐々に静注
経 口 5 ~ 7mg/kg/day,
分2
成人では
1 日 200 ~ 300mg,食後 2-3
回に分服
経口 1mg/kg/ 日,分 1
(最大投与量 75mg/ 日)
0 ~ 24 カ 月 の 乳 幼 児 は
0.2mg/kg/day 分 1
成人では
開始日に 1 日 1 回 300mg を
投与し,その後維持量とし
て 1 日 1 回 75mg を投与
3. 機械弁はワルファリン療法の絶対適応であり,弁
のイベントがあった場合や full-dose のワルファ
位に関わらず,機械弁置換術後は成人と同様の
リンに対する禁忌がある患者ではアスピリン治
ワルファリンによる抗凝固療法を生涯継続する.
療を追加する.(クラスⅡ a,レベル C)
(クラスⅠ,レベル B)
4. 機械弁置換術後のワルファリンとアスピリンの
8. 年長児までの大動脈弁機械弁置換術術後症例に
おけるワルファリン投与.
(クラスⅡ b,レベル C)
併用.(クラスⅡ a,レベル B)
5. Ross 手術後,約 3 カ月~ 1 年間のワルファリン投
与.(クラスⅡ a, レベル C)
6. 大動脈弁,僧帽弁位の生体弁置換術後半年以降
小児では弁置換術後の抗凝固療法に関するエビデンス
の症例でのアスピリンの投与.(クラスⅡ a,レ
レベルの高い試験はないため,本ガイドラインでの推奨
ベル C)
は小児における使用可能な根拠と成人の海外における抗
7. 治療のための抗凝固療法を行っている間に血栓
146
①弁置換術後の抗凝固療法
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
凝固療法を支持する根拠にもとづき,わが国の成人のガ
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
作用機序
剤形
血小板内のシクロオキ
ゲシナーゼ -1
末 :99.5%以上
を阻害し,強力な血小
腸溶錠:1 錠中
板凝集作用を有する血
100mg
小板内のトロンボキサ
ン A2 の産生を阻害し
て抗血小板効果を示す
血小板内の cyclic AMP
phosphodiest er ase や
cyclic GMP
phosphodiesterase の活
性を阻害することによ
り血小板内の cAMP 濃
度や cGMP 濃度が上昇
し, 血 小 板 内 の 遊 離
Ca2 +濃度が減少
散剤・細粒:
12.5%
錠剤:1 錠中
12.5mg,25mg,
100mg
徐放カプセル:
1 カプセル中
150mg
注射液:1 アンプ
ル(2ml)中
10mg
ADP 受容体阻害による
細粒:10%
cAMP 濃度上昇
錠剤:100mg
プロドラッグ
ADP 受容体阻害による
cAMP 濃度上昇
錠:25mg,75mg
血中半減期
(健康成人)
コメント
2.5 ~ 7.0 時間
多くの臨床データが蓄積されており,出血の危険性も少なく重篤
な副作用が少ないこと,1 日 1 回の内服回数でよいこと,安価で
あるなどの理由から抗血小板薬の第 1 選択薬剤である.
効果は非可逆的であり血小板寿命期間持続する.
大量に用いた場合,血管内皮細胞の Cox-2 も阻害し抗血小板作用
をもつプロスタグランディン I2(Prostaglandin:PGI2)の生成を阻
害し,血栓形成促進作用が出現する(アスピリン・ジレンマ).
治療の効果判定には血小板凝集能の検査が有用である.
15 歳未満の水痘,インフルエンザの患者には投与しない(ライ
症候群の危険性)
.
川崎病の急性期には肝機能検査を適宜行い,異常が認められた場
合には減量・休薬する.
手術,心臓カテーテル検査又は抜歯前 1 週間以内の患者には慎重
に投与する.
150mg 経口投与
では
1.69 ± 0.44 時間
20mg 静注時の半
減期は 24.6 分
相互作用としてキサンチン系製剤が作用を減弱し,アデノシンが
作用を増強する.
アデノシンとの併用により完全房室ブロック,心停止などが発現
することがあるため併用禁忌.
徐放カプセルの小児に対する安全性は確立していない.
細粒:
1.58 士 0.03 時間
錠:
1.61 士 0.04 時間
6.9 士 0.9 時間
(75mg)
ADP 受容体阻害作用は非可逆的であり,効果は血小板寿命期間持
続する.ADP 惹起血小板凝集で効果を判定する.
血栓性血小板減少性紫斑病,無顆粒球症などの重大な副作用が主
に投与開始後 2 カ月以内に発現し,死亡に至る例も報告されてい
るため,投与開始後 2 ヶ月間は原則として 2 週に 1 回来院し,血
液検査を行う.
塩酸チクロピジンの後継として開発されたチエノピリジン系化合
物の ADP 受容体阻害薬.塩酸チクロピジンに比較し,冠動脈イ
ベント発生率は差がないにもかかわらず,肝機能障害や血液障害
などの副作用が有意に少なかったとする報告があり,既に塩酸チ
クロピジンに替わる薬剤として広く使用されている.小児での使
用経験は少なく,安全性は確立していない.
重大な副作用が発現することがあるため,投与開始後 2 ヶ月間は
2 週間に 1 回程度の血液検査を行う.
アスピリンとの併用では出血傾向に注意.
イドラインを参考に作成した.
い PT-INR コントロール値で血栓塞栓症に対する予防効
2006 年に発表された AHA/ACC の弁膜症に関するガ
果が得られることが経験的に知られている.成人領域で
イドラインでは,成人の弁膜症術後のすべての患者にア
は,ACC/AHA のガイドラインをもとに,PT-INR コン
スピリンが推奨され,その上でリスク別にワルファリン
トロール値の設定がされており,本ガイドラインにおい
による抗凝固療法の推奨域が設定されている.最もリス
ては小児でも同様の PT-INR コントロール値を設定した
クの低いグループではアスピリン単独投与,それ以上の
(表 16)244).
リスクが考えられる場合はワルファリンによる抗凝固療
1)機械弁
法を併用し,中等度のリスク群では PT-INR2.0 ~ 3.0 を,
機械弁を用いた弁置換術後に抗凝固療法を行わずに抗
高度リスク群では PT-INR2.5 ~ 3.5 を治療域としている.
血小板剤のみを用いた場合,出血性イベントは減少する
アスピリン服用が,困難な高リスク例では,クロピドグ
ものの血栓塞栓症の発症率は約 3 倍高くなると報告され
レルの併用が推奨されている 256),259).
ている 260).小児の人工弁置換術を行った患者を対象と
日本人における抗凝固療法については,欧米よりも低
したワルファリンと抗血小板剤の比較に関する前方視的
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
147
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
表 13 抗凝固薬
一般名
(商品名)
心疾患に対する
抗血栓薬として
の適応
禁忌
出血している患者,
出血する可能性のあ
る患者,重篤な肝障
害・腎障害のある患
者,中枢神経系の手
術又は外傷後日の浅
い患者,本剤の成分
に対し過敏症の既往
歴のある患者,妊婦
または妊娠している
可能性のある婦人,
骨粗鬆症治療用ビタ
ミ ン K2 製 剤 を 投 与
中の患者
血栓塞栓症(静
脈血栓症,心筋
梗塞症,肺塞栓
ワルファリン
症, 脳 塞 栓 症,
(ワーファリン) 緩徐に進行する
脳血栓症など)
の治療および予
防
主な副作用
維持投与量の目安
12 か月未満:0.16mg/kg/ 日
1 歳以上 -15 歳未満:0.04 ~ 0.10mg/kg/ 日
暫定維持量の計算式:0.04 ×体重
(kg)+ 0.87
日本循環器学会のガイドラインでは 0.05 ~ 0.12mg/kg/
日,分 1,PT-INR で 1.6 ~ 2.5 を目標とする.
(AHA のガイドラインは 0.05 ~ 0.34mg/kg/ 日,PT-INR
は 2.0 ~ 2.5 を目標とする)
脳出血や消化
管出血などの
出血性副作
用,皮膚壊死,
肝 機 能 障 害,
黄疸,過敏症
<禁忌>
出血性血液疾患,僅
少な出血でも重大な
結果を来すことが予
想される患者
血栓塞栓症(静
脈血栓症,心筋
梗塞症,肺塞栓
ヘパリンナト
症, 脳 塞 栓 症,
リウム
四肢動脈血栓塞
(ノボ・ヘパリ
栓症,手術中・
ン,ヘパリン
術後の血栓塞栓
ナトリウム注)
症など)の治療
および予防
<原則禁忌>出血し
ている患者,出血す
る可能性のある患
者,重篤な肝障害や
腎障害のある患者,
中枢神経系の手術又
は外傷後日の浅い患
者,本剤の成分に対
し過敏症の既往のあ
る患者,ヘパリン起
因性血小板減少症
(heparin-induced
thrombocytopenia:;
HIT) の 既 往 歴 の あ
る患者
148
投与経路・用量・用法
初回投与量を 1 日 1 回経口投与した後,数日間かけて血
液凝固能検査で目標治療域に入るように用量調節し,維
持投与量を決定する.ワルファリンに対する感受性には
個体差が大きく,
同一個人でも変化することがあるため,
定期的に血液凝固能検査を行い,維持投与量を必要に応
じて調節すること.抗凝固効果の発現を急ぐ場合には,
初回投与時ヘパリン等の併用を考慮し,治療域 INR の確
認後 2 日を経てヘパリンを中止する.成人における初回
投与量は,ワルファリンカリウムとして,通常1~5
mg1 日 1 回である.
効果発現に 3 ~ 7 日を要するため,投与開始 5 ~ 7 日目
に PT-INR を測定し投与量の調節を行う.
欧米では TTR: Tagret therapeutic INR range を 2.0 ~ 3.0 に
設定して管理されることが多い.わが国では TTR を欧米
より 0.5 程度低めに設定し,PT- INR を 1.6 ~ 2.5 程度に
コントロールすることが多い.その理由は,確立された
エビデンスがあるわけではなく経験的なもので日本人で
はその強度で効果が得られており,欧米人と同等の強度
では出血の副作用の頻度が高いと考えられたためである.
同じ PT-INR を維持するのに必要なワルファリンの投与
量は年齢によって異なる.
点滴静注:当初から維持量 10 ~ 20 単位 /kg/ 時を持続
投与する方法と初期に急速飽和量(50 単位 /kg)を 10
分以上かけて静注し,その後維持量を持続投与する方法
がある.
ショック,ア
成人では
ナフィラキシ
点滴静注:10,000 ~ 30,000 単位を 5%ブドウ糖注射液
ー様症状,出
や生食,リンゲル液 1,000mL で希釈し,最初 1 分間 30
血,血小板減
滴前後の速度で,続いて全血凝固時間又は APTT が投与
少,HIT 等 に
前の 2-3 倍になれば 1 分間 20 滴前後の速度で,点滴静注
伴う血小板減
する
少・血栓症
間欠静注法:1 回 5,000 ~ 10,000 単位を 4 ~ 8 時間ごと
に静注.注射開始 3 時間後から,2 ~ 4 時間ごとに全血
凝固時間又は APTT を測定し,投与前の 2-3 倍になるよ
うにコントロール
皮下注・筋注法 : 1 回 5,000 単位を 4 時間ごとに皮下注
又は筋注
研究は,ワルファリン単独群(平均 0.16mg/kg/ 日,PT-
塞栓症の発生については,2 剤併用投与群 2 例に重篤な
INR1.5 ~ 2.5)とアスピリン,ジピリダモール 2 剤併用
血栓塞栓症が認められたのに対し,ワルファリン群では
投与群の比較が行なわれ,出血性イベントは抗血小板薬
認められなかった.この結果から,ワルファリンは出血
群では認められなかったが,ワルファリン群の 20 例中 5
性イベントのリスクの増加を伴うものの,血栓塞栓症の
例に重篤ではないが出血性イベントが認められた.血栓
予防に関しては抗血小板剤より優れると結論されてい
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
作用機序
肝臓での還元型ビタミ
ン K の 産 生 を 阻 害 し,
ビタミン K 依存性凝固
因 子( Ⅱ・VII・IX・X
因子)
の生成を阻害.
こ
のため,効果発現が遅
い.
結果として PIVKA;
Protein induced by
vitamin K antagonists
が血中に出現する.
血液中のアンチトロン
ビ ン(AT) と 特 異 的
に 結 合 し AT の 立 体 構
造を変化させ,トロン
ビンや活性化第Ⅹ因子
への結合不活化速度を
増加することで強力な
抗凝固作用を示す
剤形
顆 粒・ 細 粒:0.2
%
錠:0.5mg1mg
2mg 5mg
血中半減期
(健康成人)
コメント
先天性 proteinC や proteinS 欠乏症では,ワルファリン投与導入時
に微小血栓による皮膚壊死を生じることがある.
多くの薬剤や食品と相互作用を示す.納豆やほうれんそうなどの
緑黄色野菜やクロレラなどは,ビタミン K が多く含まれているた
めワルファリンの効果を減少させる.ビタミン K 強化の人工乳で
はワルファリン効果は減弱し,母乳栄養児では容易に効果過剰と
なる.吸収不良症候群や肝不全,長期の抗生剤投与でもビタミン
0.5mg:133 ± 42
K の欠乏が惹起されるため,ワルファリンの作用が増強される.
時
経口血糖降下薬,ST 合剤,H2 ブロッカー,PPI,アセトアミノフ
ェン,蛋白同化ステロイド,EM,フルコナゾール,メトロニダ
1mg:95 ± 27 時
ゾールなどがワルファリン作用を増強する.肝臓でのワルファリ
ン代謝を促進して抗凝固作用を減弱するものには,リファンピシ
5mg:55 ± 12 時
ン,カルバマゼピン,フェノバルビタールなどがある.
凝固能が異常に低下する場合の対応として,通常はワルファリン
を一時中断するのみでよいが,出血症状が強い場合などはビタミ
ン K を 10 ~ 30mg 静注する.効果発現には約 1 日を要する.
ワルファリンを長期内服している患者のほとんどは安定した用量
反応を維持するが,月 1 回程度の定期的なモニタリングが必要で
ある.
ヘパリンの抗凝固作用は AT が欠乏した状況下では効果が減弱す
るため,AT が 70%以下のときは AT 製剤を併用する必要がある.
ヘパリンの影響は PT よりも APTT に反映されるのでモニタリング
は通常 APTT を用いる.注射開始 3 時間後から,2 ~ 4 時間ごとに
APTT を測定し,投与前の 2 倍になるように投与量を調整する.た
だし,APTT 試薬の種類によりヘパリンに対する感受性が異なる
ため,根拠に裏付けられたものとは言い難い.ヘパリンを大量に
使 用 す る 時 に は APTT で は 測 定 可 能 域 を 超 え る た め,ACT
(Activated Coagulation Time)を用いてモニタリングする.ACT
は測定手技,測定に使用した機器により得られる値に大きな差が
注 1,000 単位 /mL およそ 40 分
あり注意を要する.
5・10・50・100mL (5,000 単位静注)
静脈内に投与されたヘパリンの血中半減期は約 40 分と短く,持
続的あるいは間欠的に静脈投与を行う必要がある.一方,皮下投
与時には最大効果は約 3 時間後に出現し,約 12 時間持続するが,
皮下投与では持続静脈投与に比較してヘパリンの生物学的利用能
が著しく劣る.ヘパリン投与期間は7~10日程度が推奨されるが,
その後使用される経口抗凝固薬は,作用発現までの期間を想定し
ヘパリン中止の 5 日前から併用する.ヘパリンを過剰投与した場
合は,通常ヘパリンを中止するのみで十分であるが,緊急を要す
る場合は抗ヘパリン作用をもつ硫酸プロタミンあるいはヘパリナ
ーゼを静注し中和する.
)
る 261(クラスⅡ
a, レベル B).術後出血のリスクが特に
2)生体弁
高い小児,あるいは出血イベントが発現した小児に対し
生体弁を用いた場合,AHA/ACC と European Society
ては,抗血小板療法を抗凝固療法の代替療法として行う
of Cardiology ESC ガイドランで異なる管理法が推奨さ
こともあるが効果は不十分であり一時的な措置に留め
れており,術後の血栓塞栓予防については未だ議論が多
る.
い.
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
149
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
表 14 血栓溶解薬
一般名(商品名)
心疾患に対する抗血
栓薬としての適応
禁忌
主な副作用
投与経路・用量・用法
川崎病では 10,000 単位 /kg を 30 ~
60 分間かけて静注
(成人一日最大投与量は 96 万単位)
ウロキナーゼ(ウ
ロキナーゼ)
12 万・24 万単位:
出血している患者,2 カ
月以内に頭蓋内あるいは
12 万・24 万 単 位: 急
脊髄の手術又は損傷を受
性心筋梗塞における冠
けた患者,頭蓋内腫瘍,
動脈血栓の溶解(発症
動静脈奇形,動脈瘤のあ
後 6 時間以内)
る患者,出血性素因のあ
る患者,重篤な高血圧症
患者
12・24 万 単 位: 脳
出血,消化管出血,
心破裂,ショック,
不整脈
アルテプラーゼ
(遺伝子組換え
t-PA 製剤)
(アクチバシン・
グルトパ)
出血している患者,出血
するおそれの高い患者,
急性心筋梗塞における 重篤な高血圧症の患者,
冠動脈血栓の溶解(発 重 篤 な 肝 障 害 の あ る 患
者,急性膵炎の患者,本
症後 6 時間以内)
剤の成分に対して過敏症
の既往歴のある患者
脳出血,消化管出血
などの重篤な出血,
出血性脳梗塞,ショ
ック,アナフィラキ
シー様症状,
心破裂,
心タンポナーデ,血
管浮腫,重篤な不整
(ACCP ガ イ ド ラ イ ン で は 0.1 ~
脈
0.6mg/kg/hour for 6hours を推奨)
モンテプラーゼ
(遺伝子組換え改
変型 t-PA 製剤)
(クリアクター)
出血している患者,2 カ
月以内に頭蓋内あるいは
脊髄の手術又は障害を受
急性心筋梗塞における
けた患者,頭蓋内腫瘍,
冠動脈血栓の溶解(発
動静脈奇形,動脈瘤のあ
症後 6 時間以内)
る患者,出血性素因のあ
る患者,重篤な高血圧症
患者
重篤な出血,
心破裂,
心室中隔穿孔,心タ
ンポナーデ,心室細
動,心室頻拍,ショ
ック
成人
12 万単位 : 生食またはブドウ糖注射
液を用いて 6000 単位 /mL に溶解し,
48 ~ 96 万 単 位 を 2.4 万 単 位 /4mL/
分で冠動脈内に注入.
24 万単位:96 万単位を生食または
ブドウ糖注射液 50 ~ 200 m L に溶解
し,約 30 分間で静注.
29 万 -43.5 万 I.U./kg(0.5 ~ 0.75
mg/kg) を 静 注. 投 与 量 上 限 は
3,480 万 I.U.(60mg)まで.
総量の 10%を 1 ~ 2 分間で急速投与
し,その後残りを 1 時間で点滴静注
する.
80,000I.U./mL となるように生食で
溶解し,
1分間あたり約10mL
(800,000I.
U.)の注入速度で投与.
27,500I.U./kg を静注
後方視検討ではあるが生体弁を用いた弁置換術後に抗
4)弁形成術後の抗凝固療法
凝固療法,抗血小板療法を行わずに血栓塞栓症の発症率
弁形成術の場合は周術期から術後約半年を過ぎれば無
を検討した研究では術後 1 年,7 年での血栓塞栓症の発
投薬とする.僧帽弁形成術後の抗凝固療法は生体弁置換
症はそれぞれ 1.3%,1.5 ~ 1.7%であった 262).
術に準じ,3 か月以降はワルファリンを中止可能である.
3)Ross 手術後
血栓塞栓の危険因子をもつ場合には,ワルファリンを
自己肺動脈弁使用の大動脈弁置換術(Ross 手術)の
PT-INR2.0 ~ 2.5 を維持するように,生涯投与する必要
場合には年齢,個々の病態により異なるが,周術期から
がある 244).
約 3 か月~ 1 年間,ワルファリンとアスピリンの併用療
5)ワルファリン併用の注意
法が多い.
<推奨>
1. ワルファリン内服時の安定した PT-INR 値維持が
困難な場合,あるいは血栓塞栓症の発症がワル
表 15 川崎病冠動脈病変の重症度分類に対する治療の適応
●抗血小板薬(アスピリン,ジピリダモール,パナルジン)
ClassⅠ 重症度分類 Ⅳ,
Ⅴ
ClassⅡ 重症度分類 Ⅲ
ClassⅢ 重症度分類 Ⅰ,
Ⅱ
●抗凝固薬(ワルファリン)
ClassⅠ 重症度分類 Ⅳ,
Ⅴ
ClassⅡ 重症度分類 Ⅲ
ClassⅢ 重症度分類 Ⅰ,
Ⅱ
循環器病の診断と治療に関するガイドライン研究班:川崎病心
臓血管後遺症の診断と治療に関するガイドライン(JCS2008 年
改訂版)より引用
150
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
ファリン単独では予防できないと判断されたと
き,あるいはワルファリン単独治療中に血栓塞
栓症が発症した場合には,アスピリンとワルフ
ァリン両剤を併用する(クラスⅡ a,レベル B).
2. 抗血小板薬にワルファリンを併用する場合は,出
血のリスクが増大する可能性があり注意が必要
である(クラスⅡ a,レベル B).
小児において抗血小板薬とワルファリンを併用した場
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
作用機序
剤形
血中半減期
(健康成人)
コメント
ヒトの尿中に存在するプラス
12 万単位冠動脈
ミノゲンアクチベーター.プ
内投与:
ラスミノゲンの peptide 結合
第 1 相 6.8 分,
を開裂させて蛋白分解活性を 注射:1 バイアル
第 2 相 4.4 時間,
有するプラスミンを生成す 中 6 万単位,12 万
る.生成したプラスミンがフ 単位,24 万単位
24 万単位:
ィブリンを分解することによ
第1相 5.7 分,第 2
り血栓および塞栓を溶解す
相 4.3 時間
る.
血栓溶解療法は血栓症の超急性期に行う.梗塞発現後 6 時
間以上を経過している場合は,臨床的な改善が期待できな
い.
循環血液中の線溶活性を亢進させる.フィブリン親和性が
低いため,出血の副作用が問題となる.全身投与よりも血
栓近傍への局所投与が有用である.投与法は末梢静脈投与
と冠動脈内投与がある.
フィブリン親和性が高く,血
栓に特異的に吸着し血栓上で
プラスミノゲンをプラスミン
に転化させ,これがフィブリ
ンを分解し,
血栓を溶解する.
注射:1 バイアル
中 600 万 I.U.
1,200 万 I.U.
2,400 万 I.U.
T1/2 α:
6.3 士 2 分
T1/2 β:
84.2 士 48 分
フィブリン親和性が高く,ウロキナーゼに比べて出血の副
作用が少ない.
投与は発症後できるだけ早期に行う.
脳出血による死亡例が認められているため,適応患者の選
択を慎重に行い,出血性有害事象の発現に十分注意して経
過観察を行う.
胸部大動脈解離あるいは胸部大動脈瘤を合併している可能
性がある患者では適応を十分に検討する.
改変型 t-PA
t-PA の分子構造を改変するこ
とにより,半減期が長く,総
投与量を減らした急速単回投
与が可能となり,出血傾向の
危険性がさらに低下
注射:1 バイアル
中 40 万 I.U.
80 万 I.U.
160 万 I.U.
T1/2 α:
23.66 士 5.2 分,
T1/2 β:
7.82 士 0.6 時間
発症後できるだけ早期に投与する.本剤により脳出血が起
こることがあるため,適用患者の選択を慎重に行うととも
に,投与後の患者の出血の有無を十分に確認する.
合の出血のリスクを検討したエビデンスレベルの高い研
と報告されている.
アスピリンは胃と小腸から吸収され,
究は存在しないが,成人と同様,併用によって血栓症の
その吸収過程及び生体内(主として肝臓)でサリチル酸
再発や死亡率の減少が期待できる半面,相乗効果によっ
に加水分解される.サリチル酸の血中濃度半減期は 300
て,鼻出血,歯肉出血,血尿,頭蓋内出血などの出血の
~ 650mg 投 与 時 は 3.1 ~ 3.2 時 間,1g 投 与 時 は 5 時 間,
リスクが高まることが予想される.併用時には PT-INR
2g 投与時は 9 時間と投与量により増加する.サリチル酸
のコントロール値の変更は必要ないが,PT-INR3.5 以上
はさらに,生体内でグリシン抱合及びグルクロン酸抱合
では明らかな出血の危険があり,これを下回るまでワル
を受け,また,ごく一部は水酸化を受けゲンチジン酸に
ファリンは減量・中止する.併用療法では,患者を適切
代謝される.排泄は主としてサリチル尿酸(約 75 %),
に選択する必要があり,併用療法を行うことによって期
グルクロン酸抱合体(約 15%),遊離サリチル酸(10%)
待される効果とそれに伴うリスクを慎重に検討するべき
などとして腎臓から排泄される.通常,48 時間尿中に
である.また,重大なイベントを避けるには,PT-INR
投与量のほぼ全量が排出される.遊離サリチル酸量は極
のモニタリングを含めた日々のきめ細やかな管理が成人
めて変動が大きく,投与量および尿 pH に依存する.尿
以上に重要である.
の pH 値が下がると血液中へ再吸収される量が増加して
排泄速度が減少する.血中濃度の上昇に伴い,サリチル
6)アスピリン,ワルファリンの薬物動態
酸代謝能は飽和に達し,全身クリアランスが低下する.
アスピリン,ワルファリンともに小児のデータはない
毒性用量投与後では,サリチル酸の半減期は 20 時間を
ため,成人のデータを示す.
超えるほど延長することがある.近年アスピリンを服薬
①アスピリン
しているにもかかわらず,血小板機能抑制が十分でない
ヒトにアスピリンを経口投与したとき,血漿中未変化
アスピリン抵抗性の存在が指摘されている.
体濃度は 15 ~ 25 分後に最高値に達し,2 時間後に血漿
②ワルファリン
中より消失する.アスピリンの半減期は 2.5 ~ 7.0 時間
ワルファリンは光学異性体(S- ワルファリン,R- ワ
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
151
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
図 13 川崎病における抗血栓療法のアルゴリズム
冠動脈拡張あるいは冠動脈瘤
急性期
所見
なし
小動脈瘤または拡大 : 内径 4mm
以下の局所性拡大所見,年長児
(5 歳以上)で周辺冠動脈内径の
1.5 倍未満のもの
アスピリン 30 ∼ 50mg/kg/日,分 3
急性期以降(回復期)
中等瘤 : 4mm< 内径≦8mm
年長児(5 歳以上)で周辺冠動
脈内径の 1.5 倍から 4 倍のもの
巨大瘤 : 8mm< 内径
年長児(5 歳以上)で周辺冠動脈
内径の 4 倍を超えるもの .
アスピリン 30 ∼ 50mg/kg/日,分 3+
抗血小板薬 : ジピリダモール 2 ∼ 5mg/kg /日,分
3 や 塩酸チクロピジン 5 ∼ 7mg/kg /日,分 2,あ
るいは硫酸クロピドグレル 1mg/kg/日,分 1(0
∼ 24 ヶ月の乳幼児は 0.2mg/kg/日,分 1) を追加,
あ る い は 抗 凝 固 薬(ワ ル フ ァ リ ン 0.05 ∼
0.12mg/kg/日,分 1,PT-INR1.6 ∼ 2.5)を追加 .
急性心筋梗塞発症
あるいは
冠動脈の急激な拡
大に伴う血栓様エ
コーの出現
アスピリン 30 ∼ 50mg/kg/日,分 3+急性期
に未分画ヘパリンを使用し,抗凝固薬(ワル
ファリン 0.05 ∼ 0.12mg/kg/日,分 1 PT-INR1.6
∼ 2.5)
に移行 .
心エコー検査,選択的冠動脈造影検査等で得られた所見による重症度分類
Ⅰ. 拡大性変化がなかった群 : 急性期を
含め,冠動脈の拡大性変化を認めない
症例
Ⅱ: 急性期の一過性拡大群 : 第 30 病日
までに正常化する軽度の一過性拡大を
認めた症例
Ⅲ. Regression 群 : 第 30 病日においても
拡大以上の瘤形成を残した症例で,発症
後 1 年までに両側冠動脈所見が完全に正
常化し,かつ V 群に該当しない症例
所見が消失するまで抗血小板薬(アスピ
リン 3 ∼5mg/kg/日,分 1 など)を継続
アスピリン 3~5mg/kg/day 分 1×3 ヵ月間
Ⅳ. 冠動脈瘤の残存群 : 冠動脈造影検査で 1
年以上,片側もしくは両側の冠動脈瘤を認
めるが,かつ V 群に該当しない症例
Ⅴ . 冠動脈狭窄性病変群 : 冠動脈造影検査
で冠動脈に狭窄性病変を認める症例
(a)虚血所見のない群 : 諸検査において虚
血所見を認めない症例
(b)虚血所見を有する群 : 諸検査において
明らかな虚血所見を有する症例
アスピリンなどの抗血小板薬を継続.巨大冠動脈瘤や冠動脈瘤内血栓例には抗凝固薬も併用して継続.
ルファリン)のラセミ体である.ワルファリンは経口投
果を踏まえて,米国 FDA では 2007 年にワルファリン添
与後,胃と空腸から極めて良く吸収され,血中では 90
付文書にワルファリン投与量の影響因子として上記遺伝
~ 99 %がアルブミンと可逆的に結合し,不活性な状態
子多型に関する情報を追加し,同時に両遺伝子検査キッ
で循環している.
トを承認したが,そのアルゴリズムや臨床的有用性は現
健康成人男子にワルファリン 0.5mg,1mg 又は 5mg を
在のところ確立していない.日本人におけるワルファリ
絶食下単回経口投与した場合の,最高血中濃度到達時間
ンの開始・維持量についてもこれらの遺伝子多型と関連
は 0.5 ~ 1.0 時間で,半減期は 55 ~ 133 時間である.ワ
させた検討も進んでおり,今後遺伝子多型に基づいたテ
ルファリンカリウムの単回経口投与時の薬物動態パラメ
ーラーメイド医療が行われる可能性がある.
ータを表 17 に示す.
近年,ゲノム薬理学によりワルファリン応答性の個人
表 17 ワルファリンカリウムの単回経口投与時の
薬物動態パラメータ
差に関わる影響因子が明らかになり,S- ワルファリン
の代謝酵素である CYP2C9 とワルファリンの標的分子で
あるビタミン K エポキシド還元酵素(VKORC1)の二
つの遺伝子多型が最も重要であることが明らかになっ
た.アジア人および白人においては,この CYP2C9 と
VKORC1 の遺伝子多型と年齢,体重(体表面積)とい
う患者背景因子がワルファリン投与量の決定因子であ
り,これらによりワルファリン維持量の個人差の約 60
%程度まで説明できると考えられている 263),264).この結
152
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
投与量
Cmax
例数
(ng/mL)
(mg)
tmax(hr)
AUC0-144
(ng・hr/mL)
t1/2(hr)
0.5
24
69±17
0.50
1734±321
(1.25-2.00)
133±42
1
22
135±32
0.50
3442±570
(0.25-1.00)
95±27
5
24
685±173
1.00
21669±38
(0.25-4.00) 51
55±12
平均値±標準偏差,
tmax は中央値(最小値ー最大値)
医薬品情報インタビューホームより引用
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
表 16 弁置換術および弁形成術における抗凝固療法
ワルファリン
術式
弁置換術(機械弁)
A .大動脈弁置換術 低リスク
・3 ヶ月未満
・3 ヶ月以降
B .大動脈弁置換術 高リスク
C .僧帽弁置換術
弁置換術(生体弁)
A .大動脈弁置換術 低リスク
・3 ヶ月未満
・3 ヶ月以降
B .大動脈弁置換術 高リスク
・3 ヶ月未満
・3 ヶ月以降
C .僧帽弁置換術 低リスク
・3 ヶ月未満
・3 ヶ月以降
D .僧帽弁置換術 高リスク
・3 ヶ月未満
・3 ヶ月以降
弁形成術
・3 ヶ月未満
・3 ヶ月以降
・僧帽弁形成術 低リスク
・僧帽弁形成術 高リスク
PT-INR 2.0 ~ 2.5
非ワルファリン
PT-INR 2.0 ~ 3.0
classⅠ
classⅠ*
classⅠ
classⅠ
classⅠ
classⅠ
classⅠ
classⅡa
classⅠ
classⅠ
classⅠ
classⅡa
classⅠ
classⅠ
classⅠ
classⅡa
classⅠ
高リスクは心房細動,血栓塞栓症の既往,左心機能の低下,凝固亢進状態のいずれかを有する場合.低リスクはいずれも有しない場合.
*大動脈弁ディスク型一葉弁や Starr-Edwards 弁では,PT-INR を 2.0 ~ 3.0 に維持すべきである.
循環器病の診断と治療に関するガイドライン.循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009 年改訂版)
より引用
7)腎機能低下,肝機能低下時の注意
<推奨>
1. 重篤な肝機能障害及び腎機能障害をもつ患者へ
Ⅲ
高脂血症治療薬
のワルファリン投与は禁忌である(クラスⅠ,レ
ベル C).
2. 腎機能障害の患者へのアスピリン投与は減量の
1
疫学
必要はないが慎重に投与する(クラスⅠ,レベ
ル C).
動脈硬化の発生には,高脂血症(脂質異常症)などの
3. アスピリン内服にて肝機能障害を生じる可能性
心血管病の危険因子が関連しており,その動脈硬化病変
があるため,重篤な肝機能障害がある場合には
は,小児期・若年期から始まる 265).急速な動脈硬化の
アスピリン投与を控える.投与後は肝機能のモ
進展例としては,高 LDL コレステロール血症を示す家
ニタリングが必須である(クラスⅠ,レベル C).
族性高コレステロール血症(FH)(小児 500 人中に1人
の割合)がある.FH の動脈硬化の進展速度は遺伝的な
背景のない高脂血症に比べて早く,それに伴う臓器障害
の程度も強いため,高 LDL- コレステロール血症に対す
る治療は動脈硬化予防を目的としたものとなる.小児期
にすでに動脈硬化性変化が生じていることは,Bogalusa
Heart Study や Pathological Determinants of
Atherosclerosis in Youth(PDAY)などの剖検所見から
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
153
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
も証明されており,動脈硬化症のリスクの高い FH 患者
をもとにして作成された判定基準を表 18 に示した 267).
は,小児期からの予防が極めて重要であると考えられて
高コレステロール血症,高 LDL-C 血症,低 HDL-C 血症
いる.
の基準値は成人の基準値と同じであるが,総コレステロ
FH ヘテロ接合体患者に対して,小児期においてどの
ール値,LDL-C 値の適正域は成人の場合よりも低く,
ようにスクリーニングをするべきか,いつからどのよう
したがって境界域が広く設定されている.また,高 TG
な治療を開始するべきか,治療の目標をどのように設定
血症の基準値も低い.小児期においては年齢とともに血
するかについては,コンセンサスを得られていない.
清脂質値が変動する.学童期では,相対的に HDL-C 値
ホモ接合体(100 に 1 人)は小児期から黄色腫を呈し,
が高い特徴があるため,高コレステロール血症と判定さ
若年性粥状硬化が心血管系を中心に認められ,乳児でも
れても,空腹時に TG,HDL-C とともに再度測定して,
心筋梗塞を起こす.FH ホモ接合体に類する疾患として,
LDL-C 値を確認すべきである.
ARH(常染色体劣性高コレステロール血症)ホモ接合体,
βシトステレミアホモ接合体も,同様に小児期から黄色
腫や若年性粥状硬化を呈する.
2
小児期薬物療法を必要とする疾患
家族性高コレステロール血症
一般の小児でも,生活習慣により特に飽和脂肪やコレ
ホモ接合体は 100 万人に1人の出現頻度で稀な疾患で
ステロールの多い食事の摂取,または肥満などに伴って
あるが,小児期に突然死する場合も多い.最も特徴的な
脂質異常を示すが,これらは一般的に薬物療法の適応に
外表所見である著明な黄色腫は幼児期には出現する.冠
はならず,生活習慣の変更にて対応する.
動脈のみならず大動脈弁や大動脈にも病変が出現するた
2
定義
め,診断後直ちに心血管病変の検索が行われるべきであ
る.治療としては,スタチンの効果は限定的であり,定
期的な LDL アフェレーシスが必要である.早期に開始
高脂血症とは血清脂質を構成するコレステロール,ト
するほど,大動脈弁上狭窄は軽度となる.LDL 受容体
リグリセライド(TG)のいずれか,ないし両方が増加
活性の欠損程度が治療効果,予後と関連する 268).ホモ
した状態である.「動脈硬化性疾患予防ガイドライン
接合体と症状が類似した疾患に,常染色体劣性高コレス
2007 年版」では,HDL コレステロール(HDL-C)が低
テロール血症(ARH), βシトステロール血症がある.
い場合も加えて脂質異常症と命名した.これは高コレス
ともに,薬物療法が効果的であり,予後が異なることか
テロール血症(高 LDL-C 血症)が狭心症,心筋梗塞な
ら,確定診断のための LDL 受容体活性検査,遺伝子検
どの冠動脈疾患(CAD)の重要な危険因子であること,
査はかかせない.
HDL-C は CAD の負の危険因子であることがこれまでの
ヘテロ接合体は 500 人に1人の頻度であり,小児期に
国内外の成人疫学研究において示されてきたからであ
診断されることも稀ではない.小児症例ではほとんどが
る.TG に関しては,血清 TG が高くなるとリポ蛋白の
IIa 型高脂血症を呈するが,年少時は比較的コレステロ
質的異常として small dense LDL の増加(小児でも見ら
ール値が低く,経過とともに上昇してくる症例も報告さ
266)
れる) ,レムナントの増加,また血液凝固線溶系の異
れている.特に,新生児期の血清脂質値は正常の場合も
常や HDL-C の低下といった動脈硬化に促進的な変化が
生じるので,成人では,CAD の重要な危険因子である
と考えられている.しかし,小児ではリポプロテインリ
パーゼ(LPL)活性が欠損する高カイロミクロン血症の
ように高 TG であっても,心血管病を発症しないので,
高 TG のための膵炎の危険性がなければフィブラート系
の薬剤は通常用いられない.
3
小児の病態と臨床的特徴
表 18 小児の血清脂質異常の判定基準
総コレステロール
(mg/dL)
適正域
<190
境界域
190~219
高 値
≧220
LDLコレステロール(mg/dL)
適正域
<110
境界域
110~139
高 値
≧140
トリグリセライ
(mg/dL)
1
小児高脂血症の判定基準
日本各地で行われた小児生活習慣病予防健診のデータ
154
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
高 値
≧140
HDLコレステロール(mg/dL)
低 値
<40
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
多く,診断は困難である 269).2 歳から 18 歳の 1,000 例を
肥満が高度になるほど出現頻度は高くなる 274).また,
超える小児例の報告では,LDL-C 値が 135mg/dL 未満の
年齢経過とともに発症することも多く,中等症以上の肥
症例は 4.3%であり,近親者での心血管疾患既往がある
満小児は注意深く管理されるべきである.
症例ほど LDL-C 値は高値を示す 270).HDL-C 値,TG 値
近年,胎児期,乳児期早期の環境が発症の背景因子と
は体格や食事などの影響が大きい.心血管疾患は青年期
して注目されている.これは,メタボリックシンドロー
以降に発症することが多いが,頸動脈内膜中膜肥厚はす
ムを発症した成人には低出生体重児が多いという疫学的
271)
.そこで,小児例に対し
な事実に基づいている.胎内の低栄養状態により,児の
てもスタチンを用いた薬物療法が試みられ,その有効性
代謝特性がプログラミングされ,さらに出生後の急速な
と安全性が報告されているが 272),長期投与に対する評
発育(catch-up growth)とともに代謝異常が顕性化する
価はまだ十分とはいえない.高脂血症に対する食餌療法
と考えられている.概して,臍帯血中の血清脂質は,早
に加えて,運動習慣の獲得,禁煙指導,肥満予防などは
産児では LDL-C 値が高く,低出生体重児では TG 値が高
動脈硬化進展予防のため,小児症例に対してこそ強調さ
くなる.そして,哺乳開始後1ヶ月の新生児の血清脂質
でに小児期から認められる
れるべきである
273)
であっても在胎週数や出生体重の影響を受けていること
.
日本動脈硬化学会編 動脈硬化性疾患予防のための脂
が知られている.今後,発症予防の観点からも早産児,
質異常症治療ガイド 2008 年版による家族性高コレステ
低出生体重児の栄養法が再検討されるべきである.
ロール血症(FH)の診断基準によれば,小児の未治療
小児期の治療は生活習慣の改善によって行われる.肥
の LDL-C 値 が 140mg/dL 以 上,160mg/dL 以 上,180mg/
満の改善に伴う内臓脂肪の減少が,各診断項目の改善に
dL 以上になるに従い,診断確度が上がること,又本人
効果的である.また,肥満小児を対象とした後方視的研
の角膜輪や早発性冠動脈疾患の項目は除外項目となる.
究では,魚食習慣と腹囲の減少とに関連性が認められて
すなわち,小児の FH,特にヘテロ接合体に関しては,
おり,治療にも応用できると思われる 278).
LDL-C 値と家族歴で診断されることになる.
3
小児期非薬物療法の疾患ー家族性複
合型高脂血症,メタボリックシン
ドローム
4
薬物療法の実際(表 20)
[適応][用量][禁忌][副作用(有害事象)][使用上
の注意事項]を中心にまとめたが,いずれの高脂血症治
療薬もわが国では,小児等に対する安全性は確立してい
①家族性複合型高脂血症
ないので,成人に関する知見の結果をまとめた.
わが国の小児生活習慣病健診に基づいた調査では,す
ホモ接合体治療に関しては,脂質異常症治療ガイド
でに学童の 0.4%(成人の約半数)で発症していると思
2008 年版に記載されている.これによると,スタチン
われる
274)
.小児例では IIa 型を示すものが多い.高 TG
などの LDL 受容体活性化を標的とする薬物療法には反
血症は肥満度の上昇,年齢経過とともに出現し,small
応しない.プロブコールはホモ接合体でも一定の総コレ
dense LDL を有する症例も増加する.高 apoB 血症と高
ステロール値低下効果(LDL-C と HDL-C の低下)があ
脂血症の家族歴が早期診断に有用である 266),275).食事療
り,またそれ以上に皮膚黄色腫の縮小や消失を認める報
法と肥満の治療,そして生活習慣の改善が効果的である.
小児期に動脈硬化性疾患を発症することはなく,薬物療
法の必要性は低い.
②メタボリックシンドローム
小児における暫定診断基準が 2006 年日本小児科学会
の分野別ワークショップにおいて提言された(表 19).
表 19 小児メタボリックシンドロームの診断基準
1)臍周囲径
≧80cm(男女とも)
かつ / または
ウエスト身長比≧0.5
2)血清脂質
TG≧120mg/dl
かつ / または
HDLC<40mg/dl
3)血圧
収縮期血圧≧125mmHg
かつ / または
拡張期血圧≧70mmHg
4)空腹時血糖
≧100mg/dl
小児に特徴的なのは臍周囲径の判定基準で,身長の変化
を考慮しウエスト身長比が採用されている.
わが国の小児での出現頻度は 1%前後で,成人と比べ
かなり少ないが,近年増加していると思われる 276).肥
満小児を対象とした報告では 15%前後に認められる
277)
.
1)を必須項目として,2),3),4)のうち2つ以上
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
155
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
表 20 小児の家族性高コレステロール血症(FH)
、ARH, β シトステロール血症への薬物療法
一般名
商品名
作用機序
コレスチラミン
クエストラン
小腸で胆汁酸を吸着し
44.4%散
糞便中に排泄
コレスチミド
コレバイン
小腸で胆汁酸を吸着し 錠剤:500mg,
糞便中に排泄
ミニ 83%包
プラバスタチン メバロチン
HMG-CoA 還元酵素の
阻害薬,水溶性
シンバスタチン リポバス
プロドラッグ,HMGCoA 還 元 酵 素 の 阻 害
薬,脂溶性
フルバスタチン
ローコール
アトルバスタチ
ン
リピトール
ピタバスタチン リバロ
剤型
細粒:0.5%,1%,
錠剤:5mg,10mg
エゼチミブ
156
ロレルコ
ゼチーア
小児等に対する安全性は確立していない.
高コレステロール血症,
家族性高コレステロール血症
高脂血症,家族性高コレステロール血症
小児等に対する安全性は確立していない.
高脂血症,家族性高コレステロール血症
高脂血症,家族性高コレステロール血症
錠剤:5mg,10mg,
20mg
小児等に対する安全性は確立していない.
高脂血症,家族性高コレステロール血症
高コレステロール血症,
家族性高コレステロール血症
HMG-CoA 還元酵素の 錠剤:10mg,
阻害薬,脂溶性
20mg,
30mg
小児等に対する安全性は確立していない.
高コレステロール血症,家族性高コレステロール
血症
高コレステロール血症,
家族性高コレステロール血症
HMG-CoA 還元酵素の
錠剤:5mg,
10mg
小児等に対する安全性は確立していない.
阻害薬,脂溶性
高コレステロール血症,家族性高コレステロール
血症
高コレステロール血症,
家族性高コレステロール血症
HMG-CoA 還元酵素の
錠剤:1mg,
5mg
阻害薬,脂溶性
小児等に対する安全性は確立していない.
高コレステロール血症,
家族性高コレステロール血症
HMG-CoA 還元酵素の
ロスバスタチン クレストール
錠剤:2.5mg,
5mg
阻害薬,親水性
プロブコール
適応
(小児)
(成人)
高コレステロール血症
小児等に対する安全性は確立していない.
高コレステロール血症
高コレステロール血症,
家族性高コレステロール血症
コレステロールの胆汁
細粒:50%,
中への異化排泄促進作
錠剤:250mg
用
小腸でのコレステロー
錠剤:10mg
ル吸収阻害
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
高コレステロール血症,
家族性高コレステロール血症
小児等に対する安全性は確立していない.
高脂血症,家族性高コレステロール血症
高脂血症(家族性高コレステロール血症,
黄色腫)
小児等に対する安全性は確立していない.
高脂血症(家族性高コレステロール血症,
黄色腫)
高コレステロール血症,
家族性高コレステロール血症,
ホモ接合体性シトステロール血症
小児等に対する安全性は確立していない.
高コレステロール血症,
家族性高コレステロール血症,
ホモ接合体性シトステロール血症
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
投与経路・用量・用法
(有効血中濃度)
小児用量又は成人用量
経口 1 回 9g(無水物 4g)
を水 100mL に懸濁し,
1日2~3回
最大血中濃度
Tmax
経口 1 回 1.5g1 日 2 回
経口 1 日 10mg,1 回又は
2 回分服,重症:20mg/ 日
1.1 時間
経口 1 日 1 回 5mg,最高
20mg/ 日
1.4~3.7時間
経口 1 日 1 回 20mg より
開始,重症:60mg/ 日
経口 1 日 1 回10mg より
開始,
重症:40mg/ 日まで
経口 1 日 1 回 1 ~2mg,
4mg/ 日まで
経口 1 日 1 回 2.5mg,
10mg/ 日まで
0.83 時間
血中半減期
T1/2
主な排泄経路
主な副作用
(%)
注意事項・禁忌
吸収されず,
糞便排泄
便秘,腹満,AST,ALT 上昇,嘔気・ 禁忌:完全胆道閉鎖,イオバノ
嘔吐,食欲不振 、 腸閉塞
酸による胆嚢・胆管造影中
吸収されず,
糞便排泄
便秘,腹満,AST,ALT 上昇,嘔気・
嘔吐,腸閉塞,腸穿孔,横紋筋融 禁忌:胆道完全閉塞,腸閉塞
解症
2.7 時間
1.32 時間
横紋筋融解症が発現しやすいの
肝障害,血小板減少症,末梢神経
で,腎機能検査異常者へのフィ
障害,横紋筋融解症,ミオパシー
ブラート系との併用注意
禁忌:重篤な肝障害,妊婦,授
腹 痛, 嘔 気・ 嘔 吐,AST,ALT,
乳婦,イトラコナゾール,御子
LDH,CK 上 昇, 掻 痒, 発 疹, 横
ナゾール,アタザナビル,サキ
紋筋融解症,ミオパシー
ナビル投与中
横紋筋融解症が発現しやすいの
胃不快感,嘔気,胸やけ,腹痛,
で,腎機能検査異常者へのフィ
膵炎,横紋筋融解症,ミオパシー,
ブラート系との併用注意,
禁忌:
肝機能障害,過敏症
重篤な肝障害,妊婦,授乳婦
0.6~0.9時間 9.4~10.7 時間
AST,ALT, γ ー GPT, CK 上 昇, 胃
不快感,便秘,胸やけ,めまい, 禁忌:肝機能障害(急性・慢性
不眠,頭痛,全身倦怠感,紋筋融 肝炎の急性増悪,肝硬変,肝が
解症,ミオパシー,劇症肝炎,肝 ん,黄疸)
,妊婦,授乳婦
炎など
1.7 時間
10.5 時間
蕁 麻 疹, 紅 斑, 口 内 炎,AST,
ALT,γー GPT, CK 上昇,胃不快感,
嘔気,横紋筋融解症,ミオパシー,
黄疸,血小板減少症
15.1 時間
筋肉痛,掻痒,蕁麻疹,腹痛,便
秘,嘔気,無力症,CK 上昇,横
紋筋融解症,ミオパシー,肝炎,
黄疸,過敏症,不動性めまいなど
56 時間
QT 延長,不整脈,失神,横紋筋
融解症,消化管出血,末梢神経炎,
発疹,掻痒,貧血,白血球減少症, 禁忌:重篤な心室不整脈,妊婦
肝機能腎機能障害,CK 上昇,空
腹時血糖,尿酸上昇など
4 ~ 5 時間
経口 1 回 250mg,
2 回 / 日,1,000mg/ 日まで
18 時間
経 口 1 日 10mg,1 日 1 回
2.10 時間
横紋筋融解症が発現しやすいの
で,腎機能検査異常者へのフィ
ブラート系との併用注意,
禁忌:
重篤な肝障害,胆道閉鎖,シク
ロスポリン投与中,妊婦,授乳
婦
横紋筋融解症が発現しやすいの
で,腎機能検査異常者へのフィ
ブラート系との併用注意、禁
忌:肝機能低下(急性・慢性肝
炎の急性増悪,肝硬変,肝がん,
黄疸),妊婦,授乳婦 、 シクロ
スポリン投与中
便 秘, 下 痢, 腹 痛, 悪 心 嘔 吐,
AST,ALT,γー GTP 上昇,横紋
筋融解症,アナフィラキシ
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
157
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
告がある.LDL アフェレーシスの絶対適応であり,体
HMGCoA 還元酵素を競合的に阻害して細胞内のコレス
外循環施行が可能となる 4 ~ 6 歳が治療開始となる.
テロールプールを減少し,LDL 受容体の活性を上昇す
ヘテロ接合体に関しては,小児期に冠動脈疾患などの
ることにより,血清 LDL-C 値を低下させる.LDL-C 値
動脈硬化症が臨床的に問題となることはない.しかしな
低下効果は 20 ~ 50%であり,スタチンの種類と用量に
が ら, 小 児 期 に 冠 動 脈 疾 患 の 危 険 因 子, 中 で も 高
よる.小児に対するスタチンの効果および安全性に関す
LDL-C 血症と肥満を有する患者が,成人の後,IMT,
る臨床試験の報告があり 286)-292),その脂質低下効果と
冠動脈石灰化,血管内皮機能の低下を示すエビデンスが
発達,発育を含めた安全性に問題がないことはメタアナ
あることなどから
279)-282)
,小児期におけるリスクの評
価とその対応が重要であると考えられる.
ル血症の小児に対して,血管内皮機能の改善や IMT の
すべての小児において,10 歳時までに 1 度は血清脂質
減少に効果があるという報告もある 294),295).しかしなが
値を測定して FH のスクリーニングを行い,評価をうけ
ら,小児に対する長期の安全性が確立していないことを
ることが望ましい 273),283).LDL-C 値が 140mg/dL を超え
鑑み,将来の冠動脈疾患進展を予防する効果と,副作用
る例や家族が FH であると診断された例,高コレステロ
などのリスクとを考慮した上で投薬開始を決断し,副作
ール血症や若年性冠動脈疾患の家族歴のある例について
用の出現には細心の注意をはらう必要がある.IMT な
は精査が必要である.
どにより動脈硬化が進行していると評価される例につい
10 歳以上小児 FH ヘテロ接合体患者で,6 ヶ月から1
ては,積極的な使用が必要である.
年の食事療法や生活習慣の改善によっても LDL-C 値の
スタチンの小児への使用は,肝機能障害,ミオパチー,
低下が十分でない場合,薬物療法が考慮されることにな
稀ではあるが横紋筋融解症などの副作用の発症に留意す
る. 小 児 FH ヘ テ ロ 接 合 体 患 者 に 対 す る 薬 物 療 法 は,
る他,成長および性成熟についてもモニターする必要が
LDL-C 値を低下させることを目的とする.小児 FH ヘテ
ある.スタチンは基本的には 10 歳未満の小児に使用す
ロ接合体に対する薬物療法として用いられるのは胆汁酸
べきではない.国内では使用経験は少なく安全性は確立
吸着レジン(コレスチミド,コレスチラミン),スタチ
していないが,海外では FDA が,プラバスタチンにつ
ン(プラバスタチン,シンバスタチン,フルバスタチン,
いて「8 歳以上の小児及び青年期のヘテロ FH の治療の
アトルバスタチン,ピタバスタチン,ロスバスタチン),
ために食事および生活習慣の改善の補助として,十分な
プロブコールなどであるが,日本においてはいずれの薬
食事療法を施行後も LDL-C ≧ 190mg/dL または LDL-C
剤も off label であり小児における安全性が確立されてい
≧ 160mg/dL かつ早発性の冠動脈疾患家族歴または 2 つ
ない.薬物療法の開始時期や薬剤の選択は,LDL-C 値
以上の冠動脈疾患危険因子を有する場合に投与」を認可
やそのほかのリスク(肥満,糖尿病,高血圧)などを考
している(表 21).アトルバスタチンについては,「10
慮にいれながら,個々の症例で判断する.
歳から 17 歳のヘテロ FH で食事療法施行後の LDL-C が
190mg/dL 以上,あるいは LDL-C が 160mg/dL 以上で冠
胆汁酸吸着レジン
1
動脈疾患家族歴または 2 つ以上の冠動脈疾患危険因子を
NCEP ガイドラインでは,小児 FH ヘテロ接合体患者
有する場合,投与量は 10mg/ 日を推奨用量とし,最高用
に対しての第一選択薬は胆汁酸吸着レジンとされてい
量は 20mg/ 日まで,なお用量調節は 4 週間以上で行う」
.胆汁酸吸着レジンは,小腸内で胆汁酸を吸着し
ことを認可している 296).これは,成人ではアトルバス
て体外に排泄し,腸肝循環を断絶して体内のコレステロ
タチン 80mg/ 日を認可している米国における用量であ
ールプールを減少する.体内に吸収されないために,胆
り,使用する場合は慎重を期する必要があり,用量を増
汁酸吸着レジンは小児に適しているとされる.副作用と
加する際も副作用に十分な注意を払う必要がある.女児
る
284)
して,TG 値の上昇や腹痛,便秘などの消化管症状の出
に対してスタチンを使用する場合,催奇形性の強い薬剤
現,脂溶性ビタミンの吸収阻害,他の薬剤の吸収阻害な
(FDA 分類で X)であることを鑑み 297),298),妊娠の可能性
どがある.胆汁酸吸着レジンの LDL-C 値低下効果は約
20%であり,単剤で目標値に到達するのは難しい
285)
.
には特に注意する必要がある.
3
エゼチミブ
HMGCoA 還元酵素阻害薬(スタチ
ン)
エゼチミブは,小腸粘膜に存在する NPC1L1 と結合し
スタチンは,コレステロール合成系の律速酵素である
ることにより,血中 LDL-C を低下する作用を持つ薬物
2
158
リシスでも一定の結論が出ている 293).高コレステロー
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
て,食事および胆汁由来のコレステロール吸収を阻害す
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
表 21 カテゴリーリスクに応じた薬物療法開始および目標
LDL コレステロール値
カテゴリー
主要リスクの 薬物療法開始 目 標 LDL コ レ
数
を検討すべき ステロール値
LDL コレステ (mg/dL)
ロール値
(mg/dL)
中程度リスク
0
190
160
高リスク
1 つ以上
160
130
薬物療法は,10 歳以上の患児について適応を検討する.
除去が優先される.
2
薬物治療
基礎心疾患がなく自覚症状が強い症例では第一選択薬
としてβ 遮断薬,第二選択薬としてジソピラミド,シ
ベンゾリン,ピルジカイドなどの遅い解離速度を示す
Na チャネル遮断薬,第三選択薬としてプロパフェノン
やアプリンジンなど中間の解離速度を示す Na チャネル
遮断薬が推奨される.
である.エゼチミブは,小児に対する安全性のデータは
上室期外収縮が他の不整脈(発作性心房細動,心房粗
まだないが,スタチンでコントロールが困難な重症例に
動等)のトリガーとなる場合にも治療の適応となる.心
併用薬として,また,消化管などへの副作用のために良
機能が正常の場合,第一選択薬はβ 遮断薬,第二選択
好なコンプライアンスを得るのが難しいレジンに代わる
薬は遅い解離速度を示す Na チャネル遮断薬,第三選択
薬剤として,今後,注目に値する薬剤である.
薬が中間の解離速度を示す Na チャネル遮断薬となる.
軽度心機能低下では第一選択薬はβ 遮断薬,第二選
[参考ガイドライン]
択薬は中間の解離速度を示す Na チャネル遮断薬,第三
日本動脈硬化学会編 動脈硬化性疾患予防ガイドライン
選択薬は遅い解離速度を示す Na チャネル遮断薬となる.
2007 年版
中等度以上の心機能低下がある場合中間の解離速度を示
日本動脈硬化学会編 動脈硬化性疾患予防のための脂質
す Na チャネル遮断薬の中から選択する.心不全合併例
異常症治療ガイド 2008 年版
ではジギタリスや少量のβ 遮断薬も考慮する 301).
Ⅳ
抗不整脈薬
2
心房細動
1
治療の適応
不整脈治療はカテーテルアブレーション,植え込み型
基礎心疾患のない小児や若年者において心房細動は極
除細動器(ICD)など非薬物療法の普及とともに大きく
めて稀である.心房細動は僧帽弁疾患,心筋症による心
変化した.薬物治療はそれまでの主導的治療の立場から
不全(とくに肥大型心筋症),右房拡大を伴った Fontan
非薬物治療法の困難な症例に対する治療へと後退するこ
術後例,甲状腺機能亢進症,高血圧等の基礎疾患を有す
とになった.しかし乳幼児期,解剖学的にアプローチが
る患者で心房細動がみられる 302),303).心房細動では血行
困難な頻脈性不整脈症例や心室細動など,カテーテルア
動態の障害と塞栓症が問題となり,小児でも治療の適応
ブレーションの適応が困難な不整脈も存在し未だ薬物治
となる.
療は重要な治療手段と考えられる.小児不整脈の診断と
治療のガイドラインは平成 22 年に発行された 299)日本循
2
薬物治療の実際
環器学会の薬物治療 300)のガイドラインとの整合性を図
心房細動の治療には心室のレートコントロール,洞調
り作成した.
律に戻すリズムコントロールおよび抗凝固療法を考慮す
1
上室期外収縮
る.血行動態が破綻して緊急治療が必須の場合は電気的
除細動を行う.ただし抗凝固療法が不十分で血栓,塞栓
症のリスクがある場合レートコントロールを優先する.
1
治療の適応
①心室レートコントロール
基礎心疾患のない場合は概ね予後は良好であり,出現
デルタ波のある顕性 WPW 症候群や,デルタ波のない
数が少なく無症状の場合には治療・精査の適応はない.
場合で治療選択が異なる.
頻発性,自覚症状,他の不整脈のトリガーとなる場合に
1)デルタ波のない場合
治療を考慮する.原因がある場合にはその治療や誘因の
房室結節伝導の抑制:
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
159
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
Ca チャネル遮断薬,β遮断薬,ジギタリスを用いる.
ジギタリスは活動時の心拍抑制作用は弱く,心機能が良
好な場合は Ca チャネル遮断薬やβ遮断薬を選択し必要
療を検討する.
③抗凝固療法
に応じてジギタリスを併用する.心機能低下がある場合
塞栓症を起こしやすい危険因子を持っている場合は原
はジギタリスが第一選択となる.慢性心不全でカテコラ
則ワルファリンを投与する.危険因子には塞栓・血栓症
ミンが増加しコントロールが不十分な場合は少量の β
の既往,心不全,弁膜症,Fontan 術後,高血圧などがあ
遮断薬の併用も有用である
.急性期にはまず心拍数
る.PT-INR 2.0 ~ 2.5 を目標とする.心房細動が 48 時
246)
を 90 ~ 100/ 分以下にすることを目標とする.急速な徐
間以上持続した症状では血栓塞栓症の回避のために事前
拍化が必要な場合は静注薬を用いる.(クラス IIa レベ
の十分な抗凝固療法が必要である.最低 3 週間以上の十
ル C)
分なワルファリン療法または経食道心エコー検査で左心
2)WPW 症候群の場合
耳内血栓のないことを確認した後に直ちにヘパリン投与
レートコントロールの標的は副伝導路となり,Na チ
を開始して早期に除細動を行う.除細動後に新たに心房
ャネル遮断薬(ピルジカイド・フレカイニド・プロカイ
内血栓が形成される可能性があり,除細動後最低 4 週間
ンアミド等)や K チャネル遮断薬(ニフェカラント・ア
はワルファリンを投与し,4 週間洞調律が維持されてい
ミオダロン;これらは適応がない)を選択する.急速な
れば抗凝固療法を終了してもよい.
(クラス IIb レベル
徐拍化が必要な場合は静注薬を使用する.房室結節伝導
C)
を抑制するジギタリス・Ca チャネル遮断薬などは,副
伝導路を介する心房からの興奮伝播を促進するため禁忌
3
心房粗動
1
治療
となる.心房細動から心室細動への移行が危惧されるた
め予防的には副伝導路に対するカテーテルアブレーショ
ンが望ましい.(クラス IIb レベル C)
成人で慢性期のレートコントロールの目標は,安静時
心拍数 60 ~ 80/ 分,中等度の運動時の心拍数 90 ~ 115/
①血行動態が不安定な場合
分をめざすことが示されている 304).新生児・乳幼児で
血行動態が破綻している場合には,電気的除細動が優
は年齢に応じてそれよりも高い心拍数を目標となる.十
先される.(クラス IIa レベル C)
分なレートコントロールが得られない場合は,他因子(貧
血・甲状腺機能亢進症・感染症・痛み・気管支拡張剤用
β刺激薬など)の関与を考慮する必要がある.
②リズムコントロール
②血行動態が安定している場合
レートコントロール:房室結節を抑制する薬物(β
遮断薬・ジゴキシン・ベラパミル・ジルチアゼム)を投
与する.(クラス IIa レベル C)
基礎心疾患を有さない孤立性心房細動
リズムコントロール:第一選択としては心房筋の不応
1)発作性心房細動
期延長を目的に中等度以上の K チャネル遮断作用を持
心房細動の持続が 7 日以内の発作性心房細動では Na
つ薬物を選択する.静注薬ではプロカインアミド・ニフ
チャネル遮断薬が停止に効果的.解離速度の遅い Na チ
ェカラント,経口薬ではプロカインアミド・ベプリジル・
ャネル遮断薬(ジソピラミド・ピルジカイド・フレカイ
ソタロールなどである.第二選択は峡部緩徐伝導の抑制
ニド等)の除細動効果が高い.(クラス IIb レベル C)
を目的とし解離速度の遅い Na チャネル遮断薬を用い
2)持続性心房細動
る.(クラス IIb レベル C)
心房細動が 7 日以上持続しリモデリングの進行した心
房では Na チャネル遮断薬の効果が低く,心機能低下例
4
上室頻拍,心房頻拍
1
薬物療法
では副作用を呈しやすいといわれている.アミオダロン・
ベプリジル・ソタロールなどの multi-channel blocker が
持続性心房細動の停止に効果があることが示されてい
160
る 246).(クラス IIb レベル C)
多くの上室頻脈にカテーテルアブレーションが適応と
3)基礎心疾患を有する心房細動
なるが,新生児・乳幼児やアブレーションを希望しない
基礎心疾患のある場合は,まずその原因を改善する治
例,アブレーションが不成功に終わると予測される例で
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
は抗不整脈薬による発作の予防を行う.薬物治療は発作
い)
停止と再発予防に分けて考える必要がある.
・ 第一選択としてジゴキシンが選択される.ただし顕
性 WPW 症候群を除く.第二選択としてβ 遮断作
①治療標的
用のない中間の解離速度を示す Na チャネル遮断薬
1)WPW 症候群(副伝導路)に伴う房室回帰頻拍
であるプロカインアミド,キニジン,アプリンジン
副伝導路を標的とする場合:Na チャネル遮断薬や K
を用いる.(クラス IIa レベル C)
チャネル遮断薬が有効である.房室結節を標的とする場
③心機能低下は軽度もしくは正常で,頻拍中 P 波が
合:Ca チャネル遮断薬,β遮断薬あるいは ATP 急速静
QRS の直前に確認される場合(心房頻拍の可能性
注が有効である.(クラス IIa レベル C)
が高い.心房内リエントリー頻拍,洞結節リエント
2)房室結節リエントリー頻拍
リー頻拍,fast-slow 型房室結節リエントリー頻拍が
ATP 急速静注,Ca チャネル遮断薬,あるいは β 遮断
含まれるがまれである)
薬が有効である.(クラス IIa レベル C)
・ 心房頻拍に対しては K チャネル遮断作用のある
3)心房頻拍
薬剤か中間もしくは遅い解離速度を示す Na チャ
自動能亢進,トリガードアクティビティー,マイクロ
ネル遮断薬を用いる.(クラス IIa レベル C)
リエントリーなどの機序がある.したがってβ 遮断薬,
④心機能低下は軽度もしくは正常で,頻拍中 P 波が確
ATP,Ca チャネル遮断薬,Na チャネル遮断薬,K チャ
認できないか QRS の直後に確認される場合(房室
ネル遮断薬が用いられる.β遮断薬,Ca チャネル遮断
結節リエントリー頻拍または房室回帰頻拍の可能性
薬は頻拍停止に有効な場合もあり第一選択薬である.た
が高い)
だし心機能低下を伴う場合,いずれの薬剤も投与量,投
・ ジゴキシン,β 遮断薬,ベラパミルが用いられる.
与方法に注意を要する.第二選択薬としては,Na チャ
第二選択薬としては房室回帰頻拍を考慮し副伝導
ネル遮断薬(フレカイニド,プロパフェノン,プロカイ
路の伝導抑制を目的に速い解離速度を示す Na チ
ンアミド,キニジン,K チャネル遮断薬(ソタロール,
ャネル遮断薬もしくは K チャネル遮断作用のあ
アミオダロン)が用いられる.頻拍停止効果が得られな
る薬剤(プロカインアミド,キニジン,ジソピラ
い場合には心室レートをコントロールする目的でジゴキ
ミド,シベンゾリン,ソタロール)か,中間もし
シン,β遮断薬,Ca チャネル遮断薬を用いる.(クラ
くは遅い解離速度を示す Na チャネル遮断薬(ピ
ス IIb レベル C)
ルジカイニド,フレカイニド,プロパフェノン,
アプリンジン)を用いる.(クラス IIa レベル C)
②その他の頻拍停止
血行動態が破綻し,緊急性を要する場合,電気的除細
5
心室期外収縮,特発性非持続
性心室頻拍
1
治療の適応
動を行う.循環動態が落ち着いている場合,反射性に迷
走神経を緊張させる手技(アイスバッグ法など)を試み
る.(クラス IIa レベル C)
③発作予防
①中等度以上の心機能低下を示し,心電図上頻拍中の P
波が QRS 波の直前に確認される場合(心房頻拍の可
能性が高い)
・ 陰性変力作用の少ない Na チャネル遮断薬が第一選
択となる.したがってβ遮断作用のない Na チャネ
ル遮断薬のうち中間の解離速度を示すプロカインア
ミド,キニジン,アプリンジンが用いられる.(ク
(1)失神,めまい,心停止など症状のあるもの.頻拍誘
発性心筋症,心不全などの既往のあるもの.
(2)運動負荷で再現性をもって,心室拍数 200 以上の非
持続性心室頻拍が誘発されるもの.または非持続性
心室頻拍多形性心室頻拍が誘発されるもの.
(3)運動とは無関係に心室拍数 200 以上の非持続性心室
頻拍が繰り返しおこるもの.
(4)多形性心室頻拍が頻回に見られるもの.
ラス IIa レベル C)
②中等度以上の心機能低下を示し,頻拍中の P 波が確認
できないか QRS 直後に認められる場合(房室結節リ
エントリー性頻拍または房室回帰頻拍の可能性が高
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
161
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
2
薬物治療
2
①頻拍停止
①頻拍停止
右脚ブロック・左軸偏位型:Ca チャネル遮断薬静注,
効果がなければβ遮断薬や解離の遅い Na チャネル遮断
薬(ジソピラミド
治療
305)
,フレカイニド
306),307)
など)を投
(1)血行動態が不安定な場合には緊急に電気的除細動を
行う.(クラス IIa レベル C)
(2)血行動態が不安定でなければ解離速度の速い Na チャ
与する.(クラス IIa レベル C)
ネル遮断薬(リドカインやメキシレチンなど)を静
左脚ブロック・下方軸型:β 遮断薬,効果なければ
注する.有効であれば点滴静注を持続する.
Ca チャネル遮断薬や,解離速度の遅い Na チャネル遮断
薬を投与する.(クラス IIa レベル C)
それ以外の心室頻拍:解離速度の速い Na チャネル遮
断薬(リドカイン,メキシレチンなど)を投与する.
通常の抗不整脈薬が無効の場合にはアミオダロンやニ
フェカラントが適応になる.
(クラス IIa レベル C)
Ca チャネル遮断薬(ベラパミル)を静脈内投与する.
(クラス IIa レベル C)
(4)左脚ブロック・下方軸型の心室頻拍
ATP の静脈内投与を行い,効果がなければ β 遮断薬,
さらに効果がなければ Na チャネル遮断薬の投与を
行う.(クラス IIa レベル C)
②頻拍予防
(5)その他の場合
1)右脚ブロック・左軸偏位型
中 間 型 の 解 離 速 度 を 持 つ Na チ ャ ネ ル 遮 断 薬
Ca チャネル遮断薬やβ遮断薬の投与を優先して行
う.有効でなければ Na チャネル遮断薬(メキシレチ
ン
(3)右脚ブロック・左軸偏位型の心室頻拍
308)-310)
ジソピラミド,フレカイニドなど)を投与する.
(クラス IIa レベル C)
2)左脚ブロック・右軸偏位下方軸型
β遮断薬,フレカイニド
311),312)
などの Na チャネル遮
(intermediate drug)(プロカインアミドなど)や他の
Na チャネル遮断薬を静注する.
②頻拍予防
(1)右脚ブロック・左軸偏位型の心室頻拍
Ca チャネル遮断薬を投与する.効果がなければ β
断薬を投与する.(クラス IIa レベル C)
遮断薬や Na チャネル遮断薬(ジソピラミド 305),プ
3)運動誘発性のものや交感神経緊張時に出現するもの
ロカインアミド,メキシレチン 308)-310),フレカイニ
β遮断薬 313),314),Ca チャネル遮断薬など.(クラス IIa
ド 306),307)など)も有効な事が多い.(クラス IIa レ
レベル C)
ベル C)
4)交感神経緊張とは無関係もしくははっきりしない場合
結合解離速度の遅い Na チャネル遮断薬(slow drug)
(2)左脚ブロック・下方軸型の心室頻拍
β遮断薬や Ca チャネル遮断薬を投与する.Na チャ
(ジソピラミド,フレカイニドなど).通常の抗不整脈薬
ネル遮断薬(ジソピラミド 297),プロカインアミド,
が無効の場合にはアミオダロン,ソタロール,ベプリジ
フレカイニド 306),307),311),312)など)も有効な事が多い.
ルが適応になる.(クラス IIa レベル C)
6
特発性持続性心室頻拍
(クラス IIa レベル C)
(3)運動時や交感神経緊張時に出現するもの
β遮断薬 315),316)や Ca チャネル遮断薬を投与する.
(ク
ラス IIa レベル C)
1
(4)難治性の場合
治療の適応
K チャネル遮断薬(ソタロール 317)など)やアミオダ
頻拍が原因の症状または心不全を有するものや心機能
ロン 318)-320),ベプリジルを投与する.(クラス IIa 低下を認めるもの,運動誘発性で心拍数の速いもの.
レベル C)
心室拍数が 120/ 分以下
315)
または洞調律とほぼ類似の
心拍数で基礎心疾患がなく,心機能障害がなければ原則
7
多形性心室頻拍
として治療適応にはならない.
多形性心室頻拍は頻拍中の QRS 波形に多形性を認め
る頻拍で,多くは非持続性で自然停止するが,時に心室
162
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
細動に移行する.多形性心室頻拍は QT 延長を伴ってい
る場合と伴っていない場合に分けられる.この区別は,
両者の治療法が異なるので重要である
321)
.
QT 延長を伴わない多形性心室頻拍は,心筋炎,心不
ない場合にはアミオダロン,ニフェカラントを投与する.
(クラス IIb レベル C)
②頻拍の予防
全,ショックなどの心機能低下に伴って起こる場合が多
CPVT の予防にはβ遮断薬(プロプラノロール,ア
いが,この場合は心室細動への前駆的不整脈といえる.
テ ノ ロ ー ル )314),332),Ca チ ャ ネ ル 遮 断 薬( ベ ラ パ ミ
明らかな心疾患を伴わずおこる多形性心室頻拍(特発性)
ル)314),332),フレカイニド 333),334)が使用される.(クラ
の代表的なものに,Brugada 症候群,カテコラミン誘発多
ス IIa レ ベ ル C)ICD の 適 応 も 考 え ら れ て い る
形性心室頻拍(catecholaminergic polymorphic ventricular
が 314),322), 反 対 に 頻 回 作 動 の 危 険 性 も 報 告 さ れ て い
tachycardia: CPVT)313),314),322)がある.したがってここ
る 335).そのほか星状神経節ブロックの有効性も報告さ
では,小児期発症例の多い CPVT の薬物治療について記
れている 336),337).(クラス IIb レベル C)
載する.
CPVT は極めて稀な心室頻拍である 313),314),322).本症
8
QT 延長症候群
1
薬物治療
の定義は,① 3 心拍以上,2 種類以上の QRS 波型をも
つ心室頻拍がカテコラミンまたは運動負荷で誘発される
こと,② 電解質異常,心筋症,虚血性心疾患など多形
性心室頻拍のおこりうる病態が存在しないこと,③ QT
延長症候群,Brugada 症候群などが否定されたものと定
義される.
1
小児の QT 延長症候群は運動やストレスが原因で失神
が誘発されるものが大部分である.このような場合の第
CPVT の機序
一選択薬がβ 遮断薬である.(クラス IIa レベル C)
CPVT は常染色体優性遺伝例では 1q42-q43 に存在す
るリアノジン受容体 RyR2 の遺伝子異常が 323),324),常染
色体劣性遺伝例では1p11-p13.3に存在する calsequestrin2
(CASQ2)遺伝子異常が発見された 325)-328).これらの異
2+
常により,筋小胞体から大量の Ca 放出がおこり,遅
延後脱分極を機序とする心室頻拍が起こるとされてい
る.
2
② Na チャネル遮断薬(メキシレチン)
SCN5A の機能亢進で発症する LQT3 では有効と報告
されている.(クラス IIa レベル C)
③硫酸マグネシウム
torsade de pointes(TdP)の急性期治療として有効で
治療の適応
CPVT は予後が不良であり,発見された場合全員が治
療の適応となる.
3
①β遮断薬
治療
ある.(クラス IIa レベル C)
④ベラパミル
Ca チャネル遮断薬の使用例の報告は少ない.しかし
LQT8(Timothy 症候群)では使用されることが考えら
れる.
①頻拍の停止
⑤カリウム
多形性心室頻拍,心室細動が持続し,血行動態が破綻
特に LQT2 で血清 K を高値に保つことが有効であっ
している場合には,まず電気的除細動を行い,直ちに小
たとの報告がある.(クラス IIa レベル C)
児二次救命処置(pediatric advanced life support: PALS)
に基づいた救命処置を開始する 329,330).(クラス IIa レ
ベル C)
反復する場合には QT 延長の有無や他の原因を検索す
る.他の原因がある場合には原因治療を行う.CPVT に
生じる二方向性心室頻拍や多形性心室頻拍の停止には
β 遮断薬や ATP331),ベラパミルを使用する.CPVT で
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
163
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
9
抗不整脈薬の適応と用量
③遅い解離速度を示す Na チャネル遮断薬
1)フレカイニド
1
Na チャネル遮断薬
①速い解離速度を示す Na チャネル遮断薬
1)リドカイン
適応疾患;頻脈性不整脈(発作性心房細動・粗動,発
作性上室性,心室性)
静注薬:1 ~ 2 mg/kg,100 ~ 150 mg/m2 緩徐に静注.
経口薬:3 ~ 5 mg/kg/ 日
小児への適応が承認されている.
適応疾患;主に心室頻拍(心房筋に対しては作用が弱
小児における経口投与での半減期は 1 ~ 12 歳が約 8
い)
時間,1 歳未満と 12 歳以上では 11 時間となってい
静注薬;1 ~ 2 mg/kg 緩徐に静注
る 338).強力な Na チャネル遮断作用と,弱い K チャネ
持続静注;1 ~ 3mg/kg/ 時(15 ~ 50μg/kg/ 分)
ル遮断作用を有する.
2)メキシレチン
2)ピルジカイニド
適応疾患:主に心室頻拍(心房筋に対しては作用が弱
適応疾患;頻脈性不整脈(上室性及び心室性)
い),また QT 延長症候群(特に LQT3)
静注薬:1 ~ 1.5mg/kg,10 分かけて静注
静注薬;2 ~ 3mg/kg 緩徐に静注
経口薬:2mg/kg/ 日
持続静注;0.4 ~ 0.6mg/kg/ 時
純粋な Na チャネル遮断作用のみを有する
経口薬:5 ~ 10mg/kg/ 日
②中間の解離速度を示す Na チャネル遮断薬
1)プロカインアミド
2
Ca チャネル遮断薬
ベラパミル,ジルチアゼムは主に L 型 Ca チャネルを
ブロックすることを目的に投与される.ベプリジルは
適応疾患:期外収縮(上室性,心室性),発作性頻拍(上
Ca チャネル遮断薬に分類されているが,L 型 Ca チャネ
室性,心室性),心房細動,心室不整脈の予防
ル抑制効果のみならず,遅延整流 K+ 電流の遅い成分
静注薬;5 ~ 10 mg/kg 5 分かけて静注
(IKs),速い成分(IKr),心房筋に特異的な非常に速い
持続静注;20 ~ 60 μ g/kg/ 分
活性化過程を示す遅延整流 K+ 電流(IKur),アセチル
経口薬:30 ~ 50 mg/kg/ 日
コリン感受性 K+ 電流(IK,ACh),Na 電流抑制など幅
N- アセチルプロカインアミド(NAPA)は,K チャネ
広い作用があり,III 群薬に近い性質を持つ.
ル遮断作用を有する.
2)ジソピラミド
①ベラパミル 339),340)
適応疾患:心房不整脈,心室不整脈や上室頻拍
適応疾患;心房細動,心房粗動,発作性上室頻拍,頻
静注薬:1 ~ 2 mg/kg 5 ~ 20 分かけて静注
脈性不整脈
経口投与:5 ~ 10 mg/kg/ 日
成人:
抗コリン作用による心房頻拍時の心室レートの上昇や
静注薬;5 mg を必要に応じ希釈し,5 分以上かけて
緑内障の悪化,排尿困難,便秘,他に低血糖や無顆粒
緩徐に静注する.
球症もみられることがある.
経口薬;1 回 40 ~ 80 mg を 1 日 3 回経口内服.
3)アプリンジン
適応疾患:頻脈性不整脈
小児:
静注薬;0.1 ~ 0.2mg/kg 希釈し 5 分以上かけて緩徐に
静注薬:1 ~ 1.5 mg/kg,5mg/ 分かけて静注.
静注する.(但し,1回 5mg を超えない)
経口薬:1 ~ 1.5 mg/kg/ 日
経口薬;3 ~ 6 mg/kg/ 日を分 3 経口内服.
Ca チャネルと K チャネルの遮断作用と,洞結節細胞
の第 4 相において過分極内向き電流を抑制する作用を
有する.
②ジルチアゼム 339),341)
適応疾患;頻脈性不整脈(上室性)
成人:
静注薬;上室頻拍症の場合,10mg を必要に応じ希釈
し,約 3 分かけて緩徐に静注する.
164
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
小児:
初期投与量 5 mg/kg(30 分以上かけて)または 1 mg/
静注薬;0.1 ~ 0.2mg/kg 希釈し 5 分以上かけて緩徐に
kg bolus を 5 回まで(5 分以上間隔をあけて),
静注する.
③ベプリジル
適応疾患:持続性心房細動,頻脈性不整脈(心室性)
:
維持量 10 mg/kg/ 日.
経口薬:初期投与量は 10 ~ 20 mg/kg(分 1 ~ 2),1 ~
2 週間,維持量は 5 ~ 10 mg/kg(分 1 ~ 2).
有効血中濃度:500 ~ 1000 ng/mL.
他の抗不整脈薬が使用できないか,又は無効の場合
Saul ら 347)の小児を対象としたアミオダロンの効果に
成人:
関する前方視的研究(対象:日齢 30 ~ 14.9 歳,中央値
経口薬;50 ~ 100 mg/ 日,分 2.
1.6 歳の小児 61 例:上室頻拍 26 例,JET31 例,心室頻拍
小児:
4 例)では,効果が出るまでの時間は 1 mg/kg,5 mg/
経口薬;1 ~ 2 mg/kg/ 日を分 2 経口内服.
kg,10 mg/kg でそれぞれ 28.2,2.6,2.1 時間(中央値)
有効血中濃度は,感度以下でも有効な場合があり,
で初期投与量に比例すると報告され,初期投与量 1 mg/
患者の状態にあわせ少量から開始することが好まし
kg では十分な効果が得られないと結論している.副作
い.
用は 87%に認められ,多い順に,低血圧,嘔吐,徐脈,
[Ca チャネル遮断薬使用上の注意,副作用]
①新生児,乳児期には禁忌とされる.ベラパミル,ジル
房室ブロック,吐気であった.アミオダロン投与自体が
原因となった可能性のある死亡が 2 例あるため,小児で
チアゼムは陰性変力作用を有するため心機能の低下を
は副作用の出現に十分注意すべきである.
伴う患者には慎重投与が必要である.陰性変力作用を
以上より,小児の重症頻脈性不整脈に対する静注アミ
有する他薬剤との併用時にも注意を要する.また Ca
オダロンの投与法は,初期投与量 5mg/kg をゆっくり静
チャネル遮断薬の過量投与は,完全房室ブロック 342),
注し,必要に応じて初期投与量と同量を 1 ~ 2 回追加し,
ショック 343)や死亡の原因 344),345)になりうるので,投
10 ~ 20 mg/kg/ 日を数日間維持する方法が適切と考えら
薬量,方法について詳細に保護者等に説明を行うと同
れる.
時に誤飲予防の説明を行う.
K チャネル遮断作用は心房筋,心室筋,プルキンエ線
②乳児期以降の患者においても心機能の低下した患者に
は注意を要する.
③グレープフルーツはチトクローム P450 の一種である
維,洞結節,房室結節を含むすべての心筋細胞の APD,
不応期を延長,Na チャネル遮断作用,β 受容体遮断作
用,Ca チャネル遮断作用としての性質を合わせ持つ.
CYP3A4 の活性を阻害し血中濃度を上昇させ副作用
他の抗不整脈薬にみられない特徴として,心収縮能の抑
の発現が高まる.
制が少ないこと,血中濃度の半減期が 3 ~ 15 週間と極
④ベプリジルの特異的作用は,アミオダロンと同様,陰
めて長いことがあげられる.ほとんどが肝臓代謝である.
性変力作用は少ないが,心室筋の IKr,IKs を抑制す
副作用は,心外毒性として肺線維症,甲状腺機能障害,
ることによる QT 延長に注意する必要がある.ベプリ
角膜沈着,光線過敏,発疹,頭痛,嘔吐などがあり,心
ジルによる QT dispersion がβ遮断薬との併用で減少
電図変化としては RR,PR,QRS,QT 時間の延長がみ
することが報告されており TdP の発生が抑制される可
られ,TdP の発症がある.
能性 346)がある.
3
K チャネル遮断薬
①アミオダロン
②ソタロール
適応疾患;心室頻拍,アミオダロンと同様である.
経口薬:1 ~ 2 mg/kg から始め,6 mg/kg まで増量(分
2),または 2 歳以上の小児に対して体表面積換算で,
適応疾患;ほとんどの上室性,心室性頻脈性不整脈に
90 ~ 100 mg/m2/ 日(分 2)で開始し,最大 250mg/m2/ 日.
対して有効である可能性があるが,後述のような副作
新生児および 6 歳以上では 2mg/kg/ 日で開始し,目標
用の問題があり,一般に他の抗不整脈薬が無効な場合
維持量は 4mg/kg/ 日,新生児を除く 6 歳以下の乳幼児
や致死的な不整脈に対して用いる薬剤として位置づけ
では 3mg/kg/ 日で開始し,目標維持量は 6mg/kg/ 日と
られている.小児でも先天性心臓病術後を含む様々な
されている 348).
不整脈に対する有効性が報告されている.
有効血中濃度:800 ~ 5,000ng/mL.
静注薬:
心筋の早く活性化される遅延整流 K チャネル電流
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
165
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
(IKr)を抑制して APD を延長させ,心房筋,心室筋,
血糖の既往がある場合はメトプロロールを,睡眠障害が
房室結節,房室副伝導路(順行性,逆行性伝導の両者)
ある場合はアテノロールを使用することが推奨されてい
の不応期を延長させる.ソタロールは K チャネル抑制
る.
に加え II 群(β 受容体遮断薬)としての作用を合わせ
持つ.
副作用としては疲労感,めまい,呼吸困難など.催不
経口薬:0.5 ~ 2 mg/kg/ 日(分 1)
整脈性は約 10%にみられ,徐脈
有効血中濃度:200 ~ 500 ng/mL.
349)
,最も重篤なものは
QT 延長に伴う TdP がある.特に徐脈や低カリウム血症
副作用としては初期に疲労感を訴えることがあるが,
は TdP 発症の誘因となるため注意を要する.
投与中止を必要とする例はほとんどない.血液脳関門を
③ニフェカラント(シンビット)
適 応疾 患:先 天性 心疾 患 術後 の 接 合 部 異 所 性 頻拍
(JET)に対する有効性などが報告されている 350).
通過しないため,中枢神経系の副作用はプロプラノロー
ルよりも少ない.
③ナドロール
静注薬:初期投与量 0.15 ~ 0.3 mg/kg(10 分かけて)
経口薬:0.5 ~ 2.5 mg/kg/ 日(分 1)
維持量 0.2 ~ 0.4 mg/kg/ 時.
有効血中濃度:不明.
有効血中濃度:不明.
純粋な IKr チャネル遮断作用を持つ.難治性の心室頻
拍,心室細動に対して高い抑制効果があるとともに,心
室細動に対する除細動閾値を低下させることが知られて
血液脳関門をほとんど通過しないため中枢神経系の副
作用はプロプラノロールよりも少ない.
④メトプロロール
いる 351).
経口薬:1 ~ 2 mg/kg/ 日(分 3)
副作用として問題になるのは III 群薬に共通のものと
有効血中濃度:50 ~ 100 ng/mL.
して QT 延長に起因する TdP や徐脈がある.
4
β受容体遮断薬
β受容体遮断薬にはβ1 受容体選択性(心臓選択性)
と非選択性がある.
プロプラノロールと同様に血液脳関門を通過し,片頭
痛の治療にも用いられる.副作用はプロプラノロールと
ほぼ同様であるが,頻度は低い.
⑤ランジオロール
β1 受容体選択性薬剤としてはアテノロール,メトプ
静注薬:2.5μg/kg/ 分で開始,数分ごと倍々にして最
ロロール,ビソプロロールなど,非選択性としてはプロ
大 80 μ g/kg/ 分.
プラノロール,カルテオロール,ナドロールなどがある.
推奨薬用量は初期量 40μg/kg/ 分,維持量 10μg/kg/ 分
適応疾患:洞性頻拍や異所性心房頻拍のレートの減少,
であるが 352),3 ~ 5μg/kg/ 分の低用量で開始して漸増す
心房細動における房室伝導能の低下による心拍数の減
る方法でも早期に十分な心拍数低下効果が得られる可能
少,房室回帰頻拍,房室結節リエントリー性頻拍の停止・
性がある.血圧低下の副作用は少ない.
予防を目的として使用されるほか,カテコラミン誘発性
有効血中濃度:不明.
多形心室頻拍,トリガードアクティビティーが原因と考
わが国で開発されたβ1 選択性の高い超短時間作用性 β
えられる右室流出路起源心室性不整脈,先天性 QT 延長
遮断薬で,術中使用に加えて,2006 年に周術期管理に
症候群に対して有効である.
おける使用が認められた.小児心臓術後頻脈性不整脈の
①プロプラノロール
静注薬:0.05 ~ 0.1 mg/kg をゆっくり静注.
経口薬:1 ~ 4 mg/kg/ 日(分 3 ~ 4)
有効血中濃度:50 ~ 100 ng/mL.
小児領域で最も使用頻度の高いβ遮断薬である.
抑制効果が報告されている 353).
⑥ ATP
適応疾患:房室回帰頻拍,房室結節リエントリー頻拍
(一過性房室伝導抑制),Ca2+ 依存性のトリガードアク
ティビティーによる頻脈性不整脈(右室流出路起源心
副作用としては,心収縮能低下,房室ブロック,低血糖,
室頻拍,CPVT など)に有効とする報告もある.
気管支攣縮,中枢神経症状などがある.中枢神経症状と
静注薬:0.1 ~ 0.3 mg/kg を急速静注.
しては抑うつ症,睡眠障害などがある.気管支攣縮や低
166
②アテノロール
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
半減期が短く,できるだけ心臓に近い上肢末梢静脈か
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
ら,後押しのための生理食塩水などを用いて急速静注す
発現濃度が成人より高めである.
る必要があり,末梢循環不全や三尖弁逆流があると十分
な効果が得られないことがある.
アデノシンの抗頻脈性不整脈作用は,K +電流の透過
性を高めて APD を短縮するとともに L 型 Ca チャネル
Ⅴ
降圧薬
の電流を抑制して,洞結節自動能の低下,房室結節伝導
の抑制,心房自動能の抑制作用を発揮する.わが国で用
いられるのは ATP であるが,ATP は血中に投与される
1
小児高血圧の一般的治療指標
1
疫学
とすみやかにアデノシンに代謝されて同様の効果を発揮
する 354).
⑦ジゴキシン
本邦の血圧健診では小学校高学年から中学生の 0.1 ~
適応疾患:房室回帰頻拍,房室結節リエントリ頻拍な
1%,高校生の約 3%に高血圧が見出される 360).一方,米
ど房室伝導抑制を目的に使用される.ジゴキシンは副
国における小児高血圧の有病率は約 2 ~ 5 %である 361).
伝導路の不応期を短縮するため,早期興奮症候群(顕
小児,思春期の高血圧の多くは本態性高血圧であり,肥
性 WPW 症候群)がある場合に心房細動が出現すると
満や家族歴と関連することが多い.二次性高血圧は成人
偽 性心 室 頻拍, 突 然死 が 起こ るこ と が懸 念 さ れる
ではまれであるが,小児では成人よりも比較的頻度が高
が
355,356)
,早期興奮症候群の有無にかかわらずジゴキ
シンの安全性を示す報告もある
357),358)
い.低年齢や重度の高血圧では二次性の可能性が高く降
圧薬治療が必要となることが多い.
.
静注薬:乳幼児 0.04 mg/kg を急速飽和,学童 0.03mg/
各年齢層の高血圧の原因として代表的なものを示
kg を急速飽和(いずれもはじめに半量,つづいて残
)
す 362(表
22).
り半量を 2 ~ 3 回に分けて 6 ~ 8 時間ごとにゆっくり
静注)
定義
2
経口薬:乳幼児 0.0075 ~ 0.01 mg/kg/ 日(維持量),学
本ガイドラインでは,小児高血圧の基準値を米国小児
童 0.005 ~ 0.0075 mg/kg/ 日(維持量)(分 1 ~ 2).
高血圧ガイドラインにおける 50 パーセンタイル身長群
有効血中濃度:0.5 ~ 2.0 ng/mL.ジゴキシンは治療域
の性別・年齢別血圧基準値とした(表 23).ただし,低
359)
.急
身長または高身長の場合は今回の基準値よりも収縮期で
速飽和が必要でないときは初めから維持量を投与する
3 ~ 5mmHg,拡張期で 1 ~ 2mmHg 異なる場合がある事
方が安全性は高い.
を考慮すべきである.
が狭いため血中濃度のモニターが重要である
作用:心筋の Na /K ATPase 活性を抑制し,細胞内
血圧は測定値により以下のように定義される 363).
Na + 濃 度 を 上 昇 さ せ, そ の 結 果 生 じ る Na + 勾 配 が
・ 正常血圧:収縮期,拡張期血圧ともに 90 パーセン
+
+
+
2+
2+
Na -Ca 交換系に作用して細胞内 Ca 濃度を上昇さ
せ,心筋収縮性を増強する一方,自律神経を介し,洞
タイル未満の場合
・ 前高血圧(prehypertension):収縮期,拡張期血圧
結節機能,房室伝導を抑制する.また心房筋の APD,
の一方または両方が 90 以上から 95 パーセンタイル
有効不応期を短縮させる.
未満,または(年齢の 90 パーセンタイル未満であ
注意点;T1/2 は乳児で 20 時間,小児では 40 時間であ
っても)120/80mmHg を超える場合
る.腎から排泄され,腎機能障害がある場合や腎機能
・ 高血圧(hypertension):収縮期,拡張期血圧の一方
が未熟な低出生体重児では投与量を減量する.
または両方が 95 パーセンタイル以上を日または週
副作用;心症状;洞性徐脈,房室ブロック,心房頻拍,
を変えて 3 回以上認められた場合
stage Ⅰ:収縮期,拡張期の一方または両方が 95
▼
心室性不整脈など
心以外;悪心,嘔吐,めまい,色覚異常,筋力低下,
パーセンタイルから 99 パーセンタイル +5mmHg
食指不振,倦怠感などがある.このような症状が見ら
の範囲内にある場合
リウム血症の補正を行う.一般に中毒は血中濃度 2.0
ng/mL 以上で起きるが,小児(特に新生児)では中毒
stage Ⅱ:収縮期,拡張期の一方または両方が 99
▼
れたときは血中濃度と血清電解質を測定し,特に低カ
パーセンタイル +5mmHg を超える場合
2004 年に改訂された米国小児高血圧ガイドラインで
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
167
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
表 22 各年齢層における高血圧の病因および二次性高血圧の原因疾患 文献 362,378,385 より一部改編
年齢層
病因
新生児期
腎性高血圧 67 ~ 87%
腎実質性疾患
線維筋異形成
腎動脈血栓症
ネフローゼ症候群
症候性(ex. NF type 1)
低形成腎
血管炎(ex. 高安病)
腎盂腎炎
腎静脈血栓症
逆流性腎症
大動脈縮窄症
多発性嚢胞腎
腎動静脈瘻
溶血性尿毒症候群
その他
水腎症
先天性副腎皮質過形成
腎動脈狭窄
腎先天奇形
幼児期~ 6 歳
腎実質性疾患
大動脈縮窄症
腎動脈狭窄
6 ~ 10 歳
腎実質性疾患
腎動脈狭窄
その他の先天奇形
本態性高血圧
思春期以降
腎血管性高血圧 5 ~ 10%
大動脈縮窄症
遺伝性の高血圧症
内分泌性高血圧 10%
腎実質性疾患
(ミネラルコルチコイド過剰症など)
糖尿病
本態性高血圧
褐色細胞腫
クッシング症候群
甲状腺機能亢進症
高カルシウム血症
表 23 米国小児高血圧ガイドラインにおける 50 パーセンタイル身長小児の性別・年齢別血圧基準値 363)
男児
女児
90th
95th
99th
90th
95th
99th
1歳
99/52
103/56
110/64
100/54
104/58
111/65
2歳
102/57
106/61
113/69
101/59
105/63
112/70
3歳
105/61
109/65
116/73
103/63
107/67
114/74
4歳
107/65
111/69
118/77
104/66
108/70
115/77
5歳
108/68
112/72
120/80
106/68
110/72
117/79
6歳
110/70
114/74
121/82
108/70
111/74
119/81
7歳
111/72
115/76
122/84
109/71
113/75
120/82
8歳
112/73
116/78
123/86
111/72
115/76
122/83
9歳
114/75
118/79
125/87
113/73
117/77
124/84
10 歳
115/75
119/80
127/88
115/74
119/78
126/86
11 歳
117/76
121/80
129/88
117/75
121/79
128/87
12 歳
120/76
123/81
131/89
119/76
123/80
130/88
13 歳
122/77
126/81
133/89
121/77
124/81
132/89
14 歳
125/78
128/82
136/90
122/78
126/82
133/90
15 歳
127/79
131/83
138/91
123/79
127/83
134/91
16 歳
130/80
134/84
141/92
124/80
128/84
135/91
17 歳
132/82
136/87
143/94
125/80
129/84
136/91
収縮期 / 拡張期血圧(mmHg)
身長によって基準値が異なるため、各身長における血圧基準値は文献 353 を参照.
は,水銀血圧計を用いて測定した National Health and
一方,本邦における高血圧治療ガイドラインでは,小
Nutrition Examination Surveys(NHANES)による過去
中学生を対象に自動血圧計を用いて測定し性別・年齢別
の血圧データベースに 1999 ~ 2000 年の測定値を追加し,
に 95 パーセンタイル値を血圧管理用基準として示し
性別・年齢・身長別に 50,90,95,99 パーセンタイル
)
た 360(表
24).
の血圧を基準値とした
168
.2009 年の欧州小児高血圧治療
363)
米国小児高血圧ガイドラインにおける高血圧判定基準
ガイドラインでも同ガイドラインの基準を採用している 364).
と薬物治療開始基準と比較して,本邦では自動血圧計で
米国のガイドラインにおける血圧基準値は以下で参照でき
の血圧測定である,身長の影響が考慮されていない,血
る.http://www.pediatrichypertension.org/BPLimitsChart.
圧値による明確な治療基準が存在しない点が異なる.
pdf
今回高血圧に対する薬物治療基準を設定するにあた
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
表 24 本邦における血圧管理用の高血圧基準 360)
男子
(3)高血圧に伴う標的臓器障害(左室肥大や高血圧性眼
女子
収縮期
拡張期
収縮期
拡張期
1年
107
60
108
60
2年
112
63
108
60
3年
114
62
111
61
小学校
4年
116
63
121
66
5年
117
63
119
66
6年
119
63
119
65
1年
125
66
126
68
中学校
2年
130
66
126
68
3年
136
68
128
70
(mmHg)
症,腎瘢痕などの臓器障害)の合併
(4)糖尿病や慢性腎疾患に合併する高血圧
(5)非薬物治療(食事・運動療法)後も持続する高血圧
(6)重度高血圧(stage Ⅱ高血圧)
・ 前高血圧症(90 ~ 95 パーセンタイル):非薬物療法よ
り開始し 90 パーセンタイル以下まで血圧を下げる
・ stage Ⅰで(1)~(4)のいずれも該当しない場合:非
薬物療法より開始する.ただし(5)に該当する場合
は薬物療法の適応となる.
・ stage Ⅰで(1)~(4)のいずれかに該当する場合:薬
物療法と非薬物療法を同時に開始する.
・ stage Ⅱ(6)に該当する場合:非薬物療法とともに薬
物療法を同時に開始する.
り,血圧値による治療基準が設定されている米国の小児
・ 血圧の目標値は,本態性高血圧では 95 パーセンタイ
高血圧ガイドラインを参考とした.米国ガイドラインの
ル未満,二次性高血圧では 90 パーセンタイル未満と
50 パーセンタイル身長群における性別・年齢別血圧基
する.
準値は,本邦の血圧管理基準である性別・年齢別の 95
パーセンタイル値と比較して,収縮期はほぼ同様である
・ 本態性高血圧では血圧上昇が緩徐である事が多く,食
事療法,運動療法などの非薬物療法がより重要となる.
が,拡張期は 10mmHg 以上高値である.今後本邦でも
・ 薬物は単剤より開始し,血圧をみながら漸増する.最
身長や測定方法,治療基準を考慮した大規模な検討が必
大投与量まで到達または副作用が出現した場合は別な
要と考えられる.
系統の第二選択薬を追加する.薬物はアンジオテンシ
ン変換酵素阻害薬(ACE-I),アンジオテンシン受容
参考)血圧測定法
363)
・ 水銀血圧計を用いて聴診法での測定を原則とする.
・ 5 分以上の安静後,肘を心臓の高さまで挙上し右腕で
測定する.
・ 上腕周囲長の 40 %以上の幅でカフは上腕周囲の 80 %
以上を囲む長さとし,カフの幅と長さは 1:2 以上と
する.
体拮抗薬(ARB),β遮断薬,Ca 拮抗薬,利尿薬が
適応となる(薬品名,使用量はⅣで後述する)
.
・ 重度の症候性高血圧では静注薬を使用(Ⅱで後述す
る).
・ 二次性高血圧は治療法が原疾患によって異なるためⅢ
で後述する.
)
・ 高血圧の治療方針をアルゴリズムに示す 363(図
14).
・ コロトコフ第1音(K1)を収縮期血圧,K5 を拡張期
BMI の基準値は米国 CDC の基準で 85 パーセンタイル
血圧とする.K5 が 0 mmHg でも聴取される場合は再
未満とし,それ以上を過体重のリスクとして減量指導
度測定し,同様であれば K4 を拡張期血圧とする.
の適応とした 365).
・ Oscillometric 式自動血圧計で 90 パーセンタイルを超
える場合は聴診法にて再検する.
2
重症高血圧の治療
1
定義
・ 白衣高血圧や仮面高血圧の鑑別のため 24 時間自動血
圧測定を用いることが推奨される.欧州小児高血圧ガ
イドラインには 24 時間自動血圧測定の基準値が掲載
されている 363),364).
3
薬物療法の治療方針
本ガイドラインでは以下の項目を薬物治療の適用とす
る
360),363)
.
重症高血圧とは,2004 NHANES363),366)における Stage
Ⅱ以上の高血圧であり,かつ急激な上昇により症状を呈
しているものを指す 367).中でも生命の危険が伴う高血
圧は,重篤な臓器障害をきたすため,より早期の介入が
必要となる.その重症度により下記のように分類してい
(1)症候性高血圧
る.
(2)二次性高血圧
・ 高血圧緊急症(Hypertensive Emergency)…急性の臓
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
169
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
図 14 高血圧の治療方針
血圧,身長,BMI測定
高血圧 stageⅡ
前高血圧
高血圧 stageⅠ
3回以上の
血圧測定
90−<95th%
or 120/80mmHg
≧95th %
基礎疾患の検索
標的臓器障害の確認
専門医への紹介を検討
薬物療法
<90th%
非薬物療法
生活指導
食事,運動療法
90−<95th% or 120/80mmHg
基礎疾患の検索
標的臓器障害の確認
6か月ごとに
血圧測定
No
(本態性高血圧)
非薬物療法
食事,運動療法
Yes
BMI正常
正常血圧
過体重
BMI正常
過体重
(必要に応じて)
基礎疾患の検索
標的臓器障害の確認
BMI正常
6か月ごとに
モニタリング
減量指導+ 薬物療法
減量指導
薬物療法
≧95th%持続
過体重
減量指導
過体重は BMI 85 パーセンタイル以上とする(文献 359 より一部改変)
するのに対して,切迫症では嘔気・嘔吐などの症状を呈
器障害を伴い重篤な症状をきたす
・ 高血圧切迫症(Hypertensive Urgency)…急性の臓器
・ 高血圧緊急症では,すぐに正常化させなくとも臓器障
害を防ぐために速やかな降圧が必要である 368).病態
3
薬物療法の実際
的にも,切迫症ではカテコラミンやアンジオテンシン
溢水の所見が明らかである場合は,利尿薬を投与する.
Ⅱなどが産生され,それに反応して NO や PGI2 等の血
また,慢性的に高血圧がある場合,内膜下組織の細胞増
管拡張成分の産生も起こり血管抵抗に急性の変化をき
生がおこっているため,急激な血圧低下は虚血をきたし,
たす.一方,緊急症では血管内皮での炎症がおこり血
臓器障害を悪化させる可能性がある 368).したがって,
管トーヌスの調整が破綻し,臓器血流の増加,動脈の
緊急高血圧管理では,降下速度を予想できるよう薬品は
フィブリノイド壊死をきたす.結果として血管透過性
経静脈投与が基本である.降圧剤投与中は,脳梗塞や虚
が亢進,血管周囲の浮腫とともに凝固系機能も亢進す
血性脊髄症・視神経症に注意を要する.
るため,DIC を惹起するとされる
2
170
する程度である.この場合は,数時間かけて血圧のコン
トロールを目指す 370)-372).
障害を伴わない
369)
.
臨床症状
①降圧速度
一般に 6 ~ 8 時間かけて 1/4 ~ 1/3 を降下させ,48 時間
頭蓋内圧亢進に伴う嘔吐・嘔気,頭痛,視覚異常,片
~ 72 時間かけてゆっくりと 90 パーセンタイル以下の血
麻痺,鼻出血,心不全,呼吸器症状,疲労,意識障害な
圧に調節する 370),372),373).脳血流や循環などへの影響を
どがあげられる.
最小限に抑えるため,段階的な降圧を可能とする薬品を
緊急症では,脳症やけいれん,視覚異常,脳梗塞・出
選択する.切迫症の中には慢性的に徐々に高血圧が進行
血,心不全などの臓器障害をきたし,速やかな介入を要
した例や降圧薬の内服を継続している例もあるためより
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
緩徐な降圧を要する.
作用が遷延するなど調節性に欠ける.ニカルジピンに比
較して即効性には劣るが,効果が遷延するため少量から
②薬物療法
投与する.
本邦では,以下の降圧薬を経静脈的に使用することが
●クロニジン(カタプレスⓇ)0.05 ~ 0.1mg/kg/ 回 経口
多い(class Ⅱ a-C).欧米諸国では,ニカルジピンに加え,
α 2 agonist であるため一時的に血管トーヌスを亢進さ
α/βブロッカーであるラベタロールの静注製剤が第一
せ,その後血圧と脈拍が低下する.
選択となっている
374)
. ラベタロールは気管支喘息には
使用できないものの,心拍出量にはほとんど影響せずに,
数分で末梢血管抵抗を下げる降圧薬である.今後,本邦
への導入が期待される.本邦では次の薬剤が用いられる.
[注意点]効果は不確定だが,30 ~ 60 分で効果が出現し
8 ~ 24 時間持続する.調節性に欠ける.
3
二次性高血圧
1)緊急症
●ニカルジピン(ペルジピンⓇ) 1 ~ 3 μ g/kg/ 分
定義:様々な原疾患によって生じる高血圧で,代表的な
[特徴]数分で効果が表れ,数時間で降圧目標に達する.
疾患を表 22 に示す.本ガイドラインでは,1. 腎性高血
ニトロプルシドよりも持続使用が可能であるうえ,欧米
圧~ 7. 遺伝性高血圧を扱う.小児の高血圧における二次
では早産児・新生児にも有効とされる 375).
性高血圧の割合は報告により 5 ~ 8 割程度となっており,
[注意点]反応性の頻脈,顔面紅潮,動悸,低血圧に注意.
低年齢であるほど二次性高血圧の割合が高くなる.最も
●ニトロプルシド(ニトプロⓇ) 0.53-10μg/kg/ 分 0.2μ
多いのが腎性高血圧であり,その他内分泌性の高血圧や
g/kg/ 分ずつ増量(3 μ g/kg/ 分以下で持続)
)
腎血管性高血圧などが挙げられる 378(表
22).
[特徴]数秒単位で効果を発揮し短時間作用型である.
動脈,静脈ともに拡張作用を持つ.
[注意点]光により失活,脳血流と脳圧を亢進させる.
72 時間以上の長期使用や肝・腎機能障害での使用の場
合はシアンの上昇に注意し,シアン中毒症状が出現した
1
腎性高血圧
①疫学
腎実質性高血圧は小児の二次性高血圧で一番高頻度で
場合はチオ硫酸塩を併用する.2μg/kg/ 分以上の投与速
あり小児の二次性高血圧の 70 ~ 80%を占めるとの報告
度で投与する場合は,総投与量が 500μg/kg 以上になる
も あ る 378). ま た 小 児 の 慢 性 腎 臓 病(Chronic Kidney
と体内における解毒処理能力を超えてシアンが生成され
Disease : CKD)症例の 5 割近くが高血圧を合併すると
ることが知られているため注意を要する. される 379).
2)切迫症
切迫症と判断され,急速な降圧を要さない場合は,内
②薬物治療の実際
服薬投与も選択の一つであるが,初期治療では切迫症で
第一選択としては,蛋白尿減少効果や CKD の進行抑
もニカルジピンが使われることが多い.二次性の場合は
制 効 果 も 期 待 で き る ACE-I や ARB が 挙 げ ら れ る 380).
その病態に合わせて経口可能なら早期にその薬品を使用
ACE-I と ARB の併用療法については,蛋白尿の減少効
する.
果や CKD の進行の抑制効果の点でより有効だとする報
その他,以下の薬品が使用可能である.
告もあるが 381)-383),現時点では一定の見解は得られて
●ニフェジピン(アダラート,セパミット Ⓡ )0.25 ~
いない.利尿剤に関しては体液貯留がある症例で使用す
0.5mg/kg/ 回 経口
べきだが,腎機能障害が進行した症例ではサイアザイド
[注意点]成人では重症高血圧への使用は脳梗塞と心筋
系利尿薬は効果が乏しく,フロセミドの方が好ましい.
虚血を惹起するため危険とされているが,小児では
ACE-I や ARB の単剤療法で効果が不十分である場合に
<0.25mg/kg の少量投与では有効とする報告もある 376).
はカルシウム拮抗薬の併用が推奨される.β遮断薬は
しかしながら,現段階ではより調節の容易な薬品が使用
小児の腎性高血圧治療における第 2 選択薬に位置付けら
可能な場合は推奨されない.(class Ⅱ a-C)
れている 380).
●ヒドララジン(アプレゾリン Ⓡ ) 0.2 ~ 0.6mg/kg/ 回
降圧目標は各年齢の 90 パーセンタイル以下とし(表
静注 4 時間毎
23),本態性高血圧より厳格なコントロールで管理した
[注意点]FDA による投与量は 1.5 ~ 3.5mg/kg/ 日である
が,それ以下での使用を推奨 377).反応性が不確定であり,
方が良い 380).最近は 24 時間血圧計による管理も推奨さ
れている.
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
171
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
2
腎血管性高血圧
β遮断薬は耐糖能の悪化の報告がある 394)-396).降圧目
標は腎性高血圧と同様,本態性高血圧より厳格なコント
①疫学
ロールを目指すべきである.
5 ~ 10%は腎血管性高血圧によるといわれている.成
人の腎血管性高血圧では動脈硬化性病変が基盤となるの
に対し,小児では,線維筋異形成や神経線維腫症 1 型,
大動脈炎症候群,Williams 症候群などが背景にある場合
が多い.また新生児期の臍動脈カテーテル留置に伴う腎
動脈血栓症の場合もある
384)
.
4
褐色細胞腫に合併した高血圧
①疫学
褐色細胞腫に合併した高血圧は小児の高血圧の 1%程
度を占め,また小児の褐色細胞腫症例の 60 ~ 90%以上
が持続的な高血圧を合併しているといわれている.また
②薬物療法の実際
小児の褐色細胞腫の 40 %近くは遺伝的な素因を有する
レニン - アンジオテンシン系によらない降圧薬(Ca 拮
抗薬,β遮断薬,利尿薬等)による治療に抵抗する事が
多く,まず ACE-I や ARB が考慮される.ただし両側性
とされている 397).
②薬物療法の実際 397)
の腎血管病変がある症例においては ACE-I や ARB の使
褐色細胞腫の治療の根幹は外科手術であるが,術中の
用による GFR の低下のリスクが高く,その使用は避け
リスクを最小限にするため,術前 10 ~ 14 日前からカテ
るべきである
384)-388)
.また脱水合併時にも GFR 低下の
コラミンの作用をコントロールするための薬物療法を行
リスクが高くなるので注意が必要である.
う 357).小児における術前治療は確立されたものはない
小児においてはカテーテル治療が可能な症例はその適
が,本邦では初期治療としてα遮断薬のドキサゾシン
応が考慮される
384)
.特に,ACE-I や ARB による治療で
が使用される事が多い.β遮断薬は頻脈のコントロー
降圧効果が不十分な場合や副作用で使用しづらい場合
ル目的で使用が考慮されるが,α受容体に対する非競
は,積極的にカテーテル治療が考慮される.ただし末梢
合性の刺激作用を有するため,α遮断薬による治療が
型の場合はその施行は困難である.
適切に行われてから開始すべきである.本邦ではプロプ
3
糖尿病に合併した高血圧
①疫学
ラノロールが使用される事が多い.α遮断薬のみでは
十分な血圧コントロールが得られない場合の第二選択と
しては Ca 拮抗薬が挙げられる.
降圧目標は特に小児の場合,明確なものはない.現時
思春期の糖尿病症例は同年代の健常な児に比べ収縮
点では正常血圧を目標とするのが妥当と思われる.
期,拡張期血圧とも高い.特に 2 型糖尿病症例において
褐色細胞腫の患者においては慢性的な血管収縮による
は,本態性高血圧の合併が良くみられ,思春期 2 型糖尿
血管内容量の低下をきたしている場合が多く,必要に応
病症例の 2 ~ 3 割が高血圧を合併しているとの報告もあ
じ術前に塩分や水分の負荷も考慮する.
る 389)-392).
②薬物療法の実際
小児の糖尿病に合併した高血圧の治療においては,糖
5
クッシング症候群に合併した高血圧
①疫学
尿病性腎症の発症や進行に対する抑制効果も期待できる
クッシング症候群の 75 ~ 80%で高血圧を合併すると
ACE-I が 第 一 選 択 薬 と し て 用 い ら れ て き た
されている.小児では下垂体腺腫や副腎腫瘍による内因
が 363),381),389),392),393),近年 ARB に関しても小児における
性は稀であり炎症性疾患などに対する治療や移植後の免
有効性と安全が報告されてきており,今後第一選択薬の
疫抑制のための副腎皮質ステロイド薬投与による場合が
一つとなりうる.ACE-I と ARB の併用療法については,
多い 385),398).
現 時 点 で は 一 定 の 見 解 は 得 ら れ て い な い.ACE-I や
ARB のみでは効果が不十分な場合は Ca 拮抗薬や β 遮断
172
がある症例では使用を控えるべきであり,さらに一部の
②薬物療法の実際
薬が選択される.このうちβ遮断薬に関しては低血糖
ACE-I や ARB,Ca 拮抗薬,サイアザイド系利尿薬等
時に症状をマスクする可能性があるため低血糖のリスク
を考慮する 360).ミネラルコルチコイド受容体刺激によ
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
り低 K 血症を合併している場合には抗アルドステロン
薬が有効である 398).
6
先天性副腎皮質過形成に合併した
高血圧
①定義・病態
5
小児期腎不全患者への薬物療
法
1
基本的事項
腎不全患者に,腎臓から排泄される薬物を常用量で用
先天性副腎皮質過形成は副腎におけるステロイドホル
いると,薬物の蓄積により副作用の頻度が増大するため,
モン合成系の酵素の遺伝子異常による疾患であるが,こ
腎機能,薬物の尿中排泄率に応じて薬剤の投与法の変更
のうち 11 β水酸化酵素と 17 α水酸化酵素の異常の場合,
を行う必要がある.透析中の場合は透析の種類,透析方
副腎でのグルココルチコイド合成の negative feedback が
法, 透 析 時 間 な ど に よ り 薬 物 動 態 は 複 雑 に 変 化 す
破綻した結果,ACTH の分泌亢進により血中 DOC 濃度
る.405)-407)なお出生時の糸球体濾過率は成人の約 1/5,生
の上昇が生じ,Na,体液貯留と高血圧をきたす 398).
②薬物療法の実際
いずれの場合も,グルココルチコイドの補充により高
血圧やステロイドの異常状態は正常化する
7
後 2 ヶ月で 1/2 程度であり生理的に腎機能が低下してい
るため,保存期腎不全患者と同様の配慮が必要になる.
385),398)
.
2
薬物動態と腎機能
薬物動態は①吸収,②分布,③代謝,④排泄によって
決まる.腎不全患者では,腎からの排泄低下による影響
遺伝性の高血圧
が最も大きいが,吸収,分布,代謝にも変化をきたし,
薬物動態に影響を及ぼすことがある.
①定義・疫学
原発性グルココルチコイド抵抗性やグルココルチコイ
①吸収
ド 奏 功 性 ア ル ド ス テ ロ ン 症,apparent mineral corticoid
経口投与された薬物はその一部が消化管から吸収さ
Excess Syndrome,Liddle 症候群,hypertension exacerbarted
れ,肝臓を通過する際にかなりの割合が代謝を受けた後
by pregnancy 等が含まれるが,いずれも稀な疾患である.
に血中に移行する.薬物が経口・筋注・直腸内投与など
ミネラルコルチコイド受容体やグルココルチコイド受容
非血管外投与された場合に,生化学的に利用できる量と
体の遺伝子異常,グルココルチコイドの代謝酵素の遺伝
して循環血液中に移行する割合と,生物学的利用速度を
子異常等により,ミネラルコルチコイド過剰症状として
合わせてバイオアベイラビリティーといい,消化管から
の高血圧をきたす
385,398)
の吸収と肝臓を初回通過したときの代謝率により決ま
.
る.一般的に,脂溶性の薬物は消化管からの吸収率は高
②薬物療法の実際
く,水溶性の薬物は消化管からの吸収率が低い.腎不全
ミネラルコルチコイド過剰症状に対して抗アルドステ
患者では,一部の薬物でバイオアベイラビリティーが変
ロン薬の投与を行う.また内因性コルチゾルの分泌抑制
化することが知られている.表 26 にその薬物を示した.
のためにグルココルチコイド投与を行う事もある.ただ
し,Liddle 症候群では抗アルドステロン薬は無効であり,
②分布
トリアムテレンが著効する.また hypertension exacerbated
吸収された薬物の一部は血漿蛋白に結合して結合型と
by pregnancy においては抗アルドステロン薬の投与によ
なり,一部は,血漿蛋白に結合せず非結合型として存在
り高血圧が悪化する事がある
4
385),398)
.
小児高血圧に使用する降圧薬
する.一般的に,脂溶性の薬物は組織に移行しやすく,
その分血中濃度は低くなるので,分布容積は大きい.水
溶性の薬物や,蛋白結合率の高い薬物は細胞外液に多く
分布しやすく,組織移行性は低い.そのため血中濃度は
降圧薬リストを作成するに当たり,日本や欧米での小
高くなるので,分布容積は小さくなる.腎不全患者で分
児適応のあるものを優先し,欧米のガイドラインや日本
布容積が変化する薬物がある.アミノグリコシド系抗菌
の論文で多く採用されているものを追加した(表 25).
薬や多くのβラクタム系抗菌薬,多くの抗ウイルス薬
などの水溶性薬物の分布容積は,浮腫や腹水のある患者
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
173
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
表 25 降圧薬リスト
一般名
商品名
カルシウム拮抗薬
アムロジピン
ノルバスク
(クラス I,レベル B) アムロジン
剤形
(規格)
錠:2.5・5mg
OD 錠:2.5・5mg
適応
小児
成人
小児
成人
ニフェジピン
アダラート
(クラスIIa,レベルC) セパミット
ニフェジピン徐放
アダラート L
(クラスIIa,レベルC) セパミット R
ニカルジピン
ペルジピン
(クラスIIa,レベルC)
アンジオテンシン受容体拮抗薬
ロサルタン
ニューロタン
(クラス I,レベル B)
174
カプセル:5・10mg
細粒:1%
10mg/g(1g/ 包)
L 錠:10・20mg
R カプセル:10・
20mg
R 細粒:2%
20mg/g
注:2・10・
25mg/2・10・
25mL/A
錠:25・50mg
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児
投与経路・用法・用量
小児薬用量
成人用量(国内での用量)
高血圧症(6 歳以上) 経口 ・我が国の小児用量:1 日 1
回 2.5mg, 適 宜 増 減,1 日
最大 5mg
・海外:2.5 ~ 5mg/ 日,
分 1363)あるいは 0.06 ~
0.3/mg/kg/ 日,分 1364),399)
(→注意事項を参照)
高血圧症,狭心症
1 日 1 回,2.5 ~ 5mg, 最
大投与量 10mg/ 日
なし
経口 ・0.25mg/kg/ 回 364)
成人
本態性高血圧,腎性
高血圧,狭心症
小児
なし
経口 ・ 開 始 量:0.25 ~ 0.5mg/
kg/ 日,1 日 1 ~ 2 回 363),364)
・最大:3mg/kg/ 日,
60mg/ 日まで 363)
成人
本態性高血圧,腎性
高血圧,狭心症
なし
1 回 10 ~ 20mg,1 日 2 回,
最大:60mg/ 日
静注 ・1 ~ 3 μ g/kg/min363),364)
小児
1 回 10mg,1 日 3 回( → 注
意事項を参照)
成人
手術時の異常高血圧
の緊急処置,高血圧
性緊急症,急性心不
全
・0.5 μ g/kg/min よ り 開 始
し,目標値まで血圧を下げ,
以後血圧をモニターしなが
ら 0.5 ~ 6 μ g/kg/min の 速
度で投与
小児
高血圧症(6 歳以上, 経口 ・ 開 始 量:0.7mg/kg/ 日
(50mg/ 日まで)
,分 1363)
CCr ≧ 30 mL/ 分 /
・最大:1.4 mg/kg / 日(100
1.73m2)
mg/ 日まで)363),364)
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
血中濃度
血中半減期
Tmax
T1/2
作用発現時間
(静注・ 主な排泄経路
経口)
主な副作用(%)
重大な副作用
注意事項・禁忌
( 健 常 成 人,5mg 単 (健常成人,5mg 単回経
回経口)
Tmax:7 口) T1/2:39 時間.体
~ 8 時間
重補正した小児でのクリ
アランスや分布容積は成
人と同様 400)
・カルシウム拮抗薬に共通の副作用と 《注意事項》
して,動悸,頭痛,ほてり感,浮腫, ・アムロジンは,小児への 1 日 5mg を
歯肉増生や便秘など
超える投与量の試験は行われていな
《重大な副作用》
い 363)
・肝機能障害,白血球減少,血小板減 ・JSH2009 で は 成 人 の 高 血 圧 に 対 し,
少
ニフェジピン(通常)は急速かつ短期
・ニフェジピン 紅皮症
の降圧,血行動態の変化をきたすため,
・アムロジン 房室ブロック
降圧剤としての使用は推奨されない,
主に肝代謝
・ニカルジピン 麻痺性イレウス,低 舌下投与も行うべきではない,として
酸素血症,肺水腫,呼吸困難,狭心痛 いる 360)
・
( 高 血 圧 症 患 者, ・T1/2: α 相:1.03 ±
・ニフェジピン徐放錠の場合は錠剤の
外国人 10mg,経口) 0.11 時 間 β 相 2.61 ±
ままの服用が必要
0.22 時間
Tmax:1 時間
《禁忌》
・妊娠または妊娠の可能性のある婦人
20 ~ 30 分
主に肝代謝
・
(徐放)(健康成人 ・
(徐放)
(アダラート
1 0 m g , 2 0 m g ) L10mg 投 与 時 )T1/2:
Tmax:3 時間
3.51 ± 0.60 時間
0.5 ~ 1 時間
主に肝代謝
2~5分
健康成人に0.01~0.02mg
/kg 静脈内投与した場合
の血漿中未変化体濃度の
半減期は 53 ~ 60 分
主に肝代謝
(6-16 歳,高血圧の 活 性 代 謝 物 ; T1/2:5.6 ・ARB に 共 通 の 重 大 な 副 作 用 と し て,《注意事項》
小児に≒ 0.7 mg/kg ± 1.2 時間
アナフィラキシー様症状,血管浮腫, ・高 K 血症や腎機能の悪化を来たすこ
を連続投与後の活性
肝炎,腎機能低下,低血糖,横紋筋融解, とがあるため定期的に血清 K 値や Cr 値
代謝物)Tpeak:4.1
汎血球減少,ショック,失神,高 K 血 を測定すること.
時間
症
・バルサルタンについて,日米の製剤で
・バルサルタン,カンデサルタンでは, は bioavailability が異なり,日本の製剤
間質性肺炎,無顆粒球症の報告あり
の方が約 1.6 倍血中濃度の上昇が大きい
ことに注意が必要である.また粉砕・
懸濁して投与した場合,錠剤のままの
投 与 よ り も Cmax は 1.93 倍,AUC は
1.56 倍高値であることを考慮し,剤形
を変更する際には投与量に注意が必要
・カンデサルタンの FDA の投与量は国
内の成人への投与量よりも多く設定さ
れている 399).実際の投与に当たっては
国内の成人の最大投与量を超えるべき
ではない.
・イルベサルタンの FDA の投与量は国
内の成人への投与量よりも多く設定さ
れており,また 4.5 mg/kg/ 日以下の投
与量では降圧効果は認められないと記
載されている.実際の投与に当たって
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
175
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
一般名
商品名
カンデサルタン
ブロプレス
(クラス I,レベル B)
剤形
錠:2・4・8・
12mg
適応
成人
小児
成人
バルサルタン
ディオバン
(クラス I,レベル B)
錠:20・40・80mg
小児
成人
イルベサルタン
アバプロ
(クラス I,レベル B) イルベタン
錠:50・100mg
小児
成人
アンジオテンシン変換酵素阻害薬
カプトプリル
カプトリル
(クラス IIa,レベル
C)
エナラプリル
レニベース
(クラス I,レベル B)
176
錠:12.5・25mg
錠:2.5・5・10mg
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
投与経路・用法・用量
高血圧症,高血圧症
1日1回,25 ~ 50mg,最
および蛋白尿を伴う
大投与量 100mg
2 型糖尿病における
糖尿病性腎症
高血圧症(1 歳以上, 経口 《1 ~ 6 歳未満》(懸濁して
投与)
C C r ≧ 3 0 m L /
・ 開 始 量:0.20mg/kg/ 日,
min/1.73m2)
分1,
0.05~0.4mg/kg/ 日,
分 1 ~ 2 回 400)
《6 ~ 17 歳》
(錠剤で投与)
< 50kg ・ 開 始 量:4 ~ 8
mg/ 日, 分 1,4 ~ 16mg/
日,分 1 ~ 2
> 50kg ・開始量:8 ~ 16
mg/ 日, 分 1,4 ~ 32 mg/
日,分 1 ~ 2
(→ 注意事項を参照)
高血圧症,腎実質性
1日1回,4 ~ 8mg,最大
高血圧症,慢性心不
投与量 12mg.腎実質性お
全
よび腎障害を伴う場合は
2mg から開始し,最大用量
8mg401)
高血圧症(6 歳以上, 経口 ・ 我 が 国 の 小 児 用 量:<
C C r ≧ 3 0 m L /
35kg1 日 1 回 40mg, 適 宜
min/1.73m2)
増減,ただし <35kg の場合
1 日最大 40mg
・海外:開始量:1.3kg/ 日
(40mg まで)
,Dose range:
1.3 ~ 2.7mg/kg/ 日
(160mg/ 日まで)
,分 1363)
(→注意事項を参照)
高血圧症
1 日 1 回,40 ~ 80mg, 最
大 160mg
高血圧症(6 歳以上, 経口 ・6 ~ 12 歳:75 ~ 150 mg/
日,13 歳以上:150 ~ 300
CCr ≧ 30mL/min/
mg/ 日,1 日 1 回 363),402)
1.73m2)
(→注意事項を参照)
高血圧症
1 日 1 回,50 ~ 100mg,
最大投与量 200mg
小児
他の治療が無効の高
血圧症に限る
成人
本態性高血圧症,腎
性高血圧症,腎血管
高血圧症,悪性高血
圧症
小児
高血圧症(1か月以
上,CCr ≧ 30mL/
min/1.73m2)
経口 ・ 開 始 量:0.3 ~ 0.5mg/
kg/ 回,分 2 ~ 3363),364)
・最大:6mg/kg/ 日
(150mg/ 日)359)
1回12.5~25mg,
1日3回,
最大用量 1 日 150mg(腎障
害を有する高血圧患者では
適宜減量することが望まし
い)
経口 ・我が国の小児用量:
0.08mg/kg/ 日 を 分 1, 適
宜増減,1 日最大 10mg
・ 海 外: 開 始 量 0.08mg/
kg/ 日(5mg/ 日 ま で ), 最
大 0.6mg/kg/ 日(40mg/
日まで)
,
分 1 ~ 2363),364),403)
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
血中濃度
血中半減期
主に肝代謝.ロサルタン
および活性代謝物の尿中
への排泄は数パーセン
ト.
(1-5 歳,0.2 mg/ T1/2:5.7 ± 1.4 時間 401)
kg)Tmax:3.2 ±
1.0 時間 65)
主な副作用(%)
注意事項・禁忌
は国内の成人の最大投与量を超えるべ
きではない.
《禁忌》
・重篤な肝機能障害,妊婦又は妊娠の
可能性のある婦人(妊娠可能年齢の女
性では確実な避妊をすべきである)
主に肝代謝,主に糞中に
排泄
(1 歳 -16 歳,懸濁し T1/2:3.7 ~ 5.3 時間
て投与 4mg/mL,
2.0mg/kg)Tmax:
2.0 時間
主に肝代謝
(2mg/kg,定常状態)(健常成人に 100mg 単回
Tmax:(6 ~ 12 歳 ) 投与)T1/2:13.6 時間
2.0 時 間,(13 ~ 16
歳)1.5 時間 402)
主に肝代謝
( 健 康 成 人 50mg 単 ( 健 康 成 人 50mg 単 回 経 ・ACE-Ⅰに共通の副作用として,咳嗽 《注意事項》
回 経 口 )Tmax: 口 )T1/2:0.43 ± 0.02 《重大な副作用》
・高 K 血症や腎機能の悪化を来たすこ
0.68 ± 0.02 時間
時間
・ 血 管 浮 腫, 高 K 血 症, 腎 機 能 低 下, とがあるため定期的に血清 K 値や Cr 値
膵炎,Stevens-Johnson 症候群,中毒性 を測定すること
・腎障害を有する場合の ACE Ⅰの投与
腎排泄,尿中への未変化 表皮壊死症,天疱瘡様症状
体 + 代 謝 物 の 排 泄 率 は ・カプトプリル 汎血球減少,無顆粒 量は半分以下から開始,調節すること
球症,狭心症,心筋梗塞,うっ血性心 が望ましい
63%(24 時間)
不全
《禁忌》
・エナラプリル ショック,心筋梗塞, ・妊婦又は妊娠の可能性のある婦人.
狭心症,汎血球減少症,無顆粒球症,(妊娠可能年齢の女性では確実な避妊
(2 か月~ 16 歳,
(2 か月~ 16 歳,0.07 ~
血小板減少,間質性肺炎,肝機能障害, をすべきである)
0.07 ~ 0.14mg/kg, 0.14mg/kg, 反 復 投 与 )
肝不全,SIADH)
反復投与)活性代謝 T1/2:14 時間 403)
・リシノプリル 溶血性貧血,血小板
物 enalaprilat の
減少,肝機能障害,SIADH
Tmax: 3 ~ 4 時 間
67)
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
177
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
一般名
商品名
リシノプリル
ロンゲス
(クラス I,レベル B) ゼストリル
剤形
錠:5・10・20mg
適応
成人
小児
成人
ベナゼプリル
チバセン
(クラス I,レベル B)
錠:2.5・5・10mg
小児
成人
利尿薬
ヒドロクロロチアジ ニュートライド
ド
(クラス I,レベル C)
錠:25mg
小児
成人
クロルタリドン
(クラス IIa,レベル
C)
ハイグロトン
錠:50mg
小児
成人
トリアムテレン
(クラス IIa,レベル
C)
トリテレン
カプセル:50mg
小児
成人
フロセミド
ラシックス
(クラス I,レベル C)
錠:20・40mg
小児
細粒:4% 40mg/g
注 20・100mg/2・
10mL/A
投与経路・用法・用量
本態性高血圧症,腎
1 日 1 回,5 ~ 10mg(増減)
性高血圧症,腎血管
(腎障害を有する高血圧患
高血圧症,悪性高血
者では 2.5mg から開始する
圧症
ことが望ましい)
高血圧症(6 歳以上, 経口 ・ 我 が 国 の 小 児 用 量:
0.07mg/kg/ 日,分 1, 適 宜
CCr ≧ 30mL/min/
増減,1 日最大 20mg
1.73m2)
・ 海 外: 開 始 量 0.07mg/
kg/ 日(5mg/ 日 ま で, 最
大 0.6mg/kg/ 日(40mg ま
で)
, 分 1( 懸 濁 し て 投 与
可)363,364),404)
高血圧症,慢性心不
10 ~ 20mg(増減)
,分 1
全
(腎障害を有する高血圧患
者では 5mg から開始するこ
とが望ましい)
高血圧症(6 歳以上, 経口 ・開始量:0.2mg/kg/ 日
CCr ≧ 30 mL/min/
(10mg/ 日 ま で )
: 最 大:
1.73m2)
0.6mg/kg/ 日(40mg/ 日ま
で)
,分 1363)
高血圧症
5 ~ 10mg,分 1(増減)(腎
障害を有する高血圧患者で
は 2.5mg から開始すること
が望ましい)
経口 ・開始量:1mg/kg / 日,最
大 3mg/kg/ 日(50mg/ 日ま
で)
,分 1363)
(→ 注意事項を参照)
高血圧症,悪性高血
1 回 25 ~ 100mg, 分 1 ~ 2
圧,浮腫,月経前緊
回(添付文書)
張症
・臨床試験から推奨される
用量は 1 日 12.5mg(1/2 錠)
以下 360)
なし
経口 ・ 開 始 量:0.3mg/kg/ 日,
最大:2mg/kg / 日(50mg/
日まで)
,分 1 ~ 2 回 363)
(→ 注意事項を参照)
高血圧症,心性浮腫
1日1回50~100mg(添付文書)
(うっ血性心不全)
,
・臨床試験から推奨される
浮腫(肝性,腎性)
用 量 は 1 日 12.5mg 以 下
(1/4 錠)360)
なし
経口 ・開始量:1 ~ 2mg/kg/ 日,
最大:3 ~ 4mg/kg/ 日
(300mg/日まで)
,
2~3回 363)
(→ 注意事項を参照)
本態性高血圧症,腎
1 日 90 ~ 200mg 分 2 ~ 3
性高血圧症,うっ血
(増減)
(添付文書)
性心不全,浮腫(肝
・1 日 1 回,50mg( サ イ ア
性浮,腎性)
ザイド系との併用が望まし
い)360)
(浮腫のみ小児の適 経口 ・ 開 始 量 0.2 ~ 2.0mg/kg/
応あり)
回,最大 6mg/kg/ 日,分 1
~ 2 回 364)
高血圧症
静注 (緊急時)
・0.5~5mg/回 364)
178
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
血中濃度
血中半減期
腎 排 泄.24 時 間 で の 尿
中へのエナラプリラト排
泄:58.3 ~ 71.4%399)
主な副作用(%)
注意事項・禁忌
(6カ 月 ~15 歳,0.1- (健常成人に 2.5 ~ 20mg
:
0.2mg/kg)Tmax: 単回投与)T1/2(α)
4.5 ± 1.7 時 間,T1/2
5.0-6.0 時間 68)
( β )
:33.7 ± 10.3 時
間 400)
腎排泄
( 健 常 成 人 に 5 ~ ( 健 常 成 人 に 5 ~ 10mg
10mg 単 回 投 与 ) 単回投与)T1/2:3.7 ~
Tmax:1.2 ~ 1.5 時 4.0 時間
間
腎排泄
(成人,50mg)
(成人(75mg)T1/2:
(α)《重大な副作用》
《注意事項》
Tmax:60 ~ 120 分 1.7 時 間,T1/2( β ) サイアザイド系および類似利尿薬に共 ・利尿薬を投与する場合には,投与開
13.1 時間
通な重大な副作用として再生不良性貧 始直後およびその後も定期的に電解質
血,壊死性血管炎,肺水腫,無顆粒球症, をモニターすること
・利尿薬はその他の高血圧治療薬の併
腎排泄,尿中排泄率 70% 急性腎不全など
・ヒドロクロロチアジドでは溶血性貧 用薬として有用である
(4 日間)
血,間質性肺炎,SLE の悪化,アナフ ・スピロノラクトンやトリアムテレン
ィラキシー様反応,注毒性表皮壊死症 などカリウム保持性利尿剤は重度の高
の報告あり
K 血症を来たすことがあり特に ACEI や
・クロルタリドンでは膵炎,急性腎不 ARB と併用では注意が必要
(成人,50mg)
( 成 人,50mg)T1/2:
・クロルタリドンは,腎疾患患者にお
全(間質性腎炎等)の報告あり
Tmax:13.4 時間
血漿中 44.1 時間
いて尿毒症を増悪しうるので腎機能低
下患者では注意が必要である.
・JSH2009 では成人の高血圧に対する
腎 排 泄, 尿 中 43.8 %,
ヒドロクロロチアジド,クロルタリド
糞中 17.5 ~ 31.2%
ン,トリアムテレンの投与量として添
付文書よりも低用量を推奨している
1)
.実際の投与に当たっては国内の成
(成人100~200mg)(成人 100 ~ 200mg)
《重大な副作用》
人の最大投与量を超えるべきではな
Tmax:2 ~ 4 時間
T1/2:100 ~ 120 分
急性腎不全
い.
《禁忌》
・無尿または急性腎不全
・ヒドロクロロチアジドやクロルタリ
腎排泄.尿中への未変化
ド ン, フ ロ セ マ イ ド で は, 体 液 中 の
体+活性代謝物の排泄は
Na,K が明らかに減少している場合は
80%(8 時間後)
禁忌
・トリアムテレン,スピロノラクトン
(成人,40mg,普通 (成人,40mg,普通製剤 ・主な副作用として,低 K 血症,高尿 では高 K 血症は禁忌
製 剤 経 口 )Tmax: 経口)T1/2:0.35 時間
1.7 ± 0.3 時間
酸血症など
《重大な副作用》
・ショック,アナフィラキシー様症状,
( 成 人,40mg 静 注 ) 再生不良性貧血,汎血球減少症,無顆
粒球症,赤芽球癆,水疱性類天疱瘡,
T1/2:約 0.5 時間 難聴,Stevens-Johnson 症候群,心室性
不整脈,間質性腎炎
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
179
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
一般名
スピロノラクトン
(クラス IIa,レベル
C)
商品名
アルダクトン A
剤形
適応
成人
錠:25・50mg
細 粒:10 % 100mg/g
小児
成人
β遮断薬
アテノロール
テノーミン
(クラス I,レベル C)
錠:25・50mg
小児
成人
メトプロロール
セロケン
(クラス I,レベル B) ロプレソール
錠:20・40mg
小児
成人
プロプラノロール
インデラル
(クラスIIa,レベル C)
錠:10・20mg
小児
成人
α遮断薬
ドキサゾシン
カルデナリン
(クラス IIa,レベル
C)
プラゾシン
(クラス IIa,レベル
C)
ミニプレス
中枢性α 2 アゴニスト
クロニジン
カタプレス
(クラス I,レベル C)
180
錠 : 0 . 5 ・ 1 ・ 2 ・ 小児
4mg
錠:0.5・1mg
錠:75・150 μ g
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
投与経路・用法・用量
悪性高血圧,腎性高 経口 ・分 1 40 ~ 80mg
血圧症,本態性高血
圧症,うっ血性心不
全,浮腫など
静注 ・1 日 1 回 20mg( 増 減 ),
or
最 大 1 回 500mg 1 日
筋注 1,000mg まで
なし
経口 ・ 開 始 量 1mg/kg / 日, 最
大 3.3mg/kg/ 日(100mg/
日まで)
,分 1 ~ 2 回 363),364)
1 日 50 ~ 100mg,分服(増
高血圧症,原発性ア
減)
ルドステロン症,うっ
血性心不全,浮腫
高 血 圧 症(12 歳 以
上)
経口 ・開始量 0.5 ~ 1mg/kg/ 日,
最 大 2mg/kg/ 日(100mg/
日まで)
,分 1 ~ 2 回 363),364)
本態性高血圧,狭心
1 日 1 回 25 ~ 50mg, 最 大
症,頻脈性不整脈
用量 100mg
高血圧症(6 歳以上) 経口 ・ 開 始 量 1 ~ 2mg/kg/ 日,
最 大 6mg/kg/ 日(200mg/
日まで)
,分 2 回 363)
本態性高血圧症,腎
1 日 60 ~ 120mg, 最 大 量
実質性高血圧,狭心
240mg
症,頻脈性不整脈
なし
経口 ・ 開 始 量 1 ~ 2mg/kg/ 日,
最大 4mg/kg/ 日,分 3359)
本態性高血圧,褐色
細胞腫の手術,発作
性頻拍の予防など
1 日 30 ~ 60mg,1 日 3 回,
最大量 1 日 120mg
なし
経口 ・開始量:1mg/ 日,最大:
4mg/ 日,分 1363)
成人
高血圧症,褐色細胞
腫による高血圧症
小児
なし
成人
本態性高血圧,腎性
高血圧,前立腺肥大
に伴う排尿障害
・1 日 1 回 1 ~ 4mg,最大量
8mg(褐色細胞腫では最高
用量 12mg)
経口 ・ 開 始 量 0.05 ~ 0.1mg/kg/
日, 最 大 0.5mg/kg/日,
分1363)
1 日 1.5 ~ 6mg,分 2 ~ 3 回
小児
高 血 圧 症(12 歳 以
上)
成人
本態性高血圧症,腎
性高血圧
経口 《通常の管理》
・12歳以上:開始量0.2mg/
日,
最大量2.4mg/日,
分3363)
《重症高血圧の管理》
・0.05 ~ 0.1mg/ 回, 合 計
0.8mg まで反復して投与
可 363)
1 回 0.075 ~ 0.15mg, 分 3
回
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
血中濃度
血中半減期
・経口:1 時間以内,
・ 一部肝において代謝を受
静注:数分以内
け,肝および腎より排泄
主な副作用(%)
注意事項・禁忌
( 成 人,100mg)( 成 人,100mg)T1/2: 《重大な副作用》
Tmax:2.8 時間
( α )1.8 時 間,
( β ) ・電解質異常(高 K 血症,低 Na 血症,
11.6 時間
代謝性アシドーシス等)
,急性腎不全
肝代謝,肝および腎より
排泄
( 成 人,50mg)( 成 人,50mg)T1/2: ・β遮断薬に共通した主な副作用とし 《注意事項》
Tmax:3.8 ± 0.4 時 10.8 ± 2.7 時間
て,徐脈,めまい,倦怠感など
・心拍は用量に依存する
間
《重大な副作用》
・運動機能を低下させる可能性あり
肝臓でほとんど代謝を受 ・心不全症状の顕在化,悪化,伝道障害, ・徐放性プロプラノロールの 1 日 1 回投
気管支喘息症状の誘発,悪化など
与も可能である
けない.腎排泄
《禁忌》
( 成 人 )Tmax:1 ~ ( 成 人,40mg)T1/2:
・気管支喘息,インスリン依存性の DM
2 時間
2.8 時間
患者,糖尿病ケトアシドーシスなど
肝代謝
( 成 人, 錠 20mg 経 ( 成 人, 錠 20mg 経 口 投
口投与)Tmax:1.5 与 )T1/2:3.9 ± 0.5 時
~ 2 時間
間
肝代謝.ほとんどが代謝
体(活性あり)として尿
中へ排泄
( 成 人, 単 回 投 与 )( 成 人, 単 回 投 与 )《重大な副作用》
Tmax:1.6 ~ 1.7 時 T1/2:10 ~ 16 時間
・失神,意識喪失,狭心症
間
肝代謝.ほとんど糞中へ
排泄
《注意事項》
・投与初期や増量後,特に初回投与後
に低血圧や失神を起こすことがある
・PDE5 阻害作用を有する薬剤を服用中
は低用量から開始し慎重に用量調節を
行う
( 健 康 成 人,2mg 経 (健康成人,2mg 経口投
口投与)Tmax:1.2 与)T1/2:2 時間
時間
肝代謝.主に糞便中に排
泄
( 外 国 高 血 圧 患 者,( 外 国 高 血 圧 患 者,《重大な副作用》
0.3mg 経 口 投 与 ) 0.3mg 経口投与)T1/2: ・幻覚,錯乱
Tmax:90 分
約 10 時間
30 ~ 60 分
《注意事項》
・急に中止した場合にリバウンドによ
る重度の高血圧をきたす可能性あり
主に腎排泄
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
181
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
一般名
商品名
血管拡張薬
ヒドララジン
アプレゾリン
(クラス I,レベル C)
ニトロプルシド
ニトプロ
(クラスIIa,レベル C)
剤形
適応
錠:10・25・50mg
散:10 % 100mg/
g
注:20mg/A
小児
高血圧症
成人
本態性高血圧,妊娠
中毒症による高血圧
症
注 :6 ・ 30 m g/ 2 ・ 小児
10mL/A
成人
投与経路・用法・用量
なし
経口 《通常の管理》
・開始量 0.75mg/kg/ 日,
最 大 7.5mg/kg / 日
(200mg/ 日まで)
,
分 3 ~ 4 回 368),364)
静注 《重症高血圧の管理》
or
0.2 ~ 0.6mg/kg / 回(IV
筋注 bolus の 場 合 4 時 間 毎 に 投
与)364)
経口 ・ 1 回 2 0 - 5 0 m g , 3 0 ~
200mg/ 日,分 3 ~ 4 回
静注 ・ 1回 20mg を 筋 肉 内 又 は
or
徐々に静脈内注射
筋注
静注 ・0.5 ~ 10 μ g/kg/ 分 363)
手術時の低血圧維
持,手術時の異常高
血圧の救急処置
0.5 μ g/kg/ 分 で 開 始 し 血
圧をモニターしながら 3 μ
g/kg/ 分を上限とし投与速
度を調節
注)多くの降圧薬において米国の成人に対する投与量は本邦の約 2 倍に設定されている.本邦の小児に対する降圧薬の投与量を算出
応・用量設定のある降圧薬はアムロジピン,バルサルタン,エナラプリ,リシノプリルのみである.
では増加するため,分布容積の変化に応じた投与量設計
ンの構造変化などにより蛋白結合率が低下する.蛋白結
が必要になる.例えば,分布容積が 0.3L/kg の水溶性薬
合率の変化は薬物の分布容積と非結合型の割合を増加さ
物を体重 50kg の患者にピークの血中濃度を 10μg/mL に
せ,肝臓や腎臓からの排泄に大きく影響するため,腎不
なるように初回投与量を算出すると,上記の関係から初
全患者での薬物の臨床的な効果を予測することを困難に
回投与量 =0.3L/kg × 50kg × 10mg/L=150mg と算出され
させている.ジギトキシン,フェニトイン,バルプロ酸
る.しかし,この患者が浮腫により 10kg の体重増加が
などの蛋白結合率の高い薬物を腎不全患者に投与する場
あった場合は,薬物は増加した細胞外液 10L にも分布す
合,総濃度が有効治療範囲内であっても蛋白結合率が低
る こ と か ら,150mg 投 与 し た 場 合 の 血 中 薬 物 濃 度
下して,非結合型の割合が高くなるため中毒作用が発現
=150mg/(15 + 10)L=6mg/L と理論上低くなる.一方,
する可能性があり,注意が必要である.腎不全患者では
ジゴキシンは腎不全で特異的に分布容積が低下する薬物
多くの酸性薬物で蛋白結合率が低下する.ジソピラミド
として知られている.通常の薬物投与に際しては腎不全
やリドカインはアルブミン以外の蛋白(α1- 酸性糖蛋白:
患者でも初回負荷量を減量する事はないが,分布容積が
腎不全患者では健常者の2倍)により強く結合するため,
低下するジゴキシンの場合には通常の負荷量の 50 ~ 70
腎不全患者で蛋白結合率が高くなり,総濃度が有効治療
%に減量する必要がある.
域に入っていても十分な効果が得られない事がある.
また,腎不全患者では,血漿アルブミン値の低下,尿
毒素物質の蓄積による薬物-蛋白の結合阻害,アルブミ
③代謝と排泄
脂溶性の薬物は,腎より直接排泄されることが出来な
表 26 腎疾患におけるバイオアベイラビリティーの変化
低下する薬物
フロセミド
ピンドロール
クロキサシリン
イソニアジド
182
変化しない薬物
シメチジン
ジゴキシン
ラベタロール
ST 合剤
上昇する薬物
オクスプレノロール
プロプラノロール
エリスロマイシン
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
いため,肝臓で水溶性の高い代謝物・抱合体になってか
ら,多くは腎臓から排泄される.代謝物が不活性ならば
腎機能が低下していても投与量の変更は不要であるが,
代謝物に活性がある場合は投与量の変更が必要になる.
例えばジソピラミドの活性代謝物の強力な抗コリン作
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
血中濃度
血中半減期
主な副作用(%)
注意事項・禁忌
( 外 国 高 血 圧 患 者,( 外 国 高 血 圧 患 者,《重大な副作用》
《禁忌》
0.3mg 経 口 投 与 ) 0.3mg 経口投与)T1/2: ・SLE 様症状,うっ血性心不全,狭心症 ・虚血性心疾患,大動脈弁狭窄,心不
Tmax:90 分
約 10 時間
発作誘発,麻痺性イレウス,呼吸困難, 全など
急性腎不全,溶血性貧血,汎血球減少,
多発性神経炎,血管炎,劇症肝炎,重
篤な肝障害
・経口:30 分
・静注:10 分
肝代謝.50 ~ 80%が尿
中へ排泄
(健常人)血中濃度 (健常人)T1/2:約 1 分.《重大な副作用》
《注意事項》
は投与速度の増加に (代謝物としてシアンが ・過度の低血圧,リバウンド現象(中 ・過度の低血圧が急激に現れることが
伴って上昇し,投与 生成され速やかにチオシ 止時に急激な血圧上昇等)
あり,血圧を連続的にモニターしなが
終了後は速やかに減 ア ン に 代 謝. シ ア ン の
ら慎重に投与すること
少
T1/2:約 12 分)
・本剤の過量投与によりシアン中毒が
現れることあり.長期の投与(72 時間
数秒以内
主に尿中に排泄
以上)や腎不全患者への投与,sodium
thiosulfate との併用時には cyanide のモ
ニターが必要
する際には本邦の成人用量の上限を超えないように注意が必要である。調べ得た範囲内では本邦における小児高血圧症に対する適
用・低血糖,アロプリノールの活性代謝物の肝障害,汎
物排泄に影響を及ぼすことがある.通常,薬物の腎クリ
血球減少,剥離性皮膚炎,プロカインアミドの活性代謝
アランスは GFR と近似していると仮定して投与設計を
物の催不整脈作用増強などが腎不全患者で問題となる.
行う.
水溶性の薬物は,腎排泄が代謝の中心であり,肝臓で代
謝を受けずに腎臓から排泄されるため,腎不全患者では
①腎不全患者への適正投与の考え方
減量が必要である.基本的には,ほとんど肝代謝を受け
腎排泄型の薬剤は薬物の活性体(多くの場合は未変化
ない腎排泄型薬物は腎機能と,薬剤の特性をもとに腎不
体)の尿中排泄率および腎機能から適正投与量を推定す
全患者に対する投与設計ができる.しかし,一部の薬物
る事ができる.腎機能の指標として,GFR ,estimated
では経口薬のバイオアベイラビリティーの変化,血漿蛋
GFR(eGFR),クレアチニンクリアランス(CCr),血
白や組織蛋白との結合性の変化,組織移行性の変化,代
清クレアチニン値(SCr)が用いられる.ICH ガイドラ
謝物の蓄積による種々の影響を考慮する必要がある.
イン E6 に腎機能低下の場合の記載が必要とされている
3
腎不全患者への薬物投与の基本
にも関わらず,我が国の医薬品添付文書に詳細な腎機能
別の投与量が記載されている薬物は少なく,また海外で
尿中への活性体の排泄率が高い薬物を腎不全患者に投
使用可能な医薬品も含め,慎重投与とされている医薬品
与すると,血中消失半減期が延長する.よって,その程
が多く見られる(表 27).
度に応じて投与間隔を延長させ,有効血中濃度に入るよ
うに 1 回の投与量を設定する.小児腎不全患者に対する
②尿中排泄率
至適投与量は,ほとんどの薬物で明確な記載がない.こ
活性体の尿中排泄率が 40 %以上になると腎不全患者
の場合は,健康成人における薬物動態,主に尿中活性体
で蓄積されやすく,減量が必要になる.注意すべき点は,
の排泄率,タンパク結合率を参考にして投与量を決定す
添付文書で記載されている尿中排泄率は尿中未変化体排
る.薬物によっては糸球体で濾過されるだけでなく,尿
泄率と単なる尿中排泄率があり,活性のない代謝物を含
細管からの分泌や,再吸収,薬物の荷電や,尿 pH が薬
んでいるものがあることである.尿中への排泄物が活性
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
183
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
表 27 腎機能低下時の薬物投与量
薬物
腎不全患者への修正
GFR(mL/ 分 /1.73m2)
尿中未変化体排泄率
30 ~ 50
< 10
40 ~ 60%
100%
カプトプリル
40 ~ 50%
75%
75%
50%
エナラプリル
60%尿中排泄,
20% enalapril
75%
75%
50%
リシノプリル
ほぼ 100%
50%
50%
25%
アンジオテンシン
レセプター拮抗薬
100%
100%
(減量の報告あり) (減量の報告あり)
クロニジン
カンデサルタン
52%
100%
100%
100%
(少量より開始)
ロサルタン
12%
100%
100%
100%
(少量より開始)
バルサルタン
13%
100%
100%
100%
(少量より開始)
プロカインアミド
50 ~ 60%
アテノロール
85 ~ 100%
ビソプロロール
エスモロール
ラベタロール
メトプロロール
50%
10%未満
5%未満
3 ~ 10%
プロプラノロール
1 ~ 5%未満
ヒドララジン
14%
8 時間毎
8 時間毎
12 ~ 24 時間毎
ニトロプルシド
10%以下
100%
100%
100%
アルプロスタジル
80%は肺を通過中に酸化され
代謝物は尿中排泄
100%
100%
100%
アムロジピン
ニカルジピン
10%
1%以下
100%
100%
100%
100%
100%
100%
ニフェジピン
ほとんどなし
100%
100%
100%
ジゴキシン
大部分が未変化体で尿中排泄
75%
50%または 36
時間毎
25%または
48 時間毎
フロセミド
ヒドロクロロチアジド
スピロノラクトン
ドブタミン
ドパミン
エピネフリン
50 ~ 70%
90%
10%以下
10%以下
3%
大部分が代謝物として尿中排泄
ミルリノン
85%以上は未変化体で尿排泄
ジピリダモール
ヘパリン
不明
通常は少量
100%
100%
100%
100%
100%
100%
0.33 ~ 0.43 μ
g/kg/ 分
100%
100%
100%
推奨できない
100%
100%
100%
100%
0.23 ~ 0.33 μ
g/kg/ 分
100%
100%
100%
推奨できない
推奨できない
100%
100%
100%
0.2 μ
g/kg/ 分
100%
100 ~ 50%
ワルファリン
ごくわずか
100%
100%
100%
A
C
E
抗不整
脈薬
β遮断薬
血管拡
張薬
製剤
P
G
E
1
拮 強心
利尿薬
配糖体
抗薬
C
a
その他の薬
抗凝固薬 非
NSAID
NSAID
184
10 ~ 29
阻害薬
刺激薬
α2
経口:6 ~ 12 時間毎
経口:6 ~ 12
時間毎%
最大 1mg/kg
最大 1mg/kg
24 時間毎(成人は 50mg) 48 時間毎
100%
66%
100%
100%
100%
100%
100%
100%
100%(内服ではバイオ
アベイクビティ上昇のた
100%
め減量)
経口:8 ~ 24 時間
毎
最大 1mg/kg
48 時間毎
50%
100%
100%
100%
100%
アセトアミノフェン
3%
100%
100%
8 時間毎(投与間
隔 1.5 ~ 2 倍)
アスピリン
2 ~ 30%
100%
100%
避ける
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
エビデンスレベル
a)成人における治験(海外)
b)成人での症例報告 c)文
献著者の見解
参考文献
日本の添付文章
(腎不全への投与)
日本の添付文章
(尿中排泄率)
b)
405
慎重投与
大部分は未変化体で尿中に 45%排
泄
a)
405
慎重投与
記載なし
a)
405
a)
405
a)
405
a)
405
b)
405
c)
405
記載なし
記載なし
a)
405
記載なし
記載なし
c)
a)
a)
a)
405
405
405
405
記載なし
尿中排泄遅延
慎重投与
記載なし
47.8 ± 10.5%外国のデータ
1%以下
尿中排泄 60% 抱合体で排泄
変化体排泄は 3 ~ 5%
a)
405
記載なし
投与量のほとんどは尿中排泄
a)
405
代謝排泄の遅延の可能性あり
投与量間隔の調節
投与量の 50 ~ 80%が尿中排泄(未
変化体記載なし)
a)および c)
405
慎重投与
c)
406
慎重投与
記載なし
3)
3)
406
405,407,410
慎重投与
慎重投与
記載なし
記載なし
1)
405,407,410
重篤な腎機能障害では慎重投与
未変化体尿中排泄ほとんどなし
1)
405
排泄遷延のため中毒を起こす可能性あり
大部分が未変化体で尿中排泄
1)
1)
3)
3)
3)
3)
Ccr30mL/min 以下または SCr3mg/dL 以上の
場合投与量減量または投与間隔の延長
Ccr30mL/min 以下または SCr3mg/dL 以上の
場合投与量減量または投与間隔の延長
過度の降圧により腎機能が悪化するおそれ
があり
高カリウム血症,腎機能の悪化のおそれあ
り,血清クレアチニンが 2.5mg/dL 以上の場
合には,投与量を減らすなど慎重に投与
腎機能障害の悪化のおそれがあり,血清クレ
アチニン値が 3.0mg/dL 以上の場合には,投
与量を減らすなど慎重に投与
記載なし
主に尿に未変化体として排泄
成人で腎障害のある患者へのデー
タあり
成人で腎障害のある患者へのデー
タあり
記載なし
未変化体尿中排泄ほとんどなし
405,407,410
405
無尿患者で禁忌,重篤な腎臓障害で慎重投与
405
無尿患者で禁忌,重篤な腎臓障害で慎重投与
405
記載なし
405
記載なし
405,406,407
記載なし
記載なし
記載なし
記載なし
記載なし
記載なし
大部分が代謝物として尿中排泄
1)
405,406
腎臓機能低下では過量投与に注意
85%以上は未変化体で尿中排泄
3)
1)
405
405
記載なし
尿中未変化体なし
1)
405
記載なし
尿中未変化体はごくわずか
1)
405
記載なし
2)
405
重篤な腎臓機能障害があるときは禁忌
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
185
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
のない代謝物の場合は腎不全患者でも減量の必要性はな
の測定値+ 0.2mg/dL を Jaffe 法による値と仮定して計算
い.例えばニフェジピンの尿中排泄率は 70 ~ 80%と記
する.SCr 値が小数点以下一桁で表される場合は誤差を
載されているが,これらは全て活性のない代謝物である
生じる可能性を考慮する.現在小児腎臓病学会で酵素法
ため,腎不全患者でも減量の必要性はない.経口製剤の
による SCr を用いた新しい計算式が検討されている.
(正
場合,吸収率が低い薬剤では,バイオアベイラビリティ
常クレアチニン値は学会ホームページ http://www.jspn.
ーを考慮せず尿中未変化体排泄率が記載されているた
jp/ 参照)
め,吸収率を算定する必要がある.例えば,アシクロビ
Giusti-Hayton 法による投与量推定計算式には尿中未
ルを1時間で静注した場合,68 ~ 76%が 48 時間以内に
変化体排泄率が必要になるが,我が国の医薬品添付文書
未変化体として尿中に排泄される.アシクロビルを経口
には,尿中未変化体排泄率の記載がない薬物が多く,腎
投与した場合,投与されたアシクロビルの 15 ~ 30%が
不全患者への薬物の投与量,投与間隔の変更は,海外の
血中に取り込まれ,投与されたアシクロビルの 12 ~ 25
ガイドラインや治験,各施設のデータから得られた情報
%が未変化体のまま尿中に排泄される.添付文書には,
をもとに行われている事が多い.表 27 に主に循環器系
経口投与したアシクロビルの 12 ~ 25%が未変化体とし
に使用する一部の薬物の尿中未変化体排泄率および腎機
て排泄させると記載されているため,内服薬の吸収,代
能別の投与法の変更について記載したが,日本の添付文
謝を考慮しないと未変化体尿中排泄率が見かけ上低くな
書のほとんどは腎機能別の投与法の記載がなく,単に慎
る.
重投与となっているため投与法変更の参考にできなかっ
た.そこで表 27 は海外の腎不全患者での薬物代謝や尿
③腎機能に応じた投与量,投与間隔の算出
中未変化体排泄率のデータを元に作成した.405)-407)
腎機能障害患者に薬物を投与する場合は,身体所見か
有効濃度と中毒濃度が接近している有効安全血中濃度
ら細胞外液量の評価を行う.初期投与において浮腫や腹
が狭い薬剤は,薬物血中濃度モニタリング(therapeutic
水のある患者ではその増量が必要な場合があり,脱水の
drug monitoring: TDM)を行うことが,副作用なしに有
患者ではその減量が必要な場合がある.併用薬剤の確認
効な血中濃度を得るために有用である.
も重要である.
薬物の尿中未変化体排泄率および患者の腎機能から,
至適投与量を求める方法として Giusti-Hayton 法がある.
投与量推定計算式:Giusti-Hayton 法を以下に示す.
投与補正係数(R)=1 -尿中未変化体排泄率×(1 -腎
腎機能低下により注意が必要な薬
剤
① NSAID
不全患者の CCr または GFR/ 正常の CCr)であり,正常
腎不全患者に投与すると腎機能のさらなる悪化を招く
の CCr として一般的に 100 を用いることができる.
ことがあるため使用を控える.また,CCr が 10mL/min
R を用いた投与設計方式には投与量の変更と投与間隔
未満の患者には禁忌となっている.NSAID よる急性腎
の変更がある.
不全は腎血流低下による腎虚血によりおこり,肝硬変,
投与量の変更は,腎不全患者の投与量=常用量 ×R で
ネフローゼ症候群,低血圧,脱水状態の患者で発症しや
求められる.
すい.腎機能障害を認めた場合には,直ちに薬剤を中止
投与間隔の変更は投与間隔=通常投与間隔× 1/R で求
408)
する.
められる.小児領域では蓄尿による CCr 測定は困難であ
り,実際には小児用 Schwartz の予測式による eGFR が
使用されることが多い.
②アセトアミノフェン
尿中未変化体排泄率は低いが,腎不全患者では高濃度
2
以下に eGFR の計算式を示す.eGFR(mL/min/1.73m )
に胆汁排泄された抱合体が腸内細菌にて脱抱合され再び
=k × 身 長(cm)/SCr(mg/dL),k 値:2 ~ 12 歳 0.55,
吸収されるため血中濃度が上がりやすい.連続投与する
13 ~ 21 歳女性 0.55,13 ~ 21 歳男性 0.70.推定式による
場合は減量が必要になる.409)
GFR は実際の値から乖離しているという報告もあるが,
蓄尿を必要とせず,簡便で実用的である.Schwartz の式
186
4
③造影剤
に用いる血清クレアチニン値は Jaffe 法による測定値を
重篤な腎障害がある患者への投与は原則禁忌である.
用いている.酵素法による測定値は Jaffe 法による測定
非透析患者における造影剤による腎障害の予防法とし
結果より 0.1 ~ 0.2mg/dL 程度低値を示すため,酵素法で
て,造影剤検査前後 12 時間に生理食塩水 1mL/kg/ 時を
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
輸液する,利尿薬や NSAID の使用を中止・禁止する,
減量法として,初回に常用量を投与し,以後は血中濃度
頻回の造影検査を控える,腎機能の厳密なモニターを行
半減期ごとに維持量を投与する方法,血中半減期の 2 ~
うなどが提言されている.透析には造影剤による腎障害
3 倍に間隔をあけて,常用量を使用する方法,使用間隔
を予防する効果は認められないが,造影剤による腎不全
は変えず,腎機能の程度に応じて 1 回量を調節する方法
やその全身循環管理としての血液濾過や血液透析濾過は
がある.アミノグリコシドは,急性尿細管壊死を起こす
腎機能の長期予後や生命予後を改善させる可能性があ
ことが知られており,患者の 10 ~ 20%に発症する.バ
410)
る.
ンコマイシンでは,間質性腎炎が知られており,一般的
にトラフ値を 10 μ g/mL 以下に保つことが望ましい.重
④ MRI 造影剤
症感染症など,症例に応じて投薬量を調節する.抗真菌
重篤な腎障害のある患者にガドリニウム(Gd)造影
薬のアムホテリシン B は腎毒性が高いことが知られてい
剤を使用した場合に,腎性全身性線維症(Nephrogenic
る.抗ウイルス薬(ガンシクロビル,アシクロビル)は
Systemic Fibrosis: NSF) の 発 症 が 報 告 さ れ て い る.
呂律困難や意識障害などの中枢神経障害,腎障害が出現
NSF は Gd 造影剤の投与後に皮膚の腫脹や硬化,疼痛な
しやすく,減量が必要である 412).また,腎不全患者では,
どにて発症する疾患で,進行すると四肢関節の拘縮を生
顆粒球減少,汎血球減少などの副作用を起こす可能性が
じる.現時点での確立された治療法はなく,死亡例も報
あるので注意を必要とする.413)-415)
告されている.したがって,使用する前には,腎機能を
評価すべきである.NSF 発症のリスクの高い腎不全患
⑦ジソピラミド・プロカインアミド
者,特に長期透析患者,GFR が 30mL/min/ 1.73m2 未満
抗不整脈薬であるこれらの薬物は腎不全時に活性代謝
の保存期腎不全患者,急性腎不全患者には 原則として
物が蓄積しやすい薬物に分類されている.ジソピラミド
Gd 造影剤を使用せず,他の検査法で代替すべきである.
の活性代謝物であるモノ- N- デアキルジソピラミドは
GFR が 30 mL/min/1.73m 以 上,60mL/min/1.73m 未 満
強力な抗コリン作用と血糖降下作用をもち,プロカイン
の場合には,Gd 造影 MRI 検査による利益と危険性とを
アミドの活性代謝物である N- アセチルプロカインアミ
慎重に検討した上で,その使用の可否を決定する必要が
ドは催不整脈作用を増強させる.
2
2
ある.使用に当たっては必要最少量を投与すべきであ
る.411)
⑤アロプリノール
⑧ジゴキシン
組織移行性が高く , 心筋や骨格筋に高濃度に分布し,
その分布容積が大きいため透析で除去されない.そのた
腎機能障害のある患者では高い血中濃度が持続するの
めより慎重な投与設計が必要になる.尿中排泄率が 70
で減量や投与間隔の延長を考慮する.プロベネシドやベ
%と高い腎排泄型の薬物のため腎不全患者では食欲低
ンズブロマロンは腎結石や高度の腎障害のある患者では
下,視覚障害,不整脈などの副作用が生じやすい.ジゴ
原則禁忌であり,GFR30mL/min 以下の患者には無効で
キシンは腎不全患者で分布容積が低下するため,初回負
412)
ある.
⑥抗菌薬
荷量を通常の 50 ~ 70%に減量する必要がある.ジゴキ
シンの組織への分布速度は遅く,血中濃度が組織と平衡
状態に達するのに 6 時間程度要するため , TDM のための
多くの抗菌薬は腎排泄であるため,GFR 低下例では
採血は服用から 6 ~ 8 時間後に行う.クラリスロマイシ
薬物の減量が必要である.
ン,ベラパミルなどの P 糖蛋白質阻害薬との併用により
マクロライド系薬やミノサイクリンは肝排泄のため,
血中濃度が上昇するため注意が必要である.
腎不全患者での使用法の調節は不要とされている.β
ラクタム系薬,ニューキノロン系薬は腎機能が中等度に
進行した場合に投与量の変更が必要になる.カルバペネ
⑨ア ンジオテンシン変換酵素阻害薬・アンジオテ
ンシンレセプター拮抗薬
ム系薬は腎機能低下時にけいれん誘発の危険性が高まる
動脈閉塞や重篤で広範な微小血管変化を伴う腎疾患の
ため,より細かい配慮を必要とする.アミノグリコシド
場合,これらの薬物がアンシオテンシンの作用を阻害し
薬,グリコペプチド薬は腎機能障害の早期から用法が厳
血行動態を変化させことにより,突然の腎機能低下をも
しく制限される.中毒域と治療域の近い薬剤であるため,
たらすことがある.そのため腎機能をモニターしながら
TDM を行うことが望ましい.腎機能障害がある場合の
少量から注意深く開始する必要がある.開始後に持続的
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
187
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
な腎機能低下を来した場合は使用の中止が必要である.
したα作用を主とする薬剤となる.塩酸フェニレフリ
ンは蘇生時の循環補助薬として用いられる.その他の薬
Ⅵ
低血圧治療薬
剤の適応疾患は本態性低血圧,起立性低血圧である.
α受容体直接作用による昇圧効果を示す薬剤として小
児使用の記載があるものは,①塩酸フェニレフリン,②
塩酸ミドドリン,③メシル酸ジヒドロエルゴタミンがあ
昇圧剤が必要となる低血圧症の分類として以下の疾患
げられる.また,ノルアドレナリンと競合して交感神経
があげられる.
機能亢進により昇圧効果を示すメチル硫酸アメジニウム
1
低血圧の分類
(1)本態性低血圧:病因が認められない低血圧で症候性
(二次性)低血圧を除外したもの
(2)症候性(二次性)低血圧:種々の基礎疾患により二
次的に血圧が低下したもの
(3)起立性低血圧:臥位や座位から起立時に 20mmHg
以上の収縮期血圧低下を示すもの
があげられる.
1
α受容体直接作用
●塩 酸ミドドリン midodrine hydrochloride(商品名:
メトリジン)
小児適応:国内 承認あり
エビデンスレベル:クラス I レベル C
[製剤]錠剤 2mg
[用法]経口
小児において頻度の高い起立性調節障害による低血圧
[用量]本態性低血圧,起立性低血圧
は起立性低血圧に分類される.
[適応]成人,小児とも 4mg/ 日,分 2.
2
小児低血圧の定義
(成人)最大1日 8mg,小児最大 1 日 6mg
(小児)1 日 7 ~ 9 歳: 1 ~ 2 錠, 10 ~ 12 歳: 2 錠,
13 歳以上:2 ~ 3 錠 / 日,分 2416)
小児低血圧の定義(PALS プロバイダー AHA ガイド
[薬理]活性本体をグリシンで修飾したプロドラッグ.
ライン 2005 準拠)
選択的α1 受容体刺激作用に基づき末梢血管を
・ 正産期新生児(0 ~ 28 日)
収縮させる.成人での 2mg 単回投与時の脱グ
収縮期血圧(mmHg)< 60
リシン体(活性本体)の Tmax 1.5 時間,Cmax
5.3ng/mL,T1/2 2.4 時間.
・ 生後1~ 12 ヵ月
収縮期血圧(mmHg)< 70
[副作用]頭痛(0.15%),悪心(0.14%),腹痛(0.13
・ 1 ~ 10 歳
%),めまい・高血圧・動悸・心室性期外収
収縮期血圧(mmHg)< 70 +(2 ×年齢)
・ > 10 歳 収縮期血圧(mmHg)< 90
収縮期血圧がこれより 10mmHg 下降するとショック
など注意を要する
3
昇圧剤
縮・肝機能異常(0.1%未満),その他
[相互作用]記載なし
[禁忌]甲状腺機能亢進症の患者,褐色細胞腫の患者
●塩酸フェニレフリン phenylephrine hydrochloride(商
品名:ネオシネジン)
小児適応:国内未承認/海外 米国,欧州にて承認あり
エビデンスレベル:クラス IIa レベル C
[製剤]注 1mg/1mL/A,5mg/1mL/A
昇圧剤のほとんどは,その作用機序によりβ受容体
[用法]皮下注・筋注・点滴静注
刺激作用を介するものとα受容体刺激作用を介するも
[用量]
のとに大別される.血圧のみを上昇させたい場合には
α作用を主とするものを選択し,心拍出量増加による昇
圧を期待する場合はβ作用を主とする薬剤を選択する.
したがって,β受容体刺激作用を介するものは強心剤
188
(成人)皮下注・筋注:1 回 2 ~ 5mg,増減範囲 1 ~
10mg,
初回量は 5mg まで,10 ~ 15
分おきに反復投与可
として使用されることが多い.本態性低血圧や起立性低
静注 1 回 0.2mg をそのまま,または 10mL
血圧に使用される昇圧剤は末梢血管への直接作用を期待
の生食または 5 %ブドウ糖溶液に希
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
釈して静注,増減範囲 0.1 ~ 0.5mg.
・ プロプラノロール:末梢血管収縮作用が強く現れ
点滴静注 100mL の 5 %ブドウ糖溶液に対
し て 0.5 ~ 1mg の 割 合 で 混 注 し
て持続静注
るおそれがある
[禁忌]
・ 末梢血管障害,閉塞性血管障害,狭心症,冠動脈
(小児)0.1 ~ 2.0 μ g/kg/min
417)
硬化症,コントロール不十分な高血圧症,ショッ
[適応]各種疾患・状態に伴う急性低血圧またはショ
ク,側頭動脈炎のある患者,重篤な肝機能障害の
ある患者,敗血症の患者,妊婦または妊娠してい
ック時の補助治療
[薬理]選択的α1 受容体刺激作用により末梢血管拡張
る可能性のある婦人,授乳婦,本剤の成分または
麦角アルカロイドに対し過敏症の既往歴のある患
をきたす.Tmax,Cmax,T1/2 の記載なし.
[副作用]頭痛(6.77%),手足のしびれ感・ふるえ感
者,心エコー検査により心臓弁尖肥厚,心臓弁可
(1.30%),紅斑(0.78%),心悸亢進・徐脈(頻
動制限およびこれらに伴う狭窄などの心臓弁膜病
変が確認された患者およびその既往のある患者,
度不明),その他
[相互作用]本剤の作用増強の危険性:MAO 阻害剤,
HIV プロテアーゼ阻害剤,HIV 核酸転写酵素阻害
三環系抗うつ剤,分娩促進剤(オキシト
剤(エファビレンツ,デラビルジン),マクロラ
シン,エルゴタミン)
イド系抗生物質,アゾール系抗真菌薬,セレトニ
[禁忌]心室性頻拍のある患者,本剤の成分に過敏性
ン受容体(5HT1B/1D)作動薬,麦角アルカロイド
の既往のある患者
投与中の患者.
●メ シル酸ジヒドロエルゴタミン dihydroergotamine
mesilate(商品名 ジヒデルゴット)
小児適応:国内未承認 海外 豪あり エビデンスレベル:クラス I レベル C
2
交感神経機能亢進作用
●メチル硫酸アメジニウム amezinium metilsulfate(商
品名:リズミック)
[製剤]錠剤 1mg
小児適応:国内未承認/海外 承認なし
[用法]経口
エビデンスレベル:クラス I レベル C
[用量]成人 1 回 1mg,1 日 3 回(適宜増減)
[製剤]錠剤 10mg
小児 1日7 ~ 9 歳:2 ~ 3 錠,10 ~ 12 歳:3 錠,
[用法]経口
13 歳以上:3 錠 /日,分 2 ~ 3
[用量]
416)
[適応]片頭痛(血管性頭痛),起立性低血圧
(成人)1 日 20mg 2 回に分服
[薬理]α刺激作用による血管平滑筋収縮作用である
(小児)1 日 7 ~ 9 歳:0.5 錠,10 ~ 12 歳:0.5 ~ 1 錠,
が,α遮断作用もある部分的アゴニストであ
る.
成人 1mg 投与にて Tmax 2.7±0.6 時間,Cmax
0.63 ± 0.12ng/mL,T1/2(β)21±3 時間
13 歳以上:1 ~ 2 錠 / 日,分 2
[適応]本態性低血圧,起立性低血圧,透析施行時の
血圧低下の改善
[薬理]ノルアドレナリンと競合して末梢神経週末に
[副作用]悪 心・嘔吐,食欲不振(2.3 %),発疹・掻
取り込まれ,ノルアドレナリンの神経終末へ
痒(0.8%),眠気・口渇(1.3%),動悸(0.2
の再取り込みの抑制と共に,神経終末でノル
%),手指冷感(0.2 %)など.長期連用に
アドレナリンの不活性化を抑制,交感神経機
より胸膜,後腹膜または心臓弁の線維症が
能を亢進させる.
現れたとの報告あり(頻度不明)
[相互作用]
成人に 10mg1 回投与時 Tmax 2.7±0.4 時間,
Cmax 25.3 ± 1.4ng/mL,T1/2 13.6±2.5 時間
・ 本剤は主に代謝酵素 CYP3A4 で代謝されるので,
[相互作用]動 悸(0.72 %), 頭 痛(0.33 %), 嘔 気・
本酵素の阻害作用を有する薬剤との併用に注意:
嘔 吐(0.33 %), ほ て り 感(0.21 %), 高
HIV プロテアーゼ阻害剤,マクロライド系抗菌薬,
アゾール系抗真菌薬
・ 血圧上昇または血管攣縮が増強されるおそれがあ
る:5-HT1B/1D 受容体作動薬,麦角アルカロイ
ド
血圧(0.27%)
[相互作用]本剤の作用増強の危険性:ドロキシドパ,
ノルアドレナリン
[禁忌]高血圧症の患者,甲状腺機能亢進症の患者,
褐色細胞腫のある患者,狭隅角緑内障の患者,
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
189
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
議で分類が提唱された(Dana Point 分類).家族性 PAH
残尿を伴う前立腺肥大のある患者
は遺伝性 PAH に包括され,家族内発症に関わらず遺伝
Ⅶ
子 異 常(BMPR2 , ALK1 な ど ) を 有 す る 特 発 性 PAH
小児肺高血圧治療薬
(IPAH)も含まれる.フランスの疫学データでは,小児
PAH の 年 間 発 生 率 は 100 万 人 に 3.7 人 と さ れ, 内 訳 は
IPAH(60 %),家族性 / 遺伝性 PAH(10 %),先天性心
1
疾患に伴う PAH(CHD-PAH)(24%),結合組織病に伴
はじめに
う PAH(CTD-PAH)(4%),門脈疾患に伴う PAH(2%)
と続き,成人とは大きく分布が異なる 420).
肺動脈性高血圧症(PAH)の治療においては最近 20
臨床症状
2
年間で劇的な進歩がみられる.2004 年に米国胸部医師
会議(American College of Chest Physicians: ACCP)か
小児でも成人同様,労作時息切れや易疲労性は最も頻
らエビデンスに基づく PAH 診療ガイドラインが発表さ
度が高い.運動時の失神は小児に多く,浮腫を代表とす
れ 418),さらに 2007 年 6 月に一部が改変された 419).治療
る右心不全は成人でより多く認められる.病状進行に伴
の基本をなすのは,抗凝固薬,利尿薬,酸素投与などの
い呼吸困難を最小限にしようと身体活動に自己規制が働
一般的支持療法と,PGI2-cAMP 経路,一酸化窒素(NO)
く成人と異なり,心拍出量がある程度維持されている小
-cGMP 経路(ホスホジエステラーゼ(PDE)5 阻害薬),
児では過度な運動に伴って呼吸困難や失神を来たす傾向
エンドセリン(ET)経路阻害(ET 受容体拮抗薬)の血
がある 421).そのため小児の PAH はしばしば見逃されて
管内皮・平滑筋を標的とした 3 つの特異的治療薬である
しまう.
(図 15).小児においては必ずしも十分なエビデンスは
ないが,成人例での有効性や安全性を参考に臨床応用し
2
内科治療
1
PAH 治療アルゴリズム(図 16)
ているのが現状である.
1
診断と分類
PAH は安静時の平均肺動脈圧≧ 25mmHg かつ肺動脈
(1)抗凝固療法(ワルファリン)は出血性素因がない
楔入圧≦ 15mmHg と定義される.また肺血管抵抗値≧
IPAH 患者,PGI2 投与のために中心静脈カテーテル
3woods unit ・m を用いることもある.2008 年の国際会
を留置した患者において推奨.
2
図 15 PAH 治療の重要な 3 つの経路
血管内皮・平滑筋細胞
プロスタサイクリン
(PGI2)経路
メディエーター :
病態生理 :
PGI2
・血管拡張
・平滑筋細胞増殖抑制
一酸化窒素
(NO)経路
エンドセリン
(ET)経路
NO
・血管拡張
・平滑筋細胞増殖抑制
ET-1
・血管収縮
・平滑筋細胞増殖
薬剤 :
・ベラプロスト
・エポプロステノール
・NO 吸入
・シルデナフィル
ボセンタン
作用機序 :
PGI2 補充→cAMP↑
・NO 補充→cGMP↑
・PDE5 阻害→ cGMP↑
ETA/B 受容体阻害
IPAH: idiopathic pulmonary arterial hypertension, CCB: calcium channel blocker
190
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
図 16 PAH 治療アルゴリズム(Badesch, DB, et al: chest2007 を引用,改変)
症候性 PAH
一般的治療:経口抗凝固薬 [B for IPAH,E/C for other PAH],
利尿薬,酸素 [E/A]
急性血管反応性試験 [A for IPAH,E/C for other PAH]
陽性
陰性
経口 CCB [B for
IPAH,E/B for
Other PAH]
FC Ⅱ
・シルデナフィル [A]
・Treprostinil SC [C]
・Treprostinil Ⅳ [C]
効果持続
No
Yes
CCB の継続
FC Ⅲ
FCⅣ
・ボセンタン [A]
・シルデナフィル [A]
・エポプロステノール [A]
・Iloprost 吸入 [A]
・Treprostinil SC [B]
・Treprostinil Ⅳ [C]
・エポプロステノール [A]
・ボセンタン [B]
・Iloprost 吸入 [B]
・シルデナフィル [C]
・Treprostinil SC [C]
・Treprostinil Ⅳ [C]
Combination therapy?
プロスタノイド
ボセンタン
改善なし,or 増悪
シルデナフィル
心房中隔裂開術
and/or 肺移植
(文献 415 より引用,改変)
エビデンスレベル A:強く推奨,B:中等度に推奨,C:やや推奨,E/A:専門家の意見のみに基づき強く推奨,
E/A:専門家の意見のみに基づき強く推奨,E/B:専門家の意見のみに基づき中等度に推奨,E/C:専門家の意見
のみに基づきやや推奨
<英文表記の薬剤は我が国未発売>
(2)急性血管反応性試験“陽性”とは NO 吸入やエポプ
フィル,iloprost(我が国未発売),treprostinil(我
ロステノール静注投与後,心拍出量は増加あるいは
不変,かつ平均肺動脈圧が≦ 40mmHg まで少なく
が国未発売)のいずれか
(7)WHOFC-IV ではほとんどの専門家がエポプロステ
とも≧ 10mmHg の低下と定義
(3)IPAH 以外の PAH 患者では Ca 拮抗薬(CCB)の代
ノールを推奨
(8)Add-on 療法や併用療法の無作為臨床試験が現在進
わりに PDE5 阻害薬,ET 受容体拮抗薬,プロスタ
ノイドを第一選択薬として考慮すべき
(4)CCB 治療の“効果持続”とは数か月後も正常に近
行中
2
急性血管反応性試験
い血行動態で機能分類クラス(FC)I ~ II を維持し
慢性投与に先立ち,急性負荷試験による血管反応性の
ている症例と定義
評価が推奨されている.そのコンセプトは元来,カルシ
(5)診断初期の PAH 治療においては利益と損失を十分
考慮すべき
(6)WHOFC-III の第一選択薬はボセンタン,シルデナ
ウム拮抗薬の長期投与有効例が急性の肺血管拡張反応を
示すことに基づいてきた.効果の期待できる治療薬が多
様化した現在では,個々の症例における反応性の違いに
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
191
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
より,①最適な血管拡張薬の選択,②開始時用量,増量
確認する.静注用 PGI2 の急性負荷試験では必ずしも肺
方法などの検討,③重篤な有害事象や予後の予測判定に
血管選択性が認められず,肺動脈圧低下に先立って体血
も有用と考えられる.WHO 機能分類(FC)-III 度以下の
圧低下が出現する場合がある.それに関連して脈拍数の
症例が急性負荷試験の適応となる.高度心不全合併例で
増加や SpO2 の低下を呈することが多いため,検査中は
の心臓カテーテル検査は身体への負担が強く,また血管
常に心電図や SpO2 モニターをチェックするよう心がけ
拡張薬の使用により体血圧低下や心拍出量増加に伴う肺
る.特に幼少児や心拍出量低下が顕著な症例でその傾向
動脈圧上昇を助長し,時には肺高血圧クリーゼを招来さ
が強いため,急性負荷試験は無理をせず,PAH の病態
せる危険があり相対的禁忌とされる.
や治療に精通した経験豊富な施設や医師のもとで施行さ
せるべきである.
①負荷試験の具体的方法
急性血管反応試験に用いられる薬剤を表 28 に列記し
た.通常,右心カテーテル留置下で行われるため,長時
低血圧に注意する.短期的に肺血管拡張を促すのみで
間の検査は被験者にとってストレスが大きく,薬剤投与
はなく,長期的に肺血管の組織学的改善を得ること,肺
後短時間で効果の判定を行う必要がある.したがって負
循環と全身循環のバランスを考えた全身管理を目指す.
荷試験に適した薬剤とは,①肺血管選択性があり,②最
具体的には全身血圧や脈拍数をモニターしながら症例毎
高血中濃度到達が早く,③半減期が短く,投与中止後は
に適切な肺血管作動薬を少量から開始する,短期間での
速やかに代謝される,などの特徴を有している.1 回の
急速な増量はしない,心不全や低心拍出に対する末梢循
検査で複数の薬剤の急性効果を比較する場合は,先に投
環確保のため利尿薬の過剰投与は避ける.重症例・低心
与された薬剤の効果が残らないように十分な間隔を設け
拍出症例ではカテコラミン(ドブタミン,ドーパミン)
る(図 17).
や PDE3 阻害薬(ミルリノン,オルプリノン等)を積極
急性負荷試験は右心カテーテル留置下に 100%酸素や
的に併用する.また血漿 hANP・BNP(または NT pro
NO 吸入,静注用 PGI2,経口シルデナフィルなどを投与
BNP)の測定,6 分間歩行テスト,心エコー,心臓カテ
して血行動態の変化を観察する.肺動脈圧を評価する際
ーテル検査等による定期的な肺血行動態・心機能評価は
には必ず体血圧を同時にモニタリングすべきである.
必須で,治療効果が不十分な症例では早めに治療内容を
見直す.
②基準値
平均肺動脈圧や心係数を測定し,肺血管抵抗および肺
体血管抵抗比を算出する.急性負荷試験の際に参考にす
べき循環指標を表 29 に示す.
3
小児 PAH への実践的治療
①代表的な PAH 治療薬
以下の薬剤はいずれも小児適応がない.
③診断基準
1)ベラプロスト(クラスⅡ b,レベル C)
反応群(responder)の定義は前値(baseline)に比して,
[作用機序]血管内皮細胞表面の PGI2 受容体を介して平
肺動脈圧が 20%以上の低下,または肺血管抵抗が 20 ~
滑筋細胞内の cAMP 濃度を上昇させ血管拡張作用を呈す
30%以上低下する症例とするのが一般的である
るとともに,血小板凝集抑制・血管平滑筋増殖抑制作用
422)-426)
.
さらに体血圧が不変または軽微の低下にとどまること,
すなわち肺/体血管抵抗比が不変もしくは改善すること
を有する.
[適応]WHOFC- Ⅰ~Ⅱの軽症例が最もよい適応
を付加条件としていることが多い.また肺動脈圧の低下
使用方法:成人で 1 回 1 錠(20 μ g)・1 日 3 回,小児
を伴わずに心拍出量のみが増加した結果,見かけ上肺血
では錠剤を粉砕して 1 μ g/kg/ 日,分 3 から開始する.心
管抵抗が低下した症例では必ずしも良好な転帰を辿らな
不全合併や低血圧の症例,乳幼児では半量から開始する.
いため,判定には注意を要する.
効果不十分な症例では副作用・忍容性に注意しながら成
④注意点
192
⑤治療の基本
人で 1 回 2 ~ 3 錠・1 日 3 ~ 4 回,小児で 3 ~ 5μg/kg/ 日,
分 3 ~ 4 まで増量可能である.1 錠 60 μ g の徐放製剤は1
小児では心臓カテーテル検査中に鎮静薬を使用する頻
日2回の内服で1回 1 ~ 3 錠まで増量可能で長期投与に
度 が 高 く, 時 に 呼 吸 抑 制 を 生 じ る 場 合 が あ る た め,
は有利である.最大量投与後も改善に乏しい症例や FC-
SpO2 や血液ガス所見で適切な換気が行われているかを
Ⅲ~Ⅳの症例ではエポプロステノールへの切り換えを考
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
表 28 急性血管反応試験に用いられる薬剤
よく使用される薬剤
薬剤
投与経路
エポプロステノール
静注
酸素
一酸化窒素 NO
吸入
吸入
投与量
0.5 ~ 2ng/kg/min,無反応のとき,
10 ~ 15 分 毎 に 1 ~ 2ng/kg/min
漸増してもよいが,重症例では慎
重投与.
100%,10L/min,5 ~ 15 分
10 ~ 80ppm
T max
T 1/2
速やか
3~5分
〃
〃
15 ~ 30 秒
T max
T 1/2
その他
薬剤
投与経路
アデノシン *
静注
シルデナフィル
内服
ニフェジピン
内服
投与量
50 ~ 100 μ g/kg/min か ら 開 始,
2 分 毎 に 50 μ g/kg/min 漸 増 し, 速やか
最大 200 μ g/kg/ 分
小児:0.5 ~ 0.6mg/kg/dose
50 分
成人:25 ~ 50mg/dose
成人:10 ~ 30mg/dose
20 ~ 45 分
5 ~ 10 秒
3.3 時間
2 ~ 5 時間
T max:最高血中濃度到達時間,T 1/2:半減期
* 我が国ではアデノシン三リン酸二ナトリウム(ATP)
図 17 急性負荷試験のプロトコール一例
室内気
100%酸素
経口シルデナフィル
静注 PGI2
4ng/kg/min
2ng/kg/min
10 分
on
30 分
15 分
30 分
off
Condition <1> Condition <2>
(baseline)
Condition <3>
Condition <4> Condition <5>
表 29 PAH に対する急性負荷試験時の血行動態評価
循環指標
右房圧
望ましい急性反応
20%以上の低下;
理想的には 40mmHg 以下
30%以上の低下;
理想的には 8U・m2 以下
不変,または低下
肺動脈楔入圧
不変
体血圧
不変,
または 10%未満の低下
心拍出量(CO)
増加
平均肺動脈圧
肺血管抵抗
心拍数
有意な変化なし
動脈血酸素飽和度
上昇
(SaO2)
肺動脈(混合静脈)
上昇
血酸素飽和度(SvO2)
コメント
体血圧の有意な低下を伴わないこと
肺動脈圧低下と CO 増加の両者を満たすべきで,
CO 増加のみの時は右心不全を来たす恐れあり
上昇は潜在的な右心不全を意味する
上昇は肺静脈閉塞病変や左心不全併存を示唆す
る
有意な体血圧低下例への血管拡張薬の慢性投与
は禁忌
1 回拍出量と相関すべきで,心拍数増加による
ものであってはならない
慢性的な HR 増加は右心不全の招来につながる
低下は肺疾患または右-左短絡を疑う
上昇は CO 増加と組織酸素化の改善を反映する
(文献 418 より改変引用)
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
193
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
慮する.また最近はシルデナフィルやボセンタンなどと
ETA と ETB の 2 つがある.ETA は血管平滑筋に存在し,
の併用療法が比較的早期から検討され,ベラプロスト単
血管収縮・細胞増殖・細胞遊走などに関与,ETB は血管
剤での大幅な増量は避けられる傾向にある.
内皮細胞に存在し,NO や PGI2 の産生を介して ETA と
[副作用]頭痛やほてり,消化器症状などがあるが,減
量にて副作用は軽減することが多く継続中止に至る症例
PAH の病態では ETB が血管平滑筋にも発現し収縮過剰
は少ない.
に関与している.そのため ETA・B 両受容体をブロック
中等度以下の症例では一定の効果が示されている.欧
するボセンタンは PAH 治療薬として理にかなっている.
州における 12 週間の臨床試験(ALPHABET)では 6 分
[適応]FC- Ⅲまたは FC- Ⅳに限るが,FC- Ⅱでも考慮す
間歩行距離や自覚症状の有意な改善が認められた 427).
る.薬価が高く,IPAH など特定疾患以外の成人患者で
しかし翌年,米国での 1 年間の前方視的観察では 3 ~ 6
は経済的負担が大きいのが難点である.
か月間は有効だが 9 か月目以降は効果が持続せず,長期
[投与方法]成人で 1 回 1 錠(62.5mg)・1 日 2 回で開始,
効果については否定的な意見が多く 428),残念ながら最
1 か月以上あけて倍量(250mg/ 日)まで増量して維持す
新の治療アルゴリズムには含まれていない. ることが推奨されている.しかし欧米人での薬物動態を
2)エポプロステノール(クラスⅠ,レベル C)424, 429)
基礎としており,日本人での検討は少ない.小児は体重
[作用機序]cAMP 増加.
10 ~ 20kg で 1 回 0.5 錠・1 日 1 回,20 ~ 40kg で 1 回 0.5 錠・
[適応]重度例(FC- Ⅲまたは - Ⅳ).しかし,全身低血
1 日 2 回,40kg 以上では成人に準じる.他の薬剤と併用
圧や循環不全を呈する症例では過度な血圧低下(ショッ
する場合は副作用に注意しながらより少量から開始す
ク)や換気血流不均衡などを招く恐れがあるため細心の
る.
注意を要する.
[副作用]頭痛やほてり,ふらつき(浮遊感),筋痛など
投与方法:エポプロステノールは半減期が 3 ~ 5 分と
の他,成人では 7 ~ 11%に肝機能障害が出現する.小児
短く,持続静脈内投与が必要であること,溶解後の pH
では 3%未満と肝障害は比較的まれである 431).投与前に
がアルカリ性で血管刺激性があるため末梢静脈からの長
は必ず肝機能を確認し,開始後 3 か月間は原則として 2
期投与が困難であることから,中心静脈カテーテルの留
週間に 1 回,それ以降も月に 1 回の肝機能検査(AST・
置が不可欠となる.薬剤は室温や日光に不安定であるた
ALT・ALP・T-Bil など)を行うことが望ましい.基準
め,調製後は常にアイスパックで冷却状態を保ち,遮光
値の 3 倍以上 5 倍未満では減量,8 倍以上では中止する
する必要がある.低用量(1 ~ 2ng/kg/min)から開始し,
よう注意喚起されている.肝機能障害の出現時期は数日
副作用や忍容性に注意しながら 2 ~ 4 週の間隔で 1ng/kg/
以内から 3 か月以降と症例により差が大きく,増量の間
min ずつ増量していく.増量の上限は定められていない
隔も十分にあけたほうが無難である.肝機能障害のため
が,開始後 2,3 年で安定維持量(20 ~ 30ng/kg/min)に
一旦減量(中止)後に肝機能が改善して増量(再開)す
達することが多い.
る場合は,より少ない量から十分な間隔を設けて小刻み
[副作用]頭痛,顔面紅潮,下痢など血管拡張薬共通の
に増量すべきである.
副作用以外に,顎関節痛(特に最初の咀嚼時)や足底部・
[相互作用]ボセンタンはシルデナフィルの血中濃度を
踵の痛みなど本剤に特異的な症状がある.これらは用量
有意に下げることが報告され,薬剤相互作用の影響を考
依存性に増強するが,用量を固定すると軽減する特徴が
慮する 432).
ある.
4)シルデナフィル(クラスⅠ,レベル B)433)
[注意点]留置カテーテルの脱落・自然抜去,皮下トン
[作用機序]PDE5 が存在する血管平滑筋において NO-
ネル感染,菌血症,カテーテルの血栓性閉塞,カテーテ
cGMP の分解や代謝を減少して血管拡張および血小板凝
ルの損傷などのトラブルに注意が必要である.万一,種々
集抑制を増強させる.PDE5 は陰茎海綿体のみならず肺
のトラブルでエポプロステノール注入が中断した場合に
組織,血管平滑筋にも多く分布していることから肺血管
はリバウンド現象による PH 急性増悪の危険がある.そ
に選択的な作用が期待できる.欧米では成人 PAH 患者
の場合はすみやかに末梢静脈を確保して薬剤注入を再開
での臨床試験の有益な結果を経て 2005 年に承認に至っ
する必要があるため,自宅近くの救急対応可能な医療機
た 434).我が国では 2008 年に承認された.
関との連携が望まれる.
3)ボセンタン(クラスⅠ,レベル C)430)
[作用機序]ET ファミリー(ET-1,2,3)の受容体には
194
は逆に血管拡張・細胞増殖抑制など保護的な作用を持つ.
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
[適応]FC- Ⅱから FC- Ⅳと比較的軽症から重症例まで
対象は幅広い.肺血管選択性が高く,換気血流不均衡を
助長させないため,呼吸機能低下例にも投与しやすい.
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
NO 吸入からの離脱を容易にさせる効果も検討され 435),
(2)FC- Ⅲ:ベラプロストとボセンタンまたは(and/or)
新生児領域や開心術周術期においても有用性が高い.さ
シルデナフィルの併用,進行が早い症例では時期を
らに肥大した右室で PDE5 の発現が亢進しており,シル
逸せずベラプロストからエポプロステノールへ切
デナフィルが右心機能を改善させる効果にも注目されて
り換える.
(3)FC- Ⅳ: カテコラミンや PDE3 阻害薬の併用下で
いる 436).
[使用方法]最高血中濃度到達時間(Tmax)が約 50 分
エポプロステノールを少量から慎重に開始,ボセン
タンやシルデナフィルを適宜追加する.
と短いため,急性負荷試験で大まかな効果の予測が可能
である.我々は 0.5 ~ 0.6mg/kg の内服 30 分後に急性効
果を確認している.成人で 60mg/ 日,分 3,小児では 0.5
3
おわりに
~ 1mg/kg/ 日,分 3 から投与を開始するのが目安である.
小児での忍容性は良好で,海外での治験では成人 1 回
我が国では 1999 年にエポプロステノールが承認され,
80mg・1 日 3 回の忍容性も確認されているが,小児での
PAH の予後は改善傾向にある.さらに近年,有望な治
用量設定は決まっていない.
療薬の臨床使用が可能になり,治療の選択肢が増えたこ
[副作用]頭痛やほてり,消化器症状,鼻出血があるが,
とも事実である.しかし,PAH が難治かつ進行性であ
多くは減量にて軽快する.頻度はまれ(約 2%)だが羞
る疾患に変わりなく,特に FC- Ⅲ~Ⅳの重症例では専門
明や色覚異常(blue vision)など眼に関する訴えがあり,
施設による治療開始と慎重な観察が求められる.最大の
これは網膜に分布する PDE6 へ若干の阻害作用が及ぶた
内科治療にも抵抗を示す症例では肺移植を考慮すべきで
めと考察されている.さらに NAION(非動脈炎性前部
あり,患者家族へのインフォームドコンセントと適切な
虚血性視神経症)による失明が勃起不全 2,300 万人中 36
時期での移植施設への照会は必須であろう.小児への適
人で報告され,糖尿病や高血圧でリスクが高い.眼科的
応は現在臨床試験中の薬剤が多く,エビデンスに乏しい.
にも発達段階にある新生児・乳幼児における安全性は今
成人の報告を参考に使用されており,小児に対してはす
後追及していく必要があり,未熟児網膜症など眼科的合
べての薬剤が未承認である.
併症を持った小児への投与は控えたほうがよいと考えら
れる.
5)カルシウム拮抗薬(クラスⅡ b,レベル C)
欧米では急性血管反応性が良好な症例には CCB が推
Ⅷ
小児の心筋疾患,心膜疾患治療薬
奨されているが,我が国の実情は異なる.急性血管反応
性陽性例は皆無に近く,実際に CCB のみで管理できる
症例はほとんど経験されない.安価であるが,CCB の
1
心筋症
1
定義と分類
陰性変力作用が懸念され,代替としてベラプロストを投
与される機会が多い.最近,Sitbon らは急性試験陽性を
示した特発性 PAH は全体の 13%に過ぎず,CCB 単独で
1 年後も FC- Ⅰ~Ⅱを維持できた頻度はわずか 6.8%であ
ったと報告している
437)
.
②実際の薬剤選択
我が国で使用可能な上記 1)~ 5)の薬剤を前述した
心筋症は心機能障害を伴う心筋疾患と定義される.小
児も成人と同じ定義と分類 438)が用いられている(表
30).
特定心筋症は原因または全身疾患との関連が明らかな
心疾患とされ,虚血性,弁膜性,高血圧性,炎症性(心
PAH 治療アルゴリズム(図 16)に基づいて投与する.
重症度以外に進行度や年齢,社会的・経済的背景,相対
的禁忌などを考慮して単独ないし組み合わせて投与す
表 30 1995 年 WHO/ISFC 合同委員会による心筋症の定義と病型分類
定義
る.
(1)FC- Ⅱ:まずベラプロストを投与し,経過によりボ
センタンまたはシルデナフィルを追加.その際,肝
障害があればボセンタンは避け,網膜症があればシ
ルデナフィルを避ける.
病型分類
心機能障害を伴う心筋疾患
1.拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy; DCM)
2.肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy; HCM)
3.拘束型心筋症(restrictive cardiomyopathy; RCM)
4.不整脈源性右室心筋症(arrhythmogenic right
ventricular cardiomyopathy; ARVC)
5.分類不能の心筋症(unclassified cardiomyopathy)
特定心筋症
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
195
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
筋炎),内分泌・代謝性,過敏・中毒性,周産期心筋症,
胸部単純 X 線写真で心拡大,心電図で ST-T 変化を認
神経・筋疾患,膠原病などに伴う心筋症が含まれる.
2
[検査所見]
め,心エコーでの左室内腔の拡大と駆出率の低下は診断
疫学
上有用である(クラスⅠ).
日本小児循環器学会の希少疾病サーベイランス
439)
に
[診断と鑑別診断]
よると,平成 17 年から 21 年までの 5 年間に登録された
新生児や乳児では,心筋炎や心内膜弾性線維症以外に
症例数は,拡張型心筋症(DCM)245 例,肥大型心筋
大動脈弁狭窄や大動脈縮窄,Bland-White-Garland 症候
症(HCM)224 例,拘束型心筋症(RCM)41 例,不整
群などの先天性心疾患との鑑別が必要となる.小児にお
脈 源 性 右 室 心 筋 症(arrhythmogenic right ventricular
ける心筋症診断のフローチャートを図 18 に示す.
cardiomyopathy: ARVC)7 例,左室心筋緻密化障害(left
[治療]
ventricular non-compaction: LVNC)162 例,Pompe 病 に
治療のフローチャートを図 19 に示す.
伴う心筋症は 9 例であった(表 31).
急性心不全に対しては利尿薬,カテコラミン(クラス
3
Ⅰ,エビデンスレベル C)や PDE3 阻害薬(クラスⅡ a,
小児の病態と特徴
レベル C)による治療を行う.慢性期には血管拡張薬な
いし心筋保護薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬
①拡張型心筋症(DCM)
(ACEI)(クラスⅠ,レベル B),β遮断薬(クラスⅠ,
[病態]
レベル B)),利尿薬(クラスⅠ,レベル C)による治療
心室の心筋細胞の変性や線維化の結果,左室,右室,
が主体となる.ジギタリスの有用性も否定されていない
あるいは両心室が拡張し,代償性肥大が十分でないこと
(クラスⅡ a,レベル C).血栓形成予防のため抗血小板薬,
により心収縮力の低下を来たし心不全を呈する.
抗凝固薬を併用する.詳細は後述する.
[病因]
[非薬物療法]
ウイルス性心筋炎との関連性が示唆されるものや家族
成人の心不全に対する非薬物療法として心臓再同期治
内発症における遺伝子変異例など,病因は多岐にわたる.
療の有効性が示されているが,小児の心不全に対する有
[症状]
効性を示す大規模臨床試験等のエビデンスはない.(ク
乳児では哺乳不良,体重増加不良,多呼吸,顔色不良,
活動性の低下,年長児では呼吸困難,動悸,胸部圧迫感,
咳嗽,四肢冷感,浮腫,易疲労性などを認め,しばしば
ラスⅡ b,レベル C)
②肥大型心筋症(HCM)
[病態]
心室性や心房性の重篤な不整脈を伴う.
[診察所見]
心筋肥大による拡張障害のため心室への流入血液量が
頚静脈の怒張,肝腫大,浮腫,心尖拍動の外側変位が
減少し,心拍出量の低下を来たす.組織学的には錯綜配
みられる.胸部聴診では肺うっ血のため湿性ラ音や喘鳴
列を伴う心筋細胞の不均一な肥大を特徴とする.
を認める.房室弁逆流に伴う心雑音やⅢ音,Ⅳ音による
奔馬調律を聴取する.
[病因]
約半数に家族性が認められ,常染色体優性遺伝を示す.
表 31 小児の心疾患と予後
一部改変)
(平成 21 年希少疾患サーベイランス調査結果 439)より引用,
心筋疾患
平成 17 ~ 21 年の登録数
( )は平成 21 年登録分
拡張型心筋症
肥大型心筋症
拘束型心筋症
不整脈源性右室心筋症
左室心筋緻密化障害
Pompe 病
急性心筋炎
心臓腫瘍
収縮性心膜炎
196
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
245(38)
224(27)
41(6)
7(1)
162(21)
9(2)
273(45)
239(33)
11(0)
平成 21 年登録分の予後
生存
死亡
不明
30
7
1
26
1
0
5
1
0
1
0
0
19
2
0
2
0
0
33
12
0
31
2
0
0
0
0
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
図 18 小児の心筋症診断のフローチャート
学校検診
症状
(失神・胸痛等)
一般検診
心電図所見
疑い
家族歴,症状,理学所見
確定的
可能性あり
終了
否定
心電図,胸部レ線,心エコー図検査
否定的
終了
随時受診
運動負荷テスト,
核医学検査,
ホルター心電図
所見がない
所見がある
種々のリスクがある
管理・治療
心臓カテーテル検査 オプション(心内膜心筋生検,遺伝子検索)
図 19 小児の拡張型心筋症治療のフローチャート
拡張型心筋症
症状(−)
急性心不全
慢性心不全
不整脈(+)
不整脈(−)
心機能低下
心電図異常
運動制限
( B,
Cランク)
ジゴキシン
利尿薬
反応が良好であ
れば薬物療法継
続
安静
心不全治療
(カテコラミン,
PDE 3 阻害薬
(?),利尿薬,
抗アルドステ
ロン薬)
抗血栓療法
運動制限
( B ,Cランク)
運動制限
( B ,Cランク)
心不全治療
利尿薬,ACE 阻
害薬,ARB ,β
遮断薬
抗不整脈薬(ア
ミオダロン,
リド
カイン)
抗血栓療法
心移植
半数以上はサルコメアを構成する心筋収縮関連蛋白の遺
伝子異常である.
[症状]
+
植込み型除
細動器
抗血栓療法
とがある.初発症状が運動中の失神や突然死のこともあ
る.
[理学的所見]
小児期には無症状のことが多く,学校心臓検診が発見
Ⅲ音やⅣ音,左室流出路狭窄,僧帽弁閉鎖不全,右室
の契機となることがある.心室性不整脈による動悸,肺
流出路狭窄に伴う収縮期雑音を聴取することがある.
うっ血による呼吸困難,心筋虚血による胸痛を訴えるこ
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
197
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
[検査所見]
[薬物療法]
心電図で ST-T 変化,左室肥大,異常 Q 波は高頻度に
薬物療法の目的は,生命予後の改善,症状の軽減,合
認められ,上室・心室期外収縮や心室頻拍,心房細動等
併症の予防にある.表 34 に薬物療法の適応を示す.詳
の不整脈,WPW 症候群を認めることがある.心エコー
細は 4 薬物療法の実際に記載した.
では左室心筋の肥厚が特徴的で,心室中隔の肥大(ASH:
[非薬物療法]
非対称性中隔肥厚)が著明なものが多い(クラスⅠ).
ⅰ.手術
左室流出路狭窄のあるものでは僧帽弁前尖の収縮期前方
中 隔 心 筋 切 除 術(septal myotomy-myectomy:
運動(SAM)を認める.
Morrow procedure)の小児での経験は極めて少なく,
[診断と鑑別診断]
長期的成績を含めエビデンスはない.(クラスⅢ)
小児における診断のフローチャートを図 18 に,鑑別
ⅱ.ペースメーカおよび植込み型除細動器
すべき二次性心筋症を表 32 に示す.
現時点では小児における効果や適応については十分
なエビデンスがない 440,441).(クラスⅡ a,レベル C)
[治療]
ⅲ.中隔枝塞栓術(経皮的心室中隔焼灼術)(PTSMA)
治療のフローチャートを図 20 に示す.
[日常生活の管理]
小児でのエビデンスは少なく,現時点では推奨され
日本学校保健会の学校生活管理指導表(表 33)に基
づき運動制限を行う.ハイリスク児ではほとんどの運動
やスポーツ競技を禁止し,有症状児および閉塞型の患児
では中等度および強い運動は禁止する(クラスⅠ,レベ
ル C).
ない.(クラスⅢ)
③拘束型心筋症(RCM)
[病態]
一側または両側心内膜の高度の線維性肥厚,あるいは
[感染予防]
心内膜下心筋間質の高度の線維化により心室壁が硬化
感染性心内膜炎の罹患率が高くなるので抗菌薬の予防
し,拡張不全を来たす疾患である.心筋の肥厚は顕著で
なく,内腔の拡張や心収縮の低下もない.
内服が必要である(クラスⅡ a,レベル C).
[塞栓症の予防]
[病因]
心房細動等を合併する場合は心原性塞栓症を起こすこ
小児では稀で,発症頻度や遺伝性については不明であ
とがあるため抗凝固薬の投与が必要で,抗血小板薬を併
る.強皮症,アミロイドーシス,サルコイドーシス等の
用することもある(クラスⅠ,レベル C).
全身性疾患に伴うもの,ムコ多糖症,好酸球増多症,悪
図 20 小児の肥大型心筋症治療のフローチャート
肥大型心筋症
症状(−)
心不全
不整脈(−)
心機能正常
不整脈(+)
胸痛
心房性
失神
心室性
有意の閉塞
遺伝子異常(+)
運動制限
( Dランク)
自覚症状(+)
運動制限
運動制限
( B ,Cランク) ( B ,Cランク)
運動制限
( B ,Cランク)
無投薬(?)
心不全治療
β遮断薬
抗不整脈薬(ジソピラミ
β遮断薬(?) β遮断薬(?) カルシウム拮抗薬(?) ド,アミオダロン)
ジソピラミド(?)
抗血栓療法
198
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
表 32 小児で鑑別すべき二次性心筋症
疾患名
Noonan 症候群
LEOPARD 症候群(multiple
lentigines syndrome)
Pompe 病
Fabry 病
Friedreich's ataxia
糖尿病母体児
(IDM: Infant of Diabetic
Mother)
von Recklinghausen 病
双胎間輸血症候群
(twin-to-twin transfusion
syndrome: TTTS)
先天性筋緊張性ジスト
ロフィー
新生児甲状腺機能亢進
症,褐色細胞腫
機序・全身症状
特異な顔貌,低身長,翼状頚など Turner 症候群と
類似の表現型をとる.染色体は正常であるが,疾
患遺伝子は 12q24.1(PTPN11)にあることが報告
されている.
首と体幹部の多発性の黒子,軽度の発育不全,眼
球隔離,目立つ耳介,中等度の感音性唖,性器異
常などの症候群である.責任遺伝子は Noonan 症
候群と同じ 12q24.1(PTPN11)である.
酸性α -glucosidase 欠損のため,グリコーゲンが
全身に蓄積する疾患で,乳児型が Pompe 病と呼ば
れる.乳児期前半に発症し,筋力低下のため frog
position をとる.放置すると予後不良で呼吸困難
や心不全で死亡する.酵素補充療法が有効である.
α -galactosidase 欠損による伴性劣性遺伝の糖脂
質 代 謝 異 状 症 で,globotriaosylceramide や
galabiosylceramide が血管内膜,結合織,心臓,腎
臓などに蓄積する.Xq22 上に遺伝子座があり,
その変異が原因である.小児期以降,四肢疼痛,
アンギオテラトーマ,関節痛,蛋白尿,角膜混濁
などが出現する.
進行性家族性の延髄小脳失調症,肥大型心筋症を
高頻度に合併する.
心症状
異形成弁による肺動脈弁狭窄,肥大型心筋症,特
に中隔肥厚が強い型,心房中隔欠損などがある.
軽度肺動脈狭窄,肥大型心筋症,特に閉塞型,PQ
時間延長をみる.
著しい心筋肥厚があり,左室はやや拡大する.心
電図は特徴的で,著しい高電位差で PQ 時間が短
い.
肥大型心筋症が主で,僧帽弁逸脱・閉鎖不全,大
動脈弁閉鎖不全などもみる.全身症状がなく心異
常だけの例があり,心 Fabry 病と呼ばれる.
肥大型心筋症を高頻度に合併する.
5 ~ 30% に心室中隔の非対称性肥厚(ASH)を合
併する.流出路狭窄が血行動態的障害となること
がある.通常生後 1 週間くらいで消失する.
染色体 17q11.2 上の NF1 変異による疾患で,近年 肺動脈狭窄,ファロー四徴などが主であるが,肥
は neurofibromatosis 1 と呼ばれ,カフェオーレ斑, 大型心筋症合併の報告がある.
多発神経線維腫がある.
一絨毛膜性双胎で両児の胎盤内血管の吻合によっ 受血児では容量負荷から心筋肥厚が起こり,心不
て,一児から他児へ血液の移行が起こる.
全となる.胎内死亡も多く,出生しても治療に抵
抗して死亡率が極めて高い.
骨格筋萎縮,筋力低下,知能低下,白内障などを 伝導系異常,軸偏位などが知られている.心エコ
有 す る 常 染 色 体 性 優 性 遺 伝 疾 患 で, 染 色 体 ー検査を行った 11 例中 7 例に ASH があり,うち 1
19q13.3 上の myotonin protein kinase をコードする 例は肥大型心筋症であったという報告がある.
遺伝子のトリプルリピートによる.
心室壁肥厚をみる.
(肥大型心筋症の診療に関するガイドライン(2007 年改訂版)より引用,一部改変)
性腫瘍や放射線治療に伴い発症するものがある.
[症状]
呼吸困難や浮腫,肝腫大など,静脈圧上昇および肺う
[診断と鑑別診断]
収縮性心膜炎との鑑別は困難であるが重要である.
[治療](図 21)
っ血に伴う症状が出現する.左房圧の上昇に伴う肺血管
有効な治療法に関するエビデンスはない.対症的に浮
疾患は急速に進行することがある.心房細動を来たしや
腫や胸水の貯留に対して利尿薬(クラスⅡ a,レベル C),
すい.
不整脈に対して抗不整脈薬(クラスⅡ a,レベル C),肺
[理学所見]
静脈圧の上昇に伴う所見を認める.肺高血圧を来たす
とⅡ音の肺動脈成分が増強する.
[検査所見]
心電図では P 波の増高,ST 低下や陰性 T 波を認める.
心エコー検査は診断に有用で,著明に拡大した心房と心
高血圧を来たしたものには PDE3 阻害薬が使用される
(クラスⅡ a,レベル C).海外では特発性のものに心臓
移植が行われている(クラスⅡ a,レベル C).
④不整脈源性右室心筋症(ARVC)
[病態]
室への拡張期流入血流の異常が決め手となる.(クラス
右室心筋に進行性の脂肪化と線維化が生じる疾患で,
Ⅰ)
右室流出路前壁や心尖部,三尖弁下後壁に限局していた
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
199
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
図 21 小児の拘束型心筋症治療のフローチャート
拘束型心筋症
浮腫・胸水
運動制限
( B,
Cランク)
不整脈
肺高血圧
運動制限
( B ,Cランク)
利尿薬
運動制限
( A,
Bランク)
PDE 3 阻害薬
抗不整脈薬(?)
心移植(?)
ものが右室全体,左室,心室中隔に拡大していく.この
病変により頻発する持続性心室頻拍が惹起される.
[病因]
心室の収縮機能障害に伴う症状を認める.
[理学所見]
頻発する不整脈があり,体静脈のうっ血の所見を呈す
小児の報告は少なく正確な頻度は不明である.家族性
のものがあり,リアノジン受容体遺伝子の異常やプラコ
フィリン 2 の変異が関与するとの報告がある 442).
[症状]
ることがある.
[検査所見]
心電図で左脚ブロック型の心室頻拍,心エコー検査で
右室の拡大と収縮および拡張機能低下を認める.組織学
運動誘発性の心室性不整脈,頻発する持続性の心室頻
的検査での心筋細胞の変性と脂肪化,線維化は診断に有
拍により,失神や突然死を来たす.時に DCM のような
用であるが,心外膜側から病変が進行するので心内膜心
図 22 小児の不整脈源性右室心筋症治療のフローチャート
不整脈源性右室心筋症
心不全
不整脈
運動制限
( B ,Cランク)
運動制限
( A,
Bランク)
心不全治療
抗血栓療法 等
拡張型心筋症
に準じた治療
抗不整脈薬(ジ
ソピラミド,
アミ
オダロン)
カテーテルアブ
レーション(?)
植込み型除
細動器(?)
抗血栓療法
200
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
表 33 - 1 学校生活管理指導表(小学生用)
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
201
表 33 - 2 学校生活管理指導表(中学・高校生用)
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
202
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
表 34 小児の肥大型心筋症の治療
病態
無症状例
Class Ⅰ
拡張機能低下例
β遮断薬
Ca 拮抗薬(レベル C)
β遮断薬
Ca 拮抗薬(レベル C)
有症状および
閉塞性肥大型心筋症
突然死のハイリスク群 **
乳幼児例(心不全をしばしば
伴う)
拡張相肥大型心筋症
不整脈合併例
Class Ⅱ
一般に薬剤は用いないが,症
例によってはβ遮断薬,Ca 拮
抗薬を用いる.
ジソピラミド(レベル C)
β遮断薬
Ca 拮抗薬
ジソピラミド
(レベル C)
植込み型除細動器
(レベル C)
β遮断薬(レベル C)
利尿薬,ジゴキシン,
血管拡張薬
(レベル B)
フレカイニド酢酸塩
(レベル B)
アミオダロン
β遮断薬
Ca 拮抗薬
(レベル C)
β遮断薬(レベル B)
心移植(レベル B)
植込み型除細動器
(レベル C)
Class Ⅲ
ジゴキシン,陽性変力作用薬
強い運動 *
ジゴキシン,陽性変力作用薬
強い運動 *
ジゴキシン,陽性変力作用薬
強い運動 *
中隔心筋切除術
ジゴキシン,陽性変力作用薬
強い運動 *
Ca 拮抗薬
ジゴキシン,陽性変力作用薬
強い運動 *
ジゴキシン,陽性変力作用薬
強い運動 *
ジゴキシン,陽性変力作用薬
強い運動 *
中隔心筋切除術
* 日本学校保健会による学校生活管理指導表(中学・高校用)に準ずる.
** 心停止あるいは持続性心室頻拍の既往,肥大型心筋症による突然死の家族歴,運動中の失神
(肥大型心筋症の診療に関するガイドライン(2007 年改訂版)より引用,一部改変)
筋生検では認められないことがある.(クラスⅠ)
[診断と鑑別診断]
頻発する持続性の心室頻拍と心筋組織検査で特徴的な
所見が認められれば診断が可能である.乳幼児期に発症
する Uhl 病は本症の最重症型との考え方がある.
[治療](図 22)
[病因]
高率に家族例が認められる.X 連鎖性のものやミトコ
ンドリア遺伝子異常が疑われる家系があり,遺伝的多様
性がうかがえる.
[症状]
新生児期,乳児期に重篤な心不全症状で発症する典型
小児の有効な治療法に関するエビデンスはない.不整
例から,徐々に DCM 様の症状を呈するもの,学童期に
脈に対する薬物療法としてβ遮断薬,アミオダロン等
心臓検診で発見されるものまで症状は多彩である.壁在
のクラスⅢの抗不整脈薬が投与される(クラスⅠ,レベ
ル C).カテーテル焼灼術,植込み型除細動器,手術な
どの非薬物療法が選択されることがある(クラスⅡ a,
レベル C)(不整脈治療の項を参照).収縮機能低下に伴
う心不全がみられれば,DCM に準じた治療を行う.
⑤分類不能の心筋症
1)左室心筋緻密化障害(LVNC)
[病態]
血栓による塞栓症や不整脈を伴うことがある.
[理学的所見]
DCM 様の所見を呈するものや RCM に類似した所見
を示すものがある.
[検査]
心エコー検査による心室壁の著明な肉柱形成と深く切
れ込んだ間隙の特徴的な形態が診断に有用である(クラ
スⅠ).
[治療](図 23)
胎生初期の網目様の心筋が緻密な心筋構造になる過程
DCM と同様に,利尿薬,ACE 阻害薬,β遮断薬が主
で障害が生じる結果,心筋緻密層が低形成となりスポン
体である(クラスⅠ,レベル C).壁在血栓に対する抗
ジ状の胎児心筋が残存する疾患で,心内膜下への血流供
血小板薬や抗凝固療法,不整脈に対する治療も必要とな
給低下による心筋虚血と菲薄な心筋緻密層による心収縮
る.RCM 様の症状を呈する症例には RCM に準じた治療
力の低下が惹起される.
が行われるが,有効な治療のエビデンスはない.
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
203
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
2)特定心筋症
① Fabry 病
[病態]
α-ガラクトシダーゼ欠損に起因する糖脂質代謝異常
症で,グロボトリアオシルセラミドやガラビオシルセラ
[診察所見]
筋緊張低下と肝腫大が著明で,心臓については HCM
の所見を認める.
[検査]
ミドが血管内膜,結合組織,心臓や腎臓等に蓄積する疾
胸部 X 線では心拡大,心電図で左室肥大と ST-T 変化,
患である.
PQ 短縮,心エコー検査で HCM の所見を認める.白血球,
[病因]
骨格筋,皮膚培養線維芽細胞の酸性α-グルコシダー
伴性劣性遺伝形式をとる.α-ガラクトシダーゼを
ゼ酵素活性の測定,心内膜心筋生検や骨格筋の組織学的
コードする遺伝子は Xq22 領域に存在し,その部分欠失
検査が診断に有用である.(クラスⅠ)
をはじめとする多彩な変異を示す.
[症状]
[治療]
酸性α-グルコシダーゼ酵素製剤であるアルグルコ
小児・思春期以降に末梢神経症状で発症することが多
シダーゼアルファ(遺伝子組換え)を注射する.(クラ
い.関節痛,蛋白尿,アンギオテラトーマ,角膜混濁等
スⅠ,レベル B)
の症状のほか,HCM 様の心症状を呈する.HCM の所見
用法・用量
のみで他の全身所見を伴わない型があり,心 Fabry 病と
ア ル グ ル コ シ ダ ー ゼ ア ル フ ァ:1 回 体 重 kg あ た り
呼ばれる.
20mg を隔週で点滴静注.
[理学的所見]
上記の臨床症状に伴う所見を認める.
[検査]
⑥薬物療法の実際
心筋病変そのものに対し有効な薬物療法は Fabry 病や
心電図で左室肥大,心エコーで HCM の所見を認める.
Pompe 病に対する酵素補充療法しかない.合併する心不
白血球中のα-ガラクトシダーゼ酵素活性の測定,心
全や不整脈,肺高血圧,血栓症に対しては対症療法が行
内膜や筋の組織学的検査が診断に有用である.(クラス
われる(小児の心筋疾患治療に用いられる医薬品の小児
Ⅰ)
適応の有無,用法・容量等については該当する項を参照
[治療]
のこと).
α-ガラクトシダーゼ酵素製剤であるアガルシダーゼ
1)収縮機能低下に対する治療(DCM 等)
アルファ(遺伝子組換え)およびアガルシダーゼベータ
①ジギタリス
(遺伝子組換え)を注射する.(クラスⅠ,レベル B)
ジゴキシンは成人の洞調律の心不全患者に対し心不全
用法・用量
による入院を減らすことが明らかにされているが,予後
アガルシダーゼアルファ:1 回体重 kg あたり 0.2mg を
は改善しないと報告されている 443).小児の心不全に対
隔週で点滴静注.
する適応が認められている.(クラスⅠ,レベル C)
アガルシダーゼベータ:1 回体重 kg あたり 1mg を隔
②利尿薬
週で点滴静注.
心不全患者のうっ血に基づく労作時呼吸困難,浮腫な
② Pompe 病
どの症状を軽減するために最も有効な薬剤である.海外
[病態]
ではフロセミドがよく使用される(クラスⅠ,レベル
ライソゾーム中の酸性α-グルコシダーゼ欠損に起
B)444)が,低カリウム血症を来たしやすく,ジギタリス
因する代謝異常症で,グリコーゲンが心臓,骨格筋,肝
製剤併用時にはジギタリス中毒や重症の心室性不整脈を
臓に蓄積する疾患である.
来たすことがあるので,血清カリウム保持作用のあるス
[病因]
ピロノラクトンとの併用が望ましい.フロセミドの国内
常染色体劣性遺伝形式をとり,出生 4 万人に 1 人に発
の添付文書には小児の用法・用量の記載がない.
症する.酸性α-グルコシダーゼ遺伝子は 17q25.2 領域
③アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)
に存在し,多彩な変異が報告されている.
小児では大規模臨床試験に基づくエビデンスはない.
[症状]
204
HCM 様の心症状を呈する.
DCM による慢性心不全に対しエナラプリル,β遮断薬,
乳児期早期に筋緊張低下,筋力低下,哺乳力低下,肝
抗アルドステロン薬の併用が生存期間を延長するという
腫大,呼吸困難で発症することが多い.心拡大を伴い,
)
報告 445(クラスⅠ,レベル
B)がある反面,ACE-I 単独
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
図 23 小児の心筋緻密化障害治療のフローチャート
心筋緻密化障害
症状(−)
不整脈(−)
収縮機能障害による
心不全
拘束型心筋症様の
症状
不整脈(+)
肺高血圧
心電図異常(+)
遺伝子異常(+)
運動制限
( Dランク)
運動制限
運動制限
( B ,Cランク) (A ,B ランク)
無投薬(?)
拡張型心筋症
β遮断薬(?) に準じた心不
全治療
運動制限
( B ,Cランク)
拘束型心筋症
に準じた治療
抗不整脈薬(ジ
ソピラミド,
アミ
オダロン)
抗血栓療法
あるいはβ遮断薬との併用は,それまでのジギタリス
ロールである.
を主体とする薬物療法に比べ,心臓移植なしに生存する
⑥抗アルドステロン薬
140)
もあり一定の見解が
小児の心不全に対する有効性について,大規模臨床試
得られていない(クラスⅡ b,レベル C).国内で小児に
験に基づくエビデンスはない.スピロノラクトンは小児
対する薬事法上の承認が得られている ACE-I はなく,唯
に対する薬事法上の承認はないが,健康保険償還対象に
一エナラプリルマレイン酸塩が高血圧に対し健康保険償
なっている.
還対象となっている.
⑦アミオダロン
④アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)
アミオダロンはメタアナリシスでは成人の不全患者に
小児の左室収縮機能低下に基づく慢性心不全に対する
おける全死亡率および不整脈死を減少させることが報告
有効性に関しては症例報告にとどまり,明確なエビデン
されている 448)が,小児の心筋疾患に伴う重症心室性不
スはない(クラスⅡ a).国内ではカンデサルタンが成
)
整脈に対する有効性に関するエビデンスは少ない 449(ク
割合を改善していないとの報告
人の慢性心不全に対する適応を有しているが小児への適
ラスⅡ a,レベル B).
応はない.
⑧末消血管拡張薬
⑤β遮断薬
硝酸薬およびカルシウム拮抗薬の小児の心不全に対す
NYHA クラスⅡ~Ⅳで左室駆出率が 40%未満の 16 歳
る有効性を示すエビデンスはない.アムロジピンは米国
以下の DCM 患者を対象とした試験で,カルベジロール
で高血圧に対し小児適応を有しているが,アムロジピン,
0.4 ~ 0.8mg/kg/ 日(最大 50mg/ 日)の投与により 12 か
フェロジピンとも我が国では小児適応がない.降圧剤と
月後に NYHA クラスと左室駆出率が有意に改善された
してのアムロジピンの米国での小児の用法・用量は 6 ~
154)
という報告がある (クラスⅠ,レベル B).しかし,
17 歳の小児に対し 1 日 1 回 2.5 ~ 5mg である.
慢性心不全の小児 161 名を対象としたカルベジロール
急性心不全や肺高血圧に対し PDE Ⅲ阻害薬が使用さ
0.2mg/kg/ 日(最大 12.5mg/ 日)投与群,0.4mg/kg/ 日(最
れることがある.しかし,小児ではその有効性を示す臨
大 25mg/ 日)投与群とプラセボ群とのランダム化比較試
床試験のデータはなく(クラスⅡ a,レベル C),海外で
験においては臨床症状の改善に有意差を認めなかったと
も小児に対する適応はない.
いう報告 446)があり(クラスⅢ),小児の左室収縮機能低
⑨経口強心薬
下に使用した場合の有効性に関する一定の見解は得られ
ピモベンダン,デノパミン,ドカルパミン,ベスナリ
ていない 447).我が国において成人の慢性心不全に対す
ンが成人の経口強心薬として承認されているが,小児に
る適応を有するβ遮断薬はカルベジロールとビソプロ
対する適応はなく,有効性に関するエビデンスもない.
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
205
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
⑦拡張機能低下に対する治療(肥大型心筋症等) 植込み型除細動器(ICD)の適応について,小児での有
効性や安全性に関するエビデンスは極めて少なく,一定
1)無症状例
の見解は得られていない.(クラスⅡ b,レベル C)
薬物療法の有効性について明らかなエビデンスはな
3)不整脈
い.HCM の小児 293 名を対象にβ遮断薬やベラパミル,
小児の HCM に合併する不整脈の薬物療法の適応につ
アミオダロンの突然死予防効果について検討した論文で
いては明確な基準がない.成人の HCM に合併する不整
は,β遮断薬治療患者 76 名中 7 名(9.2%),ベラパミル
脈の薬物療法の適応は以下のとおりである.
治療患者 46 名中 4 名(8.7 %),アミオダロン治療患者
クラスⅠ
30 名中 6 名(20%)が突然死しており,薬物治療を受け
441)
心拍数が速く,血行動態に影響する心房細動,心房粗動
なかった群と突然死の発生率に差がなかった (クラス
発作性上室頻拍
Ⅱ b,レベル C).拡張不全に対し小児適応のある β 遮
症状のある突然死の危険因子を持った非持続性心室頻拍
断薬はない.ベラパミルは頻脈性不整脈に対し小児適応
持続性心室頻拍
があるが,拡張不全に対する適応はない.
2)有症状例
β遮断薬や Ca 拮抗薬(ベラパミル,ジルチアゼム)
が使用されるが,いずれも小児適応はない.Ca 拮抗薬
は末梢血管拡張作用により左室流出路圧較差を増大させ
心室細動
クラスⅡ
症状のある上室性あるいは心室性期外収縮
無症状あるいは血行動態の安定した非持続性心室頻拍
クラスⅢ
るので,閉塞性肥大型心筋症への使用には注意を要する.
無症状の上室性あるいは心室性期外収縮
成人の閉塞性肥大型心筋症にはⅠ a 群の抗不整脈薬
無症状の徐脈
(ジソピラミド,シベンゾリン)が適応外ながら用いら
れる(クラスⅡ a).小児においても有症状例や心電図
成人ではβ遮断薬や Ca 拮抗薬(ベラパミル,ジルチ
および心エコー検査でハイリスク群とされた症例(肢誘
アゼム),Ⅰ a 群,Ⅰ c 群の抗不整脈薬,アミオダロンが
導の QRS 電位の合計が 10mV を超え,心室中隔厚が正
使用される.このうち,小児適応を有するものはベラパ
常の 190%を超える患者)の突然死について検討した総
ミルとⅠ c 群の抗不整脈薬のフレカイニド酢酸塩のみで
説では,プロプラノロール,メトプロロールおよびビソ
ある.フレカイニド酢酸塩の器質的心疾患がある場合の
プロロールといった脂溶性のβ遮断薬の高用量での投
使用には注意を要する.心房細動例ではワルファリンの
与のみが突然死を予防する上で有効で,さらにジソピラ
投与が推奨される.
ミドの併用が突然死のリスクを軽減したとされてい
成人の HCM における植込み型除細動器(ICD)の適
る
450)
が,現時点では一定の見解は得られていない(ク
応は,心室細動および薬物療法抵抗性の持続性心室頻拍
ラスⅡ a,レベル B).ジソピラミドは小児に対する薬事
(クラスⅠ)であるが,小児では使用できるデバイスに
法上の承認はないが,期外収縮,発作性上室頻拍や心房
制限があり,エビデンスは乏しい.(クラスⅡ b)失神
細動等の不整脈に対しては健康保険で償還対象となって
や著しい QOL の低下を伴う薬物療法抵抗性の頻脈性心
いる.
房細動,Ⅰ型心房粗動,発作性上室性頻拍,持続性心室
左室流出路狭窄を伴うものではβ遮断薬や Ca 拮抗薬
頻拍などは,成人ではカテーテル焼灼術の適応となり得
(ベラパミル,ジルチアゼム)が適応外ながら使用される.
小児における HCM の突然死の予防に関する諸治療の
ソピラミド,シベンゾリン)のエビデンスレベルはクラ
位置づけは以下のとおりである.
スⅡで,小児でも左室流出路狭窄を伴う症例には β 遮
クラスⅠ
断薬との併用が有効という報告がある 450),451)が,明確な
該当なし
エビデンスがない(クラスⅡ a,レベル B).さらに,高
クラスⅡ
度な狭窄例に対する ACE-I,ARB は成人ではクラスⅢ
突然死の一次予防目的のβ遮断薬,ジソピラミド,
であるが,小児でのエビデンスはない.収縮能低下例に
アミオダロンの投与ないし ICD 植込み術
対して小児でも成人同様 DCM の治療に準じ,利尿薬,
クラスⅢ
ACE-I,ARB が用いられるが,明確なエビデンスはない.
突然死の一次予防目的の Ca 拮抗薬
突然死の予防を目的としたアミオダロンやβ遮断薬,
206
る.
有症状例と同様,成人においてⅠ a 群の抗不整脈薬(ジ
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
2
心筋炎
- I,トロポニン- T,トロポニン- I,ミオグロビンや
脂肪酸結合蛋白(FABP)の上昇は診断に有効である.
心電図は房室ブロック,ST-T 変化,異常 Q 波,低電位,
1
定義と分類
脚ブロック,心室期外収縮や心室頻拍など多彩な所見が
短時間に変化しながら出現する.心エコー図検査では心
心筋炎は炎症性細胞の浸潤と心筋細胞の障害により心
室や心房の拡大,壁運動の低下,心嚢液の貯留,一過性
機能に異常を来たす疾患である.
心筋肥厚,乳頭筋不全による房室弁逆流がみられる.心
2
疫学
無症状のものや原因不明の突然死と診断されるものが
臓核医学検査では,急性期に 67Ga 心筋シンチ,99mTc 心
筋シンチでの陽性像,111In -抗ミオシン抗体の集積像,
急性期から遠隔期にかけての 201Tl 心筋シンチでの欠損
あるため,正確な頻度は不明である.日本小児循環器学
像が病変部位の診断に有用である.MRI では壁運動が
会の希少疾病サーベイランス 439)によると,平成 17 年か
低下した部位で浮腫像と心腔内の血流停滞信号が観察さ
ら 21 年までの 5 年間に発症した患者数は 273 例であった.
3
小児の病態と臨床的特徴
①病態
発症には,炎症細胞や T リンパ球,炎症性サイトカイ
ンなど複雑な免疫応答の関与が考えられている.
②病因
れる.ウイルスの分離,ペア血清による 4 倍以上の抗体
価の変化,ウイルスゲノム検索は有用である.心内膜心
筋生検で炎症性細胞の浸潤,心筋細胞の融解や変性,断
裂,消失,間質の浮腫や線維化を認めることがある(ク
ラスⅠ).
4
薬物療法の実際
治療の基本は安静と心臓の負荷の軽減である.心電図
変化のみの症例や軽症例に対しては酸素投与と安静で十
ウイルス感染によるものが多くを占めるが,あらゆる
分であるが,急激な病状の変化に対応できる体制を整え
種類の感染性病原体,ある種の薬剤や全身性疾患が原因
ておく.重症例や劇症型に対しては心不全や不整脈に対
となり得る.ウイルスのうち心筋親和性の強いピコルナ
する治療と循環動態の管理を行う.治療のフローチャー
ウイルスが重要で,コクサッキー B 群の頻度が高い.エ
トを図 24 に示す.
コー,コクサッキー A 群,インフルエンザ B 群,単純ヘ
ルペス,サイトメガロなどに加え,アデノ,パルボ B19
なども報告されている.
③症状
①心不全
後負荷の軽減,循環容量の減少と低心拍出状態の改善
を図る目的で以下の薬物が選択されるが,有効性に関す
るエビデンスは明らかでない.ジギタリス製剤は頻脈が
あらゆる年齢で発生し,無症状のものから劇症型まで
あるときのみ使用を考慮する.
症状は多彩である.刺激伝導系の障害による不整脈
1)血管拡張薬 (Stokes-Adams 発作で発症する完全房室ブロック,異所
心 筋 炎 で 入 院 し た 216 名 の 小 児 患 者 を 対 象 と し た
性自動能亢進による心室頻拍または上室頻拍)と広汎な
Klugman らの調査で,PDE3 阻害薬(ミルリノン)が投
心筋細胞障害による収縮不全(心不全やショック)を来
与された 97 名(44.9 %)のうち 85 名が生存し,12 名が
たす.心筋炎は小児の突然死の重要な原因で,日本小児
死亡した 452)が,その有効性については明確になってい
循環器学会の希少疾病サーベイランス 439)によると平成
な い( ク ラ ス Ⅱ a, レ ベ ル C). 硝 酸 イ ソ ソ ル ビ ド,
21 年度に発症した患者 45 例のうち 12 例が死亡している.
ACE-I の有効性を示すエビデンスはない.
④診察所見
2)利尿薬 急性期心筋炎に対する利尿薬の有効性を示すエビデン
胸部聴診で,洞性頻脈,心音の微弱,奔馬調律を聴取
スはない.(クラスⅠ,レベル C)
する.完全房室ブロックを伴う例では極度の徐脈となる.
3)強心薬
⑤検査所見
心筋逸脱酵素(特に CK-MB)の上昇,ミオシン軽鎖
Klugman らの報告 452)では,216 名の小児心筋炎患者
に対しエピネフリンが 76 名に,ドパミンが 73 名に投与
されているが,臨床試験に基づいたエビデンスはなく,
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
207
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
図 24 小児の心筋炎治療のフローチャート
心筋炎
症状(−)
軽微な心血管症状
不整脈(−)
軽度の検査の異常
軽症∼中等症の
心不全
強烈な心不全
慢性心不全
不整脈
不整脈・伝導障害
心機能正常
感染徴候(+)
運動制限
無投薬
安静
酸素投与
無投薬
安静
酸素投与
心不全治療
不整脈治療
免疫グロブリ
ン療法(?)
免疫抑制療法
(?)
安静
酸素投与
心不全治療
不整脈治療
抗血栓療法
免疫グロブリ
ン療法(?)
免疫抑制療法
(?)
一次ペーシング
心肺補助循環
有効性については明らかでない(クラスⅡ a,レベル C).
ドパミンは急性循環不全に対し小児適応があるが,その
用法・用量は,1 ~ 5 μ g/kg/ 分(最大 20μg/kg/ 分)で持
続静注である.
②不整脈 心移植
解し,心拍数又は心電図をモニターしながら注入する.
③抗凝固薬・抗血小板薬 低心拍出や不整脈による血栓形成の予防目的で行う.
アスピリンとワルファリンを用いる.アスピリンは小児
の心筋炎には適応がない.川崎病の解熱後の回復期から
心筋炎に伴う不整脈は致死的となることがあるので以
慢性期の投与量は,1 日 1 回 3 ~ 5mg/kg である.ワルフ
下の治療が行われる.(個々の不整脈に対する治療の詳
ァリンの小児の用法・用量は 12 か月未満 0.16mg/kg/ 日,
細は不整脈の項を参照)
1 歳以上 15 歳未満 0.04 ~ 0.10mg/kg/ 日である.
1)心室期外収縮・心室頻拍
Klugman らの調査 452)では,216 名の小児心筋炎患者
④その他 に対しリドカインは 93 名に投与され,81 名が生存,12
抗ウイルス薬,ステロイド等の免疫抑制薬,免疫グロ
名が死亡と報告されている.メキシレチンやアミオダロ
ブリン,抗サイトカイン薬等が使用されることがあるが,
ンについて,我が国では小児に対する適応はなく,有効
いずれも有効性や安全性に関するエビデンスに乏し
性に関するエビデンスは明らかでない(クラスⅡ a,レ
い 453).劇症型心筋炎の治療としては,早期の心肺補助
ベル C).リドカインの成人における用法・用量は 1 回
循環を開始する 454).乳幼児では体外膜型人工肺(ECMO)
50 ~ 100mg(1 ~ 2mg/kg)を 1 ~ 2 分かけて 5 ~ 10 分お
2)完全房室ブロック イソプロテレノールの静注や一時的心室ペーシングが
行われる
と持続血液浄化装置,学童では経皮的心肺補助装置
(PCPS)が使用できる.(クラスⅠ)
きに静注.
3
心外膜炎
1
定義と分類
449)
が,有効性に関するエビデンスは乏しい(ク
ラスⅡ b,レベル C).血圧の低下があれば一時的心室ペ
ーシングを開始する(クラスⅡ a,レベル C).イソプロ
テレノールは 0.2 ~ 1.0mg を等張溶液 200 ~ 500mL に溶
208
心不全治療
不整脈治療
抗血栓療法
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
心外膜炎は病理学的炎症性病変を心外膜に認めるもの
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
をいう.感染性のものやリウマチ熱,川崎病のような全
身性疾患に伴うものがある.心外膜の病理形態学的特徴
から,線維素性,液貯留型,化膿性,線維性,新生物に
ⅠⅩ
救急用製剤治療薬
よるもの,肉芽腫性,石灰化,コレステロール心外膜炎
に分類されることがある.
2
疫学
日本小児循環器学会の希少疾病サーベイランス 439)に
よると,平成 17 年から 21 年までの 5 年間に報告された
収縮性心膜炎の患者数は 11 例であった.
3
小児の病態と臨床的特徴
1
心原性ショック
1
疫学
心原性ショックでは原因の如何を問わず心拍出量の低
下があり,その多くの場合は心筋収縮力の低下が原因で
ある.成人ではその原因の約 80 %は急性心筋梗塞で,
以前はリウマチ熱に伴うものや化膿性心外膜炎が多か
心原性ショックに陥った場合死亡率も 50 %以上とされ
ったが,現在はウイルス性のものや川崎病や膠原病等の
る 456),457).小児では先天性心疾患,ウイルス性心筋炎,
全身疾患に伴うものの割合が増えている 455).先天性心
不整脈,心筋症,薬剤性心筋障害,開心術後心合併症,
疾患の手術後にみられる心膜切開症候群も心外膜炎の一
低血糖をはじめとする代謝異常,など原因はさまざまで
つである.収縮性心外膜炎は小児では稀である.
ある.動脈管依存性先天性心疾患では,日齢とともに動
胸痛,心膜摩擦音,心電図変化が従来の三大徴候であ
脈管が収縮傾向を示すとうっ血性心不全が進行し心原性
る.胸痛は前胸部から左肩,背部に放散する突き刺すよ
ショックに至る 458).重症大動脈弁狭窄など心室流出路
うな鋭い痛みで,仰臥位で増強し,座位や立位,特に前
の狭窄性病変のほか,心タンポナーデや緊張性気胸も心
傾位で軽減する.咳嗽,発熱,腹痛,嘔吐,呼吸困難を
原性ショックの原因になり得る(表 36).
認めることがある.
心肺停止から蘇生に成功した直後には,不安定な循環
診察所見としては心膜摩擦音(friction rub)を聴取す
動態,体循環と肺循環の血管抵抗上昇を伴っており 459),
る.しかし,心嚢液の貯留が多いと聴取されないことが
次項に定義するような心原性ショックを呈している.
あり,この場合は心音も減弱する.末梢の脈は脈圧が狭
院外心肺停止の小児例は我が国の研究 460)でも米国 461)
く,血圧測定において奇脈を呈することがある.肝腫大,
やオランダ 462)の研究でも小児人口 10 万人に対し 8.0 ~
静脈の怒張を認める.
9.0 人と一致しており,特に1歳未満の乳児に限ればそ
胸部 X 線では心嚢液の貯留が多いと“みずがめ”状の
の危険性は数倍高い.小児における院外心肺停止の約3
心拡大を認めることがある.心電図ですべての誘導の低
割は心原性とされ 460),目撃者 bystander による心肺蘇生
電位,電気的交互脈,ST 上昇を認める(クラスⅡ).心
が行われるのはその 1/3 ~ 1/2 程度に過ぎず,しかもそ
エコー検査が心嚢内液貯留の診断に最も有用である(ク
の 1/3 強 は 人 工 呼 吸 を 行 い 得 ず 胸 骨 圧 迫 の み で あ っ
ラスⅡ).
た 460),462),463).乳児の心肺停止後の生命予後は不良であ
4
薬物療法の実際
るが,1歳以上の小児ではむしろ成人より良好であ
る 461).
基礎疾患の治療,抗菌薬による治療,必要に応じ心嚢
穿刺,心膜切除術を行う.
表 36 心原性ショックの原因
重篤な心筋収 ・急性心筋炎
縮不全
・心臓振蘯
・敗血症
・心筋梗塞(川崎病,BWG など)
順行性血流の ・大動脈弁狭窄その他の先天性心疾患
機械的狭窄
(左心低形成症候群,大動脈縮窄など)
・肥大型心筋症
・左房粘液種
左室心拍出の ・僧帽弁検索断裂
障害
・急性大動脈弁閉鎖不全
文献 457 より改変して引用
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
209
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
表 37 小児の二次救命処置(PALS)における循環評価項目(文献 469)
心血管系
皮膚色
皮膚温
心拍数
リズム
血圧
脈
毛細血管充満圧
末梢臓器機能
脳循環
皮膚循環
腎循環
表 38 小児のバイタルサインなどの正常値(文献459,469より改変して引用)
項目
呼吸数
心拍数
(覚醒時)
精神状態
尿量
心拍数
(睡眠時)
院内心肺停止後の予後を検討した前方視的多施設共同
研究によれば 464),小児は心室細動 Vf や pulseless VT の
収縮期血圧
頻度が少なく発見時に心停止であることが多いにも関わ
らず成人に比し生命予後は 2.3 倍良好で,神経学的予後
腎機能
も良好であるという.
2
正常値
単位
30 ~ 60
/分
24 ~ 40
22 ~ 34
18 ~ 30
12 ~ 16
85 ~ 205
/分
100 ~ 190
60 ~ 140
60 ~ 100
80 ~ 160
/分
75 ~ 160
60 ~ 90
50 ~ 90
< 60
mmHg
< 70
< 70 +
(年齢× 2)
< 90
1.5 ~ 2
mL/kg/ 時
1
mL/kg/ 時
定義
ショックは急性循環不全の結果,組織需要に見合う必
に特徴づけられ,前毛細血管括約筋と細小動脈の平滑筋
要十分な酸素や栄養を供給できない状態と定義され,進
収縮をもたらす.その結果,毛細血管床が閉塞し血管内
行性に代償期,非代償期を経て臓器の不可逆的障害をも
皮の障害が生じ,補体の活性化,血小板や顆粒球の凝集
た ら す. 低 循 環 血 液 量 性 Hypovolemic, 心 原 性
が進行する.
Cardiogenic, 閉 塞 性 Obstructive, 分 布 性 Distributive,
ショックの初期症状は頻脈と軽度の頻呼吸,毛細血管
解離性 Dissociative の5つに分類される.敗血症性ショ
充満時間のわずかな遅延,血圧や脈拍数の起立に伴う変
ックでは炎症性メディエーターにより心筋収縮力の低下
化,軽度の易刺激性などで,毛細血管充満時間の遅延は
を来たし得るので,時に心原性ショックとしての特徴を
交感神経活性の亢進による内因性カテコラミン分泌増多
有することもある
465)
の現れである.代償機構が破綻すると組織が虚血に陥り
.
心原性ショックとは,循環血液量が維持され心拍数が
血管作動性物質と炎症メディエータの放出により微小循
正常ないし増多していても,心筋収縮不全により 1 回拍
環障害が生じて,脳・腎・心血管系などの機能不全症状
出量が低下し心拍出量が減少した状態である.通常,先
が認められる.
天性ないし後天性の心疾患が原因で,アシドージス・低
乳児では成人に比し心筋収縮力が相対的に弱いため,
酸素血症・低カルシウム血症などの代謝異常を伴う 466).
全身の酸素需要が亢進して心拍出量が増大する時には一
成人における心原性ショックは「急性心不全により収
回拍出量の増大よりむしろ心拍数の増多に依存する.そ
縮期血圧 90mmHg 未満もしくは通常より 30mmHg 以下
のため徐脈時には一回拍出量で代償することがしばしば
の血圧低下が見られ,意識障害,乏尿,末梢血管の収縮
困難である.逆に頻脈時には,心室充満時間の短縮が心
を伴っている状態」と定義され,低血圧が重要な要因で
拍出量へ及ぼす影響が比較的少ないため心不全が顕性化
ある 456).しかし小児は成人に比べ血管収縮と心拍数の
しにくい傾向にある 458).
増多による代償機構が作用して低血圧に陥りにくく,低
循環動態について心血管系と末梢臓器機能の両者を評
血圧が顕在化しないショックもある
458),467),468)
が,ひと
たび低血圧が生じると循環虚脱が急速に進行する.
3
小児の病態と臨床的特徴
価する必要がある(表 37).心血管系では,皮膚色・皮
膚温・心拍数・リズム・血圧などを,末梢臓器機能では
脳循環(精神状態)などを評価する.毛細血管充満時間
は 2 秒以下が正常で,延長する場合にはショックが代表
ショックの病態生理は,微小循環不全,末梢組織の虚
的であるが敗血症ショックでは正常であることに注意す
血,バイオマーカー・血管収縮物質・炎症性サイトカイ
る.小児のバイタルサインの正常値を表 38 に示す 469).
ン・一酸化窒素などの分泌と補体の活性化などが複雑に
小児では一旦心停止に至った場合の救命率が低いた
関与する
210
年齢
< 1歳
1 ~3歳
4~5歳
6~ 12 歳
13 歳~
< 3 か月
3 ヶ月~ 2 歳
2 歳~ 10 歳
10 歳>
< 3 か月
3 か月~ 2 歳
2 歳~ 10 歳
10 歳~
日齢 0 ~ 28
1~ 12 か月
1~ 10 歳
10 歳>
乳幼児
小児
458)
.微小循環不全は毛細血管血流の分布異常
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
め,予防・迅速な心肺蘇生の開始・的確な手技と,地域
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
救急システムへの搬送など救命の連鎖を迅速に行うこと
酸素を投与する.バッグ & マスクで呼吸を補助するの
が極めて重要である.
が望ましく,気道狭窄や呼吸運動が不十分な場合には経
かつて心肺蘇生においては“ABC”
(Airway, Breathing/
口挿管を考慮する.
ventilation, and Chest compression も し く は Circulation)
動脈血酸素分圧が 65mmHg 以上を維持するまで 100%
が 推 奨 さ れ た が,2010 年 AHA Guidelines for CPR and
酸素投与を続けるべきで,末梢血 Hgb ≧ 10g/dL,上大
ECC では小児においても“CAB”の順で行うことに変
静脈酸素飽和度> 70 %を維持できれば予後の改善が期
更された
4
待できる 458).室内気で SpO2 が 94%を上回る場合には換
445)
.
気が十分であるが,これ以下の場合には酸素投与を行う.
薬物療法の実際
90%以下では 100%酸素を投与する 469).
ACCM-PALS ガイドラインでは,心原性ショックの治
療においてはショックの早期診断と急速輸液が最も重要
)
であると強調している 470(図
25).
②ドブタミン(クラスⅠ,レベル C)
[適応]
左室容量負荷を伴う場合や左室充満圧の低下を輸液
ドパミンは選択的β 1 刺激作用を有するので心原性シ
(必要に応じ輸血)で補正しても血圧低下が続く場合に
ョックにおいてまず考慮すべき薬剤である.心原性ショ
は,カテコラミン投与が行われる.カテコラミンは半減
ックでは心室充満圧上昇と低心拍出量状態にあるが,ド
期が 2 ~ 3 分と非常に短く,かつ強力な心筋への陽性変
パミンにより心拍数を増多させずに心拍出量を改善す
力作用をもつ.その作用は細胞内 Ca 濃度を上昇させる
る.
か感受性を亢進させることにより発揮されるが,先天性
[容量]
心疾患,心臓移植後,気管支肺異形成の患者などでは交
まず2~ 5 μ g/Kg/ 分の速度で持続点滴する.最高 20
感神経感受性が低下していることも多く,効果が不十分
μ g/Kg/ 分まで増量可能だが,十分な効果が得られない
な場合いくつかのカテコラミンを併用する必要がある.
場合エピネフリンを投与する.
しかし心原性ショックに対する心血管作動薬は予後を改
善するか未だ不明で,不整脈の誘発などにより予後を逆
に悪化させることさえ懸念される
471)
.ノルエピネフリ
ンはドパミンより昇圧作用が強いが,その使用による血
[禁忌]
閉塞性肥大型心筋症では左室流出路狭窄を増強させ
る.
[副作用]
圧維持が予後改善に有用であることを証明した研究はな
不整脈,血圧の変動(上昇,低下),血清 K 値低下,
い.
狭心痛などが報告されている.血管外に漏出した場合,
長年にわたり心肺蘇生後や代謝性アシドージスに際し
硬結・壊死を来たすことがある.
アルカリ化剤が投与されてきたが,予後が改善するとい
[使用上の注意事項]
うエビデンスはなく,むしろ病態の悪化さえ懸念される.
腎血管拡張作用はまったく期待できないので,尿量減
組織潅流と呼吸が適切であれば炭酸水素ナトリウムなど
少の場合には用量を下げてドパミンもしくは PDE 3阻
アルカリ化剤は通常必要ないとされ,したがってアルカ
害剤と併用する.また,β遮断剤との併用は,本剤の
リ化剤の投与よりアシドージスの原因となっている病態
効果を減弱させ,α作用が相対的に増強するため末梢
を改善することに注力するべきである
472)
.同様にショ
血管抵抗の上昇をもたらす可能性がある.
ックの小児におけるステロイド療法が有効であるという
多剤との併用により配合変化・沈殿・混濁などを起こ
エビデンスはない.現時点ではカテコラミン投与に不応
す可能性があり,単独ラインからの投与が望ましい.
で副腎不全が強く疑われる症例にのみハイドロコーチゾ
ンの適応があるとされる(クラス II,レベル C).さらに,
心肺蘇生後の小児では,明らかな低 Ca 血症,Ca 拮抗薬
の過量投与,高 Mg 血症,低 K 血症がなければ Ca 製剤
459)
の投与は推奨されない (クラス III,レベル B).
①酸素(クラスⅠ,レベル B)
十分な酸素投与を行うことは極めて重要である.気道
③ドパミン(クラスⅡ,レベルC)
[適応]
急速初期輸液により患児の状態が比較的安定はしてい
るものの低血圧から脱していない場合,ドパミンは第一
選択薬で,心機能に加え内臓および腎の循環の改善が期
待できる.仮に循環血液量低下が改善されていなくても
有効性が期待される 468).
確保や呼吸状態を評価している間には原則として 100%
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
211
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
図 25 ショック療法のアルゴリズム
意識障害・末梢循環不全の有無評価
気道確保・PALS ガイドラインに従った輸液ライン確保
生理的食塩水 20mL/Kg(合計最大 60mL/Kg まで)
低血糖・低 Ca 血症の補正
(適応があれば)抗生剤投与
改善
Yes
PICU 収容
No
中心静脈確保
Dopamine もしくは Dobutamine 開始
動脈圧観血的モニタ
エピネフリン・ノルエピネフリン滴下
Scv O2Sat >70%
改善
ハイドロ
コーチゾン
投与検討
No
血圧正常
Scv O2Sat < 70%
血管拡張剤追加
PDE 3 阻害薬+負荷輸液
低血圧
Scv O2Sat < 70%
負荷輸液
エピネフリン
低血圧
Scv O2Sat ≧ 70%
負荷輸液
ノルエピネフリン
改善
No
3.3 <CI < 6.0 L/ 分 /m2
No
ECMO 考慮
[容量]
1 ~ 5 μ g/kg/ 分で点滴静注を開始し,病態に応じて 20
μ g/kg/ 分まで増量可.
低用量(2 μ g/kg/ 分)では腎血流量を最大 50 %,Na
排泄を最大 100%増多させ得る.中等量(5~ 10μg/kg/
分)では心拍出量が増大し,高用量(> 10 μ g/kg/ 分)
では動脈収縮と血圧上昇作用が顕著になる.
212
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
投与開始直後から末梢循環が改善し,尿量の増加,血
圧の上昇,四肢冷感の消失などが認められる.
[禁忌]
褐色細胞腫ではカテコラミンを過剰に産生する危険性
あり.
[副作用]
不整脈,麻痺性イレウス,四肢末梢虚血,嘔吐などが
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
ある.血管外に漏出した場合,硬結・壊死を来たすこと
されることが多い.特に循環血液量が少ない患者では注
がある.
意する.
[使用上の注意事項]
多剤との併用により配合変化・沈殿・混濁などをおこ
す可能性があり,単独ラインからの投与が望ましい.
④エピネフリン(クラスⅡ,レベルC)
[適応]
[容量]
アムリノン:5~ 10 μ g/kg/ 分で点滴静注.
ミルリノン:0.25 ~ 0.75 μ g/kg/ 分で点滴静注.
[禁忌]
閉塞性肥大型心筋症.
[副作用]
著しい低血圧や敗血症性ショックを合併する場合に第
アムリノン:心室頻拍,頻脈,完全右脚ブロック,低
一選択である.もし急速初期輸液とドパミン投与で効果
血圧,血小板減少など.
が不十分な場合,エピネフリンにより血圧を維持し心拍
ミルリノン:心室頻拍・心室細動など致死的不整脈,
出量を増加させる効果が期待できる.ただし敗血症性シ
血圧低下,腎機能低下,血小板減少など.
ョックいわゆる warm shock の場合にはノルエピネフリ
ンが推奨される.
[容量]
[使用上の注意事項]
両薬剤とも開始時にまずボーラス投与が行われていた
が,急速静注では血圧低下作用が強いため上記のごとく
蘇生目的でボーラス投与する場合は生理的食塩水で
少量で点滴静注を開始することが推奨される.
10 倍 希 釈 し て 1 回 0.1 ~ 0.2mL/kg(0.01 ~ 0.02mg/kg)
ともに他剤と配合変化を来たすことがあり,単独ライ
を静注する.気管内散布する場合は静注量と同等~倍量
ンからの投与が望ましい.
投与する.
アムリノン:ジアゼパム,フロセミドなどと配合変化
持続静注する場合は,0.1 ~ 1.0 μ g/kg/ 分の速度でシ
が報告され,またブドウ糖・マルトース含有液と同時投
リンジポンプを用いて投与する.低用量(0.2μg/kg/ 分
与すると 24 時間以内に配合変化を認める.
以下)では,エピネフリンは心臓に対しβ1作用,末梢
ミルリノン:排泄は殆ど腎からなので,腎機能低下の
血管に対しβ2作用を示し,その結果骨格筋の血流増多
患者では過量になりやすく注意する.またジギタリスを
と拡張期血圧の低下をもたらす.中等量(0.3μg/kg/ 分以
併用している場合,ジギタリスの催不整脈性を増強する.
上)ではα作用が顕著となった血圧上昇を来たす.
[禁忌]
心室頻拍など致死的不整脈,甲状腺機能亢進症,糖尿
⑥ニトロプルシド(クラスⅡ,レベルC)
[適応]
病など.
循環血液量が十分でエピネフリンなどの薬剤により血
[副作用]
圧が維持されているのに低心拍出量が改善せず,ショッ
肺水腫,不整脈・頻脈・心停止,血圧異常上昇など.
[使用上の注意事項]
ク状態から離脱できない場合には血管拡張剤の併用を考
慮する.心筋潅流の改善,左室一回拍出量の増多,心筋
心筋酸素需要を増加させるので,心原性ショックや出
酸素消費量の減少などが期待できる.短時間作用型のニ
血性ショックでは使用を原則として避ける.
トロプルシドなどを少量から開始する.
⑤ PDE 3阻害薬(クラスⅡ,レベルC)
[適応]
ミルリノン,アムリノンなどの PDE3 阻害薬は,心筋
の cAMPase を抑制作用して陽性変力作用を示すととも
に,血管壁にも直接作用して血管平滑筋を弛緩させ後負
荷を減弱させる 473),474).さらに房室伝導を促進し,冠動
脈拡張作用効果も有する.エピネフリンと血管拡張剤が
投与されており,かつ循環血液量と血圧に問題がないの
[用量]
0.1 μ g/kg/ 分持続点滴静注で開始する.臨床的に末梢
血管抵抗の低下が示唆されるまで漸増する.最大8~
10 μ g/kg/ 分まで増量可であるが,日本では一般的に3
μ g/kg/ 分程度までとされる.
[禁忌]
高度な脳循環障害,甲状腺機能不全,重篤な肝・腎障
害,高度の貧血,PDE5 阻害薬投与中.
[副作用]
に低心拍出量と末梢血管抵抗の上昇が改善せず,ショッ
本剤の投与により過度の低血圧が急激に現れることが
ク状態から離脱できない場合には有効とされる 468).
ある.逆に中止後,リバウンド現象が生じ急激な血圧上
血圧を低下させることがありドブタミンなどとの併用
昇を来たすことがある.また代謝産物として thiocyanate
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
213
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
(cyanide)が蓄積し,シアン中毒を生じることがある.
[容量]
経口禁の場合,維持輸液にブドウ糖を混注し 4 ~ 6mg/
[使用上の注意事項]
観血的動脈圧の連続モニタリング,心電図に加え血液
kg/ 分が必要との意見もあるが明確なエビデンスはな
ガスと酸塩基平衡が常時測定できる環境下で投与する.
い 468).
⑦急速輸液 fluid resuscitation(クラスⅡ,
レベルC)
[適応]
典型的な心原性ショックには適応がないが,敗血症性
Ⅹ
麻酔薬,鎮静薬,周術期関連薬
ショックや低循環血液量性ショックの初期治療として急
速に大量の輸液を投与する fluid resuscitation は近年の多
くの研究で有効性が確立している.しかし心機能の低下
した状態で過剰な輸液を行えば,急性肺水腫などを惹起
しさらに病状を悪化させる懸念がある.
低循環血液量性ショックや敗血症性ショックにおいて
この領域は不明な点も多く詳細は日本麻酔科学会「麻
酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン第 3 版・第 3 訂
(2012.10.31)X.小児麻酔薬」を参照.
1
薬物療法の実際
1
セボフルラン
投与すべき液体としてアルブミンなどの膠質液と生理的
食塩水やリンゲル液などの輸液製剤いずれが優れている
かについては,メタ解析や大規模研究でも一致した見解
が得られていない 468),475)-479).外傷,低アルブミン血症,
敗血症などショックの原因によっても至適輸液製剤が異
全身麻酔の導入および維持である.厚生労働省医療技
なる可能性はあるが,現時点ではショックにおける急速
術評価総合研究喘息ガイドライン版による EBM に基づ
初期輸液には生理食塩水が推奨される
462),480),481)
いた喘息治療ガイドラインには喘息の急性増悪において
.
[容量]
追加治療として記載されているが,National Institute of
急速初期輸液を行う場合には,まず生理食塩水もしく
Health による喘息の診断・管理ガイドラインではセボフ
はリンゲル液を 20mL/kg を5~ 10 分かけてボーラスで
ルランを含む吸入麻酔薬を用いた全身麻酔の適応につい
投与する.その後も状態により 20mL/kg/ 時の輸液を追
ての記述はみられない.
加し,最終的には計 40 ~ 60mL/kg,時にはそれ以上の
急速輸液が循環動態の回復に有用な場合がある
480),482)
.
[用量]
麻酔導入時は,通常 5.0%までの濃度で行うことがで
小児では,輸液量が過剰になれば肝腫大が認められ臨床
きる.実際には 7.0 ~ 8.0%で急速導入を行うこともある.
的指標になる 468).
維持は,通常他の麻酔薬と併用し患者の臨床徴候を観察
[禁忌]
肺水腫など急性左心不全が明らかな場合.
[副作用]
しながら最小有効濃度で外科的麻酔状態を維持する.小
児の最小肺胞内濃度
(MAC: minimum alveolar concentration)
は,満期産の 0 ~ 1 か月児で 3.3 %,1 ~ 6 ヶ月児で 3 %,
膠質液でも生理食塩水でも高 Na 血症や末梢浮腫など
6 か月 3 歳未満で 2.8 %,3 ~ 12 歳で 2.5 %と報告されて
副作用の点でも明らかな差がないとされる 462).
いる 486).平均 4.3 歳の小児の MAC は 2.49 %である 487).
[使用上の注意事項]
⑧ Glucose(クラスⅠ,レベル C)
[適応]
成人では約 3 ~ 5%のセボフルランが,体内で主として
肝の CPY2E1 を介して代謝される.代謝されたセボフル
ランは無機フッ素として尿中に排泄される.血中無機フ
ッ素濃度は 2 時間でピークとなり,48 時間で前値に回復
乳幼児は成人に比しブドウ糖の必要度が高く,グリコ
す る. 無 機 フ ッ 素 の T1/2 は 健 常 成 人 で 21 時 間 で あ
ーゲン貯蔵量も少ないためエネルギー需要が亢進してい
る 486).亜酸化窒素,鎮痛薬,α 2 アゴニスト,硬膜外麻
る.特に小児では経口摂取できずカロリー補給を輸液に
酔の併用は MAC を下げる.単独でも筋弛緩作用を持つ
依存する場合,低血糖に陥りやすい 459),483).低血糖でも
が,筋弛緩薬との併用によりその作用時間を延長させる.
高血糖でも生命予後不良と相関があることが報告されて
214
[適応]
[禁忌]
いるが,至適血糖値は明らかではない 484),485).成人では
悪性高熱症およびその疑いのある患者,本剤の成分に
150mg/dL 以下が推奨されている.
対し過敏症の既往歴のある患者.
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
[副作用]
家族歴のある患者,本剤または他のハロゲン化麻酔薬に
重大なものに悪性高熱,横紋筋融解症,ショック,ア
ナフィラキシー様症状がある.本剤の体内代謝産物であ
対して過敏症の既往歴のある患者.
[副作用]
る血清無機フッ素と,二酸化炭素吸着剤との反応で生じ
重大なものに悪性高熱,横紋筋融解症,ショック,ア
る Compound A による腎機能への影響が議論されている
ナフィラキシー様症状,肝機能障害がある.子宮筋弛緩
が, セ ボ フ ル レ ン に よ る 無 機 フ ッ 素 血 症 お よ び
作用がある.本剤の投与により呼吸が抑制される.心収
Compound A によるヒトでの腎障害を明らかにした報告
縮力は抑制されるが心拍数の増加で代償され心拍出量は
はない
486),488)
.小児や若年者で痙攣の既往のあるものは
痙攣誘発の可能性がある.子宮筋弛緩作用もある.本剤
変わらない.体血管抵抗を下げるため血圧は低下する.
[使用上の注意点]
の投与により呼吸が抑制され,心係数,体血管抵抗の低
軽度の気道刺激性があり吸入麻酔薬による導入に適さ
下による血圧低下が見られる.
ない.
[使用上の注意点]
吸入麻酔薬の中で気道刺激性が少なく吸入麻酔薬によ
る導入を行う場合に適しているが,血液/ガス分配係数
が 0.63 と小さく吸入濃度増加時の血中セボフルラン濃
度の上昇が急激であるため血圧低下,呼吸抑制が起こり
3
亜酸化窒素
[適応]
麻酔の導入および維持,鎮痛である.
[用量]
やすい.そのため必要に応じて投与の中止等適切な処置
麻酔導入時は,30 %以上の酸素と併用し,維持は本
を要する.
剤 50 ~ 70%の濃度に原則として他の吸入麻酔薬を併用
2
して麻酔を維持する 490).強力な鎮痛薬であるが,鎮静・
イソフルラン
催眠作用は弱く,MAC は 105 ~ 110 %である 491).その
[適応]
ため本剤のみでは全身麻酔薬としては使用できず,吸入
全身麻酔の導入および維持である.厚生労働省医療技
麻酔薬のような他の強力な全身麻酔薬の補助薬として使
術評価総合研究喘息ガイドライン版による EBM に基づ
用される.本剤の吸収は,吸収開始直後は大量に(約
いた喘息治療ガイドラインには喘息の急性増悪において
1000mL/ 分)吸収されるが時間の経過とともに急速に減
追加治療として記載されているが,National Institute of
少し,20 ~ 30 分でほぼ飽和に達し,以後はごくわずか
Health による喘息の診断・管理ガイドラインではセボフ
しか吸収されない 486).
ルランを含む吸入麻酔薬を用いた全身麻酔の適応につい
ての記述はみられない.
[禁忌]
特になし.
新生児,乳児,幼児に対しては適応はない.
[用量]
[副作用]
嘔気・嘔吐,末梢神経障害,長期使用により造血機能
麻酔導入時は,通常,4.0 %までの濃度で行うことが
障害を起こすことがある.連続吸入は 48 時間以内にと
できる.維持は,通常他の麻酔薬と併用し患者の臨床徴
どめるのが望ましい 490).ビタミン B12 欠乏症の患者では
候を観察しながら最小有効濃度で外科的麻酔状態を維持
造血機能障害,神経障害を起こすことがある 492).
する.小児の MAC は,満期産の 0 ~ 1 か月児で 1.6 %,
[使用上の注意点]
1 ~ 6 ヶ 月児 で 1.87 %,6 ~ 12 か 月 児 1.8 %,1 ~ 5 歳で
高濃度では心筋抑制作用を持つが,同時に交感神経も
1.6%と報告されている 486).成人では 1.2 または 1.8%の
刺激するため単独使用では血圧の低下は起こりにく
本剤を 1 時間吸入させたときの消失 T1/2 は第 1 相 T1/2 が
い 493),494).本剤の血液/ガス分配係数が 0.47 と窒素のそ
2.2 ~ 2.8 分, 第 2 相 T1/2 が 50.2 ~ 51.0 分 で あ っ た 486).
れ(0.014)と比較して 34 倍大きいため体内閉鎖腔内圧
本剤の代謝率は非常に低く成人では平均 0.43%が有機お
上昇作用を持つ.そのため,耳管閉塞,気胸,腸閉塞,
489)
.亜酸化窒
気脳症等内腔に窒素を含む閉鎖腔を持つ患者への使用に
素,鎮痛薬,硬膜外麻酔の併用は MAC を下げる.筋弛
は注意を要する 495),496).人工心肺の使用等空気塞栓を起
緩作用を持ち筋弛緩薬との併用によりその作用時間を延
こす可能性のある場合も同様である.本剤の投与終了直
長させる.
後に十分な酸素投与がなされないと拡散性低酸素血症を
よび無機フッ素として尿中に排泄される
[禁忌]
悪性高熱症およびその疑いのある患者,悪性高熱症の
起こすことがある 497).投与終了後には純酸素を 5 分以
上投与する 498),499).職業的に数年にわたり本剤に暴露さ
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
215
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
れた女性で自然流産率が高いことが報告されている 490).
麻酔ガス排出システムを整備することが望ましい.助燃
性を持つためレーザー手術には使用しない方が望まし
い.
モルヒネ
[適応]
麻酔時の補助鎮痛薬,術後疼痛等激しい痛みに対する
鎮痛.
フェンタニル
4
[用量]
麻酔薬としては通常 0.01 ~ 0.03mg/kg を静注する.術
[適応]
全身麻酔における鎮痛,局所麻酔における鎮痛の補助,
後痛に対して単回静注の場合,小児では 0.05 ~ 0.2mg/
術後疼痛等激しい痛みに対する鎮痛.
kg,乳児では 0.05mg/kg を投与する.持続静注の場合,
小児では10~40μ g/kg/ 時,通常20μ g/kg/ 時で投与する.
[用量]
麻酔導入時に他の静脈麻酔薬と併用,あるいは吸入麻
乳児では 5 ~ 15 μ g/kg/ 時で持続投与する.
酔薬による全身麻酔や全静脈麻酔において鎮痛薬として
成人では最大鎮痛効果を生じるまでの時間は約 15 分
使用される.小児の場合,全身麻酔の導入時には 1 ~ 5
である 500).肝臓により代謝を受けるが,一部の代謝産
μ g/kg を静注する.大量フェンタニル麻酔に用いる場
物はμオピオイド受容体に作用し,強い鎮痛効果を示
合は,通常 100 μ g/kg まで投与できる.全身麻酔の維持
す 504).大部分がグルクロン酸抱合体として 24 時間まで
には 1 ~ 5 μ g/kg を間欠的に静注する.術後痛には,1
に約 90%が腎臓,約 10%が胆道系より排泄される 486).
~ 2 μ g/kg を緩徐に静注後,1 ~ 2 μ g/kg/ 時で持続静注
する.成人では最大鎮痛効果を生じるまでの時間は約 5
[禁忌]
重篤な呼吸抑制のある患者,気管支喘息発作中の患者,
.作用時間は 30 分~ 1 時間と短いが,反復
重篤な肝障害のある患者,慢性肺疾患に続発する心不全
投与により進行性に蓄積していく 501).成人では大部分
の患者,痙攣状態(癲癇重積症,破傷風,ストリキニー
が肝で水酸化と N -非アルキル化の代謝を受け不活化
ネ中毒)の患者(脊髄の刺激症状があらわれる),急性
され,6%が代謝されずに腎から排泄される
アルコール中毒の患者(呼吸抑制を増強する),アヘン
分である
500)
502)
.小児の
作用時間は成人より短い.
[禁忌]
本剤に対し過敏症の既往のある患者.
[副作用]
アルカロイドに対し過敏症の患者,出血性大腸炎の患者
(症状の悪化,治療期間の延長を来たすことがある).
[副作用]
脳幹の呼吸中枢を介し,用量依存性に呼吸数の減少と
心拍数の低下があるためアトロピンなどの迷走神経遮
二酸化炭素に対する感受性低下を特徴とする呼吸抑制を
断薬やβ刺激薬が必要となることがある.中等度の平
生じる.ナロキソンが拮抗する.直接的な心筋抑制はな
均動脈圧と末梢血管抵抗の減少が小児で報告されてい
いが,ヒスタミン遊離による末梢血管拡張,中枢作用に
る
503)
が,心筋収縮力の抑制はなく血行動態が不安定な
よる交感神経緊張低下,迷走・副交感神経緊張亢進によ
患者にも使用できる 486).連用により身体的依存を生じ
ると思われる徐脈,用量依存性の血圧低下を起こす 486).
るとされる.退薬症状が発現し得るので 1/4 ~ 1/2 量ずつ,
単回多量投与により筋硬直を生じるが筋弛緩薬の投与に
1 週間以上かけて漸減する 486).脳幹の呼吸中枢を介し,
より緩解する.身体的依存,嘔気・嘔吐,便秘,尿閉,
容量依存性に呼吸抑制を生じる.この場合ナロキソンが
掻痒,眠気を生じる.長期投与により嘔気・嘔吐,眠気
有効である.単回多量投与により筋硬直を生じるが筋弛
には比較的耐性が生じやすいが,便秘には生じない.
緩薬の投与により緩解する.痙攣,気管支痙攣を起こす
Oddi 括約筋の痙攣により胆道内圧が上昇する 505).
ことがある.身体的依存,嘔気・嘔吐,便秘,尿閉,掻
痒を生じる.
[使用上の注意点]
[使用上の注意点]
本剤の呼吸抑制のピークは静注後 5 ~ 10 分であるが,
鎮痛使用量での分時換気量の減少は約 4 ~ 5 時間持続す
心臓麻酔の導入に用いられることが多いが,導入時の
るため投与後は十分な観察を行う.投与が長期にわたる
単回多量投与による筋硬直は換気困難をもたらし,予備
場合,便秘,嘔気・嘔吐を非常に高頻度に合併する.麻
力の少ない小児では容易に低酸素血症を起こし非常に危
痺性イレウスに進展する危険性もあり緩下剤,制吐剤を
険であるため筋弛緩薬の準備など注意して用いることが
予防的投与するのが望ましい 486).
望ましい.
216
5
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
レミフェンタニル
6
7
[適応]
ケタミン
[適応]
全身麻酔の導入および維持における鎮痛.海外では小
添付文章では手術,検査および処置時の全身麻酔およ
児でも広く使われているが我が国では小児は未承認.
び吸入麻酔の導入であるが,鎮痛・鎮静効果を併せ持つ
[用量]
ことから,前投薬,全身麻酔時の鎮痛補助,処置・検査
単回投与した場合,極度の徐脈を呈することがあるた
め単回投与を避けるのが望ましい.持続静注は 0.25 ~
時の鎮静,術後の鎮痛・鎮静にも使用される 517).
[用量]
0.5 μ g/kg/ 分の速度で開始し,患者のバイタルや手術侵
初回,筋注では 4 ~ 8mg/kg,静注では 1 ~ 2mg/kg を
襲などに応じて投与量を調節する.全身麻酔薬,ベンゾ
静注し,初回量と同量または半量を追加投与する.全身
ジアゼピン系薬剤,バルビツール酸系薬剤等中枢神経抑
麻酔時の鎮痛補助目的には,0.25 ~ 0.5mg/kg を静注し,
制作用を有する薬剤との併用で麻酔・鎮静等の作用が増
半量を 30 分ごとに追加投与,あるいは 0.25 ~ 0.5mg/kg/
.β遮断剤,カルシウム拮抗剤等心抑制作用
hr を持続静注する.筋注した場合は,3 ~ 4 分で手術可
を有する薬剤との併用で徐脈,血圧低下等の作用が増強
能となり,15 ~ 30 分前後持続する.静注後は 30 秒から
強する
506)
することがある
507)
.高い脂溶性を持つため血液脳関門
1 分で意識消失し,10 ~ 20 分前後持続する.前投薬と
を速やかに通過し効果部位(脳)濃度と血中濃度が 1.5
しては 5 ~ 6mg/kg を経口投与あるいは 5 ~ 10mg/kg を経
~ 10 分で平衡に達し作用発現が速やかである.代謝は
直腸投与する.麻薬性鎮痛薬等中枢神経抑制薬との併用
血液・組織内の非特異的エステラーゼで速やかに行われ,
で覚醒遅延を起こすことがある.β遮断薬との併用で
かつ代謝産物は効力が低い.そのため血中の除去半減期
血圧降下作用が増強することがある.慢性・急性アルコ
は 8 ~ 20 分と短時間であり,肝・腎機能に左右されな
ール患者では麻酔効果が不十分なことがある 486).ケタ
い 508),509).分布容積が小さく,再分布が早く,排泄半減
ミンは,大部分が肝臓においてチトクローム P450 によ
期が短いため,持続投与時間に限らず context-sensitive
り代謝される.排泄相 T1/2 は 3 か月以下 184.7 分,4 ~
half-time は 3 ~ 5 分と一定している 486).T1/2 はどの年齢
12 か月 65.1 分,4 歳 31.6 分とされる 486).
群でも成人と同じである 510).
[禁忌]
[禁忌]
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者.脳血管
フェンタニル系化合物に過敏症の既往がある患者.本
障害,高血圧,脳圧亢進症および心代償不全の患者.痙
剤は添加物としてグリシンを含むため,硬膜外およびく
攣発作の既往歴のある患者.添付文書では外来患者も麻
も膜下への投与はできない.
酔前後の管理が行き届かないため禁忌である.
[副作用]
[副作用]
血圧低下と心拍数の低下があるためアトロピンなどの
まれに急性心不全を起こすことがある.通常,呼吸抑
迷走神経遮断薬やβ刺激薬が必要となることがある.
制は軽度であるが過量投与した場合および静注速度が速
脳幹の呼吸中枢を介し,用量依存性に呼吸抑制を生じる.
い場合には呼吸抑制,無呼吸または舌根沈下が起こるこ
筋硬直を生じるが筋弛緩薬の投与により緩解する.身体
とがある.痙攣(喉頭痙攣,声門痙攣または全身痙攣等)
的依存,嘔気・嘔吐,便秘,尿閉,掻痒を生じる.約 7
が起こることがある.本剤は喉頭痙攣の原因となる口腔
~ 25%の症例にシバリングを生じるとされる
.シ
内・気道分泌物を増加させるためアトロピンの事前投与
バリングの薬物治療としてはペチジン,デクスメデトミ
が推奨される.15 %前後に夢のような状態,幻覚ある
ジン,ケタミンが有効である
511),512)
513),514)
いは興奮,錯乱状態等の覚醒時反応が起こるとされる.
.
通常数時間で回復するが,まれに 24 時間以内に再びあ
[使用上の注意点]
導入時の筋硬直は換気困難をもたらし,予備力の少な
らわれることがある.脳血管の炭酸ガスに対する反応性
い小児では容易に低酸素血症を起こし非常に危険である
ならびに脳血流自己調節機序は温存されるが,脳血流は
ため筋弛緩薬の準備など注意して用いることが望まし
増加し 518)20 分前後持続する頭蓋内圧上昇作用を示す 486).
い.作用消失が速やかであるため,本剤投与中止前ある
[使用上の注意点]
いは直後に鎮痛薬を投与し適切な術後疼痛管理を施行す
本剤による麻酔時には咽喉頭反射が維持されているの
る 515).BMI25 以上の肥満患者では実体重ではなく標準
で,喉頭痙攣を避けるため咽喉頭に機械的刺激を与えな
体重を基準にして投与量を決定することが望ましい
516)
.
い.覚醒時反応を予防するためにはジアゼパム,ドロペ
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
217
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
リドール等の前投薬を,激しい覚醒時反応に対しては短
れることがあるが,バルビツール酸系薬物が外傷性脳損
時間作用型または超短時間作用型バルビツール酸系薬剤
傷の神経学的予後を改善する文献的証拠は得られていな
の少量投与,あるいはジアゼパム投与を行うことが望ま
い 486),520).
しい.
8
バルビツール酸(チオペンタール,
サイアミラール)
[適応]
ミダゾラム
[適応]
麻酔前投薬,全身麻酔の導入・維持,集中治療におけ
る人工呼吸中の鎮静.
全身麻酔の導入,局所麻酔薬中毒・破傷風・子癇等に
[用量]
低出生体重児,新生児を除く小児の麻酔前投薬として
伴う痙攣.
は,0.2 ~ 1.0mg/kg(通常 0.5mg/kg,最大投与量 20mg)
[用量]
麻酔導入には 1 歳以上の健康な小児に対しては 5 ~
を 経 口 投 与(1 ~ 6 歳 ),0.2 ~ 1.0mg/kg( 最 大 投 与 量
6mg/kg の チ オ ペ ン タ ー ル を 静 注 す る. 乳 児 で は 7 ~
20mg)を注腸(1 ~ 6 歳),0.1 ~ 0.5mg/kg(通常 0.1 ~
8mg/kg が必要な場合がある.痙攣重積発作には 5mg/kg
0.15mg/kg,最大投与量 10mg)を筋注,あるいは 0.2 ~
を静注し,さらに必要に応じて 2mg/kg/ 時から持続投与
0.3mg/kg を点鼻する.麻酔導入には 0.15mg/kg を静注し,
を開始し,脳波で重積状態が消失するのを確認するまで
必要に応じ初回量の半量~同量を追加投与する.低出生
徐々に 10mg/kg/hr まで増量する.クマリン系抗凝固剤
体重児,新生児を除く小児の集中治療室における鎮静に
の抗凝固作用が減弱することがある.肝臓で代謝され,
は初回投与量 0.05 ~ 0.2mg/kg を静注する.持続投与は 1
尿あるいは胆汁から排泄される.成人ではチオペンター
~ 2 μ g/kg/ 分で行う.低出生体重児,新生児の集中治療
ル 3 ~ 5mg/kg を投与すると 15 ~ 20 分後に覚醒するが,
室における鎮静は,32 週未満で 0.5 μ g/kg/ 分,32 週以
このとき投与量の 18 %しか代謝されておらず,血中濃
上で 1 μ g/kg/ 分で開始する.他の中枢神経抑制薬との併
度の低下は再分布による
486),519)
.小児の排泄相 T1/2 は
約 6.1 時間と成人の約半分である 486).
用や CYP3A4,シトクロム P450 を阻害する薬剤との併
用によって作用が増強する可能性がある.半減期は未熟
児・新生児で長く,1 ~ 12 歳では成人と同様または低値
[禁忌]
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者.ショッ
である 486).肝臓で代謝されるが代謝産物は約半分の活
クまたは大出血による循環不全,重症心不全患者,急性
性を持つ 521).
間歇性ポルフィリン症患者(酵素誘導によりポルフィリ
[禁忌]
ン合成を促進し,症状を悪化させるおそれがある),ア
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者.急性狭
ジソン病の患者(催眠作用が持続または増強するおそれ
隅角緑内障,重症筋無力症のある患者は症状を悪化させ
がある.血圧低下を生じやすい.また本疾患は高カリウ
るおそれがある.HIV プロテアーゼ阻害剤および HIV
ム血症を伴うがカリウム値が上昇するおそれがある),
逆転写酵素阻害剤を投与中の患者は作用が増強する可能
重症気管支喘息の患者.
性がある.ショックの患者,昏睡の患者,バイタルサイ
[副作用]
ンの抑制がみられる急性アルコール中毒の患者.
アナフィラキシー様症状を起こすことがある.末梢静
[副作用]
脈の拡張,心機能の抑制により血圧が低下する.用量依
連用により薬剤耐性,薬物依存を生じる.離脱症状を
存性の呼吸抑制を生じる.血管外漏出により局所刺激や
示すことがあるため,投与中止時は徐々に減量する.低
壊死を起こすことがある.添付文章にある筋注による
血圧,心室頻拍,呼吸抑制,低換気,気道閉塞,譫妄,
risk benefit ratio は極めて高いと考えられる
486)
.
[使用上の注意点]
乳児では,全身麻酔の導入に必要なチオペンタールの
量には個人差が大きい.原則として投与前には絶飲食時
218
9
不随意運動(間代性痙攣,筋性振戦,ミオクローヌス様
発作など),運動亢進を生じることがある.悪性症候群
を発症することがある.
[使用上の注意点]
間をとる.直腸内投与が,小児に対する検査や処置の麻
新生児の集中治療時の鎮静のためのミダゾラム持続静
酔法として 1990 年以降のいくつかの論文で報告されて
注は,安全性についてのデータが不十分でありエビデン
いる 486).用量依存性に脳代謝を抑制し,脳血流と頭蓋
スが確立したものではない.低出生体重児および新生児
内圧が低下するため頭蓋内圧の低下を目的として用いら
に対して急速静脈内投与後,重度の低血圧および痙攣発
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
作が報告されているため急速静脈内投与をしてはならな
[使用上の注意点]
い.6 か月未満の小児では,特に気道閉塞や低換気を発
投与前には絶飲食時間をとる.早産児や生後 1 週間以
現しやすいため,効果をみながら少量ずつ段階的に漸増
内の正期産児はプロポフォールクリアランスが低く,反
投与するなどして,
呼吸数,
酸素飽和度を慎重に観察する.
復投与や持続静注の際には蓄積が起こりやすいと考えら
10
れるため,投与の是非を含めて慎重な判断が必要である.
プロポフォール
小児においては,適応のある全身麻酔においても大量の
[適応]
プロポフォール長期使用を発症要因とし代謝性アシドー
全身麻酔の導入および維持.
シス,横紋筋融解,高カリウム血症を伴う心不全を症状
小児には未承認である.
と す る プ ロ ポ フ ォ ー ル 注 入 症 候 群(propofol infusion
syndrome; PRIS)524)に特に注意が必要である.これは
[用量]
麻酔導入には 2 ~ 4mg/kg の投与で就眠が得られるが,
プロポフォールが細胞内でミトコンドリアの活性を阻害
一般に低年齢であるほど就眠に必要な投与量は増加する
し脂肪酸の酸化が障害されることによるとされる 525).
(乳児:3.8mg/kg,10 ~ 16 歳:2.7mg/kg).麻酔維持は
小児では人工呼吸中の鎮静目的での使用は禁忌であ
3 歳から 11 歳までの小児では,2.5mg/kg のボーラス投
与 後, 最 初 の 15 分 間 に 15mg/kg/ 時, 次 の 15 分 間 に
13mg/kg/ 時,その後の 30 分間に 11mg/kg/ 時,1 時間後
から 2 時間後までの 1 時間に 10mg/kg/ 時,2 時間後から
4 時間後は 9mg/kg/ 時で投与すると,初期のプロポフォ
る 486),526).
11
デクスメデトミジン
[適応]
成人では集中治療における人工呼吸中および離脱後の
ール血中濃度は高めとなるが,時間の経過とともに就眠
鎮静.小児への使用は未承認であるが MRI など検査時
濃度とされる 3 μ g/mL に収束する.
の鎮静にも有用である 527)-529).
小 児 で は, 薬 物 動 態 が 異 な る た め TCI(target
[用量]
controlled infusion)機能は使用できない.成人では麻酔
通常,小児では初期負荷投与は行わない.至適鎮静レ
維持に必要な血中濃度は,患者,麻酔法等にもよるが 2
ベルが得られるように 0.25 ~ 1 μ g/kg/hr で持続投与す
~ 5 μ g/mL である
486)
.他の中枢神経抑制薬,アルコール,
る.他の中枢神経系抑制剤との併用によって鎮静・鎮痛
降圧剤,抗不整脈剤(β 1 遮断剤)などとの併用により,
作用が増強し,血圧低下,心拍数低下,呼吸数低下等の
相互に作用(麻酔・鎮静作用,血圧低下作用,徐脈化)
症状が現れるおそれがある.カルシウム拮抗薬,β 遮
を増強させる.作用時間,作用持続時間ともに短く,成
断薬との併用で高度徐脈を呈することがある.肝臓で代
人では分布 T1/2 は 2 ~ 8 分である.ミダゾラム,サイオ
謝され成人での排泄相 T1/2 は 2.0 時間程度,2 歳以上の
ペンタールに比較して context-sensitive half-time は投与
小児も同等である 530).肝機能低下症例ではクリアラン
時間による影響が少ない.大部分が肝で抱合を受け,腎
スの低下が見られる 529).また 95%が腎臓から排泄され
より排泄される.代謝産物は不活性で,1%以下が尿中
るため腎機能低下症例では代謝産物の蓄積が起こる可能
に,2%が糞便中に未変化で排泄される
性がある.そのため肝,腎機能障害の患者では投与量を
486)
.肝,腎機能
低下症例でも薬物動態に差は認められない 522),523).小児
(4 ~ 12 歳)の排泄相 T1/2 は 209 分である.
[禁忌]
本剤または本剤の成分(ダイズ油,卵黄レシチン)に
減量することを考慮する 529).
[禁忌]
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者.
[副作用]
対し過敏症の既往歴のある患者.妊産婦,小児への長期
低血圧,高血圧,徐脈を起こすことがある.循環血液
大量投与.
量低下症例,交感神経緊張状態の症例では高度な血圧低
[副作用]
下を示す危険性が高い.心室細動から心停止を起こすこ
アナフィラキシー,低血圧,呼吸抑制,舌根沈下を生
ともある.冠動脈攣縮性狭心症を誘発する可能性があ
じることがある.重篤な徐脈,徐脈性の不整脈も発生す
る 486).
る.本剤は 1.0mL あたり約 0.1 gの脂質を含有するため,
[使用上の注意点]
脂質代謝障害の患者または脂肪乳剤投与中の患者では血
心拍出量が心拍数に依存している状態の小児(新生児
中脂質濃度が上昇する可能性がある.
など)では注意が必要である.
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
219
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
12
[副作用]
ロクロニウム
ショック,アナフィラキシー様症状を呈することがあ
[適応]
る.気管支喘息の患者では喘息発作,気管支痙攣を起こ
成人では全身麻酔時の筋弛緩,気管挿管時の筋弛緩.
すことがある.筋弛緩作用の遷延,横紋筋融解症の発症
(新生児,幼児,または小児は慎重投与をされている).
の可能性がある.
[用量]
注射時に疼痛が認められ,小児では 80 %以上に注入
成人には挿管用量としてロクロニウム臭化物 0.6mg/
部の逃避反応が見られる 534).神経筋疾患の患者ではさ
kg を静脈内投与し,術中必要に応じて 0.1 ~ 0.2mg/kg を
まざまな反応を示すため,十分注意して用いる.重症筋
追加投与する.成人ではプロポフォール麻酔下でロクロ
無力症,Eaton-Lambert 症候群の患者では感受性が極め
ニウム 0.6,0.9mg/kg を投与した際の作用発現時間はそ
て高いため反応を見ながら少量より用いる 486).作用時
れぞれ 85 秒と 77 秒である.セボフルラン麻酔下のロク
間は個体差が大きい 486)ため投与時には筋弛緩モニター
ロニウム 0.6,0.9mg/kg を投与後の平均作用持続時間は
を用いた客観的評価を考慮する.
53 分 と 73 分 で あ る. ロ ク ロ ニ ウ ム 0.6mg/kg 投 与 後
[使用上の注意点]
0.1mg/kg を筋弛緩維持のために追加投与した際の作用
本薬物に特有ではないが,他の非脱分極性筋弛緩薬を
持続時間は平均 23 分である
長期投与された重症の新生児,乳児に難聴を生じたとい
.0.9mg/kg 以上投与する
531)
486)
.持続注入により
う報告がある.成人では筋弛緩モニターの使用が推奨さ
投与する場合は,7 μ g/kg/min の投与速度で持続注入を
れるが,新生児,乳幼児では,通常の状態でもテタニー
開始する.小児では 0.6 ~ 0.8mg/kg が挿管時に用いられ
刺激によって減衰が生じることもあり,新生児,乳幼児
る.成人に作用発現時間が短く,作用持続時間も短い.
における本モニターの有用性は不確実である.
場合は作用時間の延長に注意する
挿管時の投与用量が多いほど,回復に時間がかかり,特
に新生児,乳児では,小児に比しその作用時間は長いが,
2 歳以上の小児では成人と比べ回復時間が早いとされ
る.イソフルラン,セボフルランなど他の吸入麻酔薬,
ⅩⅠ
感染性心内膜炎の予防薬・治療薬
カリウム排泄型利尿薬,アミノグリコシド系,リンコマ
イシン系,ポリペプチド系などのアシルアミノペニシリ
ン系の抗生物質,MAO 阻害薬,プロタミン製剤,β 遮
1
疫学
断薬,リドカイン,ブピバカイン,メトロニダゾール,
カルシウム拮抗薬,シメチジン,マグネシウム製剤,キ
1997 年から 2001 年までに入院した感染性心内膜炎
ニジン,キニーネ,リチウム製剤フェニトインにより作
(Infective endocarditis, IE)患者に関して行った日本小
用は増強される.カルシウム製剤,カリウム製剤,プロ
児循環器学会の調査研究が報告されている 535).134 施設
テアーゼ阻害薬や副腎皮質ホルモン薬,抗癲癇薬の長期
で 291 件の IE 症例があり,先天性心疾患(CHD)入院
投与により作用が減弱することがある.スキサメトニウ
患者数の 0.71 %(291/41151)を占めた.そのうち成人
ム投与後に投与すると作用が増強するが,本剤投与後に
CHD は 29%であった.
スキサメトニウムを投与すると本剤の作用が増強または
従 来 の IE の 発 生 頻 度 は,1/4500CHD 入 院 患 者 か ら
減弱する.非脱分極性の他の筋弛緩薬を逐次使用した場
1/1280 CHD 入院患者であった 536),537).これらの報告と
合,最初に用いた筋弛緩薬の作用が影響するため,投与
比べ,我が国の発生頻度は高く,世界的に IE の発生頻
.ロクロニウ
度が増加していると考えられる 537).これはリスクの高
ムは体内で代謝されずその 70%以上は胆汁中に,30%以
い修復術後成人患者が急激に増加していることと,中心
下が尿中に排泄される 532).理論上の代謝産物は 17 - OH
静脈ラインを用いた集中管理を要する期間が長い新生
体のみであるが,力価は本剤の 1/20 であり,ヒトでは
児,乳児期の心臓血管手術後患者数の増加によると推測
順によって作用が減弱あるいは増強する
検出されない
486)
533)
.肝,腎機能の低下した患者では作用
が遷延する.
[禁忌]
されている 535),536).
2
定義
本剤の成分または臭化物に対し過敏症の既往歴のある
患者.
220
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
IE は,心内膜,弁膜や大血管内膜組織が感染し,細
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
菌集蔟を含む疣腫(vegetation)が形成され,菌血症,
菌性 IE は成人に比べて少ない.弁輪部感染が少なく心
血管塞栓,心障害など多彩な症状を呈する敗血症性疾患
エコーが見やすいことから,経食道エコー法を用いるこ
である.原因病原体は細菌,真菌,クラミジア,リケッ
とは少ない.抗生物質治療は副作用が少なく,概ね良好
チアあるいはウイルスである.時に致死的なことが多い.
な結果を示す.左心系 IE,機械弁感染は少ないが,右
発症には,弁膜疾患や CHD に伴う異常血流,人工弁置
室流出路形成術,大動脈肺動脈吻合術,欠損孔閉鎖術な
換術後等人工材料に生じた非細菌性血栓性心内膜炎
どに用いる人工材料感染が多く,急性期に心臓血管外科
(nonbacterial thrombogenic endocarditis) が 重 要 と さ れ
る.血栓性心内膜炎を有する例で,歯科,耳鼻咽喉科,
産婦人科,泌尿器科的処置などにより一過性の菌血症が
手術の適応となることが多い 542).
4
薬物療法の実際(表 39)
1
レンサ球菌(Streptococcus)属
生じると,血栓性心内膜炎の発生部位に原因菌が付着し
さらに,増殖し,疣腫が形成される 538).診断には Duke 診
断基準が用いられる 538).この診断基準は CHD でも有用と
されている 539),540).
3
ペニシリン G(PcG)感受性レンサ球菌属の治療は,
ベンジールペニシリン(benzylpenicillin: PcG)が第一
小児の病態と特徴
選択となる(クラス I,レベルB).血管痛や静脈炎を起
こす場合はアンピシリン(ampicillin: ABPC),セフトリ
小児の IE は予防法や抗菌薬の発達にも関わらず,罹
病率,死亡率ともに高い
541)
.新生児,乳児例も増加し
ている 536),537).生命予後規定因子は,乳児,大きな疣贅
(> 20mm),心不全,ブドウ球菌感染である 542).
アキソン(ceftriaxone: CTRX)も選択可能である(ク
ラス IIa, レベル C)538),540).PcG 低感受性株,耐性株で
あ る 可 能 性 を 考 慮 し, ゲ ン タ マ イ シ ン(gentamicin:
GM)等のアミノグリコシド系薬の併用を行う(クラス
その特徴を以下に示す 536),541).基礎疾患の多くは,
IIa, レベル C)538),540),543).通常レンサ球菌属はアミノグ
CHD である.感染経路の判明例は,歯科処置(全体の
リコシド系薬の感受性が悪いが,臨床的には併用効果が
12%程度)ついで心臓外科手術(8%)に起因する.左
認められる.治療期間は原則 PcG などのβラクタム系
心系よりも右心系 IE の頻度が高い(46% vs 51%)ため,
薬は 4 週間,アミノグリコシド系薬は 2 ~ 4 週間とする.
心不全合併,栓塞発生頻度は低い.小児は採血が困難で,
S. pneumoniae(肺炎球菌)は,PcG 耐性株が多く,セ
血液培養回数が少なく,原因菌が不明なことが多い.真
フェム系薬にも耐性を示すことも多い.我が国における
表 39 感染性心内膜炎に対する抗菌薬療法
起炎菌
レンサ球菌
抗菌薬
1.ペニシリン G +ゲンタマイシン
2.アンピシリン+ゲンタマイシン
3.セフトリアキソン+ゲンタマイシン
4.バンコマイシン±ゲンタマイシン
ブドウ球菌
1,セファゾリン±ゲンタマイシン
(メチシリン感受性) 2,バンコマイシン±ゲンタマイシン
ブドウ球菌
(メチシリン耐性)
腸球菌
グラム陰性菌
(HACEK)
真菌
バンコマイシン±ゲンタマイシン
1.アンピシリン+ゲンタマイシン
2.バンコマイシン+ゲンタマイシン
セフトリアキソン±ゲンタマイシン
リポ化アムホテリシン B
投与期間
ペニシリン G: 4 週間
アンピシリン: 4 週間
セフトリアキソン:4 週間
ゲンタマイシン: 2 週間
バンコマイシン: 4 週間
セファゾリン: 4 ~ 6 週間
ゲンタマイシン: 2 週間
バンコマイシン:4 ~ 6 週間
バンコマイシン:4 ~ 6 週間
ゲンタマイシン: 2 週間
アンピシリン: 6 週間
ゲンタマイシン:4 ~ 6 週間
バンコマイシン:4 ~ 6 週間
セフトリアキソン:4 週間
ゲンタマイシン: 2 週間
6 ~ 8 週間
;
小児の 1 日投与量(腎機能正常な場合)
ペニシリン G:200,000 ~ 300,000 u/kg/ 日,分 4 ~ 6,ゲンタマイシン:3mg/kg/ 日,分 3,
バンコマイシン:30 ~ 40mg/kg/ 日,分 2 ~ 4
セファゾリン:100mg/kg/ 日,分 4,セフトリアキソン:75 ~ 100mg/kg/ 日,分 2,
アンピシリン:200 ~ 300mg/kg/ 日,分 4
リポ化アムホテリシン B:3.0 ~ 5.0mg/kg/ 日
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
221
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
多施設共同研究の結果では,カルバペネム系薬が有効で
あった
544)
. バ ン コ マ イ シ ン(vancomycin: VCM) は,
う(クラス IIa,レベル C).小児では,H.influenzae(イ
ンフルエンザ菌)の頻度が高いが,多剤耐性化が進んで
PcG 耐性菌やペニシリンアレルギーのある患児に対し
おり 540),546),薬剤感受性の結果を参考に,治療薬を選択
て,使用可能である 540).
する.Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)は,院内感染
2
ブドウ球菌(Staphylococcus)属
S. aureus(黄色ブドウ球菌)はその多くがペニシリナ
ーゼ産生株であるため,PcG や ABPC は無効である場合
が主体で予後不良であり 547),第 4 世代セフェム系薬と
アミノグリコシド系薬との併用が推奨される.
5
真菌
が多い.したがって,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌
カンジダ属(特に Candida albicans)が占める割合が
(MSSA)であればセファゾリン(cefazolin: CEZ)を用
高い 538),540).真菌性 IE の頻度は低いが,難治性で致死
いる(クラス IIa,レベル B).ABPC とクロキサシリン
率も高い.抗真菌薬は,抗真菌活性の高いアムフォテリ
(cloxacilli)との合剤も有効である.治療期間は 6 週間
シン(amphotericin)B の脂質製剤(リポ化アンフォテ
を原則とする
538),540)
.併用療法は,アミノグリコシド系
リシン B)を選択する(クラス IIa,レベル C)548).
薬との組み合わせを選択する(クラス IIa,レベル C).
MRSA に対しては,VCM が第一選択薬となる.また,
テ イ コ プ ラ ニ ン(TEIC) も 治 療 効 果 が あ る と さ れ
6
初期治療
(エンピリック治療)
る 538),540),545).VCM,TEIC を使用する際には,血中濃
初期治療(エンピリック治療)(表 40)
度 を 測 定 し 投 与 量 を 調 整 す る. リ フ ァ ン ピ シ ン
初期治療で大切な点は,広範囲の病原微生物をカバー
(rifampicin: RFP)は黄色ブドウ球菌に対して薬剤感受
できる抗菌薬を選択することと,可能な限り起炎菌を推
性が良く,併用効果が期待できるが,自然耐性を生じや
定することである.歯科治療後では,口腔内のレンサ球
すい.S. epidermidis(表皮ブドウ球菌)に対する治療は,
菌属を推定し,人工弁使用例,心臓手術やカテーテル検
黄色ブドウ球菌に準じて行う.
査等外科処置後ではブドウ球菌属を推定する 535),549),550).
3
Enterococcus(腸球菌)
また,アトピー性皮膚炎を有する CHD 児は,ブドウ球
菌による罹患の危険性が高い 551).中耳炎,肺炎などが
腸球菌は,比較的頻度が高く,E. faecalis によるもの
先行し,下気道感染症がある場合には,S. pneumoniae(肺
が多い.セフェム系薬は自然耐性を示すため,治療に用
炎球菌)や H. influenzae(インフルエンザ菌)を考慮する.
いない.PcG に対する感受性も良好でないため,ABPC
MRSA や メ チ シ リ ン 耐 性 S. epidermidis(MRSE),
)
とアミノグリコシド系薬の併用療法を行う 438),540(クラ
P. aeruginosa(緑膿菌),真菌感染は,周術期や長期間
ス IIa,レベル C).ペニシリンアレルギーに対しては,
にわたり抗菌薬投与を受けている院内発症例で考慮す
VCM か TEIC を用いる.
る.
4
グラム陰性菌(HACEK を含む)
7
培養陰性例に対する治療(表 40)
起炎菌として頻度が高いとされるHACEK(Haemophilus,
我が国の IE の調査 549)では血液培養陰性は,239 例中
Acinetobacillus, Cardiobacterium, Eikenella, Kingella)に
38 例(15.9%)を占めていた.培養陰性例の原因は,診
対しては,CTRX とアミノグリコシド系薬との併用を行
断前の抗菌薬投与により,起炎菌が分離されない症例が
表 40 血液培養陰性例(エンピリック感染)に対する抗菌薬療法
起炎菌
血液培養陰性(術後例)
抗菌薬
バンコマイシン±ゲンタマイシ
ン
血液培養陰性(非術後例) セファゾリン+ゲンタマイシン
±ペニシリン G
投与期間
バンコマイシン:6 ~ 8 週間
ゲンタマイシン: 2 週間
セファゾリン:6 ~ 8 週間
ゲンタマイシン:2 週間
ペニシリン G: 6 ~ 8 週間
;
小児の 1 日投与量(腎機能正常な場合)
ペニシリン G:200,000 ~ 300,000 u/kg/ 日,分 4 ~ 6,ゲンタマイシン:3mg/kg/ 日,分 3,バンコマイシ
ン:30 ~ 40mg/kg/ 日 分 2 ~ 4,セファゾリン:100mg/kg/ 日,分 4,セフトリアキソン:75 ~ 100mg/
kg/ 日,分 2,アンピシリン:200 ~ 300mg/kg/ 日,分 4,リポ化アムホテリシン B:3.0 ~ 5.0mg/kg/ 日
222
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
多いとされている 552).培養陰性例に対しては,患児背景,
はつながらない.
発症要因,監視培養結果などから推定される起炎菌に対
複雑 CHD,中等度から重度 CHD は,IE の罹患後に重
する治療を行い,治療経過により投与薬剤を変更する.
症化することが多い.さらに,心室中隔欠損など軽症と
効果が充分でない場合には,外科的治療を考慮するとと
される疾患であっても,疣腫形成,全身塞栓などの合併
もに,通常の培養法では検出困難な微生物の可能性も考
頻度は高く,死亡率も 3.8%と決して重症化しにくいと
える 553).
はいえない 541).
8
抗菌薬投与が菌血症を減少させるという研究結果も発
IE の予防
表されている 555).我が国の全国調査 541)では,歯科処置
CHD での発症予防は重要である.IE を予防するため
後の発症を 12.4 %に認め,そのうち心室中隔欠損が 46
には,①ハイリスク心疾患群,②感染危険率の高い手技・
%ともっとも頻度が高い.日本循環器学会の全国調
処置,③ IE の予防法を十分に認識することが必要であ
査 550)は 18%という高い頻度で歯科処置に関連した IE を
る 538),540).2007 年に米国心臓協会(AHA)のガイドラ
認めた.日本循環器学会と日本小児循環器学会 538),540)は,
インが大きく改訂された 554).大きな変更点は,歯科処
従来どおりに,中等度リスク群である心室中隔欠損等も
置の際の抗菌薬の予防的投与を重大な結果を生じる可能
抗菌薬の予防投薬を行うことを推奨している.さらに,
性の高い心疾患に限定した点である.具体的な改訂内容
抗菌薬の予防投与の投与量は,成人患者では,患者の体
は,①歯科処置に伴う菌血症よりも日常的な行為により
型などに従い減量を行う主治医の裁量を優先した.
生じる菌血症の方が IE を発症する可能性が高い,② 100
IE の予防あるいは重症化防止のためには,単に抗菌
%有効な抗菌薬を用いて予防したとしても,IE を防げ
薬の予防投与のみでは不十分で,口腔ケアを含む日常の
る実数は非常に少ない可能性がある,③抗菌薬の予防投
予 防 に 関 す る 注 意 が 非 常 に 重 要 で あ り, こ の 点 は,
与は重大な結果を生じる可能性の高い心疾患に限定する
AHA だけではなく,我が国のガイドライン 538),540)でも
ことが妥当である,④生涯にわたり IE に感染する可能
強調されている.
性が高いという理由だけでは予防投薬を行わない.以上
9
である.
AHA の大幅な改訂に対して,日本の予防に関する考
え方は異なる
538),540)
抗菌薬予防,歯科治療(表 41)
米国のガイドライン 554)は血中濃度,菌血症の頻度と
いう観点からアモキシシリンの単回経口投与を推奨して
.
抗菌薬に関連した有害事象の多くは一過性であり,致
いる(クラス IIa,レベル B).アモキシシリンは消化管
命的なアナフィラキシーは報告されていない.抗菌薬を
からの吸収が他のペニシリン製剤に比較し,良好であり,
非日常的な用量で単回投与することは,歯科医,一般内
より高い血中濃度が達成され長く維持される.処置 1 時
科医,患者に IE に対する関心を持ってもらう点で重要
間前に投与する.CHD 児の口腔内から PcG 高度耐性株
である.単回投与であり,抗菌薬による耐性菌の発生に
が 28.3 %分離されたとの報告がある 556).しかし,日本
表 41 歯科,口腔,呼吸器の手技,処置に対する抗菌薬予防投与法
対象
経口投与可能
抗菌薬
アモキシシリン
経口投与不可
アンピシリン
ペニシリンアレルギーがある
場合
1. クリンダマイシン
2. セファレキシンあるいはセ
ファドロキシル
3. アジスロマイシンあるいは
クラリスロマイシン
ペニシリンアレルギーがあり, 1. クリンダマイシン
経口投与不可
2. セファゾリン
3. セフトリアキソン
投与法
50mg/kg(上限 2 g)
処置 1 時間前経口 50mg/kg(上限 2 g)
処置 30 分以内に静注
20mg/kg(上限 600mg)
処置 1 時間前に経口
50mg/kg(上限 2 g)
処置 1 時間前に経口
15mg/kg(上限 500mg)
処置 1 時間前に経口
20mg/kg(上限 600mg)
処置 30 分以内に静注
50mg/kg(上限 1g)
処置 30 分以内に静注
投与量は,多数例での証拠に基づいていないため,体格,体重に応じて減量可能と思われる.
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
223
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
における小児を中心とした全国調査では,ペニシリン低
感受性株は少数であった
557)
.日本循環器学会と日本小
児循環器学会のガイドライン
538),540)
を与える.すなわち,心不全状態から全身状態の破綻,
脳室内出血(intraventriculr hemorrhage: IVH),壊死性
も従来どおり,アモ
腸炎(necrotizing enterocolitis: NEC),肺出血,腎不全
キシシリンの単回投与を標準的予防法としている(クラ
な ど 重 大 な 合 併 症 を 招 く の み な ら ず, 慢 性 肺 疾 患
ス IIa,レベル B).ペニシリンアレルギーではセファレ
(chronic lung disease: CLD)や未熟児網膜症,低栄養な
キシン,セファドロキシル,クリンダマイシンなどが選
ど長期予後にも影響をもたらす可能性が指摘されてい
択肢となる(クラス IIa,レベルC).クラリスロマイシ
る 560).
ンやアジスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬も選
択肢のひとつになるが,マクロライド耐性株の出現に注
意が必要である.経口投与が難しい場合には,アンピシ
リンの静注を行う.
10
抗菌薬予防,上気道・呼吸器(表 41)
2
診断指針
①身体所見
直接的な診断はパルスドプラー,カラードプラーなど
の心エコー検査によりなされる.身体所見として①胸部
呼吸器粘膜を扱う手術は菌血症の原因となることがあ
X線による心胸郭比の拡大 ②心雑音 ③心拍数増加 るため,抗菌薬の予防投与が必要である.扁桃摘出術や
④脈拍(bounding pulse の有無) ⑤ precordial pulsation
アデノイド摘出術,呼吸器粘膜を含む外科手術は,菌血
などが代表的である 561).(クラスⅡ a)その他,⑥脈圧
症を惹起するリスクが高い
538),540)
.上気道に対する特定
の開大 ⑦胸部X線上の肺うっ血 ⑧呼吸不全・無呼吸
の手技・処置後に発症する IE の起炎菌として最も多い
⑨乏尿 ⑩体色不良 ⑪肝腫大 ⑫代謝性アシドーシス
のは口腔内レンサ球菌属であり,予防はレンサ球菌属を
などが挙げられる 562).(クラスⅡ b)しかし,動脈管径
考慮して行う.標準的予防法は,アモキシシリンの単回
が大きいとかえって心雑音は聴取しない.
経口投与である(クラス IIa,レベル B).ペニシリンア
レルギーではクリンダマイシンが推奨される.
11
抗菌薬予防,消化器,泌尿生殖器,
産婦人科
②心エコー所見
心エコーでは,①内径の大きさ(カラードプラーによ
る血流の幅)② M モード法による左房/大動脈径の比,
③左室拡張期末期径,④パルスドプラーによる短絡の血
消化器や泌尿生殖器,産婦人科疾患に対する手術また
流パターン,⑤下行大動脈の拡張期血流の途絶または逆
は器具使用後に発症する IE は,ほとんどが Enterococcus
流,⑥左右肺動脈拡張期血流速度またはその収縮期血流
faecalis が原因である.したがって,抗菌薬予防投与は
速度との比などが観察項目としてあげられる.(クラス
E. faecalis を標的に行う
558)
.アモキシシリンやアンピシ
リン(クラス IIa,レベルC)が,ペニシリンアレルギ
ーに対しては,バンコマイシンが推奨される.
Ⅰ)
③治療指針
プロスタグランディン合成阻害薬,即ちシクロオキシ
ⅩⅡ
新生児・未熟児の循環作動薬
ゲナーゼ(COX)阻害剤(インドメタシン,イブプロ
フェンなど)による薬物治療が有効であり,外科的結紮
術が施行される前に試みられるのが一般的である.日本
未熟児新生児学会における「医療の標準化検討委員会」
1
未熟児動脈管開存(PDA)
から根拠に基づく診療ガイドラインが作成されている 563)
(http://plaza.umin.ac.jp/ ~ jspn/PDAkirokusyuu.pdf).
1)COX 阻害剤による薬物学的閉鎖
1
疫学
PDA は機能的には生後 10 ~ 15 時間で閉鎖し,内膜変
224
治療が必要な PDA を症候性 PDA と呼ぶ.インドメタ
シン静注療法は我が国でも未熟児 PDA に対して保険適
応となり,現在,COX 阻害剤による薬物学的閉鎖の主
化により生後 5 ~ 7 日で完全閉鎖するのが通常である 559).
流といえる.使用量・使用方法を表 42 に示す.その有
しかし,早産児では閉鎖遅延傾向があり,動脈管を介す
効性は認められるものの,副作用の発現率は約半数と無
る左右短絡で容易に心不全に陥り,その生命予後に影響
視できない.(クラスⅡ a)我が国では副作用の発現と
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
PDA 収縮の効果をみながら 2 回目以降の投与を決めるこ
設けられているのが現状である.予防投与は症候性
とを推奨している.投与量について,初回は 0.2mg/kg
PDA の発症,動脈管結紮率,急性期の重度の脳室内出
が一般的である.インドメタシンの副作用としては乏尿,
血(IVH のⅢ度・Ⅳ度)などで有意な減少を認め,短期
時に腎不全,低血糖,出血傾向,消化管出血,時に消化
予後に関して有効である 566),567).長期的精神発達予後に
管穿孔,NEC,非抱合型ビリルビンの上昇などがあげ
ついては改善傾向が認められる報告もあり 568),より低
られる.インドメタシン静注療法は閉鎖についての有効
出生体重のグループにおいては脳性麻痺の減少を示して
性はあるものの,早期投与群で合併症が増加すると結論
いる 569).しかし,長期的に神経発達障害の発生に関与
するものから,慢性肺疾患(CLD)罹患率が低下する
せず,後遺症なき生存例の増加には寄与しなかったとの
と結論するものまであり,結果は一定ではない.結論と
報告もある 570).
して,COX 阻害薬は経過観察に比し,有意に閉鎖率を
未熟児 PDA 予防のための生後早期予防的投与は奨めら
上昇させ,外科治療の必要性を低下させた一方で,死亡
れる.ただし,各施設の症候性 PDA や IVH などの発症
率や精神運動発達には有意差を認めなかったとある 564).
率や自施設で結紮術が可能かを踏まえた上で,投与適応
症候性未熟児 PDA に対する初期治療として,COX 阻
を決定することが必要である 563).(クラスⅠ , レベル B)
害薬投与は経過観察(COX 阻害薬以外の内科的治療)
予防投与を行う場合,生後 6 時間以内に 0.1mg/kg/dose
よりも奨められる
を,6 時間の持続静注により投与することが奨められる.
563)
.(クラスⅠ,レベル A)
投与量と投与間隔については1回量 0.1 ~ 0.2mg/kg 12
閉鎖が得られない場合,24 時間毎に 3 回までの投与を考
~ 24 時間毎投与が多い.持続静注(0.4mg/kg を 36 時間
慮する 563).(クラスⅠ,レベル A)
かけて持続投与)と間欠的急速静注(初回 0.2mg/kg 以
3)外科的結紮術
後 0.1mg/kg を 2 回 12 時 間 毎 に 急 速 静 注 ) を 比 較 し た
我が国では結紮術は最終的な治療法である.結紮術可
systematic review では PDA の治療効果や副作用に差異は
能な施設が限られている現状では早期に結紮術を選択す
ないものの,間欠的急速静注の方が,エコーにおいて腎・
る方法は浸透しにくい.しかし,薬物療法に固執するあ
脳・上腸間膜動脈のドップラー動脈血流速度が一時的に
まり手術の時期を失することも避けねばならない.手術
低下するという 565).投与回数についてはインドメタシ
適応は第一に COX 阻害剤が無効な症例と,次に COX 阻
ンの 3 回以内の群と 4 回以上投与の群を比較した結果,
害剤の使用禁忌に相当する場合である.(クラスⅡ a)
両群で動脈管閉鎖率,再開存率,結紮術施行率に差異は
我が国での周産期母子医療センターネットワークの観察
なかった
560)
.以上より症候性未熟児 PDA に対するイン
研究では,手術件数の多い施設での手術治療ほど退院時
ドメタシンは,0.1 ~ 0.2mg/kg/ 回を 12 ~ 24 時間毎に連
死亡を少なくする可能性が報告された 571).COX 阻害剤
続 3 回までの静脈内投与が奨められる
と外科的治療との比較では死亡率や慢性肺疾患,壊死性
563)
.(クラスⅠ,
レベル B)
腸炎,重篤な頭蓋内出血に頻度の差はないが,外科治療
2)予防的投与
で気胸と未熟児網膜症の発生頻度が上がるとの報告があ
症候化する前の予防的治療と,症候性 PDA に対する
る 564).
治療のどちらがより良い予後を得られるかについても議
心不全があり,NEC や腎不全を合併した状況では,
論があるところであり,施設によりそれぞれ治療基準が
施設毎の手術に関わる総合的リスクを考慮した上で,迅
表 42 インダシン静注用 ® の用法・用量
患児の生後時間に応じて下記の用量を 12 ~ 24 時間間隔
で通常 3 回投与する
初回投与の生後時間
生後 48 時間以内
生後 2 ~ 7 日未満
生後 7 日以上
1 回目
0.2
0.2
0.2
投与量(mg/kg)
2 回目
0.1
0.2
0.25
3 回目
0.1
0.2
0.25
⑴ 投与後に無尿または著明な乏尿が(尿量:0.6mL/kg/ 時未満)が現れたら腎機能が正常化するま
で次の投与は行わないこと
⑵ 1 回目あるいは 2 回目の投与で PDA の閉鎖が得られた場合は,以後の投与は行わずに経過を観
察しても差し支えない
⑶ 投与終了後 48 時間以上経過して PDA が閉鎖している場合は追加投与の必要はない
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
225
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
速に手術決定することを奨める 563).(クラスⅡ a,レベ
ル C)
可能な限り手術件数が多い施設で治療を行うことが望
ましい 563).(クラスⅡ b,レベル C)
3
新生児未熟児の低血圧の治療
治療法は病態に応じ,容量負荷,カテコラミン,ステ
ロイドなどが中心となる.
適応する際の注意点
3
低血圧となる場合もある 577).
近年,欧米において同じく COX 阻害剤であるイブプ
①容量負荷
ロフェンの静注療法が注目され,インドメタシンとの比
容量不足による低血圧では生食 10 ~ 20mL/kg(正常
較報告が数々報告されており,同等の閉鎖効果があると
新生児の循環血液量は 80mL/kg)がまず推奨される 581).
するものが多い.さらに,副作用として腎機能に及ぼす
影響がより少ない可能性もある
572)-574)
(クラスⅡ a,レ
ベル C).PDA 治療の選択肢を広げる意味で期待が持て
るが,現在,イブプロフェンの静注薬は我が国では使用
できる状況ではない.
2
新生児・未熟児の低血圧
(クラスⅡ a,レベル B)生食はアルブミンと同等の効果
があり,輸血製剤の感染のリスクを考慮しなくても良
い 582).(クラスⅡ b,レベル B)
②カテコラミン
アドレナリン受容体に結合してα 1 刺激で末梢血管の
収縮,β 1 刺激で心筋収縮力の増強と心拍数の増加,β2
刺激で末梢血管の拡張(気管支の拡張),またドパミン
受容体(DA)に結合してその刺激で腎動脈拡張などの
疫学
1
作用を有する.一般に低血圧や心収縮力の低下で使用さ
新生児未熟児においても組織潅流が低下し,主要臓器
への血流が保てない低血圧が問題となる
.特に,病
れ,新生児領域では最も使用頻度が高い.
1)塩酸ドパミン
的な早産児は自動調節機能が未熟であり,脳血流に影響
塩酸ドパミンは低用量(0.5 ~ 5 μg /kg/ 分)で腎血
を与えやすく脳室内出血(IVH)や脳室周囲白質軟化症
流を増加させ(DA 作用),中等量(5 ~ 10 μg /kg/ 分)
(PVL)の原因となる
576)
.(クラスⅠ)
診断基準
2
で心収縮力を増強させ(β 1 作用)
,高用量(10 ~ 20μg /
kg/ 分以上)で末梢血管の収縮を来たす(α 1 作用).一
般的には 1 ~ 5 μg /kg/ 分で使用することが多い 578).
(ク
新生児の血圧は一様でなく,在胎週数や体重,カフの
ラスⅡ a,レベル B)高用量では血圧上昇がみられるが,
幅などさまざまな条件を考慮する.特に在胎週数による
必ずしも心拍出量や心機能の改善につながらない 583).
差異が大きいため,平均血圧が修正在胎週数より低い場
2)塩酸ドブタミン
合や収縮期血圧が 40mmHg 未満を低血圧とする報告が
塩酸ドブタミンはβ 1 への選択的作用が強く,心収縮
多い 577),578).(クラスⅡ a)病的新生児においては血圧を
力を増強させ,心拍出量が増加するため,収縮不良な心
観血的に正確に測ることが要求されるが,血圧以外の循
不全に有用である 575).DOA 同様 1 ~ 20μ g /kg/ 分で使
環管理指標で血流量をみることが注目されている.血圧
用することが多い(クラスⅡ a,レベル B).高用量で心
と心拍出量との関係は必ずしも正比例しない場合が特に
拍出量や SVC 血流量の増加が認められた 579).しかし,
生後 24 時間以内では多く,これは末梢血管抵抗に左右
ドパミンとドブタミンとの比較では新生児期死亡率や脳
されるためである 579).循環血流量を指標にして循環管
室周囲白質軟化症や脳室内出血などの神経合併症では有
理をする方法として,近年,非侵襲的なパルスドプラー
意差はないとの報告がある 584).
法による上大静脈(SVC)の血流測定が注目され,その
3)塩酸イソプロテレノール
80 %が脳からの還流で,脳の低潅流を鋭敏に示すとさ
塩酸イソプロテレノールはβ 1 β 2 刺激作用が強く,心
れる
226
575)
580)
.(クラスⅡ b)新生児においては出生直後に見
拍数の増加が著しいため徐脈傾向の心不全(房室ブロッ
られる低血圧の原因は,分娩に関連した出血やショック
クなど)に使用される.力価は DOA,DOB の 100 倍であ
と,それに起因する心機能不全である.また,生後 2 日
り,投与量は DOA,DOB の 1/100 の 0.01 ~ 0.2μ g /kg/
以降の低血圧は早産児に特有な合併症すなわち,NEC
分で使用することが多い(クラスⅡ b,レベル C).
や敗血症,未熟児 PDA に起因することが多くなる.そ
4)アドレナリン
の病態には副腎機能不全が関与し,薬物抵抗性の難治性
アドレナリンはもっとも強力な内因性カテコラミンで
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
ある.心収縮力や心拍出量とともに心拍数の増加も著し
い.低用量ではβ刺激作用があり,体血管や肺血管の
2
原因疾患
拡張作用がある半面,高用量ではα作用が強くなり肺
明らかな肺病変を認めない一次性のものと,二次性の
血管以上に体血管抵抗の増加を伴う 585).新生児領域に
ものがある.後者では①肺実質病変(胎便吸引症侯群
おける systematic review は少ない
586)
.新生児仮死に対
meconium aspiration syndrome: MAS,呼吸窮迫症候群
する新生児蘇生法において推奨されているアドレナリン
respiratory distress syndorome: RDS,先天性肺炎,気胸,
の用量は,静注で 0.01 ~ 0.03mg/kg,気管内投与で 0.05
dry lung syndrome)によるもの,②肺血管の発達異常(横
~ 0.1mg/kg であり,それぞれ生理的食塩水で 10 倍希釈
隔膜ヘルニア congenital diaphragmatic hernia: CDH,肺
して使用する 587),588).(クラスⅡ a,レベル B)
低形成,alveolar capillary dysplasia),③出生時の適応障
害や組織潅流異常(重症新生児仮死,低血糖,多血症,
③ステロイド治療
低 Ca 血症,敗血症)④子宮内での動脈管早期収縮(非
新生児未熟児の難治性低血圧には相対的副腎機能不全
ステロイド系抗炎症薬:NSAIDs などによる)などがあ
が介在しているとの評価から,ステロイド補充療法が奏
る.頻度としては圧倒的に二次性のものが多い 578).(ク
功する場合がある.グルココルチコイドは心筋のアドレ
ラスⅠ)
ナリンレセプターを調節する作用があり,病的新生児で
発生するカテコラミンのダウンレギュレーションを改善
する作用があるというがその機序は不明な点が多い
589)
.
3
診断
呼吸障害やチアノーゼは極めて重篤で,呼吸性・代謝
ハイドロコーチゾンは容量負荷やカテコラミンに不応
性アシドーシスが進行する.人工換気で 100%酸素投与
性の難治性低血圧に有効である.通常,正常血圧を保つ
でも SpO2 や PaO2 の上昇が不良となる.PDA レベルでの
のにドパミンで 15 μg /kg/ 分以上必要な場合にカテコ
右 左 短 絡 が あ れ ば 上 半 身(pre-ductal) に 比 し 下 半 身
ラミン不応性と解釈される
590)
.ハイドロコーチゾンは
(post-ductal) の SpO2 が さ ら に 低 下 す る(differential
心機能や臓器血流を改善しなくとも 1mg/kg の使用で血
cyanosis)(クラスⅡ a).臨床症状に加え,確定診断は心
圧を上昇させる 591).(クラスⅡ b,レベル B)
エコーによりチアノーゼ性心疾患を除外した上で,PDA
ステロイドを使用している新生児では高血糖や易感染
や卵円孔レベルでの右左短絡を証明する(クラスⅠ)578).
性,骨粗鬆症,発育抑制などの副作用の発現に注意が必
要である.また,ステロイドとインドメタシンの併用は
消化管穿孔のリスクが高くなる 590).(クラスⅡ b)
3
新生児遷延性肺高血圧
4
治療
肺血管抵抗を下げ,かつ体血圧を正常に保つことにつ
きる.しかし,原疾患そのものの治療とアシドーシスな
ど破綻した代謝的異常の補正が不可欠であり,呼吸管理
も重要となる.
persistant pulmonary hypertension of the newborn:
PPHN(肺高血圧の項参照)
1
①人工呼吸療法 :
通常の人工換気のほか,過換気療法,特に高頻度振動
病態
換気(high frequency oscillation: HFO)が効果的である
正常児では出生後,第一啼泣とともに肺でのガス交換
(クラスⅡ b,レベル A).これも過換気によるアルカリ
が始まり,急速に肺血管抵抗と肺動脈圧が低下すること
化で肺血管抵抗を減じる効果があり,気胸予防の利点を
で肺循環が成立する.しかし,さまざまな理由で胎児期
ともなう 593).わずかな誘因で肺血管が攣縮することか
と同等の肺高血圧が遷延すると,胎児循環と同様に卵円
ら鎮静を保ち,minimal handling に努める.場合によっ
孔または動脈管を介して右左短絡を呈しチアノーゼの原
てミダゾラムなどの鎮静剤や臭化ベクロニウムなどの筋
因となる 592).発生頻度は 1 ~ 2/1000 出生と言われ,早産
弛緩剤,フェンタニールなどの麻薬静注も考慮する(ク
児より正期産児,過期産児に多い
593)
.基本病態は肺動脈
の小動脈中膜肥厚であり,そのために出生後も肺高血圧
が遷延する.低酸素,アシドーシス,エンドセリン- 1
(ET-1)やトロンボキサンなどの炎症メディエーターが
肺血管収縮作用を持つ
593)
.
ラスⅡ b,レベル C).
②体血圧の管理
相対的に体動脈圧を上げる目的でカテコラミンの持続
静注も有効である.また,容量負荷(輸血など)も低血
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
227
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
圧時に有効である 594).(クラスⅡ b,レベル C)
③一酸化窒素(nitric oxide: NO)吸入療法:
(クラ
スⅠ,レベル A).
NO の登場は PPHN の治療を飛躍的に向上させた.投
与経路が吸入療法であるため,全身にではなく選択的に
肺血管拡張作用をもたらし,もっとも期待できる.2010
年 よ り 新 生 児 PPHN に 対 し て 保 険 適 応 と な っ た( 表
43).実際の使用にあたっては人工呼吸器回路に接続し,
吸入 NO 濃度と NO2 濃度をモニターしながら 20ppm で開
始し,5ppm 程度の有効最低量で維持する.メトヘモグ
表 43 一酸化窒素吸入療法「アイノフロー吸入用 800ppm®」
の添付文書から抜粋
【効能・効果】
新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全
NO2 のモニタリングも必要である.NO 吸入療法導入に
より,膜型人工肺(ECMO)の使用頻度が減少し 595),
term/near-term の低酸素性呼吸不全児の死亡率と ECMO 導
【効能・効果に関連する使用上の注意】
入率を減じ,NO 吸入療法の有効性が認めてられている 596).
(1)本剤は臨床的または心エコーによって診断された,新生児
の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全患者にのみ使用するこ
と.
④その他の血管拡張薬
(2)在胎期間 34 週未満の早産児における安全性および有効
性は確立していない.
(3)肺低形成を有する患者における安全性および有効性は確
立していない.
(4)先天性心疾患を有する患者(動脈管開存,微小な心室中
隔欠損又は心房中隔欠損は除く)における安全性および有
効性は確立していない.
(5)開心術後の肺高血圧クリーゼを来たした患者における安
全性および有効性は確立していない.
(6)重度の多発奇形を有する患者における安全性及び有効性
は確立していない.
【用法・用量】
・出生後 7 日以内に吸入を開始し,通常,吸入期間は 4 日間
までとする.なお,症状に応じて,酸素不飽和状態が回復し,
本治療から離脱可能となるまで継続する.
・本剤は吸入濃度 20 ppm で開始し,開始後 4 時間は 20 ppm
を維持する.
・酸素化の改善に従い,5 ppm に減量し,安全に離脱できる
状態になるまで吸入を継続する.
【使用上の注意】
(1)本剤は,新生児の呼吸不全治療に十分な経験を持つ医師
が使用すること.投与に際しては緊急時に十分な措置がで
きる医療機関で行うこと.
(2)本剤の使用によっても酸素化の改善が認められない場合
は,体外式膜型人工肺(ECMO)等の救命療法を考慮する
こと.
(3)本剤の効果を最大限に発揮するため,十分な呼吸循環管
理等を行うこと.
(4) 離 脱 の 際 に は, 吸 気 中 NO 濃 度, 吸 気 中 NO2 濃 度,
PaO2,血中メトヘモグロビン(MetHb)濃度等のモニタ
リング項目の他,心エコー検査による右-左シャント消失
の確認等,血行動態の評価も参考にすること.
【副作用】
・国内:新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全患者を対
)において,安全性
象に実施した臨床試験(INOT12 試験 9)
解析対象例 11 例中,副作用は認められなかった.
・海外:新生児遷延性肺高血圧症患者を対象とした臨床試験
(CINRGI 10)および INO-01/02 試験 11)
)において,安全性
解析対象例 224 例中 85 例に副作用が認められた.主な副作
用は,血小板減少症 19 例(8.5%)
,メトヘモグロビン血症
15 例(6.7%)
,低カリウム血症 10 例(4.5%)
,ビリルビン
血症 8 例(3.6%)
,痙攣 8 例(3.6%)
,無気肺 8 例(3.6%)
および低血圧 7 例(3.1%)であった.
228
ロビン血症のチェックは不可欠で,環境汚染としての
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
作用機序としては① PGI2-cAMP 経路(エポプロステ
ノール),② NO-cGMP 経路(NO 吸入療法,PDE 5 阻害
薬 : シルデナフィル),③エンドセリン(ET)経路(ET
受容体拮抗薬 : ボセンタン)の 3 つに分類され,血管内
皮や平滑筋をターゲットにしたものが肺高血圧治療薬と
言われる 578).
1)エポプロステノール
PGI2 は強力な肺血管拡張作用と血管保護作用を有し 597),
肺動脈性高血圧症においては最も強力な薬剤で,我が国
でも小児の使用と長期的な検討がなされ , その有効性と
安全性が認容されている 598).しかし,新生児領域での
使用経験は少なく,PPHN については大量療法(30 ~
120ng/kg/ 分)の有効性を述べた報告がある 599).(クラス
Ⅱ b,レベル B)使用時の低血圧に対しカテコラミンが
必要となる.
2)シルデナフィル
PDE 5 阻害薬であるシルデナフィルは肺動脈性高血圧
症治療薬としての認可を得た経口薬であるが PPHN の有
効性についての報告もある 600).Cochrane Database でも
PPHN に対するシルデナフィルはプラセボに比べ救命率
が格段に上昇した報告を主体として有効性を述べたが,
今後の臨床データの蓄積が必要としている 601),602).(ク
ラスⅡ b, レベル B)
3)ボセンタン
ET 受容体拮抗薬であるボセンタンも作用機序は異な
るものの,シルデナフィルと同様に肺動脈性高血圧症に
おいてはその有用性が認められているが,新生児 PPHN
での報告例は少ない.(クラスⅡ b,レベル B)
4)ミルリノン
PDE 3 阻害薬であるミルリノンは inodilator ともいわ
れ,心収縮増強作用と血管拡張作用を併せ持つ.新生児
PPHN についての報告は少なく,Cochrane Database で
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
もまだ,プロトコール段階である 603).(クラスⅡ b,レ
ⅩⅢ
ベル C)
5)硫酸マグネシウム
核医学検査用薬剤,負荷試験薬剤
硫酸マグネシウムの持つ血管拡張作用が PPHN に対し
て 有 効 で あ る 可 能 性 を 説 く 報 告 は あ る が Cochrane
核医学検査用薬剤(放射性医薬品)投与で最も重要な
Database では確立した使用法としては認められず,推奨
ことは,被検者の放射線被ばくの問題であり,小児を対
はできないとしている
604)
象に行う場合には検査の適応および検査のスケジュール
.(クラスⅢ,レベル C)
を十分に検討するべきである.その上で,核種および投
⑤膜型人工肺(Extracorporeal Membrane
Oxygenation; ECMO)
与量を決定し,負荷および安静時の同日複数検査を施行
するのであれば投与間隔を決定する.しかし,放射線被
以上の治療が無効で低酸素血症が持続する場合に適応
ばくを懸念するあまり,過少の薬剤投与によって,結果
となる.人工換気条件として酸素化指標(Oxygenation
として不正確な画像診断に至ることは避けなければなら
Index: OI)が 35 または 40 以上
605)
,また肺胞─動脈血酸
ない.また,一定の時間を要する画像収集時には,アー
素分圧較差(A-aDO2)600mmHg 以上が 4 時間以上持続
チファクトを避けるため確実な体動の抑制が必須であ
するような重症例は ECMO を考慮する(クラスⅡ b,レ
る.小児では放射線感受性が高くかつ生殖年齢も長く,
ベル B).ただし,ECMO 回路内のヘパリン化が必要な
核医学検査を含む低線量放射線被ばくでは,小児の特徴
ため,早産児では頭蓋内出血のリスクが高く,在胎週数
を念頭においた薬剤投与計画が重要である.また,検査
34 週以上であること,体重 1,500 ~ 1,800g 以上,人工換
の目的によって投与量が異なることも特徴である.
気が 7 日以内などの条件を満たさないと使用しにくく,
核医学検査用負荷試験にはアデノシン,アデノシン三
マンパワーも必要となる 606).(クラスⅡ b,レベル B)
リン酸(以下 ATP),ジピリダモール,ドブタミンが用
表 44 には NO 吸入療法と血管拡張薬,ECMO との比較
いられ,2011 年現在の負荷試験薬剤として国内で承認
を示した.
されているのはアデノシンのみである.
1
小児期核医学検査用薬剤の投
与量
放射線感受性が高い点,生殖年齢を含む余命が長い点,
成長過程にあり代謝内分泌機能が成人と大きく異なる点
など,慎重かつ計画性を持って使用する.小児薬用量の
表 44 NO吸入療法と血管拡張薬,ECMO との比較
利 点
•
•
•
•
•
問題点
肺血管を選択的に拡張
全身血圧に影響せず
低侵襲
児の体重等の制限なし
人工呼吸器回路に容易に接
続可能
• NO 吸入療法副作用
メトヘモグロビン血症
吸気 NO2 濃度の上昇
NO吸入療法
アイノベント®
+
アイノフロー®
血管拡張剤
• 静脈内投与
(エポプロステノール・プロス (特別な機器は不要)
タグランジン)
• 肺血管に対する選択性なし
• 体血管拡張による血圧低下
体外膜酸素療法
(ECMO)
• 高い侵襲度
• ヘパリンによるリスク
• 適用制限
体重 2kg 未満
カニューレ径に不適合な
血管径
• 多くの人手と労力
回路組み立て
回路維持管理・交換
• 唯一の最終救命治療
• 人工換気に伴う肺の圧力損
傷を回避できる
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
229
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
表 45 小児の放射性医薬品投与量の算出式
示す.これは臓器分布を利用しての検査であり,臓器重
成人投与量×体重 /60 または体重 /70
成人投与量×年齢 /
(年齢+ 12)
成人投与量×
(年齢+ 1)
/
(年齢+ 7)
成人投与量×
(体重 /60)
2/3
成人投与量×体表面積 /1.73
成人投与量×身長 /174
幼小児 成人投与量×
(1/4 ~ 1/3)
年長児 成人投与量×
(1/2 ~ 2/3)
テクネシウム心筋血流製剤 150 ~ 200 μ Ci/kg
8 生後 6 か月までは成人投与量の 1/4
生後 4 歳までは成人投与量の 1/3
生後 8 歳までは成人投与量の 1/2
生後 8 歳以上は成人投与量の 2/3
9 0 ~ 5 歳 成人投与量の 0.25
5 ~ 10 歳 成人投与量の 0.50
10 ~ 15 歳 成人投与量の 0.75
15 歳以上 成人投与量の 1.00
10 体重別に成人投与量に対する補正係数を作りそれによる
各放射線医薬品ごとに体重別投与量の一覧表より読み取
11
る
久田欣一ほか.核医学イメージングのための小児への放射線医
薬品投与量に関する勧告.Radioisotopes 1988 年 37 号の 628 ペ
ージ表 1 から引用改変
量との関連性を持った投与を考慮しなければならない.
1
2
3
4
5
6
7
したがって,体重を基準とした算出式では,体重当たり
の臓器重量は成人よりも小児で多く,過少投与の傾向に
なる.日本アイソトープ協会医学・薬学部会核医学イメ
ージング規格化専門委員会による核医学イメージングの
ための小児への放射線医薬品投与量に関する勧告 607)に
よれば,
小児投与量 = 成人投与量×(年齢+1)/(年齢+7)
の式が,計算が簡便な点と過少および過剰投与にならな
い点で推奨されている . また,2008 年の関東小児核医学
研究会の小児核医学検査を施行している関東 8 施設に対
するアンケート調査では,推奨式(表 45 の 3)を使用
している施設が 3 施設,表 45 の 1,8,9 が各々 1 施設で,
他 2 施設は体重と身長を適時考慮して算出するという結
果であった.
・ 小児への放射線医薬品投与量の一般式,
小児投与量=成人投与量×(年齢+1)/(年齢+7)
(クラス IIa´)
2
目安の設定には,Von Harnack の換算表(成人量と比較
して7歳 1/2,3 歳 1/3,1 歳 1/4 量),年齢を基準とした
心臓核医学検査用薬剤と放射
線被ばく
Young の式は小児投与量 = 成人投与量×年齢/(年齢+
国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告によれば,放
12),体表面積を基準とした Crawford の式(小児投与量
射線の使用は必ず損失より利益の大きいもののみに使用
= 成人投与量×体表面積/ 1.73)などが存在する.種々
することとしている.放射線防護と管理が十分に行われ
の投与量の算出式が考案されており,それらを表 45 に
ている医療放射線被ばくは,低線量放射線被ばくであり
表 47 小児期心疾患で使用される核医学検査用薬剤
一般名
商品名
1.心筋血流イメージング
Technetium ⊖ 99m tetrofosmin
マイオビュー
Technetium ⊖ 99m MIBI
カーディオライト
Thallium chloride ⊖ 201(Tl-201)
塩化タリウム⊖ 201
2.心筋脂肪酸代謝イメージング
I ⊖ 123 betamethyl ⊖ iodophenyl ⊖
カルディオダイン
pentadecanoic acid(I ⊖ 123BMIPP)
3.心臓交感神経機能イメージング
I ⊖ 123 metaiodobendzylguanidine(I ⊖ 123 MIBG) ミオ MIBG ⊖ I 123
4.その他
Ga ⊖ 67 citrate
クエン酸ガリウム
Fluorodeoxyglucose(F ⊖ 18)
FDG スキャン
テクネシウム大凝集人血清アルブミン
テクネ MAA
(Technetium ⊖ 99m MAA)*1
*1 肺血流シンチグラフィとして使用
*2 医療用医薬品添付文書から引用した成人投与量
*3
*4
*5
*6
230
Megabecquerel
承認後調査で 0.1%未満(承認前では副作用なし)
承認前調査で 57.0%,承認後調査で 20.4%
承認前調査で各々 0.3%
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
成人投与量 *2(MBq*3)
分布
185 ~ 740
370 ~ 555
74
心筋,肝臓,肺
心筋,肝臓,肺
腎臓,心筋,肝臓,脾臓
74 ~ 148
心筋,肝臓,筋肉(脂肪酸代謝をしている臓器)
111
交感神経終末,カテコールアミン産生細胞
1.11 ~ 1.85/kg
74 ~ 370
37 ~ 370
腎臓,肝臓,骨,骨髄
脳,心臓
肺毛細血管でトラップされる
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
*1
表 46 年齢別の放射線被ばく量(mSv)
核種名
検査方法 標準成人投与量 1 歳(成人の 1/4 量)5歳(成人の1/4量)10 歳(成人の 1/2 量)15歳(成人の3/4量) 成人
Tc ⊖ 99mTf 安静 / 負荷
1000MBq
11
6
7
7
8
Tc ⊖ 99mTf
安静
555MBq
6
3
4
4
4
Tc ⊖ 99mMIBI 安静 / 負荷
1000MBq
13
7
9
9
9
Tl ⊖ 201
安静 / 負荷
74MBq
52
32
34
17
16
F ⊖ 18FDG
370MBq
8.8
4.6
6.7
7
7
I ⊖ 123MIBG
111MBq
1.9
1
1.4
1.4
1.4
Tc ⊖99mMAA
185MBq
2.9
1.6
2.1
2.2
2
* 1 実効線量として
近藤千里.小児心血管画像検査に伴う放射線被曝.日本小児循環器学会雑誌 2007 年 23 号の 438 ページ Table5 から引用改変
確率的影響への配慮が重要である.確率的影響では,組
の指針クラス I であり,心筋血流イメージングでのエビ
織・臓器障害のしきい値が存在せず,どれだけの医療放
デンスレベルは高いが,テクネシウム心筋血流製剤の
射線被ばくであれば 100%被検者への損失を生じないと
Technetium-99m tetrofosmin と Technetium-99m MIBI の
いう設定が不可能である.そのため診断可能かつ良好な
2 核種に比べ半減期が非常に長いため実効線量(mSv)
画像作成のために,最小投与量の計画だけでなく,実際
が多い.小児における Tl-201 は,その使用利益が放射
にどれだけの放射線被ばくが生じているかの概算量を知
線被ばくの損失を上回るかを十分に考慮して使用される
らなければならない.また,小児の場合は同様量の投与
ことが望まれる.
であっても成人と比較して,放射線被ばくがどれだけ増
・ テクネシウム心筋血流製剤による小児の心筋血流イメ
加しているかを換算する必要がある
608),609)
.表 46 に心臓
検査のための核医学検査用薬剤の標準成人投与量におけ
る年齢別実効線量(mSv)を示す.成人に比べ投与量の
少ない乳幼児で実効線量が多いことが示されている
ージング評価(指針クラス IIa´)
3
核医学検査用薬剤の種類
610)
.
このように小児に対する放射線被ばくは,成人値と異な
表 47 に小児期心疾患で使用される核医学検査用薬剤
ることを改めて認識しなければならない.心筋血流イメ
を示す.小児に特有な薬剤は存在せず,心筋血流イメー
ージングに使用する塩化タリウム(以下 Tl-201)は,日
ジング,心筋脂肪酸代謝イメージング,心臓交感神経機
本循環器学会の心臓核医学検査ガイドライン 2010 年改
能イメージングに使用する薬剤がほとんどを占める.
訂版
611)
で虚血性心疾患における虚血の存在診断として
排泄
副作用
(1)小児の心筋血流イメージングの主な対象は,先天性
物理的 T1/2
γ線エネルギー
小児に対する安全性
胆道・消化管,腎臓
胆道・消化管,腎臓
消化管,腎臓
金属味,動悸 *4
口内苦味感や金属臭 *5
承認前後調査では副作用なし
6.01 時間
6.01 時間
72.91 時間
141keV
141keV
70.8keV
確立していない
確立していない
確立していない
腎臓
異臭(0.43%)
,味覚異常(0.1%)
13.27 時間
159keV
確立していない
腎臓
ショック,アナフィラキシー 0.1% 未満
13.27 時間
159keV
確立していない
腎臓,肝臓
腎臓
承認前後調査では副作用なし
発熱,嘔吐,血圧低下 *6
3.261 日
109.8 分
93.3keV
0.511MeV
確立していない
確立していない
腎臓
承認前後調査では副作用なし
6.01 時間
141keV
確立していない
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
231
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
冠動脈奇形,川崎病冠動脈障害 245),心筋症,心筋炎,
遅延像の H/M < 1.8 または% WR ≧ 48%が目安になるとい
完全大血管転位スイッチ術後および右室負荷による右室
う報告がある 620).また,I-123BMIPP や I-123MIBG のヨ
肥大の評価である.テクネシウム心筋血流製剤は Tl-201
ード標識核医学検査用薬剤投与の前処置として,甲状腺
と比較して,放射線被ばくが少量 608)であり,乳幼児の
ブロック目的でルゴール液内服が必要である.
,心電図同期心
(4)その他:心筋炎の補助的診断に Ga-67 citrate が使用
筋血流イメージングを併用して行うことによって心機能
され,川崎病の心筋炎の診断に有効であった報告があ
小心臓でも明瞭な心筋画像を得られ
評価が可能である
612)
613)
.これらの理由から小児の心筋血
る 621).しかし,心エコーによる診断で十分なことが多く,
流イメージングではテクネシウム心筋血流製剤の有用性
放射線被ばくも多いことから,小児期心疾患の診断とし
が高い.テクネシウム心筋血流製剤では,安静時と負荷
て推奨されにくい.
(薬物,運動)時の撮像を行うことによって虚血や生存
心筋梗塞後の生存心筋に関する診断に用いられる
心筋などの評価を行い,両撮像を同日に行う 1 日法と
Fluorodeoxyglucose(F-18)は,ポジトロン製剤として
個々に行う 2 日法がある.1 日法では時間的節約が患者
期待される核種であり,川崎病を対象とした小児の報告
にとって利点であるが,1 日 2 回投与の撮像を行うため
がある 622).しかし,サイクロトロンによる生成が必要
には放射線被ばくとアーチファクトを考慮しなければな
で短い半減期の問題点もあり,使用される地域および施
らない.安静時先行1日法の場合,安静時と負荷時の撮
設が限定される.
像間隔を開けること,安静時画像を打ち消した負荷時の
日本循環器学会の心臓核医学検査ガイドライン 2010
画像を得るために 2 ~ 3 倍量以上のテクネシウム心筋血
年改訂版 611)による小児における核医学検査の検査指針
流製剤を負荷時に投与ことが必要になる.よって,1日
レベルおよびエビデンスレベルを示す.
総投与量を減量するために先行して行う安静時撮像の投
・ 心筋血流イメージングによる小児の心筋虚血評価(ク
与量を減らし,画質を担保するために撮像時間を延長す
ラス指針 IIa,レベル B)
る.このように治療用薬剤とは異なり,特徴的なことは
・ 心筋血流イメージングによる右室圧負荷の推定(クラ
同様の検査用薬剤で同様の対象疾患であっても検査目的
ス指針 I,レベル C)
によって投与量が異なることである.また,心筋血流イ
メージングでは肝臓を中心とした周囲臓器からの画像ア
4
核医学検査用の負荷試験薬剤
ーチファクトを生じやすいため,核種投与から撮像まで
の時間を十分にあける.また,テクネシウム心筋血流製
充分な運動負荷がかけられない小児の心筋血流イメー
剤による撮像時の背泳ぎスタイル(Monzen 体位)が,
ジングでは,薬物負荷検査が必要になる.核医学検査に
画像アーチファクトの軽減および核種投与から撮像まで
使用される負荷試験薬剤を表 48 に示す.小児に特有な
の時間短縮を可能にした報告がある
.
薬剤は存在せず,アデノシン,ATP,ジピリダモール,
(2)心筋脂肪酸代謝イメージングでは,I-123 betamethyl-
ドブタミンを使用する.アデノシンは 0.14mg/kg/ 分を 6
iodophenyl-pentadecanoic acid(I-123BMIPP)が用いられ
分間かけて持続点滴静注する 623),624)が,本邦で負荷試験
る.Tl-201 との 2 核種同時撮像によって心筋血流と脂肪
薬剤として認められている投与量は 0.12mg/kg/ 分を 6 分
酸代謝のミスマッチを検出することが可能であり,小児
間かけての持続点滴静注方法である 625).ATP は 0.16mg/
における有用性は左冠動脈肺動脈起始症術前術後 615),
kg/ 分を 6 分間かけて持続点滴静注する 626).ジピリダモ
川崎病重症冠動脈障害 616),先天性心疾患 617)の報告があ
ー ル は 0.142mg/kg/ 分 を 4 分 間 か け て 持 続 点 滴 静 注 す
る.
る 627).ドブタミンは 5 μ g/kg/ 分から投与を開始し,3 分
(3) 心 臓 交 感 神 経 機 能 イ メ ー ジ ン グ で は,I-123
ごとに 5 ~ 10 μ g/kg/ 分ずつ増量し,最高 40μg/kg/ 分ま
metaiodobendzylguanidine(I-123MIBG)が用いられ,心
で投与する 628),629).2012 年 12 月現在で核医学検査用負
筋への取り込みおよび心筋からの洗い流し(washout)
荷試験薬剤として国内で小児に承認されているのはな
を心筋と縦隔の取り込み比で算出することによって,評
い.
価が可能である.肥大型心筋症
232
614)
618)
,拡張型心筋症およ
日本心臓核医学会リスクマネージメント委員会の負荷
び完全大血管転位のスイッチ術後評価 619)などで,心機
心筋シンチグラフィに関する安全指針 630)によるアデノ
能異常と washout 比(% WR)や心筋/縦隔比(H/M)
シン,ATP,ジピリダモール,ドブタミン負荷法の禁忌
などの I-123MIBG 指標の異常との関連が報告されてい
を表 49 に示す.禁忌事項については,検査前に同伴家
る.また,小児期心不全の心事故発生の危険因子として,
族および主治医にあらかじめ確認する必要がある.成人
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
のアデノシン,ATP,ドブタミン負荷法の副作用を表
減期は約 25 分と長く,副作用発現時のコントロールが
50 に示す.成人ではアデノシン,ATP 負荷による副作
他の負荷試験薬剤と比較して難しいばかりでなく,遅発
用は,ほてり感等の軽微な症状を含めると全体の 80 %
性の副作用を認める場合があり,撮像後のバイタルサイ
程度になる.乳幼児に対するアデノシン負荷による副作
ンの確認が必要である.ジピリダモールは小児において
用の大規模な報告はないが,ほてり感は顔面紅潮として,
安全に施行できる負荷試験薬剤である 627)が,高度狭窄
他の症状は不機嫌,鎮静からの突然の覚醒や説明のつか
を伴う多枝病変の川崎病冠動脈障害例ではジピリダモー
ない頻脈として表現され,副作用の早期発見として被検
ルによる狭心症発作の報告もある 631).ドブタミンの半
者の観察が非常に重要である.副作用発現が負荷試験継
減期は数分と短時間であり,副作用の多くは投与中止に
続による利点を上回ると判断された場合には,負荷試験
よって消失する.重度の副作用出現時は短時間作用型
を直ちに中止するべきである.副作用発現時には拮抗薬
β遮断薬の静注が有効であると報告されている 632).
としてアミノフィリンがあるが,アデノシン,ATP の半
・ アデノシンによる小児の核医学検査負荷試験(クラス
IIa´)
減期が 10 秒以内と非常に短時間であるため,投与中止
のみで症状の多くは消失する 625).ジピリダモールの半
表 48 核医学検査用負荷試験薬剤
一般名
商品名
アデノシン
アデノスキャン
アデノシン三リン酸(ATP) アデホス L コーワ
ジピリダモール
ペルサンチン静注
ドブトレックス注射液
ドブタミン
規格
1 バイアル 20mL 中 60mg
1 アンプル 2mL 中 10mg
1 アンプル 2mL 中 10mg
1 アンプル 5mL 中 100mg
投与量 *1
0.12mg/kg/ 分を 6 分間
0.16mg/kg/ 分を 6 分間
0.142mg/kg/ 分を 4 分間
3分 ごとに5~10μg/kg/
分ずつ増量し,
最高40μg/
kg/ 分
T1/2*1
10 秒未満
10 秒未満
24.6 分
3.58 分
小児に対する安全性 *1
確立していない
確立していない
確立していない
少量より慎重に開始すること
*1 医療用医薬品添付文書から引用
表 49 負荷試験薬剤の禁忌
表 50 負荷試験薬剤の副作用
アデノシン,ATP,ジピリダモール負荷法の禁忌
1
薬物治療によっても安定化していない不安定狭心症
ペースメーカ治療の行われていない 2 度あるいは 3 度
2
房室ブロック
ペースメーカ治療の行われていない洞不全症候群ある
3
いは症候性の著しい徐脈
4
QT 延長症候群
5
高度な低血圧
6
代償不全状態の心不全
アデノシン,ATP,ジピリダモールに対する過敏症の
7
既往症例
喘息等の気管支攣縮性肺疾患のある患者,その既往の
8
ある患者あるいはその疑いのある患者
ジピリダモール,アミノフィリン製剤,カフェインを
9
含んだ食品を 12 時間以内に摂取している場合
ドブタミン負荷法の禁忌
1
薬物治療によっても安定化していない不安定狭心症
閉塞性肥大型心筋症や高度大動脈弁狭窄症などの流出
2
路狭窄
3
ドブタミンに対する過敏症の既往症例
頻脈性不整脈,重症不整脈(心室頻拍,心室細動など)
4
の既往
5
コントロール不良の高血圧(> 200/110mmHg)
6
大動脈解離または大きな大動脈瘤
7
β遮断薬服用者
8
急性心筋梗塞発症 1 週間以内
中田智明ほか.負荷心筋シンチグラフィに関する安全指針.
心臓核医学 2008 年 38 号の 8,9 ページから引用改変
アデノシン,ATP 負荷法の副作用
1
ほてり感(35 ~ 40%)
2
胸痛(25 ~ 30%)
3
呼吸苦(20%)
4
めまい感(7%)
房室ブロック(8%),2 度房室ブロック(4%),完全
5
房室ブロック(1%未満)
6
1mm 以上の虚血性 ST 低下(6%)
7
致死的,非致死的を合わせた心筋梗塞(0.1%未満)
ドブタミン負荷法の副作用
1
胸痛(31%)
2
動悸(29%)
3
頭痛(14%)
4
ほてり感(14%)
5
呼吸苦(14%)
6
頻脈性不整脈(8 ~ 10%)
7
1mm 以上の虚血性 ST 低下(33%)
中田智明ほか.負荷心筋シンチグラフィに関する安全指針.
心臓核医学 2008;38:8 - 9.引用改変
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
233
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
ⅩⅣ
小児臓器移植の免疫抑制薬
歳未満)は毎年 50 例(10 歳未満は 30 例)あり,拡張型
心筋症(DCM),拘束型心筋症(RCM)が多い 636).
2011 年 1 月末までに日本循環器学会で 15 歳未満の小
児 90 例が移植適応と判定された.その内,ネットワー
1
クに登録されたのは 16 例に過ぎず(国内移植 5 例,海
疫学
外移植 5 例),44 例が国内で登録せずに,海外渡航移植
している.
1997 年 10 月に「臓器の移植に関する法律」が施行され,
1988 年から 2009 年 10 月末までに 78 例の小児が海外
日本でも脳死での臓器提供による移植が可能になった.
で心臓移植を受け,法施行後に増加している.渡航先は
しかしながら,脳死臓器提供するには本人の生前の書面
米国,ドイツ等で,平均 8.4 歳,男児 39 例,DCM53 例,
による意思表示が必要であったため,15 歳未満の脳死
RCM17 例であった.26 例がブリッジ症例であった.移
臓器提供ができなかった.そのため,15 歳以上の小児
植後 12 例が死亡したが,1,10 及び 20 年生存率は各々
または成人からしか脳死臓器提供がなかったため,1999
97.3,83.3%,および 83.3%と非常に良い.また国内で,
年 2 月に第 1 例目の脳死臓器提供以来,改正法が施行さ
15 歳未満で心臓移植を受けた 5 例は最長 11 年で全例生
れるまでに脳死臓器提供は 86 例あったが,その内 20 歳
存中である(2011 年 1 月末現在).
未満の小児に対する脳死移植は,肝移植 11 例,腎移植 6
例,心移植 6 例,肺移植 3 例,小腸移植 2 例に過ぎない.
肺移植
一方,腎臓は心停止後にも提供可能である.2000 年に
日本小児循環器学会移植委員会では,肺移植について
小児(16 歳未満)が優先されるレシピエント選定基準
も毎年の小児適応症例について全国調査を行ってきた.
が施行された以後は,年間 10 例前後の 16 歳未満の小児
その結果から,我が国で肺移植適応の小児(18 歳未満)
腎移植が行われてきた.
は毎年 20 ~ 30 例あり,肺動脈性肺高血圧,Eisenmenger
いずれにせよ死体臓器提供が少ないため,20 歳未満
症候群などの循環器疾患が多く,他に骨髄移植後の閉塞
)
の肝移植の 62% 633(
2009 年までの総数から算出),20 歳
性細気管支炎,嚢胞性線維症,気管支肺異形成症などが
未満の腎移植の89% (2001~2007年の総数から算出),
ある.
18 歳未満の肺移植の 86%を生体移植(2009 年までの総
2009 年末までに 18 例の 18 歳未満の小児に生体肺葉移
のデータと上記 3 例から算出)が占めてい
植が行われた 635).11 歳以下の学童期あるいは幼児期が
634)
数を文献
635)
るのが現状である.生体間移植のできない心臓移植では,
9 例で,最低年齢は 4 歳 11 か月であった.原疾患は,肺
海外に生きる望みを繋いできた(法改正後 18 歳未満の
動脈性高血圧 9 例,閉塞性細気管支炎 7 例,肺線維症 2
海外渡航心臓移植 68 件).
例であった.
このような現状を打開するために,「臓器の移植に関
する法律」の改正法が昨年 7 月 17 日に公布され,2010
3
肝臓移植
年同日に施行された.改正法では,「本人の意思が不明
我が国初の生体肝臓移植が幼児例であったように,我
な場合には,家族の書面による承諾で脳死臓器提供が可
が国の生体肝臓移植の歴史は小児肝臓移植の歴史と言っ
能」となり,臓器提供者(ドナー)の年齢制限がなくな
ても過言ではない.その後,提供できる肝臓の領域が拡
るため,国内でも体の小さな子供が心臓移植や肺移植を
大されるとともに,生体肝臓移植の適応が拡大した.
受けられるようになった.
さまざまな統計から我が国では毎年 200 ~ 300 例の小
2011 年 4 月に国内初の 15 歳未満の脳死臓器提供が行
児が肝臓移植の適応であると報告されており,最近では
なわれ,10 歳の拘束型心筋症の小児に心臓移植が行わ
毎年 120 例前後の生体肝臓移植と 1 ~ 2 例の脳死肝臓移
れた.
植が行われている.
1
234
2
心臓移植
2009 年末までに 2,080 例の 18 歳未満の小児に生体肝
臓移植が行われ,ドナーは 1,979 例が両親ですべて親族
日本小児循環器学会移植委員会では,現行法施行以来
である 633).原疾患は,胆汁うっ滞性疾患 1,507 例,急性
10 年以上に渡って,毎年の小児心臓移植適応症例につ
肝不全 178 例,代謝性疾患 179 例,悪性新生物 57 例,肝
いて,評議員に対するアンケートの形で全国調査を行っ
細胞性疾患 45 例などであった.内,270 例の ABO 不適
てきた.その結果から,我が国で心臓移植適応の小児(18
合移植が行われている.1,10 及び 20 年生存率は各々
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
87.9,82.2 お よ び 78.6 % で,18 歳 以 上 の 1,10 及 び 15
れを攻撃する細胞成分や抗体成分が産生される時期であ
年生存率各々 80.5,65.4 および 50.6%より有意に良好で
り,いかに移植片(グラフト)を他己として認識させな
ある.一方,同時期に 10 例の 18 歳未満の小児に脳死肝
いようにするかが重要である.そのため,維持期に比し
臓移植が行われ,原疾患は胆汁うっ滞性疾患 9 例,急性
て大量の免疫抑制薬を使用する.T リンパ球やインター
肝不全 1 例であった.
ロイキン2受容体に対する抗体製剤を使用したり,大量
脳死臓器提供においては,摘出した肝臓を分割して 2
のステロイドを使用したりすることが多い.組み合わせ
人のレシピエントに移植することも可能で,その片方が
は臓器毎に異なるが,カルシニュリン阻害剤(CNI),
小児に移植されることが多く,成人に比して小児の方が
細胞増殖阻害薬とステロイドの内,2 ~ 3 の薬を併用す
短い待機期間で移植されることが多い.
るが,移植後早期は大量に投与し,移植後 3 ~ 6 か月に
向けて減量する.この間に拒絶反応や感染症が多いので,
腎臓移植
4
移植臓器の定期的生検,抗ウイルス薬,抗真菌薬,抗原
日本小児腎臓病学会の調査によれば,1998 ~ 2003 年
虫薬などの併用が行われる.そのため,免疫抑制薬との
までの 6 年間における小児(15 歳未満)末期腎不全患者
相互作用を良く知ることが重要で,抗菌薬の副作用も熟
数は 347 例で,発症頻度は 100 万人当たり 3 例とされて
知しておくことが望ましい.
いる
637)
.原疾患としては,先天性形成不全腎(低・異
型性腎)が 37 %と最も多く,ついで巣状分節性糸球体
2
維持療法(maintenance therapy)
硬化症が 12 %である.ほとんどが導入時期透析療法と
移植後 6 か月が経過すると,拒絶反応,感染症の罹患
して腹膜透析を選択しているが,これらの患者の 48.6%
率も低下し,免疫抑制薬もほぼ一定量に維持できるよう
が透析導入 5 年以内に腎移植治療へ移行している
637)
.
になる.その後は,定期的な検査で,拒絶反応,感染症,
これは,2000 年に 16 歳未満の小児に一律 14 点の加算が
薬剤の副作用を見ながら徐々に減量していくことが多
つくようになったため,心停止後腎移植が小児に優先さ
い.小児は成長障害の問題があるので,可能であればこ
れるようになったことも大きい.
の時期までにステロイドを中止する.なお,小児は体重
2001 ~ 2007 年に移植された 18 歳未満の生体腎移植
増加も考慮して,薬剤の投与量を決めることが重要であ
537 例の,1,3 及び 5 年生着率は 97.8,95.0 および 90.4%,
る.できれば,1 月に 1 度外来で診察し,経過を見るこ
18 歳未満の心停止後腎移植 62 例の 1,3 及び 5 年生存率
とが望ましい.小児は成人よりも感染症に罹患し易いの
は各々 95.2,87.8 及び 79.1 %で,各々 20 ~ 39 歳未満の
で,日常生活での管理が重要であり,家族,幼稚園・学
成人と差はなく,40 歳以上より有意に良好であった
校の先生(特に養護教員)との連携が重要である.
5
634)
.
小腸移植
3
小児の病態と特徴
2009 年末までに小腸移植は 15 例に 17 件(脳死 6 件,
欧米において臓器移植は,小児においても末期的臓器
生体 11 件)行われ,18 歳以下が 12 例である.原疾患は,
不全の外科的治療として確立された治療になりつつあ
先天性小腸閉鎖,壊死性腸炎,腸管神経節減少症,中腸
る.我が国においても,2010 年 7 月に 「 臓器の移植に関
軸捻転などであった.
する法律 」 の一部を改正する法律が施行され,2011 年 4
2010 年 8 月末までの 1 及び 5 年生存率は 87 及び 69%で
月に 15 歳未満の脳死臓器提供が実施された.これによ
あったが,2003 年 9 月以降の施行例 11 例が 2010 年 8 月
り,我が国でも胸部臓器において小児移植医療が発展す
現在すべて生存しており,改善傾向を示している 638).
ることが期待される.
2
免疫抑制療法の定義
小児臓器移植後の成績を向上させるには,
成人と同様,
拒絶反応を有効に抑制 ・ 治療するとともに,免疫抑制剤
の種々の副作用を可及的に防止することが重要である.
臓器移植後の免疫抑制療法を論じる場合,移植早期の
免疫抑制療法の基本的方針は成人と大差はない.しかし,
導 入 療 法(induction therapy) と そ の 後 の 維 持 療 法
身体的・精神的発達を考慮しなければならないこと,悪
(maintenance therapy)に分けることが重要である.
1
導入療法(induction therapy)
移植後早期には,移植臓器は他己として認識され,そ
性腫瘍,時に移植後リンパ増殖性疾患(posttransplant
lymphoproriferative disorder: PTLD)の頻度・進行度が
高いこと,ワクチン接種,日常生活管理などの感染症予
防が重要であること,怠薬(nonadherence)・思春期な
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
235
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
どの小児特有の精神科的問題など,小児臓器移植に特有
の課題も多い 639).
3
薬物療法の実際(表 51)
免疫抑制薬において成人では,多くの前方視的ランダ
ム研究が行われている.しかし小児においては,世界全
体の年間症例総数は 450 例程度に過ぎず
640)
ここでは,小児の臓器移植全般について述べるが,臓
,施設毎の
器毎にプロトコールは異なるので,心臓移植の投与法・
施行症例数も少ないので,大規模臨床試験で確かめられ
投与量を中心に述べ,参考文献も心臓移植を中心に引用
た免疫抑制薬はない.そのため,施設レベルの臨床経験
した.
や,後方視的な多施設研究から得られたデータを元に,
以下の薬剤は免疫抑制効果があるので,特別な場合を
下記のようなことが判ってきている.
除いて,副作用に感染症は含まなかった.
第一に,成人に比してデータは少ないが,小児におい
ても薬剤動態の研究も徐々に進み,各々の免疫抑制薬で
1
導入療法
薬剤投与量,薬剤効率,副作用などの個人差を説明でき
移植後早期には,ステロイドを大量に投与する.また,
るようになってきた.人種間,民族間の薬剤代謝,効率
近年の世界的傾向として T リンパ球を標的とするポリク
についても,データが集まりつつある.
ロナール抗体製剤(ウサギまたはウマ抗ヒト胸腺細胞抗
第二に,特定の免疫抑制薬の投与法の傾向が明らかに
なり,拒絶反応の頻度は減少してきている
641)
.世界的
体など)や抗サイトカイン受容体モノクローナル抗体
(basiliximab and daclizumab)650),651)を使用することが多
には,抗 T リンパ球抗体などによる induction therapy を
い.我が国では,いずれの抗体製剤も未承認薬なので,
近年より行うようになってきている(2001 年 37 %から
腎機能障害例,HLA 感作症例に限って使用されている.
2008 年 60 %に増加
640)
.カルシニュリン阻害剤として,
マ ウ ス 抗 CD3 モ ノ ク ロ ー ナ ル 抗 体 で あ る Muromonab
シクロスポリン(CsA)より,タクロリムス(FK)を使
(OKT3)は副作用が多く,抗マウス抗体ができて反覆
用する施設が年々増加している 642).維持療法として,一
使用ができないなどの問題も多く,今後使用されなくな
剤療法から,ミコフェノール酸モフェチル(MMF)と
るであろう(我が国ではすでに販売されなくなった).
CNI の併用が予後,生存率の両面で有効であるという実
抗体製剤を使用することにより,急性拒絶反応の初発
証が多く見られており,MMF はアザチオプリンより高
を遅らせ,CNI の投与開始を遅らせられるので,移植後
価であるがより使用されている 640),643),644).mammalian
早期の腎機能障害を減少することができる 652),653).また,
target of rapamycin 阻害薬(mTOR 阻害薬:シロリムス
遠隔期でのステロイドの離脱を容易にすると考えられて
(SRL),エベロリムス(EVL))も併用薬として,その
有効性や安全性が認められてきているが,まだ小児では
確立されてはいない
645)
.最後に,成長や移植心冠動脈
いる 648).
成人において抗体製剤の使用が早期の感染症,遠隔期
の TCAV,感染症や PTLD に相関すると報告されている.
硬化症(TCAV)の面からステロイドを離脱することの
しかし,2,300 人以上の小児心臓移植例での retrospective
有効性が多くの施設で報告されている 645)-649). が,今後
な研究では,抗体製剤が感染症や悪性腫瘍の発症と有意
の検討を要する.また,腎不全や PTLD を合併した症例
の相関は見られなかった 654).なお,抗体製剤の使用が,
で CNI 非投薬の有効例も報告されてきているが,まだ
TCAV の発症予防やグラフト機能や生存率の向上に寄与
有効性・安全性ともに確立されてはいない.
するか否かは不明である.
第三に,ABO 不適合移植,液性拒絶反応,PTLD な
どにおいて,B リンパ球や形質細胞を標的にした治療法
にも注目が集まってきている.
第四に,まだ小児肝臓移植の領域に留まっているが,
①ポリクロナール抗体製剤
1)ウサギ抗ヒト胸腺細胞グロブリン(サイモグロブリ
ン)
免疫寛容が達成される場合も出てきている.
ウサギから生成されたヒト胸腺細胞に対するポリクロ
最後に,もちろん免疫抑制薬のプロトコールの確立は
ナール抗体で,現時点において小児臓器移植で最も用い
重要であるが,実際の治療にあっては,患児,各々に応
じたテーラーメードの治療法が大切である.
られている抗体製剤である.
[適応]
我が国では造血幹細胞移植の移植前後の治療薬として
承認されているが,臓器移植は適応外である.腎臓移植
は 2011 年 4 月に保険適応となったが,他の臓器について
236
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
表 51 小児臓器移植での免疫抑制薬
クラスⅠ
1. 移植後早期には,カルシニュリン阻害薬(CNI)
,細胞増殖抑制薬,ステロイドの内,2 ~ 3 薬を併用し,最初は各薬剤を高用
量で投与し,拒絶反応,感染症,薬剤の副作用などを見ながら移植後 3 ~ 6 か月を目標に減量し,維持量にまで下げる(エビ
デンスレベル C)
(成人ではエビデンスレベル A)
.
2. 細胞増殖抑制薬としてミコフェノール酸モフェティル(MMF)の方が治療を要する拒絶反応の頻度,生存率において,アザチ
オプリン(AZP)より優れている(エビデンスレベル C)(成人ではエビデンスレベル A).
3. CNI 投与時には,トラフなどの血中濃度をモニタリングし,拒絶反応,感染症,薬剤の副作用などを見ながら慎重に投与量を
決定する(エビデンスレベル C)
(成人ではエビデンスレベル A).
クラスⅡ a
1. 導入療法として抗胸腺細胞ポリクロナール抗体製剤または抗インターロイキン 2 受容体抗体などの抗体製剤を使用した方が,
移植後急性期の治療を要する拒絶反応の頻度が減少し,腎機能障害を軽減できる(なお,生存率,長期予後への差は出ていない)
(エビデンスレベル C)(成人ではクラスⅡb)
2. 成長発達・副作用の面から,早期にステロイドの離脱を図ることが望ましい(なお,あくまでも拒絶反応を注意深く観察する
ことが大切)
(エビデンスレベル C)(成人ではクラスⅡb)
3. 小児(特に新生児,乳幼児:特に抗 A,B 抗体< 1:4)には成人より ABO 不適合移植の予後が良い(腎,肝,心において)
(エ
ビデンスレベル C).
4. mTOR 阻害薬と CNI を併用するときには,腎機能障害などの副作用を軽減するために CNI の目標血中濃度を下げる(エビデン
スレベル C)(成人ではエビデンスレベル A)
.
クラスⅡ a´
1. 拒絶反応,感染症の頻度・重症度,生存率には明らかな差は出ていないが,美容上の理由で,小児期(特に女児)では,CNI
はタクロリムスを第一選択にする(エビデンスレベル C)
2. 移植後遠隔期に腎機能障害,慢性拒絶反応(心臓移植では移植心冠動脈硬化),移植後リンパ急増多症(PTLD)などを発症し
た際には,mTOR 阻害薬への変更は有用である(エビデンスレベル C)
(成人でもエビデンスレベル C)
3. グラフト不全を呈するような抗体関連型拒絶反応(antibody mediated rejection)では,
血漿交換,
抗 CD20 抗体が有用である(エ
ビデンスレベル C)(成人でもエビデンスレベル C)
クラスⅡb
1. de novo 症例における mTOR 阻害薬の使用(エビデンスレベル C)
(成人では,クラスⅡ a´ で,エビデンスレベル B)
クラスⅢ
1. 妊娠の可能性がある症例への MMF 投与(催奇性の点から)
(エビデンスレベル C)
2. 免疫抑制薬投与時の生ワクチンの接種(エビデンスレベル C)
[副作用]
保険適応になるのは時間がかかるであろう.
臓器移植では,導入療法ならびにステロイド抵抗性の
拒絶反応またはグラフト不全を伴う拒絶反応
647)
の治療
アナフィラキシー(稀),血清病,発熱,悪寒,筋肉痛,
頭痛,発疹,腹痛,白血球・血小板減少を認め,前治療
(ステロイド,抗ヒスタミン薬,アセトアミノフェン)
薬として使用される.
[用量]
を行うことで投与時の副反応は軽減する.
1.5 ~ 3.0mg/kg/ 日を 3 ~ 7 日間,緩徐に静脈内持続投
[使用上の注意事項]
与(最低 6 時間以上かける).生理食塩液または 5%ブド
白血球数,分画,T リンパ球分画(特に CD3)をモニ
ウ糖注射液 500mL で希釈して,中枢ルートから 0.22μ
タリングするが,これらの値を見ながら投与量を変更す
m 膜フィルターを用いて投与することが望ましい
655)
.
るエビデンスはない.血小板数が中等度以上減少したと
主な薬剤相互作用はない.
きには減量する.
小児における薬物動態を示す論文はない.国内では,
2)ウマ抗ヒト胸腺細胞グロブリン(リンフォグロブリ
再生不良性貧血の成人で,
2.5mg/kg/ 日投与群(n = 6)で,
ン)
Cmax は 平 均 119.0(46.7 ~ 234.0)μg/mL, 半 減 期 は
ウマから生成されたヒト胸腺細胞に対するポリクロナ
8.1(3.9 ~ 14.3) 日,3.75mg/kg/ 日 群(n = 9) で Cmax
ール抗体で,導入療法よりむしろ難治性の拒絶反応の治
は平均 173.5(2.0 ~ 500.0)μ g/mL,半減期は 7.8(2.0
療に用いられる.上記のサイモグロブリンの方が,拒絶
~ 16.0)日であった(ジェンザイム社内資料).
反応の治療・予防の両面で優れていると報告されている.
[禁忌]
[適応]
感染症,重度白血球・血小板減少,ウサギ蛋白へのア
我が国では再生不良性貧血の治療薬として承認されて
レルギー歴
いるが,臓器移植は適応外である.現在,臓器移植の適
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
237
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
[用量]
応が承認される見込みはない.
2
2 ~ 15 歳児において,移植当日と 4 日目に,12mg/m(最
[用量]
10 ~ 15mg/kg/ 日を 3 ~ 7 日間,生理食塩水またはブド
大 20mg)を 生理食塩液または 5 %ブドウ糖液で 25mL
ウ糖注射液 500mL で希釈し,緩徐に中枢ルートから静
以上に希釈し,20 ~ 30 分で投与する 30 分以上かけて静
脈内持続投与(最低 4 時間以上かける).
脈内持続投与する.
主な薬剤相互作用:なし
主な薬剤相互作用:なし
小児における薬物動態を示す論文はない.
国内の新規幼児・小児生体腎移植患者(6 例,年齢 1
~ 12 歳,体重 10.4 ~ 28.0kg)を対象とした試験において,
[禁忌]
ウマ蛋白へのアレルギー歴,皮内反応陽性,重度の白
シムレクトを移植術前 2 時間以内と移植術 4 日後の 2 回,
血球・血小板減少
それぞれ 10mg ずつ静脈内投与したところ,血清中濃度
(ELISA 法)は半減期 7.1 ± 2.1 日(平均 ± 標準偏差)で
[副作用]
アナフィラキシー(稀),血清病,腎機能障害,発熱,
振戦,筋肉痛,頭痛,発疹,腹痛,白血球・血小板減少
の期間,
IL-2 受容体を完全抑制(IL-2 受容体 α 鎖(CD25)
を認めるが,前治療(ステロイド,抗ヒスタミン薬,ア
発現率が 3 %以下)できる閾値濃度(0.2 μ g/mL)を上
セトアミノフェン)で投与時の副反応は軽減する.
回った(ノバルティスファーマ社内資料).
[使用上の注意]
[禁忌]
必ず皮内テストを行うこと.白血球数,分画,T リン
パ球分画(特に CD3)をモニタリングするが,これら
の値を見ながら投与量を変更するエビデンスはない.血
成分に対する過敏症の既往
[副作用]
B 型肝炎の再燃
[使用上の注意]
小板数が中等度以上減少したときには減量する.
②抗インターロイキン 2 受容体抗体(抗 IL2R 抗体)
1)Basiliximab(シムレクト ; ノバルティスファーマ)
体重 10kg 未満の小児に対する使用経験は少ない.
2
維持療法
活性化した T リンパ球表面に現われるインターロイキ
ほとんどの施設で,維持療法は CNI(CsA または FK)
ン 2 受容体α鎖(IL2R: CD25)に対するキメラモノク
をベースにしている.まだ,CNI 非投与の安全性は確立
ロナール抗体で,IL2R を解するシグナルを競合的に阻
されていない.長期に拒絶反応歴がなく,進行性の腎機
害し,T リンパ球の増殖を阻害する.成人
656)-659)
,小
能障害を認める症例において,遠隔期に CNI を中止す
児 659)共に有効性が証明されている.腎臓移植では広く
る例がある.
使用されているが,胸部臓器では成人で有効性が示され
さまざまな報告(成人)・統計から,CNI と併用する
ているだけで,
小児ではまだ有効性は確立されていない.
細胞増殖阻害薬としては,AZP より MMF の方が有効で
成人の心臓移植において,感染症による死亡,PTLD の
あるとされている.m TOR 阻害薬の方が MMF より安全
発症については,サイモグロブリンより有効であると報
かつ有効であるかどうかは今後の検討を要する.拒絶反
告されている 658)が,拒絶反応の予防・治療面では劣っ
応のリスクの低い小児例では,ステロイドを中止するこ
ていると報告されている
656)
.小児の心臓移植では,移
植前にシムレクトを投与して CD25 陽性細胞を減少させ
ると,急性拒絶反応が減少すると報告されている
659)
.
シムレクト以外に,Daclizumab(ゼナパックス ; Roche
とが,有効性・安全性の両面で優れていると報告されて
いる 648),649),660)-662).
③カルシニュリン阻害剤(CNI)
Laboratories, Nutley, NJ)という抗 IL2R ヒト型モノクロ
1)シクロスポリン(CsA)
(サンディミュン・ネオーラル)
ーナル抗体製剤もあるが,拒絶反応が減少したが生存率
CsA は真菌の代謝産物で T リンパ球の細胞質内のシク
が低下したという報告があること,投与方法がシムレク
ロフィリンに結合し,カルシニュリン脱リン酸化酵素を
トより複雑(2 週毎に 5 回静脈投与)であることなどから,
阻害する.その結果,T リンパ球の活性化や増殖に中心
心臓移植ではあまり使用されていない.
的な役割のあるサイトカイン(たとえば IL2)の転写を
[適応]
238
減衰したが,初回投与日から 40 ~ 52 日(中央値 46 日)
阻害する.従来の製剤は服用しにくく,血中濃度が安定
腎臓移植においては成人・小児ともに国内承認薬であ
しなかったため,マイクロエマルジョン化した製剤(ネ
るが,他の臓器移植では適応外である.
オーラル)が現在用いられている.ジェネリックは血中
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
濃度が安定せず,腎臓移植において拒絶反応の頻度が純
正のものに比して有意に多かったと報告されている.
[適応]
すでに小腸移植を除く,全ての臓器移植で拒絶反応の
[適応]
すでに小腸移植を除く,すべての臓器移植で拒絶反応
の予防・治療薬として国内承認されている.
[用量]
予防・治療薬として国内承認されている.ネオーラルカ
基本的には経口開始後トラフレベルをモニタリングし
プセル(50)のみ小腸移植に未承認である.
ながら,0.05 ~ 0.3mg/kg/ 日,分 2 で経口投与する.
[用量]
移植後などに経口投与できないときには静脈内持続投
基本的には経口開始後トラフレベルをモニタリングし
与するが,腎機能障害の頻度が高い.
ながら,4 ~ 15mg/kg/ 日,分 2 で経口投与する(腎移植,
主な薬剤との相互作用:CsA と同様,CYP3A4/5 代謝
肝移植では投与量はさらに少ない).
の誘導または阻害を通じて,多くの薬剤との相互作用を
移植後などに経口投与できないときには静脈内持続投
与するが,腎機能障害の頻度が高い.
認める.
[禁忌]
主な薬剤との相互作用:CYP3A4/5 代謝の誘導または
成分に対する過敏症の既往.腎機能障害などを来たす
阻害を通じて,多くの薬剤との相互作用を認める.
ので,CsA とは同時投与しないこと.
・ 血中濃度を高める薬剤(CYP3A4 代謝阻害):ア
[副作用]
ゾール系抗真菌薬,カルシウム拮抗薬,マクロラ
腎毒性,糖尿病,高血圧,高カリウム血症,低マグネ
イド系抗生物質
シウム血症,頭痛,感覚異常,振戦,痙攣,脳症.腹部
・ 血中濃度を低下する薬剤(CYP3A4 代謝誘導):
アミノ配糖体,アンフォテリシン B,mTOR 阻害薬
(これらを併用すると腎機能障害を来たしやすい)
小児における大規模な薬物動態を検討した研究はない.
[禁忌]
成分に対する過敏症の既往.なお,腎機能障害などを
来たすので,FK とは同時投与しないこと.
[副作用]
臓器移植では濃度依存性に心筋肥大・心室性不整脈を来
たす.
[使用上の注意]
移植時期・拒絶反応・感染症歴に応じて,トラフレベ
ルに応じて投与量を綿密に調整すること(range,5 ~
15ng/mL).
FK の代謝酵素や薬剤排出トランスポーターには遺伝
的ポリモリフィズムがあるため,投与量,薬剤効率には
腎毒性,高血圧,多毛,歯肉肥厚,高カリウム血症,
個人差が多い 666)-668).
低マグネシウム血症,高脂血症,振戦,痙攣,脳症
人種的には,アフリカ系アメリカ人は投与量を多くす
[使用上の注意]
る必要がある.
移植時期・拒絶反応・感染症歴に応じて,トラフレベ
ジェネリックは血中濃度が安定せず,使用しないほう
ルに応じて投与量を綿密に調整すること(range,50 ~
が良い.
350ng/mL).
C2(投与後 2 時間目の血中濃度)でモニタリングする
④細胞増殖阻害薬(Antiproliferative agents)
方がトラフより有効であるとされる報告(成人)663)が
1)アザチオプリン(AZP)(イムラン)
あるが,小児では採血のタイミングが困難であり,あま
1960 年代から使用されている免疫抑制薬で,T 及び B
り行われていない.
リンパ球内で 6 -メルカプトプリンに変換し,DNA 産
最近の小児の報告では,一日 2 回投与より,3 回投与
生に必要なプリン体の合成を阻害する.非選択的な代謝
の方が,免疫抑制効果・副作用の面で優れているとされ
拮抗薬なので骨髄抑制を起こしやすい 669).
ており,乳幼児期には 3 回投与が推奨されている 664).
[適応]
2)タクロリムス(FK)(プログラフ)
すでに小腸移植を除く,全ての臓器移植で拒絶反応の
FK は,FK 結 合 蛋 白 12(FKBP-12) に 結 合 し て,
予防・治療薬として国内承認されている.
DNA 転写やサイトカイン(IL2 など)産生に重要な役割
を演じているカルシニュリン酵素を阻害する.現在,欧
[用量]
基本的には経口開始後,1 ~ 3mg/kg/ 日,分2で経口
米において小児心臓移植で最も一般的に用いられる CNI
投与する.静脈内持続投与(2 ~ 3mg/kg)は稀にしか行
である 640).美容的な副作用である多毛,歯肉肥厚を改
わない.
善するのに,CsA から FK への変更は有効である 649),665).
アンジオテンシン変換酵素阻害薬との併用で重度貧血
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
239
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
を来たすことがある.骨髄抑制の作用のある薬剤との併
の腸肝再循環を阻害するので,MPA 血中濃度を低下さ
用で骨髄抑制が増強する.アロプリノールは,キサンチ
せる.リファンピシンが肝代謝酵素を誘導することによ
ン酸化酵素を阻害するため AZP が非活性代謝産物に変
り MPA の代謝が促進され,MPA の血中濃度が低下する.
換されるのを抑制するので,アロプリノールと併用する
国内の小児腎移植患者(生後 3 か月から 18 歳以下)
際には AZP の投与量を減らす.
に MMF の経口用懸濁剤液 600mg/m2 を 1 日 2 回反復経口
[禁忌]
投与したときの血漿中 MPA の薬物動態パラメータのデ
成分に対する過敏症の既往,骨髄抑制,重度白血球減
0 ~ 12 は,カプセル剤 1,000 mg 1 日 2 回の反復経口投与
少
[副作用]
を受けた成人腎移植患者の結果と同様であった(中外製
白血球減少,貧血,血小板減少,嘔吐・吐き気,下痢,
薬社内資料).
食指不振,肝毒性,膵炎
欧米の小児腎臓移植の報告では,6 歳未満で下痢が多
[使用上の注意]
MMF の方が有効性・安全性で優れている
い以外は,成人と薬物動態に余り差はない.アメリカの
661)
添 付 文 書 で の MMF の 投 与 量 は, 経 口 用 懸 濁 剤 液 の
.
AZP 代謝の中心的役割を持っているチオプリン S メチ
600mg/m2 を 1 日 2 回投与(最大でも 1 日量として経口用
ル転移酵素の遺伝子異常のある場合には,通常投与量で
懸濁剤液 2,000mg/10mL まで)が推奨されている.体表
も致死的な骨髄毒性反応を来たすことがある.
面積が 1.25 m2 ~ 1.50 m2 の患者は,カプセル剤 750mg
胎盤を通過しないので,催奇性のある MMF を投与し
を 1 日 2 回投与,体表面積が 1.50 m2 以上の患者は,カプ
ている患者が妊娠する際には,AZP に一時的に変更す
セル剤 1,000mg 1 日 2 回投与されることもある 671).
るのが,一般的である 670).
[禁忌]
2)ミコフェノール酸モフェチル(MMF)(セルセプト)
成分に対する過敏症の既往.催奇性が高いので,妊婦
小児においても CNI の併用薬として最も繁用される
または妊娠している可能性のある婦人.白血球減少は相
代謝拮抗薬である.MMF は腸管で吸収された後に活性
物質であるミコフェノール酸(MPA)に変換され,非
対的禁忌.
[副作用]
競合的かつ可逆的にイノシン一燐酸脱水素酵素
吐き気,嘔吐,下痢,腹痛,食指不振などの消化器症
(IMDPH)を阻害する.IMDPH は,リンパ球が増殖す
状,乳幼児の発育障害,白血球減少,貧血,B 型肝炎の
るときの DNA 複製で必須の,グアニンプリン合成 de
再燃,進行性多巣性白質脳症.消化器症状は MPA の腸
novo 経路の重要な酵素であるので,MMF は選択的に T
肝再循環が原因と考えられているが,症状が強い場合に
お よ び B リ ン パ 球 両 方 の 増 殖 を 抑 制 す る. 成 人 の
は,減量または変薬する.
randomized controlled trial で,MMF は AZP よ り 有 意 に
心臓移植後の生存率が高いと報告されている
661)
.MMF
[使用上の注意]
MMF の代謝・排泄は個人差が多い.
は AZP に比して骨髄抑制は少ないが,消化器症状,特
MPA 血中濃度のモニタリング(治療域,2 ~ 5 μg/
に下痢が多い.
mL)が行われている施設もあるが,その有用性は明ら
かではない 669).
[適応]
すでに小腸移植を除く,すべての臓器移植で拒絶反応
AZP との併用はしないこと.
の予防・治療薬として国内承認されている.
MPDH に遺伝的ポリモルフィズムがあり,MPA,MMF
[用量]
の移送や代謝経路に個人差が多いので,薬剤の有効性や
経口投与開始後,
25 ~ 50mg/kg/ 日又は 1,200mg/m / 日,
副作用にも個人差が多い 672).ヒポキサンチン─グアニン
分 2(保険上上限は 3g あるが,一般的に最大 2g 分 2)で
─ホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)欠損
経口投与する.
症(Lesch-Nyhan 症候群,Kelley-Seegmiller 症候群)の
主な薬剤相互作用として,アルミニウム,マグネシウ
患者に使用すると,高尿酸血症を増悪させる可能性があ
ムを含有する制酸薬は MMF の吸収を低下させる.アシ
る.
クロビル,ガンシクロビルは,腎排泄におけるミコフェ
3)徐放性ミコフェノール酸製剤(Myfortic)
2
240
ータがあり,小児腎移植患者における MPA の平均 AUC
ノール酸のグルコン酸抱合に拮抗するため MPA の血中
Myfortic は MPA ナトリウムの腸溶薬で,MPA の活性
濃度を増加させる.コレスチラミン,シプロフロキサシ
型で吸収される.MMF に比較して消化器症状を減らす
ン,アモキシシリン・クラブラン酸(合剤)は,MPA
ことで開発されたが,その効果はまだ明らかではな
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
い 673).
つある.
[適応]
[適応]
国内未承認薬である.国内で承認される可能性は少な
心臓移植でのみ保険承認されていたが,腎臓も 2011
い.
年 12 月に適応が承認された.
MMF で消化器症状が強いときに,本剤に変更するこ
[用量]
とが推奨されているが,小児領域で MMF より有用とは
基本的には経口開始後トラフレベルをモニタリングし
認められていない.
ながら,1 ~ 3mg/m2/ 日,分 2 で経口投与する.
[用量]
主 な 薬 剤 相 互 作 用 は,CYP3A4. で 代 謝 さ れ る の で
経口投与開始後,800 mg/m2/ 日,分 2(最大 720mg 分 2)
で経口投与するが,体表面積 1.2m 未満は投与しにくい.
2
CNI と同じである
[禁忌]
本剤または成分に対する過敏症の既往
主な薬剤相互作用は MMF と同じである.
[副作用]
[禁忌]
高脂血症,血小板減少,白血球減少,貧血,関節痛,
本剤または成分に対する過敏症の既往
[副作用]
口内炎,創傷治癒遅延,下腿浮腫,稀に間質性肺炎を認
主な副作用も MMF と同じで,MMF で消化器症状が
める.de novo で使用した際には,創傷治癒不良・遅延(気
強い場合には有用となっているが,消化器症状も認めら
管支縫合部の断裂など),心嚢液・胸水の貯留などを認
れる.
めることが多い.
[使用上の注意]
[使用上の注意]
徐放薬なので小さな子供には適していない
移植時期・拒絶反応・感染症歴に応じて,トラフレベ
⑤Mammalian target of Rapamycin(mTOR)阻害薬
ルに応じて投与量を綿密に調整すること(range,3 ~
10 ng/mL).
1)エベロリムス(EVL)(サーティカン)
CNI と併用する際,CNI において標準トラフを目標に
シ ロ リ ム ス(SRL)(Rapamycin, Rapamune; Wyeth-
すると腎機能障害を来たしやすいので,CNI の目標トラ
Ayerst Laboratories, Philadelphia, PA) は FKBP-12 に 結
フを低めに設定する.腎機能が発生した時には,CNI を
合するマクロライド系抗生物質で,mTOR を阻害し,活
減量するか,CNI を MMF に変更すると,腎機能が改善
性化リンパ球の増殖を阻害する
674)
が,我が国では SRL
することが多い.
は市販されていない.エベロリムス(EVL)は SRL の
創傷治癒遅延があるため,EVL を服用している患児
誘導体で,心臓移植で適応承認されている.
が他の疾患(たとえば虫垂炎)で外科的処置が必要な際
mTOR 阻害薬は,拒絶反応を抑制するとともに,遠隔
には,一時的に EVL を中止し,併用薬に応じて CNI か,
期の TCAV を始めとする各臓器の拒絶反応やグラフトの
MMF に変更し,創傷治癒を確認した後,元に戻すこと
繊維化を抑制することが,実験的,臨床的に報告されて
が必要である.
いる.成人の randomized controlled trial で,AZP640),674),675)
ヘルペスウイルスの感染症は減少するが,細菌感染症
のみならず,MMF より TCAV の発症率が低下すること
の頻度は高くなり,RS ウイルスなどの持続感染などに
が最近報告されている
676)
が,まだ end-point が短く(約
3 年),今後の検証が必要である.遠隔期の TCAV,サイ
トメガロウイルス感染症,PTLD などで,MMF からの
注意を要する.
⑥副腎皮質ステロイド
変更が試みられてきている.腎機能障害を来たした場合
成人の臓器移植後の維持免疫抑制療法としては,いま
に,CNI からの変更される例が,小児心臓移植後でも報
だにステロイドは長期に使用されているが,小児期には
告されてきている 645),677).De novo での使用について成
最初からプレドニンを使用しないか,術後数か月で中止
人では randomized controlled trial が行われている
676)
が,
する施設が多い 648),660)-662),678).ただし,ドナー特異的
小児心臓移植でのデータはない.
な抗体(特に抗 HLA 抗体)が陽性(virtual or real 交差
mTOR 阻害薬は,心嚢液貯留,創傷治癒遅延などの副
試験陽性)例では,ステロイドは中止しない方が良い.
作用があるため,移植後早期は CNI,MMF,ステロイ
[適応]
ドの三薬併用療法を行い,中期遠隔期に MMF を EVL に
すべての臓器移植後の拒絶反応の予防と治療で適応承
変更するプロトコールが小児心臓移植施設で試みられつ
認されている.
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
241
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
[用量]
することにより,成人においても腎臓,肝臓の ABO 不
心臓移植では,大動脈遮断解除後,ICU 帰室後 8 時間
適合移植の生存率が向上した.抗 ABO 血液型抗体の産
毎 3 回はメチルプレドニゾロン 2.5mg/kg を静脈内投与す
生のすくない乳幼児では,そのような前治療なくて,心
る.その後,プレドニンを 0.05 ~ 0.3 mg/kg/ 日,分2で,
臓,肝臓,腎臓で ABO 適合と生存率に差がないことが
経口又は静脈内投与し,移植後経過(感染症・拒絶反応
報告されている 682).
歴)を見ながら徐々に weaning する.
施設によっては,メチルプレドニゾロンだけで,経口
AMR の予防・治療
プレドニンを最初から投与しない施設もある.
抗 HLA 抗体陽性例,ABO 不適合での移植においては,
主な薬剤相互作用として,バルビタール,フェニトイ
T リンパ球を枯渇させるような抗体製剤と FK,MMF,
ン,リファンピシンなどで作用が増強する.
ステロイドからなる三薬併用療法を行う.腎移植の文献
[禁忌]
から,反復して静注用免疫グロブリン製剤(IVIG)を
本剤に対する過敏症の既往.
投与することが多い.
[副作用]
これ以外に,保険適応にはなっていないが,AMR の
糖尿病,浮腫,体重増加,高血圧,高脂血症,創傷治
予防・治療に有効な薬剤に Rituximab(リツキサン)と
癒不良,骨粗鬆症,無血管性壊死,頭痛,偽脳腫瘍,に
Bortezomib(ベルケイド)がある.我が国では,前者は
きび,発育障害,気分変動,副腎機能不全,筋症,白内
CD20 陽性の B 細胞性非ホジキンリンパ腫,後者は再発
障,緑内障,胃潰瘍など
性・難治性の多発性骨髄腫で保険適応となっている.
[使用上の注意点]
① Rituximab(リツキサン)
ワクチン接種の効果が少ない.
ステロイドを切る反動性の拒絶反応を来たすことがあ
Rituximab は,正常または腫瘍性の B リンパ球の表面
るので,ゆっくり weaning する.
にある CD20 に対するキメラ型モノクローナル抗体であ
患者を選択してステロイド無のプロトコールを行うこ
る.B リンパ球を枯渇させることで,同種片に対する抗
とができるが,その際に移植後早期の拒絶反応の頻度を
体は減少するが,形質細胞は減らないので,本当のメカ
減らすには,抗体製剤による導入療法が有用である.
ニズムは依然不明である.この薬剤は,元来成人の悪性
4
抗体関連型拒絶反応
(antibody
mediated rejection: AMR)の
治療戦略
小児心臓移植の候補者の多くは,以前に同種血管・心
臓弁の移植を受けていたり,輸血を受けていたり,補助
リンパ腫の治療薬として使用されているが,小児の B リ
ンパ球型の難治性 PTLD に有効である.慢性関節リウマ
チや自己免疫疾患にも有用で,ランダム比較試験の結果
はないが AMR にも有効例が報告されてきた683).多くは,
IVIG と併用されている.
[適応]
CD20 陽性の B 細胞性非ホジキンリンパ腫 . インジウ
循環が装着されていたりするため,自分以外の HLA に
ム(111In)またはイットリウム(90Y)イブリツモマ
対して感作されている.近年,抗 HLA 抗体の検出方法
ブチウキセタン注射液投与の前投与としてのみ国内で保
は発達したので,AMR という現象が明らかになり,同
険承認されている.
種片にある抗原に対する抗 HLA 抗体(たとえばドナー
当面は,AMR の治療薬としてではなく,腎,肝で
特異的抗体)が,急性拒絶反応,グラフト不全や慢性拒
ABO 不適合の前治療薬として承認される可能性が高い.
絶反応に関与していることがわかってきた
679)-681)
.
[用量]
ABO 不適合移植では,血液型抗体による拒絶反応が
・ ABO 不適合移植
発症するので,AMR の予防・治療に準じた免疫抑制療
2 歳未満は原則,ABO 適合移植と同様の免疫抑制薬
法が行われている.ABO 不適合移植は従来生体移植の
分野で発展したが,その経験から死体移植でも行われる
を投与する 682).
2 歳以上,または抗 ABO 血液型抗体の高い症例(>
ようになってきている(UNOS では心臓も).我が国でも,
1:8)では,Rituximab に血漿交換,IVIG を併用する.
本年から 2 歳未満で劇症肝炎(point 9 点)の場合,ABO
その際,Rituximab は 375 mg/m2(又は半量)を,移植
不適合脳死臓器提供が可能となった.
前に 1 ~ 2 回,緩徐に静脈内投与する(最大 1 g/m2)
移植前に血漿交換や Rituximab(リツキサン)を併用
242
1
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
HLA に感作された場合,リンパ球交差試験陽性例
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
での移植も上記に準じて行う.
・ AMR の治療
抗胸腺細胞抗体製剤,血漿交換に抵抗性の AMR で
促拍症候群(ARDS),貧血,血小板減少,白血球減少
[使用上の注意]
ボルテゾミブ投与 30 前に,メチルプレドニゾロン 5
mg/kg(最大 100mg)を前投与する.
使用する.
375mg/m(または半量)を 1 回 1 ~ 2 回,緩徐に静
2
脈内投与する(最大 1 g/m2).
・ 主な薬剤相互作用は不明.
[禁忌]
本剤および成分,またはマウス蛋白に対する過敏症の
既往.
AMR で本剤が使用されるまでに多剤が使用されてお
り,安全性を評価するのは難しい.
AMR に対し,他に有効な治療法がないときに使用す
る.
5
拒絶反応に対する非薬物療法
1
全身リンパ節照射法
(Total lymphoid irradiation: TLI)
[副作用]
投与時の反応として発熱,悪寒,下痢,発疹,気管支
痙攣,血管性浮腫が認められる(初回に多い).他に,
粘膜皮膚反応,進行性の多発性白質脳症,B 型肝炎の再
燃,貧血,白血球減少,血小板現象などがある.
②ボルテゾミブ(ベルケイド)
TLI は標準的な治療でも治らないような難治性の細胞
性拒絶反応の治療として行われてきた.典型的な TLI は,
2 週間毎 10 回にわたり,逆 Y 字型外套を用いて全身のリ
本剤はプロテアソーム阻害薬で,再発性・難治性の多
ンパ組織(リンパ節,脾臓,胸腺など)に照射する 686).
発性骨髄腫の治療薬である.抗体を産生する形質細胞を
現在施行例は少なく,遠隔期の PTLD の発生が多い.
枯渇する点で,AMR の治療薬として期待されている.
多くの研究がなされており 684),685),血漿交換,IVIG な
2
血漿交換
らびにリツキサンなどに反応しない難治性の AMR の治
クロスマッチ陽性例や重度の AMR などで移植片に対
療薬として期待されている.
する抗 HLA 抗体を除去する場合や,ABO 不適合臓器移
[適応]
植の際に行われる.一般的に単独では行われず,抗体製
国内では再発性・難治性の多発性骨髄腫の治療薬とし
剤(サイモグロブリン,リツキサンなど)などと併用さ
て承認されている.
れる.
[用量]
1.3 mg/m2 を,ボーラスで 3 ~ 5 秒かけて静脈内投与す
3
体外光化学療法(Photopheresis)
る.
光化学療法は,まず血中の白血球を取り出し,その白
2 週間毎に 4 回投与する.
血球に 8 -メトキシソラレン(8-SOP)を加えて,紫外
主な薬剤との相互作用:CsA と同様,CYP3A4/5 代謝
線 A を当てて白血球内の 8-SOP が活性化させた後,不
の誘導または阻害を通じて,多くの薬剤との相互作用を
活性化した白血球を体内に戻す方法である.体外で紫外
認める.アゾール系抗真菌薬は,CYP3A4/5 代謝を抑制
線を当てるので副作用は少ないが,難治性の拒絶反応で
して,ボルテゾミブの決中濃度を増加させる.
の有効例も報告されている 687).しかし,機序は解明さ
[禁忌]
本剤,ホウ素,マニトールに対する過敏症の既往.
[副作用]
れておらず,活性化したリンパ球がアポトーシスに陥る
とか 688),制御 T リンパ球が誘導されるとか報告されて
いる 689).
低血圧,心不全,末梢神経障害,胃腸障害,急性呼吸
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
243
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
表 52 小児期の心疾患に頻用される薬剤
薬剤(一般名)
Adenosine
Alprostadil
(prostaglandin E1)
プロスタンディン
適応
不整脈の診断
上室不整脈の治療
禁忌
房室ブロック
気管支喘息
新生児における動脈管開存の維持
Amiloride
我が国に認可薬なし カリウム保持性の利尿薬
高カリウム血症
腎不全
Amiodarone
アンカロン
上室不整脈
心室不整脈
徐脈
房室ブロック
低血圧
Aspirin
アスピリン
低用量:抗血小板作用による血栓予防
高用量:川崎病に対する抗炎症
Atenolol
テノーミン
高血圧
上室頻脈
心室頻脈
ライ症候群合併の危険性を有するウ
イルス感染症
出血性消化性潰瘍
気管支喘息
房室ブロック
低血圧
心機能低下
Captopril
カプトリル
心不全
高血圧
Carvedilol
アーチスト
心不全
Clopidogrel
プラビックス
Digoxin
ジゴシン
低用量アスピリンに代わる抗血小板作用に
よる血栓予防
上室不整脈
心不全
Dinoprostone
(Prostagrandin E2)
244
薬剤(商品名)
アデホス,ATP
プロスタンジン E2
新生児における動脈管の開存
(我が国では子宮収縮薬?)
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
腎機能障害
腎血管障害
大動脈縮窄症
左室流出路狭窄
左室流入路狭窄
気管支喘息
房室ブロック
心機能低下
房室ブロック
腎不全
WPW 症候群
心室頻脈
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
重篤な有害反応
胸痛
呼吸困難
気管支れん縮
高度徐脈
無呼吸
多呼吸
低血圧
発熱
長管骨の骨膜肥厚
壊死性腸炎
低ナトリウム血症
高カリウム血症
低血圧
徐脈,Torsades de pointes
甲状腺機能障害
間質性肺炎,肺線維症
肺胞出血,ARDS
肝機能障害,肝炎
角膜色素沈着
日光過敏,皮膚脱色
神経障害,貧血
SIADH
ライ症候群
出血(特に消化管)
気管支れん縮
徐脈
心不全
気管れん縮
房室ブロック
末梢血管収縮
倦怠感
低血圧(特に初回投与時)
腎機能障害
頻脈
日光過敏
持続する乾性咳嗽
徐脈
心不全
気管支れん縮
房室ブロック
末梢血管収縮
倦怠感
出血
好中球減少
食欲不振
腹痛
房室ブロック
各種不整脈
無呼吸
多呼吸
低血圧
発熱
長管骨の骨膜肥厚
壊死性腸炎
一般的な用法用量
0.1mg/kg/ 回を急速静注
最大投与量
新生児:0.3mg/kg/ 回
乳児以降:0.5mg/kg/ 回
10ng/kg/ 分にて点滴静注開始
反応に応じて 50ng/kg/ 分まで増量可能
コメント
急速静注に心電図によるモニタリングと記録は必須
急速静注は心電図に変化が生じるまで徐々に用量を増
加させて 2 分毎に繰り返すことが可能
経口 200 μ g/kg,1 日 2 回
最大 1 日量 20mg
サイアザイドやループ利尿薬との併用により利尿効果
減弱
経口
初期量:5mg/kg 1 日 2 ~ 3 回,7 日間投与
後に維持量に減量
維持量:5mg/kg 1 日 1 回,または血中濃
度を測定し調節する
静注
最初の 4 時間は 25 μ g/kg/ 分で投与,その
後 5 ~ 15 μ g/kg/ 分に減量
最大 1 日投与量 1,200mg
低用量:5mg/kg 1 日 1 回(最大 75mg)
高用量:20 ~ 25mg/kg 1 日 4 回をおよそ 14
日間,その後低用量に減量
1 ~ 2mg/kg 1 日 1 回内服
最大 1 日投与量 100mg
副作用の発現を抑えるため長期投与は避けるべき
肝機能,甲状腺機能,間質性肺炎,不整脈の悪化,除
脈,視力の注意深いモニタリングが必要
日光過敏と皮膚脱色は重症であり,日焼け止めが必要
静注投与時は心拍数をモニタリングし,必要に応じて
投与量を調整
アミオダロンおよび活性代謝物の有効血中濃度:0.6
~ 2.5mg/L
心拍,呼吸,体温のモニタリングが必要
無呼吸に対して人工呼吸管理を要することあり
高用量の投与法はリウマチ熱や心膜切開後症候群にも
用いられる
腎機能・肝機能障害を有する場合は少量より開始する
0.1mg/kg 1 日 3 回内服より開始
1mg/kg 1 日 3 回内服まで増量可
ACE 阻害薬
心不全に対して通常はループ利尿薬と合わせて使用する
カリウム保持性利尿薬と併用しない
初回導入時は注意深い観察を要する
通常は入院とし,血圧と腎機能をモニタリングする
0.05mg/kg 1 日 2 回内服(最大 3.125mg/ 日 利尿剤,ACE 阻害薬に引き続き追加する第三選択の慢
まで)より開始
性心不全治療薬
2 週間ごとに増量し,最終的に 0.35mg/kg
小児における長期的な有用性に関するエビデンスはま
1 日 2 回内服(最大 1 日投与量 25mg)まで増 だない
量可
1mg/kg 1 日 1 回内服
(最大 1 日投与量 75mg) アスピリンによる治療後の第二選択薬
経口
新生児~ 5 歳:10 μ g/kg/ 日
5 ~ 10 歳:6 μ g/kg/ 日
最大投与量 250 μ g/ 日
5ng/kg/ 分にて点滴静注開始
反応に応じて 20ng/kg/ 分まで増量可
緊急時には最初の 24 時間で急速飽和(digitalization)
を要する
早産児,腎不全症例では投与量を減量
心不全における有用性は限定的で第一選択薬として用
いられることはまれである
静脈投与はあまり行われない
ジゴシンの有効血中濃度は 0.8 ~ 2.0 μ g/L
心拍,呼吸,体温のモニタリングが必要
無呼吸に対して人工呼吸管理を要することあり
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
245
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
薬剤(一般名)
Dipyridamole
薬剤(商品名)
アンギナール
ペルサンチン
適応
禁忌
低用量アスピリンに代わる抗血小板作用に 心不全
よる血栓予防
大動脈弁狭窄症
Dobutamine
ドブトレックス
心拍出量低下時の心収縮増強作用
左室流出路狭窄
Dopamine
イノバン
低血圧
低心拍出量
頻脈
不整脈
Enalapril
レニベース
心不全
高血圧
腎不全
腎血管障害
大動脈縮窄症
左室流出路狭窄
左室流入路狭窄
血圧低下
高血圧
Epinehrine(Adrenaline) ボスミン
246
Esmolol
ブレビブロック
上室性頻脈性不整脈や高血圧への緊急治療 気管支喘息
ファロー四微症の無酸素発作
房室ブロック
(我が国では未承認)
低血圧
心機能低下
心室不整脈
心不全
WPW 症候群における不整脈
房室ブロック
房室回帰頻拍
低カリウム血症
Flecainide
タンボコール
Furosemide
ラシックス
Ibuprofen
ブルフェン
Indomethacin
インダシン
早期産児の動脈管開存症
Isoprenaline
プロタノール
徐脈
完全房室ブロック
低血圧
Lidocaine
キシロカイン
心室細動
心室頻拍
房室ブロック
心機能低下
肝不全
腎不全
心不全
肺うっ血
高血圧症
早期産児の動脈管開存症
(我が国では新生児への適応なし)
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
低カリウム血症
低血圧
肝機能障害
肺高血圧
出血
壊死性腸炎
感染
腎機能低下
感染症
出血(特に頭蓋内)
壊死性腸炎
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
重篤な有害反応
低血圧
頻脈
気管支れん縮
一般的な用法用量
2.5mg/kg 1 日 2 回内服
12 歳以上:100 ~ 200mg 1 日 3 回内服
頻脈
低血圧
高血圧
頻脈
各種不整脈
低血圧(特に初回投与時)
腎機能障害
頻脈
レイノー症状
Stevens ⊖ Johnson 症候群
脱毛症
筋れん縮
持続する乾性咳嗽
頻脈
高血圧
各種不整脈
徐脈
心不全
気管支れん縮
房室ブロック
致死性不整脈の誘発(特
に先天性心疾患患者)
心機能低下(特にβ遮断
薬やカルシウム拮抗薬と
の併用時)
2 ~ 20 μ g/kg/ 分 静脈内持続投与
低ナトリウム血症
低カリウム血症
低マグネシウム血症
腎石灰沈着
低血圧
難聴(急速静注時)
出血(特に頭蓋内)
腎機能障害
壊死性腸炎
頭蓋内出血を含む出血
乏尿,無尿
体液貯留
低血圧
頻脈
各種不整脈
中枢神経症状
呼吸抑制
低血圧
徐脈
コメント
ジピリダモールは虚血性心疾患やステロイド抵抗性ネ
フローゼに対しても用いられる
抗血小板作用はアスピリンと相乗的に作用すると考え
られる
静注 2 ~ 20 μ g/kg/ 分 静脈内持続投与
臨床診療において低用量における効果的な血管拡張作
用を有するというエビデンスは乏しい
経口で 0.1mg/kg/ 日より開始
反応に応じて 1mg/kg/ 日まで増量可
ACE 阻害薬
心不全に対して通常はループ利尿薬と合わせて使用す
る
カリウム保持性利尿薬と併用しない
初回導入時は注意深い観察を要する
通常は入院とし,血圧と腎機能をモニタリングする
静注 0.1 μ g/kg/ 分
1.5 μ g/kg/ 分まで増量可
初期量:500μg/kg 1~2 分かけて緩徐に静注
その後 25 ~ 50 μ g/kg/ 分で静脈内持続投与
可
抵抗例には最大 200 μ g/kg/ 分まで増量可
経口
2 ~ 3mg/kg 1 日 2 ~ 3 回
血中濃度により調整
静注
1 回投与量 2mg/kg
0.1 ~ 0.25mg/kg/ 時を不整脈消失まで
(最大 1 日投与量 600mg)
経口
0.5 ~ 2mg/kg 1 日 2 ~ 3 回
( 最 大 1 日 投 与 量 12mg/kg ま た は 80mg/ 日
のいずれか少ないほう)
静注
0.5 ~1mg/kg 1日4 回まで,
または0.1~2mg/
kg/ 時の持続静注
10mg/kg 緩徐に静注
2 回目(24 時間後)
,3 回目(48 時間後)の
用量は 5mg/kg
心選択性の高いβ遮断薬
低血圧や徐脈を生じた際には減量
ファロー四微症の重篤な無酸素発作を改善させるため
には高用量が必要(我が国では使用経験なし)
緩徐静注時は心電図のモニタリングを行う
24 時間以上静注を行う場合は血中濃度をモニタリン
グする
(有効血中濃度は 200 ~ 800 μ g/L)
30 分以上かけて点滴静注
生後 48 時間未満の新生児:200 μ g/ 回,12
~ 24 時間あけて 100 μ g/ 回を 2 回まで追加
投与
生後 2 ~ 7 日未満の新生児:200 μ g/ 回,12
~ 24 時間あけて 200 μ g/ 回を 2 回まで追加
投与
生後 7 日以上の新生児:200 μ g/ 回,12 ~
24 時間あけて 250 μ g/ 回を 2 回まで追加投
与
0.02 μ g/kg/ 分,最大 0.5 μ g/kg/ 分まで
(新生児は最大 0.2 μ g/kg/ 分まで)
尿量のモニタリングを行い,2 回目,3 回目の投与は
尿量の回復を待ってから行う
インドメタシンは心膜切開後症候群の抗炎症薬として
用いられる
0.5 ~ 1mg/kg を 1 分以上かけて静脈内投与 5
分間隔で最大 3mg/kg まで繰り返し投与可
続けて 1 ~ 3mg/kg/ 分にて持続静注
投与中は心電図モニタリングを行う
肝機能障害,腎機能障害を認める場合は投与量を減量
する
乏尿時はさらに高用量を必要とし,尿量に応じで漸増
する
腎機能障害時は減量する
肝機能のモニタリングが必要
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
247
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
薬剤(一般名)
Lisinopril
薬剤(商品名)
ゼストリル,ロンゲス
Losartan
ニューロタン
心不全
高血圧
Milrinone
ミルリーラ
心不全
低心拍出量
ショック
腎不全
低血圧
ノルアドレナリン
重篤な血管拡張に伴う二次性低血圧
高血圧
Propranolol
インデラル
高血圧
上室頻拍
心室頻拍
ファロー四徴症における無酸素発作
気管支喘息
房室ブロック
低血圧
心機能低下
Sildenafil
レバチオ
肺高血圧
低血圧:冠動脈疾患
Sotalol
ソタコール
心房粗動
上室頻拍
心室頻拍
Spironolactone
アルダクトン A
気管支喘息
房室ブロック
低血圧
心機能低下
低カリウム血症
低マグネシウム血症
QT 延長
高カリウム血症
低ナトリウム血症
Norepinephrine
(Noradrenaline)
適応
心不全
高血圧
禁忌
腎機能障害
腎血管障害
大動脈縮窄症
左室流出路狭窄
左室流入路狭窄
腎機能障害
腎血管障害
大動脈縮窄症
左室流出路狭窄
左室流入路狭窄
カリウム保持性利尿薬
(抗アルドステロン薬)
52 に国際的に使用されている心血管系の薬剤の処方集
ⅩⅤ
小児循環器用薬剤一覧
についてまとめた.まだ我が国で小児に承認されていな
いものも一部あるが,世界的に認められている薬剤が多
く含まれている.この表は,小児循環器領域では基本で
ある Anderson の Textbook690)から引用したものである.
おわりに
用量設定は概ね新生児から 10 歳までを対象にしたもの
である.これはあくまで目安であり,個々の症例の身体
発育,未熟性,人種差,腎機能や肝機能,脱水,発熱の
小児期の新薬の臨床試験は限られており,世界的にも
有無,疾患の重症度,合併症,併用薬などにより適宜,
臨床評価ガイドラインが揃っていないため質の高いエビ
担当医が Risk/Benefit を考慮して使用すべきものであ
デンスが少ない.そのため成人に適応があっても,小児
る.
の特殊性を理由に開発が行われていない薬剤が多い.表
248
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
重篤な有害反応
低血圧(特に初回投与時)
腎機能障害
頻脈
脱毛症
持続する乾性咳嗽
低血圧(特に初回投与時)
低カリウム血症
各種不整脈
低血圧
一般的な用法用量
経口で 0.1mg/kg/ 日より開始
反応に応じて 0.5 ~ 1mg/kg/ 日まで増量可
最大 1 日投与量 40mg
0.5mg/kg 1 日 1 回内服
2mg/kg 1 日 1 回まで増量可
30 ~ 45 μ g/kg/ 時にて持続静注
高血圧
20 ~ 100ng/kg/ 分にて持続静注
強い血管収縮および末梢 最大 1 μ g/kg/ 分まで増量可
虚血
各種不整脈
徐脈
ファロー四徴症:15 ~ 20 μ g/kg を静注,心
電図モニター下で 100 ~ 200 μ g/kg までゆ
心不全
っくり増量可
房室ブロック
不 整 脈:0.25 ~ 0.5 mg/kg 1 日 3 回 内 服,
末梢血管収縮
1mg/kg 1 日 3 回まで増量可
易疲労感
心電図モニター下で10~50μ g/kg を緩徐に
静脈
呼吸困難
1 回 0.5mg/kg を 4 ~ 6 時間ごとに内服
頭痛
反応に応じて最大 2mg/kg を 4 時間ごと投与
視覚障害
まで増量可
持続勃起症
徐脈
1mg/kg 1 日 2 回 内 服, 必 要 に 応 じ て 3 ~ 4
日ごとに増量し,4mg/kg 1 日 2 回内服まで
心不全
増量可
気管支れん縮
(最大 1 日投与量 160mg)
房室ブロック
不整脈
QT 時間延長
Torsades de pointes
高カリウム血症
0.5 ~ 1.5mg/kg 1 日 3 回内服
低ナトリウム血症
肝機能障害
女性化乳房
骨軟化症
付記:保険償還対象薬の追加
コメント
ACE 阻害薬
心不全に対して通常はループ利尿薬と合わせて使用する
カリウム保持性利尿薬と併用しない
初回導入時は注意深い観察を要する
通常は入院とし,血圧と腎機能をモニタリングする
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬
ACE 阻害薬と同様の薬効であるが,ACE 阻害薬に特徴
的な乾性咳嗽を認めない
腎機能障害,肝機能障害を認める場合は投与量を減量
する
低血圧のリスクがあるため導入時に注意を要する
陽性変力作用と末梢血管拡張作用を併せ持つ PDE Ⅲ阻
害薬
低血圧のない場合,最初の 1 時間で 50 ~ 75 μ g/kg を
点滴静注
腎不全時は投与量を減量する 短期間使用に限る
ベラパミルと併用禁忌 腎機能低下,肝機能低下時は
投与量を減量する
肝機能障害,腎機能障害時は投与量を減量する
心臓手術後の肺高血圧症や一酸化窒素吸入療法の離脱
にも使用される
QT 時間のモニタリングを行う
QT 延長を引き起こす他の薬剤との併用を避ける
有効血中濃度は 0.04 ~ 2.0 mg/L
主にループ利尿薬とともに用いられる
ACE 阻害薬と同時に投与するべきではない
リウム(高アルドステロン症に関連する疾患で経口困難
時),カプトプリル(高血圧),ジピリダモール(川崎病
このガイドラインを作成中に,ワルファリン(血栓塞
冠動脈後遺症),ニフェジピン(高血圧),(以上 23 年 9
栓症の予防),フレカイニド,プロプラノロール(共に
月 28 日付),
頻脈性不整脈)アムロジピン,エナラプリル,リシノプ
塩酸オルプリノン,ミルリノン(共に急性心不全),デ
リル,バルサルタン(共に高血圧)が小児領域で承認さ
ノパミン(慢性心不全),アテノロール(頻脈性不整脈:
れた.また厚生労働省保険局から,添付文書の使用上の
洞性頻脈,期外収縮),塩酸ピルジカイニド(頻脈性不
注意には「小児に対する安全性は確立していない」とい
整脈),塩酸メキシレチン(頻脈性不整脈:心室性),塩
う記載はあるが,「保険診療において償還対象」と通知
酸ランジオロール(手術時,手術後の頻脈性不整脈に対
のあった医薬品は以下のとおりである.
する緊急処置),カルベジロール(慢性心不全)(以上
リドカイン(頻脈性不整脈),L- イソプラナリン(徐脈
24 年 9 月 25 日付)
発作)
,ドパミン塩酸塩(急性循環不全),カンレノ酸カ
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
249
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
文 献
1. Kearns GL, Abdel-Rahman SM, Alander SW, et al.
Developmental pharmacology-drug disposition, action and
therapy in infants and children. N Engl J Med 2003; 349:
1157-1167.
2. 越前宏俊,図解薬理学 . 病態生理から考える薬の効くメ
カニズムと治療戦略 第 2 版 . 医学書院 2008: 5.
3. 厚生労働省 . 内服薬処方せんの記載方法のあり方に関す
る 検 討 会 報 告 書 . 平 成 22 年 1 月 (http://www.mhlw.go.jp/
shingi/2010/01/s0129-4.html, accessed on Oct. 4, 2011).
4. Heimann G. Enteral absorption and bioavailability in
children in relation to age. Eur J Clin Pharmaocol 1980; 18:
43-50.
5. Huang NN, High RH. Comparison of serum levels
following the adminsitariton of oral and paranteral
preparations of penicillin to infants and children of various
age groups. J Pediatr 1953; 42: 657-658.
6. Lin JH, Yamazaki M. Role of P-glycoprotein in
pharmacokinetics: clinical implications. Clin Pharmacokinet
2003; 42: 59-98.
7. Masuda S, Uemoto S, Goto M, et al. Tacrolimus therapy
according to mucosal MDR1 levels in small-bowel transplant
recipients. Clin Pharmacol Ther 2004; 75: 352-361.
8. Maples HD, James LP, Stowe CD. Special pharmacokinetis
and pharmacodynamic considerations in children. In: Burton
ME, Shaw LM, Schentag JJ and Evans WE eds. Applied
Pharmacokinetics & Pharmacodynamics, 4th ed. Philadelphia,
Lippincott Wiliams & Wilkins 2004: 213-259.
9. Siber GR, Echeverria P, Smith AL, et al. Pharmacokinetics
of gentamicin in children and adults. J Infect Dis 1975; 132:
647-651.
10. Stevens JC, et al. Developmental expression of the major
human hepatic CYP3A enzymes. J Pharmacol Exp Ther 2003;
307: 573-582.
11. de Wildt SN, Kearns GI, LeederJS, et al. Cytochrome P450
3A: ontogeny and drug disposition. Clin Pharmacokinet 1999;
37: 485-505.
12. K o u k o u r i t a k i S B , M a n r o J R , M a r s h S A , e t a l .
Developmental expression of human hepatic CYP2C9 and
CYP2C19. J Pharmacol Exp Ther 2004; 308: 965-974.
13. Kraus DM, Fischer JH, Reitz SJ, et al. Alterations in
theophylline metabolism during the first year of life. Clin
Pharmacol Ther 1993; 54: 351-359.
14. Blake MJ, Gaedigk A, Pearce RE, et al. Ontogeny of
dextromethorphan O-and N-demethylation in the first year of
life. Clin Pharmacol Ther 2007; 81: 510-516.
15. Yong WS, Lietman PS. Chloramphenicol glucuronyl
transferase: assay, ontogeny, and inducibility. J Pharmacol
Exp Ther 1978; 204: 203-211.
16. Miyagi S, Collier AC. Pediatric development of
glucuronidation: the ontogeny of hepatic UGT1A4. Drug
Metab Dispos 2007; 35: 1587-1591.
250
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
17. Soars MG, et al. In vitro analysis of human drug
glucuronidation and prediction of in vivo metabolic clearance.
J Pharmacol Exp Ther 2002; 301: 382-390.
18. Choonara IA, et al. Morphine metabolism in children. Br J
Clin Pharmacol 1989; 28: 599-604.
19. Kanamori M, Takahashi H, Echizen H. Developmental
changes in the liver weight-and body weight-normalized
clearance of theophylline, phenytoin and cyclosporine in
children. Int J Clin Pharmacol Ther 2002; 40: 485-492.
20. Blanco JG, Harrison PL, Evans WE, et al. Human
cytochrome P450 maximal activities in pediatric versus adult
liver. Drug Metab Dispos 2000; 28: 379-382.
21. Johnson TN, Rostami-Hodjegan A, Tucker GT. Prediction
of the clearance of eleven drugs and associated variability in
neonates, infants and children. Clin Pharmacokinet 2006; 45:
931-956.
22. Brion LP, Fleischman AR, Schwartz GJ. Gentamicin
interval in newborn infants as determined by renal function
and postconceptional age. Pediatr Nephrol 1991; 5: 675-679.
23. Sullivan JE, Witte MK, Yamashita TS, et al. Pharmacokinetics
of bumetanide in critically ill infants. Clin Pharmacol Ther
1996; 60: 405-413.
24. Takahashi H, Ishikawa S, Nomoto S, et al. Developmental
changes in pharmacokinetics and pharmacodynamics of
warfarin enantiomers in Japanese children. Clin Pharmacol
Ther 2000; 68: 541-555.
25. Peters F, Geisthovel F, Breckwoldt M. Serum prolactin
levels in women with excessive milk production.
Normalization by transitory prolactin inhibition. Acta
Endocrinol (Copenh) 1985; 109: 463-466.
26. Harenberg J, Leber G, Zimmermann R, et al. Prevention of
thromboembolism with low-molecular weight heparin in
pregnancy. Geburtshilfe Frauenheilkd 1987; 47: 15-18.
27. Ito S, et al. Xenobiotic transporter expression and function
in the human mammary gland. Adv Drug Deliv Rev 2003; 55:
653-665.
28. Jonker JW, et al. The breast cancer resistance protein BCRP
(ABCG2) concentrates drugs and cartinogenic xenotoxins
into milk. Nat Med 2005; 11: 127-129.
29. Pittard WB III, Glazier H. Procainamide excretion in
human milk. J Pediatr 1983; 102: 631-633.
30. Koren G, et al. Pharmacogenetics of morphine poisoning in
a breastfed neonate of a codein-prescribed mother. LANCET
2006; 368: 704.
31. Redman CWG, et al. The excretion of enalapril and
enalaprilat in human breast milk. Eur J Clin Pharmacol 1990;
38: 99.
32. Friis-Hansen B. Water distribution in the foetus and
newborn infant. Acta Paediatr Scand 1983; Suppl 305: 7-11.
33. Pacifici GM, et al. Effects of development, aging, and renal
and hepatic insufficiency as well as hemodialysis on the
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
plasma concentrations of albumin and α1-acid glycoprotein :
implications for binding of drugs. Ther Drug Monit 1986; 8:
259-263.
34. Devlin RG, Fleiss PM. Captopril in human blood and
breast milk.J Clin Pharmacol 198; 21: 110-113.
35. Smith MT, Livingstone I, Hooper WD, et al. Propranolol,
propranolol glucuronide, and naphthoxylactic acid in breast
milk and plasma. Ther Drug Monit 1983; 5: 87-93.
36. Ehrenkranz RA, Ackerman BA, Hulse JD. Nifedipine
transfer into human milk. J Pediatr 1989; 114: 478-480.
37. Liedholm H, Melander A, Bitzen PO, et al. Accumulation
of atenolol and metoprolol in human breast milk. Eur J Clin
Pharmacol 1981; 20: 229-231.
38. O’Hare MF, Murnaghan GA, Russell CJ, et al. Sotalol as a
hypotensive agent in pregnancy. Br J Obstet Gynaecol 1980;
87: 814-820.
39. Taddio A, Oskamp M, Ito S, et al. Is nifedipine use during
labour and breast-feeding safe for the neonate? Clin Invest
Med 1996; 19 (4 Suppl): S11.
40. Bartels P, Hanff L, Mathot R, et al. Nicardipine in preeclamptic patients: placental transfer and disposition in breast
milk. BJOG 2006; 114: 230-233.
41. Atkinson HC, Begg EJ, Darlow BA. Drugs in human milk.
Clinical pharmacokinetic considerations. Clin Pharmacokinet.
1988; 14: 217-240.
42. Leitz F, Bariletto S, Gural R, et al. Secretion of labetalol in
breast milk of lactating women. Fed Proc 1983; 42: 378.
43. Boutroy MJ, Bianchetti G, Dubruc C, et al. To nurse when
receiving acebutolol: is it dangerous for the neonate? Eur J
Clin Pharmacol 1986; 30: 737-739.
44. Ito S, et al. A novel index for expressing exposure of the
infant to drug in breast milk. Br J Clin Pharmacol 1994; 38:
99-102.
45. Ito S. Drug therapy for breast-feeding women. N Eng J
Med 2000; 343: 118-126.
46. Moretti ME, Ito S, Koren G. Therapeutic drug monitoring
in the lactating patient. Reprod Toxicol 1995; 9: 580-581.
47. American Academy of Pediatrics. Policy Statement
Breastfeeding and the Use of Human Milk. 2005; Pediatrics
115: 496-506.
48. 厚生労働省 .「授乳・離乳の支援ガイド」の策定につい
て . http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/03/s0314-17.html
49. 日本小児科学会栄養委員会 . 若手医師に伝えたい母乳の
話 . 日小誌 2007; 111: 922-941.
50. Gideon Koren. Maternal-Fetal Toxicology 2nd. (Gideon
Koren). MARCEL DEKKER, INC. 1994: 1-7.
51. 加藤隆一 . 臨床薬物動態学 . 南江堂 : 257-259.
52. Syme MR, Paxton JW, Keelan JA. Drug transfer and
Metabolism by the Human Placenta. Clin Pharmacokinet
2004; 43: 487-514.
53. Gedeon C, Koren G. Designing Pregnancy Centered
Medications: Drugs Which Do Not Cross the Human
Placenta. Placenta 2006; 27: 861-868.
54. 松永民秀,丸山昌孝,大森栄.胎児におけるシトクロム
P450 の発現 2008; 56: 7-16.
55. 林昌洋,佐藤孝道,北川浩明.妊娠と薬 第 2 版.じほ
う : 7-11.
56. Shotan A, Widerhorn J, Hurst A, et al. Risks of angiotensin
converting enzyme inhibition during pregnancy: experimental
and clinical evidence, potential mechanisms, and
recommendations for use. Am J Med 1994; 96: 451-456.
57. Buttar HS. An overview of the influence of ACE inhibitors
on fetal placental circulation and perinatal development. Mol
Cell Biochem 1997; 176 (1-2): 61-71.
58. Quan A. Fetopathy associated with exposure to angiotensin
converting enzyme inhibitors and angiotensin receptor
antagonists. Early Hum Dev 2006; 82: 23-28.
59. Boubred F, Vendemmia M, Garcia-Meric P, et al. Effects of
maternally administered drugs on the fetal and neonatal
kidney. Drug Saf 2006; 29: 397-419.
60. Mastrobattista JM. Angiotensin converting enzyme
inhibitors in pregnancy. Semin Perinatol 1997; 21: 124-134.
61. Saji H, Yamanaka M, Hagiwara A, et al. Losartan and fetal
toxic effects. Lancet 2001; 357: 363.
62. Lambot M-A, Vermeylen D, Noel J-C. Angiotensin-IIreceptor inhibitors in pregnancy. Lancet 2001; 357: 16191620.
63. Martinovic J, Benachi A, Laurent N, et al. Fetal toxic
effects and angiotensin-II-receptor antagonists. Lancet 2001;
358: 241-242.
64. Schaefer C. Angiotensin II-receptor-antagonists: further
evidence of fetotoxicity but not teratogenicity. Birth Defects
Res Part A Clin Mol Teratol 2003; 67: 591-594.
65. Alwan S, Polifka JE, Friedman JM. Angiotensin II receptor
antagonist treatment during pregnancy. Birth Defects Res A
Clin Mol Teratol 2005; 73: 123-130.
66. 瀬口春道,他監訳.ムーア人体発生学 第 7 版 : 315-316.
67. 海野信也.出生前小児科学,五十嵐隆編 . 小児科学 第 9
版 . 文光堂 : 115-136.
68. 若槻明彦 . 羊水の生理学的意義 . 産科と婦人科 2011; 78:
1185-1187.
69. Gideon Koren. Maternal-Fetal Toxicology 2nd. (Gideon
Koren). MARCEL DEKKER, INC. 1994: 302.
70. Habib A, McCarthy JS. Effects on the neonate of
propranolol administered during pregnancy. J Pediatr 1977;
91: 808-881.
71. Pruyn SC, Phelan JP, Buchanan GC. Long-term propranolol
therapy in pregnancy: maternal and fetal outcome. Am J
Obstet Gynecol 1979; 135: 485 489.
72. Redmond GP. Propranolol and fetal growth retardation.
Semin Perinatol 1982; 6: 142-147.
73. 真木正博,三浦亮監訳.メイラーの医薬品の副作用大辞
典 第 12 版.西村書店 : 465.
74. Meador KJ, Baker GA, Browning N. Cognitive Function at
3 Years of Age after Fetal Exposure to Antiepileptic Drugs. N
Engl J Med 2009; 360: 1597-1605.
75. Bartalena L, Bogazzi F, Braverman Leet al. Effects of
amiodarone administration during pregnancy on neonatal
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
251
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
thyroid function and subsequent neurodevelopment. J
Endocrinol Invest 2001; 24: 116-130.
76. Mikovic Z, Karadzov N, Jovanovic I, et al. Developmental
delay associated with normal thyroidal function and longterm amiodarone therapy during fetal and neonatal life.
Biomed Pharmacother 2010; 64: 396-398.
77. Snider DE Jr. Treatment of tuberculosis during pregnancy.
Am Rev Respir Dis 1980; 122: 65-79.
78. 厚生労働省(日本耳鼻咽喉科学会)重篤副作用疾患別対応
マ ニ ュ ア ル「 難 聴 」. http://www.info.pmda.go.jp/juutoku/
file/jfm1003001.pdf
79. R o d r i g u e z S U , L e i k i n S L , H i l l e r M C : N e o n a t a l
thrombocytopenia associated with ante-partum administration
of thiazide drugs. N Engl J Med 1964; 270: 881-884.
80. Kraus GW, Marchese JR, Yen SSC: Prophylactic use of
hydrochlorothiazide in pregnancy. JAMA 1966; 198: 11501154.
81. Wladimiroff JW. Effect of furosemide on fetal urine
production. Br J Obstet Gynaecol 1975; 82: 221-224.
82. Vert P, Broquaire M, Legagneur M, Morselli PL:
Pharmacokinetics of furosemide in neonates. Eur J Clin
Pharmacol 1982; 22: 39-45.
83. Magee LA. Treating hypertension in women of childbearing age and during pregnancy. Drug Saf 2001; 24: 457474.
84. Abbi M, Kriplani A, Singh B. Preterm labor and accidental
hemorrhage after disopyramide therapy in pregnancy. A case
report. J Reprod Med 1999; 44: 653-655.
85. Tadmor OP, Keren A, Rosenak D, et al. The effect of
disopyramide on uterine contractions during pregnancy. Am J
Obstet Gynecol 1990; 162: 482-486.
86. Ovadia M, Brito M, Hoyer GL, Marcus FI. Human
experience with amiodarone in the embryonic period. Am J
Cardiol 1994; 73: 316-317.
87. Pezard PG, Boussion F, Sentilhes L, et al. Fetal tachycardia:
a role for amiodarone as first- or second-line therapy? Arch
Cardiovasc Dis 2008; 101: 619-627.
88. Ishimatsu J, Miyajima S, Tashiro M, et al. Treatment of
fetal premature ventricular contractions by administering
propranolol hydrochloride orally to the mother. J Matern Fetal
Investig 1998; 8: 160-162.
89. Ishii K, Chiba Y, Sasaki Y, et al. Fetal atrial tachycardia
diagnosed by magnetocardiography and direct fetal
electrocardiography. A case report of treatment with
propranolol hydrochloride. Fetal Diagn Ther 2003; 18: 463466.
90. Harris JP, Alexson CG, Manning JA, et al. Medical therapy
for the hydropic fetus with congenital complete
atrioventricular block. Am J Perinatol 1993; 10: 217-219.
91. Owen P, Cameron A. Fetal tachyarrhythmias. Br J Hosp
Med 1997; 58: 142-144.
92. Oudijk MA, Ruskamp JM, Ambachtsheer BE, et al. Drug
treatment of fetal tachycardias. Paediatr Drugs 2002; 4: 4963.
252
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
93. Lipshultz SE, Sleeper LA, Towbin JA, et al. The incidence
of pediatric cardiomyopathy in two regions of the United
States. N Engl J Med 2003; 348: 1647-1655.
94. Boucek MM, Edwards LB, Keck BM, et al. The Registry
of the International Society for Heart and Lung
Transplantation: Sixth Official Pediatric Report-2003. J Heart
Lung Transplant 2003; 22: 636-652.
95. Nugent AW, Daubeney PE, Chondros P, et al. Clinical
features and outcomes of childhood hypertrophic
cardiomyopathy: Results from a national population-based
study. Circulation 2005; 112: 1332-1338.
96. Daubeney PE, Nugent AW, Chondros P, et al. Clinical
features and outcomes of childhood dilated cardiomyopathy:
Results from a national population-based study. Circulation
2006; 114: 2671-2678.
97. Katz AM. Definition, Histrical Aspects. In: Heart failure:
p a t h o p h y s i o l o g y, m o l e c u l a r b i o l o g y, a n d c l i n i c a l
management, 2nd edn. Philadelphia, Pa, Lippincott, Williams
& Wilkins 2009: 1-49.
98. Ross RD, Daniels SR, Schwartz DC, et al. Plasma
norepinephrine levels in infants and children with congestive
heart failure. Am J Cardiol 1987; 59: 911-914.
99. Johnstone DE, Abdulla A, Arnold JM, et al. Diagnosis and
management of heart failure. Canadian Cardiovascular
Society. Can J Cardiol 1994; 10: 613-631, 35-54.
100. Wu JR, Chang HR, Huang TY, et al. Reduction in
lymphocyte beta-adrenergic receptor density in infants and
children with heart failure secondary to congenital heart
disease. Am J Cardiol 1996; 77: 170-174.
101. Hunt SA, Baker DW, Chin MH, et al. ACC/AHA guidelines
for the evaluation and management of chronic heart failure in
the adult: executive summary. A report of the American
College of Cardiology/American Heart Association Task
Force on Practice Guidelines (Committee to revise the 1995
Guidelines for the Evaluation and Management of Heart
Failure). J Am Coll Cardiol 2001; 38: 2101-2113.
102. Reithmann C, Reber D, Kozlik-Feldmann R, et al. A postreceptor defect of adenylyl cyclase in severely failing
myocardium from children with congenital heart disease. Eur
J Pharmacol 1997; 330: 79-86.
103. Läer S, Mir TS, Behn F, et al. Carvedilol therapy in
pediatric patients with congestive heart failure: a study
investigating clinical and pharmacokinetic parameters. Am
Heart J 2002; 143: 916-922.
104. Ohuchi H, Takasugi H, Ohashi H, et al. Stratification of
pediatric heart failure on the basis of neurohormonal and
cardiac autonomic nervous activities in patients with
congenital heart disease. Circulation 2003; 108: 2368-2676.
105. Rosenthal D, Chrisant MR, Edens E, et al. International
Society for Heart and Lung Transplantation: Practice
guidelines for management of heart failure in children. J
Heart Lung Transplant 2004; 12: 1313-1333.
106. Felker GM, O’Connor CM. Inotropic therapy for heart
failure: an evidence-based approach. Am Heart J 2001; 142:
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
393-401.
107. Lowes BD, Simon MA, Tsvetkova TO, et al. Inotropes in
the beta-blocker era. Clin Cardiol 2000; 23: III11-6.
108. Silka M, Szmuszkovicz J. Arrhythmias and sudden cardiac
death in pediatric heart failure. In: Shaddy R., Wernovsky G.,
ed. Pediatric Heart Failure, Boca Raton, FL: Taylor & Francis
2005: 433-479.
109. Wagoner L.E., Starling RC, O ’ Connor CM. Cardiac
function and heart failure. J Am Coll Cardiol 2006; 47:
D18-D22.
110. Towbin JA, Lowe AM, Colan SD, et al. Incidence, causes,
and outcomes of dilated cardiomyopathy in children. JAMA
2006; 296: 1867-1876.
111. Azevedo VM, Santos MA, Albanesi Filho FM, et al.
Outcome factors of idiopathic dilated cardiomyopathy in
children: A long-term follow-up review. Cardiol Young 2007;
17: 175-184.
112. Asanoi H, Kameyama T, Ishizaka S, et al. Energetically
optimal left ventricular pressure for the failing human heart.
Circulation 1996; 93: 67-73.
113. Kantor PF, Mertens LL. Clinical practice. Heart failure in
children. Part I: clinical evaluation, diagnostic testing, and
initial medical management. Eur J Pediatr 2010; 169: 269279.
114. Kantor PF, Mertens LL. Clinical practice. Heart failure in
children. Part II: current maintenance therapy and new
therapeutic approaches. Eur J Pediatr 2010; 169: 403-410.
115. Osadchii OE. Myocardial phosphodiesterases and
regulation of cardiac contractility in health and cardiac
disease. Cardiovasc Drugs Ther 2007; 21: 171–194.
116. Yan C, Miller CL, Abe J. Regulation of phosphodiesterase
3 and inducible cAMP early repressor in the heart. Circ Res
2007; 100: 489-501.
117. Movsesian M, Stehlik J, Vandeput F, et al. Phosphodiesterase
inhibition in heart failure. Heart Fail Rev 2009; 14: 255-263.
118. 梶本克也,指田由紀子,笠貫 宏.急性心不全に強心剤
を使うべき.呼と循 2004; 52: 897-902.
119. Brixius K, Hoyer HK, Schwinger RHG. Ca2+-Sensitisers
—A promising option to treat heart failure? Cardiovas Drug
Therap 2005; 19: 423-428.
120. De Luca L, Colucci WS, Nieminen MS, et al. Evidencebased use of levosimendan in different clinical settings. Euro
Heart J 2006; 27: 1908-1920.
121. Packer M. The Randomized multicenter Evaluation of
Intravenous levosimendan Efficacy-2 (REVIVE-2) trial. Latebreaking Clinical Trials. American Heart Association, Annual
Scientific Session, Dallas, TX, 13-16 November 2005.
122. Mebazaa A. The SURVival of Patients with Acute Heart
Failure in Need of IntraVEnous Inotropic Support
(SURVIVE) trial. Late-breaking Clinical Trials. American
Heart Association, Annual Scientific Session. Dallas, TX, 1316 November 2005.
123. 2009 Focused Updat: ACCF/AHAs Guidelines for the
diagnosis and management of heart failure in adults.
Circulation 2009; 119: 1977-2016.
124. ESC guidelines for the diagnosis and treatment of acute and
chronic heart failure 2008. Eur Heart J 2008; 29: 2388-2442.
125. A m s a l l e m E , K a s p a r i a n C , H a d d o u r G , e t a l .
Phosphodiesterase III inhibitors for heart failure (Review).
The Cochrane Library 2009, Issue 1. CD002230.
126. Guideline Summary NGC-5205 Cincinnati Children ’ s
Hospital Medical Center. Evidence-based care guideline for
inotropic support with phosphodiesterase inhibitors after
repair of tetralogy of Fallot. Cincinnati (OH): Cincinnati
Children’s Hospital Medical Center; 2006 Mar.
127. Guideline Summary NGC-5211 Cincinnati Children ’ s
Hospital Medical Center. Evidence-based care guideline for
inotropic support with phosphodiesterase inhibitors after
arterial switch operation. Cincinnati (OH): Cincinnati
Children’s Hospital Medical Center; 2006 Aug
128. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン . 急性心不
全治療ガイドライン(2006 年改訂版). http://www.j-circ.
or.jp/guideline/pdf/JCS2006_maruyama_h.pdf
129. Parissis JT, Farmakis D, Nieminen M. Classical inotropes
and new cardiac enhancers. Heart Fail Rev 2007; 12: 149156.
130. Duggal B, Pratap U, Slavik Z, et al. Milrinone and low
vardiac output following cardiac surgery in infants: Is there a
direct myocardial effect? Pediatr Cardiol 2005; 26: 642-645.
131. Kliegman RM, Staton BF, St. Geme II JW, et al (ed).
Nelson Textbook of Pediatrics 19th ed. Elsevier Saunders
2011: .294.
132. Keane JF, Lock JE, Fyler DC (ed). Nadas ’ Pediatric
Cardiology 2nd edition. Elsevier Saunders 2006: .908.
133. Paradisis M, Evans N, Kluckow M, et al. Randomized trial
of milrinone versus placebo for prevention of low systemic
blood flow in very preterm infants. J Pediatr 2009; 154: 189195.
134. 山村英司 . 心不全の薬物治療-フォスフォジエステラー
ゼ(PDE)Ⅲ阻害薬- . 日小循誌 2005; 21: 92-97.
135. Kantor PF, Abraham JR, Dipchand AI, et al. The impact of
changing medical therapy on transplantation-free survival in
pediatric dilated cardiomyopathy. J Am Coll Cardiol 2010;
55: 1377-1384.
136. 村上智明 . 小児心不全の治療 . 日本医事新報 2009; 4454:
46-51.
137. 石川司朗 , 青墳裕之 , 越後茂之 , 他 . 小児心不全薬物療法
ガイドライン . 日小循誌 2001; 17: 501-512.
138. Apukhtina TE, Doletskii AS, Avdeeva ON, et al. The use of
sodium nitropursside in the treatment of heart failure in
critically ill children. Anesteziol Reanimatol 1991: 50-53.
139. 村上智明,八鍬聡,武田充人,他.大動脈二尖弁を基礎
疾患とした大動脈弁閉鎖不全にアンジオテンシン変換酵素
阻害薬が著効した一例.日児臨薬誌 2008; 19: 147-148.
140. Cohn JN, Johnson G, Ziesche S, et al. A comparison of
enalapril with hydralazine-isosorbide dinitrate in the treatment
of chronic congestive heart failure. N Engl J Med 1991; 325:
303-310.
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
253
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
141. Francis GS, Benedict C, Johnstone DE, et al. Comparison
of neuroendocrine activation in patients with left ventricular
dysfunction with and without congestive heart failure. A
substudy of the Studies of Left Ventricular Dysfunction
(SOLVD). Circulation 1990; 82:1724-1729.
142. The Consensus Trial Study Group. Effects of enalapril on
mortality in severe congestve heart failure. Results of the
Cooperative North Scandinavian Enalapril Survival Study
(CONSENSUS). The CONSENSUS Trial Study Group. N
Engl J Med 1987; 316: 1429-1435.
143. Mori Y, Nakazawa M, Tomimatsu H, et al. Long-term
effect of angiotension-converting enzyme inhibitor in volume
overloaded heart during growth: a controlled pilot study. J
Am Coll Cardiol 2000; 36: 270-275.
144. Hazama K, Nakazawa M, Momma K. Effective dose and
cardiovascular effects of cilazapril in children with heart
failure. Am J Cardiol 2001; 88: 801-805.
145. Bengur AR, Beekman RH, Rocchini AP, et al. Acute
hemodynamic effects of captopril in children with congestive
or restrictive cardiomyopathy. Circulation 1991; 83: 523-527.
146. Lewis AB, Chabot M. The effect of treatment with
angiotensin-converting enzyme inhibitors on survival of
pediatric patients with dilated cardiomyopathy. Pediatr
Cardiol 1993; 14: 9-12.
147. 村上智明,武田充人,上野倫彦,他.心不全の急性増悪
期にアンギオテンシン変換酵素阻害剤の種類により効果が
異なった拡張型心筋症の一例 . 医学と薬学 2003; 49: 141144.
148. Scammell AM, Arnold R, Wilkinson JL. Captopril in
treatment of infant heart failure: a preliminary report. Int J
Cardiol 1987; 16: 295-301.
149. Shaw NJ, Wilson N, Dickinson DF. Captopril in heart
failure secondary to a left to right shunt. Arch Dis Child 1988;
63: 360-363.
150. Shaddy RE, Teitel DF, Brett C. Short-term hemodynamic
effects of captopril infants with congestive heart failure. Am J
Dis Child 1988; 142: 100-105.
151. Montigny M, Davignon A, Fouron JC, et al. Captopril in
infants for congestive heart failure secondary to a large
ventricular left-to right shunt. Am J Cardiol 1989; 63: 631633.
152. Shaddy RE, Boucek MM, Hsu DT, et al. Carvedilol for
children and adolescents with heart failure: a randomized
controlled trial. JAMA 2007; 298: 1171-1179.
153. Azeka E, Franchini Ramires JA, Valler C, et al. Delisting of
infants and children from the heart transplantation waiting list
after carvedilol treatment. J Am Coll Cardiol 2002; 40: 20342038.
154. Bajcetic M, Kokic Nikolic A, Djukic M, et al. Effects of
carvedilol on left ventricular function and oxidative stress in
infants and children with idiopathic dilated cardiomyopathy:
a 12-month, two-center, open-label study. Clin Therap 2008;
30: 702-714.
155. 村上智明,八鍬聡,上野倫彦,他.両方向性グレン手術
254
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
・ 共通房室弁置換術後重症心不全に対しベータ遮断薬を導
入し改善した心房錯位症候群の 1 例.心臓 2003; 35: 170174.
156. Tuttle RR, Mills J. Dobutamine: Development of a new
catecholamine to selectively increase cardiac contractility.
Circ Res 1975; 36: 185-196.
157. Beregovich J, Bianchi C, D’Angelo R, et al. Haemodynamic
effects of a new inotropic agent (dobutamine) in chronic
cardiac failure. Br Heart J 1975; 37: 629-634.
158. Fowler MB, Alderman EL, Oesterls SN, et al. Dobutamine
and dopamine after cardiac surgery: Greater augmentation of
myocardial blood flow with dobutamine. Circulation 1984; 70
(3 Pt 2): I103-I111.
159. L a r a S h e k e r d e m i a n . A c u t e C i r c u l a t o r y F a i l u r e :
Pharmacological and Mechanical Support. In Anderson RH,
editor. Pediatric Cardiology, 3rd ed, UK, Churchill Livingstone
2010: 239-255.
160. Athena FZ, Jeferey SB. Chapter 20 Pharmacology. In:
David GN, editor: Rogers’ Textbook of Pediatric Intensive
Care, 4th ed. Philadelphia, Lippincott Williams & Wilkins
2008: 266-282.
161. DRUGDEX, Prod Info Dobutamine injection, 2005.
162. 中澤誠,他.心不全の治療,高尾篤良,他編,臨床発達
心臓病学改訂 3 版.東京,中外医学社 2005: 249-262.
163. Mary EH, Ira MC. Ch62 Pediatric Emergencies and
Resuscitation. In: Robert M. Kliegman MD, ed. Nelson
Textbook of Pediatrics, 19th ed. Philadelphia, Saunders 2011:
279-296.
164. Shannon F. Manzi, Pharmd. Appendix B Emergency Drug
Compendium. In: Gray R F, Stephan L, editor. Textbook of
Pediatric Emergency Medichine, 6 th ed. Philadelphia,
Lippincott Williams & Wilkins 2010: 1846-1880.
165. Edward J Baker. Formulary. In: Anderson RH, editor.
Pediatric Cardiology, 3rd ed. UK, Churchill Livingstone
2010: 1299-1303.
166. Appendix. Principal Drug Used in Pediatric Cardiology. In:
John FK, editor. NADAS ’ Pediatric Cardiology, 2nd ed.
Philadelphia, Saunders 2006: 907-909.
167. DRUGDEX Ⓡ 2.0. http://www.thomsonhc.com/home/
dispatch
168. Schwartz PH, Eldadah MK, Newth CJ, et al. The
pharmacokinetics of dobutamine in pediatric intensive care
unit patients. Drug Metab Dispos 199; 19: 614-619.
169. Carlsson A, Waldeck B. A fluorimetric method for the
determination of dopamine (3-hydroxytyramine). Acta
Physiol Scand 1958; 44: 293-298.
170. Fowler NO, Shabetai R, Holmes JC. Adrenal medullary
secretion during hypoxia, bleeding, and rapid intravenous
infusion. Circ Res 1961; 9: 427-435.
171. Goldberg LI, Sjoerdsma A. Effects of several monoamine
oxidase inhibitors on the cardiovascular actions of naturally
occurring amines in the dog. J Pharmacol Exp Ther 1959;
127: 212-218.
172. Holmes JC, Fowler NO. Direct cardiac effects of dopamine.
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Circ Res 1962; 10: 68-72.
173. Thompson BT, Cockrill BA. Renal-dose dopamine: A siren
song? Lancet 1994; 344: 7-8.
174. Bhatt-Mehta V, Nahata MC, McClead RE, et al. Dopamine
pharmacokinetics in critically ill newborn infants. Eur J Clin
Pharmacol 1991; 40: 593-597.
175. E l d a d a h M K , S c h w a r t z P H , H a r r i s o n R , e t a l .
Pharmacokinetics of dopamine in infants and children. Crit
Care Med 1991; 19: 1008-1011.
176. Golbranson FL, Lurie L, Vance RM, et al. Multiple
extremity amputations in hypotensive patients treated with
dopamine. JAMA 1980; 243: 1145-1146.
177. Resuscitation guidline 2010. Resuscitation Council (UK)
Paediatric Advanced Life Support: 106-117.
178. Kleinman ME, de Caen AR, Chameides L, et al. Part 10:
Pediatric Basic and Advanced Life Support 2010 International
Consensus on Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency
C a r d i o v a s c u l a r C a r e S c i e n c e Wi t h Tr e a t m e n t
Recommendations. Circulation 2010; 122: S466-S515.
179. α -and β -Adrenergic agonists, in AHFS Drug information
2010, Bethesda, American Society of Health-System
Pharmacists: 1362-1373.
180. Fisher DG, et al. Pharmacokinetics of exogenous
epinephrine in critically ill children. Crit Care Med 1993; 21:
111-117.
181. Silverberg AB, et al. Norepinephrine: hormone and
neurotransmitter in man. Am J Physiol 1978; 234: E252-256.
182. Fonton M, Burch M. Understanding chronic heart failure.
Arch Dis Child 2007; 92: 812-816.
183. Kay LD, Colan SD, Graham TP. Congestive heart failure in
pediatric patients. Am Heart J 2001; 141: 923-928.
184. Systemic Hypertension. In Kliegman RM, Stanton BF, St
Geme JW, et al. (eds): Nelson Textbook of Pediatrics, 19th rd.
Elsevier Saunders, Philadelphia, PA 2011: 1639-1647.
185. Connolly D, Rutkowski M, Auslender M, et al. The New
York University Pediatric Heart FailureIndex: A new method
of quantifying chronic heart failure severity in children. J
Pediatr 2001; 138: 644-648.
186. Blume ED, Freed MD, Colan SD. Congestive Heart
Failure. In Keane JF, Lock JE, Fyler DC (eds): Nadas ’ s
Pediatric Cardiology, 2nd ed. Elsevier Saunders, Philadelphia,
PA 2006: 83-95.
187. Graham TP, Jr., Bernard YD, Mellen BG, et al. Long-term
outcome in congenitally corrected transposition of the great
arteries: a multi-institutional study. J Am Coll Cardiol 2000;
36: 255-261.
188. Van der Vorst MMJ, Kist JE, van der Heijden AJ, st al.
Diuretics in pediatrics. Ped Drugs 2006; 8: 245-264.
189. Staessen J, Lijnen P, Fagard R, et al. Rise in plasma
concentration of aldosterone during long-term angiotensin II
suppression. J Endocrinol 1981; 91: 457-465.
190. Mizuno Y, Yoshimura M, Yasue H, et al. Aldosterone
production is activated in failing ventricle in humans.
Circulation 2001; 103: 72-77.
191. Tsutamoto T, Wada A, Maeda K, et al. Spironolactone
inhibits the transcardiac extraction of aldosterone in patients
with congestive heart failure. J Am Coll Cardiol 2000; 36:
838-844.
192. Qin W, Rudolph AE, Bond BR, et al. Transgenic model of
aldosterone-driven cardiac hypertrophy and heart failure. Circ
Res 2003; 93: 69-76.
193. Pitt B, Zannad F, Remme WJ, et al. The effect of
spironolactone on morbidity and mortality in patients with
severe heart failure. Randomized Aldactone Evaluation Study
Investigators. N Eng J Med 1999; 341: 709-717.
194. Hobbins SM, Fowler RS, Row RD, et al. Spironolactone
therapy in infants with congestive heart failure secondary to
congenital heart disease. Arch Dis Child 1981; 56: 934-938.
195. Ambrosy A, Goldsmith S, Gheorghiade M. Tolvaptan for
the treatment of heart failure: a reviw of the literature. Expert
Opin Pharmacother 2011; 12: 961-976.
196. Schrier RW, Gross P, Gheorghiade M, el al. Tolvaptan, a
selective oral vasopressin V2-receptor antagonist, for
hyponatremia. N Engl J Med 2006; 355: 2099-2112.
197. Yamamura Y, Sato O, Fujiki H. Vasopressin V2-receptor
antagonist, tolvaptan, for treatment of heart failure. Nihon
Rinsho 2007; 65 Suppl 5: 164-168.
198. 第 20 回川崎病全国調査成績 . http://www.jichi.ac.jp/dph/
kawasakibyou/20090902/kawasaki20reportv.pdf
199. 川崎病(MCLS,小児急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候
群)診断の手引き(厚生労働省川崎病研究班作成改訂 5 版).
http://www.jskd.jp/info/pdf/tebiki.pdf
200. Burns JC, Glode MP. Kawasaki syndrome. Lancet 2004;
364: 533-544.
201. Onouchi Y, Gunji T, Burns JC, et al. ITPKC functional
polymorphism associated with Kawasaki disease
susceptibility and formation of coronary artery aneurysms.
Nat Genet 2008; 40: 35-42.
202. Furusho K, Kamiya T, Nakano H, et al. High-dose
intravenous gammaglobulin for Kawasaki disease. Lancet
1984; 2: 1055-1058.
203. Newburger JW, Takahashi M, Burns JC, et al. The
treatment of Kawasaki syndrome with intravenous gamma
globulin. N Engl J Med 1986; 315: 341-347.
204. Newburger JW, Takahashi M, Beiser AS, et al. A single
intravenous infusion of gamma globulin as compared with
four infusions in the treatment of acute Kawasaki syndrome.
N Engl J Med 1991; 324: 1633-1639.
205. Newburger JW, Takahashi M, Gerber MA, et al. Diagnosis,
treatment, and long-term management of Kawasaki disease: a
statement for health professionals from the Committee on
Rheumatic Fever, Endocarditis and Kawasaki Disease,
Council on Cardiovascular Disease in the Young, American
Heart Association. Circulation 2004; 110: 2747-2771.
206. Inoue Y, Okada Y, Shinohara M, et al. A multicenter
prospective randomized trial of corticosteroids in primary
therapy for Kawasaki disease: clinical course and coronary
artery outcome. J Pediatr 2006; 149: 336-341.
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
255
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
207. Kobayashi T, Inoue Y, Takeuchi K, et al. Prediction of
intravenous immunoglobulin unresponsiveness in patients
with Kawasaki disease. Circulation 2006; 113: 2606-2612.
208. Kobayashi T, Saji T, Otani T, et al. Efficacy of
immunoglobulin plus prednisolone for prevention of coronary
artery abnormalities in severe Kawasaki disease: a
prospective, randomised, open, blinded-endpoint trial. Lancet
2012; 379: 1613-1620.
209. Newburger JW, Sleeper LA, McCrindle BW, et al.
Randomized trial of pulsed corticosteroid therapy for primary
treatment of Kawasaki disease. N Engl J Med 2007; 356:
663-675.
210. Sano T, Kurotobi S, Matsuzaki K, et al. Prediction of nonresponsiveness to standard high-dose gamma-globulin therapy
in patients with acute Kawasaki disease before starting initial
treatment. Eur J Pediatr 2007; 166: 131-137.
211. Okada K, Hara J, Maki I, et al. Pulse methylprednisolone
with gammaglobulin as an initial treatment for acute
Kawasaki disease. Eur J Pediatr 2009; 168: 181-185.
212. Ogata S, Ogihara Y, Honda T, et al. Corticosteroid Pulse
Combination Therapy for Refractory Kawasaki Disease: A
Randomized Trial. Pediatrics. 2012; 129: e17-23. [Epub
ahead of print]
213. Kanai T, Ishiwata T, Kobayashi T, et al. Ulinastatin, a
Urinary Trypsin Inhibitor, for the Initial Treatment of Patients
With Kawasaki Disease: A Retrospective Study. Circulation.
2011; 124: 2822-2828. [Epub ahead of print]
214. Uehara R, Yashiro M, Oki I, et al. Re-treatment regimens
for acute stage of Kawasaki disease patients who failed to
respond to initial intravenous immunoglobulin therapy:
analysis from the 17th nationwide survey. Pediatr Int 2007;
49: 427-430.
215. Hashino K, Ishii M, Iemura M, et al. Re-treatment for
immune globulin-resistant Kawasaki disease: a comparative
study of additional immune globulin and steroid pulse
therapy. Pediatr Int 2001; 43: 211-217.
216. Furukawa T, Kishiro M, Akimoto K, et al. Effects of steroid
pulse therapy on immunoglobulin-resistant Kawasaki disease.
Arch Dis Child 2008; 93: 142-146.
217. Ogata S, Bando Y, Kimura S, et al. The strategy of immune
globulin resistant Kawasaki disease: A comparative study of
additional immune globulin and steroid pulse therapy. J
Cardiol 2009; 53: 15-19.
218. 三浦大,松岡恵,河野一樹,他.川崎病 発見後 40 年
の軌跡と今後の課題 . 治療 ガンマグロブリン無効例への
対応 ステロイドパルス療法 . 日本臨床 2008; 66: 338-342.
219. Miura M, Ohki H, Yoshiba S, et al. Adverse effects of
methylprednisolone pulse therapy in refractory Kawasaki
disease. Arch Dis Child 2005; 90: 1096-1097.
220. 日比野健一,芦田実華,岩島覚,他.川崎病治療に関す
る多施設共同研究 . 日小誌 2008; 112: 1227-1232.
221. 鈴木啓之,荻野廣太郎,中村好一,他.川崎病急性期に
ステロイド投与を受けた症例の冠動脈障害発生の分析 . 日
小誌 2010; 114: 853-857.
256
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
222. Weiss JE, Eberhard BA, Chowdhury D, et al. Infliximab as
a novel therapy for refractory Kawasaki disease. J Rheumatol
2004; 31: 808-810.
223. 佐 地 勉, 中 川 雅 生, 小 川 俊 一, 他. 急 性 期 川 崎 病 の
IVIG 不応例に対する生物学的製剤 infliximab( レミケード )
使用の調査報告-その安全性と有用性について- . 日小循
誌 2009; 25: 68-69.
224. 佐地勉,小澤安文,竹内大二,他.最近の治療の進歩.
川崎病におけるウリナスタチン療法.小児科 1999; 40:
1049-1054.
225. Raman V, Kim J, Sharkey A, et al. Response of refractory
Kawasaki disease to pulse steroid and cyclosporin A therapy.
Pediatr Infect Dis J 2001; 20: 635-637.
226. Suzuki H, Terai M, Hamada M, et al. Cyclosporin A
Treatment for Kawasaki Disease Refractory to Initial and
Additional Intravenous Immunoglobulin. Pediatr Infect Dis J.
2011 May 16. [Epub ahead of print]
227. 城宏輔,清水博史,後藤和利.川崎病における血漿交換
の効果.小児科診療 1984; 47: 354-362.
228. Imagawa T, Mori M, Miyamae T, et al. Plasma exchange
for refractory Kawasaki disease. Eur J Pediatr. 2004; 163:
263-264.
229. Yamakawa R, Ishii M, Sugimura T, et al. Coronary
endothelial dysfunction after Kawasaki disease: evaluation by
intracoronary injection of acetylcholine. J Am Coll Cardiol
1998; 31: 1074-1080.
230. Pristipino C, Beltrame JF, Finocchiaro ML, et al. Major
racial differences in coronary constrictor response between
Japanese and Caucasians with recent myocardial infarction.
Circulation 2000; 101: 1102-1108.
231. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン . 冠攣縮性
狭心症の診断と治療に関するガイドライン . Circ J 2008;
72, Suppl. IV: 1195-1252.
232. Kimura E, Kishida H. Treatment of variant angina with
drugs. A survery of 11 cardiology institutes in Japan.
Circulation 1981; 63: 844-848.
233. Kugiyama K, Yasue H, Okumura K, et al. Nitric oxide
activity is deficient in spasm arteries of patients with coronary
spastic angina. Circulation 1996; 94: 266-271.
234. Tsuda E, Yasuda T, Naito H. Vasospastic angina in
Kawasaki disease. J Cardiol 2008; 51: 65-69.
235. Ito A, Fukumoto Y, Shimokawa H. Changing characteristics
of patients with vasospastic angina in the era of new calcium
channel blockers. J Cardiovasc Pharmacol 2004; 44: 480-485.
236. Moriyama T, Karasawa A. Cardiovascular effects of
benidipine and amlodipine in isolated tissue and anesthetized
dogs. Biol Pharm Bull 1994; 17: 1468-1471.
237. Yao K, Ina Y, Nagashima K, et al. Antioxidant effects of
calcium antagonists in rat brain homogenates. Biol Pharm
Bull 2000; 23: 766-769.
238. Wang N, Minatoguchi S, Chen XH, et al. Benidipine
reduces myocardial infarct size involving reduction of
hydroxyl radicals and production of protein kinase C
dependent nitric oxide in rabbits. J Cardiovasc Pharmcol
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
2004; 43: 747-757.
239. Carter RW, Begaye M, Kanagy NL. Acute and chronic
NOS inhibition enhances alpha(2)- adrenoreceptor stimulated
Rho A and Rho kinese in rat aorta. Am J Physiol Heart Circ
Physiol 2002; 283: H1361-H1369.
240. Onouchi Z, Hamaoka K, Sakata K, et al. Long-term
changes in coronary artery aneurysms in patients with
Kawasaki disease: comparison of therapeutic regimens. Circ J
2005; 69: 265-272.
241. Bruns LA, Chrisant MK, Lamour JM, et al. Carvedilol as
therapy in pediatric heart failure: an initial multicenter
experience. J Pediatr. J Pediatr 2001; 138: 505-511. 242. Aizawa T, Ogasawara K, Nakamura F, et al. Effect of
nicorandil on coronary apasm. Am J Cardiol 1989; 63:
75J–79J.
榊原啓文,
鏑木恒男.Nicorandil 製剤
(Perisalol®)
243. 河合忠一,
の安静狭心症に対する効果並びに血中濃度との関連性につ
いての検討 . 薬理と治療 1985; 13: 3421-3433.
244. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン . 循環器疾
患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン
( 2009 年改訂版) . http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/
JCS2004_kasanuki_h.pdf(2010 年 11 月閲覧).
245. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン.川崎病心
臓血管後遺症の診断と治療に関するガイドライン(2008
年改訂版)
. http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2008_
ogawasy_h.pdf(2011 年 8 月 14 日,2011 年 8 月 14 日閲覧).
246. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン.心房細動
治療
(薬物)ガイドライン(2008 年改訂版)
.Circ J 2008;
72, Suppl. IV: 1581-1638.
247. ACCP Antithrombotic Therapy in Neonates and children:
American College of Chest Physicians Evidence-Based
Clinical Practice Guidelines (8th Edition) Chest 2008; 133:
887S-968S.
248. Yamada K, et al. The platelet functions in acute febrile
mucocutaneous lymph node syndrome and a trial of
prevention for thrombosis by antiplatelet agent. Acta
Haematol Jpn 1978; 41: 791-802.
249. Shirahata A, et al. Studies on blood coagulation and
antithrombotic therapy in Kawasaki disease. Acta Paediatr
Jpn 1983; 25: 104-115.
250. Masashi Taki, et al. Spontaneous platelet aggregation in
Kawasaki disease using the particle counting method.
Pediatrics International 2003; 45: 649-652.
251. 傳美和子,瀧正志,清水浩信,他.川崎病における可溶
型 P- セクレチンおよび血小板の膜表面に発現した P- セク
レチンの臨床意義.聖マリアンナ医科大学雑誌 1999; 27:
389-398.
252. Newburger J, et al. Diagnosis, treatment, and long-term
management of Kawasaki disease: a statement for health
professionals from the Committee on Rheumatic Fever,
Endocarditis and Kawasaki Disease, Council on
Cardiovascular Disease in the Young, American Heart
Association. Circulation 2004; 110: 2747-2771.
253. Hart RG, Benavente O, McBride R, et al. Antithrombotic
therapy to prevent stroke in patients with atrial fibrillation: a
meta-analysis. Ann Intern Med 1999; 131: 429-501.
254. Hart RG, Halperin JL. Atrial fibrillation and stroke:
concepts and controversies. Stroke 2001; 32: 803-808.
255. Yasaka M, Minematsu K, Yamaguchi T. Optimal intensity
of international normalized ratio in warfarin therapy for
secondary prevention of stroke in patients with non-valvular
atrial fibrillation. Intern Med 2001; 40: 1183-1188.
256. Bonow RO, Carabello BA, Chatterjee K, et al. ACC/AHA
2006 Guidelines for the Management of Patients With
Valvular Heart Disease: A Report of the American College of
Cardiology/American Heart Association Task Force on
Practice Guidelines. Developed in Collaboration With the
Society of Cardiovascular Anesthesiologists Endorsed by the
Society for Cardiovascular Angiography and Interventions
and the Society of Thoracic Surgeons. J Am Coll Cardiol
2006; 48: el-el48.
257. Horstkotte D, Bergemann R, Althaus U, et al. German
experience with low intensity anticoagulation (GELIA):
protocol of a multi-center randomized, prospective study with
the St. Jude Medical valve. J Heart Valve Dis 1993; 2: 411419.
258. Acar J, Iung B, Boissel JP, et al. AREVA: multicenter
randomized comparison of low-dose versus standard-dose
anticoagulation in patients with mechanical prosthetic heart
valves. Circulation 1996; 94: 2107-2112.
259. Salem DN, O ’ Gara PT, Madias C, et al. Valvular and
structural heart disease: American College of Chest
Physicians Evidence-Based Clinical Practice Guidelines (8th
Edition). Chest 2008; 133(6 Suppl): 593S-629S.
260. Meschengieser SS, Fondevila CG, Frontroth J, et al. Lowintensity oral anticoagulation plus low-dose aspirin versus
high-intensity oral anticoagulation alone: a randomized trial
in patients with mechanical prosthetic heart valves. J Thorac
Cardiovasc Surg 1997; 113: 910-916.
261. Turpie AG, Gent M, Laupacis A, et al. A comparison of
aspirin with placebo in patients treated with warfarin after
heart-valve replacement. N Engl J Med 1993; 329: 524-529.
262. Laffort P, Roudaut R, Roques X, et al. Early and long-term
(one-year) effects of the association of aspirin and oral
anticoagulant on thrombi and morbidity after replacement of
the mitral valve with the St. Jude medical prosthesis: a
clinical and transesophageal echocardiographic study. J Am
Coll Cardiol 2000; 35: 739-746.
263. Rieder MJ, Reiner AP, GageBF, et al. Effect of VKORC1
haplotypes on transcriptional regulation and warfarin dose. N
Engl J Med 2005; 352: 2285-2293.
264. Klein TE, Altman RB, Eriksson N, et al.; The International
Warfarin Pharmacogenetics Consortium. Estimation of the
warfarin dose with clinical and pharmacogenetic data. N Engl
J Med 2009; 360: 753-764.
265. McGill HC Jr, McMahan CA, Gidding SS. Preventing heart
disease in the 21st century: implications of the
Pathobiological Determinants of Atherosclerosis in Youth
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
257
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
(PDAY) study. Circulation 2008; 117: 1216-1227.
266. Kuromori Y, Okada T, Iwata F, et al. Familial combined
hyperlipidemia(FCHL) in children: the significance of early
developmend of hyperapo B lipoproteinemia, obesity and
aging. J Atheroscler Thromb 2002; 9: 314-320.
267. Okada T, Murata M, Yamauchi K, et al. New criteria of
normal serum lipid levels in Japanese children: the nationwide
study. Pediatr Int 2002; 44: 596-601.
268. Al-Shaikh AM, et al. Impact of the characteristics of
patients and their clinical management on outcomes in
children with homozygous familial hypercholesterolemia.
Cardiol Young 2002; 12: 105-112.
269. Vuorio AF, Turtola H, Kontula K. Neonatal diagnosis of
familial hypercholesterolemia in newborns born to a parent
with a molecularly defined heterozygous familial
hypercholesterolemia. Arterioscler Thromb Vasc Biol 1997;
17: 3332-3337.
270. Wiegman A, et al. Family history and cardiovascular risk in
familial hypercholesterolemia: Data in more than 1000
children. Circulation 2003; 107: 1473-1478.
271. Wiegman A, et al. Arterial intima-media thickness in
children heterozygous for familial hypercholesterolaemia.
Lancet 2004; 363: 369-370.
272. Arambepola C, Farmer AJ, Perera R, et al. Statin treatment
for children and adolescents with heterozygous familial
hypercholesterolemia: A systemic review and meta-analysis.
Atheroscler 2007; 195: 339-347.
273. Kavey REW, et al. Cardiovascular risk reduction in highrisk pediatric patients. Circulation 2006; 114: 2710-2738.
274. Weiss R, et al. Obesity and the metabolic syndrome in
children and adolescents. New Eng J Med 2004; 350: 23622374.
275. I w a t a F, e t a l . S c r e e n i n g f o r f a m i l i a l c o m b i n e d
hyperlipidemia in children using lipid phenotypes.J
Atheroscler Thromb 2003; 10: 299-303.
276. 原光彦,他.学童におけるメタボリックシンドロームの
頻度と身体計測指標の関係について.肥満研究 2005; 11:
38-45.
277. Yoshinaga M, et al. Metabolic syndrome in overweight and
obese Japanese children. Obes Res 2005; 13: 1135-1140.
278. 岡田知雄,他.小児肥満における内臓脂肪指標の変化と
長鎖多価不飽和脂肪酸との関係について.肥満研究 2005;
11: 283-289.
279. Mahoney LT, Burns TL, Stanford W, et al. Coronary risk
factors measured in childhood and young adult life are
associated with coronary artery calcification in young adults:
the Muscatine Study. J Am Coll Cardiol 1996; 27: 277-284.
280. Davis PH, Dawson JD, Riley WA, et al. Carotid intimalmedial thickness is related to cardiovascular risk factors
measured from childhood through middle age: The Muscatine
Study. Circulation 2001; 104: 2815-2819.
281. L i S , C h e n W, S r i n i v a s a n S R , e t a l . C h i l d h o o d
cardiovascular risk factors and carotid vascular changes in
adulthood: the Bogalusa Heart Study. Jama 2003; 290: 2271-
258
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
2276.
282. Klag MJ, Ford DE, Mead LA, et al. Serum cholesterol in
young men and subsequent cardiovascular disease. N Engl J
Med 1993; 328: 313-318.
283. Haney EM, Huffman LH, Bougatsos C, et al. Screening
and treatment for lipid disorders in children and adolescents:
systematic evidence review for the US Preventive Services
Task Force. Pediatrics 2007; 120: e189-214.
284. National Cholesterol Education Program (NCEP):
highlights of the report of the Expert Panel on Blood
Cholesterol Levels in Children and Adolescents. Pediatrics
1992; 89: 495-501.
285. Tonstad S, Ose L. Colestipol tablets in adolescents with
familial hypercholesterolaemia. Acta Paediatr 1996; 85:
1080-1082.
286. de Jongh S, Ose L, Szamosi T, Gagne C, et al. Efficacy and
safety of statin therapy in children with familial
hypercholesterolemia: a randomized, double-blind, placebocontrolled trial with simvastatin. Circulation 2002; 106: 22312237.
287. Daniels SR, Greer FR, Committee on Nutrition: Lipid
screening and cardiovascular health in childhood. Pediatrics
2008; 122: 198-208.
288. Ducobu J, Brasseur D, Chaudron JM, et al. Simvastatin use
in children. Lancet 1992; 339: 1488.
289. McCrindle BW, Helden E, Cullen-Dean G, et al. A
randomized crossover trial of combination pharmacologic
therapy in children with familial hyperlipidemia. Pediatr Res
2002; 51: 715-721.
290. Knipscheer HC, Boelen CC, Kastelein JJ, et al. Short-term
efficacy and safety of pravastatin in 72 children with familial
hypercholesterolemia. Pediatr Res 1996; 39: 867-871.
291. Lambert M, Lupien PJ, Gagne C, et al. Treatment of
familial hypercholesterolemia in children and adolescents:
effect of lovastatin. Canadian Lovastatin in Children Study
Group. Pediatrics 1996; 97: 619-628.
292. McCrindle BW, Ose L, Marais AD. Efficacy and safety of
atorvastatin in children and adolescents with familial
hypercholesterolemia or severe hyperlipidemia: a multicenter,
randomized, placebo-controlled trial. J Pediatr 2003; 143: 7480.
293. Avis HJ, Vissers MN, Stein EA, et al. A systematic review
and meta-analysis of statin therapy in children with familial
hypercholesterolemia. Arterioscler Thromb Vasc Biol 2007;
27: 1803-1810.
294. de Jongh S, Lilien MR, op’t Roodt J, et al. Early statin
therapy restores endothelial function in children with familial
hypercholesterolemia. J Am Coll Cardiol 2002; 40: 21172121.
295. Wiegman A, Hutten BA, de Groot E, et al. Efficacy and
safety of statin therapy in children with familial
hypercholesterolemia: a randomized controlled trial. JAMA
2004; 292: 331-337.
296. http://www.pfizer.com/files/products/uspi_lipitor.pdf.
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
297. Edison RJ, Muenke M. Central nervous system and limb
anomalies in case reports of first-trimester statin exposure. N
Engl J Med 2004; 350: 1579-1582.
298. http://www.fda.gov/fdac/features/2001/301_preg.html
299. 住友直方 , 岩本真理 , 牛ノ濱大也 , 他 . 小児不整脈の診断・
治療ガイドライン . 日小循誌 2010; 26(Supplement): 1-62.
300. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン . 不整脈薬
物治療に関するガイドライン (2009 年改訂版 ). http://www.
j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2009_kodama_h.pdf
301. Task force of the working group on arrhythmias of the
European Society of Cardiology: The Sicilian Gambit; A new
approach to the classification of antiarrhythmic drugs based
on their action on arrhythmogenic mechanisms. Circulation
1991; 84: 1831-1851.
302. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン . 心房細動
治療(薬物)ガイドライン . Jpn Circ J 2001; 65, Suppl. V:
931-978.
303. Kantoch MJ. Supraventricular tachycardia in children.
Indian J Pediatr 2005; 72: 609-619.
304. Vignati G. Pediatric arrhythmias: which are the news? J
Cardiovascular Med 2007; 8: 62-66.
305. Kashani IA, Shakibi JG, Siassi B. Electrophysiologic
effects of disopyramide in children. Jpn Heart J 1980; 21:
491-496.
306. Fish FA, Gillette PC, Benson DW Jr, for the pediatric
electrophysiology group. Proarrhythmia, cardiac arrest and
death in young patients receiving encainide and flecainide. J
Am Coll Cardiol 1991; 18: 356-365.
307. Perry JC, Garson A Jr. Flecanide acetate for treatment of
tachyarrhythmias in children: Review of world literature on
efficacy, safety, and dosing. Am Heart J 1992; 134: 16141621.
308 Moak JP, Smith RT, Garson A. Mexiletine: an effective
antiarrhythmic drug for treatment of ventricular arrhythmias
in congenital heart disease. J Am Coll Cardiol 1987; 10: 824829.
309. 簡 瑞祥,星野健司,小川潔,他.小児期の頻拍性不整
脈に対するメキシレチンの有効性について.埼玉県医学会
誌 1987; 22: 763-768.
310. 小川昭正,奥村直哉,松島正氣,他.メキシレチン 1 回
経口投与による薬物動態の検討 . 日小循誌 1988; 4: 250254.
311. 住友直方,牛ノ濱大也,原 光彦,他.小児不整脈に対
す る flecainide の 示 適 投 与 量 の 検 討. 呼 と 循 1993; 41:
1079-1082.
312. 住友直方,岩田富士彦,原光彦,他.小児特発性心室頻
拍に対するフレカイニドの有用性の検討.日小循誌 1995;
99: 654-658.
313. Fisher JD, Krikler D, Hallidie-Smith KA. Familial
polymorphic ventricular arrhythmias. J Am Coll Cardiol
1999; 34: 2015-2022.
314. S u m i t o m o N , H a r a d a K , N a g a s h i m a M , e t a l .
Catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia:
Electrocardiographic characteristics and optimal therapeutic
strategies to prevent sudden death. Heart 2003; 89: 66-70.
315. Gaum WE, Biancaniello T, Kaplan S. Accelerated
ventricular rhythm in childhood. Am J Cardiol 1979; 43: 162164.
316. 新村一郎,原口寿夫,宮沢要一朗,他.小児頻拍性不整
脈に対する Propranolol 経口療法 . 小児科診療 1980; 43:
2455-2463.
317. Maagnes P, Tipple M, Fournier A. Effectiveness of oral
sotalol for treatment of pediatric arrhythmias. Am J Cardiol
1992; 69: 751-754.
318. Guccione P, Paul T, Garson A Jr. Long term follow-up of
amiodarone therapy in the young. J Am Coll Cadiol 1990; 15:
1118-1124.
319. Garson A Jr, Gillette PC, McVey P, et al. Amiodarone
treatment of critical arrhythmias in children and young adults.
J Am Coll Cardiol 1984; 4: 749-755.
320. Coumel P, Fidelle J. Amiodarone in the treatment of cardiac
arrhythmias in children. One hundred thirty-five cases. Am
Heart J 1980; 100: 1063-1069.
321. 大江 透,相原直彦,栗田孝志,他.特発性心室細動の
臨床的および電気生理学的特徴.心臓 1995; 27: 343-352.
322. Leenhardt A, Lucerty V, Denjoy I, et al. Cathecholaminergic
polymorphic ventricular tachycardia in children. A 7-year
follow-up of 21 patients. Circulation 1995; 91: 1512-1519.
323. Priori SG, Napolitano C, Tiso N, et al. Mutations in the
cardiac ryanodine receptor gene (hRyR2) underlie
catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia.
Circulation 2001; 103: 196-200.
324. Laitinen PJ, Brown KM, Piippo K, et al. Mutations of the
cardiac Ryanodine receptor (RyR2) gene in familial
polymorphic ventricular tachycardia. Circulation 2001; 103:
485-490.
325. Lahat H, Pras E, Olender T, et al. A missense mutation in a
highly conserved region of CASQ2 is associated with
autosomal recessive catecholamine-induced polymorphic
ventricular tachycardia in Bedouin families from Israel. Am J
Hum Genet 2001; 69: 1378-1384.
326. Lahat H, Eldar M, Levy-Nissenbaum, et al. Autosomal
recessive catecholamine- or exercise-induced polymorphic
ventricular tachycardia: clinical features and assignment of
the disease gene to chromosome 1p13-21. Circulation 2001;
103: 2822-2827.
327. Laithen PJ, Swan H, Kontula K. Molecular genetics of
exercise-induced polymorphic ventricular tachycardia:
identification of three novel cardiac ryanodine receptor
mutations and two common calsequestrin 2 amino-acid
polymorphisms. Eur J Hum Genet 2003; 11: 888-891.
328. Elder M, Pras E, Lahat H. A missense mutation in the
CASQ2 gene is associated with autosomal recessive
catecholamine-induced polymorphic ventricular tachycardia.
Trends Cardiovasc Med 2003; 13: 148-151.
329. PALS provider manual. Ralston M, Hazinski MF, Zaritsky
AL, et al. eds, 2006 American Heart Association.
330. PALS course guide. Ralston M, Hazinski MF, Zaritsky AL,
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
259
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
et al. eds, 2006 American Heart Association.
331. Sumitomo N, Sakurada H, Mugishima H, et al. Adenosine
Triphosphate Terminates Bidirectional Ventricular
Tachycardia in a Patient with Catecholaminergic Polymorphic
Ventricular Tachycardia. Heart Rhythm 2008; 5: 496-497.
332. Rosso R, Kalman JM, Rogowski O, et al. Calcium channel
blockers and beta-blockers versus beta-blockers alone for
preventing exercise-induced arrhythmias in catecholaminergic
polymorphic ventricular tachycardia. Heart Rhythm 2007; 4:
1149-1154.
333. Watanabe H, Chopra N, Laver D, et al. Flecainide prevents
catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia in
mice and humans. Nat Med 2009; 15: 380-383.
334. van der Werf C, Kannankeril PJ, Sacher F, et al. Flecainide
reduced exercise-induced ventricular arrhythmias in patients
with CPVT not controlled by conventional drug therapy. J Am
Coll Cardiol 2011; 57: 2244-2254.
335. Palanca V, Quesada A, Trigo A, et al. Arrhythmic storm
induced by AICD discharge in a patient with
catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia. Rev
Esp Cardiol 2006; 59: 1079-1083.
336. Wilde AA, Bhuiyan ZA, Crotti L, et al. Left cardiac
sympathetic denervation for catecholaminergic polymorphic
ventricular tachycardia. N Engl J Med 2008; 358: 2024-2029.
337. Scott PA, Sandilands AJ, Morris GE, et al. Successful
treatment of catecholaminergic polymorphic ventricular
tachycardia with bilateral thoracoscopic sympathectomy.
Heart Rhythm 2008; 5: 1461-1463.
338. Perry JC, McQuinn RL, Smith RT Jr, et al. Flecainide
acetate for resistant arrhythmias in the young: efficacy and
pharmacokinetics. J Am Coll Cardiol 1989; 14: 185-191.
339. Fujino H, Fujiseki Y, Shimada M. Electrophysiologic
effects of calcium blockers on supraventricular tachycardia in
children. J Cardiol 1989; 19: 307-315.
340. 長島正實,相羽純,牛ノ濱大也,他.小児不整脈治療の
ガイドライン-薬物治療を中心に-.日小循誌 2000; 16:
967-972.
341. Pass RH, Libeman L, Al-Fayaddh M, et al. Continuous
Intravenous Diltiazem Infusion for Short term Ventricular
Rate Control in children. Am J Cardiol 2000; 86: 559-561.
342. Wills BK, Liu JM, Wahl M. Third-degree AV Block from
Extended-release Diltiazem ingestion in a Nine-month old. J
Emerg Med 2008; 38: 328-331.
343. Boyer EW, Duic PA, Evans A. Hyperinsulinemia/
euglycemia therapy for calcium channel blocker poisoning.
Pediatr Emerg Care 2002; 18: 36-37.
344. Michael JB, Sztajnkrycer MD. Deadly pediatric poisons:
nine common agents that kill at low doses. Emerg Med Clin
North Am 2004; 22: 1019-1050.
345. Abbruzzi G, Stork CM. Pediatric toxicologic concerns.
Emerg Med Clin North Am 2002; 20: 223-247.
346. Yoshiga Y, Shimizu A, Yamagata T, et al. Beta-Blocker
Decreases the Increase in QT Dispersion and Transmural
Dispersion of Repolarization Induced by Bepridil. Circ J
260
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
2002; 66: 1024-1028.
347. Saul JP, Scott WA, Brown S, et al. Intravenous amiodarone
for incessant tachyarrhythmias in children: a randomized,
double-blind, antiarrhythmic drug trial. Circulation 2005;
112: 3470-3477.
348. Laer S, Elshoff JP, Meibohm B, et al. Development of a
safe and effective pediatric dosing regimen for sotalol based
on population pharmacokinetics and pharmacodynamics in
children with supraventricular tachycardia. J Am Coll Cardiol
2005; 46: 1322-1330.
349. Pfammater JP, Paul T, Lehmann C, at al. Efficacy and
proarrhythmias of oral sotarol in pediatric patients. J Am Coll
Cardiol 1995; 26: 1002-1007.
350. Sasaki T, Nemoto S, Ozawa H, et al. Successful
administration of nifekalant hydrochloride for postoperative
junctional ectoipc tachycardia in congenital cardiac surgery.
Kyobu Geka 2007; 60: 1022-1026 2005; 46: 1322-1330.
351. Takenaka K, Yasuda S, Miyazaki S,et al. Initial experience
with nifekalant hydrochloride(MS-551), a novel class III
antiarrhythmic agent, in patients with acute extensive
infarction and severe ventricular dysfunction. Jpn Circ J
2001; 65: 60-62.
352. Atarashi H, Kuruma A, Yashima M, et al. Pharmacokinetics
of landiolol hydrochloride, a new ultra-short-acting betablocker, in patients with cardiac arrhythmia. Clin Pharmacol
Ther 2000; 68: 143-150.
353. 徳永千穂,平松祐司,阿部正一,他.小児開心術後頻脈
性不整脈に対する超短時間作用型β 遮断薬 : 塩酸ランジオ
ロールの使用経験.日小循誌 2009; 25: 681-686.
354. Favale S, DiBiase M, Rizzo V, et al. Effect of adenosine
and adenosine-5t-triphosphate on atrioventricular conduction.
J Am Coll Cardiol 1985; 5: 1212-1219.
355. Byrum CJ, Wahl RA, Behrendt DM, et al. Ventricular
fibrillation associated with use of digitalis in a newborn infant
with Wolff-Parkinson-White syndrome. J Pediatr 1982; 101:
400-403.
356. Deal BJ, Keane JF, Gillette PC, et al. Wolff-ParkinsonWhite syndrome and supraventricular tachycardia during in
fancy: management and follow-up. J Am Coll Cardiol 1985;
5: 130-135.
357. Garson A Jr, Gillette PC, McNamara DG. Supraventricular
tachycardia in children: clinical features, response to
treatment, and long-term follow-up in 217 patients. J Pediatr
1981; 98: 875-882.
358. Pfammatter JP, Stocker FP. Re-entrant supraventricular
tachycardia in infancy: current role of prophylactic digoxin
treatment. Eur J Pediatr 1998; 157: 101-106.
359. Bendayan R, McKenzie MW. Digoxin pharmacokinetics
and dosage requirement in pediatric patients. Clin Pharm
1983; 2: 224-235.
360. 小児の高血圧.高血圧治療ガイドライン 2009.日本高
血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会.日本高血圧
学会 2009: 83-86.
361. Matthew LH, Paul WG, David CK. Underdiagnosis of
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Hypertension in Children and Adolescents. JAMA 2007; 298:
874-879.
362. J u l i e R I . H y p e r t e n s i o n i n C h i l d r e n : E n d o c r i n e
Considerations. Pediatric Endocrinology 5th edition. Fima L.
Informa Healthcare 2006: 263-274.
363. Falkner B, Daniels SR, Flynn JT, et al. National High
Blood Pressure Education Program Working Group on High
Blood Pressure in Children and Adolescents. The fourth
report on the diagnosis, evaluation, and treatment of high
blood pressure in children and adolescents. Pediatrics 2004;
114: 555-576.
364. Lurbe E, Cifkova R, Cruickshank JK, et al. Management of
high blood pressure in children and adolescents:
recommendations of the European Society of Hypertension. J
Hypertens 2009; 27: 1719-1742.
365. Kuczmarski RJ, Ogden CL, Grummer-Strawn LM, et al.
CDC growth charts: United States. Adv Data 2000; 314: 1-28.
366. McNiece KL, et al. Left Ventricular Hypertrophy in
Hypertensive Adolescents; Analysis of Risk by 2004 National
High Blood Pressure Education Program Working Group
Staging Criteria. Hypertension 2007; 50: 392-395.
367. Yang WC, Wu HP. Clinical analysis of hypertension in
children admitted to the emergency department. Pediatr
Neonatol 2010; 51: 44-51.
368. Adelman RD, Coppo R, Dillon MJ. The emergency
management of severe hypertension. Pediatric Nephrol 2000;
14: 422-427.
369. Vaughan CJ, Delanty N. Hypertensive emergencies. Lancet
2000; 356: 411-417.
370. Shinha MD, Reid CJ. Systemic Hypertension. Paediatric
Cardiology 3rd ed. Anderson, Baker 2010. Churchill
Livingstone :1191-1218.
371. A Zanitsky, D Whitby. Hypertension in the Pediatric
Intensive Care Unit. Pediatric Critical Care 3rd ed. Fuhrman,
Zimmerman 2006. Mosby: 1040-1052.
372. Daniels SR. Coronary Risk Factors In Children.
Hypertension. Moss and Adams’ Heart disease 7th ed. Allen
HD, et al. Lippincott Williams&Wilkins 2008: 1459-1479.
373. Flynn JT, Tullus K. Severe Hypertension in children and
adolescents: pathophysiology and treatment. Pediatr Nephrol
2009; 24: 1101-1112.
374. Silverstein DM, Chamopoux E, Aviles DH, et al. Treatment
of primary and secondary hypertension in children. Pediatr
Nephrol 2006; 21: 820-827.
375. Flynn JT, Mottes TA, Brophy PB, et al. Intravenous
nicardipine for treatment of severe hypertension in children. J
Pediatr 2001; 139: 38-43.
376. Verna Y, et al. The Safety and use of short-acting nifedipine
in hospitalized hypertensive children. Pediatr Nephrol 2004;
19: 644-650.
377. Marik PE, Varon J. Hypertensive crises: Challenges and
management. Chest 2007; 131: 1949-1962.
378. Mattoo TK, Stapleton FB, Kim MS. Epidemiology, risk
factors, and etiology of hypertension in children and
adolescents. UpToDate (last updated: April 2010)
379. Mitsnefes M, Flynn J, Cohn S, et al. Masked hypertension
associated with left ventricular hypertoropy in children with
CKD. J Am Soc Nephrol 2010; 21: 137.
380. Hadtstein C, Schaefer F. Hypertension in children with
chronic kidney disease: pathology and management. Pediatr
Nephrol 2008; 23: 363-371.
381. Hilgers KF, Dotsch J, Rascher W, Mann JF. Treatment
strategies in patients with chronic renal disease: ACE
inhibitors, angiotensin receptor antagonists, or both? Pediatr
Nephrol 2004; 19: 956-961.
382. Litwin M, Grenda R, Sladowska J. Add-on therapy with
angiotensin II recepror 1blocker in children with chronic
kidney disease already treated with angiotensin-converting
enzyme inhibitors. Pediatr Nephrol 2006; 21: 1716-1722.
383. Seeman T, Pohl M, Misselwitz J, et al. Angiotensin receptor
blocker reduces proteinuria independently of blood pressure
in children already treated with Angiotensin-converting
enzyme inhibitors. Kidney Blood Press Res 2009; 32: 440444.
384. Tullus K, Brennan E, Hamilton G, et al. Renovascular
hypertension in children. Lancet 2008; 371: 1453-1463.
385. Ellis D. Management of the Hypertensive Child. Pediatric
Nephrology 6th edition. Avner ED, Harmon WE, Niaudet P,
Yosikawa N Springer 2009: 1559-1576.
386. Cheung CM, Hegatry J, Kalra PA. Dilemmas in the
management of renal artery stenosis. Br Med Bull 2005; 7374: 35-55.
387. Garovic V, Textor SC. Renovascular hypertension and
ischemic nephropathy. Circulation 2005; 112: 1362-1374.
388. Hackam DG, Spence JD, Garg AX, et al. Role of Reninangiotensin system blockade in atherosclerotic renal artery
stenosis and renovascular hypertension. Hypertension 2007;
50: 998-1003.
389. Bogdanovic R. Diabetic nephropathy in children and
adolescents. Pedaitr Nephrol 2008; 23: 507-525.
390. Levitsky LL, Misra M, Wolfsdorf JI, et al. Complications
and screening in children and adolescents with type 1 diabetes
mellitus. UpToDate (last updated : May 2010)
391. P i n h a s - H a m i e l O , Z e i t l e r P. A c u t e a n d c h r o n i c
complications of type 2 diabetes mellitus in children and
adolescents. Lancet 2007; 369: 1823.
392. Laffel L, Svoren B, Wolfsdorf JI, et al. Comorbidities and
complications of type 2 diabetes mellitus in children and
adolescents. UpToDate (last updated: April 2010)
393. Standards of medical care in diabetes 2010. Diabetes Care
2010; 33 Suppl 1: S11.
394. Messerli FH, Bangalore S, Julius S. Risk/benefit assessment
of beta-blockers and diuretics preclude their use for first-line
therapy in hypertension. Circulation 2008; 117: 2706.
395. Bakris GL, Kaplan NM, Nathan DM, et al. Treatment of
hypertension in patients with daiabetes mellitus. UpToDate
(last updated: June 2010)
396. Sarafidis PA, Bakris GL. Antihypertensive treatment with
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
261
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
beta-blockers and the spectrum of glycaemic control. QJM
2006; 99: 431.
397. Havekes B, Romijin JA, Eisenhofer G, et al. Update on
pediatric pheochromocytoma. Pediar Nephrol 2009; 24: 943950.
398. William F, Young Jr. Endocrine Hypertension. Williams
Textbook of Endocrinology 11th edition. Kronenberg HM,
Melmed S, Polonsky KS, Lasen PR Saunders 2008: 505-537.
399. Flynn JT, Nahata MC, Mahan JD Jr, et al., PATH-2
Investigators. Population pharmacokinetics of amlodipine in
hypertensive children and adolescents. J Clin Pharmacol
2006; 46: 905-916.
400. Schaefer F, van de Walle J, Zurowska A, et al. Efficacy,
safety and pharmacokinetics of candesartan cilexetil in
hypertensive children from 1 to less than 6 years of age. J
Hypertens 2010; 28: 1083-1090.
401. US Food and Drug Administration. HIGHLIGHTS OF
PRESCRIBING INFORMATION. ATACAND® (candesartan
cilexetil) TABLETS. http://www.accessdata.fda.gov/
drugsatfda_docs/label/2009/020838s031lbl.pdf (Accessedn
on Dec. 31, 2010)
402. S a k a r c a n A , Te n n e y F, Wi l s o n J T, e t a l . T h e
pharmacokinetics of irbesartan in hypertensive children and
adolescents. J Clin Pharmacol 2001; 41: 742-749.
403. Wells T, Rippley R, Hogg R, et al. The pharmacokinetics of
enalapril in children and infants with hypertension. J Clin
Pharmacol 2001; 41: 1064-1074.
404. Hogg RJ, Delucchi A, Sakihara G, et al. A multicenter
study of the pharmacokinetics of lisinopril in pediatric
patients with hypertension. Pediatr Nephrol 2007; 22: 695701.
405. Aronoff GR, Bennet WM, Berns JS, et al. 臨床透析編集委
員会編集・翻訳.成人および小児における適正投薬法のガ
イドライン 腎不全時の薬物使用.原書第 5 版.東京,日
本メディカルセンター 2007: 242-273.
406. 平田純生,和泉智,古久保拓.透析患者への投薬ガイド
ブック・慢性腎臓病(CKD)の薬物治療.第 2 版.東京,
じほう 2009.
407. Mclntyre CW, Owen PJ. Prescribing Drugs in Kidney
Disease. Brenner BM edits. The Kidney. 8th ed. Philadelphia:
Saunders Elsevier: 1930-1952.
408. Bennet WM, Henrich WL, Stoff JS. The renal effects of
nonsteroidal anti-inflammatory drugs: summary and
recommendations. Am J Kidney Dis 1996; 28 (Suppl 1): S5662.
409. Blantz RC. Acetaminophen: acute and chronic effects on
renal function. Am J Kidney Dis 1996; 28 (Suppl 1): S3-6.
410. 日本腎臓病学会編 . CKD 診療ガイド 2009. 第 2 版.東京,
東京医学社 2009: 83-113.
411. NSF とガドリニウム造影剤使用に関する合同委員会(日
本医学放射線学会 , 日本腎臓学会)
.腎障害患者における
ガドリニウム造影剤使用に関するガイドライン . 2009 年 2
月.http://www.jsn.or.jp/guideline/
412. Hellden A, Odar-Cederlof I, Stahle L, et al. High serum
262
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
concentrations of the acyclovir main metabolite
9-carboxymethoxymethylguanine in renal failure patients
with acyclovir-related neuropsychiatric side effects: an
observational study. Nephrol Dial Transplant 2003; 18: 11351141.
413. St Peter WL, Redic-Kill KA, Halstenson CE. Clinical
pharmacokinetics of antibiotics in patients with impaired
renal function. Clin Pharmacokinet 1992; 22: 169-210.
414. 斉藤篤 . 腎障害時の化学療法 . 外科治療 1997; 72: 10801085.
415. 日本感染症学会,日本化学療法学会編.抗菌薬使用のガ
イドライン.東京,協和企画 2005: 29-33.
416. 田中英高 . 患者さんの背景・病態で考える 薬の選び方・
使い方のエッセンス . 小児 起立性調節障害 . 治療 2009;
91: 1418-1421.
417. Nelson textbook of pediatrics 19th edition 2011.
418. Badesch DB, Abman SH, Ahearn GS, et al. Diagnosis and
management of pulmonary arterial hypertension: ACCP
evidence-based clinical practice guidelines. Medical therapy
for pulmonary arterial hypertension. CHEST 2004; 126:
35S-62S.
419. Badesch DB, Abman SH, Simonneau G, et al. Medical
therapy for pulomonary arterial hypertension. Updated ACCP
evidence-based clinical practice guidelines. CHEST 2007;
131: 1917-1928.
420. Fraisse A, Jais X, Schleich JM, et al. Characteristics and
prospective 2-year follow-up of children with pulmonary
arterial hypertension in France. Arch Cardiovasc Dis 2010;
103: 66-74.
421. Barst RJ, Ertel SI, Beghetti M, et al. Pulmonary arterial
hypertension: a comparison between children and adults. Eur
Respir J 2011;37: 665-677.
422. Rubin LJ, Rich S. Primary pulmonary hypertension. Lung
biopsy in health and disease Vol.99. Marcel Dekker, Inc.,
New York 1997: 275-280.
423. Weir EK, Rubin LJ, Ayres SM, et al. The acute administration
of vasodilators in primary pulmonary hypertension.
Experience from the national institute of health registry on
primary pulmonary hypertension. Am Rev Respir Dis 1989;
140: 1623-1630.
424. Barst RJ, Maislin G, Fishman AP. Vasodilator therapy for
primary pulmonary hypertension in children. Circulation
1999; 99: 1197-1208.
425. Roberts DH, Lepore JJ, Maroo A, et al. Oxygen therapy
improves cardiac index and pulmonary vascular resistance in
patients with pulmonary hypertension. Chest 2001; 120:
1547-1555.
426. Sitbon O, Brenot F, Denjean A, et al. Inhaled nitric oxide as
a screening vasodilator agent in primary pulmonary
hypertension. A dose-response study and comparison with
prostacyclin. Am J Respir Crit Care Med 1995; 151: 384389.
427. Galie N, Humbert M, Vachiery JL, et al. Effects of
beraprost sodium, an oral prostacyclin arterial hypertension:
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
A randomized, double-blind, placebo trial J Am Coll Cardiol
2002; 39: 1496-1502.
428. Barst RJ, McGoon M, McLaughlin V, et al. Beraprost
Therapy for pulmonary arterial hypertension. J Am Coll
Cardiol 2003; 41: 2119-2125.
429. Yung D, Widlitz AC, Rosenzweig EB, et al. Outcome in
children with idiopathic pulmonary arterial hypertension.
Circulation 2004; 110: 660-665.
430. Maiya S, Hislop AA, Flynn Y, et al. Response to bosentan
in children with pulmonary hypertension. Heart 2006; 92:
664-670.
431. Beghtti M, Hoeper MM, Kiely DG, et al. Safety experience
with bosentan in 146 children 2-11 years old with pulmonary
arterial hypertension: Result from the European
postmarketing surveillance program. Pediatr Res 2008; 64:
200-204.
432. Paul GA, Gibbs JSR, Boobis AR, et al. Bosentan decreases
the plasma concentration of sildenafil when coprescribed in
pulmonary hypertension. Br J Clin Pharmacol 2005; 60: 107112.
433. Barst RJ, Ivy DD, Gaitan G, et al. A randomized, doubleblind, placebo-controlled, dose-ranging study of oral
sildenafil citrare citrate in treatment-naïve children with
pulmonary hypertension. Circulation 2012; 125: 324-334.
434. Galie N, Ghofrani HA, Torbicki A, et al. Sildenafil citrate
therapy for pulmonary arterial hypertension. N Engl J Med
2005; 353: 2148-2157.
435. Namachivayam P, Theilen U, Butt WW, et al. Sildenafil
prevents rebound pulmonary hypertension after withdrawal of
nitric oxide in children. Am J Respir Crit Care Med; 2006:
1042-1047.
436. Nagendran J, Archer SL, Soliman D, et al. PDE5 is highly
expressed in the hypertrophied human right ventricle and
acute inhibition of PDE5 improves contractility. Circulation
2007; 116: 238-248.
437. Sitbon O, Rubin LJ, Long WA, et al. Long-term response to
calcium channel blockers in idiopathic pulmonary arterial
hypertension. Circulation , 2005; 111: 3105-3111.
438. Richardson P, McKenna W, Bristow M, et al. Report of the
1995 World Health Organization/International Society and
Federation of Cardiology task force on the definition and
classification of cardiomyopathies. Circulation 1996; 93: 841842.
439. 市田蕗子,佐地勉,梶野浩樹,他.平成 21 年度希少疾
病サーベイランス調査結果.日小循誌 2010; 26: 348-350.
440. Heersche JH, Blom NA, Van de Heuvel F, et al. Implantable
Cardioverter defibrillator therapy for prevention of sudden
cardiac death in children in the Netherlands. Pacing Clin
Electrophysiol 2009; 33: 179-185.
441. Melacini P, Maron BJ, Bobbo F, et al. Evidence that
pharmacological strategies lack efficacy for the prevention of
sudden death in hypertrophic cardiomyopathy. Heart 2007;
93: 708-710.
442. Fidler LM, Wilson GJ, Liu F, et al. Abnormal connexin43
in arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy caused
by plakophilin-2 mutations. J Cell Mol Med 2009; 13: 42194228.
443. The Digitalis Investigation Group. The effect of digoxin on
mortality and morbidity in patients with heart failure. N Engl
J Med 1997; 336: 525-533.
444. Pasquali SK, Hall M, Slonim AD, et al. Off-label use of
cardiovascular medications in children hospitalized with
congenital and acquired heart disease. Circ Cardiovasc Qual
Outcomes 2008; 1: 74-83.
445. Venugopalan P, Agarwal AK, Worthing EA. Chronic
cardiac failure in children due to dilated cardiomyopathy:
diagnostic approach, pathophysiology and management. Eur J
Pediatr 2000; 159: 803-810.
446. Shaddy RE, Boucek MM, Hsu DT, et al. Pediatric
Carvedilol Study Group, Carvedilol for children and
adlescents with heart failure: a randomised controlled trial.
JAMA 2007; 298: 1171-1179.
447. Cochrane Database of Systematic Reviews. Beta-blockers
for congestive heart failure in children. 1, 2009.
448. Amiodarone Trials Meta-Analysis Investigators. Effect of
prophylactic amiodarone on mortality after acute myocardial
infarction and in congestive heart failure: meta-analysis of
individual data from 6500 patients in ramdomised trials.
Lancet 1997; 350: 1417-1424.
449. 住友直方,岩本眞理,牛ノ濱大地,他.小児循環器学会
「小児不整脈の診断・治療に関する検討委員会」
.小児不整
脈の診断・治療ガイドライン.日小循誌 2010, supple.
450. Ostman-Smith I. Hypertrophic cardiomyopathy in
childhood and adolescence – strategies to prevent sudden
death. Fund & Clin Pharmacol 2010; 24: 637-652.
451. Duncan WJ, Tyrrell MJ, Bharadwal BB. Disopyramide as a
negative inotrope in obstructive cardiomyopathy in children.
Can J Cardiol 1991; 7: 81-86.
452. Klugman D, Berger JT, Sable CA, et al. Pediatric patients
hospitalized with myocarditis: a multi-institutional analysis.
Pediatr Cardiol 2010; 31: 222-228.
453. Drucker NA, Drucker NA, Colan SD, et al. Gammaglobulin treatment of acute myocarditis in the pediatric
population. Circulation 1994; 89: 252-257.
454. 日本小児循環器学会学術委員会(委員長:佐地勉).小児
期急性・劇症心筋炎の診断と治療の指針.日小循誌 2006;
22: 514-524.
455. 柴田利満,心外膜疾患,高尾篤良,他編.臨床発達心臓
病学(改訂 3 版)
.中外医学社,東京 2005: 788-793.
456. Okuda M. A multidisciplinary overview of cardiogenic
shock. Shock 2006; 25: 557-570.
457. Peacock WFI, Weber JE. Cardiogenic Shock. In: Tintinalli
JE ed. Emergency Medicine. 6 ed. New York, The McGrawHill Companies 2004: 242-247.
458. Bell LM. Shock. In: Fleicher GR, Ludwig S eds. Textbook
of Pediatric Emergency Medicine. 6 ed. Philadelphia,
Lippincott Williamas & Wilkins 2010: 46-57.
459. Kleinman ME, de Caen AR, Chameides L, et al. Pediatric
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
263
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
basic and advanced life support: 2010 International Consensus
on Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency
Cardiovascular Care Science with Treatment
Recommendations. Pediatrics 2010; 126: e1261-318.
460. Kitamura T, Iwami T, Kawamura T, et al. Conventional and
chest-compression-only cardiopulmonary resuscitation by
bystanders for children who have out-of-hospital cardiac
arrests: a prospective, nationwide, population-based cohort
study. Lancet 2010; 375: 1347-1354.
461. Atkins DL, Everson-Stewart S, Sears GK, et al.
Epidemiology and outcomes from out-of-hospital cardiac
arrest in children: the Resuscitation Outcomes Consortium
Epistry-Cardiac Arrest. Circulation 2009; 119: 1484-1491.
462. Bardai A, Berdowski J, van der Werf C, et al. Incidence,
causes, and outcomes of out-of-hospital cardiac arrest in
children. A comprehensive, prospective, population-based
study in the Netherlands. J Am Coll Cardiol 2011; 57: 18221828.
463. Berg MD, Schexnayder SM, Chameides L, et al. Part 13:
pediatric basic life support: 2010 American Heart Association
Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and
Emergency Cardiovascular Care. Circulation 2010; 122:
S862-875.
464. Nadkarni VM, Larkin GL, Peberdy MA, et al. First
documented rhythm and clinical outcome from in-hospital
cardiac arrest among children and adults. JAMA 2006; 295:
50-57.
465. Zingarelli B. Shock and reperfusion injury. In: Nichols
DGea ed. Roger’s Textbook of Pediatric Intensive Care. 4 ed.
Philadelphia, Lippincott Williams & Wilkins 2008: 252-265.
466. McAneney CM. Basic life support. In: King C, Henretig
FM eds. Textbook of Pediatric Emergency Procedures. 2 ed.
Philadelphia, Lippincott Williams & Wilkins 2008: 79-92.
467. Goldstein B, Giroir B, Randolph A. International pediatric
sepsis consensus conference: definitions for sepsis and organ
dysfunction in pediatrics. Pediatr Crit Care Med 2005; 6: 2-8.
468. Dellinger RP, Levy MM, Carlet JM, et al. Surviving Sepsis
Campaign: international guidelines for management of severe
sepsis and septic shock: 2008. Intensive Care Med 2008; 34:
17-60.
469. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン.循環器医
のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン.
Circ J 2009;73, Supple III: 1361-1456.
470. Dellinger RP, Levy MM, Carlet JM, et al. Surviving Sepsis
Campaign: international guidelines for management of severe
sepsis and septic shock: 2008. Crit Care Med 2008; 36: 296327.
471. Sakr Y, Reinhart K, Vincent JL, et al. Does dopamine
administration in shock influence outcome? Results of the
Sepsis Occurrence in Acutely Ill Patients (SOAP) Study. Crit
Care Med 2006; 34: 589-597.
472. Aschner JL, Poland RL. Sodium bicarbonate: basically
useless therapy. Pediatrics 2008; 122: 831-835.
473. Barton P, Garcia J, Kouatli A, et al. Hemodynamic effects
264
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
of i.v. milrinone lactate in pediatric patients with septic shock.
A prospective, double-blinded, randomized, placebocontrolled, interventional study. Chest 1996; 109: 1302-1312.
474. Irazuzta JE, Pretzlaff RK, Rowin ME. Amrinone in
pediatric refractory septic shock: An open-label
pharmacodynamic study. Pediatr Crit Care Med 2001; 2: 2428.
475. Human albumin administration in critically ill patients:
systematic review of randomised controlled trials. Cochrane
Injuries Group Albumin Reviewers. BMJ 1998; 317: 235240.
476. Schierhout G, Roberts I. Fluid resuscitation with colloid or
crystalloid solutions in critically ill patients: a systematic
review of randomised trials. BMJ 1998; 316: 961-964.
477. Alderson P, Schierhout G, Roberts I, et al. Colloids versus
crystalloids for fluid resuscitation in critically ill patients.
Cochrane Database Syst Rev 2000: CD000567.
478. Alderson P, Bunn F, Lefebvre C, et al. Human albumin
solution for resuscitation and volume expansion in critically
ill patients. Cochrane Database Syst Rev 2002: CD001208.
479. Wills BA, Nguyen MD, Ha TL, et al. Comparison of three
fluid solutions for resuscitation in dengue shock syndrome. N
Engl J Med 2005; 353: 877-889.
480. Boluyt N, Bollen CW, Bos AP, et al. Fluid resuscitation in
neonatal and pediatric hypovolemic shock: a Dutch Pediatric
Society evidence-based clinical practice guideline. Intensive
Care Med 2006; 32: 995-1003.
481. Alderson P, Bunn F, Lefebvre C, et al. Human albumin
solution for resuscitation and volume expansion in critically
ill patients. Cochrane Database Syst Rev 2004: CD001208.
482. Ceneviva G, Paschall JA, Maffei F, et al. Hemodynamic
support in fluid-refractory pediatric septic shock. Pediatrics
1998; 102: e19.
483. Neumar RW, Nolan JP, Adrie C, et al. Post-cardiac arrest
syndrome: epidemiology, pathophysiology, treatment, and
prognostication. A consensus statement from the International
Liaison Committee on Resuscitation (American Heart
Association, Australian and New Zealand Council on
Resuscitation, European Resuscitation Council, Heart and
Stroke Foundation of Canada, InterAmerican Heart
Foundation, Resuscitation Council of Asia, and the
Resuscitation Council of Southern Africa); the American
Heart Association Emergency Cardiovascular Care
Committee; the Council on Cardiovascular Surgery and
Anesthesia; the Council on Cardiopulmonary, Perioperative,
and Critical Care; the Council on Clinical Cardiology; and the
Stroke Council. Circulation 2008; 118: 2452-2483.
484. Branco RG, Garcia PC, Piva JP, et al. Glucose level and
risk of mortality in pediatric septic shock. Pediatr Crit Care
Med 2005; 6: 470-472.
485. Faustino EV, Apkon M. Persistent hyperglycemia in
critically ill children. J Pediatr 2005; 146: 30-34.
486. 麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン第 3 版 . http://
www.anesth.or.jp/safety/drugs3.html(2012 年 8 月閲覧)
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
487. Katoh T, Ikeda K. Minimum alveolar concentration of
sevoflurane in children. Br J Anaesth 1992; 68: 139-141.
488. Higuchi H, Adachi Y, Wada H, et al. The effect of
sevoflurane and isoflurane on renal function in patients with
stable moderate renal insufficiency. Anesth Analg 2001; 92:
650-655.
489. 酒井資之,大隅昭幸,矢野博文,他.イソフルレンの吸
収,分解,排泄に関する臨床的研究.麻酔 1987; 36: 15601565.
490. 厚生省健康政策局医療技術開発室 監修 . 財団法人医療
機器センター編 . 医療ガス保安管理ハンドブック(改訂版)
第 4 章医療ガス設備・機器 . ぎょうせい,東京 1993. 6393
ス設備 .
491. Eger EI, Saidman LJ. Minimum alveolar anesthetic
c o n c e n t r a t i o n : A s t a n d a r d o f a e s t h e t i c p o t e n c y.
Anesthesiology 1965; 26: 756-763.
492. Baum VC. When nitrous oxide is no laughing matter:
nitrous oxide and pediatric anesthesia. Pediatr Anaesth 2007;
17: 824-830.
493. Carton EG, Wanek LA, Housmans PR. Effect of nitrous
oxide on contractility, relaxation and the intracellular calcium
transient of isolated mammalian ventricular myocardium. J
Pharmacol Exp Ther 1991; 257: 843-849.
494. S m i t h N T, E g e r E I Ⅱ, S t o e l t i n g P K , e t a l . T h e
cardiovascular and sympathomimetic responses to the
addition of nitrous oxide to halothane in man. Anesthesiology
1970; 32: 410-421.
495. Eger EI Ⅱ, Saidman LJ. Hazards of nitrous oxide
anesthesia in bowel obstruction and pneumothorax.
Anesthesiology 1965; 26: 61-66.
496. Robin R, Seaberg RR, Freeman WR, et al. Permanent
postoperative vision loss associated with expansion of
intraocular gas in the presence of a nitrous oxide-containing
anesthetic. Anesthesiology 2002; 97: 1309-1310.
497. Eger FI Ⅱ. Uptake of inhaled anesthetics: The alveolar to
inspired anesthetic difference; Anesthetic uptake an action.
Williams & Wilkins 1974: 77-96.
498. Becker DE, Rosenberg M. Nitrous oxide and the inhalation
anesthetics. Anesth Prog 2008; 55: 121-131.
499. Dunn-Russell T, Adair SM, Sams DR, et al. Oxygen
saturation and diffusion hypoxia in children following nitrous
oxide sedation. Pediatr Dent 1993; 15: 88-92.
500. Gutstein HB, Akil H. Opioid analgesics. In Hardman JG,
Limbird LE (eds); Goodman and Guilman’s pharmacological
basis of therapeutics, 10th ed. McGraw-Hill 2001: 569-619.
501. Bissonnette B, Dalens B. Pediatric anesthesia Principles &
Method. McGraw-Hill 2002: 259-265.
502. Clotz MA, Nahata MC. Clinical use of fentanyl, sufentanyl
and alfentayl. Clin Phar 1991; 10: 581-593.
503. Hickley PR, Hansen DD, Wessel Dl. Pulmoary and
systemic hemodynamic response to fentanyl in infants.
Anesth Analg 1985; 65: 483-486.
504. Pasternak GW, Bondnar RJ, Clerk JA, et al. morphine-6glucronide, a potent mu agonist. Life Sci 1987; 41: 2845-
2849.
505. Radnay PA, Duncalf D, Novakovic M, et al. Common bile
duct pressure changes after fentanyl, morphine, meperidine,
butorphanol and naloxone. Anesth Analg 1984; 63: 441-444.
506. Lang E, Kapila A, Shlugman D, et al. Reduction of
isoflurane minimal alveolar concentration by remifentanil.
Anesthesiology 1996; 85: 721-728.
507. Reid JE, Mirakhur RK. Bradycardia after administration of
remifentanil. Br J Anaesth 2000; 84: 422-423.
508. Dershwitz M, Hoke JF, Rosow CE, et al. Pharmacokinetics
and pharmacodynamics of remifentanil in volunteer subjects
with severe liver disease.Anesthesiology 1996; 84: 812-820.
509. Hoke JF, Shlugman D, Dershwitz M, et al. Pharmacokinetics
and pharmacodynamics of remifentanil in persons with renal
failure compared with healthy volunteers. Anesthesiology
1997; 87: 533-541.
510. Ross AK, Davis PJ, Dear Gd GL, et al. Pharmacokinetics
of remifentanil in anesthetized pediatric patients undergoing
elective surgery or diagnostic procedures. Anesth Analg 2001;
93: 1393-1401( Ⅱ-c).
511. Chung F, Mulier JP, Scholz J, et al. A comparison of
anaesthesia using remifentanyl combined with either
Isoflurane, Enflurane or propofol in patients underging
gynaecological laparoscopy, varicose vein or arthroscopic
surgery. Acta Anaesthesiol Scand 2000; 44: 790-798.
512. Wilhelm W, Grundmann U, Van Aken H, et al. A
multicenter comparison of isoflurane and propofol as adjuncts
to remifentanyl-based anesthesia. J Clin Anesth 2000; 12:
129-135.
513. Doufas AG, Lin CM, Suleman MI, et al. Dexmedetomidine
and meperidine additively reduce the shivering threshole in
humans. Stroke 2003; 34: 1218-1223.
514. Kose EA, Dal D, Kinci SB, et al. The efficacy of ketamine
for the treatment of postoperative shivering. Anesth Analg
2008; 106: 120-122.
515. Albrecht S, Schuttler J, Yarmush J. Postoperative pain
management after intraoperative remifentanyl. Anesth Analg
1999; 89: S40-S45.
516. Egan TD, Huizinga B, Gupta SK, et al. Remifentanyl
pharmacokinetics in obese versus lean patients.
Anesthesiology 1998; 89: 562-573.
517. Lin C, Durieux ME. Ketamine and kids: an update. Pesiatr
Anesth 2005; 15: 91-97.
518. Takeshita H, Okuda Y, et al. The effects of ketamine on
cerebral circulation and metabolism in man.Anesthesiology
1972; 36: 69-75.
519. Harrison NL, Sear JW. Chapter 24- Intravenous anesthetics:
barbiturates, etomidate, propofol, ketamne, and steroids. In
Evers AS, Maze M (eds). Anesthetic pharmacology. Churchill
Livingstone 2004: 395-416.
520. Roberts IG. Barbiturates for acute traumatic brain injury.
Cochrane Database of Syst Rev 1999; 3: CD000033.
521. Jhonson TN, Rostami-Hodjegan A, Goddard JM, et al.
Contribution of midazolam and its 1-hydroxy metabolic to
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
265
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
preoperative sedation in children: a pharmacokineticpharmacodynamic analysis. Br J Anaesth 2002; 89: 428-437.
522. Servin F, Cockshott ID, Farintti R, et al. Pharmacokinetics
of propofol infusions in patients with cirrhosis. Br J Anaesth
1990; 65: 177-183.
523. Ickx B, Cockshott ID, Barvais L, et al. Propofol infusion
for induction and maintenance of anaesthesia in patients with
end-stage renal disease. Br J Anaesth 1998; 81: 854-860.
524. Vasile B, Rasulo F, Candiani A, et al. The pathophysiology
of propofol infusion syndrome: a simple name for a complex
syndorome. Intensive Cara Med 2003; 29: 1417-1425.
525. Wolf A, Wier P, Segar P, et al. Impaired fatty acid oxidation
in propofol infusion syndrome. Lancet 2001; 357: 606-607.
526. Playfor S, Jenkins I, Boyles C, et al., United Kingdom
Paediatric Intensive Care Society Sedation; Analgesia and
Neuromuscular Blockade Working Group. Consensus
guidelines on sedation and analgesia in critically ill children.
Intensive Care Med 2006; 32: 1125-1136.
527. Koroglu A, Tekasan H, Sagir O, et al. A comparison of the
s e d a t i v e , h e m o d y n a m i c , a n d r e s p i r a t o r y e ff e c t o f
dexmedetomidine and propofol in children undergoing
resonance imaging. Anesth Analg 2006; 103: 63-67.
528. Berkenbosch JW, Wankun PC, Tobias JD, et al. Prospective
evaluation of dexmedetomidine for noninvasive procedural
sedation in children. Peidatr Crit Care Med 2005; 6: 435-439.
529. Phan H, Nahata MC. Clinical uses of dexmedetomidine in
pediatric patients. Pediatr Drugs 2008; 10: 49-69.
530. Petroz GC, Sikich N, James M, et al. A phase I, two-center
study of the pharmacokinetics and pharmacodynamics of
dexmedetomidine in children. Anesthesiology 2006; 105:
1098-1110 (II-c).
531. 新宮 興,増澤宗洋,表圭一,他.Org9426(臭化ロク
ロニウム)の筋弛緩作用—臭化ベクロニウムとの比較—.
麻酔 2006; 55; 1140-1148
(I )
.
532. Khuenl-Brady K, Castagnoli KP, Canfell PC, et al. The
neuromuscular blocking effect and pharmacokinetics of
ORG9426 and ORG 9616 in the cat. Anesthesiology 1990;
72: 669-674.
533. Wie r d a J M , K l eef U W, L am b al k L M , et al . Th e
pharmacodynamics and pharmacokinetics of Org 9426, a new
non-depolarizing neuromuscular blocking agent, in patients
anaesthetized with nitrous oxide, halothane and fentanyl. Can
J Anesth 1991; 38: 430-435.
534. Shevchenko Y, Jocson JC, McRae VA, et al. The use of
lidcaine for preventing the withdrawal associated with the
injection of rocuronium in children and adolescents. Anesth
Analg 1999; 88: 746-748.
535. Niwa K, Nakazawa M, Miyatake K, et al. Survey of
prophylaxis and management of infective endocarditis in
patients with congenital heart disease–Japanese nationwide
survey-. Circ J 2003; 67: 585-591.
536. Ferrieri P, Gewitz MH, Gerber MA, et al. Unique features
of infective endocarditis in childhood. Circulation 2002; 105:
2115-2126.
266
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
537. Day MD, Gauvreau K, Shulman S, et al. Characteristics of
children hospitalized with infective endocarditis. Circulation
2009; 119: 865-870.
538. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン.感染性心
内膜炎の予防 と治療に関するガイドライン
(2008 年改訂
版)
. http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2008_
miyatake_h.pdf
539. Filippo SD, Delahaya F, Semiond B, et al. Current patterns
of infective endocarditis in congenital heart disease. Heart
2006; 92: 1490-1495.
540. 中澤誠,石和田稔彦,市田蕗子,他.小児心疾患と成人
先天性心疾患における感染性心内膜炎の管理,治療と予防
ガイドライン.日小循誌 2011(掲載待ち)
.
541. Niwa K, Nakazawa M, Tateno S, et al. Infective endocarditis
in congenital heart disease: Japanese national collaboration
study. Heart 2005; 91: 795-800.
542. Yoshinaga M, Niwa K, Niwa A, et al. Risk factors for inhospital mortality during infective endocarditis in patients
with congenital heart disease. Am J Cardiol 2008; 101: 114118.
543. Graham JC, Gould FK. Role of aminoglycosides in the
treatment of bacterial endocarditis. J Antimicrob Chemother
2002; 49: 437-444.
544. Ishiwada N, Niwa K, Tateno S, et al. Pneumococcal
endocarditis in children: A nationwide survey in Japan. Int J
Cardiol 2007; 123: 298-301.
545. Huang JH, Hsu RB. Treatment of infective endocarditis
caused by methicillin-resistant Staphylococcus aureus:
Teicoplanin versus Vancomycin in a retrospective study.
Scand J Infect Dis 2008; 40: 462-467.
546. Hasegawa K, Yamamoto K, Chiba N, et al. Diversity of
ampicillin-resistance genes in Haemophilus influenzae in
Japan and the United States. Microb Drug Resist 2003; 9: 3946.
547. Osmon S, Ward S, Fraser VJ, et al. Hospital mortality for
patients with bacteremia due to Staphylococcus aureus or
Pseudomonas aeruginosa. Chest 2004; 125: 607-616.
548. Pappas PG, Rex JH, Sobel JD, et al. Guidelines for
treatment of candidiasis. Clin Infect Dis 2004; 38: 161-189.
549. Ishiwada N, Niwa K, Tateno S, et al. Causative organisms
influences clinical profile and outcome of infective
endocarditis in pediatric patients and adults with congenital
heart disease. Circ J 2005; 69: 1266-1270.
550. Nakatani S, Mitsutake K, Hozumi T, et al. Current
characteristics of infective endocarditis in Japan: an analysis
of 848 cases in 2000 and 2001. Circ J 2003; 67: 901-905.
551. Onoda K, Mizutani H, Komada T, et al. Atopic dermatitis
as a risk factor for acute native valve endocarditis. J Heart
Valve Dis 2000; 9: 469-471.
552. Zamorano J, Sanz J, Almeria C, et al. Differences between
endocarditis with true negative blood cultures and those with
previous antibiotic treatment. J Heart Valve Dis 2003; 12:
256-260.
553. Breitkopf C, Hammel D, Schld HH, et al. Impact of a
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
molecular approach to improve the maicrobiological
diagnosis of infective heart valve endocarditis. Circulation
2005; 111: 1415-1421.
554. Wilson W, Taubert KA, Gewitz M, et al. Prevention of
infective endocarditis.Guidelines from the American Heart
Association. Circulation 2007; 116: 1736-1754.
555. Lockhart PB, Brennan MT, Kent ML, et al. Impact of
amoxicillin prophylaxis on the incidence, nature, and duration
of bacteremia in children after intubation and dental
procedures. Circulation 2004; 109: 2878-2884.
556. Nishi J, Yoshinaga M, Nomura Y, et al. Prevalence of
Penicillin-resistant viridans Streptococci in the oral flora of
Japanese children at risk for infective endocarditis.
Circulation 1999; 99: 1274-1275.
557. 石和田稔彦 . わが国における小児および成人先天性心疾
患における感染性心内膜炎の実態 . 小児感染免疫 2005; 17:
315-324.
558. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン . 成人先天
性心疾患診療ガイドライン(2011 年改訂版). http://www.
j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_niwa_h.pdf
559. Moore KI, Persaud TVN. Before we are born: Essential of
Embryology and birth defects, 6th edn. Philadelphia, PA: W.
B. Saunders 2003: 263-304.
560. Herrera C, Holberton J, Davis P. Prolonged versus short
course of indomethacin for the treatment of patent ductus
arteriosus in preterm infants. Cochrane Datebese of Systematic
Reviews, Issure2, Art.no.CD003480,DOI:10.1002/14651858.
CD003480.pub3:2007
561. Yeh TF, et al. Intravenous indomethacin therapy in
premature infants with persistant ductus arteriosus- a double
blind controlled study. J Pediatr 1981; 98: 137.
562. Archer N. Cardiovascular disease Roberton’s Textbook of
neonatology,4th edn. Philadelphia, PA, Elsevier Churchill
Livingston 2005: 619-660.
563. 豊 島 勝 昭, 森 臨 太 郎, 西 原 正 泰, 他. 医 療 の 標 準 化
PDA の診断と治療.未熟児新生児誌 21; 2009: 191-198.
564. Malviya M, Ohlsson A, Shah S. Surgical versus medical
treatment with cyclooxygenase inhibitors for symptomatic
patent ductus arteriosus in preterm infants. Cochrane
Database Syst Rev 2008; 1: CD003951. Review.
565. Gork AS, Ehrenkranz RA, Bracken MB. Continuous
infusion versus intermittent bolus doses of indomethacin for
patent ductus arteriosus closure in symptomatic preterm
infants. Cochrane Database Syst Rev 2008; 1: CD006071.
566. Fowlie PW, Davis PG. Prophylactic intravenous
indomethacin for preventing mortality and morbidity in
preterm infants. Cochrane Database Syst Rev 2002; 3:
CD000174.
567. 諫山哲哉,平野慎也,森臨太郎,他.早産児における予
防的経静脈的インドメタシン投与の有効性の検討 2002 年
Cochrane Review と Neonatal Research Network(NRN)研
究とのメタアナリシス . 未熟児新生児誌 2008; 20: 479.
568. Vohr BR, Allan WC, Ment LR, et al. School-age outcomes
of very low birth wight infants in the indomethacin
intraventricular hemorrage prevention trial. Pediatrics 2003;
111: e340-346.
569. Shinya Hirano, Masanori Fujimura, Satoshi Kusuda.
Prevalence of cerebral palsy at 3-5 years of age who
participated in an RCT for the prevention of intraventricular
hemorrhage by indomethacin in Japanese extremely low
birthweight infants. On behalf of the Neonatal Research
Network Japan Pediatric Academic Societies and Asian
Society for Pediatric Research 2008 Joint Meeting.
570. Schmidt,B, et al. Long-term effects of Indomethacin
prophylaxis in extremely-low-birth weight infants. N Engl J
Med 2001; 344: 1966-1972.
571. 長屋建,青柳裕之,森臨太郎,他.未熟児動脈管開存症
の外科的治療において手術例数が多い施設での治療は手術
例数が少ない施設の治療に比べて合併症は少ないか(効果
的か)? 未熟児動脈管開存症診療ガイドラインから(第二
報)
.未熟児新生児誌 2008; 20: 479.
572. Overmeire BV, et al. A comparison of ibuprofen and
indomethacin for patent ductus arteriosus. N Engl J Med
2000; 343: 674-681.
573. Thomas RL, et al. A meta-analysis of ibuprofen versus
indomethacin for closere of patient ductus arteriosus. Eur J
Pediar 2005; 164: 135-140.
574. OhlssonA, Walia R, Shah SS. Ibuprofen for the treatment
of patent ductus arteriosus in preterm and/or low birth weight
infants. Cochrane Database of Systematic Review, Issue1, art,
No.CD003481.DOI:10.1002/14651858.CD003481.pub3.
575. Seri I. Management of hypotention and low systemic blood
flow in the very low birth weight neonates during the first
postnatal week. J Perinatol 2006; 26: S8-S13.
576. Tsuji M, Saul JP, du Plessis A, et al. Cerebral intravascular
oxygenation correlates with mean arterial pressure in critically
ill premature infants. Padiatr 2000; 106: 625-632.
577. Subhedar NV, Shaw NJ. Dopamine versus dobutamine for
hypotensive preterm infants, Cochrane Datebase of
Systematic Reviews 2003, issure 3. [DOI:10.1002/14651858.
CD001242]
578. Levene MI, Tudehope DI, Sinha S. Essential neonatal
medicine, 4th edn. Oxford, Blackwell 2008: 176-192.
579. Osborn DA, Evans N, Kluckow M. Clinical detection of
low upper body blood flow in very preterm infants using
blood pressure ,critical refill time, and central-peripheral
temperature difference. Arch Dis Childh: Fetal and Neonatal
Edition 2004; 89: F168-173.
580. Kluckow M, Evans N. Superior vena cava flow in newborn
infants: a novel marker of systemic blood flow,Arch Dis
Childh:Fetal and Neonatal Edition 2000; 82: F182-187.
581. Kourembanas S. ’Shock’ Manual of neonatal care, 6th edn.
Philadelphia, PA: Lippincott 2008: 176-180.
582. So KW, Fol TF, Cheung KL, et al. Randomised control trial
of colloid or crystalloid in hypotensive preterm infants.1997;
76: F43-46.
583. Osborn DA, Evans N, Kluckow M. Randomised trial of
dobutamine versus dopamine in preterm infants with low
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
267
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
systemic blood flow J Pediatr 2002 ; 140: 183-190.
584. Osborn DA, Paradisis M, Evans N. The effect of inotropes
on morbidity and mortality in preterm infants with low
systemic or organ blood flow. Cochrane Datebase of
Systematic Reviews 2007; Issue 1.[DOI:10.1002/14651858.
CD005090]
585. Berrington KJ, Finer NN, Chan WKY. A blind randomized
comparison of the circulatory effects of dopamine and
epinrphline infusion in the newborn piglet during normoxia
and hypoxia.Critical Care Medicine 1995; 23: 740-748.
586. Paradisis M, Osborn DA. Adrenalin for prevention of
morvidity and mortality in preterm infants with
cardiovascular compromise. Cochrane Datebase of Systematic
Reviews 2004; Issue 1.[DOI:10.1002/14651858.CD003958]
587. 2005 International Liaison Committee on Resuscitation,
American Heart Association, and European Resuscitation
Counci. 2005 American Heart Association Guideline for
Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency
Cardiovascular Care: Part7. Neonatal Resuscitaion.
Circulation 2005; 112(suppl): Ⅲ 91-99.
588. 日本版救急蘇生ガイドライン 2010 に基づく新生児蘇生
法テキスト 改訂第 2 版.東京,メディカルビュー社 2010:
76-83.
589. Ng PC, Lam CW, Fok TF, et al. Refractory hypotention in
preterm infants with adrenocorticol insufficiency.Arch Dis
Childlh: Fetal and Neonatal Edn 2001; 84: F122-124.
590. Seri I. Hydrocortisone and vasopuressor-resistant shock in
preterm neonates Pediatr 2006; 117: 516-518.
591. N g P C , C h e u k L H , B n u r F L , e t a l . A d o u b l e
blind,randomized,controlled study of a stress dose of
hydrocortisone for rescue treatment of refractory hypotention
in preterm infants. Pediatr 2006; 117: 367-375.
592. Abman SH. Recent advances in the pathogenesis and
treatment of persistent pulmonary hypertension of the
newborn. Neonatology 2007; 91: 283-290.
593. Van Marter LJ. Persistent pulmonary hypertension of the
newborn. Manual of neonatal care 6th edn. Philadelphia, PA:
Lippincott 2008: 358-364.
594. Kinsella JP, Abman SH. Clinical approach to inhaled NO
therapy in the newborn. J pediatrics 2000; 136: 717-726.
595. Clark RH, Kueser TJ, Walker MW, et al. Low-dose nitric
oxide therapy for persistant pulmonary hypertention of the
newborn. N Engl J Med 2000; 342: 469-474.
596. Finer N, Barrington KJ. Nitric oxide for respiratory failure
in infants born at or near term(Review). Cochrane Database
Syst Rev 2006; 4: CD000399.
597. Rang HP, Dale MM, Ritter JM, et al. Rang and Dole ’
spharmacology, 6th edn. Philadelphia, PA: Churchill
Livingstone Elsevier 2007: 331-346.
598. 佐地勉,山田修,中山智孝,他.小児期肺動脈性肺高血
圧症症例におけるエポプロステノール治療の有効性と安全
性の長期検討―市販後使用成績調査からの検討―.心臓
2008; 40: 34-43.
599. Bronen M. Prostacyclin treatment for persistent pulmonary
268
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
hypertension of the newborn. Pediatr Cardiol 1997; 18: 3-7.
600. Baquero H, Soliz A, Neira F, et al. Oral sildenafil in infants
with persistent pulmonary hypertension of the newborn: a
pilot randomized blinded study. Pediatrics 2006; 117: 10771083.
601. Barrington KJ, Finer NN. Inhaled nitric oxide for
respiratory failure in preterm infants. Cochrane Database Syst
Rev 2006; 1: CD000509.
602. Shah PS, Ohlsson A. Sildenafil for pulmonary hypertension
in neonates. Cochrane Database Syst Rev 2007; 3:
CD005494.
603. Bassler D, Kreutzer K, McNamara P, et al. Milrinone for
persistent pulmonary hypertension of the newborn (Protocol).
Cochrane Database Syst Rev 2009; 2: CD007802.
604. Ho JJ, Rasa G. Magnesium sulfate for persistent pulmonary
hypertension of the newborn. Cochrane Database Syst Rev
2007; 3: CD005588.
605. UK Collaborative Trial Group. UK collaborative randmised
trial of neonatal extracorporeal membranous oxygenation.
Lancet 1996; 348: 75-82.
606. Wolf GK , Arnold JH. Extracorporeal membranous
oxygenation. Manual of Naonatal Care 6th edn. Philadelphia,
PA: Lippincott 2008: 346-352.
607. 久田欣一,飯沼武,有水昇,他(日本アイソトープ協会
医学・薬学部会核医学イメージング規格化専門委員会)
.
核医学イメージングのための小児への放射線医薬品投与量
に関する勧告 . Radioisotopes 1988; 37: 627-632.
608. Va l e n t i n J . R a d i a t i o n d o s e t o p a t i e n t s f r o m
radiopharmaceuticals, ICRP publication 80:(addendum 2 to
ICRP publication 53)approved by commission in September
1997. Ann ICRP 1998; 28: 1-123.
609. Thompson RC, Cullom SJ. Issues regarding radiation
dosage of cardiac nuclear and radiography procedures. J Nucl
Cardiol 2006; 13: 19-23.
610. 近藤千里 . 小児心血管画像検査に伴う放射線被曝 . 日小
循誌 2007; 23: 434-439.
611. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン.心臓核医
学検査ガイドライン(2010 年改訂版).http://www.j-circ.
or.jp/guideline/pdf/JCS2005_tamaki_h.pdf(平成 2011 年 8 月
14 日閲覧).
612. 唐澤賢祐,鮎沢衛,能登信孝,他.川崎病冠動脈狭窄性
病変における 99mTcTetrofosmin 心筋血流イメージングの
至適撮像方法に関する検討 . J Cardiol 1997; 30: 331-339.
613. Germano G, Erel J, Lewin H, et al. Automatic quantitation
of regional myocardial wall motion and thickening from gated
technetium-99m sestamibi myocardial perfusion singlephoton emission computed tomography. J Am Coll Cardiol
1997; 30: 1360-1367.
614. Monzen H, Hara M, Hirata M, et al. Exploring a technique
for reducing the influence of scattered rays from surrounding
organs to the heart during the myocardial perfusion
scintigraphy technetium-99m sestamibi and technetium-99m
tetrofosmin. Ann Nucl Med 2006; 20: 705-710.
615. Kanamaru H, Karasawa K, Ichikawa R, et al. Dual
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
myocardial scintigraphy mismatch in an infant with BlandWhite-Garland syndrome. Int J Cardiol 2009; 135: e1-3.
616. Hoshina M, Shiraishi H, Igarashi H, et al. Efficacy of
iodine-123-15-(p-iodophenyl)-3-R, S-methylpentadecanoic
acid single photon emission computed tomography imaging
in detecting myocardial ischemia in children with Kawasaki
disease. Circ J 2003; 67: 663-666.
617. Kondo C, Nakazawa M, Kusakabe K, et al. Myocardial
dysfunction and depressed fatty acid metabolism in patients
with cyanotic congenital heart disease. J Nucl Cardiol 1996;
3: 30-36.
618. Terai H, Shimizu M, Ino H, et al. Changes in cardiac
sympathetic nerve innervation and activity in
pathophysiologic transition from typical to end-stage
hypertrophic cardiomyopathy. J Nucl Med 2003; 44: 16121617.
619. Kondo C, Nakazawa M, Momma K, et al. Sympathetic
denervation and reinnervation after arterial switch operation
for complete transposition. Circulation 1998; 97: 2414-2419.
620. 唐澤賢祐,鮎沢衛,能登信孝,住友直方,他.小児期慢
性 心 不 全 に お け る 心 交 感 神 経 機 能 に 関 す る 検 討:
Iodine-123 metaiodobenzylguanidine 心筋シンチグラフィー
を用いて . J Cardiol 2000; 36: 387-395.
621. Matsuura H, Ishikita T, Yamamoto S, et al. Gallium-67
myocardial imaging for the detection of myocarditis in the
acute phase of Kawasaki disease (mucocutaneous lymph node
syndrome): the usefulness of single photon emission
computed tomography. Br Heart J 1987; 58: 385-392.
622. Yoshibayashi M, Tamaki N, Nishioka K, et al. Regional
myocardial perfusion and metabolism assessed by positron
emission tomography in children with Kawasaki disease and
significance of abnormal Q waves and their disappearance.
Am J Cardiol 1991; 68: 1638-1645.
623. Prabhu AS, Singh TP, Morrow WR, et al. Safety and
efficacy of intravenous adenosine for pharmacologic stress
testing in children with aortic valve disease or Kawasaki
disease. Am J Cardiol 1999; 83: 284-286, A286.
624. Hauser M, Bengel FM, Kuhn A, et al. Myocardial blood
flow and flow reserve after coronary reimplantation in
patients after arterial switch and ross operation. Circulation
2001; 103: 1875-1880.
625. 山崎純一,西村恒彦,西村重敬,他.SUNY4001( アデ
ノシン)負荷 201TL 心筋シンチグラフィの虚血診断能およ
び安全性 - 臨床第 III 相試験 - 核医学 2004; 41: 133-142.
626. Karasawa K, Ayusawa M, Noto N, et al. Optimum protocol
of technetium-99m tetrofosmin myocardial perfusion imaging
for the detection of coronary stenosis lesions in Kawasaki
disease. J Cardiol 1997; 30: 331-339.
627. Kondo C, Hiroe M, Nakanishi T, et al. Detection of
coronary artery stenosis in children with Kawasaki disease.
Usefulness of pharmacologic stress 201Tl myocardial
tomography. Circulation 1989; 80: 615-624.
628. Hamamichi Y, Ichida F, Tsubata S, et al. Dobutamine stress
radionuclide ventriculography reveals silent myocardial
dysfunction in Kawasaki disease. Circ J 2002; 66: 63-69.
629. 唐澤賢祐,鮎沢 衛,能登信孝,他.川崎病後冠状動脈狭
窄に対するドブタミン負荷 Thallium-201 myocardial SPECT.
日小循誌 1994; 9: 723-733.
630. 中田智明,渡辺重行,松尾仁司,他.負荷心筋シンチグ
ラフィに関する安全指針.心臓核医学 2008; 38: 6-10.
631. Ya m a m o t o S , M a t s u u r a H , U m e z a w a T, e t a l .
Dipyridamole-induced ischemia in a child with jeopardized
collaterals after Kawasaki syndrome. Jpn Heart J 1990; 31:
867-874.
632. Mertes H, Sawada SG, Ryan T, et al. Symptoms, adverse
effects, and complications associated with dobutamine stress
echocardiography. Experience in 1118 patients. Circulation
1993; 88: 15-19.
633. 日本肝移植研究会 . 肝移植症例登録報告 . 移植 2010; 45:
621-632.
634. 日本臨床腎移植学会,移植学会.腎臓移植臨床登録集計
報 告(2010)-3 2009 年 経 過 追 跡 調 査 結 果. 移 植 2010;
45: 608-620.
635. 白石武史,他.小児肺移植-世界の事情と日本の展望.
今日の移植 2010; 23: 534-542.
636. 小野安生,福嶌教偉.小児期拡張型心筋症の自然予後.
心臓移植対象例における検討.Annual Review 2008: 297301.
637. 服部新三郎 . 小児腎不全の疫学調査 . 腹膜透析 2005; 21:
1315-1322.
638. 日本小腸移植研究会 . 本邦小腸移植症例登録報告 . 移植
2010; 45: 652-654.
639. Dew MA, Dabbs AD, Myakovsky L, et al. Metaanalysis of
medical regimen adherence outcomes in pediatric solid organ
transplantation. Transplantation 2009; 88: 736-746.
640. Kirk R, Edwards LB, Aurora P, et al. Registry of the
International Society for Heart and Lung Transplantation:
twelfth official pediatric heart transplantation report—2009. J
Heart Lung Transplant 2009; 28: 993-1006.
641. Gossett JG, Canter CE, Zheng J, et al. Decline in rejection
in the first year after pediatric cardiac transplantation: a multiinstitutional study. J Heart Lung Transplant 2010; 29: 625632.
642. Schmauss D, Weis M. Cardiac allograft vasculopathy:
recent developments. Circulation 2008; 117: 2131–2141.
643. Russo LM, Webber SA. Pediatric heart transplantation:
immunosuppression and its complications. Curr Opin Cardiol
2004; 19: 104-109.
644. Reddy SC, Laughlin K, Webber SA. Immunosuppression in
Pediatric Heart Transplantation: 2003 and Beyond. Curr Treat
Options Cardiovasc Med 2003; 5: 417-428.
645. Lobach NE, Pollock-BarZiv SM, West LJ, et al. Sirolimus
immunosuppression in pediatric heart transplant recipients: a
single-center experience. J Heart Lung Transplant 2005; 24:
184-189.
646. Sarwal MM. Out with the old, in with the new:
immunosuppression minimization in children. Curr Opin
Organ Transplant 2008; 13: 513-521.
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
269
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)
647. P a t e l J , K o b a s h i g a w a J A . M i n i m i z a t i o n o f
immunosuppression. Transplant Immunol 2008; 20: 48-54.
648. Singh TP, Faber C, Blume ED, et al. Safety and early
outcomes using a corticosteroid-avoidance
immunosuppression protocol in pediatric heart transplant
recipients. J Heart Lung Transplant 2010; 29: 517-522.
649. Simmonds J, Dewar C, Dawkins H, et al. Tacrolimus in
pediatric heart transplantation: ameliorated side effects in the
steroid-free, statin era. Clin Transplant 2009; 23: 415–419.
650. U b e r P, M e h r a M . I n d u c t i o n t h e r a p y i n h e a r t
transplantation: is there a role? J Heart Lung Transplant 2007;
26: 205-209.
651. Ensor CR, Cahoon WD, Hess ML, et al. Induction
immunosuppression for orthotopic heart transplantation: a
review. Prog Transplant 2009; 19: 333-342.
652. Boucek RJ, Naftel D, Boucek MM, et al. Induction
immunotherapy in pediatric heart transplant recipients: a
multicenter study. J Heart Lung Transplant 1999; 18: 460469.
653. Di Fillippo S, Boissonnat P, Sassolas F, et al. Rabbit
antithymocyte globulin as induction immunotherapy in
pediatric heart transplantation. Transplantation 2003; 75: 354358.
654. Gajarski RJ, Blume ED, Schchtman K, et al. Use of
induction agents and incidence of infection and malignancy
following pediatric heart transplantation. J Heart Lung
Transplant 2010; 29: 2S-S70.
655. Pollock-BarZiv SM, Allain-Rooney T,Manlhiot C, et al.
Continuous infusion of thymoglobulin for induction therapy
in pediatric heart transplant recipients; experience and
outcomes with a novel strategy for administration. Pediatr
Transplant 2009; 13: 585-589.
656. Flaman F, Zieroth S, Rao V, et al. Basiliximab versus rabbit
anti-thymocyte globulin for induction therapy in patients after
heart transplantation. J Heart Lung Transplant 2006; 25:
1358-1362.
657. Mehra MR, Zucker MJ, Wagoner L, et al. A multicenter,
prospective, randomized, double-blind trial of basiliximab in
heart transplantation. J Heart Lung Transplant 2005; 24:
1297-1304.
658. Mattei MF, Redonnet M, Gandjbakhch I, et al. Lower risk
of infectious deaths in cardiac transplant patients receiving
basiliximab versus anti-thymocyte globulin as induction
therapy. J Heart Lung Transplant 2007; 26: 693-699.
659. Grundy N, Simmonds J, Dawkins H, et al. Pre-implantation
basiliximab reduces incidence of early acute rejection in
pediatric heart transplantation. J Heart Lung Transplant 2009;
28: 1279-1284.
660. Leonard H, Hornung T, ParryG, et al. Pediatric cardiac
transplant: results using a steroid-free maintenance regimen.
Pediatr Transplant 2003; 7: 59-63.
661. Fullerton DA, Campbell DN, Jones SD, et al. Heart
transplantation in children and young adults: early and
intermediate-term results. Ann Thorac Surg 1995; 59: 804-
270
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
811.
662. Smith RR, Wray J, Khaghani A, et al. Ten year survival
after paediatric heart transplantation: a single centre
experience. Eur J Cardiothorac Surg 2005; 27: 790-794.
663. Hmiel SP, Canter C, Shepherd R, et al. Limitations of
cyclosporine C2 monitoring in pediatric heart transplant
recipients. Pediatr Transplant 2007; 11: 524-529.
664. Filler G, Rocha de Barros V, Jagger JE, et al. Cyclosporin
twice or three times daily dosing in pediatric transplant
patients—It is not the same! Pediatr Transplant 2006; 10:
953-956.
665. Webber SA. The current state of, and future prospects for,
cardiac transplantation in children. Cardiol Young 2003; 13:
64-83.
666. Girnita DM, Webber SA, Ferrell R, et al. Disparate
distribution of 16 candidate single nucleotide polymorphisms
among racial and ethnic groups in pediatric heart transplant
patients. Transplantation 2006; 82: 1774-1780.
667. Zheng HX, Webber SA, Zeevi A, et al. The impact of
pharmacogenomic factors on steroid weaning in pediatric
heart transplant patients using logistic regression analysis.
Pediatr Transplant 2004; 8: 551-557.
668. Temple-Smolkin R, Burckart GJ, Zeevi A. Gene
polymorphisms and pharmacogenomics. In Pediatric solid
organ transplantation, edn 2nd. By Fine RN, Webber SA,
Olthoff KM, et al. Malden: Blackwell Publishing 2007.
669. Knight SR, Morris PJ. Does the evidence support the use of
mycophenolate mofetil therapeutic drug monitoring in clinical
practice? A systematic review. Transplantation 2008; 85:
1675-1685.
670. Abe T, Ichimaru N, Okumi M, et al. Pregnancy after renal
transplantation: A single-center experienceInternational
Journal of Urology 2008; 15: 587-592.
671. Tönshoffa B, David-Netob E, Ettengerc R, et al. Pediatric
aspects of therapeutic drug monitoring of mycophenolic acid
in renal transplantation. Transplantation Reviews 2011; 25:
78-89.
672. Ohmann EL, Burckart GJ, Brooks MM, et al. Genetic
polymorphisms influence mycophenolate mofetilrelated
adverse events in pediatric heart transplant patients. J Heart
Lung Transplant 2010; 29: 509-516.
673. Massari P, Duro-Garcia V, Giron F, et al. Safety assessment
of the conversion from mycophenolate mofetil to entericcoated mycophenolate sodium in stable renal transplant
recipients. Transplant Proc 2005; 37: 916-919.
674. Yi T, Cuchara L, Wang Y, et al. Human allograft arterial
injury is ameliorated by sirolimus and cyclosporine and
correlates with suppression of interferon-gamma.
Transplantation 2006; 81: 559-566.
675. Raichlin E, Bae JH, Khalpey Z, et al. Conversion to
sirolimus as primary immunosuppression attenuates the
progression of allograft vasculopathy after cardiac
transplantation. Circulation 2007; 116: 2726-2733.
676. Pauly D, Starling R, Kobashigawa J, et al. Heart transplant
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
recipients treated with everolimus have less increase in
intimal thickness vs MMF, Irrespective of lipid values. J
Heart Lung Transplant 2011; 30: S26.
677. Balfour IC, Scrun SW, Wood EG, et al. Early renal benefit
of rapamycin combined with reduced calcineurin inhibitor
dose in pediatric heart transplantation patients. J Heart Lung
Transplant 2006; 25: 518-522.
678. Chinnock RE, Baum MF, Larsen R, et al. Rejection
management and long-term surveillance of the pediatric heart
transplant recipient: the Loma Linda experience. J Heart Lung
Transplant 1993; 12 (suppl): S255-S264.
679. Feingold BF, Olesnevich P, Zeevi A, et al. Survival in
allosensitized children after listing for cardiac transplantation.
J Heart Lung Transplant 2007; 26: 565-571.
680. Pollock-BarZiv SM, den Hollander N, Ngan BY, et al.
Pediatric heart transplantation in human leukocyte antigen
sensitized patients: evolving management and assessment of
intermediate-term outcomes in a high-risk population.
Circulation 2007; 116(11 Suppl): I172-I178.
681. Holt DB, Lublin DM, Phelan DL, et al. Mortality and
morbidity in pre-sensitized pediatric heart transplant
recipients with a positive donor crossmatch utilizing perioperative plasmapheresis and cytolytic therapy. J Heart Lung
Transplant 2007; 26: 876-882.
682. Dipchand AI, BarZiv SM, Manlhiot C, et al. Equivalent
Outcomes for Pediatric Heart Transplantation Recipients:
ABO-Blood Group Incompatible versus ABO-Compatible.
Am J Transplant 2010; 10: 389-397.
683. Kaposztas Z, Podder H, Mauiyyedi S, et al. Impact of
rituximab therapy for treatment of acute humoral rejection.
Clin Transplant 2009; 23: 63-73.
684. Everly JJ, Walsh RC, Alloway RR, et al. Proteasome
inhibition for antibody-mediated rejection. Curr Opin Organ
Transplant 2009; 14: 662-666.
685. Morrow WR, Frazier E, Mahle W, et al. Proteasome
inhibitor-based therapy for antibody mediated rejection in
pediatric heart transplantation. Am J Transplant 2010;
10(Supp 4): 93.
686. Kirklin JK, George JF, McGriffin DC, et al. Total lymphoid
irradiation: is there a role in pediatric heart transplantation? J
Heart Lung Transplant 1993; 12: S293-S300.
687. Kirklin JK, Brown RN, Huang ST, et al. Rejection with
hemodynamic compromise: objective evidence for efficacy of
photopheresis. J Heart Lung Transplant 2006; 25: 283-288.
688. Russell-Jones R. Shedding light on photopheresis. Lancet
2001; 357: 820.
689. George JF, Gooden CW, Guo L, et al. Role for CD4(+)
CD25(+) T cells in inhibition of graft rejection by
photopheresis. J Heart Lung Transplant 2008; 27: 616-622.
690. Baker EJ, Formularly, Pediatric Cardiology, 3rd ed
Anderson RH, et al ed. Churchill Livingstone/ Elsevier
Philadelphia, PA 2009: 1299-1303.
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012
271