2010 年度卒業論文 非一様な環境におけるパターン形成 -上下分割- 龍谷大学 理工学部 数理情報学科 T070047 住岡 優 指導教員 池田 勉 非一様な環境におけるパターン形成 -上下分割理工学部 数理情報学科 学籍番号 T070047 氏名 住岡 優 指導教員 池田 勉 概要 本研究は,Belousov-Zhabothinsky 反応のパターン形成を C 言語で作成し,シミュレー ションしたものである.Belousov-Zhabothinsky 反応というのは,反応気質,触媒,酸化 剤,金属触媒,などを混ぜ合わせることで,濃度の均等な水溶液にもかかわらず,リズ ムやパターンが自発的につくり出される化学反応のことである.本研究の目的は,その Belousov-Zhabothinsk y 反応であらわれるパターンが,空間一様な環境の場合と空間非一 様な環境の場合でどのように違うのかを調べることである.数理モデルには2変数系の常 微分方程式である FitzHugh-Nagumo 方程式を用いた.境界条件は周期境界条件である. 空間一様な環境の場合の領域は長方形領域 Ω とし,空間非一様な環境の場合の領域は長 方形領域 Ω を上下で半分に分割し,下の領域を Ω1 ,上の領域を Ω2 とした領域である. この時,空間一様な環境の場合の拡散係数は d であり,空間非一様な環境の場合の拡散 係数は Ω1 の部分では d1 で一定,Ω2 の部分では d2 で一定である.本研究では,陽的差 分近似を採用してターゲットパターンとスパイラルパターンの2つのパターンの数値実験 を行った.ターゲットパターンは特定の格子点に刺激を与えることで発生する.数値実験 では刺激を与える場所を,空間非一様な環境の場合の領域の境界上になるように,長方形 領域のちょうど中心となる位置とした.スパイラルパターンは,特定の格子点にターゲッ トパターンのパルス解を記録させたデータから初期値を与えることで発生する.数値実 験では,空間非一様な環境の場合の領域の境界上にスパイラルの先端が発生するように 初期値を与えた.このような条件で数値実験を行い,全てのパターンにおいて縦方向のパ ルスの幅・間隔・伝播速度を定規に計測・計算し,比較した.空間一様な環境の場合,パ √ ルスの幅・間隔・伝播速度は d に比例することが分かっているらしい.実験結果のパ ルスの幅・間隔・伝播速度をそれぞれ計測・計算し,グラフ化してみたところ,ターゲッ トパターンもスパイラルパターンも空間一様な環境の場合は,少しずれている部分もあっ √ たが,大体 d に比例するような形のグラフになっていた.空間非一様な環境の場合は, d1 が一定の時, d2 の値に関わらず Ω1 の幅・間隔・伝播速度はほぼ同じであり, d2 が一 定の時は d1 の値に関わらず Ω2 の幅・間隔・伝播速度はほぼ同じであった.よって, Ω1 での挙動は d1 によって決まり,Ω2 での挙動は d2 によって決まっているということが分 かった.このような結果から,ターゲットパターンもスパイラルパターンもパルスの広が り方は他方の領域の拡散係数には関係していないと考えられる. 目次 第 1 章 はじめに 1.1 研究の動機 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1.2 Belousov-Zhabotinsky 反応について . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1 1 1 第 2 章 FitzHugh-Nagmo 方程式 2.1 境界条件 . . . . . . . . . . . . . 2.2 領域 . . . . . . . . . . . . . . . 2.2.1 空間一様な環境 . . . . . 2.2.2 空間非一様な環境の場合 . . . . 3 4 5 5 5 第 3 章 陽的差分近似 3.1 空間一様な環境の場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3.2 空間非一様な環境の場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 6 7 第 4 章 数値実験 4.1 ターゲットパターン . . 4.1.1 空間一様な環境 . 4.1.2 空間非一様な環境 4.2 スパイラルパターン . . 4.2.1 空間一様な環境 . 4.2.2 空間非一様な環境 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 11 11 13 15 15 17 第 5 章 終わりに 21 5.1 まとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 –i– 第 1 章 はじめに 1.1 研究の動機 3年次の必修の授業である数理情報演習のテーマがリズム現象の実験とコンピュータ・ シミュレーションであった.同期現象や引き込み現象といったリズム運動を実際に観察す ることができるものを選び,実験することになった.リズム運動がみられるものの中にメ トロノームの同期振動・塩水振動子・ペットボトル振動子・化学反応である Briggs-Rauscher 反応や Belousov-Zhabotinsky 反応などの振動反応・樟脳船などがあることを池田教授か ら聞き,それら実験の様子をビデオ等で見せてもらった.その際に私が自分で実験して実 際に見てみたいと思ったのが Belousov-Zhabotinsky 反応という振動反応だったので,私 は Belousov-Zhabotinsky 反応の化学実験・シミュレーションに取り組むことを決めた.し かし, Belousov-Zhabotinsky 反応の化学実験は危険な薬品を使うということもあり,実 際に自分で実現することはできなかった.そこで同学部の物質科学科の方にお願いしたと ころ,実際の Belousov-Zhabotinsky 反応の実験を見せてもらうことができた.その時に Belousov-Zhabotinsky 反応の化学実験では,何回も同じパターンをきれいに形成させる のはとても難しいことであると知った.よって,本研究では数値実験を用いてそのパター ンを再現することとし,その際の領域内を空間一様な環境にした場合と,領域内のある区 間で環境を変化させた空間非一様な環境の場合で,発生するパターンやパルスにどのよう な違いがあるのかを調べることにした. 1.2 Belousov-Zhabotinsky 反応について Belousov-Zhabothinsky 反応とは,反応気質,触媒,酸化剤,金属触媒,などを混ぜ合 わせることで起きる反応である.均等な水溶液であるにも関わらずリズムやパターンが 自発的につくり出される化学反応で,振動反応の代表的な例として知られているもので ある.これは,ソ連の生物物理学者である B.P.Belousovg が 1951 年に発見した現象であ る.生物でのエネルギー代謝にかかわる重要な反応系としてトリカルボン酸サイクルが ある.これは,生物がとり入れた糖や脂肪が分解し,酸化反応により ATP を合成して いく過程にみられる有機酸の化学反応系のことである.彼は,このトリカルボン酸サイ クルの化学反応に関係しているクエン酸などの基質をいろいろな触媒を使って酸化させ る実験を進めているときに,たまたま反応液の酸化・還元反応が繰り返して起きる現象 1 を見出し論文にまとめて提出したが,どの学会誌にも掲載されることはなかった.その 後,同じくソ連の化学者である A.M.Zhabothinsky が Belousov の実験の追試を行い,化 学反応のリズムがより明瞭な形で現れる実験系を確立した.そこで,2人の名をとって BelousovZhabothinsky 反応(B-Z 反応)あるいは,単にジャボチンスキー反応と呼ばれ ている.[3] Belousov-Zhabothinsky 反応で発生するパターンに図 1.2.1 のターゲットパターンと図 1.2.2 のスパイラルパターンがある.ターゲットパターンは刺激を与えてやることで発生 し,時間の経過とともにダーツの的のような同心円状のパルスが次々に発生し,周囲に 広がっていく.図 1.2.1 では,刺激を与えた中心から(ペースメーカー)周期的な波が発 生し,伝播していっている様子を表している.スパイラルパターンは,ターゲットパター ンの構造壊すためにをガラス棒でわざとこすったり,細いガラス管で息を吹きかけたり, ペトリ皿を傾けたりすることでスパイラルパターンが発生することが分かっている.図 1.2.2 では,スパイラルパターンが発生し,伝播していっている様子を表している.2つ の図の赤くなっている部分は金属 F e2+ が還元状態であることを示しており,白くなって いる部分 (実際の Belousov-Zhabothinsky 反応では青) は金属 F e2+ が酸化状態であること を示している.[2] このような空間的パターンをつくり出す現象を空間的振動反応という が,振動反応とは言っても水面できる波のような液面が上下する振動ではなく,液面は水 平のままで化学反応のみがパターンをつくりながら空間的に伝播していく.また,波同士 が衝突すると,お互いに波が消失する.これは普通の水面にできる波は衝突すると干渉縞 が生じるが,この空間的振動反応ではこれがない.このような現象は非線形の示す一つ の特徴であり,神経膜での電気パルスの衝突の際でも同じようなことが観察されている. このように, Belousov-Zhabothinsky 反応におけるターゲットパターンやスパイラルパ ターンが発生し成長する様子をシミュレートする研究はすでに数多くなされており,微分 方程式も複雑なものから簡略化したものに至るまで,さまざまな式について議論が行われ てきている.[3] 図 1.2.1: ターゲットパターン [4] 図 1.2.2: スパイラルパターン [4] 2 第 2 章 FitzHugh-Nagmo 方程式 この章では, 本研究に用いた FitzHugh-Nagmo 方程式について述べる. FitzHugh-Nagmo 方程式は,神経細胞にみられる活動電位について記述した4変数系 の Hodgkin-Huxley 方程式を簡単化した2変数系の連立常微分方程式であるり,FitzHugh と南雲(Nagumo)によって考え出された.この方程式は,神経にみられる興奮性や振動 性を再現することができるだけでなく,非線形の一般的なモデルとしてよく用いられるも のである.この方程式で再現される神経パルスと Belousov-Zhabothinsky 反応でみられる ターゲットパターンやスパイラルパターンが似ているため,本研究では式の形が単純な2 変数系の FitzHugh-Nagmo 方程式を利用した.1次元での FitzHugh-Nagumo 方程式は 以下の形で表される.[5] ut = uxx + u(1 − u)(u − a) − v + I(t, x) vt = ²(u − γv) (−∞ < x < ∞,t > 0) (−∞ < x < ∞,t > 0) (2.0.1) (2.0.2) u(t, x) は時刻 t ,神経繊維上の点 x における電位差に対応し, v(t, x) は興奮を抑制す る因子の密度に対応し, I(t, x) は外部からの刺激を表している. (2.0.1),(2,0,2) 式の連立方程式は,進行するパルスを表す解をもつ.ここで出現するパ ルスは形を保ったまま伝播していく.このようなパルスに次のような特徴があることが分 かっている.[1] 1. 閾値 ある閾値以上の刺激を与えると,刺激の強さとは関係なく一定のパルスが発生する. しかし,その閾値に達していない刺激の場合はパルスは発生しない.図 2.0.1 の黄 色部分は閾値以上の刺激がある部分を,黒い部分は刺激が一定の閾値に達しておら ず,パルスが生じていない部分を表している. 2. 一定の伝播速度 神経パルスの伝播速度はほぼ一定である. 3. 衝突消滅 お互いに逆の方向に進行するパルス同士が衝突すると,両方とも完全に消滅する. 3 4. 不応期 パルスが発生した後,再び同じ位置に刺激を与えても,ある一定時間が経過した後 でなければパルスは生じない.そのため,刺激の間隔が長ければパルスが次々と発 生し進行していくが,間隔が短いとパルスは抑制されて消滅してしまう. 以上の 4 つの特徴は,神経パルスの伝播の性質であるのと同時に Belousov-Zhabothinsky 反応でみられる性質でもある. 本研究では,パルスの空間的広がりを二次元である長方形領域で再現するため,まず (2.0.1) と (2.0.2) の方程式を二次元の方程式に書き換えた. ux = uxx + uyy + u(1 − u)(u − a) − v + I(t, x, y) vt = ²(u − γv) (x, y) ∈ Ω,t > 0 (2.0.3) (x, y) ∈ Ω,t > 0 (2.0.4) ここで,Ω は長方形領域を表している.u(t, x, y) は時刻 t ,神経繊維上の点 (x, y) におけ る電位差に対応し,v(t, x, y) は興奮を抑制する因子の密度に対応し, I(t, x, y) は外部か らの刺激を表している.t は時間,(x, y) は長方形領域上の位置である.a は 0 < a < 1/2 を満たす定数,² は小さな正の定数,γ は単安定になるような正の定数である. 次に本研究では,パルスの拡散のスピードを変化させて空間一様な環境と空間非一様な 環境を作り出すため,拡散係数 d を (2.0.3) 式に付け加え, ut = duxx + duyy + u(1 − u)(u − a) − v + I(t, x, y) vt = ²(u − γv) (x, y) ∈ Ω, t > 0 (2.0.5) (x, y) ∈ Ω, t > 0 (2.0.6) という拡散方程式で研究を進めた. 2.1 境界条件 境界条件は,周期境界条件 u(t, 0, y) = u(t, Lx , y) u (t, 0, y) = u (t, L , y) x x x u(t, x, 0) = u(t, x, Ly ) uy (t, x, 0) = uy (t, x, Ly ) y ∈ (0, Ly ), t > 0 y ∈ (0, Ly ), t > 0 x ∈ (0, Lx ), t > 0 x ∈ (0, Lx ), t > 0 である. 4 (2.1.1) 2.2 2.2.1 領域 空間一様な環境 まず,空間一様な環境の領域について説明する. 長方形領域 Ω を考える.Ω = (0, Lx ) × (0, Ly ) である.この長方形領域そのものを空間 一様な環境における領域と考える.長方形領域をわかりやすく図にしたものが図 2.2.1 で ある.空間一様な環境における領域 Ω 内の拡散係数は d で一定である. 2.2.2 空間非一様な環境の場合 次に,空間非一様な環境の領域について説明する. 空間一様な環境の領域である長方形領域 Ω を図 2.2.2 のように上下半分で分割し,それ ぞれ 下の領域を Ω1 ,上の領域を Ω2 とした.よって,領域 Ω1 , Ω2 は ( ) Ω1 = (0, Lx ) × 0, Ly ( 2 ) Ω2 = (0, Lx ) × Ly , Ly 2 とあらわされる.この時,領域 Ω1 では拡散係数 d1 で一定,Ω2 では拡散係数 d2 で一定 である.また,領域 Ω1 , Ω2 の境界線上は2つの領域をまたがっており,どちらの領域から 2 となっている. も影響を受けているので,拡散係数は d1 +d 2 図 2.2.1: 空間一様な環境における領域 図 2.2.2: 空間非一様な環境における領域 5 第 3 章 陽的差分近似 Mx ,My を正の整数とする.図 3.0.1 のように長方形領域 Ω に x 方向の幅が ∆x = Lx /Mx ,y 方向の幅が ∆y = Ly /My の格子を入れる.{(i・∆x, j・∆y); i = 0, · · · , Mx , j = 0, · · · , My } が格子点全体である. ∆t を時間刻み幅として, u(n・∆t, i・∆x, j・∆y) の近 n 似値を uni,j と書き, v(n・∆t, i・∆x, j・∆y) の近似値を vi,j と書く. 図 3.0.1: 格子点全体 以上を踏まえて,空間一様な環境の場合と空間非一様な環境の場合をそれぞれ近似したも のを次に示す. 3.1 空間一様な環境の場合 (2.0.5),(2.0.6) 式の差分近似は,陽解法より unMx+1 ,j = un1,j (j = 1, · · · , My ), uni,My+1 = uni,1 (i = 1, · · · , Mx ) 6 (3.1.1) n un+1 uni+1,j − 2uni,j + uni−1,j uni,j+1 − 2uni,j + uni,j−1 i,j − ui,j =d + d ∆t ∆x2 ∆y 2 n +uni,j (1 − uni,j )(uni,j − a) − vi,j + I(t, x, y), n+1 n vi,j − vi,j n = ²(uni,j − γvi,j ) ∆t (3.1.2) (i = 1, · · · , Mx ; j = 1, · · · , My ; n = 0, 1, · · · ) un+1 = un+1 0,j Mx ,j (j = 1, · · · , My ), un+1 i,0 un+1 0,0 (j = 1, · · · , Mx ), un+1 i,My un+1 Mx ,My = = (3.1.3) となる.この時の (3.1.1) 式と (3.1.3) 式は周期境界条件を表している. なお,陽解法 (3.1.2) を用いるときには,∆t を 1− 2d∆t 2d∆t − ≥0 ∆x2 ∆y 2 (3.1.4) を満たすように決める必要がある.また,これらの式と一緒に初期条件も必要である. 3.2 空間非一様な環境の場合 同様に (2.0.5),(2.0.6) 式の差分近似は,陽解法より unMx+1 ,j = un1,j (j = 1, · · · , My ), uni,My+1 (i = 1, · · · , Mx ) = uni,1 n un+1 uni+1,j − 2uni,j + uni−1,j uni,j+1 − 2uni,j + uni,j−1 i,j − ui,j = d1 + d 1 ∆t ∆x2 ∆y 2 n +uni,j (1 − uni,j )(uni,j − a) − vi,j + I(t, x, y), ( ) n+1 n vi,j − vi,j My n n = ²(ui,j − γvi,j ) i = 1, · · · , Mx ; j = 1, · · · , −1 ∆t 2 ) ) ( ( n un+1 d1 + d2 uni+1,j − 2uni,j + uni−1,j d1 + d2 uni,j+1 − 2uni,j + uni,j−1 i,j − ui,j = + ∆t 2 ∆x2 2 ∆y 2 n + I(t, x, y), +uni,j (1 − uni,j )(uni,j − a) − vi,j ( ) n+1 n vi,j − vi,j My n n = ²(ui,j − γvi,j ) i = 1, · · · , Mx ; j = ∆t 2 7 (3.2.1) (3.2.2) (3.2.3) n un+1 uni+1,j − 2uni,j + uni−1,j uni,j+1 − 2uni,j + uni,j−1 i,j − ui,j = d2 + d2 ∆t ∆x2 ∆y 2 n n n n +ui,j (1 − ui,j )(ui,j − a) − vi,j + I(t, x, y), ( ) n+1 n vi,j − vi,j My n n = ²(ui,j − γvi,j ) i = 1, · · · , Mx ; j = + 1, · · · , My ∆t 2 un+1 = un+1 0,j Mx ,j (j = 1, · · · , My ), un+1 i,0 un+1 0,0 (j = 1, · · · , Mx ), = = un+1 i,My un+1 Mx ,My (3.2.4) (3.2.5) のように表される.∆t は前項同様,(3.1.4) 式を満たすように決める必要がある. (3.2.2) 式は Ω1 の領域の近似式を表し,u の拡散に関する項の係数が d1 となっている. (3.2.4) 式は Ω2 の領域の近似式を表しており,u の拡散に関する項の係数が d2 となってい 2 となっ る.(3.2.3) 式は Ω1 と Ω2 の境界線上の近似式で,u の拡散に関する項の係数は d1 +d 2 ている.(3.2.1) 式と (3.2.5) 式は周期境界条件を表したものである.さらに,空間一様な 環境同様,初期条件が必要である. 8 第 4 章 数値実験 この章では,本研究で行った数値実験について述べる.本研究では,数値計算を C 言語 によるプログラムを作成した.(2.0.5),(2.0.6) 式に基づいて,a, ², γ の各パラメータに値を 指定する必要があるのだが,指定する値によりパターンの様子に違いがみられる.本研究 での数値実験に用いる値は,次のように指定した.Lx = Ly = 600, Mx = My = 900, ∆x = Lx /Mx = 600/300 = 2.0, ∆y = Ly /My = 600/900, ∆t は拡散係数 d > 0.5, d1 > 0.5, d2 > 0.5 の時,∆t = 0.1,拡散係数 d < 0.5, d1 < 0.5, d2 < 0.5 の時,∆t = 0.2 とした.また, 各パラメータ a, ², γ の値は ² = 0.005, γ = 5.0, a = 0.1 として数値計算を行った. そして初期値を選んで数値計算を行うとターゲットパターンとスパイラルパターンを 表現することができる.ターゲットパターンでは全ての格子点の初期条件を 0.0 にしてお り,スパイラルパターンでは,特定の格子点に (2.0.5),(2.0.6) 式によってつくられた進 行する波の解を記録させた target.data から初期条件を与えた.この時読み込ませたデー タは,空間一様な環境の場合には,スパイラルパターンで数値実験を行う際の拡散係数 d の値とターゲットパターンの拡散係数 d の値が同じものを使用し,空間非一様な環境の場 合には,スパイラルパターンの Ω1 の領域の拡散係数 d1 の値と空間一様な環境のターゲッ トパターンの拡散係数 d が同じ場合のデータを使用した.このような初期条件で自分が指 定する格子点に刺激や初期値を与えて数値計算を行うとその格子点からパルスが発生し, 広がっていく. ここで,今回の数値実験で再現したターゲットパターンとスパイラルパターンが時間 とともに変化する様子を図で示す.ターゲットパターンが時間とともに変化の様子を表し たのが図 4.0.1 ,スパイラルパターンが時間とともに変化する様子を表したのが図 4.0.2 である.u 値の分布が黄色と黒色であらわされている.u > 0.5 の場所が黄色く表示され, u ≤ 0.5 の場所が黒色で表示されている. 図 4.0.1 のターゲットパターンは,領域の中心に刺激を与えており,そこから同心円状 のパルスが広がっている.本研究では,一定の間隔毎に同じ場所に刺激を与えることで 次々に同心円状の波が発生するようにしている.スパイラルパターンは図 4.0.2 の上段真 ん中・右のように先端部分が渦のようになりながら広がっていく. 9 図 4.0.1: ターゲットパターンの変化の様子 図 4.0.2: スパイラルパターンの変化の様子 本研究では,このようなターゲットパターンとスパイラルパターンの数値実験を空間一 様な環境と空間非一様な環境の2つの場合において行った.その際,それぞれのパルスの 伝播がどのような変化をしているのかを調べるためにパルスの幅・パルスの間隔・伝播速 度の3つを定規による計測と計算によって調べた. パルスの幅・間隔・伝播速度をどのように測定したかを次に記す. まず,ターゲットパターン・スパイラルパターンそれぞれのパルスの幅は図 4.0.3 と図 4.0.4 の左に示されている,黄色く表示されている部分とした.それぞれのパルスの間隔 は図 4.0.3 と図 4.0.4 の真ん中に示されている,黒く表示されている部分とした.伝播速 度は図 4.0.3 と図 4.0.4 の右のように,ある時間からある時間までにパルスが進んだ距離 を計測し,伝播速度を求めた.伝播速度を求める式は 伝播速度 = t1 の時のパルスの距離 − t2 の時のパルスの距離 (t1 − t2 ) である. 図 4.0.3: ターゲットパターンの幅・間隔・伝播速度 10 (4.0.1) 図 4.0.4: スパイラルパターンの幅・間隔・伝播速度 4.1 4.1.1 ターゲットパターン 空間一様な環境 まず最初に,空間一様な環境におけるターゲットパターンの数値実験を行った. 拡散係数 d = 0.1, 0.25, 0.5, 0.75, 1.0 の5つの場合での数値実験を行った.刺激を与えた 場所は長方形領域 Ω 上のちょうど中心となる場所で, (x, y) = (300, 300) の位置である. 拡散係数 d に異なる値を与えて数値実験を実際に行い,得られたパターンの一部が図 4.1.1 である.図 4.1.1 の左から順に,d = 0.1, 0.5, 1.0 の時の結果である. この図 4.1.1 を見ると,拡散係数 d の値が大きくなるとパルスの幅や間隔が広くなって いる様子が分かる. 図 4.1.1: 異なる d を与えた時のターゲットパターン 数値実験の結果を観察している間,どの d の値で数値実験を行っても発生するターゲッ トパターンはきちんと丸くなっていることを見てとることができた.本当にきちんとした 丸になっているのかを確かめるために,数値実験を行った中で一番小さい d の値である 11 0.1 の時に発生したパルスの縦方向・横方向・ななめ方向という3方向のパルスの進み具 合を調べたところ,大体丸くなっていることが分かった.d = 0.1 の時の結果で調べた理 由は,d の値が小さいものの方が,四角い形に広がる可能性が高いためである.本研究に おける空間非一様な環境は長方形領域 Ω を上下半分に分割した領域なので,パルスの幅・ 間隔・伝播速度はすべて縦方向について計測することにした. 計測した結果をパルスの幅・間隔・伝播速度それぞれグラフにしたものが図 4.1.2,図 4.1.3,図 4.1.4 である.それぞれのグラフの横軸は拡散係数 d,図 4.1.2 の縦軸は幅,図 4.1.3 の縦軸は間隔,図 4.1.4 の縦軸は伝播速度である. 図 4.1.2: 空間一様な環境におけるターゲッ トパターンのパルスの幅 図 4.1.3: 空間一様な環境におけるターゲッ トパターンのパルスの間隔 図 4.1.4: 空間一様な環境におけるターゲッ トパターンのパルスの伝播速度 √ 空間一様な環境の場合のパルスの幅・間隔・伝播速度は, d に比例するということが 分かっているらしい.この計測結果のグラフを見てみると,拡散係数 d の値が大きくな √ ると,幅・間隔・伝播速度は曲線的に増加していき,その増加の仕方が大体 d に比例す るような形になるようなグラフになっていることがわかる. 12 4.1.2 空間非一様な環境 次に,空間非一様な環境におけるターゲットパターンの数値実験を行った.刺激を与 えた場所は,空間一様な環境と同様の長方形領域 Ω のちょうど中心となる部分で,領域 Ω1 , Ω2 の境界線上である,(x, y) = (300, 300) の位置である.数値実験を行った拡散係数 d1 , d2 の組み合わせは次の表の通りである.”済”の表記がしてある部分は空間一様な環境 において数値実験を行っているものであり,表 4.1 の○印ついているものは数値実験を 行ったものであるが,ターゲットパターンは上下左右に同じようにパルスが広がっていく ものなので,表 4.1 の赤く塗ってある部分の数値実験を行い,青く塗ってある部分はその 数値実験結果を上下反転させたものとしている. 表 4.1: 拡散係数 d1 , d2 の組み合わせ このような組み合わせで数値実験を行った結果,得られたパターンの一部が図 4.1.5 で ある. 図 4.1.5: 空間非一様な環境におけるターゲットパターン 13 図 4.1.5 の左の2つのパターンは,拡散係数の d1 = 0.5 で d2 の値が異なっている場合 の数値実験結果である.図 4.1.5 の右の2つのパターンは,拡散係数の d2 = 0.75 で d1 の 値が異なっている場合の数値実験結果である.d1 の値が同じ時,Ω1 でのパルスの幅や間 隔は同じように見える.また,d2 の値が同じ時,Ω2 でのパルスの幅や間隔は同じように 見える. このようなパターンが発生した空間非一様な環境でのパルスの幅・間隔・伝播速度を空 間一様な環境同様に計測・計算し,空間一様な環境同様にグラフにしてまとめたものを次 に示す.まず,Ω1 でのパルスの幅・間隔・伝播速度についてまとめた.図 4.1.6,図 4.1.7, 図 4.1.8 の横軸は拡散係数 d1 ,図 4.1.6 の縦軸は幅,図 4.1.7 の縦軸は間隔,図 4.1.8 の縦 軸は伝播速度とした. 図 4.1.7: 空間非一様な環境におけるター ゲットパターンのパルスの間隔 図 4.1.6: 空間非一様な環境におけるター ゲットパターンのパルスの幅 図 4.1.8: 空間非一様な環境におけるター ゲットパターンのパルスの伝播速度 これら3つのグラフから,d1 が増加すると Ω1 でのパルスの幅・間隔・伝播速度はそれ ぞれほぼ曲線的に増加していることがわかる.また,d1 が一定の時,d2 の値に関わらず グラフの点が重なっていることから,Ω1 のパルスの振る舞いに関係しているのは d1 だけ であるといえる. 14 次に,Ω2 でのパルスの幅・間隔・伝播速度についてまとめた.図 4.1.9,図 4.1.10,図 4.1.11 の横軸は拡散係数 d2 ,図 4.1.9 の縦軸は幅,図 4.1.10 の縦軸は間隔,図 4.1.11 の縦 軸は伝播速度とした. 図 4.1.10: 空間非一様な環境におけるター ゲットパターンのパルスの間隔 図 4.1.9: 空間非一様な環境におけるター ゲットパターンのパルスの幅 図 4.1.11: 空間非一様な環境におけるター ゲットパターンのパルスの伝播速度 Ω1 での幅・間隔・伝播速度のグラフと同様にこれら3つのグラフから,d2 が増加する と Ω2 でのパルスの幅・間隔・伝播速度はそれぞれほぼ曲線的に増加していることがわか る.また,d2 が一定の時,d1 の値に関わらずグラフの点が重なっていることから,Ω2 の パルスの振る舞いに関係しているのは d2 だけであるといえる. 4.2 4.2.1 スパイラルパターン 空間一様な環境 次に,空間一様な環境におけるスパイラルパターンの数値実験を行った. 15 空間一様な環境におけるターゲットパターンと同じように,拡散係数 d = 0.1, 0.25, 0.5, 0.75, 1.0 の5 つの場合での数値実験を行った.ターゲットパターンの数値実験では刺激を与える 場所を指定していたが,スパイラルパターンの数値実験では刺激を与える必要がない.し かし,スパイラルパターンには初期値を与えてやる必要がある.本研究ではスパイラルパ ターンのパルスの先端が空間非一様な環境の場合に用いている領域 Ω1 , Ω2 の境界線上に なるように初期値を与えている. 拡散係数 d に異なる値を与えて数値実験を実際に行い,得られたパターンの一部が図 4.2.1 である.図 4.2.1 の左から順に,d = 0.1, 0.5, 1.0 の時の結果である.この図 4.2.1 を 見ると,拡散係数 d の値が大きくなるとパルスの幅や間隔が広くなっている様子が分かる. 図 4.2.1: 異なる d を与えた時のスパイラルパターン ターゲットパターンと同じようにパルスの幅・間隔・伝播速度を縦方向に計測し,計算 した結果をグラフにしたものが次である.その際,スパイラルの先端付近のパルスが遷移 過程にあるため,先端付近のパルスの幅・間隔は計測していない. 計測した結果をパルスの幅・間隔・伝播速度それぞれグラフにしてまとめたものが図 4.2.2,図 4.2.3,図 4.2.4 である.それぞれのグラフの横軸は拡散係数 d,図 4.2.2 の縦軸 は幅,図 4.2.3 の縦軸は間隔,図 4.2.4 の縦軸は伝播速度である. 16 図 4.2.2: 空間一様な環境におけるスパイ ラルパターンのパルスの幅 図 4.2.3: 空間一様な環境におけるスパイ ラルパターンのパルスの間隔 図 4.2.4: 空間一様な環境におけるスパイ ラルパターンのパルスの伝播速度 空間一様な環境の場合はターゲットパターンと同じように,パルスの幅・間隔・伝播速 √ 度は d に比例するということが分かっているらしい.この計測結果のグラフを見てみる と,拡散係数 d の値が大きくなると,幅・間隔は曲線的に増加していき,伝播速度は直線 √ 的に増加している部分もあるが,その増加の仕方は幅・間隔・伝播速度のどれもほぼ d に比例するような形になるようなグラフになっていることがわかる. 4.2.2 空間非一様な環境 次に,空間非一様な環境におけるスパイラルパターンの数値実験を行った.初期値の与 え方は空間一様な環境の場合と同様,スパイラルパターンのパルスの先端が領域 Ω1 , Ω2 の境界線上になるようにしている. 数値実験を行った拡散係数 d1 , d2 の組み合わせはターゲットパターンの空間非一様な環 境で数値実験を行った時の組み合わせと同様で,表 4.1 の組み合わせで行った.しかし 17 ターゲットパターンとは違い,上下を反転させても同じ結果にならないだろうと考え,ス パイラルパターンは表 4.1 の赤く塗られた部分も青く塗られた部分も全て数値実験を行っ た.また,”済”の表記がしてある部分はターゲットパターン同様,空間一様な環境におい て数値実験を行っているものである. このような組み合わせで数値実験を行った結果,得られたパターンの一部が図 4.2.5 で ある. 図 4.2.5: 空間非一様な環境におけるスパイラルパターン 図 4.2.5 の左の2つのパターンは,拡散係数の d1 = 0.25 で d2 の値が異なっている場合 の数値実験結果である.図 4.2.5 の右の2つのパターンは,拡散係数の d2 = 0.5 で d1 の 値が異なっている場合の数値実験結果である.d1 の値が同じ時,Ω1 でのパルスの幅や間 隔は同じように見える.また,d2 の値が同じ時,Ω2 でのパルスの幅や間隔は同じように 見える. このようなパターンが発生した空間非一様な環境でのパルスの幅・間隔・伝播速度を空 間一様な環境同様に計測・計算し,空間一様な環境同様にグラフにしてまとめたものを次 に示す.まず,Ω1 でのパルスの幅・間隔・伝播速度についてまとめた.図 4.2.6,図 4.2.7, 図 4.2.8 の横軸は拡散係数 d1 ,図 4.2.6 の縦軸は幅,図 4.2.7 の縦軸は間隔,図 4.2.8 の縦 軸は伝播速度とした. 18 図 4.2.6: 空間非一様な環境におけるスパ イラルパターンのパルスの幅 図 4.2.7: 空間非一様な環境におけるスパ イラルパターンのパルスの間隔 図 4.2.8: 空間非一様な環境におけるスパ イラルパターンのパルスの伝播速度 これら3つのグラフから,d1 が増加すると Ω1 でのパルスの幅・間隔はそれぞれほぼ曲 線的に増加していることがわかる.伝播速度は幅や間隔に比べると少しばらつきはある が,ほぼ曲線的に増加している.また,幅や伝播速度は d1 が一定の時,d2 の値に関わら ずグラフの点が大体重なっている.d1 と d2 の差が大きくなると間隔がすこし広がっては いるが,d1 が一定なら,d2 の値に関わらずグラフの点が重なっている部分が多い.よっ て,Ω1 での幅・間隔・伝播速度は d1 によって決まっているようだということが分かった. 次に,Ω2 でのパルスの幅・間隔・伝播速度についてまとめた.図 4.2.9,図 4.2.10,図 4.2.11 の横軸は拡散係数 d2 ,図 4.2.9 の縦軸は幅,図 4.2.10 の縦軸は間隔,図 4.2.11 の縦 軸は伝播速度とした. 19 図 4.2.9: 空間非一様な環境におけるスパ イラルパターンのパルスの幅 図 4.2.10: 空間非一様な環境におけるスパ イラルパターンのパルスの間隔 図 4.2.11: 空間非一様な環境におけるスパ イラルパターンのパルスの伝播速度 これら3つのグラフから,d2 が増加すると Ω2 でのパルスの幅・間隔はそれぞれほぼ曲 線的に増加していることがわかる.Ω1 同様,伝播速度は幅や間隔に比べると少しばらつ きはあるが,ほぼ曲線的に増加していると分かる.また,幅や伝播速度は d2 が一定の時, d1 の値に関わらずグラフの点が大体重なっていた.d1 と d2 の差が大きくなると間隔がす こし広がっている部分もあったが,d1 が一定の時,d2 の値に関わらずグラフの点が重なっ ている部分が多い.これらの結果から,Ω2 での幅・間隔・伝播速度は d2 によって決まっ ているようである. 20 第 5 章 終わりに 5.1 まとめ ターゲットパターンもスパイラルパターンも拡散係数 d が大きくなると,パルスの幅・ 間隔・伝播速度はそれぞれ曲線的に増加していく.また,空間非一様な環境の場合には, ターゲットパターンもスパイラルパターンもパルスの広がり方は,他方の領域の拡散係数 には関係していないことがわかった. 参考文献 [1] 池田勉, 計算科学 I・計算科学実習 I, 2006, 龍谷大学理工学部数理情報学科講義 資料. [2] 蔵本由紀 [編], リズム現象の世界, 2005, 東京大学出版会 [3] 吉川研一, 非線形科学-分子集合体のリズムとかたち-, 1992, 学会出版センター [4] http://www.chem.scphys.kyoto-u.ac.jp/nonnonWWW/kitahata/bz 1.html [5] http://www.kanshin.jp/dictionary/index.php3 21 謝辞 本研究を進めるにあたって,研究テーマの対象が同じだったため終始相談し・協力しあ いながら研究を進めていた岸名佐央理さんには大変感謝しています. また,森田研究室の中村有里さんにも,数値実験のプログラム作成や論文作成において 様々な助言・協力をしていただきました.本当にありがとうございました. 22
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