改定4 原子力発電所の竜巻影響評価について -設計風速および飛来物速度の評価- 2014年9月9日 日本保全学会 原子力規制関連事項検討会 目 次 1.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 2.竜巻検討地域の設定について 2-1 「竜巻評価ガイド」および「解釈」の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 2-2 総観場・過去の発生実績 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 2-3 突風関連指数による分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 3.地形影響による竜巻の増幅・減衰について 3-1 検討対象の竜巻および地形・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 3-2 地表面粗度と竜巻の減衰・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 3-3 地形起伏に起因する竜巻の増幅・減衰・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 3-4 竜巻の移動方向の分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 4.飛来物評価モデルについて 4-1 飛来物評価モデルの概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 4-2 飛来物評価モデルの比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 5.まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25 参考1:LESモデルの特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 参考2:佐呂間竜巻に対する分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 参考3:佐呂間竜巻と太平洋のF3竜巻(つくば竜巻)の比較 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 参考4:フジタモデルの適用可能性について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 参考5:フジタモデルとランキン渦モデルの浮上・飛来挙動の比較(コンテナの場合) ・・・・45 参考6:飛来物解析結果に基づく施設への影響評価について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 改定来歴 改定来歴 改定番号 年月日 改定内容 - 平成26年6月2日 第1回 平成26年6月16日 第2回 平成26年7月3日 第3回 平成26年9月3日 第4回 平成26年9月9日 • 資料公開 • F3竜巻の発生実績追加 • フジタモデルにおける竜巻中心断面での風況イ メージ追加 • 佐呂間竜巻の分析追加 • 飛来物解析に基づく評価方法の追加 • ランキン渦モデルにおける竜巻中心断面での風 況イメージ追加 • EHIによる分析結果追加 • 佐呂間型竜巻の発生可能性に関する分析結果 の追加 • 突風関連指数による分析に係る記載の適正化 (図面の凡例見直し) 1.はじめに 「原子力発電所の竜巻影響評価ガイド」(規制委員会)に則った評価を実施するにあたり, 竜巻検討地域の設定,設計竜巻の設定および飛来物の衝突荷重評価に関して,考え方 を整理した。 竜巻影響評価ガイドに示されている評価フロー 1 2.竜巻検討地域の 竜巻検討地域の設定 2-1 「竜巻評価ガイド 竜巻評価ガイド」 ガイド」および「 および「解釈」 解釈」の概要 竜巻発生の観点から立地地域と気象条件等が類似する地域として設定する。 IAEA Safety Guideの基準(発電所を中心とした10万km2の地域)を参考として挙 げる一方,「日本海側と太平洋側とで気象条件が異なる」ことにも言及している。 竜巻集中地域に近接する発電所に対しては,設定地域における年平均発生数 と集中地域における年平均発生数との比較を行い,発生頻度の多い地域を選 択する。 「陸上」における年平均発生数が海岸線からの距離に応じて,特に5 kmを超え ると急減することから,発電所が海岸付近に立地する場合は海岸線から海側・ 陸側それぞれ5kmの範囲を目安に検討地域とする。 過去最大風速VB1とハザード評価による最大風速VB2の大きい方を基準竜巻とし て採用する。 VB1 は「日本」で過去に発生した竜巻を基本とする。「竜巻検討地域」での記録 に基づいてVB1を設定する場合,その明確な根拠を提示する必要がある。 2 2-2 総観場・ 総観場・過去の 過去の発生実績[ 発生実績[1/3] 気象庁「竜巻等の突風データベース」の分析結果を下図に示す。 「暖気の移流」には,熱 帯低気圧,太平洋高気 圧,暖気の移流,湿舌が 含まれる。 「寒気の移流」には,気 圧の谷,寒気の移流,大 陸高気圧等が含まれる。 「Fu」は「F不明竜巻」を意 味する。 季節別の竜巻発生位置(気象庁「竜巻等突風データベース」をもとに電中研にて作成) 3 2-2 総観場・ 総観場・過去の 過去の発生実績[ 発生実績[2/3] 気象庁「竜巻等の突風データベース」の分析結果を下図に示す。 「暖気の移流」には,熱 帯低気圧,太平洋高気 圧,暖気の移流,湿舌が 含まれる。 「寒気の移流」には,気 圧の谷,寒気の移流,大 陸高気圧等が含まれる。 「Fu」は「F不明竜巻」を意 味する。 季節別の竜巻発生位置(気象庁「竜巻等突風データベース」をもとに電中研にて作成) 4 2-2 総観場・ 総観場・過去の 過去の発生実績[ 発生実績[3/3] 前ページまでの分析結果より,下表の状況が確認できる。 台風起因の竜巻は日本海側で発生していない。 総観場 台風以外の要因による竜巻は各地で発生している。 F3竜巻は2006年佐呂間竜巻を除き,茨城県以西の太平洋側平野部 にて発生している。 過去の F3竜巻の発生数に顕著な季節差は見られない。 発生実績 東北太平洋側では暖候期に竜巻が発生する傾向が見られる。 5 2-3 突風関連指数による 突風関連指数による分析 による分析[ 分析[1/7] 竜巻の発生に関連する気象要素の定義 ■大気安定度(上昇気流の発生しやすさ) (詳細は「突風関連指数による分析[2/7]」に記載) CAPE(Convective Available Potential Energy):対流有効位置エネルギー [J/kg] 大気の静的安定度の定量的な指標 値が大きいほど不安定 [参考] 0以下:安定 0~1000:やや不安定 ■高度による風向・風速差(渦の発生しやすさ) (詳細は「突風関連指数による分析[3/7]」に記載) SReH(Storm Relative Helicity):ストームの動きに相対的なヘリシティー [m2/s2] 水平軸周りの渦度 上昇流によって積乱雲(親雲)に運ばれる渦度 [参考] 150:スーパーセルが発達するための下限値 300~450:強い竜巻(F2~F3)の発生 ■総観場 ここでは,竜巻の発生要因(例:台風,低気圧など) 6 2-3 突風関連指数による 突風関連指数による分析 による分析[ 分析[2/7] 突風関連指数の算出式(1) EL ■大気安定度(上昇気流の発生しやすさ) CAPE(Convective Available Potential Energy): 対流有効位置エネルギー [J/kg] :大気の温度 LFC T:周囲の大気の温度(実線:状態曲線) T’:上昇する空気塊の温度(点線:乾燥・湿潤断熱線) g:重力加速度 dz:鉛直方向の層厚 LCL 高度と温度の関係(模式図) 空気塊が何らかの外力(太陽による地面の加熱,前線による風の収束,地形による強制上 昇等)により上昇すると,最初は乾燥断熱線に沿って気温が下降するが,持ち上げ凝結高 度(高度LCL)にまで達すると飽和して(湿度が100%を超えて),雲ができ,その凝結熱によっ て乾燥時と比較して気温が下がりにくくなり,その後,湿潤断熱線に沿って気温が下がる。 空気は暖かいほど軽いため,周囲の気温よりも上昇する空気塊が相対的に暖かい間は, 外力がなくとも上昇する(図ではLFC高度より上空)。 積乱雲が発達し,周囲の空気と空気塊の気温が等しくなる高度ELに達すると,外力なしで は上昇できず,雲の成長が止まる。 CAPEは湿潤断熱線と状態曲線の気温差の積算量(図では水色の面積)に該当し,この値が 大きいほど背の高い積乱雲に発達しうるため,不安定度の指標として活用されている。 7 2-3 突風関連指数による 突風関連指数による分析 による分析[ 分析[3/7] 突風関連指数の算出式(2) V上層 ■高度による風向・風速差(渦の発生しやすさ) 親雲内の渦(メソサイクロン) の強化 SReH(Storm Relative Helicity): ストームの動きに相対的なヘリシティー [m2/s2] dz 高度3 km SReH = ∫ (V − C) ・ω h dz 地上 V:水平風速 (u,v) (u:東西方向風速,v:南北方向風速) C:ストームの移動ベクトル ( つまり,V - C はストームに吹き込む風ベクトル) ωh:鉛直シアに伴う水平軸周りの渦度 ( − ∂v , ∂u ) ∂z ∂z 水平軸周り の渦 羽根 V下層 風向・風速差により 生じる水平渦度の 模式図 水平渦度が親雲へ取込まれ る様子を表す模式図 大気下層に風向・風速差(鉛直シア)が存在すると,水平軸周りの渦が発生する。 水平軸周りの渦は,上空の親雲に吹き込む風に沿って親雲に取り込まれる。これにより 親雲内の渦度が上昇し,メソサイクロン(親雲)と呼ばれる大きな鉛直軸周りの渦となる。 まだ全容は解明されていないが,親雲の強化と親雲-地表面間の急激な気圧低下等の メカニズムにより漏斗雲が発生する。 スーパーセル(巨大積乱雲)の形成には風の強い鉛直シアの存在が必要条件の一つであ ること,親雲に取り込まれる渦量の大きさが大きな竜巻発生に関係しうることから,SReHが 関連指標として活用されている。 8 2-3 突風関連指数による 突風関連指数による分析 による分析[ 分析[4/7] 国内のF3竜巻の発生状況を下図に示す。 ⑩ ① ⑪ ⑤ ⑥ ② ⑧ 発生日 発生場所 1966/1/4 千葉県南総町 ② 1967/10/28 千葉県飯岡町 ③ 1968/9/24 宮崎県高鍋町 ④ 1969/12/7 愛知県豊橋市 ⑤ 1971/7/7 埼玉県浦和市 ⑥ 1978/2/28 神奈川県川崎市 ⑦ 1990/2/19 鹿児島県枕崎市 ① ④ ⑨ ⑧ 1990/12/11 千葉県茂原市 ⑨ 1999/9/24 愛知県豊橋市 ⑩ 2006/11/7 ⑪ 2012/5/6 ③ ⑦ 暖候期(5-10月) 寒候期(11-4月) 北海道佐呂間町 (佐呂間竜巻) 茨城県常総市 (つくば竜巻) F3竜巻の発生位置(赤:暖候期,青:寒候期) 気象庁「竜巻等の突風データベース」より作成 9 2-3 突風関連指数による 突風関連指数による分析 による分析[ 分析[5/7] 突風関連指数(CAPE,SReH)の閾値(CAPE:1200J/kg(暖候期),500J/kg(寒候期)および SReH:350m2/s2)を設定し,設定した閾値を同時に超過する頻度を,過去50年間の気象 データ(5km間隔・1時間毎)をもとに算定し,大きな竜巻の発生地域性を評価した結果を 下図に示す。 暖候期(5月-10月) 寒候期(11月-4月) [%] 両閾値を同時に超過する頻度(CAPE閾値:1200 J/kg(暖候期),500 J/kg(寒候期),SReH閾値:350 m2/s2) * *杉本ら(2014)をもとに電中研が作成(他の頻度図も同様) 杉本聡一郎, 野原大輔, 平口博丸, 2014: 突風関連指数を用いた大きな竜巻の 発生環境場の地域性に関する検討. 2014年度日本気象学会春季大会講演予稿集, B464. 10 2-3 突風関連指数による 突風関連指数による分析 による分析[ 分析[6/7] 分析の結果 茨城県以西の太平洋側では,それ以外の地域に比べて1~2オーダー頻 度が高い。太平洋側から流入する暖気を高標高の山岳(日本アルプス,四 国・中国山地など)がブロックする影響が一因と考えられる。 高頻度域はF3竜巻の発生位置を含包しており,F3以上の竜巻の発生しや すさの地域性を頻度分布から特定できる。本州日本海側および太平洋側 北部の東北地方はF3発生確率はかなり低くなるといえる。 11 2-3 突風関連指数による 突風関連指数による分析 による分析[ 分析[7/7] 大きな竜巻発生の地域性において顕著な季節差は見られない(左図;実績と対応)。 総観場の分析から検討地域を設定した例がある(右図)が,突風関連指数ベースの 地域性の分析結果とおおむね整合している。 暖候期 おおむね整合 [%] 九州電力(川内NPS)で設定した竜巻検討地域 (規制庁HPより) ・竜巻評価ガイドに従って,気象条件が類似する 地域を総観場や竜巻発生頻度により抽出。 ・抽出された地域の海岸線から海側,陸側5km の範囲を竜巻検討地域に設定。 寒候期 閾値を同時に超過する頻度 12 2-4 突風関連指数による 突風関連指数による分析 による分析[ 分析[1/2] 前述の2つの指数(SReH,CAPE)による分析に加え,両指数を組合わせたEHI※1による 分析を実施した。 国内で観測された全てのF3竜巻および1988年以降に日本海側で観測されたF2規模竜 巻を対象に,竜巻発生時の突風関連指数を推定した結果※2を下図に示す。 3000 豊橋竜巻 つくば竜巻 CAPE (J/kg) ※1EHI(Energy Helicity Index) スーパーセルが発生する環 F3(暖候期) 境場として,積乱雲が発達する F3(寒候期) ための成層不安定に加えて風 の鉛直シアーが必要である。 F2-F3(寒候期) これらを複合的に考慮した指 日本海F2(暖候期) 数としてEHIがある。 次式のようにCAPEとSReH を 日本海F2(寒候期) 用いて計算し,スーパーセル 日本海F1-F2(寒候期) や竜巻の発生しやすさを経験 的に指標化したもの。 EHI3.3 凡例 2500 2000 浦和竜巻 1500 茂原竜巻 佐呂間竜巻 1000 500 0 0 200 400 600 SReH (m2/s2) 800 1000 SReH×CAPE EHI= 160000 F3以上の竜巻に対する同時超過を考える際,CAPEの気候値に応じて異なる閾値をとるべき。 例えば,茂原竜巻は過去最大規模と指摘されているが,「冬場にしては」大きなCAPEであり, SReH値がかなり大きいことから,最大級の竜巻が発生したものと解釈できる。 佐呂間竜巻の発生時期(11月初旬)は「季節の変わり目であり」,大気不安定度は低めであるが ,SReH値が高い分,発生環境場として条件を満たしていた。 季節の違いは考慮せず,EHI=3.3 程度を包絡ラインとみなせる。 日本海側のF2規模竜巻では,一方が大きな値でも片方が小さな値となっている。 ※2 杉本ら(2014)をもとに電中研が作成 杉本聡一郎, 野原大輔, 平口博丸, 2014: 国内既往最大規模の竜巻を対象とした発生頻度の地域性について。 13 2014年度保全学会年次学術講演会, 395-402. 2-4 突風関連指数による 突風関連指数による分析 による分析[ 分析[2/2] EHIによる分析結果を下図に示す。 SReHおよびCAPEの同時超過頻度の分析結果(10ページ:2-3 突風関連指数に よる分析[5/7])と,ほぼ同様の(季節平均的な)結果が得られた。 [%] 閾値(EHI 3.3,最大降水量 2 mm/hr)を同時に超過する頻度(通年) 14 3.地形影響による 地形影響による竜巻 による竜巻の 竜巻の増幅・ 増幅・減衰について 減衰について 3-1 検討対象の 検討対象の竜巻および 竜巻および地形 および地形 評価ガイドでは,丘陵等による地形効果によって竜巻が増幅する可能性を考慮すべく,設計対象 施設の周辺地形等によって竜巻が増幅される可能性について検討することとしている。 ただし,竜巻が丘陵等により減衰する場合,その効果は考慮しないこととしている。また,検討範 囲等に関する具体的な記載は評価ガイド中に見られない。 評価ガイドの記述によれば,「地形起伏」による影響を検討するものと考えられるが,先行PWR 電力での審査では,「地表面粗度」の影響も議論するケースが見られる。 竜巻の地形影響は空間スケールに応じて以下のように異なる。 ① メソスケール(数キロメートル~数十キロメートル)規模の山や丘 ② マイクロスケール(数キロメートル以下)規模の山や丘 対象とする竜巻は以下の2ケースに大別され,それに応じて対象とする地形ス ケールも異なる。 A 漏斗雲上部(漏斗雲が未だ形成されていない場合を含む)の親雲(積乱雲) 総観場および上記①の地形スケールの相互作用によって影響を受ける。VB の設定時に,過去の記録およびハザード評価により考慮されている。 B 漏斗雲内の旋回流 評価対象設備のごく近傍に存在する上記②のスケールを有した地形による 影響であり,VBの設定時には十分考慮されていない。 31ページ 佐呂間竜巻の 発生メカニズム (概要図)参照 評価ガイドの記述および竜巻の現象的観点から,VD設定時に考慮すべき事項は, 評価地点近傍の地形(起伏・地表面粗度)による漏斗雲内旋回流の増幅である。 15 3.地形影響による 地形影響による竜巻 による竜巻の 竜巻の増幅・ 増幅・減衰について 減衰について 3-2 地表面粗度と 地表面粗度と竜巻の 竜巻の減衰 大気の運動(風)は,地表面の影響を受けるが,地表面に近いほどその影響は強く,地表面に近 づくにつれて風は減速する。風速の鉛直分布は対数分布と合致する。 この対数分布の性状は,地表面の細かな凸凹が与える摩擦抵抗により定まる。この摩擦抵抗に よる風速分布への効果を示す指標を「粗度長」(地表面粗度)という。 接地層内の風速Uは,地表面からの高さzに対して,粗度長zoを用いて下式により整理される(ここ で,cは係数)。 U(z) = c ln(z/zo) 粗度長の値は,水面の場合小さく,森林や都市域といった起伏を有する場合大きい。すなわち海 で発生した竜巻が陸に上陸した場合,竜巻の渦およびそれにともなう強風は減衰する。 大気の鉛直構造の模式図 16 3-3 地形起伏に 地形起伏に起因する 起因する竜巻 する竜巻の 竜巻の増幅・ 増幅・減衰 竜巻の渦は,角運動量の保存則※に基づき,上り坂で減衰・下り坂で増幅すると されている。 数値実験,風洞実験,被害実態調査にもとづく研究があるが,いずれの手法に おいても,定量的な増幅率,減衰率を推定する精度には至っていない。 ※フィギュアスケートにおけるスピンの回転 速度と同様の原理 渦 山側 渦 海側 地形影響による竜巻旋回流の増幅・減衰効果の模式図 国内の竜巻は,海側から陸側への移動が卓越している。(次ページ以降参照) 17 3-4 竜巻の 竜巻の移動方向の 移動方向の分析[ 分析[1/2] 竜巻の移動方向について分析した結果を下図に示す。 竜巻の移動方向(九州電力審査資料抜粋) (規制庁HPより) 18 3-4 竜巻の 竜巻の移動方向の 移動方向の分析[ 分析[2/2] 竜巻の移動方向(関西電力審査資料抜粋) (規制庁HPより) 19 4.飛来物評価モデルについて 飛来物評価モデルについて 4-1飛来物評価モデルの 飛来物評価モデルの概要 モデルの概要 モデル名 モデル名 風速場モデルの 風速場モデルの概要 モデルの概要 ・風速場の接線風速Vθをランキン渦で模擬する。 Vθ=(r/Rm)Vθ,max (r<コア半径Rm),Vθ=(Rm/r)Vθ,max (r>コア半径Rm) ランキン渦 ・飛来物評価の場合に限り,半径方向風速Vrと上昇風速Vzを付加する。 モデル Vr= - (1/2)Vθ, Vz=(2/3)Vθ ・風速分布は高さに依存しない。 フジタ モデル ・NRCの要望により藤田博士が開発した竜巻風速場の工学モデル ・ランキン渦と同様に代数式で風速場が表現されるが,やや複雑。 ・半径方向に3つの領域(内部コア・外部コア・最外領域)に分割して風速場を モデル化する。 ・接線風速Vθはランキン渦モデルと同様であるが,高さ依存性がある。 ・上昇流(Vz)は外部コアのみに存在する。 ・地面付近で竜巻中心に向かう強い流れ(Vr)がある。 非定常 乱流渦 モデル (LES) ・流体の運動方程式(偏微分方程式)に対する数値解析結果を利用し,竜巻状 の渦を計算し,竜巻の風速場を模擬する。(例,直径60cm程度の円筒容器内 の強制対流のLES解析結果にスケール係数を乗じる。) 20 4-2 飛来物評価モデルの 飛来物評価モデルの比較 モデルの比較[ 比較[1/4] モデル名 モデル名 メリット 問題点 評価 ・上昇流が全領域に存在し,飛来 ・非常に簡単な式で風速場を記 物が落下しにくい。 ランキン渦 述することができる。 ・風速場が高さに依存しないため, モデル ・NRCガイドで採用されており,利 地面付近では非現実的な風速場 用実績が高い。 となる。 ○ フジタ モデル ・観測に基づき考案されたモデ ・ランキン渦モデルと比較して,風 ルであり,実際の風速場に近い。 況をモデル化する上で解析プロ ・比較的簡単な代数式で風速場 グラムが複雑。(近年の計算機能 を表現しうる。 力向上と竜巻評価コードの高度 ・NRCガイドでもランキン渦モデ 化により,問題点は解決された) ルと並列に参照されている。 ◎ 非定常 乱流渦 モデル (LES) ・人為的な計算条件を用いるため 実際の竜巻を必ずしも再現してい ない。 ・膨大な計算機資源が必要であり, 実務での評価には不向きである。 △ ・風速の時間的な変動(乱れ)を ある程度模擬している。 21 4-2 飛来物評価モデルの 飛来物評価モデルの比較 モデルの比較[ 比較[2/4] 各風速場モデルの風況イメージ(1/3) ランキン渦モデル モデル概要 地面からも上昇流が発生する モデルであり,実現象と乖離。 フジタモデル モデル概要 地表面で渦の中心に向かう水 平方向の流れがモデル化され ており,実現象をよく再現。 22 CL 4-2 飛来物評価モデルの 飛来物評価モデルの比較 モデルの比較[ 比較[3/4] r=1 100m/s Z 各風速場モデルの風況イメージ(2/3) ランキン渦モデル ・風速分布は高さに依存しない ・半径方向風速Vrと上昇風速Vzは飛来物速度評価の みに付加される(最大接線風速Vmに2/√5を乗じる) 無次元座標 r = R / Rm 2Vm Vθ = Fr ( r ) 5 r ( r < 1) Fr ( r ) = 1 / r ( r ≥ 1) 1 Vr = − Vθ 2 2 Vz = Vθ 3 旋回風速 V = V 2 + V 2 = V F ( r ) h θ r m r Vθ:接線風速 Vr:半径方向風速 Vz:上昇風速 Vm:最大旋回風速 *Simiu, E. and Cordes, M., NBSIR 76-1050. Tornado-Borne Missile Speeds, 1976. Rm コア 上昇流 R 地 面 竜巻中心断面での風況イメージ • 地面からも吹き出しが発生する。 • 風速分布は高さに依存せず,全域に 上昇風がある。 23 4-2 飛来物評価モデルの 飛来物評価モデルの比較 モデルの比較[ 比較[4/4] 各風速場モデルの風況イメージ(3/3) 無次元座標 r = R / Rm , z = Z / Hi CL Z フジタモデル 100m/s r=ν 実際の竜巻観測記録を元に,半径方向に3つの領域(内部 コア・外部コア・最外領域),高さ方向に2つの領域(流入層 ,非流入層)に分割してモデル化 r=1 Vθ = Fr ( r ) Fh ( z )Vm z k0 ( z < 1) r ( r < 1) Fr ( r ) = Fh ( z ) = 1 / r ( r ≥ 1) exp( − k ( z − 1)) ( z ≥ 1) ・接線風速(Vθ)は高さ依存性あり (r ≤ ν ) (ν < r < 1) 内部コア 0 Vθ tan α 0 ν 2 Vr = 1 − 2 2 r 1 −ν Vθ tan α 0 ( r ≥ 1) − A(1 − z1.5 ) tan α 0 = B{1 − exp( −k ( z − 1))} 外部コア 外部コア 最 外 領 域 ( z < 1) ( z ≥ 1) 7 8 3 ηVm 6 A(16 z − 7 z 3 ) ( z < 1) 2 28 1 − ν Vz = ηVm B exp( −k ( z − 1)) {2 − exp( −k ( z − 1))} ( z ≥ 1) k (1 − ν 2 ) Hi Vm Rm z=1 流 入 層 地 面 R 竜巻中心断面での風況イメージ ・上昇流(Vz)は外部コアのみに存在 Vθ:接線風速 Vr:半径方向風速 Vz:上昇風速 Vm:最大旋回風速 k0, k, ν, η, A, Bは定数 Hi:流入層高さ Rm:コア半径 地表面で渦の中心に向かう水平方向の流れ がモデル化されており,実現象をよく再現 *Fujita, T.T., Workbook of Tornadoes and High Winds for Engineering Applications, U. Chicago, 1978. 24 5. まとめ 竜巻検討地域の設定 総観場や突風関連指数(CAPE,SReH,EHI)の分析により,既往最大規模(F3)の竜 巻発生の地域性を議論することが可能である。 ⇒日本全土における 日本全土における既往最大 における既往最大を 既往最大を一律に 一律に適用する 適用する必要 する必要はない 必要はない。 はない。 設計竜巻の設定 竜巻の増幅・減衰は,地表面粗度および地形起伏に影響されるため,既往竜巻の 進行方向の分析およびサイト周辺の地形評価により,この扱いを整理することが重 要である。 ⇒各サイトにおいて, サイトにおいて,竜巻の 竜巻の進行方向を 進行方向を十分検討する 十分検討する必要 する必要がある 必要がある。 がある。 また, また,佐呂間型の 佐呂間型の竜巻発生可能性については 竜巻発生可能性については, 佐呂間竜巻が地形と 地形と総観場の 総観場の については,佐呂間竜巻が 相互作用により 相互作用により発生 により発生した 発生した竜巻 した竜巻であることを 竜巻であることを踏 であることを踏まえ, まえ,佐呂間と 佐呂間と同様の 同様の地形の 地形の有無 について, について,サイトごとに検討 サイトごとに検討する 検討する必要 する必要がある 必要がある。( がある。(参考 。(参考2 参考2参照) 参照) 飛来物の衝突荷重評価 ランキン渦モデルは,上昇流が地表面から上層まで一様に存在し,飛来物が落下 しにくいモデルであり,実現象に比べて保守的な結果を与える。一方,フジタモデル は,地表面の風速場をより的確にモデル化しており,過去の竜巻被害実績の再現 性も検証されている。このように,飛来物影響評価 飛来物影響評価においては 飛来物影響評価においては事業者 においては事業者が 事業者が両モデル のいずれかを選択 のいずれかを選択することができる 選択することができる。 することができる。 25 【参考1 参考1】 LESモデルの LESモデルの特徴 モデルの特徴[ 特徴[1/2] 竜巻の渦を対象とした数値実験では,風の乱れ(乱流)を非定常乱流渦モデル(LES)により再現され ているが,課題もある。以下にLESの特徴を記す。 ①風の運動をメッシュで表現できる「大きい渦」とメッシュで表現できない「小さい渦」とに分離する。 ・大きい渦:運動を支配する方程式系の解を数値解析により直接的に得る。 ・小さい渦:小スケールの乱流場が大スケールの乱流場に与える影響をサブグリッドモデルにより 表現。 ②風速の時間的な変動(乱れ)をある程度模擬できる。 ・機械工学分野では実用化。 ③実スケールへの適用 ・数値解析に必要な負荷が膨大であり,計算機能力の観点で計算実行が難しい。 ・数値解析で必須となる初期条件,境界条件の設定が難しい(妥当性も検証されていない)。 ・「竜巻」を対象としたLESは未だ研究段階で,解析手法について有識者の統一的見解は得られて いない。モデルの実スケールへの適用に関し,精度検証事例も存在しない。 近年の竜巻数値流体計算の主要仕様 文献 Lewellen (2013) Natarajan and Hangan (2012) Maruyama (2011) Lewellen et al. (2008) Lewellen and Lewellen (2007) 解析体系 複雑地形上 実スケール竜巻 実験スケール 竜巻 実験スケール 竜巻 飛散物を含む 実スケール竜巻 実スケール竜巻 地表面境界条件 空力的粗度 不明 ノンスリップ 空力的粗度 空力的粗度 乱流モデル LES (TKE型) LES (動的スマゴリンスキ型) LES (標準スマゴリンスキ型) LES (TKE型) LES (TKE型) 解析手法 Lewellen(2007)と同じ (IB法を付加) 商用コードFluentベース (2次精度中心差分hexahedral grid) RIAM-COMPACT (Kajishima Sheme) Lewellen(2007)と同様 (2流体モデルを付加) 2次精度中心差分 格子解像度 解析領域 5m以下 2x2x2km 不明 (セル数は2.5e6) 最大風速半径の 1/8 実験サイズ (半径=0.4m) 不明 不明 不明 不明 実験サイズ 26 【参考1 参考1】 LESモデルの LESモデルの特徴 モデルの特徴[ 特徴[2/2] LESモデルの風況イメージ モデル概要 実験系(直径60cm程度の円筒モデル)で下部の4ヶ所から強制的に空気の流れを作成 し,上部からは吸引により上昇流を模擬したモデルである(地面や境界近傍で実現象と の乖離あり)。 吸出し 吹込み 吹込み 吹込み 吹込み (以下より引用した図に「吹込み」と「吸出し」の矢印を加筆) 東京工芸大学:「平成21~22 年度原子力安全基盤調査研究(平成22年度)竜巻による原子力施設への影響に関する調査研究」, 独立行政法人原子力安全基盤機構委託研究成果報告書,平成23 年2 月 27 【参考2 参考2】佐呂間竜巻に 佐呂間竜巻に対する分析 する分析[ 分析[1/7] ポイント1:親雲の発生のしやすさ [%] 暖候期 寒候期 SReH の閾値(350 m2/s2)を超過する頻度※ 親雲の発生位置と 移動方向 日高山脈の東側斜面・平野部は,北日本の中でも大きなSReHが発生する頻度が 際立って高い(点線部)。佐呂間竜巻(2006年)もこの領域で発生して北上した。 ※ 杉本ら (2014) を参考に検討. 杉本ら, 2014:突風関連指数を用いた大きな竜巻の発生環境場の地域性に関する検討. 日本気象学会春季大会, 講演予稿集, B464. 28 【参考2 参考2】佐呂間竜巻に 佐呂間竜巻に対する分析 する分析[ 分析[2/7] ポイント2:発生地点風上側からの暖気流入と山の存在(地形の影響) 冷気流 × 山 暖気流 ベクトル:風向・風速 カラー:相当温位[単位:絶対温度 K](273.16 K=0 ℃) [K] 竜巻の発生地点(× ×)と影響が 指摘される山(点線部) 数値気象解析による風向・風速と温位場 (電中研により作成) 太平洋側から寒冷前線に向かって暖気が流入し,発生地点上空では,寒冷前 線から噴き出す冷気流と暖気流がぶつかって不安定性が高まる域にあった。 さらに,発生地点風上側に位置する山(点線部)を暖気が乗り越えることにより, 山の麓でSReHが「局地的に」高まったことが一因と指摘されている(加藤 2008)。 29 【参考2 参考2】佐呂間竜巻に 佐呂間竜巻に対する分析 する分析[ 分析[3/7] 佐呂間竜巻の 佐呂間竜巻の分析結果のまとめ 分析結果のまとめ 突風関連指数(SReH)の分析より,日高山地の東側斜面・平野部では特に, 強い渦が発生しやすい傾向が見られた。 太平洋側から暖かく湿った大気(暖気)が流入し,山脈と寒冷前線の影響で 風の強い収束および不安定な地域が山脈に沿って線状に形成され,積乱雲 がこの地域を北上しながら発達することによって,竜巻の親雲が形成され た。 暖気流が発生地点の風上側に存在する山を乗り越えることで,発生地点周 囲が局所的に渦度・不安定性が極度に高まる状況下にあった。 佐呂間竜巻は地形と総観場の相互作用で発生した特殊な事例と考えられ る。 30 【参考2 参考2】佐呂間竜巻に 佐呂間竜巻に対する分析 する分析[ 分析[4/7] 湿った暖気流が流入する太平洋側に面し,かつ突風関連指数の観点でF3以上の竜巻 が発生し難い地域(福島県以北の本州太平洋側・道東など)においては,以下の3点の 類似性が無いことを確認することにより,佐呂間竜巻と同様の竜巻が発生する可能性 について確認できる。 ①南北に連なる高い山脈の東側(太平洋側)に開けた平野が存在し,当該平野部が親 雲生成,発達に寄与する大きな渦が発生しやすい地域であるか。 ② ①で生成,発達した親雲の移動先に評価地点が位置するか。 ③評価地点の太平洋側に小高い山・丘が存在し,太平洋側から吹く暖気流の風下側 (山・丘の麓または平野部)に評価地点が位置するか。 上層・下層間の強い 風向差・不安定度 マイクロスケール ・太平洋側平野部では見られないメカニズム ・(気象モデル内では勘案されていない) 冷気流 局地スケールの地形による現象 竜巻発生 佐呂間 太平洋側か らの暖気流 平野部 小高い山,丘 ・暖気流と寒気流がぶ つかり大気不安定 ・風向・風速差により 渦発生 親雲生成, 発達 親雲 前線断面 ・太平洋側平野部と同様 親雲移動 • 親雲が山脈沿いに北上 の環境場形成パターン しながら,持続的に発達 (高渦度形成・取り込み, ※日高山脈東側の太平洋側沿岸では, 高い大気不安定度) 竜巻が殆ど発生していない。 山麓では小さな竜巻が数個発生。 ただし,その頻度は 非常に低い 冷気流 日高山脈 平野部 メソスケール 太平洋側から の暖気流 31 佐呂間竜巻の発生メカニズム(概要図) 【参考2 参考2】佐呂間竜巻に 佐呂間竜巻に対する分析 する分析[ 分析[5/7] 道東・オホーツク地域の環境場特性(1/2) SReHおよびCAPEの閾値を下げることにより,F2規模以上の竜巻発生頻度を分析した。 F2規模以上を想定した閾値( SReH 200 m2/s2,CAPE:650 J/kg )による同時超過頻度分布を下図(左) に示す。(下図(右)は10ページに示した,F3規模以上を想定した閾値による分析結果)。 [%] 閾値(SReH 200 m2/s2,最大CAPE:650 J/kg(暖候期))を同 時に超過する頻度(F2規模以上の竜巻を想定) [%] 閾値(SReH 350 m2/s2,最大CAPE:1600 J/kg(暖候期))を同時 に超過する頻度(F3規模以上の竜巻を対象) 道東・オホーツク地域は,F2 規模程度の発生頻度が本州北日本より小さい(実際,未だ発生していな い)が,北海道の中ではやや高い頻度であった(前述のとおり,日高山脈周辺で発生した積乱雲が北 上した際に,局所的な周辺地形によるSReH増幅効果があった)。 また,暖湿流の流入と高渦度が重畳する頻度が北海道の中では高くなっている。 よって,F3規模に至った理由は,メソスケール環境場の影響とマイクロスケールの地形影響によるとこ 32 ろが大きい。 【参考2 参考2】佐呂間竜巻に 佐呂間竜巻に対する分析 する分析[ 分析[6/7] 道東・オホーツク地域の環境場特性(2/2) F2規模以上の竜巻を想定した閾値による,暖候期(下図左)および寒候期(下図右)の SReHおよびCAPEの同時超過頻度分布を下図に示す。 [%] 閾値(SReH 200 m2/s2,最大CAPE:650 J/kg(暖 候期)を同時に超過する頻度(F2規模以上の竜 巻を想定) [%] 閾値(SReH 200 m2/s2,最大CAPE:350 J/kg(寒候期) を同時に超過する頻度(F2規模以上の竜巻を想定) 佐呂間竜巻は季節の変わり目(11月初旬)に発生しており,環境場特性では暖候期と 寒候期のどちらのパターンにもなりうる時期といえる。 33 【参考2 参考2】佐呂間竜巻に 佐呂間竜巻に対する分析 する分析[ 分析[7/7] 佐呂間型竜巻の 佐呂間型竜巻の発生可能性について 発生可能性について 日高山脈の東側(北海道)および東北太平洋側において,暖湿流の流入機会はある。 しかし,前線や低気圧通過時の渦度が高い状況下で,F3規模を引き起こすような不安定性 の高い暖湿流が流入する頻度は極めて低い。 内陸で発生した佐呂間竜巻は,同じF3でも太平洋側で発生した竜巻とは地形影響の有無 の観点でメカニズム的に異なる。 F2規模竜巻に適した環境場が比較的高頻度で発現しうる地域において,評価地点近隣に おける局所的な地形影響が大きく影響した(環境場だけでF3規模に到るには微妙な)竜巻 であった。 以上より,佐呂間型竜巻の発生可能性について,評価地点ごとに下記の状況に該当している か,設計竜巻の設定時(地形影響評価時)に確認すべきである。 太平洋側からの暖気流が高標高山岳等に遮断されずに直接流入しうる地域であるか。 近隣地形(数キロ四方の範囲)において,(太平洋側からの)暖気流の流入方向に尾根 状の丘・山が存在するか。 なお,国内の原子力発電所において,上記条件に該当する発電所はない。 34 【参考3 竜巻( 参考3】佐呂間竜巻と 佐呂間竜巻と太平洋側の 太平洋側のF3竜巻 竜巻(つくば竜巻 つくば竜巻) 竜巻)の比較 佐呂間竜巻とつくば竜巻の比較を下表に示す。 佐呂間竜巻は国内のF3竜巻で唯一内陸の丘陵地(麓)で発生。 佐呂間竜巻の継続時間,移動距離はつくば竜巻と比較して短い。その要因としては 以下が考えられる。 • 地形効果が局所的である • 地表面粗度による減衰が大きい (一般的に竜巻の傾向として,規模が大きいほど継続時間および移動距離は長くなる) つくば竜巻はCAPEが非常に大きい。これは,竜巻発生要因である総観場(台風や前 線等)が通過する際に,太平洋側に開けた平野部または海上において,竜巻発生に 適した気象場が短時間で形成されるためである(佐呂間竜巻は気流と地形影響によ り発生)。 発生箇所 佐呂間竜巻 (F3) 丘陵地 (麓) 継続時間 約1分 移動距離 竜巻発生時の気象場 約1.4km ・SReH:約700 m2/s2 ・CAPE:約900 J/kg (寒候期の閾値※を超えており, 非常に不安定) ・SReH:約300 m2/s2 ・CAPE:約1800J/kg つくば竜巻 平野部 約18分 約17km (F3) (太平洋側からの暖気流に伴 いCAPEが非常に大きくなる) ※寒候期の突風関連指数の閾値(CAPE:500J/kg,SReH:350m2/s2) 35 【参考4 参考4】フジタモデルの適用 フジタモデルの適用の 適用の可能性について 可能性について[ について[1/9] Fujitaスケールの風速条件で自動車の浮上・飛散を計算し,各Fujitaスケールにおける 被災状況との整合性を評価する。 竜巻による自動車飛散実績(Fスケール別) Fujitaスケール 風速 F2 50-69 [m/s] cars blown off highway(自動車が道路からそれる) F3 70-92 [m/s] cars lifted off the ground(自動車が地面から浮上する) 93-116 [m/s] cars thrown some distances or rolled considerable distances(自動車がある距離を飛ばされる,または,かな りの距離を転がる) F4 自動車の被災状況 よく一致 よく一致しており 一致しており, しており,フジタモデルは実現象 フジタモデルは実現象の 実現象の再現性がある 再現性がある フジタモデルによる自動車の飛散評価結果(江口ら*) 最大水 平風速 VD [m/s] 竜巻接 線速度 Vm [m/s] 竜巻移 動速度 Vtr [m/s] F2(静止) 69 59 F2(走行) 89※ F3(静止) F4(静止) Fujitaスケール との対応 計算結果 速度 距離 高さ 10 1.0 m/s 1.4 m 0m 59 30※ 23 m/s 25 m 0.9 m 92 79 13 23 m/s 34 m 1.1 m 116 99 17 42 m/s 59 m 3.1 m ※竜巻移動速度に対する自動車の相対走行速度を20m/s(72km/h)と仮定し,竜巻の移動速度に加えた場合 *江口 譲,杉本聡一郎,服部康男,平口博丸,竜巻による物体の浮上・飛来解析コードTONBOSの開発,電力中央研究所 研究報告N14002, 2014. 36 【参考4 参考4】フジタモデルの適用 フジタモデルの適用の 適用の可能性について 可能性について[ について[2/9] 1978年4月17日,ミシシッピー州で建設中のGrand Gulf原子力発電所に竜巻が来襲 (文献1,2) 竜巻経路 ©American Meteorological Society. Used with permission. 文献(1)の掲載写真に文献(2)で示されている竜巻経路を加筆 文献 (1) J. R. McDonald, T. Theodore Fujita: His Contribution to Tornado Knowledge through Damage Documentation and the Fujita Scale, pp.63-72, vol.82, no.1, Bull. of Amer. Meteor. Soc., 2001. (2) T. Fujita and J. R. McDonald: Tornado damage at the Grand Gulf,Mississippi,nuclear power plant site: Aerial and ground surveys. NUREG/CR-0383,Nuclear Regulatory Commission,Washington,DC,1978. 37 【参考4 参考4】フジタモデルの適用 フジタモデルの適用の 適用の可能性について 可能性について[ について[3/9] 竜巻の規模 変電設備でF3竜巻相当の被害(文献1) 風速はF2相当の56-67m/sと推定(文献2) 主な被害 • 冷却塔の耐風設計風速は40m/sであり,これを40-70%超える風速にも耐えた (文献2)が,冷却塔内部に設置されていたコンクリート流し込み用のクレーン が倒壊し,建設中の冷却塔(高さ138m)に衝突し一部が破損した。 欠損箇所 冷却塔 落下により倒壊したクレーン 文献(2) 文献(2) "courtesy of HathiTrust" "courtesy of HathiTrust" http://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=mdp.39015037472209#view=1up;seq=19 http://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=mdp.39015037472209#view=1up;seq=52 破損した冷却塔の上空からの航空写真 (文献(2)掲載写真に一部加筆) 冷却塔下部に落下したクレーンとコンクリート瓦礫 (文献(2)掲載写真に一部加筆) 38 【参考4 参考4】フジタモデルの適用 フジタモデルの適用の 適用の可能性について 可能性について[ について[4/9] Grand Gulf原子力発電所資材置き場のパイプ飛散状況 文献(2)において報告されている被害状況 Pieces of pipe were scattered over a large area,but none traveled more than 25-30 ft. (パイプを収納した木箱(一部2段重ね)は浮上せず転倒しパイプが散乱するが,7~9m以内 に留まる。) 【パイプ仕様】 名称:Transiteパイプ,材質:コンクリート・石綿製,長さ:8ft.,直径(内径):8in. "courtesy of HathiTrust" http://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=mdp.39015037472209#view=1up;seq=65 39 【参考4 参考4】フジタモデルの適用 フジタモデルの適用の 適用の可能性について 可能性について[ について[5/9] Grand Gulf原子力発電所資材置き場のパイプ飛散の再現計算 【パイプ仕様】 名称:Transiteパイプ,材質:コンクリート・石綿製,長さ:8ft.,直径(内径):8in. 【計算での仮定】 外径:9in.,密度:1700kg/m3 ⇒ 飛行定数CdA/m=0.0080 m2/kg,物体高さd=0.229m 【竜巻条件】最大風速VD=67m/s,最大接線風速Vm=53.6m/s,移動速度Vtr=13.4m/s,竜巻半径 Rm=45.7m 【計算結果】 ・フジタモデル(初期高さ1m※):飛散距離=1.2m,飛散高さ=初期高さから浮上なし,最大水平速度=4.9m/s ⇒文献(2)の調査結果と整合 ・ランキン渦(初期高さ40m ):飛散距離=227m,飛散高さ=初期高さから0.34m浮上,最大水平速度=40.9m/s モデル (初期高さ 1m※):飛散距離=42.6m,飛散高さ=初期高さから0.34m浮上,最大水平速度=30.7m/s ※ 2段重ねで配置されていた状況を踏まえ設定 再現計算結果の考察 • フジタモデルでは,初期高さからの浮上はないとの結果が得られ,実際に確認された状 況(浮上せず転倒した木箱からパイプが散乱)を再現していると評価。 • 一方,ランキン渦モデルでは,飛散距離が初期高さを1mとした場合においても実際に 確認された状況(浮上せず転倒した木箱からパイプが散乱)とパイプの飛散状況に大き な差があり,地表面での風況場は過大な結果(飛散距離:227m[初期高さ40mの場合], 42.6m[初期高さ1mの場合])を与えることが確認された。 • よって,竜巻対策を実施する上で,ランキン渦モデルを用いた場合は非常に過大な対 策となるが,フジタモデルを用いた場合は実現象に即したより現実的な対策が可能。 40 【参考4 参考4】フジタモデルの適用 フジタモデルの適用の 適用の可能性について 可能性について[ について[6/9] 佐呂間竜巻(H18.11.7)による被災状況(工事事務所敷地内の車両が被災[文献(3),(4)])。 文献(3)の掲載写真に文献(4)で示されている竜巻経路を で加筆 文献 (3) 札幌管区気象台:災害時気象調査報告,平成18 年11 月7 日から9 日に北海道(佐呂間町他)で発生した竜巻等の突風,災害時 自然現象報告書2006 年第1 号,2006。 (4) 建築研究所 構造研究グループ 奥田泰雄・喜々津仁密・村上知徳, 2006 年佐呂間町竜巻 被害調査報告, 2006 年 11 月 21 日。 41 【参考4 参考4】フジタモデルの適用 フジタモデルの適用の 適用の可能性について 可能性について[ について[7/9] 佐呂間竜巻による工事事務所敷地内の被災状況(文献(3),(4)) 4tトラック②に乗車していた2名が竜 巻来襲時の被災状況の一部(右図, 工事事務所Aの飛散開始,車両②お よび⑥の竜巻来襲前の車両位置)を 証言している。 ①~⑥ この2名は来襲直前に座席下に潜り 込んだが直後に気絶し,着地点付近 で車外に投げ出されたところを救出さ れている。 ①乗用車× ×:他の乗用車に乗り上げ (元の駐車位置は不明) ②4tトラック■:竜巻経路の左側(約 45°方向)に約40m移動 ③乗用車■:約60m移動(全壊・飛散 した工事事務所Aの瓦礫ととも に移動したものと考えられる) ④⑤重機:(元の駐機位置は不明) ⑥乗用車 □:竜巻経路の左側(約 65°方向)に約50m移動(駐車 位置横の倉庫は全壊・飛散) 周囲の建物や大型車両の影響が 少ない4tトラック トラック■を計算対象と トラック して選択 竜巻の前後に位置が確認された車両の移動状況[文献(3)] (写真は被災前の航空写真。文献(4)で示されている竜巻経路 を で加筆。) 42 【参考4 参考4】フジタモデルの適用 フジタモデルの適用の 適用の可能性について 可能性について[ について[8/9] 【物体条件】4tトラック ・車種不明のため,三菱ふそうPA-FK71D (8.1mx2.24mx高さ2.5m,質量4000kg)の 仕様を採用 飛行定数CdA/m=0.0056m2/kg,物体高さd=2.5m ・竜巻は遠方から接近するため,文献(5)の 風洞試験結果を参考として,「風速60m/s以 下では浮上/移動しない条件」を設定 【竜巻条件】 ・移動速度=22 m/s(文献(3)) ・最大風速=92m/s(F3相当) ・コア半径= 20 mを仮定 ・車両②と竜巻中心との距離は不明確のた め,18, 20, 22m(2m間隔で3ケース)を仮定 ケース1 の着地点 ケース2 の着地点 ケース3 の着地点 【解析結果】 ・右図に示す飛散経路の計算結果は概ね 実際の飛散状況と整合する。 参考文献(5) T. Schmidlin et al., UNSAFE AT ANY (WIND) SPEED? Testing the Stability of Motor Vehicles in Severe Winds, pp.1821-1830,vol.83, no.12,Bulletin of the American Meteorological Society,2002. 文献(3)の掲載写真(白黒)に解析結果をオーバープロット 43 【参考4 参考4】フジタモデルの適用 フジタモデルの適用の 適用の可能性について 可能性について[ について[9/9] 佐呂間竜巻の被害状況 事務所の損壊 電柱の折損・傾斜 トラックの横転 倉庫の損壊 電柱の折損・傾斜 出典:佐呂間竜巻災害の記録-若佐地区-,北海道佐呂間町 44 【参考5 参考5】フジタモデルとランキン渦 フジタモデルとランキン渦モデルの浮上 モデルの浮上・ 浮上・飛来挙動の 飛来挙動の比較( 比較(コンテナの場合 コンテナの場合) 場合) フジタモデルおよびランキン渦モデルによる飛来物の飛来挙動を解析(可視化)した。 両モデル供に竜巻の接線風速と移動速度が重畳する進行方向右側で 水平速度 ほぼ同等の水平速度となる。 飛散距離, ランキン渦モデルは比較的強い上昇流が広域にわたり分布する(非現 飛散高さ 実的)ため,フジタモデルに比べ飛散距離,飛散高さは大きくなる。 フジタモデル ランキン渦モデル コンテナ諸元 解析モデル 計算結果 初期位置 縦 フジタモデル 高さ40mの地面に2601個 (51×51個)を配置 2.4m ランキン渦 高さ40mの空中に2601個 モデル (51×51個)を配置 横 6m 高さ 2.6m 重さ 最大水平速度 飛散距離 飛散高さ 55 m/s 259m 17 m 55 m/s 347m 55m 2.3t 出典: フジタモデルの計算: 江口ら,竜巻飛来物速度評価法の課題とその解決策,日本保全学会 第11回学術講演会,2014.7 ランキン渦の計算: 江口ら,Fujitaの竜巻風速場モデルを用いた物体浮上・飛散特性の評価,第19回動力・エネルギー技術シンポジウム,B215,2014.6 45 【参考6 参考6】飛来物解析結果に 飛来物解析結果に基づく施設 づく施設への 施設への影響評価 への影響評価について 影響評価について 飛来物の飛来挙動結果に基づく竜巻防護施設への影響評価方法は以下のとおり。 ①飛散挙動から最大の飛散距離,飛来高さおよび水平速度を選出する。 ②竜巻防護施設については,その最大飛散距離内にある全ての飛来物(例:コンテナ)に,その 最大の飛散距離を適用する。 (例:水平距離259m,高さ=17m,最大水平速度=55m/s) ③構造物からの距離が,最大飛散距離と比較し遠方にある飛来物は,構造物に到達しない。 飛来物 A~E F,G 影響評価および対策 竜巻防護施設(原子炉建屋等)から飛来物の最大飛散距離内にある全ての 飛来物に対して①の諸元を適用し影響評価および対策を実施。 竜巻防護施設(原子炉建屋等)から飛来物の最大飛散距離外にあるため, 影響評価および対策は不要。 A 影響評価および 対策実施範囲 最大飛距離( 最大飛距離(水平) 水平) 259m 原子炉建屋 B E C D コンテナ等 コンテナ等 G F 飛来挙動結果に対する飛来物(コンテナ等)への適用考え方 フジタモデル高さ40m(地面)の例 46
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