2012/5/27 第1回 「持続可能性と幸福度に関するワークショップ」 2012.05.28 自己紹介 幸福研究の文化心理学的視座: 国際比較からわかること 京都大学こころの未来研究センター 内田 由紀子 • 専門:社会心理学・文化心理学 – 心の働き(幸福感も含む)が、人々が生きる文化 や社会の成り立ちとどのように関連しているかを 研究する学問分野(例:事物への注意の仕方の 日米差など) – 特に対人関係やそこから得られる幸福感に関心 – 幸福の意味、幸福の獲得の仕方の文化差(主に 日米比較) [email protected]‐u.ac.jp http://kokoro.kyoto‐u.ac.jp/en/cultureko_net/uchida‐jp.html 1 2 そもそもなぜブータン=幸福の国とし て注目されるようになったのか? 本日のアウトライン • 幸福感の意味と文化 • 内閣府での議論の現状 • 指標について GDPではなくGNH(Gross National Happiness) GDP(国内総生産) 日本=世界3位 ン=世界161位 3 4 GDPと主観的幸福感 幸福のパラドックス(1974) • 経済成長が人々の幸せに結び付いていない(イー スターリンの幸福のパラドックス) • 日本も同様 ②GDPが低く ても幸福度の 高い国がある ③GDPが高い国の中でも日 本の幸福感はとりわけ低い お金が幸福をもたらさない!? 2011年12月「幸福度に関する研究会報告」より。 「幸福度」、「生活満足度」は内閣府「国民生活選好度調査」における3年度毎の回答に 基づく平均値を1990年を100として相対化したもの。 ①GDPが幸福にもたらす 効果は頭打ちになる Inglehart et al., 2008 6 1 2012/5/27 幸福感マップ 日本の幸福はなぜ低い? • 日本社会不幸説 (自由選択に乏しい、働く時間が 長すぎる、格差が広がっている、夢や希望がな い・・・) • 日本人不感説 (そもそも幸せだという 人生評価やウキウキした感覚に乏しい・・・) →悲観的日本論 White (2006) 7 自由選択と主観的幸福感 • しかし「幸福」とはこうあるべきだ、という価値 観が世界において一元化していないか? • 実際、日本の幸福の中身とは? 文化的幸福観(内田・荻原, in press) Inglehart et al., 2008 Psych Science 日本 dialectic model relationship 「おだかやかさ」 北米 incremental model Personal achievement 「うきうき」 (Tsai et al., 2006) 良いことと悪いことのバランスの重視 良いことがさらなる幸福を招く、上昇 (負の内包; Miyamoto & Ryff, 2011) 的幸福(Ji et al., 2001) 関係志向 関係性目標(Oishi & Diener, 2001) ソーシャル・サポート(Uchida et al., 2008) 自己価値・自尊心 (Diener & Diener, 1995) 個人の目標達成(Oishi & Diener, 2001) 人並み志向・比較志向 (Hitokoto et al., 2008) 自由選択 (Ingrehart et al., 2008) 9 Masuda, et al (2008) 真ん中の人物がどれぐらい「楽しそう」か 8 USA JPN 7 「楽しさ」 6 5 真ん中: 笑顔 周りの人:笑顔 真ん中:笑顔 周りの人:笑顔でない 2 2012/5/27 Uchida & Kitayama (2009) 幸福感の意味分析 Uchida & Kitayama (2009) 幸福感の意味分析 negative 100 (%) – 日本人73 名(京大生) (年齢 18-22) – アメリカ人95 人(ミシガン大) (年齢17-21) • 他の国で暮らした経験のない白人 • 幸せの特性やそれを感じることによって生じる結果などに ついて5つまで自由に記述 or neutral positive 80 60 40 20 0 • それぞれについて、どれだけ望ましい特徴や結果である かを5段階評定 (5=非常に望ましい, 1=全く望ましくない) us • • 13 jp Proportion of the positive description – US‐‐97.4 %, Japan‐‐68.0 % p<.001 Mean score of desirability – US‐‐4.78, Japan‐‐3.90 p<.001 14 対人的 否定的意味・不安 関係性・対人的幸福 周りが見えなくなる 妬まれる うわつく 肯定的感情 向上心がなくなる かえって不安になる 裏 幸福感へのルート (Uchida et al., 2008) 人に優しくなれる 寛容になる 人と分かち合いたい 日本 Self‐esteem うきうき リラックス US Happiness 表 長くは続かない 幸せの渦中にいるときはそれとは 気づかない 欲しいものが手に入ったとき お金がある 何かを達成したとき 求めればきりがない Asian culture Emotional support 実体のないもの 無常観 個人的 物質的・個人的幸福 15 世界的比較で用いられる指標 16 内閣府調査H23(N=6451) 人生の満足感尺度 (Diener et al., 1985) 1私は自分の人生に満足している。 2私の生活環境は素晴らしいものである。 3大体において、私の人生は理想に近いものである。 4もう一度人生をやり直すとしても、私には変えたいと思うところはほとんど ない。 5これまで私は望んだものは手に入れてきた。 アメリカ人大学生平均点:>5.0 日本人大学生平均点:<4.0 (いずれも7点尺度) 大石, 2009;Hitokoto & Uchida, 2008による 幸福度 0~10での評定 人生満足度、生活満足度など 0~10での評定 Ladder 式:最高の人生を10点、最低の人生を10点としたときの評価 17 現在、あなた自身はどの程度幸せですか。 (「とても幸せ」を10点、「とても不幸」を0点) 6.64 あなたの同居している家族は全体としてどの程度幸せだと思いますか。 6.80 理想の幸福状態(幸せだけが10点、半々くらいが5点) 7.24 5年後の幸せ(-5~+5) 0.37 全体として最近の生活にどの程度満足していますか。(全く満足してい 5.98 ない0点、非常に満足している10点) 仕事満足度(0~10) 5.64 家族生活満足度(0~10) 7.04 18 3 2012/5/27 比較文化研究からわかること 人並み・協調的幸福 (Hitokoto & Uchda, 2012) • 自分だけでなく、身近なまわりの人も楽しい気持ちでいる と思う • 周りの人に認められていると感じる • 大切な人を幸せにしていると思う • 平凡だが安定した日々を過ごしている • 大きな悩み事はない • 人に迷惑をかけずに自分のやりたいことができている • まわりの人たちと同じくらい幸せだと思う • まわりの人並みの生活は手に入れている自信がある • まわりの人たちと同じくらい、それなりにうまくいっている • シンプルな平均値の国際比較のもたらす問題 • 疑似相関に注意するべき • 幸福の意味を検討することの重要性 • 幸福をもたらしているものは何か?間接的だと 考えられていることが意外に重要な可能性も (「当たり前のことは見落としがちである」)。そ の上で他文化との比較は重要な視点 19 内閣府「幸福度に関する研究会」 20 内閣府での議論 • 主観的幸福感を多層的に捉える • 国際比較を視野に入れつつ、一方で日本的 な幸福感を検討すること 社会学 経済学 社会・公共政策 心理学 22 指標案(2011年12月発表) 「経済社会状況」、「心身の健康、「関係性」を3つの柱とし、「持 続可能性」についても別立てで重視 主観的幸福観 理想の幸福状態 将来の幸福予測 人並み幸福観 感情経験 世代差も考慮する 客観・主観指標双方の重視 • 「経済社会状況」、「心身の健康」、「関係性」 を3つの柱に • 世代差も考慮する • 客観・主観指標双方の重要性 提言してきたこと(内田) • 単純な平均値の比較の危険性 • 日本的幸福の意味への配慮:「関係性」と欧米 型幸福観からの転換 • 「職の有無」などのプロフィールが人々の幸福 を決定づけるというより、それぞれの中でのこ ころのあり方に目をむけるべきという視点 • 震災を受けて – 個の幸福から集合的幸福へ – つながり志向生 – 自然とのかかわり指標と持続可能性 4 2012/5/27 持続可能性と幸福 個の幸福をこえて • 主観的測定指標の整理 • 環境配慮行動、動機づけ、態度、認知、価値、 文化・環境的背景 • 堀毛(2012) – Sustainable 心性(世代継承性意識、環境保護価 値観、植物親和感など)、sustainable 行動(環境 啓発行動、資源節約行動など) – それぞれSWBと弱い正の相関(心性の方がより SWBと関連) – (個人内では)主観指標の有効性を示唆 25 • ブータンのGNH:幸せな社会をつくるために 自然環境の豊かさ、伝統文化の保全、良い政 治、経済発展 • 日本の幸福度:自然とのかかわりや関係性 (家族・地域)の見直しと、心身の健康、それを 支える社会・経済 社会・経済・政治 • 増大的・個人的 家族 心身 地域 幸福モデルからの脱却 自然 と「負の」受容 関連論文(内田) • • • • • • • • • 内田・高橋・川原(2011) 「東日本大震災直後の若年層の生活行動及び幸福度に対する影 響 」内閣府経済社会総合研究所WP 内田由紀子(2011) 日本文化における幸福感-東日本大震災後の復興を支える心理と社 会システム- 計画行政, 34, 21‐26. 内田由紀子・荻原祐二(印刷中). 文化的幸福観:文化心理学的知見と将来への展望. 心理 学評論 内田由紀子・遠藤由美・柴内康文(印刷中). 人間関係のスタイルと幸福感:つきあいの数と 質からの検討 実験社会心理学研究 Uchida, Y. (2011). “A holistic view of happiness: Belief in the negative side of happiness is more prevalent in Japan than in the United States.,” Psychologia, 53, 236‐245. 内田由紀子 (2010). 文化と幸福感. 西村健監修、藤本修・白樫三四郎・高橋依子(編)メンタ ルヘルスへのアプローチ:臨床心理学、社会心理学、精神医学を融合して, pp. 104‐116. ナ カニシヤ出版 Uchida, Y., & Kitayama, S. (2009). Happiness and unhappiness in east and west: Themes and variations. Emotion, 9, 4, 441‐456. Uchida, Y., Kitayama, S., Mesquita, B., Reyes, J. A. S., Morling, B (2008). Is Perceived emotional support beneficial? Well‐being and health in independent and interdependent cultures. Personality and Social Psychology Bulletin, 34, 741‐754. 北山忍・内田由紀子・新谷優 (2007) 「文化と感情:現代日本に注目して」藤田和生(編), pp 173‐209. 感情科学. 京都大学学術出版会 27 5
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