平成26年度笠間市青年海外派遣レポート

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【目次】
第1章
研修概要
------------------ P2
1. シンガポール共和国の概要 ------------------- P3
2. 研修生名簿 --------------------------------- P3
3. 研修スケジュール --------------------------- P4
研修地マップ ------------------------------- P5
第2章
1.
2.
3.
4.
5.
第3章
研修地レポート
------------------ P6
日本企業の進出 ----------------------------シンガポールの歴史・文化 ------------------シンガポールの都市政策
------------------近隣諸国へのショートトリップ --------------シンガポールの観光政策・文化交流 ----------
テーマ別レポート
P7
P11
P15
P18
P22
------------------ P27
1. ヒト・モノ・文化の交流拠点シンガポールから学ぶまちづくり
常磐大学 4 年 深谷 翔子 -- P28
2. シンガポールの都市環境について
筑波大学 4 年 川上 裕貴 -- P32
3. シンガポールの観光政策について
茨城大学 4 年 中庭 寿子 -- P39
4. 海外からの観光客を増やすためには
茨城大学 3 年 直井 功憲 -- P43
5. 景観、視覚的情報について ∼見たものから伝わること∼
常磐大学 2 年 大槻 奈菜 -- P47
6. 「食」を中心として見る多様な文化
上智大学 1 年 山田 智美 -- P51
第4章
海外研修見聞記
------------------ P55
第5章
おわりに
------------------ P66
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第 1 章 研修概要
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1. シンガポール共和国の概要
・赤は平等と世界の人類、白は純潔と美徳を表す。
・三日月の図柄はイスラム教を表し、5 つの星はそ
れぞれ民主主義、平和、平等、正義、発展を意味す
る。
z
場 所 :シンガポールはマレー半島の先端に位置する国
z
面 積 :面積は 716 ㎢(東西 42 ㎞・南北 23 ㎞)
日本だと東京 23 区と同程度の大きさ
z
人 口 :約 540 万人(2013 年 9 月)
(中華系 74%、マレー系 13%、インド系 9%その他 3%)
z
気 候 :日中平均 24~32℃、湿度も高く 1 年中日本の夏のような気候
z
言 語 :【国
語】マレー語
【公用語】英語・中国語・マレー語・タミール語
z
主要産業:製造業、商業、ビジネスサービス、通信業、金融サービス、
運輸業
※日本は 99.0%
z
成人の総識字率:96.1%(2011 年)
z
日本との時差:-1 時間
z
1 人当たりの GDP(国民総生産): 55,182US ドル(2013 年)
8/186 位
2. 研修生名簿
役職
氏名(ふりがな)
1
団長
深谷 翔子(ふかや しょうこ)
女
常磐大学 4 年
2
副団長
川上 裕貴(かわかみ ゆうき)
男
筑波大学 4 年
3
団員
中庭 寿子(なかにわ ひさこ)
女
茨城大学 4 年
4
団員
直井 功憲(なおい よしのり)
男
茨城大学 3 年
5
団員
大槻 奈菜(おおつき なな)
女
常磐大学 2 年
6
団員
山田 智美(やまだ さとみ)
女
上智大学 1 年
村上 俊和(むらかみ としかず)
男
笠間市
随行員
性別
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職業(大学名、学年)
市民活動課
3. 研修スケジュール
日数
月 日
曜日
平成 26 年
9 月 22 日
1
月
(マリーナ・
エリア泊)
9 月 23 日
2
(マリーナ・
火
エリア泊)
9 月 24 日
3
(マリーナ・
水
エリア泊)
9 月 25 日
4
(マリーナ・
木
エリア泊)
9 月 26 日
5
(マリーナ・
金
エリア泊)
6
9 月 27 日
土
摘
7:00
11:10
17:10
18:00
20:00
要
笠間市役所集合 ⇒ 公用車にて成田空港へ
成田空港 出国 [ シンガポール航空 ]
チャンギ空港 入国
専用バスにて市内へ
夕食後 専用バスにてホテルへ
9:00-11:00 [ 常陽銀行シンガポール駐在員事務所 ] 訪問
11:30-12:15 [ アラブ・ストリート ] 散策
12:45-13:35 昼 食
14:00-15:50 [ 国立博物館 ] 視察
16:05-17:40 [ ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ ] 視察
19:00-20:15 夕食後 [ サンズ・スカイパーク ] 視察
9:25-10:45 [ ニューウォーター・ビジターセンター ] 視察
11:20-12:20 昼 食
13:00-14:50 [ キッコーマン工場 ] 視察
15:35-17:15 [ タイガービール工場 ] 視察
19:30-22:00 夕食後 [ ナイトサファリ ] 視察
9:00 シンガポール 出国 [ 専用バス ] ⇒ マレーシアへ
9:30-10:40 [ マレー文化村 ] 体験学習
11:05-11:30 [ イスカンダル情報センター ] 視察
11:45-12:45 [ コタ・イスカンダル ] 視察
13:20-14:25 昼 食
14:45-15:45 [ AEON ショッピングセンター ] 調査
16:30 シンガポール 入国 [ 専用バス ]
17:15-18:25 [ プラナカン美術館 ] 視察
19:30-21:00 夕食後 [ ホーカー等 ] 散策
9:40- 9:55 [ ホーカー ] 散策
10:00-11:00 [ URA(都市再開発庁)ビジターセンター ] 視察
11:05-12:00 [ チャイナタウン ] 散策
12:20-13:00 [ MPA(海事港湾庁)マリタイム・ギャラリー ] 視察
13:20-14:15 昼 食
14:15-17:25 [ セントーサ島 ] 視察
19:20-21:00 夕食後 [ 星日文化協会 ] 交流会
7:00 ホテル 出発
7:30 チャンギ空港
9:25 チャンギ空港 出国 [ シンガポール航空 ]
17:05 成田空港 帰国
17:40 成田空港 ⇒ 公用車にて笠間市役所へ
19:50 解散
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第 2 章 研修地レポート
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1. 日本企業の進出
㈱常陽銀行シンガポール駐在員事務所訪問【9 月 23 日 9:00~11:00】
1) 駐在員事務所訪問
2) 会社説明
3) 質疑応答
常陽銀行のシンガポール駐在
員事務所は平成 24 年 9 月 7 日に
開設され、社員 3 名と茨城県か
らの派遣者 1 名が駐在している。
シンガポールへ進出した目的は、
ASEAN 諸国( )の経済発展に伴
い海外進出のニーズが高まった
ことから、受け皿となる海外拠
点を設置し営業活動の支援を行
うためである。その中でもシン
ガポールへの進出の理由は、東南アジアの中心に位置しハブの役割をもつこ
との他に、東南アジアの中で特に治安が良いことや空港の利便性が高いこと、
また法人税が軽減されており、日本よりビジネスがしやすい環境であること
などが挙げられる。
その主な業務内容は、やはり情報収集が中心とのこと。具体的には、東南ア
ジアへ進出している企業や進出を検討している企業へのサポートを行ったり、
日系企業向けの商談会やセミナーを開催している。野上所長(集合写真の上段左)
は、
「コストがかかる割に収入がない業務ではあるが、オフィスを構えるだけの
価値ある情報がシンガポールでは多く得られる」と仰っていた。そのため、常
陽銀行を含めた 12 社の地方銀行がシンガポールに進出している。すでに常陽銀
行の取引先約 200 社がタイやベトナム、インドネシアなど、東南アジアを中心
に海外進出をしている。今後は日系企業に限らず、国外の企業への支援体制も
強化し、ローンの貸付や融資を積極的に行っていく予定であるとのこと。
一方、茨城県では中小企業海外進出支援事業の取り組みとして、⑴ジェトロ
茨城を設立⑵海外進出サポート協議会の設立・運営⑶東南アジアにおける企業
支援体制の整備の 3 つの事業を行っている。このような取り組みを行う理由は、
国内市場の縮小に伴い、県内中小企業においても生産拠点や販路拡大を海外に
求める傾向が強まる一方で、現地ビジネスに関する情報や法令等についてのノ
ウハウが不足しているからである。そこで県では県内中小企業の貿易や海外進
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出などを積極的に後押しする支援体制
を整備している。
一般的にシンガポールでのビジネス
上の特徴としては、①人件費が高いこ
と②離職率が高いこと③ビザの所得要
件が厳しいことの 3 点が挙げられる。
そのため、事務所の維持管理費用とし
て高い賃借料のほかに、現地雇用にし
ても、駐在員としても高コスト体質を
抱えているといえる。また、東南アジア全般に共通する特徴として、①主張す
る文化②無理はしない文化③高いプライド④企業への忠誠心が低いこと⑤報・
連・相の認識が薄いことなどが挙げられる。以上のことから、日本企業で当た
り前だと思われる部分が、海外で全く通用しないことが多々あるとのこと。そ
の反対に、シンガポールに向いているビジネスは、現地消費者・在留邦人を販
売ターゲットとした進出、ホワイトカラー・間接部門を販売ターゲットとした
進出、そして東南アジア全体の事業統括を目的とした進出である。このことか
ら、他の企業も常陽銀行のシンガポール駐在員事務所のように情報収集をメイ
ンとするところが多いという。東南アジア進出を検討している企業に対し、官
民が一体となってノウハウを提供し、県内中小企業発展の支援体制を整備して
いる。
今後、シンガポールをはじめとする東南アジアの国々は現在よりも更に成長
し、日本の優位性というものは近い将来薄れていくに違いない。しかし、その
中で日本が誇っていけるものは、やはり“おもてなし”の文化である。店員さ
んの気持ちのよい笑顔やレストランに入ってすぐに水が出てくるサービス、常
に清潔さを保つことなど、直接利益に繋がらなくても当たり前のように心から
のおもてなしができるのは、日本が誇れる独自の文化といえる。その文化を維
持することが、今後の近隣諸国との競争の中で大きな強みになると感じた。ま
た、今後の海外進出においても、外国企業と競争していける人材を育てていく
必要があり、日本人の奥ゆかしさだけでなく、海外で競争できる積極さも今後
の人材育成では欠かせない。国の枠を超えて仕事をしている常陽銀行シンガポ
ール駐在員の方々のお話を伺うことで、多くの若者がグローバルな視点を持つ
ことの重要さを再認識した。(担当:深谷・大槻)
※原加盟国はタイ、インドネシア、シンガポール、フィリピン、マレーシアの
5 ヶ国で、ブルネイ、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、ラオスを含め、
現在は 10 ヶ国となっている。
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キッコーマン㈱工場視察【9 月 24 日 13:00~14:30】
1)
2)
3)
4)
あいさつ
会社概要説明
工場内視察
質疑応答
キッコーマン・シンガポール
工場は 1983 年に設立され、シン
ガポール島北部のウッドラン
ズ・ニュータウン工業団地に所
在する。土地の広さは 24,000 ㎡
で建物の広さは 13,700 ㎡である。
マレーシアとの国境から車で 10
分程の場所に工場があることか
ら、マレーシアから通う従業員
も多い。従業員数は 65 人で、うち 4 人が日本人、その他従業員の約 4 割がマレ
ー人である。キッコーマンがシンガポールに進出しようとした決め手は、①進
出した 1980 年頃のシンガポール政府が工場誘致に熱心であったこと②原料の
輸入、製品の出荷に関税がかからないこと③港湾、空港、道路、電気、水道、
通信等のインフラが整備されていたこと④政府、経済が安定しており透明性が
高く、日本からの会社を設立するのに 100%出資可能であったこと⑤高質な労働
力と公用語が英語であることが主な理由だという。しかし、先の常陽銀行訪問
でも学んだとおり、シンガポール進出においては課題も数多く存在する。1 つ目
は、東南アジアの労働者は他社との給与を比較して職場を選ぶため、会社への
忠誠心が低く、離職率が高いこと。2 つ目は、他の ASEAN 諸国と比較して人件
費が高いこと。3 つ目は、新規に海外進出する企業が高い給与で社員を募集する
ため、採用が厳しくなっていること。4 つ目は、外国人ワーカーの増加により、
英語が通じないケースが増えてきたこと
である。このことから、林工場長(集合写
真の右から 2 人目)は従業員と接するときに
は、とにかく相手のことを理解するよう
に心掛けているとのこと。無理に日本の
やり方を押し付けず、文化や習慣が大き
く異なるからこそ頭ごなしに叱らず相手
の言い分を聞く事が海外でのコミュニケ
ーションにおいては重要なことであると
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いうことが伺えた。
キッコーマンでは、その国の嗜好に合わせた醤油を製造しており、シンガポ
ール工場ではシンガポール人向けに日本にはない甘い醤油や醤油をベースとし
スパイスを加えたデミソースなどの調味料も作っている。別の工場では、欧米
向けにガーリック風味を加えたものや、タイ向けに唐辛子のスパイスを強くし
たものも製造しているという。特に変わりダネだと感じたものは、オーストラ
リア向けに製造された蜂蜜とリンゴが加えられた醤油である。今回は、これら
の試食はできなかったものの、海外を訪れた際にその国の醤油を試してみるの
も 1 つの楽しみ方になるのではないかと感じた。シンガポール工場の主な出荷
先は、中国と台湾以外のアジア、オセアニア、南太平洋、ブラジル、南アフリ
カ、インドであり、完成した商品が置かれている倉庫には、様々な言語や国名
が書かれた段ボールが積まれており、このシンガポール工場から海を渡り世界
へと運ばれていくのが見て取れた。作業工程では、機械ばかりでなく、コンテ
ナへの荷物の積み替えによる空間の無駄を省くために、手作業で一つひとつ丁
寧に行われている工程も見ることができた。日本でも馴染みのある企業の海外
工場を訪問できたことで、普段の生活では得られない感動を覚えた。
(担当:深谷・大槻)
(醤油の元となる“もろみ”とその試食風景)
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2. シンガポールの歴史・文化
アラブ・ストリート【9 月 23 日 11:30~12:15】
1) サルタン・モスク見学
2) 自由散策
アラブ・ストリートは元々、敬虔
なムスリムの人々の生活圏にして
ほしいとの願いから、19 世紀前半
にイギリスのスタンフォード・ラッ
フルズ卿によって街が整備された
ことが始まりだとされており、その
ランドマーク的な存在となってい
るのがサルタン・モスクである。サ
ルタンとはアラビア語で権力者、国
王と言う意味で、後に続くモスクとはご存知のとおりイスラム教における礼拝
の場所、イスラム教の寺院である。では、この地に立てられたこの寺院はなぜ
国王という意味をもつサルタン・モスクという名前なのであろうか。
サルタン・モスクは 1824 年にサルタン・フセイン・シャー国王によって建設
されたといわれている。この国王は本来王位継承の立場にありながら弟に王位
を奪われ、ラッフルズ卿の擁立なしには王位を継承することができなかった。
この擁立は現在のシンガポール獲得のために画策されたものであったが、無事
に王位継承とイギリス植民地化が成し遂げられたため、ラッフルズ卿がこの国
王に対し敬意を払い、このモスクとその一帯の整備が行われた。この経緯があ
るため、ここは「国王のモスク」という名になっているのである。寺院であり
ながら、イスラム教の戒律に反した格好でない限りは内部の見学をすることが
でき、内部の装飾や実際に 5000 人ほどを収容して礼拝の行われる大広間を見る
ことは、多民族国家ならではの貴重な経験となった。モスクを背にして続く通
りでは、イスラム色を感じられるお土産を
非常に安価で買うこともできる。古くから
の建造物、そして様々な人の生活の痕跡を
残しているシンガポールで、このアラブ人
街と呼ばれる土地は日本人には馴染みのな
い多文化の価値観を学ぶにはもってこいと
言える場所かもしれない。
(担当:直井・中庭)
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シンガポール国立博物館【9 月 23 日 14:00~15:50】
シンガポール国立博物館は、ビクトリア
様式の外観が印象的な同国最大の博物館で
ある。館内では、同国の文化・生活に関す
るリビングギャラリーや、同国の歴史に関
するヒストリーギャラリーが設置されてい
る。
◆リビングギャラリー
リビングギャラリーでは、食やファッションに関する展示が行われ、シンガ
ポールの生活様式を学ぶことができる。展示の一部が準備中だったため、今回
は食と写真のコーナーを見学した。
食のコーナーで印象的だったのは、スパイスの展示である。東南アジアなら
ではの数多くのスパイスが展示され、香りを嗅ぐことのできる装置も設置され
ていた。スパイスといっても香りは様々で、鼻を衝くような香りもあれば、食
欲を誘うような香りもあった。スパイスに関する展示からは、東南アジアの食
にとってスパイスがいかに重要な存在であるかを学ぶことができた。
写真のコーナーでは、数多くの家族写真が展示されていた。このコーナーで
印象的だったのは、様々な民族の家族写真が展示されていたことである。
「から
ゆきさん」のように日本人の写真も展示されており、100 年以上前の日本とシン
ガポールの繋がりを知ることもできた。
◆ヒストリーギャラリー
ヒストリーギャラリーでは、14 世紀から現在に至るまでのシンガポールの歴
史が、時代とテーマに沿って展示されていた。
最初に展示されていたのが、シンガポール初期に関する品々である。このコ
ーナーで見逃せない展示物は、やはりシンガポールストーンだろう。この石に
はシンガポール最古とされる文字が刻まれているが、現在もその文字は解読さ
れていない。シンガポールストーンは、シンガポール初期の歴史を知るために
重要な歴史物といえる。そして、このコーナーではシンガポール初期の歴史に
まつわる映像作品も上映されていた。それによると、14 世紀頃から現在の同国
の地域は、サンスクリット語で「ライオンの都」を意味する「シンガ・プーラ」
と呼ばれるようになったという。これは、シンガポールという現在の国名の由
来となっている。
順路を進むと、近代シンガポールに関する展示が現れる。このブースの中心
であり、シンガポール史を語るうえで外せない人物こそがトーマス・ラッフル
ズ卿である。19 世紀、イギリス東インド会社で書記官を務めていたラッフルズ
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は、マレー半島最南端に位置する島の地理的優位性に目をつけると、この地を
シンガポールと名付け、イギリスの植民地とした。その後、ラッフルズは自由
貿易港の拠点としてシンガポールの開発を進め、瞬く間にこの地域は発展を遂
げていった。現在のシンガポールの経済発展は、ラッフルズの功績の賜物であ
るといっても過言ではない。ここでは、こうしたラッフルズの功績に関する資
料が数多く展示されている。
さらに足を進めると現れるのが、20 世紀のシンガポールに関する展示である。
ここでは、主に太平洋戦争中に起きた日本軍によるシンガポール占領について
の展示が行われていた。戦時中の写真や遺品からは、日本では語られない当時
の生活や戦況について知ることができる。戦争に関する展示は非常に多く、シ
ンガポールの歴史にとって、太平洋戦争は切り離すことができない存在である
と感じることができる。
ヒストリーギャラリーの最後に現れるのが、戦後から現在に至るまでの歴史
である。ここで展示されていたのは、1965 年のシンガポール独立、及びその後
の著しい経済発展についてである。その展示からは、「1965 年 8 月 9 日」が同
国にとっていかに重要な日であるか、そして、シンガポールがどれほど驚異的
なスピードで経済成長を遂げてきたのかを知ることができる。
来年で独立 50 周年を迎えるシンガポール。今後も発展を続け、東アジア、ひ
いては世界の中心都市としての地位を築いていくだろう。このヒストリーギャ
ラリーの最後に、21 世紀のシンガポールが描く輝かしい軌跡が展示されるのが
待ち遠しく感じられる。(担当:川上・山田)
プラナカン美術館【9 月 25 日 17:15~18:25】
プラナカン美術館はマレー半島で生まれたプラ
ナカンたちの華麗な伝統文化を紹介している美術
館である。建物は 1912 年に建てられた学校(旧道
南学校)を利用しており、地下鉄 MRT の City Hall
駅から徒歩 10 分に位置する。3 階建ての館内はプ
ラナカンの結婚式や宗教、食べ物などテーマをそれ
ぞれ設け伝統文化を分かりやすく伝えている。15
世紀後半から中国系の移民たちがシンガポールの
女性と結婚し、その混血の子孫たちがマレー語で
「~生まれの子供」という意味を持つ「プラナカン」
と呼ばれた。館内では中国やマレーシア、ヨーロッ
パなど各国の多様な文化を取り入れた、華やかな生
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活の様子を見ることができる。
2 階のギャラリーにはプラナカンの豪華な結婚式の展示がされ、宝飾品やビー
ズ刺繍が数多くある。宝飾品は全て純金であることから当時の裕福さを感じる
ことができる。また、ビーズ刺繍はほとんどが赤く、これはプラナカン達にと
って赤が縁起の良い色とされているからとのこと。プラナカンの花嫁のビーズ
刺繍技術は非常に高く、花婿の身のまわりの
あらゆるものを花嫁が手作りする。プラナカ
ンの結婚式は 12 日間に渡って行われ、その
間に食べ物や宝飾品などが数多く交換され
るという。館内は 1 時間ほどで見て回ること
ができ、プラナカンたちの当時の生活様式や
冠婚葬祭における男女の振る舞いなどを学
ぶことができる。(担当:大槻・深谷)
ホーカー【9 月 25 日 19:30~21:00】【9 月 26 日 9:40~9:55】
ホーカーとは安価な飲食店の屋台や店舗を集めた屋外複合施設である。1 日の
食事をほとんど外食で済ませるシンガポールの人々にとって安価なホーカーは
欠かせない。多文化共生のシンガポールでは食事と宗教に深く関わりがある。
宗派によって食べることのできない食材は様々であるが、ホーカーではそれら
がきちんと区別してある。例えばイスラム教は豚肉を食べられないので、野菜
中心のメニューを取り扱うお店が一箇所に集まっている。食器も色で分けられ
写真にあるようにイスラムは緑、返却棚にも同じ色が使われる。シンガポール
の多文化共生の工夫が見受けられる。(担当:大槻・深谷)
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3. シンガポールの都市政策
ニューウォーター・ビジターセンター【9 月 24 日 9:30~11:15】
シンガポールには「NEWater(ニ
ューウォーター)」という造語があり、
通常処理された下水をさらに 3 つの過
程を経て特別処理された水がある。そ
れらの処理過程や貴重な水資源につ
いて学習できる施設が、ニューウォー
ター・ビジターセンターである。
まず、水に関する映像の鑑賞から入
り、シンガポールの人々が水辺のアクティビティに興じる姿や、普段の生活で
水を使用する場面などが紹介され、どのように水と共生しているかを学ぶこと
ができる。現在、シンガポールでは 1 人当たり 1 日に 150 リットルの水を使用
している。そこで、1 日の水の使用量を 50 リットルにまで抑えることを目標と
して呼びかけが行われている。
次の体験学習コーナーでは、コンピューターゲームやボート漕ぎの疑似体験
マシンなどで気軽に水の存在に触れ、分かりやすく水の大切さを学ぶことがで
きる。実際、私達の視察の際にも現地の小学生が多数見学に来ていた。
今のシンガポールには 4 つの水の供給源がある。1 つ目は元々のシンガポール
の水資源、2 つ目は隣国マレーシアから輸入している水、3 つ目は海水から生活
用水へと処理した水、4 つ目が下水を利用したニューウォーターである。1965
年にマレーシアから独立して誕生したシンガポールは、水資源でもマレーシア
からの独立を目指しており、以前はジョホール海峡を通る 3 本のパイプから水
を輸入していたが、現在では 1 本のみの輸入で、残りのパイプを利用してマレ
ーシアへ水を輸出している。ニュー
ウォーターは、実際に半導体の洗浄
などにも用いられていることからそ
の綺麗さを伺えるが、
「下水を再利用
している」という事実が人々の精神
的不安につながることを懸念し、飲
用水としてはほぼ用いられていない
とのことである。(担当:山田・川上)
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URA(都市再開発庁)【9 月 26 日 10:00~11:00】
URA(都市再開発庁)では、建物内の
一角をシティ・ギャラリーとして市民
や観光客に公開している。シンガポー
ルの開発や発展の歴史とこれからの
都市計画について学ぶことができる。
時代によって移り変わる都市の風景
や今後の都市計画の予想図など、映像
や写真で変化を比較できるようにな
っている。戦後から現在までの 10 年
ごとに作成される都市開発の構想(コンセプトプラン)や、現在行われているガー
デンシティをコンセプトにした街づくりの展示を見ることができる。シンガポ
ールは国内の大部分が国有地であり、開発のほとんどが政府主導で進められて
きた。都市開発や異文化が混在する街づくりの軌跡を学び、改めてシンガポー
ルがいかに世界的にも稀有な発展を遂げた国家であるかを感じることができる。
また、背丈ほどのタッチパネルを触ると部分的に写真が変わり、現在と過去を
比較できる展示や、街づくりを体験できるゲームなど、子どもでも関心を持ち
ながら学べる仕掛けづくりがされている。1 階には市街地をかたどった巨大模型
があり、時間によっては海に水が流れていくような演出もされ、大人から子ど
もまで幅広くシンガポールの都市開発や街づくりについて学ぶことができる工
夫がなされていた。シンガポールがいかに都市開発を肝要な事業と位置付けて
いるか、また、都市開発に対する意気込みを感じることができる。
(担当:中庭・直井)
MPA(海事港湾庁)マリタイム・ギャラリー【9 月 26 日 11:30~12:30】
MPA( 海 事 港 湾 庁 ) マ リ タ イ
ム・ギャラリーでは、日々の生活
で不可欠な米や麦、石油、医療機
器などの日用品の供給方法とし
て、海路ではどのようにしてシン
ガポールに運び込んでいるのか
を紹介している。館内は模型や絵
を使用してシンガポール政府が
掲げる世界貿易ルートについて
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の戦略を学ぶことができる。
シンガポール港は、世界 123 カ
国 600 の港と 200 の航路により結
ばれている。その理由は、太平洋と
インド洋を結ぶ交通の要衝である
ことや地震や台風などの自然災害
をほとんど受けることがないとい
う地理的優位性に加えて、最新の
IT 技術を駆使し、物流にかかる時
間を可能な限り短縮するなどのサ
ービスの充実を図っているからである。その利便性の高さからシンガポールは
アジアのハブ港としての地位を確立し、コンテナ取扱量は 2005 年から 5 年連続
で世界1位を記録している。そのコンテナ貨物の 8 割は積み替え貨物で、その
後、周辺諸国に搬送されているとのこと。シンガポール港の主要なコンテナタ
ーミナルは、タンジョンパガー、ケッペル、ブラニ、パシルパンジャンの 4 カ
所で 54 のバース( )が稼動しており、4 カ所のターミナルは全長 16 ㎞の道路で
接続されている。その中でも最大規模を誇るのが、パシルパンジャンターミナ
ルであり、16mの大水深港で、大型船の着岸が可能となっている。これだけ巨
大な港を管理するのに 35 の職種の人々が携わっている。
また、MPA では環境汚染問題にも力を入れており、船から漏れ出る重油や二
酸化炭素排出量をできる限り抑え、海洋生物の保護活動も行っている。それに
加え、シンガポールの貿易の歴史は海賊との歴史でもあり、1981 年から近隣諸
国と連携を図り海の安全を保っている。(担当:深谷・大槻)
※船が貨物の積卸し及び、停泊するために着岸する場所
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4. 近隣諸国へのショートトリップ
マレー文化村【9 月 25 日 9:15~10:15】
研修 4 日目は隣国マレーシアへ。シ
ンガポールの北部に位置するウッドラ
ンズとマレーシアのジョホールバルを
結ぶコーズウェイを通り、マレーシア
の伝統文化を体験できるマレー文化村
へ向かった。
初めに体験したバティック染めでは、
シルクや綿の布に溶かしたロウで模様
を描き、絵の具を水でぼかしながら染
色する。ロウが防染の役目を果たすはずだが、色の境目などに注意しないと色
が滲んでしまう。今回は時間も限られており、簡単な体験のみであったが、次
の機会には、本格的に下絵から時間をかけて自分の作品を作ろうと思う。
続いて鑑賞したマレーシアに伝わる伝統舞踊のBGMは生演奏である。
「アン
クルン」という竹製の民族楽器は、バティック染めとともにマレーシアの無形
文化遺産に登録されている。1 つのアンクルンで 1 つの音階を表すことができ、
演奏の際には複数のアンクルンを用いる。
バンブーダンスは 2 本の竹をリズムに合わ
せて床に打ち付け、その竹に足を挟まない
ようにダンサーがテンポよく竹をジャン
プする伝統舞踊である。突然、ステージか
らダンサー達が降りてきたかと思うと、私
たちの手を取りダンスへの参加を促した。
足を挟まれないように軽快なステップを
踏むのは難しかったが、このような機会は
めったにないのでとても良い経験となっ
た。(担当:山田・川上)
イスカンダル情報センター【9 月 25 日 11:05~11:45】
現在、マレーシア最南端のジョホール州のイスカンダル地区では、
「イスカン
ダル計画」という巨大な都市開発プロジェクトが進行している。今回、私達が
訪問したイスカンダル情報センターでは、このイスカンダル計画に関する展示
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が行われている。イスカンダル地区は、シンガポールと国境を接するという地
理的な優位性をもつ上に、同国と比べて土地や労働力が安価で手に入るため、
将来的な開発が期待されている。マレーシア政府はイスカンダル地域開発庁
(Iskandar Regional Development Authority)を設置し、マスタープランに基づ
いた開発政策を進めている。私たちがマレーシアに入ると、海沿いでは埋め立
て作業が進められており、巨大リゾート施設の建設も着手されていた。イスカ
ンダル情報センターでは、映像作品やゲームを用いることで、イスカンダル計
画についての展示を行っている。IRDA は計画への投資を促進させる目的もあり、
こうした広報活動に力を入れている。貿易、金
融、観光といった様々なサービスの集積に向け
て開発が進められているイスカンダル地区。
2025 年までに人口・経済規模を倍増させる見通
しが立てられているが、将来的にどのような都
市に変貌していくのか。今後はシンガポールだ
けでなく、マレーシアの経済発展にも注目して
いきたい。(担当:川上・山田)
コタ・イスカンダル【9 月 25 日 11:45~12:45】
コタ・イスカンダルは、2008 年に完成した
ジョホール州の新行政地区である。巨大な庭園
には、州議事堂と州政府官庁が建てられ、何千
人もの官僚や議員がここに勤務している。今回
の研修では、コタ・イスカンダルの州議事堂を
視察した。建物に入ると、内部には庭園や滝が
設置されており、議事堂とは思えないような設
計になっていた。
床などにもきめ細やかな装飾がなされており、議事
堂の神聖さを感じ取ることができる。今回は、実際
に議会が行われている議場に入ることができた。そ
こで印象的だったのは、州のスルタンが座る席が設
けられていた点である。スルタンとは、イスラム世
界における首長のことである。マレーシアはスルタ
ンを頂点とした首長国の集合体によって構成される
連邦国家であり、ジョホール州も首長国の一つに数
えられる。国家元首であるマレーシア国王は各州の
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スルタンから選出される仕組みとなっており、世界でも珍しい選挙制をとって
いる。このように、マレーシアという国にとっても、それに属する各州にとっ
ても、スルタンは重要な地位を占めており、マレーシア政治の中心的な役割を
担っている。こうしたスルタン制の仕組みやジョホール議会の歴史等について
は、議事堂の中に併設されているギャラリーで学ぶことができる。この他にも、
議事堂の横ではモスクの建設が現在進んでおり、政治の中心地としての準備が
着々と進んでいる。前述のイスカンダル計画が進む中、コタ・イスカンダルが
どのような政治力を発揮していくかにも注目していきたい。
(担当:川上・山田)
AEON ショッピングセンター【9 月 25 日 14:45~15:45】
イオングループ(旧ジャスコグループ)は日本国内に数多くのショッピングセ
ンター(SC)や、総合スーパー(GMS)を有する大手流通企業グループである。そ
のイオングループが 1985 年、まだジャスコグループという名称だった時代に、
マレーシアへ初の海外出店(ジャヤ・ジャスコストアーズ ダヤブミ店)を果たし
た。この海外進出を皮切りに、イオングループへと改称し、現在では 14 カ国に
進出するまでになっている。イオングループは SC や GMS だけでなく、コンビ
ニエンスストア(CVS)やドラッグストア、金融にまで分野を拡大し、確実に私た
ちの生活には欠かせないものとなっている。その一つである GMS について、海
外の店舗ではどのような戦略がとられているのかということを調査し、商品や
施設を日本の店舗と比較することで、日本との生活の違いなどを感じ取るとい
う視点で実際に買い物もしてみた。
生活の違いを見るにあたって、一番直感的にその
違いを感じ取れるものとして物価がある。マレーシ
アはリンギットという通貨を使用しており、1 リン
ギットは 33.42 円である(2014 年 10 月 2 日現在)。
それをもとに私たちがいつでも目にする清涼飲料
水の価格で比較すると、500ml のペットボトル一本
が 2.20 リンギットで、日本円に換算すると 73.5 円
ということになる。日本の GMS で同じ製品を購入
すると安くても 95 円はするため、単純にこの商品
だけで見れば日本の物価はマレーシアの物価の約
1.3 倍ということになる。また、お金という面で言えば ATM の置いてある一角
に外国通貨との両替ができる場所があったというのも一つ日本との大きな違い
である。このことから、イオンの GMS にはマレーシアの人だけでなく旅行に訪
れた日本人や、現地の食物に不安を抱く先進国からの旅行客をもターゲットに
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入れているということが伺える。
続いて、販売されているものについて店内を見回し
て驚かされたのは、日本でも見かける商品の多さであ
る。商品名やキャッチを英語、マレー語に直して店頭
に並べられるモノももちろんあったが、キャッチフレ
ーズはもとより大切な商品名までも日本語のままで店
頭に並んでいる商品が相当数あった。お菓子類であれ
ば日本で見かける有名なものは大体手に入ってしまう
のではないかというほど陳列され、他のもので言えば、
納豆やわさびなどの食料品に加え、乳幼児用の紙おむ
つや各種生活用品なども見慣れたパッケージのものが
陳列されていた。しかし、逆に日本では見られないものとしては水槽を泳ぐ魚
の販売が挙げられる。水槽には数種類の魚が泳ぎ、従業員に声を掛ければ水槽
から魚を取り出してもらえ、そのまま捌いてもらうことができるといった仕組
みである。この方式はもちろん新鮮な魚を買うことができるという大きなメリ
ットがあるが、日本において SC もしくは GMS でこの販売方法を行うには安全
性の面などから見ても相当な課題があるだろう。それだけ現代の日本では食の
安全が一部“熱狂的な”形で求められているように思えた。
そして、設備に関しては、買い物カ
ゴとカートに違いが見られた。二つの
画 像に示したように買い物カゴには
キャスターがついており、引っ張りな
がら買い物ができるようになってい
る。そして、カートは日本のものに比
べ、非常に商品を入れるスペースが大
きくなっており、大量に買い物をする
ことができる。買い物カゴの方に関しては、ただ店内を楽に見ることができる
ようにという目的もあるのかもしれないが、この二つを見ると、日本での GMS
での買い物に比べて一度にある程度の期間まかなえるくらいの大きな買い物を
することも想定されていることがわかる。これはマレーシアにおいて GMS とい
う何でもそろう店舗形態が日本ほど浸透しておらず、日常的に買い物を行う場
として認識されていないということを示していると言えるだろう。
しかし、イオングループは GMS だけで見てもすでに 27 店舗もマレーシアに
進出しており、この先より一層その店舗形態と、日本の商品そして安全性など
の品質が浸透していくと考えられる。(担当:直井・中庭)
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5. シンガポールの観光政策・文化交流
ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ【9 月 23 日 16:05~17:40】
ガーデンズ・バイ・ザ・ベイは、マリーナ地区に位置
する国立植物園である。総面積約 100 ヘクタール(東京
ディズニーリゾートほど)の植物園の中には、25 万種
以上の植物が展示されている。都心にありながら、これ
ほど広大な植物園が運営されているのは、やはりシンガ
ポールが「ガーデンシティ」と呼ばれる所以だろう。
ガーデンズ・バイ・ザ・ベイの象徴ともいえるのが、
二つのドームとスーパーツリーである。私たちが今回訪
れたクラウド・フォレストと呼ばれるドームでは、高地
帯でみられる冷湿気候が再現されていた。ドームの中に
は巨大な滝が設置されており、滝の上からスロープを降りていくことで、高度
に応じた様々な植物を観察することができる。このクラウド・フォレストは植
物を展示しているだけでなく、環境問題に関する展示も行っている。地球温暖
化といった環境問題に関するパネルや映像作品が展示され、
「地球を守るために
はどうすればよいか」という問いを我々に投げかけている。
もう一つのシンボルであるスーパーツリ
ーは全部で 18 本あり、人工物の外壁に様々
な植物が植え込まれている。スーパーツリー
を繋ぐ吊り橋(スカイウェイ)が観光客の人気
を集めている一方で、スーパーツリーの上部
では太陽光発電が行われるなど、環境に優し
い造りにもなっている。
(担当:川上・山田)
マリーナベイ・サンズ【9 月 23 日 19:00~20:15】
マリーナベイ・サンズは、2010 年に完成した
シンガポールのランドマークともいえる建造物
である。2000 室を超える客室のほかにも、建物
の中にはカジノやショッピングモールといった
施設が併設されており、世界でも類を見ないほ
どの巨大な総合リゾートホテルとなっている。
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このマリーナベイ・サンズの象徴ともいえるのが、三つの高層ビルの屋上を
繋ぐ「サンズ・スカイパーク」である。今回は高速エレベーターでこのサンズ・
スカイパークに上り、屋上からの景色を満喫した。船をイメージして造られた
空中庭園からは、シンガポールを一望することができ、夜景を求めて多くの観
光客が訪れていた。地上 200 メートルから見るシンガポールの夜景は、言葉に
するのが難しいほど美しく、シンガポールの発展を改めて実感できる。この場
所には「世界一高い場所にあるプール」
があることでも有名であるが、宿泊者限
定のために今回は入ることができなか
った。
カジノやショッピングモールといっ
たリゾート施設、我々の想像の遥か上を
行く奇抜な設計は、シンガポールの華々
しい経済発展を象徴しているかのよう
である。(担当:川上・山田)
Tiger Brewery 工場視察【9 月 24 日 16:00~17:00】
タイガービールは 1932 年から製造
されており、シンガポールをはじめと
する東南アジアからアジア太平洋沿岸
地域、アメリカなど 70 か国の国々で親
しまれている。工場見学では、実在の
ガイドと映像の人物とのやり取りが披
露され、和やかな雰囲気で説明が行わ
れる。全て英語での説明であったが、
今回は見学者のほとんどが日本人観光
客だったため、身振り手振りで分かりやすく案内していただいた。工場に入る
前に、どういった原料が使用されているのか説明があり、実際に触れることも
できる。原料は世界各国から高品質のものを取り寄せており、麦芽はヨーロッ
パとオーストラリア、ホップはアメリカとヨーロッパ、イーストはオランダか
らとのこと。そして、ビールの 95%を占める水は、シンガポールの浄水を何度
もフィルターにかけ、ろ過した純度の高い水を使用している。また、サンプル
の麦に触れてみると焙煎された麦芽からはとても香ばしい香りがした。原料の
説明の後は、いよいよ工場内見学に入る。工場内は企業秘密ということで、写
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真を撮影することができなかったが、ド
アをくぐるとすぐに発酵した臭いがし、
中には大きなタンクがいくつも設置され
ていた。同じようなタンクが揃っており
中は見えないが、製麦、仕込み、発酵、
貯蔵、ろ過の順に、ビールができるまで
の工程が見学できる。この工場では、年
間 1 億 3,000 万リットルを生産し、半分
が輸出用であり、半分がシンガポールの国内で消費されている。
一通りの説明が終わると、ガイドによる生ビールの実演が行われる。まず、
グラスを冷えた流水で洗う。これによってグラスが冷えると同時にグラスに付
着した細かな汚れが落ち、きめ細かな泡立ちになるという。次にグラスを 45°
に傾けグラスを回転させながら注ぐ。その後、グラスを真っ直ぐにし、泡を注
ぎ足して完成である。見学者から 2 名が選ばれ、団員からも 1 名が体験した(写
真参照)。試飲ルームはスポーツパブのような雰囲気の良い部屋で、45 分間の
飲み放題となっている。タイガービールの味は少し苦味が効いているが、ほん
のり甘くしっかりと喉越しが感じられ、日本人にも好まれるように感じた。団
員に人気があったのは、レモン味のタイガービールである。試飲のメニューで
はタイガービールの他にも、ご当地ビ
ールの ABC やバロン、アンコール。ま
た、ライセンス製造しているハイネケ
ンやギネスをはじめ、有料であったが
日本のキリンビールもメニューに含ま
れている。様々な世界のビールが揃っ
ており、見学者たちは飲み比べを楽し
んでいた。
(担当:深谷・大槻)
ナイトサファリ【9 月 24 日 19:30~22:00】
シンガポールでは 4 つのテーマの違う動物園が隣接しており、その一つがナ
イトサファリである。夜行性の動物達、約 2,500 頭を間近で見ることができ、
世界初の夜間のみ開園する動物園として新たな人気観光地となっている。
日本人観光客向けに日本語トラムもあったが、私たちは英語ガイドのトラム
を選択しチケットを購入した。トラム乗り場では、あまり待つことなくトラム
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に乗ることができた。駅を出発するとトラムは、音声ガイドの説明と共に動物
達のいる要所で止まりながら園内を一周する。動物達と観光客との間には、檻
や柵はなく、開放的であり自然界を再現したスペースでのんびりとしている。
トラムにも窓ガラスや柵がないので、間近まで動物達と接近することができる。
トラやライオンなどの肉食動物は、深い堀で隔てられ、人や他の動物に近づけ
ないように工夫がしてあるという。途中には、ゆっくりと動物が観察できる観
察所や、徒歩で更に多くの動物を見て回れるコースに行くことができる駅もあ
る。動物を見るだけではなく、私達は大迫力のファイアーダンスなどを見るこ
ともできたが、その他にも動物のショーも行われている。夜行性動物に特化し
た展示に加え、エントランスプラザにはお土産品や食も充実しており、人気観
光地と成り得る工夫の数々を見ることができた。(担当:中庭・直井)
セントーサ島【9 月 26 日 14:15~17:25】
セントーサ島はシンガポールの南に位置し、島全体が
複合レジャー施設となっている。入島料がかかるものの、
島内には様々なアクティビティやレストランがあり、海
外からの観光客が目立つ。ビーチ沿いは遊歩道となって
いるのでゆったりと散歩もできるが、10 分間隔で運行
するトラムや 7 時から 24 時まで動き続けるモノレール
を無料で何度も利用できる。移動手段に時間をかけず楽
しめるところも観光客を惹きつける魅力の一つなのか
もしれない。
リゾート・ワールド・セントーサのエリアには
カジノがある。2010 年にオープンしたばかりで
はあるが、今では世界で 2 番目に多くの収益を得
ている。1 番のカジノ国であるマカオには、2010
年の時点で既に 33 ヶ所ものカジノがあった。シ
ンガポールは未だ2ヶ所だけにも関わらず、多く
の収益をあげていることに驚かされる。カジノは
21 歳以上であれば入ることができ、外国人用の入り口の方が込んでいた様子か
ら、楽しんでいるのは海外からの観光客がほとんどであることが分かる。店内
は豪華なつくりとなっており、飲み物も無料で提供されていた。日本でカジノ
は許可されていないので、セントーサ島ではより「非日常」を味わうことがで
きる。(担当:大槻・深谷)
- 25 -
星日文化協会(SIG 日本文化協会)交流会【9 月 26 日 19:20~21:00】
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
開会のあいさつ
自己紹介
アイスブレイク
団員発表・質疑応答 (SIG について)
会員発表・質疑応答 (JPN について)
フリートーク
閉会のあいさつ
今回の文化交流には、シンガポールで日本語を学ぶ同世代の若者 8 名に参加
いただいた。日本とシンガポールの友好を図り、日本に興味をもつシンガポー
ルの人々に、日本語講座などを開設しているのが星日文化協会である。
日本語での自己紹介から始まり、アイスブレイクでフルーツバスケットを行
うと、最初こそ緊張していたものの、双方とも打ち解けた雰囲気となり、お互
いの国について「食」「観光」「スゴイと思うところ」をそれぞれ 2 人一組にな
り、3 つのテーマに分かれてプレゼンテーションを行った。シンガポールの方達
は日本語を用いて発表してお
り、普段から積極的に日本語を
学んでいる姿が表れていた。フ
リートークでは 2 つのグルー
プに分かれて自由に会話を楽
しんだ。日本に興味をもったき
っかけとしては、音楽や漫画、
アニメなどのサブカルチャー
が多かったが、日本の音楽業界
で活躍する歌手がシンガポー
ルでコンサートを行うことも多くなっているとのこと。そして、旅行で来日経
験がある人も数人おり、京都や大阪、東京、北海道について語っていた。残念
ながら、茨城県の認知度は低く、これからさらに茨城県だけでなく、笠間市の
ことも精力的に PR していきたいと感じた。シンガポールは年間を通して最高気
温が 30℃前後という常夏の国のため、涼しい北海道は特に人気の観光地となっ
ているとのこと。最後の陳副会長(集合写真の前段中央)の挨拶では、今回の交流会
が充実したものとなりとても嬉しく感じているという言葉をいただいた。この
新たなつながりを今回限りにするのではなく、これからも大切にしていきたい。
(担当:山田・川上)
- 26 -
第 3 章 テーマ別レポート
1. 深谷翔子
「ヒト・モノ・文化の交流拠点シンガポールから学ぶまちづくり」
2. 川上裕貴
「シンガポールの都市環境について」
3. 中庭寿子
「シンガポールの観光政策について」
4. 直井功憲
「海外からの観光客を増やすためには」
5. 大槻奈菜
「景観、視覚的情報について」
6. 山田智美
「“食”を中心としてみる多様な文化」
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1. ヒト・モノ・文化の交流拠点シンガポールから学ぶまちづくり
深谷 翔子
(1)はじめに
シンガポールが 710 ㎢の大きさで資源も少ない国でありながら、約 50 年の歴
史で東南アジアのハブとしての役割を持つまでに発展した理由は、空港や道路
の利便性を高めて人の流れをつくり東南アジアのビジネス拠点を目指したこと
に加え、国民一人ひとりの教育水準を高め優秀な人材育成に力を入れてきたか
らと考える。これらのことから私は、シンガポールが近隣諸国だけでなく、世
界におけるヒト・モノ・文化の交流拠点となっており、多種多様な人々が交差
する中でどういった工夫がなされているかという点に関心を持った。
そこで、交通政策と教育、外資系企業誘致の 3 点に着目し調査を行った。
①交通政策
◆チャンギ国際空港
チャンギ国際空港は 1981 年に 24 時間空港として開港し、現在は 80 以
上の航空会社が世界 50 ヶ国以上に渡る 180 の都市を結び、およそ 100 秒
に1回飛行機がチャンギ空港で離着陸していると言われる。利用客の多く
が乗継ぎ目的のため、乗継ぎ空港としてのサービスを充実させることによ
り、多くの利用客を魅了し続け、開港から 2011 年までに 360 の賞を受賞し
ている。主な受賞歴は空港サービス品質賞、Best Airport Of Asia pacific
賞、 Airport of The Year で世界 2 位などがある。
◆自動車所有権(COE)制度
シンガポールでは、1990 年に車の保有台数を管理するために COE 制度
が導入された。これは狭い国土に車が溢れないようにするための施策であ
り、車を購入する場合に、車とは別に自動車所有権(COE)を購入しなけれ
ばならない。これにより新車登録権は運輸省の下部組織であるシンガポー
ル陸上交通が管理し、毎月一定の件数を発行することで国内の総登録台数
を調整している。実際に通勤ラッシュ時間帯の道路を利用してみると、マ
レーシアとの国境付近に繋がる道路は、渋滞はするものの停止するほどの
渋滞は見られなかった。一般乗用車における COE の種類でも、休日(また
は平日 19 時以降)のみ使用可能のものと通勤目的で使用するもので分けら
れている。時間帯によって利用者の数も管理していることから、日本のよ
うな大渋滞が起こることはないようである。
- 28 -
②教育
シンガポールが 1965 年の建国以来、順調な経済発展を遂げてきた要因に
は、将来を担う有能な人材を積極的に発掘し育成するその教育システムの
影響が大きいと言われている。シンガポールにおける学校教育は「二言語
主義」と「能力主義」に大きく特徴づけられる。
「二言語主義」とは、初等
教育の 1 年生から授業は公用語の 1 つである英語と華人系、マレー系、イ
ンド系その他の民族のそれぞれの母国語も学んでいる。「能力主義」とは、
初等教育から始まる各段階で生徒の能力に応じて選別していくための試験
が行われる。まず、初等教育 4 年生
の終わりに、学校が独自に定める基
準によるテストが行われ、初等教育 5
~6 年生に向けた振り分けが行われ
る。その後、初等学校卒業試験
(PSLE)、中等学校卒業試験時のシ
ンガポール・ケンブリッチ「普通」
教育認定試験(GCE-O)、ジュニアカ
レッジ等卒業時のシンガポール・ケ
ンブリッチ「上級」教育認定試験
(GCE-A)が行われ、これらの成績
によって、以後の進路が決められる。
大学は現在国立大学が 4 校とその他
数校が存在し、各学校ともに海外の
大学との連携にも積極的である。
これらのカリキュラムにより、シンガポールでは個人の能力に合わせた
教育を受けることが可能となった。個人のレベルに合わせた教育課程を経
て国立大学を目指すことで、質の高い教育が受けられ、語学力も優れてい
ることから世界を舞台に働ける優秀な人材を多く育てている。
③外資系企業・外国人労働者の誘致
◆外資系企業
シンガポール政府は、外資企業を引続き呼び込んでいくために、積極的
に誘致を行っている。具体的には法人税率を 26%から 17%に引き下げ世界
でも類を見ない低水準としている。シンガポールの株式市場において、上
場会社全体でも外資企業が 4 割に上り、ここ数年の新規上場件数の半数以
上は外資企業である。このようにシンガポールは、外資系企業への負担を
軽減し積極的に呼び込むことで小さく資源がないという弱みを克服し、経
- 29 -
済を活性化させている。
項 目
概 要
法 人 税 制 度
2010 年に 17%に引下げ
キャピタルゲイン
課税なし
ワン・ティア・システム
シンガポールに置かれた持ち株会社や地方本社が
日本に配当する際には一切課税がない。
各分野での優遇措置
バイオメディカル・サイエンス、環境・水処理技術等
の分野では、研究開発費用にかかる助成金提供な
どの優遇措置を用意。
図表
外資系企業への優遇措置(例)
また、常陽銀行シンガポール駐在員事務所とキッコーマンの工場訪問でお
話を伺って、外資系企業がシンガポールを選び進出する理由として共通して
いた点は、東南アジア諸国の中で最も治安が安定している事、インフラが整
備されている事、そして英語が公用語という事が挙げられた。私はこのこと
から外資系企業が如何に「英語が通じる事」を重要視しているか、改めて知
ることができた。日本は英語を苦手とする人が多く、世界からも英語が通じ
ない国として見られる傾向にある。今よりもさらに英語でのコミュニケーシ
ョンがとれる国になれば海外からもより高く関心が得られると考えられる。
◆外国人労働者
シンガポールの人口は約 540 万人であり、そのうち外国人は約 155 万人
で、総人口に占める外国人の比率は 28.8%にも及ぶ。また、外国人労働者
に対する保護も国が定めている。例えば、外国人労働者に対してもシンガ
ポールの労働者と同様に国内雇用法が適用され労働組合にも加入すること
ができる。これによりマレーシア人を除く労働者については、雇用主が彼
らの生活費に責任を負い、雇用主が 5,000 シンガポールドルの保証金を納
め、労働者の最終的な本国送還の費用も負担しなければならない。しかし
現在は外国人労働者がシンガポール人の職場を奪っているという批判を受
け外国人雇用の規制を強化している。
(2)結論
シンガポールの人々は、学校教育で多文化共生を学び、また家庭環境におい
ても民族の文化、歴史が継承されている。それにより、各々がもつ民族の文化
を大切に残していくと同時に、他の民族に対しても深く理解することの大切さ
を幼いころから日常的に学習し続けていることを知った。これにより多民族が
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交差する環境の中でも、自分の文化を守る場面と相手の文化を受け入れる場面
を見分け、一人ひとりが多民族とのコミュニケーションにおいて上手な距離感
のはかり方を身に付けているように感じた。また、シンガポールでは国が多文
化共生の環境を積極的に作り、さらに国民がこのようなコミュニケーション能
力を発揮することで、差別や偏見が少ない平等な社会を作り出している。以上
により私が学んだことは、多文化共生の基盤が出来上がっており、さらにイン
フラが整備されていれば外国人労働者の受入れや外資系企業の進出がしやすく、
また観光客にとっても魅力的な環境となり経済が活性化するということである。
(3)今後の笠間市に向けて
シンガポールと笠間市を比較してみるといくつか共通点が挙げられる。それ
は、豊富な観光資源を所有している点と、多くの人が交差する茨城県の出入り
口として魅力も持ち合わせている点である。駅や高速道路の SA などに笠間市の
魅力を発信していくとこで、それらを利用した人が笠間市に足を延ばし、集客
に繋げていける。しかし異なる点も挙げられる。それは訪れる人と地域住民と
のコミュニケーションである。シンガポールでは、チャイナタウンやアラブ・
ストリートに観光客と地域住民が入り混じり、観光地としての側面と住民が日
常的に利用する商店街としての両方の側面を見ることができた。しかし笠間市
の場合は、市民の生活の場と観光地が離れている。笠間市の観光地(笠間稲荷
神社や商店街など)にも地域住民が日常的に利用するようになれば、観光客と
地域住民の間にコミュニケーションが生まれ、魅力発信となる。そのためには、
地域住民がそれぞれ個人レベルでの笠間市を PR することが欠かせない。笠間市
に立ち寄った観光客に住民が積極的に声を掛け、おススメのレストランや観光
名所を紹介することで人との繋がりができ、地域住民との関わりも魅力の一つ
になるだろう。多くの人が訪れることで、職場や学校が多少離れていてもアク
セスの良さや住民との繋がりといった魅力を求めて住む人も増え、今後さらに
笠間市が活性化していくことが可能であると今回の研修で学ぶことができた。
【参考文献】
・独立行政法人 労働政策研究・研修機構
(http://www.jil.go.jp/foreign/labor_system/2006_3/singapore_01.htm)
・藤代 将幸
「外資企業の誘致戦略を進化させるシンガポール」
・北陸銀行 「シンガポールの自動車事情―トヨタプリウスが 900 万円??―」
- 31 -
2. シンガポールの都市環境について
川上 裕貴
(1)はじめに
シンガポールが「ガーデンシティ(Garden City)」と呼ばれていることをご存
じだろうか。この言葉は、シンガポールが緑豊かな都市であることを意味して
いる。都市開発が進む一方で、シンガポール政府は緑を取り入れたまちづくり
に取り組み、着実にこれを実現してきた。その結果、街中の至る所に緑が施さ
れ、シンガポールは世界が認めるガーデンシティとなったのである。
一方で、シンガポールは「ファインシティ(Fine City)」とも呼ばれている。
直訳すると「良い都市」ともなるが、ここでいう Fine とは「罰金」のことであ
る。シンガポールでは、トイレの流し忘れやごみのポイ捨てに対しても厳しい
罰金が科され、徹底した都市の美化を目指している。
このように、シンガポールは「ガーデンシティ」
「ファインシティ」という二
つの側面をもち、政府主導の都市環境整備が進められている。一方、ここ笠間
市でも、北関東自動車道の開通等を背景に開発が進み、都市化と自然の調和が
一つの課題となっている。そのため、シンガポールの都市環境政策は、将来的
な笠間市のまちづくりにとって良き参考になると感じた。また、私は大学で社
会学を学んでおり、その中のまちづくりの分野で、シンガポールの都市環境に
強い関心を抱いた。そこで、今回の研修では、シンガポールの都市環境をテー
マとして取り上げ、これについて学ぶことで、将来的な笠間市のまちづくり、
ひいては自分自身の学習に活かしていきたいと考えている。
(2)シンガポールの都市環境の歴史―「ガーデンシティ」と呼ばれるまで
シンガポールの都市環境をテーマとして扱うにあたり、同国が「ガーデンシ
ティ」と呼ばれるようになるまでの約半世紀を振り返りたい。
1965 年にマレーシアからの独立を果たしたシンガポール。しかし、その船出
は決して楽なものではなかった。資源問題や民族問題など、目の前には政府の
取り組むべき課題が山積みであった。都市環境に関する問題もその一つである。
かつてのシンガポールは水質汚染や光化学スモックといった公害問題、人口
過密やスラムといった住宅問題を抱えており、不衛生な都市として国際的な汚
名を受けてきた。こうした事態を見かねたリー・クアン・ユー首相は、本格的
な都市環境政策に乗り出すことを決めた。
まず取り組んだのは、徹底した国土管理である。人口過密やスラムといった
問題を避けるためには、将来を見据えた国土の管理が求められていた。そこで
- 32 -
始められたのが、政府主導の国土管理事業である。国家開発省(MND)が中心と
なり、開発プランの策定や公団住宅の建設が行われた。こうした政府主導の国
土管理事業が実行できたのは、シンガポールの国土の約 9 割が国有地であった
からだ。工場、商業施設、マンションの建設についても、国有地のリースとい
う形をとり、あくまで政府の計画に基づいた開発が進められた。
こうした国土管理事業は、住宅問題を解決するだけでなく、市街地と工業地
域の分離が進んだことで、水質汚染や光化学スモックといった公害問題も改善
に導いた。また、水質汚染に対しては、ニューウォーターの建設といった積極
的な水政策が打ち出され、シンガポールは水のきれいな都市としての知名度を
高めていった。
次に進められたのが、都市の緑化・美化政策である。シンガポールでは、独
立前の 1963 年から植樹キャンペーンが開始され、1967 年からは「ガーデンシ
ティ」政策として正式に緑化運動が行われるようになった。道沿いには計画的
に街路樹が植えられ、上記の国土管理事業に基づいて原生林の自然保護区も設
けられた。
緑化政策だけでなく、積極的な美化政策も進められた。ごみのポイ捨てやト
イレの流し忘れに対しては罰金制度が設けられ、チューインガムやたばこに関
しては厳しい制限が設けられた。
このように、シンガポール政府は積極的な国土管理事業や緑化・美化政策を
行ってきたが、こうした政策が推進されたのは、シンガポールを「景観の美し
い国」
「環境に優しい国」として人々に認知させ、観光客や投資家を呼び込む意
図があったからだといわれている。いずれにせよ、こうした都市環境政策が推
進されたことで、シンガポールは緑あふれる美しい国となり、
「ガーデンシティ」
と呼ばれるようになったのである。
(3)現在のシンガポール―「ガーデンシティ」を見つめて
シンガポールがガーデンシティと呼ばれるまでの約半世紀は以上のとおりで
あるが、ここからは今回の研修で見たシンガポールの都市環境の現在の様子に
ついて述べていく。
①街路樹
今回の研修では専用バスによる移動が多かった
が、バスに乗っていて感じたことは、道の至る所に
街路樹が植えられていたことである。ガイドの大高
さんによると、シンガポールの街路樹は、精密な研
究がなされた上で植えられているのだという。チャ
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アメリカネムノキの街路樹
ンギ空港から街の中心部への幹線道路には、
「アメリカネムノキ」という木が
植えられていた。実は、このアメリカネムノキは、シンガポール原産の植物
ではない。南アメリカ等を原産とするこの木は、シンガポールの気候、土壌
に合うのかを研究された上で国外から持ち込まれたものである。この他にも、
シンガポールには海外産の植物が数多く存在しており、その数は全体の約 6
割ともいわれている 1 。このように、シンガポールの街路樹は、徹底した研究
を前提として植樹・育成されているのである。
街路樹が植えられているのは車道だけではない。
今回訪れたアラブ・ストリートでは、歩行者専用の
道路にも街路樹が植えられていた。こうした植物の
存在により、景観に緑が加えられ、人工物と自然が
調和される。人工物だけの景観ではなくなることで、
訪れた観光客はより一層その街並みを楽しむこと
アラブ・ストリート
ができる。
②建物と緑の調和
東アジア経済の中心地であるシンガポールには、
高層ビルや商業施設が数多く建設されている。た
だ、今回の研修で感じたことは、ほとんどの場合、
そうした建物に共通して緑が取り入れられている
ことである。
私たちの到着したチャンギ空港では、シンガポ
ールが「ガーデンシティ」といわれる所以を早速感
空港内のガーデン
じることができた。空港内にはロビー、通路といっ
た至る所に植物が設置され、空港とは思えないような色鮮やかな印象を受け
た。また、空港内には大規模なガーデンスペースが設置されており、利用者
は空き時間に空港内の植物を自由に見学することができる。
街に出てみると、マンションの壁面やビルの入り口など、緑を取り入れた
建物が多いことに気付く。有名なマリーナベイ・サンズも、屋上にガーデン
が取り入れており、訪れた観光客を緑でもてなしている。
元々のシンガポールは、淡路島ほどの大きさであったが、埋め立てにより
その国土を広げてきた。その埋立地にも「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」に
代表される緑化政策が取り入れられている。
- 34 -
③豊富な緑地空間
シンガポール国内には、緑地公園や原生林保護区といった豊富な緑地空間
が 都 市 の 中 に 残 さ れ て い る 。 今 回 訪 れ た 都 市 再 開 発 庁 (URA: Urban
Redevelopment Authority)では、こうした緑地空間の確保に関する展示も行
っていた。それによると、シンガポール政府は開発に際し、
「コンセプトプラ
ン」
「マスタープラン」という二つの開発計画を作成
する。コンセプトプランで大まかな開発計画を立て
た後、マスタープランでより詳細な土地利用計画を
立てていくという仕組みである。右のマスタープラ
ンの開発計画図では、緑の部分が緑地空間を示して
いる。積極的な都市開発が進められている割には、
マスタープラン
国内に豊富な緑地空間が残されているのが理解でき
るだろう。
また、URA の展示によると、現在こうした緑地空間は点在しているものの、
将来的に多くの緑地空間は遊歩道で繋がれる予定だという。現在総距離 300
㎞にわたる遊歩道が建設中であり、これが完成すれば、より多くの市民・観
光客が緑地空間を楽しむことができるだろう。
シンガポールの緑地空間は緑地公園や原生林保 護区だ
けではない。今回訪れたガーデンズ・バイ・ザ・ベイも、
シンガポールにとって貴重な緑地空間となっている。この
ガーデンズ・バイ・ザ・ベイは、2012 年に完成した巨大
植物園である。マリーナ地区という都市の中心部にありな
がら、総面積約 100 ヘクタールという広大な緑地空間が確
保され、その中では 25 万種以上の植物が展示されている。
こうした巨大植物園が都市の中心部にあることで、市民
ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ
も観光客も緑豊かな景観を楽しむことが可能になってい
る。
(4)「ファインシティ」としての側面
シンガポールは「ガーデンシティ」と呼ばれる一方で、
「ファインシティ」と
も呼ばれている。ごみのポイ捨てやトイレの流し忘れに厳しい罰金が科せられ
るだけでなく、景観が損なわれるのを未然に防ぐために、チューインガムやた
ばこの所持も厳しく制限されている。
しかし、今回の研修で感じたことは、そうした厳しい規制がありながらも、
意外とそれらが順守されていないのではないかということである。街の中には
意外とごみが捨てられており、訪問先のトイレを数か所見ても、流されていな
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いケースがいくつか見受けられた。こうした現状を見ると、
“人に見られていな
いところ”においては、ファインシティに反する行動をとっている人が少なか
らず存在しているのではないかと考えざるをえなかった。
それに対して日本では、人に見られていないところでもごみのポイ捨てやト
イレの流し忘れはあまり行われない。これは国民性の問題かもしれないが、シ
ンガポールでは心情といった内的な制約というよりかは、罰金や規制といった
外的な制約が強く、それによって人々の行動が規制されているのではないかと
感じた。ファインシティの現実を実際に目にすることで、こうした文化の違い
も感じることができた。
(5)シンガポールの都市環境政策は笠間市に活かせるか
ここまでの考察のまとめとして、今回の研修で学んだシンガポールの都市環
境政策を笠間市のまちづくりに活かせるか考えてみる。
前述のとおり、北関東自動車の開通等を背景に、笠間市でも道路や商業施設
の開発が進んでいる。自然豊かな笠間市の良さを活かすためにも、
「ガーデンシ
ティ」であるシンガポールの都市環境政策は良き参考になる。
①友部駅前
常磐線と水戸線が乗り入れ、特急列車も停車する友部駅は、笠間市の主要
駅である。友部駅は、多くの市民が利用する駅であるとともに、市外から訪
れる人たちの玄関口としての役割も担っている。駅、および駅周辺の環境を
整備することは、市民生活の向上につながると同時に、市外の人たちを誘致
するためにも重要な課題であると考えられる。では、実際に友部駅、および
駅周辺の環境がどうなっているか、シンガポールの都市環境政策と比較しな
がら考察していく。
友部駅南口を見てみると、駅前のバス・タクシー乗り場周辺は綺麗に整備
されている。車道、歩道ともにしっかりと整備され、ごみ等も捨てられてい
なかった。駅前には樹木が植えられており、景観的にも美しい。樹木はまだ
若く、将来的にはより緑あふれる空間になるだろう。
駅ではないが、シンガポールのチャンギ空港も、シンガポールの窓口とし
て綺麗に整備されていた。空港内、および空港周辺は隅々まで整備され、ガ
ーデンスペースといった緑も取り入れられている。こうした空港の環境は、
シンガポールを訪れた人たちに美しい都市の印象を与える。南口を見る限り、
友部駅にも美しい街の印象が感じられた。
しかし、駅から離れるとその印象は一変する。駅前の通りには緑が見当た
らず、景観的には少し寂しいものになっている。日常的に利用している人は
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気付かないかもしれないが、初めてこの通りを訪れた人は物寂しいと感じる
かもしれない。
シンガポールでは、空港だけでなく、市内へ延びる幹線道路も緑と調和の
取れた整備がされていた。道沿いには街路樹が植えられ、市内へ向かう人々
に緑の美しい都市の印象を与えてくれる。こうした街路樹が植えられている
のは、シンガポールの都市計画に、観光客、ビジネスマン、投資家といった
人たちに魅力を感じさせる意図があるからだ。
友部駅でも、駅前の通りを整備することで、市の内外を問わず、より多く
の人に街の魅力を伝えられる可能性がある。これは友部駅に限らず、市内す
べての駅に共通して言えることである。駅前の整備を行うことが、笠間市の
魅力向上につながり、地域はより活性化していくかもしれない。
左:友部駅南口
右:友部駅前の道路
②笠間稲荷神社周辺
日本三大稲荷である笠間稲荷神社は、笠間市の誇る観光地である。年間を
通して多くの観光客が訪れており、年末年始には県内外を問わず、境内は多
くの参拝客で溢れかえる。笠間稲荷門前通り商店街には飲食店やお土産屋が
軒を連ね、多くの参拝客がここで食事や買い物をしていく。
シンガポールでも、笠間稲荷神社周辺と似たような場所を訪れた。サルタ
ン・モスク、およびその周辺のアラブ・ストリートである。サルタン・モス
クには礼拝者だけでなく多くの観光客が訪れ、アラブ・ストリートには多く
の飲食店やお土産屋が軒を連ねている。
インフラの整備として似ている点としては、門前通り商店街、アラブ・ス
トリートともに、道が美しく整備されていることである。門前通りでは、歩
道が広げられ、道には地場産の稲田石が敷き詰められている。普通の道路と
は違って、景観的に美しく、観光客が歩きやすい設計になっている。一方、
アラブ・ストリートの商店街は、車の通れない歩道になっている。歩道には
イスラム式の模様が散りばめられ、景観的にも美しい。車の来ない美しい歩
道があることで、観光客は道の両端に並んだ店舗で心置きなく買い物や食事
を楽しむことができる。このように、二つの観光地は道を整備することによ
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って、観光客が歩きやすく、かつ景観を楽しむことのできる環境づくりを行
っている。しかし、この二つの観光地を比較すると、いくつかの相違点が浮
かび上がる。
異なる点は、やはり緑を取り入れた景観づくりだろう。アラブ・ストリー
トでは、歩道に樹木が植えられ、観光客に色鮮やかな印象を与えている。一
方、門前通りでは下の写真を見ても分かるように、あまり緑を取り入れた景
観づくりは行われていない。すでに石が敷き詰められた道に樹を植えること
は難しいが、花壇を置くなどの工夫を取り入れれば、景観の印象は少なから
ず変わるかもしれない。実際に花壇を置いている店舗も数件見受けられた。
左:門前通り商店街
右:アラブ・ストリート
③笠間図書館周辺
笠間の街中を見ていて、最も「ガーデンシティ」
と呼べるような印象を感じたのが笠間図書館周辺
である。
笠間図書館では、周囲に芝が植えられ、木や花が
植えられた緑地空間も確保されている。2 階のベラ
ンダにも植物が植えられており、利用者に心落ち着
笠間図書館
く印象を与えてくれる。
笠間図書館周辺の道路にも、シンガポールと似たような環境づくりが見受
けられた。道沿いには街路樹が植えられており、歩道も比較的新しいため、
綺麗に整備されている。街路樹はまだ若いが、将来的には成長し、より美し
い景観になるだろう。
緑を取り入れた建造物や街路樹のある道路は、シンガポールでは数多く見
られたものの、笠間市ではそこまで多く目にすることはできない。笠間図書
館は比較的新しい建物であり、従来とは異なるような緑を取り入れた設計が
なされたと考えられる。図書館周辺も、近年になって開発の進められたエリ
アであり、家電量販店やスーパーマーケットが進出している。こうした新た
に開発がすすめられたエリアで、緑を取り入れた街づくりが進められている
ことは、笠間市の魅力向上にとって非常に良いことである。
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(4)最後に
今回の研修では、シンガポールの都市環境を個人テーマに据え、現地ではそ
れに関する場所や政策に注目してきた。実際にシンガポールという都市をこの
目で見たことで、シンガポールが「ガーデンシティ」と呼ばれる所以が理解で
きたと思う。
現地で学んだことに関しては、自分の知識として吸収するだけでなく、機会
があれば笠間市のまちづくりにも還元していきたいと考えている。笠間市とシ
ンガポールでは様々な面で規模が異なるものの、駅周辺や笠間稲荷神社周辺な
ど、シンガポールの都市環境政策を笠間市に活かせるような場所はいくつか見
受けられた。
一方で、笠間図書館周辺など、すでに「ガーデンシティ」のようなまちづく
りを実施しているエリアがあるのも事実である。今後はこのようなまちづくり
が引き続き行われ、笠間市が魅力ある街になることを願っている。
【参考文献】
・田村 慶子『シンガポールを知るための 60 章』明石書店、2001 年
・大島 尚「地球環境問題の現状とシンガポールの環境政策」、
「エコ・フィロソ
フィ」研究第 1 号、東洋大学「エコ・フィロソフィ」、学際研究イニシアティ
ブ、2007 年 3 月
・シンガポールの緑化政策 - 自治体国際化フォーラム
CLAIR 一般財団法人自治体国際化協会
(http://www.clair.or.jp/j/forum/forum/articles/sp_jimu/148_1/INDEX.HTM)
3. シンガポールの観光政策について
~笠間市の観光への応用~
中庭 寿子
(1)はじめに
シンガポールは、狭小な国土に資源がほとんどない環境の中で、著しい成長
を遂げた観光立国である。1993 年から 2013 年までの 10 年間で観光客は 2.5 倍、
観光収入は 3.4 倍に成長した。2013 年の観光客数は約 1,550 万人、観光収入は
約 200 億円、世界経済フォーラムで発表される旅行・観光競争力ランキングで
は 10 位である。世界のニーズに合った観光業で、世界有数の観光地に上り詰め
たシンガポールの観光政策についてまとめ、笠間市にどう活かすことができる
か考えていきたい。
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①ハード面(インフラ)について
◆高級感のある唯一無二のリゾート地としての開発
シンガポールはビルが立ち並ぶ『都市国家』のイメージが強い。その中
でも、個性的な建造物のインパクトは強烈である。
マリーナベイ・サンズは、ビルに船が乗ってい
る他では見ることのできない個性的な建造物であ
る。マリーナベイ・サンズ自体が華やかなホテル
とショッピングセンターの複合施設であり、また、
船の部分から見る都市の夜景はとても美しい。
ガーデンズ・バイ・ザ・ベイは、スーパーツリ
ーという巨大な人工樹が印象的な植物園である。夜にはライトアップも行
われており、都市で巨大樹が輝いている風景はインパクトがある。シンガ
ポールで進められているガーデンシティ構想(緑化都市としてのまちづく
り)のシンボルと言える施設である。
セントーサ島は島全体が観光施設で
ある。島内には、ユニバーサル・スタジ
オ・シンガポール、水族館、カジノ、ビ
ーチ、ゴルフ場、ホテル、ショッピング
センターと、様々な娯楽施設が隣接して
いる。観光政策の一環として政府がカジ
ノを解禁している例も特殊である。
◆多様な文化の共存
シンガポールは交易地として発展した移民国家であり、各地で多様な文
化を見ることができる。チャイナストリート、アラブ・ストリート、リト
ルインディアなど、中華系、アラブ系、インド系の人々がシンガポールで
暮らしてきた軌跡を見ることができる。また、シンガポール国立博物館や
プラナカン博物館では、シンガポールで独自に発展してきた文化を知るこ
とができる。歴史・文化的に重要な施設は、URA が指揮を執って民間企業
と協働で保存事業を行っているという。
◆アクセス、交通について
シンガポールの空の玄関口であるチャンギ空港は、到着して 30 分で出ら
れるように工夫がなされている。アジアのハブであり多くの人が利用する
ことから、24 時間飛行機が理発着する。
交通については、自家用車の値段や、保険料なども高額であることから、
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公共交通やタクシーで移動する人が多いという。タクシーは、安い値段で
行きたい場所にダイレクトに行くことができるので、観光客も利用しやす
いと感じた。
②ソフト面について
◆多言語表記
シンガポールは様々なところで英語以外の表記を目にすることができる。
英語と共に、中国語と日本語の表記がセットになっていることが多かった
ように感じる。そのおかげで、英語が不得意な私も言葉に困ってしまうこ
とは少なかった。
◆安全で清潔な都市としての取組み
シンガポールは、
「Singapore is fine country(罰金大国)」と言われるくら
いに様々な行為が法律で禁止されていて罰金や刑罰が課せられている。刑
事犯罪に対しては特に厳しく、むち打ち刑に処されることもある。更に、
街中の様々なところに防犯カメラが付けられており、犯罪を未然に防ぐ環
境になっている。ゴミのポイ捨てや、許可されていない場所での喫煙、そ
してトイレの流し忘れまでもが禁止されており、違反した場合には罰金が
課せられる。多少、法律が細かすぎる気もするが、犯罪が少なく、奇麗な
国として世界で知られる所以であろう。
(2)笠間市にどう活かすことができるか
①ガーデンシティの応用
笠間市は、文化遺産と共に、豊かな自
然を残す街である。そこで、ガーデンシティ
構 想を真似たまちづくりができるのではな
いかと私は考える。
シンガポールは、ビルが立ち並ぶ近代的な
都市のイメージが強いが、多くの木々を街中
で見かけた。特に街中で見かけたアメリカネ
ムノキが印象的であった。
笠間市では、歴史や文化の街に美しい自然のイメージを加えることで、更
に魅力を増すことができるのではないだろうか。つつじ祭りやトレイルラン
などのイベントにもっと市民に参加してもらい、市外の人々にも PR を続けて
いく。自然の多い街としての観光を進めていくことができ、魅力的な街づく
りの推進にも繋がると私は考える。
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②交通面の利便性向上
笠間市は魅力的な観光資源に恵まれた街であるが、交通の利便性が良くな
い。モータリゼーションが進み、公共交通機関を利用する人が減少したこと
により、交通網が限られ、本数も少なく市民と観光客から移動手段を奪う結
果となっている。
シンガポールでは公共交通機関と共にタクシー利用が一般的であり、住民
に も観光客にもよく使われていることが分かった。笠間市でも、移動にタ
クシー利用を推進し、交通弱者の減少と観光客の利便性向上に役立てられな
いだろうかと私は考えた。既存のバス路線の利用者を奪わぬよう、バスが通
ってない場所でのタクシー活用で、住民の日常生活と観光客の移動をより便
利にできるだろう。
③海外の方にも優しいまちづくり
シンガポールでは、英語と日本語と中国語の 3 ヶ国語表記の看板やパンフ
レットを多く目にした。初海外であった私は、この多国語表記のおかげで説
明や料理のメニューを理解することができた。
笠間市では、表記は日本語しかない場所が多く、海外からの観光客に順応
しきれてないと感じる。笠間市を観光地として発展させていくためには、英
語や中国語なども表記に加えていくことが必要ではないだろうか。また、観
光スポットに外国語を話すことができるスタッフの配備などもできるだろう。
(3)おわりに
今回、シンガポールの優れた観光やまちづくりを実際に見ることができ、と
ても勉強になった。笠間市とシンガポールでは、成り立ちや土地活用など違い
は多くあるが、笠間の観光に活かすことができる部分も多くあったと感じてい
る。
このような素晴らしい経験をする機会をいただいた笠間市役所の皆様には大
変感謝しております。シンガポールで学んだことを活かし、これからも笠間市
の地域活性化に努めていきたいです。
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4. 海外からの観光客を増やすためには
直井 功憲
(1)はじめに
2013 年 9 月、2020 年のオリンピックが東京で開催されることが決定し、日
本中が歓喜の渦に包まれた。この東京五輪の開催はもちろん膨大な経済効果を
もたらすことになり、そのうえ様々な面で日本を知ってもらういい機会となる。
2020 年にはオリンピックを楽しもうと、海外からの観光客は増えることは必至
であり、どのようにしたらより楽しんでもらえるのか、また、オリンピック目
当てに来日した人をリピーターとして獲得できるのか、それを今回の観光立国
として名高いシンガポールに学び、帰国後に参考と成り得るものをメインに考
察する。
(2)シンガポールの実績・実態
シンガポールは日本の東京 23 区ほどの国土面積でありながら外国人観光客
数では日本を 500 万人ほど上回る約 1,550 万人を誇っている。なぜ日本の国土
面積の約 520 分の 1 のシンガポールが外国人の観光客数で勝っているのであろ
うか。日本に活かせるかどうかはひとまず置いておいて、実際に目にして耳に
して私が感じたシンガポールにおける成功要因を実態として大きく 4 つにまと
めていく。
まず 1 つ目は、国土の約 9 割以上を国が所有しており、政府が必要に応じた
形で開発を行うことができるという点である。これに関しては、明らかに日本
が参考にすることは出来ないであろうが、シンガポールにおいては国民の住居
に至っても公団住宅を設営しており、日本のように国民が土地を所有するとい
う感覚は薄い。では、シンガポール観光の目玉である各リゾート施設やホテル
もすべて国によるものかというと、そうではない。そういったものの多くは外
国を含む企業に委託して開発を進めるが、その多くが長いスパンでリースを組
まれた土地の貸借という形を持って進められる。しかし、リースの期間が定め
られているからといって政府によって返還を命じられればそれには逆らえない
という形式をとっており、その点で政府がそれぞれの開発はシンガポールのた
めになるか、また観光客を集めることに繋がるかを厳しく審査できるようにな
っている。後で述べることではあるが、シンガポールの開発においてその先を
見通す力は目を見張るものである。
2 つ目はシンガポールが自国の発展のためには外国の協力が必要不可欠なも
のであるとして、他国の人に訪れてもらえる国を目指して国づくりを進めてい
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たということである。これはマレーシア
からの独立を経て建国を果たしたという
シンガポールの歴史がさせたものである。
マレーシアから独立はしたもののシンガ
ポールは自国で得られる資源はほとんど
なく、水さえもマレーシアからの輸入に
頼らざるを得ない形になってしまった。
そういった背景を持つために初代首相で
ある李光耀(リー・クアン・ユー)首相は自
国だけでの発展に限界を認めた上で、他国の協力が必要であるとして国づくり
を進めた。その政策の一つとして、現在シンガポールが「ガーデン・シティ」と
呼ばれる所以でもある緑化政策は、シンガポールに留まって仕事をしてくれる
外国人を増やすために、街を綺麗にしようと行ったものである。このように街
が綺麗に整備され観光産業の盛んな国として成果を生み出せたのは、外国の力
を必要としていたからであるといえる。
そして 3 つ目は、各々の文化をもつ
様々な人種の人々が共生する国であると
いうことである。報告書冒頭のシンガポ
ールの概要にもあるように、シンガポー
ルでは公用語が4つあり、標識や看板に
英語以外の言語で訳されたものが当たり
前のように表示されている。また、言語
に関する教育も熱心であるため、数ヶ国
語を話せる現地の人はざらである。さらに、多文化共生の国において重要なの
は言語だけではなく、宗教への理解も重要である。無宗教の国といわれる日本
では分かりづらいことではあるかもしれないが、信仰宗教のある人はその教え
に則った生活をする。それは礼拝の作法や、信じる教典だけに留まらず、食事
や衣服といった生活に密接にかかわるものも当然のごとく教えに沿ったものに
なる。その理解を当たり前のように行っ
てきたシンガポールにおいては食事にお
いても宗教で禁止された食物は使わない
料理(イスラム教において言えばハラール
料理)を用意しているお店がそこら中にあ
るのはもちろんとして、食器についても
ハラール料理を食べる人とハラーム(ノン
ハラール)料理を食べる人とで分けている
- 44 -
お店も存在している。宗教ごとに信じる神、教典が違えば、生活が違ってくる
のは当たり前である。それを受け入れ柔軟に対応してきたシンガポールという
国のあり方は、外国人を招き入れる上で参考になる。
最後に 4 つ目として先述したようにシンガポールの開発が、優れた先を見通
す力をもって行われてきたことにある。成功要因の 3 つ目にシンガポールは多
民族国家としてその文化を互いに尊重してきたということを述べたが、建造物
においても人種ごとに住み分けの行われていた時代に人種ごと地区ごとに、そ
れぞれの特徴のある建造物が建てられてきた。しかし、住み分けは昔ほどされ
なくなり新たな開発が行われるといった際に政府はその歴史をもつ建造物を壊
そうとはしなかった。それはそのそれ
ぞれの建物が、国民が昔を懐かしむ材
料になるとともに、将来的に観光資源
になるであろうということも見越して
保存がされてきたといわれている。事
実、その各地区のどれもが観光スポッ
トとして知られるようになっており、
先に出た緑化政策も現在緑のある街並
みを求める先進諸国にはウケのいいも
のとなっている。
以上の 4 つが事前の学習を通して、もしくは実際に約 1 週間シンガポールに
滞在し見聞きして感じた、シンガポールが観光地として成功した要因である。
国の成り立ちや制度のあり方なども異なることから、すべてが日本において一
朝一夕に取り込めるものではないが、ここからこの 4 点を参考に、また事前研
修から事後研修を通してまでで、派遣団員との話の中で出てきたことなどを取
り入れながら、日本への外国人観光客を増やすためにはという課題に取り組ん
でいく。
(3)日本への外国人観光客を増やすために
前述した4つの要因、そして実際に研修で訪れて旅行者に必要とされると感
じたものから、日本において外国人観光客増加に繋げることのできるものをま
とめていく。
1 つめは標記、接客における言語の充実である。日本において観光地を見回し
ても日本語以外の表記があるとすればそれは大体英語で書かれているだけであ
る。日本を訪れる外国人にアジア系が多いということであれば、これでは親切
な国であるとは言えない。また、食事を摂る場所にしても接客が必要とされる
場所において日本語でしかサービスを行えないというのは寂しい。オリンピッ
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クを東京に誘致した際、日本は「おもてなし」をストロングポイントであると
して強調した。どれだけの外国人が日本で有名になったあのスピーチを知って
いるかは分からないが、それでも日本のサービス力の高さを求めてやってくる
外国人はやはり多いはずである。その期待に沿うためにも不自由をなるべく感
じさせない対応が求められる。
そして 2 つめは、様々な宗教を信仰する人々に柔軟に対応することである。
ここでは特に食事について触れることになるが、先述のように宗教によって食
べてはいけない食材は異なり、その食材を調理した器具で作った食事を食べる
ことも許されない場合もあるほか、祈りをささげて捌いた動物でないと口にし
てはいけないと決められた宗教もある。日本人にはやはりそういった感覚は乏
しいものであるためその点での対応はほとんどされていない。すべてのレスト
ランに配慮のされたメニューを置くというのは無理な話であるが、ここのレス
トランには召し上がっていただけるメニューがあるよというお店が何店舗かあ
るだけでも救いになる。また、コンビニやスーパーなどに軽く食べる物を買い
に行ったときに、そういう食材が置いてあればどれだけ嬉しいであろうか。食
事は旅行において最もと言っていいほどに重要視する人の多いポイントであり、
そうでなくても食事はしなくては生きていられない。そういった点で食での不
自由を感じさせないようにすることは必要不可欠となる。
3 つめは、シンガポールに学び、先を見越した開発を行おうということである。
明治維新の時代も、戦後の高度成長期にかけても、日本は外国に負けずと急ピ
ッチで成長を遂げた。おかげで日本はアジアでは最初の新興国たり得ることが
できたし、クールジャパンであり得た。しかし、その街並みはどこの先進国で
も目にできるようなビル街へと変わり果て、昔を感じさせる建物や、もともと
豊富であった自然、緑は影を潜めてしまった。歩道もシンガポールに比べれば
とても狭く、歩行者は安心して歩くことが難しいのが現状である。今は戦後復
興期ではない。開発において求められるのは機能を豊富に搭載したビルや、た
だ単に広大なドームやショッピングモールではない。緑を求める風潮はこの先
より一層増すであろうし、日本でしか見られない街並みも、存在すれば大きな
一つの観光資源となり得るはずである。東京五輪その時限りの集客ではなく、
また訪れてみたいと思われる街をつくるにあたって、開発のセンスは非常に大
切になってくるはずである。
そして最後に、実際に外国を訪れて改めて大切さを知ることになったのが、
ネット環境の充実の大切さである。外国に行ってインターネット回線にスマー
トフォンを繋いでしまえば、膨大な料金が発生してしまう。そのため私達は街
中、ホテルに Wi-Fi 設備があることを期待して研修に臨んだ。しかし、実際に
は無料で Wi-Fi に繋げる場所は非常に少なく調べ物もできずに大変苦労した。
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その経験があるからこそ Wi-Fi 環境の整備の重要さを身にしみて感じることが
できる。日本に訪れる外国人もきっと同じことで悩むはずで、ほかの国への旅
行ではすごく苦労したが、日本ではどこでもネットが使えて便利だったとなれ
ばそれだけでとても大きなアドバンテージになる。
以上この 4 点を取り入れれば日本に訪れた外国人に日本をより気に入っても
らえるのではないかと考える。
(4)おわりに
今回、このテーマを事前に調べて研修に臨んだということもあって、現地の
人に日本のどういうところを知っているか、また、どういう所に行きたいかと
いうことをあらゆる機会に聞いてみた。するとシンガポールの人は日本人が日
本の観光地で連想する京都などよりも北海道に行ってみたい人が多いというこ
とが分かった。その理由も、一年中常夏のような気候のシンガポールからすれ
ば、雪は非常に珍しいものであり、大自然と美味しいものが多いという情報か
らである。一年中同じ気候の国に対しては、日本に存在する四季は、やはりア
ピールできる重要なポイントの一つである。また、それ以外でいうと日本のア
ニメが好きだと言う人も多く、日本のアニメの浸透力の強さに驚かされた。こ
のように、東京五輪以外にも日本がアピールできる部分は大いに存在している。
このような点を東京五輪の機会にアピールして、より多くの人にリピーターに
なってもらうことが必要であり、そのためにできることを東京だけでなく、各
地方自治体で考える必要のある段階に来ているのである。
【参考文献】
・日本政府観光局
世界各国、地域への外国人訪問者数
(http://www.jnto.go.jp/jpn/index.html)
・国土交通省国土政策局 シンガポールの観光
5. 景観・視覚的情報について
~見たものから伝わること~
大槻 奈菜
(1)はじめに
最近では、インターネットで簡単に旅行先の情報を調べることができ、駅か
ら徒歩 5 分、東口から徒歩 3 分など、現地に行く前からおおよその想像がつく
ようになった。しかし、実際に行ってみると分かりにくく、徒歩○分は現地で
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はとてもおおまかな情報である場合が多い。現地の土地勘がない観光客にとっ
ては、目に映ったものが情報となる。笠間市をはじめ、東京オリンピックを控
える日本にとって、目から得られる情報に配慮し改善することは大切なことで
ある。
先の 2 人の考察にもあるように、日本は年間観光客数 1,036 万人であるのに
対し、シンガポールは約 1,550 万人となっている。観光客の多いシンガポール
ではどのような配慮がなされているのか、街中で得られる視覚的情報により、
観光客にとって必要な情報が何であるのかを知りたいと考えた。研修では、案
内板の言語表記の仕方、街中の景観、観光客を惹きつけるための工夫などに着
目しながら様々な場所を視察した。
(2)研修中の学び
①言語表記
シンガポールはマレー語を母国語としているものの、多民族国家というこ
ともあり基本的には英語を使って生活をしている。それだけではなく、観光
客も多いため、研修中には様々な言語を聞くことができた。ここで、左から
順に街中のお土産ショップ、地下鉄の駅、チャンギ空港で撮影した写真に注
目する。
まず驚くのが表記されている言語の多さだ。一番はお土産ショップで 5 言
語表記がなされている。地下鉄の駅は 3 言語、チャンギ空港では 4 言語であ
る。さらに、単に多くの言語を並べているのではなく、その選定にも配慮が
あった。例えばチャンギ空港の乗り換え案内板は、英語、中国語、インドネ
シア語、日本語となっている。来訪者の国別割合は、インドネシア 19.3%、
中国 16.1%、マレーシア 7.7%が上位 3 ヵ国であり、マレーシアの公用語は英
語であるため、きちんとカバーしきれている。日本でも英語表記は至るとこ
ろで見られるが、ここまで多い表記はあまり見ることができない。しかし、
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日本の来訪者の国別割合は台湾 25.2%、韓
国 23.5%、中国 11%となっており、台湾の
公用語は中国語となっているため、英語に
加えて中国語や韓国語の表記も需要がある
のではないかと考える。
そして言語表記だけでなく、写真やイラ
ストを用いて分かりやすく伝えているもの
もあった。これこそ言葉の壁がなく、世界中の人々が理解できる工夫だと感
じた。シンガポールの外国人に対する思いやりが街中に見受けられ、自分達
も改善していく必要があると感じた。
②街並みと看板
シンガポールは地震がないので、日本
では不可能なデザイン性のある建物が多
いということに加え、ガイドのよう子さ
んからは建物に看板がないことも教えて
いただき、景観を大切にしているシンガ
ポールのねらいを学ぶことができた。ユ
ニークな建物を建てることによって観光
客を惹きつけ、古い建物も大切にすることで街の統一感を図ろうとしている。
しかし、私はそれだけではなく、ユニークなデザインにすることで看板の代
わりになっているのではないかと感じた。初めて訪れた場所でも、目立つ建
物であれば見つけやすい。また、それが目印となり、ガイドブックなどの地
図も分かりやすくなる。実際に、研修期間だけでもユニークな建物が何の施
設であるかを覚え、それを目印に街中を歩くことができた。観光客にとって、
自分が今どこにいるかを認識できることは、とても安心できると思う。単に
見た目を良くするというだけで看板をなくしたのではなく、何かをなくして
も問題のないように細部まで考えられ、つくり込まれているところがシンガ
ポールのすごさだと感じた。
③視察先の配慮
まず、博物館や美術館、文化村などを訪
れ、見て回るということが多かったが、何
の展示であるのかなどに困ることはほと
んどなかった。写真のようにほとんどに日
本語表記がされており、何を伝えたいブー
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スであるかを理解しながら視察することができた。シンガポールの歴史を学
ぶ上で戦争のことやその時代の暮らしぶりを説明されていることが分からな
いまま素通りしてしまうのは非常に残念である。そうならないように展示を
テーマ別に空間で分けてあったり、時間軸に沿って館内を歩けるように床に
番号や矢印があったりと、理解してもらおうという気持ちがすごく伝わって、
どの施設においても充実した学びを得ることができた。アラブ・ストリート
を訪問した時にはモスクでイスラム文化に触れ、礼拝や断食について学んだ。
イスラム教徒でない人にとっては何となく緊張感のある場所だったが、前頁
写真のような注意書きがあるだけで少し安心する。海外で現地の人に注意を
受けるのは、言葉がわからず恐怖感を覚える。あらかじめ注意書きがあれば、
モスクのような厳格な雰囲気のある場所にも入りやすくなると思う。また入
ってみて感じるが、受付の人をはじめ厳格な雰囲気はあまりなく、ようこそ
といった感じで我々を受け入れてくれた。イスラム教のイメージを含めて、
入ってみなければ分からないことは多いようである。
次に、セントーサ島やナイトサファリなどの集客施設も訪れたが、そこで
も観光客を目で楽しませ、惹きつけるような工夫がされていた。シンガポー
ルのナイトサファリは作りが巧妙で、檻などが設けられていないため動物と
人間を隔てる境界線がなく、自然の中で野生動物と一緒にいるという感覚に
なる。実際に行ってみても、本当に動物に触れられる距離なので聞いていた
通りの迫力があった。しかし、工夫はそれだけでないことに気がついた。シ
ンガポールのナイトサファリには、動物が住む小屋がなく餌置き場もないた
め、日本のように動物が飼育されているといった印象を受けない。それによ
り、動物園という雰囲気は全くなく、観光客は自然の中で野生動物を見てい
るような感覚になる。こういった他にない工夫が観光客を惹きつけるのだと
感じた。
そして、研修先で見つけたユニークな看板を紹
介 す る 。 こ の 看 板 に は NO DURIANS NO
SMOKING とある。食べかけのドリアンを持ち
込んではいけないという意味だ。これについても、
喫煙禁止が隣にあるからこそ食べかけのドリア
ンが禁止であることが分かる。タバコやドリアン
の所持を禁止している訳ではない。旅先にはその
地域独自の看板がよくあるが、誰にでも分かりや
すくすることはとても大事なことである。
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(3)最後に
今回シンガポールを訪れ、訪問者の立場になって観光について考えることが
できた。おもてなしの国と言われる日本ではあるが、シンガポールの観光客に
対する配慮は日本よりも進んだおもてなしなのかもしれない。一方で、ゴミの
ポイ捨てのない国とされ、清潔なイメージのあるシンガポールであったが、日
本の方が食事やトイレの衛生的な面など、まだまだ誇れるおもてなしがあると
再確認することができた。研修に参加して観光に対する興味は高まり、今後も
観光を通してより良いまちづくりについて考えていきたい。
【参考文献】
・国土交通省国土政策局
シンガポールの観光・経済社会について
(http://www.mlit.go.jp/common/001036546.pdf)
・日本政府観光局(JNTO)
国・地域別 / 目的別 訪日外客数(2012 年~2013 年月別暫定値)
(http://www.jnto.go.jp/jpn/reference/tourism_data/visitor_trends/data_zantei.html)
5.「食」を中心として見る多様な文化
山田 智美
(1)はじめに
人にとって「食」は生きていく上で欠かせないものである。多民族国家であ
るシンガポールには様々なルーツを持つ「食」が集まっており、そこから見え
てくる人々の生活様式や文化的背景に興味を持ち、このテーマをもとに研修に
臨むことにした。
(2)シンガポールにおける多民族的な料理
シンガポール料理の特徴とは何か?それは、世界中の料理が何でも食べられ
る、ということであろうか。歴史が浅く、これといったものがまだ確立してい
ない。しかし、その多様さがまさに多民族国家シンガポールを表している。
そこで、ここではそれぞれの民族のルーツごとに料理を分類して紹介する。
◆中華系
シンガポールは中華系が全体の 74%を占めるため、街中のレストランなど
も中華料理が多かった。今回の研修でも食事はほぼ中華料理であったが、中
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国の各地方によって異なる様々な特徴が表れていた。特に多いのが中国南部
の広東省を発祥とする広東料理で、薬膳などを使った料理が特徴的である。
例)シンガポールチキンライス(@10/24 夕食)
シンガポールチキンライスは、南
シナ海に位置する中国の海南島を
ルーツに持つ料理である。日本でチ
キンライスというとオムライスの
中の、ごはんを鶏肉や野菜とともに
ケチャップで炒めたものがイメー
ジされやすいが、こちらは鶏肉を蒸
し(または茹で)、その茹で汁と生姜、
ニンンクなどでご飯を炊いたもの
が 1 セットになった料理である。非
常にあっさりとしており、ダークソイソースという日本の醤油よりやや濃厚
で甘めの調味料やチリソースを好みでかけて食べる。
◆マレー系
マレー半島の郷土料理。サンバルというチリソースとココナッツミルクが
よく用いられるのが特徴である。シンガポールにおけるマレー系人口は 13%
で、その他に隣国マレーシアから移住または出稼ぎに来る人も多いため、マ
レー系の料理も多い。また、マレーシアの国教はイスラム教のため、宗教に
よる食の制限も厳しい。
例)サテ(写真)
サテは日本でいう焼き鳥のようなものである。日本
で一般的に食べられている焼き鳥よりは小さめの肉
を串に刺し、香辛料で味をつけ焼く。食べるときには
ピーナッツソースという甘いソースにつけてもよい。
◆インド系
インド系の料理といえば、まずカレーである。シンガポールの人口に対す
るインド系は 9%。比率的には少数であるものの、最近ではインドやバングラ
デシュの方から労働者として出稼ぎに来る人が増えている。南インドをルー
ツに持つ人が多いため、香辛料を大量に使用する料理が多いのが特徴である。
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例)フィッシュヘッド・カレー(写真@10/23 夕食)
シンガポールで考案されたインド系料理で、
白身魚の頭を用いたカレー。ココナッツミル
クによってマイルドな辛さになっており、ス
パイスで魚の臭みを消しているため食べやす
い。
◆その他
シンガポールで考案された特有の料理もいくつかある。
例)チリクラブ(@10/26 夕食)
日本でよく食べられているエビチリのカニバージョ
ンといったところ。丸ごと調理されたカニの殻を割りな
がら中の身を取り出して食べる。殻が固く、割って食べ
ようにも絡めてあるチリソースで指が滑り、なかなか食
べるのが難しい。
◆ニョニャ料理
中華系移民の男性と現地マレー半島の女性の間の子孫をプラナカンという。
プラナカンの男性は「ババ」、女性は「ニョニャ」と呼ばれ、その女性たちか
ら生まれたのがニョニャ料理である。中華料理の食材とマレー半島の多彩な
スパイスが融合しているのが特徴である。
例)ラクサ
ココナッツとエビが香るスープに、米からつくられた麺を合わせた麺料理。
ホーカーで手軽に食べられる人気のローカルフードの1つである。現地で食
べることはできなかったのだが、土産として買ったインスタントのラクサを
自分で作ってみた。本場の味なのか比較はできないが、とても美味しくいた
だきました。
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(3)シンガポールの食事情
シンガポールはアジアの中でも特に目覚ましい発展を遂げている国である。
男女ともに外で働いていることが多い。しかし、これは近年における現象とい
うわけではない。マレー半島では昔から男女の別なく労働に従事してきたとい
う歴史があり、そのため、外食文化が根付いたといえる。そこで、ホーカーと
いう屋台街が発展し、さらに外食する習慣が発達した。安価で様々な料理を食
べることができ、シンガポール国民に親しまれている。
前述したが、シンガポールは多民族国家である。シンガポールの食を語る際
に挙げられる特徴として、どこの国の料理も食べることができるという点があ
る。しかも、中途半端なクオリティーではなくどのレストランでも本場の味に
近いものが食べられる。シンガポールは人件費が高く、他国から企業が進出し
てくる条件も厳しいが、ビジネスチャンスを掴むためにシンガポールに自国の
料理で勝負する者も少なくない。特に最近では日本食の人気も高く、
「健康的で
高品質、繊細で美しい」という特徴が中華系の富裕層を中心に広範囲で受け入
れられているとのこと。
(4)現地の「食」から実際に学んだこと
シンガポールは東京 23 区と同じくらいの大きさであり、その中で多数の民族
がともに暮らしている。日本はまだ「日本人」が多い国家なので、文化や価値
観が違う人々と普段の生活で接するということがあまり多くないように感じら
れる。同じアジアでもそのような面で日本とシンガポールは大きく異なってお
り、グローバル化が進む現代においてシンガポールが先進していると実感する
場面が今回の研修で印象的だった。
これはシンガポールだけの話ではないのだが、
「ハラール食品」というものが
今、重要なキーワードとなっている。ハラール食品というのは、イスラム教の
法によって加工・調理された食品のことをいい、ムスリムは宗教的に豚肉を食
べることを禁じられている他に、ハラール食品でないと口にすることができな
い。現在、ムスリム人口は増えており、2020 年に東京オリンピックを迎える日
本にとってもハラール食品は避けて通れない問題である。
このように、人間にとって常に身近な「食」というテーマから今回の研修に
参加したが、国際関係分野を学んでいる身としては、今後どのような方法で海
外とつながり、日本、茨城県、そして笠間市が諸外国にアピールしていけるの
かを多方面から考えていきたい。
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第 4 章 海外研修見聞記
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第 5 章 おわりに
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謝辞
第 5 回笠間市青年海外派遣事業では、笠間市市民活動課の皆様、ご支援いた
だいた小薬正男様に、大変貴重な学習の機会をいただきましたことを深謝いた
します。ならびに、現地で私たちの研修に協力してくださいました皆様には厚
く御礼を申し上げます。
今回の研修では、文化交流や企業訪問を通じて現地ならではの貴重な体験を
することができました。また、シンガポールの多文化共生社会を直に触れたこ
とで、地域の将来を担う若い世代がグローバルな視点を持つことの重要さを改
めて実感しました。
この研修で学んだことは、団員各々の学生生活、さらには社会人となってか
らの生活に活かしていきたいと考えております。また、現地で得た知識や経験
は、自分自身に還元するだけでなく、笠間市の国際化施策をはじめとした地域
活性化に繋げていく所存です。今回築くことができたネットワークを活かし、
笠間市の将来を担えるよう研修生一同邁進いたします。
笠間市青年海外派遣団 5 期生一同
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海外派遣事業を実施して
第 5 回目となる笠間市青年海外派遣事業は、前回の流れを踏襲し東南アジア
に目を向け、日本と同じ島国でありながら賑やかで国際色豊かな都市国家、ア
ジアの交易や金融の中心でもあるシンガポール共和国を研修先として選定いた
しました。
観光立国、富裕層が多く暮らす華やかでクリーンなイメージとは裏腹に、そ
の浅い歴史の中でも苦悩を乗り越え、水をはじめとした天然資源の乏しさを高
い技術力で補いながら、高い経済成長率を維持するために国策として観光地と
しての開発に力を注いでいる苦悩も計画段階から垣間見ることができました。
小さな国でありながら、多種多様な民族文化がうまく共存している様や教育、
生活スタイルに至るまで、余すことなく学んでいただきたいとの想いから、行
程表づくりに力が入ってしまい、隣国マレーシアへのショートトリップも含め、
夜遅くまで視察に時間を費やす内容となってしまいました。
一方で、多くの応募者の中から選抜された 6 名の団員はすべてが大学生であ
り、子どものように感じる一面もありましたが、その柔軟さには私自身が影響
を受け学ばされることも多々ありました。
今回の研修を通じて、各自が多文化共生とは何なのかを学び取っていただけ
たものと確信しており、ふるさと笠間市はもとより、日本の歴史、文化におい
ても理解を深め、誇りをもって将来を担っていくことでしょう。
書籍やインターネットを通じた情報だけではなく、ありのままのシンガポー
ルを感じるのであれば現地に足を運ぶことが大切であり、事実シンガポール・
スリングの発祥地として知られるラッフルズ・ホテルのロング・バーの床があ
んなことになっているとは、知る由もなかったかもしれません・・・。
最後になりますが、この研修を実施するにあたり、多大なるご支援をいただ
きました小薬正男様、研修地の手配及び研修先との連絡調整をしていただきま
した茨城県国際課及び一般財団法人自治体国際化協会(クレア)シンガポール事
務所の職員、現地視察先において大変お世話になりました在シンガポール日本
大使館の職員、星日文化協会の先生及び生徒、株式会社常陽銀行をはじめとし
た訪問先企業の社員の皆様方に心より感謝申し上げます。
Thank you lah
Sincerely yours,
笠間市
市民活動課
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表紙の絵は、日本とシンガポールの国旗を組み合わせたもので
す。私たちはシンガポールで海外研修を行い、同国の文化や歴
史について学びました。一方、海外の空気に触れたことで、日
本の良さというものも再発見できたと思います。同じアジアに
位置する国として、今後も両国が良好な関係を築いていくこと
を願い、このシンボルを考案いたしました。
平成 26 年度
笠間市青年海外派遣事業
報告書
発行 平成 26 年 10 月 24 日
笠間市市民活動課市民活動グループ
〒309‐1792 茨城県笠間市中央三丁目 2 番 1 号
℡.0296‐77‐1101(内線 132)