December 2008 - フラストレーションが創る新しい物性

NEWS
LETTER
科学研究費補助金 特定領域研究
フラストレーションが創る新しい物性
Vol.4
Vol.4 December 2008
目 次
¾
巻頭言
• 上田 和夫(東京大学物性研究所)
¾
日欧ジョイント「フラストレーション・コンファレンス」
• 川村 光(大阪大学大学院理学研究科)
¾
·································································· 3
·································································· 4
研究紹介
• 3角格子スピン系における空間対称性の破れを伴う1次転移
川島 直輝(東京大学物性研究所)
····························· 6
• スピネル磁性体 GeNi2O4 の逐次磁気転移 ································································ 8
松田 雅昌(日本原子力研究開発機構・量子ビーム応用研究部門)
• Pb(In1/2Nb1/2)O3 におけるBサイトランダムネスと強誘電不安定性 ·············· 10
大和田 謙二(日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究部門)
• 空間的異方性をもつフラストレートした
反強磁性体における分数量子数をもつ粒子 ······················································· 12
河野 昌仙(物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点)
• 有機系三角格子のスピン液体状態
·································································· 14
中澤 康浩(大阪大学大学院理学研究科)
• Y型六方晶フェライトにおけるコニカル磁性と磁場誘起分極 ····························· 16
田口 康二郎(理化学研究所 交差相関物性科学研究グループ)
¾
国際会議報告
• LT25
····················································································································· 18
勝藤 拓郎(早稲田大学理工学術院)
• IUCr2008 大阪,MS&T08,
ICMR Summer School on Multiferroics,KJC-FE07,MISM2008 ·················· 22
野田 幸男,木村 宏之(東北大学多元物質科学研究所)
• HFM2008
····················································································································· 24
松平 和之(九州工業大学工学部)
,小野田 繁樹(理化学研究所)
中辻 知(東京大学物性研究所)
• PNCMI2008, QuBS2008 ·························································································· 26
加倉井 和久(日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究部門)
¾
成果論文リスト ················································································································ 29
¾
お知らせ ····························································································································· 32
¾
編集後記 ····························································································································· 34
巻頭言
巻頭言
東京大学物性研究所
上田和夫
特定領域研究「フラストレーションが創る新しい物性」の NEWS LETTER に巻頭言な
るページがあることは知っていたが、そこに何か書くようにとの川村先生のお話である。
いざ責をふさごうとしてパソコンに向かうと、そもそもフラストレーションとは何であ
ろうか、ということが気になる。もっとも明らかな定義をあたえることが出来るのは、幾
何学的フラストレーションであろう。正三角形や正四面体の頂点に置いたイジングスピン
を考えて、反強磁性的な相互作用を考えると、基底状態のスピン配置は一通りとは決まら
ずに縮退が残る。幾何学的フラストレーションの説明によく使われる例である。では、こ
の特定領域研究の目的は、幾何学的フラストレーションが創る新しい物性の研究なのであ
ろうか。
二次元正方格子上のハイゼンベルグ模型という簡単なモデルを考えよう。当然、幾何学
的フラストレーションはないが、この格子上の反強磁性ハイゼンベルグ模型は十分に面白
い。高温超伝導が発見されて、P.W. Anderson はそれまで常識だと思われていた反強磁性秩
序の存在に改めて疑問を提出した。その後のあらゆる方法を駆使しての研究によって常識
的見解が基本的には正しいことを再確認することになった、ことはよく知られている。で
は、この問題がフラストレーションと全く無縁かと言えば、必ずしもそうではない。古典
的なネール状態は、交換相互作用の z 成分によるエネルギーの利得を最大にするスピン配置
であるが、交換相互作用には横成分もあり、縦成分と横成分のあいだのフラストレーショ
ンがこの問題の背後にある、という言い方もできるからである。
そのあたりは、この特定領域研究の提案者達は先刻ご承知で、計画書を拝見すると、「フ
ラストレーションは、様々な最適化条件が互いに競合し、系がそれらを同時に満たすこと
が出来ないような状況を指す」と定義されている。フラストレーションをあまり限定的に
考えずに、何らかの意味でのフラストレーションに触発されたおもしろい状況があればそ
れを広く研究対象にしようとする意志が感じられる。こうした自由度の大きさは、この特
定領域研究の特徴の一つと言うことが出来るだろう。その自由度を使って若手研究者の人
たちがのびのびと活躍し、フラストレーションの新生面を開拓することを期待している。
日欧ジョイント「フラストレーション・コンファレンス」
阪大理(領域代表)
川村光
翌21年度5月に、欧州ESFのフラストレーション・ネットワークと本特定領
域の共催で、フランスはリヨンにて、物性物理におけるフラストレーションに関
するジョイント・コンファレンスを開催します。皆さん、奮ってご参加ください。
現在フラストレーション研究は、世界的にも
Peter Holdsworth 氏(ENL)と川村の co-chair と
大変活発化しています。とりわけヨーロッパに
いうことで準備を進めていますが、組織委員と
おいては、目下 ESF による欧州各国合同のフ
して他に欧州側から P. Mendels
ラストレーション関連プロジェクト”Frustration
Moessner
Network” が 走 っ て い ま す ( 代 表 : Philippe
P担当)、日本側から加倉井和久 (原研)、高木
Mendels 氏)。研究会や旅費に特化した fund な
英典 (理研、東大)の諸先生に加わっていただい
ので、額的には我々の特定より小規模ですが、
ております。
我々より 2 年ほど先行してフラストレート磁性
分野で活発な活動を展開しています。
(Orsay)、R.
(Dresden)、B. Canals(Grenoble; H
この 9 月に小生、ドイツは Braunshweig で開
催された HFM コンファレンスに参加するため
日欧双方でフラストレーション関連の big
渡欧した際(HFM に関しては、本ニュースレタ
fund があるというような状況は、そう滅多にあ
ーの中辻さんらの報告文を御覧下さい)、表敬と
ることではないでしょうし、ここは1つ日欧共
下見を兼ねて、ENL の Holdsworth 氏(会議の
催のジョイント・コンファレンスを持ってはど
組 織 委 員 長 ) と Orsay の Mendels 氏 ( ESF
うか、という話になりました。そんな次第で、
Frustration Network 代表)を訪ねてきました。
2009 年(平成 21 年)5 月 12 日‐15 日の日程で、
今号のニュースレターでは、陰山さんと有馬さ
フランスはリヨンの ENL (Ecole Normale Lyon)
んにお願いして、こいつをネタに来年のジョイ
にて、日欧ジョイントのフラストレーション・
ント・コンファレンスの説明と宣伝の一文を書
コ ン フ ァ レ ン ス "European-Japanese Joint
かせていただくことにしました。題して、「ヨー
Conference on Frustration in Condensed Matter" を
ロッパ・フラストレーション紀行」というところ
開催いたします。
かな。
Prof. P. Holdsworth (ENL)
リヨン市街。手前にソーヌ河、奥がローヌ河
リヨンは美しい街です
会議はリヨン郊外の Ecole Normale Lyon の
amphitheatre で行われます。リヨンはローヌ河
とソーヌ川の 2 つの大河の会合点に開けた大変
美しい街です。帝政ローマ時代にはガリアの首
都が置かれ、旧市街は世界遺産にも指定されて
います。旧市街には古代ローマから中世にかけ
ての遺跡が多々あり、フラヴィエールの丘の頂
には、古代ローマ時代の円形劇場(amphitheatre)
ベラクール広場から見たフラヴィエールの丘
の遺跡も残っています。ちなみに、今回の我々
手前はルイ 14 世の騎馬像。
の会議の会場名もやはり amphitheatre です(も
ちろん、こちらは大学の中にある普通の屋内ホ
るので、当然それぞれの国の意向や本音もあり、
ールですが)
。
運営面での苦労は色々とおありのようでした。
日本は、サンプル合成を嚆矢として色々な測定
手段のバランスが取れており、またその間の協
力体制も大変緊密で、基礎研究への funding も
(昨今の世界レベルで見ると)相当なレベルだ
し、良くやっているではないかと、マア外交辞
令にしても褒めていただいたような印象でした
(もっとも理論が良いとは言いませんでした
が、、
、)。
ローヌ河畔よりリヨンの街を望む
また美食の街としても知られています。豊か
な食材に恵まれていて、世界的に有名なフラン
ス料理のシェフ、ポール・ボキューズの本拠地
でもあります。小生は、もちろんそんな高価な
レストランには入りませんでしたが、やはり食
Prof. P. Mendels (Orsay)
事はなかなかおいしかったですよ。
リヨンからはブラウンシュヴァイクを経てパ
それでは皆さん、来年 5 月には、各自素晴ら
リへ回り、Orsay のパリ大学に P. Mendels 氏を
しい研究成果を引っさげてリヨンに集結し、お
訪問しました。Mendels 氏は、ESF Frustration
いしいフランス料理をご一緒しようではありま
Network の代表を努めている方です。色々とお
せんか!
話を伺いましたが、ESF プロジェクトは欧州各
国からの資金で運営されてい
川村
光
大阪大学理学研究科
研究紹介
3角格子スピン系における空間対称性の破れを伴う1次転移[1]
計画研究「量子フラストレーション」
物性研究所
川島直輝
強い第3近接相互作用のある三角格子ハイゼンベルクモデルについてモンテカ
ルロシミュレーションを行った.空間の3回対称性の破れを伴う1次転移が見つ
かった.これは果たして最近の NiGa2S4 の実験結果と何か関連があるだろうか?
本特定領域のメンバでもある物性研中辻グ
ループは準2次元三角格子磁性体 NiGa2S4 が
低温領域でも磁気秩序を持たないことを見出
した.[2] 帯磁率や相関長は低温に向かって
単調に増大する.比熱は幅の広いピークを1
0K付近に持ち,絶対零度近傍では温度の2
乗に比例するように見える.中性子散乱実験
は基底状態では一辺が2格子定数の三角形が
ほぼ120度構造を取るが,完全ではなく,
格子の周期性とは非整合な周期を持つ磁気秩
序であることを示唆している.
(下図参照)
基底状態のスピン配列.この図では,x軸方向にはほぼ12
上から比熱,帯磁率,エネルギーの温度依存性.一変の長さ
0度ずつスピンの向きが回転し,x軸と120度,240度
が60のときと72のときで1次転移的なふるまいが見え
の方向にはほぼ60度ずつ回転している.どの軸がほぼ12
る.(非整合秩序がある系では,秩序の持つ周期と系のサイ
0度の軸になるかについて基底状態は3つのグループに分
ズのマッチングの良し悪しがあるため,正しい振る舞いが見
類される.
えはじめるサイズが大きく,かつサイズに関して非単調な依
存性をもつのでやっかいである.
)
これらの実験結果に触発されて我々は三角
格子上の反強磁性古典ハイゼンベルクモデル
は反強磁性的である. 我々は当初実験的な評
に第3近接相互作用を入れたモデルをモンテ
価値である J3 /J1 ≈ -6 を用いて計算しよう
カルロシミュレーションで調べた.最近接相
としたが,これだと非整合秩序の周期が大き
互作用 J1 は強磁性的で,第3近接相互作用 J3
研究紹介
すぎて,計算可能なサイズに収まらないこと
うである.このことをよりはっきりと見るに
が分かったので,J3 /J1 ≈ -3 を用いることに
は,いろいろな物理量の転移温度における確
した.従ってわれわれのシミュレーションの
率分布関数をみて,それが2つのピークにな
結果が直ちに NiGa2S4 の物性であるとはいえ
っている様子をみればよい.スペースの都合
ないが,少なくとも参考にはなるであろう.
で図を掲載できないが,はっきりと1次転移
前のページの3段になっている図が計算結
果である.システムサイズは L=36, 48, 60, 72
の特徴を示している.[1]
通常の1次転移では,2次転移と異なり,
秩序変数は何かという議論をしないが,調べ
てみるとこの系では,転移点で自発的対称性
の破れも同時に起きているようである.最後
の図(右図)は系のエネルギーをボンドの方
向ごとに分けて計算したものであり,対称性
が破れていなければ3本の曲線は(有限系で
許される揺らぎの範囲内で)一致すべきであ
る.しかし,実際にはそうでなく,転移温度
以下で空間の120度回転に関する対称性が
破れていることをはっきりと示している.
この結果が川村・宮下の有名な先行研究や
常次らによる磁気4重極秩序のシナリオとど
のように関係しているのか,関係していない
上は3角格子ではボンドに3つ方向があることに対応して,
エネルギーを3つの方向ごとに分けて計算し,最大,中間,
最少のものをプロットしたもの.転移温度付近で方向依存性
が現われていることがわかる.下は方向による差をプロット
したもの.
の4通りを計算した.秩序の周期が非整合で
のか,目下検討中である.
[1] R. Tamura and N. Kawashima, J. Soc. Phys.
Jpn. 77 (10) 103002(1-4) (2008).
[2] S. Nakatsuji, Y. Nambu, H. Tonomura, O.
Sakai, S. Jonas, C. Broholm, H. Tsunetsugu, Y.
Qiu, and Y. Maeno: Science 309 (9) 1697-1700
(2005).
あるときには,一般にシステムサイズ依存性
が非規則に現れて系統的な解析が難しい.今
回の場合も,L=48 までは何がみえているの
かよく分からなかった.しかし L=60 以上の
比熱をみると,発散していく傾向が見える.
実験で見えている振る舞いとは違うので,当
初はやや落胆したが,計算結果を変更するわ
けにもいかないので,より虚心坦懐に見てい
くと,帯磁率やエネルギーの温度依存性が点
氏名
川島
移転における不連続な振る舞いに近付いてい
所属
東大物性研
っているように見える.つまり1次転移のよ
直輝
(写真は研究室の皆さん.筆者は右から4人目)
研究紹介
スピネル磁性体 GeNi2O4 の逐次磁気転移
計画研究:スピン・電荷・格子複合系における幾何学的フラストレーションと機能
日本原子力研究開発機構・量子ビーム応用研究部門
松田雅昌
スピネル磁性体 GeNi2O4 は、低温で二段磁気転移を示す。我々は、中性子回折実
験によって二つの磁気相における磁気構造を決定し、二つの磁気副格子(カゴメ
格子と三角格子)が独立に振る舞うことを明らかにした。この原因として、離れ
たスピン間の相互作用について考察する。
スピネル磁性体 GeNi2O4 は Ni2+モーメント
がパイロクロア格子(正四面体が三次元ネッ
強磁性配列、カゴメ面間、三角格子面間は反
強磁性配列であると予想される。
2+
中性子回折実験により磁気構造解析を行っ
モーメントは軌道の自由度を持たないため、
たところ、先ず Phase I では、カゴメ格子のス
ヤン-テラー歪みを生じず、低温まで強い幾何
ピンのみが磁気秩序化することがわかった
学的フラストレーションが期待される。
(面内強磁性、面間反強磁性的)。また、Phase
トワークを形成)を構成している。また、Ni
この物質は古くから調べられており、低温
II では三角格子のスピンも磁気秩序化する
で反強磁性長距離秩序を示すことが知られて
(面内強磁性、面間反強磁性的)
。両磁気相に
いたが[1]、最近、比熱、磁化測定により、磁
おいて、スピンは全て<111>面内を向いている。
気転移が 11.4 K と 12.1 K の二段で観測される
Phase II における磁気構造は以前の報告[1]と
ことが明らかになった[2]。最低温での磁気構
同様である。これまでの報告によると、結晶
造はすでに報告されているが[1]、中間相の磁
構造相転移は起こらず、磁気秩序相でも立方
気構造決定を含めて詳細な磁気構造を議論す
るために、我々は単結晶を用いて中性子回折
実験を行った[3]。
磁気構造
低温で観測される磁気ブラッグ反射から決
定された特性磁気ベクトルは(1/2, 1/2, 1/2)で
ある。Phase I (11.4K < T < 12.1K), Phase II (T <
磁気構造と相互作用。Phase I ではカゴメ格子のスピ
11.4K)ともに同じ特性磁気ベクトルを持ち、
ン(赤い矢印)のみが磁気秩序化し、Phase II で三
磁気ブラッグ反射の相対強度だけが二つの相
角格子のスピン(青い矢印)も磁気秩序化する。カ
で異なる。特性磁気ベクトル(1/2, 1/2, 1/2)は
ゴメ格子と三角格子面のスピン方向の面間の相対
[111]方向に反強磁性配列をしていることを
角度及び面内でのスピン方向は実験から決定出来
表している。パイロクロア格子は、[111]方向
ない。相互作用は最近接相互作用 J1 から第 4 近接相
にカゴメ格子と三角格子が交互に積層した構
互作用 J4 まで示す。次ページの表に示すように等価
造になっているため、磁気構造は、面内では
な相互作用は多数存在する。
研究紹介
磁気相互作用の概要。距離(d), 相互作用の経路(A, B はそれぞれ Ge, Ni をあらわす), θ(結合角), nB(経路の数),
ZK(カゴメ格子のスピン一つあたりのボンド数), ZT(三角格子のスピン一つあたりのボンド数)を示す。括弧内の
I は面内, K はカゴメ格子面間, T は三角格子面間を表す。
晶を保っている。
相互作用の考察
造の研究も行っている。零磁場では、カゴメ
格子と三角格子のスピンが同時に磁気秩序化
するが(結晶構造相転移も同時に起こる、磁
このようにして求められた磁気構造は、J1
気構造は GeNi2O4 の Phase II と同様)
、磁場中
だけでは説明出来ない。先ず Phase I の磁気構
で二つの磁気副格子が独立に振る舞うことを
造を説明するには、J4(反強磁性)が最も重
見つけた。この物質でも離れたスピン間の相
要である。カゴメ格子面間の J4 のボンド数が
互作用が支配的なようである。
多いため、結果的に面内強磁性、面間反強磁
以上の結果は主に、松野謙一郎(東大), 香
性の磁気構造が安定化されると考えられる。
取浩子、高木英典(理研), S.-H. Lee(バージ
また、この相互作用は三角格子のスピンでは
ニア大), J.-H. Chung(韓国大), 加倉井和久
完全に打ち消されるために、三角格子のスピ
(原子力機構)の各氏との共同研究の結果得
ンは秩序化しない。一方、Phase II の三角格子
られたものである。
スピンの秩序化を説明するには J3(強磁性)
参考文献
や J3’(反強磁性)を考慮する必要がある。
[1] E. F. Bertaut et al., J. Phys. (Paris) 25, 516
Ni2+モーメントは eg 軌道の電子が担ってお
(1964).
り、J1 は Ni-O-Ni の超交換相互作用に起因し
[2] 松野謙一郎, 学位論文 (2004); M. K.
ている。結合角が 95 度付近であるため、相互
Crawford et al., Phys. Rev. B 68,
作用の絶対値が 0 に近く、結果的に、J4, J3, J3’
220408(R) (2003); S. Hara et al., J. Phys.
が相対的に大きくなっていると考えられる。
Soc. Jpn. 73, 2959 (2004).
[3] M. Matsuda et al., Europhys. Lett. 82,
まとめ
37006 (2008).
GeNi2O4 では、立方晶のパイロクロア格子
で全てのスピンが等価であるにも関わらず、
二つの磁気副格子が独立に振る舞うという奇
妙な現象が起こっている。しかし、偶発的に
反強磁性的な J4 が支配的な場合には起こりう
る現象であることがわかった。
我々は、関連物質である GeCo2O4 の磁気構
氏名
所属
松田雅昌
日本原子力研究開発機構
量子ビーム応用研究部門
研究紹介
Pb(In1/2Nb1/2)O3 におけるBサイトランダムネスと強誘電不安定性
計画研究「フラストレーションとリラクサー」
日本原子力研究開発機構
大和田謙二
Bサイトランダムネスが制御可能な Pb(In1/2Nb1/2)O3(PIN)のフォノンの計測結果
は、PIN において強誘電、反強誘電不安定性の競合が本質的に存在し、Bサイト
のランダムネスによってその基底状態が反強誘電から強誘電、リラクサーにまで
制御されている可能性がある事を示している。
リラクサーは通常の強誘電体では見られな
それでは、Bサイトのランダムネスはフォ
いような大きな誘電率、圧電率を示し、また、
ノンの振る舞いにどのように影響を与えるの
誘電率は散漫な温度変化や測定周波数依存性
でしょうか。ペロヴスカイト構造を持つリラ
を示します。特に A サイトが鉛のペロヴスカ
クサーにおいて、Bサイトランダムネスの効
イト(ABO3)型リラクサーはそれらの性質が
果を抽出する事が出来ればリラクサー発現機
きわだっていることから現在も盛んに研究さ
構を理解する上で大きな一歩となるでしょう。
れています。鉛ペロヴスカイトリラクサーは、
表題に示す Pb(In1/2Nb1/2)O3(PIN)は、その
Bサイトに四価を保つように二種類の元素が
効果を調べるには最適の物質です。PIN は
入っているのが特徴で、Pb(Mg2+1/3Nb5+2/3)O3
PMN と異なり、B サイトに In と Nb が 1:1 で
(PMN)がその代表物質です。鉛ぺロヴスカ
入っています。このために価数と格子の配列
イトで PMN のようにBサイトに二種類の元
周期の競合が解消されます。その結果、In と
素が 1:2 で入る物質の場合、価数と格子の配
Nb の秩序度(Bサイトランダムネス)を熱処
列周期に競合が起こり、ランダムネスの発生
理によって変える事ができ、下図に示すよう
が不可避になっているようです(鉛以外では
にその誘電特性をリラクサー的な振る舞いか
三倍の超格子を持つものもあります)
。リラク
ら強誘電的、反強誘電的振る舞いへと変化さ
サー状態の発現に至るシナリオを描くために
せる事が出来ます。
は、
この B サイトに存在する本質的不均質性,
B サイトランダムネスを真っ向から取り扱わ
なくてはなりません。
さて、リラクサー状態は結晶内部に発生す
る極性ナノ領域(Polar Nanoregion、PNR)と
密接な関係がある事が分かっています。廣田
ら[1]によってその詳細が中性子を用いて調
べられ、PNR はソフト TO(Transverse Optic)
モードの凝縮と uniform phase shift から成る事
が示されました。このようにフォノンの振る
舞いがリラクサー発現に深くかかわっている
事が分かってきました。
研究紹介
今回我々は異なるBサイトの秩序度を持つ
て強誘電相が優勢になる。さらに完全無秩序
二種類の試料、disordered-PIN(D-PIN、リラ
化した状態ではそのランダム場により強誘電
クサー)と ordered-PIN(O-PIN、反強誘電体)
相の長距離秩序化が押さえられ、リラクサー
についての室温でのフォノン観測とそれらの
相が出現する。
比較を試みました。PIN は大型単結晶の育成
長波長フォノン(強誘電モード、ゾーンセ
が難しく、かつ In 元素を含むため詳細な中性
ンター)は短波長フォノン(反強誘電モード、
子非弾性散乱実験が難しく、今回我々は小さ
ゾーン境界)に比べればランダムネスの影響
い試料でもフォノン観測が可能なX非弾性散
を受けにくいと考えられるので、この様な推
乱法を適用しました。実験は、SPring-8 の
測が可能であると考えます。
BL35XU(Ei=21.747keV, 分解能~1.5meV)で
我々は、この機構が鉛ペロヴスカイトリラ
行いました。図に示すように、両者の分散関
クサー全般に言えることだと考えて(信じて)
係は良く類似しており、単純立方格子を単位
います。しかし、まだまだ推測段階ですので、
胞に取ると、D-、O-PIN 共に強誘電モードで
これらの機構を証明するためにも、今後は構
ある TO モードがΓ点に向けて 5meV 程度の
造、フォノンの温度変化などの詳細を調べ、
ソフト化傾向を示していました。
より深くリラクサー発現機構の解明へ向けて
研究を進めて行こうと考えています。
本研究は以下の方々との共同研究です(敬
称略)。「フラストレーションとリラクサー」
班員他、福田竜生、水木純一郎(原子力機構)、
筒井智嗣(JASRI)、Alfred Baron(理研播磨)
、
寺内暉(関西学院大学)
、大和英弘、安田直彦
(岐阜大学)
。
参考文献
[1] K. Hirota et al., Phys. Rev. B 65, 104105
(2002).
[2] K. Ohwada et al., Phys. Rev. B 77, 094136
(2008).
このことから、反強誘電体といえども強誘電
不安定性を内在している事が分かりました。
この結果はリラクサー発現プロセスを考える
上で重要であり、PIN に於いては次のような
筋書きが考えられます。
まず、PIN に於いては反強誘電不安定性と
強誘電不安定性が競合している。B サイトが
完全に秩序化している場合、そのイオン半径
の違いによる交代歪場が優勢で反強誘電相が
誘起される。一方、B サイトが無秩序化して
くると反強誘電相が急激に抑制され、代わっ
氏名:大和田謙二(左)
所属:日本原子力研究開発機構
研究紹介
空間的異方性をもつフラストレートした反強磁性体における
分数量子数をもつ粒子
公募研究「フラストレーションの強い異方的 2 次元量子スピン系におけるスピノン」
物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点
河野昌仙
フラストレーションの強い2次元系では、分数量子数をもつ粒子であるスピノン
が現れる可能性が示唆されている。本稿では、空間異方性のある2次元フラスト
レート系におけるスピノンの振る舞いについて、1次元の厳密解を用いて調べた
結果を紹介し、Cs2CuCl4 の実験結果に対してスピノン描像に基づく解釈を与える。
通常の反強磁性体では、整数量子数(Sz=1)
を無視した系の固有状態(1次元の固有状態
を運ぶマグノンが現れることが知られている
の直積)で張られるヒルベルト空間でのハミ
が、フラストレーションが強くなると、磁気
ルトニアンを考えればよい。その有効ハミル
z
秩序が抑制され、分数量子数(S =1/2)を持つ粒
トニアンを数値的に対角化することにより、
子であるスピノンが現れる可能性が示唆され
鎖間結合が弱い2次元系の固有状態が得られ
ている。このことに関連して、空間的異方性
る。この状態を使って、動的構造因子を計算
をもつ三角格子反強磁性体 Cs2CuCl4 の性質に
すれば、鎖間結合によって 1 次元のスピノン
注目が集められた[1,2]。この物質では、2次
がどのように変化していくのかを調べること
元的な分散関係とともに、幅広いエネルギー
ができる。ここで、1次元系の情報について
に領域に裾野をもつ動的構造因子の振る舞い
は、Bethe 仮説解を用いて厳密に取り扱った。
が観測された。これらの振る舞いから、2次
元系でスピノンが現れていると考えられ、多
くの理論的な提案がなされた。しかしながら、
3種類の動的性質
主な結果として、波数領域によって3種類
いずれの理論でも、すべての性質を統一的に
の動的性質が現れることがわかった。それら
説明することはできず、その性質は謎のまま
は、鎖間結合のフーリエ変換 J’(k)の符号に
であった。
よって、以下のように分類することができる。
そこで、こうした研究に触発され、我々は
なお、Cs2CuCl4 に対応する異方的三角格子の
1次元の厳密解と鎖間相互作用に関する弱結
場合は、J’(k)=4J’cos(kx/2)cos(ky/2) である。
合理論とを組み合わせることによって、空間
(1)J’(k)=0 の場合、鎖間相互作用の影響を
的異方性のあるフラストレートした系におけ
ほとんど受けずに、1 次元のスピノンの
る動的構造因子の振る舞いを調べた[3]。
性質がほぼそのまま残る。
厳密解を用いた方法
鎖間の相互作用が完全に無視できる場合は、
1次元のスピノンの性質がそのまま現れるが、
(2)J’(k)<0 の場合、連続スペクトルの直下
に、スピノンの結合状態が現れ、 S=1
をもつ粒子のように振る舞う。
(3)J’(k)>0 の場合、動的構造因子に発散は
ここでは、1次元鎖が弱く結合した場合を考
なくなり、鈍ったピークをもつインコ
える。摂動の 1 次までを考えると、鎖間結合
ヒーレントな励起が現れる。
研究紹介
Cs2CuCl4 の実験結果との比較
まとめ
2次元のスピノンの兆候と考えられてきた
空間的異方性をもつフラストレートした2
幅広いエネルギー領域にわたる動的構造因子
次元反強磁性体におけるスピノンの振る舞い
の裾野は、J’(k)=0 を満たす波数で観測されて
を調べ、Cs2CuCl4 の不可思議な動的性質を統
いた。本研究の結果(1)によると、その波
一的かつ定量的に説明することに成功した。
数領域では1次元の結果を再現することにな
本研究により、空間異方性をもつ2次元フラ
る。実際、1次元の厳密解と実験結果とを比
ストレート系では、波数領域によって、1次
較したところ、良い一致を示した(図 a)
。こ
元のスピノンの振る舞いや、マグノンのよう
のことから、この裾野は1次元のスピノンに
な鋭いピーク、または、鈍ったピーク構造が
由来するものであることがわかった。一方、
動的構造因子に現れることが明らかになった。
スピノンの結合状態が現れると予想される波
また、それらは J’(k)の符号により簡明に分類
数領域[J’(k)<0]では、確かに鋭いピークが実
することができ、J’(k)の符号変化に伴うスペ
験的に観測されていた(図 b)
。また、実験で
クトル強度分布の変化によって、2次元的な
観測された2次元的な分散関係は、J’(k)の符
分散関係が生じることも明らかになった。
号変化に伴うスペクトル強度分布の変化とし
て理解できることがわかった(図 c,d)。
このように、Cs2CuCl4 で観測されていた
様々な動的振る舞いを、現象論的なパラメー
タを用いずに、1つの理論的枠組みで、統一
的かつ定量的に説明することに成功した[3]。
現在、磁場中についての研究を進めており、
磁場とフラストレーションによるスペクトル
強度分布の複雑な変化によって、多彩な動的
性質が現れることが明らかになってきた。
最後に、この研究は、UCSB, Kavli 理論物理
学研究所の L. Balents 教授と、Utah 大学物理
学科の O.A. Starykh 教授との共同研究による
ものである。
参考文献:
[1] R. Coldea, D.A. Tennant, A.M. Tsvelik and Z.
Tylczynski, Phys. Rev. Lett. 86, 1335 (2001).
[2] R. Coldea, D.A. Tennant and Z. Tylczynski,
Phys. Rev. B 68, 134424 (2003).
[3] M. Kohno, O.A. Starykh and L. Balents, Nat.
Phys. 3, 790 (2007).
図. Cs2CuCl4 の動的構造因子の実験結果[2]との比較[3].
a,b.— :本研究の結果[3]、○:実験結果[2].
c,d.濃淡:本研究での動的構造因子の結果[3]、
◆:実験で得られた主ピークの分散関係[2]、
○,□:実験で得られた連続スペクトルの上限と下限[2].
河野
独立行政法人
昌仙
物質・材料研究機構
国際ナノアーキテクトニクス研究拠点
研究紹介
有機系三角格子のスピン液体状態
公募研究「フラストレートした分子性化合物におけるクロスオーバー現象の熱的研究」
大阪大学大学院理学研究科
中澤 康浩
有機分子のπ電子スピンがつくる系は、低次元的な量子スピンの性質を研究する
格好の舞台である。最近、三角格子構造をもつ有機電荷移動塩の Mott 絶縁体で、
S =1/2 のスピン液体状態が実現することが注目されている。極低温での熱容量測
定の結果を紹介し、その基底状態と励起構造を議論する。
S=1/2 の二次元反強磁性三角格子の基底状
れ、液体状態の形成が強く示唆されている[2]。
態の解明は、フラストレーション科学の重要
有機系の化合物は、分子という大きな構造単
な問題である。ここでは、隣接するスピンが
位から形成され、また理想的な低次元系がで
互いに逆向きになろうとすると、二次元面内
きることに特徴がある。さらにこのような電
で秩序構造をつくることができずフラストレ
荷移動塩の Mott 絶縁体では、S=1/2 のスピン
ーションをおこす。クリーンな系で、非平衡
間に J/kB=-250 K 程度の強い磁気相互作用が
に凍結することなく温度を低下させていくと、
存在するところも特徴であり、三角格子研究
幾何学的構造からくる配置自由度の縮退と、
に適した舞台を提供している。
S=1/2 スピンのもつ量子性が重なり、スピン
我々はこれらの系の基底状態に関する熱的
の配向が固まらない液体的な基底状態になる
な検証を進めるため、単結晶試料を用いた極
ことが示唆されている[1]。最近、有機系のダ
低温領域で緩和法による熱測定を行った。
イマーMott 型のフラストレート化合物で、こ
うした問題がクローズアップされている。
有機電荷移動塩の三角格子物質
(BEDT-TTF)2X であらわされる 2:1 の有機電
極低温熱容量の測定結果
κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3 の熱容量の温度変
化を図 1 に示した。同時にプロットしてある
の は 、 9.4
K
で 超 伝 導 を 示 す
荷移動塩は、ドナー分子(BEDT-TTF)と対アニ
300
100
造をとる。その中で、ドナー層内の分子配列
10
フィリング系となり、ダイマーあたり 1 個の
ホールが局在した Mott 絶縁体状態になる。本
研究の対象である、κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3
は、この BEDT-TTF ドナーダイマーを単位構
造とした三角格子構造をとり、ラジカルに由
来する S=1/2 のスピンが三角形の頂点に局在
する。この系は 30 mK まで磁気オーダーを作
らないことが NMR, μSR の実験により報告さ
κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3 (green),
κ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2 (red),
κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Cl (purple)
β’-(BEDT-TTF)2ICl2 (blue)
Dimer-Mott system
1
5000
CPT -1 / mJK-2mol-1
に強いダイマー性のある塩は、典型的な 1/2
CP / J K-1 mol-1
オン(X)が層状に積層した理想的な二次元構
0.1
0.01
4000
0T
8T
3000
κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3
2000
1000
0
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
0.001
T/K
1
10
T/K
50
1.3 mm
図 1 BEDT-TTF 電荷移動塩の熱容量の温度依存性
三角格子物質κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3 とその関
連 物 質
挿 入 図 は 0T, 8T で の
κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3. 右 下 は 測 定 し た結
晶の写真
研究紹介
κ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2、27 K で磁気転移を
いるものでは、切片はゼロに向かうことが見
Mott
体
てとれ、明らかに三角格子上のスピンの寄与
κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Cl と、結晶構造は
であると結論できる。二次元三角格子では、
少しことなるがやはりダイマー性の強い反強
液体状態から金属 Fermi 面でおこるような連
磁性絶縁体β’-(BEDT-TTF)2ICl2 の熱容量測定
続励起が生じ、温度に比例する熱容量を示す
結 果 で あ る 。 低 温 領 域 で
可能性が RVB モデルをベースに示唆されて
κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3 にはスピン系のエン
おり、本測定結果はそのような観点からも非
トロピーが残り、大きな熱容量を与えること
常に興味深い。75mK まで測定領域を広げる
がわかる。挿入図は、κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3
と核スピンのショットキー熱容量が現れるが、
の熱容量を CpT -1 vs T のプロットをしたもの
γ項そのものには大きな変化が無い様に見え
であり、50 K 以下の温度領域には長距離秩序
る[4]。ただし、最近の京大グループの熱伝導
形成によるシャープな熱異常は示していない。
の実験から 1 K 以下の非常に小さいギャップ
8 T の磁場を印加しても、熱容量には殆ど変
が存在する可能性も指摘されている[5]。より
化がおこらない。
高い温度の熱容量測定によって、約 5.7 K 付
お
こ
す
低温領域を CpT
-1
絶
縁
2
vs T のプロットをすると
近に非常にブロードな構造があることも見出
図 2 に示したようなきれいな直線関係が得ら
されており、その温度付近でスピン液体状態
れ、金属状態で生じるような電子熱容量係数γ
への凝縮が起こっている可能性が示唆される。
が約 15±5 mJK-2mol-1 程度と有限値になる。こ
理論、実験ともに今後の展開が期待される。
れは、有機導体の電子熱容量係数に匹敵する
本研究は、東大(鹿野田グループ)、東北大
大きさになっている。静磁化率の低温極限の
金研(野尻グループ)
、東工大(小國グループ)
との共同研究である。
150
CPT-1 / mJ K-2 mol-1
● κ-(d8:BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Br
125
100
■
0T
× κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Cl
▼
1T
○ β’-(BEDT-TTF)2ICl2
●
4T
[1] P. W. Anderson, Mater. Res. Bull. 8,
153-160(1973).
[2] Y. Shimizu et al. Phys. Rev. Lett. 91,
1007001(2003)
75
[3] S.-S. Lee, P.A. Lee, and A. Sentthil, Phys.
50
Rev. Lett. 98, 067006(2007).
[4] S. Yamashita et al. Nature Phys. 4,
25
反強磁性Mott絶縁体
0
0
1
2
3
T2 /
4
5
459-462(2008).
6
[5] M. Yamashita et al. Preprint
K2
図 2 低温領域での熱容量の温度依存性 反強磁性秩
序を示す Mott 絶縁体を同時にプロットしてい
る
外挿値と、このγの間の Wilson 比がおよそ 1
に近く、また図 2 のように 4 T 程度の磁場で
はγ値は全く影響をうけないことなどを考え
ると、スピン系に起因するギャップレスの励
起が存在しているものと思われる。同じκ型塩
でも三次元的な反強磁性秩序状態を形成して
中澤 康浩
大阪大学理学研究科
研究紹介
Y型六方晶フェライトにおけるコニカル磁性と磁場誘起分極
公募研究「フラストレーションによって生じる非自明なスピン構造中での電荷自由度
の振る舞い」
理化学研究所
交差相関物性科学研究グループ
田口康二郎
Y型六方晶フェライト Ba2Mg2Fe12O22 の低温で生じるコニカルスピン相において、
30mT という従来にない弱磁場を用いた分極の制御に成功した。また、元素置換に
より磁気異方性を系統的に制御した試料を作製し、分極とコニカルスピン構造に
対する磁気異方性の影響を明らかにすることを目的として研究を進めている。
TbMnO3 における分極の発現および磁場誘
に分極が発現することが、木村らによって見
起分極フロップの発見[1]を一つの契機とし
出されていた[5]。しかしながら、この物質で
て、自明でない磁気構造によって誘起される
は低磁場領域では分極が消失しており、ゼロ
電気分極の研究が盛んに行われている。横滑
磁場におけるらせん磁気構造と磁場中での分
り型のらせん磁気構造において、隣りあうス
極との相関は明白ではない。そこで我々は、
ピンの作るカイラリティベクトルと らせん
類縁物質の Ba2Mg2Fe12O22 がやはり低温でヘ
の伝播ベクトルの両者に垂直な方向に分極が
リカル磁気構造をとると報告されていること
生じることが理論的に提唱され[2]、実際に
から、この物質に注目して研究を行った[6]。
TbMnO3 の分極はこの機構で生じていること
図 2 に、[100]方向および[001]方向に 100 Oe
が偏極中性子回折実験によって示された[3]。
の磁場を印加して測定した磁化の温度依存性
フラストレーションを内在したスピン系にお
を示す。195K 付近でのフェリ磁性相からヘリ
いては、しばしばノンコリニアーあるいはノ
カル相(図 1(b))への転移に伴い、[100]方向
ンコプラナーなスピン構造が出現し、このよ
の磁化が大きく減少している。さらに温度を
うな研究の格好の舞台となっている。
低下させると、50 K 付近で[001]方向の磁化が
Y 型六方晶フェライトは、図 1(a)において
茶色で示したブロックにスピネル層を含んで
おり、そのため磁気的フラストレーションが
存在する。内部で Fe3+のスピン S=5/2 がコリ
ニアーかつフェリ的に結合した2つの“スピ
ンバンチ”(L スピンと S スピン)が、図 1(b)
のようなヘリカル磁気構造をとることが、中
性子回折によって報告されている[4]。一連の
物質群のうち、Ba0.5Sr1.5Zn2Fe12O22 という物質
の低温で生じるヘリカル相において、らせん
軸と垂直な方向の磁場印加によって誘起され
る複数の磁気相のうち、1 T 付近の一つの相に
おいて、らせん軸と磁場の両方に垂直な方向
図 1 (a) Y 型六方晶フェライトの結晶構造の模式図。
(b) L スピンと S スピンバンチが作るヘリカル磁気構
造。50 K < T <195 K で実現する。(c) 50 K 以下で実
現するコニカル磁気構造。 (d) コニカル相で c 軸に
垂直に磁場を印加したときに予想される磁気構造。
研究紹介
両方に垂直な方向で分極が観測された。
Ba0.5Sr1.5Zn2Fe12O22 との違いは、ゼロ磁場近傍
を含む 3 つの強誘電相が存在することである。
最も低磁場側の FE1 相では、図 1(d)に示した
ような transverse conical 相が実現しているも
のと考えている。
さらに 5 K において、磁場を±30mT で振動
させたところ(図 3(c))
、図 3(a)に示すような
図 2 Ba2Mg2Fe12O22 に 10 mT の磁場を印加した
ときの磁化の温度依存性。挿入図はフラックス法で
育成した結晶。
増大し、図 1(c)に示すコニカル相へと転移し
ていることを見出した[6]。低温におけるコニ
カル相への転移は、Ba0.5Sr1.5Zn2Fe12O22 では起
こっていないことを磁化測定で確認した。こ
のような基底状態での磁気構造の違いは、Mg
および Fe イオンは 4 面体サイトまたは 8 面体
サイトのどちらも占有するが、Zn イオンは 4
面体サイトしか占有しないことによって、Fe
イオンの占有分布に違いが生じることに起因
し、Zn を Mg に置換すると磁気異方性が容易
面型から容易円錐面型に変化したことによる
ものと考えられる。
コニカル相の 5K において磁場を c 面内に印
加して分極の測定を行ったところ、
Ba0.5Sr1.5Zn2Fe12O22 で観測されたのと同様に、
c 軸(=らせんの伝播ベクトル方向)と磁場の
周期的な変位電流を観測した。これを積分す
ると、図 3(b)に示すように分極が減衰するこ
となく振動していることがわかる。すなわち、
30mT というこれまでに報告例のない弱磁場
を用いて、分極を制御できることが明らかに
なった[6]。なお、ほぼ同時期に東北大のグル
ープから同様の結果が報告されている[7]。
現在は、Mg サイトを Zn で部分的に置換し
て磁気異方性を系統的に変化させたときの分
極の振る舞いについて調べており、弱磁場で
の transverse conical 相の安定性や分極の制御
性、また、高磁場における分極と磁気異方性
との相関を明らかにしたいと考えている。
本研究は、石渡晋太郎、村川寛、小野瀬佳
文、十倉好紀(敬称略)各氏との共同研究に
よるものです。
[1] T. Kimura et al. Nature 426, 55 (2003).
[2] H. Katsura et.al. Phys. Rev. Lett. 95, 057205 (2005)
[3] Y. Yamasaki et al. Phys. Rev. Lett. 98, 147204 (2007).
[4] N.Momozawa et al. J. Phys. Soc. Jpn. 70, 2724 (2001).
[5] T. Kimura et al. Phys. Rev. Lett 94, 137201 (2005).
[6] S. Ishiwata et al. Science 319, 1643 (2008).
[7] K. Taniguchi et al. Appl. Phys. Ex. 1, 031301 (2008).
図 3
±30mT で振動する磁場(c)を[100]方向に印
加した際の(a)変位電流と(b)分極の時間依存性。
田口康二郎(左)と石渡晋太郎(右)
理化学研究所 交差相関物性科学研究グループ
国際会議報告
LT25 参加報告記
早稲田大学理工学術院
勝藤 拓郎
8 月 7 日から始まる LT25 (25th international conference on Low Temperature Physics)
に参加するために、アムステルダムのスキポール空港に着いたのは、その前の数日間イギ
リスのケンブリッジ大学を訪問した後であった。ケンブリッジでは、S. S. Saxena 博士(強
磁性 UGe2 の高圧下での超伝導の発見で有名)から、セミナーでの講演、discussion、 college
の正式な dinner party への招待を含めた濃密?な接待を受けたので、すでに何か堪能した
気分になって LT に乗り込むことになってしまった。
実は LT に参加したのは今回が初めてである。LT というのはどちらかと言えば低温プロ
パーと超伝導がメインであり自分の研究とは必ずしも相性がよくない、という印象があっ
た。今回参加を決めた動機も、Saxena 博士が昨年から今年にかけて 1 ヶ月ほど日本に滞在
した際のホストになったおかげで、その返礼としてケンブリッジを訪問することになった
ために、それに比較的近い場所で行われる LT への参加とくっつけたという、かなり不純な
ものである。
というわけで、あまり気合が入らない状態で初
日を迎えた。気合が入っていなかったので、いき
なりオープニングセレモニーに遅刻してしまい、
さ ら に 最 初 の London Prize
Lecture (I.
Fomin and Y. Bunkov)も会場が満員で入れない、
というスタートになってしまった。ようやく会場
に入れたのが、次の Simon Prize Lecture (J. S.
Tsai) か ら で あ っ た 。 次 の A. Geim (Univ.
Manchester)によるグラフェンの講演は、本 LT で
LT の会場
最も印象深いものになった。グラフェンというのはご承知の通り、グラファイトが 1 層だ
けになったものである。よく「グラファイトをぐっとこすると 1 層だけ剥がれて云々」と
いう解説があるが、Geim によれば 1 層のグラフェンを得るのはそんなに簡単ではなく、ほ
とんどの場合が数層かそれ以上になっていること、
1 層のグラフェンをようやく見つけても、それが
本当に 1 層であることを他人に納得してもらうの
はかなり大変であったこと、等が語られた。特に、
「マーミン・ワーグナーの定理により 2 次元結晶
は存在しない」という固定観念が強く、
「1 層とは
言っても下地との相互作用があるはず」とか様々
旧教会
な批判があったらしい。ちなみに、今では下地を
国際会議報告
取り去って、本当に 1 層のグラフェンを一端から空中に支えることも可能らしい。マーミ
ン・ワーグナーの定理との関係については「高温から低温に下げる過程で 2 次元結晶を作
るのは不可能かもしれないが、一旦できた 3 次元結晶を低温で壊して 2 次元結晶にするの
は定理には反しないはず」とのこと。(これが本当にそうなのかどうかは理論家の方の判断
にお任せします。)
こうしてできたグラフェンは、驚くべき性質をたくさん示す。特に凄いのは、30 T もか
ければ室温で量子ホール効果が見えること、
「30 T は研究室では出せないというのなら、ア
ルコールでも使って 160 K まで下げれば 9 T で見える」ことである。これは、グラフェン
のバンドの分散が parabolic ではなく linear であるために、キャリア数を小さくすれば原
理的にはいくらでも有効質量が小さくなり、ランダウ準位の間隔が非常に大きくなるため
である。さらに、グラフェンの光学吸収率を測定すると 2.3 %になり、これが理論的にはπα
(α∼1/137 は微細構造定数)に等しいことを主張していた(「目で見える微細構造定数」と
のキャッチフレーズ)。これなどは話がうまく行き過ぎているようだが、「この系ならそれ
ぐらい話がうまくいってもよいか」という気にもなってくる。
久々に素晴らしい話を聞いた後、午後後半は
ポスターである。ポスターは毎日すべての分野
にわたって行われるため、退屈はしない。ちな
みに(オープニングセレモニーで語られたとい
うことで又聞きではあるが)参加者総数は 1500
名程度で、うち 500 人が日本人とのこと。確か
に会場には日本人の数が非常に多く、とくに物
質科学の分野では半数近くが日本人であるとの
印象を受けた。ポスターを回ってもある程度レ
ポスター会場
ベルが高そうなのはすべて日本人の発表という
感じで、実際のところせっかく海外に来たにもかかわらずポスターに関しては日本の学会
にいるのとあまり変わらない雰囲気であった。私の研究室の D3 の鈴木君もこの日にポスタ
ー発表をしたが、「議論できた外人は数人で、後は全部日本人だった」とこぼしていた。
2 日目は、H. Hosono による鉄ヒ素の高温超伝導の報告が白眉であった。この系に関して
は、この日の夜に急遽 romp session が開かれたことでも分かるように、研究の進展が急で
あり、発見から半年で多くのことが分かってきている。物質に関して言えば、FeAs 層(あ
るいは FeSe 層)が含まれていて、かつホールであれ電子であれドーピングをして、Fe を 2
価からずらしてやればほぼ必ず超伝導が出ることが明らかになりつつある。Hosono も強調
していたが、Fe を他の元素で置換することでも超伝導になるというのは銅酸化物では見ら
れない性質であり、この系の超伝導に関する robustness は驚くべきものがある。さらに、
Hosono らはすでにこの系の薄膜の作製にも成功していること、しかし他の似た結晶構造の
系と違い、薄膜を作るのは恐ろしく大変であったことが報告された。
国際会議報告
夜の鉄ヒ素の高温超伝導に関する romp session
に関しては、最初のほうの物質に関するセッショ
ンのみ参加したが、非常に高いレベルまで研究が
進んでいることに感心した。一部、他人の成果ま
でも自分の成果に見せかけようとする発表もあっ
て若干げんなりもしたが、多くは筋道の通った立
派な研究であった。ただ、その romp session で発
表した B. Lorentz (Univ. Houston)と後で話した
ときに「1 日でも早く他より成果を出す必要があ
ってまるでオリンピックに参加しているようだ」
細野先生のご講演
とこぼしていたように、やっている当人たちは非常に大変なようである。と、まあこの系
をやっていない私としては高みの見物である。
さて、アムステルダムの観光名所とは、ガイドブックによれば、ダム広場、旧教会、国
立博物館、ゴッホ美術館、などである。アムステルダムはそれほど大きな街ではないので、
すべて歩いて回ることができる。国立博物館にはレンブラントの有名な絵画がある。さら
に、ゴッホ美術館には年代別に並べられたゴッホの絵画が展示されていて、ゴッホの画風
が文字通りころころと変遷していく様子がよくわかる。ちなみに、若い人向けに言ってお
くと、欧米の都市に行った際には、そこの美術館にぜひ行っておくべきである。まず、日
本ではあまり見る機会のないルネッサンス(髭男爵ではないよ)の「サイズの大きい」絵
画が必ず多数展示してあり、なかなか感動するものである。さらに、日本で西洋絵画を見
てもなかなかピンと来ないが、欧米でそこの風景を見て、さらにそこの人の顔を見て、そ
して絵画を見ると、何となく分かったような気になるものである。
それから、アムステルダムには運河が多数あり、そこを巡る観光船に乗ることもできる。
そうした観光船を横目で眺めながら会場に向かう運河沿いを歩いていると、いきなり窓辺
に下着姿のお姉さんが多数いる場所に出くわしてちょっとどきどきした。いわゆる飾り窓
と呼ばれるものであり(これが何であるかは自分で調べてください)
、ガイドブックには特
定の地区が記述されているが、それ以外の地区にもたまにあるそうである。(某氏談)
さて、私のポスターは 3 日目であり、カゴメ格系 V 酸化物 SrVxGa12-xO19 の発表をした。
議論した外人は計 3 人と鈴木君よりも少ない数になってしまったが、そのうちの1人が
Harvard の S. Sachdev (量子臨界性の理論の大家)だったのはうれしかった。2 年前ぐらい
の国際会議で 1 度話したことがあるのだが、そのときのことを覚えていてくれていたらし
い。ちなみに、この LT では 10 年ほど前に 1 度話しただけの細野先生に声をかけてもらっ
たりもして、偉い先生でも若い研究者(ええ、私のことです!)のことを意外によく覚え
ているものだということを再認識した。
(真に若い皆さんもこのことを心に留めておきまし
ょう。)ちなみに、Sachdev は、私のポスターをざっと見ただけで全てを理解した上で、的
確な質問をしてきた。やっぱり頭の良い人は違うものだと多いに感心。
国際会議報告
4 日目は日曜で講演はなく excursion のみ、5 日目の夜は dinner party と続くが、私はこ
こで失礼してさっさと日本へ帰ってきてしまっ
た。一応、その後の報告を鈴木君と東京理科大
の矢口氏に頼んでおいたが、それによると、(3
日目までの講演でも数多くみられたが)量子臨界
点の考え方が非常に浸透してきたとのこと。例
えば、鉄ヒ素の超伝導は、母体の SDW を壊した
ところで生じるという点で典型的な量子臨界点
の超伝導であり、それ以外にもヘビーフェルミ
オン系でも様々な量子臨界点の超伝導が観測さ
ある日の夕食
れている。このような「量子臨界点における新しい相」は、間違いなく凝縮系物理の新し
い潮流のようである。
というわけで、当初の期待以上にいろいろと収穫のあった LT 参加であった。ただよく考
えてみれば、フラストレーション特定領域研究におけるニュースレターの報告としては、
あまり適当ではなかったかもしれない。それから食べ物のことを書くのを忘れていたが、
夕食でその辺の店に入るとまあステーキを食べることになる、といった感じでそれほどの
特徴はない。ただ、ビールはほとんど(オランダなので)ハイネケンである。「ビールは何
がありますか?」とか聞くと「ハイネケンとえーとそれから・・・なんだっけ?」みたい
になって肩透かしをくらう。最後にある日の夕食の写真を載せておきます。
国際会議報告
IUCr2008 大阪(第 21 回国際結晶学
連合会議)に参加して
東北大学多元物質科学研究所
野田幸男
2008 年 8 月 23 日〜31 日に大阪で開催された
IUCr2008 に参加したので報告します。国際結晶
学連合会議(IUCr-congress)は 3 年ごとに開かれ
る 2500 人規模の国際会議です。結晶学という、
非常に広い分野の基礎にあたる会議のため、あ
らゆる分野の人が集まっています。物理・鉱物
関係、化学関係、生物・高分子関係を縦糸とす
れば、方法論、ラボ X 線、放射光、電子線、中
性子線、単結晶・粉末法、結晶成長等々を横糸
にして、広い範囲にわたっています。10 日近く
の会議で、朝の 8 時半から、プレナリレクチャ
(PL)、3 つのバラレルのキーノートレクチャ
(KN)、午前と午後にマイクロシンポジウム(MS)
がそれぞれ 7 つパラレルセッションあり、合計
98 の MS があります。夜にも KN があります。ポ
スター発表は 1500 件ほどあり、500 件ずつ 2 日
間貼りだして、3 回交代します。
会議の中心話題は時と共に変わります。高
温超伝導や軌道秩序はすでに MS などでは取り扱
われなくなり一般講演の一部だけとなっていま
す。これらに代わって、今回はマルチフェロイ
ックが大きな話題となっていて、この分野の MS
が 8 月 29 日にありました。Chair は大阪大学の
木村剛氏、co-chair は L. Pinsard-Gaudart で、
私も招待講演を行いました。その他、M. Kenzelmann、D. N. Argyriou が招待講演、F. H.
Damay、J. B. Claridge が口頭講演で、それぞれ
30 分講演を行いました。また、マルチフェロイ
ックのポスターでの発表も多数ありました。マ
ルチフェロイックとは強誘電と磁気秩序が密接
に関係した物質です。強誘電体の研究も磁性研
究も日本のお家芸ですし、電気磁気効果の研究
も日本では古くから行われています。中性子は
この分野に大きな寄与をしており、磁気構造解
析が非常に重要なテーマとなっています。
MS&T08(Material Science and
Technology 2008)に参加して
東北大学多元物質科学研究所
野田幸男
2008 年 10 月 5 日〜9 日に Pittsburgh で開催
された MS&T08 に参加したので報告します。この
会議は、米国の 4 つの学会
(The American Ceramic
Society, Association for Iron & Steel
Technology, ASM International, The Minerals,
Metals & Materials Society)が共同主催する
大きな会議で、かなり応用を意識している組織
です。どういう訳か、この会議への招待講演依
頼が来ました。Pittsburg には行ったことがない
し、特定研究の旅費も使わせていただけそうな
ので講演を引き受けました。セッションは多分
野にわたっていますが、私が講演を行ったのは
Multiferroics and Magnetoelectric Composites
というセッションです。応用関係の人もこの分
野に興味を持っているということで RMn2O5 系を
中心に日本で行われている RMnO3 系も含めて積
極的に宣伝してきました。そのセッションでの
発表者の中には顔なじみもいましたが、全体的
に見たときにはあまりレベルが高いとは言い難
い印象を受けました。日本のこの分野での仕事
が大変先端的なレベルにあることを再確認して
帰国しました。
ICMR Summer School on Multiferroics に参加して
東北大学多元物質科学研究所
野田幸男
2008年7月20日〜8月2日にCalifornia大学Santa
Barbara校で開催された夏の学校に講師として
参加したので報告します。この夏の学校は、The
International Center for Materials Research
がスポンサーになって開かれるもので、今回は
「summer school on Mulftiferroic Materials
and Beyond」と題して行われました。事前に参
加者の絞り込みが行われたようで、審査に合格
したものだけが参加を許されるというものです。
参加者には旅費の補助があり、宿泊はドミトリ
ーで食事はカフェテリアで全て補助されるとい
う、とてもうらやましい夏の学校です。日本人
学生やポスドク(例えば十倉グループや木村グ
ループ)も多数いました。むしろ、アメリカ人
が少ないのには驚きました。2週間の長期の夏の
学校なので、私は前半だけに参加し、90分の講
義を2回行いました。最初の講義は結晶学から回
折実験で何が分かるかというもので、2回目の講
義はマルチフェロイックのトピックスに関する
ものです。講義実験も2-3含めて行いました。組
織 委 員 は 、 Janice Musfeldt が 委 員 長 で 、 Sang
Cheong、Bernd Lorenz、Silvia Picozzi、David Singh
がco-organizerです。現地委員として、Nicola
Spaldinが担当していました。講師の面々は、Sang
Cheong(Rutgers U), Paul Chu(Houston U), Michel
Kenzelmann(ETH & PSI), Kee Hoon Kim(Seoul U),
Bernd Lorenz(Houston U), Thomas Lottemoser(Bonn
U), Maxim Mostovoy(Groningen U) , Janice Musfeldt( Tennessee U), Yukio Noda(Tohoku U), Silvia
Picozzi(Aquila U), Karin Rabe(Rutgers U), Ramamoorthy Ramesh(Berkeley), David Singh (ORNL),
Nicola Spaldin(UCSB), Mas Subramanian (Oregon
国際会議報告
State U), Ichiro Takeuchi(Maryland)と実に多彩で
す。時間もゆったりしていて、ある日は昼食も
含めて5時間ほどの休み時間があり、学生は海岸
に遊びに行ったりしています。私はホテルに戻
る足もないので、芝生と木立の広々とした庭の
ベンチで講義の準備です。ゆったりとした時間
が流れ、至福の時を過ごしました。参加者のポ
スター発表が庭で行われたのはやはり
Californiaです。講義のやり方や内容はそれぞ
れ全く違っていました。学会発表風の人もいれ
ば大学での講義風の人とそれぞれです。ただ、
これだけの講師陣の講義を毎日聞いていると大
変刺激的で、何年分ものセミナーを1週間で聞い
たような興奮を覚えました。このSummer School
に参加できた学生は大変に幸せです。特に彼ら
にとって重要なのは、この分野の講師陣や学生
とのつながりを持ったことで、参加者はこれか
らの財産となると思います。そこに、日本の学
生も多数参加していたことは先が楽しみです。
写真はバンケットでの講師陣の一部です。
日韓強誘電体会議 KJC-FE07 に参加
して
東北大学多元物質科学研究所
野田幸男、木村宏之、福永守
2008年8月6日〜8月9日に韓国済州島で開催さ
れた日韓強誘電体会議に参加したので報告しま
す。この会議は、日本と韓国が交互に2年おきに
開催するもので、前回は仙台で行われました。
マルチフェロイック関係では、RMn2O5として木村
(招待講演)、野田(口頭発表)、福永(ポス
ター発表)が発表しました。また、BiFeO3の薄膜
のデバイスなど応用関係の発表も多数ありまし
た。ポスターでも、RMn2O5の混晶系のきらりと光
るような話もありました。この会議はいつもア
ットホームな雰囲気があり、それでいて十分に
高いレベルを持った誘電体関係の会議なので、
参加者からは好評です。学問的に満腹になった
だけでなく、済州島のおいしいものも堪能して
帰ってきました。
Moscow International Symposium on Magnetism(MISM 2008)
に参加して
東北大学多元物質科学研究所
木村宏之
2008 年 6 月 21 日〜6 月 25 日にモスクワで開
催された Moscow International Symposium on
Magnetism (MISM 2008)に参加したので報告しま
す。この会議は名称の通り、磁性研究に関する
会議ですが、その範囲は基礎分野から応用まで
極めて多岐に渡っています。講演の数も多く、
ポスター発表は連日 100 講演近く行われていま
した。日本からの参加者も多かったのですが、
特に応用系分野の研究者が多かったと感じまし
た。私は RMn2O5 の研究に関する招待講演をさせ
て頂きました。初めてのロシアで戸惑う事も多
かったのですが、普段お話しする機会の少ない
分野の方々とも議論することができ、良い経験
ができたと思います。CMR の話や鉄系超伝導に関
する講演など、懐かしい話から最新の話題まで、
幅広く聞くことができました。
国際会議報告
HFM2008 会議報告
九州工業大学工学部
理化学研究所
東京大学物性研究所
平成18年 9 月7日から 12日までドイツの
松平 和之
小野田 繁樹
中辻 知
国別参加者数
北西部の町、ブランシュバイクの工科大学で、
国名
Highly Frustrated Magnetim (HFM)2008 が行
参加者数
われた。HFM は 2000 年のカナダ(Waterloo),
1
Germany
55
2003 年のフランス(Grenoble)、2006 年の日本(大
2
Japan
50
阪)に続く4回目の開催である.Stuttgart の Max
3
France
31
4
USA
18
5
UK
15
6
Switzerland
13
本人はほとんどいないのではないかと思う.実際
7
Canada
7
に訪問しての感想は、水と緑にあふれ歴史的建造
8
Hungary
4
Slovenia
4
Italy
3
Poland
3
Russia
3
Plack Institute の Kremer 氏が Chairman を務
めた。一般的にドイツの都市ですぐに思いつくの
がベルリンやミュンヘン等であり、失礼ながらブ
ラウンシュバイクを思い浮かべる事が出来る日
物と現代建築物が融合した非常に美しい街であ
った.また、ブラウンシュバイク(人口 24.5 万
人)はあの偉大なガウスの生誕地で、国内でもサ
イエンスの街として知られているそうである。
さすがドイツらしくきっちりした印象の高い
10
学会であった。時間の配分も適当で、質疑応答も
活発であった。Program and Abstracts に掲載されている参加登録者リストによると 24 カ
国から総勢 222 名の参加者があり、各国別の参加者 top 10 は表のようになった.1位は開
催国のドイツで 55 名であるが、2位は日本の 50 名であり、隣国フランスの 31 名を大きく
上回った.ただ、この統計は実際の印象とはやや異なるように思われた.恐らく実際には
近隣諸国からの聴講者も多く参加し、日本からは不参加の方もおられたためと思われる.
まずは、7日に学生用のチュートリアルが新たな試みとして始められた。ポスタセッシ
ョンでは、ポスタ賞を用意する一方で、ビア樽から直接いただく生ビールを堪能しながら
議論が弾んでいたようである。バンケットは旧 City Hall で行われた。開会のあいさつのあ
と、大阪での HFM で川村領域代表が酒樽をあけて皆で会を祝っていたのを真似て、ビア樽
を槌であける儀式が印象的であった。
ところで、学会の内容に話を戻すと、初日はメスナーが Monopole によるスピンアイス
の理論を紹介したのをかわきりに、このクーロン相互作用を議論する理論・実験がいくつ
かとりあげられていた。一方、大阪での HFM との違いはやはり、S=1/2 のカゴメ格子系の
国際会議報告
実験、理論の進展であろう。廣井先生の話された Volborthite に始まり、perfect kagome
の実験・理論の発表が目立った。また、κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3、Na4Ir3O8 を想定した
金属―絶縁体転移の近傍で期待されるスピン液体の理論(Sachdev、Fisher、常次)が印象
的であった。また、今回の新しくセッションとして三日目には multiferroic がとりあげら
れていた。Cheong の Review に始まり、Scalar Spin Chirality による新しい機構の提案等
(Daniel Khomskii)があった。最終日の講演後に Summary talk が行われた.理論は
Lhuillier 氏によって、実験については、高木英典氏によって行われた。高木先生のトーク
はほぼすべての講演内容を見事に網羅しながら、今後の研究の発展性・方向性を見据える
素晴らしいものだった.会議の最後には Best Poster Award が催され、2名、日本からは
新しいカゴメの系を発表された岡本佳比古氏(東大物性研)が見事、選ばれた。
次回は 2010 年に Broholm 氏が chairman を務めアメリカのワシントン近傍で行われる
予定である。その年は、ちょうど川村特定の 4 年目にあたる。今後、実験ではそれぞれの
系において新しい典型例が報告され、理論のさらなる理解がすすみ、より一層の賑わいが
期待される。(松平、小野田、中辻)
国際会議報告
The 7th International Workshop on Polarized Neutrons in
Condensed Matter Investigations (PNCMI2008)
The 2nd International Symposium of Quantum Beam Science
Directorate of JAEA(QuBS2008)
加倉井和久
(日本原子力研究開発機構
量子ビーム応用研究部門)
2008年9月1日∼5日に茨城県東海村「テクノ交流館リコッティ」において
第7回偏極中性子凝縮系科学国際研究集会(PNCMI2008)が第 2 回量子ビーム応
用研究部門国際シンポジウム(QuBS2008)として(独)日本原子力研究開発機構
量子ビーム応用研究部門の主催、
(独)日本原子力研究開発機構先端基礎研究セ
ンター、東京大学物性研究所、大学共同利用法人 高エネルギー加速器研究機構、
京都大学原子炉研究所、東北大学金属材料研究所の共催、そして日本中性子科
学会、日本磁気学会、茨城県の後援で開催された。この PNCMI シリーズは 1996 年
から 2 年おきに開催されている国際研究集会で、凝縮系科学研究の為の先端的偏
極中性子利用を国際的に議論する場を提供してきた。過去の開催地は
1996:Dubna(Russia);
1998:Grenoble(France);
2000:Gachina(Russia);
2002:Juelich(Germany); 2004:Washington DC(USA); 2006:Berlin(Germany) で
ある。今回の国際集会の全登録参加者数は111名、海外からの参加者は57
名で、52の口頭発表(内29招待講演)が13セッションで行われ、53の
ポスター発表が2つのポスターセッションで行われた。集会は岡田理事(日本
原子力研究開発機構)と藤井部門長(同機構量子ビーム応用研究部門)の挨拶
で始まり、最初の学術講演では秋光先生(青山学院大学)が日本の偏極中性子
の初期から現在にいたるご自身の偏極中性子 3d 遷移金属磁性研究成果を紹介さ
れた。その冒頭で日本の偏極中性子の初期を振り返り、我が国では初期の段階
から定常炉の JRR-2 とパルス中性子源 KENS で偏極中性子利用研究が平行して
始まった事を強調された。引き続き「偏極デバイス」、
「反射率測定と多層膜」
「新
規測定技術及び基礎物理」「マルチフェロイックスとフラストレーション」「三
次元解析及び回折実験」「放射光、μSR との相補利用」「中性子スピンエコー」
「施設とプロジェクト I,II」
「量子磁性と強相関電子系」
「非弾性散乱実験」
「小
角散乱実験」及び「イメージング」と題する口頭セッション及び2つのポスタ
ーセッションで先端の偏極中性子散乱技術とそれを活用した広い研究分野にお
国際会議報告
ける成果が発表された。偏極中性子散乱の先端技術が発表、議論されたのは勿
論であるが、今回の研究会の特徴は是等の技術開発により可能になったサイエ
ンスの発表内容が大きな部分を占めた事であった。その中から以下に特定領域
研究「フラストレーションが創る新しい物性」に直接関係すると思われる内容
を簡単に紹介する。
2日目の「マルチフェロイックスとフラストレーション」
「三次元解析及び回折
実験」
「放射光、μSR との相補利用」の3セッションではマルチフェロイック及
びフラストレーションの研究に関する偏極中性子実験結果が幅広く紹介された。
木村剛氏のマルチフェロイック系の物理の解説及び最近のフラストレート三角
格子物質系における非平行磁気秩序による電気分極の発現に関する研究に関す
る講演から始まり、B. Roessli 氏(Paul Scherrer Institut(PSI)), W. Ratcliff
氏(National Institute for Standard and Technology(NIST))及び脇本秀一氏
(日本原子力機構(JAEA))からそれぞれの中性子散乱研究施設における偏極中
性子を活用した NdFe3(11BO3)4, BiFeO3, RMn2O5 等の研究が発表された。有馬
孝尚氏は偏極中性子と放射光 X 線の相補利用によるスピン誘起強誘電体研究を
紹介され、偏極中性子によるカイラリティー及び放射光 X 線回折による微細な
格子変調の検証により、磁性と格子(電子密度分布)の結合情報が得られる事
を強調された。門野良典氏はこれまで主であった局在スピン系におけるフラス
トレーションの概念が遍歴系でも重要である事を示唆する LiV2O4 のμSR の結
果を報告され、遍歴系フラストレーション研究に偏極中性子散乱とμSR の相補
利用を提案された。是等の一連の発表は、電気磁気効果やフラストレーション
の解明にキーとなるカイラリティーや複雑な磁気構造の検証に偏極中性子利用
が不可欠であり、この手法と放射光 X 線やμSR 等の「量子ビーム」の相補利用
が固体物性の新しい概念の理解に必須である事を明らかにしたと思われる。
またスピンフラストレーション研究に関連した新規偏極中性子散乱技術として
三次元偏極解析とスピンエコーを組み合わせた実験手法が E. Lelievre-Berna
氏及び C. Pappas 女史により紹介され、カイラリティー項の slow dynamics の
検証が可能になる事が実証された。これは例えば上記の遍歴系フラストレーシ
ョン研究におけるμSR との相補利用に新しい側面を与える事になると予想出来
る。
3日目の午後は J-PARC と JRR-3 ガイドホールの見学が企画され、参加者の
方々は J-PARC の壮大な施設に、JRR-3 では活発な実験活動に感銘を受けてお
国際会議報告
られた。同日夕方バンケットが行われ、村上東海村村長も出席され、終始和や
かな雰囲気の中で親睦が深められた。予想通り J-PARC の稼働時期とのタイミ
ングも非常に良く、パルスと定常中性子源における相補的偏極中性子利用の展
望の議論も具体化した施設を目のあたりにしてより一層活発に行われたと感じ
た。3次元偏極解析用 CRYOPAD の開発と実現に大きく貢献した F. Tasset 氏
の「まとめ」で幕を閉じた PNCMI2008 であるが、次回 2010 年の開催には5
つの中性子散乱施設(IRI Delft(オランダ), ISIS(英国), JCNS at FRM II
(ドイツ), SNS(アメリカ)及び LLB(フランス))が開催地として名乗り出
ており、世界の先端中性子科学施設における偏極中性子利用への関心の高さを
表している。東海村の中性子科学研究拠点においても従来の研究用原子炉
(JRR-3)における偏極中性子利用を大強度陽子加速器施設(J-PARC)の物質・生命
科学実験施設(MLF)に拡大するべく、3He フィルター偏極技術を含む偏極中性子
利用開発を中性子ビーム高度化の一環として行っていく予定である。この特定
領域研究のなかでも偏極中性子散乱を是非活用して頂き、次回 PNCMI2010 で
皆様の偏極中性子実験発表が数多く行われる様に努力したいと思いますので、
宜しくお願いいたします。
発表論文のリスト
103. “Superconductivity of reduction-treated ceramic material of Pr2 Ba4 Cu7 O15−δ mixed with
the related structure phases ”, M.Hagiwara, S.Tanaka, T.Shima. K.Gotoh, S.Kanda, T.Saito,
K.Koyama: Physica C 468, 1217-1220 (2008).
104. “Magnetic properties of a structurally four-spin system SrCo2 (PO4 )2 ”, Z. He and Y. Ueda:
Solid State Communications 147(1-2), 24-26 (2008).
105. “Martensitic-like transition in Mn2 V2 O7 single crystals ”, Z. He, Y. Ueda, M. Itoh: Solid
State Communications 147(3-4), 138-140 (2008).
106. “Flux Growth of b-Cu2 V2 O7 Single Crystals in a Closed Crucible ”, Z. He and Y. Ueda:
Crystal Growth & Design 8(7), 2223-2226 (2008).
107. “Magnetic Excitation in Artificially Designed Oxygen Molecule Magnet ”, T. Masuda, S.
Takamizawa, K. Hirota, M. Ohba, and S. Kitagawa: J. Phys. Soc. Jpn. 77(8), 083703/1-4
(2008).
108. “Antiferromagnetic Nuclear Resonance in the Quasi-Two-Dimensional (CuBr)LaNb2 O7 ”,
M. Yoshida, N. Ogata, M. Takigawa, T. Kitano, H. Kageyama, Y. Ajiro, and K. Yoshimura:
J. Phys. Soc. Jpn. 77(10), 104705/1-7 (2008).
109. “NMR Evidence for the Persistence of Spin-Superlattice above the 1/8 Magnetization Plateau
in SrCu2 (BO3 )2 ”, M. Takigawa, S. Matsubara, M. Horvatic, C. Berthier, H. Kageyama, and
Y. Ueda, Phys. Rev. Lett. 101(3), 037202-1-4 (2008).
110. “Sharp Peaks in the Momentum Distribution of Bosons in Optical Lattices in the Normal
State ”, Y. Kato, Q. Zhou, N. Kawashima, N. Trivedi: Nature Physics 4(August), 617-621
(2008).
111. “Frustration-Induced Valence Bond Crystal and Its Melting in Mo3 Sb7 ”, T. Koyama, H.
Yamashita, Y. Takahashi, T. Kohara, I. Watanabe, Y. Tabata, and H. Nakamura: Phys.
Rev. Lett. 101;(12), 126404/1-4 (2007).
112. “Unique phase transition on spin-2 triangular lattice of Ag2 MnO2 ”, H. Yoshida, S. Ahlert,
M. Jansen, Y. Okamoto, J. Yamaura and Z. Hiroi: J. Phys. Soc. Jpn. 77;(7), 074719 (2008).
113. “Generalized density-of-states and anharmonicity of the low-energy phonon bands from coherent inelastic neutron scattering response in the pyrochlore osmates AOs2O6 (A = K, Rb,
Cs) ”, H. Mutka, M. M. Koza, M. R. Johnson, Z. Hiroi, J. Yamaura, and Y. Nagao, Phys.
Rev. B 78;(10), 104307 (2008).
114. “Dislocations and vortices in pair density wave superconductors ”, D. Agterberg and H.Tsunetsugu:
Nature Physics 4;, 639-642 (2008).
115. “Non-thermal Evidence for Current-Induced Melting of Charge Order ”, M.Watanabe, K.Yamamoto,
T.Ito, Y.Nakashima, M.Tanabe, N.Hanasaki, N.Ikeda, Y.Nogami, H.Ohsumi, H.Toyokawa,
Y.Noda, I.Terasaki, F.Sawano, T.Suko, H.Mori, and T.Mori: J. Phys. Soc. Jpn. 77;(6),
065004/1-2 (2008).
116. “Field-Induced Discommensuration in Charge Density Waves in o-TaS3 ”, K.Inagaki, M.Tsubota,
K.Higashiyama, K.Ichimura, S.Tanda, K.Yamamoto, N.Hanasaki, N.Ikeda, Y.Nogami, T.Ito,
and H.Toyokawa: J. Phys. Soc. Jpn. 77;(9), 093708/1-4 (2008).
117. “Magnetic dispersion of the diagonal incommensurate phase in lightly- doped La2−x Srx CuO4
”, M. Matsuda, M. Fujita, S. Wakimoto, J. A. Fernandez-Baca, J. M. Tranquada and K.
Yamada: Phys. Rev. Lett. 101(19), 197001/1-4 (2008).
118. “Band Jahn-Teller Instability and Formation of Valence Bond Solid in a Mixed-Valent Spinel
Oxide LiRh2 O4 ”, Y. Okamoto, S. Niitaka, M. Uchida, T. Waki, M. Takigawa, Y. Nakatsu,
A. Sekiyama, S. Suga, R. Arita, and H. Takagi: Phys. Rev. Lett. 101(8), 086404/1-4 (2008).
119. “A Perovskite Containing Quadrivalent Iron as a Charge-Disproportionated Ferrimagnet ”,
I. Yamada, K. Takata, N. Hayashi, S. Shinohara, M. Azuma, S. Mori, S. Muranaka, Y.
Shimakawa, and M. Takano: Angew. Chem. Int. Ed. 47(37), 7032-7035 (2008).
120. “Magnetic Ground-State of Perovskite PbVO3 with Large Tetragonal Distortion ”, K. Oka,
I. Yamada, M. Azuma, S Takeshita, K. H. Satoh, A. Koda, R. Kadono, M. Takano and Y.
Shimakawa: Inorg. Chem. 47(16), 7355-7359 (2008).
121. “Rhombohedral-Tetragonal Phase Boundary with High Curie Temperature in (1-x)BiCoO3 xBiFeO3 Solid Solution ”, M Azuma, S. Niitaka, N. Hayashi, K. Oka, M. Takano, H. Funakubo and Y. Shimakawa: Jpn. J. Appl. Phys. 47(9), 7579-7581 (2008).
122. “Degeneracy and consistency condition for Berry phases: Gap closing under a local gauge
twist ”, T. Hirano, H. Katsurai,Y. Hatsugai, Phys. Rev. B78 (5), 054431 (2008).
123. “Cyclotron radiation and emission in graphene ”, T. Morimoto, H. Aoki Y. Hatsugai, Phys.
Rev. B78 (7), 073406 (2008).
124. “Low-lying excitations of the three-leg spin tube: A density-matrix renormalization group
study ”, S.Nishimoto and M. Arikawa, Phys. Rev. B. 78 (5), 054421 (2008).
125. “Frustration Induced Quantum Phases in Mixed Spin Chain with Frustrated Side Chains, ”,
K. Hida and K. Takano: Phys. Rev. B 78 (6), 064407 (2008).
126. “Spin-driven ferroelectricity in triangular lattice antiferromagnets ACrO2 (A=Cu, Ag, Li, or
Na) ”, S. Seki, Y.Onose and Y.Tokura: Phys. Rev. Lett. 101(6), 067204/1-4 (2008).
127. “Charge dynamics in thermally and doping induced insulator-metal transitions of (Ti1−x Vx )2 O3
”, M. Uchida, J. Fujioka, Y. Onose and Y.Tokura: Phys. Rev. Lett. 101(6), 066406/1-4
(2007).
128. “Magneto-volume effect of Mn3Cu1-xGexN related to magnetic structure ”, S. Iikubo, K.
Kodama, K. Takenaka, H. Takagi and S. Shamoto: Phys. Rev. B 77, 020409(R) (2008) .
129. “Electronic Structure of Superconducting and Non-superconducting Pr2Ba4Cu7O15-δ Revealed by Photoemission Spectroscopy ”, Y. Wakisaka, K. Takubo, T. Sudayama, J.-Y. Son,
T. Mizokawa, M. Arita, H. Namatame, M. Taniguchi, S. Sekiya, K. Fukuda, F. Ishikawa, and
Yuh Yamada: J. Phys. Soc. Jpn. 77 074710/1-5 (2008) .
130. “Second Harmonic Generation from Multiferroic MnWO4 ”, A. Nogami, T. Suzuki and T.
Katsufuji: J. Phys. Soc. Jpn. 77(11), 115001/1-2 (2008).
131. “Quantum dynamics of multiferroic helimagnets: a Schwinger-boson approach ”, H. Katsura,
S. Onoda, J. H. Han, and N. Nagaosa: Phys. Rev. Lett. 101(18), 187207/1-4 (2008).
132. “Namatic and chiral order for planar spins on a triangular lattice ”, J.-H. Park, S. Onoda,
N. Nagaosa, and J. H. Han: Phys. Rev. Lett. 101(16), 167202/1-4 (2008).
133. “Vector chiral and multipolar orders in the spin-1/2 frustrated ferromagnetic chain in magnetic field ”, T. Hikihara, L. Kecke, T. Momoi, and A. Furusaki: Phys. Rev. B 78(14),
144404/1-19 (2008).
134. “Low-magnetic-field control of electric polarization vector in a helimagnet ”, S. Ishiwata, Y.
Taguchi, H. Murakawa, Y. Onose, and Y. Tokura: Science 319 (5870), 1643-1646 (2008).
お知らせ
◇ 第3回トピカルミーティング「フラストレーションとスピン液体」
主催:特定領域研究「フラストレーションが創る新しい物性」
日時:2008 年 12 月 22 日(月)−23 日(火)
場所:神戸大学百年記念館
コンビーナ:太田仁(神戸大学分子フォトサイエンス研究センター)
前川覚(京都大学人間・環境学研究科)
福山寛(東京大学理学研究科)
川村光(大阪大学理学研究科)
懇親会:12 月 22 日夕刻
連絡先:太田仁([email protected])
※「スーパークリーン」特定領域との合同セッションがあります。
◇ 「平成 20 年度成果報告会」
主催:特定領域研究「フラストレーションが創る新しい物性」
日時:2009 年 1 月 7 日(水)—9 日(金)
場所:東京大学物性研究所本館 6 階
大講義室(A632)
世話人:常次宏一(東京大学物性研究所)
廣井 善二(東京大学物性研究所)
中辻 知(東京大学物性研究所)
川島 直輝(東京大学物性研究所)
懇親会:1 月 8 日夕刻
連絡先:常次宏一([email protected])
※領域外からの参加・発表も受け付けます。
◇ European-Japanese Joint Conference on Furstration in Condensed Matter
共催:特定領域研究「フラストレーションが創る新しい物性」
ヨーロッパ ESF フラストレーション・ネットワーク
日時:2009 年 5 月 12 日—15 日
場所:Ecole Normale Lyon (ENL), amphitheatre
組織委員長:Peter Holdsworth(ENL),川村光(大阪大学理学研究科)
組織委員:P. Mendelse (Orsay), R. Moessner (Dresden), B. Canals (Greneble),
加倉井和久(日本原子力研究開発機構)
高木英典(理化学研究所・東京大学新領域創成科学研究科)
Peter Holdsworth (ENL),
川村光(大阪大学理学研究科)
※参加・発表申し込みは、WEB上から1月頃の受付開始を予定。詳細が決まり次第、
メールやHPでお知らせいたします。
なお、参加費用は、来年度の特定の分配金より各自支出願います。
会議は5月ですので、その際には事前使用の申請を前もって行っておく必要があるかと
思います。参加を予定されている方には、ご注意ください。
◇ 班員の皆様が受賞等を受けられた場合には、領域ホームページ上で掲載させていただ
いております。
受賞の折には、関連情報を領域代表(kawamura @ ess.sci.osaka-u.ac.jp)と、
ホームページ担当(廣田先生:hirota @ ess.sci.osaka-u.ac.jp、松浦さん:mmatsuura
@ ess.sci.osaka-u.ac.jp) まで、メールでお寄せください。
「経済学部に入学する要件に数学IIIを入れるべき
だ」と言われ始めたのはいつ頃でしょうか。経済学
の専門家以外でもそういう認識を持ったのは、金融
工学の成果に対するノーベル経済学賞の授与あたり
からのように思います。10年以上の時を経った現在、
金融工学が欺瞞に満ちているのではないかという論
調の報道を盛んに目にするようになりました。
金融工学の方程式解自体は数学として全く間違いありません。では、なぜ
「間違う」のか。うがった見方をすれば、物理の教育をきちんと受けていれ
ばこのような過ちに巻き込まれなかったという気がします。物性物理の分野
では、局所的に成り立つ近似的な偏微分方程式の適用限界が常に議論されま
す。一方、金融工学では小難しい微分方程式の厳密解を鵜呑みにしているよ
うに思えて仕方ありません。
金融問題に限らず環境問題などの問題への対処についても、局所近似とし
ての微分方程式の無制限な適用ははなはだ怪しいものです。社会が物性学に
期待する成果としては、超伝導体、熱電材料、電池材料等々の新規材料がす
ぐに頭に浮かびます。しかし、フラストレーション研究の思想が広く社会科
学に役立つ可能性があるのではないのでしょうか。相転移とか臨界現象とか
カオス現象とか、類似点は数多あるように思います。
などとふざけたことを考えるのはここらでやめにして、本業に戻るとしま
す。
有馬孝尚
特定領域研究「フラストレーションが創る新しい物性」
ニュースレター Vol.4
2008年12月発行
発行者
編集担当
編集協力
川村 光(大阪大学
有馬孝尚(東北大学
陰山 洋(京都大学
宮嵜史枝(大阪大学
大学院理学研究科)
多元物質科学研究所)
大学院理学研究科)
大学院理学研究科)