発表資料

1950年代イギリスにおける対外経済政
策
-「ワン・ワールド」の観点から
第12回EUSI共同研究[経済]セミナー
2011年5月24日
工藤芽衣
津 塾大学 際 係 究所 研究員
津田塾大学国際関係研究所
究員
1
はじめに
戦後イギリスにおける「ワン・ワールド」理念
戦後
ギ
お る「
ド
念
・・・自由無差別多角主義を目指す政策理念
自由無差別多角主義を目指す政策理念
→1950年代「オペレーション・ロボット」「コレク
テ ヴ アプロ チ
ティヴ・アプローチ」
↓
(1)ポンド交換性回復
(2)イギリスとヨーロッパ統合
イギ
と
パ統合
2
1947年為替管理法と
ポンドの交換性回復
アメリカ・カナダ
勘定
振替可能勘定
指定勘定地域(スターリング圏)
双務勘定
戦後イギリスにおけるポンドの交換性回復:非居住者ポンドに関する
勘定地域の統合
3
国際通貨ポンドー公的準備
70
単
単位:10億
億ドル
60
50
40
金
30
ドル
ポンド
20
10
0
1938
1948
1958
年
1968
1973
4
国際通貨ポンドー貿易媒介通貨
貿易総額
(100万ポンド)
ポンドで決済される額(割
合)
スターリング地域内
貿易
3,940
3,550(90.1)
スターリング地域・非
スターリング地域間
貿易
15 400
15,400
9 240(60 0)
9,240(60.0)
非スタ リング地域
非スターリング地域
貿易
48 350
48,350
2 420 (5.0)
2,420
(5 0)
合計
67,690
15,210 (22.5)
5
国際通貨ポンド―為替媒介通貨
国際通貨ポンド 為替媒介通貨
日本の外国為替市場における銀行間取引出来高(100万ドル)
ドル
直物
ドル
先物
ポンド
直物
ポンド
先物
1962
913
783
179
20
1963
1,310
1,082
210
25
1964
1,937
1,522
260
59
1965
2,163
1,844
247
39
1970
4,850
4,245
77
4
6
ポンド残高と外貨準備
• ポンド残高
1947年(£)
1948年(£)
No.2(封鎖勘定)
18億6000万
13億5000万
No.1(解除勘定)
17億1300万
19億9400万
合計
37億599万
33億44pp万
• 金
金・外貨準備
外貨準備
1948年
1949年
1950年(£)
4億5700万
6億300万
11億7800万
7
ポンド残高地域別保有高
(1951年12月31日、£million)
EPU 中東 極東 ラテ ス
他
諸国
ンア ター
タ
メリ リン
カ
グ圏
326
310
120
57
1 701 53
1,701
合計
2567
8
戦後イギリスと国際収支危機
1939年 ポンド交換性停止
1944年ブレトンウッズ条約調印
1947年交換性回復失敗→同年為替管理法
1949年~50年 ポンド切り下げ、切上論
変動相場の主張:アメリカ経済の影響回避 BP均衡
変動相場の主張:アメリカ経済の影響回避、BP均衡
回復、IMFに対する不信
変動相場 の反対:変動相場 の移行は 政策」
変動相場への反対:変動相場への移行は「政策」
ではなく、「経済的災害」、スターリング圏崩壊、労働党
政権の経済管理に反する
• 1945~1952年労働党政権下では、交換性回復、変動
1945 1952年労働党政権下では 交換性回復 変動
相場は非現実的。経済管理による危機対応
•
•
•
•
9
新しいアプローチの模索
• 1951年後半
1951年後半~国際収支悪化
国際収支悪化
1951年金ドル準備状況
Q1:$371m Q2:$61m Q3: $635m Q4: $937m
Q1:$371m, Q2:$61m, Q3: ‐$635m, Q4: ‐$937m
• 保守党政権の対応:OEEC諸国に対する輸入数量制限
の再発動、銀行レ ト引上げ
の再発動、銀行レート引上げ
• しかし、52年1月英連邦蔵相会議において、オースト
ラリア代表か ら、既存の方法では不十分であり、ポ
ンドの強さを取り戻すためには、より積極的手段が必
ド 強さを り すため
り積極的手段が必
要であると迫られていた
• 大蔵省対外金融部門部長ローアン、政務次官クラー
大蔵省対外金融部門部長ロ アン 政務次官クラ
ク、イングランド銀行専務理事ボルトンらが新しいアプ
ローチを模索
10
変動相場制の提案
目的
的
①外貨準備喪失 よる為替
①外貨準備喪失による為替レートへの圧力解消
ト の圧力解消
②イギリス経済の構造改革
問題点
ポンド相場下落に歯止めをかける必要から、結
局は一定の外貨準備を確保する必要性は変わ
な 。
らない。
11
切り下げの排除
• 対外目標(国際通貨ポ
対外目標(国際通貨ポンド、スターリング圏維
ド
タ
グ圏維
持、1ポンド2.80ドルの現行レート)を犠牲にす
ることはできない。また、対外目標実現のた
めには、国内経済構造を変える必要がある。
• 切り下げの効果は一時的。最後の切り下げ
から30か月後の切り下げは ポンド保有者を
から30か月後の切り下げは、ポンド保有者を
不安にさせる。
12
ポンド強化策
• 基本的課題は、ポンドを国内においても国際
的にも強化すること
• 解決すべき問題:ポンド残高、非交換性、
レ ト維持への疑い
レート維持への疑い
• 提案:ポンド残高の凍結、変動相場の採用
(ただし、現行変動幅の大幅な変動)
13
「オペレーション・ロボット」
• 19
1952年2月22日蔵相の内閣覚書「対外行動」で発表
2年2月22日蔵相の内閣覚書「対外行動 で発表
(i)為替レートの変動
(ii)アメリカ・カナダ勘定以外の非居住者ポンド残高を
カ カ ダ勘定 外 非居住者ポ ド残高を
凍結する。そのうちの10%は「海外ポンド(overseas sterling)」とし 「海外ポンド」と後に獲得するポンドは
sterling)」とし、「海外ポンド」と後に獲得するポンドは、
金あるいは他通貨と交換可能となる。
(iii)スターリング圏の既存の構造は維持される イギ
(iii)スターリング圏の既存の構造は維持される。イギ
リスと他のスターリング圏諸国は為替管理を維持し、
許可を得た市民は市場で外貨を得る とができる。
許可を得た市民は市場で外貨を得ることができる。
(iv)スターリング圏諸国の中央銀行が保有するポンド
残高の80%以上は借り換える
14
交換性と自由市場ポンド
• 変動相場制の成り行きとしての交換性(OF)
変動相場への移行によって外貨準備問題が解消
されるならば、交換性停 を継続する理由 なく
されるならば、交換性停止を継続する理由がなく
なる。
• チープ・スターリングの解消(BOE)
*BOEを介さない、自由市場での振替可能ポンド取引
BOEを介さない 自由市場での振替可能ポンド取引
交換性回復(非居住者ポンドの一本化)によって、
裁定取引を解消する。
• 為替管理が時代に合わなくなってきている(BOE)
15
Free Rates for Sterling Abroad
Free Rates for Sterling Abroad
US do
ollars per pound ste
erling
2.9
2.8
27
2.7
2.6
Official Selling Rate
25
2.5
2.4
US Transferable Account
2.3
2.2
2.1
1949 June Sept Dec Feb Apr June Sept Nov 1950 1950 1950 1951 1951 1951 1951 1951
16
「ロボット」の問題点
内閣経済局、主計長官、外相等が指摘
内閣経済局
主計長官 外相等が指摘
• 国内経済:輸入価格の上昇による生活費上昇、
失業増大。
増
• ヨーロッパへの影響
EPUの崩壊、OEEC貿易自由化計画の挫折、経
済政策の再検討と軍事計画の崩壊
• スターリング圏ポンド残高凍結:スターリング圏
諸国の離脱
• アメリカの反対、IMFの義務違反
17
閣議の結論
• 首相チャ
首相チャーチルの結論:「内閣では明らかに意見が割
チルの結論 「内閣では明らかに意見が割
れている」「計画を実行することの利益が、明らかな不
利益や危険を上回ると確信できない」
利
危険を 回る 確信
な 」 →内閣は蔵相
閣 蔵相
案を支持しない
• 内閣の結論
できるだけ早く物質管理を終わらせ 自由経済 復帰
できるだけ早く物質管理を終わらせ、自由経済へ復帰
する意思を確認。ロボットを現段階では行えないが、
のちに状況が悪化した場合には行う。政策の最優先
事項は国際収支で、そのために軍事支出、輸入削減
はやむを得ない。
• 3月予算案:緊縮財政、銀行レートの4%への引き上
3月予算案 緊縮財政 銀行レ トの4% の引き上
げ、輸入削減
18
「二つの世界」によるアプローチ
• 国際収支問題への異なるアプローチ
際収支
なる プ
スタ リング同盟
スターリング同盟
大西洋決済同盟
• クラークの反論:ドル不足はイギリスや非ドル
世界の競争力欠如に由来する。
世界の競争力欠如に由来する。「二つの世
つの世
界」では、ドル問題は悪化するだけ
⇒1 2対立の根本は 国際収支問題の原因
⇒1or2対立の根本は、国際収支問題の原因
を、競争力不足とするか、ドル不足とするか
19
「コレクティヴ・アプローチ」へ
• 英、米、加、仏、独、
英、米、加、仏、独、ベネルクスで中核国グループを形成。そ
ネルク
中核国グル
を形成。そ
れら諸国のうち、交換性を回復していない諸国は、できるだ
け同じタイミングで交換性を回復する。
• 変動相場制をとるか、固定相場制をとるかは各国の自由で
あるが、イギリスは変動相場制を採用する。
• 継続的債権国を除く、中核グループを構成する国に対する
続 債権
グ
プ 構成
貿易差別を撤廃する。ただしこれは数量制限の撤廃を対象
としたものであって 関税 帝国特恵関税の維持は可能とす
としたものであって、関税、帝国特恵関税の維持は可能とす
る。
• アメリカの出資による為替支持基金(Exchange Support アメリカの出資による為替支持基金(Exchange Support
Fund)を設立する。
20
内閣における議論
• 外務省
外務省、商務省からの支持
商務省から 支持
一国ではなく、数カ国でのアプローチ
→ヨーロッパ諸国からの批判を回避
輸入制限の 斉撤廃
輸入制限の一斉撤廃
→対UK貿易差別の問題を回避
• 問題点
・ヨーロッパ諸国が数量制限撤廃に合意するか
・イギリスの国際収支が改善するか
アメリカが基金設立に合意するか
・アメリカが基金設立に合意するか
21
ワシントン会談(1953年3月)
• アメリカ政府との模索的会談
事前の覚書”Epistle to the Americans”
(a) 交換性は目的ではなく世界貿易拡大のため
(a) 交換性は目的ではなく世界貿易拡大のため
(b) 西ヨーロッパ防衛にも役立つ、
( )援
(c) 援助よりも、より積極的手段で世界経済不均衡是正
積
• 1953年3月ワシントン会談
①財政援助:無理
②変
②変動相場:交渉では反対せず
渉
ず
③交換性回復:目的は重要。EPUと欧州防衛崩壊に警戒
*大きな反対もないが 積極的支持もなし
*大きな反対もないが、積極的支持もなし
22
ポンド交換性とヨーロッパ
ヨーロッパ諸国からの支持を期待していたが、
パ諸 から 支持を期待
たが
• ベルギー
ルギ
中央銀行から支持の声
政府は警戒 二国間主義 EPU重視 欧州統合
政府は警戒:二国間主義、EPU重視、欧州統合
• フランス
仏銀総裁と頻繁に会談
政府は警戒:競争力のないフランス産業に不
政府は警戒
競争力のないフランス産業に不
利、EPU喪失
23
交換性への技術的アプローチ
• 為替レ
為替レート政策の様相を変えることが必要(1953
ト政策の様相を変えることが必要(1953
年11月、BOE総裁コボルド→蔵相バトラー)
①政策と目標の 般的宣言 英連邦 ヨ ロッ
①政策と目標の一般的宣言:英連邦、ヨーロッ
パ、アメリカから幅広い支持を得ている
②為替レートに対する提案:行き詰まり
→技術的アプローチによって、交換性を進めてい
く可能性を探ることに。
く可能性を探ることに
1954年振替可能勘定と双務勘定の統合
1955年 事実上の交換性回復(為替平衡勘定に
よる、非公式の振替可能ポンド支持)
24
おわりに
• 1950年代におけるポンド交換性回復問題は、
年
お るポ ド交換性 復
イギリ
イギリスとスターリング圏だけの問題に留まら
タ リング圏 け 問題 留まら
ず、ブレトンウッズ体制の問題点、ヨーロッパ
経済統合の将来にかかわる問題を提起した
• 1950年代イギリスは、ECSCやEECへ加盟しな
か たが ポ ド交換性回復は
かったが、ポンド交換性回復は、EPUやOEEC
や
に対する影響を通じて、ヨーロッパ経済統合
を挫折させる可能性があった
25
史料出展
為替管理法とスターリング圏
為替管理法とスタ
リング圏
Bank for International Settlemnet, Annural Report 1951, p.140より作成
• 国際通貨ポンド―公的準備
金井雄一「ポンドの衰退とイギリス国民経済の選択」
金井雄
「ポンドの衰退とイギリス国民経済の選択」、秋元英
秋元英一『グローバリゼー
『グローバリゼー
ションと国民経済の選択』東京大学出版会、2001年、85頁。
•
国際通貨ポンドー貿易媒介通貨
金井雄一、同上、86頁。
国際通貨ポンド―為替媒介通貨
金井雄一、同上。
• 金外貨準備
NARRA, EG469, NND887841, convertibility of sterling
• ポンド残高地域別保有高
National Archives, UK, T236/3240, External Action
• Free Rates for Sterling Abroad
IMF, International Financial Statistics, 1951.
•
26