参考文献解題 スペイン内戦に関する文献は、論争、学術論文、回想録を含めて驚異 的な数に達している。1968年の正確な計算によれば、当時15,000の書籍 とパンフレットがあった。その後の38年間に数字は着実に増え続けて いる。実際、フランコの死後は、絶え間ない氾濫現象が起きている。数 千の新しい本の中には無価値なものも相当数ある一方、政治的、歴史的、 文学的重要性をもつものも多い。当然、文献の数がもっとも多いのはス ペイン語であり、それに次ぐのがカタルニャ語である。また多くの重要 な本が、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語、その他ほ とんどのヨーロッパ語で著わされている。とはいえ、英語圏の読者は絶 望する必要はない。最良の著作の一部はイギリスとアメリカで生まれて いるし、多くの重要な外国語文献が英訳されている。ただし、重要な業 績が英語以外の言語でしか読めないままになっていることも事実である。 以下の叙述は、スペイン内戦に関する国際的文献の包括的概説を意図す るものではなく、英語文献へのガイドとして役立つことを願って提示す るものである。今日ペーパーバック版で入手できるものには、* 印を付 けた。地名が記されていないのは、すべてロンドンで出版されたもので ある。 フランコ独裁は、みずからがそこから出生した流血の惨事についての 客観的研究を禁止した。まさにそれゆえに、スペイン語の文献は党派的 解釈に著しく偏っていた。スペイン語以外の読者にとって最大の損失は、 内戦参加者による多くの回想録に接しえないことだが、幸いにも、そ れらの内容の多くは、イギリス・アメリカの学者の仕事の中に反映され ている。独裁者の死、その結果としての大学の自由化、公文書の公開に よって、スペインの内戦史研究には革命が起きている。しかし、この30 年間の内戦研究で中心的な動きが見られたのは、主として地域的研究の 分野であり、それに次ぐのが内戦の国際的次元に関わる分野だった。共 和国支配地域における集産化と革命について、ナショナリスト支配地域 における弾圧について、各県ごとの詳細な事実が大量に発掘されてきて いる。その成果の多くはきわめて徐々にではあるが英語文献の中に浸透 しつつある。また、内戦の国際的文脈の認識をめぐる重要な変化に対す 1/27 るスペイン人学者の研究は、直接英語で発表されるか、あるいは英語で 発表される諸論考に影響を与えるかしている。 内戦を長期の歴史的文脈の中に置いて考察するスペイン関係の一般書 は多いが、その中で 2人のイギリス人によるものが傑出している。Gerald Brenan の The Spanish Labyrinth(*Cambridge: Cambridge University Press, I943)[G・ブレナン『スペインの迷路』鈴木隆訳、合同出版]は、と くに農業問題のすべての局面について共感的姿勢が貫かれている点で 比類がない。左派の分裂と地域民族主義についての分析は、著者の鋭い 内省と直接体験とが結び合って生まれたものだ。Personal Record 19201972(Jonathan Cape, 1974)は、ブルームズベリー・グループ知識人で ある Brenan が両大戦戦間期に南部スペインで過ごした経験を素晴らし い透明感ある散文で綴った回想録である。また Raymond Carr の記念碑 的 な Spain 1808-1975(*Oxford: Clarendon Press, 1982)は、ス ペ イ ン の 中産階級が自国の近代化に失敗したいきさつを描き出し、この失敗の 中に内戦の遠因を見いだしている。生涯にわたる読書と、現代スペイン 文学の知識と各地への旅行が基礎となって生まれた作品である。さらに 参考にすべきは、Salvador de Madariaga の Spain: A Modern History(Jonathan Cape, 1972)である。1930年初版発行、スペイン内戦後にかなり書 き直されて1942年に再刊された。Madariaga は多産な著作家で、オック スフォードの教授であり、スペイン共和国の政治の中心人物の1人でも あった。駐米・駐仏大使、国際連盟のスペイン代表を務めたほか、短 期間、教育大臣、法務大臣でもあった。本書は文学的華麗さに満ちて いると同時に、左派からの攻撃にさらされた彼の悲哀感も反映してい る。Madariaga と彼に対する左派からの批判と、内戦中の彼の和平努力 に つ い て は、Paul Preston, Salvador de Madariaga and the Quest for Liberty in Spain(Oxford: Clarendon Press, 1987)を参照されたい。 内戦の長期的原因のさまざまな側面を解明する若干の重要な論文があ る。特別に激動的な時期における政治的激変のほとんどには宗教的背景 があり、そこでは教会ヒエラルヒーが決定的な常に反動的な役割を果た し て い る も の だ が、Frances Lannon, Privilege, Persecution, and Prophecy: The Catholic Church in Spain(Oxford: Clarendon Press, 1987)は、な ぜ カ トリック教会がスペイン共和国に反対しフランコを支持したのか、その 理由についての多くの鋭く微妙な洞察が示されている。William J. Calla2/27 han, The Catholic Church in Spain 1875-1998(Washington, DC: The Catholic University of American Press, 2000)も、非常に価値のある優れた研究で ある。Colin M. Winston, Workers and the Right in Spain 1900-1936(Princeton, NJ, Princeton University Press, 1985)は、カタルニャでのカトリック 労働組合、およびそれら労働組合と、より公然たるファシズム集団との 繋がりについての有益な研究である。 Stanley G. Payne, Politics and the Military in Modern Spain(Stanford, Calif.: Stanford University Press, 1967)は、スペイン陸軍が国内政治に積 極的に介入しようとした、そのさまざまな理由について述べている。軍 部の態度の「知的」基礎については、Geoffrey Jensen, Irrational Triumph. Cultural Despair, Military Nationalism and the Intellectual Origins of Franco’s Spain(Reno and Las Vegas, Nev.: University of Nevada Press, 2002)を も 参 照されたい。スペイン・モロッコ軍が内戦中に示した残酷さの源泉につ い て は、David S. Woolman, Rebels in the Rif: Abd el Krim and the Rif Revellion(Stanford, Calif.: Stanford University Press, 1969)が説明している。帝 国主義的冒険の長期にわたる結果に焦点を当てているのは、Sebastian Balfour, Deadly Embrace: Morocco and the Road to the Spanish Civil War(Oxford: Oxford University Press, 2002)だ。植民地的メンタリティがスペイ ン本国に輸入される状況についての、洞察に富んだ、周到で思慮深い論 考である。帝国喪失の長期にわたる政治的、社会的、経済的反響を洗練 された文体で解明しているのが、Sebastian Balfour, The End of the Spanish Empire 1898-1923(Oxford: Clarendon Press, 1997)だ。この本は、帝国喪 失の結果のトラウマが、右派勢力を、すべての悪に対する回答は独裁で あるという思想に導いたことを示している。Francisco J. Romero Salvadó, Spain 1914-1918: Between War and Revolution(Routledge/Cañada Blanch Studies, 1999)は、スペインが内戦を避ける機会を逸した時期を描いた 秀逸な論文である。 左派勢力分裂の長期的背景はいくつかの本で調べられる。Murray Bookchin, The Spanish Anarchists: The Heroic Years, 1868-1936(New York: Free Life Editions, 1977)はスペイン・アナキズムの理想主義への心暖か いトリビュートだが、党派的叙述と事実の誤りによって価値を損なって いる。党派的ではないがあまりにも不正確なので参照する際に注意すべ きは、Robert W. Kern, Red Years, Black Years: A Political History of Spanish 3/27 Anarchism 1911-1937(Philadelphia. Pa.: Institute for the Study of Human Issues, 1978)である。近年発表されたきわめて上質で洗練された分析は、 Chris Ealham, Class, Culture and Conflict in Barcelona 1898-1937(Routledge/ Cañada Blanch Studies, 2004)だ。著者は、アナキズムの過激主義の真の 原因を、失業や高い地代、食料価格の高騰など日常的問題との関係で解 き明かす。共和国成立時のバロセロナでの民衆の歓喜を生き生きと描き、 南部の出稼ぎ労働者をエスケラ[カタルニャ左翼共和党]がムルシアやア ンダルシアへ強制的に帰そうとすることへの民衆の抵抗を暗い筆致で叙 述する。厳しい状況の中で生きるリアルな民衆像が提示されている。 バルセロナの労働者階級の諸相についての優れた論文集として、Angel Smith, ed., Red Barcelona: Social Protest and Labour Mobilization in the Twentieth Century(Routledge/Cañada Blanch Studies, 2002)が あ る。ま た、 Benjamin Martin, The Agony of Modernization: Labor and Industrialization in Spain(Ithaca, NY: Cornell University Press, 1990)は、さまざまな党派的 傾向を持つ左翼労働者階級全般を対象とし、産業化初期から1939年に至 るスペイン労働運動を包括的に研究した秀作である。これを上回るほど に有益なのは、社会主義運動内部の抗争対立を鮮やかに描写した Paul Heywood, Marxism and the Failure of Organized Socialism in Spain 1879-1936 (Cambridge: Cambridge University Press, 1990)だ。 第二共和国の崩壊についての基本的な論考は相当数ある。Stanley G. Payne, Spain s First Democracy: The Second Republic. 1931-1936(Madison, Wis.: Wisconsin University Press, 1993)は冷静で保守的な概観だ。他の著 者たちは、共和国の政治的分極化を、内在する社会的緊張との関連にお いてとらえている。Paul Preston, The Coming of Spanish Civil War(2nd fully revised edition, *Routledge, 1994)は、土地を持たない労働者と地主と の闘争、鉱山労働者と鉱山所有者との闘争が国内政治に伝播し、社会党 と CEDA との間の国家権力装置の支配をめぐる戦いに転化していく状 況 を 分 析 す る。Edward Malefakis, Agrarian Reform and Peasant Revolution in Spain(New Haven, Conn: Yale University Press, 1970)は、農 業 問 題 と 農地改革の失敗とによって生まれた社会的 藤の激烈さを説明している。 Adrian Shubert, The Road to Revolution in Spain: The Coal Miners of Asturias 1860-1934(Urbana and Chicago, Ill.: Illinois University Press, 1987)は、ア ストゥリアス炭鉱労働者の生活と政治を見事に再現している。Richard 4/27 A.H. Robinson, The Origins of Franco’s Spain: The Right, Republic and Revolution, 1931-1936(Newton Abbot: David & Charles, 1970)は、共和国の政 治的分極化についての一解釈。社会党にきわめて批判的で CEDA に同 情的である。CEDA の選挙での成功を理解するのにきわめて重要なもの と し て、Mary Vincent, Catholicism in the Second Spanish Republic. Religion and Politics in Salamanca 1930-1936(Oxford: Clarendon Press, 1996)が あ る。鋭くてエレガントな文体で、いかに第二共和国の非妥協的世俗主 義が右派勢力に利用されたかを感情をこめて叙述している。アレハン ドロ・レルーと急進党の決定的役割について思慮深く考察したものに、 Nigel Townson, The Crisis of Democracy in Spain. Centrist Politics under the Second Republic 1931-1939(Brighton: Sussex Academic Press, 2000)がある。 共和国時代と内戦期における極右勢力の役割を研究したものとして は、Martin Blinkhorn, Carlism and Crisis in Spain 1931-1939(Cambridge: Cambridge University Press, 1975)がある。洗練された流麗な文章で書か れたカルロス党運動(他のすべての右翼政党はそのイデオロギーの多 くをこの運動から引き出している)についての論考だ。カルロス党の 同盟者でありライバルであるアルフォンソ十三世信奉者集団について は、Paul Preston, Alfonsist Monarchism and the Coming of the Spanish Civil War , Journal of Contemporary History, VII, nos, 3-4(1972)を 参 照 さ れ た い。ファランヘ党についての権威ある著作は、Stanley G. Payne, Falange: A History of Spanish Fascism(Stanford, Calif: Stanford University Press, 1961)[S・G・ペイン『ファランヘ党』小箕俊介訳、れんが書房新社]だ。 今や、やや古くなりつつあるとはいえ、なお十分読むに値する。これよ りはるかに充実していて相当程度アップデートされているのは、Stanley G. Payne, Fascism in Spain 1923-1977(Madison, Wis.: Wisconsin University Press, 1999)だ。また Paul Preston, ¡Comrades! Portraits from the Spanish Civil War(HarperCollins, 1999)のホセ・アントニオ・プリモ・デ・リベ ラとピラル・プリモ・デ・リベラのそれぞれの章を参照されたい。ファ ランヘ党の女性組織についての研究書としては、Kathleen Richmond, Women and Spanish Fascism. The Women’s Section of the Falange 1934-1959 (Routledge/Cañada Blanch Studies, 2003)がある。 左派勢力をきわめて批判的に概観したものに、Stanley G. Payne, The Spanish Revolution(Weidenfeld & Nicolson, 1970)[S・G・ペ イ ン『ス ペ 5/27 イン革命史』山内明訳、平凡社]がある。第二共和国期と内戦期のアナキ ストについてこれまで適切な英語文献がなかったが、その欠落は、重 要なスペイン語論文の翻訳によって埋められた。すなわち、Julián Casanova, Anarchism, the Republic and Civil War in Spain 1931-1939(Routledge/ Cañada Blanch Studies, 2004)である。これは包括的なリサーチを基に辛 辣な知性によって書かれた、きわめて読みやすい、アナキズムの無秩 序性への批判である。共和主義国家へのアナキズムの敵意の社会的背 景についての重要な論文として、Chris Ealham, From the Summit to the Abyss : The Contradictions of Indivisualism and Collectivism in Spanish Anarchism , in Paul Preston and Ann Mackenzie, eds, The Republic Besieged: Civil War in Spain 1936-1939(Edinburgh: Edinburgh University Press, 1996)があ る。社会党についての論文としては、Preston, The Coming of the Spanish Civil War や Heywood, Failure of Organized Socialism(前 掲)、ま た Helen Graham, The Eclypse of the Socialist Left:1934-1937 in Frances Lannon and Paul Preston, eds, Élites and Power in Twentieth-Century Spain: Essays in Honour of Sir Raymond Carr(Oxford: Clarendon Press, 1990)など、多くがある。 人民戦線についても相当数の文献が生まれている。Michael Seidman, Workers against Work: Labor in Paris and Barcelona during the Popular Fronts (Berkley, Calif.: University of California Press, 1991)[M・サイドマン『労働 に反抗する労働者――人民戦線期のパリとバルセロナにおける労働』向井喜 典・岩村等ほか訳、大阪経済法科大学出版部]および、Martin Alexander and Helen Graham, eds, The French and Spanish Popular Fronts: Comparative Perspectives(Cambridge: Cambridge University Press, 1989)と Helen Graham and Paul Preston, eds, the Popular Front in Europe(Macmillan, 1987)の 双 方に収載された諸論文を参照されたい。出版後60年を経てなお閲読に値 す る の は、Antonio Ramos Oliveira, Politics, Economics and Men of Modern Spain 1808-1946(Gollancz, 1946)だ。これは内戦の原因を当時の社会党 員の視点から長い歴史スパンで分析した魅力的な書物である。 第二共和国の政治の全面的叙述とスペイン内戦の概観とを結びつけ た 数 点 の 書 物 が あ る。Gabriel Jackson, The Spanish Republic and the Civil War(*Princeton, NJ: Princeton University Press, 1965)は、リ ベ ラ ル な 視 点からの優雅で人間的な記録で、マイナーな歴史古典の地位を得てい るが、残念なことに改訂されていず、この40年の研究の巨大な前進が採 6/27 り入れられていない。結果として、時代遅れであるといわざるを得ない。 より近年の論考としては2人の学者の共著、George Esenwein and Adrian Shubert, Spain at War: The Spanish Civil War in Context 1931-1939(*Harlow: Longman, 1995)がある。しかしながら本書は、より新しい傑出した著 作、Francisco J. Romero Salvadó, The Spanish Civil War: Origins, Course and Outcome(*Palgrave Macmillan, 2005)にとって代わられている。Romero Salvadó は、周到にも、内戦とその原因を、スペイン史の長期的解釈と より広いヨーロッパの文脈の双方から解明している。Sandie Holguín, Creating Spaniards: Culture and National Identity in Republican Spain(Madison, Wis.: Wisconsin University Press, 2002)は、大衆の中に共和国の国民 的アイデンティティの感覚を創造するための歴代政権の努力を主題とし たもので、農村部を巡回した演劇集団や識字運動班など文化的プロジェ クトが描かれている。 内戦そのものを概観した本も多い。Hugh Thomas The Spanish Civil War 4th edition(*Penguin, 2003)は、長 く(1115ペ ー ジ)、百 科 事 典 的 で 非 常に読みやすい[H・トマス『スペイン市民戦争』都築忠七訳、みすず書房。 原書第三版以後の改訂部分は含まれていない] 。いまなお基本文献であり、 内戦の軍事的側面、外交的側面に関してとくに優れている。Raymond Carr の 簡 潔 な 解 説 書 The Spanish Tragedy(Weidenfeld & Nicolson, 1977; reprinted as The Civil War in Spain, *1986)は全編を通して感性と洞察に れている。Ronald Fraser, Blood of Spain(* Allen Lane, 1979)は、多数 の体験者の証言をまとめたオラル・ヒストリー。さながら上質の小説を 読むようである。Antony Beevor, The Spanish Civil War(Orbis Publishing, 1982)は、よくまとまっていて、とくに軍事的側面が優れている。反共 産主義左翼に同情的な政治的立場で書かれているが、同じことは彼のさ らに大部な作品、The Battle for Spain: The Spanish Civil War(1936-1939) (Weidenfeld & Nicolson, 2006)にも言える。彼の力強く滑らかな語り口 はいまや Hugh Thomas に迫ろうとしている。内戦をエピソード中心に 描 い て い る の は、Peter Wyden, The Passionate War(New York: Simon & Schuster, 1983)だ。本書はスペインにおもむいたアメリカ人の個々の経 験に関する部分でとくに秀逸である。素晴らしい簡潔な序説としては Sheelagh Ellwood, The Spanish Civil War(*Oxford: Blackwell, 1991)がある。 さらに卓越したものとして、Helen Graham, The Spanish Civil War. A Very 7/27 Short Introduction(Oxford: Oxford University Press, 2005)があげられる。 非常にコンサイスな書物の全センテンスに思索と洞察がみなぎっている。 刺激的で啓発的な作品である。Paul Preston, ¡Comrades! Portraits from the Spanish Civil War(Harper Collins, 1999)は、極端な状況下での指導者た ちの倫理的衝突を解釈しようとするもの。奇矯なホセ・ミリャン・アス トライ将軍から共産主義者の弁舌家ドロレス・イバルリまで、さまざま な政治的立場の人物 9人の伝記を提示する。 内戦の社会史への試みとしては、Michael Seidman, Republic of Egos: A Short History of the Spanish Civil War(Madison, Wis.: Wisconsin University Press, 2002)があるが、瑕 疵 が多い。Seidman はナショナリスト地域に ついては事実上何も語らず、共和国地域についての叙述は主題への静態 的な接近方法のせいで歪められている。彼は、戦時の諸条件によって押 しつけられた変化をまったく考慮に入れようとせず、それゆえ読者は、 生活条件の悪化が共和国の民衆の認識をどのように変えたかについて何 の観念も与えられない。Helen Graham の著作が明らかにしているように、 戦時の困難、恒常的な敗北、戦場での虐殺、フランコ側の弾圧への恐怖、 大量難民による危機、大量飢餓などが、共和国大衆の希望と楽天主義を むしばんだのであるが、Seidman は不注意にも、1938年の暗鬱な態度を、 あたかもそれが1936年の民衆のムードを示すものであるかのように叙述 している。多くの写真によって内戦をグラフィックに再現した本として は、Raymond Carr の 序 文 の あ る Images of the Spanish Civil War(George Allen & Unwin, 1986)があげられる。内戦のさまざまな局面についての 最新の国際的研究を反映した論文集としては、Paul Preston, ed., Revolution and War in Spain 1931-1939(*Routledge, 1984); Martin Blinkhorn, ed., Spain in Conflict 1931-1939: Democracy and its Enemies(Sage, 1986) 、そし て Paul Preston and Ann Mackenzie, eds, The Republic Besieged: Civil War in Spain 1936-1939(Edinburgh: Edinburgh University Press, 1996)がある。 第二共和国の政治と内戦中の共和国地域の政治社会生活についての今 日における決定的文献は、確実に、Helen Graham, The Spanish Republic at War 1936-1939(Cambridge: Cambridge University Press, 2002)である。 戦前期については、政治的諸論争を周到かつ精緻に分析して、それをこ の時期の社会史への繊細な認識と結合させている。農村と都市、双方で の大量失業が国内政治に与えたインパクトが鋭い洞察をともないつつ見 8/27 事に語られる。内戦自体については、社会党諸派、共産党、アナキスト、 中産階級の共和主義リベラル派の間の関係のめまぐるしい変転を詳細に 追求し、これを、二つの関連しあう文脈において検討する。まず、非常 に重要なものとして、著者は、日常の政治を、1936年7月17∼18日の軍 事蜂起による国家機構の破壊から起きた、社会革命と混乱の双方の問題 に対応すべく共和国政府のとったさまざまな企てに関連づける。共和国 が、いくつもの戦線で戦争に直面しつつ、多くの異質な民兵集団の正規 軍化、経済の中央集権化を目指し、ゼロから戦争努力を構築していった という事実を追究して、これまでどの学者もなしえなかったほどの成果 を得ている。また著者は、前例のないほどの明晰さで、カタルニャ、バ スク、中央、の三政府それぞれの競合する管轄区域を超越した単一の戦 争経済を創造するプロセスを説明する。さらに、きわめて敵対的な国際 的文脈の中で意思決定をせねばならなかった事実が共和国指導者たちに 与えたインパクトを鋭く思慮深く解説し、これと、前述の諸党派間の変 転する関係を関連づけて考察する。 参照するに値する数冊の回想録がある。アメリカ大使 Claude Bowers の My Mission to Spain(Gollancz, 1954)は、共 和 国 に き わ め て 同 情 的だ。Bowers はハイレベルの政治・外交情報を知りうる立場から熱情 をこめて書いている。イギリスのジャーナリスト Henry Buckley の Life and Death of the Spanish Republic(Hamish Hamilton, 1940)は、当 時 の 重 要な政治家たちとの会見や直接目撃した劇的な諸事件を記したもの。共 和国と内戦の複雑な経験を、ユーモアと、被害者への同情と、スペイン の悲劇の責任者と彼が見なす者たちへの憤激をこめた、生き生きとした 散文で描きだしている。Louis Fischer, Men and Politics: An Autobiography (Jonathan Cape, 1941)は、親共産主義の立場から書かれた自伝。共和国 の主要な政治指導者についての洞察に満ちている。フランシスコ・ラル ゴ・カバリェロの描写はとりわけ糾弾的だ。 避けがたいことながら、Fischer の本が示すように、スペイン内戦は 左派勢力の中に強烈な感情を生みだし、その結果、多くの本が特定の 党派へのシンパシーを反映している。2人のフランス人歴史家、Pierre Broué と Emile Témime に よ る、The Revolution and the Civil War in Spain (Faber & Faber, 1972)は 広 い 意 味 で ト ロ ツ キ ー 主 義 的 な 著 作 で あ る が、偏狭な党派性はない。一方、Arthur H. Landis, Spain! The Unfinished 9/27 Revolution(Baldwin Park: Camelot, 1972)は、露骨な親共産主義的立場 に立つ。もう少し洗練された親共産主義的論考は、Frank Jellineck の The Civil War in Spain(Left Book Club, 1938)だ。傑出した、非常に情報 量の多い、親共産主義・親社会主義的な内戦の文献は、Mikhail Koltsov, Diario de la guerra de España(Paris: Ruedo Ibérico, 1963)[M・コリツォー フ『スペイン日記』小野理子訳、三友社出版]だ。Julián Zugazagoitia, Guerra y vicissitudes de los españoles, 2nd edition, 2vols(Paris: Librería Española, 1968)は、重要な回想録だが残念ながら英訳されていない。しかし、い ささか視野が狭いが精彩に富む次の 2 点の文献は英語で読める。共和国 外務大臣 Julio Álvarez del Vayo の Freedom’s Battle(Heinemann, 1940)と、 貴族で共産主義者になったスペインの初期フェミニスト Constancia de la Mora の、In Place of Splendour(Michael Joseph, 1940)[C・デ・ラ・モ ー ラ『栄光にかわりて――女性の自伝的スペイン内戦史』中理子訳、東邦出版 社]である。社会主義者 Arturo Barea の回想録、The Forging of a Rebel(* Granta, 2001)は、わずかに虚構化された感動的な三部作であり、必読 である。 共和国地域内部のまた内戦後の亡命者たちの間での中心的問題は、戦 争努力と革命建設のどちらに優先順位を与えるべきかについての議論 だった。その結果「戦争か革命か」問題は激しい議論と膨大な文献を 生みだした。革命の破壊について不可欠な文献は、Burnett Bolloten の 記念碑的で徹底的な共産主義者攻撃、The Grand Camouflage(New York: Praeger, 1968)で あ る。こ れ は The Spanish Revolution(Chapel Hill, NC: University of North Carolina Press, 1979)[B・ボロテン『スペイン革命―― 全歴史』渡利三郎訳、晶文社]として改訂され、さらに決定版として、 The Spanish Civil War: Revolution and Counterrevolution(Hemel Hempstead: Harvester Wheatsheaf, 1991)[同『スペイン内戦――革命と反革命』渡利三 郎訳、晶文社]が出た。この本の大きな欠点は、それが共産主義者の手 法を非難する際に、なぜその手法が共産主義者自身だけでなく穏健派 社会主義者や共和主義者によっても必要と考えられたかを真剣に点検 していないことだ。言いかえれば、Bolloten は、共和国陣営の内部抗争 を脱文脈化している。つまり、共和国がフランコとその独伊同盟者に対 して戦わなければならなかったという事実がもたらす現実の諸結果(国 内的、国際的な)から切り離して捉えている。彼は、戦争遂行努力のた 10/27 めの中央集権化の必要にほとんど関心を払わない。この点で、Burnett Bolloten の議論に対するもっとも説得力ある反論は、Helen Graham, The Spanish Republic at War(前掲)のなかに見られる。Bolloten の手法につ いての包括的批判は Herbert R. Southworth, The Grand Camouflage: Julián Gorkin, Burnett Bolloten and the Spanish Civil War in Preston and Mackenzie, The Republic Besieged を参照されたい。 Bolloten に類似した立場に立っているのは、いまや非常に古くなって し ま っ た David T. Cattell, Communism and the Spanish Civil War(Berkley, Calif.: California University Press, 1955)と、ごく最近出版された Stanley G. Payne, The Spanish Civil War, Soviet Union and Communism(New Haven, Conn.: Yale University Press, 2004)だ。これは最近の学問的成果に大きく 依拠した興味深い反ソ論文である。Ronald Radosh, Mary R. Habeck, Grigory Sevostianov の3人が編集したソ連の公文書集、Spain Betrayed: The Soviet Union in the Spanish Civil War(New Haven, Conn.: Yale University Press, 2001)は、ソ連が、共和国政治に規律と統一性を押しつけようとしてそ れが果たせないことのフラストレーションのありさまを、描き出して いる。編者たちは、これらの公文書がロシア人による鉄の支配があった ことを証明するものだとコメントしているが、文書が実際に示してい るのは、そうしたコメントとは裏腹のものである。はるかにニュアンス のある文献がスペイン語で発表されている。Daniel Kowalsky, La Unión Soviética y la guerra civil española, Una revisión crítica(Barcelona: Editorial Crítica, 2003)である。これの英文テキストである Stalin and the Spanish Civil War は印刷物としては入手できないが、アメリカ歴史学会とコロン ビア大学出版部の双方の協力を受けたデジタル・フォームで閲覧できる。 インターネットで The Gutenberg-e-website (http://www.gutenberg-e.org) を 検索されたい。 共産党の政策のあからさまな弁護は、Dolores Ibárruri, They Shall Not Pass(* Laurence & Wishart, 1967) [D・イバルリ『奴らを通すな !――" 情熱 の花 " の半生』久保文訳、同時代社]と José Sandoval and Manuel Azcárate, Spain 1936-1939(* Laurence &Wishart, 1963)によってなされている。卓 越した知性と教養でもって弁護したものに、Fernando Claudín, The Communist Movement(*Peregrine, 1970)がある。 「戦争優先」論への傑出し た貢献は、社会党と内戦についての決定的な著作、Helen Graham, So11/27 cialism and War: The Spanish Socialist Party in Power and Crisis, 1936-1939 (Cambridge: Cambridge University Press, 1991)の中に見いだされる。ま た 彼女の驚くほど独創的な論文、 War, Modernity, and Reform: The Premiership of Juan Negrín 1937-39 in Preston and Mackenzie, The Republic Besieged をも参照されたい。軍隊を建設することの具体的困難について述べたも のに、José Martín Blázquez, I Helped to Build an Army: Civil War Memoirs of a Spanish Staff Officer(Secker &Warburg, 1939)がある。 皮肉にも、Bolloten の基本的に右派的な冷戦的著作が、何人かの左派 の論者によって親革命的なものと受け取られている(これは明らかに 著者の意図ではなかったのだが)。これのもっとも顕著な例は、Noam Chomsky, American Power and the New Mandarins(Chatto & Windus, 1969)のなかのポレミカルな論文である。これはスペイン内戦を1960年 代の民族解放闘争の関連において分析したものだ[この論文は、「ベトナ ム戦争とスペイン革命――客観性とリベラルな学問」の邦題で、N・チョムス キー『チョムスキーの「アナキズム論」』 (木下ちがや訳、明石書店)の中に 収録されている]。 「革命優先」を魅力的に主張したものとして欠かせないのが、マルク ス主義革命家の今日の論文と内戦当時の意見の双方を載せた雑誌 Revolutionary History(vol.4, nos 1/2)の特集号 The Spanish Civil War: The View from the Left(Socialist Platform, 1992)である。労働者階級権力の初期の 日々の歓喜と革命が粉砕されてからの絶望を活写したものとして、次の 二つの重要な目撃記録がある。Hugh Thomas の序文をもつ Franz Borkenau, The Spanish Cockpit, 3rd edition(*Phoenix Press, 2000)[F・ボルケナウ 『スペインの戦場――スペイン革命実見記』鈴木隆訳、三一書房。第一版か ら の 訳]と、George Orwell, Homage to Catalonia(*Golllanz, 1938)[G・ オーウェル『カタロニア讃歌』鈴木隆、山内明訳、現代思潮社、ほか]だ。 後者は、1937年5月のバルセロナ事件の素直で感動的な記録だが、結局 のところ狭い範囲の体験に基づいて親 POUM のスタンスで書かれてい る。この作品は、内戦の全体像を描いたものとして広く受け止められて いるが、それは誤っている。 他の親トロツキー主義的主張は、Felix Morrrow のポレミカルな論 文、Revolution and Counter-Revolution in Spain(*New Park, 1963)や、Leon Trotsky本 人 の The Spanish Revolution( 1931-1939)(Nework: Pathfinder, 12/27 1 9 7 3 )に見いだされるだろう。もっとも雄弁なアナキズム的文献は、Ve rnon Richards, Lesssons of the Spanish Revolution(*Freedom Press, 1972) [V・リチャーズ『スペイン革命の教えるもの』遠藤斌訳、創樹社]だ。同 時代の人々による他の重要なアナキズム的文献としては、Gaston Leval, Collectives in the Spanish Revolution(*Freedom Press, 1975); Agustín Souchy, With the Peasants of Aragón(*Cienfuegos/Refrac, 1982) ; José Peirats, Anarchists in the Spanish Revolution(*Tronto: Solidality, 1979); Abel Paz, Durruti The People Armed(*Montreal: Black Rose, 1976)[本 書 を 改 訂 し た もの(スペイン語原書)からの訳書にA・パス『スペイン革命のなかのドゥ ルーティ』渡辺雅哉訳、れんが書房新社]そして Emma Goldman, Vision on Fire(*New Paltz, NY: Commonground, 1983)が あ る。よ り 近 年 の も の では、包括的ではあるがやや冗漫な Robert J. Alexander, The Anarchists in the Spanish Civil War, 2 vols(Janus Publishing, 1999)がある。 右派の立場からの内戦史で上質なものは英文では存在しない。ただ し、とくに望む読者は、Luis Bolín の回想録と概観の混合物ともいうべ き Spain: The Vital Years(Philadelphia, Pa.: Lippincott, 1967)を探してみら れるとよい。Bolín はフランコをカナリア諸島からモロッコに運ぶ飛行 機を確保する上での自分の役割を彼なりのバージョンで書いている。ナ ショナリスト地域の政治はフランコの伝記で知ることができる。もっと も詳細なのは、Paul Preston, Franco: A Biography(*Harper-Collins, 1993) で あ り、続 い て 簡 潔 で 行 き 届 い た Sheelagh Ellwood, Franco(Harlow: Longman, 1994)も出ている。これと競合するのが Juan Pablo Fusi によ る生き生きとした記録、Franco(Unwin Hyman, 1987)である。さらに 近年に出たもので、Gabrielle Ashford Hodges による、より詳細で機知に 富んだ心理学的ポートレート、Franco: A Concise Biography(Weidenfeld & Nicolson, 2000)もある。これら、いずれもフランコに批判的な4冊は、 以 前 の あ れ こ れ の フ ラ ン コ 伝――J.W.D. Trythall, Franco(Rupert HartDavis, 1970)や George Hills, Franco: The Man and his Nation(Robert Hale, 1967)など――にとって代わったといえるだろう。Hills の本は、Brian Crozier, Franco: A Biographical History(Eyre & Spottiswood, 1967)の無条 件の熱情的礼賛には及ばないまでも、フランコに同情的であり、カウ ディーリョ崇拝者には喜ばれるだろう。フランコがナショナリスト陣 営のさまざまな勢力を巧みに操っていく様子は、Blinkhorn の Carlism, 13/27 Preston の Franco, Payne の Falange, さらには Sheelagh Ellwood の Spanish Fascism in the Franco Era: Falange Española de las JONS 1936-1976(Macmillan, 1987)などに詳述されている。 スペイン内戦におけるカトリック教会について見事にバランスのと れた解釈を示しているのは、Lannon, Privilege, Persecution, and Prophecy (前 掲)で あ る。ま た 興 味 深 い の は、José M.Sánchez, The Spanish Civil War as Religious Tragedy(Notre Dame, Ind: Notre Dame University Press, 1987)だ。これは内戦の国内的、国際的な宗教環境に関する情報の貴重 な要約といえる。Sánchez は、開戦当初の反教会的憤激のなかで左派に よって殺された司祭や焼き打ちされた教会についての暗い物語を語り、 またナショナリスト側によって「平和の君」キリストの名において殺さ れたカトリック信徒(その中の14人はバスク人司祭だった)についても 書く。またこのような犯罪に接した際のカトリック界の一部の恐るべき 沈黙についても述べている。しかし、決定的文献はなんといってもスペ イン人ベネディクト会士 Hilari Raguer による The Catholic Church and the Spanish Civil War(Routledge/Cañada Blanch Studies, 2006)だ。周 到 な リ サーチに基づく見事な行文は、歴史問題への倫理的アプローチは闊達な 誠実さと不可分のものであることの実例である。 ナショナリスト地域の弾圧の概観としては、Michael Richards, A Time of Silence: Civil War and the Culture of Repression in Franco’s Spain, 19361945(Cambridge: Cambridge University Press, 1998)がある。この雄弁で 感動的な研究が示しているのは、 「暴力とは、変革と代替の可能性を野 蛮に閉ざし、記憶と歴史を抹殺するものだ」ということだ。短い文献 と し て は、Paul Preston の The Crimes of Franco(*The 2005 Imperial War Museum/Len Crome Memorial Lecture, International Brigades Memorial Trust, 2005)と The Answer Lies in the Sewers: Captain Aguilera and the Mentality of the Francoist Officer Corps , Science & Society, vol.68, no.3, Fall 2004 もあ る。また特定地域における恐るべき弾圧についての傑出した文献がいく つかある。Ian Gibson, The Assassination of Lorca(W.H. Allen, 1979)[I・ ギブソン『ロルカ・スペインの死』内田吉彦訳、晶文社。1971年発行のスペ イン語版を底本とし英語版の内容をも加えたもの]は、見事に書かれた推 理小説的論考であっていまなお読む者を戦慄させずにはおかない。内戦 中のブルゴスとセビリャでの生活の体験記として、Antonio Bahamonde, 14/27 Memoirs of a Spanish Nationalist(United Editorial, 1939)と Antonio Ruiz Vilaplana, Burgos Justice(Constable, 1938)がある。いずれも、自分の目 撃したものに衝撃を受け、共和国地域に逃亡した人物の書いたものだ。 女性に対するおぞましい弾圧を伝える文献としては、Pilar Fidalgo, A Youmg Mother in Franco’s Prisons(United Editorial, 1938)とRamón Sender Barayón, A Death in Zamora, 2nd edition(*Albuquerque, N. Mex.: University of New Mexico Press, 2003)がある。後者は、著者の母親アンパロ・バ ラヨン(左翼作家ラモン・センデルの妻)の殺害についての実に感動的 な記録である。センデルと結婚したがゆえに反乱派軍人に狙われたア ンパロ・バラヨンは生地であるサモラに逃れ、そこで安全を見いだそう と思ったのだが、実際には投獄され拷問され結局処刑された。彼女の恐 るべき運命は、フランコ将軍の支持者の手に落ちた多くの無実の女性 たちの身に起きたことの典型的なものだった。アンパロ・バラヨンの物 語 は ま た、Helen Graham, The Spanish Civil War: The Return of Republican Memory(*The 2003 Imperial War Museum/Len Crome Memorial Lecture, International Brigades Memorial Trust, 2003)においても取り上げられてい る。 ナショナリスト軍が共和国地域を占領するときの雰囲気の幾分かは、 Sir Peter Chalmers Mitchell, My House in Málaga(Faber & Faber, 1938)か ら感じとれるかもしれない。Chalmers Mitchell は、不愉快きわまる顔 つきの Luis Bolín によって Arthur Koestler が逮捕されたいきさつを語っ て い る。同 じ事 件 は Koestler 自 身 の Spanish Testament(Left Book Club, 1937)[A・ケストラー『スペインの遺書』平田次三郎訳、新泉社]に述べ られている。マラガ陥落後の惨状は、傷病兵輸送車のドライバーとして 参戦したイギリス人作家 T.C. Worsley のきわめて感動的な記録、Behind the Battle(Robert Hale, 1939)の中に描かれている。ナショナリスト地 域について詳しく知りたい読者は、Herbert R. Southworth の非常に厳密 な 研 究、Conspiracy and the Spanish Civil War: The Brainwashing of Francisco Franco(Routledge/Cañada Blanch Studies, 2002)を参照されると膨 大な量の情報を得られるだろう。さらに重要なのは、Herbert R. Southworth, Guernica! Guernica!: A Study of Journalism, Diplomacy, Propaganda and History(Berkley, Calif.: California University Press, 1977)だ。ゲ ル ニ カでの残虐行為をなかったことにしようとしたナショナリスト側宣伝努 15/27 力についての見事な研究である。さらに Peter Monteath, Guernica Reconsidered: Fifty Years of Evidence , War & Society, vol.5, no.1, May 1987も 参 照 されたい。G.L. Steer の迫力ある記録、The Tree of Gernika: A Field Study of Modern War(Hodder & Stoughton, 1938)は、ゲルニカ爆撃に関して絶 対に欠かすことのできない少数の書物の一つだ。空爆の直後にゲルニカ を訪れた記者 Virginia Cowles は、その著書 Looking for Trouble(Hamish Hamilton, 1941)の中で、ナショナリスト地域の状況についてかなり詳 しく述べている。 内戦の軍事面については、スペイン軍人による本格的軍事史―― José Manuel Martínez Bande 大佐によるフランコ側戦争努力に関する17 巻、Ramón Salas Larrazábal 将 軍 に よ る 共 和 国 地 域 に 関 す る4巻―― に 匹敵するものは、英文文献には、ない。軍事面の優れた記述は、Hugh Thomas と Antony Beevor の前述の書物の中に見いだせるはずである。フ ランコの戦略については Paul Preston, General Franco as Military Leader , in Transactions of the Royal Historical Society, 6th Series, vol.4, 1944を参照さ れたい。個別の戦闘については、国際旅団員の回想録の中でかなり記述 されている。とくにマドリード防衛戦とエブロ川の戦いについてはその 数が多い。共和国の首都マドリードの包囲がもっともよく描かれている の は、Robert G. Colodny, The Struggle for Madrid(New York: Paine-Whitman, 1958) だ。Dan Kurzman, Miracle of November(New York: Putnam s, 1980)は精彩に富む筆致ではあるが不正確だ。親フランコ的な George Hills, The Battle for Madrid(Vantage, 1976)は軍事面については優れてい る。Geoffrey Cox, Defence of Madrid(Left Book Club, 1937)は 当 時 の 目 撃者のレポートである。 内戦の軍事史では、マドリード包囲以外では、1936年9月のフランコ のトレドへの迂回、そしてそれに続くアルカサル解放に、最大の関心 が払われてきた。これについては、H.R. Knickerbocker, The Siege of the Alcázar: A War-Log of the Spanish Revolution(Hutchinson, n.d.[1936]) と Geoffrey McNeill-Moss 少 佐 の、The Epic of the Alcázar(Rich & Cowan, 1937)が、どちらも親フランコの視点から叙述している。より客観的な の は Cecil Eby, The Siege of the Alcázar(Bodley Head, 1966)だ。ア フ リ カ軍のセビリャからマドリードへの進軍についてのきわめて党派的な 文 献 と し て、Harold G. Cardozo, The March of a Nation: My Year of Spain’s 16/27 Civil War(Right Book Club, 1937); H. Edward Knoblaugh, Correspondent in Spain(Seed & Ward, 1937); Cecil Gerahty, The Road to Madrid(Hutchinson, 1937); そして William Foss and Cecil Gerahty, The Spanish Arena(Right Book Club, 1937)がある。これらの熱情的な書物は、冷静な目撃記録と の対比において読まれるべきであろう。そのような記録として、John Whitaker, Prelude to World War: A Witness from Spain , Foreign Affairs, vol.21, no.1, October 1942がある。なおこの文章は彼の著書 We Cannot Escape History(New York: Macmillan, 1943)でも読むことができる。当時、 記者たちが直面した困難についての素晴らしい記録として、匿名のパ ンフレット A. Journalist , Foreign Journalists under Franco’s Terror(United Editorial, 1937)がある。 航空戦についての基本的な文献は、Gerald Howson, Aircraft of the Spanish Civil War 1936-1939(New York: Putnam, 1990)である。膨大で周到な リサーチに基づき、両陣営についての重要な情報を満載している。これ を補足するものとして、その後、同じ著者によって、武器獲得において 共和国が直面した政治的財政的困難に関する本が出版されている。Gerald Howson, Arms for Spain: The Untold Story of the Spanish Civil War(John Murray, 1998)である。究極的に、スペイン共和国の軍事的努力は不干 渉政策によって掘り崩された。不干渉政策は共和国政府が国際法上の 権利を行使するのを妨げたのである。Howson の著作は、そうした事態 の中で、共和国が悪徳武器ディーラーの手に陥らざるを得なくなり、ソ 連の、下心なき軍事援助とは到底いえない援助を受け入れざるを得な くなった状況を、見事に分析している。スペイン語では、双方の陣営 のパイロットによるいくつかの重要な回想録がある。残念ながら、英 語ではナショナリスト側の飛行士 Captain José Larios, Combat over Spain (New York: Macmillan, 1966)と、ナショナリスト空軍について書くため にスペインに渡った右翼イギリス人飛行士の回想録 Nigel Tangye, Red, White and Spain(Rich & Cowan, 1937)があるだけだ。海軍に関しては Michael Alpert の La guerra civil en el mar(Madrid: Siglo XXI, 1987)が あ るが残念ながら英文では読めない。共和国に対するフランコ側海上封鎖 を破る行動にイギリス海軍が参加した事実についての文献として、P.M. Heaton, Welsh Blockade Runners in the Spanish Civil War(Newport: Starling Press, 1983)と、James Cable, The Royal Navy and the Siege of Bilbao(Cam17/27 bridge, Cambridge University Press, 1979)がある。 国際旅団だけを対象とした文献も膨大な数にのぼる。Andreu Castells の詳細をきわめた概説書(スペイン語)は英訳されていない。ソ連で 発 行 さ れ た International Solidality with the Spanish Republic(*Moscow: Progress Publishers, 1975)は有益だが、これは、敵意ある研究書 R. Dan Richardson, Comintern Army: The International Brigades and the Spanish Civil War(Lexington, Ky.: University Press of Kentucky, 1982)と 対 比 し て 読 む と い い だ ろ う。Vincent Brome, The International Brigades(Heinemann, 1965)は空想的で不正確だ。優れた学術的概説書として James K. Hopkins, Into the Heart of the Fire: The British in the Spanish Civil War(Stanford, Calif.: Stanford University Press, 1998)がある。Robert A. Stradling, History and Legend: Writing the International Brigades(Cardiff: University of Wales Press, 2003)は興味深い文献であるが、きわめて批判的な立場に立ち、 語り口も皮肉っぽくシニカルだ。最良の文献としては、包括的なリサー チに基づいた Richard Baxell, British Volunteers in the Spanish Civil War: The British Battalion in the International Brigades, 1936-1939(Routledge/Cañada Blanch Studies, 2004)が あ げ ら れ る。こ れ を 補 足 す る も の に、Angela Jackson のエレガントで感動的な研究、British Women and the Spanish Civil War(Routledge/Cañada Blanch Studies, 2002)がある。 共産党員の書いたイギリス人義勇兵の体験記としては、イギリス人大 隊の最後の指揮官であった Bill Alexander の British Volunteers for Liberty (Lawrence &Wishart, 1982)と、以前に出た William Rust, Britons in Spain (Lawrence & Wishart, 1939, reprinted *Abersychan, Pontypool: Warren & Pell, 2004)が あ る。David Corkhill and Stuart Rawnsley, eds, The Road To Spain (*Dunfermline: Borderline, 1981)は、イ ギ リ ス 人 義 勇 兵 の 生 き 生 き と し た イ ン タ ビ ュ ー 集 だ。Tom Wintringham, English Captain(*Penguin, 1941)[T・ウィントリンガム『スペイン国際旅団――イギリス人大隊長従軍 記』川成洋・大西哲訳、彩流社]; Esmond Romilly, Boadilla(Hamish Hamilton, 1937)[E・ロミリー『ぼくはスペインで戦った』橋口稔訳、平凡社]; Jason Gurney, Crusade in Spain(Faber & Faber, 1974)[J・ガ ー ニ イ『ス ペインの十字軍』大西洋三・川成洋訳、東邦出版社]そして Walter Gregory, The Shallow Graves(Gollancz, 1986)は、マドリード戦線その他の戦闘 についてのイギリス人による重要な記録である。もっとも重要な回想 18/27 録の一つは労働党員義勇兵だった Fred Thomas の、To Tilt at Windmills: A Memoir of the Spanish Civil War(East Lansing, Mich.: Michigan State University Press, 1996)だ。本書は胸痛むほどの正直さと苦いユーモアで もって国際旅団の偉大と悲惨の双方を語っている。 アメリカ人義勇兵については次のものが優れている。Arthur H. Landis, The Abraham Lincoln Brigade(New York: Citadel, 1967)、同 じ 著 者 の Death in the Olive Groves: American Volunteers in the Spanish Civil War(New York: Paragón House, 1989); Alvah Bessie, Men in Battle(New York: Scribner, 1939); Steve Nelson, The Volunteers(New York: Masses & Mainstream, 1953)[S・ネルソン『義勇兵』松本正雄訳、新日本出版社]; Sandor Voros, American Commissar(Philadelphia, Pa.: Chilton Company, 1961); Cecil Eby, Between the Bullet and the Lie(New York: Holt, Rinehart &Winston, 1969); John Tisa, Recalling the Good Fight(Massachusetts, Mass.: Bergin & Garvey, 1985); Carl Geiser, Prisoners of the Good Fight: The Spanish Civil War 1936-1939(Westport, Conn.: Lawrence Hill & C., 1986); Marion Merriman and Warren Lerude, American Commander in Spain: Robert Hale Merriman and the Abraham Lincoln Brigade(Reno, Nev.: University of Nevada Press, 1986); Milt Felsen, The Anti Warrior. A Memoir(Iowa City, Ia.: University of Iowa Press, 1989); Milton Wolff, Another Hill: An Autobiographical Novel(Urban and Chicago, Ill.: University of Illinois Press, 1994) 、そしてよ り 近 年 の も の に、Harry Fisher, Comrades: Tale of a Brigadista in the Spanish Civil War(Lincoln, Neb.: University of Nebraska Press, 1998) 。最良の概 The Odyssey of the Abraham Lincoln Brigade: Ameri説書は Peter N. Carroll, cans in the Spanish Civil War(Stanford, Calif.: Stanford University Press, 1994)だ。綿密な調査に基づき流麗な文章で書かれている。アフリカ 系アメリカ人義勇兵の魅力的な体験記として、James Yates, Mississippi to Madrid: Memoir of a Black American in the Abraham Lincoln Brigade(Seattle, Wash.: Open Hand Publishing, 1989)と Danny Duncan Collum, ed., African Americans in the Spanish Civil War. “ This Ain’t Ethiopia But It’ll Do”(New York: G.K. Hall, 1992)がある。 国際旅団におけるアイルランド人義勇兵の経験については、Michael O Riordan, Connolly Column(Dublin: New Books, 1979)と Sean Cronin, Frank Ryan(*Dublin: Repsol, 1979)を参照されたい。アイルランドは、 19/27 人数の多寡は別として、フランコ陣営に参加した本物の義勇兵を出した 数少ない国の一つだった。青シャツ隊指導者としてスペインにおもむい た Eoin O Duffy の言い分はその回想録 Crusade in Spain(Dublin: Brown & Nolan, 1938)の中に述べられている。双方の陣営のより客観的な研 究 と し て、R.A. Stradling, The Irish and the Spanish Civil War(Manchester: Mandolin, 1999)とFearghal McGarry, Irish Politics and the Spanish Civil War (Cork: Cork University Press, 1999)がある。 ウェールズの、国内またスペイン現地での内戦との関与については、 R.A. Stradling, Wales and the Spanish Civil War(Cardiff: University of Wales Press, 2004), Hywel Francis, Miners Against Fascism: Wales and the Spanish Civil War(*Lawrence & Wishart, 1982); George Eaton, Neath and the Spanish Civil War(Neath, author, 1980); R.A. Stradling, Cardiff and the Spanish Civil War(Cardiff: Butetown History & Arts Project, 1996)を参照されたい。 スコットランドに関しては、Ian MacDougall, ed., Voices from the Spanish Civil War(*Edinburgh: Polygon, 1986)がある。 ドイツの異論派共産主義者である Gustav Regler の The Owl of Minerva (Rupert Hart-Davis, 1959)は情報量が多く時として感動的だ。ドイツ人 義勇兵の運命についてのユニークな考察を行なっているものに、Josie McLellan, Antifascism and Memory in East Germany. Remembering the International Brigades 1945-1989(Oxford: Clarendon Press, 2004)がある。 イギリスで展開された Aid Spain Movement の連帯活動と、国際旅団 医療部門について包括的に叙述した文献として、Jim Fyrth, The Signal Was Spain(*Lawrence & Wishart, 1986)がある。この本を魅力的に補足 するものとして、Angela Jackson, Beyond the Battlefield: Testimony, Memory and Remembrance of a Cave Hospital in the Spanish Civil War(*Abersychan, Pontypool; Warren & Pell, 2005)があげられる。また、Jim Fyrth and Sally Alexander, eds, Women’s Voices from the Spanish Civil War(*Lawrence & Wishart, 1991)は感動的できわめて重要なアンソロジーである。この本 は、Shirley Mangini, Memories of Resistance: Women’s Voices from the Spanish Civil War(New Haven, Conn.: Yale University Press, 1995)と 合 わ せ て 読まれるべきだ。内戦によって生活を深く傷つけられた 4 人の非常に 異なった女性たちの記録として、Paul Preston, Doves of War: Four Women of Spain(Harper Collins, 2002)が あ る。4人 の う ち の 1 人 Nan Green の 20/27 夫は国際旅団に参加して戦い戦死した。彼女自身は国際旅団の医療部 門で働いた。彼女の回想録は、Nan Green, A Chronicle of Small Beer(Nottingham: Trent Editions, 2004)として出版されている。スペイン共和国は 女性の生活に巨大で積極的な変化をもたらした。共和国が女性に与えた もの、そしてフランコが奪い返しさらに新たに奪い取ったものについて の豊かで魅力的な記録は、Mary Nash, Defying Male Civilization: Women in the Spanish Civil War(Denver, Colo.: Arden Press, 1995)に見いだされる。 フランコ側で戦うためにヒトラー、ムッソリーニ、サラザールによっ て派遣された「義勇兵」のほかに、ナショナリスト軍に参加した多くの 個々のロシア人、ルーマニア人、フランス人、等々がいた。フランコ軍 地域の歴史を知るうえで大きな貢献となるものに、Judith Keene, Fighting for Franco: International Volunteers in Nationalist Spain during the Spanish Civil War(Leicester University Press, 2001)が あ る。英語 国 民 で フ ラ ンコ側に従軍した人の回想録はごく少数しかないが、熱情的で好戦的な Peter Kemp の Mine Were of Trouble(Cassell, 1957)と、やや暗鬱な Frank Thomas の Brother Against Brother: Experience of a British Volunteer in the Spanish Civil War(Stroud: Sutton Publishing, 1998)の 2 冊をあげておこう。 ユニークで魅力的な記録として Priscilla Scott-Ellis, The Chance of Death: A Diary of the Spanish Civil War(Wilby, Norwich: Michael Russell, 1995)が ある。イングランドの上流階級出身の著者はナショナリスト地域でボラ ンティアの看護師として働いた。フランコ軍一般徴集兵の薄汚く不潔な ありさまと、高級士官が享受するシャンパン、イチゴ、ホテル、ナイト クラブといった贅沢な生活との対照を生き生きと描いている。彼女の伝 記は Paul Preston, Doves of War(前掲)の中に記述されている。 文学者・芸術家のスペイン内戦への反応は、大量のアンソロジーや評 論を生んでいる。興味深いエッセイ集として、Steven M. Hart, ed.,“¡No Pasarán!” Art, Literature and the Spanish Civil War(Tamesis Books, 1988) がある。Frederick R. Benson, Writers in Arms: The Literary Impact of the Spanish Civil War(New York: New York University Press, 1967)は、ヘミン グウェイ、マルロー、オーウェル、ケストラーら著名な作家たちに関 する信頼のおける概観だ。このテーマについての傑出した入門書とし ては、Valentine Cunningham の 2 冊 のアンソロジー、The Penguin Book of Spanish Civil War Verse(Harmondsworth: Penguin, 1980)と Spanish Front: 21/27 Writers on the Civil War(Oxford: Oxford University Press, 1986)が あ る。 どちらも的確に選択され、思慮深く紹介されている。さらに参照に値 す る の は、Murray Sperber, ed., And I Remember Spain: A Spanish Civil War Anthology(Rupert Hart-Davis, MacGibbon, 1974)である。 内戦の国際的次元については新しい研究が続々と現われている。3冊 の論文集、Sebastian Balfour and Paul Preston, eds, Spain and the Great Powers(Routledge, 1999); Christian Leitz and David J. Dunthorn, eds, Spain in an International Context,1936-1959(New York: Berghahn Books, 1999), そ し てRaanan Rein, ed, Spain and the Mediterranean since 1898(Frank Cass, 1999)が参考となるだろう。以前に出た 2 冊 の概説書、Dante A. Puzzo, Spain and the Great Powers(New York: Columbia University Press, 1962)と Patricia van der Esch, Prelude to War(The Hague: Martinus Nijhoff, 1951) は、内容的に古くなってしまった。より近年の概説書としては、Michael Alpert, An International History of the Spanish Civil War(Macmillan, 1994)が あ る。ま た、Glyn A. Stone, Britain, Non-Intervention and the Spanish Civil War in European Studies Review, vol. IX, 1979や The European Great Powers and the Spanish Civil War in Robert Boyce and Esmonde M. Robertson, Paths to War: New Essays on the Origins of the Second World War (Macmillan, 1989)、そ し て Robert H. Whealey, Economic Influence of the Great Powers in the Spanish Civil War: From the Popular Front to the Second World War in The International History Review, vol.2, May 1983も 優 れ た 概 観を提供している。不干渉委員会については次に示す国内での諸研究に かなりの情報が見られる。とくにイギリスについての研究にそれが多い。 序説として優れているのは、Glyn A. Stone, Britain, France and the Spanish Problem, 1936-1939 in Dick Richardson and Glyn A. Stone, eds, Decisions and Diplomacy: Essays in Twentieth-Century International History(Routledge, 1995)だ。やや堅苦しい法律学的文献としては、William E. Watters, An International Affair: Non-Intervention in the Spanish Civil War(New York: Exposition Press, 1971)がある。また、R. Veatch, The League of Nations and the Spanish Civil War, 1936-1939 in European History Quarterly, XX, 1990も 参照されたい。 イ ギ リ ス の 態 度 に つ い て の 研 究 は、古 い も の と し て は、William Kleine-Ahlbrandt, The Policy of Simmering: A Study of British Policy dur22/27 ing the Spanish Civil War(Geneva: Institut Universitaire des Hautes Études, 1961); K.W. Watkins, Britain Divided(Nelson, 1963); David Carlton, Eden, Blum and the origins of Non-Intervention , in Journal of Contemporary History, vol. VI, no.3, 1971, そして Jill Edwards, Britain and the Spanish Civil War (Macmillan, 1979)がある。これらはすべて、今も読むに値する。しか し、近年、スペイン内戦期のイギリスの役割についての歴史研究には マイナーな革命が起きている。傑出した作品はスペイン人学者 Enrique Moradiellos の La perfidia de Albión: el Gobierno británico y la guerra civil española(Madrid: Siglo XXI, 1996)だ。こ れ は ま だ 英 訳 さ れ て い な い が、幸いなことに、この本を生みだす基となった Moradiellos の論文の 多くは訳されている。すなわち、 The Origins of British Non-Intervention in the Spanish Civil War: Anglo-Spanish Relations in Early 1936 , in European History Quarterly, vol.21, 1991; Appeasement and Non-Intervention: British Policy during the Spanish Civil War , in Peter Catterall and C.J. Morris, eds, Britain and the Threat to Stability in Europe, 1918-45(Leicester University Press, 1993); British Political Strategy in the Face of Military Rising of 1936 in Spain in Contemporary European History, vol.1, part 2, July 1992,そして よ り 近 年 の The Gentle General: The Official British Perception of General Franco during the Spanish Civil War , in Preston and Mackenzie, The Republic Besieged である。イギリスの政策決定者にもう少し同情的な意見として は、Tom Buchanan, A Far Away Country of Which We Know Nothing? Perceptions of Spain and its Civil War in Britain, 1931-1939 , in Twentieth-Century British History, vol.4, no.1, 1993がある。さらに Tom Buchanan, The Spanish Civil War and the British Labour Movement(Cambridge: Cambridge University Press, 1991)と Britain and the Spanish Civil War(Cambridge: Cambridge University Press, 1997)も参照されたい。フランコへの抑制なき共感をあ らわにしているのは、1937年ナショナリスト地域に赴任したイギリス外 交官 Sir Robert Hodgson の回想録、Spain Resurgent(Hutchinson, 1953)だ。 Sir Geoffrey Thompson, Front Line Diplomat(Hutchinson, 1959)は、は る かにバランスのとれた見方をしている。公開された Documents on British Foreign Policy のうちの、スペイン内戦に関連する部分はこの戦争につい ての価値ある資料を含んでいる。これの2nd Series, vols XVII, XVIII, XIX (HMSO, 1979)を見られたい。 23/27 イギリス関係の文献が豊富なのに比べてフランスに関しては英語で読 める資料は相対的に少ない。基本的著作は John E. Dreifort, Yvon Delbos at the Quay d’Orsay: French Foreign Policy during the Popular Front 19361938(Wichita, Kan.: University Press of Kansas, 1973)で あ る。フ ラ ン ス の政策について総合的に研究した David Wingeate Pike, Les français et la guerre d’Espagne 1936-1939(Paris: Presses Universitaires de France, 1975) はいまだに英語で出版されていない。彼の以前の作品 Conjecture, Propaganda and Deceit and the Spanish Civil War(Stanford, Calif.: California Institute of International Studies, 1968)が、入手しうる最良の代替物とい えよう。Richard Alan Gordon の包括的な博士論文、France and the Spanish Civil War(New York: Columbia University Press, 1971)は、一部の図書 館には備えてある。スペインに関連したフランスの政策についての概説 書としては、Anthony Adamthwaite の 2 冊 の本、France and the Coming of the Second World War(Frank Cass, 1977)と Grandeur and Misery: France’s Bid for Power in Europe 1914-1940(Edward Arnold, 1995)がある。スペイ ン共和国に対するフランスの動揺の国内的文脈については、Julian Jackson, The Popular Front in France: Defending Democracy, 1934-1938(Cambridge: Cambridge University Press, 1988)と 、Jean Lacouture, Léon Blum (New York: Holmes & Meier, 1982)が参照に値する。 アメリカの役割については Richard P. Traina, American Diplomacy and the Spanish Civil War(Bloomington, Ind.: Indiana University Press, 1968) と、Allen Guttmann, American Neutrality and the Spanish Civil War(Lexington, Ky.: D.C. Heath, 1963)を参照されたい。Douglas Little はこのテーマ について多くの重要な研究を発表している。すなわち、 Claude Bowers and his Mission to Spain: the Diplomacy of a Jeffersonian Democrat in K.P. Jones, US Diplomats in Europe 1919-1946(Santa Barbara, Calif.: ABC-Clio, 1976) と Red Scare 1936: Anti-Bolshevism and the Origins of British NonInterventionism in the Spanish Civil War in Journal of Contemporary History, vol. XXIII, 1988 と い う2 論文、そして著書 Malevolent Neutrality: The United States, Great Britain, and the Origins of the Spanish Civil War(Ithaca, NY: Cornell University Press, 1985)で あ る。決 定 的 に 重 要 な も の と し て、公開されている合衆国外交文書のスペイン内戦関連の巻、Foreign Relations of the United States 1936, vol.II(Washington, DC, 1954), Foreign 24/27 Relations of the United States 1937, vol.I(Washington, DC, 1954), Foreign Relations of the United States 1938, vol.I(Washington, DC, 1955), Foreign Relations of the United States 1939, vol.II(Washington, DC, 1956)がある。 ラテンアメリカ諸国については Mark Falcoff と Frederick B. Pike が編集 した The Spanish Civil War 1936-1939: American Hemispheric Perspectives (Lincoln, Neb.: University of Nebraska Press, 1982)を参照のこと。 ロシアの政策は、前掲の Claudín の著作と、不運にも未完に終わっ た E. H. Carr, The Comintern & the Spanish Civil War(* Macmillan, 1984) [E・H・カ ー『コ ミ ン テ ル ン と ス ペ イ ン 内 戦』富 田 武 訳、岩 波 書 店]; Jonathan Haslam, The Soviet Union and the Struggle for Collective Security in Europe, 1933-39(Macmillan, 1984); Denis Smyth, We Are With You : Solidarity and Self-Interest in Soviet Policy Toward Republican Spain, 19361939 in Preston and Mackenzie, The Republic Besieged, そ し て よ り 近 年 の Geoffrey Roberts, The Soviet Union and the Origins of the Second World War: Russo-German Relations and the Road to War, 1933-1941(Macmillan Press, 1995)の中で、かなりの理解をもって論じられている。David T. Cattell, Soviet Diplomacy and the Spanish Civil War(Berkley, Calif.: California University Press, 1957)は、前記の Payne や Radosh の仕事がそうである ように、冷戦的発想の産物といっていい。ロンドン駐在ソ連大使 Ivan Maisky による不干渉委員会の辛辣な記録 Spanish Notebooks(Hutchinson, 1966)[I・マイスキー『三十年代』(第四部「スペイン手帳」)、木村晃三訳、 みすず書房]は、いまだに不可欠の資料である。フランコへの独伊双方 の援助の様相は Preston, Franco に描かれている。公開されたドイツ外 交文書の内戦関連の部分、Documents on German Foreign Policy, Series D, Volume III, Germany and the Spanish Civil War(HMSO, 1951)は 貴 重 な 情 報の宝庫である。また当時刊行された資料集もある。もっとも有益なの は不干渉委員会を告発した Hispanus , Foreign Intervention in Spain(United Editorial, 1937)だ。The Nazi Conspiracy in Spain(Left Book Club, 1937) はナチ外国組織の活動について述べたもの。ドイツについてのもっと も重要な研究書のあれこれはまだ翻訳されていない。Preston, Revolution and War(前掲)のなかのドイツの政策についての Denis Smyth の章は、 彼 の The Moor and the Money-lender: Politics and Profits in Anglo-German Relations with Francoist Spain 1936-1940 in Marie-Luise Recker, ed., Von der 25/27 Konkurrenz zur Rivalität: Das britische-deutsche Verhältnis in den Ländern der europäischen Peripherie 1919-1939(Stuttgart: Franz Steiner Verlag, 1986) と同様、必読である。Christian Leitz の二つの論文、 Nazi Germany s Intervention in the Spanish Civil War and the Foundation of HISMA/ROWAK in Preston and Mackenzie, The Republic Besieged, と Hermann Göring and Nazi Germany s Economic Exploitation of Nationalist Spain 1936-1939 in German History, vol.XIV, no.I, 1996も 重 要。同 じ 著 者 の Economic Relations Between Nazi Germany and Franco’s Spain 1936-1945(Oxford: Oxford University Press, 1996)も不可欠である。Robert H. Whealey, Hitler and Spain: The Nazi Role in the Spanish Civil War(Lexington, Ky.: University Press of Kentucky, 1989)は疑いもなく有益な研究であるが、少数の誤謬によっ てその価値を減じている。 イ タ リ ア に つ い て は John F. Coverdale の 基 本 的 著 作、Italian Intervention in the Spanish Civil War(Princeton, NJ: Princeton University Press, 1977)が、いまなおきわめて有益である。ただし、細部に関しては新 しい研究によって挑戦され始めている。Paul Preston, Mussolini s Spanish Adventure: From Limited Risk to War in Preston and Mackenzie, The Republic Besieged,そ し て Mussolini and Franco 1936-1943 in Balfour and Preston, Spain and the Great Powers(前掲)を参照。この時期についてのイタリ アの公開外交文書はまだ内戦の全期間をカバーしていないが、当時の 多くの英文資料は貴重である。パンフレット How Mussolini Provoked the Spanish Civil War: Documentary Evidence(United Editorial, 1938)は、ムッ ソリーニとスペインの君主制支持派の間でなされた1934年3月の合意 の記録である。ムッソリーニの女婿で外務大臣の Galeazzo Ciano が書 いた日記と文書は迫力ある読物だ。Ciano’s Diary 1937-1938(Methuen, 1952)と Ciano’s Diplomatic Papers(Odhams, 1948)を 見 ら れ た い。不 干渉委員会に鋭い視線を向けているもう一つの資料は Documents on the Italian Intervention in Spain(no publisher, 1937)だ。 ポルトガルのフランコ支援については、Glyn Stone, The Oldest Ally: Britain and the Portuguese Connection, 1936-1941(The Royal Historical Society/Woodbridge: Boydell Press, 1994)が き わ め て 有 益 で あ る。ポ ル トガル語による最良の資料は、César Oliveira, Salazar e a guerra civil de Espanha(Lisbon: O Jornal, 1987); Iva Delgado, Portugal e a guerra civil de 26/27 Espanha(Lisbon: Publicações Europa-América, no date)そ し て Fernando Rosas, ed., Portugal e a guerra civil de Espanha(Lisbon: Edições Colibri, 1998)である。 共和国最後の日々の諸困難の幾分かは Segismundo Casado の回想録、 The Last Days of Madrid(Peter Davies, 1939)に述べられている。ナショ ナリスト軍勝利の諸結果、内戦終結後の弾圧、フランコの一貫した親 枢軸シンパシーについては、Paul Preston, The Politics of Revenge: Fascism and the Military in the 20th Century Spain(*Routledge, 1990) と、Michael Richards の 卓 越 し た 研 究、A Time of Silence: Civil War and the Culture of Repression in Franco’s Spain 1936-1945(前掲)を参照。後者は、敗者を 侮辱し搾取する行為において、制度化された暴力、イデオロギー、組 織化された宗教、経済、社会的迫害のそれぞれが複雑に作用し合って いるありさまを描いている。Raanan Rein が編集した Spanish Memories: Images of a Contested Past―History & Memory, Special Issue, vol.14, nos.1 & 2,(Bloomington, Ind.: Indiana University Press, 2002)は重要な論文集であ る。とりわけ Michael Richards と Angela Cenarro の文章は必読だ。 フランコ支配下のスペインでの生活については、多くの胸痛む同時代 資 料 が あ る。Thomas J. Hamilton, Appeasement’s Child: The Franco Regime in Spain(Gollancz, 1943); Charles Foltz Jr, The Masquerade in Spain(Boston, Mass.: Houghton Mifflin, 1948); Emmet John Hughes, Report from Spain (Latimer House, 1947); Herbert L. Matthews, The Yoke and the Arrows: A Report on Spain(Heineman, 1958)そ し て Abel Penn, Wind in the Olive Trees: Spain from the Inside(New York: Boni & Gaer, 1946)な ど だ。一 部 亡 命 者 の 恐 る べ き 運 命 に つ い て は David Wingeate Pike, Spaniards in the Holocaust: Mauthausen, the Horror on the Danube(Routledge/Cañada Blanch Studies, 2000)を参照。フランコ後の民主化プロセス内部におけるスペ イン内戦の影響を論じているものに、Paloma Aguilar Fernández, Memory and Amnesia: The Role of the Spanish Civil War in the Transition to Democracy (New York: Berghahn Books, 2002)がある。 (『スペイン内戦 』明石書店) 27/27
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