p53 が老化に伴う心臓のミトコンドリア機能低下を促進させる

平 成 2 5 年 8 月 5 日
京 都 府 立 医 科 大 学
Tel:075-251-5208(研究支援課)
p53 が老化に伴う心臓のミトコンドリア機能低下を促進させる
-パーキンを介するマイトファジーの阻害-
【本研究成果のポイント】
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老化した心臓では障害を受けたミトコンドリアの分解処理(マイトファジー)が抑制
されるためにミトコンドリア機能不全を来していることを新たに見出した。
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その分子機序として老化によって増加した細胞質の p53 がマイトファジー誘導因子で
あるパーキンと結合し、ミトコンドリアへの移行を阻害することでマイトファジーを
抑制していることを発見した。
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細胞質内 p53 を阻害し、マイトファジーを促す事により心臓老化による心不全を予防
できる可能性がある。
京都府立医科大学の星野温研修員、的場聖明助教らは、遺伝子操作マウスを用いて心臓の細胞質
中のがん抑制遺伝子である p53 が、傷害を受けたミトコンドリアのオートファジー(マイトファジ
ー)を阻害して加齢によるミトコンドリア機能不全を促進させることを明らかにしました。高齢化
社会において増加の一途である心不全の病態解明の第一歩として、加齢に伴うミトコンドリアの質
の低下のメカニズムとその治療の可能性を示した画期的な成果です。
本研究は、京都府立医科大学
大学院 医学研究科
循環器内科において行われたものです。本
研究成果は、2013 年 8 月 6 日午前 10 時(英国時間)に英科学誌「Nature Communications」の
オンライン速報版で公開されます。
【研究の背景】
細胞内小器官の一つであるミトコンドリアは生体活動に不可欠なエネルギー産生を担うと
共に酸化ストレスや細胞死の制御も行うことが知られています。そのためミトコンドリア
の機能異常は老化や心不全をはじめとする多くの病態に関係している事がわかっています。
細胞には機能不全に陥ったミトコンドリアをオートファジー(注1)にて分解処理するマ
イトファジーという機構が存在します。本研究グループは老化におけるミトコンドリア機
能異常をマイトファジーの視点から検証し、老化のメカニズム解明ならびに効果的な予防
法の開発につなげたいと考えました。
【研究の内容】
1) 心臓老化とマイトファジー
若齢マウスと老齢マウスの心臓を比較すると、老齢マウスではマイトファジーによるミ
トコンドリアの分解処理が低下し、その結果として異常ミトコンドリアが蓄積している
事が分かりました。またマイトファジー誘導因子である Parkin を欠損させたマウスでは
加齢に伴う心機能の低下や老化様変化が早期より認められました。このことより異常ミ
トコンドリア処理の低下が心臓老化の原因の一つになっていると考えられました。
2) がん抑制遺伝子 p53 によるマイトファジー抑制
心臓老化に伴うマイトトファジー抑制のメカニズムを解明するために、老化に関係する
因子を調べました。その結果、がん抑制遺伝子である p53 が細胞質で Parkin と結合して
Parkin がミトコンドリアに移行しマイトファジーを誘導することを阻害している事が分
かりました。p53 を欠損させると加齢に伴うマイトファジー抑制は軽減し、ミトコンドリ
アのエネルギー産生能は維持され、活性酸素の産生も低下しました。また加齢に伴う心
機能低下や老化様変化も抑制されました。このことよりがん抑制遺伝子である p53 がマ
イトファジーの抑制、心臓老化の原因となっている事が分かりました。
3)マイトファジーによる老化予防
最後にマイトファジーを活性化する事が老化予防につながるかを検討しました。心臓に
おいてマイトファジーの誘導因子である Parkin を過剰発現させたマウスを作成し検証を
行ったところ、このマウスでは p53 欠損マウスと同様に加齢に伴うミトコンドリアの機
能異常や心機能低下、老化様変化の出現が抑制され、マイトファジーの活性化が老化予
防に有効である可能性が示されました。
【まとめと今後の展開】
今回の研究成果により、加齢に伴うミトコンドリアの機能低下の一因が明らかとなりま
した。細胞質の p53 を阻害しミトコンドリアを分解処理するマイトファジーを活性化す
る薬剤を開発することで老化の進行を予防できる可能性も考えられます。本研究の成果
を通して、健康長寿に貢献することが期待できます。
(注1)
オートファジーは自食作用とも呼ばれる大規模な細胞内分解経路です。細胞質のタンパ
クや細胞内小器官をオートファゴソームと呼ばれる膜によって取り囲み、リソソーム(分
解酵素群が詰まった小胞)との融合で分解する。
<参考図>
図:老齢マウスの心臓では、細胞質内の p53 がパーキンと結合して、機能不全状態にある
ミトコンドリアへのパーキンの移行を阻害するため、マイトファジーが抑制され異常ミト
コンドリアが蓄積する。
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
的場 聖明(マトバ サトアキ)
京都府立医科大学 大学院 循環器内科学 助教
Tel:075-251-5511
E-mail:[email protected]
*お電話がつながらない場合は、研究支援課(Tel:075-251-5208)へご連絡をお願いし
ます。