カレーライス好適米「華麗舞」の特性解明

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浦上財団研究報告書 Vol.18(2011)
<平成 20 年度助成>
カレーライス好適米「華麗舞」の特性解明
大坪 研一 ・ 中村 澄子 ・ 鈴木 瑞穂
(新潟大学大学院自然科学研究科)
日本の米の消費量は食の多様化に伴い、年々減
舞(中央農研北陸センターより)玄米を試験用
少傾向にある。そのため、近年新たな用途による
摩 擦 式 精 米 機(Kett 科 学 研 究 所、 パ ー レ ス ト )
消費拡大に尽力を注いでいる。そのひとつに米の
に よ り、 そ れ ぞ れ 精 米 歩 留 ま り、 約 90 %、80
形質の多様化が求められ、低アミロース米、高ア
%、70 % に と う 精 し た。 精 米 の 粉 砕 は 粉 砕 機
ミロース米、色素米などの新形質米が育成されて
(UDYCORPORATION)により、1.0 mm スクリ
いる。
ーンを用いて行った。
また、米はとう精による、果種皮、胚芽、胚乳
2. 水 分 測 定
の除去割合によって、組織構造や組織中の成分分
試 料 を 粉 砕 機(UDYCORPORATION)で 粉 砕
析に変化が生じる。
して粉にし、加熱乾燥法(135℃、1 時間)で水分
本研究では(独)農研機構中央農研北陸センター
測定した。
が開発した「華麗舞」
(日本型とインド型の交配種
3. タンパク質含量
であり、米飯表層部の粘りが弱く、米飯内部はコ
試料約 30g をインフラテック 1241 グレインア
シヒカリと同様に軟らかいという特徴がある)を
ナライザー(フォス・ジャパン)で近赤外分光分
評価するにあたって、今回日本型の代表であるコ
析法により、玄米粗タンパク質含量(DM%)と白
シヒカリ、インド型の夢十色を用いて、各品種の
米粗タンパク質含量(AsIs%)を測定し求めた。
とう精度別一般成分、糊化粘度特性、糖化関連酵
4. アミロース含量
素活性、米飯物性等の物理化学特性の評価を行い、
1)
Juliano が開発したヨード比色定量法 により、
華麗舞の特性を比較評価した。
精米粉末を用いて、見かけのアシロース含量とし
また、「華麗舞」 の特徴を表わす DNA マーカ
て求めた。スペクトルを用いた。
ー(デンプン合成酵素および分解酵素由来)を開
なお、検量線はポテトアミロース(シグマ社:
発し、インディカ型イネ(IR2061、夢十色、サリ
タイプ)にアミロペクチン(島田化学)を配合した
ークイーン)、日印交雑種(ホシユタカ、密陽 23
ものを標準とした。
号)、ジャポニカ型イネ(コシヒカリ、日本晴、ア
5. 米飯物性の測定
キヒカリ、朝の光、大地の星)において 「華麗舞」
米飯の物性試験はテンシプレッサー(タケトモ
の品種判別を可能にした。
電機、Myboy System)を用いた。精米 10 gをア
実験方法
ルミカップにとり。日本穀物検定協会の食味試験
の方法に従い2)予め水分含量を測定し加水量を求
1. 試料及び試料の調製
め、調製した。電気釜(National、SR-SW182)の
すべて 20 年度産:コシヒカリ(新潟県西蒲原
外釜に 500ml の水を加え、うちふたに 5 つのアル
産)、夢十色(中央農研北陸センターより)、華麗
ミカップを並べ、25 分の蒸し調理、10 分間の蒸
カレーライス好適米「華麗舞」の特性解明カレーライス好適米「華麗舞」の特性解明
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らし後、25℃・2 時間インキュベーター(TABAI
9. キシラナーゼ活性の測定
REFRIGERATED INCUBATOR, LNL-111)に 保
Megazyme 社製測定キットを用いて、4 本の試
温した。その後無差別に 20 粒を低圧縮・高圧縮
験 管 に 試 料 0.5 g に 0.1 M 酢 酸 緩 衝 液 5 ml(T.
測定に用いた3 )4 )。
longibrachiatum control xylanase 使 用 の 際 は
6. α‐アミラーゼ活性の測定
pH 6 の 0.1 Mess を使用した)を 加え、2 本にキシ
Megazyme 社製測定キットを用いて、ブロッ
ラナーゼ標準液を加えすぐに撹拌し他方 2 本に蒸
クドパラニトロフェニールマルトヘプタオシド
留水を 0.2 ml 加える。室温に 20 分放置後(時々
(BPNPG7)を 基 質 と し、 粗 酵 素 抽 出 液 0.1ml と
撹拌する)、1500 g、10 分間遠心し上清を使用する。
40℃ 20 分間反応後、反応停止液を加えて 400nm
上清 0.5 ml にキシラナーゼ AX タブレットを一
の吸光度を測定して求めた。α - アミラーゼの
錠入れ、40℃ 30 分間保持する。30 分後反応停止
1U は、40℃で1分間に1μmol のパラニトロフェ
液(TrizmaBase 溶 液(pH9))を 5 ml 加 え 強 く 混
ノールを BPNPG7 から遊離する酵素量とした5)。
合し室温に 5 分放置する。混合後ろ過し、590 nm
7. グルコース(還元糖の定量)
における吸光度を測定して求めた。
炊 飯 米 を 凍 結 乾 燥 し、CycloneSampleMill
なお、キシラナーゼ標準液は、A.niger control
(UDYCORPORATION)で 粉 砕 し た 試 料 0.1 g
xylanase(~ 295mU/ml at 40℃, pH4.7)、T.
に 50%エタノールを加え、1 h 振とう後、4℃、
longibrachiatum control xylanase(~ 386mU/ml
15000 rpm、15 分間遠心分離した上澄み液を試料
at 40℃, pH 6.0)をそれぞれ使用した。
抽出液として用いた。
10. RVA による糊化特性の評価
その後、ベーリンガーマインハイム社製の F-
豊島らの方法
キットで求めた。即ち、炊飯液中の遊離 Glc と
行った。ラピッド・ビスコ・アナライザ(Newport
ATP の溶液に HK(ヘキソキナーゼ)を作用させ
scientific 社、RVA-super 4D)を用い粘度曲線と
ると G6P(グルコース 6 -リン酸)を生成する。次
して求めた。使用試料量は精米粉末 3.5 g で純水
に G6P と NADP 溶液に G6P‐DH(グルコース 6 -
25 ml を添加して試験を行った。糊化温度条件は
リン酸脱水素酵素)を作用させると G6P は酸化
初期温度を 50℃として 1 分間保持、加熱は 50 ~
され、グルコン酸 6 -リン酸と NADPH が生成し
93℃まで 3.9 分間とし、93 度にて 7 分間保持し
NADP は 340 nm の吸収波長をもたないためこ
た。冷却は 93 ~ 50℃まで 3.9 分間、最終温度で
の NADPH が吸収する 340 nm の紫外線の吸光度
は 50℃で 3 分間保持と設定した。
の増加分を定量し炊飯米中の遊離 Glc 含量を求
11. 物理化学測定結果の相関関係
めた。
前述の一般成分測定値、糖化関連酵素活性測定
8. α - グルコシターゼ活性の測定
6)
7)
により、糊化粘度特性試験を
値、米飯物性測定値、糊化特性値の相関関係を調
基質 4- ニトロフェニルα - グルコシド(PNPG)
べた。
1 ml を 37℃、5 分間予備加温し、酵素抽出液 0.05 ml
12. 試料米の DNA 判別
を加えて、37℃ 10 分間反応後停止液(Na 2 CO 3 )
(1)試料
0.5 ml を加えて反応を停止し、400 nm における
インディカ型イネとして、IR2061、夢十色、サ
吸光度を測定して求めた。1U は、37℃で 1 分間
リークイーン、日印交雑種として、ホシユタカ、
に1μmol のパラニトロフェノールを PNPG から
密陽 23 号、ジャポニカ型イネとして、コシヒカリ、
遊離する酵素力とした。
日本晴、アキヒカリ、朝の光、大地の星を用いた。
100
浦上財団研究報告書 Vol.18(2011)
(2)試料の調製
方法で、ガラスビーズ(タカラバイオ(株)製
1)精米粉末試料
EASY TRAPTM Ver. 2)を使用し、得られた
籾試料をケット科学研究所製の試験用籾摺
DNA を Invitrogen 社製 TOP XL Cloning Kit
り器で籾摺りし、ケット科学研究所製の試験
によりクローニングした.既報 1 )と同様に、
用精米機(パーレスト)を用いて精米歩留まり
アルカリミニプレップ法(QIAGEN QIAprep
90%の精米試料を得た。この精米試料をイワ
Spin Miniprep Kit)を用い、得られたインサ
タニ製のミルサー(IFM -100)を用いて粉砕
ー ト DNA を 鋳 型 と し、ABI 社 の Big Dye
し、試料同士コンタミがないように品種ごと
Termination VⅠ. Ⅰ Cycle Sequencing Kit に
に洗浄と清掃を行い粉末試料とした。
よ り PCR を か け、Applied Biosystems 社 製
2)CTAB 法による DNA の抽出および精製
ABI PRISM 310 により塩基配列を決定した.
16)17)
と同様の方法で、精米歩留まり
PCR 装置は ABI 社製 Gene Amp PCR System
90%の精米試料を得,精米試料を粉砕し、粉
9700 およびタカラバイオ(株)社製 TaKaRa
末試料とした.精米粉末試料 0.4 g から CTAB
PCR Thermal Cycler Dice を使用し、対合プ
用い DNA を抽出し、クロロホルム - イソアミ
ライマーの合成はファスマック株式会社に依
ルアルコールと中性フェノールを用い精製し、
頼した。プライマーdおよび e は、α - グル
エタノール沈殿させ、鋳型 DNA を回収した。
コシダーゼの同定された塩基配列 4)の 128 塩
前報
基から 705 塩基を増幅するプライマーを設計
3)STS化対合プライマーの調製
プ ラ イ マ ー a は、 既 報
1)
で開発した
し、
(F : 5’-ggt aca acg tcg cgt cgg -3’)
(R : 5’
debranching enzyme 由来インド型識別プラ
- gcc gcc gcc gga gcg cac-3’)日本型米(コシ
イマーである。プライマー b も既報1 )で開発
ヒカリ、日本晴、ヒヨクモチ)とインド型米(カ
したデンプン合成酵素由来プライマーである。
サラス、IR2061、夢十色)の鋳型 DNA を用い
2)3)
より
PCR を行った結果、日本型米およびインド型
引用し、インド型米と日本型米の塩基配列の
米同士に共通なバンドが出現した。これらの
相違部分に着目し、SS Ⅰ由来のインド型米に
各識別バンドをクローニングし塩基配列を決
のみ識別バンドが出現するように設計し、こ
定したものである(表 1)。
プライマー c は SS Ⅰの遺伝子を文献
のプライマーを用い華麗舞に出現した識別バ
ンドをクローニングし、塩基配列を決定した
ものである。DNA の回収は、既報 1 )と同様の
実験結果及び考察
1. 精米特性及び成分
表 1 PCR に用いた各種のプライマーの塩基配列
101
カレーライス好適米「華麗舞」の特性解明カレーライス好適米「華麗舞」の特性解明
表 2 精米特性と一般成分
白米粗タンパク質含量
精米水分
精粉水分
玄米粗タンパク質含
量
(AsIs)
試料名
(%)
平均
SD
(%)
平均
SD
(%)
平均
アミロース含量
グルコース含量
(%)
(g/l)
(DM)
(%)
SD
平均
SD
平均
SD
平均
SD
コシヒカリ 90%
13.2 ± 0.058
12.09 ± 0.05
4.67 ± 0.058
5.50 ± 0.100
19.41 ± 0.190
0.052 ± 0.001
夢十色 90%
12.8 ± 0.058
12.42 ± 0.03
5.10 ± 0.173
5.97 ± 0.231
31.76 ± 0.306
0.039 ± 0.002
華麗舞 90%
12.4 ± 0.058
12.44 ± 0.02
4.83 ± 0.231
5.63 ± 0.321
19.50 ± 0.190
0.056 ± 0.002
コシヒカリ 80%
12.8 ± 0.058
11.63 ± 0.05
6.73 ± 0.058
7.87 ± 0.115
19.85 ± 0.450
0.052 ± 0.001
夢十色 80%
12.6 ± 0.058
11.90 ± 0.01
6.63 ± 0.058
7.67 ± 0.115
33.12 ± 0.095
0.050 ± 0.008
華麗舞 80%
12.0 ± 0.000
11.90 ± 0.01
6.63 ± 0.052
7.67 ± 0.058
20.14 ± 0.145
0.067 ± 0.002
コシヒカリ 70%
12.5 ± 0.058
14.25 ± 2.49
6.17 ± 0.058
7.10 ± 0.000
20.46 ± 0.095
0.043 ± 0.001
夢十色 70%
12.2 ± 0.153
11.74 ± 0.04
5.97 ± 0.058
6.90 ± 0.000
33.25 ± 0.334
0.051 ± 0.002
華麗舞 70%
11.6 ± 0.100
11.46 ± 0.05
5.90 ± 0.000
6.77 ± 0.058
20.71 ± 0.240
0.062 ± 0.002
試料のとう精度ごとの精米特性、一般成分につ
が多いものの、品種ごとのタンパク質含量の大き
いての測定結果を表 2 に示した。
な違いは見られなかった。AsIs より DM が上回っ
(1)精米成分
たことは、ぬか中に含まれるタンパク質量の影響
表 2 に示すように、精米の水分は 11.6 ~ 13.2%
であると考えられる。ただし、とう精度で比較検
の範囲に分布していた。精米水分はとう精度が高
討すると、とう精度が 90%のときタンパク質含
くなるほど、水分含量が下がっていることが分か
量の割合が比較的少なく、とう精度が高くなるご
った。これはとう精過程での水分減少に加えて、
とに、タンパク質含量の割合はわずかに増加した。
貯蔵中に水分が減少して、とう精度が高くなるの
また、AsIs も DM も、とう精度が 80 %の米粒に
と並行して水分を蓄える量も少なくなるためだと
多く含まれている傾向を示した。これらは外層よ
考えられる。どの試料にもいえることから、精米
りも内層に近い部分にタンパク質が多く含まれて
の水分含量に大きな差はないと考えられた。
いることを示している。高タンパク質であるほど
またコシヒカリの水分含量が 14 . 5 %と他の値
色調や吸水性が低下し、糊化、膨化が抑制され、
と比較して高い値を示した原因については、再度
硬く、粘りの少ない飯になることから8)、とう精
検討したい。
度が 80%の米粒では、硬く粘りが少ないと考え
(2)タンパク質含量
ここでは白米粗タンパク質含量を AsIs、玄米
粗タンパク質含量を DM と簡略する。
られる。後述した米飯物性と比較検討する必要が
ある。
(3)アミロース含量
表 2 に示すように、
コシヒカリでは AsIs が 4 . 6 7
今回の結果では、アミロース含量はこれまでの
~ 6 . 7 3 %、DM が 5 . 5 0 ~ 7 . 8 7 %、同様に夢十
報告よりやや高めの値を示す結果となった。しか
色 が 5 . 1 0 ~ 6 . 6 3 %、5 . 97 ~ 7 . 6 7 %、 華 麗 舞 が
し以下のように、試料米の品種間さや部位別の相
4 . 8 3 ~ 6 . 6 3%、5 . 6 3 ~ 7 . 6 7%と、わずかに DM
違について明らかにすることができた。
102
浦上財団研究報告書 Vol.18(2011)
図1 とう精度が異なる米粒のヨウ素複合体吸収波長含量
表 2 が示すように、とう精度が高いほど、アミ
たと考えられる。とう精度が高いほど吸光度が増
ロースが高くなっていることが分かる。高アミロ
加することから、とう精度が高いほどアミロース
ース米である夢十色は 31 . 7 6 ~ 33 . 27 %、良食味
含量が高いことがスペクトルからも確認できた9)。
米であるコシヒカリは 19 . 41 ~ 20 . 46 %、華麗舞
(4)グルコース含量
は 19 . 50 ~ 20 . 71 %と、華麗舞はコシヒカリに近
表 2 が示すように、全品種中、華麗舞のグルコ
い結果を表した。ゆえに、アミロース含量では外
ース含量は高い傾向を示した。とう精度ごとに見
層も内層も、華麗舞はジャポニカ種の影響を受け
るとコシヒカリは 0 . 043 ~ 0 . 052 g/l、夢十色は
ていることが明らかとなった。
0 . 039 ~ 0 . 051g/l、華麗舞は 0 . 056 ~ 0 . 062 g/l と、
米粒の外層部、内層部のアミロース分布の差異
夢十色とコシヒカリにとう精度ごとの違いはみら
を検討するため、とう精度ごとのヨウ素複合体吸
れなかった。とう精度によるグルコース含量の変
収波長の結果を 図 1 に示した。最大吸収波長はコ
化から、夢十色ではグルコースが米飯粒の内層に
シヒカリ、華麗舞は 575 nm ~ 600 nm 付近に存在
比較的多く、コシヒカリでは米飯粒の外層に多い
し、夢十色は 600 nm 付近に存在した。夢十色はア
という傾向が認められた。今後さらに詳しく検討
ミロース含量が高いことから、アミロース含量率
する必要がある。
が高いほど、最大吸収波長が長波長側にシフトし
表 3 に精米の酵素活性の測定結果を示した。
表 3 精米の酵素活性の測定結果
αーアミラーゼ活性
αーグルコシダーゼ活性
(μ/g)
試料名
平均
キシラナーゼ(pH4.7)
(μ/g)
SD
平均
キシラナーゼ (pH6.0)
(U/g)
SD
平均
(U/g)
SD
平均
SD
コシヒカリ 90%
0.0259
±
0.0004
0.0520
±
0.0023
0.0054
±
0.00035
0.025
±
0.00125
夢十色 90%
0.0344
±
0.0022
0.0469
±
0.0009
0.0058
±
0.00005
0.022
±
0.00107
華麗舞 90%
0.0541
±
0.0018
0.0631
±
0.0010
0.0055
±
0.00014
0.021
±
0.00270
コシヒカリ 80%
0.0150
±
0.0011
0.0564
±
0.0007
0.0062
±
0.00063
0.029
±
0.00297
夢十色 80%
0.0125
±
0.0042
0.0465
±
0.0017
0.0059
±
0.00018
0.020
±
0.00383
華麗舞 80%
0.0263
±
0.0025
0.0650
±
0.0033
0.0061
±
0.00115
0.024
±
0.00043
コシヒカリ 70%
0.0150
±
0.0033
0.0581
±
0.0014
0.0056
±
0.00125
0.021
±
0.00154
夢十色 70%
0.0131
±
0.0028
0.0492
±
0.0050
0.0054
±
0.00025
0.021
±
0.00032
華麗舞 70%
0.0176
±
0.0045
0.0638
±
0.0005
0.0064
±
0.00255
0.023
±
0.00119
カレーライス好適米「華麗舞」の特性解明カレーライス好適米「華麗舞」の特性解明
(1)α - アミラーゼ活性
103
ば耐熱性もあることから、炊飯中により甘みの強
全体を見ると、とう精度が 90 %の米粒で活性
い米になり、食味もよくなるという Awazuhara
が最も高いことが分かった。これはα- アミラーゼ
の報告 11)と一致し、改めて確認できた。
が、デンプン層の外層のアリューロン層から分泌
(3)キシラナーゼ活性
されることから、表層部に影響が強く受けている
表 3 が 示 す よ う に、 コ シ ヒ カ リ は pH 4.7 の
ことから考えられる。とう精度ごとにみると、華
時、0.0054 ~ 0.0062 U/g、pH 6.0 の 時、0.021 ~
麗舞がどのとう精度においても活性が強い。この
0.029 U/g、同様に夢十色は 0.0054 ~ 0.0059 U/g、
ことから華麗舞の表層部では特にアミラーゼ活性
0.020 ~ 0.022 U/g、華麗舞は 0.0055 ~ 0.0064 U/g、
が活発に働いていることが確認できる。またアミ
0.021 ~ 0.024 U/g と pH が異なっても、品種ごと
ラーゼはデンプンをα- 1 . 4 結合でランダムに切断
に大きな違いは見られなかった。とう精度ごとに
し、デキストリンや少糖類を生成することからグ
おいて、コシヒカリ、夢十色はとう精度が 80%
ルコース含量と相関があることが示唆される。し
のときに活性の値が大きく、華麗舞はとう精度が
かしながら後述するように、全体の相関はみられ
70%のときに活性の値が大きかった。一般的に、
なかった( r = 0.083、p > 0.05)。また華麗舞だけ
硬く粘りの少ない米飯では、細胞壁の崩壊の程度
においても、グルコースと有意の相関はなかった。
が小さく、米飯の軟らかく粘るものでは、細胞壁
(2)α - グルコシダーゼ活性
の崩壊程度が大きいといわれているが、硬く粘り
表 3 が示すように、コシヒカリは 0.520 ~ 0.581
の少ないといわれている夢十色や、軟らかく粘り
μ/g、夢十色は 0.465 ~ 0.492μ/g、華麗舞は 0.631
があるといわれているコシヒカリでは相違がみら
~ 0.650μ/g と、華麗舞がα- グルコシダーゼ活
れなかった。これは 30 分間という反応時間の問
性値が高いことが分かる。全品種において、図 2
題や試薬の量の問題が考えられる。
が表すように、とう精度が高くなるほどα- グル
2. 米飯物性
コシターゼ活性が高くなる傾向を示した。このこ
表4にはテンシプレッサーによる米飯表層の物
とから、α- グルコシダーゼは内層で活発に働く
性を、表 4 には米飯全体の物性の測定結果を示
ことが明らかとなった。一般的にα- グルコシダー
した。
ゼ活性が高いほど食味がよいと推察され 10)、結
(1)表層部
果からみて良食味米といわれるコシヒカリはイン
表 4 が示すように、米飯表層の物性については、
ド型の夢十色より、値が高い傾向にあった。米外
全体的に、コシヒカリは軟らかくて粘りが強く、
部より内層に活性が強い、この酵素活性が高けれ
夢十色は硬くて粘りが弱いという結果となった。
これは、一般的な傾向とほぼ同一となった。一方、
華麗舞は、夢十色よりは軟らかく、粘りが強いも
のの、コシヒカリに比べると、硬くて粘りが弱く、
付着性も弱い結果となった。すなわち、華麗舞は、
日本型のコシヒカリと、インド型の夢十色との中
間的な表層物性を示す結果となった。
(2) 米飯全体の物性
(r= 0.717)
図 2 とう精度別α - グルコシダーゼ活性量
表 5 が示すように、全体的に見ると表層と同じ
く夢十色は硬く、粘りが弱く、コシヒカリ・華麗
104
浦上財団研究報告書 Vol.18(2011)
表 4 テンシプレッサーによる米飯表層の物性の測定結果
表層の硬さ
試料名
(H1,10 ^ 3dyn)
平均
コシヒカリ 90%
SD
表層の粘り
表層の付着量
表層の付着性
表層のバランス度 1
表層のバランス度 2
(-H1,10 ^ 3dyn)
(L3,mm)
(A3,10 ^ 5erg)
(-H1/H1)
(A3/A1)
平均
SD
平
平
SD
均
均
平
SD
均
SD
平
SD
均
98.41 ± 13.39
8.50 ± 4.73
2.95 ± 0.46
0.51 ± 0.20
0.09 ± 0.05
0.25 ± 0.11
夢十色 90%
110.40 ± 10.75
1.68 ± 0.52
1.89 ± 0.45
0.11 ± 0.05
0.02 ± 0.00
0.06 ± 0.02
華麗舞 90%
98.65 ± 12.15
6.28 ± 4.54
2.33 ± 0.60
0.25 ± 0.20
0.06 ± 0.05
0.12 ± 0.12
コシヒカリ 80%
89.03 ± 12.74
16.74 ± 4.91
3.08 ± 0.44
1.04 ± 0.35
0.19 ± 0.06
0.57 ± 0.22
夢十色 80%
113.00 ±
9.37
2.50 ± 0.72
1.84 ± 0.67
0.12 ± 0.08
0.02 ± 0.01
0.05 ± 0.03
華麗舞 80%
96.59 ±
8.38
11.23 ± 4.37
2.46 ± 0.02
0.30 ± 0.27
0.12 ± 0.05
0.33 ± 0.16
コシヒカリ 70%
89.10 ±
9.30
10.34 ± 4.39
3.15 ± 0.04
0.66 ± 0.23
0.12 ± 0.05
0.34 ± 0.13
夢十色 70%
94.36 ± 11.79
2.38 ± 0.79
1.83 ± 0.68
0.11 ± 0.09
0.03 ± 0.01
0.05 ± 0.05
華麗舞 70%
99.25 ±
7.10 ± 5.12
2.52 ± 0.12
0.31 ± 0.24
0.07 ± 0.05
0.18 ± 0.13
7.20
表 5 テンシプレッサーによる米飯全体の物性の測定結果
全体の硬さ
試料名
全体の粘り
(H2,10^6dyn)
(‒H2,10^6dyn)
平均
平均
SD
SD
全体の付着量
全体の付着性
(L6,mm)
平均
全体のバランス度 1
(A6,10^6erg)
SD
平均
SD
全体のバランス度 2
(‒H2/H2)
平均
SD
(A6/A4)
平均
SD
コシヒカリ 90%
2183.0 ± 154.7
291.6 ± 70.2
0.201 ± 0.536
6.18 ± 2.72
0.134 ± 0.034
0.056 ± 0.022
夢十色 90%
2553.0 ± 321.6
44.9 ± 47.9
0.012 ± 0.037
3.17 ± 1.23
0.019 ± 0.021
0.022 ± 0.010
華麗舞 90%
2187.0 ± 179.5
289.5 ± 46.2
0.128 ± 0.315
7.24 ± 2.60
0.133 ± 0.025
0.070 ± 0.021
コシヒカリ 80%
2264.0 ± 284.9
298.9 ± 55.5
0.054 ± 0.236
10.34 ± 2.68
0.136 ± 0.039
0.099 ± 0.027
夢十色 80%
2722.0 ± 216.5
61.6 ± 44.4
0.031 ± 0.116
3.81 ± 0.95
0.024 ± 0.018
0.025 ± 0.006
華麗舞 80%
2091.0 ± 141.4
328.6 ± 42.7
0
8.40 ± 2.24
0.159 ± 0.031
0.089 ± 0.028
コシヒカリ 70%
1928.0 ± 190.9
278.5 ± 54.0
0.052 ± 0.225
6.88 ± 2.38
0.146 ± 0.032
0.075 ± 0.026
夢十色 70%
2397.0 ± 322.6
103.9 ± 65.6
0.044 ± 0.132
4.19 ± 0.93
0.045 ± 0.033
0.033 ± 0.009
華麗舞 70%
1985.0 ± 125.8
354.9 ± 41.3
0.13
8.29 ± 2.92
0.18
0.092 ± 0.035
0 ±
± 0.391
± 0.03
舞は軟らかく、粘りが強い結果になった。とう精
た。バランス度 1、2(-H2/H2, A6/A4)を見ても、
度別に見ると、全体の硬さ(H2)はコシヒカリ・
とう精度が高くなるに従い、値が増加しているこ
夢十色はとう精度 80%で値が最も高く、華麗舞
とから、この推察は妥当ではないかと考えられる。
はとう精度が高くなるにつれて値は減少してい
表 3 の結果に基づいて、前述したとおり、米飯表
た。全体の粘り(S2)は、コシヒカリではとう精
層の物性においても、華麗舞は、インディカ種と
度 80%で値が最も高く、夢十色・華麗舞は、と
ジャポニカ種の両方の影響を受けていると考えら
う精度が高くなるにつれて増加していた。華麗舞
れたことから、米飯全体の物性においても、内層
は、とう精度が高くなるにつれ軟らかくなり粘り
ではジャポニカ種が大きく影響したことからこの
が強くなることから、米飯全体の物性でみると、
ような結果になったと考えられる。
表層部ではインディカ種の、内層部ではジャポニ
米飯全体の米飯物性では、とう精度が 80%で
カ種の影響を受けているのではないかと考察し
最も硬く粘りが強い米であり、全体のバランス度
105
カレーライス好適米「華麗舞」の特性解明カレーライス好適米「華麗舞」の特性解明
2(A6/A4)は最も値が高かったが、バランス度 1
ほど食味がよいとされている。華麗舞は日印交雑
(-H2/H1)はとう精度 70%よりも値が低く出た。
から表面が硬く内層が軟らかいといわれている。
しかしながら、タンパク質含量はとう精度 80%
この結果から華麗舞の内層の食味がよいことが明
で最も高い値を示した。このことから、われわれ
らかとなった。
日本人にとっては、一口目にはとう精度が 80%
最終粘度は老化を表す値であり、高アミロース
の米飯物性が好まれるが、咀嚼に時間が経つほど、
米である夢十色が 513 . 8 RVU と最も高い結果と
食味は好まれないのではと推察した。
なった。華麗舞とコシヒカリは、とう精度別に
3. 糊化粘度特性
見てもとう精度が高くなるにつれ値が減少してい
表 6 には RVA による各とう精歩合における品
ることから、表層が老化しやすく、華麗舞の老
種の糊化粘度特性値を示した。
化はジャポニカ種と同じ性質を持つことが示唆さ
と う 精 度 90 % で の 品 種 別 で 比 較 す る と、 最
れた。
高粘度と崩壊度を示すブレークダウンは、華麗
糊化開始温度は、華麗舞がどのとう精度におい
舞 が 412 . 5 RVU、234 . 25 RVU と 最 も 高 く、 夢
ても高い温度を表した。コシヒカリ、夢十色の糊
十 色 は 395 . 28 RVU、149 . 33 RVU、 コ シ ヒ カ リ
化開始温度に大きな相違が見られないことから、
366 . 94 RVU、234 . 25 RVU と い う 結 果 に な っ た。
日印交雑種であるために温度が高くなったのでは
そして、とう精度が高くなるにつれてコシヒカリ
ないかと推定した。
は増加し逆に夢十色は減少した。華麗舞はとう精
アミロース含量はα- グルコシダーゼ活性、表
度 80 %がもっとも高い値となった。
層の硬さ(H1)以外の表層部の米飯物性、全体の
最 低 粘 度 は 夢 十 色 が 245 . 94 RVU と 最 も 高
硬さ(H2)、ブレークダウンと高い負の相関を示
く、 次 い で 華 麗 舞 が 178 . 25 RVU、 コ シ ヒ カ リ
した。従来報告されている通り、最低粘度と高い
147 . 61 RVU という結果になった。とう精度別に
正の相関がみられた。他に最終粘度、コンシステ
見ると、コシヒカリはとう精度が高くなるほど値
ンシーと高い正の相関が見られた。このことから、
が増加し、逆に華麗舞は値が減少していた。最低
アミロース含量は食味に負の影響を与える因子と
粘度は食味と関係があり、最低粘度の値が小さい
確認できた。
表 6 精米の糊化粘度特性
試料名
最高粘度
最低粘度
最終粘度
(RVU)
(RVU)
(RVU)
平均
SD
平均
SD
平均
ブレークダウン
(RVU)
SD
平均
セットバック
(RVU)
SD
平均
糊化開始温度
(℃)
SD
SD
コシヒカリ 90%
366.94 ± 4.33
147.61 ± 0.88
231.89 ± 9.54
219.33 ± 3.50
夢十色 90%
395.28 ± 12.97
245.94 ± 13.85
513.80 ± 7.76
149.33 ± 8.99
118.53 ±
5.31
67.88 ± 0.03
華麗舞 90%
412.50 ± 4.23
178.25 ± 3.80
319.69 ± 4.67
234.25 ± 0.72
-92.81 ±
1.17
70.03 ± 0.10
コシヒカリ 80%
382.22 ± 7.60
152.61 ± 3.94
200.61 ± 5.55
229.61 ± 3.77
-181.61 ± 12.78
67.83 ± 0.06
夢十色 80%
390.56 ± 6.74
241.58 ± 4.58
499.36 ± 5.05
148.97 ± 2.16
108.80 ±
3.85
66.87 ± 0.40
華麗舞 80%
390.67 ± 4.10
175.83 ± 2.63
306.03 ± 3.34
214.83 ± 2.73
-84.64 ±
2.85
69.98 ± 0.03
コシヒカリ 70%
387.72 ± 3.60
154.11 ± 3.84
195.72 ± 2.79
233.61 ± 1.02
-192.00 ±
5.96
67.87 ± 0.08
夢十色 70%
390.14 ± 3.19
244.03 ± 4.40
503.33 ± 2.14
146.11 ± 1.29
113.19 ±
2.48
67.17 ± 0.06
華麗舞 70%
400.61 ± 3.36
174.72 ± 1.06
304.03 ± 0.97
225.89 ± 2.48
-96.58 ±
3.09
70.05 ± 0.00
ブレークダウン:最高粘度―最低粘度、セットバック:最終粘度―最高粘度
-135.06 ± 11.14
平均
67.37 ± 0.42
106
浦上財団研究報告書 Vol.18(2011)
グルコース含量とα- グルコシダーゼ活性と高
A1)と高い正の相関を持つことから、キシラナー
い正の相関が見られた。α- グルコシダーゼは、
ゼ活性も食味に影響を与えている可能性が示唆さ
非還元末端に存在するα- D - グルコシド結合を加
れた。
水分解する酵素であり、α- グルコシダーゼがグ
表層の粘り(S1)と表層のバランス度2(A3/
ルコース生成に大きく寄与していることが確認で
A1)、 そ し て 全 体 の 粘 り(S2)、 全 体 の 付 着 性
きた。
(A6)、全体のバランス度 1、2(-H2/H2、A6/A4)
α- グルコシダーゼ活性は表層の硬さ(H1)以外
は糊化特性であるブレークダウンと高い正の相関
の表層部の米飯物性、全体の硬さ(H2)、ブレー
を、最低粘度、最終粘度、セットバックとは高い
クダウンと高い正の相関が見られた。これは岩田
負の相関を示した。
7)
らの報告 と一致していた。
(4)各種(インド型・日本型・日印交雑)の稲品
キシラナーゼ活性は pH 6.0 の試料を用いた場合
種の PCR 結果
のみ、表層の粘り(S1)、表層のバランス度(-H1/
表 1 のプライマーを用い、PCR を行った結果
H1,A3/A1)等と高い正の相関が見られた。そし
を図 3 と表 7 に示す.a のプライマー(debranching
て米粒中心部より外側に細胞壁の崩壊がおこるこ
enzyme 由来インド型識別)を用いて PCR を行っ
とから、表層部の米飯物性と高い相関が出たと考
た結果、IR2061、夢十色、サリークイーン、ホ
えられる。また表層のバランス度( -H1/H1, A3/
シユタカ、密陽 23 号にのみ識別バンドが出現し、
1: IR2061 2 : 夢 十 色 3 : ホシユタカ 4 : サリークイーン 5 : 密 陽 23 号 6 : コシヒカリ 7 : 日 本 晴 8 : アキヒカリ 9 : 朝の光 10 : 大地の星 11 : 華 麗 米
図 3 デンプン合成酵素および分解酵素由来プライマーによる PCR 結果
表 7 各種(インド型・日本型・日印交雑)米品種の PCR 結果
試料名 / プライマー
IR 2061
夢十色
ホシユタカ
サリークイーン
密陽 23 号
コシヒカリ
日本晴
アキヒカリ
朝の光
大地の星
華麗舞
a
b
+
+
+
+
+
−
−
−
−
−
−
−
−
+
−
−
+
+
−
+
−
−
プライマー
c
d
e
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
+
−
−
−
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
−
−
−
−
−
+
カレーライス好適米「華麗舞」の特性解明カレーライス好適米「華麗舞」の特性解明
華麗舞にはバンドが出現せず、このプライマーで
は華麗舞は日本型の特徴を示した。
107
く、α - グルコシダーゼ活性、キシラナーゼ
(pH4.0, pH6.0)は、とう精度が高くなるにつ
b のプライマーを用いた PCR では、日本型の
れて値が増加する傾向を示した。華麗舞の
良食味米に共通して識別バンドが出現するが、密
α - アミラーゼ活性、α - グルコシダーゼ活
陽 23 号、アキヒカリ、華麗舞ともバンドが出現
性が最も高く、華麗舞は外層でα - アミラー
しなかった。
ゼ活性が、内層で α - グルコシダーゼ活性
c のプライマー(デンプン合成酵素 SS Ⅰ由来)
値が高い傾向を示した。
を用いた PCR の結果、インド型、日本型ともに
3) とう精度が高くなるにつれ、コシヒカリ
他品種では識別バンドが出現せず、華麗舞のみに
は軟らかく粘りが強く、夢十色は硬く粘り
識別バンドが出現した。この識別マーカーはきわ
が弱いという一般的に言われている結果と
めて有用と思われる。
なった。華麗舞は表層の米飯物性ではコシ
d のプライマー(α- グルコシダーゼ由来日本型
ヒカリと夢十色の中間的な傾向を示したが、
米識別)を用いた PCR の結果、サリークイーン
全体の物性においても、日印交雑の特徴を
(低アミロースインディカ米)、密陽 23 号、コシ
ヒカリ、日本晴、アキヒカリ、朝の光、大地の星
持っていた。
4) とう精度が高くなるにつれ、コシヒカリ
および華麗舞に識別バンドが出現した。このプラ
では最高粘度、最低粘度、ブレークダウン、
イマーは軟らかいインド型米と日本型米に共通し
糊化開始温度は増加する傾向が見られ、逆
てバンドが出現する。
に最終粘度、セットバックは減少する傾向
e のプライマー(α- グルコシダーゼ由来インド
が見られた。夢十色はコシヒカリとは逆の
型米識別)を用いた PCR の結果、IR2061、夢十色、
傾向を示した。一方、華麗舞では、最高粘
サリークイーン、ホシユタカ、密陽 23 号、華麗
度は最も値が高いものの、その他の糊化特
舞に識別バンドが出現し、このプライマーでは華
性の項目ではジャポニカ種であるコシヒカ
麗舞はインド型の特徴を示した。
リと同等の結果を表した。華麗舞の糊化開
これらの結果、華麗舞は日本型米とインド型米
始温度が高い傾向を示したのは、日印交雑
の交雑種としての独特の特徴を示し、SSI に由来
種のためである可能性があげられる。
する c のプライマー共存下の PCR によって他品
種と識別できることが明らかとなった。
要 約
5) アミロース含量とα - グルコシダーゼ活性
は互いに、逆の相関の性質をもつことが推
定される。グルコースとα - グルコシダーゼ
活性が高い正の相関を持つことから、いず
日印交雑種である華麗舞及び日本型とインド型
れの品種においても最終的にはα - グルコシ
の比較米の理化学的特性を評価した。
ダーゼが大半のグルコース生成に寄与して
1) 一般成分結果では、90%、80%、70%と
いると考えられた。
とう精度が高くなるにつれて、値が増加す
6) デンプン合成酵素やデンプン分解酵素に
る傾向が見られた。華麗舞のアミロース含
由来する各種のプライマーによる PCR を行
量はコシヒカリと同じ傾向を示し、グルコ
った結果、華麗舞は日本型とインド型の交
ース含量は最も高い値となった。
雑種としての独特の結果を示し、SSI 由来
2) α - アミラーゼ活性は表層部の活性が強
のプライマーによって他品種と識別できる
108
浦上財団研究報告書 Vol.18(2011)
ことが明らかになった。
謝 辞
本研究を行うに当たり、助成いただきました
(財)浦上食品・食文化振興財団に深く御礼申し上
げます。また、試料米を提供いただきました(独)
農研機構中央農研・北陸研究センターの三浦清之
粘度特性の微量迅速測定方法に関する共同試験、食料
工、44, 579-584, 1997.
8) 竹生新治郎監修、石谷孝佑、大坪研一編、米の科学、
pp.20-24, 1995.
9) 大西真理子、小川宣子、山中なつみ、庄司一郎、搗精
度が米の性状に及ぼす影響、家政誌、48, 303-313, 1997.
10) 岩田 博、岩瀬新吾、高浜圭誠、松浦宏行、猪谷富雄、
荒巻 功、米α - グルコシダーゼ活性と理化学特性値との
関係、食料工、48, 482-490, 2001.
博士に感謝いたします。
11) AWAZUHARA M., NAKAGAWA A., YAMAGUCHI J.,
FUJIWARA, T., HAYASHI H., HATAE K., CHINO M and
SHIMADA A. : J. Agric. Food Chem., 48, 245, 2000.
文 献
12) 中村澄子、鈴木啓太郎、伴義之、西川恒夫、徳永國男,
いもち病抵抗性に関する同質遺伝子系統 「コシヒカリ新潟
BL」 の DNA マーカーによる品種判別育種学研究、8 (3),
79-87, 2006.
1) Juliano, B.O., A simplified assay for milled rice amylase,
Cereal Science Today, 16,334, (1971)
2) 農林水産技術会議事務局、品質評価基準に関する研究
会報告書、米 -99, 1991.
3) 岡留博司、豊島英親、大坪研一、単一装置による米飯
物性の多面的評価、食料工、43, 1004-1011, 1996.
13)中村澄子、岡留博司、與座宏一、原口和朋,奥西智哉,
鈴木啓太郎、佐藤光,大坪研一、PCR 法による世界の
広範囲な特性の米の識別および食味要因の探索、農化
農業技術研究所研究報、78 (8), 764-779, 2004.
4) 岡留博司、豊島英親、須藤 充、安東郁男、沼口憲治、
堀末 登、大坪研一、米飯1粒の多面的物性測定に基
づく米の食味評価、食料工、45, 398-407、1998.
14)大坪研一、中村澄子、今村太郎、米の PCR 品種判別
によるコシヒカリ用判別プライマーセットの開発、農化、76,
388-397, 2002.
5) MCCLEARY, B.V. and SHEEHAN, H.: Journal of Cereal
Science, 6, 237, (1987)
15)大坪研一、中村澄子、岡留博司、DNA 判別による米の
食味推定、食科工、50,122-132, 2003.
6)今井泰彦・徳武昌一・山次信幸・鈴木 勝:醸協、92,
296, 1997.
16)NAKAMURA S. and OHTSUBO K.: J. Cereal Science, 52,
16-21, 2010.
7) 豊島英親、岡留博司、大坪研一、須藤 充、堀末 登、
稲津 脩、成塚彰久、相崎万裕美、大川俊彦、井ノ内直
良、不和英次、ラピッド・ビスコ・アナライザーによる米粉
17)NAKAMURA S. and OHTSUBO K.: J. Cereal Science, 投
稿準備中。
Characterization of suitable rice for curry rice, “Kareimai”
Characterization of suitable rice for curry rice, “Kareimai”
Ken’ichi Ohtsubo, Sumiko Nakamura, Mizuho Suzuki
Faculty of Agriculture, Niigata University
Physicochemical properties of Indica-Japonica hybrid rice, Kareimai, were evaluated
in comparison with Japonica rice, Koshihikari and Indica rice, Yumetoiro. Results are as
follows;
1. Chemical components, such as amylose, increased according to milling degree.
Kareimai showed similar tendency with Koshihikari in amylase content and it
revealed the highest in glucose.
2. Alpha-amylase activity was higher in surface layer, on the contrary, alphaglucosidase and xylanase showed higher activities in the central layer. Kareimai
revealed highest alpha-amylase and alpha glucosidase activities among the three
cultivars.
3. In terms of physical properties of the cooked rice grains, Koshihikari was softer and
stickier and Yumetoiro was harder and non-stickier according to the proceeding of
the milling degree.
4. Peak viscosity, minimum viscosity, break-down and gelatinization temperature of
Koshihikari increased and final viscosity and set-back decreased in accordance with
milling degree, on the contrary, Yumetoiro revealed opposite tendency. Kareimai
showed similar pasting properties with Koshihikari except its highest peak viscosity.
5. Alpha-amylase and alpha-glucosidase showed negative correlation. As glucose
content in cooked rice shows high positive correlation with alpha-glucosidase
activity, alpha-glucosidase seems to contribute strongly to the generation of glucose
during cooking.
6. As a result of PCR using various kinds of primers derived of starch synthesizing
or digesting enzymes, Kareimai showed characteristic behavior as a Japonica/
Indica hybrid rice and it became possible to differentiate Kareimai with other rice
cultivars.
109