ニッポンに住む 外国人の生活者研究 湘南でフランス出身のご主人とともにフランス 語教室を開校しているボンジさん。多文化国家・ カナダからやってきただけに、料理もボーダーレ ス。フレンチ、イタリアン、エスニック、日本食と、 バラエティ豊かに楽しんでいる。ご主人もフラン ス料理教室を開催するほどの料理上手である。 カナダ トリニダード・トバゴ 郷土料理が少ないカナダ 多様な食生活を楽しんでいます アラナ・ボンジさん(カナダ) 出身はトリニダード・トバゴ めて食べたイシヤキイモも、とてもお ナの葉の香りがポイントという。 いしかった(笑) 」 「チキンをタレに漬け込でからグリ 94 年、日本の学校で語学授業を行う ボンジさんはカナダから日本にやっ ルするジャークチキンもポピュラーな 外国青年招致事業「JET プログラム」 てきたが、出身はカリブ海のトリニ 料理で、タレにはレモンやライム、タ を利用して来日したボンジさん。赴任 ダード・トバゴ。17 歳までここで暮ら イムなどを入れますが、その配合がそ 地はツルの飛来地として知られる鹿児 した。 「トリニダード・トバゴをはじめ、 れぞれ家庭の味になります」 島県出水市。 「来日して3日間は新宿の カリブ地域の食べ物はハバネロなど香 来日の際、さまざまな香辛料を持参 高層ホテルに宿泊、歓迎レセプション 辛料を使ったスパイシーな料理が特徴 したが、ほとんどは日本でも入手でき、 などに参加し、なんて日本は華やかで です。魚介類や肉の煮込み料理が多い 安心したという。 贅沢な国!と思ったのですが、出水に ですね」 行ってビックリ。家の周りに街灯もな 魚介類ではキングフィッシュ(ヒラ いような場所で…」 マサ)やサメ、 タラなど。サメはステー カナダでは大学があったトロントで ちょっぴりホームシックになりか キにして食べるそうだ。肉類ではチキ 暮らした。 「カナダはいろいろな国から かったボンジさんを元気づけてくれた ンがメインだが、ポークやビーフもよ きた移民が多く、まさにコスモポリタ のが、鹿児島の食材。 「サツマイモやト く食卓にのぼるという。 ンです。カリブ海諸国出身者もとても ロイモ、ムラサキイモ…。子どもの頃 料理の中で、ボンジさんが一番楽し 多いです。自国の文化を大切にする人 から親しんできたもので、うれしかっ みにしていたのはクリスマスのパステ たちが多いので、カナダ独自の文化は たし、ホっとしましたね」 。サツマイモ ル(ケーキの意) 。トウモロコシの粉を 育ちにくいですね。食生活も同じで、 をかために茹でて、オリーブオイルを 練ってチキンなどの具を包む。それを カナダの郷土料理というのはあまりな かけたり、グリルで焼いて食べた。 「初 バナナの皮で覆い、蒸したもの。バナ いですね」 18 カナダは日本以上に食材が豊富 カナダといえば、サーモンやメイプ について。MBA も取得している才女 ルシロップを思い浮かべる。サーモン である。 はたしかに日常的に食べるが、メイプ 同校は湘南の閑静な住宅街の一角に ルシロップを好んで使うという習慣は 佇む若草色の一軒家(自宅兼)で、プ あまりないそうだ。 ロバンス(南仏)の雰囲気を漂わせる 従って街にはイタリアンからフレン 明るく、 開放的なつくり。中庭ではミッ チ、中華、エスニック、日本食など、 シェルさんの趣味であるペタンクもで 世界中のレストランがある。またアメ きる。今回の取材もこちらで行ったが、 リカ文化の影響も色濃く、ハンバーガー 当日はミッシェルさんや他の講師が やホットドッグ、フライドチキンなど コックとなり、フランス料理教室が開 のファーストフードも非常に多い。 かれていた。 スーパーなどでは世界中の食材が揃 「主人は料理が好きで、南仏料理のラ う。 「日本食も豊富です。私もそばを自 タトゥユ(野菜の煮込み料理)やスタッ 宅で茹でて食べたこともありますし、 フドベジタブル(野菜に米などを詰め カップ麺はよく食べました(笑) 。日本 て焼いたもの) 、キッシュなどをよく 外食の場合は、イタリアンやエス のビールも売られていました」 作ってくれます」 ニックなど、いろいろな料理を食べに 冷凍食品も日本以上にバリエーショ 日常の料理は当番制ではなく、メ 行くそうだが、近所にはお気入りの居 ンがあるそう。 「カナダは共働き家庭が ニューのアイデアが浮かんだり、時間 酒屋もあるとか。 「食べ物もおいしいで 多く、週末や月末にまとめて食材を買 がある方が作るという。 すが、居酒屋の飾らない雰囲気が好き」 う家庭が多い。従って冷凍食品はとて 「フレンチやイタリアン、 カリブ料理、 来日して 10 数年―。 「当初、こんな も便利で、ほとんどの家庭に冷蔵庫の もちろん、和食も作りますし、何でも に長く日本に住むとは思っていません ほかに冷凍庫があるほどです」 ありですね(笑) 」 。 でした。しかし、人も食べ物も自然も、 和食ではお好み焼きや串揚げが大好 私たちのフィーリングに合うんです。 居酒屋も大好きです きで、梅干も好物の一つ。ただし刺身 生活していく上で、バランスがよい国 ボンジさんは 97 年、彼女の後を追う 類はマグロ以外食べられないとか。お だと思いますね」 ように来日した恋人のフランス・ニー にぎりは高菜の具がお好み。納豆は食 ミッシェルさんも、ニースに多くの ス出身のミッシェル・ボンジさんと結 べられるが、あまり好きではない。 日本人観光客がやってくることから、 婚。2001 年からは藤沢に住み、04 年に 「カナダでもそうでしたが、日本食は 日本に興味を持った。 「湘南はどことな ミッシェルさんが同地で開校したフラ いまや世界中でヘルシーな料理として くニースの雰囲気に似ているそうで ンス語教室「ソレイユプロバンス」で 認知されています。カナダやフランス す。人も東京よりものんびりしていて、 講師を勤める一方、慶応義塾大学でも の料理雑誌でも日本食のレシピがよく マイペースでリラックスできる街。こ 非常勤講師として教えている。テーマ 紹介されています。我が家でもなるべ の素敵な地でこれからもフランス文化 は「企業の社会的責任」とカリブ地域 く、取り入れるようにしています」 を発信していきたいですね」 ■カナダひと口メモ 上はボンジさんが作ったサーモンパピヨット。 一度ソテーしたサーモンにレモンをかけ、さらに グリルし、トマト、エシャロットなどをオリーブ オイルで炒めたソースがかかっている。「サーモン は焼き加減が難しいですね。焼きすぎるとかたく なってしまいますから」。 下はこの日の料理教室でミッシェルさんが作っ た大型エビアルモリカ風(コニャックのフランベ 白ワイントマトソース)。フランス・ブルターニュ 地方の料理。 人口 3.161 万人(2006 年) 。面積は約 997 万㎡ (世界第 2 位、 日本の約 27 倍) 。 首都はオタワ。北アメリカ大陸の北半 分をしめ、広大な国土の約 54%は森 林で、ロッキー山脈、ナイアガラ瀑布 など、豊かな自然に恵まれた国として、 日本人にも人気の国の一つ。16 世紀 に仏英の探検家が往来し、両国の激し い抗争の末、 1759 年に英国の支配下に。 1931 年英国から自治権を保障された (実質的独立) 。19 世紀以降、世界中 から多くの移民者が集まり、多文化が 進んだ。2006 年の国勢調査によると、 15 歳以上のカナダ人の約 24%がカナ ダ以外の国で生まれた移民 1 世で、カ ナダ人の約 21%は複数の母語を持つ か、公用語である英語や仏語以外の母 国語を持つ。 19
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