目 次 ○ ダイジェスト版・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 Ⅰ まえがき・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 Ⅱ 派遣国教育概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 Ⅲ 調査研究を進めるにあたって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 1 事前研修会のシニアアドバイザーの講義内容要約・・・・・・・・・・・6 2 日本における派遣テーマ「学校経営の改善」に関する課題・・・・・・・7 3 派遣テーマに関する訪問国の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 Ⅳ 調査結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 訪問先の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 2 学校経営改善に向けた教職員の育成について・・・・・・・・・・・・・14 11 (1)調査研究テーマと設定理由とその背景・・・・・・・・・・・・・・・14 (2)調査結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 3 組織的に学校経営改善に取り組むための評価活動の在り方について・・・21 (1)調査研究テーマと設定理由とその背景・・・・・・・・・・・・・・・21 (2)調査結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 4 学力向上に向けた授業の工夫を中心とした学校経営改善について・・・・27 (1)調査研究テーマと設定理由とその背景・・・・・・・・・・・・・・・27 (2)調査結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29 Ⅴ 全体の考察とまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 学校経営改善に向けた教職員の育成について・・・・・・・・・・・・・33 2 組織的に学校経営改善に取り組むための評価活動の在り方について・・・34 3 学力向上に向けた授業の工夫を中心とした学校経営改善について・・・・35 33 Ⅵ 実践に向けた展望(研修成果の活用例)・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37 Ⅶ 新たな可能性を求めて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50 Ⅷ 団員氏名所属名簿・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ※個人情報保護の観点から、名簿の掲載を差し控えます。 55 Ⅸ 派遣日程概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56 Ⅹ あとがき・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57 ○ 資料編・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1~26 ○ 実施要項等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1~7 平成24年度教育課題研修指導者海外派遣プログラム 派遣テーマ:学校経営の改善(A-1団) ダイジェスト版 派 遣 国:アメリカ合衆国(ワシントンD.C.,バージニア州,ワシントン州) 派遣期間:平成24年10月3日 ~ 10月13日 (11日間) 調査研究項目 アメリカ合衆国における学校評価と学校改善 の現状を調査研究する。 ①学校経営改善に向けた教職員の育成について ②組織的に学校経営改善に取り組むための評価 活動の在り方について ③学力向上に向けた授業の工夫を中心とした学 校経営改善について 調査結果 ①学校経営改善に向けた教職員の育成について アメリカ合衆国教育省によると,小・中・高等学校の教員の採用は,各必要学士(教育学士,専門 学士)の取得者が各州の教員試験を受験,その合格者が教員採用希望名簿へ登録,また各学校長は 該当学区の教育機関へ教員の募集申請を出し,希望条件に合致した登録者と学校が直接個別面接 ・本採用へとなっていく。教職員の研修は,学校独自に様々な創意工夫を行い実施している場合 が多い。そのため全米教育長協会では,より優れた教員の育成を目指し,教員のスキルアップス タンダード(MCTS)の策定に向けて各州と協議中である。 ②組織的に学校経営改善に取り組むための評価活動の在り方について アメリカ合衆国は,2002年にNCLB法を制定し,各州が学力テストを実施,州政府,学区,学 校に対して学力測定の結果に対する説明責任と毎年の目標達成を求めた。この結果,ある一定の 学力向上が図られた。しかし,NCLB法から10年を経過,その成果や課題が明らかになり,現 在,2014年度までにアメリカ合衆国としてのコモン・コア・カリキュラムを実施し,全米的に評 価基準を統一して学力を向上させようとする動きがある。そのため,各州,各学校では,評価基 準の設置や教員の研修等に組織的に力を注ぐなど,学校経営の改善に取り組んでいる。 ③学力向上に向けた授業の工夫を中心とした学校経営改善について 学校独自のプログラムや方法によって児童生徒の能力育成が図られており,学力に応じて上の学 年の授業を受けたり,三学年合同の授業の受講や特別クラスを編成しての育成プログラム,大学 の単位認定を行える科目を開講したりなど,様々な工夫が行われている。また,個別障害者教育 法に基づき,すべての学校で連邦政府からの資金支給により「個別教育プログラム」を作成し個 に応じた教育を行う義務を課している。この他,専門スタッフの積極的活用や,企業の税金や寄 付,地域住民の教育税(固定資産税の一部)を活用し,学校経営を展開している学校もあった。 主な考察 ①学校経営改善に向けた教職員の育成について アメリカ合衆国では,連邦政府,各州が実情に合わせて予算編成をし,優秀な教員の確保に向け て努力している。特に今回の調査では,校長の学校運営方針に基づいた教員のスキルアップへの 研修制度が創意工夫して行われ,それが学校の組織力の向上に大きく寄与していると感じた。し かし,教員の離職率が大変高く,我が国同様,優秀な教員の育成が大きな課題である。 ②組織的に学校経営改善に取り組むための評価活動の在り方について 法律により,学力向上に関しての具体的な目標が示されることは,学校評価の内容や方法が明確 になり,一定の成果を残すことができた。しかし,課題も多く,現在,各学校長のリーダーシッ プの発揮と,各教職員と協働しながら学校経営改善に取り組む,学校の実態に即した実効性の高 い学校評価活動が今後の求められているところである。 ③学力向上に向けた授業の工夫を中心とした学校経営改善について 学力の向上については,各学校に独自の実践があり,児童生徒のレベルに応じた各校の工夫が展 開されている。また,学力向上につながるという視点から社会性や道徳心などの評価も重要視さ れ,教室移動は1列に並んで静かに歩くことや授業への心構え,姿勢,行いが大切にされており, 日本の教育のよさを再認識し,自信を持って実践していくべきである。 調査結果を学校現場で生かすために(研修成果の活用) 今回のアメリカ訪問における「学校経営の改善の現状」の調査結果を,学校現場等で生かすために, ①小・中・特別支援学校対象用,②高等学校対象用,③管理職用を例示した。 -1- 平成24年度教育課題研修指導者海外派遣プログラム 「学校経営の改善」 A-1団 日程表 日程表 ※ 派遣国名:アメリカ合衆国 日次 月日(曜日) 発着地・滞在地 1 10月3日(水) 成田発 ワシントンD.C.着 2 10月4日(木) ワシントンD.C. 訪 問 先 等 ○ 成田より空路,ワシントンD.C.へ(約12時間30分) ・ワシントンD.C.到着後,バスにてホテルへ ○ U.S. Department of Education(アメリカ教育省)訪問 ○ Council of Chief State School Officers/CCSSO (全米州教育長協会)訪問 3 10月5日(金) ワシントンD.C. ○ Westgate Elementary School(ウエストゲート小学校)訪問 ○ Chesterbrook Elementary School (チェスターブルック小学校)訪問 4 10月6日(土) ワシントンD.C. ○ 教育課題に関する調査研究 ・これまでの調査結果の整理を行う。 5 10月7日(日) ワシントンD.C.発 ○ ワシントンD.C.より空路,シアトルへ(約5時間30分) シアトル着 6 10月8日(月) シアトル ・シアトル到着後,シアトル市内ホテルへ ※祝日(Columbus day) ○ シアトル訪問に関する事前学習(日永先生の事前講義) ・教育課題の協議(※今後の調査内容の再調整) 7 10月9日(火) シアトル ○ Washington State Board of Education オリンピア (ワシントン州教育委員会)訪問 ○ Reeves Middle School(リーブス中学校)訪問 8 10月10日(水) シアトル ○ Washington Association of School Administrators/WASA オリンピア (ワシントン州学校管理協会)訪問 ○ Olympia High School(オリンピア高校)訪問 9 10月11日(木) シアトル タコマ ○ School of The Arts(スクールオブザアーツ高校)訪問 ○ 研修成果のまとめ ・報告書作成の日程の確認と各役割の調整 10 10月12日(金) シアトル ○ シアトル空港より空路,成田空港へ(約10時間30分) シアトル空港発 11 10月13日(土) 成田着 ○ 成田空港到着後,解散 -2- Ⅰ まえがき A-1団 団長 毛利 浩 現在,学校教育には,保護者や地域住民等の信頼に応え,家庭や地域等と連携・協力し, 一体となって,児童生徒の健やかな成長を図っていくことが求められており,そのために は,実効性のある学校経営の改善が重要となってきています。 そのような中,私たちA-1団は, 「学校経営の改善」というテーマの下,学校経営をよ り効果的・効率的なものとするための改善方策について,諸外国の学校における学校経営 の改善や学校評価等の取組について調査し,そこから得られる知見の活用方法等を考える ことを目的に,11 日間にわたってアメリカ合衆国を訪問する機会をいただきました。 夏の事前研修会において,初めて顔を合わせた私たちは,シニアアドバイザーの日永 龍 彦教授から,訪問国アメリカ合衆国の教育事情について適切なアドバイスをいただくとと もに,団員それぞれの学校等での「学校経営の改善」に関する取組の現状や課題を出し合 いながら,調査研究のテーマを絞り込んでいきました。 そして,具体的なテーマとして,A「学校経営改善に向けた教職員の育成について」,B 「組織的に学校経営改善に取り組むための評価活動の在り方について」,C「学力向上に向 けた授業の工夫を中心とした学校経営改善について」の三つを掲げました。 10 月3日,期待と不安を胸に成田空港を飛び立ち,ワシントン ダレス国際空港に降り 立った私たちは,早速,空港内ではぐれてしまい,大きく時間をロスしてしまいました。 しかしながら,海外ならではのこの経験は,良い教訓として改めて団の結束力を高めるこ とにつながり,海外研修の初日にふさわしいものであったのではないかと考えています。 二日目以降,ワシントンD.C.の連邦教育省を皮切りに,日程表にあるように,公立小・ 中・高等学校や,州教育委員会,教育団体等を訪問し,先述した三つのテーマに沿って, 教育関係機関や学校現場において,どのような取組が行われているのかについて,様々な 角度から研修を深めることができました。 今後は,アメリカ合衆国の教育について得た知見と,今回の研修において改めて見直さ れた日本の教育の優れた点について整理し,それらを基に各地域の学校経営改善への還元 策を検討し,中核的な指導者として,教育現場に還元できるように努力してまいります。 最後に,私たちの調査研究にご協力いただきましたアメリカ合衆国の各教育関係機関・ 学校の関係者,また,通訳の中安様,そして,貴重な研修の機会を与えていただいた独立 行政法人教員研修センターをはじめ関係の皆様に心から感謝申し上げます。 -3- Ⅱ 1 派遣国教育概要 アメリカ合衆国の学校教育制度 アメリカ合衆国憲法修正第 10 条の規定に基づき,同国の教育に関する基本的権限 は連邦政府ではなく州政府がもっている。そのため,1980 年5月4日に現在の連邦教 育省が設置された時の役割は,貧困層家庭の児童生徒,特別支援教育を必要とする児 童生徒等への補助金を提供することに限られていた。しかし,1980 年代後半以降,全 米として統一した政策実施の必要性がある場合は,連邦政府による一定の関与が認め られるようになってきた。このため,連邦政府からの補助金を政策誘導の手段として 用いることにより,州政府や学区の教育政策にも一定の影響力をもつようになっている。 上述のように,州政府が教育に関する基本的権限を有しており,教育制度の大半は 州憲法及び州法により定められている。そして, 州政府が教育内容・方法等に関する 標準(スタンダード)や教育行政区としての学区の区割り等を定め,学区は各学校の管 理・運営,学区内の予算決定・配分,教職員の雇用・研修等を行っている。州政府・ 学区それぞれに教育委員会がおかれ,合議による政策決定が行なわれている。 米国の初等・中等教育は 12 年間で,公立学校では無償で教育を受けることができ るが,下の学校系統図を見てもわかるように,小学校に5年制・6年制・8年制のも のがあり,中等教育機関もハイスクールとミドルスクールがあるなど,非常に多様で ある。義務教育年限 や入学年齢も州によ り異なっている。文 部科学省『教育指標 の国際比較 平成 24(2012)年版』によ ると,制度上は就学 義務開始年齢を7歳 とする州が多く,義 務教育年限は9年〜 12 年で,10 年とする 州が最も多い。 【出典】文部科学省『教育指標の国際比較 平成 24(2012)年版』(2012 年 3 月) -4- 2 ワシントン州の学校教育制度 今回の海外研修の後半で訪れたワシントン州は,米国北西部の太平洋岸にある。州 内は下図のように9つの教育サービス区(Education Service District,以下ESD) に区分されている。各ESDはさらに学区(School District)に区分されていて,州内 には合計 295 の学区が存在している。 学区はその区域内の公立学校 の管理・運営にあたるが,ESD は管轄下にある学区と私立学校の 支援を行なっている。このESD は一般行政区である郡(カウンテ ィ)を複数含む地域を管轄してい る。一方の学区は一つの郡の中に 複数設置されている。このように, ワシントン州の位置と州内の各ESDの管轄 教育行政区と一般行政区とが必ず しも一致していないのも日本と異なる米国の特徴である。 ワシントン州では,州法の規定に基づいて8歳から 17 歳までの 10 年間を義務教育 期間としている。保護者の判断により6歳あるいは7歳の子どもを就学させることも 可能である。ただしその場合は,フルタイムで就学させることが条件となる。また, 16 歳以上の子どもについては,一定の要件を満たせば就学義務が猶予されている。 2012 年5月現在,州内の初等・中等教育機関に学ぶ児童生徒数は約 104 万人で,人種 構成は白人が 60.2%,ヒスパニック 19.6%,アジア系 7.1%,アフリカ系 4.6%など となっている。 ところで,ワシントン州憲法には,「州内の全ての子どもの教育に十分な支出をす ることが州の最も重要な義務である」 (ワシントン州憲法 Article IX, Section 1) という条項がある。実際 2010-11 年度における州内の初等・中等教育に対する公的な 財政負担の割合を見ると, 連邦政府が 13%,州政府が 65%,学区が 18%となってお り,州の負担が最も重くなっている。しかし,近年の経済不況下において州の財政緊 縮策が進められていて,教育関係団体がそれに反対する運動を繰り広げており,2012 年1月には州最高裁が現在の州の財政支出状況を上記州憲法の条項に反するものだと の判断を下している。 -5- Ⅲ 1 調査研究を進めるにあたって 事前研修会のシニアアドバイザーの講義内容要約 シニアアドバイアーは,(1)日本の学校経営に関する最近の政策動向,(2) アメ リカ教育行政における政府間関係,(3) 連邦政府主導の教育改革の3点について講義 した。そのうち(2)(3)については次節以降(2 る課題,3 日本国内における派遣テーマに関す 派遣テーマに関する訪問国の概要)の記述と重複するため,ここでは日本 の学校経営に関する最近の政策動向についてのみ要約する。 1980 年代に臨時教育審議会で「開かれた学校づくり」が提起されてから,学校の自 主性の拡大とその運営への保護者・地域住民の意見の反映は日本の学校経営上の課題 の一つとされてきた。自主性の拡大については十分とはいえないものの,90 年代の地 方分権改革の一環として学校評議員(校長の諮問機関として意見を提示)や 2000 年代 の規制改革の一環としてコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度:教育委員会の 下部組織として一部の学校運営に関する意思決定を合議により行なう)など,保護者や 地域住民の意見を反映させるための制度が相次いで導入された。 その一方で学校内の教職員組織の運営については,校長によるリーダーシップが強 調された。副校長職や主幹教諭職等の設置やPDCAサイクルの強調など,垂直的な 組織を整え,トップ(管理職)の決定に従って教職員が実践するタイプのマネジメント が強調されるようになった。そのような中で 2000 年代後半に制度化されてきた学校評 価には,基本的に「管理ツール」としての役割が期待されていた。 学校評価の制度化の過程は下の通りである。2006 年に義務教育諸学校を対象にした ガイドラインが示されたように,学校評価については高校よりも小中学校に重点が置 かれていたことがわかる。 2007 年度から実施された 全国学力・学習状況調査(全 国学力テスト)の結果も序 列化につながるという怖れ から学校毎や市(区)町村単 2006.3 2007.12 2008.1 2008.7 2010.7 義務教育諸学校における学校評価ガイドライン策定 学校教育法・同法施行規則改正 → 学校評価実施関連の総合的な根拠規定を整備 学校評価ガイドライン改訂 教育振興基本計画に「学校評価推進とその結果に基づく 学校運営改善」を規定 学校評価ガイドライン改訂 → 第三者評価関連の記述を追加 位での開示こそされなかっ たものの,自己評価の材料として活用されることが期待されていたものと思われる。 2007 年 12 月の学校教育法及び同法施行規則の改正により,(1)自己評価の実施・公 -6- 表を義務化,(2)学校関係者評価の実施・公表を努力義務化,(3)設置者に対する評 価結果報告の義務化,などの法制化が進んだ。大学の場合に自己評価の実施・公表の 努力義務が実施義務へ変わるまでに 10 年近くかかったことと比較すると,初・中等教 育の場合その歩みは非常に早かった。ただ,2009 年に第三者評価関連の記述を追加す るための検討が行われている途中で政権交代が起きた。それまで,イギリスのオフス テッドのような国による第三者評価をも視野にいれた試行・検証が行なわれていたが, 政権交代後公表されたガイドラインでは,設置者と学校を実施者とし,従来の学校運 営の専門家で編成されたチームによる評価の他に,(1)学校関係者評価者の中に研究 者や教職経験者など学校運営の専門家を入れるタイプや,(2)近隣の学校の教職員が 相互に評価し合うタイプなど,既に実践例のある取組が第三者評価として認められる こととなった。 民主党政権下では,第三者評価の推進よりも保護者や地域が学校の意思決定に関与 するコミュニティ・スクールの推進が強調されていた。上記のガイドライン改訂後に 文部科学省内に設置された学校運営の改善の在り方等に関する調査研究協力者会議は, 2011 年7月に「子どもの豊かな学びを創造し,地域の絆をつなぐ~地域とともにある 学校づくりの推進方策~」という報告書を公表した。そこでは,全教職員の協働や学 校関係者との連携を進めることが強調され,コミュニケーション・ツールとしての学 校評価の実効性をいかに高めていくかが課題となっていった。 2 日本国内における派遣テーマに関する課題 学校評価の実効性を高めることが課題になるということは,現状の学校評価が十分 な効果を上げていないという実態の裏返しである。2012 年3月に文部科学省の「学校 評価の在り方に関するワーキンググループ」が公表した「地域とともにある学校づく りと実効性の高い学校評価の推進について」という報告では,今後の方向性として以 下のような事項を掲げた。一つめが学校の評価活動を通じた積極的な情報提供の促進 である。保護者や地域住民が学校運営に関わる意思決定に参加するためには情報が必 要となるためである。その上で,コミュニティ・スクールの設置促進のため,第三者 評価の推進よりも自己評価・関係者評価の充実を図ることを訴えた。学校関係者評価 が自己評価の結果とそこから導きだされた改善方策の妥当性を検証することを期待さ れているためであり,その実質化はコミュニティ・スクールへの移行を容易にするた -7- めである。 しかし同時に報告書は,現在の学校評価が形骸化しているのではないかという懸念 を示した。このことは,毎年教員研修センターが開催している学校評価指導者養成研 修でも参加者の多くが指摘する問題点と重なっている。『学校評価ガイドライン』に は,児童生徒や保護者・住民を対象とした外部アンケート等の情報を使って年に複数 回の自己評価を行うことが記述されているが,上記研修会で参加者が持ち寄る事例の 大半は,外部アンケートをほとんど唯一の情報として年に2〜3回の自己評価を行っ ている。一見ガイドラインに沿っているようだが,学校評価の活動と実際の学校運営 とが密接な関係をもちえていないため,学校評価が役に立たない,形骸化している, という認識につながっているのである。しかも,折角の学校評価活動の結果が校長等 の管理職あるいは教職員の人事異動によって翌年度に引き継がれない場合がしばしば 見られることや,次年度の予算に反映させるためには 12 月までに評価を完了している 必要があること,など学校評価の実効性を上げにくい状況があることも指摘されている。 また,目標の系統化・重点化が既に多くの地域で取り入れられているのと同時に, 数値化された目標が多用される傾向が見られる。目標が数値化されると,たしかに誰 にでもわかりやすい。しかし,その評価は目標が達成されたかどうかだけに陥りがち であり,そこからコミュニケーションが生じる余地は少なくなる。また,目標となっ ている数値に到達することが重要視され,本来的な教育をゆがめてしまう可能性もあ る。次の3で触れるように,学力テストの結果を数値目標化した米国において,テス トの点数を上げるためにテスト対策が偏重されたり,テストの結果を低下させる可能 性のあるような児童生徒を学校から排除したりすることが報告されている。日本にお いてもテストの結果を上げることが至上命題となっている場合に類似の事例が見られ たことも知られている。数値で示しうるデータを評価活動にどのように活用すればよ いのか,その見極めは重要な課題となろう。 なお,学校運営上の課題を解決していく上で教職員の職能成長は不可欠である。最 近,目標管理的な教員評価において,個人の目標と学校運営上の目標の関連性を強め ようとする動きも見られるようになってきている。目標の共有を図るという意味があ るのはもちろんであるが,個々の教職員の経験年数等に応じた目標を設定することで, その成長を促そうという意図がある。他方,学校評価活動で用いられる取組指標に, 授業研究等の校内研修関連の取組があり,中には個々の教職員が取り組むべき目標回 -8- 数を一律にする例がある。個々の教職員の職能成長のために,どのような研修機会を 提供すべきか,きめ細かい対応が必要なはずである。同時に,その研修の成果をどの ように把握し,将来の成長につなげられるよう,どのように教員評価を活用していく かということも,学校経営改善上の重要な課題となろう。 3 派遣テーマに関する訪問国の概要 1983 年に公表された「危機に立つ国家」は,米国の児童生徒の学力が諸外国と比較 して低く危機的な状況にあることを警告した。それ以来,学力向上は同国の重要な教 育課題でありつづけた。その後 2002 年にブッシュ政権下で成立したのが日本でも知ら れている「落ちこぼれ防止法」(No Child Left Behind Act,以下,NCLB法)であ る。この法律は,それまでの初等中等教育法を改正する法律で,米国ではじめて学力 テストと受験する児童生徒の属性に関するデータを使って学校評価を実施することを 求めた。到達すべき学力水準は各州が定めることになっており, 2014 年までに,全 ての公立学校児童生徒の4年生と8年生(中2)の全員がリーディングと数学で「習熟 (proficient)」レベル(4段階の上から2番目のレベル)以上の成績をとることを達成 目標とした。その実現のために州が学力テストを毎年実施し,州政府,学区,学校の それぞれの単位で,児童生徒の人種や経済的状況等の属性を考慮して集計したテスト の 結 果 を ウェブ 上に 公表し た。同 時に, その年に 十分な 進歩(Adequate Yearly Progress)を遂げたと認められる程度のペースで「習熟レベル」に達する生徒の割合を 向上させるよう年次目標を掲げた。年次目標の達成がおぼつかない学校に対しては, 管理職及び教員の解雇や学校自体の閉校など厳しい措置がとられてきた。 しかし,学力テストの結果を唯一の評価指標とした学校経営を進めたることが求め られたことによる負の影響も報告されてきた。それは,テスト対策を重視した教育の マニュアル化や脱技能化(誰がやっても同じ)であったり,家庭環境やその他の要因か ら学力が低迷せざるをえないような子どもたちの退学率の上昇であったり,果ては州 が定める学力の標準レベル自体の低下であったりした。つまり,教育の格差をなくし, 学力の向上を図るという当初の目的に真っ向から反するような対応である。しかも, このような問題が指摘されながらも,結局は 2014 年に「落ちこぼれ」がいなくなると いう目標を達成できる可能性は極めて低かった。折からの経済不況により,当初予定 されていた教育条件整備のための支出が大幅に削減されたことの影響もあるだろうが, -9- 目標設定自体に無理があったのである。 2009 年に就任したオバマ大統領も,教育を重視し学力の向上を目指していた。その 上で,前政権による上記のような取組を改める政策を打ち出した。今年度の海外研修 における訪問先にも,このような政策転換の理解を目的に選定されたものが含まれて おり,その概要は,本報告書の以下の各所において報告されることになる。 - 10 - Ⅳ 1 調査結果 訪問先の概要 (1)連邦教育省(U.S.Department of Education) 1979 年 10 月に成立した教育省設置法のもと, 1980 年5月に設立され,本部はワシントンD.C.にある。 連邦教育省は,教育のための連邦財政支援に関する 政策決定,助成金配分の監督,助成金使途の監査を 行っている。また,アメリカ合衆国の学校に関する データ収集および調査研究の監監を行い,得られた 情報を連邦議会,教育専門家および一般国民に公開 <質疑応答> している。 (2)全米教育長協会(Council of Chief State School Officers/CCSSO) 教育委員・教育長・校長など州の教育行政の重要 役職者で構成員される非営利組織であり,ワシント ンDCにある。政府の管轄ではないが,州を包括(連 邦レベル)した教育内容の基準やアカウンタビリテ ィシステムを作成してきた。2011 年に教授方法の基 準となるMCTSの中間報告を半官半民で作成し <質疑応答> た。 (3)ウェストゲート小学校(Westgate Elementary School) ワシントンD.C.から 20 ㎞離れたところにあり,バージニア州の中でも児童数が 急増している小学校である。K(5歳)~小学校 卒業(12 歳)までが就学しており,児童数は 600 人,50 か国から集まっている。 飛び級制はなく,年齢に沿った進級をしてい る。教員は 70 人,男:女は1:6の構成である。 1学年3~5クラスで,読書活動やICTの授 <授業の様子> 業に力を入れている。 - 11 - (4)チェスターブルック小学校(Chesterbrook Elementary School) ジョージタウン近郊の閑静な住宅街に立地 し,創立が 106 年になる古い歴史と伝統をも った小学校である。幼稚園の年長から6年生 までの 687 名が在籍している。比較的,富裕 層の家庭からの子どもが多く,施設や設備に 恵まれている。特にICTに力を入れ,QRコ <随所にあるQRコード> ードを活用した学習を行って3年目となる。 独創的な取組が随所に見られるが,基本的にはバージニア州のスタンダードに合 わせたカリキュラムに沿っている。児童の実態に応じて,レベルⅣの授業を提供し ている。 また,PTAからの支援も多く,保護者が学校に来て,児童に仕事の様子の話を したり,学習指導の際の先生の補助についたりしている。また金銭的な面でも寄付 をする等,学校に対して協力的である。 (5)ワシントン州教育委員会(Washington State Board of Education) ワシントン州オリンピアにある。教育長は,選 挙で市民に選ばれた人が,4年間の任期で務める。 選挙で選ばれた州知事に対して,要望を出す権限 をもっている。具体的には,教育予算,授業日数 の確保,幼児教育の充実,職業訓練のプログラム の評価,高校卒業率アップ等に関する取組を進め <教育委員会内部の様子> ている。 (6)リーブス中学校(Reeves Middle School) ワシントン州オリンピアに立地し,6年生から8年生までの 416 人が在籍してお り,その 37%が昼食の援助が必要な経済的に恵まれない家庭状況にある。 学校では,ALKI(アルカイ)プログラムとHOPE(ホープ)プログラムを特色 として打ち出している。 ALKIプログラムは,希望する家庭の子どもが抽選により選ばれる。このプロ グラムのクラスには,通常のクラスより先生の数が多く,担任が2人おり,遠足な どの行事も通常のクラスよりも多い。保護者の協力も必ず求められ,1年に 75 時間 - 12 - をボランティアとして,学習指導の支援に協力 している。 HOPEプログラムは特別支援教育に関わる もので,社会に適合しにくい生徒の育成を学区 の中で担っている。カウンセラーも配置され, 教員や生徒,家庭との連携を図っている。 <電子黒板を使った授業> (7)ワシントン州学校管理協会(Washington Association of School Administrators) ワシントン州の教育行政を代表する小学校・中学校・高等学校の校長と地域学校 区の教育委員長で構成される非営利団体である。地域と保護者と協力しながら,学 校 教 育 の 在 り 方 に つ い て , Individuality( 個 性 ) ・ Independence( 独 立 性 ) ・ Creativity(創造性)を重点テーマに活動している。その活動の一つとして,学校区 と州政府とアメリカ連邦政府の間の調整役を担っている。60 年前は 2,500 あった学 校区が,今は 295 と大きく減少し,学校区が広くなったために,地域や保護者と学校 との密着が薄らぎ,この協会が果たす役割が大きくなってきている。 (8)オリンピア高校(Olympia High School) ワシントン州オリンピアにあり,学校区の統 合により 2000 年に創立した生徒総数 1,800 人・ 教員数 96 人の普通科高校である。当校の特色は, 大学の単位として認定されるAP(Advanced Placement)プログラムや車の運転免許が取れる プログラムがある。また,校内に売店があり, <授業の様子> 生徒が手作りクッキーやオリジナルグッズの商 品管理や販売を行っている。 (9)スクールオブジアーツ高校(School of the Arts) ワシントン州タコマにあり,2001 年に創立した生徒総数 115 人・教員数 26 人の 芸術科高校である。校舎はワシントン大学タコマ校の施設や郵便局の2Fを使用し て,芸術だけでなく学業にも力を入れており,1日8時間授業を実施している。 大学の図書館,美術館や歴史博物館など9つの施設を無料で利用ができ,大学と 提携しており,大学の単位を認定している。 授業においては,生徒の向上心を促すことに重点を置き,上位層の生徒をめざす - 13 - ように目標が設定される。 また,入学時に決められたチューターが4年 同じ生徒の担当をする。教師の指導力向上や生 徒理解を深めるために,金曜日朝2時間のミー ティングが確保されている。 <質疑応答> 2 学校経営改善に向けた教職員の育成について (1)調査研究テーマの設定理由とその背景 我が国の公立学校が自主性・自律性を高め,保護者や地域に開かれ信頼される学 校づくりを進めるために,実効性のある学校経営の改善が求められている。学校経 営をより効果的・効率的に改善する方策については,「望ましい学校評価のあり方」 や「学力向上に向けた授業改善のあり方」とともに「教員の育成」が重要な視点で あると考える。 そこで,私たちは,アメリカ合衆国の学校における教員の資質向上など育成の方 法やその仕組みなどについて調査し,その成果と課題を把握・分析するとともに, 我が国のそれと比較検討し,そこから得られる知見の活用方法等を考える。 古くから「教育は人なり」といわれる。中央教育審議会で義務教育特別部会の梶 田叡一会長も「良い教育のためには優れた教師が不可欠」と述べている。どんなに 施設を充実させ,IT器機を導入しても,日本の教職員一人ひとりが長年にわたっ て保護者や住民から尊敬されるためには,教育に対する情熱や真剣さと優れた教育 的力量を身に付けることが肝要というわけである。 現在,我が国は団塊の世代の大量退職時期にあり,熟練の教育技術や教師文化な どの継承・伝承が難しいという状況である。よって,教員の育成・資質向上は最重 要課題であり,それによって学校経営の安定を図ることは喫緊の課題である。 このような問題意識をもって約2週間のアメリカ合衆国での調査研究に臨んだ。 まず最初の印象は,我が国は教職員の育成については国全体で考えることであり, 文部科学省が国全体のことを考えて施策を講じるというものだが,アメリカ合衆国 は州ごとに任されていたり,事細かな教員養成については学校任せが基本だという ことであった。 それは,例えば端的に「採用したら次の日から勤務ですから,研修はなしに等し - 14 - いですよ。」のような視察先での発言にも表れていたし,離職率が高いことや「教師 は最も権威の低いプロフェッショナルといえます。」などの発言からもアメリカ合衆 国の様子がうかがえる。 折しも,平成 24 年8月 28 日に,我が国の中央教育審議会が「教職生活の全体を 通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」という答申を行った。そのな かでも,各段階に応じた養成が必要で,高度専門職業人としての位置づけが重要で あるとまとめられていて,今後「学校現場における諸課題の高度化・複雑化に対応 できるそれぞれの段階における実践的指導力の育成強化が必要で,教職生活全体を 通じた一体的な改革,学び続ける教員像の確立」に着手しようとしている我が国の 方策と比べると,検討に値しないのではないかと危惧した。 しかし,全米州教育長協議会で「Model Core Teaching Standards(モデルとなる 教授方法の基準)/InTASC(州間教員評価・支援コンソーシアム)」を入手した 際,その印象やとらえ方は一変した。 つまり,アメリカ合衆国も昨今の困難な教育事情に苦慮していたのである。いく つかの大きな課題に直面していて,教員がその力量を高めていき,それを評価して いくための基準やコンソーシアムが必要と感じ,作成に着手していたのである。 そういう視点で各学校施設を訪問すると,いろいろな工夫点,取組が見えてきた し,明らかになってきた。 さらに,この「教員の育成はどのような仕組みになっているか」という問題意識 をもって研修を積む中で,また新たなテーマが浮上してきた。 つまり,教員の資質向上や養成の大切さとともに,そのリーダーである管理職(校 長,副校長)の養成や育成,配置についても重要な課題であるということである。 よって,私たちは,途中から新任や中堅・ベテランの教職員の資質向上や養成の 仕組とともに,校長や副校長などの管理職の養成や育成についての調査も加えて行 っていったので,その結果についても述べることとする。 (2)調査結果 教員の採用基準や研修制度また,校長の採用条件等を中心にバージニア,ワシン トン両州の教育機関,および複数の公立小中高等学校からインタビューなどを実施 し調査研究を行った。 - 15 - ① 教員になるための資格 ワシントン州教育委員会からの見聞をまとめると,小学校教員の場合,4年制 大学での教育学士取得が必要である。中学,高校教員は教育学士さらに,自身が 教授する教科の専門学士(例:数学の教員なら数学学士)が必要となる。このよう に,2つの学士を取得するための単位履修は4年間では困難である。そこで夏季 や冬季の長期休暇等に行われる講座を受け,単位を取得することが一般的となっ ている。この制度を活用して単位を修得すれば,4年間で卒業することも可能で ある。さらに本人の努力次第では3年間での卒業も可能となる。アメリカ合衆国 の大学在学期間は,日本のように卒業期間を4年間にこだわっていないというこ とであろう。また英語が母語でない教員志望者は,英語を第2外国語とする必要 もある。 ② 教員採用までの概略 連邦教育省によると,資格取得者は各州での教員試験を受験し,その教員試験 に合格した者は,教員採用希望名簿への登録を各学区の教育機関で行う。各学校 は,校長の判断で該当学区の教育機関へ教員の募集申請をする。学校の希望条件 に合致した登録者がいれば,学校が直接,その該当者と個別面接をする。その結 果,学校が採用したい意思表示をすれば,学区の教育機関へその旨を申請する。 学区の教育機関は学校からの採用希望を受けた後,その人物が教員に適している か否かを確認する。例えば過去の麻薬常習歴や性犯罪歴等を調査し,問題がなけ ればここで初めて採用が決定する。ここまでが教員採用までの流れである。 ③ 教員確保のための政策 全米州教育長協会によると教員の離職率の高さは他の職種に比べて大変高く, その主な原因に以下の4点が挙げられた。 ○ 校長の指導内容が悪い。 ○ 校長からのトップダウン的な管理が強く,様々な取組を現場の教員がトラ イしても,そのことが校長には認められない。 ○ 賃金が最も低いプロフェッショナルの仕事である。(新任の初任給約 300 万円,その後約 500 万円で年収は頭打ちになる。校長の年収は一般教員の約 1.3 倍である。) ○ 保護者からリスペクトされない。 - 16 - これらのことから,教員へのなり手が少なく,その結果優秀な教員の確保が困 難な状態が日常化している。 次に,州は連邦政府より以下に示す3つの基金を授受して,各州でより教育活 動が円滑に運営できるように活用している。 ア フォーミュラー基金 地方レベルの教育委員会が,必要に応じた教員の確保のために利用すること ができる。具体的には経済的に貧困である児童,英語を読み書きできない児童, 特別支援教育を要する児童への人的なサポートに活用される。また,不況下の オバマ政権において 65,000 人の教員の離職を回避することにも活用された。 イ コンペティティブ基金 女子児童の算数や理科の能力が低い地域においては,その差を解消するため に活用される。男性教員が少ない地域においては,男性教員確保のために活用 される。 ウ ファイナンシャル基金 有能な教員を確保するために,学生に奨学金を給付することなどに活用され る。また,教育困難校に勤務することを志願する者が少なく,そこで教育困難 校に3~4年間勤務すれば学生時代に借りた奨学金の返済義務が免除される制 度を施行している。 このような3つの基金が,各州で教育活動を円滑に運営するための一助になっ ている。なお,これら3つの基金の採択は,IES(教育統計研究所)やNCES (米教育統計センター)といった半官半民の団体が採用の可否を審査している。 ④ 教員確保のための各学校の具体的な対策 ウエストゲート小学校は教員 70 人のうち担任が 26 人,その男女構成比が1: 6である。この学校のように小学校の教員構成は圧倒的に女性が多くなっている。 この学校では,優秀な男性教員を確保するために,教育実習などで知りえた優秀 な学生を3月から自校の教員になるような勧誘を行っている。 チェスターブルック小学校は,四学期制を採用している公立小学校である。特 にICTを活用していることが大きな特徴である。学区の教員研修のシステムに かかる膨大な費用をPTAに担ってもらい実施している。最近では男性教員を獲 得するために,3月から校長自らが大学を回り勧誘活動をしている。多くの国籍 - 17 - の児童が在籍しているが,白人教員が多いので多様な教員の採用を考えていると のことである。 ⑤ 組織的な教員の研修方法 ワシントン州教育委員会によると教員の採用前の研修制度は公式には2日間の みである。採用後の研修制度は,州の予算削減のため,現在は1年間で半日の研 修が4回あるのみである。ここでは先輩の教員が指導するシステムは構築されて いない。そのため,大学の教育学部では学生が教員になるために,どのような訓 練,準備が必要かを研究している。つまり,学生時代の研修が大変重要だと認識 されているのである。 また学校現場の実状として,心理問題に対応するカウンセラーを常勤で配備で きている学校は少ない。以前は小中学校にはカウンセラーを配備している学校も あったが,予算削減のため,殆どの学校では配備されていないのが現状である。 そのためコーチ制度を取り入れている学校がある。コーチ制度とは経験豊富で評 判の高い先生が,学業遅延生徒やメンタル的に課題のある生徒との指導方法をレ クチャーする制度である。特に指導者になる先生が担任をしている場合は,その 職を一旦離れて,コーチの仕事に専念する体制を整えている。昨今,このような 生徒の指導に関しては,教員の初期対応の稚拙さが問題視されており,このコー チ制度によって教員の資質向上を図り,初期対応をより迅速かつ確実に行うこと を目的としている。また,教員の指導能力の判定を1回のテストのみの結果で判 断するのではなく,連続したテストの結果で教師の能力を判定している。このこ とが教師の資質向上に役立っている。 ワシントン州学校管理協会によると,新任教員の育成は学区や学校がトレーニ ングすることになっていて,州として若年教師の資質向上のための教授法研修や 児童生徒理解の研修は現実には実施できていない。教員は3年,5年後に大学で 再トレーニングをし,教授方法の向上をめざし,免許の種類を増やす努力をして いる。反面,職場の同僚同士でトレーニングをやれば費用はかからない。これを システムとして運用しようとすれば,そのトレーニング時間中に講師を雇う必要 が生じ,結果として費用がかかる。一部ベテラン教師(校長OB等)に好意で指導 してもらっているところもあるが,実際には費用がかかり,予算的に窮地に陥っ ている。コモンコアスタンダードの浸透に向けての予算を連邦政府は捻出してい - 18 - るが,新任教員の研修への予算は組まれていない。 新任教員の研修については,これまで各州でまちまちの形で実施されてきたが, 課題が山積した教育界で,優れた教員を育成する必要性が唱えられた。そのこと を受け,全米州教育長協会がMCTS(Model Core Teaching Standards)を教員の スキルアップのための基準として提唱した。その内容は以下の4点である。 ○ 学習と学習者に関する基準 ○ 教育内容に関する基準 ○ 教育実践に関する基準 ○ 専門職としての教師の責任に関する基準 これらの基準に達しない時には懲戒処分の対象となることを視野に入れている。 一定レベルに到達させるために年5回の中間審査を実施するととともに,基準に 達しないときにはサポート体制をとっている。この判定をするのは校長であり, 校長もその判定を的確に実施するため,その資格を取得する必要がある。しかし, 実際にはMCTSは現在各州との協議中であり,策定までにはもうしばらく時間 が必要である。 ⑥ 具体的な学校での教員の研修方法 ウエストゲート小学校では勤務する1週間前から,打ち合わせとトレーニング が集中的に行われる。ただし,アメリカ合衆国では日本と大きく異なり,教育実 習期間が6か月から1年間と長期にわたっている。その間ベテラン教員から授業 方法はもとより,教師としての仕事全般にわたって指導を受ける。長期間教育実 習を受け入れる学校側も,実習生が教育活動全般の仕事に携わることがメリット となっている。勤務後は,マンツーマンでベテラン教員から教員として必要な指 導方法を学ぶ。その内容として,以下の3点がある。 ○ 教員同士の相互協力の方法 ○ 授業の教授方法 ○ 児童との関わり方 その実施方法として,1週間に1回の通例ミーティング,月に1回の大きなミ ーティングが行われている。その後2年間の試用期間を経て正式採用が決定され る。しかし,現実には教員として不適格だと判断され,採用されない場合もある。 また,ベテラン教員の中には,自らの教育活動に関する興味関心のあるところ - 19 - を研究するために,アカデミーへ週に1回通う教員もいる。この他,月曜日は授 業が2時間早く終わるため,毎週 45 分間の職員会議を行うなど,会議をこまめに 行うことにより,組織としてスピーディーに情報を共有できており,学校運営向 上の一助となっている。 リーブス中学校は,4割が男性教員である。採用前の研修制度は,大学生の時 に1か月間補助教員として入り,その職務を研修する。採用後の研修制度は,1 週間に1回,先輩教員についてその職務内容を研修する「ピア・サポートシステ ム」と学年集団で新任教員を必要に応じて指導する「プロフェッショナル ニング ラー プログラム」とがあり,90 日間のこれらのトレーニング後,校長がイン タビューして問題がなければそのトレーニングは終了する。問題があればさらに トレーニングは延長される。また,補助教員の場合は,月に1回校長とのミーテ ィングを実施し,教員とは毎日打ち合わせを行う。 オリンピア高校の教員は 96 人で 30 人が補助教員,10 人が特別支援学級のの教 員である。男性教員は 40%である。 研修の特色としては,以下の5点が挙げられる。 ○ 就任前やその直後の研修は無く,大学でのトレーニングのみである。 ○ プロフェッショナル・デベロップメント,ダニエルソン方式(連邦政府が広 めようとしているコモンコアプログラムを広めるための研修手法)を実施し ている。 ○ メンターティーチング(ベテラン先生の個人的な指導)を実施している。 ○ 継続したトレーニングを行っている。 ○ 年間 150 時間のクロックアワー(日本でのサービス残業のようなもの)を活 用している。 スクールオブジアーツ高校は芸術系で成功しその後,理数系も開校した公立高 校である。芸術系は,教員数 26 人,理数系は(創立3年目)教員 20 人である。6 か所にキャンパスがあり,高校在学中にワシントン州立大学と地域短大の単位を 合わせて取得できる提携が構築されている。教員の研修は,毎週金曜日の朝に実 施している。この日は学校の開始時間を2時間半遅らせてスタートしているので, それが可能となる。教員の仕事内容や,児童生徒の学習内容や美術の専門分野に 関する内容,またはこれらの取組をどのように児童生徒の学力伸長に結び付ける - 20 - かを研修している。このことが,まさに教員の能力をアップする時間として活用 されている。特に新任教員への研修制度はなく,小さい学校なので同じ学校の先 輩の先生が指導している。 ⑦ 校長採用の資格とその研修 ワシントン州教育委員会によると,校長の資格は5年間教職に就くことと,管 理者としての修士号を取得していることが必要になる。予算削減のため修士号取 得は自らの出費となっている。研修はワシントン州の予算で実施される3日間の みのものを受講する。その際,ダニエルソン(Danielson)方式やマーザノ(Marzano) 方式などの教授方法のフレームワークの中から各自が選択して学ぶこととなる。 また,オリンピア高校によると校長になる資格として次の3点が挙げられる。 ○ 5年間の教員としての経験 ○ 大学院の修士号 ○ 複数の免許の保持(安全管理の免許・教育心理学の免許など) そして,校長は教育長が任命し,その研修は教育委員会が考案する。 スクールオブジアーツ高校によると校長に就任する者は,教職経験があるので 校長研修は行っていない。校長になるためには大学院で研修し,そこでトレーニ ングを受ける。また,5年ごとに校長職の試験があり,これに合格しなければ校 長職を継続できない。 アメリカ合衆国では,連邦政府や各州が実情に合わせての予算を編成し,国家 全体として優秀な教員の確保と育成に向けて努力している。 日本との相違点は,日本では教員採用後に研修制度を文部科学省主導のもと, 各都道府県で状況に応じた新任教員の研修を系統的に行っている。これに対し, アメリカ合衆国では大学在学中に半年以上の長期にわたり教育実習をすることで, 教員としての資質向上を目指している。さらに実情にあわせて校長の学校運営方 針に基づいた教員のスキルアップへの研修制度が創意工夫して行われ,それが組 織力の向上に大きく寄与している。アメリカ合衆国で見聞した教員育成制度を我 が国でも取捨選択し,学校の教育力の向上や経営改善に役立てたいと考える。 3 組織的に学校経営改善に取り組むための評価活動の在り方について (1)調査研究テーマと設定理由とその背景 - 21 - 学校教育法及び学校教育法施行規則改正により,学校評価の実施が規定されてか ら4年が経過した。学校の教育活動やその他の学校運営の状況について評価を行い, その結果に基づき学校及び設置者が学校運営の改善を図ること,及び評価結果等を 広く保護者等に公表していくことで,児童生徒がより良い教育活動を享受できると ともに,学校運営の説明責任が果たされ,保護者等と学校の状況に関する共通理解 と相互の連携協力が図られることが期待されている。学校評価の基本となる評価は 「自己評価」であるが,学校評価の取組を通じて,学校や家庭,地域それぞれの教 育力を高めることや,学校としての組織的な学校改善への取組が期待されることか ら,学校関係者評価についてもほとんどの学校がその取組を進めている。 しかし,平成 20 年度間の文部科学省の学校評価等実施状況調査結果によれば, 「自 己評価結果を踏まえた学校改善への取組状況と自己評価実施の学校改善への有用 性」について, 「改善の取組を実施した」と回答した割合は 86.2%であるのに対し, 「学校改善に役立ったか」の問いに対して,「大いに役立った」と回答した割合は 45.3%。また「学校関係者評価結果を踏まえた学校改善への取組状況と学校関係者 評価実施の学校改善への有用性」について,「改善の取組を実施した」と回答した 割合は 84.2%に対し, 「大いに役立った」と回答した割合は 39.3%に止まっている。 学校評価を行うことが学校経営改善に結び付かなければ意味をなさないことから, より「実効性」のある学校評価が期待されている。 ところで「実効性」には,学校の課題発見や改善といった学校や教職員にとって の実効性と,学校に対する理解や信頼の深まりといった保護者や地域住民等の学校 関係者にとっての実効性の二面性がある。学校評価が学校経営の改善につながり, 教育水準が向上し児童生徒の成長を実感することで教職員も達成感を味わうことが できるし,教職員の意欲も喚起されよう。また,学校関係者評価の取組から学校経 営の改善が図られ,その結果として教育課程が充実し学校力の向上を図ることがで きれば,教職員,保護者をはじめ学校関係者もやりがいを感じたり,学校と保護者, 地域との連携が深まったりするであろう。 文部科学省では,学校内における学校評価の課題を以下4点①~④のように指摘 している。 ① 学校評価における目標が明確なものとなっていない。 目標がなければ評価もない。まず,評価が可能な目標を設定することが出発点 - 22 - となるが,その目標が不明確であったり抽象的であったりして,具体的に評価で きない現状への指摘である。学校教育には数値化できにくい側面があるのは否め ないが,取組指標や成果指標の具体的な設定によるところが大きいと考えられる。 ② 学校の評価目標が設置者の教育ビジョンと関連づけられていない。 学校が設定する目標と設置者の教育に対する方針との整合性が十分保てない場 合,学校がいくら学校評価を実施し改善策を講じようとしても,設置者としては 学校改善への具体的な支援が見出しにくいとの指摘である。 ③ 評価目標が管理職や一部の教職員の間でしか共有されていない。 学校が設定する学校評価に関する目標が,所属する教職員と課題意識のずれが あったり,共有化できていなかったりする学校評価の推進体制への指摘である。 推進体制を整えるにはミドルアップダウンマネジメントの手法が有効であるとさ れているが,この課題を解決できなければ,学校評価を通して,組織的に学校経 営改善に取り組むことは不可能である。 ④ 学校評価の取組が多忙感を助長している。 評価項目を網羅し過ぎていたり,評価結果を分析し,成果や課題を洗い出し, 具体的な改善策について協議する時間的な余裕がなかったりして,評価結果を活 用した学校経営改善へなりえていない現状への指摘である。つまり,評価のため の評価に終始していることから,学校評価の取組は,学校評価関係者をはじめ, 教職員の多忙感を助長する結果になっているということである。 いずれの課題も学校にとって容易に解決できる課題ではない。そこで,学校評価 の「実効性」を高めるための取組として,特に自己評価に関しては,学校の評価目 標の明確化や重点化,全教職員の参画と協業,負担感の解消,組織づくりの工夫, 加えて学校関係者評価に関しては,保護者や地域住民への情報提供,外部アンケー トの工夫等の改善への視点が示され,さっそくモデル校の取組事例が紹介されるよ うになってきた。このことは,学校評価の「実効性」を高めることが,重要で早急 に解決されるべき課題であることの裏付けでもある。 信頼される開かれた学校づくりを進める上で,今後ますます学校教育目標に対し てアカウンタビリティの要求に十分答えることができる学校経営が求められると考 えられる。 - 23 - アメリカ合衆国は 2002 年にNCLB法を制定,各学校へ成績に対する説明責任 を課した。その後 10 年が経過し,その成果や課題が明らかになってきている。今回 の研修において,NCLB法実施後の各教育機関での成果や課題の背景を探り,各 教育機関の目指す方向性や具体的取組を視察することで,日本の各学校における学 校評価の課題解決や,より「実効性」を高めるための示唆を得ることを目標に,本 テーマを設定した。 (2)調査結果 ① NCLB法の成果と課題 アメリカ合衆国は,2002 年にNCLB法を制定した。この法律は,「すべての 児童生徒に学力を」のもと,人種や地域,家庭環境の違いによる学力差の解消と, そのための条件整備を目的としたものであった。連邦は,各州に基金を出す代わ りに学校評価を実施することを求めた。 アメリカ合衆国の学校評価とは,州が学力テストを実施し,州政府,学区,学 校に対して学力測定の結果に対する説明責任と毎年の目標達成を求めるものであ り,成果があった学校は「優良校」として公表され,成果が上がらなかった学校 は「改善を要する学校」として認定される。仮に5年以上改善がみられない学校 は,教員の配置転換を含む再編計画を策定するというものである。このことから, 学校評価=学力評価=教員の評価(力量)である印象を受けた。 この法の成果は,ある一定の学力向上が図られたことと,学校が組織的に学力 向上に取り組んだことである。しかしながら,貧困層の児童生徒,英語を母語と しない児童生徒,障がいのある児童生徒にも学力向上に関して同じ目標値が課せ られたため,目標を達成することができずに,「改善を要する学校」というレッ テルを貼られたことに対する不満があがった。また州によって児童生徒の学力を 図るテストが異なり,公平ではないという問題点も明らかになった。 そこで,2014 年度までに,アメリカ合衆国としてのコモン・コア・カリキュラ ムを実施し,全米的に評価基準を統一して学力を向上させようとする動きがある。 そのため,各州,各学校では,基準の設置や教員の研修等に力を注ぐなど,その 準備に追われている。 ② バージニア州の学校の取組 - 24 - ウエストゲート小学校では,5歳~12 歳の子どもが学んでいる。年度初めに学 校の目標を設定し,全教職員で共有している。読解力の向上に力を入れており, 年に3回,子どもの読解力を判定する。教員は判定結果をレポートにまとめ,学 校に報告するようになっている。また,3~6年生まで毎年学力テストを行い, その結果を次年度の目標設定の基準としている。 ミーティングを非常に重視しており,子どもたちがスペシャル(体育,美術等) の授業を受ける際に空く1時間をミーティングの時間にあてている。我々が視察 した際には,6年生に関わる教員集団が算数の指導法についてのミーティングを 行っていた。さらに,月曜日は子どもが2時間早く帰る日なので,その時間を利 用して 45 分間の職員会議を行い,トレーニングや教授法の話し合いを行っている とのことであった。 チェスターブルック小学校では,ICTを取り入れた先進的な運営を行ってい る。随所でQRコードを使った教育活動が実施されていた。この学校では4学期 制をとっており,学期ごとにテストを実施して子どもの学力を正しく測定し,ク ラス分けを行っている。これは,学力についての到達度や努力の程度等を評定す るもので,その結果と年度初めに行う保護者へのアンケートをもとに,個々の児 童に応じた Each Program を設定して学習に取り組ませている。週に一回ではある が大いに成果を上げている。 いずれの小学校でも,児童の学力の実態を評価し,高学力の児童には,レベル の高い授業を提供し,低学力の児童についてはその要因に合わせ,特別支援教育, カウンセラー等を活用して児童の学力を伸ばす組織的な体制を整えていた。 ③ ワシントン州の学校の取組 ワシントン州教育委員会では,4年ごとに選挙で選出される教育長から話を伺 った。ワシントン州は,NCLB法からの免除申請を行っている。その理由とし て,ワシントン州はもともと学力が高く州の基準も高いこと,また,一人二人の 児童生徒ができないために学校全体が「改善を要する学校」として認定されてし まう懸念があることの2点を挙げていた。 現在は,州で,貧困層の児童生徒や英語を母語としない児童生徒,障がいのあ る児童生徒については,個々の応じた目標を設定し,確実に児童生徒の学力を伸 ばすよう対応している。 - 25 - 2年後には,州知事会が主導の下,州教育長協議会が連携して作成を行ってい る,コモン・コア・スタンダードに移行するようにしている。このコモン・コア・ スタンダードに移行することにより,全米の標準テストが実施され,その結果か ら教員の能力を判定するとともに,基準に達しない子どもが 50%以上の学校には 予算を多く配分する等の措置が検討されている。 リーブス中学校では,ALKIプログラムという特別に編成したプログラムを 実施している。希望者による抽選で,現在 60 名が受講している。4~6校時に教 員が2名配置され,通常より多いカリキュラムで授業を受けることができる。複 合クラスとなっており,年上の生徒が年下の生徒の面倒を見るなど,助け合いの 精神が高まり,人間関係が良好になっている。 また,独自の学力向上プランをもっており,その学習内容はコモン・コア・ス タンダードを参考にしている。さらに,この学校では春に保護者に対して,学校 教育に関するアンケート調査を行っている。ただし回答は 416 名中 56 件しかなく, その分,校長が 80~100 件近く電話をしたそうだ。 WASAでは,「40 年前は,教員が個人の判断でカリキュラムを作成していた が,最近は,連邦や州の影響が強くなり,それらの指示でカリキュラムや授業プ ランを作成するようになってきている。すなわち,個人性,独立性,独創性のあ る教育から連邦や州による統一された教育に変わってきている。このような中で 学校現場の声を聞きながら調整していかなければならない。」という話が,会長 のDr.ドジャー氏からあった。 ワシントン州では,校長が,アンケートや保護者会での意見や要望を基に学校 改善プランを作成し,学区に提出している。また,学力以外でも出席状況や問題 行動,卒業率,各教員のコミュニケーション能力を学区に報告し,その報告をも とに保護者や地域が学校を評価している。 オリンピア高校では,保護者や生徒にアンケートを実施し,データをとってい る。また,生徒一人ひとりのつまずきを把握し,各自のニーズに応じた教材やプ ログラムを活用している。 スクールオブジアーツ高校は,芸術と理数科に特化しており,卒業率が 98%と 非常に高い(同じタコマ学区の公立高校の卒業率は約 60%)。生徒の資質と興味に 合わせて,その能力と向上心を最大限に伸ばすことをモットーとしている。 - 26 - そのため,教員は金曜日に2時間 30 分のミーティングを行っている。4~5人 のグループに分かれてカリキュラムや子どもの学習状況,指導方法などについて 意見を交換し合い,教員自身も能力向上に取り組んでいる。このミーティングで の意見を参考に,校長と副校長が学校改善プランを作成している。 学力テストだけでなく,日常的な評価活動を大切にしながら,生徒の学力を徹 底的に分析し,個に応じた学力向上のプログラムを作成している。 4 学力向上に向けた授業の工夫を中心とした学校経営改善について (1)調査研究テーマと設定理由とその背景 ① アメリカ合衆国の状況 昨年度(平成 23 年度)のA-1団の報告書(テーマ「学校評価と学校改善」)には, 以下のような内容が報告されている。 アメリカ合衆国では,2002 年にNCLB法が制定され,各州が独自に教育基準 を設定し,学力テストの結果に基づく学力評価の実施が行われている。2014 年ま でにすべての子どもたちを習熟レベルにまで引き上げることが義務付けられてお り,達成できない場合の罰則規定までが盛り込まれている。また,第3学年から 第8学年の全学年で毎年学力テストが実施されている。 ただし,現オバマ政権は,目標達成が大多数の学校で不可能な現実を踏まえて, この義務の免除を検討している。 ② 日本の状況 文部科学省では,「確かな学力」向上のため,平成 15 年度より「学力向上アク ションプラン」を実施している。その目標は,「揺るぎない基礎・基本」,「思考 力,表現力,問題解決能力」,「生涯にわたって学び続ける意欲」,「得意分野の 伸張」,「旺盛な知的好奇心,探求心の育成」である。プランの内容は,「個に応 じた指導の充実」,「個性・能力の伸張」,「学力の質の向上」,「英語力・国語力 の増進」の4つからなっている。そして,全国的かつ総合的な学力調査等を実施 して,施策の成果を把握し,施策の推進・改善にフィードバックすることとして いる。 文部科学省は「文部科学省実績評価書(平成 23 年度実績)」の中の「文部科学省 の使命と政策目標」で「政策目標 2 確かな学力の向上,豊かな心と健やかな体 - 27 - の育成と信頼される学校づくり」「施策目標 2-1 確かな学力の育成」について 述べている。 そこで見られる『全国学力・学習状況調査の結果』は 20 年度,21 年度,22 年 度を比較すると必ずしも,目標値である「対前年度比増」となっていない。(平成 23 年度は震災の影響により,調査実施を見送った。) また,『生徒の学習到達度 調査(PISA)の結果』では,「読解力」と「科学的活用能力」は「上位グループ」, 「数学的活用能力」は「OECD平均より高得点グループ」という結論を得てい る。すなわち目標値である「世界トップレベルの順位」に達していない。 ③ テーマ設定 我々の協議の中で,学校種の違いがあっても重要な課題として,学力向上に向 けての方策,学習意欲の低い生徒への喚起等があることが話し合われた。これら は,喫緊の課題であると実感され,前述の文部科学省の見解とも一致している。 海外派遣プログラムにおいてアメリカ合衆国の学力向上の取組について調査し, 報告することで学校経営改善に生かしたいと考えた。 以上がテーマ設定の理由である。 (2)調査結果 ① 授業等の工夫 ア クラス編成や授業形態 州政府によりクラスの生徒数の制限が法制化されている州が全米の約半数あ る。バージニア州やワシントン州では授業の生徒人数は 20~25 名で,4人のグ ループ学習を行うための机配置が多い。各学校独自のプログラムや方法によっ て児童生徒の能力育成が図られており,読解力の育成に力を入れている学校が 多く,生徒が自分の考えを発言する機会が多く与えられている。 ○ グループで学習し,読解力,表現力,コミュニケーション能力を育成する 21 世紀学習法(21th Century Learners)を取り入れている。例えば,リーデ ィングでは 30 分各自で読書をした後,リーディングパートナーに読んだ本の 紹介をする。教員は生徒が理解しているか確認して回りメモを取る。これを 年3回実施,能力判定の記録となる。また,リーディングと同様の学習の後 に作文を書き,月に 1 回発表し合うなど,表現力やコミュニケーション能力 の育成を図っている。(ウエストゲート小学校) - 28 - ○ 同じ教材を用いているが,違ったアプローチや個人に焦点をあてた教え方 の工夫をしている。また,生徒の能力をみて学力が高いと認定された科目だ け,上の学年の授業を受けることができる。(チェスターブルック小学校) ○ 希望する家族に,抽選によって提供されるALKIプログラムを実施し, 3学年が合同で授業を行う学習形態をとっている。年上の生徒が年下の生徒 を教えることで助け合いの心が育ち,よりよい人間関係の構築に役立ってい る。(リーブス中学校) イ 教材の利用,開発・ICT機器等の活用等 教科書は,基本的には無償で貸与されており学期の終わりに返すので,傷ま ないようにカバーをするなど工夫をしている。 また,コンピュータ教室にはデスクトップパソコンが数十台備え付けられてい て,カートに収納したノートパソコン 10~20 台を利用している学校もある。電 子黒板(Smart Board)は多くの教室に設置されていて,効果的に使用されている。 ○ 国際教育工学学会(International Society for Technology in Education) 所属の教員が配属されている学校では,その教員が中心になってICTを推 進している。また,全ての科目の学習でQRコードを活用し,教員が生徒一 人一人のカリキュラムを立て,コンピュータで管理している。(チェスターブ ルック小学校) ○ 学力向上等でよい結果を出している学校の実践例集を参考にして教材の工 夫をしている。(リーブス中学校) ○ 大学進学の必修科目であるフランス語の授業で,約 20 人の生徒が個々にタ ブレット端末を使用して,E-ラーニングによるリスニングの学習を行って いる。(オリンピア高校) ウ 学力の高い生徒,意欲の高い生徒に対する特別な指導 過去には学力の高い生徒は別の学校で育成される場合が多かったが,1993 年 にアメリカ合衆国教育省からギフテッド・タレンテッド教育(Gifted and Talented Education 以下,GATE) が発表され,学校内で育成できるように なった。 ○ GATEは,同じ年齢・経験・環境を持つ子どもと比較して著しく高いレ ベル(可能性を含む)の子どもに対し,学校内に特別クラスを編成して育成す - 29 - るプログラムで,地域のマグネット・スクールの役割も担っている。(チェス ターブルック小学校) ○ 高校では,希望すれば入れるAPクラスがあり,大学の単位として認定す る高いレベルの科目を開講している。(オリンピア高校) ○ 高大連携によって大学と複合したカリキュラムを設定しており,大学レベ ルの内容の授業が選択できる。また,高校に在学しながら夏休み等を含めて 大学へ通い,高卒と同時に短大卒の資格が取れるコミュニティカレッジを実 施しており,大学等の上級学校への進学率が 88%に達する成果を上げている。 (スクールオブジアーツ高校) エ 学力の低い生徒・特別な支援を要する生徒の指導 毎時間常時ではないが,担任以外に,副担任や準教員がサポートして,生徒 の育成にあたっている。きめ細やかに学習をサポートする目的で,通常の科目 以外に学校独自のプログラムで支援し,成果を上げている学校もある。 また,1975 年に制定され 1990 年に改正された「全障害児教育法」(現在は「個 別障害者教育法」)に基づき,すべての学校で,障がいがあると認定された児童 生徒に対して,連邦政府から資金が支給され,個別の教育プログラムである IEP(Individualized Education Program)を作成して,個に応じた教育を行 う義務が課せられている。このプログラムを作成せずに通常の授業で終わらせ た場合,大人になって訴えられると多大な責任を取らされてしまう。 ○ ワシントン州では,担任が学習遅延の生徒を把握して校長に相談,マスタ ーティーチャーがついて指導する等の措置を行う。遅延が2年以上続く場合 はスペシャルエデュケーションに移行する。(ワシントン州教育委員会) ○ 障がいがある生徒,英語が母語でない生徒に対し,学期ごとにトレーニン グをしたり,リーチプログラムという1週に4日,1日あたり放課後 40 分間 の学習を行ったりして,学習の偏りを無くす取組を行っている。(チェスター ブルック小学校) ○ ワシントン州オリンピア学区では,各中学校で特別な支援を要する生徒を 分担して受け入れている。オリンピア学区中学校改良計画(2011-12)によると, 特別支援学級に在籍する生徒を対象にしたHOPEプログラムを地区レベル で実施している。また,金曜学校(Friday School)を実施して,学習の改善を - 30 - 図っている。これは,金曜日の午後に行う学力増進のための3時間の補習で ある。教員は指導が必要な生徒を副校長に申告,家庭連絡により保護者の了 解が得られた生徒が指導を受けている。(リーブス中学校) ○ 生徒個々の能力や障がいに合わせた学習プログラムであるILP (Individual Learning Program)を実施している。生徒が生徒を助けることで 疎外感がなくなり,生徒間の友情の育成や教える側の生徒の自信につながっ ている。(スクールオブジアーツ高校) オ 長期休業中の学習指導 夏季などの長期休業中には,ボランティア活動等に積極的に参加する生徒も 多く,日本の高校で行われている補習授業等はあまり行われていない。 ○ 共働きの保護者と学校との話し合いでサマースクールを開校する。(ウエス トゲート小学校) ○ 保護者が行うバザーの収益金により,教員を雇いサマースクールを実施す る。(チェスターブルック小学校) カ その他 芸術の専門高校では,恵まれた立地条件を生かして,ワシントン州立大学図 書館,州立歴史博物館,ガラス美術館,ワシントン美術館等の施設とパートナ ーシップアグリーメントを提携している。生徒は学生証を提示すれば無料で入 館できる制度で,生徒の学習意欲向上に資している。(スクールオブジアーツ高 校) ② 学区制や学校選択について 訪問した小学校2校,中学校1校,高校2校はすべて公立学校で明確な学区が あり,大抵の場合は居住地域によって通う学校が決まってくる。 訪問した高校の一つは,教材の工夫以前に生徒の向上心をいかに刺激するかに重 きを置いて指導し,成功している。定員に対する入学希望者の数が2倍を越え,書 類審査・面接・抽選の順で入学者選抜を行っている。(スクールオブジアーツ高校) 学校運営資金に関して,連邦政府や州からの配分以外に,その地区にある企業 などの税金や寄付,地域住民の固定資産税などが多く活用されており,日本の学 校以上に地域に根ざして学校を運営している印象を受けた。また,学校長は学校 運営資金をいかに調達するかという資質も求められている。 - 31 - ③ 授業以外の活動の評価 学力テストの結果だけでなく,行動や態度,出席状況等を評価し表彰すること で,生徒の意欲を喚起して教育効果を上げている学校もある。 ○ 児童の成長に視点をあてた素行も評価の対象に入れて,4段階で評価して いる。(チェスターブルック小学校) ○ 学力向上の例として,ワシントン州教育庁でサポートされている研究開発 型の戦略で,肯定的な行動介入とサポートモデルとして,PBIS(Positive Behavior and Intervention Supports)が行われており,遅刻をしないことや 良い行いが表彰されている。(リーブス中学校) 授業の開始と終了のチャイムは鳴らず,短い休憩時間もないが,生徒は時間に なれば素早く廊下を移動したり,小学校ではクラス単位で一列に並んで移動した りするなど,訪問した多くの学校が整然と規律が保たれている。 ④ 専門スタッフの配置 スクールカウンセラーは,生徒数の割合によって配置されている。常駐ではな いが,心理療法士の配置が見られる学校もあり,生徒の状況によって家庭との連 携を密にしている。家庭で重大な問題があった場合は,早急にソーシャルワーカ ーなどの地域の専門職員が介入する仕組みがとられている。貧困やホームレス等 の問題は外部の専門家の手を借りて根本的な解決が講じられている。また,ある 小学校では,算数と英語においてリソースティーチャーと呼ばれる先生の先生を 配置し,教授法などを学ぶことができる。 ⑤ NCLB法とCCSS(Common Core State Standards) 2002 年に成立したNCLB法が施行され,生徒の学力を 2014 年までに標準レ ベルにあげることを目標にしてきたが,ここにきて問題点が多く指摘されている。 標準テストが重視されることによるテスト準備教育への偏り,目標が達成できな い場合の責任が問われるなどの弊害等から,ワシントン州を含む4つの州でNC LB法による基準の免除が承認されることになった。 アメリカ合衆国には多くの学力や能力の判定基準があるが,全米で共通の州ご との新しい基準が運用されようとしている。ワシントン州においても数学と言語 についての体系化された基準CCSS(Common Core State Standards)がつくら れ,2011 年から州の学習基準の開発として採用されている。 - 32 - Ⅴ 1 全体の考察とまとめ 学校経営改善に向けた教職員の育成について 「教員の養成・資質向上」が望ましい学校経営の改善に欠かせない要素であること がわかった。 多民族国家であるアメリカ合衆国は,英語を母語としない児童生徒が多数在籍し, 貧困層の割合も日本に比べ高い。また,教員のステータスは他の職種と比べ決して高 いとはいえず,外的報酬である給料も低い。そのような状況下でアメリカ合衆国は, 連邦政府,州,学区(学校)で次のように柔軟な取り組みで教員の育成を行っていた。 まず,連邦政府は,優秀な教員確保のための基金(①フォーミュラー基金②コンペプ ティブ基金)や教員志望の学生に奨学金を給付する基金(③ファイナンシャル基金)を 導入している。従来,教育行政は州に権限があったが,これらの基金を設けることで, 連邦政府は州に対し一定の発言権をもてるようになった。各州での連邦政府からの教 育予算の占める割合は,約 10.5%ではあるが,教員の育成や教育改善への原動力とな っている。 次に,州においては,それぞれ独自の教員育成システムを取り入れている。私たち が訪問したワシントン州教育委員会においては,州の制度として新任教員対象の研修 を行っている。しかし,研修期間は短く,また先輩教員から新任教員を指導するシス テムが構築されていないなど,州として新任教員の育成システムが十分機能している とは言えないと感じた。これは,州として新任教員への研修予算を捻出することが難 しいためと考えられる。 また,私たちが訪問した学校においては,自助努力により費用のかからない教員同 士の教え合いを頻繁に行っており,なかには学校組織としてコーチ制度を取り入れる など教員同士のミーティングの機会を確保していたところもあった。普段とは違う困 難な局面が生じても,迅速,的確に対処することができるように実情に合わせた各学 校独自の教員の育成システム作りを行っていた。そして教員の指導能力の判定を校長 が行っており,この判定が教員のやる気や,資質向上の重要な要素の一つになってい た。つまり,校長のリーダーシップが教員の育成や学校運営に大きく影響することが 分かった。 そして,このような状況の中,全米教育長協会(各州の教育長で構成)において,M CTS(Model Core Teaching Standards)を提唱していることが調査できたのは大きな - 33 - 収穫であった。 このMCTSは,モデルとなる教授方法の基準を示したものである。現在中間まと め段階ではあるが,各州において発言権を持っている教育長が作成していることや, 州ごとではなく全米共通の基準書であることを考えると,今後このMCTSがどのよ うに教員の資質向上に活用されていくのか注視される。 日本の画一的な教員の育成システムとは異なり,アメリカ合衆国は,教員に求めら れる多様な指導力を,実情に合わせ柔軟に身につけさせるシステム作りを行っている。 校長のリーダーシップにより工夫しながら最適な方法を模索し続けているアメリカ合 衆国の教員の育成システムを,日本も参考にする必要があると感じた。 2 組織的に学校経営改善に取り組むための評価活動の在り方について ワシントン州の教育長から「NCLB法は,学力向上という目標がはっきりしてい て透明感があったが,非現実的で無理が多すぎた」という話を伺うことができた。法 律により,学力向上に関しての具体的な目標が示されることは,学校評価の内容や方 法が明確になるので,学校評価においてもその実効性は高くなる。したがって,条件 が整った学校では学力向上に関して一定の成果を残すことができた。しかし,一方で 目標が達成できなかった学校は,「改善を要する学校」というレッテルとともに,教 員に対する周囲からの尊敬の念が薄れ,教員の離職率が高まるという深刻な影響も発 生していた。 アメリカ合衆国には 100 の言語が混在しているといわれるように,文化や言語が多 種多様な国である。特に英語を母語としない児童生徒にとっては,それぞれが通う学 校でテキストを「読むこと」や文字を「書くこと」すら,ままならない現実に直面す る。仮に,自分が受けもつ児童生徒が,学習に関してその基礎・基本となる母語が定 着できていないとしたら,私たち教師はどのように学習指導を進めることができるだ ろうか。 当然のことながら,アメリカ合衆国の各教育機関や学校では,児童生徒の学力向上 や個性伸長のために,学校経営改善を通して,それぞれの課題を克服するための取組 が進められていた。多民族国家という背景からくる,多様な児童生徒の教育的ニーズ に対しては,分析的でしかも細やかな手立てが施されていた。また,教師の教授法ス キルアップに関しても,日常的でしかも組織的に取り組まれていたことから,児童生 - 34 - 徒の学力を,一定水準以上へと引き上げようとする命題が各教師にまでしっかり浸透 している印象を受けた。さらに各学校においては,学校長がリーダーシップを発揮し, 各教職員と協働しながら学校経営改善に取り組んでおられる姿を拝見することができ た。訪れた各学校長に共通していたことは,所属する教職員はもとより,保護者や地 域住民との徹底したコミュニケーションと,それに基づく明確なビジョン提示である。 その原動力は教育者としての誇りとその使命感であったように感じる。 「共通理解と共通実践」という言葉を学校でもよく耳にする。難しい言葉ではない が,実践となると簡単ではない。学校は「学力向上」だけでなく「生きる力」を育む 場所である。そのことを念頭に置きながら,学校が目指すべき方向性を明確に共有し, その上で日常的な,しかも徹底したコミュニケーションが行われている環境であるか は,実効性の高い学校評価への試金石である。その営みに支えられた学校評価活動は, 組織的に学校経営改善に取り組むことができる評価活動になり得ると考える。 3 学力向上に向けた授業の工夫を中心とした学校経営改善について 「学力向上に向けた授業の工夫」に関しては,各学校共に学校の状況,特に学力の 状況について,校区への説明責任を果たさなければならず,学校の存続にも左右する ことであり,日本よりも切実な状況にあると受け止めた。 各学校共に独自の実践があり,それぞれ子どものレベルに応じた学習を行うことに より学力向上を図っていて,各校の工夫がうかがえた。また,母語が英語ではない生 徒等への「英語」「数学」の授業のために担任教員への指導やアドバイスを行う英語や数 学の専門の教員の配置も有効であると考える。 学習意欲の低い生徒への指導については,小中学校共に学力面だけでなく,社会性・ 道徳心など子どもの素行や,無遅刻,無欠席をたたえる評価がされていて,意欲を学 力向上につなげるという工夫をうかがうことができた。また,訪問校5校共にカウン セラーを中心に迅速に対応し,担任との連携を図りながら,必要であれば家庭へのア クションも行っているということである。高校では,家庭の問題はホームレス等深刻 な場合が多く,根本的な解決のために外部機関に依頼する場合もあるということであ り,貧困の問題が日本よりも深刻であると受け止めた。カウンセラーは常勤が1名, 非常勤が1名配置されており,この点は経済的に厳しい学校経営にもかかわらず,日 本よりも生徒の内面のケアを大切にしていることがうかがえた。また,各学校ともに - 35 - 児童生徒の学力分析・素行等について,ファイリングされており,児童生徒の実態に 応じて今後の方針を決めるミーティングの時間が各学年で担任と専門の先生により設 定されており,有効に機能していた。 障がいのある児童・生徒への教育に関しては, 「個別障害者教育法」に基づきすべて の学校で,障がいがあると認定された各生徒に対して,連邦政府から資金が支給され, IEDプログラムを作成して,個に応じた教育を行う義務が課せられている。各学校 に義務付けられている点が優れており,日本においても必要な法整備である。 訪問先での調査や授業を参観して,授業の一手法として小中高校共に「あなたはな ぜそう考えますか?(Why do you think so?) 」と教員が児童生徒に質問する場面がみ られた。また,教員の周りに児童生徒を集めて授業をするスタイルも特徴的である。 作文,レポートやスピーチなどの課題で論理的思考を指導したり,与えられた条件か ら客観的に推測・検討・分析する考え方を指導したりするような題材の設定が小学校 段階から行われている。小学生のうちから論理的に考え,物事をさまざまな角度から 捉える訓練を取り入れる題材の設定や,生徒が自律に向かうような指導の工夫も学ぶ ところが大きい。このような工夫は,新学習指導要領の理念である「生きる力の育成」 や,重視されている内容でもある「思考力・判断力・表現力の育成」 「言語活動の充実」 を伸ばすことに他ならないと考える。 また,リスペクト(Respect)と書かれた旗や掲示物を廊下や教室で多く目にした。リ スペクトの対象は,自分自身,他の人,異人種の人,学校,地域等,様々である。規 律を守り善い行いをすることを生徒が考えるような指導が行き届いていると感じた。 最後に,学力向上に関する手立てとして,学力のみならず,教室移動は1列に並ん で静かに歩くことや授業への心構え,姿勢(Attitude),行いが大切にされており,日 本の教育が大切にしてきた考え方を学力の向上に反映させていることを感じた。 この「我々日本の教育者は,失われつつある日本の教育方針の良さを再認識し,自 信を持って実践していくべきである。」ということを実感できたことも,今回の研修で 得た一つの大きな成果であると言える。 - 36 - Ⅵ 実践に向けた展望 団名:A-1 1 研修成果の活用例① テーマ:学校経営の改善 訪問国:アメリカ合衆国 研修名 組織的に学校経 営改善に取り組むための学校評価活動に関する研修会 2 目 的 アメリカ合衆国の 学力向上に関する,学校評価と学校改善に向けた取組を報 告し,各教員が自校 の学校評価活動をより実効性のある学校評価活動へと高め るための方策を協議 することで,今後の学校経営改善に生かす。 3 対 象 小学校,中学校,特 別支援学校の教員 4 日程・技法及び 内容 (1)時間:1時間 30分 (2)技法:研修報 告(45分) 及び研究協議(45分) (3)内容 ① 研修課題の設定 ・日本の学校評価に 関する現状と課題から研修課題を共有 ② 調査結果の報告 ア アメリカ合衆国 の教育制度の概要 ・アメリカ合衆国の 学力に関する課題 ・NCLB(No Child L eft Behind Act)法の目的と内容 ・NCLB法に基づ く学校評価 ・NCLB法の功罪 イ アメリカ合衆国 の教育機関の役割 ・アメリカ連邦教育 省 ・全米州教育長協議会 ・ワシントン州教育 委員会 ・ワシントン州学校管理協会 ウ バージニア州 小学校の取組 ・ウエストゲート小 学校 エ ワシントン州 ・チェ スターブルック小学校 中学・高等学校の取組 ・リーブス中学校 ・オリン ピア高校 ・スクールオブジア ーツ高校 ③ 質 疑 ④ 研究協議 【テーマ】学校評価 活動の実効性を高めるための方策 ア「学校評価におけ る明確な目標とは」 イ「全教職員で評価 目標を共有するために」 ウ「多忙感を助長し ない学校評価活動とは」 ⑤ 研修のまと め - 37 - 【説明資料】 1 研修課題の設定 我が国の学校評価の現状として,学 校評価を行うことが必ずしも学校評価 改善に結びついていないという,文部 科学省の調査結果から,より実効性の 高い学校評価活動が期待されている。 2 調査結果の報告 (1)アメリカ合衆国の教育制度の概要 2000年のPISAの結果から,アメリカ合衆国は自国の学力に際して危機感をもったと言われ, その結果,2002年のブッシュ政権下において,NCLB法(No Child Left Behind Act)を制定す る。このNCLB法は,教育に大きな影響を与える重要な連邦法で,その主なポイントは,以下の 3点である。 ○ 全米の全ての児童生徒の英語運用能力・数 西 暦 2000年 2003年 2006年 2009年 学(後に理科)のテストの点数を2014年までに 一定水準以上に到達させることを要求。 ○ アカウンタビリティ・システムによりテス 読解力 ト結果を学校間・学区間・州間比較する学校 数 学 評価の実施。 ○ 下位5%の学校は,連邦支出金を基に学力 向上努力を課し改善を要求。 科 学 参加国 31国 40国 57国 65国 米 国 15 18 17 対象外 日 本 14 15 8 28 35 31 6 10 9 22 29 23 2 6 5 8 米 国 19 日 本 1 米 国 14 日 本 2 〈PISAの学力調査より〉 (※数字は順位) アメリカ合衆国の学校評価とは,州が学力テストを実施し,州政府,学区,学校に対して学力測 定の結果に対する説明責任と毎年の目標達成を求めるものであり,成果があった学校は「優良校」 として公表され,成果が上がらなかった学校は「改善を要する学校」として認定される。仮に 5 年 以上改善がみられない学校は,教員の配置転換を含む再編計画を策定するというものである。この ことから,学校評価=学力評価=教員の評価(力量)である印象を受けた。 この法の成果は,ある一定の学力向上が図られたことと,学校が組織的に学力向上に取り組んだ ことである。しかしながら,貧困層の児童生徒,英語を母語としない児童生徒,障がいのある児童 生徒にも学力向上に関して同じ目標値が課せられた。そのため,目標を達成することができずに, 「改善を要する学校」というレッテルを貼られたことに対する不満があがった。また州によって児 童生徒の学力を図るテストが異なり,公平ではないという問題点も明らかになった。 そこで,2014 年度までに,アメリカ合衆国としてのコモン・コア・カリキュラムを実施し,全 米的に評価基準を統一して学力を向上させようとする動きがある。そのため,各州,各学校では, 基準の設置や教員の研修等に力を注ぐなど,その準備に追われている。 - 38 - (2)アメリカ合衆国の教育機関の役割 ① 連邦教育省について アメリカ合衆国憲法の「本憲法によって合衆国に委任されておらず,また州に対して禁止され ていない権限は,それぞれの州または人民に留保される。」に基づき,教育に関する権限は州に 委ねられているため,全米一律の学校制度は存在していない。連邦教育省の主な役割は,全米教 育統計局(NCES)のデータを基に予算を配分することで,州や地方の教育課題克服への手助け を行っている。 ② 全米州教育長協議会 教育行政の重要役職に就いている人や教育長などの州のトップの人たちが,コアのスタンダー ド作成に携わっている組織であり,ワシントンD.C.にある。 ここで作成されているコモンコアスタンダードは,生徒が第 12 学年を終るまでに大学教育を 受けるのに必要な学力を身に付けさせるという具体的な目標を定めている。しかし,各学年毎の 学習内容の指針が定められても,カリキュラムの重要な内容については依然として学校区や学校 や教員の判断に委ねられている。なお,アメリカ合衆国教育界で最も古い,有意義で,権威ある 賞である全米最優秀賞教員を選出し,表彰を行っている機関でもある。 ③ ワシントン州教育委員会 ワシントン州オリンピアにある。教育長は,選挙で市民に選ばれた人が,4年間の任期で務め る。選挙で選ばれた州知事に対して,要望を出す権限をもっている。具体的には,教育予算,授 業日数の確保,幼児教育の充実,職業訓練のプログラムの評価,高校卒業率アップ等に関する取 組を進めている。 ④ ワシントン州学校管理協会 ワシントン州の教育行政を代表する専門家団体であり, 小学校や中学校,高校の校長と地域学校区の教育委員長で 構成される非営利団体である。地域と保護者と協力しなが ら学校教育とはどうあるべきかを, 「個性」 「独立性」「創 造性」を重点テーマに活動している。アンケート調査やミ ーティングにおいて集約された学校教育に関する改善要 望等に関して,学校現場に任せられる事項については基本 的に学校に任せるが,学校単独で不可能な事項については,学校区と州政府,州政府とアメリカ 連邦政府の間の調整を行っている。協会は,毎年学区へ提出される学校改善計画を集約し,各学 校の問題を把握する。その後,同じような課題を抱える学校のグループに,経験豊富な有識者を 含めたミーティングを設定することで,学校改善に取り組んでいる。「どんな要望なのか」より 「その要望の裏にあるもの」をいかに見極めて,策を講じるのかが大切であると説明をうけた。 つまり,学校の改善については,場当たり的に解決するのではなく,長期改善が重要であり, そのためには問題の根底をしっかり探ることである。学区は 60 年前には 2,500 の学校区があっ たが,今は 295 と大きく減少しており,そのため学校区の範囲が広くなり,地域密着が薄らいで いるため,この協会が果たす役割が大きくなってきている。 - 39 - (3)バージニア州の小学校の取組 ウエストゲート小学校では5歳~12 歳の 児童が学んでいる。年度初めに学校の目標を 設定し,全教職員で共有している。読解力の 向上に力を入れており,年に3回,児童の読 解力を判定する。教師は判定結果をレポート にまとめ,学校に報告するようになっている。 また,3~6年生まで毎年学力テストを行い, その結果を次年度の目標設定の基準として いる。ミーティングを非常に重視しており, 児童がスペシャル(体育,美術等)の授業を受 ける際に空く時間をミーティングの時間にあてている。さらに,月曜日の下校が2時間早いので, その時間を利用して 45 分間の職員会議を行い,トレーニングや教授法の話し合いを行っている。 低学力の児童に対しては,その低学力の原因を探り, 「発達」にあれば特別支援を, 「環境」であれ ば,カウンセリングを提供し支援している。 チェスターブルック小学校では,4学期制を実施し,学期ごとにテストを実施して児童の学力を 測定しクラス分けを行っている。また,年度初めに親へのアンケートを実施している。これは,学 力テストについての到達度や努力の程度等を評定するもので,その結果をもとに個々の児童に応じ たプログラムを設定し学習に取り組ませている。週に一回ではあるが大きな成果を上げている。 (4)ワシントン州 中学校および高等学校の取組 リーブス中学校は,ワシントン州オリンピアに立地し,6年生から8年生までの 416 人が在籍し ており,その 37%が昼食の援助が必要な経済的に恵まれない家庭状況にある。学校では,ALK I(アルカイ)プログラムとHOPE(ホープ)プログラムを特色として打ち出ている。 学年 (2010-11) 科目 2010-11目標 2010-11結果 2011-12目標 ( 数学 EOCに つい 基準を満たす生 基準を満たす生徒 基準を満たす生 ては別表参照) 徒の割合% の割合% 徒の割合% 学年 (2011-12) 小学5 リーディング 81.3 * → 82.5 小学6 小学6 リーディング 82.5 84.6 → 87.1 中学1 中学1 リーディング 82.5 67.7 82.5 中学2 中学2 リーディング 82.5 79.0 小学5 数学 71.1 * → 79.3 小学6 小学6 数学MSP 79.3 63.8 → 79.3 中学1 中学1 数学MSP 79.3 66.5 → 79.3 中学2 中学2 数学MSP 79.3 56.6 リーブス中学校がオリンピア学区に提出している中学校改良計画は,学力向上に関して,リーデ ィングや数学の目標を, 「基準を満たす生徒の割合」の%で示すことで,成果指標としている(上記 の表参照)。目標達成のための取組指標としては,リーディングや数学,科学において,継続戦略 - 40 - と新規戦略の形でまとめられ提案され,その内容も具体的である。また,形成的評価を通し,カリ キュラムと指導の継続的改善に取り組むとし,以下の4つの重要な「問い」を重視している。 ○「何を全生徒に学ばせたいのか。」 ○「いかにして生徒が学んだか否かを知るか。 」 ○「生徒が学習しない場合はどのような対応を取るのか。」 ○「既に生徒が知っている場合はどうするのか。」 決して目新しい「問い」ではないが,私たちに改めてこの基本的な「問い」を投げかけられたと き,即答できかねる教員が決して少なくないのではないかと考える。 このように,具体的な成果指標と取組指標を示し,学校としての経営理念を周知,徹底して取り 組む姿勢は大いに参考になる。 オリンピア高校の特色は,試験ではなく希望すれば入れるAP(アドバンス プレースメント)プ ログラムや車の運転免許が取れるプログラムがある。生徒や保護者へのアンケートを実施し,学校 への要望を集約し改善計画に生かしている。学ぶ意欲がなかったり,家庭的な問題を抱えたりして いる生徒に対しては,カウンセラー等を積極的に活用し,多角的なアプローチから課題解決に取り 組んでいる。 スクールオブジアーツ高校は,芸術と理数科に特化した学校。卒業率が 98%と非常に高い。(同 じタコマ学校区の公立高校の卒業率は 60%)子どもの資質と興味に合わせて,その能力と向上心を 最大限に伸ばすことを経営理念としている。 そのために,教員は金曜日に2時間 30 分のミーティングを行っている。4~5人のグループに 分かれてカリキュラムや生徒の学習状況,指導方法などについて意見を交換し合い,教員自身も能 力向上に取り組んでいる。このミーティングからの意見を集約し,校長と副校長が「学校改善プラ ン」を作成している。また,学力テストのみでなく,日常的な評価活動を大事にし,個の学力を徹 底的に分析し,個に応じた学力向上のプログラムを作成している。 3 質疑 4 研究協議 ○協議の柱 ・学校評価における明確な目標とは。 ・全教職員で評価目標を共有するために。 ・多忙感を助長しない学校評価活動とは。 5 研修のまとめ アメリカ合衆国では,学校長が強い権限をもち,リーダーシップを発揮している。学力向上に向 けては,教員や保護者とのミーティングを大切にしながら,それらを学校経営改善プログラムに活 かしている。校長自ら児童生徒や教員集団の中に入り,学校教育指針をもとに全教員に向け学校の 経営ビジョンを力強く語ることで,組織として教員がどのような目標を立てていけばよいか方向性 が決定する。また,ミーティングを重ねることで,管理職や教員との間で,評価目標の共有化も力 強いものになる。学校教育には数値化できにくい側面はあるが,取組指標や成果指標の具体的な設 定は,目標を明確にし,組織の高まりにも繋がる。加えて,学校評価の取組が多忙感を助長しない よう,評価項目を網羅し過ぎていないか,また評価結果を分析し,成果や課題を効率的に洗い出す ことで,より「実効性」の高い学校評価活動が期待されることになる。 - 41 - 研修成果の活用例② 団名:A-1 1 2 研修名 目 的 テーマ:学校経営の改善 訪問国:アメリカ合衆国 アメリカ合衆国における学校経営改善に関する校内研修会 アメリカ合衆国における学校経営の改善に関する取組について報告し, 我が国の一般的な取組との違いを確認しながら理解を深めていく。また, 将来の国や地域の担い手となる生徒一人ひとりの育成に,学校現場で何が できるかを考えて実践していく一端となる研修を行う。 3 対 象 高等学校教職員 4 日程・技法及び内容 (1)時間 1時間30分 (2)技法 講義・質疑応答・ディスカッション (3)内容 ① 日米の教育体系と学力テスト ア 初等教育から高等教育にかけての教育体系 日本とアメリカにおける学校の種別と児童・生徒の年齢について説明する。 イ 学力テスト アメリカにおける統一テストやNCLB法に基づく学力テストについて説明 する。日本における全国学力テストについて説明する。 ② アメリカ合衆国における教育制度の概要 教育政策の立案や実施においては,連邦政府,州政府,学区(地域)のレベル があり,州や学区ごとにかなり違いが見られる。オバマ大統領が再選され,連邦 政府の政策面での教育への関わりは大幅な変化はないと思われる。しかし,連邦 政府の役割は限られており,教育に関する基本的な権限は州政府にあるのが実態 である。ただ,NCLB法や教育費の配分などにおいて連邦政府が関わっている 点もあることに触れる。 ③ アメリカ合衆国の教育機関における役割や取組 ア アメリカ教育省 イ 全米州教育長協会 ウ ワシントン州教育委員会 エ ワシントン州学校管理協会 ④ アメリカの小・中・高校における取組 ア 授業の工夫 (ア)クラス編成や授業形態 (イ)教材の利用・開発およびICT機器の活用等 (ウ)学力・意欲の高い生徒に対する指導 (エ)学力の低い生徒や特別な支援を要する生徒の指導 (オ)長期休業中の学習指導 イ 学区制や学校選択について ウ 授業以外の活動の評価 エ 専門スタッフの配置 ⑤ 質疑応答 ⑥ 実際の学校現場において ア 新学習指導要領の確認 「生きる力」を育む 知識や技能の習得とともに思考力・判断力・表現力などの育成 イ ディスカッション テーマを選定し,グループに分かれてディスカッションを行う。 (ア)テーマ例 ・日本の学校教育に必要なもの ・本校の学校経営の改善に向けた取組について ・信頼される学校づくりに必要なもの ・学力向上 (イ)方法 5人程度のグループによるブレーンストーミング形式で行う。 ウ 全体討議 意見を各グループでまとめて,班長に発表してもらう。 - 42 - 【説明資料】 1 各教育機関について (1)連邦教育省(U.S.Department of Education) 1979 年 10 月に成立した教育省設置法のもと,1980 年5月に設立され,本部はワシントンD. C.にある。連邦教育省は,教育のための連邦財政支援に関する政策決定,助成金配分の監督, 助成金使途の監査を行っている。また,アメリカ合衆国の学校に関するデータ収集および調査 研究の監督を行い,得られた情報を連邦議会,教育専門家および一般国民に公開している。 (2)全米教育長協会(Council of Chief State School Officers/CCSSO) ワシントンD.C.にあり,行政組織ではなく,教育長(教職経験者や教育行政の重要役職に 就いている人)が互いにお金を出し合って作っている組織である。子どもの学力向上に向けて その判定基準となるコモンコアのスタンダード(アメリカ版学習指導要領)を作っている。 ここで作成されているスタンダードは,政府の管轄ではないが,州を包括しており(連邦レ ベル),半官半民で作成している教員養成プログラムや標準カリキュラムである。2011 年に MCTSの中間報告が出された。 (3)ワシントン州教育委員会(Washington State Board of Education) ワシントン州オリンピアにある。教育長は,選挙で市民に選 ばれた人が,4年間の任期で務める。選挙で選ばれた州知事に 対して,要望を出す権限をもっている。例として,知事がコス トカットを理由に授業日数を平常より5日間少ない 175 日間 にしようとした際,180 日を守ったという話をされた。 ワシントン州の 50%の家庭が貧困層であり,幼稚園(プレキ ンダー)にいけない子どもを何とか教育に向かわせたい,さらに,8割の高校卒業率を改善し たいという話をされた。学習には,「Attitude(姿勢・構え)」が大切であることをクイズと して出しながら話していただいた。 (4)ワシントン州学校管理協会(WASA) ワシントン州の教育行政を代表する専門家団体であり,小学校・中学校・高校の校長と地域 学校区の教育委員長で構成される非営利団体である。地域と保護者と協力しながら,学校教育 とはどうあるべきかを,3つの Individuality(個性)・Independence(独立性)・Creativity(創 造性)を重点テーマに活動しており,その活動の一つとして,学校区と州政府・州政府とアメ リカ連邦政府の間の調整役を担っている。60 年前は 2,500 の学校区があったが今は 295 と大 きく減少しており,そのため学校区の範囲が広くなり地域密着が薄らいでいるため,この協会 が果たす役割が大きくなってきている。 2 アメリカ合衆国の教育の現状について アメリカ合衆国各地において,学力水準の低下が大きな問題となっており,その要因として, ①貧困層の家庭,②母語が英語ではない児童生徒があげられる。 各学校が学力の向上を目指す上で, 「NCLB法」は切り離せないという認識で臨んだ。 「NC LB法」とは,「どの子も置き去りにしない法」という意味であり,2002 年のブッシュ前大統領 時に合衆国の全児童・生徒の学力向上と教育格差の解消を目的として成立した法律である。この 法律に従い,各州は州ごとに「読み」と「数学」のテストについて「年間到達目標」を設定し,テス - 43 - トを実施する。5年間達成できなければ,学校経営権の移譲や抜本的な教師の入れ替えなどの措 置が講じられる。そして 2014 年までに,すべての児童・生徒の学力を州テストで「習熟レベル」 以上の判定を受けることができる水準までに引き上げなければならない。 しかしながら,「①貧困層の家庭 ②母語が英語ではない③特別な支援が必要」な生徒に対して も同様の判定が求められており,連邦教育省の話では,「問題点が大きいと」いう見解が得られ た。また,教師のストレスによる離職者の増加や教師希望者の減少(特に男性)など多くの問題点 が指摘されている。 46 州が「コモンコアスタンダード(学習指導要領のアメリカ版) 」による児童・生徒の実態に 合った基準を設けていて, 「NCLB法」によらない教育が行われ ていることが分かった。 そのような実態の中で,各学校共に学校の状況,特に学力の状 況について,校区への説明責任を果たさなければならず,学校の 存続にも左右することであり,日本よりも切実な状況にある。学 力の向上に向けて各学校では独自の工夫を行っていた。 3 学校におけるカリキュラムの工夫,クラス編成,設備・教材による授業の工夫 授業における児童・生徒人数は 20~25 名程度であり,一斉学習も取り入れた学習方法が行わ れた。4~5人でのグループ学習では,担任以外に副担任や準教員がサポートして,授業に入り, 各グループを回りながら,子どもの学力に応じて,ニーズに合った教育を行なっていた。学力向 上として読解力や表現力,コミュニケーション能力の育成に力を入れている学校が多くみられた。 ウエストゲート小学校は,50 カ国・600 人の児童が学んでいた。母語が英語ではない子どもが 多い中で,州のスタンダードレベル(標準学力)に達するように,21 世紀学習法と呼ばれる学 習方法がとられていた。その方法は,レベルごとに教室に置かれた図書を 30 分間各自で読んだ 後に,リーディングパートナーに自分の読んだ本の内容を互いに伝え合わせていた。ただ読むだ けに終わらせず,読む力と内容を理解する力と理解したことを発表する力,いわゆる読解力と表 現力を養っていた。教師は,各児童の理解の度合いを確認して回り,評価している。そしてその レベルの本がクリアできたと判断すれば,次のレベルの本へと次々に進み,学力を上げていた。 各児童の評価は,教師がファイリングしており,どの程度理解が進んでいるのかについて,常 に確認し,次のステップに向けた参考としている。また,転入してきた母語が英語ではない児童 を取り出して,作文指導を行う取組もあった。 チェスターブルック小学校では, 「レベル4」という,できる子をさらに伸ばす独自のプログ ラムがあった。4学期制がとられ,学期ごとにテストを行い,その結果によって能力別にクラス が分けられている。各個人の学力に焦点を当てた授業づくりの工夫がなされており,同じ教材で 違うアプローチにより,どの子にもわかるような教え方で授業を行っている。また,学力が高い と認定された教科については,上の学年の授業を受けることができるシステムであった。 リーブズ中学校では,全校生徒 416 名から 60 名を抽選で抽出し,2名の教師により3学年合同 の授業を4~6時間目に行う,アルカイプログラム(施行 12 年目)という特徴的な教育を行って いた。当該生徒の保護者が年間に 75 時間ボランティアとして協力することが義務付けられており, その協力のもとに授業や社会見学等の行事が成り立っている。年長生徒が年下の生徒を教えたり, 指導したりする中で,助け合いの心が育ち,人間関係の強化ができるという成果が上がっていた。 - 44 - オリンピア高等学校は生徒総数 1,800 人,教員数 96 人の普通科高校であった。広大な敷地に, 公式戦を行うことができるアメリカンフットボール場や体育館等の設備があり,ICT機器の活 用を取り入れた授業の工夫がなされていた。会計学の授業では,「モノポリー(ゲーム)」とPCを 使い不動産の販売の模擬演習を行っていた。また,大学へ進学するための必須教科であるフラン ス語のリスニング学習について,全員が各 1 台のタブレット端末を使用して,E-learning 学 習を行っていた。 スクールオブジアーツ高等学校は,前出の高校とは対照的に, 貸しビルの事務所や郵便局の2階事務所を教室として使用して いる学校で,生徒数 115 人,教員数 26 人の芸術科と理数科の高 校である。この高校の特色は,隣接するワシントン州立大学タコ マ校と提携した,大学図書館・州立歴史博物館・ワシントン美術 館等大学のすべての施設に, 学生証の提示で入館できるパートナ ーシップアグリーメントがあり, 生徒の学習意欲向上に資してい る。また,専門分野だけでなく他の分野の教育にも力を入れており,授業の目標設定は,個々の 生徒の興味に応じて向上心を促すことに重点が置かれ,生徒たちの上位層を目標と定めて,そこ に他の生徒達を伸ばしていくように設定されている。そのため,高い学力水準を維持しており, 卒業率 98%(地域の高校の平均卒業率は 60%),大学等上級学校への進学率 88%である。大学と 複合したカリキュラムを設定した大学レベルの授業を選択できる。さらに,夏休み等含めて,大 学へ通い,大学の単位を修得できる制度があり,高校卒業と同時に短大卒業の資格を取ることが できるカリキュラムを実践していた。 アメリカの高校は義務教育であるが,この学校を希望する生徒は多く,生徒達は選考によって 入学してきている。そのために,自分で希望してきたというプライドが高く,責任をもって学ぶ という情熱が強く,ドロップアウトはほとんどいないということである。 4 スクールカウンセラー等の配置と教員間の連携,学校と家庭との連携 訪問した学校にはそれぞれ,常勤・非常勤,単数・複数の差はあるが,カウンセラーが配置さ れていた。生徒の状況に応じて,担任と連携して家庭,保護者との連絡等も行っていた。高校で は,家庭の問題はホームレス等深刻な場合が多く,根本的な解決のために外部機関に依頼する場 合もあり,貧困の問題が日本よりも深刻であると受け止めた。ある学校では,カウンセラーは常 勤1名,非常勤1名を配置し,経済的に厳しい学校経営にもかかわらず,日本よりも生徒の内面 のケアを大切にしている学校もあった。 ウエストゲート小学校では,数学・英語の授業に,教師の指導方法等について指導するマスタ ーティーチャー(MT)がいた。学年ごとに時間を設けて(体育や芸術の時間),学年の担任と MTが子どもの成績や普段の行動などをファイルしたデータをもとにしてミーティングを行い, 子どもの実態に応じた授業方法の指導や交流を行っていた。 また,保護者向けに学校教育への協力を呼び掛けている「家庭学習のすすめ」が配布され家庭で の教育が学校教育に欠かせないという姿勢をうかがうことができた。 スクールオブジアーツ高等学校では,生徒数 115 人に対して教師が 26 人であり,1人の教師 が4年間にわたって 15~20 人の生徒を受けもっている(チューター)。生徒は何かあればその教 師に相談ができ,教師も生徒の心理的な問題に対応することができる制度で,日本でも参考にし - 45 - たい実践であった。 教師の指導力向上や生徒の意欲向上や生徒の心理面の理解を深めるための4~5人のグルー プによる教師のミーティングの時間が毎週金曜日の午前中に2時間設定されており(生徒の登校 は2時間遅い),効果を上げていた。 5 特別に支援が必要な生徒への指導について 小学校では,学習意欲の低い生徒に対しては,学力だけでの評価ではなく,普段の素行・社会 性・道徳心等を評価することにより,生徒の意欲の向上につなげる取り組みがあり,参考にすべ きものである。 特別支援教育(障がいのある児童・生徒への教育)に関しては, 「全障害児教育法(1975 年)」 (現在は「個別障害者教育法(1990 年改正)」 )に基づきすべての学校で,障害があると認定さ れた各生徒に対して,連邦政府から資金が支給され,IEDプログラムを作成して,個に応じた 教育を行う義務が課せられている。このプログラムを作成せずに通常の授業で終わらせた場合, 大人になって訴えられると多大な責任を取らされてしまう。 訪問校の5校は,支援学級の設置・未設置の差はあったが,個別の支援を行うように少人数で の授業を中心に行っていた。他の生徒とのコミュニケーションがとれるように,同じ教室内での 教え合い学習など交流の工夫も行っていた。教える側は,障がい者への理解や,分かってくれた 喜びなどを得ることで,大きな自信につながり,共生社会の基礎を学んでいた。法律が制定され ている点が日本との違いである。 6 全体の考察とまとめ 今回のアメリカ合衆国訪問において,「学力向上に向けた授業の工夫」に関しては,各学校共 に学校の状況,特に学力の状況について,校区への説明責任を果たさなければならず,学校の存 続にも左右することであり,日本よりも切実な状況にあると受け止めた。 学習意欲の低い生徒への指導については,小中学校共に学力面だけでなく,社会性・道徳心な ど子供の素行や,無遅刻・無欠席をたたえる評価がされていて,意欲を学力向上につなげるとい う工夫をうかがうことができた。 特別支援教育に関しては, 「個別障害者教育法」が制定され,各学校に義務付けられている点 が優れており,日本においても必要な法整備である。また,各学校ともにそれぞれの実践に対し て,児童・生徒の子供一人一人の学力分析・素行等について,ファイリングされており,児童生 徒の実態に応じて今後の方針を決める,ミーティングの時間が各学年で担任と専門の先生による 設定されており,有効に機能していた。 最後に,学力向上に関する手立てとして,学力のみならず,教室移動は1列に並んで静かに歩 くことや授業への心構えや姿勢(attitude)が大切にされており,日本の教育が大切にしてきた考 え方を学力の向上に反映させていることを感じた。 この「我々日本の教育者は,失われつつある日本の教育方針の良さを再認識し,自信を持って 実践していくべきである。 」ということが実感できたことも,今回の研修で得た一つの大きな成 果であると言える。 - 46 - 研修成果の活用例③ 団名:A-1 テーマ:学校経営の改善 訪問国:アメリカ合衆国 1 研修名 アメリカ合衆国における学校経営改善に関する管理職研修会 2 目 アメリカ合衆国における教員・管理職の育成に関する取組について報告 的 し,我が国との違いを確認しながら理解を深めるとともに,各地域・学校 における教員・管理職の育成の一助となる研修を行う。 3 対 象 小・中・高等学校の管理職 4 日程・技法及び内容 (1)時間 1時間 30 分 (2)技法 講話(30 分)・グループディスカッション(40 分)・まとめ(20 分) (3)内容 ① アメリカ合衆国の学校経営の改善に向けた教員の育成について(講話) ア 今回の研修の概要 イ アメリカ連邦教育省で学んだこと ウ 教員の育成システムの違い エ 今,日本では・・・ オ 全米州教育長協会協議会の「Model Core Teaching Standards」の作成 カ 管理職の育成,採用について キ 最後に ② 学校経営の改善に向けた教職員の育成について(グループディスカッション) ※ 県全体の施策に加えて,各市町や各学校における資質向上方策について 交流する。 ③ グループからの報告とまとめ ア 各グループからの報告 イ まとめ ○誇るべき我が国の「きめ細かな教職員育成システム」について ○特筆すべき,アメリカ合衆国の管理職(校長,副校長)養成システムの特長に ついて - 47 - 【研修資料】 「学校経営改善に向けた教員および管理職の育成について」 ~アメリカ合衆国での海外派遣研修をもとに~ 1 今回の研修の概要 ・期 間‥‥ 平成 24 年 10 月3日 ~ 平成 24 年 10 月 13 日(11 日間) ・訪問先‥‥アメリカ連邦教育省 全米教育長協会 ウエストゲート小学校 チェスターブルック小学校 期間 平成24年10月3日~13日 参加者 団長、副団長、シニアアドバイザー各1名 団員15名 通訳1名 計19名 ワシントン州教育委員会 リーブス中学校 ワシントン州学校管理協会 オリンピア高校 2 スクールオブジアーツ高校 2 アメリカ連邦教育省で学んだこと ○ 国全体としては,細かな教員養成や採用に関わらないが,以下の3つの基金によっ て財政的な支援をしているとのこと。ただし,政権によって予算は流動的とのこと。 ○ 3つの基金の採択は,IES(教育統計研究所)やNCES(米教育統計センター)と いった半官半民の団体が採用の可否を審査している。 ・フォーミュラー基金 ・コンペティティブ基金 ・ファイナンシャル基金 3 我が国との教員の育成システムの違い ○ 連邦政府(アメリカ連邦教育省)では,国としては教員の養成には関わらない。 ○ 州ごとや学区ごとに,養成や採用の方法を決める。 ○ さらに,その学校ごとに校長の裁量で必要な採用をする。 ○ また,ワシントン州では,教員は採用後4年目からは終身雇用の対象となる。 (※ ○ 4年目までは終身雇用ではない。) 従って,常に教員不足に悩まされているのが現状である。 - 48 - 4 今,日本では・・・・ ○ 我が国においては,教員の大量退職時期にあたり,熟練の教育技術や学校文化など の継承・伝承が難しいという状況である。 ○ 現在の教員の養成や育成は,国全体で決定していくシステムであり,教員養成課程 のある大学による教員免許制度による。 ・研修‥‥‥初任者研修,10年目研修など。 ○ 我が国では免許更新制度により,免許取得後 も教員の一定の資質の維持を目指す。 ○ 平成 24 年8月 28 日の中央教育審議会「教職 4 我が国における今後の方策 「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上」 ・我が国は今までも緻密に ・そして、2012年8月に標記の答申が 中央教育審議会から出された。 ・より以上に体系的な向上策が策定 された。 ・具体的には、 生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な 向上方策について」において,高度な専門職職 業人としての位置づけを目指すことになった。 5 全米州教育長協会協議会の「Model Core Teaching Standards」の作成 ○ MCTSの作成の背景は ・アメリカ合衆国においても教員の資質向上策については喫緊の課題である。 ・日本と同じように,「経済的格差が大きいこと」「英語を母語としないこと」「特 別支援教育の配慮が必要なこと」の3点について困難さが増してきている。 ○ 今回の訪問では,各学校裁量のよさも垣間見えた。 ・毎週1回,始業時間を遅らせて職員会議の時間を確保。 ・体育の教員を雇用し学年全員の指導の実施→その間,学年会(ミーティング)を実施。 ・若年教員が先輩教員とペアを組むサポートシステムを導入。 6 管理職の育成,採用について ○ 5年間の教職経験と,大学院での修士号の資格を取得することが必要。 ○ 教員の中で管理職(学校のマネージメント,経営をすること)を希望するものは, 年齢に関係なく教育指導のキャリアを積むのではなく,早くから学校管理運営能力を 身につけ,その資格を持って学区などに希望申請する。 7 ○ 最後に 日本の教員育成の緻密さとアメリカ合衆国の教員育成の柔軟さを,その状況に応じ て取捨選択していきたい。また,管理職育成についても,それぞれのよさをうまく取 り入れていきたい。 - 49 - Ⅶ 新たな可能性を求めて A-1団 ○ シニアアドバイザー 日永龍彦(山梨大学) はじめに 「みんなの進んでいく方についていけばよい」と言われても,常に自分の五感を研ぎ澄 まして現状(児童・生徒,保護者や地域,教職員などの実状やそれぞれの思い,学校をと りまく諸環境など)を見つめ,流れに逆らうことを厭わず,自分の(そして自分たちの学 校の)進むべき方向を見極めることが今の教師にこそ必要なことである。 詳細な説明は省くが,これは今年のA-1団の面々がワシントンD.C.到着直後に経験 したあるちょっとした事件からえられた教訓である。そして私自身,今回の訪問全般から えられた知見を総括する表現として最も相応しいと思っている。 今年のA-1団では, 「学校経営の改善」という研修課題に取組むうえで,学力向上のた めの諸方策,それを支える教職員の育成や学校評価についての考え方を調査することとし た。そのような問題意識をもち訪問した米国訪問から見えたものは,昨年度のA-1団報 告書にも書いたことであるが,数量化された目標の達成を過度に重視する施策がいかに学 校教育をゆがめてしまったかということであった。 その一方で再確認できたのは,学校ごと,地域ごとの多様性であり,他から学ぶことへ の柔軟性であった。同時に,教育あるいは教育行政の専門職としての向上心と揺るぎない 信念のようなものも垣間みることができた。それらは,揺れ動く教育政策や子どもや保護 者の変化に伴い次々と投げかけられる課題に翻弄され, 「みんなが行く方について行ってし まっている」日本の学校が失いつつあるもののように感じられた。 以下,今回の調査で得られたさまざまな知見の中から,オバマ政権下で進められている NCLB法による諸施策の見直しの背景と動向,その過程で作成されている教授方法に関 する全米基準の概要について振り返ることとする。それらをふまえるとともに,ワシント ン州で長く校長・教育行政官を務めた人物の言葉を通して,今後の「学校経営の改善」と いう本団の研修課題に対して得られる示唆は何か考えてみたい。 ○ NCLB has left behind! 本節の表題は,訪問先の1つである連邦教育省の説明担当者が発した言葉からとってい - 50 - る。オバマ政権下ではNCLB法(No Child Left Behind Act)下の諸施策は転換され,す でに過去のものとなっているという趣旨の発言である。同法に基づいて構築されたアカウ ンタビリティ・システムの概略とその弊害については本報告書「Ⅲ 調査研究を進めるに あたって」の「事前研修会のシニアアドバイザーの講義内容要約」に述べた通りである。 ただあらためてここで想起すべきは,このシステムにより,学力テストの結果が学校単位, 学区単位,州単位でだれでも閲覧できるということである。日本においても一部の地方自 治体の長が同様の情報提供を進めようとしているが,米国においてそれがもたらした功罪 を改めて確認しておこう。 ワシントン州教育長は,このシステムの評価できる点として,問題が非常に明確になっ たことを挙げた。アカウンタビリティ・システムでは,学力テストの結果,求められる水 準に到達した生徒の割合を,人種・民族の違いや家庭の経済状況の違い(多くの場合,両者 の違いは関連し合っている)をふまえて明示している。それにより学力の違いが子どもを取 り巻く環境の違いに影響を受けていることが客観的なデータで示されたのである。同様の 状況は,2006 年以降日本でも実施されている全国学力・学習状況調査の結果分析からも明 らかになっている。周知のように就学援助を受けている児童生徒の割合が高い学校ほどテ ストの平均点が低くなる傾向にあることが示された。 他方,弊害についてはまず,設定したレベルに 100%到達させなければならないという 児童生徒の現状を度外視した目標を課し,学力テスト結果という単一指標で教師,学校を 評価することに起因するものが挙げられる。どの子どもにも一律の到達目標を課すことが, 個人を尊重して特性を伸ばすという伝統的教育観に反するものだとの指摘を今回の訪問中 にも耳にした。また,テストの結果により解雇や学校閉鎖といった処分が起きうることか ら, テストの対策が重視される。2014 年までに 100%に到達するという目標を実現するた めに,各州が個々に設定する到達基準の水準を低下させ,テスト結果を引き下げる可能性 がある生徒を中退させる,という状況が報告されている。問題を抱える子ども達ほど置き 去りにされるという,政策目的を倒錯させてしまうような状況が起きてしまっている。こ れを連邦教育省の説明担当者は Race to the Bottom と表現した。競争が質の低下を引き起 こしているのである。 そこでオバマ政権は,Race to the Top を標語に政策転換を図っている。まず,2014 年 - 51 - までに 100%という数値目標達成の義務を緩和した。同時に, 州ごとではなく全米共通の 基準策定にも着手した。そして,その基準の達成を目指す州,学区,学校,団体等に連邦 政府は財政支援を始めている。ただ留意すべきは,実際の基準策定作業は全米知事協会と 全米教育長協会という民間団体が担当しているという点である。最初に作られたものが, 英語の運用能力と数学に関する教育内容基準(Common Core Standards)であり,現在策定さ れているのが,教授活動の基準案(Model Core Teaching Standards)である。後者について は,教師および教師集団の教授能力を向上させるための標準を示すものであり,学校づく りの一つの方向性を示すものでもある。翻訳した資料も本報告書に掲載されているが,次 節においてその概要を見ておこう。 ○ Model Core Teaching Standards 「モデル」と冠されているように,この基準案は各州と対話の材料として提示されたも のである。最終的にどのような形になるか継続的に見て行く必要があるが,全ての科目と 学年において児童生徒の学習成果向上に必要な教授方法の共通原理と基礎をまとめたもの と説明されている。基準案は大きく,「学習と学習者に関する基準」「教育内容に関する基 準」「教育実践に関する基準」「専門職としての教師の責任に関する基準」の四領域に区分 されている。 <学習と学習者に関する基準> ここではまず,教師が児童生徒の学習のスタイル・プロセス,発達のプロセスが多様 であることを理解した上で個々の学習者に適切な学習体験を準備することを求めている。 当たり前のことのようであるが,全ての生徒を卒業までにテストで一定水準以上に到達 させるという数値目標の強制は,教育の標準化を一方で進める要因となって行った。そ こでは児童生徒の多様性を尊重することができず,最悪の場合,テストで点数がとれな い生徒を切り捨てるということまで行われてしまうことになった。 また,このような多様性の再確認は,学級における一斉授業の限界を再確認すること にもなる。そこで基準案は,個別学習と協同学習が組み合わされた最適な学習環境を整 備することを求めている。その際,単に学力が低位にある児童生徒に個別指導をするだ けでなく,上位の生徒への配慮も含まれる。高校などで大学入学後の単位として認めら - 52 - れるようなレベルの授業を提供しているのもその一例である。同時に,個別学習につい ては,父母や地域を巻き込んで行くことも重要視されている。いいか悪いかの判断は別 にしても,家庭での子どもとの関わり方をかなり具体的に示した資料が訪問先の大半の 学校で保護者向けの資料として配付あるいは掲示されていた。 <教育内容に関する基準> この領域は,個々の教科の内容というよりは,教科の枠を越えて共通する事項で構成 されている。とりわけ,重要な学習上の技能である批判的思考法,問題解決力,創造力, コミュニケーション力が養成できるような教育内容とすることや,教育内容として取り 扱う知識を,地域・州・国・世界の問題と結び付けることで,学習者が応用できるよう なものにすることが重視されている。 <教育実践に関する基準> この領域では評価の在り方に重点が置かれている。児童生徒が何を学び,身につけて 行くことを期待されているか,ということと,それを評価する手法を整合させることが まず強調されている。評価手法としては学習指導の途中に行う形成的評価と終了後に行 う総括的評価を組み合わせることや,児童生徒に適切なタイミングで評価に関与させる ことが重視されている。さらに,教師個人あるいは同僚教師とともに複数ある評価結果 を解釈し,多様な学習方法を活用した指導計画に役立てることが求められている。 <専門職としての教師の責任に関する基準> 最後にこの領域では,教職の専門性を高める上で必要な要素が基準化されている。そ の基本は,自己学習と内省,それに同僚教師との協力関係の構築である。特に協力関係 の構築には,学校内の意思決定,教師の観察やテスト等に基づくデータを利用した教育 実践の分析・評価と改善方策の構築などに協力して携わることが求められている。そし てそれを定期的に繰り返すことにより専門性の向上が期待されている。この基準案は「現 在の教育制度は,教師を孤立させ,教育を個人的行為として取り扱いがちである」とい う認識をふまえて作られている。日本においても「組織的に」実践に取組むことが強調 されている。協力関係の構築を阻害するものは何か,から考えて行く必要がある。 - 53 - ○ おわりに -学校経営改善のあり方- オバマ政権下での政策転換から明らかなことは,テストの結果という数値指標が, 「学 力向上」という課題の達成を困難にしている原因を明確にする上では有効だということ である。その一方で,数値目標化すると弊害が大きく,低学力の生徒の切り捨てや教師 の孤立を招きかねないということである。そして,その見直しの過程で提起されている 教授方法に関する基準案では,教師の専門性に重点が置かれ,その専門性にとって協力 関係の構築が重要であることが強調されていた。このようなアメリカ合衆国における政 策転換の背景と方向性をふまえ,我々は現在の学校経営の改善方法を見直す必要がある。 これに関連して,ワシントン州で長く学校管理職,教育行政官を務めて来たWASA のアームストロング氏が,我々とのインタビューの中で学校改善を進めるにあたり,二 つの重要な視点を述べた。その一つ目が, 「従来,表層的な対処法がとられる傾向があっ たが,問題の本質的な解決を目指すことが必要だ」ということである。言い換えれば, 「課題 → 改善策」ではなく, 「課題 → 原因の明確化 → 改善策」という手順を踏むべ きだという指摘である。現状を適切な指標を用いて測定し原因を明確化してから改善策 を検討するということである。児童生徒や保護者に対するアンケートという定性的でそ れほどあてにできないデータだけで行われがちな自己評価や学校関係者評価に対する痛 烈な批判ととらえることができる。氏は同時に, 「地域のニーズや保護者・児童生徒の要 望はアンケートやミーティングなど,複数のルートを通じて収集する。教師にはそこか ら声にならない声を読み取るスキルが求められる」とも言っている。複数のデータを分 析・解釈する能力が必要なのである。 二つ目は「改善のプロセスは非常に複雑でパターン化することは難しい」ということ である。個々の学校が置かれた状況は非常に多様であり,児童生徒も刻々と変化する。 したがって,その全てを想定することは不可能である。しかし,日本で盛んに使われて いるPDCAサイクルという一つのパターンは,毎年児童生徒が入れ替わるということ を前提とはしていない。そのため,繰り返すことでよりよいものができる,すなわち改 善ができると考えるのである。事実は果たしてそうだろうか。そうであれば氏の発言は 「改善のプロセスはPDCAの一つのパターンで説明できる」となるはずである。そう ではないから,教師も管理職も上記のように日々の実践を定期的に振り返ることで様々 な状況に対応できるよう引き出しを増やすとともに,同様の問題を抱える学校の教師同 士の話し合いの機会や経験者によるアドバイスを受ける機会を積極的にもつことが必要 なのである。自分たちの学校改善のプロセスを構築するために,まずは自分たちが抱え る本質的な課題とその背景にある要因を把握することから始めてみてはどうだろうか。 - 54 - Ⅷ 団員氏名所属名簿 平成24年 受講者 府県市等 番号等 指定都市 団 北九州市 ※個人情報保護の観点から、名簿の掲載を差し控えます。 教 育課 題 研 修 指 導者 海 外 派遣 プ ロ グ ラ ム 氏 長 毛 名 利 A- 1 団 所属名称 所属職名 北九州市教育委員会 教育振興 指導部 担当課長 浩 愛媛県教育委員会 副団長 愛媛県 山 内 孔 指導主事 指導部義務教育課 107 滋賀県 柏 川 敏 子 栗東市立栗東西中学校 109 滋賀県 松 宮 孝 明 草津市立山田小学校 教諭 141 奈良県 辻 村 美佐子 奈良県立郡山高等学校 教諭 142 奈良県 嶋 岡 浩 三 奈良県立高田高等学校 教諭 143 奈良県 居 相 良 明 奈良県立奈良北高等学校 教諭 162 香川県 木 村 敏 子 香川県立飯山高等学校 教諭 173 愛媛県 阿 部 潤 也 愛媛県立松山東高等学校 教諭 175 愛媛県 石 村 健 二 愛媛県立川之江高等学校 教諭 183 福岡県 佐々木 智 子 糸島市立怡土小学校 教諭 187 福岡県 坂 智 典 大牟田市立大正小学校 教頭 190 福岡県 長 裕 二 大牟田市立勝立中学校 教頭 191 福岡県 柴 田 英 生 嘉麻市立牛隈小学校 教頭 193 福岡県 永 田 隆 北九州市立黒畑小学校 241 大阪市 藤 本 栄 一 大阪市立柏里小学校 教諭 27 愛媛県 八 木 昌 生 愛媛大学附属高等学校 教諭 日 永 龍 彦 本 主幹教諭 主幹教諭 山梨大学大学教育 シニアアドバイザー 教授 研究開発センター - 55 - Ⅸ 派遣日程概要 「学校経営の改善」 日次 A-1団 月日(曜日) 発着地・滞在地 1 10月3日(水) 成田発 ワシントンD.C.着 2 10月4日(木) ワシントンD.C. 訪 日程表 問 先 等 ○ 成田より空路,ワシントンD.C.へ(約12時間30分) ・ワシントンD.C.到着後,バスにホテルへ ○ U.S. Department of Education(アメリカ教育省)訪問 ○ Council of Chief State School Officers/CCSSO (全米州教育長協会)訪問 3 10月5日(金) ワシントンD.C. ○ Westgate Elementary School(ウエストゲート小学校)訪問 ○ Chesterbrook Elementary School(チェスターブルック小学校)訪問 4 10月6日(土) ワシントンD.C. ○ 教育課題に関する調査研究 ・これまでの調査結果の整理を行う。 5 10月7日(日) ワシントンD.C.発 ○ ワシントンD.C.より空路,シアトルへ(約5時間30分) シアトル着 6 10月8日(月) シアトル ※祝日(Columbus day) 10月9日(火) シアトル オリンピア ・シアトル到着後,シアトル市内ホテルへ ○ シアトル訪問に関する事前学習(日永先生の事前講義) ・教育課題の協議(※今後の調査内容の再調整) ○ Washington State Board of Education (ワシントン州教育委員会)訪問 ○ Reeves Middle School(リーブス中学校)訪問 8 10月10日(水) シアトル オリンピア ○ Washington Association of School Administrators/WASA (ワシントン州学校管理協会)訪問 ○ Olympia High School(オリンピア高校)訪問 9 10月11日(木) シアトル ○ School of The Arts(スクールオブザアーツ高校)訪問 タコマ シアトル ○ 研修成果のまとめ ・報告書作成の日程の確認と各役割の調整 10 10月12日(金) シアトル ○ シアトル空港より空路,成田空港へ(約10時間30分) シアトル空港発 11 10月13日(土) 成田着 ○ 成田空港到着後,解散 - 56 - Ⅹ あとがき A-1団 副団長 山内 孔 このたび,平成 24 年 10 月3日より 11 日間,アメリカ合衆国において「学校経営の改善」 をテーマに調査研究に取り組む機会を与えて頂きましたことに感謝申し上げます。 「平成 24 年度教育課程研修指導者海外派遣プログラムA―1団」は,西日本各地の小・ 中学校,高等学校から集まった,教頭,主幹教諭,教諭が,北九州教育委員会毛利担当課 長を団長に,心をひとつにして調査研究を行いました。各訪問先では,新たな発見や感動, 驚きに数多く出会うことができました。アメリカ合衆国の教育事情や文化から学んだこと だけでなく,現地の方や団員同士の触れ合いから学んだことなど本研修の成果は多様にあ りますが,ここでは,テーマに沿った成果を報告書としてお示ししました。 団員の所属する地域や校種によって,それぞれが抱える問題や取組の状況は異なります。 文字通り様々な課題をもった我々が,事前研修を経て,共通の調査・研究テーマを設定し ました。そして,ワシントンD.C.におけるアメリカ教育省での聞き取りを皮切りに実際 の調査研究が始まりました。ウエストゲート,チェスターブルック両小学校訪問では,授 業参観もさせて頂き,現場の先生方の声を聞くことができました。言葉が満足に通じない 中での調査研究は,通訳の方の語学力とシニアアドバイザーの日永先生の御指導,そして 同じ研究テーマ取り組んでいる団員のアドバイスが心強い味方でした。 ワシントン州では,シアトルを中心として,リーブス中学校やオリンピア高校など様々 な校種の授業参観をさせて頂きました。研修の半ばで,団員同士のミーティングの時間を 確保し,調査研究の進め方の確認ができたことも大変有意義でした。 調査研究を進めるにつれ,移動中のバスや飛行機,そして夕食後にも調査研究の進め方 やその成果について議論する時間が長くなりました。当初は持て余すかもしれないと思っ ていた派遣期間でしたが,次第に,もっと時間を共有したいと思うほど団員同士の絆も深 まってきました。 洋の東西を問わず,人を育てる「教育」という営みの尊さを肌で感じることができたこ とが本調査研修の成果です。今後とも,各団員それぞれのステージで,この成果を生かし ていく努力をしていきたいと思います。 最後になりましたが,本調査研究に多大なるご尽力やご協力をいただいた日本及びアメ リカ合衆国の教育関係者をはじめ,シニアアドバイザーとして研究の方向性をお示しいた だいた山梨大学教授の日永龍彦先生,吉川主任指導主事をはじめとする教員研修センター の皆様,そして見事な通訳をしてくださった中安様に深く感謝申し上げます。 - 57 - 資 料 編 資料1 保護者協会「子供の学習支援」(2012.9)・・・・・・・・・・・・・・・・1 資料2 全米州教育長協議会「州間教員評価・支援コンソーシアム 教育方法に関する 中核基準案(抜粋)」(2011.4) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 資料3 オリンピア学区「中学校改良計画 S.I.P 2011-12」(2011.4 改訂)・・・・20 -1- -2- -3- -4- -5- -6- -7- -8- -9- - 10 - - 11 - - 12 - - 13 - - 14 - - 15 - - 16 - - 17 - - 18 - - 19 - - 20 - - 21 - - 22 - - 23 - - 24 - - 25 - - 26 - - 27 - 実 施 要 項 等 平成24年度教育課題研修指導者海外派遣プログラム 実 施 要 項 ・・・・・・1 平成24年度教育課題研修指導者海外派遣プログラム 実施計画(別紙1 ) ・・・・・・3 平成24年度教育課題研修指導者海外派遣プログラム 事 前研 修 会 日 程表 ・・・・・・6 平成24年度教育課題研修指導者海外派遣プログラム 事 後研 修 会 日 程表 ・・・・・・7 平成24年度教育課題研修指導者海外派遣プログラム 実 施 要 項 1 目的 教育現場が抱える重要な教育課題に対応する研修指導者を養成するため、当該課題に ついて先進的に取り組む諸外国に各地域の指導者を派遣し、その成果を教育委員会が実 施する研修内容に活かし、教員研修の一層の充実を期する。 2 主催 独立行政法人教員研修センター 3 共催 文部科学省 4 研修概要(派遣テーマ、趣旨、目的・視点、派遣予定地域、派遣予定期間など) 別紙1のとおりとする。 5 参加者 (1)参加者資格 小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校及び幼稚園の教職員並び に教育行政機関の職員であって、派遣テーマに関して、地域の中核的な役割を担う指 導者となる者 (2)参加者の推薦手続 ① 参加者の推薦は、各都道府県・指定都市教育委員会(以下「推薦者」という。 )に おいて、参加候補者を取りまとめ、 「インターネット受講者推薦登録システム」によ り、平成24年5月2日(水)までに、独立行政法人教員研修センター(以下、 「セ ンター」という。 )に行うこと。 ② 推薦者は、参加候補者からの「参加申込書」 (別紙様式1)をセンターに提出する こと。 ③ 都道府県教育委員会は、指定都市を除く市町村教育委員会からの参加候補者を併 せて推薦すること。 ④ 推薦者は、別紙1の派遣テーマの趣旨及び目的・視点等に留意のうえ、推薦を行 うこと。なお、派遣団ごとの人数を調整する必要がある場合、第一希望または第二 希望のテーマの派遣団に配属されないこともありうることに留意すること。 (3)参加者、所属団の決定 センターは、上記(1) (2)を踏まえ、派遣団ごとの人数を調整し、参加者及び所 属団を決定し、推薦者に通知する。 (4)所属団の決定後の提出書類 ① 参加者は、 「平成24年度教育課題研修指導者海外派遣プログラムにおける調査を 希望する課題等について」 (別紙様式2)を作成し、平成24年6月29日(金)ま でに、センターに提出すること。 ② 推薦者は、 「研修成果活用の計画書」 (別紙様式3)を作成(参加者ごとに作成す るものではない)し、平成24年7月31日(火)までにセンターに提出すること。 -1- 6 事前研修会、事後研修会 参加者は、センターの実施する事前研修会及び事後研修会に出席すること。 事前研修会:平成24年8月に2日間実施。 開催通知は参加者決定時に通知する。 事後研修会:平成25年1月~2月に2日間実施。 開催通知は11月に通知予定 7 研修の中止、研修期間中の一時帰国 やむを得ない理由で、研修を中止して帰国する場合や、一時的に帰国する場合は、推 薦者及びセンターの許可を受けなければならない。 8 研修成果の報告等 派遣団は、帰国後、別に定めるところにより「研修成果報告書」を作成し、センター に提出すること。 9 派遣経費の取り扱い (1)海外派遣に要する経費のうち、 「研修に直接必要な経費」の一部(20万円)をセンターが 負担する。 なお、 「研修に直接必要な経費」とは以下のものをいう。ただし、日本国内の宿泊費 ・交通費は、 「研修に直接必要な経費」に含まないものとする。 ア 渡航費(空港施設利用料、空港税等を含む) イ 食事料(国家公務員の旅費に関する法律に基づく日当相当として算出) ウ 宿泊費 エ 交通費(国外のものに限る) オ 調査研究に要する経費 (学校・教育関係機関等訪問にかかる経費等) (2)参加者の決定以降に、参加者が辞退等を行った場合、辞退等に伴い発生した費用 は、原則として推薦者または参加者の負担とすること。 10 その他 (1)団長及び副団長の派遣経費については、センターが負担する。 (2)派遣テーマに関し専門的知識を有する者( 「シニアアドバイザー」という)を参加さ せる場合の派遣経費については、センターが負担する。 (3)推薦者は、参加者が作成する提出資料の内容確認を行い、必要に応じ指導を行った 上で提出すること。 (4)推薦者は、参加者に対し研修に係る必要経費、都道府県等の補助額、自己負担額等 を説明した上で推薦すること。 (5)本研修終了後、参加者からアンケート等を行う。また、研修終了から一定期間(約 1年)経過後に、参加者に研修の成果活用に関する事後アンケート調査を行う。 (6)この要項に定めるほか、当該研修に関し必要な事項は、センター理事長が定める。 -2- C-2 C-1 B-2 B-1 A-2 A-1 2 2 2 派遣 団数 団名 趣旨 派遣予定国 11/18(日)~11/29(木) 12日間 ○複数言語(公用語及び第二言語としてのドイツ語、母国語 等)を対象とした言語教育システムや初等・中等教育における オーストリア 教員養成等の視察 ○本派遣テーマに資する言語教育や教員養成・現職教員研修 の在り方に関する調査研究 PISA型学力の 育成 PISA型学力では、「読解力」、「数学的リテラシー」、「科学 的リテラシー」の向上が求められている。新学習指導要領に おいても、知識・技能の習得、それを活用するために必要な 思考力・判断力・表現力等の育成を重視し、課題解決的な学 習や探究的な活動の充実を図っている。PISA調査の上位の 国における取組みを調査し、成果と課題について把握・分析 し、そこから得られる知見の活用方法等を考える。 フィンランド ○PISA型学力の基礎ならびにPISA型学力の意味に関する正し フィンランド い理解をねらいとした視察 ○日本型コンピテンシーの在り方に関する考察 ○生きる力の育成やPISA型学力の向上のための取組及び実 態に関する調査 ○未来の学力を踏まえた日本の教育の方向性を検討 10/15(月)~10/26(金) 12日間 10/29(月)~11/9(金) 12日間 10/20(土)~10/31(水) 12日間 10/1(月)~10/12(金) 12日間 10/3(水)~10/13(土) 11日間 派遣期間 別紙1 ○学校経営の概要、学校評価を活用した学校改善の仕組み、 サポートスタッフを活用した授業づくり・学校経営の仕組み、教 イギリス 職員育成の仕組み等に関する調査 ○日本における学校経営の改善にとって具現化可能な方策の 検討 ○学力向上に向けた学校経営の改善支援の評価活動を含む 仕組みに関する訪問調査(支援を行う諸機関及び支援を活用 アメリカ する学校) ○日本あるいは各地域の学校経営改善への還元策の検討 目的・視点 言語は知的活動の基盤であるとともに、コミュニケーション や感性・情緒の基盤でもあり、豊かな心を育む上でも、言語 言語力・コミュニ 能力を高めていくことが重要であるとされている。このことか ケーション力の育 ら、諸外国の学校における言語能力やコミュケーション能力 成 の育成の取組について調査し、成果と課題について把握・分 ○各教科等における言語活動の充実において、個の学習及び 析するとともに、そこから得られる知見の活用方法等を考え 他者との関わりの中での授業展開を重視している学校教育事 フィンランド 情を視察 る。 ○日本における学校教育において参考とすべき内容に関する 考察 学校の自主性・自律性を高め、保護者や地域に開かれ、信 頼される学校づくりを進めるために、実効性のある学校経営 の改善が求められている。学校経営をより効果的・効率的な 学校経営の改善 ものとするための改善方策について、諸外国の学校における 学校経営の改善や学校評価等の取組について調査し、成果 と課題を把握・分析するとともに、そこから得られる知見の活 用方法等を考える。 派遣テーマ 平成24年度教育課題研修指導者海外派遣プログラム 実施計画 ※1 参加者の所属団は、希望する派遣テーマを参考に調整させていただきますが、推薦時に希望した派遣テーマに配属できない場合もあります。 ※2 訪問先は主に学校又は教育行政機関等です。具体的な訪問先は、事前研修会開催前に教員研修センターのホームページに掲載する予定です。 -3- F-2 F-1 E-2 E-1 D-1 2 2 1 派遣 団数 団名 学校安全・防災 教育の推進 学校においては、児童生徒の発達段階に応じて、社会や 職業への円滑な移行を図るために、必要な知識・技能や勤 労観・職業観等を育成し、児童生徒が将来の基盤を築き、自 キャリア教育の充 立して生きていくことができるようにするキャリア教育を充実さ 実 せることが求められている。このことから、諸外国の学校にお けるキャリア教育の現状や取組を調査し、成果と課題につい て把握・分析し、そこから得られる知見の活用方法等を考え る。 生徒指導・教育 相談の充実 学校においては、事件・事故・自然災害等に対応した総合 的な学校安全計画や危機等発生時の対処要領の策定によ る的確な対応及び地域との連携による学校安全体制の整 備・強化が重要な課題となっている。子どもたちの健やかな 成長を目指す基盤としての安全で安心な環境を確保するた め、諸外国の学校における学校安全・防災教育、安全防災 管理・組織活動等の取組を調査し、成果と課題を把握・分析 し、そこから得られる知見の活用方法等を考える。 学校においては、児童生徒に望ましい生活習慣を身に付 けさせる教育や規範意識を培うための教育の充実及び児童 生徒の悩みに対して適切かつ可能な限り迅速に対応するこ とが求められている。このことから、諸外国の学校における生 徒指導・教育相談等の現状や取組を調査し、成果と課題に ついて把握・分析し、そこから得られる知見の活用方法等を 考える。 趣旨 派遣テーマ 10/8(月)~10/19(金) 12日間 ○キャリア教育の充実のための教育課程や教育活動の在り方、教 職員の資質能力の向上、学校外との連携、教材の開発等に関す る訪問調査 イギリス ○訪問調査を通して得た知見の日本あるいは各地域への還元策 を検討 ○各学校段階におけるキャリア教育のカリキュラム及び実践の視 察 11/12(月)~11/23(金) ○カリキュラム実施状況と結果及びキャリア発達の捉え方に関する オーストラリア 12日間 調査 ○日本における教育現場への活用可能性の検討 10/8(月)~10/19(金) 12日間 ○コミュニケーションスキルやソーシャルスキルの育成に関する実 践視察 アメリカ ○怒りのコントロール、アサーショントレーニング、ミデュエーション を通した体験的な学びの探究 10/8(月)~10/19(金) 12日間 ○規範意識を培うための学校、家庭、社会が有する社会構造及び それらを支える価値規範(文化構造)を踏まえた教育制度と地方文 ドイツ 化に関する視察及び分析 ○日本あるいは各地域が抱える課題に対する解決策の検討 派遣期間 10/15(月)~10/26(金) 12日間 派遣予定国 ○学校安全・防災教育を積極的に推進し、成果を上げている国の 関係機関及び団体・学校への訪問 アメリカ ○日本における学校安全・防災教育の推進に有益と考えられる施 策や教育内容等を学ぶ 目的・視点 平成24年度教育課題研修指導者海外派遣プログラム 実施計画 ※1 参加者の所属団は、希望する派遣テーマを参考に調整させていただきますが、推薦時に希望した派遣テーマに配属できない場合もあります。 ※2 訪問先は主に学校又は教育行政機関等です。具体的な訪問先は、事前研修会開催前に教員研修センターのホームページに掲載する予定です。 -4- J-2 J-1 I-2 2 2 1 H-1 I-1 1 G-1 派遣 団数 団名 派遣期間 子どもたちの「生きる力」を育むためには、学校・地域・家庭 等が教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚し、相互に 連携・協力に努めることが不可欠である。このことから、諸外 学校と地域等の 国の学校における社会体験活動や、地域・家庭・各種団体 連携 等と学校との連携の在り方、行政機関の支援体制等の現状 や取組を調査し、成果と課題について把握・分析し、そこから 得られる知見の活用方法等を考える。 障害の程度や重複化、発達障害を含む多様な障害への対 応等、特別支援教育の更なる充実が求められている。このこ とから、諸外国の学校における校内支援体制、家庭や関係 特別支援教育の 機関及び他校種との連携、並びに専門的な相談・助言体制 充実 等、計画的・組織的な支援の在り方について現状や取組を 調査し、成果と課題について把握・分析し、そこから得られる 知見の活用方法等を考える。 イギリス フィンランド 10/29(月)~11/7(水) 10日間 11/19(月)~11/30(金) 12日間 ○基礎学力の向上や市民性の教育における学校・地域・PTA・教 会の連携に関する視察及び調査 イギリス ○子どもの問題行動を解決するための連携に関する現地視察 10/9(火)~10/20(土) 12日間 ○学校と地域の連携・協働の在り方に関する視察及び調査 10/29(月)~11/9(金) ○社会体験活動、学校支援ボランティア、学校支援地域本部、コ オーストラリア 12日間 ミュニティスクール等の視察及び調査からの考察 ○学校現場におけるインクルーシブ教育及び社会的企業の法制 化された状況での障害者福祉の実態調査 韓国 ○訪問国の実態調査からの今後の日本の特別支援教育の在り方 の探究 ○子どもへの支援の充実を図るための、教育理念や教育形態及 び運用に関する実態と取組の調査 フランス ○学校を含めた教育機関で取り組んでいる指導上の工夫とその課 題に関して、日本の現状との相互比較を通して検討 ○学校教育の情報化・ICT活用を通した教育方法及び校務効率 化等の状況調査(イギリス) ○教育方法に定評のあるICT活用の状況調査(フィンランド) ○両国比較を通して見る日本における望ましい学校教育の情報 化・ICT活用の在り方の検討 9/24(月)~10/5(金) 12日間 派遣予定国 社会の情報化の急速な進展に伴い、ICTを活用した21世 紀にふさわしい学校や授業の在り方についての検討が求め られている。このことから、諸外国の学校におけるICTを活用 学校教育の情報 した「分かる授業」の実現、児童生徒の情報活用能力の育 化・ICTの活用 成、校務の情報化など、学校教育の情報化の推進方策等に ついて、諸外国における現状や取組を調査し、成果と課題の 把握・分析を通して、そこから得られる知見の活用方法等を 考える。 目的・視点 10/29(月)~11/9(金) 12日間 趣旨 国民の誰もが身近にスポーツに親しむことができる生涯ス ポーツ社会の実現や児童生徒の体力・運動能力の向上、心 身の健康に関する関心が高まっている。このことから、諸外国 ○スポーツ(身体活動)を通じた教育に関してカナダの実態と取組 スポーツ・健康教 の学校における学校・家庭・地域等が協働して行う体力・運 の調査 カナダ 育の推進 動能力の向上策、地域スポーツクラブとの連携、心身の健康 ○日本あるいは各地域の学校体育への還元策の検討 教育及び健康相談等の現状や取組を調査し、成果と課題に ついて把握・分析し、そこから得られる知見の活用方法等を 考える。 派遣テーマ 平成24年度教育課題研修指導者海外派遣プログラム 実施計画 ※1 参加者の所属団は、希望する派遣テーマを参考に調整させていただきますが、推薦時に希望した派遣テーマに配属できない場合もあります。 ※2 訪問先は主に学校又は教育行政機関等です。具体的な訪問先は、事前研修会開催前に教員研修センターのホームページに掲載する予定です。 -5- 平成24年度 教育課題研修指導者海外派遣プログラム 事前研修会日程表 1日目 日 程 8:45~9:00 研 修 内 容 (15) 団長・副団長・シニアアドバイザー受付 9:00~9:55 (55) 団長・副団長・シニアアドバイザー事前協議 9:30~10:00 (30) 団員受付 10:00~10:10 (10) 10:10~10:40 (30) 10:40~10:50 (10) 開会式 研修オリエンテ-ション 10:50~11:50 (60) 講義〔教員研修センター主任指導主事〕 11:50~12:00 (10) 分科会の日程説明・移動 休 憩 12:00~13:00 (60) 自己紹介等 13:30~15:00 (90) 講義〔シニアアドバイザー〕 15:10~15:20 (10) 全体会場 昼休憩 13:00~13:30 (30) 15:00~15:10 (10) 会 場 分 科 会 派遣日程の説明〔担当旅行社〕 休憩 分科会場 (各団別) 調査・研究テーマの協議 15:20~17:00 (100) 係別協議 2日目 日 程 研 修 内 容 副団長打合せ 8:50~9:00 (10) 9:00~12:00 分 (180) 科 調査・研究テーマの班別協議とまとめ 会 12:00~13:00 (60) 13:00~14:00 (60) 14:00~14:10 (10) 14:10~15:30 (80) 15:30~15:40 (10) 会 場 事務局 分科会場 (各団別) 昼休憩 研修成果報告書の内容等の協議 休 憩 分 科 会 渡航手続き等〔担当旅行社〕 閉会式 -6- 分科会場 (各団別) 平成24年度 教育課題研修指導者海外派遣プログラム 事後研修会日程表 1日目 日 程 研 修 内 容 11 : 00 ~ 12 : 00 (60) 団長、副団長、シニアアドバイザー打合せ 12 : 00 ~ 13 : 00 (60) 会 場 事務局 昼休憩 13 : 00 ~ 13 : 10 (10) 開会式(各団で実施) 13 : 10 ~ 14 : 10 (60) シニアアドバイザーによる海外研修の振り返り 14 : 10 ~ 14 : 20 (10) 休憩 分科会場 (各団別) 14 : 20 ~ 17 : 00 (160) 研修成果の活用レポートの協議とまとめ 2日目 日 程 9 研 修 内 容 8 : 50 ~ : 00 (10) 副団長打合せ 9 : 00 ~ 12 : 00 (180) 研修成果報告書の協議とまとめ① 12 : 00 ~ 13 : 00 (60) 会 場 事務局 分科会場 (各団別) 昼休憩 13 : 00 ~ 14 : 20 (80) 研修成果報告書の協議とまとめ② 14 : 20 ~ 14 : 30 (10) 休憩 14 : 30 ~ 14 : 50 (20) シニアアドバイザーからのまとめ 14 : 50 ~ 15 : 00 (10) 閉会式(各団で実施) -7- 分科会場 (各団別)
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