研修テーマ: キャリア教育の充実

訪
問 国:アメリカ合衆国
研修テーマ:
キャリア教育の充実
所属名 千葉市立誉田東小学校
氏
1
はじめに
3
日本の児童生徒について、PISA 調査など各種調
名 御園生 かおる
学校・施設訪問をして
(1)カリフォルニア州ソノマ郡のキャリア教育
査から自分への自身の欠如や自らの将来への不安
【ソノマ郡健康支援局】
といった課題がみられるとある。
平成 25 年6月に
社会的格差から生じた問題を解決するため
閣議決定された第2期教育振興基本計画では「社
に、
「ゆりかごから職場まで」と称した若者支
会的・職業的自立に向けた能力・態度の育成」が
援プログラムが行われ、産学協同の取組がス
挙げられ、キャリア教育や職業教育の充実、社会
タートした。学校教育の内容と職業が深く結
への接続支援等の必要性が示された。そこで、教
び付いていることを子供が理解すれば、学習
育改革が進むアメリカの教育事情や各州訪問地の
意欲が高まり、教育効果も上がるという考え
実情を調査することにした。
のもと、職業技術教育(Career Technical
2
Education: C T E )や「 4 C 」( Critical
アメリカの教育行政(教育制度等)
アメリカの教育行政は、
各州に委ねられており、
Thinking:批判的思考力、Communication:
州教育省・教育委員会の下には郡教育局、その下
コミュニケーション能力、Creativity:創造
に学校区というシステムとなっている。学校区は
力、Collaboration:協働力)のスキル開発に
独自の課税権をもち、学校区の裁量で決定できる
取り組んでいる。費用は産業界が負担する。
範囲も広い。学校の種類・段階区分は、州により
【ローズランド小学校】
弾力的で日本に近い6-3-3制をとる場合もあ
移民が多く、児童の 90%が英語を第2外国
るが、5-4-3制、5-3-4制のように、第
語として学習しており、低所得層が多い学校
5~6学年からミドルスクール等の新たな学校段
である。校長を中心として「責任・努力・尊
階へ移行する形態が多数を占めている。義務教育
敬・思いやり・正直・選択」等のキャラクタ
開始は、多くの公立小学校では入学前の就学前ク
ー教育に力を入れるとともに、全ての児童と
ラスを有しており、児童は5歳から就学する。
その保護者に大学進学を意識させる取組を行
【就学体系】
っている。その一つとして、
「子供の将来のた
小学校
6年
めのロードマップ」
(※下表)を活用し、保護
Elementary School / Primary School
6年
5年
5年
者が、学年毎に子供に何を支援すれば社会的
中学校
3年
Junior Highschool / Middle School
2年
3年
成功が可能になるのかを説明している。
「学校
4年
と協力し合うことにより、成功を収めること
3年
高校 Senior Highschool
4年
4年
ができる」との記載も見られた。
3年
教育課程については、
NCLB法
(No Child Left
Behind Act of 2001:落ちこぼれ防止法)の制定
以降、教育スタンダードの枠組みの中で編制され
ている。この教育スタンダードは、教科別の各段
階における到達度を示し、評価の基準として活用
されている。進級時や卒業時には、州内統一学力
テストが実施され、小学校であっても原級留置の
措置がとられることもある。
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小学校には、キャリア教育を推進するスク
スクールカウンセラーと相談して高校4年間
ールカウンセラーが1名おり、
クライシス(非
の「学習プラン」
(下表)を作成する。そのプ
常事態)への対応や「キャリアデー」の実施
ランは進学と同時にそれぞれの高校のスクー
を中心となって行っている。
キャリアデーは、
ルカウンセラーへ引き継がれていく。
児童からアンケートをとり、人気の職業を選
9年生
(高校1年生)
んで地域から様々な職種の方を学校に招くイ
生徒・保護者・担
当カウンセラー
のサイン欄
希望する
職業を選択
ベントである。児童は希望する職業の人のと
ころへ行ってインタビューを行い、職業の世
界を理解する。このキャリアデーは保護者も
参加することで、子供の将来に必要な情報を
選択する授業名
を記入
共有し、家庭での支援を促す目的もある。
(2)ミズーリ州のキャリア教育
【ミズーリ州教育委員会初等中等教育局】
本局とミズーリ大学コロンビア校が連携し、 4
研修成果の活用
高校卒業後の
希望進路
州のキャリア教育を推進している。
「教育の目
アメリカの教育は、
「学校教育は国を支える人を
標は、児童生徒が学校から次の学校や職場へ
創る場である」という考えのもと、驚くような速
うまくつながっていくこと」
との考え方から、
さで改革を行い、人材育成を図っていると感じた。
スクールカウンセラーが発達段階に応じた厳
政府は、キャリア教育を推進するために多くの補
格な個別学習プランを支援している。
助を行い、州は産官学一体となって、企業へのイ
【リー・エクスプレッシブ・アーツ小学校】
ンターンシップや地域のキャリアセンターの活用
芸術分野の教育に重点を置き、半数の児童
に力を注いでいる。学生のうちに本格的な職業体
が希望して校区外から通学している。スクー
験を積み、必要なスキルや年収を知って人生設計
ルカウンセラーがキャリア教育を担当し、発
を立てることで、学習へのモチベーションが明ら
達段階に応じて、職業の種類、自己理解・他
かに違っていた。
者理解、将来の職業に必要な技術などを探究
千葉市学校教育の課題におけるキャリア教育の
していく授業を展開している。今回は、スク
目標「自己の進路・将来を主体的に考えることが
ールカウンセラーによる第1学年のキャリア
できる力を育成する指導の充実」には、中学校や
教育の授業を参観することができた。
「ドリー
高校の段階で豊かな職場体験が必要であろう。そ
ムハウス」という多様性(Diversity)を学ぶ
のためには、学校と地域や企業が連携しやすいシ
授業で、お互いの夢の家を認め合う学習であ
ステム作りは必須だと考える。また、小学校段階
った。活動中、スクールカウンセラーは賞揚
では、中学校での進路学習に向けて必要な能力の
カードを利用し、集中して取り組む児童の傍
育成が重要となる。自己理解・他者理解を深め、
らに置いて励ます行動療法も取り入れていた。 自己有用感を高めて将来に希望や自信をもって6
【アン・ホーキンス・ジェントリー中学校】
か年の教育課程を終えられるようにすることが望
第6~8学年が学び、少人数での授業を特
ましいといえる。
色としている。生徒は、スクールカウンセラ
日本の教員は、アメリカのスクールカウンセラ
ーと相談しながら、自分の習熟度や将来の必
ーの役割を担いつつ、学級担任、教科指導、教育
要性に応じた教科の選択やレベルの変更を行
相談、生徒指導などを兼務して児童生徒の指導に
っていく。第8学年になるとキャリアガイダ
あたっている。それぞれの教員が、キャリア教育
ンスを行うが、
「ミズーリ・コネクション」と
の視点をもった教育活動ができれば、千葉市のめ
いう職業探究ソフトを使い、自己の適性を診
ざす子どもの姿に近づくのではないかと考える。
断することができる。その診断を参考にし、
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