から、AG による訴訟において、どの規定が表記されているのかは、個々の判例によっ てまちまちであるが、いずれも当該訴訟が Parens Patriae であることを示すもので ある。どの訴訟が Parens Patriae であるかを見分ける点について、メリーランド州 では、訴訟名に必ず明記するという回答であったが、NAAG では、Parens Patriae と して提起された訴訟かどうかを見分けるためには、和解決定文などに書かれている場 合もあるが、それも裁判所が Parens Patriae に基づき提起された訴訟である旨を明 記するように指示した場合であり、特に AG にとって、Parens Patriae に基づいたも のであるかどうかを明記しなければいけないといった義務はないとのことであった。 Parens Patriae であるかを見分ける一番確実な方法は、裁判所に提出される最初の訴 状に、何に基づいてその訴訟を提起したのかを記載するので、それを確認することで あるとのことであった。ただ、それらは通常、Lexis などのデータベースには掲載さ れておらず、裁判所以外では入手できない場合が多い。反トラストの訴訟は(消費者 保護の訴訟を除く) 、NAAG の Web サイト中の Anti-Trust セクションで、複数州にわた る全ての訴訟の詳細を掲載しているので、その中で Parens Patriae に基づくか否か を検索することができる。しかし、実際に Parens Patriae であるか否かを判別する のは難しい。なぜなら最終的な目的は、消費者被害の回復であり、裁判所も AG も何 に基づくのかということは、あまり問題視していないとのことであった。コネチカッ ト州では、反トラスト法分野を除き、Parens Patriae という文言自体を使わず、 Sovereign Power の権限に基づいて AG は活動するとし、権限と目的はどちらも同じで あるとしている。 (8) 公的集団訴訟(州権執行訴訟、Parens Patriae Action 双方)の具体的手続 AG が起こす公的集団訴訟(州権執行訴訟、及び Parens Patriae Action 双方)の具体 的な手続はほぼ同じであり、AG が案件に応じて州民を代表する Parens Patriae Action が適切なのか、州民を代表しない州権執行訴訟が適切なのかを選択しているといえる。 具体的な手続などを別紙にまとめる17。 ①被害者からの申請 事件の端緒は、被害者或いは市民からのクレームもしくは内部告発などであり、 それらの情報を AG が受け、その情報に信憑性が認められれば調査が開始される。 公的集団訴訟を提起する前の段階では、正確な被害者数・被害額の特定が困難 な場合が多いため、AG では、できるだけ多くの情報を集め、被害額を正確に算定 するように努力する。また、そのために広告などを通じて対象商品の購入者など 17 2009 年 2 月 16~20 日、National Association of Attorneys General(NAAG)、Maryland State Attorney General、Connecticut State Attorney General へのヒアリングより 12 に周知を促し、遅くとも和解の前に、できる限り被害者を特定できるよう努めて いる。何名の消費者からクレームがあれば AG は公的集団訴訟を提起するのかとい う基準はない。これは、各州法の規定、不当行為が行われた商品の種類及び、ク レームの内容によって、対処が異なるからである。6 ヶ月間に 2~3 件のクレーム があるような場合は、AG が行動を開始する可能性は低い。しかし、ノースダコタ 州のように人口が少ない地域では、10 件のクレームでも訴訟を提起するのに十分 という判断もあり得るように、州の状況による。たとえば、薬や暖房機といった 消費者の健康に直接関係してくる場合は、訴訟を提起する可能性が高いが、ミン クのコートなど、富裕層のみが購入できるような高額な商品の場合には可能性は 低い。AG が調査を始めるきっかけは、消費者からのクレームが主であるものの、 新聞報道による場合もある。特に大きな事件が新聞報道された場合、AG にとって は、AG 自らの評判や次回の選挙などが何らかの行動を開始するインセンティブに なり得る。 (メリーランド州の場合)18 消費者からの情報は、様々なソースから収集するが、AG だけでも年間 15,000 件に及ぶ書面(メールも含まれるものと思料)によるクレームがある。たとえ 一人からのクレームでも、 「何人が被害を受けている」という情報が複数人か らのクレームより優先する場合がある。年間 15,000 件に及ぶクレームがある が、それらは多数のボランティア(報酬なし)がデータ入力作業などを監督者 のもとで行っている。消費者保護部門では、建築業者やヘルスクラブの登録部 門もあり、事業者は、営業開始にあたり、AG に登録をする必要がある。建築 業界登録業務専属の Lawyer は 2 名で訴訟も担当する。15,000 件に及ぶクレー ムのうち、違法行為を構成しない例や訴訟提起にまでは至らず、企業を指導し て改善された例なども多い。建築会社やヘルスクラブの違法営業などを含めて 年間 40 件ほどの公的集団訴訟を提起しており、そのうち消費者保護関係は約 12~20 件程度とのことであった。 (コネチカット州の場合)19 非公式なクレームも含めると、年間約 6,000 件のクレームがある。これらは 消費者保護分野のみの件数で、AG が扱っている他の分野も含めるともっと多い 件数になる。約 6,000 件のクレームのうち、大半は、クレームの内容を企業に 連絡し、その不当行為をやめるように指導することで解決しており、訴訟を提 起するのは、大まかに言って 100 件程度であるとのことであった。ただし、金 18 19 2009 年 2 月 18 日、Maryland State Attorney General へのヒアリングより 2009 年 2 月 20 日、Connecticut State Attorney General へのヒアリングより 13 融などは、他の部署が対処しており、消費者保護関連としては扱っていない。 コネチカット州の消費者からまったくクレームがなくても、AG が自州の消費者 にも影響があると判断した場合には、他州で提起された公的集団訴訟に参加す ることもある。 ②公的集団訴訟で扱える内容及び限界20 AG の公的集団訴訟とは別に、一般消費者が自らクラスアクションなどを提起するこ とも可能である。ただし同じ案件で二重に(AG による公的集団訴訟と自らのクラスア クション)被害を回収することはできない。 AG による州権執行訴訟は個々の消費者の権利を代表して追行するものではない ので、個々の消費者が個別に訴訟を追行することも、クラスアクションを追行す ることも妨げられない。もっとも、後述のように両者の調整が行われることがあ る。他方、パレンス・パトリー訴訟はクラスアクションと同様に個々の消費者の 権利を代表して追行するものであるため、個々の消費者による個別の訴訟追行や クラスアクションとの調整が必要となり、裁判所がこれを行う。 地域的な制限としては、例えば、不法行為を行っている企業がコネチカット州 以外に拠点を置いていた場合も、コネチカット州の消費者に被害を与えた事を理 由に訴訟提起することは可能である。逆のケースで、本社がコネチカット州にあ り、コネチカット州の消費者には被害を与えていないが、他州の消費者に被害を 与えている場合、その不当行為を止めるために訴訟提起することも可能である。 他州の企業を、その州の AG の許可を得ることなく独自に訴訟提起することが可能 であるし、他州もコネチカット州に存在する企業を自由に訴えることが可能であ る。ただ、ほとんどの複数州が絡む案件の場合、他州の AG と連携する体制ができ ている。 AG による公的集団訴訟とクラスアクションが同時に起こった場合、それらをど う扱うかは裁判所の判断による。例えば(反トラスト法のケース) 、現在進行中の 案件として、PC のメモリー訴訟がある。州政府は多数の PC を購入しており、この ケースでは州政府自体が被害者として訴訟提起している(20 州が参加) 。同時に消 費者からのクラスアクションも起こっている。現在のところ、裁判官は、州のケ ースとクラスアクションを別々に扱うように指示している。 20 2009 年 2 月 16~20 日、National Association of Attorneys General(NAAG)、Maryland State Attorney General、Connecticut State Attorney General へのヒアリングより 14 また、2003 年のコンパクトディスクの価格拘束事件では、 43 州の Parens Patriae Action とクラスアクションが同時期に提起され、裁判所において、当該クラスア クションのメンバーから 43 州の州民は除外され、AG が代表したメンバーに対して は簡略な通知方法で、クラスアクションのメンバーには個別の通知が行われた。 現実的に州民のために AG が公的集団訴訟を提起しているケースで、同時にクラ スアクションが起こっている場合は、AG はクラスアクションの弁護士に、自分た ちが州民のために訴訟提起しているので、他州の州民のみに限定するように話を 持ちかける場合もある。それらは AG からの命令ではなく交渉であるので、弁護士 は拒否することもできる。しかし AG は裁判所に当該弁護士の対応を不服として訴 えることも可能であり、裁判所からの命令の場合は、クラスアクションの弁護士 は従う必要がある。しかし、たとえば既に 3 年にわたり、クラスアクションが審 議されているようなケースで、最後の段階で AG が公的集団訴訟を提起するので、 クラスアクションを取り下げるように要求したとしても、その場合、裁判所は拒 否する可能性がある。 コネチカット州 AG でのヒアリングにおいては、現実的には AG の公的集団訴訟 と私的クラスアクションが同時に起こることはほとんどないとのことであった。 なぜなら、AG はもし、クラスアクションで案件が適切に扱われている場合は、静 観する場合が多い。AG の焦点は、クラスアクションでも拾えない、もしくは、誰 も手をつけていないケースに対して訴訟を提起する場合が多いからである、との ことである。 AG の公的集団訴訟の利点は、被害者が被害額を回復できる点にある。AG は民間 弁護士のような多大な報酬をとる必要がないので、企業より回収した賠償金など をそのまま被害者に返金できる。一方、クラスアクションの場合は、民間弁護士 が多くの報酬をとるために、必ずしも被害者に十分な回復が行われるわけではな い。 コネチカット州の場合、AG は州法によって公的集団訴訟を行なえる権限を与え られているために、新しい分野で問題が起こった場合は州法を制定するか改正す る必要がある。最近の例では、建築の改築に関しては州法があり、それらに基づ いて AG は公的集団訴訟を提起していたが、最近は新築住宅でも問題が起こるよう になってきて、それらは旧法の適用範疇外であったため、新築住宅に関しての立 法を行ったことから、AG による訴訟が可能となった。 15 州によっては AG が企業を代表して訴訟提起することができるように規定され ている場合もある。たとえば、Telephone Directory などのケースで、個人事業主 などに対して、電話会社が Telephone Directory などでの広告を提案し、実際に 掲載されなかったような場合が多数の事業主に対して起こった場合、州法に規定 があれば AG はそれらを代表して訴訟提起することも可能であるが、ほとんどの場 合は、企業を代表して訴訟を起こすことはしない。なぜなら、企業は自ら訴訟提 起することができると考えられているからである。 クラスアクションの別の問題として、担当弁護士が賠償金の大部分を弁護士報 酬として収受し、個人の被害者に分配される賠償金は少額に留まるケースが多い。 たとえばクーポン和解の場合、一見消費者にも利点があるように見えるが、クー ポンから便益を得るためには、消費者は再度、その企業の商品を購入する必要が ある。また、たとえ、誠実なクラスアクション弁護士がいて、過剰な弁護士報酬 を収受しなかったとしても、弁護士の限界として、クラスアクションが和解した 後に、その企業が本当に不当な行為を止めたかどうかを追跡することは困難であ る。その点、AG は長期にわたって監視が可能である。クラスアクション弁護士に とっては、突然 AG が州民を代表して公的集団訴訟を提起し、引き下がるように要 求されることに対して不満が生じることはもちろんある。しかし、現実的には、 AG のスタッフ数などは限られており、全てのケースを扱うことは不可能であり、 もし、クラスアクションで適切にケースが扱われている場合は、AG も静観する場 合が多い。 ③調査開始(Civil Investigative Demands:CID:民事調査請求) 公的集団訴訟を提起するかどうかの最初の判断材料は、不当かどうかであり(州 法に照らし合わせて) 、AG がその疑いがあると判断した場合に調査が始まる。AG は、不当行為の疑いのある者や企業等の関係者に対して、強制的に関係資料・証 拠物件の提出を求める権限を有する。これは、訴訟提起前の原告側から被告に対 し、一方的なディスカバリーを命令することに匹敵する。AG は、この CID を発行 して得た文書・資料等を基に、訴訟を提起するか否かを判断する。この調査権は、 AG による公的集団訴訟が高い確率で勝訴或いは原告側有利の和解解決となる大き な理由の一つといえる。また、被害者の損害は、当該調査により収集した資料を 基に概算される。 ④CID の内容 AG は、不当行為の疑いのある者が当該不当行為の調査に関する文書資料或いは 情報を所有、保管支配していると判断できる場合には、法令に基づいて、民事訴 16 訟手続に着手する前の段階において、以下のような資料を提出するよう書面にし て、当該者に対して CID を発行する権限を有する。 ※ 不当行為の調査に係る資料となる文書の作成とその複写 ※ 物的資料 ※ 作成された資料等に関する文書による質問への回答 ※ 当該文書資料等に関する口頭による証言 CID の書面には、調査の対象が法令違反を構成する疑いのある行為であることを 明記しなければならない。 当該 CID が文書資料の提出を求める場合には、 ※ 当該提出資料は、請求の目的に合致するよう、明白或いは確実な内容で作 成されなければならない。 ※ 請求された資料の収集、調査、複写が可能となるための合理的な一定期間 の提出期限を設けなければならない。 ※ 当該資料の提出先である担当管理官名を明記しなければならない。 当該 CID が物的資料の提出を求める場合には、 ※ 当該資料は、請求の目的に合致するよう、明白或いは確実に特定された物 でなければならない。 ※ 請求された資料の収集、提出が可能となるための合理的な一定期間の提出 期限を設けなければならない。 ※ 当該資料の提出先である担当管理官名を明記しなければならない。 当該 CID により提出される報告書及び回答書は、 ※ 当該報告書及び回答書は、明白或いは確実でなければならない。 ※ 当該報告書及び回答書の提出期限を明記しなければならない。 ※ 当該報告書及び回答書の提出先である担当管理官名を明記しなければな らない。 当該 CID により行われる口頭証言は、 ※ 口頭証言の行われる日時及び場所を明記しなければならない。 ※ 調査を担当する調査官、及び調査記録の提出先である担当管理官を特定し なければならない。 ※ 調査官は、口頭証言において、証言者に宣誓させてその証言を記録し、そ の写しを管理官に交付する。 ※ 調査官は、口頭証言において、証言の行われる場所から証言者、その弁護 士、担当係官、速記記録係以外の者を退出させなければならない。 ※ 口頭証言は、証言者の居住区或いは事業区もしくはその他の地区であって、 証言者と調査官の同意する連邦司法管轄区内で行われなければならない。 17 ※ 口頭証言者は、弁護士を同行させ助言を受けることができる。 ※ 口頭証言者或いはその弁護士は、一定の場合には、質問に対する異議申立 の権利及び黙秘権を有する。 ※ 口頭証言者は、証言の後その記録の整合性を確認することができ、当該記 録に署名する。 ※ 口頭証言者が上記記録の確認の機会を与えられて 30 日経過後も署名を行 わない場合、調査官が署名を行わなければならない。 ※ 口頭証言が真正に行われたことの認証の後、調査官は遅滞なく当該証言記 録の転記を書留郵便もしくは配達証明郵便で管理官に送付する。 ※ 口頭証言者は、特定の場合を除きその転記記録の写しの交付を受けること ができる。 すべての CID は、領域的裁判管轄権の及ぶすべての連邦裁判所の管轄内におい て発行することができる。 発行される請求及び執行の申立は、名宛人が領域的裁判管轄権の及ぶいずれの 連邦裁判所においても管轄外にある場合には、連邦民事訴訟規則に規定される外 国に対する執行と同様の方法により行うことができる。 適正手続に則り、いずれかの連邦裁判所の管轄権が及ぶと認められる者に対し ては、コロンビア特別区の連邦地方裁判所がその者に対して管轄権を有する。 CID の発行及びすべての執行の申立は、組合、株式会社、協会、その他の法人 に対して行うことができ、 ※ 組合、株式会社、協会、その他の法人の、共同経営者、執行役員、経営代 理人、或いは総代理人のいずれに対して、またはこれら組合、株式会社、 協会、その他の法人を代理してその業務を遂行すべく任命を受けた者、或 いは法定代理人に対して、正当に作成された請求または申立の写しを発行 することにより執行する。 ※ 上記請求または申立の写しは、当該組合、株式会社、協会、その他の法人 の主たる事務所または営業所に発行する。 ※ 上記請求または申立の写しは、受領通知を要する書留郵便または配達証明 郵便により、上記記載の機関に発行する。 CID の発行及びすべての執行の申立は、自然人に対しては以下の方法により行 われる。 18 ※ 正当に作成された請求または申立の写しを当該自然人に対して発行する。 ※ 上記写しは、受領通知を要する書留郵便または配達証明郵便により、当該 自然人の正確な住所或いは主たる事務所もしくは営業所に発行する。 CID の発行及びすべての執行の申立の方法は、個々の受領通知をもって申立の 証明とする。書留郵便または配達証明郵便の場合には、郵便局の配達受領証明書 を添付するべきものとする。 提出される資料はすべて、当該資料保持者或いは回答者の宣誓証明書を添付し て提出されなければならない。 発行された CID に従わない、或いは提出した資料等に不備がある場合には、当 該調査の担当官或いは弁護士を通じて、CID の名宛人の居住区或いは事業の拠点 を置く管轄区域の連邦地方裁判所に本条執行の申立を行うことができる。 CID の発行から 20 日間或いは資料提出期限のいずれか短い期日を期限として、 CID の名宛人は、担当調査官に対して請求の修正または取下げの申立をすること ができる。当該申立は、請求が本条に違背するか、申立人の憲法上或いは他の法 律上の権利を根拠としていた場合に行うことができる。その場合の期限は進行し ない。 本条に基づいて連邦地方裁判所に申立がなされた場合には、当該裁判所が管轄 権を有する。当該裁判所の決定を遵守しない者は、法廷侮辱罪として処罰される。 FTC は、情報提供を求める Subpoena 或いは請求を発行する権限を有し、当該書 面には委員の署名を必要とする。署名のない文書は効力を発せず、当該権限は他 の者に委任することはできない。 以上の CID に関する規定は、FTC の CID 規定(15USCS§57b-1)を要約したもの であるが、多くの州の個別法において同内容の規定が存在している。上記 CID の 権限規定は、HSR 法と共に制定されたものである。1976 年以前から調査権限規定 を持っていた一部の州を除き、この FTC の規定を参考として各州の州法に類似の 規定が創設されていった。 CID と Subpoena の定義について、クラスアクションの規定が置かれた連邦民事 訴訟規則においては、訴訟の当事者双方が手持の証拠を互いに開示するディスカ バリーの手続があり、訴訟の過程で法廷に証人を呼ぶ方法として Subpoena の手続 19 があるように、基本的には、CID は違反行為の疑いのある当事者に対する調査であ ること、Subpoena は当事者ではないが当事者の違反行為に関係する証拠等を所持 している疑いがある者に対して行われる調査であると考えられる。ただ、以下の 2 州 1 機関のインタビューでは、CID と Subpoena の定義について必ずしも一致した 見解ではないようである。NY 州において企業の直面する訴訟に携わる弁護士事務 所の弁護士によると、基本的に「CID」 「Subpoena」 「Investigation」といういず れの呼び方であっても、それを請求された企業は資料提供の請求に従わざるを得 ないことに変わりはないとのことである。 AG は、公的集団訴訟を提起する前に CID を使って調査することができ、訴状を 提出する際には、不当行為を証明できるほとんどの証拠がそろっているために、 たとえディスカバリーになったとしても、あとで改めて新しい事実が判明するこ とは少ない。仮に資料を要求された企業がそれに従いたくない場合、もしくは、 守秘義務契約などで提出ができないような情報の場合、その旨を裁判所に申し出 る必要がある。また、最初に AG と交渉することも可能である。企業が要求に応じ ない場合、AG は裁判所に請求して Court Order として資料提出を要求することも できる。AG は CID で得られた情報をもとに、不当行為をどのようにして止めさせ るか判断する。不当行為の程度や規模が僅少であり、指導により企業が不正を止 めることが可能な場合、訴訟に至らないこともある。通常は、AG が公的集団訴訟 を提起する前に CID や subpoena の発行により十分な資料を得ている場合が多いが、 それでも足りない場合、訴状受理後のディスカバリーでさらなる資料を要求する 場合がある。具体的には、特定の被雇用者へのインタビューなどが考えられる。 ディスカバリーが実施された場合、不当行為を行った企業は、自らの行為に係 る有利な資料がないことから、和解を選択する場合が多い。一方で、ディスカバ リーが実施されると企業側も AG に対して資料要求ができる。たとえば薬品関係の 訴訟では、州の病院が本当にその薬品を購入したのかについて、被告が州政府に 資料の提出を求めた事件がある。このようにディスカバリーは、州政府にとって も負担になる可能性がある。また、企業が大量の資料を AG に提出した場合、AG が全ての資料を調査できない場合もある。ディスカバリーは、原告、被告双方に とって、有利なことも、不利になることもある、そのようなお互いの負担を考慮 して和解になるケースが多い。 メリーランド州では、前記 CID と同様の規定である。不当行為を発見した場合、 subpoena を発行し、企業側に資料を提出させる。反トラスト法の場合は、州法に 基づき CID を発行することができる。CID にも subpoena にも従わなかった場合は、 20 罰金を課すことができる。subpoena では、企業に対して、関係資料の提出もしく は AG に証言することを求めることができるが、CID ではさらに特定の情報、たと えば商品を購入した消費者リストなど、資料を特定して要求できる。裁判所に訴 状が受理される前でも、subpoena を発行要求することができる。消費者保護(民 事)の CID で得た情報は、刑事訴訟には利用できない。州政府が訴訟提起を検討し ているときに、クラスアクションが同時に進行しているか否かを調査するために、 消費者グループとの情報交換を行っている。また、企業への訴訟を準備する際に は、裁判所の記録なども調査し、当該企業がクラスアクションなどを提起されて いるか否かを確認する。 コネチカット州では、他州と以下のような規定の違いがある。コネチカット州 では、AG とは別に Department of Consumer Protection という知事の Executive Office がある。Commissioner は知事が指名する。CID の発行手続は、規定により その決定権は Commissioner にあることから、Commissioner の許可が必要である。 具体的には、AG がクレームを受け、初期の調査を行い、さらなる調査が必要と判 断した場合には、Commissioner に報告し、CID を発行する指示書に Commissioner のサインを受ける。CID(訴状受理前)とディスカバリー(訴状受理後)は、基本 的に要求することは同じであるが、一番大きな違いは、CID を受け取った企業は、 州政府に対して質問状等を出すことはできないが、ディスカバリーではそれが可 能であることである。 ⑤訴訟提起 私的クラスアクションと公的集団訴訟の大きな違いのひとつとして、私的クラ スアクションの場合は、裁判所によるいくつかの認可要件を満たすための手続に 1年~数年かかる場合があることに比べ、公的集団訴訟の場合は、このような認 可手続がなく、迅速な解決が期待できる。 消費者被害の回復には、以下の3つの方法がある。 ・ 原状回復(Restitution) ※ 被害者は自己の被害額を申告し、後に述べる証明手続を経た上で、当該被 害額が被害者に返還される。 ※ Parens Patriae Action 及び反トラスト法上の州権執行訴訟の場合は、損 害額の 3 倍の賠償金である。申告その他の手続は、上記と同一である。 ・ 民事制裁金(Civil Penalty) ※ 民事制裁金は、個々の被害額の証明が困難である場合、不当行為を行った 21 企業の保有額が比較的少額で被害者への分配が困難な場合、違法利益の額 が州法で規定する民事制裁金の額に近似する場合などに課される。 ※ 個々の被害者には返金されず、AG の口座・州政府の一般会計など、各州 法に規定された口座に入金される(例:ユタ州は、Consumer Protection Education and Training fund に入金される) 。 ※ 先に述べたように、HSR 法においては、15USCS§15e 条の賠償金分配方法 の規定の中で、 「(2)裁判所により民事制裁金として州の General Account に納入される」こと、さらに「金銭的救済が・・・各人に正当な機会を与え る条件の下で」分配手続が行われるべきことを規定している。 ※ 上記規定に沿った内容の規定が、アラスカ州21、コロラド州22、コロンビ ア特別区23、ロードアイランド州24などの州法に見られる。 ・ 不当利益の没収(Disgorgement): ※ 企業が不当な行為で得た利益を没収する。各州法においては、州民だけでな く州内の政府機関その他の機関を AG が代表して不当利益を没収する権限を 有する(アラスカ州法、コロラド州法、コネチカット州法、メリーランド州 法等)。不当利益の没収後であっても、自己の被害額を証明可能な被害者に対 しては、返還手続が取られる。 ※ 没収は、個々の被害者への返還が困難な場合に行われるものであり、州政 府に入金される。この場合も、いずれの会計に入金されるかは、裁判所と AG の判断に任される。 AG は、公的集団訴訟で不当行為者から没収した金銭等の扱いに関する決定 権を有する。その理由は、AG 自らが訴訟を提起し、自ら解決(和解もしくは 判決)まで関与するからである。支払金額が少額で個別の被害者への分配が 困難な場合には、関係団体に通知し、寄付を必要としている団体を募る場合 もある。実際にメリーランド州では、応募のあった団体の全てに均等に配布 した実績がある。また、応募のあった団体の中から、一部の団体を選ぶ州も ある等、配分の方法は、それぞれの州で違ったやり方になっている。原状回 復金を徴収するのか民事制裁金を課すのかを決定するポイントは、被害者が 特定されており、被害者も被害を証明でき、さらに被害額が相当の額である 場合は、原状回復金の徴収が選択されるが、被害額があまりに少額の場合、 被害者が特定しきれないような場合は、民事制裁金を課す場合が多い。心臓 21 22 23 24 Alaske Stat.§45.50.577(h) C.R.S.6-4-111(c) D.C.Code28-4507(b) R.I.Gen.Laws§6-36-12(f) 22 発作を沈静化させる薬の訴訟では、当該薬が薬局経由で販売されており、誰 が購入したのか判明していること、また当該薬価も高額であったことから、 原状回復金の徴収が選択され、被害者一人あたり 350 ドルが返還された。最 終決定権は裁判所にあり、AG は裁判所にどの制裁形態が適切かの提案を行う。 多くの場合は、AG と不当行為者側で和解に達した後、裁判所に制裁形態の提 案を行う。 (コネチカット州の場合)25 原状回復は各個人の被害額をできるだけ明らかにする必要がある。民事制裁 金は一回毎の罰金額が最高で 5,000 ドルと決まっている。また、不当利益の没 収は企業がいくら利益を得たか計算する必要があり、専門家の分析を頼むこと が多い。いずれを優先するかについては、まず消費者に被害額を返金すること が第一のプライオリティであり、原状回復が最初の選択肢である。これらは州 法で規定されているわけではなく AG の判断による。原状回復の額と不当利益 の没収額は多くのケースの場合、大多数の場合同額となる。なぜなら、消費者 が受けた(購入した)額が、企業の利益であることが多いからである。民事制 裁金の場合、企業は意図的に不当行為をしていたことが要件であり、AG はそ れらを証明しなければならない。もしそれらが証明しきれない場合、民事制裁 金として課すことが出来ない可能性もある。 (メリーランド州の場合)26 Parens Patriae Action が行われるのは、反トラスト法及び証券取引法分野 のみで、それらの分野においても、当該訴訟方式を取るか州権執行訴訟を提起 するのかは、AG の判断に任されている。 ⑥勝訴あるいは和解と被害者への通知27 原状回復金の徴収が選択された場合、被害を受けた可能性のある消費者に公 正に分配するため、通知を行う必要があるが、通知の方法やどのくらいの期間 に渡り通知(広告など)を出しておく必要があるかは、裁判所が決定する。そ れらの内容は、事案毎に異なる。州によっては、州法で通知の方法等を規定し ている(新聞や TV などで行う必要があるなど)ところもある。 ・ 通知方法:新聞・雑誌・Wed サイト・店頭への掲示等による公告と規定さ 25 26 27 2009 年 2 月 20 日、Connecticut State Attorney General へのヒアリングより 2009 年 2 月 18 日、Maryland State Attorney General へのヒアリングより 2009 年 2 月 16~20 日、National Association of Attorneys General(NAAG)、Maryland State Attorney General、Connecticut State Attorney General へのヒアリングより 23 れているが、消費者保護を基準とした場合には、 「広告(advertize) 」と 言う表現もされている。いずれにしても、主要な目的は被害者への認知で あり、文言にこだわらないという傾向がある。 ・ 通知内容:判決或いは和解の決定内容、当該決定内容に対する承認・否認 の有無の確認。 一番効率のよい通知の方法とされているのは、新聞記事(公告的な通知では なく、新聞社の取材に基づく記事であれば最良)であり、一面などに大きく報 道されれば、短期間で効率よく、周知することができる。 (コネチカット州の場合)28 訴訟を提起する前の段階では、正確な被害者数・被害額の特定が困難な場 合が多いため、クレーム処理体制により、できるだけ多くの情報を集め、被 害額を正確に算定する。また、そのために広告などを通じて対象商品の購入 者等に周知を促し、遅くとも和解の前に、できる限り被害者を特定できるよ うに務めている。AG が記者発表などを通じて、AG による現在進行中の事件に ついて説明し、被害を受けたと思料する消費者は、AG に連絡するよう訴える 他、Web サイトへの広報、店頭への広告なども利用して、周知活動を行ってい る。 クラスアクションでは、可能な限りすべての被害者に郵便で通知すること が求められているが、公的集団訴訟の場合は、このような義務はない。被害 者が完全に特定されている場合は、郵送で通知を送る場合もあるが、どのよ うな通知方法によるかは、AG 或いは裁判所が決定する。裁判所が企業に、消 費者に直接通知を出すように要求する場合もある。また AG も和解の中で企業 に対して、消費者に直接通知を出すことを条件とすることもある。その際に は、どのような説明(言い回しを含む)を行うのかについても指導し、さら に消費者に混乱を与えないために、説明文も精査を重ねる。例えば、家屋改 修の被害額の算定方法としては、専門家をその家に派遣し、どのくらいの被 害を受けたかを査定させ、それに基づいて被害額の算定を行う。しかし、被 害者が自ら算定額を示し、AG の決定額に異議を申し立てる場合もある。その ような場合、AG の算定基準などを説明し、被害者の理解が得られるように努 める。たとえば、AG の査定額が 10 万ドルであり、これを被害者に返金したと ころ、被害者が自ら算定した被害額が 15 万ドルだった場合、被害者は、既に 受け取った 10 万ドルに関しては、更なる訴訟を提起することはできないが、 28 2009 年 2 月 20 日、Connecticut State Attorney General へのヒアリングより 24 残りの 5 万ドルに関しては、クラスアクションなり、個人訴訟なりを提起す ることは可能である。多くの場合、上記のようなことは発生せず、被害者は 訴訟を提起しない。むしろ AG が代わりに被害額をたとえ一部でも返金するこ とに対して感謝してくれるとのことであった。 ⑦原状回復金、或いは賠償金の分配 クラスアクションや公的集団訴訟の和解後の通知や分配などの作業を専門 に請け負う民間企業もあり(Settlement Administrator)、そのような企業はど の通知を出せば一番効果的なのかなども把握している。当該民間企業は、被害 者からの問い合わせへの対応、証明書発行手続、回収したお金の分配作業の委 託を受け実施する。被害者の数が多数で、AG で実施しきれないような場合な どは、このような企業に業務を委託する。これらにかかった費用は、通常、和 解内容に含まれており、原状回復金の他に AG の費用として、不当行為を行っ た企業が支払うことになる。 ※ 原状回復金或いは賠償金の受け取り方法:申請書に氏名、住所、生年月日、 ID 番号、受給資格を確認するための質問への回答、サインと日付、商品 購入証明書を被害者各人が、AG の事務所宛、或いは、支払金の分配作業 を請け負う民間企業(Settlement Administrator)宛に送付する。支払金額 が少額である場合、或いは被害者の特定が困難もしくは時間がかかる場合 など、被害者への個別分配が困難な場合は、一旦、AG の管理する口座に 入金、或いは州によっては州の一般会計に入金され、被害者や州民の利益 になるような間接的な分配が行われる。 ※ New York 州における 1998 年の広告会社の事件(Parens Patriae Action): 全ての州民に対して、日常購入する牛乳の購入券を配布。 ※ Texas 州における 1988 年の保険会社の事件(Parens Patriae Action): 州立大学の奨学金への寄付。 ※ Virginia 州における 1995 年の保険会社の事件(州権執行訴訟):被告か ら 17 万ドルを徴収し、20,534 ドルを被害者各人へ賠償金として分配、5 万ドルを民事制裁金、残りの 10 万ドル弱の残額について、将来的な反ト ラスト法・消費者保護法関連の民事訴訟資金として、AG の管理する口座 に入金。 ※ 1991 年の Nintendo 事件(50 州とワシントン DC による Parens Patriae Action で和解解決) :1988 年 6 月から 90 年 12 月末日までの間、ゲーム機 価格に 5 ドルを上乗せして再販売の共謀を行ったもの。被害者の認定は N 社のファンクラブ構成員に登録していた 480 万人と、申請或いは追跡調査 25 により判明した 23 万 3 千人弱が追加された。分配は、各人に対して 5 ド ルのクーポン券の配布、クーポン券を利用した販売店への補償として最高 2,500 万ドルまで、AG の反トラスト法運用資金として 300 万ドル、訴訟費 用として 175 万ドル、以上の金額の支払が命じられた。 (メリーランド州の場合) 仮に和解の後、原状回復金を支払い、それを被害者に還元した後に、 一部の被害者から受け取った金額についてクレームなどがあった場合、企 業から提出された資料に基づく被害者各自の被害額などの記録が間違っ ていた可能性もある。この場合、被害者が自分の被害額を正当に証明でき るなら、その金額に修正して不足分などを再度還元することも可能である。 仮に企業が追加の支払を行うために十分な資産がない場合には、追加の支 払金の一部を被害者に還元する場合もある。たとえば、ある被害者は 2 万 ドルの被害、別の被害者は 1 千ドルの被害であるが、追加金を支払う企業 は、追加金総額の 10%しか支払えないので、それぞれの被害者に 10%ず つ支払う方法である。支払金の分配方法は、それを支払う企業から州政府 の一般会計に一旦入金させ、州政府から、被害者に小切手を送付する方法 と、企業から被害者に、小切手を直接送付する方法とがある。AG は前者 の方法を優先している(90%程度は、一般会計に一旦入金させる方法を選 択する)。なぜなら、企業から小切手を直接送付させた場合、仮に被害者 が送付された小切手を現金化しなかった場合、企業にとっては、その小切 手の支払額が減少することになってしまうからである。また、企業から小 切手を送付させる場合、送付先リストを企業から提出させたとしても、企 業が確実に全ての被害者に小切手を送付したか否かの確認が難しいとい う問題もあるからである。これに比べ、州政府から小切手を送付した場合 は、AG が直接小切手の現金化ないしは非現金化を把握できるので、管理 が比較的容易である。州政府が小切手を送付する場合は、企業は郵送費等 のコストを負担しなければならない。また、支払金の受給者が多数存在す る場合などでは、Settlement Administrator に分配業務を委託する場合 もある。この分配業者は、支払金の受給者である被害者のリストを作成し、 小切手を送付するといったことまで行う。通常、これらの分配業者に委託 しないのは、非常に委託費が高額だからである。たとえば、委託費が 8 万 ドルもかかった(因みにこれは、半額まで値下げ交渉した結果である)場 合もある。委託費がこれほど高額であれば、州政府職員が被害者への分配 業務を行った方がコストを抑制できることになる。証券取引に関する訴訟 では、被害者数がそれほど多数ではないので、州政府が被害者への分配業 26 務を行う場合が多い。その一方で、反トラスト法に関する訴訟では、被害 者数が多数の場合が多いので、こういった分配業者に委託する場合が多く なる。 (コネチカット州の場合) 支払金の分配には、前記クレーム処理体制を使って消費者からのクレー ムを受付、被害額の算定などを行う。被害額の算定そのものを民間企業に 委託する場合も多い。たとえば、被害者が 100 ドルの被害を受け、企業が 100 ドル持っている場合は、そのまま被害者に返還するが、企業が 80 ド ルしか支払い能力がない場合、被害者へは 80 ドルの返金となる可能性が ある。 Settlement Administrator に依頼するのは、ケースが大きい場合のみ で、通常はない。もちろん、どの企業に任せるかは AG が選択し、どうや って作業を進めるか、また作業の進捗の監督を行う。 原状回復などの支払いは、州政府の国庫に一旦入れる場合と、制裁を受 けた企業から直接消費者に送らせる場合の両方がありうる。しかし、企業 の資金が枯渇すると困るので、まず、州政府の国庫に入れさせることが多 い。もし、その企業を十分信頼できる場合は企業に直接送らせることもあ るかもしれない。 コネチカット州の場合、民事制裁金の上限は 5,000 ドル(一回の不当 行為単位)であるが、違法行為が毎日起こっているなど解釈によって、 罰金額を大きくすることもできる。たとえば、5,000 人の被害者に対して、 100 日間と言う計算になれば、民事制裁金の額は、50 万ドルに達する。 何をもって一回の違法行為かということは AG が決定する。 和解の場合は、AG が決定するが、Trial になった場合は裁判所が決める。 Settlement Administrator は自州(在コネチカット州)の企業でなく てもよく、ニューヨーク州であってもかまわない。事実、コネチカット州 にはそういった企業は存在しておらず、ニュージャージ州の企業に委託し たりする。そういった企業はもちろん他州からの委託も受けているし、ク ラスアクションも担当したりしている。 27 ⑧税金 消費者が AG の公的集団訴訟などを通じて原状回復金等を受けた場合、 その消費者は、商品などを購入する際に既に消費税などは支払っている ので、返金されたお金に対しては課税されない。被告企業は、支払金は 費用として計上できるが、民事制裁金はできない。 原状回復金等を払うことで、被告企業がかえって法人税の支払いを減 額できる場合も起こりうるが、AG の趣旨は、被害額を消費者に返却する ことであり、被告企業がそれから税金上の便益を受けるかどうかではな い。ただ、和解の交渉の中で、企業が 100 ドルしか払えないといっても、 税金上の控除があるからということを説明し、120 ドル払わせるといった こともありうる。ただ、ほとんどのケースで被告企業が支払う原状回復 金等や民事制裁金の方が税金上の便益よりも大きいので、被告企業は、 訴訟自体が起きることを嫌がる。もし、AG が本当に企業に対して不当行 為をやめさせたい場合は、可能な場合高い民事制裁金を課す。そうすれ ば、被告企業はもちろん被告企業の投資家もそれらを認識し、再発防止 につながる。 28 表1 米国集団訴訟制度概要まとめ 分野 消費者保護 制度名(日本語表記) 州権執行訴訟 州権執行訴訟 Parens Patriae Action 制度名(英語表記) Sovereign Enforcement Action Sovereign Enforcement Action Parens Patriae Action 個人が訴訟を提起できないような少額・ 多数被害者など、消費者保護分野で州 司法省が消費者保護のために必要と 考えた場合、単独で州民を代表しない 形で提起する集団訴訟。被害者が受け た被害額を回復し還元することが第一 目的 意図的な高額価格設定など反トラ スト法の分野で州司法省が消費者 保護のために必要と考えた場合、 単独で州民を代表しない形で提起 する集団訴訟。被害者が受けた被 害額を回復し還元することが第一目 的 反トラスト法の分野で、少額で不特 定多数の被害者などのケースで、 行政庁訴訟では法的措置が難しい 場合などに、州司法省が消費者保 護のために必要と考えた場合、ハ ートスコットロディーノ法などを根拠 に州民を代表して起こす集団訴訟 目的及び特徴 1 被害者から の申請 反トラスト法 根拠法令 各州法 同左 ハートスコットロディーノ反トラスト改 善法(Hart-Scott-Rodino Antitrust Improvement Act of 1976: クレイト ン法 4C 条) 監督官庁 各州司法省(State Attorney General) 同左 同左 各州司法省(State Attorney General) 同左 同左 電話、email、書面など 同左 同左 各州司法省(State Attorney General) 同左 同左 CID 或いはSubpoena 同左 同左 訴訟前の州司法省からの調査要求に 応じない場合、州司法省は裁判所に申 請し裁判所命令として強制することがで きる 同左 同左 担当団体 手法 担当団体 可能な調査手法 2 事前調査 強制力 29 分野 消費者保護 制度名(日本語表記) 州権執行訴訟 州権執行訴訟 Parens Patriae Action 制度名(英語表記) Sovereign Enforcement Action Sovereign Enforcement Action Parens Patriae Action 適用可能分野 反トラスト法 民事訴訟法が適用される分野 同左 同左 訴訟提起の条件 州司法長官(State Attorney General) の判断 同左 同左 原告適任者 州司法長官(State Attorney General) 同左 同左 条件・制限 州民を代表せず、州司法長官の名のも と単独で訴訟提起 同左 州民を代表し州司法長官が提起 原告認定手続 州法に上記が可能な旨規定されている ので、個別の訴訟提起時毎に認定手 続は必要なし 同左 個別の訴訟提起時毎に認定手続は 必要なし 被害者の特定手法 不当行為を行なった当該企業から顧客 リストなどを収集し、被害者を特定す る。それに加え、必要に応じ、訴訟を提 起する前に、候補被害者に通知を行な い、被害者と額の確定を行なう。 同左 同左 被害者特定の必要性 被害者の明確な特定は訴訟を提起す る必須条件ではない 同左 同左 3 訴訟提起 4 通知 通知手法 司法省が実施。被害者の住所が特定 できている場合は郵送、それ以外は広 告(新聞、TV など)や公示 30 同左 裁判所から指示された趣旨、方 法、時期に則り、公告による通知を 与えなければならない。裁判所は、 公告のみによる通知が法の適正手 続に反すると認めた場合、状況に 応じて他の通知方法を指示すること ができる。 分野 消費者保護 制度名(日本語表記) 州権執行訴訟 州権執行訴訟 Parens Patriae Action 制度名(英語表記) Sovereign Enforcement Action Sovereign Enforcement Action Parens Patriae Action 特に規定なし 同左 裁判所の決定 被告企業に負担させる場合が多い 同左 同左 期限 費用負担 反トラスト法 Opt in / Opt out の オプション 州民を代表していないので、Opt in、 Opt out のオプションは発生しない 同左 州司法長官が代表している者は、 通知に明記された期間内に届け出 ることによって、その判決の効力が 及ばないよう、原告(団)から脱退す ることができる。 上記の理由 州民に訴訟費用の負担や判決効への 拘束を課さないため 同左 同左 手続保障 州民を代表していないので、全ての人 への通知義務がない 同左 通知義務あり 4 通知 31 分野 消費者保護 反トラスト法 制度名(日本語表記) 州権執行訴訟 州権執行訴訟 Parens Patriae Action 制度名(英語表記) Sovereign Enforcement Action Sovereign Enforcement Action Parens Patriae Action 損害被害額の算出手法 基本的には個々の被害者からの申告、そ れが不可能な場合は不当利益の算定を 専門家などに依頼して推定 同左 同左 具体的な消費者権利の 回復方法 ①原状回復金(Restitution):被害者に 還元される ②民事制裁金(Civil Penalty):州が査収 ③不当利益の剥奪(Disgorgement):州 が査収 ①3 倍額の賠償金:被害者に分配さ れる ②同左 ③同左 同左 州法の規定による。 同左 コネチカット州の場合、通常反トラス ト法のケースは裁判所の認定をと る。 同訴訟の取下げ或いは和解は、裁 判所の承認を条件とする。また、取 下げ或いは和解の提案についての 通知は、裁判所の指示した方法に 従って行われなければならない。 州民は判決・和解内容に拘束されない 同左 最終判決(final judgment)は、原告 (団)と脱退の届出が無効となった 者全員に対して、同法第 4 条 ( 15USCS§15 ) の 既 判 事 項 ( res judicata)となる。 最高裁判所まで上訴の権利あり 同左 同左 5 訴訟・和解 和解の条件及び認定の 手続 必要性 判決の拘束性 上訴 32 分野 消費者保護 制度名(日本語表記) 州権執行訴訟 州権執行訴訟 Parens Patriae Action 制度名(英語表記) Sovereign Enforcement Action Sovereign Enforcement Action Parens Patriae Action 通知の必要性 6 分配 7 裁判費用 8 クラスアク ションとの関係 反トラスト法 必須ではない 同左 必要 手法 州司法省が実施。被害者の住所が 特定できている場合は郵送、それ 以外は広告(新聞、TV など)や公示 同左 同左 原状回復金・賠償金の分 配手続 個々の被害者からの申告に応じて 被害額を確定し(州司法省が)、分 配。分配手続は民間専門業者に委 託することがある 同左 同左 同左 裁判所は、損害額全体の 3 倍額 の賠償金と、合理的な弁護士報 酬を含む訴訟費用を州に与え (award)なければならない。 同左 請求を同じくするクラスアクション に既に参加していた被害者、或 いは、当該クラスアクションへの 参 加 を 希 望す る 被 害 者 は 、 opt out の手続が必要となる 費用負担原則 州政府負担 行政庁訴訟が起こされたからといっ て個人のクラスアクションの権利が なくなるわけではない。ただし、行 政庁訴訟が和解などになり、被害 者が被害額の賠償を受けた場合、 その同じ部分について二重でクラス アクションを提起することはできな い。 33 (参考) コネチカット州 AG の概要 (1)歳入 コネチカット州 AG の 2007 年~2008 年の歳入総合計は、$684,600,213 であり、その内訳としては、 一般会計への歳入: 総額 $218,007,969(うち、消費者保護関連、$2,384,070【1.1%】) 特別会計への歳入: 総額 $19,219,697(うち、消費者保護関連、なし) AG が和解をし、支払いは企業から消費者に直接のケース: 総額 $447,373,547(うち、消費者保護関連、$46,944,430 【10.5%】) 表 2 コネチカット州司法省 2007 年~2008 年歳入詳細 一般会計への歳入(General Fund) (単位:US ドル) 項目 金額 Tobacco Settlement Fund Collections タバコ訴訟基金徴収 State Child Support Collections チャイルド・サポート関連徴収 Department of Administrative Services Collections % $141,347,315 64.8% $45,823,963 21.0% 管理局による徴収 $7,792,621 3.6% Department of Social Services Collections 社会サービス局による徴収 $6,171,638 2.8% Health Care Fraud Recovery ヘルスケア分野詐欺回収 $6,007,790 2.8% Antitrust Civil Penalties 反トラスト法民事制裁金 $4,013,500 1.8% Consumer Protection Settlement 消費者保護関連和解金 $1,960,025 0.9% Miscellaneous Collections その他 $1,573,404 0.7% Penalties for Environmental Violations 環境分野違反罰金 $1,457,440 0.7% Tax Collection 税収 $1,085,098 0.5% Consumer Protection Penalties & Fees 消費者保護関連罰金、手数料 $424,045 0.2% Antitrust Fees, Costs and Restitution 反トラスト法手数料、賠償金 $413,551 0.2% Treasurer Collections 財務局による徴収 $137,579 0.1% 34 合計 $218,207,969 消費者保護関連小計 $2,384,070 100.0% 1.1% 特別会計への歳入(Special Fund) 項目 金額 Transportation Fund 運輸基金 State Employees Workers Compensation Collections % $17,500,000 91.1% 州労働者保証金徴収 $814,368 4.2% Unpaid Wage abd Employment Tax Collections 未払い賃金などへの税金 $343,756 1.8% Consumer Protection Education 消費者保護教育 $252,879 1.3% John Dempsey Hospital John Dempsey 病院 $202,755 1.1% Second Injury Fund Collections 二次災害基金 $105,939 0.6% 合計 $19,219,697 100.0% 個人、企業に直接支払われた金額 項目 金額 State Child Support Collection for CT Families チャイルド・サポート関連徴収 Antitrust Restitution % $208,457,231 46.6% 反トラスト法賠償金 $95,431,525 21.3% Trust Funds protected, Preserved or Recoverd 基金積み立て $91,122,271 20.4% Refunds for Utility Consumers 公共サービス消費者への返金 $44,000,000 9.8% Enron Related Recoveries for CRRA and Towns エンロン社関連 $4,745,000 1.1% Consumer Protection Restitution 消費者保護賠償金 $1,522,310 0.3% Consumer Health Insurance Restitution 健康保険罰金 $1,115,376 0.2% Environmental Clean-up and Remediation 環境クリーンアップ、復旧 $670,921 0.1% Restitution from Home Improvement Contractors 家屋改築業者罰金 $306,744 0.1% Renters Security Deposit 保証金 $2,169 0.0% 合計 $447,373,547 100.0% 消費者保護関連小計 $46,944,430 10.0% 総合計 $684,801,213 100.0% 消費者保護関連総合計 $49,328,500 7.2% 35 (2)具体的なケース例 ・州権執行訴訟(Sovereign Enforcement Action) (家庭用石油暖房サービス会社のケース) コネチカットの石油暖房サービス会社が長期的な契約者(前払い)に対して契約 に反して石油を供給しなかったケースで多数の消費者に被害を与えた。 被告企業としては、F&S Oil Co.とその子会社である Village Oil、Carlson Fuel, Inc.、Bosse & Graziano Oil Company、さらに前社長も個人的に訴えた。 AG が訴訟を起こし(州権執行訴訟として) 、上級裁判所(The Superior Court)は、 消費者への賠償のために資産の凍結を命令した。 AG はそれらの資産を売却し、できるだけの金額を消費者に返却した。 以前にも、Newton Oil Company も前払いにも関わらず石油の供給を行なわなかっ たということで訴えたことがあり、和解においては、強い差止め命令とともに、 $250,000 の原状回復金を確保し、消費者に還元した。その後、この案件は刑事事 件に発展した。 (Anheuser-Bush 社のケース) 2008 年 6 月、コネチカット州を含む 11 州は、Anheuser-Bush 社(バドワイザービ ールのメーカー)と2つのエネルギー飲料についての和解に達した。それにより、 今後同社は一切カフェイン入りアルコール飲料を製造しないこととなった。 特に、同社の積極的な広告により若年層が、そのドリンク飲料が酒酔いを軽くす る効果があるとの間違った理解を誘導していることが問題であった。 この和解と同時に、16 州の AG は連名で、アルコール・たばこ税局(The Alcohol and Tobacco Tax and Trade Bureau【TTB】)に対して、他社の同種のドリンク飲料に 対しての調査を即刻始めるように要求する書面を送っている。 (消費財及びサービスのケース) コネチカット州 AG は、ミズーリ州に本社があり、全国で自動車保険サービスを提 供している National Auto Warranty Services などを相手取った全米規模の調査 のリード役を果たしている。 芝刈り機メーカーである Briggs & Stratton 社が 16 馬力の芝刈り機を 18.5 馬力 と偽ったラベルで販売していたケースに関して、和解をとりつけ、各被害者に$300、 また、州政府に$250,000 の罰金を支払せるとともに、差し止めによる再発防止を 図った。 コネチカット州及び 17 州の AG は共同で、南カロライナ州の JK Harris & Company 社が提供していた“税務署と交渉して節税を代行”という誇大広告、さらには、 36 ダイレクトメールによる“借金を返済しないと裁判沙汰になる、自分たちはそれ を解決できる”といった消費者への通知を行ったケースに対して和解をとりつけ た。 不動産取引ライセンスを所持していないにもかかわらず、不動産をオークション において販売したとして、オークション業者 Tim’s Inc に対して州権執行訴訟 (Sovereign Enforcement Action)を起こした。 ・Parens Patriae Action (再保険会社のケース) 2007 年 10 月、AG は保険会社に保険を提供(再保険)する世界的に大手の再保険 ブローカーである Guy Carpenter & Co.に対して、共謀して特定の保険会社のみ便 宜を与えたとして、賠償金、民事制裁金などを求めて Parens Patriae Action を 起こした。現在案件はどの裁判所で扱われるかを争っており、被告企業は、案件 を連邦裁判所に移したが、論争の後、連邦裁判所は州裁判所に差し戻した。被告 企業はこれを不服として裁定を求めている。 37 2 メリーランド州 AG の概要 (1)メリーランド州 AG 予算推移29 メリーランド州 AG の予算推移は以下のとおりである。 表3 メリーランド州 AG 予算推移 予算/年度 2005 (単位:ドル) 2006 2007 2008 2009 一般 $16,976,121 $16,972,061 $18,819,539 $20,213,891 $18,624,530 特別 $972,191 $2,015,181 $2,322,074 $3,195,119 $3,762,193 連邦 $1,416,133 $1,552,218 $1,591,048 $1,703,425 $1,932,775 合計 メ $19,364,445 $20,539,460 $22,732,661 $25,112,435 $24,319,498 251 245 246 256 254 職員数 リ (2)メリーランド州 AG 組織図 30 州司法長官 (Attorney general) 副司法長官 主席副司法長官 反トラスト法担当 消費者保護担当 総会委員会 29 30 刑事担当 刑事抗告担当 証券担当 民事訴訟担当 アドバイザー メリーランド州 Web サイトより http://www.msa.md.gov/msa/mdmanual/08conoff/attorney/html/06agb.html Maryland State Archives より 38 教育担当 契約法担当 財務担当 (9) 消費者団体 ①Consumer Union 31 Consumer Union は(以下、 「CU」と呼ぶ)、ニューヨーク郊外 Yonkers 市に本部を 構える消費者団体で、商品のテストを行い、その結果を「Consumer Report」誌で公 表、消費者に商品情報を提供することを通じて消費者の権利を守ることを目的とし ている。 (A)歴史 CU は 1936 年に設立された。 消費者保護の歴史はいくつかの段階に分類されるが、1906 年には全米最古の消 費者団体である National Consumer League が設立されるとともに、 Food & Drug Act が設立された。そして、1920 年代から 30 年代の大恐慌時には、多数の商品が出 回ったがそれぞれ互換性もなく、質も悪く、消費者は浪費を強いられていた。そ ういった背景下、政府やボランティア団体が商品テストなどを始め、CU もそのう ちのひとつの団体であった。その当時、他の大きな課題として、誇大広告の問題 もあった。CU は消費者メンバーからの寄付で運営を始めたが、当初は決して平坦 な道ではなく、地道に消費者に活動を訴えていくことで徐々に規模を拡大してい った。それらを可能としたのは、CU の活動が消費者にとって有益であると信じる 人たちがいたことや、最終的には消費者の利益(余分な出費が減る)になるとい うことで寄付してくれる人たちがいたからである。その精神が脈々と受け継がれ、 今まで 70 年以上にわたって CU が成功裏に運営できている基礎となっている。ま た、アメリカは巨大な市場であり、消費者も多いことから、消費者の商品に関す る関心も高く、商品の影響力も巨大であることから CU のような団体が運営できて いるという側面もある。人口の少ない小国であったら状況は違っていた可能性も ある。 CU の活動初期の頃には労働関係の活動も行っていた。たとえばストライキがあ ったらその仲裁を行うといった活動である。 CU の基本方針として、独立性を保つために、CU の設立以来一度も企業からの寄 付は受け取ったことがない。設立当初も 2~3 人のメンバーからの寄付で支えられ ていた。初期の頃の「Consumer Report」誌は非常に簡単なレポートで、会費も年 間 5 ドルとかといったように安価であり、資金的にも十分ではなかったことから 活動は限られていた。その当時は、裕福な人などにテストラボの拡張のために寄 31 2009 年 2 月 19 日 Consumer Union からのヒアリングより 39 付を依頼したりしていた。 1950 年代には、CU は市場経済を阻害する共産主義的な活動といわれたこともあ るが、1960 年代になって、状況は変わった。特にラルフ・ネイダー氏(有名な消 費者活動家)の影響が大きかった。彼は弁護士でジェネラル・モーターズ(GM) 社製の車の安全性を疑問視する書籍などを出版したが、GM が彼の後を追跡し、そ れをメディアが取り上げ、大きなスキャンダルとなり、商品テスト、評価といっ た分野が注目されるようになった。彼は、シートベルトやエアーバッグなど、車 の安全性発展に大きく寄与した人間でもある。 また、1960 年のケネディ大統領時代、消費者の権利も訴えられるような動きも 起こり、消費者保護運動がより一般的になった。 CU が本格的に拡大したのは第二次世界大戦後である。帰国した軍人たちが当時 の先端商品(洗濯機、ドライヤー、テレビ)などをこぞって購入したことなどによ り経済的発展期となり、それに伴い、商品情報へのニーズも高まり、同誌も拡大、 組織としても安定していった。その当時、企業はやはり同誌をきらっていたし、 同誌が新聞や雑誌に広告を掲載しようとしたら新聞社などから断られるといった こともあった。しかし、消費者の間では確実に評判が広がっていっていた。 企業からテスト結果などについて訴訟を起こされたこともあるが、敗訴したこ とはない。その理由のひとつは、米国では言論の自由が強く守られていることも あげられる。 (B) 活動 CU の役割は一般的に販売されている商品をテストし、欠陥や問題のある商品を 発見したら、それを一般消費者に広く公表することである。 さらに最近の先進的な活動として、過去 5 年間、州政府との連携を深めながら、 積極的な全米キャンペーンを行っている。理由としては、ほとんどの消費者問題 は州レベルで起こっており、州政府との連携は必須であるからである。 CU は政府から独立した NPO であり、独立性を非常に重要視している。企業から の献金や寄付、Consumer Report 誌の上での広告収入は一切取っておらず、収益 (約 2 億ドル)の 75%は Consumer Report 誌の販売による(残りは個人からの寄 付など) 。これらは完全な独立採算を保つことで、どの企業とも利害関係を発生さ せず、商品に関して自由な意見が述べられるようにするためである。企業が悪質 40 な商品を製造、販売していれば、それをテストし、消費者に同誌を通じて公表し、 もし政府が十分な消費者保護行政をおこなっていなければそれを批判したりもす る。 CU の活動の結果、企業が Consumer Report 誌上のランキングを上げたいという ことで、自主的に商品改良を行うこともある。もし、企業が改良しないような場 合、CU は、政府に働きかけ、商品基準を引き上げるように要求するといった活動 も行っている。CU は商品テストの方法や基準を自ら設定するが、そのテスト結果 に対して企業側が不満であるような場合は、当該企業を招いて、テスト方法など を公開することもある。 商品テストの結果、商品に問題が見つかった場合、これまでは、 「Consumer Report」誌で公表するということだけ行っていたが、最近はもう一歩踏み込み、 企業にその結果を通知し、早い段階での解決を図るような努力もしている。もち ろんほとんどの企業がこれらをありがたがらないが、それを受け入れる企業もあ る。発明家がオーナーのような会社は個人攻撃のように受け取られ、難しい場合 もある。 しかし、過去数年間、多数の商品がリコールされたこともあり、企業も CU のア プローチに対して態度を変えつつある。 CU の目的は、欠陥商品を見つけクラスアクションを起こすことではなく、商品 の安全性を消費者に伝えることである。もちろん、テスト結果などがクラスアク ションに使われ、それらに巻き込まれることもあるが、できる限り、それらには 関わらないようにしている。それらに係わると、人手と時間を取られるし、クラ スアクションが本来の趣旨ではないためである。CU の方針としては、クラスアク ションより、問題のある商品を公表し、Consumer Product Safety Commission(CPSC)と連携して、商品のリコールを促した方が、クラスアクション などの訴訟を通じて問題を解決するより早いと信じている(問題が起こる前に解 決しようとする予防的発想)。 時々、州政府やクラスアクショングループからテスト結果の提出や訴訟自体に 関わってほしい旨の要求がくるが、拒否するのではなく、できるだけそれらから “遠ざかるような”努力をしている。例えば、テキサス州の AG が車の部品メーカ ーに関して訴訟を起こすというケースの場合、CU に資料提出を求めてきたが断っ た。理由としては、政治的な要素が含まれていたことや、当該商品のテストも CU 41 の基準に従って一部の機能について行ったが、その部品に関して全ての要素に対 してテストを行っていたわけではないので資料が一人歩きすることを恐れたため である。しかし、裁判所からの資料提出命令の場合はそれらには従う。別の要素 として、AG は CID やディスカバリーなどを通じて、CU のテスト結果よりさらに詳 細な情報を企業から直接取ることも可能であり、ほとんどの場合、企業も欠陥商 品への問題認識をもっているので、AG を通じて行う解決方法の方が早いというこ ともある。 これまで、直接クラスアクションに巻き込まれたことはないが、例外的なこと としてテキサス州で、クラスアクション(原告側)の弁護士に相対する形でのヒ アリングに応じたことはある。そのケースでは和解内容が CU からみてもフェアで はなく、クラス弁護士がクラスを正当に扱っていない旨の証言をした。 CU の州レベルでの活動の焦点として、Health Service や Financial Service と いったサービス分野に絞っている。そのために CU では今フロリダ州などに人を派 遣して現地調査などを行っている。 CU の President は、国際的な消費者グループである(220 団体)Consumer International の副理事を務めている。この団体にはイギリス、フランスなど主 要先進国の消費者団体が参加しており、日本の団体も加入していたと思うが、そ れほど積極的な活動はしていないようだ。 アメリカにおけるクラスアクションの現状について、2 月 19 日のプログラムデ ィレクター、チャールズ・ベル氏へのヒアリング時に同氏は以下のように述べて いる。 アメリカのクラスアクションなど制度的に非常に課題があることは認識してお り、外部から見ると非常に複雑に見えると思うが、大事なことは、さまざまな関 係者(機関)が相互に力を分差し合っているということであり、それによりチェ ック機能が働いていると考えている。 たとえば、ファイヤーストーン社のタイヤが破裂するといった案件の場合、連 邦のハイウェー安全局の動きは遅く改善されていなかったが(多分にこのような 機関は政治的な部分もあり、産業界に影響がでるような部分に関しては、なかな か進めようとしない) 、クラスアクションが起こり、さらに AG が訴訟を起こし、 やっと事態が動き出した。こういったように、潜在化した問題がある際に、複数 42 のルートがあれば、問題が放置されることを防げる。 20 年くらい前までは、今のように企業による詐欺的な不当行為が行われるのは 多くなかったが 5 年ほど前から増加している。これらを野放しにしないためにも、 誰かがいつでも不当なことをすれば告発するぞ、という体制をみせることも必要 である。もちろん産業界はこういったしくみを快く思っていない。あまりにも関 係者が多すぎるし、州単位で法律や規定も違うし、複雑すぎるとの主張をしてい る。クラスアクションに対してのさまざまな意見があることは分かっているが、 やり方によっては非常に有効な手段であると思っている。クラスアクションは、 明確に被害を明らかにし、その部分だけを対象にして訴訟を提起できる。弁護士 報酬が高すぎるという意見もあるが、被害を受けた消費者が被害額を回収できれ ば、弁護士費用の額は問題ではないと考えている。クラスアクションは、たとえ ば、企業側の弁護士と企業の間で手数料の金額などで論争を始めたような場合、 方向性がおかしくなってしまう可能性もあるが、重要なのは、裁判所がそれらも 含めてきっちり監督すれば有効に機能すると考えている。また、和解の交渉が始 まる際に、裁判所がクラスの中で誰が企業側と交渉するのか指名した方がいいの ではと考えている。 (C) 商品テストラボ ※ 各分野毎に洗練されたテスト施設所有。 ※ たとえば無音室は約 1 億円かけて整備したとのこと。 ※ また、室温や湿度を自由に変え、さまざまな環境下をテストできる Environmental Chamber や、ヘルメットの衝撃テスト、携帯電話のバッテ リー寿命テスト、洗濯機のテスト、食品テストなど、あらゆる分野のテス トを行っている。 ※ コネチカット州には広大な車用のテスト施設も所有している。 ※ これらテスト用の商品は一切、企業からの寄付を受けず、自ら購入してい るので自由な意見が述べられる。年間のサンプル購入費は数億円規模との こと。また、テスト終了後は、社員にオークションにかけられるとのこと。 ※ 働いている社員はみんな勤続年数が長く、20 年来働いている人も多いと のこと。科学者である必要は必ずしもなく、その商品が好きなマニア的な 人もいる。 ②National Consumer League 32 32 2009 年 2 月 18 日 National Consumer League からのヒアリングより 43 National Consumer League(以下、 「NCL」と呼ぶ)は、ワシントン DC に本部を 構え 1899 年から活動を行っている米国最古の消費者団体である。対象としては、 消費者分野、特に健康(Health)や食品(Food)、おもちゃ(Toy)などに焦点を 絞っている。それ以外にも労働分野、労働組合を支援したり、特に児童労働(Child Labor)には目を光らせている。 消費者の権利を守ることが目的であり、もし危険な商品などを見つけた場合は、 監督官庁や議会などに報告するとともに、それらの基準を変えさせるように働き かけを行う。その手段のひとつとしてロビー活動も行う。議員などには多数のコ ネクションを持っている。 一般的に消費者保護には民主党の方が積極的で、カーター政権では、消費者ア ドバイザーというのが White House の中にあった。共和党政権やクリントン政権 ではなくなってしまったが、今のオバマ政権で復活させたいと思っており、今さ まざまな活動を行っているところである。 NCL の個人会員数としては約 5,000~10,000 人であり、AMEX も含む企業会員数 は約 20 社。 年間の予算(歳入)は約 1,700 万ドルで約 30%が政府から、約 30%は民間企業 からの寄付、残りの 30%は個人からの寄付という内訳である。個人からの寄付の 平均額は約 1,000 ドルで個人会員の中には裕福で有名な人も含まれている。 多額の寄付を行ってくれる有力者などといかにネットワークを作るかは、やは り一筋縄ではいかず、さまざまな会合に顔を出し、地道にネットワークを作り、 NCL の活動を説明、理解してもらうことで実現している。 クラスアクションに関しては、クラスの構成員として訴訟を提起することは可 能であるが、行っていない。理由は、それらは NCL の役割ではないし、何より時 間と費用がかかり、今のところ、そこまでのリソースもない。もし十分なリソー スがあれば、訴訟を提起する可能性はある。クラスアクションを支援することは あるし、クラスの弁護士などに情報提供などを行うこともある。クラスアクショ ンは消費者保護において非常に重要な役割を果たしていると思う。また AG の役割 も重要である。 反トラスト法のケースであるが、現在進行中の案件として、小規模の Drug Store が、大手のチェーン店に対抗するために商品の価格をディスカウントして販売し 44 たいというケースがあり、反トラスト法に抵触する可能性もあり、議論となって いる。そのケースを支援し、政府に働きかけるかどうか検討中である。 45 表 4 アメリカ消費者団体概要 国名 消費者団体名 設立時期 会員数(個人) (団体) 職員数 年間予算 アメリカ 消費者同盟 ( The National League) Consumer 消費者ユニオン (Cosnumer Union) 1899 年 1936 年 5,000-10,000 人 N/A 約 20 N/A 約 10 名 約 300 名 約 1,700 万ドル 約 2 億ドル 資金源 政府(30%)、民間企業からの寄 Comuer Peport の販売からが約 付(30%)、個人会員からの寄付 75%、それ以外は、会員からの (30%) 寄付 出版物 会報 活動内容 法人格 Consumer Report 危険商品などに関して、企業に 警告したり、議会や関係官庁に 商品テストを行い、その結果を 報告、商品基準の変更などを提 公表し、消費者の利益を守る。 案 公益法人(NPO) 公益法人(NPO) 団体訴訟の有無 無 無 団体訴訟の活用状況 無 無 訴訟活動 団体訴訟権はもっていないが、 クラスアクションの原告にはなり うる。ただし、時間もコストもかか ることから現実的には行ってい ない。 基本的にクラスアクションにはか かわらない。独立性を保ち、商 品情報を消費者に伝えることに 専念 政府との関係 危険な商品などに関しては、消 費者保護関係官庁 (Consumer Product Safety Commission) な どにレポートしたり、基準変更の 提案を行ったりする。また、議会 でのロビーイング活動も行う。 危険な商品などに関しては、消 費者保護関係官庁 (Consumer Product Safety Commission) な どにレポートしたり、基準変更の 提案を行ったりする。 46
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