第 11 回 ソーシャルネットワークとゲーム産業の動向

情報産業論
情報通信技術の最新動向と情報通信産業の発達
第 11 回
ソーシャルネットワークとゲーム産業の動向
1 日本のゲーム産業の変遷
(1)家庭用ゲーム機の普及(1980 年代~)
日本のゲーム産業は任天堂が 1980 年に販売したゲ
ームウォッチに始まり、ファミリーコンピューター
(1983 年)、ゲームボーイ(1989 年)のヒットによ
る家庭用ゲーム機器(ハードウェア)の発達と、数々
のソフトウェア(ポケモン、マリオシリーズ、テトリス等)
による市場の拡大によってその成功がもたらされた。家庭
用ゲーム機器は SONY のプレイステーション(1994 年)、
Microsoft の Xbox360(2001 年)の登場によって競争を
激化させながら 1980~1990 年代にかけて市場の拡大を続
けてきた。
1987-2004 日本のゲーム市場規模推移
http://www.famitsu.com/game/news/2005/07/14/h-103_41325_mkt87-04.jpg.jpg
83
より
情報産業論
情報通信技術の最新動向と情報通信産業の発達
(2)オンラインゲームの登場と(1990 年代後半~)
1990 年代後半からインターネットの普及によってコンピュータを利用したオ
ンラインゲームが登場した。オンラインゲームは当初はフリーソフトウェアと
同様に無料でダウンロードして使われるものであったが、インターネット(ブ
ロードバンド)が急速に普及した韓国で有料化モデルが導入され市場が拡大し
た。韓国でヒットしたオンラインゲームは日本
に多く輸入され、日本国内でもヒットしている。
ガンホーオンラインエンターテイメント株式
会社が 2002 年に韓国のゲームソフト会社グラ
ビティが開発した「ラグナロクオンライン」と
いうのちに大ヒットを記録する MMORPG(多
人数参加型ネットワーク RPG)の日本国内運用
権を獲得し販売を開始するなど、日本でもオンラインゲーム市場が拡大した。
これは同時に家庭用ゲーム機器の市場衰退につながることになる。
オンラインゲームの数の推移
株式会社エンターブレイン マーケティング企画部『JOGA オンラインゲーム市場調査レポート 2013』より。
84
情報産業論
情報通信技術の最新動向と情報通信産業の発達
(3)SNS とソーシャルゲームの台頭(2000 年代後半~)
2007 年に Facebook がアプリケーションを開
発するための API「Facebook Platform」を公
開したことを受けて、それを使ったゲームが多
数輩出された。中でもジンガ(Zynga)による
『FarmVille(ファームビル)』は、8300 万人と
いう Facebook では最大規模のユーザー数を抱
え、2010 年の Social Networking Game of the
Year(インタラクティブ芸術科学アカデミー
Academy Of Interactive Arts & Sciences)にも輝いた。課金アイテムの市場も
急成長し、こうしたソーシャルゲームによって Facebook がアメリカ最大の SNS
へと発展、MySpace など他の競合サービスも追随するようになった。
一方日本では、同じく 2007 年にグリーが携帯電話向けのソーシャルゲーム「釣
り★スタ」をヒットさせ、以降日本のソーシャルゲームは携帯電話向けが主流
となった。当初はゲームとしての楽しさよりも、
友人とのコミュニケーションを主体としたゲー
ムが多かった。2009 年には DeNA が運営する携
帯電話向け SNS のモバゲータウンが提供を開始
した「怪盗ロワイヤル」が他のゲームユーザーと
の対戦という要素を取り入れてヒットし、更なる
発展の始まりとなった。ソーシャルゲームはすさまじい勢いで成長を続けたが、
その成長はスマートフォンの普及で急速に減退していくこととなる。
85
情報産業論
情報通信技術の最新動向と情報通信産業の発達
(4)スマートフォンの普及とゲーム産業(2010 年代)
日本のゲーム産業が DeNA やグリーなどの携帯電話向けアプリの開発で成長
していた 2000 年代の終わりに、Apple の iPhone が発売され、また 2008 年 7
月 10 日に iPhone 向けアプリを配信する App Store(アップストア)が、少し
遅れて同年 10 月 23 日に Android Market(現在の Google Play Store)がサー
ビスを開始した。そして、携帯電話端末からスマートフォンへの移行が進む中
で(第 8 回参照)、携帯向けソーシャルゲーム市場は衰退し、
多くのゲームアプリはパズドラに代表されるように SNS プ
ラットフォームを通すことなく App Store や Google Play
Store を介して直接スマートフォンへ配信するようになっ
た。このようなアプリをネイティブアプリというが、SNS
(ウェブブラウザ)上で動作するソーシャルゲーム(ウェ
ブアプリ)は、ネイティブアプリに対し実現できる機能で
劣るため、ここで DeNA やグリーなどはまともに競争でき
なくなり、スマホ対応も大幅に遅れをとった。
ソーシャルゲーム、ネイティブゲーム会社の営業利益 (単位:億円、通期ベース、出所:会社資料より楽天証券作成、
予想は楽天証券予想、ただし、2014 年 3 月期のグリーは 2014 年 6 月期予想、2015 年 3 月期 R 予のコロプラは 2014
年 9 月期予想)
86
情報産業論
情報通信技術の最新動向と情報通信産業の発達
2.ソーシャルネットワークとゲーム産業の動向
家庭用ゲーム機の普及から拡大した日本のゲーム産業は、インターネットの
登場によるオンラインゲームの普及、そしてソーシャルネットワークに対応し
たソーシャルゲーム(さらに携帯電話からスマートフォンへの移行)によって、
ゲーム専用のハードウェア市場は衰退する一方、ソフトウェアから、さらにオ
ンラインソフトウェアへと市場の中心が移っている。
国内家庭用ハード・ソフト(オンライン含む)/オンラインプラットフォーム市場規模推移
ファミ通ゲーム白書 2013 より
また、世界ゲームコンテンツ市場においても、2012 年の世界におけるゲーム
コンテンツ市場規模は約 5 兆 8000 億円と推定され、オンラインプラットフォー
ムの伸長により 2011 年と比較し 16.4%の増加となった。日本・北米・欧州の家
庭用パッケージソフト市場規模がいずれも昨対比マイナスとなるなか、オンラ
インプラットフォーム市場の伸びがこれを補っている状態である。
2011~2012 年
各地域のゲームコンテンツ市場規模推移
ファミ通ゲーム白書 2013 より
87
情報産業論
情報通信技術の最新動向と情報通信産業の発達
さらに、スマホゲーム市場に限ると、2015 年には市場規模が 2550 億円に成
長すると予想されている。これは 2010 年と比べると実に 30 倍である。
国内スマートフォンゲーム市場規模の現状と今後 2010 年~2015 年(単位:億円)
シード・プランニング調べ(2011 年 9 月 9 日)より
88