PDFファイル - 東京医科大学茨城医療センター

第10号
東京医科大学茨城医療センター
2014年7月発行
肝臓病教室ニュース
茨城県肝疾患診療連携拠点病院
東京医大茨城医療センター
肝臓病教室で取り上げたテーマについて、教室での内容や
質問に対する回答を掲載しています。
第10回肝臓病教室を開催しました
第10回肝臓病教室が2014年2月15日に、医療福祉センターで開催されました。
今回は、大雪という悪天候にも関わらず、43名の参加があり、たくさんの皆さんに参加して
頂き、たいへんうれしく思いました。参加者の皆様には、最後まで大変興味深く聞いていただ
けたようでした。
「ウィルスよりやっかいな脂肪肝の話~診断、治療と食事療法について」というテーマで、内
科(消化器)の吉田先生から、お話して頂きました。脂肪肝についての病態生理や診断・治療、
特にNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)について、とても細かくお話があり、大変貴重な講
演であったと思われます。
引き続き、管理栄養士の寺門さんから、ダイエットと食事療法についてお話して頂きました。
講演中には、参加された方が、自分自身のBMIや、エネルギー表を用いて必要エネルギー
を計算するなど、たいへん興味をもたれながら参加されていたように思います。
ご好評をいただいております講演後の質問コーナーでは、これまでの教室と同様に、直接
ご質問していただく方法と休憩時間に用紙に記入して頂く方法をとり、様々な質問を寄せて
頂きました。今回は、テーマに沿った質問が多く肝臓にいい食品について、アルコールとその
カロリーについて、内服薬とその副作用について等の質問が聞かれました。
検査や治療については、病態によって異なりますが、今回の教室でご理解いただけたこと
を、今後の治療や食生活の参考にしていただければと思います。
肝疾患相談支援センター担当 鈴木 満由美
次回、第11回肝臓病教室は、7月19日(土)
開催予定です。 多数の皆様の参加をお待ち
しています。
ウイルスより厄介な脂肪肝
脂肪肝というのは肝臓に脂肪が蓄積した状態を言います。脂肪肝を原因から分類すると飲酒が原因のアル
コール性脂肪肝と、飲酒が原因ではない非アルコール性脂肪肝(Non Alcoholic Fatty Liver Disease; NAFLD)
の2つがあります。今回はこのNAFLDについての話です。
厄介な点その1:脂肪肝でも肝硬変や肝細胞癌になることがある
以前は、NAFLDはB型肝炎やC型肝炎などのウイルス肝炎と違い、放置しておいても肝硬変や肝臓癌にはな
らないと考えられていました。私達もよく「あなたは脂肪肝だから大丈夫」といっていたものです。
しかし、1998年ごろから実はNAFLDのなかには80〜90%を占める単純性脂肪肝と、10〜20%を占める非ア
ルコール性脂肪性肝炎(Non Alcoholic Steato-Hepatitis; NASH)の2つがあることわかってきました。NASHは
単純性脂肪肝から様々なストレスにより発症すると考えられています。このNASHは、アルコール性肝炎やウ
イルス肝炎などと同じように進行すると肝硬変になり、肝細胞癌を発症することがあることが報告されています。
進行したNASHの患者さんが5年間に肝細胞癌を発症する率は約7〜8%と言われています。また、5年間の死
亡率は約20%で、その死因の約70%が肝不全や肝細胞癌によるものであったとの報告があります。
厄介な点その2:NASHの診断には肝生検が必要
B型肝炎やC型肝炎は血液検査でその原因がわかります。一方脂肪肝の診断は、超音波検査やCT検査な
どの画像検査で肝臓に脂肪が多く含まれることから診断されます。ASTやALTなどの血液の肝機能検査には
異常がない場合もあるので、必ずしも正常値だから大丈夫というわけでもありません。また、この画像検査で
は脂肪肝であることはわかっても、単純性脂肪肝なのかNASHなのかは区別がつけられません。NASHの診断
は肝臓の組織を採取する肝生検という侵襲的な方法が必要となります。
厄介な点その3:NAFLDは年々増加している
NAFLDはいわゆるメタボリックシンドロームと密接な関係があります。例えば、人間ドック受診者の約10~
30%、高度肥満者(BMI 30以上)の約80%、糖尿病患者の約50%、高脂血症患者の約40%に見られることが
知られています。
ウイルス肝炎は、治療の進歩がめざましく、年々患者数は減少していると考えられます。その一方で、肥満
や糖尿病の患者数が増加している現在、NASHの患者数は年々増加していると考えられています。
厄介な点その4:NASHの根本的な治療法は体重を減らすことである。
先ほどウイルス肝炎の治療の進歩はめざましいと述べました。これまでインターフェロンという注射薬に頼っ
ていたC型肝炎の治療も近いうちに内服薬のみで治癒することも夢ではなくなります。その一方でNASHの薬
物治療は肝臓病に対する薬(ウルソ®)や瀉血、糖尿病治療薬のピオグリタゾン(アクトス®)、ビタミンEが有用
であるとの報告がありますが、いずれも限定的な効果が報告されているだけであり特効薬とはいえません。唯
一の確実な治療法は体重を減らすことしかありません。
厄介な点その5:脂肪肝は一度良くなっても再発することがある。
C型肝炎はインターフェロン治療などでウイルスが血中から消失すれば、再燃することは非常に少ない事が
知られています。一方、脂肪肝は体重と関係があるため、一度減った体重が再度増えてくると脂肪肝も可逆的
に再燃してきます。つまり、減らした体重をリバウンドさせないことが治療上重要となります。
文責:東京医科大学茨城医療センター 内科(消化器)
吉田
正
「たかが脂肪肝…」と放置しないで!気楽にダイエット
脂肪肝とは、肝臓の細胞(肝細胞)に必要以上の脂肪(中性脂肪)がたまった状態のことです。脂肪肝
の原因には、肥満、アルコールの飲みすぎ、糖尿病などがあげられます。脂肪肝は、アルコールの過剰
摂取に伴うアルコール性脂肪肝と、アルコールをほとんど飲まない人に起こる非アルコール性脂肪性肝
疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)に分けられます。さらにNAFLDは予後良好な単純性脂
肪肝と肝硬変、肝癌へと進行する可能性のある非アルコール性脂肪性肝炎(nonalcoholic
steatohepatitis:NASH)とがあります。
単純性脂肪肝、NASHの改善には、食事を見直し肥満を解消すること、運動習慣を身につけることが
大切です。もちろんアルコールを飲む人は、症状によって量を調整するか、禁酒する必要があります。
今回は、肥満を解消するためにエネルギーコントロールの方法を考えていきます。
まずは、現在の自分の体重が適正か?自分は肥満か?チェックしてみましょう。
BMIを計算してみましょう!
肥満の判定基準にBMI(body mass index)があります。統計的にもっとも病気にかかりにくいBMI22を
標準としており、25以上を太りすぎ(肥満)としています。BMIを計算することで、手軽に肥満かどうかを判
定することができます。
○ BMIの求め方
○ 肥満度の判定基準(日本肥満学会)
BMI
18.5未満
18.5~25.0未満
25.0以上
判定
低体重
普通体重
肥満
○ 標準体重の求め方
標準体重(
)㎏=身長(
)m×身長(
)m×22
BMI25以上では、可能な限りこの値以下の減量を目指したいのですが、3kg程度の減量でも肝機能が
改善することが多く、減量は短期目標として3ヶ月で現体重の5%を、長期目標としてBMI25以下を設定し
て、あせらず気長に取り組むことが大切です。
*減量の目標を決めましょう!
・3ヶ月(90日間)の減量目標(5%減)
現在の体重(
)㎏×0.05=(①
)㎏
・3ヶ月(90日間)のエネルギー減目標
(①
)㎏×7000kcal=(②
)kcal
・1日あたりのエネルギー減目標
(②
)kcal÷90日=(③
)kcal/日
・食事でコントロールするエネルギーと運動による消費エネルギー
(③
)kcal→食事で(
)kcal + 運動で(
)kcal
体脂肪1㎏は、約7000kcal。つまり、1㎏体重を減らすには、トータルで約7000kcal減らす必要がありま
す。1ヶ月で1㎏づつ減量するとしたら、1ヶ月を30日として約7000kcal×1㎏÷30日=約230kcalとなりま
す。では、1日230kcalをどのように減らしますか?食事で減らす?運動で減らす?食事はそんなに食べ
ていないつもりでも、おやつにドーナツ200kcal、メールをしながらつまんだチョコレート100kcalと意外な
ところでエネルギーオーバーしていることも。食事の内容をチェックし、自分にとって「余分なもの」を見
つけ出し、230kcal分を減らしやすいところで減らすようにしていけばよいのです。例えば、お菓子でもお
かわりのでも揚げ物でもかまいません(表1)。また、運動のみでやせようとすると、体重50㎏の人で毎
日90分歩かなければなりません(表2)。実は、運動によって消費されるエネルギーは思ったほどではあ
りません。食事療法と運動療法の両者を組み合わせて行うことが効果的です。自分のライフスタイルに
合わせて計画を立て、エネルギーコントロールしていきましょう。
表1 食品のエネルギー量
(※調理方法や量によりエネルギー量は異なります)
食品名
白米ごはん
食パン
野菜コロッケ
かき揚げ
あんパン
シュガードーナツ
チョコもなかアイス
どら焼き
豆大福
ショートケーキ
スポーツドリンク
コーラ
ビール(中ジョッキ)
日本酒
目安量
重量
1膳
6切1枚
1個
1個
1個
1個
1個
1個
1個
1個
1本
1本
1杯
1合
150g
60g
77g
50g
115g
45g
150g
73g
85g
95g
500ml
500ml
500ml
180ml
エネルギー
(kcal)
252
運動時間
158
50kg
162
体
60kg
161
重
70kg
322
80kg
176
315
207
200
327
135
230
200
196
表2 体重別エネルギー消費量
歩行
速歩
自転車
軽い
ジョギング
水泳
10分
26kcal
32kcal
37kcal
42kcal
10分
35kcal
42kcal
49kcal
56kcal
10分
53kcal
63kcal
74kcal
84kcal
10分
70kcal
84kcal
98kcal
112kcal
文責:東京医科大学茨城医療センター 栄養管理課:寺門 範子
*教室で寄せられた質問*
Q1:
脂肪肝と脂肪性肝炎は、同じものですか?
A1:
同じカテゴリーに含まれますが、肝臓の細胞内に一定
以上の肪がついていれば、脂肪肝といえます。肝臓の細胞に
脂肪が溜まり、さらに何らかの原因で、炎症を伴っている場
合脂肪性肝炎と診断されます。脂肪性肝炎は進行性があり、
より深刻な状態といえます。
Q2: 昨年、健診の結果(腹部エコー)で、脂肪肝と言われました。体重は、標
準体重より1kg減です。自覚症状がある際には病院へ受診するようにと
指摘されました。症状はないので、どこで判断してよいかわかりません。
具体的にどうしたらいいですか?
A2: 通常肥満のある人が脂肪肝であることが多いのですが、特に日本人で
は見た目はやせているのに肝臓に脂肪がたまっている「かくれ脂肪肝」
の人が時にみられます。自覚症状はほとんどありませんが、一度かかり
つけの先生に相談されると良いと思います。
Q3: 年に一回健診を受け、肝機能は正常範囲ですが、脂肪肝といわれていま
す。
どうですか?
A3:
ALT・ASTが30以下なら肝障害はないと思われます。定期的な
チェックをしてもらえば良いでしょう。脂肪肝を指摘される方は多いので
すが、ほとんどの方が問題はなく、過度に心配する必要はありませんが、
生活習慣病の一部として総合的に対応する事が必要です。
Q4:
4年前に胃の手術をしています。手術後に栄養障害による脂肪肝と言われ
ました。どうしたらいいですか?NASHへの移行はありますか?
A4:
栄養が身体に上手く吸収されないことで低栄養性の脂肪肝もあります。
脂肪肝がベースにある場合、NASHに進行していく可能性はありますが
頻度的には少ないとされているので過度に心配する必要はありません
が、定期的な検査は必要となります。食べ物がうまく消化吸収されない
ことでおこる脂肪肝なので、薬(消化酵素剤で消化を助ける)や栄養剤
(補助食品-病院ではアミノ酸、脂肪酸などにして吸収されるもの)など
で改善することもあります。
第11回肝臓病教室
次回の肝臓病教室は、7月19日(土)、13時
30分より、医療福祉センター(2階)にて開催
します。事前登録の必要や、入場料は不要です。
第11回目の教室のテーマは
「C型肝炎治療はどうかわる?」
消化器内科科長/准教授
池上
正
「肝疾患相談支援センター事業を通じて」
肝疾患相談支援センター看護師
肝臓病教室は、患者さんやそ
のご家族に、肝臓病についての
理解を深めていただくことを目
的として開催しています。また、
肝臓病診療に関わるさまざまな
職種の医療者との話し合いの機
会と考えています。みなさんお
誘い合わせてご参加ください。
鈴木満由美
です。好評のQ&Aコーナーもありますので、
活発なご質問、ご討議をお待ちしています。ご
不明な点については、下記までご連絡ください。
東京医科大学茨城医療センター
総務課
担当
加藤
電話:代表(029)—887‐1161