著作権 - 日本広告写真家協会

APA
著作権
レポート
APA著作権レポートVol.5は、APAホームページ
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05
vol.
index
◆特集1 JTB、著作権法違反の疑いで家宅捜索 ·························· 1
三戸岡弁護士に一問一答 ·········································· 2
当事者に聞く ·································································· 3
三戸岡弁護士、事件を読む ······································· 4
◆特集2 トラブルを未然に防ぐケーススタディ ······················· 5
◆特集3 突然、あなたが加害者に.....···································· 10
◆特集1:JTB、著作権法違反の疑いで家宅捜索
去る2006年12月13日、警視庁生活経済課は旅行業界最大手のJTB(本社:東京)が、写真家の承諾を得る事なく無断で風景写真を
パンフレットに掲載、配布したとして著作権法違反の疑いで子会社のJTB東海(本社:愛知)を含む関係先17カ所を一斉に家宅捜索した。
調べによると、JTB東海は東京の写真家が経営するフォトエージェンシーとの契約が切れた後も承諾を得ないで十和田湖(青森・秋田両県)
や陸中海岸(岩手・宮城両県)などの風景写真数点を旅行パンフレットに掲載し、 同年7月20日に客らに配った。JTBは旅行のパンフレット
に掲載している数点の風景写真について、 写真家に 使用料などの適正な対価を払わないで、 著作権を侵害した疑いが持たれている。
新聞報道等で既にご存知の読者が多いと思うが、この事件は我々写真家にとってどのような意味を持つのか?また、このような事態
を回避するために写真家に求められるのは何なのかについて、事件の詳細を分析し、当事者からの詳細な情報も交えて考察したい。
まず、事実関係を再確認しておこう。
権法119条によれば個人は5年以下の懲役または罰金500万円、また、
今回の被害者である写真家の小沢誠氏は東京でフォトエージェン
同124条により法人の罰金は1億5千万円以下と定められている。
シー「株式会社アイ・フォトス」を経営、自ら撮影した写真を同エージェ
同氏は被害届や告発状を提出しなかったものの、警視庁は相談を受け
ンシーから旅行業界を中心に広く流通させている。
て捜査を開始。ついに同年12月の大規模な家宅捜索に至る。
今回捜索を受けたJTBとは関連会社を通じて数十年の取引関係にあ
その後JTB側からの謝罪や補償に関する動きはなく、被害に対する現
り、数多くの作品を提供してきた長年の顧客である。
状復帰もままならない状態である。
今回の事件の発端は、2005年7月にアイ・フォトス側が旅行パンフ
現在も警察による捜査は続いており、予断を許さない状況ではある
レットのインターネット転載について、当初の契約に基づいていない
が、この事件が我々広告写真家にとって著作権を再び考える大きなきっ
無断使用である旨の抗議を行った事から始まる。
かけとなる事は論を待たない。
取引開始当時から写真の使用許諾についての規約書を提示しており、
まず第一に長年の取引がある顧客とのトラブルである事。波風を立
毎回の伝票にも使用期間や用途(パンフレットへの使用)が明示されて
てて取引停止に追い込まれるくらいなら少々の事には目をつぶる方が
いるにも関わらず、その内容を逸脱して無断でインターネット広告に
得策であるという考えにも頷ける。また、法律知識に乏しく、多忙な中
流用をした事に対する抗議であり、その趣旨は全く妥当なものである。
で訴訟に至りかねない案件は手に余るという現実もある。
これに対するJTB側の最初の対応は「事実関係を確認する」というも
しかし、筆者は我々広告写真家にとって生活の糧であり、生きる証で
ので、後に同社の弁護士が無断使用を認めたものの、それに対する補償
もある著作権を守るための小沢氏の英断には敬意を払わずにはいられ
等の提示も無いままであったという。
ない。
この時点ではまだ同社との取引関係は継続していたが、取引停止を
我々は写真を撮影するという労働の対価として顧客から撮影料を受
匂わせる発言を受けるなどの圧力を感じたために小沢氏は決断を下す
け取っているのだろうか?あるいは写真の原板ないしデータを物件と
事になる。
して売り渡しているのだろうか?筆者は断じて違うと考える。我々は
その後約半年をかけて調査を行ったところ、新聞広告等を含む無断
依頼を受けて創作した作品の著作権を提供する対価を受け取っている
の流用が次々発覚。抗議を繰り返したが、関連会社との関係で同社イン
のである。
ターネットサイトの管理責任が曖昧となっており、また旅行広告の使
写真家にとってその創作物は我が身の分身である。そしてその著作
用期間が3 ヶ月と短い事もあり調査中にサイト上から削除されるなど
権は何らの手続きを経る事なく我々の手にある。他人事ではない。
して「いたちごっこ」の状態が続いた。
いまや企業はコンプライアンスの確立に向けて邁進している。以前
この間の経営者として難しい舵取りを余儀なくされた小沢氏の心中
は想像もできなかったような技術の進歩が新たな法的問題を惹起して
は慮りかねるものがある。
いる。顧客との良好な関係を維持し、今後の発展につなげるためにもこ
そして小沢氏の二回目の決断である。同氏は弁護士に相談、その結果
の問題を素通りする事は許されない。
「法的に良好な関係」こそが顧客
2006年7月に警視庁生活経済課に相談する事となる。
と長く継続可能な関係になろうとしている。
ご存知の諸賢もあると思うが、著作権法違反は刑事犯罪である。著作
取材:知的所有権事業部副部長 岡野 一之
0 一 問 APA著作権相談室担当
一 答
Q1
弁護士 三戸岡耕二弁護士に一問一答
ません。しかし、広告写真の著作権侵害事件においてその損害額を明確
今回、著作権法違反事件としては異例の家宅捜索となりました。解
説してください。
に主張立証することは、弁護士にとっても容易なことではありません。
結論を言えば、警察が本件事件の広告依頼主であるJTBが日本を代
広告写真家本人が訴訟を行うことは極めて困難なことと思われます。
表する企業であり、その企業が広告写真の著作権に対する対応措置が
あまりにも杜撰であり、このまま放置することは社会的悪影響が大き
キーワード ⑥ 弁護士との連携
く許されないと判断したからです。
本件JTB事件においても警察に相談に行く際に弁護士が同伴したそう
で、これが捜査開始に功を奏したようです。弁護士が同伴することに
よって警察は真剣に取り扱うことになる反面、警察が不当介入になる
キーワード ① 刑事犯罪
広告写真家の撮影した広告写真に関する権利を守る根拠となる法律は
ことを回避しやすくなると思われるので、望ましいことと思われます。
著作権法という法律です。同法は、著作権がどのように発生し、どのよ
Q3
うな具体的権利を有し、誰に帰属するかを定めることによって、著作権
を定義するもので、通常民事法として適用されます。しかし一方同法は
法119条に罰則規定が設けられており、刑事法としての面も有します。
この場合、個別の契約書がありませんが、これは捜査に影響します
か?
本件においては、JTBとの取引が既に30年間に亘り行われていたと
のことであり、広告写真家とJTBとの間に広告写真の著作権についてい
かなる取り決めが具体的になされていたかを明確に知るために、また
キーワード ② 刑事訴訟の手続き
刑事訴訟とは、刑事裁判のことを言います。この刑事裁判以前に、警察
JTBの著作権に対する認識の程度を確認するためにも契約書があるこ
の捜査、送検、検察官の起訴の手続きがなされます。刑事訴訟は検察官
とが捜査をするうえで、より有効なものであったろうと思いますが、刑
が捜査により収集した証拠をもって広告依頼主の著作権侵害の事実を
事犯としての著作権侵害罪の成否を考慮するにあたっては、JTBが広告
充分に立証し、裁判官が犯人による著作権侵害の事実が存在すること
写真家に無断で広告写真をJTBの宣伝用パンフレットに掲載して配布
に確信ができた時に、有罪判決を下して結着を図ることになります。
し続けたという事実行為そのものが、より重要な点であり、個別の契約
書は捜査段階では民事訴訟に比較して影響は少ないと思います。
キーワード ③ 被害届
著作権侵害罪は同法123条により「親告罪」とされております。従って、
キーワード ⑦ 契約の原則
著作権侵害罪が有効に成立するためには、被害者による告訴が必要と
契約とはまさに約束です。法律は個々人の自由意思を最大限に尊重し、
なります。警察は捜査の開始にあたり被害者である広告写真家から告
契約は個々人の自由意思の合致があったときに有効に成立と規定して
訴状及び被害届を提出させることになります。
います。契約書は後刻この自由意思の合致があったことを証明する書
Q2
面に過ぎません。契約書は契約成立の要件ではないことを承知してお
いてください。
警察に相談することのメリットは?また注意点は?
本件JTB事件のごとく異例ではあっても警察が捜査を開始し、家宅捜
Q4
索に踏み切るときは、その社会的反響の大きさは計り知れず、著作権に
対する認識を高揚させることに大いに貢献するものとなることがあり
相手から取引停止を示唆されています。法的な問題は?
JTBが広告写真家に対し直接明確に取引停止を申し入れた場合は、
ます。しかし、注意点としては、一広告写真家が広告写真の相手方の著
下請法が規制する親会社の行為として禁止されている行為に該当する
作権違反について警察に相談に行っても、警察が刑事事件として取り
余地があると思います。
扱い捜査を開始することは、先ずありません。さらに警察に執拗に訴え
Q5
出ることは警察の不当介入を呼び込む恐れもあり、後刻の民事訴訟に
よる民事紛争解決に悪影響を及ぼす恐れもあり、注意を要します。
民事の訴訟が提起されていませんが、なぜですか?
当事者から直接理由を聞いていないので、本当の理由は分かりませ
ん。原告代理人としては、今後刑事訴訟となった時点でJTB側から強い
示談の要請がある事をチャンスとして待っているのかもしれません。
キーワード ④ 著作権に対する認識の高まり
現在社会は、日本を含め世界的に高度情報化社会になりつつあります。
この情報の根源であるのが著作権であると思います。従って現在社会
キーワード ⑧ 民事訴訟
はあらゆる場面で著作権が関わってきます。これに伴って国民の間で
刑事訴訟が犯罪事実を確認して厳正な刑事処罰を下すことにあるのに
も著作権の認識が高まってきております。今般警察が刑事事件として
対し、民事訴訟の目的は公平を旨として当事者の紛争を解決すること
取り上げJTBの家宅捜査に踏み切ったのは、このような著作権の認識の
を目的としています。通常広告写真家が被った損害をJTBが賠償するこ
高まりがあったのも背景になっているといえます。今後この著作権の
とによって解決が図られます。広告写真家の損害賠償請求権の法律上
認識が益々高まるときは、警察も著作権を厳格に守らせるため比較的
の根拠は、JTBの故意または過失により広告写真の著作権を侵害したこ
容易に刑事事件として扱うようになるかもしれません。
とを理由とする不法行為責任によるか、契約に違反してJTBが誠実に約
束を守らなかったことを理由に債務不履行責任によるかということに
なります。いずれもJTBが損害を賠償しなければならなくなることは同
キーワード ⑤ 民事訴訟に伴う原告の負担
民事訴訟の手続きは民事訴訟法で定められたルールに則って進められ
様です。
ます。本件の民事訴訟では、被害者である広告写真家が原告となって、
損害を被った理由を主張し明確な損害を主張し、立証しなければなり
0 Q6
Q7
今後の展開は?
警察が捜査により収集した証拠によって著作権の侵害事実が確実に
弁護士の先生に相談するのは、どのタイミングが良いでしょうか?
相談は早ければ早いほど良いと思います。できれば取引開始にあた
立証できると確信し、JTBを処罰する必要があると考えるときは送検し
り契約を締結するときに、契約書の作成を検討させるか、契約に立ち会
ます。これを受けた検察官が同様に立証に確信を持ち処罰の必要があ
わせることが紛争の予防という観点から望ましいと思えます。
ると考えるときは、起訴し刑事裁判を行うことになります。裁判官が裁
判によりJTBの著作権侵害事実の存在を確認したときは、有罪判決を下
キーワード ⑪ 時効
し刑事手続きが終了することになります。
債務不履行責任は商事時効として5年、不法行為責任は3年請求せず
に放置すると、債権が消滅することになります。
キーワード ⑨ 送検
ありがとうございました。
警察が収集した証拠によりJTBの犯罪事実が立証できると確信したと
きに、検察官に起訴させるために捜査記録を検察官に送致することに
なります。これを略して送検といいます。
キーワード ⑩ 起訴
送検を受けた検察官が事件を刑事裁判にかけるため裁判所に申し立て
ることです。起訴するか否かは検察官の専権に帰属されており、検察官
だけがこの判断をできることになっております。
当事者に聞く
Q: 具体的には?
口頭で取引停止について言われました。これも弁護士に相談する
(株)アイ・フォトス 企画営業部 部長 平林徳房氏
Q: まず、御社の業務形態についてお聞かせください。
きっかけのひとつです。
Q: 弁護士と協議の後、警視庁に相談されましたが、警視庁の対応
はい、弊社は写真家の小沢誠が代表となってフォトエージェン
はいかがでしたか?
シーを営んでおります。
所蔵する写真はほとんどが小沢の作品で、
調査資料を持参して弁護士の先生と警視庁に出向き、相談という
旅行業界をメインクライアントとして営業しております。
形で事情を説明しました。その時点で調書を作成してもらい、現
在に至っています。
Q: JTBとはどのくらいの取引があったのでしょうか?
JTB様とは30年近い取引をさせていただいております。
Q: 現在までの取引で、著作権に関する契約書は交わしていまし
Q: 優良顧客ですね。そのJTBに対して今回の家宅捜索となりま
いいえ、個別の案件については書面を交わしておりませんでした。
たか?
したが?
しかし取引開始の際には規約書を提示していますし、伝票等には
弊社としては、最初に抗議を行うところが大きな決断でした。社
それぞれの使用目的や使用期間が記載されています。
長である小沢の英断だと思います。次が弁護士の先生にご相談を
する時点ですね。その結果警視庁に相談するという結論になり、
Q: 家宅捜索後、JTB側からのアクションは?
今回の家宅捜索に結びついた訳です。
いいえ、ありません。
Q: 最初の抗議の内容は?
Q: 今後の見通しはいかがお考えですか?
パンフレット用に使用を許諾した作品が無断でインターネットに
現時点では警察の捜査を見守る他ない状況です。警察にお願いし
掲載されていた事についての抗議でした。
たことですから、捜査のお邪魔をするのは警察の方々への信義に
反すると思いますし、弊社としても事件化するリスクを負った以
Q: その際のJTB側の対応はいかがでしたか?
早い段階からJTB側の弁護士が対応に出てきましたが、関連会社
上、結果を出していただきたいと考えております。民事上の対策
も含めて今後のことについては捜査の結果を待つ事になります。
の責任の所在が曖昧で誠意に欠ける対応でしたので、辛抱強い交
渉が必要でした。また、取引が継続していましたが営業サイドと
Q: 今回の事件についての感想をお聞かせください。
しては有形無形のプレッシャーを感じたのも事実です。
今回は一社のみの事件ですが、これは氷山の一角だと思います。
これをきっかけとして業界の環境が良くなればと思います。
0 三戸岡弁護士、JTB事件を読む
三戸岡耕二略歴
昭和19年生まれ。中央大学法学部卒業。日
弁連業務対策委員会副委員長、第一東京弁護
士会仲裁運営委員会副委員長、日弁連法律相
談事業委員会副委員長、東京家庭裁判所参調
会副会長、日本調停委員連合会副委員長、法
制審議会幹事などを歴任。現在、三戸岡法律
事務所主宰、経済問題を主に手がけ知的財産
権(特許)問題の経験も豊富。APA知的所有
権部著作権相談室担当弁護士としても活躍。
(法律の概要)
民事的な問題としては、著作権を侵害されたことに対し、完全に
広告写真家が撮影した広告写真に関する権利について、法律では、
損害を回復するためには、民事訴訟裁判において、相手方に対す
どのように保護されているか。
る、損害賠償を認める確定判決を得なければならない。民事訴訟
裁判をするためには、相当な費用と日時が必要となる。また、民
(著作権法の説明)
事訴訟裁判においては、当方が、被った損害額を確定し、その主
広告写真家が、撮影した広告写真に関する権利は、おおよそ今か
張立証をする責任を負担することになり、極めて困難な作業を強
ら、100年前の明治時代に、制定された著作権法(旧著作権法)に
いられることになる。その上、概して、広告写真家の著作権侵害
よって、保護されている。著作権法では、著作物をその目的に従っ
に関する損害が、裁判所において、高額な損害が認定されること
て利用する権利を、著作権と認め、創作者である広告写真家の権
はなく、裁判に要する費用と時間に照らすと、採算が合わないこ
利として保護することにしている。
とが通常である。
そもそも、わが国の法律は、大きく分けて、刑事法と民事法に分
けられる。刑事法は、国家と国民との関係を規律するための法律
(具体的な対策)
であり、民事法は、国民相互間の利害関係を規制するための法律
これらの現実の問題に対し、広告写真家はどのような具体策を講
である。
じたらよいか。
刑事法では、著作権を守るために国民に対し、予め禁止事項を定
刑事的な問題に関しては、警察や国家が侵害者に対し、刑事罰を
めておき、これに違反したものに対し、刑事罰を課するという方
課すかどうかは、
「起訴独占主義の原則」といって、国家として刑
法によって著作権の保護を図ろうとし、民事法は、著作権を侵害
事罰を課するか否かは検察官の専権に属することとして、その判
したものに対し、公平な裁判の結果を経て、侵害を加え損害を与
断は検察官のみに許されることとして被害者の請求に左右されな
えた者に対し、その損害を賠償させることとして、著作権の保護
いことになっており、刑事事件として、処理されるか否かについ
を図ろうとしている。
て、被害者である広告写真家に関与する余地はない。
前記著作権法は、この刑事法と民事法の両側面を持つ法律である。
従って、被害者である広告写真家としては、民事事件として損害
を回復する以外にない。
(現実の問題)
民事事件として解決しようとする場合に、先に指摘した民事的な
以上に、述べたとおり、広告写真家の著作権は、著作権法により
問題を回避するための具体的な、方策としては、発注者との間に
刑事的、また民事的に保護されている。
明確な契約書を締結する必要があり、その、契約書には、相手方
しかし、現実の問題としては、多くの困難な問題がある。
が契約条項に違反した場合の特約として、予め、定めた違約金の
刑事的な問題としては、警察は、常に、民事事件の当事者から中
支払を明記しておくことである。この特約条項により、当方の損
立であろうとするために(警察の民事不介入の原則)を理由とし
害額の確定に関する主張立証責任の困難な負担を回避できるから
て、民事事件に関与することについて、極めて慎重な態度をとる。
であり、相手方も、予め契約違反に対する違約金の負担が予測す
今回のJTBの事件においても、警察がこれを刑事事件としてJTB
る事ができ、契約を遵守することになり、契約違反の予防ができ
に対し、捜索を開始したことは、極めて異例なことであって、通
ると考える。
常は、容易に行われることではない。
ご存知ですか?
最近は「著作権法違反」という言葉を耳
円以下の罰金、法人の場合には1億5千万
ませんね)
にする事が多くなってきましたが、この
円以下の罰金が科せられる事となってい
我々写真家自身も含め、クライアントや
著作権法違反が実は詐欺や窃盗と同じ刑
ます。
広告主にまで大きな迷惑のかかる問題で
事犯罪である事をご存知ですか?
しかもこのほかに民事でも巨額の損害賠
す。
著作権法では、この法律に違反した場合
償を迫られる事となります。
(アメリカ
既に音楽の業界では複数の逮捕者も出て
に個人では5年以下の懲役または500万
等で訴訟となった場合、想像に難くあり
います。他山の石とすべき問題です。
0 ◆特集2:トラブルを未然に防ぐケーススタディ
APA知的所有権事業部が行っている著作権相談室でもっとも
多い相談は、やはり写真の不正流用に関するものです。
「パンフレット用に撮影した写真がポスターに流用された」
「(紙
媒体の)カタログ用の写真がウエブサイトに掲載されている」な
ど、当初の約束と違う目的に使用されるケースと、
「××年度カタ
ログのイメージカットが翌年も流用されている」などの使用期間
を超えているケースとに分かれます。
いずれの場合も、著作権を侵害する行為とされています。
これらのトラブルを未然に防ぐには「事前の約束をきちんと取
り決めておく」事に尽きます。
では、どのようにすれば良いのか?前述した二つのケースにつ
いてご説明します。いずれの場合も撮影に着手する前、または写
真を納品する前に文書による契約または同意を得る事がもっとも
簡単な方法です。
次ページにAPAが推奨する一般的な撮影業務に関する業務委
託契約書のひな形を掲載してあります。このひな形をもとに各ク
この場合に必要な項目としては
ライアントと協議をして、内容を詰める事で、大部分のトラブル
1:撮影テーマ
を防ぐ事が可能になります。
(例:●●社2008年ポスター撮影/××誌
5月号広告用撮影)
(例:新聞広告/カタログ/ポスター)
(例:初回使用日から6 ヶ月間)
(例:国内/海外)
(例:1年間/保存不要)
確認する必要のある事柄です。定型化された文書をそのまま流用
2:使 用 媒 体
3:使 用 期 間
4:使 用 地 域
5:データ保存期間
6:撮 影 日
7:納 品 日
8:支払予定日
する事は当事者双方にとって不都合が発生しやすくなる事にもつ
などが挙げられます。このうち7と8は必須ではありませんが、著
ながりますし、各クライアントの事情にそぐわない部分も出て来
作権以外の取引に関わるトラブルを未然に防ぐには非常に有効で
るでしょう。
す。
ここでもっとも重要なのは「契約の内容について当事者双方の
合意を得る」ことです。写真の使用期間や予定される媒体、さら
に国内のみの使用なのか海外でも使用されるのか等の条件は毎回
また、過去の取引の関係上新規に契約書を作成するのは難しい
場合には右のサンプルのように請求書または納品書にその写真の
内容について明示する欄をもうける事も効果的です。納品書の場
合には写真の引き渡し時点で先方のサインを受けるようにしま
しょう。
納品用のメディアに写真の要領で一文添えるだけでも、コミュニ
ケーションのきっかけが作れます。
ご存知ですか?
「著作物の二次使用」という言葉の定義に
真家に対してこの写真の使用許諾を得る
ります。
ついてご説明します。
契約をする場合には「二次使用」にはな
いずれの場合も撮影した写真家の許諾が
写真家がクライアントA社の依頼で撮影、
りません。例えばB社がA社に対して使用
必要なのは同じですし、許諾契約は写真
公開された写真を見た第三者のB社が写
の許諾を求めた場合が「二次使用」とな
家とB社の間で結ぶものです。
0 業務委託基本契約書の解説
契約書作成の目的
一般的に、契約書は取引を行おうとする者同士の合意事項を文書にするもので、それが取引条件の確認のためであると同時に、将来の
紛争を予防するという目的もあります、さらには残念ながら紛争が発生した場合には紛争解決の基準ともなります。
解説
契約書の表題
クライアントから写真家の方に制作を依頼するための契約書を交
わすとしており、文中でのお互いの名称を繰り返すのが大変なこ
とから、クライアントを「甲」、写真家の方たちを「乙」と言い換
えています。これが一般的です。
ἧỻὼἲᴾ ᾐ
ᬺോᆔ⸤ၮᧄᄾ⚂ᦠ䎃
٤٤٤㧔એਅ‫ޔ‬
‫ޕ߁޿ߣޠ↲ޟ‬
㧕ߣ٤٤٤㧔એਅ‫ޔ‬
‫ޟ‬ਸ‫ޕ߁޿ߣޠ‬
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ߔࠆ‫ޕ‬
第1条(目的)
契約で交わした取引については、お互い誠意をもって行なうこと
を定めており、法律的には「信義誠実の原則」といいます。
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ᧄᄾ⚂ߪ↲߇ਸߦኻߒᆔ⸤ߔࠆᬺോ㧔એਅ‫ᧄޟޔ‬ᬺോ‫ޕ߁޿ߣޠ‬㧕ߩขᒁߦ㑐ߒ‫↲ޔ‬෸߮ਸ߇ା⟵ߦೣ
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1
業務委託基本契約書はAPAのホームページからダウンロードが可能になる予定です。
第2条(定義)
この契約では、何の制作業務を行うかを具体的に記載しています。
この中に当てはまらない業務の委託を受ける可能性がある場合に
は、
(6)の後に追加で記載します。
その場合は、現(7)は(8)になります。
第3条(本契約と個別契約との関係)
「基本契約」とは、
特定のクライアントと繰り返して取引を行う場合、取引が発生
するたびに契約書を取り交わしていたのでは、面倒であること
から、あらかじめ基本的な事項を定めた契約を交わしておき、
個々に取引が発生したときは見積書や注文書などで簡単にすま
せるのが一般的です。
この、あらかじめ交わしておく契約書のことを「基本契約」と
いい、本契約が基本契約となります。
「個別契約」とは、
個々に発生したときに交わす書面のことで、見積書や注文書、
依頼書が一般的で、金額、数量、使用目的、使用期間、納品日、
金額の支払方法等なとが記載されています。
1.基本契約の期間内であれば、基本契約と個別契約の内容がと
もに適用されます。
2.但し、基本契約と個別契約との間で内容が違っていた場合は、
個別契約の内容を優先させます。
第4条(個別契約の成立)
1.この契約では、クライアントが写真家の方に交付する取引の
内容や完成品の納入場所や金額等を記入した依頼書のことを
個別契約と定めており、その取引を受けるかどうかの返事は、
文書、口頭どちらでもよいとしています。
2.そして、写真家の方が、
「受ける」と返事をしたときに、個別
契約が成立するとしています。
3.個別契約に定めた条件での制作ができない可能性が生じた場
合は、お互いの話し合いで条件を変更できるとしています。
第5条(業務委託料)
1.制作の報酬のことを「業務委託料」といい、金額、支払方法、
期日は個別契約で定めるとしています。
2.写真家の方がクライアントから業務委託料を受取るには、制
作の完成品をクライアントに納品し、合格通知 を受けた後に
クライアントに請求書を送付します。
0 6
クライアントは個別契約に定めた支払期日までに、写真家の
方に業務委託料を支払わなければなりません。
また、振込手数料等はクライアントの負担としています。
3.クライアントが業務委託料の支払を遅延した場合は、遅延し
た日数分について、年利10%の利息を支払わなければならな
いと定めています。なお、遅延利息の年10%は平均的な水準
です。
【計算例】
業務委託料 ¥300,000− 遅延日数30日と仮定した場合
¥300,000×30/365×0.10%=¥2,465
この場合の遅延利息は¥2,465となります。
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第6条(作業推進体制)
1.委託する側のクライアントと制作の依頼を受けた写真家の方
お互いが、制作業務を円滑に行うための体制や推進担当者を
決めて、それぞれ相手方に通知するように定めています。
2.また、制作に関する諸連絡や変更、指示等を正しく行うため
に、お互いの連絡は推進担当者を通じて行なうことを規定し
ています。
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第7条(支給物、貸与物)
1.制作業務を行うためにクライアントから支給あるいは貸し出
された図面等の取扱いは注意を持って管理するとともに、そ
れらを制作目的以外に使用することが禁じられています。
2.契約が終了した場合や解除となった時の、支給あるいは貸与
された図面等の取扱い(返却あるいは廃棄等)は、クライア
ントの指示に従うように定められています、
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第8条(事故等の発生)
制作を継続することに支障が生じるおそれがある事故が発生した
場合は、事故の原因や責任がだれであろうと(自身に責任がなく
とも)、直ちにクライアントに連絡し、今後について話し合いをす
ることとしています。
2
第9条(機密保持)
1.制作業務においては、クライアントの商品情報、企画書、担
当者の個人情報等数多くの機密情報を取得しますが、これら
の機密情報はクライアントからの書面による事前承認を得な
いで、第三者に話したり提供してはいけません。
2.さらに、機密情報の管理は厳重に行うよう規定しています。
3.また、これらの機密情報は、制作業務を行う上での必要の範
囲内でのみにしか使用できません。
コピ−や修正する際には、クライアントの書面による事前承
認が必要であるとされています。
第10条(納入及び検収)
1.完成品である成果物のクライアントへの納入は、個別契約の
条件に従うように規定しています。
2.成果物を納品されたクライアントは、納品を受けた日から7
日後までに検査を行い、検査結果を写真家の方に通知するよ
うに義務づけています。
3.その受入検査において、制作者の責任による不具合やきずや
欠陥が発見された場合、クライアントは制作者に対して、制
作者の責任と費用負担にて修復するように要請することがで
き、修復後の成果物についても再度検査を行うことを規定し
ています。
4.成果物の納品完了は、クライアントからの受入検査の合格通
知によるものとしているが、納品後7日までになんの連絡も
ない場合は、完了・合格したとみなす旨を規定しています。
0 7
第11条(不採用になった成果物)
1.クライアントの都合で、納品された成果物が不採用となった
場合は、クライアントは写真家の方にそのことを連絡すると
ともに、約束どおりの業務委託料を支払うように定めていま
す。
2.一旦は不採用となった成果物が、復活採用となった場合は、
クライアントは写真家の方にそのことを連絡するとともに、
業務委託料の支払い等は、契約に従うようにと定めています。
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第12条(危険負担)
成果物の管理責任は、納品前は制作者である写真家の方に、納品
後はクライアント側と定め、それぞれの責任と費用で管理するこ
とを規定しています。
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第13条(権利の保証)
制作業務を行うにあたっては、他者の盗用や、ソフトの不正ダウ
ンロードを行わない、使用しない等の知的財産権を侵害しないと
宣言しています。
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第14条(構成物の権利)
モデルや小道具、ロケ地等の写真被写体、制作業務上必要なソフ
トウェアや映像、音楽等の利用の許可はクライアント側の責任と
費用で、権利の所有者から使用同意・許諾を受けることを規定し
ています。
また、制作を行うえで上記の権利を使用することがわかっている
場合は、事前にクライアントと相談し、その使用同意・許諾を取
得する業務を代行することができるとも規定しています。
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第15条(成果物の権利の帰属)
制作した成果物の著作権は制作者である写真家の方に帰属すると
していますが、個別契約で著作権の帰属について定めた場合は、
それに従うものと規定しています。
3
第16条(再委託)
委託された制作業務を第三者へ再委託する場合は、クライアント
の事前承諾が必要と規定しており、承認を得て再委託する場合は、
その再委託先に対し、本基本契約と個別契約に定められた事項を
守らせる義務が、写真家の方にあると規定しています。
第17条(損害賠償)
契約に定められた事項を行うまたは契約の解除等に関し、相手方
に損害が発生した場合は、その相手方に対し直接的に被った損害
や、現実的な損害についての賠償責任がある規定しています。
0 8
第18条(権利義務の譲渡等の禁止)
相手方からの書面による事前の承諾がない限り、契約から生ずる
権利や義務や契約上の地位を、他の者に譲ったり、貸し出したり、
担保提供してはならないと規定しています。
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第19条(解除)
契約の相手方が、
(1)から(8)のような事態となった場合には、
その相手方の同意を得ることなく一方的に契約を解除することが
でき、もし、既に成果物を納品し、一方で業務委託料の支払い期
日がまだ到来していない場合であれば、クライアントに対し直ち
に支払うよう要請ができます。これが期限の利益の喪失にあたり
ます。
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2.契約の解除時点において、成果物が制作途上の場合は、業務
委託料の金額や、著作権の帰属については、
お互いの話し合いで決定すると規定しています。
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第20条(契約の変更)
本契約および個別契約は双方の書面による合意がなければ変更で
きないとし、一方の当事者だけで勝手に変更することができない
ように規定しています。
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第21条(存続条項)
契約が終了しても、クライアントや写真家の方には、委託料の支
払い手続きや、貸与物の返還手続き、機密情報の秘密保持義務等
一定の権利義務が残る場合があることから、それらに関係する条
項は契約終了後も有効に存続している旨を規定しています。
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第22条(契約期間)
契約期間満了の2ヵ月前に、クライアント・写真家の方いずれか
から書面による契約終了の意思表示がない限り、契約は1年間自
動更新されるとし、以降も同様と定めています。
4
ἧỻὼἲᴾ ᾐ
第23条(準拠法、合意管轄)
1.本契約は日本の法律を適用すると規定しています。
2.訴訟が生じた場合の管轄裁判所を定めていますが、契約の一
方の当事者が遠方の場合は、管轄裁判所をどこにするかは双
方で事前に協議しておきましょう。
通常は、自らの居住地に近い地方裁判所を指定します。
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第24条(協議)
この条文も「信義誠実の原則」条項で、契約に定めのない事項や
疑問が生じた場合はお互いの話し合いで解決するとしています。
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200■年■月■日
甲:クライアント
住 所
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氏 名
ਸ 㧦 ౮⌀ኅ
(法人の場合は会社名および代表者名)
乙:写真家
住 所
氏 名
(法人の場合は会社名および代表者名)
5
0 9
◆突然、あなたが加害者に.....
ある日、事務所に内容証明郵便が届く。そこには過去に撮影した写真が先方の翻案権を侵害しているとの抗議が.....そして法的措置を
講ずるとの警告が......こんな事態が起きる日がこないと断言できる写真家はいないでしょう。ここまでは、我々が持つ権利について述べ
てきましたが、知らず知らずのうちに他者の権利を侵害してしまい加害者になる事がある事を忘れることはできません。昨今の状況を見
ると、ほんの不注意で他者の権利を侵害して多額の損害賠償を求められることも他人事とは言えなくなっています。これは被害者はもと
より、クライアントや広告主にも大きな迷惑をかける事になります。
広告写真家たるもの、写真には多くの権利が内在している事は十分ご承知とは思いますが、今一度それらの権利について確認をしてお
きましょう。
翻案権侵害の可能性がある写真
オリジナル写真
Ⓒ otium / amana images
▶「パクリ」と呼ばれないために
案権の侵害」に当たる行為です。いわゆる「パクリ」
ということです。
撮影前の打合せ。いつものようにカンプを受け取り、その撮影
内容について綿密に相談して撮影に臨む。まったく普段通りの仕
これを未然に防ぐには、既存の写真をカンプに使用する行為そ
事の流れです。しかし、ちょっと待ってください。そのカンプに
のものが注意の必要な行為である事を広告制作の現場が知ってい
使われている写真、いったい誰が撮影したんでしょうか?
る事が必須条件となります。
「フリー素材から引用したから大丈
夫」本当ですか?翻案権や著作人格権についても本当にフリーで
最近の広告制作では、
「カンプ」に実際の写真を使用するケース
しょうか?
がほとんどです。もちろんその写真は実際の広告物として社会に
もっとも確実な方法はカンプ用の写真を我々自身が撮影すると
出る事はないでしょう。しかし、見本として使用されている写真
いう方法です。ご自分の作品ですから、存分に翻案できます。し
にも「著作隣接権」が存在します。これは写真家に限らず、広告制
かし昨今、デジタル化の恩恵を受けて広告制作の時間短縮は目覚
作に関わるすべての関係者にとって、もっとも身近であり、もっ
ましいものがあります。同時にデジタル化によって実際に写真を
とも忘れがちな事実です。
使用したカンプの使用も一般的になっています。
実際に、撮影打合せの席で提示されたカンプの写真がその写真
短時間で多数のアイディアを求められる広告制作者(我々写真
家自身の作品で、デザイナーはそれを知らなかった!などという
家も含まれます)にとってはまさに禁断の果実ですが、その果実
笑えない現象も起きています。自分の作品が第三者によって無断
を口にする前に十分な検討と注意が必要である事を銘じるべきで
で流用されるという事実。そしてあなた自身が知らず知らずのう
しょう。
ちに誰かの作品を「パクってしまう」という危険。見て見ぬ振り
の出来ない時代になっています。
過去にはAPAの正会員が撮影した作品をもとに第三者が無断
で翻案した写真を流通させたとして訴訟が起き、正会員が勝訴す
「クライアントのOKが出ているから、カンプの通りに撮影して
るという事件(「スイカ事件」として知られています)も発生して
ください」という注文は、ごく一般的に聞く事です。ここで注意
います。これが広告本体の写真で起こった場合、その影響は写真
を怠ると大変な事態につながりかねません。
家のみならず、制作会社、広告代理店、さらには広告主にも多大
な迷惑を及ぼす事になります。クライアントのイメージ向上を狙
カンプに使用されている写真をそのまま使用する訳ではありま
う広告を制作したつもりが企業のイメージを損ねてしまう。これ
せんから、その写真の著作権を直接侵害してはいません。しかし、
はまさに最悪の事態です。また、職業写真家としてもっとも恥ず
そのままのアングルや背景、画面構成などを再現した場合には元
べき行為である事は論を待たないところです。
の写真を「翻案」したことになります。これは著作権法で定める「翻
1 0
不正競争防止法
被写体の権利について知る
この法律はなかなかの曲者です。
「周知または著名な商品等を
所有したものに対し、その商品を使用する排他的な権利を付与す
▶背景や小道具
る」という考え方に基づいています。端的に言えば、安価な商品
以前から写真家の中でも話題に上りやすい問題として、いわゆ
のイメージを良くするために高価な有名ブランドの商品を背景に
る名所旧跡などの写真を撮影した場合の権利処理の問題があり
使うなどの手法を制限するものです。ショウウインドーをバック
ます。著作権法46条には「公開の美術の著作物等の利用」として、
に撮影した写真の中にある高級ブランドや著名なキャラクター商
屋外の場所に設置されるもの、または建築の著作物は自由に複製
品には十分な注意が必要です。また、小道具として使用する場合
する事ができるとの定めがあります。一見すると撮影しても何の
にも有名ブランド/キャラクター商品
(コカコーラ、レゴ、
トトロ)
問題も起きないように思われますが、注意が必要です。公共の場
などの場合には事前の調査や許諾を得る事が重要です。
所から撮影する場合を除き、建物や屋外彫刻を撮影するためにそ
の敷地内に立ち入る場合には当然ながらその所有者の許可が必要
肖像権
ですし、撮影した写真を使用する旨を知らせておかないと後にト
実は「肖像権」という文字は六法全書のどこを見てもありませ
ラブルが発生します。
ん。これは過去の裁判の判例などで認められてきた権利のひとつ
また、特殊な例としてパリのエッフェル塔などを挙げる事が出
です。法律的には憲法13条の「個人の尊重、生命、自由、幸福追求」
来ます。エッフェル塔自体は建築から100年以上が経過しており
という部分が根拠とされています。自らの写真が他人の目にさら
建築物としての著作権は消滅しています。しかし、夜間のライト
され、精神的な苦痛を与えられる事がないようにプライバシーを
アップされたエッフェル塔を撮影する場合にはそのライティング
保護される事は一般に人が持つ基本的人権である。ということで
を制作した著作者の許可を求める事が必要です。
す。
MINOR RELEASE
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In consideration of the engagement as a model of the minor named below,and for other
good and valuable consideration herein acknowledged as received, upon the terms hereinafter stated, I hereby grant to
("Photographer"),his/her legal representatives and assigns, those for whom Photographer is acting, and those acting
with his /her authority and permission, the absolute right and permission to copyright
and use, re-use, publish, and re-publish photographic portraits or picture of the minor or
in which the minor may be included, in whole or in part, or composite or distorted in character or form, without restriction as to changes or alternations from time to time, In conjunction with the minor's own or a fictitious name, or reproductions thereof in color or
otherwise, made through any medium at his/her studios or elsewhere, and in any and
all media now or hereafter known, for art,-advertising,-trade,-or any other purpose whatever. I also consent to the use of any printed matter in conjunction therewith.
I hereby waive any right that I or the minor may have to inspect or approve the finished
product or products or the advertising copy or printed matter that may be used in connection therewith or the use to which it may be applied.
I hereby release, discharge, and agree to save harmless Photographer, his/her legal
representatives or assigns, and all persons acting under his /her permission or authority
or those for whom he/she is acting, from any liability by virtue of any blurring, distortion,
alteration, optical illusion, or use in composite form, whether intentional or otherwise, that
may occur or be produced in the taking of said picture or in any subsequent processing
thereof, as well as any publication thereof, including without limitation any claims for libel
or invasion of privacy.
I hereby warrant that I am of full age and have every right to contract for the minor in the
above regard, I state further that I have read the above authorization, release, and agreement. prior to it's execution, and that I am fully familiar with the contents thereof. This release shall be binding upon me and my heirs, legal representatives, and assigns.
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(Minor's Address)
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(Address)
ここから派生して生まれるのが著名人が持ついわゆる「パブリ
たものの、その後の判断でその写真を表紙やポスターに使用する
シティー権」です。肖像権は一般の人々の人格を守る権利であり、
場合などは、特に注意すべきケースです。実際にトラブルが発生
パブリシティー権はその肖像権に付随する商業的価値=財産権と
したとの相談も受けています。
いえます。
参考資料として、現在A社において実用されている未成年者向
最近では一般の方をモデルに登用する事例が増えています。撮
け肖像権使用同意書を例として掲載してありますので、これを参
影の時点では冊子の一部に使用する目的で撮影と使用の許可を得
考に活用される事をお奨めします。
知的所有権事業部の
取り組み
APA知的所有権事業部では、公益法人としての立場から、定期的に開
画像のデジタルデータ化の波の中で、写真の著作権に関する社会の受
催される著作権相談室において正会員の身近で起きる著作権に関するト
け止め方も大きく変化しつつあります。また、映画や音楽、さらには文
ラブルや、様々な権利に関する相談をお受けするほかに有限責任法人日
芸やグラフィックアートなどの分野とも連携してこの大きな変化に対応
本写真著作権協会(JPCA)など関係団体と協調して写真家の著作権保
するべく尽力しています。我々の足元にあるナマの課題と今後の発展と
護や著作権法の啓蒙活動に従事しています。すでに正会員に配布されて
のバランスを調和させるには多くの皆様のご意見とご協力が一層必要と
いる「JPCA著作権者ID」等の更なる利便性向上も目指しています。
なります。改めて会員各位のご支援をお願い申し上げます。
また、平成19年度には文化庁から「写真保存センター」の設立に向け
た調査費が予算化され、同庁から委任を受けた(社)日本写真家協会や
JPCAと共にその具体化の調査研究を行います。
ご質問をお寄せください。
APA知的所有権事業部では、次号の著作権レポート
対処方法などについての疑問などをFAXにてお気軽
宛先 FAX 03-3543-3317
をさらに役立つものとするべく、会員の皆さまから
にお寄せください。個別に回答の後、次回著作権レ
APA知的所有権事業部
著作権やそれにまわる法律などについてのご質問を
ポートに反映させていただきます。
お受けします。
また、内容によっては著作権相談室でも対応いたし
著作権相談室に申し込むほどの問題ではないけれ
ます。
著作権レポート質問担当 岡野 まで
書式等は不問です。お気軽にお問い合わせください。
ど、知っておきたい法律の考え方や解釈、具体的な
著作権相談室のご案内
APAでは平成10年('98)年から担当弁護士による
害に遇うことがあります。またマルチメディアの発
も原因のひとつです。
著作権の相談窓口を開設しています。
展でインターネット上での知的所有権の侵害や無断
私たちはすでに、何件かの相談を解決してきました。
ほとんどの場合、口約束だけで仕事を始める事が多
使用、その他、数多くの新しい問題も起こっていま
トラブルでお悩みの方、著作権について知りたい方
い私たちは、
契約書を交わす習慣があまりないので、
す。これらは著作権思想の普及や啓蒙がまだ足りな
はぜひご相談ください。
思わぬところでビジネストラブルや知的所有権の侵
い結果といえますが、著作権者である私たちの無知
■インフォメーション
■利用方法
・相談日 奇数月第2月曜日 (変更になる場合があります)
・相談内容を文書にて事前にAPA事務局に提出して下さい。
・場 所 APA事務局(9F APAルーム)
(所定の用紙は事務局にあります)
・利用資格 APA会員に限る
・内容精査の上相談日を決定し通知
・相談料 無料
・相談日に個別面談を実施します。
・担 当 三戸岡耕二(担当弁護士)
・急を要する件については電話にて対応します。
進藤 博信(部長)
・調査費用や訴訟その他の費用など別途発生するものは相談者負担とな
岡野 一之(副部長)
ります。
APA著作権レポート vol.05
©APA2007 Printed in Japan 本誌掲載の写真・記事の無断転載を禁じます。
発行日 2007年(平成19年)4月27日 発行所 社団法人 日本広告写真家協会 〒104−0045 東京都中央区築地2−1−17 陽光築地ビル9F
TEL.(03)3543−3387 FAX.(03)3543−3317 http://apa-japan.com
発行人 安 洋次郎 編集人 進藤博信 編集 社団法人 日本広告写真家協会 知的所有権事業部 印刷・製本 ホクエツ印刷株式会社
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