2012年3月号 - 伊藤忠商事繊維カンパニー

3
vol.623
2012
since 1960
毎月1回発行
■ 発行:伊藤忠商事株式会社 繊維経営企画部
大阪市北区梅田3-1-3
■ TEL:06-7638-2027 ■ FAX:06-7638-2008
■ URL:http://www.itochu-tex.net
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Vol.623 CONTENTS
─ ITOCHU Mission ─
Committed to the global good
豊
か
さ を
担
う
責
Special Feature /
医療・介護サービス、ユニフォーム市場展望
Topics /
ニュース・クリッピング
4面
成長戦略としてのM&Aとその進め方 第3回
5面
Topics /
任
Fashion Report /
「365日(サンロクゴ)Charming Everyday Things」
1-4面
6面
医療・介護サービス、ユニフォーム市場展望
快適サービスをサポートする
S
pecial
Feature
高齢化の進む日本で、今後さらに需要が増していくと予想される介護サービス。介護が必要となる高齢者人口は2020年には2000年の1.8倍、
介護施設の従業員は倍増するとの試算があります。利用者に満足のいくサービスを提供するためには、充実した介護を行うだけでなく、
“安心”
を
感じてもらうことも欠かせません。また、その安心を目に見える形で表現できるのがメディカルユニフォームといえます。看護医療、介護医療現場では、
時にスポーツアスリートに劣らないスピードと大きな動きが要求されるため、ユニフォームには、スポーツウエアのような機能も求められます。親しみ
やすさ、清潔感、そして機能性。医療・介護の現場で求められていることは何か。関連する企業はどのように対応しているのか。関係者にお集
まり願い、近未来の医療・介護サービス、ユニフォーム市場を展望しました。
出席者
(社名50音順)
株式会社アプロンワールド
代表取締役社長
矢澤 真徳氏
ナガイレーベン株式会社
代表取締役社長
澤登 一郎氏
ワタキューセイモア株式会社 執行役員業務本部長兼経営企画室長
各社の概要
ワタキューセイモア
医療にかかわり50年
伊藤忠商事・石井 まず始めに各社の
医療・介護サービス、およびウエア市場に
おける取り組み、業務内容を紹介ください。
ワタキューセイモア・市本氏(以下、敬
称略)
当社の創業は1872年(明治5年)に
製綿業を営んだことに始まりますが、病院
寝具との関係は1962年(昭和37年)の綿
久寝具(現ワタキューセイモア)設立以来
です。当時、国が制定した「病院基準寝具」
に着目し、製綿業から病院寝具リネンサプ
ライ業務に進出、今 年で丸50 年を迎えま
す。医療業界とのかかわりはこの年に始ま
りました。現在病院寝具リース市場は飽和
状態と化してきています。病院寝具におけ
る周辺リネンサプライを展開しつつ医療関
連サービス業に着目し、1972年に日清医
療食品㈱を設立、医療用食品の販売や給
食事 業の展開、その後 順次、商品販 売、
売店、福 祉 用具レンタル・販 売、医療用
廃棄物処理、調剤薬局事業、医療事務請
負、清掃・滅菌業務請負など医療福祉業
界に関連する広範な分野に広がっていくこ
とになります。
白衣の取り扱いは1978年からです。現在
ユニフォームリース関連の売上高は年間86
億円。白衣の仕入れ規模で言うと年間ざっ
と30億円、約100万点となります。
医療・福祉施設における医師・看護師
など職員の皆さんが本来の業務に専念で
きるよう、その医療福祉関連業務を包括
的に請け負うことを総称して弊社では「セ
イモアシステム」と呼んでいます。現在は
このシステムの充実に力を注いでいるとこ
ろです。
ナガイレーベン
一貫して「白衣」追求
ナガイレーベン・澤登氏(以下、敬称略)
当社の創業は、白衣専門店として神田神保
町で個人創業した1915年(大正4年)にさ
かのぼります。戦後の1950年(昭和25年)
に株式会社として設立されました。医療と食
品関連の白衣販売会社だったのが1969年に
秋田県大仙市に縫製生産会社、ナガイ白衣
工業を設立し、それ以降、白衣の企画・製造・
販売という垂直的な方式で超ニッチな分野を
一貫して追いかけてきました。売上高は2011
司 会
市本 久重氏
伊藤忠商事株式会社
ブランドマーケティング第二部門長
石井 和則
年8月期で約146億円、年間560万点の白衣
を製造・販売しています。
現在、生産はこの秋田の工場を軸に国内
生産が60%、インドネシア、中国、ベトナ
ムでの海外生産が40%の構成です。海外
提携工場は対日生産拠点という性格だけで
はなく、東南アジアをはじめとした世界市
場に向けた拠点としての性格も併せ持たせ
ています。
医療従事者を対象としたウエアが第1の柱
とすれば、第2の柱は2000 年前後から登場
した介護ウエアです。加えて約5年前から手
掛けるコンペルパック、いわゆる手術用ガウン・
ドレープが第3の柱として成長してきました。ワ
タキューセイモアさんとは40数年間、共に医
療分野で取り組んできました。
アプロンワールド
「アディダス」で新領域
アプロンワールド・矢澤氏(以下、敬称略)
当社は1952年に日産被服㈱として埼玉県加
須市に白衣製造工場を創業しました。1964
年には販売会社として日産被服販売㈱を東
京上野に設立し、1986年に日産被服販売を
㈱アプロンワールドに社名変更しております。
写真左から、矢澤 真徳氏、市本 久重氏、澤登 一郎氏、石井 和則
2
2012年3月号
医療・介護サービス、ユニフォーム市場展望
株式会社アプロンワールド
代表取締役社長
矢澤 真徳氏
グループ5社でユニフォームの企画・製造・販
売を手掛けていますが、当社の場合、第1の
柱が看護師や医師のメディカルウエア、第2の
柱が介護ウエア、第3の柱がホテル・レストラ
ン向けのサービスウエア、そして第4の柱が食
品工場向けの白衣です。生産は1991年に中
国で、1996年にはベトナムでも開始し、現在
は国内、中国、ベトナム、インドネシアで行って
います。販売はほぼ100%が国内向けで、グ
ループ合計で約100億円の年商です。
これまでとは少し違った切り口での商品開
発を意図し、伊藤忠商事さんの協力を得て
アディダスジャパン社と提携し、「アディダス」
ブランドの医療・介護ウエア・シューズの展
開を2011年秋から始めました。医療や介護
の現場では、時にスポーツアスリートに劣らな
いスピードや大きな動きを要求されます。その
ため、ユニフォームに求められる性能はスポー
ツウエアに要求される性能と多くの共通点を
持っています。医療現場で必要な性能をしっ
かりと押さえつつ、スポーツウエアが持つ素
材や機能、動きやすさを追求した商品群で
す。これまでとは違うテーストで新たな事業領
域を開拓したいと考えています。
医療・介護現場とウエア
変わるユニフォーム
消えたナースキャップ
石井 医療・介護サービス市場やウエア
市場における問題点は。医療現場では職員
の離職率の高さ、介護の現場では人が集ま
りにくいなどの問題もあるようですが。
市本 看護師の離職率は全国平均で16%
と依然高いままです。その分、離職・入職者
のナースウエア交換が必要となります。メーカー
さんにはよくてもリネンサプライヤーという我々の
立場からすると、その都度、ウエアを用意せ
ねばならず、大変なんです(苦笑)
。
病院の経営もまた苦しいままです。2年ごと
に行われる診療報酬の改定も2012 年度は
0.004%というわずかのプラスにとどまり、病院
の経営環境の改善は進みません。そのため
に我々納入業者をはじめ医療関連業界もシワ
寄せを受けることになります。立場が変わると
悩み深いのが現実です。
ナースウエアを見ると、医療現場では大きく
メッシュやベンチレーションを配置し快適な着心地にこだわっ
たアプロンのアディダスメンズスクラブ
変わってきました。最も顕著なのはナースキャッ
プがほぼ絶滅しました(笑)
。ワンピースも珍
しくなりパンツルックが中心です。昔は医師も
看護師も白衣でしたが、最近では介護士を
含めてそれぞれ異なるウエアを着用するのが
普通になりました。患者さんなど外部からの
視認性が格段に向上したといえるでしょう。
素材も綿高混率からポリエステル高混率に
置き換わり、帯電防止、防汚などの機能繊
維使いが急速に増えています。カラーは白の
世界にブルーやグリーン、ピンクといったパス
テルカラーが入り込み、華やかになりました。
一方、介護関係を見ると、現在計画され
ているだけで今後サービス付き高齢者施設が
全国で60万室建設される見通しです。また、
これからは訪問看護、訪問介護など看護師
や介護士が自ら在宅へ出て行くことが普通に
なっていく見通しです。薬剤師も同様です。
そうなると、先ほどの視認性とも絡みます
が、一目で誰かが分かる新たなユニフォーム
市場が生まれる可能性が大きいと考えます。
外出時に資格に見合ったウエアの着用が必
要となり、医療関連従事者であることが見て
すぐ分かるユニフォームです。これは大いに
期待できますね。ただ、ヘルパーさんの入れ
替わりも激しく、ウエア需要は増大する一方
で、リネンサプライヤーの煩雑な管理業務が
より複雑化してきそうですが……(苦笑)
。
病院の経営環境厳しい
直接・間接に市場に影響
澤登 我々が依拠するこのユニフォーム
マーケットは景気の影響を受けにくい市場で
ある、と言われてきました。確かに、他のア
パレル業界に比べ好不況によって直接ウエア
需要が左右されるということは少ないわけで
すが、それでも長年にわたる診療報酬の引き
下げは病院経営を苦しめ、我々にも影響を与
えてきました。国家予算の引き締めはやはり
響いてきます。
診療報酬は2000年に0.2%引き上げられた
あと、連続して引き下げられました。2010年
に10年ぶりに0.19%引き上げられ、2012年は
ご指摘のように0.004%とわずかの上方改定予
定という経過をたどっています。2000年にス
タートした介護報酬にしても年々引き下げら
れ、9年目を迎えた2009年に初めてプラスに
転じました。こうした国の予算に間接的な影
響を受けてきているのが我々の業界です。
そうした中で、どのような視点で経営してい
くべきか、難しい課題が山積しています。当社
はメーカーですから「品質」と「価格」は常
に頭に置いています。白衣は使い捨てではあ
りません。何十回、場合によっては100回以上
の洗濯を重ねます。それに耐えうる素材やデ
ザインなどのスペックを考えねばなりません。
コスト問題も常につきまといます。一昨年か
ら綿花・綿糸価格が高騰し綿リッチのテキス
タイル価格もつれて引き上げられました。綿花
高を見てポリエステルも価格水準を上方修正
しました。また、中国では沿海部を中心に人
件費コストが上昇し、縫製生産コストが原料
高と相まって急上昇しました。
中国でのモノ作りからベトナム、インドネシア
など東南アジアにシフトしても、そこでも人件
費を中心とするコスト高に直面します。工場
の生産スペースそのものがタイトな状況となる
など、中長期の課題として、従来とは異なる
トレンドの中で経営を考えねばならなくなりまし
た。作った商品を確実に納めることだけを考
えればよかったものが、さらに加えて「いかに
安定供給できるか」─ その体制確立が急
務となっています。
我々は4月1日という日に大量の商品をユー
ザーの皆さんにお届けしなければなりません。
新人が入ってくるその日に間に合わさないとい
けない宿命を背負っています。
「すみません
遅れました。ごめんなさい」は通用しない。
欠品が許されない中でいかに安定供給する
か。これはメーカーの信用、信頼に関わる問
題としてますます重要視されています。
ナガイレーベン株式会社
代表取締役社長
澤登 一郎氏
医療の変化で新市場も
「品質」
「価格」で課題山積
矢澤 わたしたちも同じ悩みを抱えていま
す。ひとつ加えるならば、品質の安定です。
ユニフォームほど長期にわたって品質が重視さ
れる商品も少ないと考えています。長期にわ
たって厳しい工業洗濯に耐え、パッカリングひと
つ取っても一定以上の品質を保ち続けなけれ
ばなりません。中国でストライキが頻発して人
件費が高くなったからチャイナ・プラスワンとし
てベトナムへ行っても、またベトナム・プラスワン
を求めねばならなくなるのが現実ですが、頻繁
に工場を替えていたのでは品質が安定しませ
ん。
「どこで、どのように作り続けるか」が従来
以上に難しい問題となってきました。
視点を変えてみると、医療・介護のあり方
が今後変化し、ユニフォームの世界もそれに
対応して変わっていくことが考えられます。
例えば、人が死を迎える場所は病院など
医療機関が圧倒的に多いわけですが、ある
推計によると、2030年には有料高齢者施設
や自宅でなくなる方の合計数は医療施設でな
くなる方の数の85%ほどになるとされていま
す。誰でも自宅で死を迎えたいと思っている
わけですが、現時点ではその条件が整って
いない。しかし将来的にはその願いが叶えら
れる方向にある、という推計です。医療費抑
制で「病院には長く置いておけない」とも言
えます。一方で、病院の外来患者数を見る
とこの10年間、右肩下がりで減少しています
が、診療所数は増えているという現状もある。
こうした診療所の新しい役割を考えなくてはい
けない、ということです。
こうした課題に対するひとつの答えとして、
今後は在宅医療、訪問看護・介護が増え、
24時間対応の充実が求められてくるでしょう。
訪問看護・介護となれば、一日に何回も患
者さんのもとを訪れることになります。夜間も
含めれば一人での業務はとても無理で、複
数の人間が患者さん宅を訪問することになる
でしょう。そうなるとセキュリティーの問題が発
高いバクテリアバリア性能を洗濯、滅菌後も維持する特殊
素材を使用し、快適性も実現したナガイレーベンのサージカ
ルガウン
生し、一目で訪問者が何者かが分かる視認
性が求められてくる。宅配便のユニフォーム
などはその典型ですが、医療従事者にとって
も外出時の視認性をいかに高めるか、そうし
たセキュリティー確保のためのユニフォームの
役割というものが浮上してきます。
菌との戦い
「安心・安全」提供に責務
石井 先ほど工業洗濯の話がありました
が、基準はどのようになっているのでしょうか。
市本 医療関連分野においては、一般的
に80℃の湯で10分間以上洗濯するという基
準があります。しかも仕上げは、120℃以上
の強制乾燥ですから繊維製品にとっては厳し
い条件がそろっています。
石井 利用者に「快適なサービス」と「安
心・安全」を提供するためには不可欠なこと
が多いわけですね。
澤 登 そうですね。我々の取り組 みは、
快適なサービスと安心・安全を求めて「機
能アップの歴史」を重ねてきたといえます。素
材で言えば天然繊維から合繊へと、いいとこ
どりをやってきた。進化した技術をいち早く取
り入れ、商品として具現化する作業ですね。
医療・介護サービス、ユニフォーム市場展望
以前にMRSA(「メチシリン耐性黄色ブ
ドウ球菌」。種々の抗生物質に効かなくなっ
た多剤耐性の黄色ブドウ球菌のこと。肺炎、
敗 血症、腸炎、髄 膜炎、胆管炎などの感
染症を引き起こすとされる)による感染症
が社会問題となったことがあります。我々
はこうした感染症対策にも考慮せねばなり
ません。
白衣は毎年新商品に置き換わるわけでは
ありません。従来品にプラスαとして制電や
制菌といった様々な機能を付け加えてきた
歴史です。その分、コストが加算されるこ
とになります。最近では一般的となったこう
した機能を「標準装備」として打ち出し、
素材メーカーさんの協力を得ながらコストを
下げる努力をしています。ワタキューセイモ
アさんとも40数年の取り組みの中で総合的
なコスト抑制に努めてきました。
矢澤 安心・安全を提供するというのは、
わたしたちの大きな責務です。メディカルユニ
フォームは抗菌・制菌など菌との戦いの歴史
といえるかもしれません。
ただ、これらの機能加工については、2つ
の視点をもつことが大切だと思います。ひとつ
は、ユーザーが実感できるレベルのものであ
るかということ、メーカー側がいくら数字で提
示できたとしてもユーザーが効果を実感できな
くては商品の差別化としては弱いものになって
しまいます。もうひとつの視点は、菌との戦い
はユニフォームだけで完結するものではないと
いうことです。病院全体のシステムとして菌を
管理するということが必要で、その流れのな
かでユニフォームも一つの役割を担うというこ
とです。菌の管理ということでは、病院施設
もまだ不十分な環境にありますね。病院内を
クリーンゾーン、ダーティーゾーンに分けてい
スポーツアパレルに聞く
る病 院 は 数 少ない。ホルマリン、オゾン、
EOG、オートクレープなどの様々な滅菌方法
もそれぞれ一長一短があり、素材メーカー、
アパレルメーカー、リネンサプライヤー、滅菌
システムメーカー、病院等が一体となって考
えていかなくてはならない問題です。
市本 建て替え時期を迎えた病院では、
新築する際にゾーン分けの概念を取り入れま
す。感染症は多くの場合、病院が本来守る
べき基本的な行為を怠った場合に発生してい
ます。寝具などリネンサプライからの感染はほ
とんどないのが実情ですね。
「エコ・環境」は依然課題
使い捨てから再利用の道へ
石井 リデュース(減らす)
、リユース(繰
り返し使う)、リサイクル(再資源化)のいわ
ゆる3Rなど環境問題が依然大きな課題であ
ると考えます。このエコ・環境対応での取り
組みではいかがでしょう。
市本 洗濯というのは水と熱を大量に消
費し、この面では環境にはやさしくありませ
ん。しかし、その一方で繰り返し使うという
リユースの概念にピタリ当てはまるものです。
80℃で10分間の洗濯、その後の乾燥とエネ
ルギー大量消費工程を軽減しようとすれば、
消毒剤の助けを借りて低温で、ということに
なりますが、これもまた薬品における基準お
よび薬品残留という新たな問題が発生してき
ます。ことほどさようにエコ・環境は悩ましい
問題なのです。
白衣は通常4年のリース契約が多い。4年
たてば捨てるのではなく、もう一度白衣として、
あるいは別の形で使用できないか工夫してき
ました。廃棄物として捨てないで、なんとか
資源として再利用する方向で取り組みを進め
ています。
澤登 結局、3Rの普及というのは費用対
効果の問題です。ポリエステルのサーマルリ
サイクルもその考え方の一つです。ゴミとして
焼却処分するのではなく、助燃剤として活用
することで、使用済みの白衣を産業廃棄物
から燃料にすることが可能です。
こうした試みに加え、部材の節約も必要で
しょう。当社では年 間600万∼700万mの原
反を使用しています。一着当たり1㎜でも2㎜
でも使用量を節約すれば原価の抑制につな
がるし、省資源という環境負荷軽減にも役立
てる。手術室のガウン・ドレープにしても今は
使い捨ての商品がほとんどですが、リユース
を可能にすれば社会に対するダメージが少な
マーケティング部門 ライフスタイルマーケティング部 部長 川井 ヒアリングでは、今 着ているユニ
フォームについて重点的に聞きました。「動き
にくい」「汗のべたつきが気になる」「肌触り
が固い」「蒸れる」─。こうしたアンメット・
─「ルコックスポルティフ フォー ナース
(以下ルコックナース)
」をリリースして今年で8
年。まず、スポーツブランドとしてメディカルウ
エアを手がけた背景について教えてください。
丹羽 看護師は勤務時間が長く、様々な
動作が要求されるハードな職業です。社内
から「当社のスポーツウエアの技術を生かせ
るのではないか」という提案があり、市場調
査を経て企画がスタートしました。当社が展
開する約20(当時)のブランドについて約
100人の看護師にイメージを聞いたところ、と
くに20代から30代に最も認知度が高かったの
が「ルコック スポルティフ」でした。ルコック
は1882年に仏で生まれたブランドで、洗練さ
れたイメージやトリコロールカラーなど、ナース
用のユニフォームにふさわしい条件を備えて
いたのも好条件でした。
3
ワタキューセイモア自社クリーニング工場の仕上げライン(トンネルフィニッシャー、個別管理システムを導入)
スポーツブランドにおけるメディカルウエア
左から丹羽智之氏、川井秋彦氏
2012年3月号
ニーズ(満たされない要望)が、商品開発
のヒントになります。医療用ユニフォームには
ストレッチ性、吸水速乾性といったスポーツウ
エアと同様のニーズがあるのに加え、防透性、
紫外線カット、耐電・制電、工業洗濯の耐
久性への要望も高かったですね。こうした点
を一つひとつ解消しながらウエアを形にしてい
きました。
色について一言申し添えると、ルコックナー
スの白はオリジナルです。従来の白衣が「冷
たい印象、威圧感を与える」という声から、
温かみのあるオフホワイトを採用しています。
足元から提案するためシューズも開発しまし
た。軽く、疲れにくい素材と機能性を形にし
たルコックナースオリジナルです。ウエア9型、
シューズ3型、カーディガンや靴下などの定番
商品を開発し、アスクルと共同リリースしまし
た。社 内プロジェクトを立ち上げて約1年、
2004年のことです。
─ アスクルと共同リリースされた理由は。
丹羽 メディカルウエアの販路は主に3つ
あります。ひとつは医療機関向けのリネンサプ
ライヤー、次に薬品や医療機器の卸業、そ
して個人の購入です。新規参入だった当社
としてはまず、個人での購入をターゲットに通
ワタキューセイモア株式会社
執行役員業務本部長兼経営企画室長
市本 久重氏
くなる。医療廃棄物は環境に大変大きな負荷
をかけます。その医療廃棄物を削減すること
が持続可能な社会実現への貢献につながる
と思いますね。
矢澤 使い捨てざるを得ないのは本当に残
念です。滅菌をどうするかという難題をいかにク
リアできるかですね。3Rを普及させるには、いか
に買う側にメリッ
トをもたらすかでしょう。ひとつの
手法にとどまることなく、エコマークやリサイクルシ
ステム、カーボン・フッ
トプリント(
「炭素の足跡」
。
株式会社デサント
丹 羽 智 之 氏 ナース営業課長 川 井 秋 彦 氏
信販売で多くの方に知っていただこうと考えた
のです。発売後の反応をスピーディーに把握
できたこと、ユーザーの声をいただけたことも
メリットとなりました。
川井 当社としてもう一つ力を入れてきた
のが、医療機関、教育機関との連携です。
大阪大学大学院とは機能性衣料の共同研究
の話をいただき、2008年に日本看護学会で
結果を発表しました。2006年にオープンした
千葉県の東京女子医科大学八千代医療セン
ターではウエアとシューズ約5000点を納品しま
した。病院オリジナルのキャラクターをウエア
にあしらう試みを行なったところ、
「子供が通
院を嫌がらなくなった」と喜んでいただけまし
た。キャラクターはアイコンとしてホームページ
などにも使っていただき、現場の看護師の方々
にも好評ということです。
8年間で商品の幅も増えました。最初は女
性用だけだったのが、ユーザーからの要望で
ドクターコートもラインアップに加えました。ルコッ
クではゴルフウエアも展開しているため、男性
にも知られているようです。スポーツブランドの
強みといえるでしょう。今後注目したいのが介
護への広がりです。ルコックナースも少しずつ
介護施設の引き合いが増えています。介護
のヘルパーさんはジャージやポロシャツを着る
方が多く、スポーツウエアが先行している職
業といえます。当社の優位性を発揮できる部
分がさらにあるかもしれません。
丹羽 スポーツブランドのメディカルウエアが
次々にリリースされるようになりましたが、市場
全体のシエアはまだまだ低いと見ています。ユ
ニフォームに必要な機能性と条件、デザインを
高い水準で融合させ、
ウエアを買う人、着る人、
そして医療サービスを受ける人、3者にメリット
を感じていただけるウエアを提供していきたいと
考えています。
脇下には通気性のあるストレッチメッシュ素材、動きの大きい
肩まわりにはラグランスリーブなどスポーツウエアの技術を応
用。きれいなシルエットも好評なルコックナースウエア
4
医療・介護サービス、ユニフォーム市場展望/ニュース・クリッピング
2012年3月号
商品のライフサイクル全般にわたり排出された
温室効果ガスをCO₂排出量に換算して表した
もの)等、顧客にフィットするものをいかに組
み合わせて提供できるかが問われています。
ウエアもバランス大切
「信頼・安心」表現に工夫
石井 看護・介護ウエアにスポーツテース
トを加えた商品があります。機能性に加え、
ファッション性など新たな要素が必要とされて
いるようですが。
矢澤 先ほどご紹介した「アディダス」ブ
ランドを導入した背景には、そうした考え方が
あります。当社の企業理念に
“快適主義”
と
いうものがあります。「着て心地よく、見て美
しい」商品の提供を打ち出しています。着る
人が快適なだけでなく、周りの人がその姿を
見て美しいと感じるユニフォームを提供するこ
とを心がけてきました。
医療・介護の現場を訪れる機会が多いの
ですが、現場では生命にかかわるために走
り、人の身体を支え、重い器具を持って移
動したりと大変です。「この動きはスポーツと
変わらない」と日々思ってきました。医療・
介護ウエアとしての必要な耐久性・性能を
保持しながら最新のスポーツウエアのテクノロ
ジーを織り込んだ新しいコンセプトの商品を、
ということでアディダス社と提携したものです。
商品はメッシュやベンチレーションなどス
ポーツウエアに用いられる機能を付加し、ス
ポーツウエアで使用されるストレスフリーの立
体的なカッティングを採用し、素材はスポーツ
ウエア用素材をユニフォーム向けに再構築し
ました。アディダス社にも、一年中快適なスポー
ツライフを過ご せますという意 味 合 い の
「CLIMA365」というコンセプトがあるそうで
N
ews
Clipping
す。いついかなる環境下にあっても快適性を
保持する美しい商品を提供するという
“快適
主義”の考え方を、この医療・介護ウエアに
も注入しました。
ユーザーさんの反応も届いていますが、少
し面白いのは病院の経営層の関心を誘って
いる点です。女子高の制服の優劣は、受験
希望者の増減に響くと聞いたことがあります
が、病院でもそうなのかな、と(笑)
。看護
学校にとってカッコイイ制服(ナースウエア)
は応募者増の武器になるのかもしれません。
澤登 ナースウエアというのはいろんな要
素を織り込んだ商品なんです。ナースになる
動機を考えてみましょう。人の命にかかわる
職業を自ら選ぶ。その気持ち、誇りをウエア
に表現しなければいけません。しかし白衣は
作業着です。作業着である以上、機能性、
運動性能を満たすのは当たり前です。しかし、
それだけではありません。人の命を預かる仕
事着としての役割も加わります。
「この人に注
射を打ってもらって大丈夫かしら?」と患者に
疑問を抱かせてはいけません。安心して腕を
差し出す信頼感・安心感が必要です。ウエ
アは自然にそうしたにおいを醸し出さねばなら
ないのです。
医療・介護現場はハードな職場です。運
動性能が求められるのは間違いありません。
ワンピースが80∼90%占めていた職場も上下セ
パレーツのパンツルックが大半となっています。
この運動性能に加え、先ほど申し上げた「人
の命を預かる仕事着」などいろんな要素をバ
ランスよく加味してようやくウエアが出来上がりま
す。経営にポートフォリオが大事なように、ウエ
アデザインにもバランスのよいポートフォリオが大
切です。当社には5500 SKUにのぼる商品が
ありますが、効率的にいかに配置していくか、
そのバランスを常に考えていますね。
職業人としての誇り
加えて「カワイイ」も
石井 職業としての誇り、そしてアスリート
のような動きを表現するウエア……。言葉に
すれば簡単ですが、なにかしら奥深いものを
感じます。市本さん、現場の声を聞かれるこ
とが多いと思いますが。
市本 簡潔に言えば「シンプルで動きやす
いウエアを」という看護師さんの声を聞きます
ね。加えて「カワイイ」デザインも。作業着
ではありますが、着ることに楽しみを得られる
ものであれば最上かもしれません。
もう一つ現場でよく耳にするのは靴の問題
です。靴は看護師さんが自前で購入するの
が普通です。ユニフォームはかなり変わりまし
たが、靴はあまり変わらない。洗って使うとい
うのはあまり聞きません。2、3カ月履いて取り
替えるというのが多いようです。これをなんと
かして、という要望です(苦笑)
。
選択肢を多く、という声もあります。
「ウエ
アならどれを選んでもいいようにしてほしい」と
いうニーズもあります。患者衣ではだんだん
種類を選べるようになってきていますが、
「ナー
スウエアでも」ということです。徐々に画一的
なものを嫌う傾向が強まってきました。リネンサ
プライヤーにとってみると、多品種少量となり
コストアップになります。たまったもんじゃない
のですが(笑)
。
矢澤 レストランなどサービスウエアの世界
では「選ぶ」という形式も増えてきましたね。
スタッフは少しずつ異なる制服を着ながらも全
体としてコーディネートされている、というウエ
アです。
澤登 個々はバラバラに見えても医療チー
ムとしてコーディネートされているウエアもありま
す。「そんなことできないよ」という世界が、
時代とともに選択肢が広がってきましたね。
石井 衣料・介護ウエアは作業着であり
ながら、その職業倫理を写すウエアでもある
ことを再確認しました。高齢社会の到来とと
もに多様なニーズに応えておられる皆さんの
努力をうかがい知ることができました。ウエア
には機能性ほか様々な要素が不可欠です。
伊藤忠商事として、素材や生産場の提供な
ど様々な機能を駆使して皆さんをサポートし
ていきたいと考えます。本日はありがとうござ
いました。
伊藤忠商事株式会社
ブランドマーケティング第二部門長
石井 和則
「キッザニア東京」に環境パビリオンを出展
グローバルな視点で環境保全を学ぶ場を
マイ風呂敷
エコバッグ
マイ箸
体験時のユニフォーム
伊 藤 忠 商 事は、KCJ GROUP株 式 会 社
(本社:東京都千代田区)が展開する子ど
も向け職業体験施設である「キッザニア東京」
(東京都江東区豊洲)に、オフィシャルスポン
サーとして環境をテーマにしたパビリオンを
2012年4月から出展します。伊藤忠が参画
する世界的環境活動「MOTTAINAIキャン
ペーン」での環境教育のノウハウを生かし、
子どもがエコ活動を体感できるパビリオン「エ
コショップ」をオープンします。
伊藤忠は、
「次世代育成」と「環境保全」
を社会貢献活動基本方針の中に掲げ、CSR
活 動の一 貫として推 進しています。また、
2005年より参 画 するMOTTAINAIキャン
ペーンを通じてReduce(ゴミ削減)
、Reuse(再
利用)、Recycle(再資源化)とかけがえの
ない地球資源に対するRespect(尊敬の念)
が込められている言葉「もったいない」を、
環境を守る国際語「MOTTAINAI」とし、
持続可能な循環型社会の構築を目指してい
ます。今回子どもに人気の高い施設である
「キッザニア東京」に、グローバルな視点で
環境保全について楽しく学べる場を提供する
ことで、持続可能な社会を担う青少年の育
成を目指すものです。
当パビリオンは、
「MOTTAINAIキャン
ペーン」の活動内容をテーマに、プレオー
ガニックコットンなど環境素材を使用した
「エコバッグ」や「マイ風呂敷」、
「マイ箸」
など環境にやさしいオリジナル商品を製作
していただきます。製作した商品は持ち帰
り可能で、来場後も自分だけのエコグッズ
として使用することで、日常生活の中でも
環境保全への意識を高めてもらうのが狙い
です。
また、子どもが1人参加されるごとに植林
用の苗木1本分の費用が、ワンガリ・マータ
イさん(1940-2011)が創設したケニアの植
林活動である「グリーンベルト運動」に寄贈
されます。この取り組みを通じて、参加する
子どもたちに、世界の環境問題についても身
近に感じてもらい、「自ら参加する」といった
意識の醸成につなげていきます。
パビリオン名
エコショップ
スポンサー
伊藤忠商事株式会社
役割/職業名
エコショップのお客様
対象年齢
3歳から15歳
体験可能人数
1回5人
体験内容
MOTTAINAIキャンペーンのオリジナ
ル商品である風呂敷、エコバック、
お箸等をオリジナルでデザインします。
子どもが1人参加されるごとに、植林
用の苗木1本分の費用が、ケニア
の 植林活動「グリーンベルト運動」
に寄贈されます。
*
『エコショップ』パビリオンは、こどもが「キッザニア」の独
自通貨「キッゾ」を支払い、サービスを受けるパビリオンです。
■ キッザニア東京
キッザニアはメキシコ発の子ども向けの職業体験型
テーマパークで、日本では2006年に「キッザニア東
京」、2009年に「キッザニア甲子園」がオープンし、
楽しみながら社会の仕組みを学ぶことができる体験型
の施設として高い人気を博しています。現在、約60
社の企業がパビリオンを出展、年間約80万人が来場
しています。
本件に関するお問い合わせ先
伊藤忠商事㈱ 広報部 担当:山下
電話:03-3497-7292
成長戦略としてのM&Aとその進め方
5
成長戦略としてのM&Aとその進め方
Topics
第3回 M&Aプロセス解説(下)案件実行フェーズ
㈱KPMG FAS 執行役員パートナー 寺 田 昌 人 氏
第2回は、案件の検討フェーズの解説を行ったが、引き続き案件実行フェーズのプロセスと
留意点を解説したいと思う。(以下、図1参照)
第2段階:「案件実行フェーズ」
対象企業と「守秘義務契約」
(以下「CA」
という)を結んでも、お互い本当にM&Aが
成就するかどうかも不明ななか、対象企業か
らの情 報 開 示もかなり限 定 的にならざるを
得ない。本格的な情報開示は、具体的な
M&Aのストラクチャーや価格等の主要条件
の合意を表す「基本合意書」
(以下、
「LOI」
という)の締結後となる。
① LOI締結前の予備的分析
この段階での検討は、主にLOI締結に向
けての予備的・概括的な分析段階である。
(ア)対象企業の初期的分析
主に対象企業の事業面での調査が中心と
なる。当初想定した事業上の競合関係、得
意先、仕入先等の関係、さらには想定して
いるシナジーの実現可能性等を検討する。
(イ)買収スキームの予備的検討
M&Aを合併することで進めるのか、株式
取得による子会社化なのか、会社分割による
特定の事業部門の子会社化なのか、あるい
は事業譲渡の形にするのかを、各スキームの
メリット・デメリットを考慮、検討の上、想定
スキームを絞り込む。
(ハ)予備的企業評価
ここでは、限られた開示情報に基づき、ど
のような金額水準で取得するのかの目安をつ
けておく必要がある。ここでの検討結果が
LOI上の合意価額に反映されるため、第三
者の概略的評価書等も入手した上で進める
ことが望ましい。
(ニ)LOIの締結
上記の分析を通じて得られた結果に基づ
き、ストラクチャー、金額レンジ、その他付帯
条件(買収後の役員・従業員の待遇、独
占交渉権、法的拘束力の有無、その他表明・
保証等)を交渉し、LOIに落とし込んでいく。
は外部の専門家アドバイザーを雇い、彼ら
に詳細な調査・分析をサポートしてもらうこと
となる。
(ア)価値評価分析
対象会社より事業計画を入手し、当該計
画の実現可能性の詳細な検討を行うととも
に、買い手の目線での修正後の計画をベー
スに企業価値分析を行う。外部アドバイザー
からは、いわゆるDCF法を中心として、株価
倍率法等のマーケットアプローチ、修正純資
産法等のコストアプローチによるその他の手
法等の結果も踏まえた総合的な価値分析結
果が報告書として提出される。これに基づき、
自社として、価格交渉の上限を押さえておく
必要がある。
(イ)デューデリジェンス(以下、
「DD」という)
対象企業を様々な観点から調査を行い、
その潜在的なリスクを事前に把握し、定量化
できるものは価格に反映し、定量化が困難な
ものは最終契約書上の表明・保証条項とし
て交渉を検討することとなる。DD(投資家
が自らの投資対象の適格性を把握するため
に行う調査活動全般のこと)としては、一般
的には、法務、会計、税務が必要最小限
の調査であり、それぞれ法律事務所、会計
事務所等に調査を依頼する。
また、事業DDについては、想定している
図1
シナジーの実現可能性とその定量化とそのタ
イミングを具体化するため、極力自社で行うこ
とが望ましいが、必要に応じて外部の会計事
務所や戦略系のアドバイザリーにサポートを依
頼することも考えられる。
(ウ)スキームの絞り込み
事業計画の検討やDDの分析結果をもと
に、最終的なスキームの選択を行う。当初合
併や子会社化を想定していたが、DDの結
果、潜在的な訴訟や簿外債務等のリスクが
大きく、当該リスクを遮断することが重要であ
れば、スキームを変更し事業譲渡に変更する
ことも事例としてよくある。
てらだ まさと 中央大学卒業。公認会計士。
KPMGの監
査部門(現 あずさ監査法人)にて、日本の大手企業と外
資系金融機関の監査業務に従事。その後、
KPMGFASに
て、大手商社、大手上場企業、国内バイアウトファンド、
秘密保持契約
(CA)
財務)およびフィナンシャルアドバイザーとして数多く関与した
実績を持つ。また、不良債権処理に係るアドバイス、不良
債権の評価、業績不振企業に対するデューデリジェンス、
事業計画策定アドバイス、大手マンションデベロッパーやホ
テル・旅館等の私的整理に伴うスキームのアドバイス、法
的整理企業に対するスキームと再建計画策定アドバイスにも
数多く従事した実績を有する。
最後に
ここまでM&Aの検討、実行フェーズのプ
ロセスと留意点の重要なものについて解説し
ました。紙面の関係であまり詳細な説明はで
きませんでしたが、少しでも皆様の実務でお
役に立てれば幸いです。
基本合意
(LOI)
最終契約
(DA)
クロージング
戦略の立案
ターゲットの選定
持ち込み案件への対応
アドバイザーの選定
ターゲットへのアプローチ
案件実行フェーズ(約1年)
ターゲットの初期的分析
買収スキームの予備的検討
買収スキームの検討
予備的企業価値評価
企業価値評価
デューデリジェンス
(Due Diligence)
事業計画/シナジー効果の検討
交渉/契約準備
初期検討
クロージング準備
最終検討
確認
ポストディール(PMI)
フェーズ(6カ月から1年)
PMI準備
為替(円/US$)
百貨店衣料品売上高の推移(億円)
3,000
3,000
80.00
2,000
2,000
85.00
1,000
1,000
2012.1/2
1/23
2/13
0
2010.1
2011.1
PMI
チェーン店衣料品売上高の推移(億円)
75.00
12/12
等のM&Aや事業再編等に係るデューデリジェンス(ビジネス、
案件検討フェーズ(3∼9カ月)
② LOI締結後の調査・分析
この段階が最も詳細な検討を行う段階と
なり、時間的・人数的制約から、一般的に
90.00
11/21
外資系投資銀行等による株式買収、営業譲渡、会社分割
③ 最終契約締結
一通りの調査終了後は、交渉の段階であ
る。譲渡契約書の締結に向けて、価額に始
まり、合併比率、スキーム、譲渡後の人事
の取り扱い、表明・保証事項等DDで得ら
れた詳細な情報に基づき、最終的な取り決
めを詰めてゆき、合意形成を図る。
そして、この段階では、交渉と並行して、
M&A実行後のフェーズの準備をしておく必
要があり、実務的には疎かにされがちである。
担当者としては、どうしてもM&Aの実行が
ゴールとして意識されているためであるが、
経営の観点からは、この後、具体的にどの
ようにシナジー等の発揮を進めていくかのアク
ション・プランを策定しておくことを忘れてはな
らない。
交渉/LOI準備
Data
2012年3月号
2012.1
出所:日本百貨店協会
0
2010.1
2011.1
2012.1
出所:日本チェーンストア協会
ドル/円は、米FOMCで緩和的な金融政策を2014年後半まで継続すると発表したことか
全体では2カ月ぶりの前年同月比マイナスだが、減少幅は1%台とほぼ前年並
全国的に天候不順の影響から苦戦し、総販売額は前年同月を1.2%下回り、6カ
ら、2月1日に安値76円03銭まで下落。しかし、その後は、①雇用統計等の米経済指標が堅
み。昨年暮れから続く季節需要の盛り上がりを受けて、正月恒例の福袋や初売
月連続のマイナスとなった。衣料品は1374億円で前年同月比1.0%減。紳士衣料
調で米景気回復期待が高まった、②日本の貿易収支の赤字化、③日銀による追加金融緩
り、
クリアランスセールが好調だった。後半は記録的降雪や例年にない寒気に見
はフォーマル、スラックス、カジュアルパンツ、
ジャンパーは好調だが、コート、スーツ、
和を実施――という3つの要因を背景にドル買い/円売りが強まり、昨年8月以来の高値とな
舞われ、若干の減速傾向がみられた。高級時計などの高額商材は引き続き好調
カットソーは不調。婦人衣料はフォーマル、セーター、
ジャンパーは好調だが、
コート、
る79円台後半まで上昇した。目先のドル/円は、円売り基調の継続が予想される。ただし、
ド
を維持した。衣料品売り上げは2344億円で0.4%減と2カ月ぶりに前年比マイナ
ジーンズが不調。その他衣料・洋品は紳士冬物肌着、紳士・婦人リラクシングは好調
ルの上値では本邦実需のドル売り意欲が強いことや、米景気回復に鈍化傾向が見えると市
スとなった。紳士服・洋品1.8%増(2カ月連続プラス)、子供服・洋品4.6%増(同)
だが、男児・女児冬物パジャマは不調だった。衣料品以外では寝装・寝装品は布団、
場のQE3期待が高まり、
ドル安に振れるリスクがあることには注意が必要。
(2/20)
は前年を若干上回ったが、婦人服・洋品は0.8%減(2カ月ぶりマイナス)
だった。
タオルが好調。インテリアは座布団、
シートクッションが好調だが、
カーペットは不調。
6
2012年3月号
ファッションリポート
日本の日用品を世界に向けて紹介する
F
ashion
Report 「365日(サンロクゴ)Charming Everyday Things」
No.579
伊藤忠ファッションシステム株式会社 マーケティングマネジャー 大きな可能性を秘めた
日本ブランド
ここ数年、取材やプロジェクトでパリを訪
れることが増えた。その中身は、日本につ
いて「伝える」にかかわる仕事だ。パリで
は今や、日本のモノやコトは一過性のブー
ムではなく、大きな潮流のひとつとして注目
されている。すべてのフランス人とは言えな
いが、歴 史ある文 化に裏 打ちされ、精 緻
で高度なものを生み出してきた日本を尊重
し、良いものを積極的に知りたい層がいる
ことは事実だ。
そういった意味では、日本のモノやコトの
良さを取材して書籍にしたためる、あるいは
プロジェクトを通じて日本からパリへ伝えるこ
と、逆にパリから日本に伝えることで、少し
でも役に立てばという思いを抱いてきた。
現在、経済産業省クール・ジャパン室の
仕事で「365日(サンロクゴ)Ch a r m in g
Everyday Things(以下、365日)」とい
うプロジェクトを手がけている。これは、日本
の暮らしに寄り添う日用品の数々─バッグ、
ストール、アクセサリー、食器、台所用品、
文 房 具など─を国 内 外 の 人に知って、
買ってもらうもの。日本の知恵や技、美意識
が生きている品を、日本古来の日めくりカレン
ダーに添って、一日ひとつずつ365点をセレ
クトして紹介する。
パリのバスチーユデザインセンターで開催
したのを受け、その後、JR東日本が運営す
る青森駅の「A-FACTORY」と東京駅の
「エキュート」、3月に銀座の「ポーラミュー
ジアムアネックス」で展示、販売会を行う。
パリでの開催は、予想以上に多くの人が
集まったのに驚いた。6日間の開催で5000
人が来場し、売り切れる商品も多数あった。
訪れたフランス人たちは、誰もが熱心に日本
の日用品を手にとって眺め、どう使うのか、
どこに特徴があるのか、興味津々で質問を
投げかけてくる。そして、手にとっては購入
していく─日本のものが国を越えて、日常
の生活の中で使われていくのだと思うと、見
ていて何だかうれしくなった。
良いモノは国を越えて伝わっていくのかも
しれないと、大きな可能性を感じた。その意
味で少しは自信を持っていいのである。
ソフトとしてのモノとの
かかわり
このプロジェクトはまた、多面的なクリエイ
ターがメンバーとしてかかわり、一緒に進め
ているものだ。HAKUHODO DESIGNの
永井一史さん、アートディレクターの服部一
成さん、コピーライターの国井美果さん、建
築家の田根剛さん、メソッドの山田遊さん、
セミトランスペアレントデザインの菅井俊之さ
んと田中良治さん、『ペン』編集部の山田
泰巨さん、増崎真帆さんと、それぞれの分
野で活躍している専門家を集めた。
そして、誰がどういった役 割という明 確
な区分ではなく、それぞれの専門分野を基
盤に置きながら、全員で企 画を練り上げ、
実 施に向けて力を注いだ。できれば 単 年
度の補 助 金プロジェクトで終 始 することな
く、何らかのかたちで継続していきたいと考
えている。
これからの消費を考える時、忘れてならな
いのは、本質的な価値を追求し、周囲に向
かって「伝えて」いくこと─“インテリジェ
川島 蓉子
パリ バスチーユデザインデセンター
ントな消費”
を提供することにあると思う。つ
まり、持続的な環境を作るために、そのモノ
はどんなふうに寄与しているのか、短期的な
使い捨てでなく長期的に使い込むモノとして
どのように作られているのか、これからの時
代において人が豊かに暮らすためのモノとは
何なのか─そういった本質的なストーリー
を、送り手がきちんと説明することが必要だ。
日本という国、あるいは日本人という民族
が持っている誠実さ、親切さ、礼儀正しさ、
奥ゆかしさ、繊細さ、そして自然を敬う気持
ち─そこには、確固たる規範があり、敬
意をはらわれるべき価値があり、長きにわたっ
て使われていく哲学がある。しかし、それ
が日本国内はともかく、世界に向かって「伝
わっていない」のである。
モノ作りについては、作って終わりというこ
とが圧倒的に多いのだ。作ったものを、誰
にどう伝え、売るのかが想定されていない
─だから受け手は魅力を感じないのであ
る。“NIPPONブランド”は、「伝える」ことに
もっと意識的になっていい。
否、
「伝える」だけでは十分とは言えない。
その内容が相手の腑に落ちること、すなわ
ち「伝わる」ことにこそ意味があるのではな
いか。「伝える」と「伝わる」とは、同じよ
うに見えて、実は大きな違いがある。
「伝える」
は、送り手が受け手に向け、一方通行でメッ
セージを発信するのに対し、「伝わる」は、
送り手が発したメッセージを、受け手が受信
して解釈し、再び受け手に向けて発信する
─双方向のコミュニケーションが成立する
ことを意味する。
本質的に価値のあるものを
使い込む時代へ
イベントのカタログであり、
2012年の日めくりとして使える
東日本大震災を経て、多くの日本人は、
本当に必要なモノだけを慈しんで使うことの
大切さに気づかされた。そして、豊かさとは
日々の暮らしの中にあり、丁寧に質を磨くこと
が重要だとも感じている。
そうは言っても不況下で、ファストファッショ
ンに代表されるように、低価格のものにスポッ
[email protected]
会場の様子
トがあたっているのも事実。そして今後も、
グローバルな市場を視野に入れ、大量生産
によって低価格を実現したものが、市場の
一画を担っていくのも確かだろう。
しかしそれは、使い勝手や価格だけを重
視した暮らしを意味しているわけではない。
1960年代の高度経済成長から拡大の一途
をたどってきた日本の消費市場が、ここへき
てターニングポイントを迎えているのは確かだ
が、それは、縮小・停滞を意味しているの
ではない。暮らしの中に幸せや豊かさを見
いだしたいという意識は高まっている。
つまり、安いから粗悪品でいいという価値
軸ではなく、その価格に見合った質が保証
されていることが重要になってくると思う。ファ
ストファッション的なブランドの中でも、進んだ
消費者はきちんと見抜き、選んで買い、使う
ようになっていく。その意味で、取捨選択が
なされ、淘汰が進むことは間違いない。要は、
モノを買うことによってもたらされる本質的な
“価値と価格のバランス”が問われる
意味=
ようになっているのだ。
どういったものに囲まれて暮らすのが豊か
なのかを考える─そういう見識や選択眼を
持った層が存在しているのが、今の日本の
消費市場と言える。利便性や価格といった
価値軸だけで、満足しなくなっているのは明
らかだ。高額なものとリーズナブルなもの、ラ
グジュアリーブランドとそうでないもの、伝統
的なものとモダンなもの─多様なものを組
み合わせて編集し、使いこなしてしまう─
高レベルの消費が行われているのが日本市
場の置かれている状況だ。
だからこそ、モノ本来の価値を理解しても
らうことは、重要なポイントだと思う。それも、
派手な広告宣伝を打つのではなく、作り手
の思いを理解している人が、リアリティーの
ある言葉として伝えていく。情報を肥大化さ
せるのではなく、等身大でありのままに発信
していくことに力点はある。
日本人が本来、不得意としてきた自己表
現を本質的なレベルでやっていくこと、そこ
に日本の強みを生かすブランド作りはあると
思う。