禁断のプロジェクト・ファイル収録

プロのテクニックが分かる!
禁断のプロジェクト・ファイル収録 !
第2回
トランスを作る! ∼トランス・ポップ編
ダンス / クラブミュージックの音楽制作ソフトとして
世界のアーティストに愛用されている 「FL STUDIO」。
この連載では最新版 「FL STUDIO 7」 を使い、
基本、 応用ポイントをジックリと解説してみたい。
TEXT&TRACK:ビバオール斎藤
プロフィール:新旧テクノ、新旧ニューウェーブ、新旧エレクトロニカ、新
旧ディスコ、新旧トランスをリアルタイムで通ってきたクリエーター。携帯
音楽サイト「うたJETS!!」ではVIVA_SWITCH名義で活躍中。同サイト発売の
トランスカバーアルバム
「宇宙最速J-POPトランス」
も好評発売中!
近況:ここ数年だけど、最近、特に新鮮でカッコイイのが80年代のニューウェー
ブ系サウンドを取り入れたリバイバル。当時、流行ってたエレクトリックなディ
スコやピップホップ系のサウンドにはキラキラとした未来感があり最高でした。
ナ・ナ・ナ・ナ・ナインティーンとかチャカ・・チャカ・カーンとかサンプラー
連打も流行りそうな…。ハンドクラッパーを持っている人は今ステージで使
うとカッコイイかも。
体験版収録 !
最新版「FL STUDIO 7」
の体験版を DVD に収録。
FL STUDIO の世界に触れてみよう !
デモトラック&プロジェクト・ファイル収録!
オーディオ・メニューにデモソングを収録。また体験版で読み込み可能
なプロジェクト・ファイルも収録。プロのテクニックをのぞいてみよう !
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価格:4万2,000円
(税込)
問い合わせ先:株式会社フックアップ
http://www.hookup.co.jp/
■主な機能
10種類以上の基 本ソフトシンセと30個以上のエ
フェクタ 搭 載/VST、VSTi、DXi、ReWire、ASIO対
応/各プラグインはVSTi、DXiとして動作/ステップ入
力機能/ピアノロール入力機能/プレイリスト//64バ
ストラック+4センドミキサー /オーディオ録音
(ASIO
ドライバ必須)/Sytrus、DirectWave、DrumSynth
Live、DX10、Soundfont Player、SimSynth Live、
VideoPlayer搭載/Edison(波形エディタ)搭載/サン
プルサウンド13,000種類以上付属
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ひと口に「トランス」と言っても色々なタイプが存在するが、 共通する基本
エフェクトではリード、バッキングに深みのあるリバーブやリード、ベース、ア
サウンドがある。例えば、SAW波形をいくつも重ねたリード音やアルペジオ・
ルペジオ、
SEなどにテンポ・ディレイを多用する。この他、
シンセ・フィルターを使っ
リフ、 ディストーション・シンセ、シンセサイズされたキック音、 パーカッショ
たフィルターの開閉サウンドはリードやリズム、全体のトラックなどに使用され
ンLOOP、リバース音などが挙げられる。
る。今回はこれら基本サウンドをFL STUDIOでどう作るかを解説する。
「Sytrus」を使ってみよう!
トランスに最適なアルペジエーター搭載
「FL STUDIO」 に搭 載されているFM音 源
ポイントを書き込んで変 化を作 成する方 式。
多く用意されている。中でも
「Sequence」はキッ
「Sytrus(シトラス)」はテクノ/トランス系サウ
LOOPのスタート/エンドを設 定し、この中に
ク、ハイハット、ベース、シンセリフが同時になる
ンドを意識した機能を数多く装備している。
UP / DOWNのポイント、リピートポイントを設
パターンも用意されているので参考にして欲し
今やほとんどのトランス系音源に必ず搭載さ
定していく。これにより鍵盤を抑えるだけで複雑
い。
れている「アルペジエーター」もその1つだが、
なパラメーター変化を含んだフレーズ・パターン
り曲のイメージ感を作ることができる。
Sytrusのアルペジエーターはピッチを始め、フィ
が作成できる。 機能を考えると、ちょとしたシー
他にもボリュームやパンニングなど基本的な
ルター、エンベローブ、LFOなど各パラメータの
ケンサーと捉えた使い方をしても良いだろう。
オートメーションを使用しているのでプロジェクト
Sytrusのプリセットの「Arp」 や「Bass」、
内をチェックしてもらいたい。
変化をオリジナル作成できる
(図1)。
作成の基本はマウスを使い、エンベローブ・
「Sequence」ではこの機能を使った音色が数
トランス系の大定番!
ユニゾン・サウンドを作る!
してはオペレーターにはSAWを基本とし、ユニ
ていることにあった。このSytrusはアルペジエー
ゾンボイスは4ボイス程度、デチューンは深めに
ターやエフェクト、ユニゾン機能を搭載している
「Sytrus」はトランスでは欠かせないユニゾン・
設定すると
「あのサウンド」
が生まれる。
ため、他のプラグインよりも多少CPUパワーを
サウンドを再現可能な「ユニゾンモード」
を搭載し
Sytrusのプリセットにも「Hypersaw」という
必要とする。
トランスらしいユニゾンサウンドを作るポイントと
なった。 原因は「Sytrus」をあまりにも多く使っ
ている。 音の厚みを設定するユニゾンボイスは
音色が数多く用意されているので参考にしても
軽快に使うポイントとしては、必要以上のユ
1ノートに対し、最大9ボイスまで設定可能。ユ
らいたい。
ニゾン数の設定、使わない内蔵エフェクト(ディ
ニゾン間をデチューンで厚みを加える「Unison
Pitch(PT)」やユニゾン音をパンニングで広
げ て ス テレ オ 感 を 出 す「Unison Mapping
(PN)」機能やオクターブ下を加える「Unison
Sub-Level(SB)」
などが搭載されている。
「Sytrus」を軽快に動作させる
ポイント
レイ、リバーブ)のオフ、クオリティモードの設定
などで、プロジェクトが軽くなる。これは他のプ
ラグインにも言えることだが、Sytrusをよりたくさ
今回、データ制作はAMDデュアル×2のPC
ん使いたい場合は、この辺りの工夫をするとい
を使用したが、この環境でもプロジェクトが重く
いだろう。
図1 FM音 源 をシミュレ ー
トし た プ ラグ イン・ シ ン セ
「Sytrus」。 多 彩なパラメー
タをコントロールできるアルペ
ジエーターを使うことで、この
音源の真の力が発揮される。
オートメーション機能を効果的に使う
FL STUDIOではプロジェクト内のチャンネ
clip」を選択すると、クリップトラックに「オート
リーハンド」などがあり、ポイント間はこれらを複
ル・ウィンドウを始め、ジェネレーター、ミキサー
メーションクリップ」が作成される。このクリッ
合させることもできる
(図2)。
など、ほとんどのパラメータがオートメーションに
プ内をプレイリスト左上にある「ツールバー」の
作成したオートメーションクリップはオーディオ
対応している。 作成する手順は、オートメーショ
ドローかペイントを使いマウスでポイントを付
クリップやパターンクリップに重ねることができ、
ンしたいパラメーターのボタン、ツマミ、スライ
けていく。カーブの種類は「Single curve 」、
編集時もプレイリストコントロールのフォーカス指
ダーなどを右クリックし「Create automation
「Double curve」、「Hold」、「Stairs」、「フ
定により別々に行なえる
(図3)。
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オートメーションを活用しよう!
ミュートを使ったトラック作り
ミュートオートメーションの用途としては、主に
トラックのオン/オフ、エフェクトのオン/オフな
他、クリップトラックのオーディオ・クリップ
中では12小節目からのパターン「Saw2」
で使用
「Pad Loop」の49小節2拍目からのようなオリ
している。ここではジェネレータ「Gold saw」に
ジナルのLOOPを部分的に残す状態をミュート
Fruity Phaserを使用し、フレーズの後半部分
で作ってみるのも面白いと思う。
だけPhaser効果が掛かるようにエフェクトMIXレ
パターン「BASIC」内のジェネレータ「DL_
ベルをオートメーションしている。
どで使う。ミュートはオン/オフのみなので使用す
Elements」
のパーカッションLOOPでは、
「Fruity
他、FXセンド2番のエフェクト「Phaser」のセ
るカーブは「Hold」を使う。ここで今回のデモ曲
Love Philter」をインサートしておき、曲中にエ
ンドレベルを39小節目のブレイク部分のボーカ
のプロジェクトの例を取り上げてみたい
(図4)。
フェクトのオン/オフでパターンのバリエーション
ルを強調する効果で使っている。このような感じ
この中のパターンネーム「BASIC」のような複
を作っている。ちなみに13∼20小節目がオンの
で部分的にエフェクトをコントロールすることによ
数のパートで構成されているONE LOOP系パ
状態で21小節目からオフの状態となっている。
り曲のイメージ感を作ることができる。
ターンでは各ジェネレーターをミュートすることで、
無駄なパターンを作らずに済む。クラブ系テクノ
などではパートのオン/オフのみで作る場合など
が多いが、これと同じ発想と言える。
エフェクト・オートメーションで
曲全体のイメージ感を構築する!
他にもボリュームやパンニングなど基本的な
オートメーションを使用しているのでプロジェクト
内をチェックしてもらいたい。
次にエフェクト系のオートメーションだが、曲
図 4 1 つのパター
ンのジェネレーター
をミュートを使いオ
ン / オフすることで、
バリエーションを生
み 出 すこと が で き
る。クラブ系テクノ
などのトラックメイク
と同じ手法だ。
図2 きれいな正弦波(Sine)から直線、さらには階段状
(Stairs)などさまざまなカーブを描くことができる。もちろ
んフリーハンドも可能。
クリップを重ねた場合はプレイリス
トコントロールで対象を指定する
(フォーカスを変える)と編集がラク。
図 3 オートメーション・カーブは波形と重ねる
ことで、イメージが分かりやすく編集できる。
ボーカル入りのトランスポップを収録!
バックトラックはすべてFL STUDIOで制作!
今回は歌トラック入りのトランスポップを作成。
ボーカル専用プラグイン音源Zero-g「VOCAL
ここではパートで使用したジェネレーター、エ
ジェネレーター 19個、エフェクト16個、オーディ
FORGE」を使用し(図5)、FL STUDIO内に
フェクトの使い方など紹介してみたい。
オクリップ10個を使用した。ちなみに歌素材は
オーディオ・クリップ化した。
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素材のテンポチェンジや
再構成に便利な
「Fruity Slicer」
図5 今 回のボーカル・ト
ラックにZero-G「VOCAL
FORGE」
を使用。男性&
女性ラッパー、ポップ・シ
ンガー、ソウル・シンガー、
R&Bシンガーなど、プロの
ボーカリストのパフォーマン
スを大量に収録したボー
カル音源。 本プラグイン
はFL STUDIO標準搭載
のプラグインではないが、
FL STUDIOではこのよう
なプラグインを読み込むこ
とも可能。 問い合わせは
クリプトン・フューチャー・
メディア株式会社。
曲 中 の パーカッションLOOPパート「DL_
Elements」
ではFL付属のドラムLOOPを使用し
ているが、FL STUDIOではLOOP素材を扱う
場合、テンポチェンジ、素材の再構成が可能な
「Fruity Slicer」
が大変役立つ
(図6)。
このFruity Slicerは読み込んだオーディオ素
材に対し、拍の位置を検知しスライスしてくれる
機能を持っている。 例えば、ドラムLOOP素材
であれば素材の中のキック、ハット、スネアなど
を1つずつ検知しスライスしてくれる。スライスさ
れた各ポイントは鍵盤に自動アサインされ、音源
として使うことができる。さらに「ピアノロールダ
ンプ」機能を使うと素材のグルーブをキープした
ままピアノロール上にノート化してくれるので、テ
ンポチェンジにも対応できるという仕組みだ。
応用するとピアノロール上のノートを組み替え
ることで素材のパターンを変えられるわけだが、
オーディオ波形の切り貼りとは違った感覚で再
構成できるのが面白い。
FLアルペジエーターと
テンポディレイでフレーズ作り
トランスではアルペジエーターとテンポディレ
図 7 チ ャン ネ ル に ビ ル
トインされているアルペジ
エーター。トランス、テク
ノ系などダンスミュージック
には必須の機能だ。
図6 ループ素材を扱う場合に便利なFruity Slicer。
イを組み合わせたフレーズが定番となっている。
FL STUDIOでアルペジエーターを使う場 合、
モジュレータのチャンネル・セッティングに備わっ
ているアルペジエーターを使用する
(図7)。
機 能としては再 生 方 向を指 定する「Up /
Down」再生する音符を設定する「Arpeggio
Time」、アルペジオノートのゲートタイムを調節
する「Arpeggio Gate」、オクターブの移動範
囲を設定する「Arpeggio Range」、ノート間を
図8 ア ル ペ ジ エ ー
ターを使用すると、シン
プルなノートも複雑な動
きを見せるサウンドへと
変化する。まずは使っ
てみよう。
スライドさせる「Slide」、1ノートを抑えただけで
コードを鳴らせる「Arpeggio Chord」など機能
は充実している。
トランスで聴かれるパターンとしては、コード
に対してUp/Downタイプを使うパターンなど多
い。 特殊な使い方としてはフレーズに対して使
分かるが、実際の音とピアノロール上のノートが
う場合で、テンポディレイと組み合わせた複雑
大きく違うことが分かると思う。このノートはアル
さらにここに3連8分のテンポディレイを使用し
なパターンなどがある。
ペジオ用に作られたノートということが分かるだろ
ていて、すべてのノートとアルペジオ音に対して
ことになる。
プロジェクトのパターン「Arpsyn」は再生方向
う
(図8)。
ディレイ音が加わる。 従ってピアノロールのノー
はUP、タイムは8分のアルペジオ設定となって
仕組みとしてはアルペジオ設定は8分音符な
トより音が増えるということになる。
いて、さらに3連8分のテンポディレイを使用して
ので8分以上のノートに対してのみ、アルペジオ
実際は頭で考えるより聴いてノリを設定してい
いる。中身を解説すると、
このパートのピアノロー
の効果が表れる。ここでは1小節目のA5、2小
くものだが、理論的に作ればより深いフレーズ
ルのノートとパターンのサウンドを比べてもらうと
節目のA5、2小節2拍目裏のB6に対してという
が作れるので色々と研究してもらいたい。
次回予告! FL STUDIOで音響系テクノを作る!
FL STUDIOの実験的なジェネレータを多数使い、音響系テクノを再現。
そのサウンド作り、テクニックを紹介します。
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