デリバティブ - Web Banking College

バンキング カレッジ
デリバティブ
デリバティブ
ホールセール業務ゼミ
「デリバティブ」入門講座
1時限目
私が、
「デリバティブ」ゼミを担当する工藤 顕です。このゼミでは、イ
メージが先行しがちな「デリバティブ」の本質について、3 時限に分
けて勉強していただきます。わかりやすさを第一に講義しますので、
しっかり理解してくださいね。
1 時限目 講義内容
STEP1
まず、
「デリバティブ」をイメージしよう
STEP2
いちばんわかりやすい「デリバティブ」
STEP3
よくばりな商社と堅実な商社の話
STEP4
オプションって、何だろう?
STEP5
オプションの本質は、保険なのだ
この講義は、入門編・初級編・中級編の三部で構成されます。
1 時限目の入門編では、まず身近な視点からデリバティブの基本
概念をとらえ、さらに基本的なデリバティブの手法について勉強し
ます。ちなみに、2 時限目の初級編ではコーポレートファイナンス
の視点から見た代表的なデリバティブを、3 時限目の中級編では
金融工学から見たデリバティブ理論、およびリスク管理とデリバ
ティブ業務の関わりなどについて勉強します。なるべくわかりやす
く講義します。ゆっくり、しっかり理解してください。
デリバティブ
ホールセール業務ゼミ
「デリバティブ」入門講座
1時限目
STEP
1
難解と思われがちな「デリバティブ」。まず、その心の壁を取り払いましょう。
身近な存在に置き換えてみると、「デリバティブ」は意外とイメージしやすいものです。
STEP1 「デリバティブ」をイメージしよう
(1)「デリバティブ」って、何だろう?
「デリバティブ」について、みなさんはどんなイメージを持っています
か?「何だかとても難しいもの」
「大きな損失事件では必ず登場す
る」
「世界に数十人しか本当に理解している人はいないらしい」…な
どなど、かなり難解な印象が返ってきそうです。でも、
「デリバティ
ブ」とは、考えようによってはとても身近なもの。たとえば、20 年の
住宅ローンがどうしてあのような低金利で固定化できるのかなど、
私た ちの生活に「デリバティブ」の考え方は密着しているのです。
それでは、試しに、
「デリバティブ=Derivative」を辞書でひいてみま
しょう。
「派生的な」
「派生物」とあります。すなわち、もととなる何か
(「原資産」といいます)から派生して作り出され、原資産の価格に
その価値が依存するような金融商品を「デリバティブ」と呼びま
す。でも、これでは何のことだかわかりませんね。
(3) コーヒーチケットを、いくらで売買するか?
ここで、資料 2 をご覧ください。
世の中の多様なニーズに対応したルールを作り、誰もが納得する
合理的な値付け(プライシング)を行う技術、それが「デリバティ
ブ技術」です。そして、みんなが同じルールの中で参加し、そう
してでき上がった派生的商品の売買をしあうのが「デリバティブ取
引」。何となくイメージがつかめますか?
<資料 2>
コーヒーチケットの価格
(2)「デリバティブ=コーヒーチケット」と考えよう。
もう少しわかりやすく「デリバティブ」をイメージするために、たとえ
ば 1 枚 100 円のコーヒーチケットを考えてみましょう。資料 1 をご
覧ください。
<資料 1>
デリバティブ = コーヒーチケット ?
ここでは、コーヒーの値段が毎日変わるものと仮定しま
す。今日コーヒーチケットを 100 円で買えば、明日コー
ヒーが 120 円になっても、100 円のコーヒーチケットと
120 円のコーヒーを交換することができます。すなわち、
コーヒー(=原資産)の値段がどう変わっても、いつでも一
杯のコーヒーと交換できるチケット(=派生商品)、それが
「デリバティブ」商品です。
言い換えれば、将来コーヒーがいくらになっても今日の
100 円で確定させる商品の取引。この考え方が、「デリバ
ティブ」の基本中の基本です。ところで、このコーヒーチ
ケットは、今いくらで売買すべきでしょう?コーヒーの値段
が上がり続けるなら、いつも 100 円では済みませんね。
「コーヒーの値段」=「コーヒーチケットの価値」と考えら
れます。コーヒーの値段が上がればコーヒーチケットの
価値も上昇します。コーヒーチケットの売買にいろんな
条件を付ければ、この損益関係も変化します。チケット
の今の値段(価値)は、こうした条件を考慮して独自に
値付け(プライシング)されます。
それでは、実際の「デリバティブ商品」で、つかんだイメージを
掘り下げましょう。
デリバティブ
ホールセール業務ゼミ
「デリバティブ」入門講座
1時限目
STEP
2
銀行業務の中に昔から存在する「為替予約」は、デリバティブのイメージをつかむためには格好の題
材です。
STEP2 いちばんわかりやすい「デリバティブ」
(1) 実は、昔からあったデリバティブ。
「デリバティブ」というと、最先端の金融テクノロジーと思われがち
ですが、実は日本でも江戸時代から広い意味のデリバティブ取引
が行われてきました。大阪は堂島の「米の先物取引」がそれです。こ
の取引では、あらかじめ決められた価格で、将来のある時点で米を
売買する契約を結びます。決められた価格より米が値上がりすれ
ば得。値下がりすれば損です。ここでも、米という商品自体ではな
く、米を決められた価格で売買する権利と義務が取引されたので
す。これから勉強する「為替予約」も、比較的昔からあった「デリバ
ティブ」の概念を用いた商品の一つといえます。
(2)「為替予約」は、最も基本的なデリバティブ。
「為替予約」とは、将来の決まった期日にある通貨を決まった値段
で買う、もしくは売る予約のことです。
「為替予約」は、為替レートという原資産に対する幅広い意味での
「デリバティブ」です。銀行業務の中では、かなり以前からある商品
ですね。
<資料 4>
為替予約の価値
一月後の為替レートが円安(たとえば 1 ドル=130 円)
になれば、現在の相場より安い 110 円で 1ドルを買える、
すなわち価値は 20 円のプラスとなります。もし円高(た
とえば 1 ドル=90 円)になれば、相場より高い 110 円
で 1 ドルを買わなければならない、すなわち価値は 20
円のマイナスです。
ここで、資料 3 をご覧ください。
(3) 為替予約の 2 つの顔。
<資料 3>
デリバティブ(1): 為替予約
それでは、
「為替予約」は、どんな場合に使われるのでしょうか。大き
く2つの使われ方があります。
“投機目的”の為替予約
相場の動向を予測し、値上がりすると見込んだ通貨を安い値段で
予約することで収益を得ようとする場合です。これを「投機」といい
ます。
“ヘッジ目的”の為替予約
将来の価格変動を避けるために、現時点で損益を確定するような
取引を「ヘッジ取引」といいます。将来、必要な通貨が大きく値上が
りするリスクを回避するために、現時点で妥当な価格で買う権利を
予約してしまうわけです。
続いて、資料 4 をご覧ください。
投機目的とヘッジ目的では、
「為替予約」はどんな顔を見せるのか?
どうです?原理はコーヒーチケットと同じでしょう。
次に、2 つの商社に登場してもらいましょう。
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「デリバティブ」入門講座
1時限目
STEP
3
最も基本的な「デリバティブ」である「為替予約」。その本来の役割は、投機ではなくリスクの回避に
あります。ここでは、2 つの商社のケースをもとに、
「デリバティブ」の本質にふれてみましょう。
STEP3 よくばりな商社と堅実な商社の話
(1) 投機目的の商社が見る天国と地獄。
投機目的とヘッジ目的では、
「為替予約」はどんな働きをするか。こ
こでは、わかりやすくイメージするため 2 つの架空の商社の事例を
考えてみます。まず、投機目的で 1ドルを 110 円で為替予約した、
商社 A の事例です。資料 5 をご覧ください。
<資料 7>
「投機目的」+ 円高
<資料 5>
「投機目的」の為替予約
1ドル=90 円になった場合には、為替予約のために現在
の相場より高い 110 円でドルを買わなければならず、20
円の損をしたことになります。
商社 A には、一月後、どんな運命が待っているか? 2 つのケース
が有り得ます。まず、資料 6 をご覧ください。
<資料 6>
「投機目的」+ 円安
円が一月後、高くなるか安くなるかは、明確にはわかりません。投機
で儲けることを目的に為替予約した商社 A は、逆に損失を受ける
リスクも同時に予約しているのです。
(2) 上手にリスクを回避した堅実商社。
次に、ヘッジ目的のために為替予約を利用した商社 B の事例を考
えてみましょう。商社 B はこんな取引を行いました。資料 8 をご覧
ください。
<資料 8>
「ヘッジ目的」の為替予約
もし 1ドル=130 円になれば、為替予約を用いて 1ドルを
110 円で買った後、このドルをすぐに 130 円で売ることに
より、20 円の儲けを得ることができます。
次に、資料 7 をご覧ください。
一月後に輸入代金の支払いのためにドルが必要となる輸
入貿易商社 B は、110 円でドルを買う為替予約をしました。
このように、将来の価格変動を避けるために現時点で損益
を確定するような取引を「ヘッジ取引」といいます。
デリバティブ
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1時限目
STEP
3
(3)「為替予約」の本質は、リスクヘッジ。
次に資料 9 をご覧ください。商社Bの思惑は当たったようです。
<資料 9>
「ヘッジ目的」+ 円安
「為替予約」は、将来の時点で、為替をある価格で買う“約束”です。
「為替予約」を結んだ時点では、元手、つまり将来に為替を予約し
た価格で買うための資金を用意する必要はありません。いいかえれ
ば、お互いが合意すれば資金がゼロでも数億ドルにのぼる巨額な
取引ができる仕組みなのです。事例としてあげた投機目的の商社
A のケースでは、円高の場合には損失の総額をゼロから支払わな
ければなりません。一方、ヘッジ目的の商社 B の場合には、あらか
じめ用意された予算の中で損失が吸収できます。
「為替予約」に限らず、デリバディブ取引で巨額の損失を被る企業
は、投機目的の場合がほとんどです。
一月後に、1ドルは 130 円の円安(ドル高)となりました。
もし為替予約していなければ 1 ドルを 130 円で買わなけ
ればならず、原価超過になっていましたが、為替予約のお
かげでこれを回避することができました。
それでは、円高になった場合にはどうでしょう。資料 10 をご覧くだ
さい。
<資料 10>
「ヘッジ目的」+ 円高
一月後に、1ドルは 90 円の円高(ドル安)となりました。
現在の相場より高い 1 ドル=110 円でドルを購入しなけ
ればなりませんが、この値段なら国内で商品を販売すれば
黒字となるので大きな問題とはなりません。
堅実な商社 B は、
「為替予約」を利用し、ドルの価格変動にともな
うリスクを最小限に抑えることができました。この場合、1 ドルが
90 円になった場合の損失も、あらかじめコストの中に組み込まれ
ています。
為替変動リスクをヘッジ(回避)するための仕組み、それが「為替予
約」の本来の役割といえます。
では、ここで質問です。
ヘッジ目的の商社 B は、さらに、円高のメリットを活用できる新た
な「デリバティブ」に取り組みました。どんな仕組みが考えられるで
しょうか?
その答は、次で明らかにします。
デリバティブ
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「デリバティブ」入門講座
1時限目
STEP
4
「為替予約」について、理解できましたか?次に、より本格的なデリバティブ商品である「オプション」
の基本概念を講義します。先程の質問の解答から勉強をスタートします。
STEP4 オプションって、何だろう?
(1) 堅実な商社 B の悩みとは?
(2)「オプション」は古代ギリシャ生まれ。
ひき続き、堅実な輸入貿易商社Bの事例をもとに講義をすすめま
す。ヘッジ目的で「為替予約」を活用した商社 B ですが、同時に大
きな悩みもありました。それは、
「為替予約」をしている限り、1ドル
が 90 円になっても110 円で買わなければならないこと。これでは、
1 ドルを 90 円で購入できる円高メリットが受けられません。そこで
商社 B が新たに取り組んだ「デリバティブ」が「オプション」です。
資料 11 をご覧ください。
かつて、古代ギリシャのターレスは、オリーブを収穫するための掘削
機を貸す権利を売買して一もうけしたと言われています。オリーブが
豊作となると掘削機の賃貸料は上がり、不作となると賃貸料は安
くなります。そこで、あらかじめ掘削機を貸す権利を業者から買い
取り、賃貸料が高い年だけその権利を行使する、
「オプション」の原
型が行われていたのです。また、近代のオランダで行われたチュー
リップの球根相場でも同様の手法がとられました。金融最先端技
術といわれる「デリバディブ」も、実は人類の歴史にとけこんだ取引
手法なのです。
<資料 11>
デリバティブ②: オプション
(3)“いいとこどり”する権利、それが「オプション」。
自分の都合のいい時だけ権利を行使する権利、それが「オプショ
ン」です。事例であげた商社Bの場合でも、1ドルに付き 10 円のオ
プション料を払うことで、ドルが高く動いた時には権利を行使して
ドルを安く買い、ドルが安くなれば権利を放棄してより有利な価格
でドルを買うことができます。つまり、
“いいとこどり”をする権利が
オプションであり、
“いいとこどり”の価値を有料で取引するのがオ
プション取引だとイメージしてください。
「為替予約」は、もし相場が自分にとって不利な方向に動
いたとしても、予約内容を実行しなければなりません。し
かし「オプション」では最初に少額の手数料を払う代わり
に、その内容が不利になる場合にはその約束は放棄する
ことができます。掛け捨て保険とイメージは似ています
ね。
「オプション=Option」を辞書でひくと、「選択」
「選択権」とありま
す。つまり、
「オプション」とは将来、原資産を決まった値段で買う、
または売ることができる権利であり、その権利を行使するか放棄す
るかは「オプション」の購入者が自由に決めることができます。ま
た、買う権利のことをコール、売る権利のことをプットと呼びます。
「オプション」は、
「為替予約」よりも一歩進んだ、より本格的な「デ
リバディブ」商品です。
では、ここで質問です。
1ドルが 120 円になった場合、商社 B は 1ドルを 110 円で買う権
利を行使したほうが得でしょうか?放棄したほうが得でしょうか?
答は、次に明らかにします。 デリバティブ
ホールセール業務ゼミ
「デリバティブ」入門講座
1時限目
STEP
5
「為替予約」について、理解できましたか?次に、より本格的なデリバティブ商品である「オプション」
の基本概念を講義します。先程の質問の解答から勉強をスタートします。
STEP5 オプションの本質は、保険なのだ
(1) オプションと円安、円高。
(2) 円安なら行使、円高では放棄。
1ドルが 120 円になった場合、1ドルを 110 円で買う 10 円の「オ
プション」を行使するか、放棄するか?質問の答はわかりましたか。
それでは、買う権利=「コールオプション」に的を絞って、円高と円
安それぞれの場合をシミュレートし、質問の答を考えてみましょう。
まず円安(ドル高)の場合です。資料 12 をご覧ください。
ここで資料 14 をご覧ください。
この質問で設定した 1ドル=120 円の相場では、「オプション」を
行使すると 10 円のオプション料を含めて 120 円で 1 ドルを買う
ことになります。とんとんですね。
「オプション」を放棄した場合に
は、現時点での為替価格 120 円に 10 円のオプション料を含め、1
ドルに 130 円を支払わなければなりません。つまり、質問にあげた
条件下では、オプションを行使したほうが得です。
<資料 12>
「コールオプション」+ 円安
<資料 14>
コールオプションの価値
一月後に 1ドルを 110 円で買う権利、すなわち 110 円のド
ルコールオプションを 10 円で買った場合を考えてみます。
一
月後に 1ドルが 130 円になっていた場合には、
このオプショ
ンを行使して 1ドルを 110 円で買うことにより、オプション
料を含めて 1ドルを 120 円で購入することになります。
次に円高(ドル安)の場合です。資料 13 をご覧ください。
<資料 13>
「コールオプション」+ 円高
つまり、一月後に 1ドルが 110 円より高い(円安)の時は「オプ
ション」を行使しますが、それより安い(円高)の時は「オプショ
ン」を放棄したほうが得です。放棄した場合でも、オプション料
の 10 円は支払わなければなりません。
(3) オプション料は、
円安に対する
“保険料”
。
この事例では、円高によって
「オプション」
を放棄した場合、オプション
料の 10 円は払い損になりました。
その代わり、円安でドルの値が大き
く上昇しても、オプションを行使すれば 1ドルをあらかじめ予約した値
段で買うことができます。
つまり、オプション料とは、円安に対する
“保
険料”
といえます。
では、万人が認める1ドル 10 円というオプション料
金は、どうやって決められるのでしょうか?この追求が、実はデリバティ
ブ理論を究めていくための入り口なのです。
さて、
ここで、
次の時間まで考えておいてほしい課題を出します。
課題 1.
一月後に 1 ドルが 90 円になった場合はどうでしょうか。
この場合はオプションを放棄して現在の為替レート、1ド
ル=90 円でドルを購入することにより、オプション料を
含めると 1ドルを 100 円で購入したことになります。
いま、
1ドルの為替相場は 110 円だと仮定します。
1 カ月後に 1ドルを 110 円で買うオプション料、
10 円。
1 カ月後に 1ドルを 100 円で買うオプション料、
10 円。
1 カ月後に 1ドルを 120 円で買うオプション料、
10 円。
3 つの 10 円のうち、
どれがいちばんオプション料としてお得でしょう?
この課題が、デリバティブ理論への入り口。
解答は、2 時限目で明らか
にします。
デリバティブ
ホールセール業務ゼミ
「デリバティブ」入門講座
1時限目
まとめ
これで、1 時限目の講義は終了です。
「デリバティブ」とは何かについて、イメージできましたか?あまり難しく考えることはありません。その基本概念はコーヒーチケットなのですか
ら(笑)。次の時間では、実際のコーポレートファイナンス業務の中でもっとも活用される、
「スワップ」を中心に講義をすすめます。2 時限目も、
がんばって受講してください。
それでは、課題を忘れずに考えておいてくださいね。
課題 1
いま、1ドルの為替相場は 110 円だと仮定します。
1 カ月後に 1ドルを 110 円で買うオプション料、10 円。
1 カ月後に 1ドルを 100 円で買うオプション料、10 円。
1 カ月後に 1ドルを 120 円で買うオプション料、10 円。
3 つの 10 円のうち、どれがいちばんオプション料としてお得でしょう?
デリバティブ
「デリバティブ」初級講座
ホールセール業務ゼミ
2 時限目
1 時限目の講義はいかがでした?「デリバティブ」についてイメージ
できたでしょうか。また、課題 1 について考えてきてくれましたか?
今回は、コーポレートファイナンスの現場で実践される主要なデリ
バティブ手法について講義します。がんばって受講してください。
2 時限目 講義内容
STEP1
デリバティブが、企業の財務を安定させる
STEP2
実践的デリバティブ、
「キャップ」と「スワップ」
STEP3 「スワップ」は、企業財務を安定化する特効薬
STEP4
デリバティブ理論のプロローグ
1 時限目では「デリバティブ」について身近な視点でイメージしても
らうことに重点をおきました。2 時限目では、コーポレートファイナ
ンスの現場で駆使される実践的なデリバティブ手法について、具体
的な講義を行ないます。
「デリバティブ」は、銀行のコーポレートファイナンス業務の幅を広
げる不可欠の手法です。まず、その理由を理解した上で、さまざま
なデリバティブ手法についての知識を身につけてください。それで
は、2 時限目の講義をはじめます。
デリバティブ
ホールセール業務ゼミ
「デリバティブ」初級講座
2 時限目
STEP
1
まず、銀行のコーポレートファイナンス業務にとっての「デリバディブ」の意味を理解しましょう。
その上で、実践的なデリバティブ手法を勉強するための基礎を学びます。
STEP1 デリバティブが、企業の財務を安定させる
(1) コーポレートファイナンスと「デリバティブ」。
<資料 1>
2 時限目の講義をはじめるにあたり、復習をかねて、1 時限目で学
んだ手法が企業に与えるメリットを確認しておきましょう。
固定金利・変動金利って ?
為替予約
将来の決まった期日に、ある通貨を決まった値段で買う、あるいは
売る予約のことです。企業にとっては、将来の為替の価格変動を避
け、現時点で損益を確定できるメリットがあります。
オプション
「為替予約」では、もし相場が自分にとって不利な方向に動いても、
予約内容を実行する必要があります。それに対して「オプション」で
は、最初に少額の手数料を払えば、相場が不利に動いた場合には
予約を放棄することができます。つまり、
“いいとこどり”の権利が
「オプション」。企業にとって、「為替を買う権利=コールオプショ
ン」は、相場がどれだけ不利に動いても損失を手数料に限定でき
る、いわば保険の役割を果たします。
この時間の講義では、
「為替予約」
「オプション」に続いて、
「キャッ
プ」
「スワップ」といった実践的手法について学びます。しかし、本
質はみんな同じ。さまざまな市場リスクをヘッジ(回避)し、企業の
財務を安定させることがデリバティブの本質的な役割です。当行
では、これから勉強するさまざまなデリバティブ手法を駆使して、企
業の財務を安定化するお手伝いに務めています。このゼミで展開
する「デリバティブ取引」は、企業の財務リスクをヘッジする銀行の
企業向けサービス、すなわちコーポレートファイナンスの一環であ
ることを、まず頭にたたき込んでください。
(2) 2 時限目の基本、固定金利と変動金利を学ぼう。
この時間では、私たちがコーポレートファイナンスの一環として実
際に使っているデリバティブ商品を勉強します。まず、講義の予備
知識として、金利について押さえておきましょう。資料1をご覧くだ
さい。
金利には固定金利と変動金利という区別の方法がありま
す。固定金利は取引を始める際に今後の全期間の金利を
一定水準に定める長期金利のこと。一方、変動金利は、指
標となる金利の変化にともなって適用する金利も一定期
間ごと(たとえば半年ごと)に変化する短期金利のことで
す。一般的に短期金利は長期金利より低いケースが多
く、銀行が資金を調達する際の基本となるのが、この変
動金利のベースとなる短期金利です。
これがどう「デリバティブ」に関係するのかって?固定金利
と変動金利は、2 時限目で勉強するデリバティブ手法の
前提となるのです。しっかり理解してください。
では、いよいよ具体的なデリバティブ手法について勉強しましょう。
準備はいいですか?
デリバティブ
ホールセール業務ゼミ
「デリバティブ」初級講座
2 時限目
STEP
2
いよいよ、実践的なデリバティブの講義です。企業財務のリスクヘッジのため、極めて有力な手法と
して活用される「金利キャップ」と「金利スワップ」。まず「金利キャップ」の概念と効果を勉強した上
で、
「金利スワップ」の基本概念に講義をすすめます。
STEP2 実践的デリバティブ、
「キャップ」と
「スワップ」
(1)「金利キャップ」って何だろう?
企業が変動金利で銀行から資金を借り入れると、金利が急激に上
昇した場合に予定外の金利負担を強いられます。そこで、はじめに
少額の手数料を支払う代わりに、将来金利が上昇した時に支払い
金利が一定の上限に抑えられるようにする「デリバティブ」が、「金
利キャップ」です。
<資料 3>
キャップの効果
(2) 金利上昇に備える保険料、それが「キャップ」。
「キャップ」は、実際にはどのように活用されるのでしょうか?資料
2 をご覧ください。
<資料 2>
キャップの具体例
金利が 5%に上昇しても、キャップ料 1%+上限金利 2%の、
実質 3%の金利負担で済みます。
金利が 1%になった場合には、1%のキャップ料+TIBOR の
金利 1%の実質 2%の金利を負担します。つまり、市場金利
がいくら上昇しても、支払い金利は一定水準を越えることが
ない。それが「キャップ」です。
「キャップ」は、金利が上昇した時には支払い金額を抑える効果を持
ちますが、金利が下がった時にはキャップ料の払い損になります。し
たがって、キャップ料は金利上昇に対する“保険料”と考えられます。
「キャップ」を取り組んでいなければ、金利が大きく上昇した
時には資金の調達コストも大きく増えてしまいます。しかし、
「キャップ」を取り組めば最大でも(キャップ料+上限金利
=)年 3%に抑えることができ、財務の安定につながります。
では、ここで質問です。
「キャップ」を買った人の損益グラフは、金利
の推移を横軸にとった場合にどのように描けるでしょうか。答は、資
料 4 をご覧ください。
<資料 4>
キャップの損益の推移
「キャップ」の役割について正しく理解するために、金利が 5%に上
昇した場合と、1%に下落した場合を考えてみましょう。上限金利は
年 2%、キャップ料は年率で 1%の想定です。資料 3 をご覧くださ
い。
金利の推移を横軸にとった「キャップ」の損益グラフは、1 時
限目で勉強したコールオプション損益グラフと同じ形になり
ました。これは、原資産を「購入」するオプションを「購入」す
る際に共通する損益構造です。すなわち、
「キャップ」とは「オ
プション」の一種なのです。
デリバティブ
ホールセール業務ゼミ
「デリバティブ」初級講座
(3) それでは、
「スワップ」って何だろう?
次に、「金利スワップ」というデリバディブ商品について勉強しま
しょう。
「スワップ=SWAP」を辞書でひいてみると、「交換する」
「交易する」という意味があることがわかります。
すなわち、
「金利スワップ」とは、ある決められた元本に対してかか
る金利を交換する取引のことです。でも、これでは何のことだかわ
かりませんね。いったい、金利を交換するとはどういうことなので
しょう?
次に、いよいよ「デリバティブ」屈指のマジックを明らかにします。
2 時限目
STEP
2
デリバティブ
ホールセール業務ゼミ
「デリバティブ」初級講座
2 時限目
STEP
3
「スワップ」は、
「デリバティブ」のもっとも有効な手法の一つでありながら、その概念はなかなか理解しにくいも
のです。
“金利の交換”という「スワップ」の原理とその効果を、なるべく単純化した例を通して勉強しましょう。
STEP3 「スワップ」は、企業財務を安定化する特効薬
(1) 銀行の固定金利と、企業の変動金利を交換する。そ
れが「スワップ」。
<資料 6>
「投機目的」+ 金利低下
「スワップ」とは、ひとことで言えば、長期金融市場の固定金利と、
短期金融市場の変動金利を交換する取引です。ここでは、10 億円
の元本を想定し、それに対する 1%の固定金利と、TIBOR による
変動金利を 5 年間交換する「金利スワップ」を考えてみましょう。
資料資料 5 をご覧ください。
<資料 5>
金利スワップの具体例
変動金利が、予測通りに 1 年後に 0.8%、2 年後に 0.5%
へと低下しました。毎年の受取は固定金利の 1%で 1000
万円と変わりませんが、支払いのほうは 1 年後には 800
万円、2 年後には 500 万円となり、2 年間で合計 700 万
円の収益が得られます。
銀行から企業へは毎年 10 億円 ×1%、つまり 1000 万円
が支払われます。一方企業から銀行へは、毎年 10 億円 ×
(その時点での TIBOR)、たとえば 1 年もの TIBOR が
1.2%ならば 1200 万円が支払われます。この場合年 1 回
ごとのこの交換を 5 年間、すなわち計 5 回交換すること
になります。この取引は、10 億円の想定元本に対する金
利を交換するものであり、企業は実際に 10 億円を借りる
必要はありません。
次に、予測に反して金利が上昇した場合を考えてみます。資料 7 を
ご覧ください。
<資料 7>
「投機目的」+ 金利上昇
この企業は「スワップ」により、10 億円を TIBOR 金利(変動金利)
で 1 年ごとに調達し、5 年間 1%の固定金利で運用したのと同じ
経済効果を、元本を借りることもなしに実現したことになります。
(2)
“投機目的”
の金利スワップ
それでは、1 時限目の
「為替予約」
の時と同じように、投機を目的とし
て「金利スワップ」を取り組んだ場合を考えてみます。
これから短期
の変動金利が下がっていくと予想した場合、変動金利を支払い、1%
の固定金利を受け取る、元本 10 億円の
「金利スワップ」
を取り組ん
だとしたら、
その損益はどうなるでしょう。
資料 6 をご覧ください。
変動金利は 1 年後に 1.2%、2 年後に 1.5%へと上昇しま
した。受取のほうは毎年固定金利の 1%で 1000 万円と
変わりませんが、支払いは 1 年後には 1200 万円、2 年後
には 1500 万円と、2 年間で合計 700 万円の損失が出て
しまいます。
デリバティブ
ホールセール業務ゼミ
「デリバティブ」初級講座
2 時限目
STEP
3
(3) 企業財務のブレをなくす、
“ヘッジ目的”の金利スワップ
「スワップ」は実際に元本を必要としない金利だけの取引であるた
め、取引の総額はどこまでも膨らみます。お互いが合意すれば一つ
の銀行と企業だけで 100 億円の「スワップ」を行うことも可能で
す。一方、為替の動きと同様、短期の変動金利を正確に予測するこ
とはできません。投機目的の「スワップ」は、天文学的な額の損失と
隣り合わせにあるのです。これは、企業の財務リスクをヘッジする
正しいデリバティブのあり方とはとうてい言えません。
投機目的とは逆に、
「スワップ」により会社の収益を安定させること
はできないでしょうか。一般に世の中の景気がいい時は変動金利
は上昇し、景気が悪い時には変動金利は低下します。この傾向を
上手に読み込んだ「金利スワップ」を取り組めば、景気の変動にと
もなう収益のブレとは関係なく収入を安定させることができます。
資料 8 をご覧ください。
<資料 8>
金利スワップの効果
一般に、短期金利が高い時には景気がよく、企業は大きな
収益をあげているケースが多いといわれます。その逆に、
変動金利が低い時とは、企業はあまり収益をあげていな
いことが多いものです。「金利スワップ」を取り組むこと
で、景気がよく収益の大きい時には企業は変動金利の支
払いを増加し、景気の悪い時には支払いを減らすことがで
きます。一方、銀行から支払われる固定金利は、常に一定
額です。
「スワップ」により、企業は景気変動による収益の
ブレをミニマイズして収益を安定させることができ、財務
体質の安定化につながります。
収益が金利推移と大きく関わる企業(金融機関 + 金利敏感業種)
では、弾力的に「スワップ」を使って資産と負債の総合管理を行って
います。また、「スワップ」では実際の資金の貸し借りは発生しない
ため、その元本は企業の資産・負債を記したバランスシート(貸借
対照表)に記載されません。これはデリバティブ取引共通の特長で
す (*)。実際の運用・調達資金を必要とせず、バランスシートを変え
ず、金利収益を安定化できる。それが企業にとって「スワップ」の最
大のメリットといえます。
(*) 現在企業会計制度は大きな変革期にあります。
デリバティブについても、取引の時価(期末時点で取引を清算すれ
ばいくらの損益が発生するか)を貸借対照表や損査計算書に反映
させる制度改革が行われました。
多様なデリバティブ手法の勉強は、ここまで。
次に、1 時限目の課題 1 の解答を考えます。
新しい課題も用意していますよ。
デリバティブ
ホールセール業務ゼミ
「デリバティブ」初級講座
2 時限目
STEP
4
1 時限目に提出した課題を覚えていますか?実は、あの課題は、難解といわれるデリバティブ理論の
考え方を理解するための入り口です。2 時限目の最後は、課題 1 の答を考えながら、デリバティブ理
論の世界に少しだけふれてみましょう。
STEP4 デリバティブ理論のプロローグ
(1) もっとも利益を出しやすいのは、
どの 10 円?
1 時限目に出した課題は、
こんな問題でした。
いま、
1ドルの為替相場は 110 円だと仮定します。
1 カ月後に 1ドルを 110 円で買うオプション料、
10 円。
1 カ月後に 1ドルを 100 円で買うオプション料、
10 円。
1 カ月後に 1ドルを 120 円で買うオプション料、
10 円。
解答は考えてきてくれましたか?答を出すにあたり、もう一度「オプ
ション」
の基本概念を復習しておきましょう。
資料 9 をご覧ください。
<資料 9>
ドルの値段が下落し、コール・オプションを放棄した場合、いずれ
も損失はオプション料の 10 円です。
課題の答は、もうわかりましたね。3 つのオプション料 10 円の中
で、もっともお得なのは、1ドル 110 円を損益分岐点とする(2)で
す。1 カ月後に 1ドルを 100 円で買うオプションなら、ドルが値上
がりした場合もっとも利益が得やすく、逆にどんなにドルが値下が
りしても損害は 10 円に抑えられるのです。実際の市場では、このよ
うに異なる行使価格(100 円 110 円 120 円)で同じオプショ
ン料が建値されることはなく、諸条件に応じた合理的なオプション
料に収れんします。難解といわれるデリバティブの価格理論の入り
口です。
「オプション」とは
最初に少額の手数料を払う代わりに、将来、現資産をきまった
値段で買う、または売ることができる権利であり、その権利を
行使するか放棄するかは「オプション」の購入者が自由に決め
ることができる。買う権利をコール、売る権利をプットと呼ぶ。
課題は 1ドルを買う権利ですから、
「コール・オプション」になりま
す。そして、
「コール・オプション」の購入者は、利益は無限大にな
り得ても、損失はオプション料に限定されるという損益構造をもっ
ています。オプションの売り手は、その逆(利益はオプション料に
限定。損失は無限大)です。
それでは、
「コール・オプション」の損益構造に、問題の 3 つの「オ
プション」をあてはめてみましょう。資料 10 をご覧ください。
<資料 10>
3 つの「オプション」の損益
(2)「オプション料」を決める 5 つの原則
実際のオプション料の設定では、課題のような場合、3 つとも同じ
料金ということはありません。有利な条件ほど高いオプション料が
決められます。デリバティブの価格理論のルールでは、
1. いま原資産(ここでは 1ドル)の価格はいくらか(原資産価格)
2. 将来、いくらで売買できる権利か(行使価格)
3. 売買までの期間はどれくらいか(期間)
4. いまの金利はいくらか(金利)
5. 原資産の価格は、将来どの程度の変動が予測されるのか(ボラ
ティリティ)
がオプション料を決定する条件となります。3 時限目では、こうした
デリバティブの理論的側面について、なるべくわかりやすく講義を
したいと思います。
それでは、3 時限目まで考えておいてほしい課題です。
課題 2.
金利を 2%とした場合、現在の 1 万円と 1 年後の 1 万円の、
“今の
価値”はいくらでしょう?
1 のオプションでは、1カ月後に 1ドルが 120 円を越えれば利益がでます。
2 のオプションでは、1カ月後に 1ドルが 110 円を越えれば利益が出ます。
3 のオプションでは、1カ月後に 1ドルが 130 円を越えなければ利益が出
ません。
この問題に、実はデリバティブ理論の核となる概念「現在価値」に
ついて解き明かす鍵が含まれています。
詳しくは、3 時限目でお話ししましょう。
デリバティブ
ホールセール業務ゼミ
「デリバティブ」初級講座
2 時限目
まとめ
これで、2 時限目の講義は終了です。
「デリバティブ」の具体的な手法や、コーポレートファイナンスと「デリバティブ」の関わりについて、理解できましたか?特に「スワップ」などは
基本概念が難解です。何度でも復習して、その基礎をしっかり身につけてください。次の時間は、
「デリバティブ」の理論的側面を中心に、
「デリ
バティブ」に必要な能力にまで講義をすすめます。がんばって、受講を続けてください。
それでは、課題を忘れずに考えておいてくださいね。
課題 2.
金利を 2%とした場合、現在の 1 万円と 1 年後の 1 万円の、
“今の価値”はいくらでしょう?
答は、3 時限目で明らかにします。
デリバティブ
ホールセール業務ゼミ
「デリバティブ」中級講座
3 時限目
がんばって受講を続けていますね。課題は考えておいてくれま
した? 1 時限、2 時限と充分に理解が深められたでしょうか。
私の講義も、今回で最後です。コーポレートファイナンスの視
点から見た「デリバティブ」の本質について、正しい理解を深
めてください。
3 時限目 講義内容
STEP1
デリバティブの理論にふれよう
STEP2
この「スワップ」は、損か、得か?
STEP3
オプション価格は高等数学
STEP4
デリバティブは善玉?悪玉?
STEP5
どうなる、これからのデリバティブ
3 時限目は、2 時限目の最後にふれたデリバティブ理論へのプ
ロローグをより発展させ、「デリバティブ」の理論的背景につい
て講義します。
また、銀行のコーポレートファイナンス業務にとっての「デリバ
ティブ」の可能性や、デリバティブ業務に求められる人材像に
ついても勉強します。まず、デリバティブ理論の大前提となる、
「現在価値」から講義をはじめましょう。
デリバティブ
ホールセール業務ゼミ
「デリバティブ」中級講座
3 時限目
STEP
1
これまで勉強してきた多様な
「デリバティブ」。その理論的背景について、少しだけふれてみます。ま
ず、2 時限目の課題 2 を考えることからスタートしましょう。
STEP1 デリバティブの理論にふれよう
(1) 「現在価値」という考え方
「現在価値=(PV:Present Value)」とは、高度なデリバティブ理
論すべての前提となる考え方です。まず、さっそくですが 2 時限目
に出した課題 2 の答を考えてみましょう。
「課題 2.金利を 2%とした場合、現在の 1 万円と 1 年後の 1 万円
の、
“今の価値”はいくらでしょう?」
この答を考えておいてくれましたか?特に難しい問題ではありませ
ん。すぐに計算することができます。資料 1 をご覧ください。
<資料 1>
(2)「為替予約」の相場を計算しよう。
もう一つ、デリバティブ理論を進めていくに欠かせない考え方に
「裁定(=Arbitrage)」という概念があります。
1 時限目でお話ししましたように、「デリバティブ」とは原資産の価
格体系を利用して様々な「バーチャル取引」を市場の世界でルール
化したものです。そこでの具体的な取引の条件設定においては、誰
もが「リスクなしでもうける機会」がないような価格設定で取引が
開始されます。
原資産が 100 円でしか買えない状況下で、同じ原資産を 80 円で
買える権利が 10 円で取引されるわけがないことは容易に想像で
きるでしょう。
現在価値 (PV:Present Value)
それでは最も簡単な事例として 1 時限目で勉強した「為替予約」を
思い出して下さい。
将来の決まった期日に、ある通貨を決まった値段で買う、または売
る約束のことでした。ここで、
「為替予約」の相場をいくらに設定す
ればよいのか計算してみましょう。資料 2 をご覧ください。
<資料 2>
為替予約相場の理論値
金利を 2%と仮定します。現在の 1 万円は安全に運用す
れば 1 年後に利息が加わり 10,200 円になります。逆に
考えれば、1 年後の 1 万円は、今の時点では利子の分を割
り引いた金額の価値しかありません。
現在の 1 万円の“今の価値”は、当然 1 万円です。しかし、1 年後の
1 万円の“今の価値”は、9,804 円しかありません。こうした、将来
その原資が生む価値を割り引いた金額が、デリバティブ理論の前
提となる「現在価値」
なのです。
現時点で同じ価値のお金は、日本で1年間運用してもアメ
リカで 1 年間運用しても、結局同じ価値になるはずです。
よって現時点で設定される為替予約相場は、この考えを
満たすよう導かれる等式より求めることができます。F で
求めた 104,81 円が、現時点における理論値(=裁定値)
であり、これ以外の値は考えられません。
もっとも、実際に 1 年経過すると、この予約を行ったこと
による実際の損益は 1 年後の為替相場に左右されること
は先述したとおりです。
デリバティブ
ホールセール業務ゼミ
「デリバティブ」中級講座
3 時限目
STEP
2
以上の考え方を使って、
「スワップ」の価値を計算してみましょう。ここでは、少し詳しく計算方法に
ついて解説します。ぜひご自分でもチャレンジしてください。
STEP2 この「スワップ」は、損か、得か?
(1) まず、質問です。
期 間/ 2 年間
受 取/ 1 年 TIBOR: 現在の 1 年短期金利は 5%〔0 r 1=5%〕
1 年後の 1 年金利〔1 r 2〕は現時点では不明ながらここでは 7%
と仮定しましょう。
※ m r n は〔m 年から n 年までの市場金利〕の意(変動金利)
支払い/ 1、2 年後にそれぞれ 6%(固定金利)
支払い、受取の条件がこのような「スワップ」を取り組むべきでしょ
うか。
「スワップ」の「現在価値」の計算方法について、まず解説しま
す。ご自分で計算してみてください。では、資料 3 をご覧ください。
スワップの
「現在価値」
の計算方法
市場の金利は、ごく短期の金利から10 年金利といった長期のものま
で「期間構造」を持っています。
例えば横軸に期間(1 日から10年ま
で)
縦軸に金利水準といったグラフを作れば、今の金利の期間構造が
一目でわかります。
(このグラフを
「イールドカーブ」
と呼びます。
右上が
りであれば長期金利の方が短期金利より高いことを示します)2 時限
目で勉強したように
「金利スワップ」
は一定期間
(例えば 5 年)
の間、そ
の全期間の長期固定金利と、短期間
(半年や 1 年)
で変動する短期変
動金利を交換する取引です。
ここで先程の「現在価値」と「裁定」の考
えを思い出して下さい。
資料 4 に示すように、
今の時点で
「将来の短期金利」
はわかりません。
<資料 3>
現在価値の計算
しかし、
金利の期間構造から
「類推」
することはできます。
例えば、1 年後から始まる 1 年もの金利 1r 2 は、
(1+ 0r 1)
(1+ 1r 2)
=
(1+ 0r 2)2 という関係を万人が認めれば、現在の 1 年金利 0r 1
と現在の 2 年金利 0r 2 で求めることができます。
先の為替予約の決め方とどこか似てますよね。
受取、支払の「現在価値」をそれぞれ求めると、支払のほうが
540 万円大きくなりました。
よって、このスワップは取り組まないほうが得といえます。し
かしながら、資料3で説明したように、このように受取・支
払の PV が一致しない(=裁定が働く)ような、条件設定は
行われません。
このようにして、将来の短期金利を
「類推」
し
(これを Implied Forward
Rate といいます)
、資料 4 のように変動金利と固定金利の現在価値
が等しくなるような FIX(固定金利)の水準が、5 年の金利スワップ固
定金利として建値されることになります。重要なことは取引開始の現
時点において、裁定は働かない
(将来の受取と支払の理論値は
「同値」
となること)ということです。
もっとも、時間が経過して将来の短期金
利が明らかになってきますと、このスワップ自体の損得が次第に実現
してくることになります。
計算は終わりましたか?できた方は、
資料 4 をご覧ください。
デリバティブ
ホールセール業務ゼミ
「デリバティブ」中級講座
<資料 4>
スワップの「現在価値」の計算方法
通常、
「スワップ」は、受取と支払の双方の価値が等しい条件でスター
トします。その後金利の変化により、この問題のように受払いネット
の「現在価値」が 0 から離れていきます。スワップ自体が価値をもっ
て動き始めるわけです。例えば資料 4 の例でいえば、取引開始から
3 年が経過して残り 2 年となったと仮定しましょう。
過去 3 年間の受払い金額はもちろんイコールではなかったはずです。
また残り 2 年の価値も当然その時の金利体系で評価しなおせば、当
初のように 0 とはならないはずです。
この評価
(+か−か)
こそ、このス
ワップの 3 年目の価値なのです。
次は、
いよいよデリバディブの真髄、
「オプション」
の価格理論について。
2 時限目の講義を思い出してください。
3 時限目
STEP
2
デリバティブ
ホールセール業務ゼミ
「デリバティブ」中級講座
3 時限目
STEP
3
2 時限目の最後にふれた「オプション」の価格理論について、より詳しく講義します。自分で計算ができるよう
になる必要はありません。基礎的な考え方だけを理解しましょう。
STEP3 オプション価格は高等数学
(1) ノーベル賞学者が考案したオプションの方程式
オプション料の価格設定については、
“デリバティブ理論へのプロ
ローグ”として前の時間に少しだけふれました。その内容を覚えてい
ますか?
1. いま原資産の価格はいくらか
2. 将来、いくらで売買できる権利か
3. 売買までの期間はどれくらいか
4. いまの金利はいくらか
5. 現資産の価格は、将来どの程度の変動が予想されるか
の 5 項目がオプション料を決定する条件となるというものでした。
実際には、この条件を複雑な算式で計算して、誰もが納得するオプ
ション料が決められます。この算式は、有名な 2 人の数学者が考案
したものとしてこの 2 人の名をとって、
「ブラック・ショールズ式」と
呼ばれます。直観的に考えると、相場の動きが激しい、もしくはオプ
ションの残存期間が長いほどオプション料は高くなりそうですね。
(2)「オプション」の価格理論とは?
実際にはオプション料は、高度な数学理論である「ブラック・
ショールズ式」等を用いて求めます。資料 5 をご覧ください。
<資料 5>
商品の価格変動が幾何ブラウン運動と呼ばれる確率モデ
ルによって表されると仮定し、オプション料をこの価格に
依存する関数と定義すると、このような価格式が導かれま
す。
「デリバティブ」の勉強も、このあたりから金融工学としての色合い
が出てきます。極めて専門的ですので、これ以上は省略します。
(3) デリバティブなんか、怖くない。
金融工学としての「デリバティブ」に、少しだけふれた感想はいかが
ですか?わからなくても別にかまいません。私だって、完全に理解し
ているとはいいがたいのですから。
「オプション」に限らず、「デリバティブ」を実際のビジネスに使って
いく場合は、基礎的な理屈の枠組みがわかっていれば十分です。数
学理論ができなければダメということは一切ありません。ただ、市
場の誰もが納得して取引する「デリバティブ」のルール、その考え方
だけは理解してください。
理論の勉強は、ここまで。話を変えましょう。
オプション価格理論
「デリバティブ悪玉論」って、聞いたことがありませんか?
デリバティブ
ホールセール業務ゼミ
「デリバティブ」中級講座
3 時限目
STEP
4
投機目的に取り組んだ「デリバティブ」は、大きなリスクを抱え込みます。一方、企業のリスク管理に活用す
れば、これほど有効なものはありません。デリバティブの多様化、拡大化に伴って受ける銀行側にもより高
度なリスク管理技術が要求されます。ここに、銀行のコーポレートファイナンスの新しい姿があるのです。
STEP4 デリバティブは善玉?悪玉?
(1) デリバティブは本当に危険?
「デリバティブで数十億円の損失!」というニュースを時々耳にしま
すね。こんなニュースばかり知らされると「デリバティブ」は危険な
手法と思いがちです。でも本当に「デリバティブ」は危険なんでしょ
うか?ここでくどいようですがもう一度「リスクヘッジ」と「リスクテ
イク」について復習しましょう。
<資料 7>
リスクテイクとは
企業の財務リスクには様々なものがありますが、なかでも多数の金
融商品は価格の変動に影響を受けるという点において多くの市場
リスク(マーケットリスク)を内包しています。企業財務に内包して
いる市場リスクを減少させるような特性を持つデリバティブを取り
組むことは「リスクヘッジ」であり安全な運営方法と言えます。資料
6 をご覧ください。
<資料 6>
リスクヘッジとは
デリバティブで喫損したと報じられた事例は、元本や金利に数倍の
掛け目を乗じて金利の変動による影響を増大させた取引を行って
いたり、あるいは原資産は金利であるにもかかわらず為替や株の
変動に影響を受けるといった新たなリスクを発生させる取引を行っ
ていたケースが多く、実は「リスクテイク」でした。こうしたケースの
みが誇張された結果生まれたのが「デリバティブは危険だ」といっ
た悪玉イメージです。これは一方的な受け止められ方に過ぎませ
ん。
一方、企業財務に内包している市場リスクを増大させるような特性
を持つデリバティブを取り組むこと、あるいは全く新しい種類の市
場リスクが発生するようなデリバティブを取り組むことは「リスクテ
イク」であり投機的な運営方法と言えるでしょう。資料 7 をご覧くだ
さい。
今回のゼミでは、コーポレートファイナンスの立場からのデリバティ
ブを扱ってきました。しかし世の中のデリバティブはヘッジファンド
に代表されるように、少ない元手を何十倍にも膨らませ、独自の理
論で運用収益を最大化しようとする使われ方が大きな比重をしめ
ていることも確かです。現にデリバティブの市場規模は原資産規模
の数十倍にも膨れ上がっており、自ら投機に関わっていなくても、
市場の動きは否応なしに原資産価格そのものや一国の経済全体
にも少なからぬ影響を及ぼすようになっています。
もはや、スワップやオプションは一部の人しかわからない新しいも
のではなく、また好き嫌いにかかわらず、デリバティブに対する正し
い理解なくして金融は語れなくなっています。言い換えればわが国
金融の再生と、高齢化社会を目前にした最大貯蓄国としての運用
力強化のためにも、デリバティブ技術はもはや必要不可欠な代物
なのです。
デリバティブ
ホールセール業務ゼミ
「デリバティブ」中級講座
(2)「デリバティブ」を用いた
新しいコーポレートファイナンス、ALM。
1 時限目では、「デリバティブ」をリスクヘッジの目的で取り組んだ
堅実な企業の事例も紹介しました。あれこそが、コーポレートファ
イナンスにおける「デリバティブ」の本質、本来の姿です。
「デリバ
ティブ」を効果的に用いれば、為替や金利の変動リスクを抱えてい
る企業がそのリスクを回避し、収益を安定化させることができま
す。こうした金融環境の変化にともなって生じる各種のリスクを回
避しながら、資金の運用収益と調達コストをトータルに管理するこ
とを ALM(Asset Liability Management)と呼びます。ALM は、
銀行が企業に対して提供できる新しいサービスとして、今後コーポ
レートファイナンスの大きな柱となっていきます。
3 時限目
STEP
4
(3)「デリバティブ」が、多様なリスクを飼いならす。
「デリバティブ」を駆使した ALM について、少し具体的に考えてみ
ましょう。一つの金融商品には、さまざまな種類のリスクが含まれ
ています。たとえば社債なら、金利変動リスク(市場リスク)はもち
ろん、会社が倒産してお金が返ってこない信用リスク、税制が変更
になり予想より多くの税金を支払わなければならない税務リスク
など、さまざまなリスクを抱えているのです。
元来、銀行は「決済機能」と「金融仲介機能」という 2 つの大きな
役割を担ってきました。このうち「金融仲介機能」では資金拠出、信
用リスク判断、市場リスク、事務管理等々をすべて丸かかえで取り
組む「間接金融」のみがサービス提供の手段であった時代から今や
大きく変わろうとしています。そのキーワードは「アンバンドリング
=Unbundling」。
即ち、金融仲介機能を細分化し、多くの市場参加者が得意分野、
専門分野でその役割を分化していく動きです。例えば「デリバティ
ブ」は市場リスクのみを抽出して市場に仲介する取引です。デリバ
ティブに限らず、最近の新しいファイナンス手法は少なからずこの
機能分化を市場全体としてより効率的に担っていくところに共通
点があるように見受けられます。資料 8 をご覧ください。
<資料 8>
リスクの分離 (Unbundling)
市場リスクを計量化することから、リスク管理は始まりま
す。計量化したリスクをデリバティブを用いてヘッジ(回避)
することで、金融商品から金利・為替変動リスクといった市
場リスクだけをとり除くことができます。しかも、原商品の売
買は行われないため、企業のバランスシート(資産と負債の
関わり)に大きな影響を与えることもありません。
このようなメリットをもった「デリバティブ」は、21 世紀のコーポ
レートファイナンス、ALM にとって不可欠のツールです。また、市場
が納得するルールを設定できれば、新しいデリバティブ商品の創造
も可能です。
さて、みなさんは「デリバティブ」に向くと思いますか? 最後に、こ
れからの「デリバティブ」の可能性、そしてデリバティブ業務に求め
られる能力について考えてみます。
デリバティブ
ホールセール業務ゼミ
「デリバティブ」中級講座
3 時限目
STEP
5
「デリバティブ」ゼミの最後に、
「デリバティブ」がこれからの銀行業に与える影響と、
この業務に求められる人材像を考えてみましょう。
STEP5 どうなる、これからのデリバティブ
(1) 次々と誕生する、新デリバティブ。
市場の誰もが納得する権利取引のルール。それさえ設定できれば、
実にさまざまなタイプのデリバティブ商品の開発が可能です。すで
にこのような新しいデリバティブ商品が取引され始めています。資
料 9 をご覧ください。
<資料 10>
地震リスクヘッジ債
<資料 9>
新たなデリバティブ
金融商品をとりまく主要なリスクは、理論的にはほとんど
「デリバティブ」でヘッジすることが可能です。最近では株
価変動、原油などの商品価格変動といった市場リスクを
扱うエクイティデリバディブ、コモディティデリバティブに
加え、信用リスクを取り扱うクレジットデリバティブも取引
されるようになってきました。
さらに、天変地異や予想外の天候(異常気象)による企業の収入減
をヘッジする手法として「天候デリバティブ(ウエザー・デリバティ
ブ)」が米国で登場し、近年日本においても急速に普及しています。
みなさんもよくご存知のある遊園地を運営する企業が以前こんな
社債を発行して話題になりました。遊園地からある範囲内で一定
規模以上の地震が発生した場合、その企業は元本の一部または全
額を返済しなくてもよい、という社債です。資料10をご覧ください。
この社債を購入した投資家は大地震が起きた場合には元
本を失うリスクがありますが大地震が発生しなければ高
い運用利回りを確保できるのです。その企業はオプショ
ン料をクーポン(社債金利)という形で支払うことで、大
地震後の開店休業状態の際に不足する営業収入(入場
料)を補うことができるのです。つまりその企業が発行し
た社債は「地震オプション」を内包したいわゆる“地震リス
クヘッジ債”だったのです。
また、異常気象が企業の営業収入に大きく影響を与えることがあり
ます。
例えば、長雨による冷夏で、エアコン、ビール、アイスクリーム
といった夏に売上を伸ばすものが売れなかったとか、暖冬で暖房
器具やコートの売上が落ち込んだ、とか・・・。企業は自助努力で
はなんともしがたい自然現象をヘッジすることはできないのでしょ
うか?
スポーツ用品チェーン店を展開するある企業が損害保険会社と締
結した「積雪量オプション」は実質的に国内で取引された「天候デ
リバティブ(ウエザー・デリバティブ)」の第一号と言われています。
このスポーツ店はスキー用品が主力で雪のあるなしに売上が大き
く左右され、過去に暖冬の影響で業績の下方修正を余儀なくされ
たこともあり、天候リスクをヘッジする手法を模索していました。資
料 11 をご覧ください。当行でも、例えば夏季には多雨・冷夏、冬季
には少雪・暖冬といったリスクをヘッジするような「天候デリバティ
ブ(ウエザー・デリバティブ)」商品を販売しており、小売業のみな
らず、レジャー関連、土木工事等々幅広く、多くのお客さまに利用し
て頂いています。
デリバティブ
ホールセール業務ゼミ
「デリバティブ」中級講座
3 時限目
STEP
5
(2)「デリバティブ」が、金融機関の競争力となる。
<資料 11>
「積雪量オプション」の仕組み
すでに勉強したように、「デリバティブ」はこれからのコーポレート
ファイナンスの大きな柱、ALM によるリスク管理の主要な手段とな
るものです。企業が抱えるリスクは多様化・複雑化しており、企業
に対してリスク管理サービスを提供する金融機関には、より高度な
リスクヘッジ技術が求められます。
例えば、企業がリスクヘッジのためにオプションを購入するとしま
す。この場合買い手は企業ですがオプションの売り手は銀行です。
何十何百ものオプションを売ることになりますから銀行は大変大
きなリスクを抱えることになります。また何百ものスワップを企業
のニーズに合わせて受け入れる訳ですから、自らがどういうリスクに
さらされているのか次第につかみきれなくなっていきます。
締結した「積雪量オプション」は、損害保険会社にオプション料
を支払うことにより一日の積雪量が一定水準以下である日数
に応じて多額の現金を受け取ることができるというもので、中
部地方を地盤としていることから積雪量としてはスキー場に近
い野沢、菅平、奥美濃の観測所のデータを採用したようです。
また最近では、エアコンメーカーが冷夏だった場合にエアコンを購
入したお客さまに商品券でキャッシュバックしたり、温泉地でホテ
ルを経営する企業が雨が降った場合に宿泊料を割り引くなど、キャ
ンペーン(販売促進)やサービスに天候デリバティブを利用する
ケースも見られるようになりました。
このように企業のニーズに適った「天候デリバティブ(ウエザー・
デリバティブ)」の普及は今後も加速することが予想され、もはや日
本でも悪天候を業績の落ち込みの言い訳とできない時代が到来し
たと言えます。
これでは、投機目的のデリバティブと大きな違いはありません。
そこで銀行は、日々トータルの価値を洗い直し、別のデリバティブ
でヘッジしたり、原資産そのものの売買を通じて、
1. 今自らがどのようなリスクにさらされているか
2. 原資産の価格の 1 単位の変化が自らのリスクにどの程度の影
響を及ぼすか
3. 一定の確率のもとで予想される最大のロス金額はいくらか
等々多くの視点から高度なリスク管理が実施されています。
こうした流れの中で、デリバティブ業務は、質、量ともにますます拡
大していくでしょう。
「デリバティブ」を駆使してよりすぐれたサービ
スを開発し、提供し、その上で、的確なリスク管理ができることが、
他の金融機関との差異化につながるのです。
金融機関の商品開発力とは
1. 企業のニーズを一早く察知し、最適なソリューションを企画でき
るマーケティング力。
2. 高度なリスク管理による、リスク量の的確な把握と、正しい原価
計算に基づき必要資本の最有効利用が図れる収益、管理能力。
の両軸が噛み合って初めて本物といえます。
私が勤務する金融商品営業部では、こうした認識のもと、常に新た
なデリバティブ商品の可能性を探っています。
デリバティブ
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「デリバティブ」中級講座
(3) デリバティブ業務に文系・理系の差はありません。
では、こうしたデリバティブ業務に携わるためには、どんな能力が
必要でしょうか。資料 12 をご覧ください。
<資料 12>
求められる能力
このように、デリバティブ業務には多様な能力・知識が求められま
す。もちろん、一人の人間がこれらすべてに通じるスーパーマンであ
る必要はありません。
「デリバティブ」を担当する部署には、さまざ
まなタイプの人材が必要です。価格理論を駆使して計算する人、新
しいデリバティブ商品のアイデアをつくる人、企業財務を診断して
的確なリスクヘッジプランをつくる人…。こうした人材が結集して、
はじめて「デリバティブ」を駆使したコーポレートファイナンスがな
りたつのです。文系・理系をはじめ、学生時代の専門はこの業務で
はあまり関係ありません。
ただ、私の経験から考えると、デリバティブ業務に求められる資質
というものはあるような気がします。たとえば、
●自分の専門にこだわらず、さまざまな新しい知識を貪欲に吸収し
ようとする好奇心・チャレンジ精神。
●新しい取引手法の開発につながる、ちょっとしたアイデアにこだ
わる粘り。
●既存の枠組みにとらわれない発想力・創造力。
●相手(企業)の悩み(ニーズ)に早く気づき、その問題を解決する
能力や提案力。
これらは、この業務に不可欠な資質といえるでしょう。でも、心配は
いりません。何ごとも経験の積み重ねで築かれるものなのですか
ら。
これで、
「デリバティブ」の講義はすべて終了です。
最後に、私からの終了メッセージをお送りします。
3 時限目
STEP
5
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3 時限目
まとめ
「デリバティブ」ゼミの受講終了、おめでとう。よくがんばりましたね。
最後に、長くこの業務に携わる立場からデリバティブ・セールスの醍醐味についてお話します。それは「デリバティブ・セールスの醍醐味は、提
案力・商品開発力のみが評価される」と言っても過言ではない、ということです。例えば、従来の伝統的な銀行業務では取引地位(例えばメイ
ンであるとか、準メインであるとか)が重視される傾向が強いのですが、デリバティブについては全く関係ありません。提案内容が評価されれば
取引地位に拘わらずメイン銀行に先駆けて取引を行う(つまり出し抜く)
、ということも日常茶飯事です(でも裏を返せば逆もありうるので、メ
インだからと言ってボヤっとしてるといつの間にか他の銀行で大量のデリバティブを取り組んでいた、ということもありますから注意が必要で
す)。また、3 時限目で紹介したとおり新しいデリバティブ取引が続々と登場していますが、10 年前に異常気象をデリバティブでヘッジができる
ということを誰が想像したでしょうか。企業のニーズをキャッチしそれに適う商品を開発できるかどうかが評価の対象であることは言うまでも
ありません。10 年後には今では考えもつかないものがデリバティブとして取引されているかもしれません。
「デリバティブの世界」はいかがでしたか?
このゼミを通じて少しでもデリバティブのイメージを掴むことができ、興味をもって頂ければ幸いだと思っています。また、他のゼミでも銀行の
新たな業務に関わる知識や最新動向を詳しく講義しています。是非、受講をおすすめします。
金融商品営業部 工藤 顕