車両軽量化技術分野における 中小部品・加工メーカーの 技術開発の取組提案

車両軽量化技術分野における
中小部品・加工メーカーの
技術開発の取組提案
社団法人中部産業連盟
1
目次
1.
軽量化技術の概要と企業事例紹介
1. 軽量化技術による競争力の向上
1.中小企業における技術開発・育成の重要性
2.自動車の軽量化技術の重要性の高まり
2. 軽量化技術の概要
1.軽量化技術の分類整理
2.各軽量化技術の説明
3. 軽量化技術に関連する企業事例紹介
2.
中小部品・加工メーカーの取組提案
1. 自動車関連の中小部品・加工メーカーを取り巻く環境
1.外部環境分析
2.内部環境分析
2. 先進技術を持ち、勝ち抜くための企業の取組方針案
1.3つの施策パターン
2.①自社で技術開発
3.②他社と技術の共同開発
4.③他社からの技術調達
3.
総括
2
1. 軽量化技術の概要と企業事例紹介
3
1. 軽量化技術による競争力の向上
1. 中小企業における技術開発・育成の重要性
中小企業が自動車業界で生き残るために自動車メーカーの要求に対応することが最も重要であると
言える。それを達成するためには「技術力の向上」は必要不可欠である。中小企業において課題は
他にもあるが、近年の自動車業界の動向を鑑みると「技術力の向上」が最優先課題である。
≪生き残るために必要な要素≫
対顧客
①技術力の向上
顧客からの要求に対して顧客満足を得るためには新技術への対応や
既存の製品の品質を上げる技術力の向上が必要となる。
②提案力の向上
対顧客
①技術力の向上
②提案力の向上
本資料の
ご説明ポイント
など
中小部品メーカーはこれまで、量産段階で顧客からの要求に答えるだけであっ
た。しかし今後は、車両開発段階から顧客に最適な部品開発の提案を行うため
に提案力をつけることが必要である。例として、自動車メーカーに向けたトー
タルコスト削減のための部品共通化の提案などがある。
対競合
③海外への進出
成長している新興国での日系自動車メーカーの現地部品調達市場を取り込むた
めに、日本の部品メーカーは海外進出が必要となる。
対競合
対社内
③海外への進出
④社員教育の強化
⑤資金調達
など
中小部品
メーカー
など
自社
④社員教育の強化
ベテラン社員の定年退職が大幅に増加しているため、退職前に若手社員へノウ
ハウを継承する必要がある。ノウハウを継承するためには定期的な社内講習を
行うなどの社員教育強化が必要である。
⑤資金調達
新技術への対応や既存製品の品質向上を行うためには、設備投資、
技術開発への投資に向けた資金調達が必要である。
出典: 日本政策金融公庫総合研究所「自動車産業の構造変化と部品メーカーの対応」
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1. 軽量化技術による競争力の向上
1. 中小企業における技術開発・育成の重要性
次世代自動車地域産学官フォーラムでは、地域の大学・研究機関と連携して、昨年度次世代自動車におい
て重要となる研究開発分野として 「軽量化技術」、「パワエレ」、「電池」、「リサイクル」、「モー
タ」、「センサー」の6領域の技術戦略マップ・ロードマップを提示した(今年度は8領域に拡充)。
本資料では「軽量化技術」について説明していく。
①軽量化技術
②パワエレ
•ダイアモンド結晶
•デバイスプロセス
•基板作製
•モジュール作製
③電池
•リチウムイオン電池
•全固体リチウムイオン電池
•革新的電池
•マイクロSOFC
•鉄鋼材料
•非鉄金属(アルミ系)
•非鉄金属(マグネ系)
•樹脂・複合材料
•加工技術
•異材接合技術
次世代自動車で
求められる技術
(GV戦略)
④リサイクル
•レアメタルのリサイクル技術
•ベースメタルのリサイクル技術
•シュレッダーダスト中の
有価金属リサイクル技術
•自動車の易分解・解体技術
本資料の
ご説明ポイント
中小企業に求められる技術
⑥センサー
•非侵襲センシング技術
(電磁波)
•非侵襲センシング技術
(非電磁波)
•インターフェース技術
•インプラント技術
自動車業界において今後、
環境対策に向けた燃費の向上や
次世代自動車の普及促進を図る
必要があるため、中小企業にも
対応できる技術が求められる。
⑤モータ
•IPMSMの小型・軽量化技術
•高性能材料・製造技術による
小型・軽量化技術
•レアアース低減可変磁力
モータ技術
•高密度レアアース
フリーモータ技術
GV(グリーンビークル)戦略
マップ・ロードマップ研究会で
提示した、自動車の環境対策に
向けた技術戦略では、6つの
領域と各領域の技術が重要と
されている。
出典:GV戦略マップ・ロードマップ研究会「次世代自動車地域産学官フォーラム・技術開発セミナー」資料
5
1. 軽量化技術による競争力の向上
2.自動車の軽量化技術の重要性の高まり
自動車の燃費基準が大幅に引き上げられていることや、軽量化素材への転換が更に見込まれていることな
ど、軽量化技術の重要性が高まっている。
軽量化素材への転換
燃費基準値の引き上げ
省エネ法に基づき、自動車の2015年度燃費
基準が大幅に引き上げられた。
乗用車等の2015年度燃費基準(JC08モード)
主要地域(日・米・欧)において、乗用車1台に占める
アルミ質量比率の増加が見込まれている。
乗用車1台に占めるアルミ質量比率の見通し(主要地域別)
単位:%
車種
2004年度
実績値
2015年度
実績値
改善率
乗用車
13.6km/L
16.8km/L
23.5%
小型バス
8.3km/L
8.9km/L
7.2%
小型
貨物車
13.5km/L
15.2km/L
12.6%
出典:経済産業省、(社)日本アルミニウム協会
2006
2017
2006
2017
2006
2017
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1. 軽量化技術による競争力の向上
2.自動車の軽量化技術の重要性の高まり
国内の主要自動車メーカー各社では、2010年代中旬頃を1つの目安として、具体的な軽量化目標を掲
げている。
≪主要自動車メーカーの軽量化取組み≫
メーカー名
軽量化方針
主な軽量化の取組み
トヨタ自動車
主要車種ごとに重量削減目標を設定。
まずカローラ、カムリなど3車種で1台当たり100
kgを軽量化し、2010年代半ばまでに順次、各モデ
ル改良時に水平展開を実施。
高張力鋼板、アルミ材、マグネシウ
ム、樹脂などの使用拡大。
部品、ユニットの設計変更。
日産自動車
2015年以降に市場投入する新型車の車両重量を、
同一車の2005年時点に比べ15%軽量化。
高張力鋼板、超高張力鋼板の適用範
囲拡大。鉄からアルミ合金や樹脂な
ど軽量材料に拡大。
複数部品の一体化や構造の最適化。
ホンダ
2015年に、全車種平均で現行比5∼10%の軽量
化。
高張力鋼板、アルミ材、樹脂材料な
ど軽量材料の採用。
車両骨格構造の最適化。
三菱自動車
2010年以降に市場投入するモデルにつき、前モデ
ル比で車両重量を10%削減。
樹脂製ウィンドウの実用化。
アルミ材、高張力鋼板、樹脂の採用
拡大。
マツダ
2015年までに、市場投入する新型車の重量を現行
モデルより100kg削減。2016年以降は、201
5年までに市場投入したモデルの重量をさらに100
kg削減。
構造・設計最適化。
接合要素技術の改良。
高張力鋼板の採用拡大。
出典:アイアールシー「自動車の軽量化と低コスト対策」、各種文献調査
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1. 軽量化技術による競争力の向上
2.自動車の軽量化技術の重要性の高まり
自動車の部品やモジュールごとに、様々な軽量化対策が検討されている。
≪軽量化を注力・推進している部品・モジュール例≫
パーツ分類
部品例
軽量化トピック
シャシ/
フレーム
サブフレーム、
ステアリングメンバ、
フレーム 他
・ハイドロフォーミング生産による軽量化推進
・鋼材からアルミ部材や複合素材に移行
・形状開発による使用材料の軽減を推進
足回り
サスペンションアーム、
スプリング、ダンパー、
ホイール 他
・特殊鋼材、鋳鉄からアルミ素材への移行
・炭素繊維強化材料(CFRP)の使用
・高強度パイプをばね材料として採用し、中空化したことによる軽量化
駆動系部品
プロペラシャフト、
駆動用モータ 他
・CFRPの低コスト生産技術によりミドルクラスに普及
・巻き線技術、モータコア技術等
内・外装部品
ドア外装、内装パネル、
インパネ、リアゲート、
シート 他
・普通鋼材からハイテン材、アルミ合金、樹脂製への移行
・エポキシ樹脂発泡タイプの鋼板用補強制振材の開発
・樹脂接合技術
機能部品
EPS、小型モータ、
ヒートシンク 他
・モータやセンサなどの機械部材と、ECUやICなどの電子部材を一
体化(機電一体化)によるコンパクト化
その他部品
ECUハウジング、
EVモータ用筐体、
ワイヤーハーネス 他
・アルミ合金、マグネダイカスト、樹脂などを活用
・エンジニアリングプラスチックの活用
・アルミニウム合金を用いた自動車用ワイヤーハーネス
※巻末に詳細資料掲載
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2. 軽量化技術の概要
1.軽量化技術の分類整理
自動車業界で軽量化を実現するために必要な要素として、「設計」、「材料」、「加工」の
3分類で整理した。
軽量化を実現するための技術
各分類の内容
設計
・薄肉化
・小型化
・一体化
・モジュール化
・接合(溶接等)
・金型設計
部品開発段階で主に自動車メーカーや一次
請けメーカー等で行われる設計で、解析技
術を駆使し、剛性面での性能を確保しなが
ら軽量化を実現する技術。
材料
・アルミニウム ・樹脂
・高張力鋼
・その他材料(新素材)
従来の材料から軽量化素材への転換や、
新素材となる材料を生産する技術。
加工
・プレス/鍛造
・射出
・熱処理
材料を加工し、成形や表面処理で部材の
形を変化させる際に軽量化を実現する技術。
・鋳造
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2. 軽量化技術の概要
1.軽量化技術の分類整理
軽量化を実現するために必要な要素を部品製造工程で分類整理した。
その中で主に中小企業が対象となる製造工程(材料調達・生産、成形、表面処理、ASSY)に
当たる軽量化技術に関して説明をする。
≪部品製造工程と軽量化技術のイメージ図≫
設計
材料
①設計
①設計
④材料調達・生産
仕様書
・薄肉化・小型化
・一体化・モジュール化
≪各工程の内容≫
・その他材料
(新素材)
・アルミニウム
・樹脂
・高張力鋼
加工
部品開発段階での設計工程
②金型製作
部材成形に必要な金型を製作する工程
③ ASSY
②金型製作
部材を組み合わせる工程
⑤成形
・プレス/鍛造
・鋳造
・射出成形
・金型設計
④材料調達・生産
部材の元となる材料を調達・生産する工程
⑤成形
⑥表面処理
材料や金型を使用し、部材に加工する工程
・熱処理
⑥表面処理
部材の表面に処理を施す行程
③ASSY
・接合(溶接等)
本資料の説明ポイント
10
2. 軽量化技術の概要
2.各種軽量化技術の説明(新素材技術)
新素材技術の概要
新素材技術とは、自動車の軽量化材料として、従来から主に使用されている高張
力鋼、アルミニウム、樹脂以外の新素材を開発する技術である。
■チタン合金部品イメージ
新素材技術の課題や取り組み
金属材料では、マグネシウム合金やチタン合金に加えて、パルス通電圧接法によ
る金属/金属間化合物積層材料の高性能化や金属ガラスによる高強度・低弾性率
スプリング部材の開発、ジオメトリック構造を持つMGC材料などが大学で研究
されている。
樹脂系材料では、熱可塑性エラストマーが自動車用途で活発に活用されている。
背景としては、合成ゴムや塩化ビニル樹脂が使用されていた領域に、成形加工
性・軽量化・モジュール化・リサイクル性の観点からオレフィン系の材料が、適
用され始めているからである。
新素材技術の自動車への実用化事例
技術名
概要
適用部位例
軽量化比率
採用メーカー
マグネシウム合金
アルミニウムより軽量である反面、耐食性が劣るといった
欠点があるため、耐食性を向上させるためになんらかの表
面処理を行った上で使用されている。
エンジン
20∼34%
トヨタ自動車、
ホンダ
チタン合金
耐食性・耐熱性の高さ、高強度、及び軽量さが特徴である。
しかし、精製プロセスに非常に手間が掛かるためコストが
高く、自動車用途の拡大には大幅なコストダウンが必要。
マフラー
60%
トヨタ自動車
熱可塑性フェルト
熱可塑フェルト材料を使用し、複層構造を採用している。
電装品・その他
(吸音材)
57∼70%
国内全自動車
メーカー
出典:アイアールシー「自動車の軽量化と低コスト対策」、東レリサーチセンター「自動車軽量化技術の開発動向」、各種文献調査
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2. 軽量化技術の概要
2.各種軽量化技術の説明(プレス/鍛造技術)
プレス/鍛造技術の概要
プレスとは、対となった工具の間に素材をはさみ、工具に強い力を加えること
で、素材を工具の形に成形(塑性加工)することである。
鍛造とは、金属の素材を金型などで圧力を加えて塑性流動させて成形すること
である。
■鍛造品のイメージ
プレス/鍛造技術の課題や取り組み
軽量化素材である高張力鋼の加工において、現状よく用いられる冷間プレスでは
精度がでないために活用が難しいことが課題であった。
ホットプレス工法により高張力鋼のプレス加工が実現された。
プレス加工においては、中空構造による軽量化ができないことが課題であった。
鍛造孔開工法によりプレス加工による中空構造が実現された。
プレス/鍛造技術の自動車への実用化事例
技術名
ホットプレス工法
鍛造孔開工法
熱間鍛造
冷間鍛造
概要
適用部位例
高温に加熱した鋼板を成形すると同時に、金型の中で急冷す
ることで材料に焼き入れを行い、高強度製品を得る工法であ
ボディ外板・骨格
る。しかしながら、冷却時間の短縮など生産性の向上が課題
となっている。
プレス機で中空構造を実現する工法である。従来のようにド
リルや放電加工による穴あけ工程を必要としないため低コス
エンジン部品
トの量産化が可能な三菱重工の特許取得済み技術である。
素材の変形抵抗を減少させるために再結晶温度以上の高温に
加熱して成形することで、高い強度を得ることができる技術 サスペンション部品
である。
再結晶以下の常温で成形することで、製品の寸法精度が熱間
鍛造より優れる技術である。
駆動系部品
また、熱間鍛造と同様に高い強度も有する。
軽量化比率
採用メーカー
不明
日産自動車
マツダ
20%
-
20%
トヨタ自動車
33%
マツダ
出典:アイアールシー「自動車の軽量化と低コスト対策」、東レリサーチセンター「自動車軽量化技術の開発動向」、各種文献調査
12
2. 軽量化技術の概要
2.各種軽量化技術の説明(鋳造技術)
鋳造技術の概要
鋳造とは、材料(主に鉄・アルミ合金・銅・真鍮などの金属)を融点よりも高い
温度で熱して液体にしたあと、型に流し込み、冷やして目的の形状に固める加工
方法である。
中でも、ダイカスト法は自動車関連部品で最も多く使用されてきた金型鋳造法で
あり、金型に溶融した金属を圧入することにより、高い寸法精度の鋳物を短時間
に大量に生産する鋳造方式のことである。
■ダイカスト法のイメージ
鋳造技術の課題や取り組み
軽量化素材であるアルミニウムのダイカスト技術では、薄肉化・大型パーツの製造
に限界があることが課題である。
アルミニウムのダイカスト技術で薄肉化・大型パーツの製造を実現するために、温
度・圧力・射出速度・真空度などを改善した新たな工法により更なる軽量化に取り
組んでいる。
鋳造技術の自動車への実用化事例
技術名
ホットチャンバーダイカスト
ニューインジェクション鋳造
高真空ダイカスト
概要
適用部位例
鋳造圧力が低いのでバリの発生が少なく、成形サイクルが早
く溶湯の温度が低下しないので高品質な製品を成形すること
駆動系部品
ができる方法である。
普通ダイカスト法に比べ、きわめて機械的性質に優れた製品
をつくることが出来る低圧のダイカスト法である。アーレス サスペンション部品
ティ社とスズキの共同開発した技術である。
型内もしくは注湯系のすべてを真空及び減圧した状態で鋳造
する方法である。空気の巻き込みや酸化物の生成を抑制する サスペンション部品
ことができるため、高品質である。
軽量化比率
採用メーカー
54%
-
30∼50%
スズキ
10∼40%
ホンダ
出典:アイアールシー「自動車の軽量化と低コスト対策」、東レリサーチセンター「自動車軽量化技術の開発動向」、各種文献調査
13
2. 軽量化技術の概要
2.各種軽量化技術の説明(射出成形技術)
射出成形技術の概要
射出成形とは、軟化する温度に加熱したプラスチックを、射出圧を加えて金型に
押込み、型に充填して成形する方法である。
■射出成形のイメージ
射出成形技術の課題や取り組み
射出成形技術による薄肉化は、高い射出圧力が必要なため実現が難しい。
やはり高い射出圧力は難しいため射出圧力の改善以外で薄肉化を実現するために、
射出後に型やガスで圧力をかける技術が実用化されている。
射出成形技術の自動車への実用化事例
技術名
概要
適用部位例
軽量化比率
採用メーカー
外装品(パノラ
マルーフ)
40%
トヨタ自動車
2色射出圧縮成形
異なる色、材質などを2回に分けて成形する方法で、
豊田自動織機の独自技術である。
ガスインジェクション成形
成形直後の冷却・固化前に、金型内の溶融樹脂中にガスを
注入して部分的な中空を形成する方法。
低圧成形で、大幅なコストダウンと成形品の品質向上につ
ながる方法である。
外装品
(ドアハンド
ル)
30%
-
RTM(レジン・トランス
ファー・モールディング)
型の中に強化繊維を配置し、密閉系の中の樹脂に圧力を掛
けて流し込む成形方法である。成形金型を利用するので成
形物の寸法安定性が高い。
ボディ外板・
骨格部品
80%
トヨタ自動車
出典:アイアールシー「自動車の軽量化と低コスト対策」、東レリサーチセンター「自動車軽量化技術の開発動向」、各種文献調査
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2. 軽量化技術の概要
2.各種軽量化技術の説明(熱処理技術)
熱処理技術の概要
熱処理とは、金属を加熱冷却して、機械部品や搬送用部品などが実用に耐えるように所要の性質を与える技術
である。
焼入れ・焼戻し、焼なまし、焼ならしといった熱処理を行なうことにより、
材料を硬く、軟らかく、強靭にしたり、また、錆びにくくし、目的に応じて様々な特性を得ることができる。
熱処理技術の課題や取り組み
焼き付け処理で高強度化
熱処理により、強度を向上させ薄くすることによる軽量化は可能で
あるが、一般に強度の上昇とともに成形性は低下することが課題で
ある。
強度と成形性を両立させるために、プレス時には低強度で高成形性、
塗装焼き付け時に高強度に変化するBHT(新高強度熱延鋼板)材料
やそれに伴う熱処理技術(焼き付け処理)が実用化されている。
同一強度では、小型化が実現できる特殊な熱処理技術も実用化され
ている、
熱処理技術の自動車への実用化事例
技術名
特殊熱処理技術
概要
適用部位例
軽量化比率
採用メーカー
窒化層と酸化層の2層構造を有する表面層とすることによ
り、耐摩耗性・疲労強度の飛躍的な向上を可能とし、小型
化による軽量化を実現する日本精工の独自の特殊熱処理技
術である。
駆動系部品
(AT用ピニオン
シャフト)
20%
-
出典:アイアールシー「自動車の軽量化と低コスト対策」、JFE社 HP、各種文献調査
15
2. 軽量化技術の概要
2.各種軽量化技術の説明(接合技術)
接合技術の概要
接合とは、その方法別に①溶接(アーク、スポット、レーザ)、②リベットなどで締結されるメカニカル締結、③
ボルト・ナット類の接合、④接着、⑤摩擦撹拌接合に分類される。また、接合する素材が異なる異材接合もある。
その中心となる溶接とは、材料の接合部に連続性を持たせ接合することである。具体的には、熱又は圧力もしくは
その両方、さらに必要があれば適当な溶加材を使用して、部材を接合する方法である。
接合技術の課題や取り組み
軽量化素材であるアルミニウムは接合技術で扱うことは難しい。特に、溶接に関しては、熱膨張性が大きいた
めひずみが発生しやすいことが課題である。
課題に対しては、溶接施工方法で対策をとったり、目的・部位を考慮して摩擦撹拌接合など他の接合手法を選
択することで対応している。
異材接合に関しては、異種材料一体化のために表面処理などの方法での実現が研究されている。
接合技術の自動車への実用化事例
技術名
概要
適用部位例
軽量化比率
採用メーカー
レーザー溶接
レーザー光線のエネルギーを利用して行う溶接のことであ
る。微少な溶接や精密な溶接に適しており、
また、入熱量が少ないため、熱に対する歪が大きいアルミ
ニウムに適している。
エンジン部品
(マフラー)
14%
摩擦撹拌接合
先端に突起のある円筒状の工具を回転させながら強い力で
押し付けることで突起部を接合させる部材(母材)の接合
部に貫入させ、これによって摩擦熱を発生させて母材を軟
化させ複数の部材を一体化させる接合法である。
ブレーキ部品・
ホイール
5∼10%
-
アルミ・樹脂接合
アルミと樹脂を一体成形する技術であり、プレス型にてか
しめる方法、ツメやネジでとめる方法、または接着剤で固
定する方法が一般的であったが、表面処理を行うことで接
合する方法も実用化されつつある。
内装品、外装品、
ボディ外板・骨
格部品など
不明
-
ホンダ
出典:アイアールシー「自動車の軽量化と低コスト対策」、東レリサーチセンター「自動車軽量化技術の開発動向」、各種文献調査
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3. 軽量化技術に関する企業事例紹介
1.大成プラス株式会社(会社紹介)
会社概要
■社名:大成プラス株式会社
■設立:1982年5月10日
■従業員数:43名
■本社:東京都中央区日本橋本町1丁目10番5号 日産江戸橋ビル9F
■事業内容:
-合成樹脂製品並びに原料の製造販売及び輸出入の事業
-合成樹脂加工に要する資材の製造販売及び輸出入、ノウハウ/技術の提供事業、
特許権の取得、保有、ライセンス事業
大成プラスの事業特徴
大成プラスの主要技術
■権利化により参入障壁を構築
■NMT(ナノ・モールディング・テクノロジー)
・新技術や新素材に関する開発力を強みとし、
特許戦略に力を入れている。
⇒国内外で約300を超える特許を出願
・金属と樹脂を一体化する技術
■NAT(ナノ・アドヘジョン・テクノロジー)
・エポキシ接着剤を利用した強接着技術
※赤字は軽量化に関する技術
出典:大成プラス(インタビュー、各種提供資料等)
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3. 軽量化技術に関する企業事例紹介
1.大成プラス株式会社(技術概要)
NMT (Nano
Molding Technology)ナノ・モールディング・テクノロジー
★ナノテック2004
「ナノテック大賞」受賞★
NMTの概要
≪金属と樹脂の射出成形による一体化成形技術≫
≪NMT処理前後の表面写真(アルミニウム)≫
■金属への表面処理によりナノレベルのディンプルを
金属表面に形成。これら微細なディンプルに
射出成形し、硬質樹脂を入れ込むことで、
金属と樹脂を一体化する技術である。
処理前(5万倍)
NMT処理後(5万倍)
NMT処理後(20万倍)
接合可能な金属と樹脂
金属
アルミ
ニウム
マグネ
シウム
樹脂
PPS
PBT
銅
ステン
レス
チタン
鉄
PA6
PA66
PPA
PEEK
亜鉛鋼板
黄銅
※アルミ合金では1000∼
7000系に適応でき、特に
PPSで強固な接合が実現。
NMTの特徴
■従来の主流製法であるダイカスト法に代わるNMT技術により、部品構成の簡略化や
成形の為のダイカスト用の金型が不要となる。
よって、コスト削減や組み立て工程の短縮が可能である。
■NMT技術では1mm以下のアルミニウムにも対応が可能であり、薄肉化も実現できる。
■ダイカスト法よりも接合強度が増加、溶接時間の短縮や溶接の跡が残りにくいという
特徴もある。
出典:大成プラス(インタビュー、各種提供資料等)
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3. 軽量化技術に関する企業事例紹介
1.大成プラス株式会社(軽量化技術活用事例①)
NMTを使用した軽量化事例①
≪従来工法と比較し、ECUボックスの重量比1/3を実現≫
■アルミニウムの薄板をプレスして箱形にしたものとヒートシンクを、
金型に挿入して樹脂を射出成形することで一体化成形での加工が可能となる。
【軽量化ポイント】
・ダイカスト法では難しかった素材自体の薄肉化
(厚み0.8mm∼2.0mmのアルミニウムを用い製造可能)
・接合し一体化させる際に必要だったネジ、ビス、接着剤がすべて不要
■従来のECUボックス
※NMTを使用したECUボックスは、
『2011年 超 モノづくり部品大賞
■NMTを活用したECUボックス
自動車部品賞』を受賞
出典:大成プラス(インタビュー、各種提供資料等)
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3. 軽量化技術に関する企業事例紹介
1.大成プラス株式会社(軽量化技術活用事例②)
NMTを使用した軽量化事例②
≪従来工法と比較し、リチウムイオン電池の軽量化を実現≫
■AL端子とCU端子と電池ケースの間を樹脂で埋め接合する為、
1つの部品で集電体の構成が可能となる。
その為、軽量化できるだけでなく、接触抵抗が無くなることにより、
集電効率も高くなる。
【軽量化ポイント】
・NMTは、多様な金属、多様な樹脂に対応している為、
異種金属の一体成形が可能であり
集電体が1つで済む
・Oリング等を用いた従来行程より
50倍∼100倍の気密性が高く、絶縁性も確保している為、
ガスケット、インシュレーター等の周辺部品が不要
※自動車に関して、ECUボックスやリチウムイオン電池以外にも、
ブレーキペダル等のダイカスト品全般、ルーフフレーム等もNMTの使用対象
出典:大成プラス(インタビュー、各種提供資料等)
20
3. 軽量化技術に関する企業事例紹介
2.株式会社京信(会社紹介)
会社概要
■社名:株式会社京信
■設立:1969年年3月
■従業員数:90名
■本社:長野県南佐久郡佐久穂町大字海瀬448-1
■事業内容:
-コネクタ・モータ・ヒートシンク・コンピュータ・メカニカル自動車部品の
金属成形(ダイカスト)による加工品製造販売
-ダイカスト用金型治工具製作販売
京信の事業特徴
京信の主要技術
■一貫生産で差別化
【成形】
・成形(金型製作含む)、表面処理等、
トータルで行う一貫生産を主とし、強みとしている。
■アルミダイカスト品と樹脂との結合技術
■アルミダイカストの薄肉化技術
9
検査
8
表面処理
7
洗浄
6
機械加工
5
熱処理
4
ショット
ブラスト
3
トリミング
2
ダイカスト
作業
内容
1
材料溶解
工程
【金型製作】
■金型設計技術
【表面処理】
■メッキ技術・塗装技術・アルマイト技術
※赤字は軽量化に関する技術
出典:京信(インタビュー、各種提供資料等)
21
3. 軽量化技術に関する企業事例紹介
2.株式会社京信(技術概要①)
アルミダイカスト品と樹脂との結合技術
アルミダイカスト品と樹脂との結合技術の概要
≪表層粗化による機械的技術≫
■処理やエア/ショットブラスト、レーザーマーカーといった各種工法により
ダイカスト表層に凹凸を形成し、アンカー効果によって複合化する技術である。
アルミダイカスト品と樹脂との結合技術の特徴
■樹脂で一体化できることにより、接合する為の部品(接着剤、ネジ等)が不要となり、
コスト削減や組み立て工程の短縮が可能である。
■軽量化、コスト削減、組立工程の短縮ができる上に、精度の向上を実現している。
出典:京信(インタビュー、各種提供資料等)
22
3. 軽量化技術に関する企業事例紹介
2.株式会社京信(技術概要②)
アルミダイカストの薄肉化技術
アルミダイカストの薄肉化技術の概要
≪アルミに特化したダイカスト技術≫
■アルミという素材に注力し、亜鉛のダイカストで蓄積した精度の高い部材を製造する
ノウハウから応用させ、つきつめていった結果の独自の金型技術、成形技術である。
※一般的に、アルミの溶解温度の高さから、金型との温度差の影響により、
収縮が起きる為、薄肉化した場合に、精度や強度を高めるのは難しいとされている。
アルミダイカストの薄肉化技術の特徴
■ダイカスト加工の為、加工が困難とされている薄肉部品の大量生産が可能である。
出典:京信(インタビュー、各種提供資料等)
23
3. 軽量化技術に関する企業事例紹介
2.株式会社京信(軽量化技術活用事例①)
アルミダイカスト品と樹脂との結合技術を使用した軽量化事例
≪従来工法と比較し、ECUボックスの重さ、10%∼50%減を実現≫
■黒アルマイト処理をした基板ヒートシンク(ADC12)と
PBTの樹脂カバーとの一体化が可能となる。
※既に実用化されており、量産中
【軽量化ポイント】
・結合し、一体化させる際に必要だった、ビズ、ネジ、接着剤がすべて不要。
■従来の一体化イメージ
出典:京信(インタビュー、各種提供資料等)
■アルミダイカスト品と樹脂との結合技術を使用した一体化イメージ
24
3. 軽量化技術に関する企業事例紹介
2.株式会社京信(軽量化技術活用事例②)
アルミダイカストの薄肉化技術を使用した軽量化事例
≪携帯電話用 シールドケースで肉厚0.5mmを実現≫
■独自のノウハウにより製作された薄型の金型と
薄型でも高精度、高強度を保持できる独自の成形技術により薄肉化が可能となる。
※既に実用化されており、量産中
【軽量化ポイント】
・ダイカストでは、難しいとされているレベル(肉厚0.5mm)での素材自体の薄肉化
■従来のダイカスト品
(肉厚1.0mm)
出典:京信(インタビュー、各種提供資料等)
■薄肉ダイカスト品
(肉厚0.5mm)
25
3. 軽量化技術に関する企業事例紹介
3.株式会社新技術研究所(会社紹介)
会社概要
■社名:株式会社新技術研究所
■設立:1987年3月31日
■従業員数:40名
■本社:静岡県御殿場市神場 616-3
■事業内容:
-軽金属製品の表面(化成)処理
-潤滑塗料の塗装、塗装剥離
-耐高温クリープ性マグネシウム合金の販売
新技術研究所の事業特徴
新技術研究所の主要技術
■化学的知見をベースとし研究開発に特化
■CB(Chemical Bonding)処理技術
・金属の化学的な表面処理を中核技術とし、
研究開発に特化している。
・金属と樹脂を化学処理で一体化する技術
※赤字は軽量化に関する技術
出典:新技術研究所(インタビュー、各種提供資料等)
26
3. 軽量化技術に関する企業事例紹介
3.株式会社新技術研究所(技術概要)
CB(Chemical
Bonding)ケミカル・ボンディング
※特許出願済
CBの概要
≪金属と樹脂を化学処理で一体化する技術≫
■金属やガラス、セラミックの表面に付着した油分を
脱脂・洗浄後、分子接合化合物を化学的に反応・結合させる。
それに、外部から熱エネルギーを加えて樹脂分子を化学結合
させ、接合・一体化する技術である。
接合可能な金属と樹脂
金属
鋼板
ステンレス
熱可塑性樹脂
成形品
フィルム
熱硬化性樹脂
成形品
FRP
プレプリグ
アルミニウム
合金
圧延材
SMC
接着剤
ダイカスト材
銅
マグネシウム
合金
CBの特徴
■CB処理では、化学的な結合力で金属やガラス、セラミックと樹脂分子を接合・一体化する為、
一般的な接合で使用される接着剤が不要になる。
■面接合なので、応力集中を避けられるため、接着強度はエポキシ接着剤の約4倍である。
■CB処理では、アルミニウムと樹脂の接合・一体化後に行う必要があった陽極酸化処理を事前に行うことを
可能にしており、製造工程の簡素化を行うことができる。
出典:新技術研究所(インタビュー、各種提供資料等)
27
3. 軽量化技術に関する企業事例紹介
3.株式会社新技術研究所(軽量化技術活用事例)
CB技術を使用した軽量化事例
≪自動車関連業界でのCB処理技術活用≫
■某自動車メーカーと3年間にわたって共同開発中。今後は自動車向けに
ノウハウのある樹脂のインサート成型技術を持つ加工会社などの部品メーカーとの
共同開発に可能性を感じている。
※現時点で車両軽量化用途にて量産実績はない。ただし、現在評価中の案件が複数ある。
(具体的内容は契約上開示不可)
【他業界での実績】
軽量化ニーズの高まりや既存技術の積み上げの限界で新技術の必要性が高まって
きたことにより、CB処理の応用技術、用途開発を多く進めている。
特にエレクトロニクス分野が多く、すでに販売実績がある。
出典:新技術研究所(インタビュー、各種提供資料等)
28
3. 軽量化技術に関する企業事例紹介
4.株式会社コイワイ(会社紹介)
会社概要
■社名:株式会社 コイワイ
■設立:1973年
■従業員数:65名
■本社:神奈川県秦野市曽屋60
■事業内容:
-RP砂型積層工法による各種鋳物の試作
-金型鋳造による量産品の製造(適用材質:JIS規格アルミニウム各種、その他)
-鋳造品をはじめとした各種機械加工、鋳造用金型・樹脂型製作
-3次元CADによるモデリング業務、CTによる受託撮影、非破壊検査
コイワイの事業特徴
コイワイの主要技術
■砂型設計のデジタルデータ化により効率化
■3D砂型積層工法
・砂型のデータ化を20年以上前から行っており、
鋳造品に関するノウハウすべてを蓄積している。
そのノウハウを活用した鋳造技術が強みである。
・中子などの位置精度を含む形状設計の
最適化が可能な技術。
■金型低圧鋳造工法
・アルミニウム鋳物を中空一体成形する技術。
■非接触デジタイザ
・3次元デジタル検査技術
※赤字は軽量化に関する技術
出典:コイワイ(インタビュー、各種提供資料等)
29
3. 軽量化技術に関する企業事例紹介
4.株式会社コイワイ(技術概要)
3D砂型積層工法/金型低圧鋳造工法による鋳造技術
3D砂型積層工法/金型低圧鋳造工法による鋳造技術の概要
≪3D砂型積層工法/金型低圧鋳造工法による一体成形技術≫
■3D砂型積層工法とは、3次元CADデータをもとに、
積層によって砂型を製造する手法である。
3D砂型積層工法/金型低圧鋳造工法を
活用することにより、従来では、
数種類の部品を溶接等により組み合わせて
生産していた中空構造等複雑形状の金属部品の
一体成形が可能となる技術である。
■積層砂型のサンプル写真
3D砂型積層工法/金型低圧鋳造工法による鋳造技術の特徴
■型情報のデータを自社で保持できるので、型メーカーとの情報共有が不要となる。
■3次元CADデータがあれば、機械で砂型の製造が可能な為、主型、中子と工程別に必要だった
専門的な技術者の確保が不要になり、大幅な経費削減に繋がる。
■複数主型、中子の一体型が実現できる為、工程数の削減、精度の向上、不良品率の低減が可能である。
出典:コイワイ(インタビュー、各種提供資料等)
30
3. 軽量化技術に関する企業事例紹介
4.株式会社コイワイ(軽量化技術活用事例)
3D砂型積層工法/金型低圧鋳造工法による鋳造技術を使用した軽量化事例
≪従来工法と比較し重量が、二輪車の車体フレームでは60%減、
自動車のリアサスペンションフレームでは、鋼板プレス品の溶接構造品に
比べて46%減、フロントサスペンションフレームでは44%減を実現≫
■積層法による砂型を中子とすることで、鋳造法では不可能であった
閉殻構造を世界で初めて実現し、アルミ鋳造の限界を超えて肉厚2.5mmの薄さで
アルミニウム鋳物を中空一体化成形することが可能になる。
※2015年を目途に、量産開始予定
【軽量化ポイント】
・湯を流し込む際の金型内の減圧技術により、
砂の中子が使用できる為、閉殻構造実現による
部品の中空化による薄肉化
・閉殻構造の実現により、開構造で重量増の原因になっていた、
強度を確保する為の肉厚化やリブ設置等が不要
■2輪車の車体フレーム
出典:コイワイ(インタビュー、各種提供資料等)
31
3. 軽量化技術に関する企業事例紹介
5.株式会社田島軽金属(会社紹介)
会社概要
■社名:株式会社田島軽金属
■設立:1968年
■従業員数:64名
■本社:埼玉県羽生市藤井上組字城沼1375
■事業内容:
-アルミ鋳物、アルミ基複合材鋳物、鋳型反転機、木型、機械加工、
熱処理、表面処理
田島軽金属の事業特徴
田島軽金属の主要技術
■技術開発に注力し、常に先進技術を
有することにより差別化
■アルミ複合材鋳物技術
・創業以来、技術開発型の企業を目指し、
委託された鋳造品を製造するだけでなく
商品開発の為に人材を置き、先進技術の
開発に注力している。
・アルミ並みの軽さで鋳鉄以上の剛性を持つ
新素材製造技術
■砂型鋳造技術(ハイブリッドキャスト)
■大型アルミ鋳造技術
■発泡消失鋳造技術(セミ・フルモード・キャスト)
■鋳巣極小化(ポアレスキャスト)の鋳造技術
※赤字は軽量化に関する技術
出典:田島軽金属(インタビュー、各種提供資料等)
32
3. 軽量化技術に関する企業事例紹介
5.株式会社田島軽金属(技術概要)
アルミ複合材(MMC:Metal Matrix
Composites)鋳物技術
MMC鋳物技術の概要
(自社特許技術)
≪砂型鋳造による『重力鋳造法』及び
『ハイブリット砂型低圧鋳造法』を用いて
アルミニウム合金とセラミックとの
アルミ複合材(MMC)を製造する技術≫
■MMCを製造する際、従来は『重力鋳造法』で製造していたが、
MMCは難鋳造材である為、多くの課題があった。
その為、MMCを鋳造性良く、高い生産性で鋳造するべく
『ハイブリット砂型低圧鋳造法』開発。
ハイブリット砂型低圧鋳造法は、低鋳造原理と
高周波押湯加熱技術等を適用し高度化させた革新的な技術である。
ハイブリッド
砂型低圧鋳造法の構築
(自社固有技術)
アルミ
アルミ
基複合材
基複合材
+
(自社固有技術)
砂型鋳造
砂型鋳造
+
低圧鋳造
低圧鋳造
(自社特許技術)
高周波押湯
加熱システム
(自社特許技術)
湯口
遮断機構
MMC鋳物技術の特徴
■アルミと同等に軽いが、鉄以上の剛性を持っている。(鋳鉄の約1/3の重さ)
■アルミより温度による形状変化が小さく(熱膨張率が小さく)、熱による変形を防止できる。
■アルミと比べて、熱伝導率が大きく、熱を逃がしやすい。
■耐磨耗性に優れており、耐久性の向上や精度の維持を見込める。
出典:田島軽金属(インタビュー、各種提供資料等)
33
3. 軽量化技術に関する企業事例紹介
5.株式会社田島軽金属(軽量化技術活用事例)
MMC鋳物技術を使用した軽量化事例
≪軽量で高剛性を必要とする、あるいは高速で移動・停止を必要とする
チップマウンター、高速プレス等の精密機械、検査機器部品、液晶、
半導体製造装置の各種部品等他業界での実用化実績は多数ある。≫
※自動車業界では、鋳鉄の代替え部材として興味を持たれているが、実際の検討段階には入っていない。
■MMC鋳物は、軽量化の為に
アルミ等軽量素材への変更を
検討する際に、課題となることが多い
品質面(高剛性、耐久性、耐熱性等)を
向上させることが可能になる。
【軽量化ポイント】
(大型ステージ)
(レール)
・現状使用している素材から重量が軽い新素材への変更
(ブラケット)
(大型ロボットアーム)
(可動ステージ)
■アルミ複合材(MMC)鋳物製品例
出典:田島軽金属(インタビュー、各種提供資料等)
34
3. 軽量化技術に関する企業事例紹介
6.株式会社共進(会社紹介)
会社概要
■社名:株式会社 共進
■設立:1962年5月1日
■従業員数:150名
■本社:長野県諏訪市中洲4650
■事業内容:
-ソレノイド・バルブ等の自動旋盤加工に付属する二次加工、
カシメ加工、精密部品の切削加工
共進の事業特徴
共進の主要技術
■精密機械部品加工に特化
■カシメ接合法
・ソレノイド鉄心製造というニッチな分野に特化し、
その分野において更に強みを持つために
先進技術の開発に取り組み続けている。
・金属の加圧変形を利用した接合技術
※赤字は軽量化に関する技術
出典:共進(インタビュー、各種提供資料等)
35
3. 軽量化技術に関する企業事例紹介
6.株式会社共進(技術概要)
カシメ接合法
★「第22回科学技術振興功績者に送る文部科学大臣賞」受賞★
カシメ接合法の概要
≪金属の加圧・変形を利用した接合方法≫
■接合させる2つの部品を組み込み、金型で加圧させる。
部品を加圧させることにより変形させ、
2つの部品を固定する接合技術。
カシメ接合法の特徴
■切削加工に比べ、材料を削る必要がなく、加工時間が短縮されることにより、
大幅なコストダウンが可能となる。
■異なる材料を組み合わせた際に、従来の異質材接合方法よりも強度・精度が高くなる場合もある。
出典:共進(インタビュー、各種提供資料等)
36
3. 軽量化技術に関する企業事例紹介
6.株式会社共進(軽量化技術活用事例)
カシメ接合法を使用した軽量化事例
≪ソレノイド鉄心において、筒部分の厚みを薄くすることによる
パーツ重量減を実現≫
■筒部分が薄い形状の場合、
①圧入法だと圧入長さがないために抜けやすい
②溶接では熱ゆがみが発生しやすい
ため、筒部分はある程度の厚みが必要であった。
カシメ技術を使用すれば筒部分の厚みは薄くても接合が可能である。
※年間約1800万本製造され、国内だけでなく世界中の車に使用されている。
【軽量化ポイント】
・圧入法では難しかった筒部分の薄肉化
■ソレノイド鉄心
出典:共進(インタビュー、各種提供資料等)
37
2.中小部品・加工メーカーの取組提案
38
1.自動車関連の中小部品・加工メーカーを取巻く環境
1.外部環境分析①
日本経済は、実質GDPの減少、総人口の減少から縮小傾向にあると言える。
日本の実質GDP
日本の実質
GDPは減少傾向
は減少傾向
日本の総人口は減少傾向
日本の実質GDP推移
(1980∼2011年)
日本の総人口推移
単位:千万人
単位:兆円
総人口
(65歳以上)
2004年を
ピークに減少
対前年増減率︵
2007年を
ピークに減少
(15∼64歳)
対前年増減率
14歳以下
︶
%
出典:IMF - World Econ omic Outlook(2011年9月版、2011年数値は予測)、総務省「日本の統計2011」
39
1.自動車関連の中小部品・加工メーカーを取巻く環境
1.外部環境分析②
自動車部品業界の業績は、2007年までは右肩上がりに成長してきたが、リーマンショックで大幅に悪
化した。今後は継続的な成長は見込めず、低迷期が続くと予想される。
自動車部品業界の業績は減少傾向
自動車部品業界の業績推移
出典:自動車部品工業会
40
1.自動車関連の中小部品・加工メーカーを取巻く環境
1.外部環境分析③
日本の自動車メーカーは生産の海外シフトを行っており、部品調達に関しては低価格化対応のため、
更に現地調達が進行し、国内自動車部品メーカーにとっては需要の減少につながる。
海外生産比率の増大
部品の現地調達比率の増大
低価格車の出現による部品メーカーの
サプライチェーン変化
日本メーカーの国内及び海外生産台数推移
従前
(単位::万台
開発設計
調達
生産
○開発拠点は
○高機能部品は
日本
日本から調達
○まずは設計→それから調達 ○海外でも日系メーカー
の思想
から調達
販売
○日本で生産し、輸出(特に
高機能部品)
○日本の生産
○日本から輸出供給
設備を海外に
持ち込む
現在
開発設計
○開発拠点の
現地化へ
○現地調達を前提とした開発
設計へ
出典:自動車工業会資料、各社IR資料を元に日本政策投資銀行作成
調達
○現地調達の進展
○地場メーカー
からの調達増
生産
販売
○現地生産の進展
○海外拠点からグローバルに供
○海外製設備の
給
採用増
41
1.自動車関連の中小部品・加工メーカーを取巻く環境
2.内部環境分析
自動車部品業界に関しては、習得に長期間かかる技能が多く存在しており、
技術習得者(団塊の世代)の引退までにどのように技術継承をするかが課題となっている。
また、その危機意識が高い。
習得年数が長い技能が多い
技術・ノウハウ継承への危機意識が高い
継承が必要な技能作業と修得年数
習得必要年数
技能作業の例
2007年問題(団塊世代の引退)に
危機意識を持つ要因
高技能の理由
11∼15年
プレス金型、モールド金型の製作
家電製品用部品のプレス加工、
成形加工全般、鋼橋の加熱・矯正
高精度、技量要
故障処置、金型修理要
熱影響予測、経験要
6∼10年
射出成形用金型の鏡面仕上げ、合わせ
金型の研磨加工
自動車用部品のプレス、型仕上げ
工作機械の槢動面のキサゲ
自動車用部品の溶接後の寸法修正
高精度、技量要
高精度、技量要
高精度、技量要
高精度、技量要
歪の予測、仕上げ要
3∼5年
自動車部品、機械部品の治具製作
金属プレートの両面加工
圧力容器用球面体、異形の溶接
機械部品のバフ研磨
自動車組立装置の調整
高精度
歪の予測要
多種技能、資格要
複雑な形状の手加工
微調整要
1∼2年
精密部品の組込時の芯だし
ステンレスパイプと部品のTIG溶接
制御盤の箱体組立の内ヒンジ取付加工
高精度
歪、割れの予測要
調整要
出典:
日本労働研究雑誌「団塊世代の引退による技能継承問題と雇用・人材育成(2006年5月号)」
42
1.自動車関連の中小部品・加工メーカーを取巻く環境
サマリ
自動車関連の中小部品・加工メーカーにとって、
日本経済全体及び自動車部品市場などの外部環境と人材組織や財務などの内部環境、
双方において年々ビジネス環境が厳しくなっている。
■外部環境
近年の自動車業界、自動車部品業界の市場規模はリーマンショックで
急激に縮小し、以前の水準までの回復には至っていない。
自動車メーカーの海外生産シフトにより、部品調達の現地化が促進し、
国内部品市場は縮小する。
■内部環境
団塊世代の引退に伴い企業の強みであるノウハウが消失してしまうリス
クがある。
43
2. 先進技術を持ち、勝ち抜くための企業の取組方針
1.3つの施策パターン
中小企業は他社と差別化できる先進技術を持たないと、今後、生き残っていくには厳しい環境である。
先進技術を持つ方法としては、3つのパターンがあり、各パターンのメリット/デメリットを
考慮する事により、自社にとって最善な策を選び実行していくことが重要である。
≪施策パターンのイメージ図≫
他社
他社
③-3:他社からの技術調達
(協力会社となる先進技術の無償享受)
他社
他社
③-2:他社からの技術調達
(先進技術を持っている
企業のM&A)
自社
自社
①:自社で技術開発
②:他社と技術の共同開発
他社
他社
③-1:他社からの技術調達
(海外からの先進技術の調達)
他社
他社
≪先進技術を保持する為の3つの施策パターン≫
①自社で技術開発
■自社のリソースのみを
用いるパターン。
②他社と技術の共同開発
■他社と自社の双方の
リソースを用いるパターン。
③他社からの技術調達
■他社のリソースを用いる
パターン。
44
2. 先進技術を持ち、勝ち抜くための企業の取組方針
2.①自社で技術開発(メリットとデメリット)
①自社で技術開発
■自社のリソースのみを用いるパターン。
メリット
開発した先進技術の利得を
独占/優先して享受できる
メリットを実現するためには、
(1)R&D機能の設置/強化
(2)特許戦略の策定 が必要
デメリットを緩和するためには、
デメリット
時間、コストに関して、
自社リソースの制約を受ける
(3) 他社が公開している技術
を用いた先進技術の開発
が有効
45
2. 先進技術を持ち、勝ち抜くための企業の取組方針
2.①自社で技術開発(アクションとポイント)
(1)R&D機能の設置/強化
「ITを活用しているか」
「外部人材を活用できているか」
「開発企画プロセスの標準化が図れているか」
を意識しながら取り組むことが重要
(2)特許戦略の策定
(3)他社が公開している技術を
用いた先進技術の開発
費用や作業負荷を気にせず、「特許」は出願すべき
出願に関しては、効果を発揮するために専門家に依頼し、
海外特許も効果的である
特許に値するような先進的な技術が公開されているので、
特許庁などのWEBページに公開されている公知技術を
開発に活用すべき
46
2. 先進技術を持ち、勝ち抜くための企業の取組方針
2.①自社で技術開発(具体的内容)
中小企業においてR&Dを実施している企業は、していない企業の約3∼5倍の売上高を実現していること
から、中小企業においてR&D機能の設置/強化は必須といえる。R&Dの強化には、「IT活用度」、
「共同作業度」、「部品の共通化度」、「外部人材活用度」の指標を高めることが重要である。
≪R&Dの実施有無別売上高推移≫
≪R&Dの組織能力の詳細≫
領域
設計開発の
自動化能力
組織間
コミュニケーション
能力
指標
IT活用度
評価指標
設計・開発での
コンピュータの活用状況
(干渉、解析、耐久、
破壊など)
(コンカレント
エンジニアリング度)
組織間共同作業のレベル
(自社内の生産準備、製造、
販売、外部の顧客など)
標準化能力
部品の
共通化度
主要モジュールにおける
部品共通化指数
設計開発の多角化力
外部人材活用度
客先へのエンジニア派遣の有無
共同作業度
出典:共立総合研究所「中小企業におけるR&D」、
東京大学ものづくり経営研究センター(「7M+R&Dアプローチ」によるものづくり企業の組織能力測定と企業収益性の関係)
47
2. 先進技術を持ち、勝ち抜くための企業の取組方針
2.①自社で技術開発(具体的内容)
中小企業こそ、技術による競合他社との差別化を行う為に、費用や作業負荷を気にせず、
「特許」は出願するべきである。
技術で他社との差別化が出来ていれば、継続的に発注先として選ばれる可能性が高くなる。
■特許出願すべき理由
自動車
メーカー
コンペ
不要
共同開発
・特許化されている先進技術があれば、自動車メーカー、一次部品メーカーの設計を
行っている企業から、先進技術を活用した共同開発の相手として選ばれる可能性が
高くなる為、設計から組み込めると、継続的な製品発注が見込める。
1次部品
メーカー
×
・特許化されている先進技術があれば、同階層の競合他社と差別化できるので、
コスト勝負に入る前に、発注先として選ばれる可能性が高くなる。
≪特許戦略で気を付けるべきポイント≫
★先進技術の開発によりこの地位を目指す
1.出願資料は、細部までこだわること
1.
出願資料は、細部までこだわること
2.海外での特許も申請しておくこと
2.
海外での特許も申請しておくこと
■訴訟を見据えて、書類の『書き方』に注意が必要
・書類に記載する内容だけでなく自社の特許が侵害されて
いるかどうかが分かりやすくなるよう書き方を
ひと工夫しておくことが、ポイントである。
⇒費用をかけてでも、専門家に依頼した方が良い。
・特に『明細書』は一番コアな内容を記載する書類の為、
一語一句等詳細のレベルまで考慮する必要がある。
※出願に必要な
5つの書類
出典:特許庁
願書
特許
請求範囲
明細書
HP、大成プラス株式会社
2次部品
メーカー
図面
要約書
インタビュー
■PCT国際出願制度の利用で複数国同時に
出願が可能 (※PCT加盟国:144国)
・部品の買い手国は、先進国が多く、特許制度が厳しい。
しかし、生産国は、発展途上国も多く、特許制度が
整いきれておらず、甘い部分もある。それ故、
生産国で争うのではなく、部品の買い手国で戦える
ようにする為にも、海外での特許出願は必須である。
(部品の買い手側は、模倣品の購入を企業倫理観点からも嫌がる為、
模倣企業への牽制も効きやすい)
48
2. 先進技術を持ち、勝ち抜くための企業の取組方針
2.①自社で技術開発(具体的内容)
特許に値するような先進的な技術を、公開し公知技術にしている企業がある。
公知技術を活用することで、先進的な技術を、ゼロから開発するよりも、
ハードルが低く保持できる可能性がある。
【公知技術情報公開サイト(例)】
■公知技術情報を集めて公開しているサイト⇒独立行政法人産業技術総合研究所のHP
⇒特許庁HP内『電子図書館』
【公知技術(例)】
■タイヤ内部にモーターを格納するインホイールモーター技術
■車のプラットホーム下部に中空のフレーム構造を設け電池やインバーターなど
EVに必要な主要部品を格納するコンポーネントビルトイン式フレーム技術
■中実剤と中空構造材を摩擦圧接する技術
≪中空構造のシャフト≫
企業名:株式会社秋山製作所
・秋山製作所は、EV用のモーターシャフトで、従来工法である中実材からの
切削加工に比べ45%の軽量化を実現した 『中実剤と中空構造材を摩擦圧接する技術』を
保持している。※大トルクに対応する為の強度テストもクリア済
・同技術は、類似案件がなく特許に該当することが判明しているが、使用環境によっては
保障ができないケースがある為、技術料を受け取るべきでないと判断し、
特許申請は行わず、HP等で公開し利用しやすい技術にしている。
自社で蓄積しているノウハウ等とシナジー効果がでるような公知技術を
探し、研究/開発することで、先進技術の開発に繋がる可能性がある。
出典:独立行政法人産業技術総合研究所
HP、特許庁
HP、株式会社秋山製作所
HP
49
2. 先進技術を持ち、勝ち抜くための企業の取組方針
3.②他社と技術の共同開発(メリットとデメリット)
②他社と技術の共同開発
■他社と自社の双方のリソースを用いるパターン。
メリット
投入リソースが少なく、
技術開発が可能である
デメリットとなる具体的な調整事項は、
デメリット
関係者間の取決事項が
複雑であり、
調整が困難である
(1)共同開発パターンの選択
(2)自社技術の保護施策の実施
(3)成果に関する保護施策の
実施 である
50
2. 先進技術を持ち、勝ち抜くための企業の取組方針
3.②他社と技術の共同開発(アクションとポイント)
4つの共同開発のパターンの中から
自社にとって最善なパターンを検討、決定すべき
(1)共同開発パターンの選択
(2)自社技術の保護施策の実施
(3)成果に関する
保護施策の実施
1.参加者間で研究開発活動を分担するもの
2.研究開発活動を実施する組織を参加者が共同で設立するもの
3.研究開発活動を事業者団体で行うもの
4.一方の参加者が資金を提供し、他社の参加者が研究開発活動を行うもの
不測の事態を想定し、「秘密保持契約の締結」や
共同開発以前の「特許化」を実施すべき
成果物に対する権利内容は、
想定し得るパターンと条件を事前に決定しておくべき
51
2. 先進技術を持ち、勝ち抜くための企業の取組方針
3.②他社と技術の共同開発(具体的内容)
共同開発のパターンとしては、4つある。共同開発を選択する場合には、まず、自社にとって、
最善なパターンを検討する必要がある。また、共同開発が、自社の経営自体に悪影響を
及ぼさない為にも、「撤退基準」を明確にしておくことが重要である。
■開発のパターン
1.参加者間で研究開発活動を分担するもの
2.研究開発活動を実施する組織を参加者が共同で設立するもの
3.研究開発活動を事業者団体で行うもの
4.一方の参加者が資金を提供し、他社の参加者が研究開発活動を行うもの
パターン4
他社
他社
開発資金
の提供
自社
自社
新会社
新会社
≪開発費用分担の取り決めを行う際のポイント≫
1.撤退基準を明確にしておくこと
1.
撤退基準を明確にしておくこと
■必ず最初に『撤退基準』を明確にしておかないと、
『中止』は両社にとっても苦渋の選択の為、
相手にずるずるとひっぱられたり、諦めきれなさ
からムダな費用を垂れ流してしまうといった
最悪の事態を起こしかねない。
HP
他社
他社
人・物・金の提供
人・物・金の提供
出典:公正取引委員会
××協会
パターン1
自社
技術
両社
技術
パターン3
自社
自社
他社
他社
パターン2
両社
技術
複数社
技術
他社
他社
2.イレギュラー対応も可能な範囲で想定しておくこと
2.
イレギュラー対応も可能な範囲で想定しておくこと
■イレギュラー対応に関しては、その箇所を
明確にした上で、発生した際の対処方法まで可能な限り
事前に取り決めをしておく必要がある。
(例:分担した費用以外に、著しい負担が発生しそうになった
場合、すべての活動を一旦止め、両社で協議をする等)
52
2. 先進技術を持ち、勝ち抜くための企業の取組方針
3.②他社と技術の共同開発(具体的内容)
共同開発は、他社が関わってくる為、コントロールができないことが多い。
不測の事態を想定し、自社を守れるようにしておくことが重要であり、「秘密保持契約の締結」、
既存の保持技術に関しては、共同開発以前に「特許化」しておく必要がある。
■実際の事例紹介
1.共同開発の話が進んでいたにも関わらず、秘密保持や共同開発に関する契約書を締結したいと
依頼した途端、共同開発の話が相手側から打ち切られ、自社で保持している技術内容、
新技術等の各種案が情報として流出しトラブルに発展するパターン
A社
技術
情報
B社
技術
情報
A社
他社に
流出
まずは秘密保持契約の締結すること
により、情報の流出の防止に繋がる
A社
技術
情報
B社
C社
2.共同開発スタート後、自社技術と相手方の提案/開示技術が混在しだし、もともと両社が
保有していた技術と議論において出てきた提案等に関して、境界線があいまいになり、
相手方が自社技術の範囲まで主張しだすといったトラブルに発展するパターン
自社
自社
技術
技術
他社
他社
技術
技術
スタート時
こうならないように・・・
他社
他社
技術
技術
開発途中
出典:みずほ情報総研
自社技術
自社技術
(既存)
(既存)
既存保持技術の特許化により
自社の技術範囲を完全に明確化
でき、トラブルの防止に繋がる
他社技
他社技
術
術
スタート時のあるべき姿
HP、SMBCコンサルティング
HP
53
2. 先進技術を持ち、勝ち抜くための企業の取組方針
3.②他社と技術の共同開発(具体的内容)
成果物に対する権利内容の『最終確定』は、成果物が完成してからの調整になるが、自社に有利に
したがる傾向がある為、ある程度は、共同開発開始前に握ることが重要である。また、成果物に対する
権利は、数多くのパターンがあるので、想定し得るパターンと条件を決定しておく必要がある。
≪権利調整が必要なパターン(案)≫
※「1.
1.」、「
」、「2.
2.」以外にもパターンは多数あり
」以外にもパターンは多数あり
1.ライセンス
1.
ライセンス//製品販売における収益分配
ライセンス販売
入金
■収益分配は、特許法にて
特段の規定が無い為、細かく明確に
しておくことが重要。
分配
自社/
自社/
共同開発相手
共同開発相手
分配
顧客
顧客
A
A
製品販売
顧客
顧客
B
B
入金
2.共同開発技術を使用する場合の費用
2.
共同開発技術を使用する場合の費用
■共同開発した技術を使用し製品を作ると
使用料が発生。
金額だけでなく、払う/払わない自体も
協議が可能の為、明確にしておくことが重要。
企業×各々のパターン毎に
収益分配及び使用料の条件の検討が必要
出典:契約審査研究所、東京大学法科大学院
ローレビュー
自社/
自社/
共同開発相手
共同開発相手
製品
製造
使用料
※成果物開発(想定)貢献度等により条件が異なるケース多
vol2
54
2. 先進技術を持ち、勝ち抜くための企業の取組方針
4.③他社からの技術調達(メリットとデメリット)
③他社からの技術調達
■他社のリソースを用いるパターン。
メリット
デメリット
①自社で技術開発と
②他社と技術の共同開発
に比べて早く先進技術の
活用/保持が可能である
(1)法務リスクが高い
(2) M&A失敗リスクがある
(3)技術/ノウハウ取得
までの継続が担保できない
メリットを実現するための手法としては、
(1)海外からの先進技術の調達
(2)先進技術を持っている企業のM&A
(3)先進技術保持企業の協力会社となり
先進技術の無償享受
がある
実現手法別に
デメリットが存在
55
2. 先進技術を持ち、勝ち抜くための企業の取組方針
4.③他社からの技術調達(アクションとポイント)
(1)海外からの先進技術の調達
事前の技術の調査をした上で調達し、
技術活用のためのリソース戦略/調達として、
人材、組織の基盤の構築が重要
(2)先進技術を持っている
企業のM&A
(3)先進技術保持企業の
協力会社となり
先進技術の無償享受
M&Aはイメージから検討対象外になることが多いが、
ゼロベースで考えて実行を検討すべき
一時的に先進技術を保持している企業の傘下に入り
将来的に自社で先進技術の獲得を目指す前提で
技術力を磨き、ノウハウを習得すべき
※実際、協力会社を中部地方で探している先進技術保持企業がある
56
2. 先進技術を持ち、勝ち抜くための企業の取組方針
4.③他社からの技術調達(具体的内容)
海外企業からの技術ライセンスや技術が搭載された機械/装置等の購入により、国内競合企業に対する
差別化に繋がるような先進技術の調達が可能である。先進技術で強みを持つためには、先進技術を
活用できるよう人材、組織の基盤の構築が重要である。
≪外部からの技術調達∼実用化までのプロセス≫
①
自社の事業環境の分析
②
先進技術調査
重要!
③
フィージ
ビリティ
スタディ
④
リソース
戦略/調達
⑤
調達
⑥
テスト
⑦
実用化
(人・資金)
重要!
先進技術調査とリソース戦略(事前準備)に注力し、外部からの技術調達による技術習得、
また、結果として他社との差別化に成功した事例
■株式会社コイワイ
鋳造による一体化成形技術を強みとしているが、その技術を支える1つ要因として
3D砂型積層工法が可能な『EOSINT−S(ドイツ製の世界No.1RP装置)』
という装置がある。コイワイは、EOSINT−Sを駆使して、様々な砂型鋳造
ノウハウを蓄積し、他社との差別化を行い、多数の自動車メーカーへの納入実績
を持っている。
【EOSINT−S導入検討開始から実際の導入までにかかった期間】
・3年間:先進技術が駆使できるような人材、組織の基盤構築を行った為
⇒①R&D部門の設立、②人材教育
出典:株式会社コイワイ
HP/インタビュー
EOSINT−S
57
2. 先進技術を持ち、勝ち抜くための企業の取組方針
4.③他社からの技術調達(具体的内容)
技術を取得する手段の1つとして、M&Aがある。
また、自動車部品業界の再編に伴い、M&Aは、今後増えていくと想定される。
■自動車部品業界再編の流れ
オンリーワンの技術をいかなる
手段を取っても保持しないと、
最終的には同階層の競合他社と
コスト競争になる。
コスト競争で、利益を出すのは、
難しくなる為、企業体力が無く
なる一方である。
出典:業界再編の波を迎える自動車部品業界(野村総合研究所)
58
2. 先進技術を持ち、勝ち抜くための企業の取組方針
4.③他社からの技術調達(具体的内容)
未上場企業が絡むM&Aは、M&A市場の全体の約7割、金額の総額でも約4割を占めるまでに増えている。
特に未上場企業同士のM&Aが、急拡大しており、市場全体の1割を占めるまでに至っている。
M&Aはイメージから検討対象外になることが多いが、ゼロベースで考えて検討する価値はある。
≪昨今のM&Aの傾向≫
・後継者がいないという理由から会社を売却したいという事業承継の案件が多い。
事業承継であれば、交渉がスムーズにいく可能性は高いと想定される。
≪実際の事例紹介≫
1.買収企業が小規模企業のケース
1.
買収企業が小規模企業のケース
■買収企業情報
■譲渡企業情報
・業種:自動車部品製造業
・売上:2億円
※社員数10名
・理由:事業拡大の為
・業種:電化製品卸
・売上:3億円
・理由:後継者不在の為
事業承継問題から
自社より売り上げ規模
の大きい会社をM&A
2.新技術獲得が目的のケース
2.
新技術獲得が目的のケース
■買収企業情報
■譲渡企業情報
・業種:自動車部品製造業
・売上:非公開の為、不明
・理由:新技術の獲得により
製品開発部門の強化を行いたい為
・業種:非公開の為、不明
(新技術をもっているベンチャー企業)
・売上:非公開の為、不明
・理由:非公開の為、不明
出典:日本M&Aセンター、T MAC HP、中小企業のM&A(みずほリサーチ)、
中堅・中小企業におけるM&Aの実態調査(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
自動車部品製造業で
新技術を獲得する為の
M&Aに動き始めている
企業も既にある
59
2. 先進技術を持ち、勝ち抜くための企業の取組方針
4.③他社からの技術調達(具体的内容)
将来的に、自社で先進技術の獲得を目指す前提で、一時的に先進技術を保持している企業の傘下に
入り技術力磨き、ノウハウを習得する方法もある。
実際、協力会社を中部地方で探している先進技術保持企業がある。
≪プロセスイメージ≫
自動車メーカー/一次部品メーカー
自動車メーカー/一次部品メーカー
★STEP2
先進技術
先進技術
保持企業(A社)
保持企業(A社)
先進技術
先進技術
保持企業(自社)
保持企業(自社)
★STEP1
A社の協力工場
A社の協力工場
(B社)
(B社)
A社の協力工場
A社の協力工場
(自社)
(自社)
技術
技術
技術/ノウハウを
習得及び活用し、
先進技術を保持した
企業になる
⇒自動車メーカー/
一次部品メーカーから
指定されるサプライヤー
になる。
ノウハウ
ノウハウ
≪先進技術保持企業(例)≫
■大成プラス
(企業紹介は、1章にて説明済)
・大成プラスは、自社での工場増設、設備投資はリスクが高い為、協力会社を探し、
協力会社には、製造装置を無償で与え、技術指導を徹底し、量産体制を構築している。
・実際に、中部地域で生産可能な企業を探している。
出典:大成プラス株式会社インタビュー
60
総括
中小部品・加工メーカーに
おいても、
他社と差別化していく
ためには、
「技術力の向上」を
行なうべきである。
以前より状況が厳しかった
中部地域以外の中小部品・
加工メーカーで、
独自の技術を持ち、
成功している企業もある。
海外生産の加速や、
部品需要の減少、
技術承継の遅れなど、
自動車関連の中小部品・
加工メーカーを取巻く
環境は厳しい。
中部地域の中小部品・加工メーカーの皆様も、生き残りをかけ、
先進技術を保持・活用するためのアクションを
起こすべきである。
61
巻末資料
≪パーツ分類ごとの軽量化推進動向≫
①シャシ/フレーム(サブフレーム、ステアリングメンバ、フレーム、
バンパーリインフォースメント、ドアビーム、ピラー等)
サブフレーム
・アルミ材料価格の課題はあり採用モデルは高級車に限定されているが、対鋼材比重1/3、リサイクル性に優れたアルミ
部材を採用する傾向にある。
・サブフレームでは、パイプを素材とした閉断面構造部品の成形法であるハイドロフォーミング(金型を
閉じた状態で、パイプ材の内面に液体を充填し、圧力をかけて空洞上の部品に形成する技術)を採用する
ケースが増えており、従来の工法と比較して、プレス工程、金型の削減が図れ、溶接工程の簡素化が可能
となり、軽量化とコスト削減につながる。
ステアリングメンバ
大物部品であるステアリングメンバのアルミニウムダイカスト製品の採用が増える事で、軽量化が大きく進む可能性がある。
フレーム
・高張力鋼板のフレームへの採用により、剛性を保持しつつ軽量化を実現させている。
・また、1994年に初代Audi A8にアルミ・スペース・フレームを採用し、安全性と軽量化を実現させており、高級車
への普及が想定される。
・更に、加工コストやリサイクル性の向上を図る事で、素材価格が安定すればアルミ素材を使ったミドルクラスへのフレームの
普及が期待されている。
その他
軽量化トピック
・エフテックでは、特性の違うアルミニウム材と鋼材を組み合わせて作るアルミハイブリッド製法を採用している。
(アルミハイブリッド製法:結合部には効果的な補強を加える最新の溶接技術や加工技術)
・旭テックでは、以前独自技術(ACTIVE-MG)により、ステアリングメンバのマグネシウムダイカスト製品を開発したが、
腐食性やコストの問題から採用が増えず生産を中止しており、現在はステアリングメンバのアルミダイカスト製品を展開
している。
62
巻末資料
≪パーツ分類ごとの軽量化推進動向≫
②足回り(サスペンションアーム、ナックル、スプリング、ホイール、ダンパー、
ブラケット等)
サスペンションアーム
・サスペンションの中でも特にアーム類は、剛性、耐久性、腐食性が要求されており、軽量化の観点からはアルミ化が進
みつつある。
・特殊鋼材が使われてきたが、アルミ鍛造技術の高度化により採用が増加傾向にある。
ナックル
・通常は鉄系の鋳造品であり、鍛造品に関しては、一部の高級車やトラック向けに採用例がある。
・従来の鋳鉄製ナックルに対して40%∼50%も軽量化が可能となり、走行安定性にも寄与する事から、アルミ合
金製ナックルの採用も一部見られる。コストを意識して従来のアルミ鍛造からアルミ重力鋳造を採用する事例も増加して
いる。
スプリング
・自動車用スプリングの軽量化は、主に素材の成分調整により応力を上げることで実現してきたが、次世代自
動車の普及に伴う更なる軽量化の要求に対して、既存の鉄系材料における従来のアプローチでは限界となった。
・鉄からチタンへ変えれば20%程度の軽量化は実現するが、コスト高になり量産モデルへの採用は無理である事か
ら、ばね材料の構造に注力し、開発が進んでいる。
ホイール
・コストや剛性面から通常はスチールであるが、トラック、バスでは軽量化と高強度を実現する高張力鋼が使用されてい
る。
・鋳造解析技術を駆使し、高強度で軽量化に優れたアルミホイールも増えているが、アルミニウムの1/2程度の重量とな
るCFRPを使ったホイール製品の開発も進められている。
ダンパー
軽量化の為、航空機の成型技術を用いて炭素繊維複合材料(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plasticsの
略)を使った製品の開発。
ブラケット
軽量化の為、航空機の成型技術を用いてCFRPを使った製品の開発。
63
巻末資料
≪パーツ分類ごとの軽量化推進動向≫
②足回り(サスペンションアーム、ナックル、スプリング、ホイール、ダンパー、
ブラケット等)
その他
軽量化トピック
・富士重工業では、車体の軽量化としての観点からアルミニウム合金製のアームを採用しており、足回りの部品として
走行性能の向上も図れる事からも評価している。
・モジュール化によりアームだけで2kg程度の軽量化が可能となり燃費が向上しているが、トータル的なコスト削減からアルミ
から鋳鉄製に戻した事もあった。
・同社のユーザーは、ヘビーユーザーなので足回りにはうるさく、軽量化による走行性の向上や乗り心地を優先したモ
デル作りを心掛けている
・アーレスティでは、主に本田技研工業向けにアルミ合金のアームを供給しているが、車体の軽量化を意識しているもの
の上位車種であるレジェンド、アコードまでの採用で止まっている。
・価格の問題からアッパークラスモデルに採用は限定的であり、HEVやEVの普及への採用に期待している。
・同社の製品は全て国内生産のみで、現状でも生産技術の移転が難しく、品質面から海外での生産は行って
いない。
・ニッパツは、これまでの線材に換えて高強度パイプをばね材料として採用した製品を開発、中空化により内面
応力が高まる事で従来品と比較して高性能化になっており、懸架ばねに採用した場合1台当たり10kg程度の
軽量化が可能である。
・また、応力分布の緻密な制御と高精度な材料加工・成形技術により、コイル形状に成形した際の応力分布に応
じてばね材の太さをコントロールし、構造的に余分な部分を削ぎ落とす事で大幅な軽量化を実現させたFSDコイルスプリ
ングを開発している。
・単に車両を軽くするだけではなく、バネ下重量の低減化は、燃費の向上、走破性、乗り心地にも影響がある
事から重要視されている。
・一方で、足回りには重要保安部品が多く見られる事から、耐久性も求められており、コスト面だけでなくアルミ
合金を多用化できない状況にある。
64
巻末資料
≪パーツ分類ごとの軽量化推進動向≫
③駆動系部品(プロペラシャフト、ステアリングホイール、駆動用モータ、
シリンダーライナー等)
プロペラシャフト
・CFRP製ではスチール製と比較して1/4の軽量化が図られると共に強度は10倍となる。しかし、原材料が高いだ
けではなく、製法や工数と言った生産コストがかかる課題が残っている。
・一部のメーカーにより低コストで生産できる生産技術を開発した事で、現在の高級モデルだけでなく、ミドルクラスのモデルま
で普及が期待されている。
ステアリング
・欧米を中心に、軽量化の為にマグネシウム合金を採用する傾向はあるものの、コストの問題から採用モデルは限定的。
・一方、素材ではなくフレーム形状の改良による使用量の削減による軽量化の取組も行われている。
駆動用モータ
・巻線技術、モータコア技術、レアアース磁石からレアアースフリー磁石の開発等、素材技術、加工技術、生産技術の開発を進める
事で、小型・軽量化、コスト削減の取組が積極的に行われている。
・特に、レアアースを使わないモータの開発は各社が行っており、レアアースの調達課題をクリアにする事でHVやEVの駆動システ
ムのコスト削減が推進される。
シリンダーライナー
主にアルミ合金のシリンダーに用いられ、大型ディーゼルエンジンのシリンダーブロックには鋳鉄製であるが、ホンダのNSXには軽量
化を目的にFRM(アルミナ繊維及びアルミナ粒子をメインマテリアルに使用)製品も開発されている。
その他
軽量化トピック
世界最大の炭素繊維メーカーである東レが開発したCFRPの革新的成形技術である「ハイサイクルRTM(Resin
TransferMolding)成形技術」を活用し、ダイムラーAGとCFRP製自動車部品を製造・販売する合弁会社を設立。
アメリカでは、1992年に自動車メーカー3社(GM、フォード、クライスラー)の参加によるUSCAR(United States Council
for Automotive Research)が設立、競争力強化と併せて環境対策に取り組んでおり、その中で、米国自動車
用材料パートナーシップ(USAMP)の組織的な指導のもと、2001年に「マグネシウム製駆動系鋳造部材プロジェクト」が発
足している。このプロジェクトでは、2020年に、自動車へのMg合金の使用量を約100kgとすることが目標として
いる。
65
巻末資料
≪パーツ分類ごとの軽量化推進動向≫
④内・外装部品(ドア外装、内装パネル、フード、リアゲート、鋼板補強材、シート等)
ドア外装
HEVの重量軽減のため、既に「プリウス」では、フード、バックドアなどにアルミ合金が使用されており、外装パネルを
中心にアルミ合金製部品が使用される期待が高まっている。
リアゲート
リアゲートに樹脂を採用する事で、本来の鋼板製に比較して軽量かつ造形自由度があり、組付部品を一体化(モシ
゙ュール化)する事で、コストも低減できる。
鋼板補強材
・鋼板のさらなる薄層化や軽量化が進む中で、鋼板補強材を車両パネル面積の30%程度に貼り付けるだけ、
外装鋼板の補強・制振及び騒音低減機能を有する製品を開発されている。
シート
・シートは、安全・快適性が求められる一方で、車室内の大物部品である事から軽量化が急務となっている。
・圧延/加工のコスト低減を図る技術の開発が必要であるが、シートフレームにマグネシウム合金を使用する事で、軽量化以
外にも制振性が得られる事から、HEV・EVへの採用が期待されている。
その他
軽量化トピック
・日立化成工業では、高強度・高剛性のガラス繊維強化熱可塑樹脂製インナーパネルと、外観に優れたエンジニアリングフ
゚ラスチック製アウターパネルを接着剤で接合した樹脂製バックドアモジュールを開発、鋼板バックドアモジュールに対して10∼18%
軽量化した2001年に量産化している。
・また、2004年にインナーパネルをプレス成形から射出成形に変更し、アウターパネルも汎用樹脂に変える事で、生産
性の向上と材料コストの低減を実現している。
・日東電工では、軽量化の為の鋼板の薄層化による、剛性の低下や騒音の発生が課題となるが、独自の高分
子技術を用いエポキシ樹脂発泡タイプの鋼板用補強制振材「ニトハード」を開発。
・粘着材を塗布する事で、鋼板に密着し、曲面にも追従、電着塗装ラインの熱により発泡・硬化し、鋼板を部
分補強する。
66
巻末資料
≪パーツ分類ごとの軽量化推進動向≫
⑤機能部品(EPS、小型モータ、ヒートシンク等)
EPS
EPSの高出力化が課題であり、ブラシレスモータの開発が進むと同時にブラシモータ、ECU、トルクセンサ基板、ギアボックスやト
ルクセンサコイルメカトロニクス部の全てを一体化した機電一体システムが普及する事となる。
小型モータ
・利便性、快適性の向上の為のシステムの増加によりモータの搭載数量の増加が著しいが、駆動効率を上げる事で電
力消費を削減する為にも装着されており、高級車には1台に60個以上が搭載されている。
・モータの高出力化、小型化が必須となっている一方で、駆動部位毎に適したトルクのモータを配置する事で、省費
電力の削減が行われている。
ヒートシンク
・アルミ又は筐体形状による方熱量の高効率化のニーズの拡大している。
・レアメタルの添加素材を用いて冷却性を高める以外に製品やモジュール形状による取組も行われている。
その他
軽量化トピック
・NSKは自動車メーカーと共同で、世界で最も短く、軽量・コンパクトなコラムタイフの゚EPSを開発。
・既に、油圧式から電動に移行しており、低燃費への取組とシステム自体の小型軽量化の流れにより機電一体化
が進んでいる。
アスモでは、4極ワイパモータを開発。多極化(2極:磁石1対⇒4極:磁石2対)を用い出力源となる従来の2倍の
磁気回路を構成、小型・軽量で従来並みの出力を確保したモータを開発。
67
巻末資料
≪パーツ分類ごとの軽量化推進動向≫
⑥その他部品(ECUハウジング、各種筐体、ワーヤーハーネス、カーオーディオ向け部品等)
ECUハウジング・
各種筐体
・車の安全走行性や快適性、利便性、環境性能向上の為に新システムが搭載され、それを制御するECUの搭載
量が急激に増加しており、ECUを設置する空間も少なくなっている事から、ECUの小型・軽量化が必須
課題となっている。
・主にハウジングの素材は安価で高い耐衝撃性、耐熱性、リサイクル性に優れた鋼板が採用されているものの、軽
量化の観点からアルミ合金、マグネダイカスト、樹脂を採用するモデルもある。しかし、現状では耐熱性、放熱性、
耐衝撃性の観点から鋼板にかわる素材には課題が多く残されている。
・ECUは設置環境により耐久性が異なるが、車室内に設置されていたECUが、エンジンユニットに直付けする事
で、ハーネスの量は減るものの要求スペックは高くなる。車室内での設置の要求スペックは、−30℃∼80℃に対し
て、エンジンユニットへの直付けの場合は、−40℃∼120℃以上(150℃の要求スペック)までの耐久性を要求さ
れるケースもある。ケース内の熱を放出する為の形状や放熱部材を採用する等の様々な取組が行なわれており、
樹脂材料とアルミ合金を組み合わせ使用するケースも増えている。
・現状ではECUハウジングの素材は50%が鋼板製で、アルミニウム合金が27%、残りの23%がPPS/PBT/PPの
樹脂製となっている。
ワイヤーハーネス
アルミニウム合金は、銅に比べて電気伝導度が約2/3と劣るものの、比重が約1/3と小さく、ワイヤハーネス全体では
40∼50%の軽量化が可能となる。
カーオーディオ向け部
品
・CAD解析を活用する事で強度を保持したまま薄くて軽いプレス部品化に成功している。(プレ板に穴を開
けて軽量化する荒っぽい手法も取っているケースもある。)
・一体成型化する事で部品点数を減らし軽量化を実現すると共に、アッセンブル工程も減らしてコスト削減に繋げ
ている。
68
巻末資料
≪パーツ分類ごとの軽量化推進動向≫
⑥その他部品(ECUハウジング、各種筐体、ワーヤーハーネス、カーオーディオ向け部品等)
その他
軽量化トピック
・古河電気工業は、同社子会社の古河ASと、電線の導体にアルミニウム合金を用いる自動車用ワイヤハーネス、及びワイ
ヤハーネス用のアルミニウム合金を開発。
・課題であった電線の導体と端子の接続性能については、アルミニウム電線の酸化皮膜の状況を解析し、接続の
仕方を工夫する事で、解決している。
・パイオニアでは、車載システムの高機能化によりインパネ周りの空間がなくなっており、空間を確保する必要からカ
ーオーディオメカの小型・軽量化を進めている。
・一方、新興国の海外モデル向けでは、高機能システムの搭載が少なくサイズアップしてもコスト重視するケースがある。
69
巻末資料
≪樹脂素材を中心とした軽量化の部品・モジュール≫
①機構・エンジン部品
軽量化への取組/市場環境ほか
成形方法
ほか
燃料タンク
・樹脂タンクは、強度を向上させる事で薄肉・軽
量化を進めている。
・海外モデルで樹脂タンクの採用が進み、日本国内
でも普及しつつある。
・現在は多層ブロー成形であるが、ブロー成形用設備は
高価である事から、インジェクション成形等の成型方法の
変更が検討されている。
ケース及びハウジン
グ
・耐熱性を必要としないケース、ハウジングではアルミ
ダイカヤストの代替として樹脂が採用され、軽量化
が進んでいる。
・射出成形。
・成形性が良くハーネスやネクタとの一体性のある形状製
品の生産が可能。
フェーエルポンプ
・燃料タンクモジュールとして耐ガソリン性を有する樹脂
を採用して軽量化を進めている。
・射出成形等。
・バイオディーゼル等の次世代燃料に対応できる素材・
部品開発が進められている。
インテーク
マニーホールド
・アルミダイキャストから樹脂(PA6)に素材が替わる
事で25∼50%の軽量化を実現させている。
・また、内面平滑性に優れ、低騒音化も図れる
事から既に普及段階にある。
シリンダーヘッドカ
バー
軽量化を目的に鋼板からアルミ合金に変わったが
、更に軽量化、低コスト化、モジュール化により樹脂
(PA)への切り替えが見られる。
・インテークマニーホールドは射出成形、中空成形などが主流
で、シリンダーヘッドカバーは射出成形となっている。
・樹脂採用による形状の自由度から吸気系部品の
モジュール化も進んでおり、アルミ製品より優位にある。
・金属からの樹脂の代替でウォーターポンプ、ラジエータタンク
周辺部品、チェーンテンショナー等がある。
燃料ホース
軽量化とコスト削減から欧州を中心に合成ゴムから
の切替が進み、日本でも普及しつつある。
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巻末資料
≪樹脂素材を中心とした軽量化の部品・モジュール≫
②内装部品
軽量化への取組/市場環境ほか
インスツルメントパ
ネル 、
ドアトリムパネル
成形方法
ほか
内装の中で大物樹脂部品では、コスト、成型加工性、
低比重、扱い易さ、樹脂の統一性(リサイクル)が求め
られている。
・射出成形など。
・日本国内のインパネはほぼPPであるが、海外では
50%程度に止まっており、地域により採用傾向
は異なる。
樹脂内での素材変更により、軽量化だけでなく、
耐候性、耐磨耗性、耐擦傷性、感触、材料統一性
、リサイクル性が要求されている。
押出、カレンダ成形。
コンソールボックス
表皮材(インパネ、
ドア、天井 等)
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巻末資料
≪樹脂素材を中心とした軽量化の部品・モジュール≫
③外装部品
軽量化への取組/市場環境ほか
成形方法
ほか
クォーター
ウインドウ
・樹脂(PC)を使う事で、従来のガラス製品と同等
以上の外観を保ち30%以上の軽量化を実現できる。
・今後グレージング(樹脂等により射出成形され
たガラス・金属代替パーツ)の需要が拡大すると
予想される。
・大型射出プレス成形機を使い、トヨタ本体の成形加
工技術を活用して普及を推進。
・パノラマルーフ、バックドア、サイドドアの
ガラス代替の為に耐候性や耐摩耗性を高め、価
格の低減化を進めると共に規制(採用部位が限
定)をクリアにする必要がある。
ヘッドランプ
リフレクタ
コストは掛かるものの、蒸着特性、軽量化やリサイクル性
を重視して、BMCからPEIへと樹脂素材の変更が
行われている。
射出成形。
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