始動するロシアの経済特区制度 - 服部倫卓のロシア・ウクライナ

始動するロシアの経済特区制度
ロシア東欧経済研究所 調査役
服部 倫卓
はじめに/14
1.経済特区法の骨子/15
2.経済特区の選定/17
3.6箇所の経済特区の概要/19
(1)サンクトペテルブルグ市/21
(2)モスクワ市ゼレノグラード区/22
(3)モスクワ州ドゥブナ市/23
(4)トムスク州トムスク市/24
(5)リペツク州グリャジ地区/25
(6)タタールスタン共和国エラブーガ地区/26
おわりに/27
はじめに
ロシアでは、2005年7月に連邦法「特別経済区について」が成立した。90年代に経済特区が無
秩序に乱立していた経緯こそあるものの、
同国で特区に関する統一的なルールが制定されるのは、
実は今回が初めてである。その後ロシアでは、特区の具体的な設立地の選考が進められ、11月28
日には経済発展貿易省で選考委員会が開催され、経済特区6箇所が内定した。これを受け、連邦
政府は12月21日付の政府決定により、6箇所の特区創設を正式に決定した。2006年1月18日、連
邦政府は一連の地域・自治体と個別に協定に調印し、これにより経済特区6箇所が正式に発足し
たわけである。
ロシアの政策担当者たちが様々な機会に発言しているように、今回の特区制度導入の主たるね
らいは、産業構造の高度化にある。周知のとおり、ロシア経済は石油・天然ガスをはじめとする
資源・素材部門に偏重しており、昨今のエネルギー価格の高騰でますますそれに拍車がかかって
いる。そこで、石油高で財政的な余裕があるうちに、特区を選定してそこに集中的に投資を行い、
外資を巻き込みつつ製造業およびハイテク産業発展の拠点として育成することで、国全体の経済
を浮揚させようというものであろう。
と同時に、2005年の特区法は、プーチン現政権下で進められている中央集権化の文脈からも理
解する必要がある。90年代にロシア各地に出現した一連の怪しげな「経済特区」は、当時のエリ
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ロシア東欧貿易調査月報2006年3月号
ツィン政権による野放図な地方分権化の産物だった。それらは、産業育成に資するどころか、脱
税や密輸の温床と化した。それゆえ、旧特区は、カリーニングラード州とマガダン州のそれを例
外として、プーチン政権下でいずれも廃止されることとなった。これを教訓として、法制度上も、
管理体制の面でも、連邦主導の統一的な枠組みを打ち出すこと。これが、2005年特区法のもう一
つの眼目と言える。その端的な表れが、経済発展貿易省の外局として、
「連邦経済特区管理庁」と
いう組織を新設し、
これが全国の特区を一元的に管理する体制をとっていることであろう。
なお、
同庁のウェブサイト(http://www.rosoez.economy.gov.ru)は、経済特区に関する有益な情報源であ
るので、ロシア語がおできになる方はぜひ参照してみていただきたい。
当会ではこれまでも、本誌2005年11月号に特区法の全訳を掲載し、また『ロシア東欧経済速報』
(2005年12月5日号)で内定した特区6箇所についていち早くお伝えするなど、その紹介に努め
てきた。本稿では、それらを踏まえながら、ロシアの経済特区制度と、各特区に関する基礎情報
を、さらに詳しくご紹介することを試みたい。
1.経済特区法の骨子
上述のように、2005年7月に採択された連邦法「特別経済区について」の全訳が、本誌2005年
11月号に掲載されているので、ご利用いただければ幸いである。ここでは、経済特区法の骨子を、
筆者なりに噛み砕いて、箇条書きの形にまとめてみることにする。
• ロシアの経済特区には、
「工業生産特別経済区」と「技術導入特別経済区」の2種類がある(第
4条)
。なお、以下本稿ではそれぞれ「工業生産特区」
「技術導入特区」と呼ぶ。
• 工業生産特区の面積は20km2以内。技術導入特区の面積は2km2以内(合計面積が2km2以内で
あれば、2つの区域に分かれていても構わない)
。一つの地方自治体全体が特区となることはで
きず、その一部が特区となる(第4条)
。経済特区は、国有地または地方自治体所有地に創設さ
れる(第5条)
。
• 経済特区では、地下資源採掘および金属製造、それらの加工、物品税対象商品の製造(乗用車
およびオートバイを除く)が禁止される(第4条)
。
• 経済特区の存続期間は20年間で、延長はできない(第6条)
。
• 企業は、特区の所在する地方自治体で登記を行ったうえで、特区の管理機関と協定を結ぶこと
により、特区の「入居者」となる(第9条)
。協定の有効期間は、特区の存続期間(つまり最長
20年)を超えないものとする(第16条)
。
ロシア東欧貿易調査月報2006年3月号
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• 工業生産特区で入居者は、協定で規定されている範囲内で、工業生産活動のみを行う。工業生
産活動とは、商品(製品)の生産・加工およびその販売を意味する(第10条)
。
• 技術導入特区で入居者は、協定で規定されている範囲内で、技術導入活動のみを行う。技術導
入活動とは、科学技術製品の開発・販売、試作品の製作・実験・販売等、コンピュータ関連サ
ービスなど(第10条)
。
• 特区の非入居者も、特典は利用できないが、特区内で事業を行うこと自体は可能。他方、特区
の入居者は、特区外に支店・代表事務所をもつことができない(第10条)
。
• 工業生産特区の入居者は、1,000万ユーロ相当以上の投資を実施しなければならない。うち、最
初の1年間で100万ユーロ相当以上(第12条)
。
• 工業生産特区の管理機関は、入居者との間で、土地区画の賃貸契約を結ぶ(第12条)
。技術導入
特区の場合は、特区内に所在する国または地方自治体の資産(建物等)の賃貸契約が結ばれる
が、協定で特記すれば土地の賃貸も可能(第22条)
。賃借した土地区画に、自ら不動産物件を建
設した場合は、土地区画を買い上げる権利が生じる(第32条)
。
• 特区の入居者が、生産や研究開発といった所期の目的で外国から商品を輸入する際には、輸入
関税および付加価値税が免除される。同様に、ロシアの他地域および特区の別の企業から購入
される商品についても、付加価値税が免除される。商品の特区への移入および特区からの移出
は、税関によって管理される。免税対象品目は事前に届け出る(第37条)
。
• 協定の有効期間中は、納税者にとって不利な変更が税法にあっても、特区の入居者には適用さ
れない(第38条)
。
以上が、2005年特区法の骨子である。なお、本誌2005年11号に掲載した経済特区法の翻訳に、
不正確な部分があったので、この場を借りて訂正させていただきたい。当方の翻訳では、第4条
第2項の後半が、
「技術導入特別経済区の創設は2ヵ所までで、その合計面積は2km2以下である」
となっていて、あたかも技術導入特区が全国に2箇所までしか創設できないかような表現になっ
ていた。実際には、技術導入特区はすでに4箇所創設されているわけで、この翻訳では不正確で
ある。法律の原文が言わんとしているのは、1つの技術導入特区は、最大2つの区域から成り、
その合計面積が2km2以下であるということであった。お詫びして訂正させていただく。
さて、上記のまとめをご覧になってお分かりいただけるとおり、2005年7月の連邦法を見る限
り、優遇措置はそれほど多彩ではない。具体的な特典は、第37条に示されている輸入関税・付加
価値税の免除に、ほぼ限られる。
実は、これについては、若干の補足が必要である。各種報道によれば、これ以外にも、特区入
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ロシア東欧貿易調査月報2006年3月号
居者に対しては、統一社会税の税率が26%から14%に引き下げられると伝えられている(年収28
万ルーブル以下の職員につき)
。だが、少なくとも2005年7月の連邦法にはそのようなくだりは見
当たらず、何がその法的根拠になっているのか、残念ながら筆者は確認できていない。
また、後述のように、ロシア連邦政府は2005年12月に経済特区6箇所を正式に決定し、この1
月18日には各地域と特区創設に関する協定に調印している。その際に連邦と各地域は、特区入居
者に対して追加的な税制優遇措置を適用することで合意したのである。これについては、地方の
リーダー側が提案し、連邦政府側も快諾するという形で、コンセンサスが得られた模様である。
報道によると、5年間、土地税、資産税、運輸税といった地方税が免除され、利潤税についても
地方予算納付分(4%)が免除されるとのこと。各地域・自治体はそれに向けた法的措置を2カ
月以内に講じることになった。グレフ経済発展貿易大臣によれば、これらの追加的な優遇措置の
方が、連邦法にうたわれている優遇よりも大きいという。
経済特区管理庁の試算によれば、これらの減税措置を合計すると、経済特区に入居することに
よるコスト削減効果は、約30%にも及ぶというから、かなり大胆な優遇策であると言えよう。
また、これは必ずしも法律に明記された優遇措置というわけではないが、経済特区のもう一つ
のメリットとして、ロシア全般に比べてより良好な産業基盤を享受できるであろう点が挙げられ
る。というのも、特区においては、電力、ガス、水道、電話、鉄道・道路、オフィス建設といっ
た基礎的な産業基盤の整備が、連邦および地方の公的資金を投入して、集中的に実施されること
になっているからだ。これらのインフラ整備事業は2007年末までに完了することになっており、
2006年の連邦予算にはそのための資金が80億ルーブル計上されている(325億円に相当)
。
2.経済特区の選定
2005年7月の連邦法制定後、特区の具体的な設立地の選考が進められた。そして、11月28日、
経済発展貿易省で選考委員会が開催され、経済特区6箇所が内定した。表に見るように、技術導
入特区が4箇所、工業生産特区が2箇所である。これを受け、連邦政府は12月21日付の政府決定
により、6箇所の特区創設を正式に決定した。2006年1月18日、連邦政府は各地域・自治体と特
区創設に関する協定に個別に調印し、これにより経済特区6箇所が正式に発足したわけである。
なお、筆者はこれらの特区創設協定の原文を入手することを試みたが、現在までのところ成功
していない。特区管理庁のサイトにも掲載されていないし、同庁に(あえて英語で)メールを送
ったが無反応であった。各協定はかなり大部であるとも伝えられ、これが入手できれば、各特区
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に関する詳細な情報が得られるはずである。残念ながら、本稿は協定そのものを参照することな
く、様々なソースから情報を拾い集める形で構成している。
さて、ロシアの特区制度で特徴的なのは、それぞれの特区で想定されている事業分野が、具体
的に示されていることである(表参照)
。こうした具体的な分野が、連邦政府と地域間の協定にも
明記されるのかというのが、一番知りたい点であったが、残念ながら未確認だ。いずれにしても、
こうした分野でなければ特区に入居できないというわけではなく、法律の要件さえ満たせば、ど
んな事業でも優遇措置を利用できるというのが、政策担当者の説明である。
ところで、当初の下馬評では、今回の選考で、少なくとも10箇所あまりの経済特区が認定され
るのではないかと予想されていた。6箇所というのは、その予想を大きく下回る数字である。
実際、今回の特区選定には、技術導入特区で29件の、工業生産特区で43件の応募があったとさ
れる。連邦政府としては相当数の特区を制定する用意があり、実際に応募も多かったにもかかわ
らず、終わってみれば6箇所どまりだったということになる。
その原因は、各地域が準備した特区計画書が、充分に練り上げられたものではなかったという
点にあるようだ。もともと、工業生産特区は、東シベリアや極東のような経済発展が立ち遅れて
いる地域のテコ入れ策として位置付けられていた(特典なしでも投資誘致が望めるモスクワ市・
州やサンクトペテルブルグ市は工業生産特区の対象外というのがグレフ大臣の立場)
。それが、蓋
を開けてみたら、最東端の特区は西シベリアのトムスクで、東シベリア・極東はゼロになってし
まったのである。これについてグレフ大臣は、工業生産特区の申請にはお粗末なものが多く、自
分としてはぜひとも東シベリア・極東を加えたかったのだが、これらの地域の申請はいずれも詰
めの甘いものだったという趣旨の発言をしている。
2005年連邦法にもとづく経済特区(2006年2月現在)
種類
技術導入
特別経済区
工業生産
特別経済区
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所在地
想定されている事業分野
サンクトペテルブルグ市
IT、計測・分析機器
モスクワ市ゼレノグラード区
マイクロエレクトロニクス
モスクワ州ドゥブナ市
核技術・物理学、プログラミング
トムスク州トムスク市
新素材、核技術、ナノテク、バイオ
リペツク州グリャジ地区
家電生産、家具生産
タタールスタン共和国エラブーガ地区
自動車部品、石油化学分野の高度技術製品
ロシア東欧貿易調査月報2006年3月号
現時点の雲行きからすると、後進的な地域の振興策というよりは、より進んだ地域に対する優
遇策になってしまう恐れもある。モスクワ市・州、サンクトペテルブルグ市のような勝ち組がし
っかり特区の権利を確保しているし、リペツク州にしても、すでにイタリア・メーカーの協力で
家電生産を軸にした地域振興策が進んでおり、今さら追加の優遇策が必要なのかという疑問も残
る。
もっとも、今回の特区選考は、最終的なものではないとされている。2回目の選考会が、2006
年上半期にも実施されるという。極東や東シベリアの地域にも、
「敗者復活」のチャンスが残って
いるということだ。
また、政府は新たに「観光・リクリエーション特区」および「港湾特区」
(海港だけでなく空港
も対象になる模様)の制度を導入すべく、現在2005年特区法の改正作業を進めているところであ
る。省庁間の調整が難航し、法改正には思わぬ時間がかかっているようだが、経済発展貿易省で
はこれらの特区についても2006年中に具体的な設置場所を選定したい考えである。
もう一つ、関連して注目されるのが、特区とは別に「テクノパーク」という枠組みがつくられ
つつあることである。これは、先に特区の申請をした候補地のうち、申請内容は優れていたが、
規模が小さいといった理由で特区から漏れてしまったところを支援するという趣旨の制度である。
テクノパークには、税制等の優遇策は適用されないが、その代わり連邦政府がインフラ整備に資
金を投入することになる。報道によれば、すでに、ノヴォシビルスク州ノヴォシビルスク市(IT、
バイオ)
、チュメニ州チュメニ市(石油・ガス探査・採掘技術)
、タタールスタン共和国カザン市
(化学・石油化学)
、ニジェゴロド州サロフ市(医療・情報・エネルギー機器)
、カルガ州オブニ
ンスク市(バイオ・医薬品・新素材)という5つのテクノパークが決定しているそうだ。連邦政
府は2006年に、これらのテクノパークのインフラ整備に20億ドルを拠出するという。
3.6箇所の経済特区の概要
それでは、次に、すでに設立が決まっている6つの経済特区の基礎的なデータを、まとめてご
紹介したい。
上述のように、
最も重要な資料であるはずの連邦と地域間の協定を未見であるため、
各種の報道やネット情報を総合してまとめたものであることをお断りしておく。可能な範囲で、
進出が見込まれている企業の具体名も挙げたが、あくまでも報道ベースの情報である。
ロシア東欧貿易調査月報2006年3月号
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ロシア東欧貿易調査月報2006年3月号
(1)サンクトペテルブルグ市
г. Санкт-Петербург
Œ 種類:技術導入特別経済区。
Œ 想定事業分野:IT、計測・分析機器。
Œ 特区の面積:特区はノイドルフ区(30ha)
、ノヴォオルロフスコエ区(170ha)という2つ
の区域からなり、合計で200ha。
Œ 立地・アクセス:第1期に創設されるノイドルフ区は市の南部に位置し、市環状道路をはじ
めとする幹線道路、サンクトペテルブルグ港、プルコヴォ空港などへのアクセスがとくに
良好。第2期に創設されるノヴォオルロフスコエ区は、ノイドルフ区とは離れていて、市
の北部に位置する。
Œ インフラ整備投資額:15億ルーブル(うち連邦負担分が50%)
。現時点でのインフラの整備
状況はノイドルフ区が優るため、今後のインフラ投資の大部分はノヴォオルロフスコエ区
に向けられる。
Œ 期待される経済効果:2006~2018年に特区の活動から得られる税収は250億ルーブル。1.5
万の雇用を新規創出。
Œ 進出が見込まれている企業・組織:フィンランドのTechnopolis Oyj社が2億ユーロを投資し
てノイドルフ地区にテクノパークを創設することが内定している。このほか、多くのロシ
ア企業・組織、具体的には外国貿易銀行、Radar mms、Tranzas、ヨッフェ物理技術研究所、
サンクトペテルブルグ国立工科大学、サンクトペテルブルグ国立電気技術大学、応用天文
学研究所などが入居を希望している。
Œ 関連するインターネット・サイト:
http://www.gov.spb.ru
サンクトペテルブルグ市行政府
http://www.cedipt.spb.ru
市行政府の経済発展・産業政策・貿易委員会
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(2)モスクワ市ゼレノグラード区
Зеленоградский административный округ г. Москвы
Œ 種類:技術導入特別経済区。
Œ 想定事業分野:マイクロエレクトロニクス。
Œ 特区の面積:2つの区域からなり、
「MIET技術革新地区」は5.15ha、
「技術導入地区-アラ
ブシェヴォ」は150ha。
Œ 立地・アクセス:ゼレノグラード区はモスクワ市の飛び地のような位置関係にあり、モスク
ワ外環状道路から北西方向に20kmほど離れたところにある。交通は至便であり、シェレメ
チェヴォ空港からも近い。
Œ インフラ整備投資額:50億ルーブル(うち連邦負担分が50%)
。
Œ 期待される経済効果:2006~2025年の期間中に特区の活動から得られる税収は400億ルーブ
ル。2025年までに1.5万の雇用が創出される。
Œ 進出が見込まれている企業:Cadence Design Systems、Photronics、Chartered Semiconductor、
Motorolaなど。地元ゼレノグラードの企業・組織の多くも入居を希望。
Œ 関連するインターネット・サイト:
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http://www.zelao.ru
ゼレノグラード区行政府
http://www.mos.ru
モスクワ市政府
ロシア東欧貿易調査月報2006年3月号
(3)モスクワ州ドゥブナ市
г. Дубна (Московская область)
Œ 種類:技術導入特別経済区。
Œ 想定事業分野:核技術・物理学、プログラミング。
Œ 特区の面積:特区は2つの区域に分かれ、左岸区域が136ha、右岸区域が52ha。
Œ 立地・アクセス:モスクワ州のほぼ最北端に位置する。モスクワ市からは100kmほどで、幹
線道路A104で直結している。ヴォルガ川と大きな貯水池に面する。
Œ インフラ整備投資額:25億ルーブル(うち連邦負担分が70%)
。
Œ 期待される経済効果:2006~2018年の期間中に特区の活動から得られる税収は420億ルーブ
ル。2012年までに1.3万の雇用を創出。
Œ 外国企業・組織との協力:これまでの実績で、世界18カ国の500の研究機関との協力関係を
築いてきた。特区のコンセプトづくりには、英国のJohn Tompson & Partners、Gillespies、
Bidwells、またイタリアのMerloni Progettiが参加した。
Œ 参考:上記のような事業分野が想定されているが、実際には大半の特区申請はIT分野であ
るという。ドゥブナ市ではこのほか、航空関連機器設計、バイオ、材質学、ナノテクなど
も発展させて総合ハイテク特区をめざす構え。
Œ 関連するインターネット・サイト:
http://www.dubna.ru
ドゥブナ市行政府
http://www.mosreg.ru
モスクワ州行政府
ロシア東欧貿易調査月報2006年3月号
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(4)トムスク州トムスク市
г.Томск (Томская область)
Œ 種類:技術導入特別経済区。
Œ 想定事業分野:新素材、核技術、ナノテク、バイオ。
Œ 特区の面積:197ha。
Œ 立地・アクセス:トムスクは西シベリア地域に属し、ロシア国土のほぼ中心に位置する。ト
ムスクはシベリアを代表する都市の一つだが、シベリア鉄道の本線からは外れている。特
区はトムスク市の東端の、科学アカデミー施設に隣接した場所に設けられる。
Œ インフラ整備投資額:19億ルーブル(うち連邦負担分が74%)
。
Œ 建設計画:管理施設、展示施設、特区入居者用施設など、総床面積21.9万m3の新規建設工
事が予定されている。
「新素材棟」
「IT技術棟」
「バイオ棟」ができる予定。
Œ 期待される経済効果:特区のプロジェクト総額は71億ルーブル、企業の総売上は2010年に
133億ルーブルに達すると見込まれる。2006~2025年の税収総額を700億~900億ルーブルと
見込む。ハイテク部門の就業者は2020年までに現在の2.5倍に増加し、3.4万人に達する見込
み。
Œ 進出が見込まれている企業:Cisco Systems Inc.、シブール、UGMK、BABCホールディング、
Mikrogen、AFKシステマなど。
Œ 関連するインターネット・サイト:
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http://www.admin.tomsk.ru
トムスク市行政府
http://www.tomsk.gov.ru
トムスク州行政府
http://www.tomskinvest.ru
トムスク投資サイト
ロシア東欧貿易調査月報2006年3月号
(5)リペツク州グリャジ地区
Грязинский район Липецкой области
Œ 種類:工業生産特別経済区。特区の名称は「カジンカ」
。
Œ 想定事業分野:家電生産、家具生産。
Œ 特区の面積:1,030ha。
Œ 立地・アクセス:リペツク市はモスクワの南方約500kmに位置する。特区は、リペツク市と、
州第3の都市であるグリャジ市の中間に設けられ、両都市を結ぶ幹線道路沿いに細長く広
がっている。鉄道が至近で、2005年に引込み線も整備された模様。
Œ インフラ整備投資額:18億ルーブル(うち連邦負担分が49%)
。
Œ 期待される経済効果:投資総額250億ルーブル(うち87億ルーブルが2008年まで)
。2010年
までに5,800の新規雇用を生む。鉱工業生産額は、2008年までに年間135億ルーブルに達し、
2013年には390億ルーブルに。
Œ 進出が見込まれている企業と生産品目:Metr S.p.A(モーター用のローター、スターター)
、
Vergokan(ケーブル敷設用の器具)
、Signode System GMBH(梱包機)
、Viterie Italia Centrale
(留め金具)
、Ekinler Elektronik(電気ケーブル)
、Beeplast(家電用プラスチック部品)
、
Ciamaglia(家具)
、Indesit Compani(ガスコンロ、冷蔵庫・洗濯機の部品)
、Electrolux(洗
濯機)
、SEST(冷蔵スタンド用の蒸発器)
、Pro-mould(プラスチック製品の成型機)
、Verniglass
(ガラス製品)
、Elektrowerkzeuge(電子機器)
、Odenwald Faserplattenwerk GmbH(鉱物繊維
によるプレート)
、B/S/H Bosch und Siemens Hausgerate GmbH(自動車部品、診療機器、電
子機器、家電、セキュリティ機器)
、Siemens GmbH(家電)
、Akzo Nobel(医薬品、化学品)
、
Sisu Diesel(エンジン)
、Bundy Refrigeration(冷蔵庫・家電用の冷却システム)など。
Œ 関連するインターネット・サイト:
http://www.admlr.lipetsk.ru
リペツク州行政府
http://www.lipetskcity.ru
リペツク市行政府
ロシア東欧貿易調査月報2006年3月号
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(6)タタールスタン共和国エラブーガ地区
Елабужский район Республики Татарстан
Œ 種類:工業生産特別経済区。特区の名称は「アラブーガ」
(
「エラブーガ」をタタール語読
みしたもの)
。
Œ 想定事業分野:自動車部品、石油化学分野の高度技術製品。
Œ 特区の面積:2,000ha。特区は、第1期開発地、第2期開発地、将来的な開発地の3つに分
けられている模様。
Œ 立地・アクセス:タタールスタン共和国は沿ヴォルガ地域の要衝。エラブーガ市は首都のカ
ザンからは若干離れており、ナーベレジヌィエチェルヌィ市から25km、ニジネカムスク市
から40kmという距離にある。特区「アラブーガ」は、そのエラブーガ市の郊外に位置する。
幹線道路M7でモスクワ、ウファなどと結ばれている。鉄道のアクセスもまずまず。
Œ インフラ整備投資額:16億ルーブル(うち連邦負担分が49%)
。
Œ 期待される経済効果:投資総額250億ルーブル。鉱工業生産は2008年までに年間270億ルー
ブルに、2013年までに430億ルーブルに達する。特区が存続する20年間で410億ルーブルが
財政に。2010年までには4,500人の雇用が創出される。
Œ 進出が見込まれている企業と生産品目:ヒュンダイ(自動車アセンブリー)
、GM(自動車
アセンブリー)、KFZ(車輪用ディスク)、GMTおよびGeorg FicsherおよびRBLおよび
MANDO(自動車部品)
、生産合同ElAZ(トラクターおよび特殊車両)
、エラブーガ・ポリ
スチロール工場(プラスチック部品)
、KREZ(ポリエーテルおよび同製品)
、NALKO(化
学試薬)
、タトネフチェヒムインベスト・ホールディング(ポリ炭酸エステル製品、ポリプ
ロピレン製品、ポリスチロール製品)
、ZASSおよびAlabuga International SA(家電)
、Gorenje
(家電)
、Nilsson(特殊車両)
、Unico Filter(フィルター)など。
Œ 備考:この地区では、すでに1990年代の末にタタールスタン共和国独自で自由経済区の創
設を試みていた経緯があり、その基盤にもとづいて今回特区が改めてつくられた形。
Œ 関連するインターネット・サイト:
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http://www.elabugae.ru
エラブーガ市行政府
http://www.tatar.ru
タタールスタン共和国政府
ロシア東欧貿易調査月報2006年3月号
おわりに
ロシア連邦政府が、エリツィン時代の無原則な分権化、産業面での無為無策と決別し、中央主
導で経済特区を創設して産業および科学技術の振興を遂げようとしていることは、評価すべき動
きである。
ただ、若干の疑問を覚えないでもない。かつての中国の経済特区には、改革・開放の実験場と
しての意味合いがあった。それに対し、ロシアは、すでに国全体として基本的に市場経済・自由
貿易に移行しており、今さら「実験」は不要だ。そうしたなかで、少なからぬ数の特区を創設し、
一国二制度的な体制を導入することが、あらぬ混乱や、特典制度の悪用を招いたりしないだろう
か。限定的な優遇制度よりも、国全体としての投資環境の改善にこそ、力を入れるべきなのでは
ないか。
もうひとつ注意しなければならないのは、カリーニングラード州経済特区が、2005年の特区法
とは別枠で残された点である。カリーニングラード特区に関しては、2006年1月に新たな連邦法
が成立し、4月1日から施行されることになった。同州はEU諸国に包囲されたロシア領土の飛び
地であり、特区制度は地政学的にデリケートな同州への優遇策に他ならない。ロシア連邦政府が
依然として、経済的合理性を犠牲にして、政治的要因に左右されてしまいがちなことが、この一
件からも示唆されよう(カリーニングラード特区は、それ自体が一つの大きなテーマなので、本
稿では深く立ち入らなかったが、近く当会の特別報告書で詳しい情報をまとめてお届けする予定
である)
。
いずれにしても、今般の経済特区制度の導入が、ロシア政府の経済政策における一つの画期で
あることは間違いない。引き続き、情報の収集と提供に努めるとともに、この特区制度が冒頭に
述べたような所期の効果を挙げることができるかどうか、注視していきたいと考えている。
ロシア東欧貿易調査月報2006年3月号
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