第七章 課題と今後の展望 本研究では、繰り返し「共有地の悲劇」ゲーム実験から、「石けん運動」における社会的 ジレンマの構造や住民個々の利得マトリックスの構造や変化を類推し、その結果から、「粉 石けん使用率」の推移をシミュレーションで再現することに成功した。しかし、やり残し たことも多い。 まず、本研究で採用したような、繰り返し「共有地の悲劇」ゲーム実験を用いたアプロ ーチが「石けん運動」以外の他の環境問題にも適用できるかどうかは不明である。また、 何がどのように、住民が抱く利得マトリックスの構造を規定するか、今後、検討していく 必要があるだろう。第六章では、社会的ジレンマ状態を、「石けん運動」は 5 つの要因によ って回避することに成功したと述べたが、問題は、これらの要因を同様の他の住民環境運 動に適用して、運動をより良い方向へと導くために、どのような方法により、これらを実 現させていくかである。 「ゲーム理論」の目的は、人間の社会的行動や、それによる社会認識を明らかにするこ とであり、問題の解決策を示すことではない。本研究でもこれは同じである。「石けん運動」 における社会的ジレンマの構造や住民個々の利得マトリックの構造は明らかにすることが できたが、最後のステップである環境問題解決に向けた方法論の提案については考察のみ に留まっている。「石けん運動」以外の他の住民環境運動について、十分な研究を行なった わけではない。 今後の課題は、本研究で「石けん運動」の分析から得られた結論を、同様の住民環境運 動に応用していくための方法論について研究していくことである。 謝辞 本研究を進めるにあたり、終始御指導いただくとともに、数々の実験の場を御提供して 頂きました井手慎司助教授に深く感謝します。また同じゼミであった、白石匠君、馬場弥 恵子さん、守谷光平君、山中篤さんに感謝し本論文を終わります。 参考文献 01)岡田章: 『ゲーム理論』 ,有斐閣,1977 年 02)S・P・ハーグリーブス・ヒープ/ヤニス・ファロファキス: 『ゲーム理論−批判的入門−』, 多賀出版,1998 年 03)ウィリアム・パウンドストーン: 『囚人のジレンマ』,青土社,1996 年 04)鈴木光男: 『新ゲーム理論』 ,勁草書房,1977 年 05)中山幹夫: 『はじめてのゲーム理論』,有斐閣,1998 年 06)アビナッシュ・ディキシット/バリ−・ネイルバフ: 『戦略的思考とは何か』,TBS プリ タニカ,1999 年 07)嶋津祐一: 『ゲーム理論の思考法』,日本実業出版社,1997 年 08)広瀬幸雄: 『環境と消費の社会心理学』 ,名古屋出版会,1995 年 09)山岸俊夫: 『社会的ジレンマのしくみ』 ,サイエンンス社,1998 年 10)海野道郎/盛山和夫: 『秩序問題と社会的ジレンマ』 ,ハーベスト社,1999 年 11)鈴木光男: 『ゲーム理論入門』 ,共立出版,1981 年 12)広瀬幸雄: 『社会的ジレンマの実験研究(1) 』 ,「女子大福祉評論」,1981 年 13)広瀬幸雄: 『社会的ジレンマの実験研究(2) 』 ,「名古屋大学文学部研究論集」 ,1988 年 14)広瀬幸雄: 『共有地の悲劇状況としての環境問題についてのゲーム論的分析』 , 「名古屋 大学文学部研究論集」 ,1983 年 15)広瀬幸雄: 『洗剤汚染事態における地域の住民と行動』,「名古屋大学文学部論集」 ,1986 年 16)舩橋晴俊: 『社会的ジレンマとしての環境問題』 ,「社会労働研究」 ,1989 年 17)井上孝夫:『 「社会的ジレンマとしての環境問題」の批判的検討』, 「環境社会学研究」 , 1995 年 18)山田高敬: 『公共利益の発見と「共有地の悲劇」の回避』 , 「創文」,1996 年 19)雄川一郎: 『琵琶湖富栄養化防止条例をめぐって』, 「ジュリスト」 ,第 708 号,1980 年 20)今井清: 『琵琶湖における富栄養化防止対策』, 「国立公害研究所調査報告」 ,第 21 号, 1982 年 21)武村正義: 『琵琶湖からの報告』, 「環境と創造」 ,1984 年 22)国門孝広: 『淡海文化の創造をめざして』, 「都市問題研究」,10 月号,1992 年 23)井上甲: 『合成洗剤追放県条例を生んだ滋賀の運動』 ,「月間地域闘争」 ,1980 年 24)永島鉄雄: 『滋賀県をめぐる条例制定の運動』 , 「月間地域闘争」,1989 年 25)鈴木紀雄: 『合成洗剤追放と琵琶湖の環境問題』 ,「技術と人間」 ,9 巻 2 月号,1980 年 26)高木常弘: 『琵琶湖の水をめぐって』, 「さよなら合成洗剤」 ,日本地域社会研究所,1989 年 27)中杉修身: 『水の使い方に係わる住民の意識と行動』 , 「環境研究」,1984 年 28)脇田健一: 『環境問題をめぐる状況の定義とストラテジー』, 「環境社会学研究」,1995 年 29)谷村巌: 『琵琶湖を守る粉石けん使用県民運動の経過について』, 「合成洗剤研究会誌」 , 1981 年 30)滋賀県県連絡会議: 『びわ湖を守るせっけん使用推進県民運動』, 「定例総会会議書」, 1988 年 31)滋賀県生活環境部『合成洗剤対策の概要』 ,1980 年 32)滋賀県生活環境部: 『琵琶湖を守るせっけん使用推進関係資料』,1983 年 33)大津生活共同組合: 『大津生協における洗剤運動のあゆみ』,1978 年 34)よいせっけんづくり研究のつどい実行委員会: 『よいせっけんづくり研究のつどい−報 告書−』 ,1986 年 35)環境技術研究会: 『琵琶湖および集水域における水問題』 , 「環境技術」,1997 年 36)滋賀県:『第 31 回 県政世論調査』 ,1998 年 37)日本地域社会研究所: 『日本洗剤公害レポート』 ,日本地域社会研究所、1986 年 38)P・G・ホエール: 『初等統計学』 ,培風館,1997 年 39)William H. Press:『NUMERICAL RECIPES in C』,技術評論社,1995 年 40)今泉みね子:『ドイツを変えた 10 人の環境パイオニア』,白水社,1998 年 41)資源リサイクル協議会: 『 「環境首都」フライブルク』 ,中央法規,1999 年
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