第七章 課題と今後の展望 本研究では、繰り返し「共有地の悲劇」ゲーム

第七章 課題と今後の展望
本研究では、繰り返し「共有地の悲劇」ゲーム実験から、「石けん運動」における社会的
ジレンマの構造や住民個々の利得マトリックスの構造や変化を類推し、その結果から、「粉
石けん使用率」の推移をシミュレーションで再現することに成功した。しかし、やり残し
たことも多い。
まず、本研究で採用したような、繰り返し「共有地の悲劇」ゲーム実験を用いたアプロ
ーチが「石けん運動」以外の他の環境問題にも適用できるかどうかは不明である。また、
何がどのように、住民が抱く利得マトリックスの構造を規定するか、今後、検討していく
必要があるだろう。第六章では、社会的ジレンマ状態を、「石けん運動」は 5 つの要因によ
って回避することに成功したと述べたが、問題は、これらの要因を同様の他の住民環境運
動に適用して、運動をより良い方向へと導くために、どのような方法により、これらを実
現させていくかである。
「ゲーム理論」の目的は、人間の社会的行動や、それによる社会認識を明らかにするこ
とであり、問題の解決策を示すことではない。本研究でもこれは同じである。「石けん運動」
における社会的ジレンマの構造や住民個々の利得マトリックの構造は明らかにすることが
できたが、最後のステップである環境問題解決に向けた方法論の提案については考察のみ
に留まっている。「石けん運動」以外の他の住民環境運動について、十分な研究を行なった
わけではない。
今後の課題は、本研究で「石けん運動」の分析から得られた結論を、同様の住民環境運
動に応用していくための方法論について研究していくことである。
謝辞
本研究を進めるにあたり、終始御指導いただくとともに、数々の実験の場を御提供して
頂きました井手慎司助教授に深く感謝します。また同じゼミであった、白石匠君、馬場弥
恵子さん、守谷光平君、山中篤さんに感謝し本論文を終わります。
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