iii 序 文 ここ数年,私は前著 Fundamental Methods of Mathematical Economics を, 動学的最適化の課題も含むよう拡張するようにという要請を多くの方々から いただいた。しかしその本の大きさはすでに限界に達しているので,動学的 最適化のトピックスは別冊にすることにした。別冊になっているが,本書は 前著 Fundamental Methods of Mathematical Economics の続編であると考え ていただきたい。 Elements of Dynamic Optimization というタイトルが示すように,本書は 入門的なテキストを意図しており,百科辞典のような大著ではない。古典的 な変分法とその新しい親戚関係にある最適制御理論の基礎は十分説明されて いるが,微分ゲームおよび確率制御論は扱われていない。動的計画法は離散 時間の形式で説明されているが,連続時間の形式では扱われていない。その 理由は後者の場合には編微分方程式が前提になるが,それは本書の範囲を超 えるからである。 最適制御理論の出現は変分法の影を薄くしたが,変分法のトピックスを無 視することは望ましくないと思う。その理由の 1 つは,変分法の知識は変分 法を使って書かれた多くの古典的な論文を読むうえで不可欠であるからであ る。さらに,その方法は最近の研究でも広く用いられているのである。最後 に,変分法の基礎は最適制御理論をより良く,より完全に理解するのに役立 つのである。最適制御理論にのみ関心のある読者は,本書の第 II 部を飛ばし て読まれてもかまわない。しかしその場合でも,次の部分は一読されること を強く勧めたい。それは第 2 章 (オイラー方程式),4.2 節 (凹/凸性のチェッ ク),および 5.1 節 (無限期間の方法論上の問題で,それは最適制御理論に関 係する) である。 本書の特徴を指摘しておきたい。オイラー方程式の展開にあたっては読者 がその論理の美しさを理解していただけるように,他の書物と比べてより詳 iv 細な説明を行っている (2.1 節を見よ)。無限期間の問題との関連では,変格 積分の収束性の条件について一般に見られる誤解の解明を試みている (5.1 節を見よ)。また無限期間の横断性条件に対する最適制御理論における反例 があやしいものであることを主張する。なぜなら,それらはこれらの例にお いては暗黙的な固定的終点状態が存在することを認識することに失敗してい るからである (9.2 節を見よ)。 Fundamental Methods of Mathematical Economics との連続性を維持する ために,ここでも噛み砕いた説明をしており,その結果明解で読みやすいも のになっていると期待している。数学的な手法については必ず,数値による 例示,経済学的な例,および演習問題をつけて補強している。数値的な例示 においては,よく知られた解を持つ簡単な問題,すなわち最短距離問題を, いくつかの代替的な表現で示している。そしてそれを本書全体にわたる糸と して用いている。 経済学的な例を選択する際における私の基準は,取り上げた問題の数学的 手法の説明としてその経済モデルが適切かどうかということである。最近の 経済学的な適用例は当然含まれているが,古典的な論文を排除することはし なかった。いくつかの古典的な論文はそれ自身研究の対象になるだけでな く,それは例示の対象としても優れている。なぜならそれらのモデルの構造 が 2 次的な複雑な仮定によって撹乱されていないからである。さらに 1 つ の副産物として,古い経済モデルと新しい経済モデルの並置は,経済学的思 考の発展について興味深い示唆を提供してくれる。たとえば,古典的なラム ゼイの成長モデル (5.3 節を見よ) がキャスの新古典派成長モデル (9.3 節を 見よ) を経由して,内生的技術進歩を含むローマーの成長モデル (9.4 節を見 よ) に発展したことを見れば,その過程で分析の枠組みがいかに洗練されて きたかがわかるであろう。同様に,枯渇性資源の古典的なホテリングのモデ ル (6.3 節を見よ) から,エネルギー使用と汚染のフォスターのモデル (7.7 節 と 8.5 節を見よ) への移行を見れば,社会の関心が資源の枯渇性から環境の 質にシフトしたことがわかるであろう。さらに動学的独占企業の古典的な エバンスのモデル (2.4 節を見よ) を,収入最大化企業の動学に関する最近の リーランドのモデル (10.2 節を見よ) と比べれば,ミクロ経済学研究の多く の展開の 1 つが明らかになる。 序 文 v 私は教育上の哲学から,それぞれの経済モデルをステップ・バイ・ステッ プに説明する。すなわちモデルを構築して,数学分析を行い,最後の解に至 るまで順を追って説明する。このような詳しい分析は,扱うことのできる経 済モデルの数を制限することになるが,私はそのような分析の仕方が望まし いと考える。なぜなら,それは数学の学習にあたってしばしば直面する不安 や挫折を最小にするからである。 本書の執筆にあたって,ワイオミング大学の Bruce A. Forster 教授からい ただいた多くのコメントや助言は非常に有益であった。最初の原稿に対す る同氏の注意深いチェックのおかげで多くの不備や欠落が改善された。し かし彼の助言のすべてを受け入れたのではないので,なお残っている欠陥 については,すべて私に責任がある。本書の原稿を使って講義した過去数 年における私のクラスの学生も,質問その他を通じて大きく貢献してくれ た。編集者である Scott D. Stratford も必要に応じて激励とプレッシャーを 与えてくれた。Joseph Murphy,Sarah Roesser,Cheryl Kranz,および Ellie Simon の協力のおかげで本書の執筆がスムースになり,また楽しいものに なった。Edward T. Dowling と George A. Mangiero から本書の初版に含ま れていたタイプ上のミスを指摘していただいたことに感謝したい。最後に私 の妻 Emily は,原稿の準備にあたって限りない援助を与えてくれた。これら すべての方々に深く感謝したい。 Alpha C. Chiang vii 目 次 序 文 iii 第I部 序 論 第1章 動学的最適化の性質 3 1.1 動学的最適化問題の顕著な特徴 ………………………………… 4 1.2 可動的終点と横断性条件 ………………………………………… 10 1.3 目的汎関数 ………………………………………………………… 14 1.4 動学的最適化の代替的なアプローチ …………………………… 20 第 II 部 第2章 変分法 変分法の基本問題 29 2.1 オイラー方程式 …………………………………………………… 30 2.2 いくつかの特別な場合 …………………………………………… 40 2.3 オイラー方程式の 2 つの一般化 ………………………………… 50 2.4 独占企業の動学的最適化 ………………………………………… 54 2.5 インフレと失業のトレードオフ ………………………………… 60 第3章 可動的終点のための横断性条件 65 3.1 一般的な横断性条件 ……………………………………………… 65 3.2 特定化された横断性条件 ………………………………………… 69 3.3 3 つの一般化 ……………………………………………………… 81 3.4 労働需要の最適調整 ……………………………………………… 84 第4章 2 階条件 89 viii 4.1 2 階条件 …………………………………………………………… 89 4.2 凹性/凸性:十分条件……………………………………………… 91 4.3 ルジャンドルの必要条件 ………………………………………… 102 4.4 第 1 および第 2 変分 ……………………………………………… 108 第5章 無限の計画期間 111 5.1 無限期間の方法論上の問題 ……………………………………… 111 5.2 企業の最適投資経路 ……………………………………………… 117 5.3 最適な社会的貯蓄行動 …………………………………………… 126 5.4 位相図分析 ………………………………………………………… 133 5.5 凹性/凸性:十分条件再論………………………………………… 148 第6章 制約条件付き問題 153 6.1 制約の 4 つの基本型 ……………………………………………… 154 6.2 経済学への応用再論 ……………………………………………… 165 6.3 枯渇性資源の経済学 ……………………………………………… 170 第 III 部 第7章 最適制御理論 最適制御:最大値原理 183 7.1 最適制御の最も簡単な問題 ……………………………………… 184 7.2 最大値原理 ………………………………………………………… 189 7.3 最大値原理の理論的根拠 ………………………………………… 201 7.4 代替的な終点条件 ………………………………………………… 206 7.5 変分法と最適制御理論の比較 …………………………………… 217 7.6 政治的な景気循環 ………………………………………………… 219 7.7 エネルギー使用と環境の質 ……………………………………… 227 第8章 最適制御の一層の考察 235 8.1 最大値原理の経済学的解釈 ……………………………………… 235 8.2 経常値ハミルトン関数 …………………………………………… 240 8.3 十分条件 …………………………………………………………… 245 目 次 ix 8.4 複数の状態変数と制御変数を含む問題 ………………………… 255 8.5 汚染防止政策 ……………………………………………………… 270 第9章 無限期間問題 277 9.1 横断性条件 ………………………………………………………… 277 9.2 反例の再検討 ……………………………………………………… 281 9.3 最適成長の新古典派理論 ………………………………………… 291 9.4 外性的技術進歩と内生的技術進歩 ……………………………… 304 第 10 章 制約条件付き最適制御 317 10.1 制御変数を含む制約条件 ………………………………………… 317 10.2 収入最大化企業の動学 …………………………………………… 336 10.3 状態空間制約 ……………………………………………………… 343 10.4 状態空間制約の経済的な例 ……………………………………… 352 10.5 動学的最適化の限界 ……………………………………………… 359 練習問題解答 361 訳者あとがき 368 索 引 371
© Copyright 2024 Paperzz