腹膜偽粘液腫を認めた1例

腹膜偽粘液腫を認めた1例
十和田市立中央病院検査科: 石井昌子 柴山恵理佳
上野紀子 川村多蔵
同 産婦人科: 冨浦一行
東北大学医学部病理診断学講座: 村上圭吾
はじめに
腹膜偽粘液腫(pseudomyxoma peritonei:以下PMP)は粘液
産生腫瘍細胞が腹膜に播種し長期にわたり増殖を続け、腹
腔内にきわめて粘調な粘液が貯留する腹膜癌腫症である。
 100万人に1人の割合で発生するとされ、極めて稀な疾患で
ある。
 好発年齢は40~60代、男女比は1:2~5と女性に多いとさ
れている。
 発生機序に関して詳細は不明であるが、虫垂や卵巣の腫瘍
細胞による粘液の産生に伴って組織内圧が高まり、腫瘍細
胞とともに粘液が腹腔内に漏出することに起因するとされて
いる。

今回我々は、PMPの症例を経験したので報告する。
症例
65歳女性
〈現病歴〉
平成26年11月頃より腹部膨満感、12月に不正
性器出血出現し近医を受診した際、巨大卵巣腫
瘍を指摘され、当院産婦人科に紹介となった。
 〈既往歴〉
高血圧症、高脂血症、骨粗しょう症、40歳代卵
巣嚢腫指摘あり。
 〈健診歴〉
平成9年から毎年子宮頸がん健診を。
平成26年6月の健診では異常なし。


MRI
子宮
T2強調画像
T1強調画像
CT
検査所見
 USG、MRI、CT→悪性卵巣腫瘍疑い
 血液検査:
・CRP→4.39 mg/dl
・CA125→96.3 U/ml
・CEA→73.1ng/ml
・CA19-9→37 IU/L
手術所見
 平成27年2月
腹腔内は八つ頭状の腫瘍とゼリー状
の濃い粘液が充満しPMPの状態を呈し
ていた。
左卵巣は約3kg。
他、虫垂、大網、腸間膜病変、腹腔内
病変を摘出した。
摘出材料(固定前)
摘出材料(固定後)
27×24×8cm
オリエンテーション不明
A
HE(全体像)
40倍
200倍
AB-PAS(全体像)
AB-PAS(×200)
20倍
虫垂
100倍
免疫染色
CK7
+
CK20 CDX2 PAX8
+
facal,+
⇒卵巣原発の腫瘍
-
組織所見のまとめ
虫垂→悪性所見なし
 卵巣→多量の粘液と腫瘍細胞からなる
腺管が認められ、部分的に核異型が高
度な所見もあり
 大網・腹腔内組織・腸間膜病変
→多量の粘液の中に上記と同様の組織
像あり

⇒腹膜偽粘液腫を呈した粘液性腺癌
まとめ



PMPは術前に確定診断されることが困難な
疾患であり、本症例も開腹術後にPMPと診
断された。
本疾患では全身化学療法がほとんど無効と
され、腹腔内に溜まった粘液や転移した腹
膜を取り除く外科的治療法が主流である。
診断においては、卵巣より虫垂原発が多い
と報告されており、虫垂を中心に詳細な検
索が重要であると考えられる。