おしっこ女性

脊髄損傷と健康管理
~排尿の自己管理~
獨協医科大学
排泄機能センター
山西友典
排尿のしくみ
腎臓
血液のリサイクル工場
尿管
腎臓から膀胱のパイプ役
膀胱
尿の貯留タンク
尿道括約筋
排尿のタイミングを調整
1
2
3
排尿のしくみ①
1
「蓄尿期」
腎臓
膀胱
(排尿筋)
尿道
(尿道括約筋)
膀胱がいっぱいになるまで、
尿道括約筋が収縮して、
オシッコが出てしまうのを
防ぎます。
1
2
3
排尿のしくみ②
2
「蓄尿期」から「排尿期」へ
膀胱がいっぱいになると、
信号が脳に送られます
膀胱
(排尿筋)
尿道
(尿道括約筋)
1
2
3
排尿のしくみ③
3
「排尿期」
尿道括約筋がゆるみ、
膀胱が収縮して、
オシッコを排泄します。
膀胱
(排尿筋)
尿道
(尿道括約筋)
正常な排尿とは?
• 100-200mlの尿が膀胱にたまると・・・
「そろそろトイレに行きたいな」と感じる。
• 300-500mlまで我慢することができる。
• 尿は途切れることなく30秒以内に
排出される。
• 膀胱に尿が残ることはない。
• 尿もれはない。
男性と女性の違い
尿が出にくい症状が起こりやすい
尿漏れは少ない
尿が出にくい症状は少ない
尿漏れは多い
蓄尿(尿をためる)機能
正常
障害
膀胱(緩
む)
尿道(収
縮)
膀胱(過活
動)
不全尿道
排尿(尿を出す)機能
正常機能
障害
下部尿路の神経支配
遠心性運道路
脳
-AR
排尿筋
T10–L2
M-R
-AR
内尿道括約筋
S2–S4
外尿道括約筋
尿道平滑筋
.
神経因性膀胱(脊髄損傷)
による
排尿障害について
国際尿禁制学会(International Continence
Society:ICS) における排尿機能分類 (2002)
蓄尿期
排尿期
排尿筋機能
正常 (弛緩)
過活動
(神経因性、特発性)
尿道機能
正常(収縮)
不全尿道
正常 (収縮)
低活動
無収縮
正常(弛緩)
膀胱出口部閉塞
機能障害性排尿
排尿筋-括約協調不
全(DSD)
括約筋弛緩不全
脳疾患による排尿障害
脱抑制
Aδ-線維
脊髄損傷(腰椎より上位)
による排尿障害
C-fiber
(核上型)脊髄損傷の排尿機能
下位腰椎または骨盤神経障害
による排尿障害
末梢神経障害の排尿機能
低コンプライアンス膀胱、無(低)収縮性膀胱
ひ
腹
圧
おしっこの悩みの症状:下部尿路症状
蓄尿症状
排尿症状
尿がためられない
尿が出しにくい
尿意切迫感(我慢でき
ない)
尿勢低下(勢いが
わるい
排尿後尿滴下
(尿を下後にぬれる)
頻尿(尿が近い)
尿線分割(一度に
できらない)
残尿感 (すっきりしな
い)
夜間頻尿 (夜近い)
尿線途絶
(尿がとぎれる)
尿失禁
(もれる)
排尿遅延(時間が
かかる)
膀胱痛(痛み)
腹圧排尿
(いきみ)
終末滴下(切れが
悪い)
排尿後症状
過活動膀胱(OAB)の症状は、膀胱に
おしっこがたまりきらないうちに、膀胱の筋肉が
勝手に収縮してしまうことにより起こります。
定期診断
•
腹部超音波検査 前立腺の大きさや残尿量を測定
• 経直腸的超音波検査 前立腺の大きさを
正確に測定、前立腺内部の状態を検査
• 直腸診 前立腺の大きさや硬さを検査
• 尿検査 腎機能を検査
• 血液検査 腎機能や
前立腺腫瘍マーカー(PSA)を検査
• (ビデオ)尿流動態検査 排尿の機能検査
定期診断:通常の診察
まずはじめの来院時
尿検査
オシッコの中に細菌や血液が入って
いないかどうか調べます。
超音波検査
膀胱に残っているオシッコの量を測ったり、
膀胱に腫瘍がないか調べます。
お腹の上から超音波をあてて
前立腺の大きさや残尿量を測定します
。
−腹部超音波検査−
超音波装置
前立腺
前立腺の大きさの測定
前立腺の直径を測定して
大きさを計算します。
膀胱に尿をためておくと、
膀胱・前立腺が観察しやすく
なります。
超音波装置
排尿後の
膀胱
残尿量の測定
排尿後に膀胱の体積を計算し、
残尿量を推計します。
「排尿日誌」に記録することで、
症状を医師に伝えやすくなります
「排尿日誌」に記録することで、症状を医師に伝えやすくなります。
心因性頻尿
夜間多尿
過活動膀胱
尿の勢いの検査(尿流測定)
膀胱造影によ
る
膀胱変形の
分類
膀胱・尿道の機能の検査(尿流動態検査)
正常例(蓄尿相)
排尿時(プレッシャー/フロースタディ)
下部尿路閉塞
=高圧・低流パターン
排尿筋過活動
頸髄損傷の尿流動態検査所見
排尿筋過活動+
排尿筋-外尿道括約筋協調不全
低コンプライアンス膀胱(子宮頸がん術後)
座位
咳
排尿
低活動膀胱
排尿相(排尿筋無収縮):いきみ排尿
咳
氷水テスト(ice water test)
4℃の冷水100 (100-150) mlを急速に膀
胱に注入し、60秒以内に反射性に排出さ
れれば陽性
核上型障害では陽性
排尿反射の回復期の診断に、簡便で、治
療方針を立てる上で有用.
疑陽性(DSDなど)あり、確定診断には向
かない.
脊髄疾患における排尿障害のタイプ
1.
病変の部位
核上型(頚損):排尿筋過反射(排尿筋過活動)+排尿筋
-尿道括約筋協調不全(DSD)
核・核下型:排尿筋無反射(無収縮膀胱 )
2. 病変の程度
完全、不完全
3. 病変からの時期
ショック期、回復期、慢性期
(核上型)脊髄損傷(頸髄、胸髄損傷)
• ショック期:膀胱・尿道機能が麻痺
排尿ができないので、導尿
(間欠)で排尿
• 回 復 期:排尿反射が回復、尿失禁
• 固 定 期:排尿反射が固定
反射性尿失禁
排尿反射時、尿道括約筋が緩ま ない(膀胱ー尿道括約筋協調不
全)と腎盂腎炎や腎機能障害の 原因になる
排尿機能分類に基づいた排尿障害の治療
蓄尿障害
排出障害
膀胱機能障害
過活動膀胱
低コンプライアンス膀胱
排尿筋の収縮性を
減弱させる
低(無)活動膀胱
排尿筋の収縮性を
増強させる
尿道機能障害
不全尿道
尿道(括約筋)の
抵抗を増強させる
閉塞尿道(過活動性)
尿道(括約筋)の
抵抗を減弱させる
神経因性膀胱の合併症
-高圧蓄尿、高圧排尿-
DSD
低コンプライアンス
膀胱
抗生剤
抗菌剤
酸性尿、
残尿の減少、
尿量(1500ml以
上)
尿路感染症
体外衝撃波砕石術
内視鏡的砕石術
高圧蓄尿・排尿
排出障害の合併
尿路結石症
膀胱過伸展を避ける: 500ml以上貯めない
40cmH2O以上は上部尿路に危険
抗コリン薬
膀胱拡大術
膀胱尿管逆流症
水腎症
萎縮膀胱
逆流防止術
排尿の自己管理:注意点
1.
2.
3.
4.
5.
長期カテーテル留置を避ける
膀胱過伸展を避ける: 500ml以上貯めない
高圧蓄尿:低コンプライアンス膀胱、過活動膀胱な
どによる、40cmH2O以上は上部尿路に危険
高圧排尿:排尿筋-外尿道括約協調不全、腹圧・手
圧排尿
尿路感染→結石:酸性尿、抗生剤投与、残尿の減少
、尿量(1500ml以上)を保つ
Woodside & McGuire J Urol 127:1143,1982
神経因性膀胱の治療
蓄尿障害(尿失禁):
尿意がない→集尿器
蓄尿障害
排尿間隔2時
間以上
尿禁制
排出障害
残尿<20% (100ml)
抗コリン薬と間欠導尿の併用
目標:バランス膀胱
膀胱拡大術(重症例)
排出障害:特に膀胱と尿道の協調不が問題
間欠導尿
括約筋切開術
長期カテーテル留置は避ける
間欠自己導尿が不可能:膀胱瘻(できれば急性期に作成)
過活動膀胱の治療方針
(症例に合わせて、治療法を組み合わせる)
行動療法: ① 生活指導 ② 計画療法(膀胱訓練)
③ 理学療法 ③理学療法(骨盤底筋体操)
+
薬物療法(抗コリン薬など):中心的
電気刺激、磁気刺激療法
手術療法(膀胱拡大術)
間欠自己導尿
カプサイシン、
レジニフェラトキシン
ボツリヌス毒
仙髄根神経電気刺激法
抗コリン薬は、膀胱の収縮を抑える作用の
ある薬です。
薬物療法の副作用(抗コリン作用による)
• 口が渇く
• 目がかすむ
• 便秘
• 尿が出にくい
(とくに前立腺肥大の
男性は注意)
電気・磁気刺激治療
膀胱や尿道の神経に電気や磁気を当て刺激を与
えて活性化させる方法
ポータブル式刺激装置
干渉低周波治療器
(保険が使えます)
磁気刺激装置
Neotonus社製
日本製
非侵襲的
刺激の痛みがな
い
強い刺激が可能
衣服を着たまま
治療が可能
×
肛門
磁場発生領域イメージ
刺激コイル・コア
Yamanishi T, et al:. J Urol 163: 456499,2000.
排出障害に対する治療法
(自己管理)
排尿誘導法(完全脊損には行うべきでない)
:タッピング,腹圧・手圧排尿
間欠自己導尿 (CIC)
薬物療法(完全脊損には無効)
排尿筋収縮を増強させる(コリン作動薬:ベタネ
コール、ジスチグミン)
尿道抵抗を減弱させる:
尿道平滑筋の収縮を減弱させる (α-遮断薬)
尿道横紋筋の収縮を減弱させる (バクロフェン、ジアゼ
パム、 α-遮断薬)
間欠(自己)導尿
過伸展を起こさない(30
0~500ml)
低圧(<40cmH2O)の膀
胱容量で導尿
清潔下であればよい
手はよく洗う
消毒は不要
抗生剤は、明らかな尿
路感染時のみ
カテーテルによる尿誘導法
(脊髄損傷の急性期など)
1. 尿道留置カテーテル法(完全無菌的、比較的無菌的)
2. 無菌的間欠導尿法(完全無菌的、比較的無菌的)
3. (非無菌)清潔間欠(自己)導尿法 (clean intermittentself catheterization: CIC,CISC)
4. 膀胱瘻
尿路感染を防ぐ
膀胱過伸展を防ぐ
尿道留置カテーテル法の適応
長期留置:
1. 女性の頻回、高度な尿失禁例(よい集尿器が
ない)
2. 重症または衰弱した患者
3. 間欠導尿が不可能な患者
短期留置:
1. 膀胱尿管逆流を伴った急性腎盂腎炎
2. 術後などの一時的な尿閉例
3. 脊損の急性期
尿道留置カテーテル法の合併症
1. 尿路感染
(数日以内に100%細菌尿)
2. 膀胱結石
3. 尿道炎の合併症:膿瘍、憩室、尿道皮膚瘻、
狭窄、前立腺炎、副睾丸炎、睾丸炎
4. 膀胱萎縮、膀胱痙縮
5. 血尿
6. 自律神経過反射
7.生活の質(ADL)の低下
長期尿道カテーテル留置の留意点
=すべきではないが仕方がない場合
1. 細い(16F)カテーテル、抗菌加工、尿道異物
反応の少ないカテーテルを使用する
2. Closed systemの採尿バッグ
3. バルーンのカフは大きく膨らませない(5ml)
4. 無菌操作、外尿道口周囲をガーゼで覆う
5. 男性では陰茎を持ち上げ腹部に固定(陰茎陰
嚢角潰瘍の予防)
6. 十分な尿量(2000mlが理想)
7. 膀胱洗浄はclosed systemを破る(行うときに
はイソジン生食で、圧を強く加えない)
排出障害に対する手術療法
下部尿路通過障害に対し:経尿道的前立
腺切除術;TUR-P)、温熱療法、経尿
道的膀胱頚部切開術
排尿筋ー外尿道括約筋協調不全に対し:
経尿道的外尿道括約筋切開術
神経因性膀胱に対し:radical TUR-P
尿路変更術
膀胱瘻: 尿道カテーテル留置よりは望ま
しい
合併症:膀胱萎縮、尿路感染
(尿管皮膚瘻)
回腸導管造設:結石、感染などの合併症
(腎瘻:尿管が閉塞した場合など)
まとめ
核上型脊髄疾患
排尿筋過活動と排尿筋-尿道括約筋協調不全DSDが上部
尿路障害のリスク
不完全障害:疾患により特徴がある
高位のみだけでなく横位の検討も必要
治療
バランス膀胱を目指す
自己管理
適度な飲水量、自己導尿の工夫、尿路感染に注意
専門外来のお知らせ
第2、第4月曜日:福田記念病院(真岡)
火曜、金曜;獨協医科大学泌尿器科内
排泄機能センター、山西友典
獨協医科大学
排泄機能センター
山西友典