エジプトの新エネルギー(1)

エジプトの新エネルギー(1)
太陽熱発電とザファラーナ大規模風力
井田 均(市民エネルギー研究所)
ナイル河遡りが契機
数 年 前、ア フ リ カ で ニ
ジェール川を航行出来な
かった。秋のラマダンの時
期にサハラ砂漠を横断した
あとセネガルのゴレ島の太
陽光発電施設を取材した。
その時、同行してくれるセ
ネガル人がラマダン明けの
休日で、何日か待たされた。
このためセネガルの首都、
ダカールからマリのバマコ
まで行く週に1便の列車に
乗れなかったのだ。バマコ
から東へ57km 行けばクリ
エジプト地図
コロでニジェール川の船に
乗れるはずだった。これは数年以内に実
カイロへ赴任する予定だという。エジプ
現させたい。
トへ行きたい、という意欲が高まった。
ニジェール川、コンゴ川と並んでアフ
なお、JBIC は、私が訪問した数日後の
リカ3大河川のナイル河。この川を遡り
10月1日に JICA と合併している。
たいと考えた。どうせなら新エネルギー
の取材も兼ねたい。そう思って探してい
出発は11月下旬
たら、国際協力銀行(JBIC)が融資し
エジプトへ旅立ったのは11月下旬だっ
てエジプトのザファラーナという所に発
た。到着後、まず JICA カイロ事務所の
電風車を建設中だというニュースを知っ
森島氏を訪問。1日後にザファラーナに
た。
風力発電施設を建設しているエジプト政
早速 JBIC に連絡を取り2008年9月末
府 の 新 エ ネ ル ギ ー 普 及 機 関、New &
に、皇居のほとり竹橋にある同行を訪れ
Renewable Energy Authority(NREA)
た。原毅氏と森島宗典氏が応対してくれ
の広報官、ムスタファ氏を訪問した。
た。森島氏はその1カ月後にエジプトの
この訪問が大変だった。NREA の事務
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所はカイロの中心部から車で3、40
分の Nasr City というところにある。
ホテルの人に住所をアラビア語で書
いてもらい、それをタクシーの運転
手に見せる。タクシーは NREA の近
くまで行くのだが、到着出来ない。
近くの住民まで巻き込んで探すが分
からない。「どうしよう」
その時、私の取材ノートに貼って
あ っ た JBIC の 原 氏 か ら も ら っ た
NREAのムスタファ氏
NREA のアラビヤ語表記を運転手が
見る。「あ、ここなら分かる」。直ぐ
に連れていってもらった。
挨拶の後、
「ザファラーナに行き
たい」というと、ムスタファ氏は
「足はありますか」
。「タクシーを考
えています」
「ではこちらで車を用
意しましょう」と有難いお言葉。
さらに「風力以外にもなにか開発
事業はありますか」と聞くと、「太
陽熱で発電する事業をコライマット
というところで始めました。それも
全体の設計図
(左から右の上部中央へ延びているものはナイル河から
蒸気用の水を輸送する管)
見たいなら行く手配をしましょう」
とまたまた有難い言葉が聞けた。
まずはコライマットの太陽熱発電へ
翌日の朝9時に、NREA の車が私
の滞在するカイロの中心部の安宿へ
迎えに来た。この日は JICA の森島
氏も同行する。
車はカイロの市街を抜け、砂漠を
貫く高速道路に入る。左右は茶色い
岩が続く。この高速道路、1時間強
走って高速道路代が5エジプト£
コライマットの太陽熱反射装置のスケルトン
(この上にステンレス板が乗る。幅5m、 長さ1
4m)
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(約100円)という安さだ。車はナイ
ル河沿いに南下する。やがて砂漠か
ら建築物がポツリ、ポツリと見える
地点に来る。コライマットだ。
砂と岩があるだけの平地にゲート
があった。鉄パイプを組み合わせた
だけの簡単なものだ。3人ほどの係
員がいる。運転手は親しそうに係員
と話す。入構を許される。
さらにかなり走ると、平屋の建物
ステンレス反射板
が数棟並んでいる。その中の1つに
入る。
に当たる下半分に分かれ、上半分の真ん
この太陽熱による発電装置はこの年、
中には蒸気発生装置が建設され、その左
2008年1月に着工、2010年10月の完成を
右両側と南の下半分には太陽熱でオイル
目指している。建設資金、174億3000万
を熱する加熱装置が並ぶという。
円のうち半分以上の98億5000万円は日本
加熱装置は幅5 m、長さが14m のステ
の JICA が低利融資した。
ンレス板の反射板と、上に設けた直径
建物の内壁には、事業の概要を現した
12cm のガラス管に入った直径9 cm の
図面が何枚も貼ってあった。ステンレス
ステンレス製の加熱用オイル管で構成さ
板で太陽光を反射して上に設けたパイプ
れている。この1単位の加熱装置が連な
に流れるオイルを熱する装置のステンレ
り、長さが約3
00m になる。それが北部
ス板を張る前のスケルトンの絵、縦が南
の蒸気発生装置の両側に各9列ずつ、南
北600m、 横が東西9
00m の全体図がま
部には22列が建設される計画だという。
ず目に入った。とりあえず写真を撮る。
太陽熱により、オイルの温度は2
92度
聞くと全体図は北に当たる上半分と南
から392度へと加熱される。
太陽の位置に応じて集熱用反射板の方向が変わる
様子(NREAのパンフレットから)
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太陽熱集熱装置の完成予想図
(NREAのパンフレットから)
う。
反射装置の製造現場
建物の外は強い日差しだ。車に乗
る。大きい体育館のような建物に到
着する。そこにはステンレス板で太
陽熱を反射して、上に設けたステン
レス・パイプ内を流れるオイルを加
熱する装置があった。幅は5 m、長
さは14m でこれが1単位。朝、東か
ら昇り、夕方西に動く太陽を追尾す
るようにモーターも設けてある。天
井には疑似太陽がセットしてあり、
コンピューターでモーターを動かし
角度を変える。
ステンレス板が乗っていない鉄製
の架台だけのものもある。
太陽光反射装置のスケルトン。上の部分にオイルを流す
直径9cmのステンレス製の管を通す直径1
2cmのガラス
管が設けられる
建屋の隅には、鉄材から架台を作
るための溶接工事が出来る一画も
あった。
直径9 cm のステン
レス管を加熱されつつ
流れたオイルは、東西
を貫く中央部に設けた
太い管に集まり、蒸気
発生装置に送られる。
太い管の直径は東西の
末 端 で は2
5cm、中 央
に至ると太くなり
40cm になるという。
だいたいの仕組みは
理解できた。次に実際
に構造物を製造してい
るところを見せてもら
蒸気発生装置の建設現場
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建設の現地へ
蒸気発生装置の建設地にはたくさんの
建屋を出ると外側に車両が停車してい
労働者が働いていた。まず建設地の周囲
た。「この太陽熱反射装置をこの製造現
に消火用の水を供給する太い送水管を埋
場から実際の建設地へ運搬するために特
設していた。内部では4.5MW の能力を
別注文して製造した車です」
持つ蒸気発生装置の土台作りが進んでい
車に乗る。広大な建設地だ。車がなく
た。まだこの段階では、砂を掘りコンク
ては見学すら出来ない。
リートを流し込む土木工事が中心だ。だ
やがて車は広い建設現場に着く。太陽
が、彼らが製造しようと考えている発電
熱集熱装置が建設されるための支柱が並
装置のイメージは抱くことが出来る。
んでいる。その右には支柱を立てるため
2
010年10月に完成するころ、再訪した
のコンクリートの土台が並ぶ。
くなった。
(つづく)
太陽熱集熱装置の建設現場には反射板を設置するための支柱が並んでいた
「地球号の危機」ニュースレター No.3
44
2009年 1月20日発行
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