390.“マエストロ”と呼ばれる条件 羽生善治 将棋棋士 日本経済新聞

390.“マエストロ”と呼ばれる条件 羽生善治 将棋棋士
日本経済新聞 2012.9.27.羽生善治のダイレクトメッセージ
“マエストロ”と呼ばれる条件 羽生善治 将棋棋士
フィギュア・スケートの浅田真央選手は以前、「チャルダッシュ」という曲で演技をしていました。
山崎隆之七段(左)の先手で始まった第57期王座戦第1局。
2手目を指す筆者(2009年9月4日、東京都目黒区)
私はその曲をまったく知らなかったので、ネットで調べたところ、動画サイトの「Youtube」上でラ
カトシュという人がバイオリンで演奏をしている映像を見つけました。
これが実にスピーディーで小気味よく、思わず聞きほれてしまいました。
楽器は種類によって表現の幅が異なるような気もするのですが、バイオリンほど哀愁を表すのに
ふさわしい楽器はないように思えます。
■経営者と指揮者の共通点
ところで、企業の経営者というのはオーケストラの指揮者のようなものだと私は考えています。
それぞれの受け持ちのパートを把握し、アクセントをつけていくことによって一つの演奏を完成さ
せています。曲が決まっているように、経営の中で行うべきセオリーや型は決まってはいますが、
同じ曲でも指揮者が変わると内容も結果も評価も大きく変わる点も同じです。
そして、一日一日、一回一回の演奏が少しずつ違うところも似ているのではないでしょうか。指揮
者の人たちはすべてのパートの楽譜を正確に記憶しており、微妙なテンポや音のずれも認識でき
るようです。
山崎七段をストレートで破り、王座18連覇を遂げた筆者(2009年9月25日、山形県天童市)
伝説として、聖徳太子は十人の人の話を同時に聞いたとありますが、指揮者の人に基本的なこと
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として求められているのがそのようなものなのでしょう。
また、バーンスタインをはじめとするカリスマの影響が実に大きいところも共通しているような気
がします。
経営の世界においても大きな実績を残したカリスマの人々が後々まで大きな影響を与えている
ようです。
■忘れがちな自分のスタイル
影響を受けるだけではなく、独自のスタイルを確立して初めて、“マエストロ”と呼ばれるようにな
るのでしょう。
現代では、過去にあった偉大なものに触れる機会がたくさんあると考えています。
それは逆に言えば、影響を受けてしまう機会も増えていることも意味しています。
もちろん、先人の知恵からたくさん学べばよいわけですが、歴史に残っているものはどれも強烈
なインパクトを持っています。
つい、自分のスタイルを確立することを忘れてしまいます。
“マエストロ”への道は遠く険しいものだと感じている今日このごろです。
羽生善治(はぶ・よしはる) 1970年、埼玉県所沢市出身。二上達也九段門下。82年奨励会入会。85
年四段、史上3人目の中学生棋士に。96年、史上初の七冠独占。昨年の第58期まで、19期連続で
王座を保持。通算のタイトル獲得は80期で、大山康晴十五世名人と並び歴代最多タイ。
吉田祐起のコメント:
羽生善治将棋棋士は、「経営者と指揮者の共通点」を指摘されています。「企業の経営者というのは
オーケストラの指揮者のようなものだと私は考えています」と。
かくいう私はわが人生は60余年間にわたって経営者人生を体験してきました。そのあり方にも絶
えず自問自答しながらのものでした。
経営者とオーケストラ指揮者に関して言えば、下記の拙著がありますので、ご参考に供します。私
の甥で山下一史というのが居ますが、かのカラヤン最期の愛弟子でして、現在は仙台交響楽団の
常任指揮者です。今回の東日本大震災では奇しくも仙台空港に居合わせて難を逃れました。
「オーケストラはdrive するな、carry しろ!」 (SAM NEWS Spring, 2008)
http://www.a-bombsurvivor.com/contents/writing/writing_No.4/samnews23.pdf
Back to 私が選んだインタネット情報&吉田祐起のコメント」」(第1編:№1~№300)
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