ト ピ ッ ク ス - 全国地域包括・在宅介護支援センター協議会

ト ピ ッ ク ス
認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)が策定される(1月27日 厚生労働省)
○厚生労働省では、1月27日、「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに
向けて~(新オレンジプラン)」を策定しました。平成24年9月に策定した「認知症施策推進5か年
計画(オレンジプラン)」を改めたもので、目標の引き上げや、新たな施策が盛り込まれています。
○新プランの対象期間は、団塊の世代が75歳以上となる平成37(2025)年までですが、数値目標は
介護保険に合わせて、平成29年度末等を当面の目標設定年度としています。
○また、認知症の人の将来推計が新たに発表され、平成24年時点で462万人(高齢者人口の約7人に
1人)であった認知症の有病者数は、平成37年で約700万人(同約5人に1人)と推計されました。
【基本的な考え方】
○「認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で、自分らしく暮らし続
けることができる社会の実現を目指す」ことを基本的な考え方として、七つの柱に沿って、施策
を総合的に推進していくとしています。
①認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進
②認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供
③若年性認知症施策の強化
④認知症の人の介護者への支援
⑤認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進
⑥認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発及
びその成果の普及の推進
⑦認知症の人やその家族の視点の重視
【具体的な施策】
○上述の七つの柱ごとに、具体的な施策が列挙されています。地域包括・在宅介護支援センターに
関連のある項目について、以下に簡単にご紹介します。
○「 認知症サポーターの養成と活動の支援」として、認知症サポーターの人数の目標を引き上げ、
平成29年度末に800万人としているほか、サポーターが様々な場面で活躍できる場や機会づくり
に取り組むこととしています。
○認知症初期集中支援チームについて、平成26年度は設置が41市町村(見込)のところを、平成30
年度には全ての市町村で実施するという目標を新たに設定しました。支援チームは、市町村が地
域包括支援センターや認知症疾患医療センター、病院・診療所等に置くこととなっています。
○認知症地域支援推進員について、平成26年度は配置が217市町村(見込)のところを、平成30年
度には全ての市町村で配置するという目標を新たに設定しました。推進員は地域包括支援センター
や市町村、認知症疾患医療センター等に配置され、医療機関や介護サービス、地域の支援機関等
との連携や、認知症の人や家族を支援する相談業務等を行います。
○地域包括支援センターは医療との連携機能強化や、認知症疾患医療センターとの連携を進め、地
域における司令塔機能を構築することと言及されています。
○地域づくりの観点からは、認知症者の生活支援(ソフト面)や生活しやすい環境整備(ハード面)
とともに、
「就労、地域活動やボランティア活動への参加など積極的な社会参加」の促進や、地域
での見守りや権利擁護、虐待防止等の安全確保をすすめることとしています。
○プランの最後は、「行政だけでなく、様々な主体がそれぞれの役割を果たしていく」「認知症の対
応についての意識を社会全体で共有していく」「高齢者にやさしい地域づくりを通じて地域を再生
する」
「世界共通の課題である認知症への対応を世界的に推進していく」「認知症の人や家族の視
点に立って、その意見を聞きながら進捗状況を点検していく」こととして締めくくられています。
「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(新オレンジプラン)」
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000072246.html
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全国地域包括・在宅介護支援センター
特集 研究大会報告(後編)
平成26年10月21・22日の二日間にわたって開催された第24回(平成26年度)全国
地域包括・在宅介護支援センター研究大会の報告(後編)を掲載いたします。今号は、
二日目に行われたシンポジウム「認知症者の日常生活課題への対応」の報告です。
シンポジウム
『認知症の日常生活課題への対応』
シンポジウムの趣旨
認知症者の一層の増加が予想されるなか、社会的に注目を集めた「認知症高齢者JR列車事故」が示すよう
に、認知症者の課題は福祉や介護分野だけで対応できる問題ではなくなってきています。そのような状況に
おいて、地域包括・在宅介護支援センターは、認知症の早期診断・早期対応や権利擁護・虐待防止、生活支
援など、その役割に大きな期待が寄せられています。
認知症者が地域で安心・安全に生活していくために、関係者はどのような取り組みが必要か、様々な立場
のシンポジストとともに、今後の地域包括ケアのあり方について考える機会としました。
登壇者(敬称略)
(コーディネーター)
(助言者)
(シンポジスト)
全国地域包括・在宅介護支援センター協議会 副会長
全国地域包括・在宅介護支援センター協議会 研修委員
放送大学教養学部教授/NPO法人認知症フレンドシップクラブ理事長
厚生労働省高齢者支援課認知症・虐待防止対策推進室 室長補佐
岩手県・矢巾町地域包括支援センター 所長
徳島県・あわ在宅介護支援センター 施設長
西元 幸雄
堀尾 愼彌
井出 訓
翁川 純尚
吉田 均
大塚 忠廣
コーディネーター基調説明
全国地域包括・在宅介護支援センター協議会
副会長 西元 幸雄
2
日常生活課題とは何か
今回のシンポジウムのテーマにある「認知症者の日常生
活課題」とは何か、私なりに考察してみたいと思います。
最初に課題として挙がるのは、認知症の人の早期診断と
対応です。認知症の初期段階で医療につなげ、支援するた
めには、地域にアンテナを立てていく、というしくみづく
りが必要です。地域の方から地域包括支援センター(以下
「包括」
)や在宅介護支援センター(以下「在介」
)に、
「最近、
隣のおばあちゃんの様子がおかしい」といった情報提供を
していただくのですが、個人情報の保護に違反しないかと
いう問題や、本人に認知症をどのように告知するか、とい
うことが課題としてあります。
二つ目の課題は、日常生活の困りごとの発見と対応です。
日常生活の支援に大切なことは気づきです。気づきがなけ
れば支援に結びついていきません。身体的機能、社会参加
機能、生活活動機能といった視点から見て、どんな困りご
とがあるかな、と予測しておく必要があります。また、認
知症の人の思いを実現する支援も大切です。
さらに、掃除や買物といった生活課題への支援、BPSD
(認知症の行動・心理症状)への対応、虐待防止と権利擁護、
若年性認知症への対応、認知症の予防、家族介護者への支
援といった課題もあります。
センターにおける対応の現状
平成24年度に全国3,500か所のセンターを対象に実施し
た、
「認知症の人への対応」についての調査結果を紹介します。
「支援に至った契機」について、一番多かったのが「セン
ターに相談があった、電話があった」という回答で、90%
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を超えています。二番目が「センターの事業を通じて関係
者から情報が入った」
。三番目が「地域住民を対象とした調
査から発見された」ということでした。
連絡(相談)元については、
「家族・親族から」という回
答が一番多く90%以上。次が「関係機関から」と「地域住
民から」という回答がともに約80%。本人からの相談は
少なく、在介からは約10%。在介は包括のブランチになっ
ているところも多いのに、なぜこんなに少ないのかと疑問
に思いました。
「認知症の人への支援として行なっている取り組み」で
は、一番多い答えが「見守り」で80%以上、次に多かっ
た答えが「市民への認知症の啓発活動」で、認知症サポー
ターの養成や勉強会などです。
「包括の活用促進」や、「地
域密着型サービス事業所の運営推進会議への出席」といっ
た回答もありました。
医療連携について、認知症者や認知症のおそれのある人
について連絡、相談を受けた場合、医療機関に連絡してい
るかという質問に対して、
「必ずしている」が0.3%、
「ケー
スに応じてしている」が79.9%でした。必ず連絡してい
るセンターがわずかしかないことは課題かもしれません。
一人ひとり異なる困りごと
最後に、全国6事業所に対してヒアリング調査を行った
28事例の中から、
「在宅に暮らす認知症の人の日常生活の
困りごと」をご紹介します。
①80代前半の女性で配偶者と二人暮らし。定期受診がで
きない、老老介護なので入浴が困難、収入がなく経済的に
困窮している、といった課題が挙がりました。
②80代前半の男性で、認知症の奥様と二人暮らし。いわ
ゆる認認介護で食事の準備ができない、買い物、部屋の片
付けができない、金銭管理ができない、医療サービスが求
められないことに困っています。
③60代後半の独居の男性。服薬管理や掃除、洗濯ができな
い。近隣との交流がない、といった困りごとがあります。
④60代半ばの独居の男性。転居したばかりで受診歴がな
く、一人で病院に行けない。書類の手続、管理ができない。
食事の準備、掃除、洗濯ができないといったことに困って
おられます。
⑤90代半ばの独居の女性。食事の準備や買い物ができな
くなっていますが、本人はできないことを認めず、介護保
険サービスを拒否されています。そのうえゴミの散乱や食
べ残しが腐乱し、不潔な状態になっているという課題もあ
ります。
このように、日常生活の困りごとは一人ひとり異なって
いますし、地域ごとの環境によっても異なってきます。こ
うした現状や問いを頭の片隅において、シンポジストの皆
さんのご報告をお聞きすることと致します。
助言者コメント
全国地域包括・在宅介護支援センター協議会
研修委員 堀尾 愼彌
社会復帰に必要な福祉とのネットワーク
私は医師になって55年になります。整形外科医を10年
務めた後、障害を負った方のリハビリテーション医療に関
わるようになりました。そして、診療するだけでなく、障
害者となった方をどのように職場復帰、社会復帰させてい
くのか、ということにも取り組むようになりました。
そうなると医療の面だけでなく、福祉面などさまざまな
方面からのサポート体制が求められ、福祉職とネットワー
クを組む必要に迫られました。ちょうど在介ができたころ
で、当時は医療と福祉の間に高い垣根がありましたが、在
介によって連携が進んだ経緯がありました。
地域リハビリテーションに取り組む者にとって、現在、
包括や在介が率先して取り組んでいる地域包括ケアシステ
ムの構築は、まさに目指すところです。
心を知り、生き方に沿う
30年前に『痴呆老人の理解とケア』という本を執筆し、
厚生省老年期脳障害研究班のリーダーとして痴呆老人問題
に携わっていた室伏君士医師が唱えていた、認知症ケアの
理念を思い出しました。
その理念とは、認知症の方の心を知り、生き方に沿って、
その人にふさわしいなじみの環境を整えて援助していく。
そして人としての尊厳と生き方を支えるケアを大原則にす
る、ということです。当時としては非常に先進的な理念で
した。
みなさんの発表を聞いていて、室伏医師の理念に通じる、
認知症の人の尊厳と生き方を支える体制づくりに取り組ん
でいらっしゃると感じました。
認知症の状態像を理解する
認知症の人のサポートは、認知症の状態像を理解するこ
とから始まります。介護する家族も、ボランティアを希望
する地域住民も、認知症という病気について、最初はこん
な症状が現れ、進行するにつれてこのように状態が変わっ
ていく、ということをきちんと勉強していただく必要があ
ると、日頃から感じております。
また、認知症のケアは認知機能障害、生活機能障害、行
動障害の3つを総合的に評価しながら、個別に対応するこ
とが大切だと考えています。認知機能障害とは、ほんの少
し前のことも忘れてしまう、道に迷ったり、会話が理解で
きなくなるといったことです。生活機能障害は、認知機能
障害によって、排泄や食事、入浴といった日々の生活に支
障が出ること、行動障害はBPSDのことです。
認知症の研究は進みつつあって、将来的には再生医療も
含めて、治療や予防が可能になるかもしれません。そのよ
うな医療の進歩を期待しつつ、一方では認知症の人ととも
に安心して暮らしていけるまちづくりをしっかり進めてい
きたいと感じています。
3
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実践事例❶
「はじめの一歩」を踏み出し
認知症フレンドリー社会をめざそう
放送大学教養学部教授 NPO法人認知症フレンドシップクラブ理事長
井出 訓
札幌で立ち上げ、全国で活動展開
とAさんと私の3人でパークゴルフに出かけたところ、
認知症フレンドシップクラブは、認知症になっても
Aさんは終始笑顔で18ホール回りました。その姿を見
安心して暮らしていけるまちづくりをめざし、平成19
たときの、奥様の言葉を私は忘れることができません。
年に札幌で立ち上がった団体です。現在は東京や函館
「こんなに楽しそうな主人を見るのは、本当に久しぶ
など全国12カ所に事務局を設置し、来年度には富士宮、
りです」。その言葉を聞いて、「サポ友」は必要とされ
魚沼、千葉県の冨里に事務局の立ち上げを準備中です。
ていると確信しました。認知症の方が、これまで楽し
各事務局が行っている活動は、それぞれの地域の事
んできた趣味の活動を継続しながら、質の高い生活を
情や特徴を活かしたものになっています。今回のシン
送っていただくサポートをこれからも続けていきます。
ポジウムでは2つの活動をご紹介しながら、認知症の
方が安心して暮らしていけるまちづくりについて考え
タスキをつないでゴールをめざす「ラン伴」
ていきたいと思います。
もうひとつの「ラン伴」という活動は、認知症の人
や家族、支援者がひとつのタスキをつなぎながらゴー
4
友人として趣味の活動を支援する「サポ友」
ルをめざして走るイベントです。平成23年から各地の
みなさん、ゴルフはお好きですか? 毎週のように
事務局、医療機関、介護施設、企業などの協力で始め
コースに行く方や、打ちっぱなしに行く、という方が
ました。
いらっしゃると思います。休みの日は釣りに行くのが
初年度は札幌から函館までの300キロを、3日間か
楽しみ、という方もいるでしょう。女性の場合は美味
けてタスキをつなぎました。翌年は東京までの1200
しいものを食べにいくとか、お芝居を見にいくのが趣
キロをつなぎ、4年目となる平成26年は7月に帯広を
味です、という方が多いのではないでしょうか。
スタートして10月に広島でゴールするという2500キ
しかし認知症を患うと、それまで親しんできた趣味
ロのコースをタスキでつなぎました。
や活動を制限せざるを得ない状況になり、あきらめて
このラン伴の目的は、一つは「地域の中には支えを
しまう方が多いようです。そうして家に閉じこもりが
必要としている認知症の人とその家族がいる」という
ちになってしまいます。
ことを、同じ地域に暮らす人たちに知ってもらうこと。
そこで同じ趣味をもっている人が、友だちとしてサ
もう一つは、地域に暮らしている認知症の人や家族に
ポートしながら、いっしょに楽しむことができないだ
も、「地域の中にたくさんの仲間がいて、力を貸してく
ろうか、という視点でつくったサポートシステムが「サ
れる」ということを知ってもらうことです。
ポ友」です。認知症フレンドシップクラブでは、認知
三つ目の目的は「認知症になっても暮らしていける
症の人の友人として寄り添い、いっしょにその活動を
まちとは、いったいどんなまちか」ということを多く
楽しむサポーターを養成しています。
の人に考えてもらうきっかけをつくって、人々が認知
最初に「サポ友」を利用してくださったAさんは、
症を他人事ではなく、「ジブンゴト」として考え始める
奥様が仕事に出かけている間、ずっとテレビを見て過
ようにすることです。
ごしていました。
「これでは良くない」と考えた奥様は
一般の住民を巻き込んで、同じタスキをつないでい
デイサービスを勧めましたが、しばらくたつと「デイ
くという体験を通して、さまざまな人が出会い、つな
サービスはつまらない」と拒否されたそうです。
がることで、なんらかのアクションが生まれる。ラン
困った奥様は私たちの事務局に連絡をくださったの
伴が、そんな「はじめの一歩」になることを願って活
です。
「Aさんは何がお好きですか?」と伺うと、
「よく
動しています。
パークゴルフを楽しんでいた」とのこと。そこで奥様
たとえばラン伴に、中学生のサッカーチームがエン
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トリーしたことがありました。走る前は「認知症の人っ
のもと」になると説明しています。認知症の人と、そ
て怖い」というイメージをもっていましたが、ラン伴
の人を取り巻くさまざまな人、企業、行政、団体など
で認知症の方に出会って、
「今度、認知症の人たちが困っ
がつながりあうことが、安心して暮らしていけるまち
ていたら、声をかけたい」という彼らなりのアクショ
づくりの鍵ではないかと思っています。
ンにつながりました。
ラン伴でタスキをつなぐ一人ひとりの力は本当に小
「認知症フレンドリー社会」をめざす
さいものです。でもその力がつながり合うことで、帯
認知症フレンドシップクラブが掲げるキーワードは
広から広島までの2500キロを走る、という不可能に
「友だち」です。支援やケアがなされるとき、そこには
思えることが可能になる。それと同じように「地域や
支援(ケア)する側、される側という力関係が生じます。
社会を変えていく」という不可能に思えることも、一
支援する側は支援を止めることができますが、支援を
人ひとりが「はじめの一歩」を踏み出すことで、可能
受ける側はそれなしには生きていけません。常に絶対
になっていく。そんなことを考えながら続けている活
的弱者であり続けなければならないのです。しかし「友
動がラン伴です
だち」という形態なら、こういった力関係や利害関係
が生じない、対等な関係になれます。
「安心のもと」を増やしていくまちづくり
最近私は「認知症フレンドリー社会」という言葉を
次は、
「健康生成論」の視点をまちづくりに生かそう、
よく使います。現在の主流は、専門家が中心となって
という話をさせていただきます。「健康生成論」はイス
さまざまな取り組みを進め、どれだけ認知症の人の問
ラエルの社会学者、アントノフスキーが示した考え方
題行動が減ったか、認知症の人の事故が減ったかといっ
です。医療の分野ではこれまで、病気になる原因を探
たことを評価軸に置いている「認知症対処社会」です。
し出してそれを取り除くことを目的とする「疾病生成
しかし、「認知症フレンドリー社会」は、たとえ徘徊
論」が一般的でした。たとえば、がん細胞を見つけて
があっても普通に暮らしていける社会をみんなで考え
切除する、といったことです。
て取り組んでいきましょう、という社会です。「安心の
しかし、この考え方は「どうして病気になるか」を
もと」をみんなで探していく。そして「安心できる」
知ることはできますが、「なぜ健康でいられるか」を解
という認知症の人の声そのものが評価軸になっていく
き明かすことはできません。これに対してアントノフ
ような社会をつくりたいと、私たちは思っています。
スキーは、同じように「病気のもと」に晒されている
社会を変えるにはあなたが変わること。あなたが変
人たちのなかでも、病気になる人とならない人がいる
わるにはあなたが動くこと。それぞれの一歩を踏み出
ことに着目しました。そして「健康のもと」をたくさ
すことで、「認知症フレンドリー社会」は現実のものに
んもっている人と、そうでない人がいると考えたので
なると私は信じます。
す。つまり、
「健康のもと」を
増やしていく、というアプロー
チも重要だという考え方です。
まちづくりも、同じような視
点で考えることができないで
しょうか。まちには「危険のも
と」がたくさんあり、それを取
り除いていくのは
「疾病生成論」
的な考え方ですが、
それでは「ど
うしたら認知症の人が安心して
暮らせるか」を知ることはでき
ません。そこで「安心のもと」
を増やしていこうという「健康
生成論」的な考え方でまちづく
りをしていくのです。
アントノフスキーは、本人の
内と外にある資源こそが「健康
5
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実践事例❷
認知症の人を支える医療・介護の連携体制の構築を目指す
~認知症施策の方向性~
厚生労働省老健局高齢者支援課 認知症・虐待防止対策推進室
室長補佐 翁川 純尚
世界と日本の認知症者の現状
①~⑤の課題は、国だけでなく市町村や地域住民、
まず認知症者の現状からお話しします。WHO(世
本人、家族が、自助、共助、公助でそれぞれ担ってい
界保健機関)と世界アルツハイマー協会の報告書によ
くことになりますが、⑥の課題に関しては、国が諸外
ると、2010(平成22)年の時点で世界中に3560万
国とも連携しながら進めていく必要があります。
人の認知症者がいると推計され、毎年770万人の新し
こうした課題を踏まえて、認知症施策の方向性を図
い認知症者が増えています。世界のどこかで4秒に一
に表してみました。左回りに方向性についてのビジョ
人が新たに認知症になっているということです。諸外
ンとオレンジプランを挙げ、右回りに社会保障・税一
国の65歳以上の人口割合の推移を見ますと、日本はド
体改革による社会保障の充実、医療介護総合確保推進
イツやスウェーデンといった国を抜いて、超高齢化の
法、介護保険の制度改正などを挙げました。方向性と
トップに躍り出ました。このようなデータも踏まえて
して目指すところは、地域=市区町村において、認知
認知症の問題を考えていく必要があります。
症の人を支えるための、医療・介護の連携体制をどう
次に国内の認知症者の現状ですが、平成24年の推計
やって構築していくのか、ということです。
データによると、認知症高齢者が462万人、MCI(正
少しオレンジプランについて触れましょう。以前か
常でもない、認知症でもない〈正常と認知症の中間〉
ら認知症の取り組みに関する課題が挙がっていたので、
状態の者)の方が400万人です。65歳以上の高齢者
平成20年に「認知症の医療と生活の質を高める緊急プ
のうち、認知症と認知症の疑いのある方は、3.8人に
ロジェクト」を立ち上げて報告書が出されたのですが、
1人いることになります。私も皆さんも認知症になる、
そのなかで推進できていない課題がありました。そう
ということですから、我が事としてとらえて、自分た
した課題について、目標値を定めて5年間の計画のな
ちのまちの施策を考えていきましょう。
かで推進していきましょう、というのがオレンジプラ
ンです。ただし1年半経ちましたので、検証作業はし
6
認知症の6つの課題と施策の方向性
なければいけないと考えています。
次は認知症に関して、現在も残っている問題を6つ
オレンジプランには、誰が何をやるのか、というこ
挙げます。
とについて明確に記してありません。具体的には市町
①早期受診・対応が遅れることにより、認知症状が悪
村単位でいろいろな認知症施策を推進していく、とい
化していること。もっと早い段階から、悪化防止、
うことです。しかし1741の市町村のなかには取り組
予防的な取り組みを導入していくことが必要です。
みが進んでいるところと、取り組んでいないところが
②病院等医療機関に認知症の人が長期入院しているこ
あり、その差が激しいのが現状です。きちんと政策立
と。これは認知症ケアパス(状態に応じた適切なサー
案して進めていくことと、医療と介護の連携について
ビス提供の流れ)をどのように構築していくか、資
認知症支援を意識しながら進めていくことが、いま求
源整備(人材も含めて)の課題があります。
められています。
③認知症の人が住み慣れた地域で可能な限り生活を続
けていくための介護サービスが、量、質の両面で不
認知症初期集中支援には医療と介護の連携が必須
十分。
認知症初期集中支援とは、認知症が疑われる人や認
④地域で認知症の人とその家族を支援する体制が不十
分。
⑤医療・介護従事者が現場で連携のとれた対応ができ
ていないケースがある。
⑥認知症の診断技術や根本的な治療薬、発症後の介護
ケア技術等の研究開発が不十分。
知症の人とその家族を多職種の専門家チームが訪問し、
認知症の専門医による診断を踏まえて、観察・評価を
行い、初期の支援を医療と介護が連携しながら集中的
に行うというものです。もちろん、地域包括支援セン
ターも支援の土台の部分に関わってきます。
平成25年度、14市区町村で「認知症初期集中支援
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チーム設置促進モデル
事業」が実施され、翌
年度は地域支援事業の
任意事業として41市
区町村が実施していま
すが、まだ取り組んで
いない都道府県もあり
ます。今回の制度改正
で、認知症初期集中支
援を包括的支援事業
とし、平成30年度末
までに全ての市町村に
「認知症初期集中支援
チーム」を設置する予
定です。チームと名乗
らなくとも、医療と介
護が連携して認知症の
早期の段階で支援する
機能をつくりましょう、ということです。
く認知症の知識を得たのですから「認知症フレンドシッ
モデル事業に取り組んでいる市町村では、地域包括
プクラブ」の「サポ友」のような活動につなげたいで
支援センターと認知症疾患医療センターとの有機的な
すね。認知症サポーターの活用は今後の課題だと思い
連携をどう図っていくのか、ということをかなり意識
ます。
して実施していました。医療と介護がしっかり連携体
制をとったうえでないと、認知症初期集中支援に取り
認知症徘徊高齢者の見守り体制づくり
組むのは難しいと考えているようです。また、モデル
認知症徘徊高齢者の問題については、平成26年に
事業に取り組んでいるところは、地域包括支援センター
NHKが報道した「行方不明者1万人」という数字が、
が積極的に関わっており、認知症疾患医療センターが
世間を驚かせました。しかし、翌日に行方不明者のう
同一市区町村内や同一2次医療圏内に設置されている
ちの66%の方が発見され、1週間以内に90%の方が
ケースが多いです。
発見されています。ところで「徘徊・見守りSOSネッ
ちなみに認知症疾患医療センターについては、都道
トワーク」の構築は、平成7年ごろから釧路を発端に
府県によって考え方も設置状況もバラバラです。熊本
始まったもので、ずいぶん月日が経っており、形骸化
県のように重層構造になっているところもありますが、
している地域も出てきています。
そもそもの医療資源である病院の偏在などもあって設
その形骸化への対策ということで、「今後の認知症高
置が進んでいない状況もあります。
齢者等の行方不明・身元不明に対する自治体の取り組
チームの配置場所は地域包括支援センターが最も多
みの在り方について」という通知を、平成26年9月に
く、認知症疾患医療センターや診療所に配置している
自治体に出しました。認知症高齢者等の見守り体制づ
市区町村もあります。
くり、行方不明者の捜索活動に関する取り組み、身元
「認知症地域支援推進員」は、各市町村におけるオレ
不明者の身元確認に関する取り組みの3つの柱につい
ンジプランを推進する旗振り役として、インフォーマ
てのヒント集になっています。
ルな支援ネットワークの構築や、医療と介護の連携ネッ
最後になりますが「認知症初期集中支援」や「認知
トワークを構築する役割を担っています。しかし、市
症カフェ」
「認知症疾患医療センター」などのツールは、
町村に代わって認知症にかかる政策を立案し、企画・
インフォーマルサービスとフォーマルサービス、介護
調整を行って動かしていくといった、もう一段階レベ
と医療がつながって初めて機能する部分があります。
ルの高い役割も担っていただきたいと期待しています。
そしてどのステージにも地域包括支援センターという
「認知症サポーター」については、全国で500万人
機能がかかわってきます。そういう意味で、みなさん
を突破しました。しかし研修を受けただけで終わって
にはこれからも認知症施策にぜひお力をお貸しいただ
しまっている人が多いのではないでしょうか。せっか
きたいと思います。
7
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実践事例❸
認知症支援に取り組むネットワーク連絡会と
四つの部会の取り組み
岩手県・矢巾町地域包括支援センター
所長 吉田 均
しっかり活動するための人員配置
で年間1、2件発生(平成18~22年)していました。
本日は認知症支援の取り組みに関する3つのお話を
65歳以上の高齢者の10人に一人が認知症という状況
させていただきます。一つは地域包括支援センターが
です(平成25年3月末現在)。
取り組むためには、しっかりした人材確保、人員配置
一方で、矢巾町は市町村比率で認知症サポーターの
が必要であること。二つ目は地域住民にどのような役
数が県内最下位(平成22年度)ということも明らかに
割を担ってもらうか、地域づくりを人材育成と併せて
なりました。
やっていくこと。三つ目は、地域ケア会議で明らかに
このような地域の実情が見えてくると、町は「何と
なった課題をどのように施策に生かしていくか、その
かしないといけない」ということで、認知症予防と、
ための地域支援計画についてのお話です。
他職種連携で認知症を支援することを課題として挙げ
まず矢巾町の概況ですが、盛岡市の南隣に位置する
ました。そして「認知症になっても安心して生活でき
人口2万6770人、高齢化率21.9パーセントの小さな
るまちづくり」を町の目指す方向として決めました。
町です。町内に特別養護老人ホームが2カ所、老人保
そこで誕生したのが「やさしさはばたく認知症支援
健施設が3カ所あって、介護保険サービスが充実して
ネットワーク連絡会」です。警察、商工会など、町の
います。地域包括支援センターは委託型が1カ所です。
あらゆる関係機関、団体が入っています。矢巾町には
もともと町内に4つあった在宅介護支援センターを廃
認知症サポート医がいなかったため、内科と神経内科
止して、町全体を一つの日常生活圏域(中学校は2校)
の先生にお願いして、研修を受けていただき、サポー
とみなし、平成18年4月からスタートしました。
ト医になっていただきました。
地域包括支援センターがしっかりと活動するために
認知症地域支援推進員が熱意と実践力にあふれてい
はしっかりと人員配置をしていくことが必要だと行政
たので、このようなネットワーク連絡会を早々につくる
も認めており、現在の職員体制は常勤の正職員6名で
ことができたのだと思います。認知症地域支援推進員
す。私は所長と主任介護支援専門員を兼務しています
は、このような人材でないと務まらないと感じました。
が、三職種のほかに認知症地域支援推進員(社会福祉
8
士)
、指定介護予防支援事業専任の介護支援専門員、事
アンケート結果をもとに部会立ち上げ
務員という体制です。委託費は3033万円(平成26年
次に取り組んだことが認知症実態調査アンケートで
度)で、そのうち認知症事業が630万円ですので、い
す。在宅介護者、福祉関係者、商工会加盟店にお願い
ろいろな取り組みができると感じています。
した結果、次の4つの課題が見えてきました。
認知症地域支援推進員は役場で認知症総合相談を担
①医療と福祉の連携・情報共有が十分でないこと
当し、他の5名は本体のセンターで総合相談に対応し
②認知症の正しい理解が不足していること
ています。地域包括支援センター独自の7つの定例連
③高齢者世帯、独居者が増加することへの不安
絡会を開催していますが、その中のひとつ「矢巾町地
④介護している家族が疲弊していること
域包括支援センター・ネットワーク会議」で、個別の
そこで、地域包括支援センターでは行政と協力して
地域ケア会議が行われています。
4つの部会を立ち上げました。一つ目が「医療連携・
認知症ケア検討部会」です。この部会の目的は医療、
認知症支援のためのネットワーク連絡会を結成
福祉、介護の連携と、認知症介護に携わる人材育成、
矢巾町では、以前から認知症が切実な地域課題になっ
ケアの向上です。サポート医、認知症疾患医療センター
ていました。平成23年ころまでの総合相談の三分の
の医師、ケアマネジャーなどが中心となって、次のよ
一と、地域ケア会議の支援困難事例のほとんどが認知
うな取り組みを始めています。
症関係でした。さらに認知症の人の行方不明が、町内
・認知症ケアパス(矢巾モデル)の作成と普及
Network 124
・情報共有ノートの作成
動をしていく取り組みで、現在15名、16匹が登録し
・多職種合同の研修会・事例検討会の開催
ています。地域の防犯活動も兼ねているので、交通安
・サポート医との連携・定期連絡会議
全運動にも参加しています。
・サポート医による勉強会の実施
入隊時に「認知症サポーター養成講座」を受講する
二つ目が認知症の理解の促進と普及啓発を目的につ
ことが義務付けられているほか、年1回、認知症に関
くられた、
「わが町つながる部会」です。ケアマネジャー、
する勉強会を実施しています。平成26年1月には、パ
サービス事業所、地域の女性部のメンバーなどが集まっ
トロール中の隊員が、薄着で徘徊していた91歳の女性
て「矢巾町キャラバン・メイト連絡会」を結成し、認
を保護し、自宅に送り届けたケースがありました。隊
知症サポート養成講座を活発にしようと取り組みまし
長を務めている方は「気負わず、マイペースでできる
た。その結果、この5年間で受講者が急激に増え、県
活動ですが、やさしいまちづくりに参加している充実
内で最も高い伸び率を記録し、認知症サポーター数の
感がある」という感想を述べています。
最下位を脱出しました。
三つめの「安心安全おたすけ部会」は、徘徊、行方
課題を「見える化」する「地域支援計画表」
不明者の対策と高齢者の交通安全が目的です。「徘徊高
地域ケア会議で支援困難事例を積み重ねることに
齢者等行方不明SOSネットワーク」を見直し、徘徊模
よって、認知症の課題が明らかになり、その課題を代
擬訓練を実施する予定です。また認知症の人の運転を
表者会議につなげていくためのツールが「地域支援計
いかに止めていくかが大きな課題となっており、ご本
画表」です。矢巾町の場合は、「認知症の地域支援体制
人に納得していただけるような方法を考えているとこ
をつくりたい」
「認知症に対する正しい理解を広げたい」
ろです。
「介護家族の介護負担を軽減したい」というニーズに対
四つ目が、家族介護者を支援するための「認知症支
して、それぞれ目標と活動内容の計画をつくりました。
援開発部会」です。認知症相談を強化するための「介
その内容を代表者レベルの会議に提案し、地域包括支
護まちなか相談所」をオープンしました。また認知症
援センターが黒子になってネットワークを構築してい
カフェも始めたところです。ログハウス風の喫茶店で、
きます。その活動内容が決定すると「活動実施計画書」
将来的には認知症の方が役割を担いながら運営してい
をつくり、計画書に基づいて実施していきます。
くことを目指しています。さらに男性介護者の支援と
このような形で、地域の課題を「見える化」してい
して「男の介護教室」も実施しています。
くと、地域ケア会議、代表者会議の役割が明確になり、
認知症支援の輪を小中学生にも広げるため、ご当地
地域包括ケアを構築する手段として、地域ケア会議が
ヒーロー「介護戦隊やはばジューミンジャー」が活動
位置づけられるのではないかと思っております。
中です。若い介護職員が地
域密着型介護ヒーローとし
て結成し、イベント等で啓
発活動を行っています。
<地域支援計画表>
地域の目標:「認知症になっても地域で住み続けられるまちづくり目指して」
9
気負わずマイペースに
見守り活動
認知症支援は専門家だけ
で行うのではなく、町民の
みなさんにも参加してもら
いたい。そのために認知症
について知ってほしい。そ
のような「認知症支援開発
部会」のメンバーの思いか
ら、平成25年に結成され
たのが「矢巾わんわんパト
ロール隊」です。愛犬の散
歩時、それぞれに見守り活
ニーズ
目 標
活動内容
担当・役割
場 所
実施時期
認知症支援の地 地域住民が認知 行政、関係機関、地 委員:民生委員、商 町公民館会議 ・年2回
域支援体制をつ 症に関心を持ち、 域住民代表からなる 工会、サービス事業 室
(5,3月)
くりたい。
認知症になって ネットワーク連絡会 者、自治会等代表者
も、安心して過 を設立し、具体化を 約15人
ごせる地域づく 図る。
事務局:地域包括支
り。
援センター
認知症に対する 認 知 症 サ ポ ー
正しい理解を広 ター養成等を活
げたい。
発化し地域住民
へ認知症の正し
い知識と理解を
広げていく。
「町キャラバン•メイ
ト連絡会」(仮称)を
結成し、町内10か所
で養成講座を実施す
る。
メイトへの連絡:担
当課
講座の手配:民生委
員
事務局:地域包括支
援センター
さわやかハウ
ス2階会議室
町内自治公民
館
・発足:8月
・講座:5月
〜
12月
介護家族の介護 家族のニーズや 「介護者のつどい」の 内容検討:町内サー 町公民館会議 ・6月〜2月
負担を軽減した 地域性、時代に 定期開催と男性介護 ビス事業所男性職員 室
・5月〜毎月
い。
適した支援を検 者のための「介護講 代表
(第二火曜日)
討し実施してい 座」を実施する。
家族への働きかけ:
く。
ケアマネジャー
事務局:地域包括支
援センター
Network 124
実践事例❹
在宅介護支援センターとして認知症者の
ソーシャルサポートに取り組む
徳島県・あわ在宅介護支援センター
10
施設長 大塚 忠廣
在宅と施設で全く異なる認知症ケアの難しさ
合わせると862万人という数になります(平成24年)。
本日は「あわ在宅介護支援センター」における認知
65歳以上の4人に1人が認知症とその予備軍というこ
症者の日常生活課題への対応についてお話し、最後に
とです。
これから在宅介護支援センターがどうあるべきかとい
平成26年、認知症の届け出行方不明者が平成25年
うお話で締めくくりたいと思います。
現在で一万人を超えており、いまだに行方が分からな
徳島県の北部に位置する阿波市は、平成17年に4町
い方がいることを大々的に報じられたことがあり、認
が合併して誕生しました。人口は約4万人で、高齢化
知症者の徘徊が社会問題として注目を浴びました。
率は30パーセントを超えています。
このことが発端となって、徳島県庁も初めてデータ
あわ在宅介護支援センターは、社会福祉法人蓬莱会
を公表し、認知症者が約3万2000人、届け出行方不
が運営する、特別養護老人ホーム蓬莱荘に併設されて
明者が91人(平成25年)、そのうち8名が亡くなった
います。蓬莱荘は昭和55年に開設され、昭和61年には
ということが明らかになりました。一方、阿波市は平
ショートステイ、平成4年にはデイサービスセンター、
成26年4月 現 在 で65歳 以 上 の 認 知 症 者 が1627人、
ホームヘルパーステーション、あわ在宅介護支援セン
若年性認知症の方が30名でした。
ターが開設され、総合的な地域の介護拠点となりまし
徳島県では、平成26年8月に「徳島県認知症高齢者
た。私は法人の常務理事であると同時に、在宅介護支
見守りセンター」を県庁内に開設しました。県レベル
援センターとデイサービスの施設長を務めております。
ではまだ珍しいのではないでしょうか。行方不明者の
あわ在宅介護支援センターの職員体制は3名のケア
情報を速やかに県内全市町村に提供する、早期発見の
マネジャーと、兼務の介護福祉士4名です。ケアマネ
ための情報センター機能をもち、24時間365日対応
ジャーのうち保健師資格をもつ職員と社会福祉士資格
です。このセンターの開設とともに、県では見守り体
をもつ2名は、平成4年に事業がスタートして以来20
制の構築を進めていますが、開設以来まだ日が浅く、
年以上のキャリアを持つ、県内ではおそらく最も古参
市町村に対しての広報活動も不十分なので、見守り活
のケアマネジャーであり、私どもも誇りに感じてい
動が有効に機能するには時間がかかりそうです。
ます。このベテラン2名に、介護福祉士からケアマネ
認知症者を在宅で介護する場合、さまざまなBPSD
ジャーになった職員が加わって活動しています。
に悩まされることが、家族の介護負担を重くしていま
ところで私の母は60歳ころから激しいBPSD(行
す。寝たきりの人を介護するより、認知症の人を介護
動・心理症状)を伴う認知症になり、すでに亡くなり
するケースの方が在宅継続率が短いというデータも、
ましたが、現在は叔母ふたりが同じようなBPSDを伴
BPSDが起因しています。
う認知症を患っています。また叔母の夫は、認知症で
BPSDには徘徊のほかにも、同じ話の繰り返し、大
徘徊中に山で亡くなりました。家内の父も一過性の認
声、破壊行為、異食などさまざまな行為が挙げられま
知症状がありました。私自身は特養の施設長を長く務
す。家族の相談を受けた際、「一人の認知症の人を自宅
めた経験があり、認知症ケアはわかっているつもりで
で介護する場合、3人の介護者が必要ですよね」とおっ
したが、在宅での対応は、施設での対応とは全く異な
しゃった方がいました。認知症は夜中でも早朝でも徘
る難しさがあり、私自身、大変苦しい思いをいたしま
徊などの症状が現れることがあるので、ひとり8時間
した。
ずつ対応して8時間×3名=24時間という計算です。
しかし3名の家族が交代で介護することが、現実問
介護家族が認知症の理解を深める場が必要
題として可能でしょうか。老老介護が増えていること
全国の認知症者の現状ですが、国の推計によると約
や、子どもさん、お嫁さんの生活もありますから、ずっ
462万人で、軽度認知障害者(MCI)の約400万人と
と付き添っているのは不可能です。認知症の人を抱え
Network 124
る家族は、多くの生活課題を
抱えて切迫するという状況に
陥ってしまうのです。
その一方で、家族と話して
いるなかで強く感じること
は、認知症に対しての知識が
不足していることです。隣町
で4、5年前にこんな事例が
ありました。大阪で仕事をし
ていた長男夫婦が、退職後に
親孝行しようと帰ってきて、
母親と同居を始めました。間
もなく母親は認知症を発症し
た の で す が、 長 男 夫 婦 は 認
知症についての知識がなく、
叱ったり、拘束したりしてい
ました。ある日、長男が腹を
立てて突き飛ばしたとき、母
親は頭部を打って亡くなった
そうです。
険事業計画のなかにどのように組み込んでいくか、そ
このような事例を聞くと、キャラバン・メイトや認
して、あわ在宅介護支援センターとしてどの事業に参
知症サポーターの養成講座といった取り組みとは別に、
画できるかを、市当局と検討しています。
認知症の人を介護している家族が、日常生活のなかで
の対応を学べる場をつくる必要性を感じます。
地域のソーシャルサポートに取り組む
最後にあわ在宅介護支援センターの今後の方向性に
地域のボランタリーな体制が弱体化
ついてお話しいたします。まず地域包括ケアの構築の
ところで、高齢者の虐待防止対応の推進のため、「高
ために、地域ケア会議に積極的に参加していくことが
齢者虐待防止ネットワークの構築を厚労省が提案して
挙げられます。また、認知症高齢者・要生活支援高齢
います。私もこの仕組みに賛成ですが、阿波市の場合
者へのサポート対応のために、「認知症初期集中支援
は「早期発見・見守りネットワーク」を担う、地域の
チーム」にどのように関わっていくべきかを検討して
ボランタリーな部分がとても弱くなってきているのが
います。「生活支援サービスコーディネーター」の配置
現状です。
も大きな課題です。「認知症・要支援高齢者SOS見守
民生委員・児童委員のなり手が少なくなり、高齢化
りネットワーク」の構築については、あわ在宅介護支
して自治会が成立できなくなってきています。昔あっ
援センターが来年度からの介護保険事業計画に提案し
た青年団が消滅し、最近になって婦人会や老人会も無
ております。私たちは過去に見守りネットワークをつ
くなりました。いわゆる高齢者をサポートする団体や
くった経験がありますので、その経験を活かしていき
組織が崩れてきている状況のなかで、ソーシャルサポー
たいと考えています。
トネットワークをつくろうとする場合、一人ひとりを
ボランティアの発掘、養成といった地域資源の開発に
一本釣りで勧誘し、組織化していかなければならない
も取り組んでいこうと考えていますし、地域連携・認知
現実があります。
症ケアパスの作成に協力し、普及にも努めていきます。
これから地域にひとり暮らしの高齢者が増えていく
あわ在宅介護支援センターの事業には補助金等は一
なか、自治会や民生委員・児童委員の組織が弱くなっ
切ありませんが、社会福祉法人が地域貢献を求められ
ていることは、大きなネックになるでしょう。
る時代ですので、地域のソーシャルサポートを中心と
そんななか、阿波市における認知症者へのサポート
する事業に取り組んでいくことが私たちの役割だと考
構築は、厚労省の認知症施策のそれぞれの分野の事業
えています。それが、在宅介護支援センターの復活に
を実践していくことです。これらの事業を市の介護保
つながっていくのではないかと考えています。
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Network 124
報告
医療・介護・福祉関係四団体が
地域包括ケアシステム構築に向けて懇談会を開催
全国地域包括・在宅介護支援センター協議会では、
地域において発揮することの必要性(施設が地域包括
平成26年12月26日、都内にて、公益社団法人全国老
ケアの拠点となること、リハビリテーションや看取り、
人福祉施設協議会、公益社団法人全国老人保健施設協
認知症対応など持てる専門性を地域にアウトリーチし
会、公益社団法人日本医師会との懇談会を開催しまし
ていくことなど)等、各団体から報告がありました。
た。本懇談会は年1回開催し、今回で8回目となります。
青木会長からは、『地域包括ケアのしくみづくりにお
出席者は、石川憲全国老人福祉施設協議会会長、熊谷
いて、「地域」がキーワードであり、関係者が連携する
和正同副会長、平川博之全国老人保健施設協会副会長、
道筋ができたと考えている。これからの地域づくりの
鈴木邦彦日本医師会常任理事、本会からは、青木佳之
拠点は、在宅医療・介護連携推進事業を着実に進め、
会長、西元幸雄副会長、川越宏副会長、折腹実己子副
福祉と医療・介護の両輪が必要である』として、今後
会長が出席しました。
の関係者の連携や協働の必要性と期待について述べま
地域包括ケアシステムの要となる施設・機関の全国
した。
組織である四団体が、その推進に向けて、それぞれの
意見交換では、特に福祉・介護の人材確保について
団体における取り組みや課題について報告しました。
活発に意見が交わされ、看護師の不足が課題であるこ
在宅医療・介護連携を進めるための人材養成やまちづ
と、介護職のイメージアップが必要であること、介護
くり等に関わる医師会の取り組み、平成27年度の介護
分野への外国人労働者の参入における課題など、様々
報酬改定における課題(介護報酬の引き下げは、利用
な意見が出されました。
者へのサービスの質の低下を招く恐れがあること、介
最後に、青木会長より、これからも一層の連携を各
護職員の処遇改善も停滞させ、若年層の介護業界離れ
団体間ですすめることを要請し、閉会しました。
に拍車をかけることなど)、介護保険施設の専門性を
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Network 124
ブロック研修会報告③
平成26年度 近畿ブロックセミナー報告
終末期における医療と介護の連携を考える
近畿ブロックの各府県地域包括・在宅介護支援セン
ター協議会(当番県の兵庫県が開催)では、平成26年
8月21日に「近畿ブロックセミナー」を約300人の参
加を得て開催しました。
今年度は、介護保険法の改正をとらえ、高齢者の尊
厳や自立支援の観点から、「終末期における医療と介護
の連携」に重点を置き、これからの地域包括ケアシス
テムづくりについて研究・協議することを目的としま
した。
基調講演では、堀田聰子氏より慢性疾患を抱えなが
らも地域で暮らす人が増加傾向にある中で、生活の継
パネルディスカッションの様子
続を意識した医療的ケアと社会的ケアの連動の重要性
が提起されました。
た地域社会で看取りをしていく方向性が提起され、医
つづく講演では、高橋泰氏から人口動態など様々な
療の側・介護の側それぞれでの実現に向けたポイント
データをもとに、人口減少社会の中で医療や介護への
を議論しました。
過度な期待ではなく、高齢者自身が自分の死に方を決
セミナーを通して、本人を支援する専門職自身が、
め、その意思を周囲が尊重していくことの重要性につ
その人らしい生き方の自己決定に寄り添うことの重要
いて触れられました。
性と、医療や介護の専門職間の役割を確認し互いに理
またパネルディスカッションでは、“平穏死”を提唱
解しあうことが、終末期における支援の一歩であると
する阿曽沼克弘医師より、
「病院完結型」の医療から「地
確認する貴重な機会となりました。
域完結型」の医療へ転換を図り、自宅や介護施設といっ
(兵庫県地域包括・在宅介護支援センター協議会)
【プログラム】
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■基調講演
「地域包括ケアとまちづくり」
講師:(独)
労働政策研究・研修機構 研究員
堀田 聰子 氏
■講 演
「制度改正とこれからの地域包括ケア」
講師:国際医療福祉大学大学院 教授
高橋 泰 氏
■パネルディスカッション
「終末期における医療と介護の連携」
登壇者:(独)
労働政策研究・研修機構 研究員
堀田 聰子 氏
国際医療福祉大学大学院 教授
高橋 泰 氏
医療法人朝日野会 朝日野総合病院 院長補佐
阿曽沼克弘 氏
進行役:神戸学院大学 教授/兵庫県地域包括支援センター機能強化委員会
藤井 博志 氏
Network 124
ブロック研修会報告④
平成26年度 中国ブロック地域包括・在宅介護支援センター協議会職員研修報告
まちづくりは目的、住民主体の地域包括ケアシステム構築を目指す
平成27年度介護保険法改正における地域包括ケアの
を確認できました。
考え方の出発点は、地域包括ケア研究会の報告書(田
後半は、岡山県のニーズキャッチの仕組みを重要視
中滋座長)であり、この研究会委員である堀田聰子氏
する地域包括ケアシステムの構築を牽引してきた小坂
をお招きして、改めて地域包括ケアについて学ぶ場を
田稔氏、その理念を具体的に実践してきた総社市社協事
設けました。田中座長は経営学者であり、財源を中心
務局長の佐野裕二氏を招いて、県の長寿社会課長須江裕
に考えているため「行政にお金がないので住民に負担
紀氏を交え、意見交換を行いました。コーディネーター
を」という考え方ですが、堀田氏は、「規範的統合」の
の橋本眞紀 氏より「地域包括ケアシステムの国のモデ
強調も含め、慢性疾患ケアモデルから、病や障害を抱
ルと岡山モデルの違いは何か?」
「
“まちづくり・地域づ
えてどう生きていくのか、
「生き方」の問題として考え、
くり”は地域包括ケアの手段か?目的か?」
「行政と地
そこと専門職が本人とどう関わって関係を築いていく
域包括支援センターの役割は?」
「個別支援から政策形
かという視点で話されており、岡山等の進める地域の
成へのサイクルをどうつくるか」等の重要な論点整理を
ニーズに即したシステムのつくり方と一致し、方向性
いただき、その提起に応える形で進行されました。
“まちづくり”は、地域包括ケアの手段ではなく目的
であること、直接サービス提供者や地域包括支援セン
ターの使命は、人々のニーズを行政・地域に提起し施
策をつくることが求められていることを確認しました。
2日目は、中国ブロック圏内の地域包括支援センター
より実践を持ち寄り、全体で意見共有・情報交換を行
いました。第6期介護保険事業計画に地域の課題をど
れだけ反映できるか、参加者それぞれが整理する場と
なりました。
公開ディスカッションの様子
14
(岡山県地域包括・在宅介護支援センター協議会)
1日目 2014年9月2日(火)
基調講演「地域包括ケアとまちづくり」 講師:堀田 聰子 氏 (独)労働政策研究・研修機構 研究員
公開ディスカッション「地域包括ケア報告書を読み解く!」
パネリスト 堀田 聰子 氏((独)労働政策研究・研修機構 研究員)
須江 裕紀 氏(岡山県保健福祉部 長寿社会課 課長)
佐野 裕二 氏(総社市社会福祉協議会 事務局長)
小坂田 稔 氏(美作大学 教授)
コーディネーター 橋本 真紀 氏(近大姫路大学 教授)
2日目 2014年9月3日(水)
実践報告&ディスカッション
「第6期介護保険事業計画に地域のニーズをどう吸いあげていくのか」
パネリスト (鳥取)米子市ふれあいの里地域包括支援センター 管理者
船木 敏江 氏
(山口)周南西部地域包括支援センター
堀家 幸美 氏
(広島)広島市瀬野川・船越地域包括支援センター センター長
根波リヱ子 氏
(岡山)津山市高齢介護課
高見 京子 氏
津山市社会福祉協議会 津山市地域包括支援センター
松尾 彰 氏
アドバイザー 福山市在宅介護支援センターかなえ
小山 峰志 氏
コーディネーター 美作大学生活科学部社会福祉学科 准教授
堀川 涼子 氏
Network 124
ブロック研修会報告⑤
平成26年度 九州ブロック地域包括・在宅介護支援センター協議会セミナー報告
「医療と介護の統合 ながさきから」セミナーに180人参加
去る平成26年11月13日(木)から14日(金)の
ジ」の実践報告があり、多職種連携による在宅医療ネッ
2日間、長崎県ルークプラザホテルを会場に「九州ブ
トワークが紹介されました。
ロック地域包括・在宅介護支援センター協議会セミ
2日目は、医療法人財団千葉健愛会あおぞら診療所
ナー」が開催されました。
の川越正平院長を講師に、「医療と介護の統合による地
このセミナーは、医療・介護連携からさらに一歩進
域包括ケアの推進」と題する講演が行われ、「医療と介
んだ「医療と介護の統合」を目指し、今後の地域包括
護の統合」を「医療は、介護が把握している膨大な生
支援センターの機能と役割について考えることを目的
活情報をリアルタイムに医療介入へ反映させる」、「介
に開催されたもので、九州各県から約180名が参加し
護は、医療が治療方針や未来予測などの動的視点を提
ました。
示することでケアの方向性をつかむ」という双方向の
一日目の冒頭、全国地域包括・在宅介護支援センター
連携体制の仕組みの重要性を指摘しました
協議会の青木佳之会長が基調報告に立ち、地域包括ケ
その他シンポジウムも開かれ、2日間のセミナーは
アの歴史的背景と理念の再確認、地域包括・在宅介護
盛会裏のうちに幕を下ろしました。
支援センター協議会への提言があり、続く行政説明で
参加者からは、「医療ができること、介護ができるこ
は、厚生労働省老健局総務課の遠藤征也総括課長補佐
とを合わせチームケアにあたる必要性を感じた」との
より、介護保険制度改正で予想される地域包括支援セ
声や「地域包括ケアの推進には地元医師会との連携が
ンターへの影響や今後期待される役割について説明が
最重要課題」と指摘する意見も寄せられました。
ありました。
(沖縄県地域包括・在宅介護支援センター協議会)
引続き、医療法人白髭内科医院の白髭豊院長による
講 演 が 行 わ れ、 医 療 介 護
連 携 の 例 と し て、「 長 崎
Dr.ネット」の取組みを紹
介されました。長崎市は、
15
坂道・階段・あぜ道が多い
土地柄ゆえに往診が難しい
反面、全国一診療所数が多
いという特性を活かし、複
数の医師同士でネットワー
クを構築し、在宅医療体制
の基盤整備が図られていま
す。
また、長崎市の独自事業
として医療・介護・福祉総
合相談窓口である「長崎市
包括ケアまちんなかラウン
シンポジウムの様子