Magazine 創建セミナー 自治体とIT革命 〜GISの最新動向を中心として〜 →講師:日本大学文理学部教授 高阪 宏行 氏 ■ 自治体とIT革命/日本の行政GIS データ管理がメイン 都市計画部門でGISを利用しているのは2.4%。 はじめに、日本におけるGISの現状ということで、国土庁のホームページに載っているものを集計してまいりました。地方公 共団体の3割ぐらいはGISを利用していると考えられ、固定資産、地籍、消防、上下水道などの管理における利用が非常に 多くなっています。つまり、日本の場合は、データ管理が主であると言えます。 都市計画部門でGISを利用しているのは、都市計画地域を有する市区町村のうち 2.4%、利用予定がある3.5%を合わせて も6%程度です。 調査結果からみたGIS導入のメリットとデメリットについてですが、メリットは、作業時間の短縮、分析の高度化、照会・閲覧 業務サービスの向上がトップ3であり、デメリットについては、データ更新の作業量の増加、費用の増大、GISの技術を持った 人の確保がトップ3となっています。 導入例としてよく紹介されているのは、横浜市の「MAPPY」ではないかと思います。都市計画についての問い合わせに対し て、タッチパネル式になったコンピュータ で検索し、窓口対応業務の時間短縮を図ったという事例です。これは、一般市民が 利 用している、という意味で、成功例ではないかと思います。 ■ 自治体とIT革命/行政GIS 費用と効果 優れた都市計画ができる、市民サービスの改善、情報化の取り組みへのプラス評 価など。 GISにかかる費用と効果は、有形のものと無形のものの二種類あると思われます。 有形のものとは、つまり経済的側面を有するものであり、費用については、ハードウエア・ソフトウエアやデータの購入、技術 訓練の実施、新しい職員の確保などが考えられます。また、効果については、業務費用の削減、支出の回避、例えばある部 門と他の部門で利用している地図の二重の購入が回避できること、などのほか、利益が増大する可能性があること、新しい 市場が開拓されること、といったことがよく言われています。 無形のものとしては、庁内の職員の移動でぎくしゃくするとか、 新技術が職員にプレッシャーを与えるといったことがある反面、優れた都市計画ができる、市民サービスの改善、情報化の 取り組みへのプラス評価などがあると考えられます。 ■ 自治体とIT革命/データ維持管理が大きな課題 空間データをデジタル化し、更新していくことは非常に手間がかかります。これをいかに行っていくかが今後の大きな課題で す。GISを利用している自治体では、みんなここで悲鳴をあげているのです。 ■ 自治体とIT革命/日本の行政GIS 普及のポイント 日常業務にGISを利用して、GISの専門家を育成していく。 空間データを共用していく技術的な問題を解決するとともに、制度的な問題として、本当にそれに見合う効果が得られたの か、ということを考える必要があります。それから、日常業務にGISを利用して、GISの専門家を育成していくという考え方が、 維持管理の面においても必要といえます。 ■ 自治体とIT革命/ノースカロライナ州の成功 ・制度の改善 次に、日本におけるGIS利用は、正しい方向にむかっているのか?また、今後発展させるためにはどうしたらよいのか?とい ったことを探るために、アメリカひいては全世界でのGISの代表的成功事例であるノースカロライナ州の取り組みを見ながら 考えていくこととします。 アメリカも日本も、同じソフトを使っているので技術的諸問題は共通です。しかし、なぜノースカロライナで成功しているのに、 日本の自治体では上手くいかないのでしょうか。そこには制度面での諸問題があるのではないかと考えられます。IT技術に 合うように諸制度を変えていったことが、アメリカのIT革命の原動力になっているのです。 ■ 自治体とIT革命/ノースカロライナ州での2つの制度的改革 IT革命とは、庁内だけでのIT革命ではなく、官庁間、官庁と民間、官庁と市民との 間のIT革命なのです。 ノースカロライナ州では2つの施策が実施されています。一つは、地理情報分析センターの設置で、二つめは、地理情報調 整委員会の設置です。 地理情報分析センターは、地方行政や州の機関、民間ビジネスにおける意思決定のための地理情報の体系的収集、分類 利用の促進のために設置されました。その設置目的が、意思決定のための情報提供であることが日本と違うところです。具 体的には、例えば行政機関がGISを利用する場合、分析センターにお願いをし、その結果を地方自治体は意思決定に利用し ます。GISの利用しづらさを解決するためにそういう分析センターが設置されたのです。 一方、情報調整委員会は、例えばデータが構造化されたものであるとか、地区単位のエラーが何%であるとかの細かい点ま でチェックを行うといった地理情報の品質確保、インターネットなどを通じたアクセスの確保、内容調整などを行います。そし て、最終的には統合空間データベース、すなわち共同のノースカロライナ州のデータを作っていこうという機関なのです。 また、全てのデータセットが情報ハイウェイや何らかの情報ネットワークからアクセスできるようになっています。IT革命とは、 庁内だけでのIT革命ではなく、官庁間、官庁と民間、官庁と市民との間のIT革命なのです。 ■ 自治体とIT革命/アメリカと日本 GIS適用分野の違い 交通や上下水道等のインフラ、環境、天然資源、教育、産業振興と災害復旧・防 災施策。 アメリカにおけるGIS技術の代表的適用分野は、交通や上下水道等のインフラ、環境、天然資源、教育、産業振興と災害復 旧・防災施策の6つと言えます。日本での適用分野である固定資産とか地籍の管理ももちろんありますが、アメリカではこの 6分野が代表的なものです。 環境、天然資源、教育、産業振興、災害復旧・防災施策などが非常にユニークなところではないかと思います。 ■ 自治体とIT革命/GISが計画を変える 周辺と常にバランスをとりながら目標に向かって計画を進めていくことが、GISを使 った交通インフラの目指すものと言えます。 交通インフラの例で言いますと、まず、ハイウェイの計画です。周囲の96%の住民 が10マイル以内で高速道路にアクセスで きることが一つの目標になっています。その ためにGISを利用するわけです。そこがやはり日本とアメリカの利用面での違い です。要するにアメリカでは、道路を引く場合に、様々な路線の候補に対する認識とそ の評価にGISを利用するのです。周辺 と常にバランスをとりながら目標に向かって計画を進めていくことが、GISを使った交通インフラの目指すものと言えます。アメ リカは州同士が競っているという背景がありますので、こうして目標が達成されればその州の競争力が強くなるため、GISを 十分に有効活用した計画が進められているのです。 ■ 自治体とIT革命/GISを用いた分析が実務段階へ 単なるデータ管理ではないのです。 次の例は、例えば国が、核廃棄物の管理用地を自分たちの州の中に2か所提案してきた場合に、それに州としての反論を 出す、というような場面においてです。例えば、国がGISを用いて論理的に提示してきたので、州が、国とは別の独立したGIS を用いて、さらに詳細な分析を加えて対応していくという場合です。さらに、廃棄物管理用地の選定に適切な場所を選んで、 その結果を現地説明会でGISを通じて図的にわかりやすく見せる事もできます。 また、環境問題に関する事例ですが、ノースカロライナ州はアメリカ全土で第2位の養豚地域です。そのため、豚からの廃棄 物が沼や地面に捨てられ、様々な汚染を引き起こすことがあります。そこで、河川や住宅地、学校、病院、教会の周囲にバッ ファを設けるとともに、GIS上に情報として載せ、捨てる場所に制限を課すなどの取り組みも行われています。 いろいろな分析を行って、それを使ってもらうというのがアメリカのGIS利用の方向性です。単なるデータ管理ではないので す。そこが日本と大きく違うわけです。 ■ 自治体とIT革命/GISで産業振興 経済活動を支援するために4つのことが行われています。 次に、産業振興についてです。GISを使って産業振興を行う、というのも珍しい話かと思いますが、経済活動を支援するため に4つのことが行われています。 一つめは、用地に関するコンサルタントが、この用地はこういう内容です、という計画書を作るのですが、そのためにGISの データベースを利用することです。 二つめは、例えばノースカロライナ州以外の州からノースカロライナ州へ誘致したい企業に対し、ターゲットとなる土地の情 報を迅速に提示できるようなシステムを作ろうということです。 三つめは、州内の既存の産業が業務拡大を図るときに、データを収集できるようなシステムの構築です。 四つめは、経済発展の推進に関わるいろいろな団体の間でコミュニケーションを図ったり、あるいは情報収集の調整を行う ためのデータベースを考えることです。 ■ 自治体とIT革命/アメリカに見るIT活用のポイント まずは、制度面の問題点を解決していくことが必要と言えます。 ITを利用した経済戦略を考えるにあたっては、「データ・情報・知識」の3つを広く活用することが大切です。道路を例に考え ますと、データは地図そのもの、情報は地点間の最短経路、知識は道路計画でありどのような道路網が望ましいか、というこ とになります。 IT技術やGISを利用して、公共政策を有効に働かせたり、ビジネスにおける意思決定を迅速化したり、民間・公共の両部門の 協力を強化するなど、幅広い場面で、 ITを活用しようというわけなのです。ですから、日本で見ているようなIT技術とはかなり 違っている話になるかと思います。 日本においては、GISデータは構築しつつあるものの、データを情報として使う段階に至っていない。さらに情報を重ねあわ せながら本当にGISを使いこなす段階までは遠いのが現状です。 そこまで至るには、本日お話ししましたいくつものステップ を踏むことが必要であり、まずは、制度面の問題点を解決していくことが必要と言えます。 ・Back・ http://www.soken.co.jp/ This page is Japanese only. Internet explorar5.0、フォント中、800×600以上のサイズで調整されています。 掲載内容の転載厳禁。
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