アザラシ型ロボット・パロ、アメリカ仕様を販売開始

プレス向け発表資料
解禁日時:平成 21 年 11 月 5 日 14:00
アザラシ型ロボット・パロ、アメリカ仕様を販売開始
平成 21 年 11 月 5 日
(独)日本貿易振興機構シカゴ・センター
PARO Robots US Inc.
(株)知能システム
■ポイント■
・平成 21 年 11 月 16 日から米国にて個人・施設、共に受注を開始、12 月 1 日から発送予定。
・シカゴでの AAHSA(高齢者のための家とサービス・米協会;American Association of Homes
and Services for the Aging)年次総会(平成 21 年 11 月 8~11 日)、ラスベガスの CES
(コンシュマー・エレクトロニクス・ショウ:平成 22 年 1 月 7~10 日)などで展示。
・ペンシルベニア州ピッツバーグの高齢者介護施設、Vincentian Collaborative System で、
平成 21 年 12 月中旬に、8 体を導入し、記念式典を行う予定。
・初回出荷 200 体を予定(アメリカ合衆国内)。
・アメリカでは、退役軍人省(Department of Veterans Affairs: VA)ワシントン DC メデ
ィカル・センター等、これまでに約 30 体が様々な医療福祉施設にテスト導入され、好評
を得ている(図 1)。
・日本では、平成 17 年から約 1,300 体が販売され、約 70%が個人のペット代替、約 20%が
医療福祉施設や学校、児童向け施設などで利用されている。
・ヨーロッパでは、平成 20 年末からデンマークがパロを医療福祉施設向けのみに導入し、
これまでに 100 体強、平成 23 年までに 1,000 体の導入を予定している。今後、他のEU
諸国にも導入を進める予定。デンマークを含め、世界で約 30 カ国にて利用されている。
(a)Vinson Hall, McLean, VA
海軍関係施設で CEO である海軍少将 Kathy
Martin がパロを高齢者に触れ合わせている
(b)Beaufont Towers, Richmond, VA
図 1 アメリカの高齢者向け施設で利用されている様子
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図 2 アザラシ型ロボット・パロ
図 3 パロの機能等
●「パロ」のデータ(図 2、3):
形
式:MCR888(アメリカ仕様)
モ デ ル:タテゴトアザラシの赤ちゃん(カナダ北東部に生息。マドレーヌ島沖の氷原で
生態調査を実施)
体
長:57cm、体重:2.7kg
毛
皮:人工、抗菌糸
カ ラ ー:オフホワイト、ゴールド
C P U:32 ビット RISC チップ、2 つ
セ ン サ:ユビキタス面触覚センサ、ひげセンサ、ステレオ光センサ、マイクロフォン(音
声認識、3D 音源方位同定)、温度センサ(体温制御)、姿勢センサ
音声認識:英語版(日本語版、スウェーデン語版、7カ国語版他、有り)
静穏型アクチュエータ:まぶた 2 つ、上体の上下・左右、前足用 2 つ、後ろ足用 1 つ
バッテリー:充電式、ニッケル水素、1.5 時間稼動(満充電時)
充 電 器:おしゃぶり型
行動生成:様々な刺激に対する反応、朝・昼・夜のリズム、気分にあたる内部状態の 3 つ
の要素から、生き物らしい行動を生成。なでられると気持ちが良いという価値
観から、なでられた行動が出やすくなるように学習し、飼い主の好みに近づい
ていく。また、名前をつけて呼びかけていると学習し反応し始める。
安全認証:UL、MET 等を取得。
価
格:6,000 ドル(1 年間保証付き)。
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■概要■
ア メ リ カ にお い て 、サ ー ビ ス ロ ボッ ト へ の関 心 は 非 常 に高 ま っ てい る 。 National
Intelligence Council(国家情報会議:中央情報局(CIA)など 16 の情報機関により構成)
が、2025 年までの社会情勢を予測した「Global Trends 2025: A Transformed World」(2008
年 11 月)のために、将来技術を検討したレポート「Disruptive Civil Technologies (破
壊的影響力を持つ技術群), Six Technologies with Potential Impact on US Interests out
to 2025」(2008 年 4 月)では、「サービスロボット」が6つの破壊的影響力を持つ技術の
うちの一つに選ばれており、国家として今後重要な技術分野と位置付けている。
独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)知能
システム研究部門【部門長 比留川 博久】は、サービスロボットとして、アザラシ型メン
タルコミットロボット「パロ」の研究開発を行い、ペット代替需要の目的だけではなく、
医療福祉施設での「ロボット・セラピー」を提案してきた。その実証研究は国内だけでは
なく、デンマーク、スウェーデン、イタリア、フランス、アメリカ等でも実施し、これま
での研究成果により、パロとのふれあいが、心理的効果(元気付け、動機付けなど)、社
会的効果(コミュニケーションの活性化など)等を人々にもたらすことを示した。
一般的に、ロボットに関して、日本では、人々のロボットに対する関心は高く、友好的
に捉えている。しかしながら、欧米では、日本と異なり、小説や映画などで見られるよう
に、一般的にロボットに対するイメージは、「人間に危害を加えるもの」、「人の仕事を
奪うもの」など非常にネガティブであり、生活の中ではロボットを受け入れられない、と
考えられている。
ところが、その欧米において、普通の人々が本物の動物とふれあうようにパロを自然に
受け入れ、パロが人々の感情に働きかける事実は、驚異的であると受け止められ、ロボッ
トに対する「パラダイム・シフト」の進行として注目されている。一方、欧米では動物へ
の理解が深いため、アニマル・セラピーの代わりとしての、パロによる「ロボット・セラ
ピー」に対する理解が急速に深まっている。
産総研が、日本、イギリス、イタリア、スウェーデン、韓国、ブルネイ、米国で約2000
名を対象に実施したパロに対する主観評価実験の結果から、国籍、文化、宗教観などの違
いに関わらず、パロに対する主観的な評価が高いことを明らかにした。さらに、データの
主成分分析の結果、アジアでは、パロをペットとしての存在に、ヨーロッパではセラピー
のための存在に評価が高く、米国とブルネイではどちらにも評価が高かった(図4)。
日本では、産総研ベンチャー開発戦略研究センターの支援制度を受けて株式会社知能シ
ステム(富山県南砺市)【代表取締役社長 大川丈男】(以下、「ISC」という)が、知財のラ
イセンスを受け、平成17年からこれまでにMCR800型を日本国内で約1300体販売した。個人
名義が約70%、医療福祉施設が約20%、その他が約10%であった。一方、平成20年末から
本格的に導入が始まったデンマークでは、現在100体強が導入されているが、すべて医療福
祉施設向けである。これらの結果は、上記の主観評価実験の結果と同じ傾向であった。
一方、産総研がパロの個人ユーザーに対して行ったアンケート調査のデータ分析の結果
では、パロに対して、「非常に満足」、「満足」が約90%になっているが、いくつかの指
摘点があり、その結果に基づき、バッテリー・マネージメント等のソフトウエアの改良、
充電器の小型化などを施し、またアメリカでの販売にあたり、UL、METなどの安全認証を取
得した新型モデル「MCR888」型(アメリカ仕様:英語音声認識機能)を開発した。なお「MCR888
型」は、日本仕様、EU仕様があり、既に平成21年初頭から、それぞれの市場に投入され
好評を得ている。
ISCが、アメリカ進出するにあたり、独立行政法人 日本貿易振興機構【理事長 林 康夫】
(以下、「JETRO」という)のJETROシカゴ・センターが支援を行い、平成18年に、現地の
パートナー企業としてイリノイ州シカゴ近郊のスギノコープ(イリノイ州イタスカ市)【代
表取締役社長 辻 昭光】を紹介した。当時から現在もJETROシカゴ・センターは、米国内の
展示会や国際会議などで、日本のサービスロボットの普及活動を続けており、その一環と
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して、パロを紹介し、認知度を高めてきた。スギノコープは、スギノマシン(富山県魚津
市)【代表取締役社長 杉野太加良】の米国子会社であり、富山県の企業である同社とISC
は、ジョイント・ベンチャーとして、PARO Robots US Inc.(イリノイ州イタスカ市)【代
表取締役社長 辻 昭光】を平成20年11月に設立した。なお、在米日本大使館、総領事館等
により「科学技術外交」の一環として、日本の文化と科学技術を紹介するイベントなどで、
各種ロボットと共にパロが紹介され、アメリカにおけるパロの認知度が高まった。
アメリカでのパロによるロボット・セラピーに関しては、米国退役軍人省(Department of
Veterans Affairs: VA)ワシントンDCメディカル・センター、米海軍による高齢者向け施
設、米陸軍による高齢者向け施設、マサチューセッツ一般病院(ハーバード大学医学部)・
スタンフォード大学付属病院等の病院、自閉症児童向け学校、アルツハイマー協会、一般
高齢者向け施設などで約30体が先行導入され、高い評価を受けている。
この度、パロによるロボット・セラピーに関して、FDA(アメリカFood and Drug
Administration)から、パロが規制の対象ならないことの通知を受けたため、アメリカで
の正式販売が可能になった。
図 4 7 カ国、2000 名強のアンケート調査の主成分分析結果の概要図(産総研提供)
アメリカでは、パロのペット代替ニーズもセラピー用ニーズも高い
■ 米国導入の背景 ■
欧米では、動物愛護の歴史が長く、ペットを保有することへの関心が高い。例えば、イ
タリアにおいては、犬を飼う人に散歩へ連れて行くことを法的に義務付けている地域さえ
ある。そのため欧米においては、「アニマル・セラピー」として、ペット動物とふれあう
事により、動物が人に心理的効果、生理的効果、社会的効果を与えることは、広く知られ、
よく理解されている。
一方、動物アレルギーがある、一人暮らしなどのため世話ができない、アパート・マン
ションで動物が禁止されているなどの理由や、医療・福祉施設など、人畜感染症、噛み付
き・引っかきの事故などの理由で、動物の飼育やアニマル・セラピーの導入が困難な人々
や場所がある。
多くの先進国では、高齢化問題に直面している。そのうち日本は、世界で最も高齢化が
進んでおり、現在、65 歳以上の高齢者は人口の約 22%であり、平成 27 年までには 26%に
なると予測されている。そのため、生活の質を向上し、高齢者の健康を維持したり、認知
症を予防したり、などの「介護予防」が求められている。また、介護者の心労を低減し、
燃え尽き症候群の予防も求められている。
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この問題は、高齢化が進む欧米の国々でも同様であるため、日本の高齢化問題に対する
取り組みに関心が高く、日本が高齢化社会のモデルとして欧米から注目されている。欧米
でも多くの国々で、高齢者のケアに対するニーズの高まりがあるが、介護分野での労働者
不足が深刻になりつつある。
■ 研究の経緯 ■
産総研は、人に楽しみや安らぎなどを提供し、人の心に働きかけることにより、主観的
な価値を創造することを目的に「メンタルコミットロボット」の研究開発を平成 5 年から
スタートした。特に、動物型ロボットとすることで、アニマル・セラピーで研究されてき
た様々な効用をロボットで実現することを目的とする「ロボット・セラピー」の研究開発
を進めている。
パロの実用化に関しては、ISC が、パロに関する意匠、特許などの知的財産権のライセン
スを産総研より受け、ISC により商品化が行われている。ISC は、国内で、個人向け販売の
受注を平成 17 年 3 月から開始し、これまでに、インターネット直販、有名百貨店・大手銀
行などを通して、約 1,300 体のパロを販売した。そのうち約 7 割は個人の名義であり、医
療福祉施設のみならず、多くの一般家庭で利用されている。また、海外でも 30 カ国で約 200
体が利用されている。
パロによるロボット・セラピーに関しては、産総研が、国内のデイサービスセンター、
介護老人保健施設、特別養護老人ホームなどの高齢者向け福祉施設や、病院の小児病棟な
どにおいて実験を行い、ロボット・セラピーの効果を科学的データによって検証した。海
外でも、デンマーク・認知症センター、スウェーデン・カロリンスカ病院および国立障害
研究所、イタリア・シエナ大学付属病院およびミラノ近郊の高齢者向けケアハウス、フラ
ンス・AP-HP、アメリカ・スタンフォード大学付属病院、マサチューセッツ工科大学、デト
ロイト・メディカル・センターなどでもパロによるロボット・セラピーの研究を実施し、
心理的効果、社会的効果等が確認され、非常に良好な結果を得ている。
■ 米国における展望 ■
アメリカでは、ペット動物は人気が高く、またアニマル・セラピーに関する理解は医療
福祉施設のみならず、一般の人々にも広く認知されている。日本と同様に、アレルギー、
引っ掻き・噛みつき事故の問題、衛生管理などにより、一般家庭でも医療福祉施設でもペ
ットを飼いたくても飼えない人や場所は多い。アメリカのペット市場は約3.5兆円あり、
ペット型ロボットが、これまでにペットを飼えなかった人や場所で利用されることにより、
新たな市場を構成することが期待されている。
アメリカの高齢化率(年齢 65 歳以上の人口比率)は、約 13%で、日本の約 22%に比べ
ると低い。しかし、50 歳以上の個人がメンバーになる AARP(以前は、American Association
of Retired Persons)の会員数は約 4000 万人あり、アンチエイジング、高齢化の準備など
に興味を持つ層は非常に多い。AARP 自身も、全国大会や会誌などでパロをその会員に紹介
するなど、パロによる生活の質の向上に対する期待は大きい。
一方、施設関係では、高齢者向け施設でのロボット・セラピーだけではなく、パーキン
ソン病患者、精神障害者、自閉症やダウン症などの発達障害者など向けの様々な施設で、
それぞれのセラピー目的に合わせたパロの利用方法について検討が行われている。例えば、
自閉症は、人口の約 1%であるが、レベルに応じてソーシャル・スキルのトレーニングなど
を必要としており、パロを利用することで注意の向上や、情緒への働きかけなどの効果が
ある。
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■ 本件問い合わせ先 ■
JETRO シカゴ・センター
住所: One East Wacker Drive, Suite 600, Chicago, IL 60601, USA
担当者名 : Kevin Kalb、柴原 友範
電話: +1-312-832-6023
FAX: +1-312-832-6066
E-mail: [email protected][email protected] (日本語可)
URL: http://www.jetro.org
PARO Robots US Inc.
住所:1380 Hamilton Parkway, Itasca, IL 60143, USA
担当者名:Christine Hsu、辻 昭光
電話: +1-630-467-1002
FAX: +1-630-467-1044
E-mail: [email protected] (日本語可)
URL: http://www.parorobots.com
(株)知能システム
担当者名:海老沼 豊
電話:0763-62-8686
FAX:0763-62-8600
E-mail:[email protected]
URL:http://intelligent-system.jp
用語の説明
◆人畜感染症
ヒトと動物との間で、相互に感染する病気の総称。この場合、「動物」は脊椎動物を指
す。無数に存在するが代表的なものとして狂犬病、日本脳炎、オウム病などがある。
◆認知症
脳の器質的異常により、一度獲得された知能が後天的に失われ、社会生活に支障を来たすように
なった状態を指す。旧称:痴呆(ちほう)。
◆介護予防
高齢者が可能な限り介護を必要とする状態にならないように、健康で生きがいのある
自立した生活を送ることを支援すること。今後、介護保険の使用を抑制するために重要。
◆デイサービスセンター
介護保険で利用できるサービスのひとつ。要介護者が、ケアプラン(居宅介護サービス計画)
のもとに利用することのできる通所介護施設で、入浴・食事などの提供や機能訓練を行う。
◆介護老人保健施設
病状が安定期にある要介護者に対し、施設サービス計画に基いて、看護や医学的管理下におけ
る介護、機能訓練、日常生活上の世話などを行う入所介護型の施設。
◆特別養護老人ホーム
65 歳以上の者であって、身体上、精神上又は環境上の理由および経済的理由により、
居宅において養護をうけることが困難な者を入所させて、養護することを目的とする入
所施設。