メディア総攻撃に耐える鳩山政権新体制 禁複写 金 利 ・ 為 替 ・ 株 価 特 報 ( 2010 年 1 月 12 日 号 ) 1 0 0 スリーネーションズリサーチ 代 表 植 草 一 秀 <目次> 1. 【新春展望】バイロン・ウィーン氏の2010年予測 2. 【政策】財政デフレを回避した2010年度予算 3. 【政治】主権者国民と悪徳ペンタゴンの最終決戦 4. 【政策】りそな銀処理と日本航空処理の相違 5. 【為替】菅直人財務相就任と為替レート 6. 【米国】春先の調整に要注意だが景気回復は持続 7. 【日本経済】経済回復優先の政策が鍵 8. 【株価】春先の調整あるも堅調に推移か 9. 【投資】投資戦略 1 .【 新 春 展 望 】 バ イ ロ ン ・ ウ ィ ー ン 氏 の 2 0 1 0 年 予 測 筆 者 も 面 識 の あ る バ イ ロ ン・ウ ィ ー ン 氏 の 恒 例「 今 年 の 1 0 大 び っ く り 予 想 」 が発表された。的確な予測に定評がある。 昨年2009年の予測は以下のようなものだった。 1.S&P株価指数は1200ポイントまで上昇 2.金は1200ドルに上昇 3 .原 油 は バ レ ル 8 0 ド ル ま で 上 昇 。一 部 商 品 は 2 0 0 8 年 度 安 値 の 倍 に 上 昇 4.ドル円は75円、ドルユーロは1.65ドル 5 .米 1 0 年 債 利 回 り は 4 % に 上 昇 。市 場 の 懸 念 は デ フ レ か ら イ ン フ レ に 変 化 6.中国の成長率は7%超。株式相場は反騰。消費拡大へ 7.金融業からの税収減でNY州が財政破綻の危機に 8.米住宅着工は秋に底打ち。第3、第4Qの実質成長率はプラス 9 .米 貯 蓄 率 は 3 % を 超 え な い 。消 費 は 戻 り 、ク リ ス マ ス は 過 去 最 高 売 上 高 に 10.オバマ大統領はイラク撤兵ペースを遅らせ、アフガン増派 1 2 0 0 9 年 は 金 融 危 機 の た だ な か で 年 明 け を 迎 え た 。金 融 危 機 の 継 続 か 、危 機からの脱出か、が焦点であった。筆者は年初の時点では判断を先送りした。 2 0 0 9 年 3 月 2 6 日 号 = 0 8 7 号 に 3 月 転 換 点 説 を 記 述 し た 。現 実 に 内 外 株 式 市 場 は 2 0 0 9 年 3 月 に 転 換 点 を 形 成 し 、年 末 に 向 け て 上 昇 波 動 を 形 成 し た。バイロン・ウィーン氏の予測は基本事項を的確に的中させたものである。 2 .金 価 格 上 昇 、3 .原 油 価 格 上 昇 、6 .中 国 の 反 騰 、8 .住 宅 着 工 の 底 打 ち 、 1 0 . ア フ ガ ン 増 派 の 各 項 目 も 完 全 的 中 と 言 え る 。 4 .日 本 円 、ユ ー ロ の 上 昇 、5 .長 期 金 利 上 昇 も ほ ぼ 的 中 し 、7 .N Y 州 財 政 は 破 綻 し て い な い が 大 き く 悪 化 し て い る 。現 実 と や や 距 離 感 が あ る の は 、9 .ク リ ス マ ス 商 戦 が 過 去 最高売上にならなかったことくらいである。 こ の 実 績 を 踏 ま え れ ば 、2 0 1 0 年 予 測 を 軽 視 す る こ と は で き な い 。ウ ィ ー ン氏の2010年予測は以下の通りだ。 1.米国の実質成長率は大方の予想5%を超え、失業率は9%を下回る。 2.FRBはゼロ金利政策を解除し、FF金利は年末までに2%まで上昇。 3 .米 国 債 の 発 行 過 多 と 海 外 中 央 銀 行 に よ る 買 い 意 欲 後 退 に よ り 長 期 金 利 は 5 . 5%を上回る。 4 .S & P 5 0 0 は 年 前 半 に 1 3 0 0 ま で 上 昇 し た 後 1 0 0 0 に 下 落 し 、0 9 年末(1115)程度の水準で取引を終える。 5.ドルが対円で100円、対ユーロで1.30ドルに上昇。 6 .円 安 を 追 い 風 に 先 進 国 で 日 本 株 が 最 も 上 昇 し 、日 経 平 均 は 1 2 ,0 0 0 円 を超える。 7.オバマ大統領が原子力開発促進の法案を承認する。 8 .米 国 の 景 気 回 復 を 受 け て オ バ マ 人 気 が 回 復 し 、1 1 月 の 議 会 選 で 民 主 党 の 議席減は予想より小さい20議席減にとどまる。 9.金融規制法案がより金融業よりに修正され、金融株が急騰。 10.イランの社会不安が深刻化、アハマディネジャド大統領が失脚。 こ の 予 測 の 基 本 は 、米 国 経 済 の 改 善 が 2 0 1 0 年 も 持 続 す る と い う 点 に あ る 。 米国経済の改善が持続するからFRBは金融超緩和政策を停止して短期金利 の 引 き 上 げ に 踏 み 切 る と 見 る 。こ の 金 融 政 策 の 変 化 を 反 映 し て 米 ド ル が 上 昇 す る 。株 価 は 景 気 回 復 期 待 で 上 昇 す る が 、F R B の 金 利 引 き 上 げ 政 策 、長 期 金 利 の上昇を反映して年後半に下落する。 2 これがウィーン氏の予測の概要ということになる。 「 び っ く り 予 想 」と い う が 、予 測 の 構 造 が「 び っ く り 」と い う わ け で は な い 。 予測の的中率が過去の実績を見ると「びっくり」の範疇に入るということだ。 こ れ に 対 し て 、2 0 1 0 年 慎 重 論 を 唱 え て い る の が ジ ョ ー ジ・ソ ロ ス 氏 で あ る 。ソ ロ ス 氏 は 今 回 の 金 融 危 機 を「 過 去 の ど の 危 機 と も 違 う 危 機 」だ と み な し 、 「 二 番 底 」が あ る と 予 測 し て い る 。週 刊 ダ イ ヤ モ ン ド 新 年 合 併 特 大 号 に ソ ロ ス 氏 の 特 別 寄 稿 が 掲 載 さ れ て い る が 、ソ ロ ス 氏 は「 割 れ た 卵 は 元 に 戻 ら な い 」と 表 現 し て 、膨 張 し た デ リ バ テ ィ ブ・バ ブ ル の 破 裂 の 影 響 は ま だ 出 尽 く し て い な い 点 を 重 視 す る 。2 0 1 0 年 か 2 0 1 1 年 か を 断 定 で き な い が「 二 番 底 」が 到 来する可能性が高いと予測する。 二 つ の 見 方 が 完 全 に 割 れ る と こ ろ が 悩 ま し い 。両 説 と も 強 い 説 得 力 を 有 す る 。 し か し 、2 0 0 9 年 に 関 し て は 、ウ ィ ー ン 氏 の 楽 観 シ ナ リ オ が 現 実 を 正 確 に 予 測 し た こ と は 事 実 で あ る 。こ の 事 実 を 踏 ま え て 2 0 1 0 年 を 見 通 さ な け れ ば な らない。 こ の 予 測 に 際 し て 、二 つ の 重 要 な 点 を 指 摘 し な け れ ば な ら な い 。第 一 は 、政 策 当 局 の 政 策 対 応 の 巧 拙 に よ っ て 現 実 に 相 違 が 生 じ る こ と だ 。2 0 0 9 年 、米 国 政 策 当 局 は 経 済 政 策 を 総 動 員 し た 。7 8 0 0 億 ド ル の 財 政 政 策 発 動 、ゼ ロ 金 利 政 策 の 実 施 、無 制 限 と 言 っ て よ い 資 本 増 強 資 金 枠 の 確 保 、で あ る 。こ の 政 策 が迅速に総動員されていなければ、間違いなく異なる歴史が刻まれていた。 第 二 は 、異 な る 歩 み 自 体 が 異 な る 歴 史 を 刻 む 原 因 に な る こ と だ 。金 融 の 変 動 には「自己増殖メカニズム」が内蔵されている点を重視しなければならない。 変化は加速しやすいという特性だ。 サ ブ プ ラ イ ム ロ ー ン 危 機 と 呼 ば れ た 米 国 の 金 融 危 機 の 最 大 の 特 徴 は 、原 資 産 の サ ブ プ ラ イ ム ロ ー ン の 毀 損 が 住 宅 価 格 下 落 に よ っ て 引 き 起 こ さ れ た 。1 % の 住 宅 価 格 下 落 が デ リ バ テ ィ ブ 金 融 の レ バ レ ッ ジ( て こ )効 果 で 数 千 倍 、数 万 倍 に 増 幅 さ れ る 。逆 に 言 え ば 、住 宅 価 格 が 上 昇 に 転 じ る と 、事 態 の 改 善 も 同 じ 程 度に増幅されるのである。 米 国 の 住 宅 価 格 は 昨 年 4 月 か ら 緩 や か な が ら 上 昇 に 転 じ た 。こ の こ と に 伴 う 事態改善もまた大きかったのである。 F R B の バ ー ナ ン キ 議 長 は 大 恐 慌 研 究 の 第 一 人 者 で も あ っ た 。そ の 研 究 成 果 がこれまでの政策運営には生かされたと言えるのだろう。 3 し か し 、 油 断 は 禁 物 で あ る 。「 1 0 0 年 に 1 度 の 危 機 」 は 常 識 を 超 え る 政 策 総 動 員 で と り あ え ず 最 悪 の 局 面 を 脱 し た の で あ る 。安 易 に 安 心 感 を 強 め て「 有 事対応」から「平時対応」に切り替えることは極めて危険である。 筆 者 の 予 測 は 、短 期 的 に は ウ ィ ー ン 氏 予 測 に 近 く 、事 態 の 改 善 継 続 を 見 込 む 。 し か し 、中 期 重 大 リ ス ク は 残 存 し 、米 国 政 策 当 局 の 性 急 な 対 応 で 、長 期 金 利 上 昇、株価反落、景気再調整のリスクが表面化するとの予測を基本とする。 毎 月 発 表 さ れ る ケ ー ス・シ ラ ー 住 宅 価 格 指 数 の 推 移 に 十 分 な 警 戒 を 払 う 必 要 が あ る 。住 宅 価 格 の 再 下 落 傾 向 が 表 面 化 す れ ば 、事 態 再 悪 化 の 明 確 な シ グ ナ ル になる。 2 .【 政 策 】 財 政 デ フ レ を 回 避 し た 2 0 1 0 年 度 予 算 本 レ ポ ー ト は 鳩 山 政 権 の 財 政 政 策 運 営 に 強 い 警 告 を 発 し 続 け て き た 。本 レ ポ ー ト は 1 2 0 名 以 上 の 鳩 山 政 権 与 党 国 会 議 員 の 手 元 に 届 け ら れ て い る 。政 策 最 高責任者も本レポートを熟読してくれていると思われる。 政 府 の 経 済 政 策 対 応 が 消 極 化 し た 2 0 0 9 年 1 1 月 下 旬 に か け て 、株 式 市 場 が 日 本 経 済 の 先 行 き に 警 鐘 を 鳴 ら し た 。日 経 平 均 株 価 が 1 1 月 2 7 日 に 9 0 8 1 円 ま で 下 落 し た 。日 経 平 均 株 価 終 値 が 7 月 1 3 日 の 9 0 5 0 円 を 下 回 る と 株 価 三 尊 天 井 が 成 立 し 、株 価 が 下 落 ト レ ン ド に 突 入 す る 可 能 性 が 高 ま る 局 面 だ っ た 。反 政 府 色 を 鮮 明 に す る マ ス メ デ ィ ア は 株 価 下 落 を 政 権 攻 撃 の 材 料 に し よ う と待ち構えていた。 こ の 局 面 で 1 1 月 2 9 日 朝 の テ レ ビ 朝 日 番 組「 サ ン デ ー プ ロ ジ ェ ク ト 」で 仙 谷 由 人 行 政 刷 新 相 が「 景 気 配 慮 型 予 算 編 成 の 考 え 方 」を 述 べ た 。そ の 骨 子 は 以 下の2点だった。 ① 2 0 0 9 年 度 は 麻 生 政 権 の 1 4 兆 円 の 補 正 予 算 で 1 0 2 .5 兆 円 に 拡 張 し て お り 、2 0 1 0 年 度 予 算 編 成 に 際 し て は 、こ れ を 基 準 に 考 え な く て は な ら な い ②2009年度税収が麻生政権見通しの46兆円から37兆円に減少するた め、2010年度国債発行44兆円を守れるか再検討が必要 こ の 2 点 は 、筆 者 が 本 レ ポ ー ト で 主 張 し た 内 容 で あ る 。鳩 山 政 権 は 勉 強 熱 心 で あ り 、極 め て 柔 軟 な 対 応 力 を 有 し て い る こ と が 証 明 さ れ た 。適 切 な 政 策 運 営 を実現する上で最重要の資質は、このような政策対応の「柔構造」である。 こ れ ま で の 自 民 党 政 権 に は 、小 渕 政 権 を 除 い て こ の「 柔 構 造 」が 存 在 し な か 4 っ た 。「 柔 構 造 」 の 対 極 に あ る の が 「 財 務 省 主 導 構 造 」 で あ る 。 麻 生 政 権 が 1 4 兆 円 規 模 の 2 0 0 9 年 度 第 1 次 補 正 予 算 を 編 成 し た た め 、2 0 0 9 年 度 予 算 は 1 0 2 .5 兆 円 に 膨 張 し た 。他 方 、税 収 見 積 も り が 4 6 兆 円 か ら 3 7 兆 円 に 下 方 修 正 さ れ る か ら 、4 4 兆 円 の 国 債 発 行 額 が 5 3 .5 兆 円 に 膨張した。 鳩山政権は発足当初に超難問の二元連立方程式を解くことを求められた。 ①2010年度財政を、景気を破壊するデフレ予算にしないこと ②2010年度予算での国債発行額を44兆円に収めること の二つを同時に満たす政策対応が求められたのである。 下 表 は 2 0 0 9 年 度 第 1 次 補 正 後 予 算 、第 2 次 補 正 後 予 算 、2 0 1 0 年 度 当 初予算を比較した表である。 財政収支が経済に与える影響(一般会計決算計数)の推移 (単位:兆円,億円,%) 歳出規模 (A) 税収 ( B) 歳出 - 税収 ( A-B ) 2007 81.8 51.0 30.8 ▲ 1.5 25.4 4.9 31.1 515,824 2008 88.9 46.3 42.6 11.8 33.2 6.7 37.3 497,714 2009(補) 102.5 46.1 56.4 13.8 44 .1 8.9 43.0 497,714 2009(補) 102.6 36.9 65.7 23.1 53 .5 10 .7 5 2.1 497,714 2010 92.5 37.0 55.5 ▲ 1 0.2 44.0 8.8 47.6 497,714 前年差 国債発行額 GDP比 公債依存度 GDP 計数は決算ベース。ただし、(当)は当初、(補)は補正後、2010年度は新聞報道に基づく予想値。 財 政 が 景 気 に 与 え る 影 響 は 、 左 か ら 5 番 目 の 列 の 「( 歳 出 - 税 収 ) 前 年 差 」 を見ればよい。2009年度が23.1兆円のプラスになるが、2010年 度は10.2兆円のマイナスになってしまう。これでは2010年度の日本 経済を破壊してしまうのである。 鳩山政権は2009年度第1次補正予算の一部執行を凍結し、第2次補正 予算を編成した。第2次補正予算の地方以外への支出は2010年度に執行 がずれ込む。この時間差を活用して、上記の二元連立方程式を解いたのだ。 具体的には、 2009年度の支出を 7兆3441億円 減額する一方、 地方交付税減額に伴い 3兆4515億円 を 地 方 に 支 出 (2 0 0 9 年 度 ) 2 0 0 9 年 度 歳 出 は 3 兆 8 9 2 6 億 円 減 額 さ れ 、9 8 兆 5 8 1 0 億 円 に な る 。 一方、2009年度第2次補正予算歳出追加金額7兆4287億円から、 5 財政収支が経済に与える影響(一般会計決算計数)の推移 (単位:兆円,億円,%) 歳出規模 (A) 税収 ( B) 歳出 - 税収 ( A-B ) 1995 75.9 51.9 24.0 1 .4 21.2 4.3 27.9 497,740 1996 78.8 52.1 26.7 2 .7 21.7 4.3 27.5 509,096 1997(当) 77.4 57.8 19.6 ▲ 7.1 16.7 3.3 21.6 513,613 1997 78.5 53.9 24.6 ▲ 2.1 18.5 3.6 23.6 513,613 1998 84.4 49.4 35.0 10.4 34.0 6.8 40.3 503,324 1999 89.0 47.2 41.8 6 .8 37.5 7.5 42.1 499,544 2000 89.3 50.7 38.6 ▲ 3.2 33.0 6.5 37.0 504,119 2001(当) 82.7 50.7 32.0 ▲ 6.6 28.3 5.7 34.2 493,645 2001 84.8 47.9 36.9 ▲ 1.7 30.0 6.1 35.4 493,645 2002 83.7 43.8 39.9 3 .0 35.0 7.1 41.8 489,875 2003 82.4 43.3 39.1 ▲ 0.8 35.3 7.1 42.8 493,748 2004 84.9 45.6 39.3 0 .2 35.5 7.1 41.8 498,491 2005 85.5 49.1 36.4 ▲ 2.9 32.3 6.4 37.8 503,187 2006 81.4 49.1 32.3 ▲ 4.1 27.5 5.4 33.8 510,899 2007 81.8 51.0 30.8 ▲ 1.5 25.4 4.9 31.1 515,824 2008 88.9 46.3 42.6 11.8 33.2 6.7 37.3 497,714 2009(補) 102.4 36.9 65.5 22.9 44 .1 9.3 43.1 473,100 2009 98.6 36.9 61.7 19.1 53 .5 11 .3 5 4.3 473,100 2010 96.3 37.4 58.9 ▲ 2.8 44 .3 9.3 47.9 475,200 前年差 国債発行額 GDP比 公債依存度 GDP 計数は決算ベース。ただし、(当)は当初、(補)は補正後。2009年度第2次補正分を2010年度に計上。 地方への支出 3兆4515億円 を差し引いた 3兆9772億円 は2 010年度に支出される。これを2010年度歳出規模92兆2992億円 に加えると2010年度実質歳出規模は 96兆2764億円 になる。 「 (歳 出 - 税 収 )前 年 差 」 は 2 0 0 9 年 度 が プ ラ ス 1 9 . 1 兆 円 に 、 2 0 1 0年度がマイナス2.8兆円になる。3兆円規模のマイナスが残存するが、 景気に対して概ね中立の財政運営が確保されることになった。 鳩山政権は2009年度第2次補正予算および2010年度当初予算成立 を急ぐ方針である。亀井静香金融相は予算の前倒し執行を提案している。必 要に応じて追加景気対策が取られるなら、2010年度の財政デフレの懸念 は払拭される。 6 日経平均株価は2009年11月27日の株価危機を転換点に大幅上昇に 転じ、2010年1月8日には10,798円にまで上昇、1年3ヵ月ぶり の高値を付けた。 3 .【 政 治 】 主 権 者 国 民 と 悪 徳 ペ ン タ ゴ ン の 最 終 決 戦 メ デ ィ ア の 鳩 山 政 権 攻 撃 が 目 に 余 る 。鳩 山 政 権 が 発 足 し た の は 2 0 0 9 年 9 月 1 6 日 で あ る 。政 権 発 足 か ら 4 ヵ 月 も 経 っ て い な い 。こ の 間 の 鳩 山 政 権 の 実 績は十分に賞賛に値するものである。 ① 2 0 0 9 年 度 第 1 次 補 正 予 算 の 3 兆 円 凍 結 、② 辺 野 古 の 海 上 滑 走 路 建 設 方 針 の 凍 結 、③ 八 ツ 場 ダ ム 建 設 凍 結 、④ 概 算 要 求 差 し 替 え と 予 算 編 成 、⑤ 第 2 次 補 正 予 算 編 成 、⑥ 国 会 で の 官 僚 答 弁 抑 制 、⑦ 事 業 仕 分 け 実 施 、な ど 極 め て 迅 速 に行動を示している。株価も昨年年初来高値を実現させた。 こ の な か で 内 閣 支 持 率 が 低 下 し た 最 大 の 原 因 は 、メ デ ィ ア の 激 し い ネ ガ テ ィ ブ ・ キ ャ ン ペ ー ン に あ る 。「 坊 主 憎 け り ゃ 袈 裟 ま で 憎 い 」 行 動 を 示 し て い る の が日本の偏向マスメディアである。 メ デ ィ ア が 批 判 し て い る の は 、① 鳩 山 首 相 の 個 人 献 金 、② 小 沢 一 郎 民 主 党 幹 事 長 に 関 連 す る 政 治 資 金 、③ 普 天 間 基 地 移 転 問 題 決 着 の 遅 れ 、④ 中 国 国 家 副 主 席と天皇との会見、⑤予算編成、⑥為替政策、などである。 ① 鳩 山 首 相 の 問 題 は 適 正 な 処 理 が 求 め ら れ る が 、総 選 挙 の 前 に 概 要 が 明 ら か に さ れ て い た 問 題 で あ る 。こ の 問 題 が 明 ら か に な っ た う え で 国 民 は 政 権 と 総 理 大臣を選択した。世論調査でも鳩山首相の辞任を求める声は極めて少ない。 ② 小 沢 幹 事 長 の 政 治 資 金 問 題 を メ デ ィ ア が 針 小 棒 大 に 報 道 し て い る が 、不 当 な国策捜査を実行した検察当局が必死に巻き返しを図っているのが実相だ。 ③ 普 天 間 基 地 問 題 は 、こ れ ま で の 自 民 党 政 治 が 示 し た「 対 米 隷 属 」か ら 脱 却 す る た め の「 産 み の 苦 し み 」が 表 面 化 し て い る と 見 る べ き で あ る 。辺 野 古 の 美 しい海岸を破壊して滑走路を建設する合理的な理由が乏しいことに最大の問 題 が あ る 。鳩 山 政 権 が 期 限 と 定 め た 5 月 ま で に 、辺 野 古 の 海 上 滑 走 路 建 設 で な い回答が得られるなら、鳩山政権は極めて大きな成果をあげることになる。 ④ 外 国 賓 客 と 天 皇 の 会 見 は「 国 事 行 為 」 で は な い が 「 公 的 行 為 」 で あ り 、 内 閣 が 責 任 を 持 つ べ き も の で あ る 。天 皇 の 意 向 に 沿 う べ き も の で は な く 、内 閣 の 責 任 に お い て 対 応 す る べ き も の で あ る 。羽 毛 田 宮 内 庁 長 官 の 発 言 は こ の 基 本 原 7 則に明確に反しており、小沢一郎民主党幹事長の説明が完全に正しい。 ⑤ 麻 生 内 閣 が 日 本 財 政 を 国 債 発 行 5 3 .5 兆 円 に ま で 破 壊 し て し ま っ た な か で 、鳩 山 政 権 は 最 善 の 対 応 を 示 し て い る 。財 政 事 情 の 悪 化 も 無 視 し 得 な い 状 況 に 至 っ て い る 。景 気 も 財 政 も「 非 常 事 態 」に あ る と の 認 識 を 忘 れ ず に 、し か し 、 「景気回復優先」の基本スタンスを維持することが求められている。 ⑥ 菅 直 人 財 務 相 が 就 任 会 見 で 円 安 要 望 発 言 を し た が 、全 体 と し て 妥 当 な 行 動 で あ る 。後 述 す る よ う に 、短 期 的 な 経 済 安 定 化 の 視 点 か ら は 、急 激 な 円 高 進 行 は 望 ま し く な い 。菅 財 務 相 発 言 を 受 け て 株 価 が 1 年 3 ヵ 月 ぶ り の 高 値 を 記 録 し たことが、発言の正当性を示している。 本 来 な ら ば 内 閣 支 持 率 は 高 止 ま り し て い る 局 面 で あ る 。に も か か わ ら ず 支 持 率 が 低 下 し た の は 、マ ス メ デ ィ ア が 激 し い 世 論 誘 導 を 実 行 し て い る か ら で あ る 。 昨 年 の 総 選 挙 は「 主 権 者 国 民 」対「 悪 徳 ペ ン タ ゴ ン 」と の 闘 い の 図 式 の な か で 実 行 さ れ た 。「 悪 徳 ペ ン タ ゴ ン 」 と は 、「 政 治 屋 ( 政 )」、「 官 僚 ( 官 )」、「 大 資 本 ( 業 )」、「 米 国 ( 外 )」、「 電 波 = マ ス メ デ ィ ア ( 電 )」 の 五 角 形 ( ペ ン タ ゴ ン ) による利権複合体を意味するもので筆者が命名した。 こ れ ま で の 日 本 政 治 は「 政 官 業 外 電 = 悪 徳 ペ ン タ ゴ ン 」に よ っ て 支 配 さ れ て き た 。 そ の 具 体 的 裏 付 け が 、「 天 下 り 」、「 企 業 献 金 」、「 対 米 隷 属 」 と 「 メ デ ィ ア コ ン ト ロ ー ル 」だ っ た 。政 権 交 代 は こ の 日 本 政 治 の 基 本 構 造 を 破 壊 し よ う と するものである。 そ の 最 終 決 戦 が 2 0 1 0 年 7 月 1 1 日 に 予 定 さ れ る 参 議 院 選 挙 で あ る 。鳩 山 政 権 与 党 が 参 議 院 選 挙 に 勝 利 す れ ば「 悪 徳 ペ ン タ ゴ ン 」は 崩 壊 せ ざ る を 得 な い 。 逆に言えば、参議院選挙が「悪徳ペンタゴン」の最後の望みの綱である。 鳩 山 首 相 攻 撃 、小 沢 一 郎 民 主 党 幹 事 長 攻 撃 は 、す べ て こ の 図 式 の な か で 捉 え ら れ る べ き も の で あ る 。検 察 は 財 務 省 と 並 び 、霞 が 関 権 力 の 中 核 で あ る 。鳩 山 政 権 の 側 に 立 つ「 主 権 者 国 民 」は こ の 最 終 決 戦 に 必 ず 勝 利 し な け れ ば な ら な い 。 昨年3月3日の小沢一郎氏公設秘書不当逮捕もこの図式のなかで捉えられ る べ き も の で あ る 。「 悪 徳 ペ ン タ ゴ ン 」 の 一 角 を 占 め る 検 察 当 局 の 今 後 の 対 応 に 細 心 の 警 戒 が 必 要 で あ る が 、何 よ り も 重 要 な こ と は 、主 権 者 国 民 に こ の 基 本 図 式 を 正 し く 伝 達 す る こ と で あ る 。主 権 者 国 民 の 洞 察 力 は 従 来 に 比 べ て は る か に高いものになっている。主権者国民に真実を伝える重要性が増大している。 8 4 .【 政 策 】 り そ な 銀 処 理 と 日 本 航 空 処 理 の 相 違 鳩 山 政 権 が 日 本 航 空 の 経 営 危 機 問 題 に つ い て 、法 的 整 理 を 軸 に 対 応 す る 方 針 を定めた。1月19日にも会社更生法の適用申請が行われる見通しとなった。 最 終 的 に 上 場 廃 止 と す る か ど う か 、検 討 の 余 地 が 残 さ れ て い る が 、正 論 で 臨 むなら上場廃止は回避し得ない。 日 本 航 空 は 経 営 に 失 敗 し て 危 機 に 直 面 し て い る の で あ る 。市 場 経 済 の 基 本 ル ー ル は「 自 己 責 任 」で あ る 。経 営 の 失 敗 は ル ー ル に 沿 っ て 適 正 に 処 理 さ れ る 必 要がある。 株主優待を求めて株主になっている個人が多数存在するから上場を維持す る べ き と の 意 見 が 根 強 い と メ デ ィ ア の 一 部 が 主 張 す る が 、本 末 転 倒 も は な は だ し い 。株 主 に な る 行 為 は 、根 本 的 に リ ス ク を 取 る 行 為 で あ る 。株 主 優 待 を 求 め る株主には株主責任を問わないなどというルールは存在しない。 日 本 航 空 は 国 際 線 も 就 航 さ せ て い る か ら 、会 社 更 生 法 の 適 用 申 請 に 伴 い 、当 面 の 海 外 で の 業 務 継 続 に 支 障 が 生 じ な い た め の 配 慮 等 は 必 要 で あ る 。法 的 整 理 を活用する場合のさまざまな問題にきめ細かく対応することを重視すればよ い の で あ る 。経 営 の 失 敗 に 対 し て 、正 当 に 市 場 の ル ー ル を 適 用 す る こ と は 正 し い 政 策 対 応 で あ る 。こ れ ま で の 自 民 党 政 治 で は 、こ う し た 市 場 ル ー ル は 歪 め ら れてきたと考えられる。 2 0 0 3 年 5 月 の り そ な 銀 行 処 理 で は 、り そ な 銀 行 を 自 己 資 本 不 足 と 認 定 し な が ら 、り そ な 銀 行 株 主 の 責 任 を 問 わ な か っ た 。政 府 は 2 兆 円 も の 公 的 資 金 を 投 入 し て り そ な 銀 行 を 救 済 し た 。結 果 と し て り そ な 銀 行 の 株 価 は 半 年 で 約 4 倍 に 上 昇 し た 。責 任 を 求 め ら れ る は ず の 株 主 が 、国 か ら 巨 大 な 利 益 供 与 を 受 け た のである。 り そ な 銀 行 の 将 来 収 益 が 不 確 定 で あ る と 判 断 さ れ た こ と が 、り そ な 銀 行 が 自 己 資 本 不 足 に 陥 っ た 理 由 で あ る 。こ の 場 合 、り そ な 銀 行 の 繰 り 延 べ 税 金 資 産 計 上 は ゼ ロ な い し 1 年 分 で し か 有 り 得 な か っ た 。そ う な る と り そ な 銀 行 は「 救 済 」 で は な く 、「 破 綻 」 処 理 さ れ ね ば な ら な か っ た 。 小 泉 竹 中 金 融 行 政 は 市 場 ル ー ル を 根 本 か ら 破 壊 し た 。同 時 に こ の 不 透 明 な 処 理が、巨大インサイダー取引疑惑の中核をもなしている。 り そ な 銀 行 を 不 透 明 極 ま り な く 処 理 し た 小 泉 政 権 と 、日 本 航 空 を 透 明 処 理 し つつある鳩山政権の根本的な相違が、政権交代の意義を明瞭に示している。 9 日 本 航 空 が 現 状 に 至 る に は 、相 応 の 理 由 が あ る 。そ の 根 本 を 見 ず に 、政 治 利 権 の 力 で 市 場 規 律 を 歪 め る こ と が 、市 場 経 済 に 大 き な 損 失 を 生 む こ と を 忘 れ て はならない。 5 .【 為 替 】 菅 直 人 財 務 相 就 任 と 為 替 レ ー ト 菅 直 人 財 務 相 が 大 臣 就 任 会 見 で「 9 0 円 台 半 ば の 円 安 水 準 が 望 ま し い 」と 発 言したことについて、メディアが集中砲火を浴びせた。 し か し 、日 本 経 済 の 現 状 を 踏 ま え れ ば 、今 回 の 菅 直 人 財 務 相 の 発 言 は 基 本 的 に 妥 当 な も の で あ り 、メ デ ィ ア が 一 斉 に 集 中 攻 撃 す る こ と が 異 様 で あ る 。メ デ ィ ア は 円 高 が 進 行 す れ ば「 政 府 の 為 替 無 策 」を 批 判 し 、財 務 相 発 言 で 円 高 が 抑 止されれば、財務相発言を批判する。支離滅裂としか言いようがない。 円 安 と 円 高 は そ れ ぞ れ に メ リ ッ ト・デ メ リ ッ ト が あ る が 、2 0 0 8 年 後 半 以 降の日本経済や金融市場の変動が為替レート変動と密接に関連してきたこと は 事 実 で あ る 。為 替 レ ー ト が 極 め て 重 要 な 意 味 を 持 つ 現 局 面 で は 、菅 財 務 相 が 極めて効果的な口先介入を成功させたと評価しておかしくない。 為 替 政 策 の 最 高 責 任 者 が 特 定 の 為 替 レ ー ト 水 準 を 示 す こ と に は 、今 後 の 推 移 で 現 実 の 為 替 レ ー ト が そ の 水 準 か ら 離 れ た 場 合 に 、発 言 に 対 す る 信 頼 性 が 揺 ら ぐことから慎重であるべきだが、例外的に発言が存在してもおかしくはない。 次 ペ ー ジ グ ラ フ に 示 さ れ る よ う に 、2 0 0 8 年 後 半 以 降 の 日 経 平 均 株 価 推 移 は 、円 ・ ユ ー ロ レ ー ト 推 移 と 驚 く ほ ど の 連 動 性 を 示 し て き た 。ユ ー ロ に 対 し て 円が上昇すると日本株価が下落し、円が下落すると日本株価が上昇してきた。 昨 年 1 1 月 下 旬 に か け て 日 本 円 が 大 幅 上 昇 し 、日 経 平 均 株 価 が チ ャ ー ト 上 の ク リ テ ィ カ ル な ポ イ ン ト に ま で 下 落 し た 。既 述 し た よ う に 、こ の 局 面 で 鳩 山 政 権 は デ フ レ 政 策 を 回 避 す る た め の 財 政 政 策 方 針 を 明 示 す る と と も に 、日 本 銀 行 の追加的資金供給策発表を誘導した。 こ れ ら の 政 策 対 応 を き っ か け に 日 本 円 下 落 と 株 価 反 発 が 実 現 し 、1 月 8 日 に は日経平均株価10,798円が実現したのだ。 為 替 市 場 で は 潜 在 的 に 円 高 圧 力 が 強 い 。背 景 に は 米 国 経 済 の 弱 さ 、米 国 の 双 子 の 赤 字 が 存 在 し て い る 。米 国 に と っ て 最 大 の リ ス ク は 急 激 な ド ル 下 落 が 広 が る こ と で あ る 。現 状 で 米 国 当 局 は ド ル 高 を 望 ん で は い な い も の の 、潜 在 的 な ド ル下落圧力をやわらげておきたいとの強い希望を有していると思われる。 10 円・ユーロレートの推移(2008年7月~2010年1月) 日経平均株価の推移(2008年6月~2009年12月) こ の 意 味 で 、菅 直 人 財 務 相 の 円 安 誘 導 発 言 は 、米 国 の 政 策 意 図 と も 矛 盾 し な いものと考えられる。 2 0 1 0 年 を 展 望 す る 際 、円 ド ル レ ー ト が や や ド ル 高・円 安 に 向 か う 可 能 性 を 考 慮 し て お く 必 要 が あ る と 考 え ら れ る 。直 ち に ド ル 上 昇 に 向 か う と は 考 え に く い が 、米 国 の 短 期 金 利 引 き 上 げ が 予 測 さ れ 始 め る と 、ド ル が 上 昇 す る こ と は 11 円ドルレートの推移(2000年1月~2010年1月) 米ドル・ユーロレートの推移(2007年1月~2010年1月) 十 分 に 考 え ら れ る 。欧 州 経 済 の 弱 さ か ら 、ユ ー ロ が 対 ド ル で 下 落 波 動 に 転 じ る 兆 候 も 見 え 始 め て い る 。上 記 グ ラ フ 右 上 の 丸 印 は 、1 3 週 移 動 平 均 線 と 2 6 週 移動平均線とがデッドクロスを形成しかけている状況を示している。 円 ド ル レ ー ト は 1 ド ル = 9 5 円 を ド ル が 超 え る と 、こ れ ま で の ド ル 下 落 ト レ ン ド か ら の 離 脱 が 示 唆 さ れ る 。い ま す ぐ に と い う こ と で な い が 、慎 重 な 見 極 め 12 が求められる局面が接近しているように思われる。 6 .【 米 国 】 春 先 の 調 整 に 要 注 意 だ が 景 気 回 復 は 持 続 N Y ダ ウ は 2 0 0 7 年 1 0 月 9 日 の 高 値 1 4 ,1 6 4 ド ル か ら 2 0 0 9 年 3 月 1 0 日 の 安 値 6 5 4 7 ド ル ま で 、7 6 1 7 ド ル 、5 3 .8 % 暴 落 し た 。サ ブ プライム金融危機を背景とする株価暴落だった。 2 0 0 8 年 9 月 1 5 日 、米 国 の 大 手 投 資 銀 行 リ ー マ ン・ブ ラ ザ ー ズ 社 が 連 邦 破 産 法 第 1 1 章 の 適 用 を 連 邦 裁 判 所 に 申 請 し た 。い わ ゆ る「 リ ー マ ン ・ シ ョ ッ ク 」で あ る 。米 国 政 策 当 局 は 市 場 規 律 を 重 視 し て リ ー マ ン 破 綻 処 理 に 踏 み 切 っ た が 、そ の イ ン パ ク ト は 強 烈 だ っ た 。巨 大 な デ リ バ テ ィ ブ ・ バ ブ ル の 破 裂 に 市 場規律を厳正に適用することは不可能だった。 米 国 政 策 当 局 は 経 済 政 策 を 総 動 員 し て 対 応 し た 。ブ ッ シ ュ 政 権 は 2 年 で 1 8 兆 円 の 減 税 策 を 実 施 、オ バ マ 政 権 は 7 0 兆 円 超 規 模 の 景 気 対 策 を 発 動 し た 。F R B は F F レ ー ト を 大 幅 に 引 き 下 げ 、実 質 的 に ゼ ロ 金 利 に ま で 短 期 金 利 の 誘 導 水準を引き下げた。 さらに、世界最大規模の生保AIG、政府系住宅金融公社ファニー・メイ、 フレディマックなどの大手金融機関の破綻が公的資金投入によって阻止され た。金融恐慌を回避するために、モラル・ハザードに目をつぶって公的資金 NYダウの推移(2007年1月~2010年1月) 13 による金融機関救済を実行せざるを得なかった。 米 国 株 価 の 反 発 が 1 0 ヵ 月 間 続 き 、N Y ダ ウ の 上 昇 幅 は 4 0 0 0 ド ル を 突 破 し た 。2 月 か ら 3 月 に か け て 調 整 が 生 じ て お か し く な い 状 況 に あ る 。F R B は 金 融 危 機 対 応 の 国 債 購 入 を 2 0 1 0 年 2 月 に 打 ち 切 る 予 定 を 示 し て い る 。F F レートは0~0.25%に据え置かれるが短期資金供給政策が縮小する。 米 国 1 0 年 国 債 利 回 り が 4 % に 接 近 し つ つ あ り 、本 年 春 に 向 け て 、内 外 長 期 金 利 が 上 昇 す る 可 能 性 が あ る と 考 え ら れ る 。こ の 場 合 、株 価 が 一 時 的 に 調 整 局 面を迎える可能性が高くなる。 し か し 、こ の 調 整 は 短 期 か つ 小 幅 で 終 了 す る の で は な い か と 考 え ら れ る 。年 央 に 向 け て 株 価 上 昇 と 景 気 改 善 が 持 続 し 、そ の 後 に 大 幅 な 長 期 金 利 上 昇 と 株 価 本格調整が生じるのではないかと考えられる。 7 .【 日 本 経 済 】 経 済 回 復 優 先 の 政 策 が 鍵 日 本 経 済 の 最 大 の リ ス ク は 財 政 デ フ レ の リ ス ク で あ っ た が 、鳩 山 政 権 が 補 正 予 算 の 巧 み な 処 理 を 活 用 し て 、2 0 1 0 年 度 予 算 の 中 立 化 に 成 功 し た 。同 時 に 日 本 銀 行 と 連 携 を 深 め て 効 果 的 な 政 策 対 応 を 示 し て 、こ れ ま で の と こ ろ 、金 融 市場のリスクを巧妙に排除することに成功してきた。 菅 直 人 副 総 理 が 国 家 戦 略 相 か ら 財 務 相 に 転 じ た が 、財 政 規 律 に 配 慮 す る 一 方 10年国債先物価格の推移(2007年1月~2010年1月) 14 で景気回復優先政策の重要性を理解しており、最適人事が実行されたと判断 できる。藤井財務相の功績は大きいが、健康上の理由であれば辞任はやむを 得ないものだった。 菅 直 人 財 務 相 は 、財 務 省 官 僚 の 誘 導 を 抑 止 し て 、 「 景 気 回 復 優 先 」の 政 策 方 針を明示する必要がある。2010年度予算執行を早めて、必要に応じて追 加経済対策を検討する余地を確保するべきである。 財政規律は重要だが、財政健全性回復は中期の課題であることを銘記する べきである。警戒が必要なのが長期金利動向である。前ページの国債先物価 格のチャートは、債券価格下落のチャート上の兆候=デッドクロスが形成さ れる可能性を示している。2月から4月の債券価格下落に十分警戒するべき である。 8 .【 株 価 】 春 先 の 調 整 あ る も 堅 調 に 推 移 か 日 本 株 価 は 1 1 ペ ー ジ の グ ラ フ に 示 さ れ る よ う に 、円 レ ー ト 動 向 、と り わ け 円・ユーロレート推移と極めて強い連動関係を維持してきた。 2010年年央にかけて日本円が米ドルに対して下落する可能性があると 考 え ら れ る 。ユ ー ロ も 米 ド ル に 対 し て 下 落 す る 可 能 性 を 有 し て お り 、日 本 円 が ユ ー ロ に 対 し て 下 落 す る の か ど う か は 不 明 確 で あ る が 、円 安 傾 向 が 生 ま れ る な かで、日本株価が堅調な地合いを維持する可能性が低くない。 日 本 の 経 済 政 策 が 景 気 再 悪 化 を 誘 導 す る リ ス ク が 低 下 し た 。鳩 山 政 権 が 夏 の 参 議 院 選 挙 に 向 け て 、景 気 回 復 最 優 先 の 政 策 方 針 を 明 示 す る こ と が 重 要 で あ る 。 政 策 支 援 の 方 向 が 明 瞭 に な れ ば 、緩 や か な が ら 景 気 回 復 傾 向 持 続 が 期 待 で き る 。 中期的な成長戦略として政府が果たすべき役割は、中期成長分野を明示し、 そ の 成 長 分 野 の 成 長 を 促 す 環 境 を 整 備 す る こ と だ 。成 長 を 生 み 出 す 生 産 性 の 上 昇は民間経済が獲得するもので、政策が付与するものでない。 環 境 整 備 と は 成 長 分 野 の 規 制 撤 廃 と 、成 長 分 野 の 需 要 を 創 出 す る た め の 所 得 確 保 で あ る 。こ の 目 的 を 果 た す に は 財 政 政 策 の 発 動 も 検 討 し な け れ ば な ら な い 。 ま た 、 教 育 、医 療 、 年 金 、介 護 を 充 実 し て 、国 民 の 将 来 不 安 を 除 去 す る こ と も重要な成長促進策である。 年 後 半 は 、米 国 金 利 上 昇 、株 価 下 落 に 伴 う 日 本 株 価 の 調 整 に 警 戒 す る べ き だ 。 15 9.投資戦略 2 月 か ら 4 月 に か け て 市 場 の 小 幅 調 整 に 警 戒 す る べ き で あ る 。そ の 後 、年 央 ま で は 米 国 経 済 の 回 復 傾 向 に 連 動 す る 円 安 、内 外 株 価 上 昇 の 変 動 が 期 待 で き る 。 年 後 半 は 米 国 長 短 金 利 上 昇 に 伴 う 米 国 株 価 調 整 、日 本 長 期 金 利 上 昇 に 伴 う 日 本株価調整に警戒するべきと考えられる。 参考銘柄 投資判断は厳格に自己責任原則の下で行なうようお願いいたします。 ① 9936 王将フード 1月8日終値 2,413円 調整完了に接近。業績は好調。押し目買い継続。 ② 8316 三井住友 1月8日終値 2,900円 悪材料出尽くし接近。日航処理でアク抜けか。 ③ 2695 くら 1月8日終値 252,400円 急騰後の調整局面。押し目買い継続で反騰待ち。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 政治ブログ 「 植 草 一 秀 の 『 知 ら れ ざ る 真 実 』」 (http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/ ) を 併 せ て ご 高 覧 く だ さ い 。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 『金利・為替・株価特報』2010年1月12日号=100号 発行日 月2回発行(原則として毎月7日、22日頃発行) 料 毎号3部 年間4万8000円 毎号1部 年間2万9800円(いずれも送料・消費税込み) 金 発行元 スリーネーションズリサーチ株式会社 FAX 050―3444-9587 アドレス [email protected] ブログ http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/ 振込先 スリーネーションズリサーチ株式会社 三菱東京UFJ銀行 新丸の内支店 代表取締役 普通口座 植草一秀 4356254 本誌のご購読開始から1年経過後は自動継続のお取り扱いをさせていただ い て お り ま す 。継 続 ご 購 読 を 希 望 さ れ な い 場 合 に は 、ご 購 読 期 間 終 了 前 に F A Xまたはメールにてご連絡くださいますようお願い申し上げます。 小 社 の 許 可 の 無 い 、複 写 、複 製 、転 載 、電 子 的 な 手 法 に よ る 入 力 等 を 禁 じ ま す 。 16
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