S u n day, j u n e 1 , 2 0 0 8 | I ss u e 2 | C h ic ag o, I L | S e c t i o n A 日 本 語 版 Karnofsky Lecture:乳がんにおけるエストロゲンの逆説的作用 1960年代の経口避妊薬の治験は失敗に終わ ったものの、その後、選択的エストロゲン受容 ンの逆説的作用に関する知識の進歩への貢献 に費やした、自身の経歴を披露した。 体modulators(SERM)は、乳がんの治療薬お SERMやアロマターゼ阻害剤による長期治療 よび化学予防薬として陽の目を見た。乳がんを により、薬剤の抗腫瘍特性が低下してがん細胞 エストロゲン感受性にしたり、エストロゲンをサ を死滅させるためのエストロゲン使用が必要と ードラインの乳がん治療として応用するSERM なることがある。動物モデルでの研究により、 やその他の抗エストロゲン薬の新たな利点が明 長期のエストロゲン欠乏(エストロゲン受容体 らかにされている。本年のDavid A. Karnofsky 陽性乳がんでの5年の抗エストロゲン治療に匹 Memorial Awardを受賞したV. Craig Jordan, 敵)が、がん細胞をエストロゲンに対して過敏 OBE, PhD, DSc,(Fox Chase Cancer Centerの 化する可能性が示されている。エストロゲンが Vice President兼Medical ScienceのScientific 腫瘍細胞のエストロゲン受容体に結合すると、 Director)は、tamoxifenおよびraloxifeneの多 アポトーシス誘導が可能となる。Dr. Jordanに 様な経路の追跡と、乳がんにおけるエストロゲ よれば、抗ホルモン療法に対して耐性を示す患 者を対象とし、エストロゲンの臨床試験が計画 INSIDE THIS SECTION Breast Cancer 乳がん治療の到来にともなう個別化遺伝子診断の 役割 ............................................................................................7A いまだ発展途上である Trastuzumab の適応診 断ガイドライン ......................................................................11A Leukemia 急性骨髄性白血病に対する新しい分類方法と治 され、それに資金提供がなされたという。 1960年代後半、がん治療へのホルモンの利 用はあり得なかった。Dr. Jordanの博士号の研 「大きな腫瘍が高用量エストロゲンで溶けてし る。tamoxifenで約5年間の治療後、がん細胞の 究テーマは、ラットを用いた、胚着床を防止する まっていた」と報じられた。この知見は「記念 構成全体が劇的に変化を見せて(第II期)、増 事後避妊薬の可能性がある抗エストロゲン剤 碑的」とみなされたが、そのメカニズムは不明で 殖は抗エストロゲン剤により促進され、生理的 ICI46474に関する研究であった。この薬物のヒ あり、やがて興味は消え失せた。 レベルのエストロゲンは細胞死を引き起こす。 ト臨床試験で妊娠率が上昇してしまったため避 1970年代のDr. Haddowの評価には妥協の これがHaddowの逆説の説明である。実験動物 妊薬としての開発は中止されたが、Dr. Jordan 余地はなかったものの、この10年でtamoxifen では、SERMに対する第II期耐性期の生理的レ は、エストロゲン受容体への結合が特徴的なこ が乳がんの最初の標的治療薬に進化した。以 ベルのエストロゲン投与で小型腫瘍の劇的な退 の化合物の供給を受け、この抗エストロゲン剤 前は予後マーカーとしてしかみられていなかっ 縮が示されている。こうして治療した大型腫瘍 が最終的にtamoxifenとなったのである。 たエストロゲン受容体は、最初の薬物標的とな は抗ホルモン剤に対する感受性を回復し、この った。多様な組織中およびコアクチベーターや 感受性こそが再導入の際に有効と思われる。 療のアプローチ .....................................................................8A Lung Cancer 新たな NSCLC 治療の出現を保証する今後の 研究 .........................................................................................10A Haddowの逆説:エストロゲンの 相反する作用 Sir Alexander Haddow, FRSは、1970年に 第1回のKarnofsky Lectureを行った。このとき の演題は、細胞傷害性化学療法剤は、抗生物 Patient Care 質のように特異的標的を用いて感受性に関する 映像作家と End-of-life の専門家が明らかにする 予測的試験ができないことから、治療効果が 医師と患者間の複雑な関係 ......................................11A Practice Management 治療効果のモニタリング改善と患者選択が望める 新イメージング技術 ............................................................8A 昨日朝、Karnofsky Memorial Award Lectureを行ったV. Craig Jordan, OBE, Phd, Dsc 低いことについてであった。Dr. Haddowは講 演で、ある群の合成非ステロイド性エストロゲ ンが、動物において腫瘍退縮の可能性を有す ることが唯一の「かすかな光明」であると述べ た。こうした薬物は、臨床試験で、ヒト乳がんを 数人にはすぎなかったが「桁外れに退縮」させ コリプレッサー物質の存在下でのSERM活性 耐性と応答性が連続して現れるという図式 の複雑性についての知識は進化し続け、乳がん が、現在進行中の臨床試験の基本にある。こ 治療向けにアロマターゼ阻害剤が開発された の臨床試験は、2種の抗ホルモン治療を続けて が、SERMは依然として公衆衛生上重要な役割 行う場合には、当初は効果がみられるがその を担っている(骨粗鬆症予防に用いれば、乳が 後応答性が消失した転移性閉経後乳がんを対 ん発生率を低下させ、脂質低下効果もある)。 象としている。12週の低用量エストロゲン療法 Dr. Jordanは、薬剤耐性は乳がんの抗エスト に応答した患者(高用量エストロゲン投与女性 ロゲン療法で依然として大きな問題であると述 の観察結果から30%とみられる)に、アロマタ べた。エストロゲン受容体陽性腫瘍は、SERM ーゼ阻害剤を投与して腫瘍コントロールを維持 に対する長期の初期応答後、第I期耐性を生 する。10例中3例で応答良好であれば、残り7例 じ、この間、SERMのみならずエストロゲンも は腫瘍をエストロゲンに応答させない他のメカ 増殖を促進する。また同期間、腫瘍は依然と ニズムを特定するための試験集団とすることが してアロマターゼ阻害剤療法にも応答性であ 可能であるとDr. Jordanは付け加えた。■ Sarcoma 肉腫に対する有望かつ新しい治療法 ....................6A Special Awards and Grants Translational Research Professorship 受 賞: 肺がん専門家 .......................................................................4A Clinical Trials Participation Award を受 賞 Dr. Nancy E. Davidson、会長講演で腫瘍学の業績と課題について語る 昨日の会長講演で、Nancy E. Davidson, MD 年にASCOが直面する複数の課題(がんの負 は、学術・臨床研究の業績(がん死亡率の2% 担の増加、研究資金の不足、保険問題、膨張す 低下と生存がん患者の増加に貢献)と、今後数 る医療費など)をあげた後、 「私は、がんの治療 と研究の歴史上、最も刺激的な時代に生きて働 した臨床研究に寄与した 10 の地域オンコロジー いていることを幸せに思います」と述べた。 活動 ............................................................................................8A Dr. Everett Vokes が Translational Research 業績の認識 Professorship を受賞...................................................10A ・広範囲小細胞肺がんの局所放射線治療の役 割の実証 Dr. Davidsonは、生存がん患者の増加(2004 年時点で米国で推定1000万人、全世界で2500 万人)が、こうした業績による明確なエビデンス であると述べ、 「生存者の増加はうれしい悩み 長年にわたる臨床研究が、新たな標的治療 である」と付言した。特にASCO会員で昨年亡 や個別化されたアプローチの開発につながった くなったM. Judah Folkman, MD(外科医兼が として、Dr. Davidsonは、スクリーニング、診断、 ん研究者で、血管新生を治療標的とした先駆 特 別 セッションで 医 療 制 度 改 革 案 が 提 示 治療のこの1年の進歩について紹介した。 者)と、ASCO前会長(1991〜1992年)で著名 され た .....................................................................................2A ・ヒトパピローマウイルスと頭頸部がんの関連性 な臨床研究者のMartin D. Abeloff, MDの2名 がんスクリーニングプロトコールの標準化と検証 ・乳がんリスクの非常に高い女性のスクリーニ のASCO会員の業績を強調した。 の必要性 .................................................................................4A ングで、マンモグラフィよりもMRIが優れてい Special Sessions る可能性 ・原発性肝がんおよび進行腎がんに対する新 General Meeting Information 本日の講演予定要旨−最新版 .................................11A たな標的治療の開発 直面する課題 「賞賛すべきことはたくさんあるが、進歩に 対する脅威も多い」と、Dr. Davidsonは明言し Nancy E. Davidson, MD “Translation of ASCO Daily News Sunday, June 1, 2008・ISSUE 2・Chicago, IL・Section A © 2008 American Society of Clinical Oncology. All rights reserved.” 2A • ASCO Daily News • Sunday, June 1, 2008 た。Dr. Davidsonの言う脅威とは、高齢者の 続するものとする。この提案による費用は推定 的実務モデル、医師以外の実務家の効果的 増加に伴うがん治療費負担の増加、必要な患 41億ドルである。 「我々の希望は、このモデルを な統合、プライマリケア医とのコラボレーショ 者全員に適切な治療が行えるかどうかの格差( 国レベルで実施するための立法が必要である」 ンなどの新たなイニシアチブを含む就業人口 保険や地域に関係なく、大多数の患者に手が回 と、Dr. Davidsonは述べた。 の問題に取り組むための5カ年計画の策定を らなくなってしまう懸念)、新たな治療の費用 また、Cost of Cancer Care作業部会が、が の増加、医療就業人口の減少、資金不足・断片 ん治療における急速に増大する費用に関して ・A S C Oでは、他のがん関連団 体と共同し 化・官庁の手続きが繁雑な研究システムなどで ASCOがどう考えているかを伝えるツールを腫瘍 て、研究資金の削減に対 する認識を喚 起 ある。「我々全員が最も憂慮すべきは、医療費 専門医や患者に配布することを始めており、段階 がどこでも膨張していることであり、費用の問 的にこの問題にアプローチしていることを報告し ・Medicareによる、がん臨床試験の担保に関 題を避けて通ることはできない。ASCOは、が た。次の段階は、費用関連の中核問題としてがん する国の約款への新たな制限の設置を阻止 ん領域のあらゆる専門分野の会員と対話しな 専門医が公表できることは何か、および、治療の することができた。また、終末期患者は未承 American Society of Clinical Oncology 2007-2008 ければならない」と語る。 進歩の費用を、治療を望む患者の手の届く範囲 認治療に対する憲法上の権利がないと判断 Nancy E. Davidson, MD President 解決策の模索 誰もが 質の高いがん治 療を受けられるよ うになり、費用に関する問題に対処するため に、ASCO会員は何ができるだろうか。こうした にとどめておく方法論について議論することであ ろう。 「来年には、この作業部会から報告がある と思う」と、Dr. Davidsonは予告した。 質の高い治療の提供 問題を提起してASCOが対応すべき方法を提 質の高いがん治療を提供するというASCOの 案する機は熟したと、Dr. Davidsonは言う。こ 中心的責務を再度主張したDr. Davidsonは、こ 開始した。 し、NIH資金の6%増額を提唱する。 した訴訟を評価した。 ・今後の臨床およびトランスレーショナルリサ ーチの支援のため、ASCOは、Young Investigator Award(YIA)およびCareer Development Award(CDA)の受賞者を今後も 増やしていく。本年は37名がYIA、13名が CDAを受賞。 ・ASCOでは、腫瘍専門医がASCOの教育プロ のために、 2つの作業部会(Access to Cancer の方針を守り進めていくためのいくつかのイニ CareとCost of Cancer Care)を立ち上げ、医療 シアチブを考察した。 グラムを独占的に利用して自身に合わせた学 格差に関する新たな諮問委員会およびASCO ・Quality Oncology Practice Initiative (QO- 習ができるASCO Universityを設立した。 International Affairs Committeeが共同して PI 解決策を提案することになるという。 けのサービスに移行した。350以上の実務が 最後に、Dr. Davidsonは、発見、応用、思い 登録されており、現在では、継続的な腫瘍専 やりのある臨床治療といった腫瘍学のあらゆる 満の保険未加入者をMedicare適格者としてが 門医の資格証明として受け入れられている。 面にかかわる団体として一つになれるかどうか ん治療を行えるようにするという提案を作成し ・ASCOは今年、6つの新しいエビデンスベース にASCOの将来がかかっているという考えを表 Access to Cancer Care作業部会は、65歳未 た。これには、がん以外の治療を含む医学上必 要な治療も含まれ、他の担保適用となるまで継 )は、パイロットプログラムから全会員向 TM の実務ガイドラインを公表した。 ・Workforce Implementation Groupは、革新 明し、 「負担を分け合い、結束してさまざまな がん治療に向かいたい」と結んだ。■ 特別セッションで医療制度改革案が提示された ASCO Daily News The Official Newspaper of the 2008 ASCO Annual Meeting Vol.11, No. 2 June 1, 2008 The publication ASCO Daily News by the American Society of Clinical Oncology is a service provided to all attendees. ASCO Daily News Monica Morrow, MD Editor in Chief John W. Sweetenham, MD, FRCP Associate Editor Joy Curzio Managing Editor F. Hill Slowinski, JD Executive Editor Lori Alexander, MTPW, ELS Virginia Anderson Kate Casano, MHS Alex Castellino, PhD Tim Donald, ELS Peggy Farrell Carrie Gann Walter Jones Lynne Lederman, PhD Donna Miceli Allie Moore KT Porter Andrea Smiley Robert Sumner Melinda Tanzola, PhD Deb Whippen Contributing Writers ASCO Daily News Japanese Edition ASCO Daily News 日本語版 Nagahiro Saijo, MD PhD Executive Adviser 土曜日の特別セッション“Moving Beyond Band Aids: Ideas for Health Care Reform” 編集顧問:西條 長宏 医学博士 の座長を務めたEzekiel J. Emanuel, MD, Kei Muro, MD (ISSUE 1) Kiyohiko Hatake, MD PhD (ISSUE 2) Kenji Tamura, MD PhD (ISSUE 3) Scientific Advisers PhD(National Institutes of Health)は「あら ゆる観点から米国の医療制度は課題を抱えて 監訳者:室 圭 医学博士(ISSUE 1) 畠 清彦 医学博士(ISSUE 2) 田村 研治 医学博士(ISSUE 3) いる」と指摘した。本稿では同氏と、Jonathan Gruber, PhD(Massachusetts Institute of Medical News & Conference Systems, Inc. 8F Towahoridomecho Bldg., 2-1-1, Nihonbashi Horidomecho, Chuo-ku, Tokyo, Japan, 103-0012 TEL: +81-3-5652-3500 E-mail: [email protected] Publisher Technology Department of Economics)およ びGail Wilensky, PhD(Project HOPE)との議 論の概要を報告する。 本セッションでは、民主党と共和党の大統領 発行元 株式会社エムエヌシーシステムズ 〒103-0012 東京都中央区日本橋堀留町2-1-1 藤和堀留町ビル8F 候補者から提案されている医療制度改革案が レビューされた。Dr. Gruberはマサチューセッツ 州で最近実施された州規模の医療制度改革案 TEL: 03-5652-3500 E-mail: [email protected] の作成に関与し、民主党候補の無償のコンサル Shin Yoshimoto Director of Publication タントを務めてきた。Dr. Wilenskyはメディケア 制度の前ディレクターであり、共和党のJohn McCain候補の無償のアドバイザーを務めている。 討議に先立ち、Dr. Emanuelは、医療費、保 険未加入者、医療の質、現在および将来の医 発行人:吉本 伸 パネリスト (左から) 。 Gail Wilensky, PhD、 Jonathan Gruber, PhD、 Ezekiel Emanuel, MD, PhD。 米国の医療制度改 革についてエキサイティングかつ活発な討論が行われた。 保険制度はありえないこと、の3点をあげた。 貧困かつ未加入者に対する医療問題を解決 療費負担が及ぼす影響についてデータを提示 また、政治的には左派は上記の3つの要素を するためには、公共予算と個人負担の組み合わ した。米国では6ドルのうち1ドルが医療費とし 抱合した単一支払者制度を好むが、政治的な理 せしかないと考えられるが、対象外の集団をど て使われる計算になっており、2006年には医療 由から現実的ではないこと、右派は税による補 のように扱うかという課題が浮上する。すべて 費の合計は2.1兆ドルであった。少なく見積もっ 塡制度を好むが、未加入者の半数は税を払って を解決する簡単な方法はない。 ても、そのうち約740億ドルががん関連の医療 いないという重大な欠陥があることを指摘した。 Dr. Wilenskyによれば、民主党の方針は権 費として支払われた。また、医療保険の未加入 妥協策としてマサチューセッツ州では、福祉政策 利普遍主義であり、Hillary Clinton候補のプ 者は4,700万人おり、そのうちの75%は職業に と連動した「累進的普遍主義」を採用した。 ランだけがこの方針を採っている。Clinton候 就いていない。医療の質についても問題があ Dr. Gruberは、 「医療制度改革はまさに変革 補とObama候補の戦略は、支出を削減すると る。Institute of Medicineの最近の報告では、 のときだ」と強調し、 「大統領候補者のビジョン いう方針で同様であり、McCain候補は主要な 医療ミスにより毎年10万人の米国人が死亡して は基本的に異なっている」と指摘した。例えば 税のコード分類を変更し、還付金を増やし、医 おり、高血圧が適切に管理されている米国人は Obama候補のプランは「財政的裏づけのない 療費に要する予算への認識を高めるというもの 30%に過ぎない。さらに、医療費が米国の経済 問題だらけ」のものであり、McCain候補のプラ である。また、 「すべての候補者のプランは詳 に及ぼす影響は無視できるレベルではなく、医 ンは「適切なプランはないが財政的基盤は磐 細が提示されておらず、本当に機能するのか分 療費は増大し続けているという。 石」だという。 からない」と指摘しながらも、改革するという方 針に変更はないことも付け加えた。 一方、Dr. Gruberは、すべての医療制度改革 Dr. Wilenskyは多くの観点でDr. Gruberの 案が考慮すべき案件として、①供託制度が保 見解に同意したが、彼女の医療制度における 2009年のセッションまでに、大きな変更はな 険機構にとって魅力的な仕組みであること、②保 懸案事項は医療費増大、安全性、質であり、保 いだろうが、医療費の抑制、報奨制度の見直し は今すぐにも開始すべき重要な課題である。■ 険費用の適正さ(現在は最低生活水準の収入 険未加入者についても無視することはできない の50%以上である)、③完全な無料保険制度あ と述べ、特別な改革案がなければ、未加入者 るいは強制加入なしに、国民全体をカバーする は増加するばかりである、と指摘した。 Akira Miyakawa, MD Editor in Chief 編集責任者:宮川 晃 医学博士 Hiromi Harada Zlatina Zlateva, MD Japanese Translation & Editing 日本語翻訳&編集:原田 宏美 ゾラティナ ゾラテヴァ 医学博士 Masahiro Matsumoto Coordinator & Advertising コーディネータ&広告担当:松本 匡弘 The views expressed in ASCO Daily News do not necessarily reflect those of the American Society of Clinical Oncology (ASCO). The information contained in this publication is provided solely for educational purposes. A diversity of opinions exists in the field of oncology, and the articles in this publication are often intended to inform readers about more than one point of view. These articles are not comprehensive, and should not be used as a substitute for traditional sources of scientific information and the individual judgment of health care providers. ASCO is not responsible for misuse of the information, publications or services discussed or advertised within. ASCO Daily Newsで述べられた見解は、必ずしも米国臨床腫瘍 学会の見解を反映しているものではない。 この出版物に掲載されて いる情報は、教育的な目的のためだけに提供されている。腫瘍学の 分野には様々な意見があり、 この出版物の記事は、 ひとつの考え方 にとらわれずに読者に情報を伝えることを目的としている。 これらの 記事は、包括的なものでなく、従来の科学的情報源や医療提供者 の個人的な判断に取り代わるものとして使用されるべきではない。 ASCOは、ASCOにおいて討論され、広告された情報、出版物ある いはサービスの誤用に対して一切の責任を負わない。 © 2008 by American Society of Clinical Oncology. All rights reserved. 4A • ASCO Daily News • Sunday, June 1, 2008 がんスクリーニングプロトコールの標準化と検証の必要性 土曜日に行われた特別セッション“Controver- すでに進行していること sies around Cancer Screening”では、前立腺 が 多く、5 年生存率は13 がん、大腸がんではスクリーニングによって疾患 〜16%と低い。 による死亡率が低下すると考えられること、肺が 肺がんのスクリーニン んでは最も効果的なスクリーニング法について合 グ法としてスパイラルCT 意が得られていないことが論議された。前立腺 は、X線検査や喀痰培養 がん、大腸がん、肺がんのスクリーニングの有効 に比べて検出率が高いこ 性を検討したエビデンスは豊富だが、その結果 とが報告された。3万1千 は多様であり、さらに検証を行う必要がある。 例をスクリーニングした Fritz H. Schroder, MD, PhD(University 試験では、がんが同定さ Medical Center, the Netherlands)は、前立腺 れた484例のうち412例が 特異抗原(PSA)検査によって、世界中でこの ステージIであった。10年 20年間に前立腺がんによる死亡率は低下した 生存率は全体では80%、 と思われると述べた。前立腺がんによる死亡率 ステージ Iに限定すれば は、1990年代初頭にPSA検査が導入されてか 88%であった。しかしCT ら、米国では35%低下し、オランダでは22%低下 検査は偽陽性率が高いこ した。しかし、死亡率の低下はPSA検査の導入 とが課題であり、良性疾 だけでなく、治療法の改善、スタチン使用率の増 加、生活習慣の修正など複合的な要因が寄与し た結果であろう。 患に対する生検や外科手 パネリスト(左から) Jacek Jassem, MD, PhD、 Jaroslaw Regula, MD、 James R. Jett, MD; Paul A. Bunn, Jr., MD、 Fritz H. Schroder, MD。 前立腺、 大腸、 肺がんのスクリーニング法に関して既存のデータおよび将来像について論じた。 術の施行率は6〜34%で ある。また、CT検査が死 PSAについては、カットオフ値と検査頻度が gy, Poland)は、大腸がんは世界中で毎年100万 で、一度の簡便な手技で済み、発見されたポリ 亡率を改善するか否かを検討する臨床試験の結 議論の的である。欧州の試験では、PSA値が 例が新規に発症し、50万例が死亡する重大な疾 ープを直ちに切除することができる。大腸鏡検 果はまだ得られていない。 3.0ng/mL未満の男性では次の検査までの期間 患であることを指摘した。大腸がんのスクリー 査は10年ごとに行うのが最も費用対効果が高い Paul A. Bunn, Jr., MD(University of Colo- を延長してもよいことが示されたが、プロトコー ニングにおける懸案事項は、現在7種類の検査 が、死亡率を低下させるかどうかについては検 rado Cancer Center)は、肺がんのバイオマーカ ルは修正されていない。欧州では、250,0 0 0例 法が採用されており、国によって推奨度や指針 証が必要である。 ー検査が腺がんだけでなく扁平細胞がん、小細 を10年間追跡して、前立腺がんのスクリーニン が異なることである。しかし、本年、American 肺がんのスクリーニング法については確立され 胞がんの検出に有望であることを述べたが、現 グ法を検討した無作為化試験が本年完了した Cancer Society、American College of Radi- た方法はなく、スクリーニング・プログラムは実用に 時点では確立されたバイオマーカー検査はなく、 が、PSA検査が死亡率を低下させるレベル1のエ ologyなど複数学会のタスクフォースから、大腸 供されていないことを、James R. Jett, MD(Mayo 大規模な検証を行うべきである。■ ビデンスが得られそうだという。 がんのスクリーニングについてのガイドラインが Clinic-Rochester)は指摘した。肺がんは症候性と 発行された。第一に推奨されるのは大腸鏡検査 なってから検出されるため、発見されたときには Jaroslaw Regula, MD(Institute of Oncolo- Translational Research Professorship 受賞: 肺がん専門家 今回が第1回目となるTranslational search Re- 年 先 に 、肺 がんだ 自分はこの分野に向いていると思った。研究 Tumors Professorshipは、ASCOのオンコロ けでなく、多種のが 所での研究や臨床での治療を通じて学んだこ 年、Cancer on five occasions、2004〜2005 Communications Committee ジストをサポートする、臨床に役立つ優秀な んにおいてオーダー とをトランスレーショナルリサーチに活かして のChair、現在ではCancer Education Com- 基礎研究の研究者に贈られる賞で、副賞とし メード治 療が 2 0% いる」と言う。 mitteeのChairである。さらに、ASCO-NCI- て年間$100,000の研究費が向こう5年間提供 〜2 5%の患者さん 今回のTranslational Research Professor- EORTC Annual Meeting on Molecular される。今回は2名が受賞、その一人であるDr. に可能となることを ship受賞は、彼の若手研究者に対しての教育的 Markers in CancerのOrganizing Committee Chairでもある。 Johnsonは肺がん、中皮腫、胸腺腫、カルチノイ 願っている。また腫 貢献も認められたことを意味する。Dr. Johnson ド腫瘍などの胸部悪性腫瘍の専門家で、「25 瘍学領域 研究の進 は、Paul A. Bunn, Jr., MD, Harvey M.Golomb, Dr. Johnsonは、250以上の著書や論文、総説 年にわたる研究者としての成果に対し、 「この 展には目を見張るも MD, and John D. Minna, MD.のもとで若いこ を執筆しており、胸部がんに関しての講演依頼 ような名誉ある賞をいただき大変光栄である」 のがあり、2 0 0 4 年 ろ研究者として学んだ時代がある。 が世界中から寄せられている。J.Clin. Oncol.を と、ASCO Daily Newsに語った。 (もう1人の に始めた E G F R 変 「若手に教えることは喜びである」と言う 含めて数種類の雑誌のeditorial boardを勤め 受賞者はEverett Vokes, MD)。 異患者を対象とした臨床試験成果の最終結果 Dr. Johnsonは「大学や研究所で教える機会が ている。2001〜2005年、Small Cell Lung Can- を、向こう1〜2年のうちに報告できるだろう」と あり、研究のプログラムの構築を行ったり、疾 cer Guidelines Committee for the National 語った。 研究テーマである“Impact of Genomic Changes on the Treatment of Non-Small Cell Bruce E. Johnson, MD 患の治療に役立つ研究の成果をあげてきた。 Comprehensive Cancer NetworkのChair、国 Cancer”からもうかがえるように、Dr. Dr. Johnson は、Harvard University卒業 教え子の中には、私より先に血液がんの領域 内の複数のオンコロジープログラムや、施設の Johnsonの研究は、より効果の高い治療法の 後、1979年、University of Minnesotaの医学 で教授職に就いた者もいる。教え子が専門家 外部アドバイザーとしても活躍している。 開発であり、それが臨床へと反映される。「複 部進学、その後University of Chicagoで研修 として活躍することはとてもうれしいことだ」と 数の研究グループとの共同研究で、EGFR阻 医、1982〜1985年には米国国立がん研究施設 述べた。 害薬gefitinibとerlotinibに飛躍的な効果を示 (National Cancer Institute: NCI)でClinical Dr. Johnsonは、最近Board of Directorsに and an Achievement Medal(1992)を受賞。2005 した例における、がん細胞のゲノムレベルでの Associate。その後17年間にわたりメリーランド 選任されMonday’s Annual Business Meet- 年、Dana-Farber Cancer Instituteでの功績が 変化との相関関係に関するものである。それは 州のNCI-Navy Medical Oncology Branch of ingでの仕事も委託されている。Board of Di- 認められ、Tisch Family Outstanding Achieve- 早期にがんの縮小効果があり、1日1錠服用に the Naval Hospital、1991年、Acting Direc- rectorsに選任されたことで、多領域の専門家 ment Award in Translational and Clinical Re- より、従来の化学療法を行うよりも良好な結果 tor。1998年から6年間Lung Cancer Biology によってがん患者の治療を行うというASCOの search in Solid Tumorsも受賞している。■ が10%ほどの患者さんで得られている」と語っ section of the NCI’s Medicine Branchの Core Valueをさらに構築していくことになる。 た。今後も、オンコロジー、病理、遺伝子とい 責任者、現在はLowe った専門的分野との共同研究が行われること る。 Lung CenterのDirectorであ 19 8 5 年以降、AS COのメンバーとして、彼 はBylaws Committee、the Best of ASCO だろう。「研究は多くの施設、また多数のオン 彼は、長年トランスレーショナルリサーチに Planning Committee、Scientific Program コロジストの協力を得て成り立っている。5〜10 関わっており「最初キャリアを始めたときから Subcommittee on Lung Cancer and Brain Dr. Johnsonは、United States Public Health ServiceのCommendation Medals(1990、1995) 6A • ASCO Daily News • Sunday, June 1, 2008 肉腫に対する有望かつ新しい治療 昨日の臨床科学シンポジウム“Emerging receptor;IGF-IR)をターゲットとした CP-751,871 も効果的に使う方法を理解することが我々の Treatments for Sarcoma Therapy”では、肉 について検討、報告した(abstract 10501)。IGF- 主要な挑戦である」と述べた。 腫治療に関する4つの新しいアプローチが提 IRは、細胞、増殖、アポトーシスを調節してお 示された。すなわち、2つの新しいモノクローナ り、肉腫の発現と維持への関与が示唆されてい ル抗体(denosumab、CP-751,871)、チロシン る。IGF-IR抑制は、Ewing’s肉腫と横紋筋肉腫 次の2つのabstractは、モノクローナル抗体以 ために必要な分子シャペロンである。このた SorafenibによるGISTの治療 ヒートショック蛋白90(Heat shock protein 90;Hsp90)は、GISTにおいて重要なシグナ リング分子であるc-kit、血小板由来成長因子 受容体‐αなどの成熟蛋白が正常に機能する キナーゼ阻害薬、sorafenib、新規のヒートショ xenographsに有効性が示されており、他の化合 外の治療に焦点を当てたものである。Lauren め、Hsp90は、GIST治療の有望な標的とされ ック蛋白阻害薬の有効性、毒性に関する予備 物によるIGF-IR抑制は、抵抗性Ewing’s sar- A .W ieb e、M DとUn ive r s it y of C h ic a - ている。ASCO Daily Newsの取材に応じた 試験的エビデンスが報告された。 coma family of tumors(ESFT)への有効性 g o Phase Ⅱ Consortiumの共同研究者ら Wagner氏は、Hsp90抑制の生物特性ほど興 が示されている。 は、T K I 抵抗性の消化管間質腫瘍(gastro- 味深いものはないと述べた。IPI‐504は、TKI は、骨の巨細胞腫瘍(giant cell tumor;GCT) CP-751,871は、IGF-IRの自己リン酸化を抑 intestinal stromal tumors;GIST)患者にお 抵 抗性と関連する遺伝 子型に含まれるヒト に対するdenosumabのオープンラベル第Ⅱ 制し、その結果、受容体をインターナライズさ けるマルチキナーゼ阻害薬sorafenibの有用 GIST細胞系において変異KITに対する有効 相試験の中間成績(Abstract 10500)を報告 せ、分 解させる。この完全ヒト化モノクローナ 性を検討、報告した(abstract 10502)。この 性を示した、研究用のHsp90選択的阻害薬で した。GCTは、全骨腫瘍の5%を占める良性、 ル抗体は、単独療法あるいは併用療法におい 多施設共同第Ⅱ相試験は、当初、imatinib治 ある。Dana-Farber Cancer InstituteのWag- 局所進行性の溶骨性新生物で、米国では年間 て、3週毎に20mg/kg投与まで、良好な忍容性 療中に進行した切除不能でckit陽性のGIST ner氏らは、TKIsに抵抗性の転移性GIST患 約800例が診断されている。症状は、疼痛、腫 が示されている。 David M. Thomas、MBBS,PhD,FRACPら 患者を登録していた。2007年2月、imatinib抵 者45例と、他の軟部組織肉腫患者18例におい 脹、骨折などで、重度の骨格障害や死亡に至る 最近の成績で、United Kingdom、Surrey 抗性GISTにsunitinibが承認されたため、試 て、IPI-504の第I相試験を実施した。 こともある。「最近では、病態に対する主要な のRoyal Marsden HospitalのOlmos氏ら 験は、imatinibとsunitinib後の増悪例を対象 週2回、2週on/1週offのスケジュールにおけ 治療オプションは手術であり、症例によっては は、進行期再発 性 /治療 抵 抗性肉腫 患者に とするように修正された。合計29例が登録さ る最大耐用量は400mg/m2で、用量制限毒性 切断することもありうる」と、Australia Victo- おけるCP-751,871の有用性を検討した。対象 れ、sorafenib400mgが1日2回投与された。6例 としては、グレード3の無症候性リパーゼ増加、 ria, Peter MacCallum Cancer CentreのDr. は2 4例で、Ewing’ s肉腫が 11例、滑液 腫瘍 がimatinib抵抗性を示し、23例がimatinibと グレード4の頭蓋内出血、グレード3の頭痛、グ ThomasはASCO Daily Newsとの取材の中で が5例、その他の肉腫が8例であった。成人患 sunitinibに抵抗性を示した。両薬剤に抵抗性 レード3の疲労感が各1例認められた。IPI-504 説明した。 者には3週毎に、9歳のESFT患者には4週毎 を示した二重抵抗性群では、PSが1−2で、肝 は一般的に忍容性良好で、多くみられたグレー Denosumabは、破骨細胞の形成、機能、生 に、CP-751,871を静注投与した。1例以外の全 転移を有する症例が多かった。 ド3の毒性は、アスパラギン酸アミノトランスフ 存を調整する分 子である核因子κBリガンド 例が化学療法を受けたことがあり、71%の患 の受容体活性化因子(receptor activator of 者が放射線療法の治療歴があった。 nuclear factor-kappa B ligand;RANKL)を グレード 3 /4 の治 療 関 連 副 作 用が 2 例に 標的とした完全ヒト化モノクローナル抗体であ みられ 、内訳は、グレード3の深部静脈 血栓 る。GCTは、RANKL発現の増加が特徴であ 症が1例、グレード4の尿酸増加が1例であっ り、この疾患においてdenosumabを評価するこ た。CP-751,871の薬物動態は、他の腫瘍タイプ とは、非常に合理的である。そこで、Thomas における報告と同様であった。解析から、半減 氏らは、切除不能または再発可能なGCT患者 期は約3週間であることが示唆された。 において、denosumabの有効性と安 全 性を 測定可能な病変を有する2 0 例のうち、4例 評価する試験を実施した。同氏らは、平均年 を除く全例が CP-751, 8 71投与により改善し 齢35歳の2 5例の患者に、最初の月の8、15日 た。Ewing’ s肉腫の12歳の症例1例では、部 に、denosumab 120mg/日を投与した。 分寛解が得られた。9 例では、SDが3か月以 ェラーゼ(6.8%)・アラニンアミノトランスフェラ 「我々は、がん治療に利用可能なモノ ーゼ(5.1%)の一過性の上昇、疲労、嘔気、下痢 クローナル抗体の爆発的増加を注視 (それぞれ3.4%)などであった。 し続けることになるだろう。同一また は類似の標的には反対意見が多数あ ると思われる。異なる毒性や抵抗性の メカニズムがあるかもしれない。新薬 を最も効果的に使う方法を理解するこ とが我々の最も重要な挑戦である」 Lee J. Helman, MD G I S T患者3 6 例の 6 週 時の有 効 性評 価で は、PRが1例(3%)、SDが24例(67%)であった。 他の肉腫患者11例では、PRが1例(9%)、S D の維 持 が 4例(3 6%)であった。G I S T患者 の無増悪生存 期間(PF S)中央 値は12週で あった。 Dr. von Mehrenは、このPFSは短いが、解 析には薬剤のすべての用量が含まれていたと 述べた。高度な前治療を受けた患者におい 本試験では、大多数の症例にdenosumab 上 維持され 、線 維肉腫症例と滑液肉腫の各 中央値4サイクル後、PRが29例(14%)、SD てもIPI- 504の有効性が示されたことに基づ は有用であった。有効性 解 析可能な15 例の 1例、合計 2例ではSDが 9か月以 上 維持され が18例(62%)で得られ、疾患コントロール率は き、Dr. von Mehrenは、進行期GIST患者のよ うち13例(87%)で抗腫瘍効果が認められ、 た。Ewing’ s肉腫の1例では、SDが6か月以上 76%であった。Merit賞を受賞したDr. Weibe り大規模な追加試験の必要性が裏付けられた 組 織 学的には9 例中9 例、放 射線 学的には6 維持された。 は、S D 患 者 の 多くで 腫 瘍 縮 小が みられ た と述べた。今後、国際第Ⅲ相試験が、2008年 例中4例に有効性が示された。9 例の患者で Olmos氏は、CP-751,871は、異なる肉腫タ が、PRのRECIST基準は満たさなかったと指 に計画されている。■ は、疼痛軽減、可動域増加、職場復帰可能な イプにおいて臨床的に有益かつ忍容性が良 摘した。二重抵抗性群におけるPFS中央値は ど、denosumabの優れた臨床効果が認められ 好であり、小児患者でも有用であると結論し 5.7カ月、OS中央値は8.5カ月であった。 た。さらに、3例では、骨修復のエビデンスが た。CP-751,871は、多様ながんにおいて検討さ 最も高頻度にみられたグレード3/4毒性は、 示された。Denosumabの効果は分子レベル れており、最近、ESFTにおけるCP-751,871の 高血圧と手足症候群であった(各24%がグレ でも明らかで、骨吸収マーカーの尿N-telopep- 第Ⅱ相試験がオープンされた。 ード3)。唯一のグレード4毒性は血栓症で、1 tide発現がdenosumabにより抑制された。ま ディスカッション時には、Lee J. Helman、MD 例に報告された。多くみられたグレード1/2の た、denosumab治療後には、RANKL発現細 が、モノクローナル抗体技術の進歩が、患者が 毒性は疲労、疼痛、嘔気などで、約半数の患 胞の発生率の減少が観察された。 治療に用いる抗体に対する抗体を産生する可 者に認められた。変異とsorafenibの有効性の 能性を減少させたと述べた。 相関を明らかにするために、分子解析が進行 副作用は19例(79%)にみられ、最も頻度が 高かったのは頭痛(13%)、鼻咽頭炎(13%)で National Cancer InstituteのDr. Helman 中である。Weibe氏のディスカッションにおい あった。グレード3−5の副作用は3例(13%)に は、「ヒト化抗体が(キメラ抗体と比較)免疫 て、PhiladelphiaのFox Chase Cancer Center みられたが、治療関連の重篤な副作用は認めら 原性が 著明に低い間は、抗イディオタイプ反 のMargaret von Mehren,MDは、異なるTKIs れず、抗denosumab抗体の発現もみられなかっ 応を起こすことができる」と説明した。しか が異なる変異に有効性を示すことから、これら た。17例が、denosumab治療を継続中である。 し、denosumabとCP-751,871はいずれもヒト型 の解析は重要になるであろうと指摘した。 「他の類薬では、今日まで臨床試験でこのよう ではなく、完全ヒト型であり、マウスの産生物は な成績が示されたことはない」とThomas氏が述 含まれていない。いずれの薬剤にも、これまで べた。しかしながらThomas氏が、denosumabの 抗治療薬抗体は検出されていない。 開発メーカーのAmgen社から相談料を受け取っ ていることは、留意すべきである。 IGF-IR:自己リン酸化抑制により 示された成績 David 転移性GISTに対するヒートショッ ク蛋白抑制薬 Helman氏は、今後の研究は、異なる患者に Andrew J. Wagner,MD,PhDと共同研究者ら おけるこれらの新薬の最適使用に焦点を置い は、転移性GISTにおける新規の薬剤、ヒートショ たものになるだろうと予測を述べた。さらに ック蛋白抑制薬を検討する第I相試験の成績(ab- 「我々は、がん治療に利用可能なモノクローナ stract 10503)を報告した。Wagner氏は、GISTは ル抗体の爆発的増加を注視し続けることにな 通常、初期にはTKIsに有効であるが、腫瘍がこ Olmos氏(MD、PhD)らは、もう1つの るだろう。同一または類似の標的には反対意 れらの薬剤に対する抵抗性を獲得することがあ モノクローナル抗体、すなわちインスリン様成 見が多数あると思われる。異なる毒性や抵抗 るため、発がん性シグナリングを抑制する新しい 長因子‐I受容体(insulinlike growth factor-I 性のメカニズムがあるかもしれない。新薬を最 分子メカニズムが必要と解説した。 http://www.clinicalnewswire.com/ 医療の最前線を世界から 株式会社エムエヌシーシステムズ 〒103-0012 東京都中央区日本橋堀留町 2-1-1 藤和堀留町ビル 8F TEL: 03-5652-3500 E-mail:[email protected] Sunday, June 1, 2008 • ASCO Daily News • 7A 乳がん治療の到来にともなう個別化遺伝子診断の役割 「乳がんの領域で、遺伝子診断に大きな変化 の冒頭で、乳がんのphenotypic heterogene- これまでにも多くの研究が行われているも Dr. Hayesは、アジュバント療法は、もっと が起きている」昨日のLaura van’t Veer, PhD. ityに関する理解の歴史と、予後や治療効果の のの、basal-like乳がんのマーカーの標準とい も有害事象の少ないもっとも有効性の高い治 (Netherlands Cancer Institute, Netherlands)が 予測におけるバイオマーカーの役割について えるものはなく、また、triple-negative pheno- 療を行うべきであり、診断による予後の良し Chairを勤めたEducation Session,“Molecular 「ヒトゲノム解析が行われたことにより、乳が typeに関する研究には誤分類があるという。 悪しに関わらず、患者さんが望むのであれば Diagnostics in Breast Cancer: Prognosis and んでも分子レベルでのphenotypic heteroge- 「限界を克服できれば、個別化治療により生 中止する必要はないことを強調した。「推奨さ Prediction”で、このような発言があった。この neityを複数の段階で評価できるようになって 存率とQOLは指数関数的に向上するだろう」 れている標準的なdocetaxel、doxorubicin、 セッションでは、分子標的治療や個別化医療 きた。PCRを用いたDNA解析や、microarray と、0-gene expression profileを用いることに cyclophosphamideを用いた治療を行ってい が、将来、初期のうちの悪性腫瘍診断が可能 やexpression array、reverse transcriptase- よって、予後の良し悪しが分かるとDr. van’t る。Node-positive患者のアジュバント療法を となるかもしれないという議論が行われた。 PCR assayなどの手法により様々な解析が可 Veerは語る。既報では70%の患者は生存する 中止するということに関しては、プロスペクテ 能であるし、免疫組織化学的染色は一般的に とされるが、Dr. van’t Veerは残り30%の予 ィブな研究を行った上で検討する必要がある 後が悪い患者に対して個別化治療を施すこと と考えており、患者さんが有害事象を承知の を図りたいと語る。 上で治療を望むのであれば治療を施すべき Daniel F. Hayes, MD(University of Michigan Medical Center)は、 「我々は、乳がんに なりつつある」と知見を述べた。 対して化学療法が効果的であるというエビデン エストロゲン受容体(ER)-positiveとER-neg- スがあることはわかっていても、訪れた患者さ ativeの2つに分けられたサブグループはさらに 「追跡期間中央値8年で、予後が良いと診断 であると思う。ただし、有害事象を気にする んの一人ひとりに対して必ずしも効果的である ER-positive luminalグループ、ER-negative basal- された患者では95%が生存していたものの、 患者に対しては、治療法選択に配慮するべき かはわからない。個別化治療を行える薬剤の likeグループ、正常グループ、ERb-positiveグル 予後が悪いと診断された患者では73%しか生 であろう。マーカーを用いての遺伝子診断で 登場を非常に期待している」と語った。 ープに分けられるが、特にER-negativeのサブ 存していない。この差は非常に顕著であり、転 個別化治療が可能となっても、乳児期の診断 Peggy Porter M D.( Fred Hutchinson グループのER-negative basal-likeグループと 移のハザード比は4.1、全生存率のハザード比 にはまだ時間をかけて慎重に行うべきである Cancer Research Center)は、 “Molecular ERb過剰発現グループでは生存率が非常に低 は5.4であった」とDr. van’t Veerは研究結果 し、node-positiveの両親への配慮が重要であ Heterogeneity of Breast Cancer”セッション くなるという。 を報告した。 る」と述べた。■ 治療効果のモニタリング改善と患者選択が望める新イメージング技術 放射線腫瘍学者が解剖学的画像と機能的画像 標準化取り込み値の中央値は1.70(2.23〜1.58 定されたデータでは腫瘍サイズまたは組織学的 (28%;p=0.042)であった。相対リスク低下は を組み合わせようとすると、新しい疑問に答えな 、range0.97〜7.4)であり、腫瘍組織の1 8 F- タイプと相関しなかった。また、11C-PD153035 38%(95%CI:4%〜60%)であった。 ければならない−David A. Mankoff, MD, PhDは、 FETNIM PET/CTの標準化取り込み値は、 を取り込んだ腫瘍がEGFRを発現すること、標 大腸癌肝転移切除術前にFDG-PETを行う 昨日のClinical Science Symposium、 “Imaging 各患者の反対側の正常肺組織より有意に大き 準化m2取り込み値が免疫組織化学スコアと相 ことで、患者6例中1例で不必要な手術が避け for the Oncologist: What We Can See and Not かった(2.23〜1.58 vs. 0.70〜0.35;p=0.001)。 関する(p=0.011)ことも明らかになった。 られた。11C-PD153035 PET/CTイメージング See”をこの言葉から始めた。 この値は腫瘍体積とも有意に相関した(78.03 Netherlands Cancer InstituteのTheo J. M. は、NSCLCのEGFRの有望な非侵襲的in vivo マンモグラフィやCTのような解剖学的イメー 〜48.cm3[m1];p<0.001)。標準化取り込み値 Ruers, MD, PhDは、大腸癌肝転移患者の手術 イメージング法である。2群間でOSおよびDFS ジング技術でも、腫瘍サイズの変化から治療応 と、HIF-1α(p<0.001)、GLUT-1(p=0.001)、 後転帰を向上させるためのオプションについて 率の有意の差はみられなかった。 答を評価できるが、MRIやPETなどの機能的 VEGF(p<0.001)とは有意に相関した。 考察した。この種の最初の無作為化試験で、臨 Karmanos Cancer InstituteのAnthony F. および分子画像技術は、機能または分子過程 この標準化取り込み値は、NSCLC患者の 床ステージングにFDG-PETを追加して、このス Shields, MD, PhDは、予後マーカー、予測マー 自体を乱さずにその変化により応答を評価す 18F-FETNIM取り込みが腫瘍の酸素状態と相 クリーニングの追加により無駄な開腹手術が減 カー、転帰マーカーの間の線引きが曖昧である る、とUniversity of Washington and the Se- 関することを示唆する。またこの値は、臨床試 らせるかどうか評価した(Abstract 4004)。 ことを認め、この疾患の不均一性のため、より attle Cancer Care AllianceのDr. Mankoffは 験で低酸素状態をさらに評価するのに有用と 大腸癌肝転移患者150例を、CTイメージン 多くのかつより良いNSCLCマーカーが必要と 述べた。さらに「PETと放射性医薬品プローブ みられる。Dr. Yuは、この方法論は非侵襲的で グのみ(75例)またはCTイメージングおよび 述べた。標的薬剤が他のがんで成功しており、 の組み合わせは他にも利点がある。PETは高 あると付言した。 FDG-PETスキャン(75例)のいずれかを、術前 また、イメージング剤が分子的予測部位の検索 感度と高空間解像度を組み合わせた改良され Fred Hutchinson Cancer Research Center に受けるよう無作為に割り付けた。一次転帰尺 で重要な役割を担っていると考えられる。 た装置で、その領域のトレーサー濃度を正確に のKeneth A, Krohn, PhDは、低酸素状態のイ 度は、無駄な開腹、あるいは腫瘍を完全に除去 イメージング剤は生検とは異なり特異な役割 測定できる。特定の腫瘍の生物学を探れるよう メージングの課題はその厄介さにあると述べ できない、良性疾患と判明、または6カ月超の を持つ。生検は試料中の多数の遺伝子やタン に改良された放射性医薬品プローブには、領域 た。18F-FETNIMは低酸素状態の追跡向けに 無病生存(DFS)をもたらさないすべての開腹 パク質の測定に使用できるが、遺伝子またはタ の代謝活性のスナップショットが撮れるグルコ 文献で提案されているプローブの1つで、こうし とした。患者を3年間追跡して全生存(OS)と ンパク質レベルは常に経路の活性の尺度であ ース代謝の強力なトレーサー、18F-フルオロデ た物質の目標は画像コントラストの向上であり、 DFSを決定した。術前化学療法を受けた患者 るわけではないとDr. Shieldsは説明した。生検 オキシグルコース(FDG)がある」と言う。 「どれか1つが他より優れているということはま はいなかった。術前PETイメージングを受けな は腫瘍のごく小さな領域しか代表しないため 適切な転帰尺度を伴う臨床試験には、既存技 ずないけれども、低酸素状態は放射線腫瘍学の かった患者では、34例で無駄な開腹(45%)が 腫瘍の不均一性を見逃すおそれがある。何度 術の有効利用などが課題であるが、新しいプロ 大きな要因であることは明らかであり、適切な治 あり、PETイメージングを受けた患者では21% も生検を行うことも困難であり、変化の長期モ ーブで、治療標的の評価と攻撃性および応答の 療のための重要な患者選択ツールとして、また腫 予測が向上するとDr. Mankoffは考えている。 瘍学者の全装備中の有用なツールとしてこの状 Shandong Cancer Hospital and Institute 態を捉える必要がある」とDr. Krohnは言う。 ニタリングが困難になる。 「 1 1 C の 有 望 性 は 、胸 部 で 有 用 な こ F-FETNIM PET/CT イメージング Imaging 18 と、EGFRの内部ドメインに結合すること、その (中国)のJinming Yu, MD, PhDは、非小細胞 Dr. Yuは、PET-CT NSCLCイメージングのた 肺がん(NSCLC)の腫瘍低酸素状態を検出す めの、上皮増殖因子受容体(EGFR)チロシンキ と」とDr. Shieldsは述べた。 「染色との相関が る、フッ素18フルオロエリトロニトロイミダゾー ナーゼの強力な阻害剤11C-PD153035のパイロ 重要かどうか、取り込みが治療応答と相関する ル(18F-FETNIM)PET/CTイメージングの評 ット試験も発表した(Abstract 3505)。NSCLC かは、まだ明らかではない。通常は応答性を予 価研究結果を要約した(Abstract 取り込みがEGFR染色と相関すると思われるこ 7504)。18F- が病理学的に診断された患者11例のうち10例 測できないとしても、病変全体のEGFR分布の FETNIMは、ニトロイミダゾール化合物の新しい に、手術1週前の11C-PD153035 PET/CTを行 変動や、EGFR活性の長期の変化に関する有 PETトレーサーであり、低酸素状態の検出に有 った。また384.5±105.7Mbqの11C-PD153035 効であることが前臨床データで示されている。 CT Transaxials PET Transaxials 益な情報が得られると思われる」。 を静注後に全身のCTおよびPETスキャンを行 Dr. ShieldsはDr. Ruersの発表についても、 この 研 究 で は 、病 理 学 的 に 確 認 され た い、目的の領域の放射活性濃度を分析した(正 限局性転移性大腸がんの切除を考慮している NSCLCの19例の新規診断患者で、手術1〜3日 常:腫瘍比、標準化取り込み値)。手術標本の すべての患者でFDG PETステージングを行う 前にこのトレーサーを用いるPET/CTイメージン 免疫組織化学染色によりEGFR発現を確認し、 べきであると述べた。それでも、PETは、外科 グ(放射トレーサー注入120分後に実施)を行っ その強度を評価した。 手術や臨床経過観察で見つかる小転移を見落 た。PET画像の目的領域を描画して標準化最 腫瘍組織と正常組織の間の11C-PD153035 大取り込み値を得た。腫瘍体積をCTスキャン 取り込 み および 標 準 化 取り込 み に 有 意 差 で計算し、免疫組織化学アッセイで確認した。 (p<0.01)が認められた。この値は、今回の限 Fused Transaxials MIP Navigate Male, 78Y, SC, SUVmax:7.4 とすことがあるため、広範囲の疾患を確認する ための生検も行うべきであると結論づけた。■ 8A • ASCO Daily News • Sunday, June 1, 2008 急性骨髄性白血病に対する新しい分類方法と治療のアプローチ 金曜日に行われた教育セッション“Progress クロマチンの変化のパターンや、エピジェネテイ すべての因子は払拭されると考えられる。標的 スクリーニング能を改善させるために、Harvard and Challenges in Pediatric Acute My- クスや、それが遺伝的変化の結果なのかは明ら となるがん幹細胞に選択性の高い薬剤を開発 大学の研究チームは、化学的・遺伝的アプロー eloid かにされていない。 することで、自己増殖能が消失し、がん細胞は チ、すなわち遺伝子の発現量に基づいて処理す 排除されうる。 る高効率のスクリーニング法(GE-HTS)を開発 Leukemia”において、急性骨髄性白血 病(AML)では白血病化した細胞を効果的に Dr. Jonesは、治療標的としての白血病幹細胞 排除する新しい経路を発見する必要があり、そ について講演した。ほとんどのがんでは、増殖 WT1および PRAMEはLSC中で発現量が し、遺伝子発現量をサロゲートマーカーとして れによって現状の治癒率を改善し、短期およ 能を持つのはがん細胞のごく一部である。これ 100倍も亢進することから、標的として注目され 種々の生物学的状態を判別しようと試みてい び長期の毒性を軽減できる可能性が論じられ らの幹細胞は、分化して腫瘍細胞となり、疾患 ている。PRAMEは疾患進行のマーカーであ る。結合反応介在性の多重増幅と蛍光ミクロ た。チェアマンであり演者でもあるRobert John の表現型を決定する。多くの腫瘍では、がん幹 る。標的とする幹細胞を共有化できれば、抗腫 スフェアを用いたマーカー遺伝子の検出によ Arceci, MD, PhD(Sidney Kimmel Compre- 細胞とそこから分化した子孫細胞の生物学的 瘍効果は増強される。In vitro試験では、これ り、この全く新しいスクリーニング法が実用化 hensive Cancer Center at Johns Hopkins) 特徴は大きく異なる。 らの経路を阻害することで、たとえ変異や過剰 される可能性は高い。この方法は普遍性が高 は、本セッションの目的は、AMLの効果的か 白血病幹細胞(LSC)は自己増殖能を有する 発現が生じていなくても、抗腫瘍効果が認め く、多くの異なる小分子ライブラリスクリーニン つ低毒性の治療法の開発において、新しい分 未成熟の前駆細胞から生じる。LSCは再発の られた。腫瘍特異性の欠如による毒性発現が グに応用できる。GE-HTS法とともに分化療法 子および細胞レベルの実験から得られた可能 原因であると考えられ、正常幹細胞のメカニズ 心配されるが、正常およびがん幹細胞の違い は、AMLの新しい治療の選択肢になりうると 性を紹介した。 考えられる。 ムを取り込んで薬剤抵抗性を獲得し、従来の は存在するので、治療効果は得られると思わ まずDr. Arceciは、造血性の前駆細胞や幹細 抗癌剤による治療法では排除しにくくなる。幹 れる。 胞のクローンから生成された悪性疾患の病態 細胞特異的な治療法として有望視されている Kimberly Stegmaier, MD(Dana-Farber 下した骨髄細胞の異常増殖である。この分子 は多様であることを指摘した。AMLは明らか のは分化療法である。自己増殖能と分化能は Cancer Institute at Children’s Hospital and メカニズムが解明され、分化停止を克服する新 に生物学的には不均一な集団であるが、診断 正常幹細胞では効果的に共役しており、すべて Harvard Medical School)は、新しい治療標 しい治療法を我々は手にすることができた。 に使用できる特異的な生物学的特性が解明で のがんの幹細胞は分化能がある程度抑制され 的の同定、生存率、薬剤抵抗性および感受性、 標的療法の有望性が確認され、ある種の悪性 きれば、予後を予測し、直接的な治療を行い、 ている。がん幹細胞の分化を刺激すると、変異 臨床転帰に関連する分子経路のバリデーショ 腫瘍では臨床導入されようとしているが、すべ 転帰を改善することができる。これまでの研究 を促進させ、増殖能を失わせることができるこ ンについて紹介した。具体的には、悪性腫瘍 てのがんに適応できるわけではなく、今後も研 から、白血病を発症させる重要な経路および とから、LSCを標的とすれば、がんを完全に排 の治療法の候補を同定するためにデザインし 究を続ける必要がある。急性白血病は、白血 遺伝子的イベントが特定され、自己増殖能を持 除することができると考えられる。 た小分子ライブラリスクリーニング法と、発が 病細胞特異的で、体細胞が変化するという特 ん経路を検索するために開発した化合物につ 徴を持ち、薬物療法は難しいとみなされてき いてである。 た。転写因子遺伝子を主とした融合では白血 AMLの病原性は、骨髄分化の停止と機能低 ち、白血病化した細胞は、細胞標的としてだけ Dr. Jonesはこの現象を“ダンデライオン(た でなく、治療標的としても重要であることが示 んぽぽ)現象”と呼び、源の多くの白血病細胞 されている。AMLは複数の遺伝子変異の集積 を標的として、まれにみられるがん幹細胞も標 小分子ライブラリスクリーニング法では、表現 病特異的な変化であり、新しい治療法を開発 によって生じるが、病型の異なるAMLを発症 的にはしないためと述べた。すなわち庭にある 型あるいは標的からのアプローチが試みられて する上で、がん原性蛋白の作用を変化させる化 させる普遍的な最終経路が存在するかどうか たんぽぽを芝生から全部排除しても翌週には いる。標的からのアプローチでは、細胞を用いな 合物の同定が大きな課題である。■ は明らかではない。遺伝子変化がクロマチンの またもどってくる。すべてを排除するには、見え いアッセイ系は細胞の複雑さを再現できず、その 修飾を介して遺伝子発現状態を調節し、生存 ているものだけ排除してもだめである。分化現 試みは進展していない。表現型からのアプロー 率の改善、白血病細胞の増殖を引き起こすが、 象によって白血病幹細胞は、再発の原因となる チでは、標的となる蛋白の同定が課題である。 Clinical Trials Participation Award を受賞した 臨床研究に寄与した 10 の地域オンコロジー活動 10の地域オンコロジー活動が、臨床試験への 世界各国からのノミネートは、複数のNational は、臨床試験の直接的な産物である」と、ASCO このAwardプログラムは、Coalition of Can- 参加者増加を通じ、がん患者のケアの改善に寄 Cancer Institute(NCI)Cooperative Groups、the 会長のNancy Davidson, MDはASCO Daily cer Cooperative Groupsの補助金により支援さ 与したとして、ASCOから表彰された。Clinical ASCO Clinical Practice Committee、the NCI Newsに語った。さらに「Clinical Trials Par- れており、そのためにASCOは、ASCO年次総 Trials Participation Awardsは、本日、Day I Community Clinical Oncology Program、地域 ticipation Awardsは、臨床研究を介してがんの 会へ出席するための旅行補助金を受賞者に提 セッションのハイライトで紹介される予定である ベース腫瘍研究ネットワーク(US Oncology、 進行を減速し、止め、治療し、予防する新しい方 供することができる。2003年以来、63の地域ベ (8:00 AM − 9:15 AM; Hall B1、North Build- Minnie Pearl Cancer Research Network、 法を開発するための活動を称えるものである」 ース活動がASCOのClinical Trials Participa- ing)。 Hoosier Oncology Group)などにより行われた。 と述べた。 tion Awardを受賞している。■ 受賞者は、3年間における臨床試験への患 ノミネートされたすべての活動は、ASCO’s 者増加など、複数の項目に基づいて選出され Cancer Research Committeeの小委員会でピ た。少数患者の臨床試験参加を増加させた活 アレビューされた。それらの中から10の活動が 動や登録の障害を克服する革新的技術を用い 選ばれ、受賞した。 た活動は、特別に考慮された。さらに、高品質 過去30年間におけるがん治療の印象的な進 な監査報告や高い地位の研究者らの活動にも 歩は、新しいがん治療を検討した臨床試験に 特別な配慮がなされた(今年度受賞者リスト参 直接つながっている。それは早期発見率を上 照)。 昇させ、がんの発生頻度・死亡率を減少させ 「実 験 室での発見をがん患者の生命と健 るマンモグラフィ・子宮がん検診・結腸鏡検査 康状 態を改善する治 療につなげるのに、臨 などのがんスクリーニング技術や、乳がんや肺 床試 験は必須なステップである」と、AS CO がんなど多くのがん患者の生存率を改善する 副会長で最高責任者のAllen S. Lichter, MD 術後補助化学療法、分子標的治療、がんの進 は、ASCO Daily Newsのインタビューの中で 展リスクを減少させるがんワクチンと「化学予 述べた。さらに、 「Clinical Trials Participa- 防」薬、患者が特異的ながん治療に反応する tion Awardsは、臨床研究を通じてがんのケア かどうかについて重要な洞察を与える遺伝子 改善への寄与を示した活動、地域における患 プロファイリング、心疾患・二次がん・他の健 者の臨床試験への参加呼びかけに革新的な 康問題のリスクが高まるがん生存者の長期健 方法を示した活動の名誉を称えるものである」 康状態の新しい見解などである。 と続けた。 「実際、今日使用できるすべてのがん治療 2008 年の Clinical Trials Participation Award 受賞者 Cancer Care Specialist of Central Illinois, S.C. Decatur, Illinois Cancer Consultants of Nevada Las Vegas, Nevada Medical Oncology Hematology Consultants, PA Newark, Delaware MeritCare Roger Maris Cancer Center, CCOP Fargo, North Dakota Fort Wayne Medical Oncology and Hematology, Inc. Fort Wayne, Indiana Ochsner Clinic Foundation New Orleans, Louisiana Hematology-Oncology Associates of Central New York, PC Syracuse, New York Texas Oncology-Baylor Sammons Cancer Center Dallas, Texas Southern California Kaiser Permanente Oncology Research Program San Diego, California William Beaumont Hospital Royal Oak, Michigan 10A • ASCO Daily News • Sunday, June 1, 2008 Dr. Everett Vokes が Translational Research Professorship を受賞 Everett E. Vokes, MD(Professor of Medi- の機会が存在し、 はDr. Vokesの長年の師であり、現在も共同研 り、研究を進め、拡大する上でTranslational cine, Chief, Section of Hematology/Oncology 発がん性を評 価す 究を続けている。チームが取り組んでいる研究 Research Professorshipを受賞したベネフィッ and Deputy Director of the Comprehensive るツールや 新 規 薬 テーマは、アデノウイルスを放射線誘発性プロ トは大きい」とDr. Vokesは喜びを述べた。 Cancer Center at the University of Chicago) 剤の標的は進展が モーターと結合させ、腫瘍壊死因子(TNF)遺 レジデンス時代にDr. Vokesは、全身的な治 は、Translational Research Professorship受 著しい。 伝子とリンクさせる遺伝子治療である。この治 療ががんに有効であると考え、その後、オンコ 賞の報を受け、驚き、歓喜した。ASCO Daily Dr. Vokesの専門 療法では、局所への薬剤送達、がん細胞内で ロジストは外科療法あるいは放射線療法だけ Newsのインタビューに対しDr. Vokesは「非常 領域は頭頸部がん の放射線によるTNFの活性化が可能となる。 を選択するのではなく、放射線療法に静注、内 に名誉なことであり、決意を新たにするととも と肺がんで、化学療 「この治療法は第I相試験の段階にあるが、メカ 服療法などを組み合わせることで、余命を延長 に、ASCOに感謝している」と答えた。 法と放射線療法、 ニズムの解明にも共同で取り組んでいる」とDr. し、治癒させることができることを示した。そ Dr. VokesはASCOの新しいTranslational Re- Everett E. Vokes, MD 新しい治療法の相 Vokesは語り、 「シカゴ大学には、トランスレー うした業績の延長上に現在の研究がある。Dr. Professorshipの2人の受賞者の1人であ 互作用に興味を抱いている。複合的な治療を早 ショナル研究、多元的専門研究の長い歴史があ Vokesは「治療の転帰に違いをつける必要があ る。この賞は、基礎研究の臨床応用に尽力し、同 期から行うことで治癒率を改善させることをテ り、Michelle Le Beauを長とするがん研究セン ったし、よき機会を得ることもできた」と述べ、 分野の他の研究者のよき指導者として活躍する ーマとし、臓器保持や臓器機能維持にも関心 ターでは、このアプローチを成功させ、こうした 「現在は、基礎研究が患者の転帰に違いを生 オンコロジストを対象に創設された。賞金として を寄せている。またDr. Vokesは、 「いくつかの 複雑な研究を支援する体制が整っている」と続 じさせる具体的なエビデンスとなることは明ら 毎年10万ドルが5年間にわたり授与され、トランス 甲状腺がんでは分子標的薬の開発が非常に盛 けた。また彼の研究チームは、がん溶解性ヘル かなので、挑戦しがいがあり、報われることも レーショナル研究を主要な研究テーマとする臨床 んであり、これこそ我々が望んでいた状況であ ペスウイルスを用いた同様の研究も計画してい 多い」と続けた。Dr. がん研究者の研修とキャリア開発を促進するた る」とも語った。 る。このウイルスは化学療法および放射線療法 究活動を行うことの素晴らしさに触れ、新しい のエンハンサーとして働くと考えられている。 世代の研究者たちを積極的に指導することも search め、トランスレーショナル研究に従事するASCO のメンバーを支援するために使用される。 Dr. Vokesの研究チームは、頭頸部がんと肺 がん研究の最先端を走り続けている。同チーム Leonardo Faoro, MDおよびTanguy Y. Sei- Dr. Vokesによると「臨床医が患者の転帰を にはRavi Salgia, MD, PhD、Ezra E. W. Co- wert, MDとの共同研究では、研究チームは、 改善させるためには、疾患の基礎をなす腫瘍生 hen, MD, FRCPC、Mark Lingen, DDS, PhD、 頭頸部がんや肺がんの治療標的として有望視 物学について学ぶことが重要である」という。ト Marsha Rosner, PhD、Ralph R. Weichsel- されるチロシンキナーゼ受容体c-Metを発見し ランスレーショナル研究の分野には、いまだ多く baum, MD. Drらが所属する。Weichselbaumm た。「この研究には現在精力的に取り組んでお Vokesは共同研究者と研 誇るべき業績の一つであると語った。■ 新たな NSCLC 治療の出現を保証する今後の研究 非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対する は付け加えた。TKIと薬物療法の合理的併用 究中であり、Rafを標的とする薬物も研究され 新たな治療は増えつつあるものの、それらの の開発も必要である。NSCLC細胞が作るネッ ている。 最良の使用方法に関する疑問に答えていか トワークと、TKI感受性の正確な試験対象の組 Dr. H au raは、3 階層のチロシンキナーゼ し、bFGFR、Tie2、血小板由来成長因子など なければならない、と、金曜日の教育セッシ 織の収集に伴う困難のため、この責務の複雑さ 依存性、すなわち(1)キナーゼ阻害で細胞のシグ 新たな標的に向けた多数の薬物の存在につい ョン、”Emerging は気が重いものであるとDr. Hauraは、ポイン ナル経路の大規模な崩壊と細胞死(EGFR突然 て述べた。バイオマーカーに応答する、または Non-small Cell Lung Cancer”の議長を務め トを具体化するため、玩具のLEGO®ブロック 変異およびALK融合)が生じるがん遺伝子依存 その使用が有害な可能性の高い患者を特定す たUniversity of Colorado Cancer Centerの に喩えた。 (ゲノム学で十分に説明できる)、 (2)がんの古 る研究もさらに必要である。Dr. Heymachは、 Targeted Therapies in ま た 、新 たなタンパ ク質 や T K I など の V E G F 経 路 の様 々な阻害 剤の検 討も示 唆 Director、Paul A. Bunn, Jr., MDは発言した。 「LEGO®ブロックがたくさんあれば多数 典的特徴に影響する下流のシグナル伝達経路が 本年のASCO年次総会のいくつかのAbstract 標的を検証し、バイオマーカーを開発しなけれ の動物模型が作れるように、チロシンキナー キナーゼ阻害により変化する寄与体(応答性患 には、bevacizumabを多様な化学療法レジメ ばならないが、NSCLCが複雑であるため臨床 ゼ、SH2ドメイン含有タンパク質、pY含有タンパ 者サブセットの認識のため、より進行したサブセ ンと併用した試験の結果が報告されており、ま 試験も同様に複雑になる可能性があると言う。 ク質、下流のエフェクターが多ければ、多くのシ ットが必要なことがある)、 (3)キナーゼ阻害が た、それによる併用が有効性評価時に問題とな 「NSCLCは組織像が4つ、stageが4つあるた グナル伝達カスケードができる。これを考慮し 腫瘍の下流のシグナル伝達に影響せず、腫瘍生 ることが多数のエビデンスで示されているとも め、多くの臨床試験患者を集めるのは困難で ておかないと、誤った分子標的薬剤へ踏み込 物学に対する有意の影響を生じない、非機能性 述べた(Abstracts 8044、8079、8080、19077 ある」従って多くの患者を集められない、また む。がん細胞はネットワーク全体を配線し直す すなわち冗長性、を概説して結論とした。 を参照)。抗凝固療法中のNSCLC患者だけ は有用なデータが集まらない、多数の小規模試 が、タンパク質の数とシグナルの数を考えれば、 M. D. Anderson Cancer CenterのJohn V. でなく中枢神経系転移を伴うNSCLC患者に 験では臨床試験体系が麻痺する可能性がある この過程は複雑である」。また、このネットワー Heymach, MD, PhDは、血管新生阻害剤関連 も、bevacizumabが安全であるというエビデン と、Dr. Bunnは言う。 クは静的でなく動的であるとも述べた。 領域の研究の現状の概要を述べた。腫瘍脈 スも増えつつある。 H. Lee Moffitt Cancer Center & Research mDNAまたはタンパク質アッセイのための組 管構造はNSCLC患者の主要な研究領域であ 研究中の他の抗体または融合タンパク質は、 InstituteのEric B. Haura, MDは、受容体チロ 織収集も厄介であると、Dr. Hauraは付け加え り、この領域を標的とする薬物は、新血管形成 白金およびerlotinib耐性NSCLC患者でフェ シンキナーゼ阻害剤(TKI)の現在の知見を総 た。組織の採取・保存方法が重要であり、極め (抗血管新生薬)または既存血管の破壊(血 ーズⅡ試験実施中のデコイ受容体aflibercept 説し、他の標的について論考した。 て緻密なデータが得られるので精度の高い解 管障害剤[VDA])を標的とする。これら2領 などがある。VEGF経路を標的に開発中のほ Dr. Hauraは、BCR-ABL依存性慢性骨髄性白 析が必要となる。NSCLC組織サンプルは、他 域は相互に排他的でない。血管内皮増殖因子 とんどの薬物は小分子の受容体チロシンキナ 血病(CML)、消化管間質腫瘍、乳がんにおけ 領域に浸潤した複雑な腫瘍のものであるため、 (VEGF)は、血管新生での中心的役割により ーゼ阻害剤である。vandetinib(ZD6474)、 るHER2過剰発現でのTKIの効果の既知の知 さらに困難となる。 最も広く研究されている標的で、VEGF経路を su nitinib(SU 11 2 4 8)、sora fenib(BAY 標的とする様々な戦略が用いられている。 43-9006)、cediranib(AZD2171)はすべて現 識に基づけば、NSCLC患者の治療へのTKIの SRCタンパク質のような非受容体チロシンキ 利用は楽観的であると述べた。しかし、NSCLC ナーゼは、上皮増殖因子受容体(EGFR)と共 VEGFリガンドまたは受容体を標的とする では、CMLまたはHER2陽性乳がん患者と比較 同してさらなる治療標的となる。現在、少なくと タンパク質は、今日まで最も広く検討されてい VEGF阻害以上の今後の研究の趨勢には、こ して、生存率が低い原因となり得る他の原因も も4種が研究中である。SRC阻害剤は、EGFR る薬物、bevacizumabである。bevacizumab うした治療に応答する可能性の高い患者の特 指摘されている。 のような他の受容体チロシンキナーゼ阻害剤と は、carboplatinおよびpaclitaxelとの併用時に、 定のためのバイオマーカーの開発のほか、新た 在臨床試験中である。 シグナル伝達分子が、がん細胞中の活性の 組み合わせた際に最も有効とみられている(腫 標準的化学療法のみの場 合と比較して奏効 なタイプの薬物(VDAなど)に加え、新たな標 シグナル伝達ネットワーク形成モジュールのネッ 瘍増殖の推進または細胞毒性抗癌剤との併用 率が改善し、無増悪生存期間を延長したが、 的および早期に開発された合理的併用の探求 トワークの一部として作用していることが、分 での相乗作用が、前臨床のエビデンスで示唆さ 約10 %の患者で重篤な肺出血の副作用があ が必要であろうと、Dr. Heymachは結んだ。■ 子生物学の最近の進歩で示された。タンパク質 れている)。 った。Dr. Heymachは、bevacizumabが現在 キナーゼは、こうしたネットワークの重要な要素 キナーゼの下流の一般的なタンパク質要素 NSCLC患者の一部向けに承認されていることも であり、がん細胞を増殖、生存、転移、血管新 は、上流の多様な経路やタンパク質の関門であ 述べたが、 「現在の使用対象より多くの患者に 生させる重要な経路を調節して、がんの発生と るため、理想的な標的である。特にRas/Raf/ より安全な可能性がある」。追加のNSCLC集団 進行で重要な役割を演じている。 「腫瘍増殖に MEK/ERK経路が重要な治療標的として研究 での新たな併用によるbevacizumabの適応拡大 必要な重要な分子を特定した」と、Dr. Haura されている。少なくとも2種のMEK阻害剤が研 は、今後研究の余地があると付け加えた。 Sunday, June 1, 2008 • ASCO Daily News • 11A いまだ発展途上である Trastuzumab の適応診断ガイドライン 金 曜日に行われたE duc at ion S e s sion て論議していきたいと述べた。 Dr. Paikにより報告されたNSABP B-31試 “HER2-Targeted Therapy: Why Bother Test- 転移性乳がん患者を対象とした臨床試験に 験の結果からtrastuzumabを用いたアジュバン ing?”では、trastuzumabの適応診断の方法は おいて、trastuzumabは免疫組織化学検査で ト療法の有効性で、IHC診断で3+とFISH診 いまだに発展途上であることが述べられた。 がないので、臨床試験で検討するべきであると いうのがDr. Wolffの意見であった。 アジュバント療法に関する変数、 遺伝子検査 IHC 2+とIHC 3+に診断された患者に対する 断によりHER2陽性と認められた患者以外にも Soonmyung Paik, MD, (the National Sur- 有効性が認められている。これにより、通常の trastuzumabが有効な患者がいるのではない gical Adjuvant Breast and Bowel Project: NS- 化学療法に併用してこれらの分子標的治療薬 か。そしてそれはNorth Central Cancer Treat- Dr. Paikは、アジュバント療法として、転移 ABP)は、プロスペクティブ無作為化研究での有 をアジュバント療法として使用する検討が行わ ment Group N9831およびNSABP B-31をあわ 性乳がん患者に対してHER2を標的とした分 効性が認められない限り、HER2陰性の患者さ れている。 せて検討した結果からも、同様のことが考えら 子標的治療 薬の有 効 性も検 討している。播 れると述べた。 種性腫瘍の可能性など、アジュバント療法で んに対してtrastuzumabを投与すべきではないと ASCO Daily Newsのインタビューで語った。 このセッションのChairmanを務めたAntonio C. Wolff, MD, FACP, (Sidney Kimmel Com- プロスペクティブな研究では、HER2陽性の 乳がんに対するアジュバント療法としてtrastu- 初期に行われた臨 床試 験 では、H E R 2 診 は変数がからむが、Dr. Paikは、「可能性と zumabを使用した際の再発率は50%まで低下 断 テストの不 正 確さも指 摘されている。現 して、過去にHER2陰性と診断された患者で することが認められている。 に、HER2診断テストが行われた施設では、ア も、途中でHER2陽性に変わることも考えられ prehensive Cancer Center at Johns Hopkins) Dr. Wolffは「Level1の臨床試験のデータに ッセイ法や技術の正確さの評価がきちんと行 る。NSABP は、転移性HER2陰性乳がんに対してtrastu- よって乳がん治療の方針が決まってしまうのな われていなかった。そこで、2007年にASCOと 展とともに、バイオマーカーに関する研究も発 zumabあるいはlapatinibの有効性は認められ ら、誰に対してHER2を標的とした分子治療薬 College of American Pathologists は、HER2 展しており、今後より正確なゲノム診断が確立 ていないと述べる一方、gene polysomyなどを による治療を行うのだろうか」と議論を投げか 診断テストの正確性を向上するようにと提言し するかもしれない」と述べた。 用いたHER2発現の測定は予測的有用性が確 け、転移性HER2陽性乳がん、もしくはアジュ た。Dr. Wolffは、その提案のリーダーであり、そ Dr. Pressは病理学者の立場から、HER2陽 立されていないとも述べた。また、Michael F. バント療法を検討したランダム化試験に参加 の提案作成にあたって「HER2の診断結果が、 性・陰性の誤分類がついて「HER2遺伝子増幅 Press, MD, PhD, (University of Southern しただれもがその対象となると述べた。すなわ 多数の乳がん患者さんに対する治療方針の決 は乳がん組織片のタンパク発現をみているが、 California)は、HER2を標的にした分子標的治 ち、IHC 3+あるいは、FISH診断によってHER2 定を左右することになる」と述べた。HER2陰 固定方法が標準化されていないことから、ホ 療薬がアジュバント療法としてHER2陰性患者 陽性と診断された患者に対してのみ、これらの 性患者に対してHER2を標的とした治療が有 ルマリン固定保存が行われた組織での検討は の一部に対して有効であったことを報告した。 薬剤を使用した治療を行うべき、と結論した。 効であるかどうかを検討することは慎重に進 通常は行われていない。一方、FISH診断での める必要がある。微小転移患者に対してアジ HER2診断はより確実性が高く、HER2を標的 ュバント療法としてtrastuzumabを用いた研 とした治療法に大いに役立つと思われる。IHC D r. Wol f fは、H E R 2の過 剰 発 現は 2 0% の新規発症の乳がん患者で認められている 昨年の年次総会報告からの仮説 B-31試験のような臨床研究の発 が、trastuzumabやlapatinibの治療対象となる Dr. Wolffは、昨年のASCOの年次総会で報 究でもtrastuzumabの可能性が示唆されてお 診断やFISH診断は検査技師によってではな HER2発現に関する診断は最初には行われな 告されたほかの可能性を示唆する演題を取り上 り、HER2陰性患者に対してtrastuzumabが有 く、病理学者によって行われるべきである」と い。この真っ向から対立する2つの意見に関し げた。 効であるのかどうか、レベル1,2のエビデンス 述べた。■ 映像作家と End-of-life の専門家が明らかにする医師と患者間の複雑な関係 末期がんの診断を下された若手医師を通じての患者に対する心理学的ヒーリングレッスン がんの診断を初めて告知された患者は、終末 彼の家族、ヘルスケアチーム、同僚や研修医、牧 るキャパシティーを持っていなければならない。 pital)は、死に直面した患者とどのように向き合 期にはがんという病気そのもの、がん細胞の増 師、そして友人へのインタビューから、心に強く訴 多くの患者さんやその家族は、がんそのものやが うべきかについて、医師の教育が必要であると 殖力の強さ、困難に立ち向かう力、死、など様 えかけるような内容が紹介された。また、転移性 んに対する感情を克服するすべを持っていないと 強調した。患者の無力感、精神的な弱み、そし 々なものに直面する。昨日のEducation Session 滑膜肉腫と告知されてからの医師とDr. Morgan ころに、緊急性を要する疾患であり、さらには非 て身体的な苦痛など医師にとってはどうしてよい “The Path to Self Healing: Delivering the Bad との 関係もつづられていた。Dr. Morganは、転移 常に受け入れがたい疾患である。」とコメントし のかわからないことがたくさんあることを理解 News: An Opportunity for Healing the Patient 性滑膜肉腫との診断を受けたとき自殺を考えた た。Peter Morganの話にあるように、彼はがんに するべきであり、患者の苦しみを理解すること and Physician”では、その際の医師と患者の関 り、残された日々をどのように生き、尊厳をもって 蝕まれている体でも超越的な何かを見ており、が は、医師の医学的な知識とはまた別のものであ 係についての議論が行われた。 どのように死ねるのか、また生きることの意味な ん告知後の混乱の中でも、がんだけが全てでは る。Peter Morgan は、患者と医師との関係は、 Chairmanを務めたBruce Allan Chabner, ど、毎日が複雑な心境にあったことが記録されて ないことを悟っていった。医師はそんな患者の話 臨床検査の評価やレントゲン写真を見て病状 MD(Massachusetts General Hospital) いた。Ms. Drazenは、 「彼のその時その時を精一 をきちんと聴くことが大切であると述べた。 を診断するだけでは成り立たないと語った。ま は、National Union Against Cancerより最初の賞 杯生きている姿を記録した映像を通じて、生きる を受賞した映像作家のRuth Yorkin Drazenが記 力を得ることができた」とコメントした。 Dr. O’Reillyは、医師一人ひとりが自己をみつ た、Dr. Chasenは「医師は病を治すと同時に患 め、自身と患者についてしっかりと理解するべき 者の心のケアも行うことが必要であり、医学生 録した“Notes From the Edge”を上映した。Ruth この記録映像を作成するRuth Drazenをサポ だと強調する。 「病気により死に直面した患者さ は患者の話がきちんと聴けるようにコミュニケー Drazenは、彼女が60歳後半のとき夫が前立腺 ートしていたRichard J. O’Reilly, MD(Memorial んには死に対する大きな恐怖がある。慎ましや ションスキルの向上を学ばなければならない。今 がんによって死亡したときに、がんやその他の重 Sloan-Kettering Cancer Center)は、患者のケア かな中で、そこに強い力と高い人間性をみること 日の調子はいかがですか、とたずねることだけ 篤な病気に関する告知に疑問を持ったという。 に対する医師の役割についてコメントした。 「医 ができる」と語った。 で終わらないで」と訴えた。現代のような、なに 映像の中では“young doctor’s personal voyage 師は、患者さんの家族や友人とは異なるアプロ 患者を理解することは、大学では学べないこ もかもが自動化されて複雑な社会における日常 through the last years of his life.”として、Peter ーチで患者さんの心を支える役割を担っており、 との一つである。Martin Robert Chasen, MB- 診療では、患者さんの心からの話がなくなって J. Morgan, MDの記録ノートなどが紹介された。 患者さんの病気を様々な角度から受け入れられ chB,(McGill University’s Royal Victoria Hos- いく危険がある、と話した。■ 本日の講演予定要旨−最新版 Oral Abstract Session, Breast Cancer — Metastatic 8:00 AM–11:00 AM • Hall D1, East Building 8:30 AM “Randomized, double-blind, placebo-controlled, phase III study of bevacizumab with docetaxel or docetaxel with placebo as first-line therapy for patients with locally recurrent or metastatic breast cancer (mBC): AVADO” (Abstract LBA1011) Presenter: David Miles, MD, FRCP Oral Abstract Session, Gynecologic Cancer 8:00 AM–10:30 AM • Room S406 (Vista Room), South Building 8:00 AM “Vaginal brachytherapy versus external beam pelvic radiotherapy for high-intermediate risk endometrial cancer: Results of the randomized PORTEC-2 trial” (Abstract LBA5503) Presenter: Remi A. Nout, MD 8:15 AM “A randomized phase III trial of four cisplatin (CIS) containing doublet combinations in stage IVB, recurrent or persistent cervical carcinoma: a Gynecologic Oncology Group (GOG) study” (Abstract LBA5504) Presenter: Bradley J. Monk, PhD 8:45 AM “A phase III trial of cisplatin plus topotecan followed by paclitaxel plus carboplatin versus standard carboplatin plus paclitaxel as first-line chemotherapy in women with newly diagnosed advanced epithelial ovarian cancer (EOC) (OV.16). A Gynecologic Cancer Intergroup study of the NCIC CTG, EORTC GCG, and GEICO” (Abstract LBA5505) Presenter: Paul J. Hoskins, MD Oral Abstract Session, Lung Cancer — Local-regional and Adjuvant Therapy 8:00 AM–11:00AM • W375E, West Building 10:30 AM “Randomized trial of standard dose to a higher dose prophylactic cranial irradiation (PCI) in limited-stage small cell cancer (SCLC) complete responders (CR): Primary endpoint analysis (PC199-01, IFCT 99-01, EORTC 22003-08004, RTOG 0212)” (Abstract LBA7514) Presenter: Cecile Le Pechoux, MD Plenary Presentation including Science of Oncology Award and Lecture 1:00 PM–4:00 PM • Hall B1, North Building 1:45 PM “Adjuvant ovarian suppression combined with tamoxifen or anastrozole, alone or in combination with zoledronic acid, in premenopausal women with hormone-responsive, stage I and II breast cancer: First efficacy results from ABCSG-12” (Abstract LBA4) Presenter: Michael Gnant, MD
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