NO.560 - 日本発明振興協会

15発
1口
`D 技術開発を 目指す情報誌
月号
20′ 2/JAN.
ⅣO.560
春特集号
『
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Contents
長・ 特許庁長官・ 東京都知事・
松原理事長・ 西垣関西支部長
経営に関するシンポジウム
:
講演/バ ネルディスカツション
松本 弘― II)サ カエ 代表取締役II長
アトムメディカル蘇 )代 去取締役社長〕
松原 ―雄 〔
“
蜂谷 真 弓 t坂 口電氣 株)代 表取締役社長〕
松橋 卓司 株)メ トロール代表取締役ネ
'長
森 洋 二 “株)ワ ールトケミカル 会長〕
ーター≫
≪モデレ
中馬 宏之 “
「究センター 教授
〔
日立学校法人 一橋大学 イノベーションコ
:
│
:
名 刺広 告 :発 明で明 日をひ らく企業
シリーズ INTERVIEW:イ ノベー シ ョンヘ の 〈挑 戦〉∈⊃
オ ール マ イティな創業者の後 をいかに継 ぐか ′
勇気ある経 営 に関す るシ ンホジ ウム
組織力 の醸成 と コア技術 の新展開 を目指す
極東産機 (株 )代 表IIR締 役社長 頃安 雅樹
JSAI
THE JAPAN SOCIETY FOR THE ADVANCEMENT OF INVENT10NS
年 頭 所 感
ことほ
2012 年の新春を寿ぎ、謹んで初春のご挨拶を申し上げます。
皆 変化をチャンスとしてとらえる秘策をもって、新春のスタートを切られた
様におかれましては、国内外の混迷を常態とした安定経営戦略と合わせ、
ことと存じます。今年が、より良き年としてお過ごしになれますよう、祈念申し
上げます。また、旧年中に賜りましたご関係各位の数々のご厚情に、衷心より感
謝を申し上げます。
国内においては、昨年3月 11 日の東日本大震災、福島の原発事故と、まったく
予期せざる天変地異が発生、東北の日々の生活を一変させました。被災地の悲惨
な光景は、日本のみならず、世界の人々の胸を痛めました。福島の原発事故は、居
住不能地域と広域に及ぶ放射線の影響で、住み慣れた地域に帰る目途も立たず、
問題の原発処理も途上にあるといった状況にあります。
これから変わる、変化の兆しの象徴とも言うべきもので、世界が海図のない海
に向かう、混乱した世界に入りつつあるように思います。
新興国においては、技術面での変化は著しいものがあり、中小企業は変化を
チャンスとして生き残りのために海外に出ようという行動をせざるを得ません
が、国の支援は十分でなく、グローバルな時代への対応がいかに苦労を伴うかと
いった状況下にあります。小惑星イトカワに行き、サンプルを取ってくるという
至難の業を発揮した「はやぶさ」を支えたのは、100 社にも及ぶ中小企業であっ
たことを聞いています。しかし、研究開発型の世界に誇れる技術をもった中小企
業が拠点を海外に求めたら、本当の空洞化が進み、取り返しのつかない状態にな
ると考えられます。
国 が不可欠との方向が示され、異分野企業の産学官複合技術革新の必要性が
際競争力の維持強化のため、現在の産業技術をもとにした技術革新の創造
説かれています。これ等の行動をとるための基本的な要件は、グローバルな視点で
全体戦略を作れる人が不可欠で、特に中小企業にとっては難題といえます。
公益財団法人 日本発明振興協会
会長
発明と生活 No.560
邦
皆々様のご健勝と、会員の方々の企業のご発展を祈念申し上げ、年初のご挨拶
とさせていただきます。
昭
施策の転換は、急に結果につなげることは困難な点もありますが、協会設立の
趣旨であります、発明の奨励、工業所有権制度の普及に対し、行動に移すことが
創立に関わった先達の意志と考えて、努力して参りたく思います。会員全員が参
画意識をもって変化をチャンスとすべく、ご支援、ご協力を賜りたく、年頭にあ
たり心からお願い申し上げます。
!
原 当協会を取り巻く環境は、大きく変化いたしました。資産運用も、金融業界の
環境変化に振り回されているといっても過言ではありません。企業にとっても、
経営環境の激変と世代交代の現実は、会員並びに縁のある関係者の理解優先の寄
附に依存する体制からの脱皮が求められており、協会のためなら、という人間関
係の中で行われてきた、良き時代の支援には今後頼ることなく、先達に残してい
ただいた経営資源を有効に生かし、自立できる活動が求められています。新たな
運営に携わっていただいた関係者の智恵を結果に結び付け、魅力ある協会事業の
実行を公益性の中でどう展開するかが、2012 年の課題であります。協会の持つ
魅力は何か、という論点を中心として、次世代経営者の方々の参加を得て協議す
る場を設け、先ずは有識者を交えた勉強会、会員を含め多くの中小企業の方々と
の交流会、公的研究機関の情報提供、海外研修会等々、協議されたことの具体化
に向けて行動して、協会への求心力を高めて参りましょう。
会員全員で盛り立てる
魅力ある協会事業の実行を
昨年は、当協会が公益財団法人として発足しました一年目として、新しい組織
への変革とともに、粟村会長の後任として会長職をお受けするとともに、松原理
事長の新任、柴田専務理事の就任、後半には事務局長の交代と、新たな布陣のも
とに過ごした一年となりました。新体制の下で、昨年 12 月には、初めて協会主催
による中小企業の経営に関するシンポジウムを盛会裡に開催いたしました。
January 2012
2
年 頭 所 感
平
成 24 年の新春を迎え、謹んで新年の御挨拶を申し上げます。
昨年、3月 11 日に我が国は未曾有の大災害に見舞われました。被災さ
れた皆様に対しましては、旧年中の御苦労を心からお慰め申し上げ、新年の御多
祥を祈念申し上げます。
今回の震災により、被災5県の特許出願は、震災のあった3月には大きく減少
したものの4月には前年度並みに回復しており、全国の特許出願を見ても、3月
知財の戦略的活用による
グローバルな展開に期待
このように、我が国の知財活動が引き続き活発であることを嬉しく思います。
我
が国の知財活動の動向は、この 15 年間で日本企業の海外出願比率が倍増
しておりますが、昨年の PCT 出願傾向については対前年同期比で 20%以
上の伸びが続いており、国際的な出願がこれまで以上に増加しております。また、
長年海外への支払超であった特許等使用料は、2003 年に受取超に反転して以降、
受取額が拡大を続けております。このことから、日本企業は旺盛な研究開発を続
けつつ、海外における知財保護に励んでいることがわかります。近年、日本企業は
国内に重要な基盤を維持しつつ、研究開発、生産、販売活動においてより適切な地
域を選んで活動を行おうとしております。言い換えれば日本企業が強みとする技
術やデザイン、ブランドをいかによりグローバルに活用するかが課題となってい
るということです。このように、日本企業の知財戦略が特に国際的な面を含めて
一層重要となってきており、特許庁といたしましても、企業が知財を戦略的にかつ
グローバルに活用していける体制整備を加速していく必要を痛感しております。
我
が国企業が円滑にグローバルなビジネス展開を図っていくためには知財
の分野で、
「より早く」、
「より安く」、
「より強い」知財の権利取得ができる
環境整備が重要です。特許庁は、本年もこの課題につき引き続き強力に取り組ん
でまいります。
「より早い権利」の達成のため、特許庁は 2013 年までに審査順番
待ち期間を 11 か月に短縮するという中期目標を掲げておりますが、この期間は順
!
調に短縮されてきて、現時点では 25 か月台となった順番待ち期間を引き続き短
縮できるよう取り組んでまいります。また、
「より安い権利」について、平成 23 年
特許庁長官
岩 井 良 行
3
に若干の落ち込みは見られるものの4月以降は前年度並みで推移しております。
発明と生活 No.560
8月には、審査請求料の 25%引き下げを実施いたしました。残る課題は、
「強い権
利」の実現、グローバルに展開する企業が、円滑に安定した特許を取得できるとい
う環境の整備であります。
「強い権利」の実現には知財に関する制度・運用の国際調和が重要です。昨年6
月に日本で開催した日米欧中韓の五大特許庁長官会合において、知財の制度調和
の重要性を改めて確認したところであり、今後より議論が加速していくことが期
待されます。また、9月にはついに米国特許法が改正され、特許制度の国際調和の
最大の障害となっていた米国の「先発明主義」は「先願主義」へと移行し、制度調
January 2012
和の機運がますます高まっています。このような流れの中で、今後も日本国特許
庁は、知財の国際的な制度調和の観点で積極的に世界をリードしていきたいと考
えております。また、運用面の調和を図る上で国際特許ネットワークの構築が重
要です。日本は昨年 11 月に世界で初めて中国と特許審査ハイウェイ(PPH)を実
施したところです。これによって、日本で権利化した技術を海外へ出願した場合、
その約9割が簡素な手続で早期審査を受けられるようになりました。
今後重要性を増してくる ASEAN 加盟国との関係においても、これまで以上に知
財面の協力強化が必要であり、本年2月に特許庁長官会合の開催を予定しており
ます。
今
や大企業だけでなく中小企業にとっても、海外展開を含めたグローバルな
競争は避けて通れない課題となっています。日本の中小企業の数は約 420
万社、全企業の 99%以上を占め、日本のイノベーションを進展させる上で極め
て重要ですが、日本企業の特許出願件数のうち中小企業が占める割合は、全体の
11%に留まっております。中小企業の経営者には、知財の活用が金融、経営全般
に次いで重要な課題として認識されていますが、資金不足や人材不足等のため上
手に活用されていないとの指摘があります。特許庁では、中小企業の方々が知財
を十分に活用できるよう、知財総合支援窓口の設置、外国出願に対する補助、中小
企業向け特許料の減免などの支援を行っております。本年4月からは、特許料金
の減免期間を3年から 10 年に延長するなど支援を拡大いたします。素晴らしい技
術を数多くもつ中小企業は、我が国の宝でありますので、引き続き、知財の権利化
や海外展開等の支援をしてまいります。
さ
らに、日本企業がグローバルな競争を行うためには、これまでのものづく
りに、デザインやブランドといった高い付加価値をこれまで以上に加えて
世界に発信していくこと、またそれを知財として保護していくことが更に重要に
なってまいります。特許庁は、我が国企業が海外において意匠権を取得する際の
手続・コスト負担を軽減するため、意匠の国際登録に関するヘーグ協定への我が
国の加入について検討を進めてまいります。また、企業の多様なブランド展開を
支援するため、音や動き、色彩など、より消費者に商品イメージ等を直接伝達する
新しいタイプの商標の登録制度についても検討してまいります。
このように、特許庁では知財の保護・活用を通じ、ものづくり、デザイン、ブラ
ンドと様々な観点から、中小企業を含む我が国企業の活動の応援を強化してまい
ります。本年も多くの皆様から、特許庁の取組に御理解と御支援を賜りますよう
お願い申し上げまして、私の新年の挨拶とさせていただきます。
平成 24 年元旦
発明と生活 No.560
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年 頭 所 感
明
けましておめでとうございます。
昨年、我が国は千年に一度といわれる東日本大震災の大禍に遭い、未
曾有の被害を受けました。東京都は、いち早く被災三県に現地事務所を立ち上
げるとともに人的支援を行うなど、被災地の復旧・復興を積極的に支援してき
ましたが、今後も全力の支援で被災地を元気づけ、日本を牽引してまいります。
「十年後の東京」計画充実で
東京を世界に誇れる都市へ
今回の震災では、震源から遠く離れた東京においても、これまでの防災対策
を根底から揺るがし、大都市東京の脆弱性が露呈しました。都では、一刻たりと
も日本の頭脳・心臓が止まらない高度防災都市を目指し、木造住宅密集地域の
不燃化や建物の耐震化を進めつつ、近所同士で助け合う「防災隣組」の活動を支
援してまいります。また、エネルギーの危機に対しても、百万キロワット級の天
然ガス発電所や太陽光発電システムの導入を進め、高効率・低炭素な東京産の
電力を創出します。
危機を乗り越えるのは人の力であります。今こそ、次代を担う人材の育成に
本気で乗り出さなければなりません。自信と誇りを持って世界と渡り合える人
材を東京から育てるべく、海外留学を後押しするとともに、教育再生の議論を
進めます。日本の国力を左右する少子化にも、都独自の認証保育所をフル活用
して取り組みます。さらには、高齢者が知識・経験を最大限活かし、生涯現役で
活躍できる都市を目指します。
また、東日本大震災を踏まえ「十年後の東京」計画を充実・強化し、2020 年
までを計画期間とする新たな長期ビジョンを、昨年末に策定しました。この計
画を羅針盤とし、東京を世界に誇れる都市へと進化させてまいります。
我
々日本人は、戦後、アメリカ依存の平和に安住しながら繁栄を謳歌し、
物質的な豊かさと引き換えに、先人が受け継いできた日本人の価値の機
軸、国民としての自負を失ってしまいました。その結果、今の日本人にとっての
絶対的な価値は、物欲や金銭欲といった我欲の達成でしかありません。
一方、今回の震災では、被災者同士が支え合い、秩序正しく行動する姿が世界
を瞠目させました。この大震災を機に、我々は、家族や地域の絆、そして国家と
いうものを改めて見つめ直さなければなりません。東京は、生きた現場から問
東京都知事
石原慎太郎
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発明と生活 No.560
題の本質を捉え、具体的行動により範を示していきたいと思います。
昨年、東京都は 2020 年のオリンピック・パラリンピックの開催都市に立候
補しました。震災で大きく傷ついた日本をスポーツの力で再生し、復興した姿
を世界に披瀝するためにも、是非とも東京への招致を実現したいと思いますの
で、皆様のご支援を賜りますようお願い申し上げます。
日
本人一人ひとりが持てる力を発揮し、それが束ねられることで、必ずや
輝かしい未来が拓けると思います。
皆様のご理解とご協力をお願いいたします。
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年 頭 所 感
平
成 24 年の新春を迎え、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
会員ならびに関係者の皆様には、日頃より本協会の事業活動に深いご理
解とご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。
昨年6月に第 11 代理事長の大任を拝命したばかりの私にとりましては、これま
でになく心が引き締まる1年のスタートという思いでございます。輝かしい伝統
と歴史ある本協会のさらなる発展にいささかでも貢献できるよう、名誉会長、会
長をはじめとする役員各位ならびに会員の皆様方のご指導を仰ぎながら、目の前
一昨年 12 月、本協会は財団法人から公益財団法人へ移行し、新制度のもとでの
1年間が経過しました。スムーズな移行を実現できたものの、その後の東日本大
震災、長引くデフレ、異常ともいえる円高、さらには深刻さを増す欧米経済の影響
など、次々と立ちふさがる障壁と直面する中で、事業内容や運営に一層の充実を
図ることが、この混迷の時代を打開していくためには何よりも重要と痛感してま
いりました。そのためには、必ずしも旧来からの慣習にとらわれず、
「変えるべき
こと、続けるべきこと」をしっかりと見極めた上で、意義ある改革に取り組んでい
きたいと考えております。
重
要な課題としては、財政面の安定・強化が挙げられます。低迷する日本経
済の中にあって、財団基金の運用はますます厳しくなっており、それを克
服するためには、会員の皆様の温かいご援助に期待すると同時に、会員の増強・
拡大が不可欠です。しかし、一口に会員拡大といっても、一朝一夕に実現できるも
のではありません。そこには、団体としての魅力を高めるための地道な努力が大
切です。これまでの事業に一層の工夫を加えて独自性を持たせると共に、新規事
業への取り組みも必要です。さまざまな局面で若い世代にも参画していただき、
斬新な発想や行動力に期待したいと思います。
公
混迷の時代を切り開くために
会員の拡大と若い世代の参画を
にある課題に対し、一つずつ丁寧に取り組んでいく所存です。
益財団法人となり、本協会の社会的な使命と責任がますます強く求められ
ています。わが国が国際貢献を果たすために、日本ならではのモノづくり
の技術力や感性を世界に発信していくことが期待されていますが、それにはまず
国際競争力が必要であり、国際競争力を高めるには優れた人材の育成や確保が欠
会の存在が、科学技術の発展や産業振興などにおいて、今後も大きく寄与してい
させてくれるように、本年も会員の皆様と手を携えて、明日への新たな飛翔を目
指したいと願っております。
最後に、これからもご指導ご鞭撻をお願い申し上げますと共に、皆様方のます
ますのご発展とご多幸をお祈りいたしまして、年頭のご挨拶とさせていただきま
す。
発明と生活 No.560
松 原 一 雄
くものと確信いたします。いつの時代にも「発明」という言葉が未来への夢を感じ
公益財団法人 日本発明振興協会
理事長
かせません。技術開発や研究活動を支え、顕彰・助成に長年取り組んできた本協
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年 頭 所 感
新 世界の厳しい社会環境、経済状況の中、日本も長い景気低迷が続き、企
年明けましておめでとうございます。
業が成長するどころか現状維持すら難しい時代にあります。
その上に昨年3月 11 日、想定外の東日本大震災が起こり、テレビから流れる津
波の映像に日本中のだれもが信じられない凄さ、怖さに直面し、驚き、悲しみ、ま
た、原発事故による目に見えない恐ろしさにパニック状態となり、あまりにも悲
し過ぎました。被害に遭われた人たち、そして残された人たちは頑張って生き抜
かねばなりません。昨年の漢字一文字は『絆』でした。日本国民が一つとなって応
開発精神を高め
社会に役立つ新技術を
援、支援する必要があります。今、明日を見つめて一歩一歩確実に歩まねばなり
大阪では、大阪府知事、大阪市長選挙があり、松井知事、橋下市長が誕生しまし
た。橋下大阪市長は、大阪都構想を掲げて市民の支持を得ました。橋下市長の発
揮する強いリーダーシップのもとで、現状分析、解析によって大阪が大きく変わ
る関西変革の年になると確信します。新しい時代にマッチした夢とロマンがある
街へと変貌していくでしょう。
私たち関西支部も一致団結し、知恵を出し合い、この勢いに乗って社会に役立
ち、喜ばれる新技術の開発、新製品の開発、新システムの開発に努力を積み重ね
て参ります。
公 昨年、組織人事が大きく変わり、新しい体制で一歩も二歩も前進すると確
益財団法人 日本発明振興協会が、今年は本格的活動年になるでしょう。
信しています。名誉会長の粟村さんは、今日までリーダーとして『ものづくり成
公益財団法人 日本発明振興協会
関西支部長
!
ません。
功談』を本誌「発明と生活」に対談方式で連載され、会員の皆さんに優れた情報提
供で大変喜ばれたと思います。会長の原さん、理事長の松原さんは、会社の実績
西
と共に当協会に貢献され、良いコンビで、私たちのリーダーとして尊敬し、期待
できる存在です。柴田専務理事、保坂事務局長は、経験を活かして日本発明振興
垣 協会に新風を吹かせてくれるでしょう。これからは、若手経営者が協会の活動に
積極的に参画されることが嬉しく、頼もしく思います。科学技術を通じて、あな
たづくり、人づくり、企業づくりで、“ 土台に心 ” です。基本は開発精神を高め、毎
日を大切な時間として、一人ひとりが成長できれば幸せです。
哲
皆さんのお力添え、よろしくお願いします。
公益財団法人 日本発明振興協会の事業活動
中小企業や個人発明家の優れた発明を顕彰する「発明大賞表彰」事業や、豊か
な発想力と独創力を育てることを目的とした「こども発明教室」を はじめ、発
明考案を実施するための費用を援助する「発明研究奨励金交付」事業、アイデア、
発明考案、特許出願などについてのご相談にお応えする「無料発明相談」なども
行っています。
一般の方も、是非ご利用ください。
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発明と生活 No.560
January 2012
勇気ある経営に関するシンポジウム
協会初の試みとして『勇気ある経営に関するシンポジウム』を、去る 12 月8日、白寿
生科学研究所 ( 東京都渋谷区 ) の大会議室において、東京商工会議所と東京都立産業技
術研究センターの後援により主催した。シンポジウムは、東京商工会議所が毎年表彰
している “ 勇気ある経営大賞 ” の受賞企業3社による講演と、さらに2社を加えたパネ
ルディスカッション ( モデレーターに一橋大学イノベーション研究センターの中馬教
授 ) の二部構成で、勇気ある挑戦を続けている企業の革新性、独自性、人材育成など、
チャンスをいかにとらえて成功に結びつけるかが語られた。会場では、協会賛助会員
のほか、一般企業、研究機関、大学関係者が、世界に通じる独自技術・オンリーワン企
業の熱っぽい経営理念に聞き入った。
8
『勇気ある経営に関するシンポジウム』は、原昭邦
カル 会長の森洋二氏を加えた5名のパネリストによ
会長の挨拶で始まった。東京商工会議所が行ってい
り、経営の基盤を支える人材の育成や、チャンスをい
る『勇気ある経営大賞』に、平成 23 年度「大賞」を受
かにして成功に結び付けるかで討論が行われた。
賞した(株)サカエ 代表取締役社長の松本弘一氏、
企業経営の大きな要素である「人」と「場所」と「時」
「優秀賞」のアトムメディカル(株)代表取締役社長
そして「運」という4つの視点が用意されていたが、
の松原一雄氏と、21 年度「大賞」の坂口電熱(株)代
時間の都合で「人」と「運」に絞って各社の取り組みや
表取締役社長の蜂谷真弓氏の3氏が演者となり、そ
意見が述べられた。中小企業がオンリーワン技術をい
れぞれ自社の発展の転機となった決断や、新たな展
かに活用して発展してきたのか、多くの来場者の関心
開を目指して進める挑戦など、経営に対する考え方
(パネルディスカッション要旨は 20 ~ 22 ページ参照)
を集めた。
(講演要旨は 14 ~ 19 ページ参照)
について講演を行った。
シンポジウムに続いて行われた懇親会では、パネ
続いて行われたパネルディスカッションでは、一
リストらを囲んで、意見や感想が交わされ、参加者相
橋大学イノベーション研究センターの中馬宏之教授
互の交流も大いに図られた。また、外部の参加者から
をモデレーターとして、講演者3名に 20 年度「優秀
は、
「協会に大変興味を持った。また機会があればぜ
賞」を受賞した(株)メトロール 代表取締役社長の
ひ参加したい」と高い評価を得ることとなり、シンポ
松橋卓司氏、17 年度「優秀賞」の(株)ワールドケミ
ジウムは好評のうちに幕を閉じた。
発明と生活 No.560
January 2012
講演要旨
勇気ある経営に関するシンポジウム
平成 23 年度 勇気ある経営大賞「大賞」受賞
(株)サカエ 代表取締役社長 松本 弘一
社会のニーズに柔軟に対応し
下請けから開発型企業に転進
わが社の 33 年前は、一社の大手メー
それでも引き下がらず、その間、協力会
カーに依存した下請け企業でした。それ
社との開発体制を整え、何度も折衝を
が今日の開発型企業になれたのは、世の
重ねた結果、何とか受注に成功しまし
中の変化に合わせて、会社を柔軟に対応
た。その後、大手検査センターと共同で
させることを基本方針としてきたからだ
糖尿病分析装置の開発にも取り組みま
と言えます。下請け企業からの脱却、そ
したが、開発目標であった2年が経過し
して開発型企業として成長を目指した
ても完成に至らなかったため共同開発
その考え方の基となった出会いから紹
先が辞退し、装置だけでなく診断薬の
介します。
開発も自社で手掛けることになりまし
急逝した父の後を継いで社長になっ
た。この取り組みには、社内では経験も
たものの、経営については全く素人で
ノウハウもなく、専門家もいない未知の
何も分からないため、世の中で成功し
分野への挑戦だけに、無謀だ、ハイリス
ている社長に直接お会いし、帝王学を
クだ、と猛反発を受けました。しかし、
伺ってみようと思い立ち、大学の先輩で
装置と診断薬を一体開発すれば正確な
当時の日本 IBM 社長であった椎名武雄
診断結果が得られるという強い信念の
氏を訪ねました。その時、社会のニーズ
もと、あきらめずに開発を続け、5年の
に合わせて会社が変わることの大切さ
歳月をかけて成功させました。
を力説された椎名社長の言葉が、その
かなり進行するまで自覚症状がなく、
後の私の経営に対する考え方の原点に
予備軍まで入れると 2500 万人を超え
なっています。
るとさえ言われる糖尿病の早期発見と
そして、昭和 59 年に、三菱電機群馬
早期治療に貢献できる機器と、診断薬
製作所がヒーター製造を手放すという
の開発に成功したわけです。それまで
話を耳にし、チャンスがやってきたと、 は測定結果が分かるまで1週間要して
思わず手を挙げました。その後、他の家
いたのが、一滴に満たない微量の血液
電メーカーもヒーター事業から次々と
をセットしてスイッチを押すだけとい
撤退するたびに事業を引き継ぐことで
う簡単な操作で、わずか6分後に結果
シェアを拡げ、各社バラバラだった設
が分かるという画期的な装置です。
計を共通化して、製造の効率化を図る
こうして無謀とさえ言われたイノ
ことができました。
ベーションを積み重ねてきたことで、下
さらに、簡単にはまねのできない製
請け企業からの脱却を果たし、開発型
品を目指して、医療
企業として飛躍が望める経営へとつな
用分野にチャレン
がったと言えます。
ジ することにしま
した。横浜市立病院
の研究支援からス
タートし、血液分析
装置の OEM 事業に
参入しました。とこ
ろが、最初は知名度
がないからとあっ
さり断られました。
糖尿病の早期発見に期待の大きい分析装置『A1c GEAR』
9
発明と生活 No.560
January 2012
(株)サカエ
東京都港区新橋 1-11-4 三栄ビル
TEL:03-3573-7360
URL:http://www.sakaecorp.com/
資本金:9,300 万円
従業員数:100 名
創業:1952 年
事業内容:ヒーター、事務用機器、医
療用検査装置(糖尿病検査分析装置
など)、臨床検査薬、シートメタルお
よび関連製品、ワイヤーハーネスの
製造販売
講演要旨
勇気ある経営に関するシンポジウム
平成 23 年度 勇気ある経営大賞「優秀賞」受賞
アトムメディカル(株) 代表取締役社長 松原 一雄
周産期医療で世界一を目指し
成長戦略で2つの挑戦を実践
わが社は、
「世界中の小さな生命を
ンとうたっても、国際市場では通用す
救うために」を企業理念に、医療分野
るとは限りません。世界でもまれ、世
の中でも妊産婦が命を宿して 22 週か
界に通用する製品を作らなければダメ
ら出生後7日目までの “ 周産期医療 ”
だと痛感しています。特に訴訟社会の
の 分 野 に 特 化 す る こ と で、世 界 ナ ン
米国では、特許をはじめ厳しい規格な
バーワン企業を目指しています。保育
ど、日本では想像できない問題に直面
器を主力製品に、検診台や分娩台、胎
し、大きな障害を伴います。そこにあ
児集中監視システムなど、産科婦人科
えてチャレンジすることで、アトムブ
及び新生児医療分野の製品の開発を追
ランドの製品が、国内だけでなく海外
求しています。
でも高品質であるとの評価を得ること
昭和 52 年に国産初の保育器を開発
を目指しているわけです。
以来、常にイノベーションを起こしな
もう一つの挑戦は、国際競争力を高
がら、60 年間に十世代 20 機種もの改
めるため、ディスポーザブル製品の製
良を積み重ねてきました。今では、大
造を全てフィリピンのセブ島に移管
人の掌ほどの大きさ、つまり 500 グラ
し、一貫生産体制を整えたことです。
ム以下の超未熟児でも育つことが可能
海外では、文化も言語も違い、大きな
です。昭和 26 年には出生 1000 人に対
リスクを背負いますが、毎朝、社訓と
し 27.5 人であった日本の新生児の死
経営理念を繰り返し語り、徹底的な社
亡率は、1.2 人まで減少し、世界で一番
員教育を行いました。
低い水準になりました。当社は、その
医療機器を取り巻く社会環境は非常
一翼を担ってきたと自負しています。
に厳しく、常にイノベーションを起こ
世界に約 30 社ある保育器メーカー
し続けなければ、発展は望めません。
の中で、当社はビッグ3に数えられて
アイデアをマーケットのニーズに合わ
いますが、さらに世界のナンバーワン
せて製品化し、世の中に普及させてい
を目指し、これからの成長戦略として、 くことを、経営者は常に考えなければ
二つの挑戦を実践しています。
なりません。世界の大企業と渡り合う
一つは、米国進出へのチャレンジで
ためには、グローバルスタンダードに
す。これまでに、国内シェア 85%を獲
合わせた基準を満たすことが不可欠で
得し、海外にも約 60 か国に輸出して
すが、日本の文化、伝統、長年培った
いますが、それに甘んじることなく、 きめ細やかさ、製品に対するこだわり
世界中の小さな生
から生まれる日本発の優れた医療技術
命を救うという
を、ジャパニーズスタンダードとして、
使 命 感 か ら、米 国
世界に発信していきたいと考えていま
で保育器のトップ
す。
シェア獲得を目指
すことを決断しま
した。
海外に進出する
と、マ ー ケ ッ ト の
厳しさに直面しま
す。品 質 面 で い く
保育器とウォーマの機能を兼ね備えた次世代型保育器
『デュアルインキュ i』
10
発明と生活 No.560
January 2012
ら国内ナンバーワ
アトムメディカル(株)
東京都文京区本郷3 -18-15
TEL:03-3815-2311
URL:http://www.atomed.co.jp
資本金:8,400 万円
従業員数:360 名
創業:1938 年
事業内容:医療機器(産科・婦人科用
機器、新生児・小児用機器等)の製造、
販売、輸出入及び保守、メンテナン
スサービス
講演要旨
勇気ある経営に関するシンポジウム
平成 21 年度 勇気ある経営大賞「大賞」受賞
坂口電熱(株) 代表取締役社長 蜂谷 真弓
当社の電熱技術を生かした
オンリーワン製品の開発とご恩返し経営
私どもは、電熱を必要とする全ての
大きなチャレンジでした。100℃から
産業に対し、さまざまな新領域の技術
1000℃まで約4秒で、2インチ径基
分野と融合を図ることで、熱に関する
板を1ショットで均一に急速加熱する
ソリューションとヒーティングシステ
ことが可能です。周辺を加熱せずに対
ムを提案しています。あらゆる熱の領
象物だけを局所的に直接加熱すること
域をカバーすることを目指し、どんな
ができるため、さまざまな実験や研究
相談でも断らない姿勢で取り組んでき
の場面で活用されています。このプロ
た結果、300 万点を超えるオーダーメ
ジェクトでは、当時まだ役職のなかっ
イド製品を開発、提供してきました。
た若手技術者2人を抜擢し、専念させ
「企業経営は、社会恩に報いるもの」 ることで、悩みながらも伸び伸びと才
という創業者から受け継がれてきた企
能を発揮してくれました。
業理念を根幹に、当社が取り組んでき
当社が独自に展開している社会貢献
た『ご恩返しの経営』について、ご紹介
事業として、1988 年に設立した公益
します。
財団法人 坂口国際育英奨学財団への
当社は、秋葉原の駅前にある本店ビ
支援があります。財団では、外国人私
ルで 50 年以上にわたり電熱関連製品
費留学生 10 名に対し、毎年奨学金を
を販売しています。その昔、本田宗一
提供しています。また、2004 年からは
郎さんも、油まみれの手で部品購入に
インターンシップ制度で、学生の工場
訪れたこともあるそうです。創業は大
実習を継続、そのほか国連グローバル・
正 12 年、祖父の坂口太一が工業用電気
コンパクトにも参加しています。
アイロンの特許を取得し、割賦販売し
地域貢献としては、11 年前に社員の
たのがスタートでした。当時営んでい
有志で NPO 法人を設立、地域の小中学
たラシャ問屋で、仕立屋の営業廻りの
校生を対象に、卒業時に家族への感謝
時に、重たい炭火アイロンを使って汗
の気持ちを述べる作文コンクールを実
だくになりながら重労働している現場
施しています。
を見て、もっと効率良くして、若い彼
また、今回の東日本大震災では、東
らが勉強の時間を持てるように、電気
北出張の際にボランティア活動をした
アイロンを考案したのをきっかけに、 いというある社員の提案から、会社が
さまざまな産業用ヒーターの開発に取
バックアップする体制で、業務として
り組んできました。
派遣することにしました。こうした活
長年積み重ねた
動が、人としての厚み、魅力を磨くこ
ノウハウを活かし
とにつながり、創造力を高め、社内に
てユーザーニーズ
も良い刺激になると考え、新たにボラ
に 応 え る 中 で、オ
ンティア休暇制度を設け、活動への参
ンリーワン製品で
加を支援しています。
あるレーザー平面
加熱装置の開発
にも成功しまし
た。そ れ ま で 主 力
であったニクロム
線による抵抗加熱
の 分 野 か ら、レ ー
超高速で昇温降温が可能。雰囲気を加熱せず、省エネを実現し
た多機能型レーザー瞬間加熱装置『ExLASER』
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発明と生活 No.560
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ザーによる加熱分
野に踏み込んだ
坂口電熱(株)
東京都千代田区外神田 1-12-2
TEL(代表)
:03-3253-8211
URL:http://www.sakaguchi.com/
資本金:4 億 6,000 万円
従業員数:140 名
創業:1923 年
事業内容:産業用ヒーターをはじめと
する電熱機器の開発・設計・製造・
販売
勇気ある経営に関するシンポジウム
≪モデレーター≫
中 馬 宏 之
国立学校法人 一橋大学
イノベーション研究センター 教授
パネルディスカッション
<略歴>一橋大学経済学部卒業。ニューヨーク州
立大学バッファロー校にて ph.D(経済学)取得。
イリノイ大学 Carbondale 校、東京都立大学、一橋
大学の経済学部助教授・教授を経て現職。その間、
米国エール大学経済学部客員教授、文部科学省科
学技術政策研究所・客員総括主任研究官、総合科
学技術会議専門委員などを兼任。
<はじめに> 企業経営に求められる
『イノベーション』
は、大きく捉えますと、
「人」
と
「場」
と
「時」
そして「運」がうまく同期した時に発生すると言えます。本日は、そういうイノベーションの担
い手であられます皆様方に、これらの4つの視点から具体的事例を交えてお話しいただければ
と思います。イノベーションは、これらの4つの要因が同期してはじめて可能になるわけですか
ら、なかなか生み出すことが難しい。その点に関しまして、先ほどの講演の中に、
(ダーウィンの
引用に基づいて)進化に際しては、迅速に変化していける能力(” 変化能 ”)が重要だというお話
がありました。たしかに、ビジネスの領域でも、その成否には「時代」が大きく関わってきます
ので、
「チャンス」に迅速に対応して変化していけないと、なかなか成功に結び付かない。その意
味では、相変化が著しい現在のような時代には、
「リスクを取らないリスク」もかなり高くなっ
ていますから、リスクを取って今までとは違う分野に参入することの必要性も高まっている。従
いまして、そうしたビジネス上の変化能をいかに高めておられるか、その中でも、変化能を具現
する「人」をどのように育成されているかについて、お話をうかがえればと思います。
〔中馬〕
蜂谷 特に気をつけているのは、目的と役割分担を明
なければ撤退すると言っています。私は経営者ですか
確にして、信頼して任せるということです。適材適所で
ら、全体のリスクを見ながら、危ない橋を渡らないよう
人材をピックアップして、周辺の協力を得ながら経営
に管理しているわけですが、日頃からコツコツと目の
サイドでバックアップしています。例えば、ベテラン社
前のことにまじめに取り組んでいく日本人の国民性、
員と、フレッシュな行動力・機動力のある若手社員を
日本人のきめ細やかさや思いやり、お客様の立場になっ
組み合わせたプロジェクトを立ち上げることによって、
たものづくり、そうした日本の文化、精神が、開発製品
お互いの良さが引き出されたり、あるいは若手社員だ
や技術の中にも常に入っていると思います。これは、日
けで取り組ませることで、柔軟、かつスピーディーな活
本人の良い文化だと感じています。
動へとつながっています。
森 社員には、新たに創造的なものを考える時は、机上
松本 当社の開発部隊は数十人ですが、新卒で入ってき
で6~7割できそうだと思ったら、まず作ってみろと
た人材には、30 歳までに自分の金字塔を建てなさいと
言っています。ユーザーの要望に対し、頭の中で先の先
言っています。どんなものでもいいから自分が携わっ
まで計算して結論づけてしまうのではなく、まず作っ
た製品が世の中に出て使われることは、大きな自信に
てみることが肝心です。作ったものから教えられるこ
つながると考えています。そうした成功体験が、最終的
とも多く、進化が生まれ、改善、改良を重ねていくこと
には次のリスクに挑戦するための原動力となり、励み
で製品として育っていくのです。
になると思います。
ユーザーあるいは業界の要求・要望に対して、すぐ
松原 私は社員には失敗を恐れずチャレンジしろ、た
に応えていく短期的な日々の製品開発と併行して、長
だし、スタートして3年経っても事業として成り立た
年の経験の中で、こういうものがあれば業界で需要が
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発明と生活 No.560
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勇気ある経営に関するシンポジウム
平成 17 年度 勇気ある経営大賞「優秀賞」受賞
パネルディスカッション
平成 20 年度 勇気ある経営大賞「優秀賞」受賞
(株)ワールドケミカル 会長 森 洋二
(株)メトロール 代表取締役社長 松橋 卓司
東京都台東区台東 1-1-14 ANTEX24 3 階
TEL:03-5818-5130
URL:http://www.wcc.co.jp
資本金:5,000 万円
従業員数:66 名
創業:1971 年
事業内容:耐食性ケミカルポンプ、浮上
油(物)回収機器の製造販売
東京都立川市高松町 1-100
TEL:042-527-3278
URL:http://www.metrol.co.jp
資本金:4,000 万円
従業員数:96 名
創業:1976 年
事業内容:計測制御機器、省力化機器、精
密機器、検査具などの設計製作と販売
ある、業界で新しく役立つオリジナル製品の開発といっ
作を続けてきた社員でした。CAD は使えませんが、当社
た2つの方針を取りながら進めています。
のスイッチの構造が全て頭の中に入っていて、手の感
松橋 当社は、世界最小の超小型高精度スイッチを作っ
覚だけでそれを量産化する方法を見出したのです。そ
ていますが、これを製品化する際に、実施設計の最後の
ういう意味では、私は、人を教育できるとは思っていま
段階で、創業者である会長の構造設計ではうまくいか
せん。人材は、営業と開発と製造の人間が、1つの製品
ないということが発覚しました。これを解決したのは、
を作るという目的のために、社内ディスカッションを
10 年間にわたり会長の手書きの図面を旋盤で削り、試
繰り返す中で、自ずと育ってくると言えます。
次に「運」、つまりチャンスという部分についてお聞きしたいと思います。実際に製品が市
場に受け入れられるようになった経緯や、その時に助けられた人や会社、そんなチャンスが
到来した際に、それをどのように活かし、会社の発展へとつなげられたのかという話をお願
いします。
〔中馬〕
蜂谷 チャンスは毎日あらゆるところに現れています。
出には大きなリスクを伴い、猛反対もあったのですが、
アンテナを張り巡らせて、そのチャンスをいかに捉え
運良く、薬剤師や臨床検査技師などの専門家が入社し
るかがポイントです。例えば、
「勇気ある経営大賞」の対
てくれたこともあって、成功へと結びつきました。共同
象となったレーザー技術では、大きな2つの課題に直
開発先である大手検査センターは、全国の医療機関か
面しました。1つは開発費用の問題で、科学技術振興機
ら血液を集めて診断結果を出しているわけですから、
構の独創モデル化事業に応募するという話が持ち上が
その場で測定できる当社の装置は競合製品なわけです。
り、チャレンジしたことで製品化に漕ぎ着けました。
その共同開発先の辞退もあり、装置だけでなく診断薬
もう一つは、開発を目指していたレーザー加熱技術
の開発も当社に任されたことで、装置と試薬を一体で
の周辺特許がすでに固められていて、新製品としての
開発できたことも大きなチャンスとなりました。
開発が危ぶまれたことです。2人の若き技術者があき
松原 先ほど松橋さんが言われた考えと同様ですが、
らめずにチャレンジしたことで、新たな道を見い出す
正直申し上げて私は社員の学歴というのはあまり評価
ことができました。こうした体験を通して、運とはあき
していません。技術力の高いエンジニアを得るには、学
らめずにチャレンジを続ければ、必ずチャンスが訪れ
歴はそれほど重要ではなく、どれだけ強い思い入れを
るのだということを実感しました。
持っているかだと思います。知行一致とよく言ってい
松本 勇気ある経営大賞を受賞できたのは、ヒーター
ますが、知識があっても行動を起こさなければ意味が
を扱う会社が糖尿病診断薬の分野に進出したことが評
ないわけです。頭のいい技術者は、理屈ばかりで既存の
価されたのだと思います。その時、運が良かったのは、
製品と違ったものを作りたがりますが、ユーザーの声
共同研究の相手に恵まれたことです。医薬業界への進
を聞かずに知識だけで作っても、ニーズに応えるもの
発明と生活 No.560
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勇気ある経営に関するシンポジウム
パネルディスカッション
を作らなければ、市場には受け入れられません。それを
松橋 新しい事業の発展を目指して、ビジネスチャン
いかに世の中の役に立つ製品に近づけていくかという
スを常に求め続けていれば、チャンスがきた時にうま
ことが肝要です。
く掴めるということだと思います。
よく社員には、任せて任せずということを言います。
現在、一番大きな取引先である中国の中堅工作機械
技術者は品質にこだわりがあり、なかなか妥協を許さ
メーカーと取り引きを始めるきっかけとなったのは、
ない信念を持っていますから、一任するのだけれども、
ホームページ来訪者から届いた一本の英文のメールで
最終的にはどこかをぎゅっと抑えておかなければなり
した。韓国のメーカーから紹介されて当社の製品を買
ません。
いたいということで、どんな会社かと現地まで見に行
企業というのは環境、時代の進化にどう適応してい
くと、土間に毛が生えた程度の小さな機械メーカーで
くかが重要ですから、チャンスというのは一つの出会
した。それが 10 年間の間にあれよあれよと大きくなっ
い、あるいはユーザーのニーズを引き出し、うまくマッ
て、今では月に 300 台を生産する工作機械メーカーへ
チングできた時に、何か良いものが生まれるのだと思
と成長しました。
います。そうした感動を覚えるようなチャンスに巡り
あの時、あのメールを削除していたら、それきりで終
会い、社員のモチベーションにつなげていくことが一
わっていたかもしれません。何かしら可能性があると
つのポイントではないかと思います。
感じ、広東省まで足を運んで現地を見たことが、チャン
森 環境機器というのは、表向きは良いのですが、実際
スと言えばチャンスであったわけです。
には企業はなかなか導入に前向きな姿勢を示さず、意
創業者から受け継いだ遺産を守り続けるだけでは、
識が変わってきたのは、ごく最近になってからです。ア
経営が難しくなるだけです。わずかなチャンスでも、み
メリカでは、当社が最初に着目した頃の油回収器が、い
んなで一丸となって掴んでいこうという社風を心掛け、
まだにほとんど変わらないまま使われていて、10 月に
アンテナを高くして新しい仕事に常にチャレンジして
アメリカでジェトロの展示会に当社の製品を出展した
います。
ところ、大きな反響がありました。欧米社会では、一度
良いものが完成すると、後はそのままで、なかなか進歩
しません。われわれ日本の中小企業は、ユーザーから言
われたことを元に、常に改良を加えていくことでより
良い製品を作り上げていくことが、特長と言えるので
はないでしょうか。一口に環境といっても、季節や時間
帯によって異なる条件に対し、きめ細やかに対応でき
る製品を作っていくことが、われわれ中小企業が生き
ていくヒントになるのではないかと感じています。
パネルディスカッションに熱心に聞き入る来場者たち
<まとめ> 蜂谷さんから、創業者が従来の炭火アイロンを見て、工業用電気アイロンを開
発したという話がありました。時代的な背景として、1920 年代に蒸気から電気への原動力
革命が起きていた時、日本の電化率は世界に先駆けて極めて高かったわけです。経営者とし
て、そうした時代の潮目を読むということが、極めて重要なのだということを改めて感じま
した。
また、インターネットの時代になって、良いものに対する需要というのが、あらゆる形で
今後増していくのではないかと感じています。そういう意味では、日本人の持っている細や
かさ、プロフェッショナルとしての堅実さ、というのが活躍できる場面が、まだまだ世界中
に残されているなと感じました。今日はありがとうございました。
〔中馬〕
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ン
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国 人技を超える先代の発明を組織力で継ヨ
ト
を継 ぐつ もりは全 くなかったのです
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の検査装置です。さらには、カー テンの縫製 :
技術を応用 した海水ろ l用 フ ィル ターの製 │
ll・
が、先代の父が休調を崩 し、三度日のlJ切 ヽ
院を機に、役所 の仕事を辞めて会社をlll(
決意を しま した。先代は根 つか ら い 1象
''イ
で、タタミや カー テンの縫製 といつた眼
'、
技の自動化を次 々 と実 ll.し て きた て した
の │:を い くi“
、
そんな言わば 11き あげの職 ブ
'、
極東産機 (株 )
固な先代 と、役 組織で育ってきたf_と は
''「
、│オ ,舌 用法等で 意 ,こ
権限 と責任のあ り方、フ
代表取締役社長
頃 安 雅 樹
の食い違いも多くあ りました.
その先代が 6年 前 に亡くな り、それ まで
H」
組 オ
先代 と 二人 i脚 で開発を担 ってきた常務 も
退職、当社の ものづ くりの柱 となっていた
彎ん
二人を一度に失 う結果 とな りま した。私は
もともとものづ くりの経験があ りませんか
ら、 代 の抜け た穴を どう埋める力J商 み ま
'こ
した。その時、
ふ と頭に浮かんだのは、役人
││,す
100余
発・営業 の 3つ の部門を束ね る「総 合推進
室Jを 設けたわけです。クレーム情報や新商
肝1情 報、顧客情報な ど、全ての情報をrI中 管
理する ことで、社 内の開発生産機能全体 の
: コン トロール を 口∫
能 に したのです。情報 に
,
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さらなる拡大を 目指 してい ます。
そ して、このネッ トワー クビジネスが、思 I
わぬ ところで別の従来事業にも大きな効果
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「nll織 の力は1月 人の 力に
時代の経験で した。
勝るJと の考 えのもと、新たに生産・ 技術開
│ヽ
店 舗を対象 に拡大 して きた .売 先、言わ ば :
,
を もた らしま した.環 境対応事業 として始
:
めたソーラー パ ネルの販売では、それ まで
基づ くテーマ設定や 新商品i開 発の推進 さ
らには迅速な クレーム処理Iな ど、全てに対
,
の個別販売 か ら、農 脇な どの組織を通 じた
,
大規模販売へ と発展.ま た 興 業種交流 とし :
てス ター トした食古
│1機 器■業も 同 じ考え I
応できる機能を綱腑哉で補いました。
:EDア 技術の集大減で大手からの受注に成リ
方で 人 1受 ,卜 に絞 ることで、大手企業か ら
の受,Hこ 子
`
IIび 付いています.
ず 瑞 甘 稚
f鍬 │∵ ii
:マ
l業 だけでは発展が難 しくな りま した.こ
新規分野 に
'〔
1ま で培 った得意技術を軸に、
販売 システムを │IIrし
4`
先代の頃か ら1寺 │
かれてきた種を11織 力によって発展させ
る こ とで、新 しい ビジネ スモ デルが次 々 と │
展‖│す るかが課題となったわけです。こ
′
'う 時も、役人時代の経験を活か して、過去の
,の
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績 を体 対 llyし なが ら当社 の 得意 製 rを 幣理 し、 コ
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ヽ ア技 術 Jを 集 大成 しま した。これ を も とに trl規 分 野 に
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開化しています。
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日 本
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明 振
E nal hatsumeiqsal。 .
調 〒 15m31 東京都渋谷区桜丘町 4 22
vAwjsa oν
2 FAX 0334646980ホ ームページ:hltpプ ′
癒 融 田市漸 町 ■23蜘 鈴 画 舞 ビル 505号
輌政 詢 〒 抑
TEL 06 6869“2031“ F感 :0663692191 ホームベージ hit,′ r r7wJ・‐l kOr8′
(本
公益財団法人
TEL 03 3464 6991∼
興
協 会
│を 含みます)
平成 24年 1月 15日 発行 定価 :300円 (送 ll込 み)(賛 助会員の場合は会費の中に購読オ
邦 編集協力 (株 )曰 1造 │1刷 │:二 進社
編集 71行 :公 益財団法人 日本発明振興協会 代表者
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